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名探偵?イーブイと怪奇カロス旅行

 ▼ 1 カマル@あかいウロコ 22/12/30 19:12:57 ID:YCqEtZMY [1/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今度こそ完結させてみせる
と言うわけで最初っから
 ▼ 3 アームド@かえんだま 22/12/30 19:13:35 ID:YCqEtZMY [2/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ーーーーー

ピカチュウ「イーブイ…なんでまたカロス旅行なんかに行きたいんだ?普段は椅子にべったり付いてタバコを蒸すか窓際でバイオリンを弾いてるだけじゃないか。そんな君が突然アウトドアに転向とは…どういう風の吹き回しで?」

イーブイ「今朝の新聞を見ただろう?ミアレでまた死人が出たんだよ」

ピカチュウ「だけどあれは心臓麻痺だったんだろう?君が好きな殺人事件とは縁もゆかりもないはずだ」

イーブイ「“また”なんだよ」

ピカチュウ「また?」

イーブイ「今月だけでミアレシティ周辺で4件も心臓麻痺による死人が出てるんだ…偶然にしては出来すぎている」

ピカチュウ「みんな元から体が弱いだけじゃなかったのか?都市住まいに慣れてない田舎者はストレスで死にやすいって眉唾なことを言ったのは君じゃないか」

イーブイ「心臓麻痺とは言ってないだろう?それに被害者には共通点がある…皆揃いも揃ってカロスに旅行中だったみたいなんだ」

確かにイーブイの言う通りだった
被害者は皆別々の地方からの旅行者であり、財布やバックからパスポートや旅行券が見つかった
新聞から得られる情報が限られる中で想像の範囲でしかないとはいえ、イーブイは自己流に推理したようだ
だから自分の足で現場に向かって調査に行きたいのだろう…安直なやつだ
 ▼ 4 ンヤンマ@こぶしのプレート 22/12/30 19:14:04 ID:YCqEtZMY [3/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ピカチュウ「言っとくがちょっとした動機で高い旅費は出せないからな。それにお前は毎回毎回思い付きで推理してまともな結論に至ったことがないじゃないか」

イーブイ「ニアピンのものも多かったはずだ。げんに解決した事例も少なくない」

ピカチュウ「私の助力があったからだろ…旅費もほとんど私が出している。そろそろ借金でもしないと私生活が困るくらいにはな」

イーブイ「金なら心配いらん。いつか君より稼いでみせるさ。医者の君よりもね?」

ピカチュウ「今からでも稼ぐ道を探す方が建設的だと思わんかね?」

イーブイ「カロスに行くぞ!!」

ピカチュウ「…はあ」

結局今回も私の自己負担になってしまった
親のスネをかじるが如く私の貯金を切り崩し続けるコイツとはそろそろ縁を切るべきかもしれない
増してや行き当たりばったりな行動の数々は天才ぶりたいお年頃の子供のようにしか見えないこともある
しかし気の弱い私は、また彼に流されたまま時間と金を浪費するためにカロスの向かうのだった
 ▼ 5 ビビール@かざんのおきいし 22/12/30 19:14:14 ID:7GQ6obfE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 6 ガリザードンX@こうてつプレート 22/12/30 19:14:52 ID:YCqEtZMY [4/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ーーーーー

カロス行きの蒸気船に乗るため、イーブイとピカチュウは港へと馬車で向かっていた
車内で揺れながらイーブイは目を輝かせて進行方向を見つめ、方やピカチュウは激しい雨が打つ窓の外を眺めながら物思いに耽る
ピカチュウにとってミアレは実に不思議な街だった
円状に整えられたプリズムタワーを中心とする古き良き街並みは観光に向いていると思うし、若者向けな街だとも思う
だが街中のどこに向かっても同じような外装のカフェに、同じような広場が繋がっているだけで、地図を片手に進まないと確実に迷うだろうという確かな自信がピカチュウにはあった
そういう意味では実に退屈な街と思えなくもない…それなのにこの中年に差し掛かっている相方は興奮を抑えられない様子だ

