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【SS】シンジ「チョコレートだと?」 ユリーカ「悪くないでしょ?」【番外編】

 ▼ 1 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 16:59:45 ID:YHRoQQ1I [1/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「そーいうわけだから、楽しみにしといてね〜!」

それだけ言い残し、走り去っていく黄色頭。
正直なところ、全くもって意味が分からない。

ショータ「……突然どうしたんでしょう?」

シトロン「さあ? というかあの子、チョコレートなんて作れるのか…?」

シンジ「どうせ、また下らん思い付きだろう」

あと数日間この町に滞在することは既に決定済み。
その間にアレが何をしようが、俺には関係無い事だ。

シンジ「……少し外に出てくる」

ショータ「あ、トレーニングなら僕も付き合います」

シトロン「外は寒いので、ちゃんと防寒してくださいよ〜!」
 ▼ 5 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:15:11 ID:YHRoQQ1I [2/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「しかし、随分と変わった事をするんだねぇ」

ユリーカ「んぅ、なんで?」

ヒガナ「何でってそりゃあ、ここはカロスだよ?」

バレンタインに女性がチョコレートを贈るのは、カントーやジョウト、ホウエン、シンオウの文化だ。
カロスのバレンタインは、男性が女性に赤いバラを贈るのが主流。しかも恋人限定、だったはず。

ユリーカ「あー、そういうこと。あのね、前にセレナが教えてくれたんだよ」

ヒガナ「セレナ……? ああ、あの子か」

ポケモンパフォーマー、アサメタウンのセレナ。
直接顔を合わせたことはないけど、“調べ物”の最中に彼女の情報も幾つか掴んでいたな。

今は、ホウエンでコンテストに参戦し修行中のはず。
確かに、彼女ならばそういった情報には詳しいか。
 ▼ 6 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:16:05 ID:YHRoQQ1I [3/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「地方が変わるとやり方も変わるなんて面白いなぁって。それでね──」

ヒガナ「──やってみたくなったんだ?」

ユリーカ「うん。お兄ちゃん達にはいつも迷惑かけてるから、お礼がしたいなって。良い考えでしょ?」

ヒガナ「そうだね、良い考えだと思うよ」

ユリーカ「だから一緒に作ろ?」

ヒガナ「いやだから、そこがわからないんだよね」

ユリーカ「んもう、なんでよ〜!?」

頬を膨らませている様は大変愛らしい。
が、言っていることは全くもってわからない。
手を借りたいならジョーイさんにでも借りれば良い。
足を引っ張ること請け合いの私が出る幕ではない。
 ▼ 7 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:18:12 ID:YHRoQQ1I [4/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「確かにそうだけどさぁ、ヒガナは誰かチョコあげたい人とかいないの?」

ヒガナ「いや、誰もいないかな」

ユリーカ「パパとかママとかは?」

ヒガナ「……別に渡すほどじゃないかな」

ユリーカ「え〜、なにそれツマンナイ」

ヒガナ「いや、つまらないとか言われてもねぇ……」

家族と呼べる人など、既に一人も残っていないのだ。
つまり正確には、渡さないのではなく渡せない。
そして、そんな重い話をこの子にするつもりもない。
故に私には返す言葉も無く、沈黙を貫くしかない。

ユリーカ「あそーだ、長老さんに送ってあげたら?」

ヒガナ「ばば様はそういうの食べないからなぁ」

確かにばば様は、家族に最も近い存在と言えるだろう。
だが緑茶を啜り、醤油煎餅を齧る。間食はその程度しかしない人でもある。

ユリーカ「う〜ん、じゃあえっと……あっと……」

ヒガナ「……あのさ、私に拘る必要ないでしょ?」

何故この子は、頑なに私に手伝わせようとするのか。
いくら想像力を働かせても、全く分かりそうもない。
 ▼ 8 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:20:25 ID:YHRoQQ1I [5/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「……それ、私が言っても良いの?」

ヒガナ「え?」

ユリーカ「いや、そーいうのって、ブガイシャの私が言うのもどうかなって…?」

ヒガナ「……ん?」

ユリーカ「あーもう、だから、シンジはどーするのってこと!」

ヒガナ「………は?」

ユリーカ「教えてくれないから何があったか知らないけどさ、あのときシンジのお陰って言ってたし……」

ヒガナ「…………」

バレンタイン、チョコレート。ここまでは良い。
私、部外者、シンジ。何だ、全くわからない。
……いや待て。この子、まさか……?
 ▼ 9 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:21:22 ID:YHRoQQ1I [6/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「いやいや、別に私達そんな関係じゃ……」

ユリーカ「……? そんな関係って?」

ヒガナ「………?」

思ってた反応じゃない。何なんだ、この状況は?
てっきり私とシンジの間を変に勘ぐってるものかと思ったんだけど……

〜〜〜〜〜〜

ユリーカ『うん。お兄ちゃん達にはいつも迷惑かけてるから、お礼がしたいなって。良い考えでしょ?』

ヒガナ『そうだね、良い考えだと思うよ』

ユリーカ『だから一緒に作ろ?』

〜〜〜〜〜〜

ヒガナ「………あ」
 ▼ 10 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:23:05 ID:YHRoQQ1I [7/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そういうことか。子どもの純真さを舐めてた。
最近はませた子が多いし、そういう方面かと──

ユリーカ「……あ、ふーん、そういうことか」

ヒガナ「……えっと?」

ユリーカ「なるほどね。私もまだまだ甘いなぁ……」

不味い。これは完全に墓穴を掘った格好だ。
私が言わなきゃそこまで思い至らなかったって顔だ。

ユリーカ「まさか、そんなところまで進んでるとは想定外。それならそれで、やっぱり作らないとね」

ヒガナ「いや、それは勘違──」

ユリーカ「じゃ、ユリーカ先にキッチン行ってるから。準備できたら来てね〜!」

ヒガナ「──いで、えぇ……」

嵐のように現れ、嵐のように去って行ってしまった。
 ▼ 11 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:24:18 ID:YHRoQQ1I [8/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「……どうするかな」

正直、あのまま勘違いされておくのはよろしくない。
吹聴して回るほどあの子は非常識じゃないだろう。
だが、それを匂わせる程度なら普通にやりかねない。

ヒガナ「……うーん」

関係のない話で好奇の目に晒されるなど、ぞっとしない話である。

シガナ「………にょい?」

ヒガナ「あ、ごめんシガナ。起こしちゃった?」

シガナ「……にょい………すぅ………」

ヒガナ「ありゃ、また寝ちゃった。やっぱり疲れてるよね……」

無理をさせた私が言うのもアレだけど、やっぱり早く元気になって欲しいね。

ヒガナ「……お菓子作り、か」
 ▼ 12 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:24:57 ID:YHRoQQ1I [9/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜

『ねえ、まだできないの〜?』

『何回も言ってるでしょ。まだできないよ』

『あとどのくらい?』

『そうだねぇ。後はこれを天火で焼いて、その後休ませて……大体30分ぐらいかな?』

『えぇ〜! まだそんなにかかるの!?』

『焦ったって失敗するだけさ。ゆっくり、確実に工程を踏まないと、美味しいものは作れないもんだよ』

『むぅ〜、ツマンナイ!』

『……うーん。あ、じゃあ待ってる間に、この前の話の続きをしよっか』

『え、ホントに!?』

『うん、ホントホント。……さて、この前はどこまで話したんだっけ?』

『えっと、うみにいんせきがおちて、それがいまではまちになってるってところ!』

『お、よく覚えてたね。グッドポイントゲット!』

『へへ、やったぁ!』

『そいじゃ、ルネが出来たところからだね。第三話の始まりはじまり〜!』

『ぱちぱちぱち〜!』

『ごほん。……巨大隕石に続いて、人々を更なる厄災が襲う。隕石の直撃によって──』

〜〜〜〜〜〜
 ▼ 13 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:26:08 ID:YHRoQQ1I [10/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「……焦ったって失敗するだけ、ね」