ピカチュウ「…なぁ、せめて席に座ってくれないか?ガラル紳士ならもう少し気品を持つべきだろう?」

イーブイ「ピカチュウ君、逆に君はなぜ落ち着いてられるんだい?これから世界一美しい街に行くというのに!おまけに殺人事件という極上のデザート付きだ!!」

ピカチュウ「もう観光で心弾ませるような年頃じゃないものでね…それにまだ殺人と決まった訳じゃない。はやとちりは懸命ではないと思うぞ」

イーブイ「じゃあ、そこに金を出してくれた君は何目的なんだい?観光?調査?」

ピカチュウ「……休息だ、ただの休息」

イーブイ「なら私も同行するとしよう」

ずいぶんと生意気な相方を持ってしまったっと後悔をするピカチュウ
しかしそんな彼の顔は事件性があると確信するような表情を見せている
相棒の説得を諦め、ピカチュウは再び窓の外に目線を逸らす
…港まで眠ろう
それから金銭やらコイツのしつけ方やら諸口の問題を考えれば良い…
ピカチュウはシルクハットを深く被りなおした後、隣席で暴れる相棒の姿を最後に、浅い眠りについた
 ▼ 7 ードル@コダックのうもう 22/12/30 19:15:26 ID:YCqEtZMY [5/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ーーーーー

ズルッグ「…おい、おい!」

ピカチュウ「ふがっ?!な、なんですか?」

ズルッグ「港に着いたんだよ…さっさと料金を払ってくれないか?ついでに相方も連れてってくれ」

イーブイを見てみると席に横たわって爆睡していた
暴れた分疲れが回ってきたのだろう…ピカチュウは覚悟を決めてほぼ同体重の彼を背負う
胸ポケットから財布を取り出して払おうとするとズルッグは突然手を伸ばして財布を奪った
…下層階級め

ズルッグ「後ろでずっとジャンプしてたから迷惑料も含めた特別料金な?ほらよ」

投げつけ返された財布を確認するとお金はほとんど抜かれていた
悪タイプが運転手と聞いて覚悟はしていたがやはりタチの悪い商売を仕掛けてきた
だがこちらもタチの悪い客だったために文句の付けようが無かった
ズルッグは馬車に乗り直すと振り向きもせずに行ってしまった

イーブイ「…スピィ」

…しかし雨の中追い出されたというのに背中にいるコイツは気持ちよさそうにまだ眠っている
財布は寂しいし、背中は重くて痛い
イーブイといるとどんどん惨めな状況になっていく…そんな気がしてきたピカチュウは豪雨と共にその思いを洗い流し、周りを見渡して宿を探すことに専念した
 ▼ 8 ーダイル@ミミズズのさび 22/12/30 19:15:48 ID:YCqEtZMY [6/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
結局、個人料金で一人部屋しか借りれなかった
埃くさい部屋に入るとシングルベットしかない…はぁ…
イーブイをベットに寝かせ自分は床に寝そべる
怒り任せにシルクハットを投げ捨てて天井壁に引っかかった時計を見た
すでに深夜2時を指した時計と蒸気船チケットの出発時間を見比べる…5時間差しかない

ピカチュウ「…散々な1日だったよ、イーブイ」

明日…というか今日に備えてピカチュウは無理やり瞼を閉じた
 ▼ 9 ローラベトベトン@レンブのみ 22/12/30 19:16:56 ID:YCqEtZMY [7/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ーーーーー

ガラルとカロス間の海峡を渡る船は朝方が一番安い
ゆえに節約のために始発の便を予約したのは良いものの、ピカチュウは連続する後悔の念に陥っていた
安さで選んだらその対価は劣悪になることは必須
イーブイとピカチュウは甲板の上で身動きが取れないほどの人数に囲まれながら2時間の航海に耐えなければならなかった
両者ともに帽子が振り落とされないようにガッチリと掴みながら船先の取手にしがみつく
悪天候はなおも止む兆しを見せず、着く頃には風邪を引いているだろうとイーブイ達は覚悟した
 ▼ 10 チャモ@ミニリュウのウロコ 22/12/30 19:17:34 ID:YCqEtZMY [8/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
豪雨と人々の雑音に負けぬようにピカチュウは大声で聞く