今の私には、痛いほどよくわかる言葉である。
やっぱり、いくつになってもあの人には頭が上がらない。

ヒガナ「仕方ない。軽く付き合ってあげますか」

先の心配もあるけど、今ジタバタしても変わらない。
少しぐらい、息抜きをする時間も必要だろう。
……あとは、あの子の勘違いの訂正も必要だ。

ヒガナ「全くシガナは。薬草の扱いだけじゃなくて、お菓子作りも教えてくれて良かったのに……」

菓子作りの経験はないが、作って貰った経験はある。
チョコレートは古代では薬として飲まれてたらしいし、まあ大丈夫だろう。きっと、多分。
 ▼ 14 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:58:28 ID:YHRoQQ1I [11/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
******

ヒガナ「駄目でした」

ユリーカ「右に同じ」

シトロン「全く、こんなことだろうと思いましたよ」

目の前に広がるのは、真っ黒になった“ナニカ”。
勿論、チョコレートの黒みではなくコゲの方だ。

ヒガナ「いやぁ、面目ない。ヒガナさんお菓子作りなんてしたことないもんでね」

シトロン「いや、だからってこんな……因みに何を作ろうと?」

ユリーカ「チョコレートクッキー」

シトロン「チョコクッキー。“コレ”はそういう……焼きすぎて真っ黒焦げ。もう殆ど炭じゃないか……」
 ▼ 15 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:58:57 ID:YHRoQQ1I [12/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「だってヒガナが、ゆっくりやらないと美味しいものはできないって……」

ヒガナ「私も昔、そうやって教えてもらったんだよ」

教え通り、ゆっくり、じっくりと焼いただけである。
それがまさか、こんな暗黒物質になるとは思うまい。

シトロン「じっくりって、これは……まあ、火事にならなかっただけマシか」

ヒガナ「火事はあり得ないよ。煙が出てきた時点で、こりゃ不味いと思ってすぐに消したからね」

シトロン「あと一歩ですよソレ」
 ▼ 16 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/13 17:59:15 ID:YHRoQQ1I [13/13] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「まあまあ、お小言はそれぐらいにしなさって。可愛い妹の頼みを聞いておやりよ」

ユリーカ「……お兄ちゃ〜ん!」

シトロン「……仕方ない。材料はまだあるかい?」

ユリーカ「うん、失敗するかもしれないと思って」

シトロン「……突然の思い付きなのに、無駄に用意が良いのは流石といったところですね」

ヒガナ「褒めたって何も出ないよ?」

シトロン「……褒めてません」

さあて、シトロン大先生のお手並み拝見といこうか。

シトロン「……貴女達もやるんですよ」

ヒガナ「あ、さいですか」
 ▼ 17 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 17:56:24 ID:emhQ.Wjk [1/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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シンジ「そこだ、ポイズンテール!!」

クズモーが跳び、毒素を込めた尾を振り抜く。

ショータ「ブロスター、受け止めろ!」

シンジ「なにっ……!?」

それを、巨大なハサミで受け止めるブロスター。

ショータ「そのままりゅうのはどう!!」

身動きの取れないクズモーを他所に、ハサミにエネルギーが集まってゆき──

シンジ「──甘い、どくどくだ!!」

ショータ「……! アクアジェット!!」

クズモーが毒液を放つ瞬間、ブロスターは水を纏って素早く飛び退く。

シンジ「……今のを躱したか、早いな」

ショータ「以前、似たようなことがあったもので」

成程な。やけに切り換えが早かったのは、訓練していた動きだったからということか。
 ▼ 18 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 17:56:40 ID:emhQ.Wjk [2/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ショータ「今度はこっちから行きます。みずのはどう!!」

シンジ「ハイドロポンプで迎え撃て!!」

水の塊と水流が激突、暫し拮抗した後に弾ける。
水飛沫が降り注ぎ、フィールドが湿り気を帯びる。

シンジ「10まんボルト、フィールドに撃て!」

クズモーの放った電撃が、水を吸ったフィールドを伝い急速に広がってゆく。

ショータ「──っな!? こんなことが……!?」

シンジ「そこだ、もう一度10まんボルト!!」

閃光が走り、痺れるブロスターに迫る。
そして見事に直撃──はせず、僅かに掠めて消えた。
 ▼ 19 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 17:57:16 ID:emhQ.Wjk [3/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンジ「……ここまでだな。クズモー、よくやった」

ショータ「……ふぅ。ブロスター、お疲れ様でした」

互いにポケモンを戻し、一息つく。そして、次のボールを握ろうとし──

ユリーカ「あ、もしかして今終わったところ?」

──外に出てきたソレを視界に捉え、手を止める。

ユリーカ「ちょうど良かった。一回休憩にしよ〜!」

ショータ「どうします、シンジ?」

シンジ「…………」

ショータ「シンジ……?」

シンジ「……まあ、良いだろう」

ユリーカ「よーし。それでは二名様ごあんな〜い!」
 ▼ 20 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 18:00:23 ID:emhQ.Wjk [4/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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ユリーカ「こちら、当店イチオシのスイーツでございます。……なんちゃって」

ショータ「おおおおお……!!」

出てきたモノを見て、ショータが目を輝かせる。

ショータ「チョコレートクッキーだ! 僕、甘い物大好きなんですよね!」

シトロン「二人からのバレンタイン、だそうです」

シンジ「……お前も一枚噛んでいたのか」

ヒガナ「まあ、一応? 噛んでたっていうか、巻き込まれたっていうかだけど」

ユリーカ「その割には結構張り切ってたけどね。しかもそれで……」

ヒガナ「ちょっち待った。それは駄目」

シトロン「あ、あははは……」

そんな様子に、何故か気の抜けように笑うシトロン。
やがて、気を取り直したようにこちらに振り向く。
 ▼ 21 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 18:01:11 ID:emhQ.Wjk [5/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シトロン「僕はこういった事に馴染みはありませんが、シンオウやホウエンではメジャーらしいですね」

ショータ「はい。スクールに通っている人は、友達同士で交換なんかもしてるみたいです」

シトロンの言葉に、そう返すショータ。
さらに、若干の苦笑いと共にこう続ける。

ショータ「と言っても、僕自身はスクールには行かず直ぐ旅に出たので、経験は無いんですけど……」

ユリーカ「じゃあ、やっぱり今日用意して良かったね!」

ショータ「ええ。ありがとうございます、二人とも!」

それに判りやすく喜びを見せたユリーカは、今度は此方に目を向ける。
 ▼ 22 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 18:01:59 ID:emhQ.Wjk [6/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「シンジはどう……って聞くまでも無いか。シンジだもんねぇ」

シトロン「ユリーカ、またそんなこと言って……」

なんてことはない。いつも通りの軽口だ。

シンジ「……そうだな。興味は無かった」

だから俺も、いつも通りに適当にあしらう。

ユリーカ「だよね〜。だってシンジだも……待って、興味“は”無かったって言った?」

ショータ「え、ということは……?」

シトロン「もしかして……?」

ヒガナ「………!」

だというのに、俄に沸き立つ場の空気。はっきり言って、意味が分からない。
 ▼ 23 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 18:02:32 ID:emhQ.Wjk [7/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「だれ、誰から貰ったの!?」

ショータ「僕も興味あります……!」

シトロン「………あ」

シンジ「……? 何がそんなに面白い。兄貴に決まってるだろう」

ユリーカ「えぇ……」

ショータ「あぁ……」

シトロン「ですよねぇ……」

ヒガナ「……ククッ、あははは! やっぱり君達面白いね。いやー、ホントに楽しい」

シンジ「………くだらん」

俺は当然の事実を述べただけで、白けたのは勝手に期待していたコイツ等に過ぎない。
 ▼ 24 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 18:04:15 ID:emhQ.Wjk [8/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「むぅ〜、ツマンナイなぁ…!」

シンジ「知るか。俺には関係無い」

シトロン「まあまあ、ユリーカ。ほら、機嫌直して」

剥れるユリーカに声をかけつつ、シトロンが動く。
持ち出してきたのは、人数分のティーセット。

ユリーカ「……あれ、いつもと違うやつだ」

シトロン「これは、僕からのバレンタインです」

ショータ「……紅茶、ですか?」

シトロン「はい。アッサムCTCという茶葉です。コクがあるけど癖は弱め。チョコレートの特徴を素直に引き立ててくれます」
 ▼ 25 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 18:05:31 ID:emhQ.Wjk [9/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「……しぃーてぃーしぃー、ってなに?」

シトロン「製造工程の頭文字を取っているんだ。Crush(潰す)、Tear(千切る)、Curl(丸める)でCTCだね」

シトロン「この加工をすることで茶葉の表面積が増えて、より濃厚に仕上がるんだよ」

ショータ「へえ〜、紅茶にも色々あるんですね……」

シトロン「アッサムは渋みも少なくて飲みやすいですから、初心者にもおすすめです。そしてここに……」

シトロンが取り出したビンは、俺にも見覚えがある。

ユリーカ「モーモーミルクだ!」

シトロン「CTCは濃厚に仕上がる反面、渋みも増すからね。ミルクを入れるとまろやかになるんだよ」

ヒガナ「随分と詳しいね。紅茶はガラルの方が盛んだと思ってたけど……」

シトロン「素材の組み合わせで味や風味を活かすのは紅茶も料理も同じです。そして料理は科学、科学は未来を切り拓くんです!」

段々とヒートアップしていくシトロン。
周りが見えなくなる前に、一応止めておいてやるか。
 ▼ 26 要無き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/14 18:06:04 ID:emhQ.Wjk [10/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンジ「……で、科学に失敗は付き物とでも言うわけか?」

シトロン「それはそうですが、何故今それを──」

シンジ「手元をよく見てから言葉を発しろ」

シトロン「──えっ、うわ! 危なく零すところでした……!」

ユリーカ「もう、相変わらずドジなんだから!」

ショータ「あははは……」

シンジ「…………」

いつもより騒がしい、けれどいつも通りの日常。
危機感など覚えさせない、何処までも自然体の姿。
……すぐ傍に、世界の崩壊が迫っているというのに。

シンジ「甘いな」

眉間にしわを寄せ、思わずそう零す。
言葉の先は口にしたモノか、或いはコイツらか……
 ▼ 27 シェード@ようせいジュエル 21/02/14 18:19:25 ID:yOa23h62 NGネーム登録 NGID登録 報告
基本的におふざけ(おふざけだけとは言っていない)
 ▼ 28 ルヤクデ@いかりまんじゅう 21/02/15 07:38:34 ID:Ex/.mwpA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 29 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:09:46 ID:FnXs5BnQ [1/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
******

シンジ「……よし、今日はここまでだ」

ここは、ポケモンセンター裏のバトルフィールド。
例のティータイムの後、再びここでポケモン達のトレーニングを行っていた俺達。

ショータ「それじゃあ、僕はお先に失礼します。お疲れ様です!」

シンジ「……ああ」

後を片しながら、中へ戻っていくショータを見送る。
ポケモン達も既に戻し、その場に残ったのは俺一人。

シンジ「………ふぅ」

フィールド脇のベンチに腰掛け、一つ息を吐く。
そして、辺りが闇に包まれる中、一人空を見上げた。

シンジ「…………」

あの輝く星空の先に、脅威が迫っているらしい。
……正直に言えば、今でも若干疑っているのだが。
 ▼ 30 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:10:09 ID:FnXs5BnQ [2/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンジ「…………」

「お、いたいた。相変わらず辛気臭い顔してるねぇ」

突然、そんな言葉が投げかけられる。
その飄々とした声に振り向くと……

シンジ「……お前か」

ヒガナ「ほい、ヒガナさんですよっと」

案の定、そこに居たのはヒガナで、

シンジ「何の用だ」

ヒガナ「何の用、かぁ。……難しいね」

シンジ「…………」

ヒガナ「ちょいと隣失礼するよ。いいよね」

こちらが何も言う前に、勝手に腰を下ろした。
 ▼ 31 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:11:14 ID:FnXs5BnQ [3/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「……小さい頃から、空を見上げるようにしてる」

ヒガナ「不安がいっぱいで、心が押し潰されそうな時も。悲しくて寂しくて、心が折れそうな時も」

ヒガナ「絶対、涙を流さないように」

それは、つい先日聞いたのと、一言一句同じもの。

ヒガナ「君はどう? そういうこと、ある?」

そしてこの問いもまた、全くの同じ。

シンジ「……それを──」

ヒガナ「──お前に教える義理は無い、だっけ?」

シンジ「…………そうだ」
 ▼ 32 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:11:38 ID:FnXs5BnQ [4/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「……義理、うん。義理かな。はい、コレ」

シンジ「………は?」

スッと差し出してきたのは、一つのマグカップ。

ヒガナ「クッキー作りに付き合ったのは、優しいユリーカへの義理」

ヒガナ「顔を立ててあげたのは、兄であるシトロンへの義理」

ヒガナ「一緒になって私も張り切ったのは、甘党のショータへの義理」

シンジ「……何が言いたい?」

ヒガナ「あの後シトロンに頼み込んで、教えて貰ったんだ。私でも作れる一番簡単なヤツを、ってね」

取り出した魔法瓶から、カップへ中身を注いでゆく。
途端に湯気が立ち、特徴的な匂いが鼻孔をくすぐる。
 ▼ 33 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:13:36 ID:FnXs5BnQ [5/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンジ「……これは」

ヒガナ「ヒガナさん特製、ホットチョコレート」

シンジ「…………」

ヒガナ「私を救ってくれた君への義理。そしてお礼」

シンジ「…………」

カップに口を付け、中の液体を口に含む。
ほんのりと甘みが走り、次いで僅かな辛み。

シンジ「………!?」

それが去ると苦みが現れ、追うように渋みが通る。
そうして最後に残った後味は───

シンジ「───酸っぱい」
 ▼ 34 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:14:22 ID:FnXs5BnQ [6/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「……ぷぷっ、くくく、あははははは!」

そんな俺の反応を見て、腹を抱えて笑うヒガナ。

ヒガナ「いやぁ、良い反応をありがとう。そこまでじっくり味わってくれると、素直に嬉しいよ」

シンジ「ゲホ……ッ、お前…何を入れた……!?」

ヒガナ「えーっと、モモンにクラボ、チーゴにカゴにナナシでしょ。それからオボンに……」

シンジ「ふざけるな、入れすぎだ!」

だからこんな訳の分からない風味に仕上がったのか。
何でも放り込めば良いというわけじゃないだろう。

ヒガナ「いーや、これで良いんだよ。チョコレートはかつて、薬として飲まれていたんだからね」

ヒガナ「これは私からの、君が元気でいられるようにっていう親切心。良薬は口に苦しって言うでしょ?」

シンジ「……余計なお世話だ。それに苦いだけでもないだろう」

ヒガナ「はは、そりゃあ御尤も。失敬したね」
 ▼ 35 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:15:09 ID:FnXs5BnQ [7/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そう言いながらも笑い続けていたヒガナ。
だが、ふとしたようにもう一つカップを取り出す。

シンジ「………?」

同じように液体を注ぎ、一気に中身を煽る。

ヒガナ「……うへぇ、やっぱり酷い味」

シンジ「……やっぱりって、お前」

味見をしておきながらコレで行けると思った、その思考回路が知りたい。

ヒガナ「……いや、この味だから良いんだよ」

シンジ「は?」

ヒガナ「酸いも甘いも嚙み分ける。バトルと一緒」

ヒガナ「いつだって甘くはない。辛い、苦い、渋い、酸っぱい。そうやって移り変わるのが世の中でしょ?」

空に輝く星々に目を細め、ヒガナは語る。
 ▼ 36 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:16:14 ID:FnXs5BnQ [8/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「水のように器に合わせて形を変えても、本質は変えない」

シンジ「………?」

ヒガナ「初めにこの街に来て、あのジムリーダーに接触した時に言われたんだ」

シンジ「……ウルップさんに?」

ヒガナ「うん。バトルを挑んだけど、コテンパンにやられた。そんで、さっきの台詞に繋がるわけね」

シンジ「…………」

ヒガナ「君だけじゃない。私も、あの子達のことを甘いと思った。でもそれで良いんだよ」

シンジ「……なに?」

ヒガナ「あの子達はいつだって甘い。君はいつだって辛い。……君からしたら、私はいつだって苦い」
 ▼ 37 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:16:58 ID:FnXs5BnQ [9/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「世の中という器は絶えず変わるけど、水である私達の本質は変わらない。それが一番じゃない?」

シンジ「……そう、だな」

ヒガナ「まあ、かく言う私も最初は訳が分からなくて、君にガツンとやられて初めて気づいたんだけどね」

頭を掻きながら笑うソレを、ただぼんやりと見つめる。
何と無しにカップを口元へ運び、中身を一気に煽る。

シンジ「…………ッ!!」

暴力的なまでのその味をグッと堪え、胃の中に落とし込む。すると……

シンジ「………なるほどな」

胸の中の靄が、一気に晴れていくような感覚を覚えた。
 ▼ 38 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:17:26 ID:FnXs5BnQ [10/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「……うん、良い顔になったね」

シンジ「……お前、初めからこれが目的で?」

その問いには、僅かに考える素振りを見せた後、こう返してくる。

ヒガナ「半分正解。もう半分は不正解かな」

シンジ「………?」

ヒガナ「初めに言ったお礼。これが半分」

人差し指を立て、如何にもな風を装って言う。

シンジ「なら、もう半分は何だ」

ヒガナ「もう半分は……私の気持ちかな」

シンジ「………は?」
 ▼ 39 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:18:29 ID:FnXs5BnQ [11/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヒガナ「君は、私の霧を払ってくれた。それはつまり、君が代わりに私の前に立ってくれたってこと」

シンジ「…………」

ヒガナ「そのせいで、今度は君が霧に囚われかけた」

ヒガナ「当然の結果だった。誰だって、前に立って見えない道を歩くのは難しいからね」

そこまで言うと、一つ息を吐き、意を決したように口を開く。

ヒガナ「……私は、私の前を君一人に歩かせたくないし、君の前を私一人で歩きたくもない」

シンジ「…………」

ヒガナ「君の隣で、対等な立場で歩きたい。そう思ってる」

シンジ「…………」

ヒガナ「…………」

シンジ「…………」

ヒガナ「いや待って、これはおかしい。絶対違う」
 ▼ 40 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:19:11 ID:FnXs5BnQ [12/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンジ「……今度はなんだ」

ヒガナ「だってこれじゃ、まるで愛の告白みたいじゃないの!?」

シンジ「…………」

俺がコイツに勝った夜、あれ以降目付きが変わったのは気づいていた。

ヒガナ「ねえ、何か反応してくれないと、ヒガナさん困っちゃうなぁ」

だが、ここまでの豹変ぶりは、正直予想外だった。

ヒガナ「ねえ、聞いてる? もしもーし」

この数日でコイツは何かが変わった。いや、元に戻ったというべきか?

ヒガナ「もしもしハナダ飯店ですか? カロス地方まで餃子を一人前……」

俺は、コイツが元に戻る切欠になれたのだろうか。
俺が変わる切欠をくれた、あの人に近づけたのだろうか。

ヒガナ「なに!? 出前はしていな「煩い黙れ」……あ、やっと反応してくれたね」
 ▼ 41 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:20:11 ID:FnXs5BnQ [13/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンジ「……お前に、一つ聞きたいことがある」

ヒガナ「……? なに、私に答えられることだよね?」

自分と似た匂いを感じたからか、ただの気まぐれか。
何故知りたいと思ったのか、自分でも分からない。
だが聞かずにはいられない。そう感じたのは確かだ。

シンジ「俺は、お前にとっての特別に足りえたか?」

俺にとって、あの人が特別であるように。
こんな俺でも、誰かにとって価値のある存在となれたのだろか?

ヒガナ「………!!」

シンジ「…………」

ヒガナ「………そうだね、君は特別だよ。じゃなかったらこんな事はしない」

シンジ「………そうか」

ヒガナ「と言っても、一番二番はシガナとばば様だから、君は三番目だけどね」

そう言ってニヤリと笑うヒガナに、俺も僅かに口角を上げる。

シンジ「別に、それで構わない」

ヒガナ「そう、なら良かった」
 ▼ 42 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:22:34 ID:FnXs5BnQ [14/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンジ「…………」

ヒガナ「…………」

互いに一言も発せず、暫し夜空を見上げる。

ヒガナ「………ねえ」

シンジ「………なんだ」

ヒガナ「私さ、君のこと───結構好きだよ」

シンジ「…………」

それには応えず、無言でカップを突きだす。

ヒガナ「……君はさ、どう思ってる?」

注がれたモノを口に含み、ゆっくりと飲み込む。

シンジ「───嫌いじゃない」

ヒガナ「……それは、どっちのこと?」

シンジ「ふん、自分で考えろ」

ヒガナ「なにそれ、自分だけ狡くない?」

カップに口を付け、さらにもう一口。

シンジ「…………」

今度の後味は──強い苦み、チーゴの味だった。
 ▼ 43 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:23:45 ID:FnXs5BnQ [15/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
******

ゴニョニョの検査期間を終え、エイセツシティを発つ日がやって来た。

ユリーカ「それじゃあ、ヒャッコクシティに向けてしゅっぱーつ!!」

ショータ「おー!!」

ウルップ「あれだよ。お前達、気ぃ付けて行けよ!」

ウルップさんはジムのこともあるため、俺達の後からヒャッコクシティに来ることになっている。

ジョーイ「これからはあまり無理をさせないように。何かあったらポケモンセンターへ。わかったわね?」

ヒガナ「はい。ご迷惑をお掛けしました」

ゴニョニョ「にょー!」

すっかり調子を取り戻したゴニョニョは、ヒガナの腕の中で嬉し気に声を上げる。

シトロン「それじゃあ、行きましょうか」

シンジ「ああ、そうだな」

次にこの街へ来るのは、全てを終えた後。
危機を排除し、元の旅に戻れた時である。
 ▼ 44 要薄き更新◆cmpL4pCqEY 21/02/15 22:26:36 ID:FnXs5BnQ [16/16] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ユリーカ「お兄ちゃんたちおそーい! 早く〜!」

ショータ「置いてっちゃいますよ〜!」

シトロン「こらユリーカ! それに、ショータも付き合わないでくださいよ〜!」

シンジ「……ったく、相変わらず騒がしい奴らだ」

呑気なアイツらは、背中を任せられる存在。

ヒガナ「私はこういうの嫌いじゃないよ。楽しくて良いじゃない」

シンジ「……ふん」

飄々としたコイツは、共に前に立つ存在。

ヒガナ「……ねえシンジ」

シンジ「……? 何だ」

ヒガナ「これからさ、よろしくお願いね?」

シンジ「………ああ」

───さあ、一緒に行こう。次の冒険へ───






ユリーカ「……あ、そーいえば。シンジ!」

シンジ「……なんだ」

引き返してきたユリーカが、ニヤリと笑って言う。




シンジ「チョコレートだと?」

ユリーカ「そ、悪くなかったでしょ?」
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