ピカチュウ「着いたらまずどうするんだ?」

イーブイ「真っ先に事件がったカフェに向かうぞ!まずは現場周りの事情聴取だ!」

ピカチュウ「だが最新の事件でも1ヶ月は過ぎてるんだぞ?証拠や証言どころか、誰も覚えてすらいないだろうさ」

イーブイ「何もしないよりはマシだ!それに現場を観察することが事件解決の第一歩だ!」

ピカチュウ「警察は念入りな調査をした上で病死と判断したんだぞ?刃物も銃弾も見つからなかったんだ…今更何を見にいくんだい?」

イーブイ「空気感だ!」

ピカチュウ「……?」

理解に苦しむと同時にあまりに無計画すぎると思った
…とは言うものの彼と関わってきた事件の中で計画的に調査した事例の方が少ない
いつものことだと受け流す他に無いだろう
横殴りの雨と波に打たれながらピカチュウは思考を放棄して到着を待った
 ▼ 11 コザル@マグマスーツ 22/12/30 19:19:42 ID:YCqEtZMY [9/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ーーーーー

蒸気船は遂にミアレシティーから100キロ離れた港に到着する
耳の先から尻尾までずぶ濡れの2匹は早く屋根のある場所へ避難したいと願うばかりだった
ガラルほどではないが、カロスも十分に寒さを感じる
冬場でなおかつ沿岸沿いにいるのだから尚更背筋が凍った
自分以外基本的に見えていないイーブイも今回ばかりは気が滅入っているらしい

イーブイ「さ…さ…寒い…」

ピカチュウ「さっさとミアレ行きの切符を買って最寄りの警察署に行くぞ」

イーブイ「はいはい…死亡届けね」

ピカチュウたちは事件が起こるたびに何度もカロスに向かうことが多々あった
ゆえに一番最初につくこの港の警察にはよくお世話になっており、直近で起こった事件の資料などをよく開示してくれた
今回も例に漏れることはない
駅で切符を買った後、署に着いて真っ先にカウンターの女警官に例の事件について質問した

ピカチュウ「すみません、ミアレで起こった数件の心臓麻痺事件についての資料とかあったりします?」

パチリス「あら!ピカチュウさんじゃない!いつもご贔屓にどうもどうも〜。また探偵ごっこですか?」

ピカチュウ「その言い方は勘弁して下さい…こっちもアイツが行きたいって駄々をこねたから仕方なく付き合っているんです」

イーブイは近くのベンチに座って再び爆睡していた
寝ることだけはいつも一人前である
 ▼ 12 イアント@ダイマックスB 22/12/30 19:20:11 ID:YCqEtZMY [10/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
パチリス「…ずいぶんお疲れのようですね」

ピカチュウ「誰かのせいでろくに寝てないものでね…おまけに金欠ですよ。まぁ、ここならタダで資料が手に入るからちょっとは救われます…」

パチリス「あはは…とにかく例の事件についての資料ですね。少々お待ちください」

パチリスはカウンターを離れ、後ろにある紙が溢れ返ったファイルキャビネットを探り始めた
そこらじゅうに関係のない資料を床に投げ捨てながら目的のモノを探す
……相変わらず雑な仕事だな

パチリス「あった〜。これですね?うわぁ…ずいぶん死んでますねぇ」

どうやら不謹慎といったモラル的なことも業務内容にはないらしい
初めてカロスを訪れた時からピカチュウはこういった自由奔放なカロス生まれのポケモンたちの態度が苦手だった

ピカチュウ「あ〜っと、返却期限とかはいつ頃ですか?」

パチリス「ぜんぜんそんなもの無いんで大丈夫ですよ。なんなら警察も事件解決したことで処理してるんで全部持ってちゃって下さい〜」

ピカチュウ「…助かるよ、パチリス。また今度、夕飯でも行こう」

パチリス「あらあら突然誘い文句?ふふ…金欠状況が解決したらまた誘ってね?」

ピカチュウ「ハハ…そりゃしばらく時間かかりそうだな」

目的を達成したピカチュウは帽子を持ち上げて会釈し、パチリスの別れを告げるとイーブイをまた背中って駅のホームを目指した
ピカチュウはパチリスの一件で少し元気を取り戻した

ピカチュウ「…少し単純すぎるか?」

そう思いながらも尻尾を振りながら耳をピクピク……喜ばずにはいられなかった
 ▼ 13 テノ@スピードボール 22/12/30 19:20:34 ID:YCqEtZMY [11/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ピカチュウはイーブイを背負いながら片手で資料を開いた

死亡者:コジョンド メス 24歳 
死因:心臓麻痺...午後2時44分 ローズ広場近くの路地裏のカフェにて死亡

死亡者:ゾロアーク オス 40歳
死因:心臓麻痺...午前11時50分 イベールアベニュー通りにあるカフェにて死亡

死亡者:ピッピ メス 5歳
死因:心臓麻痺...午後5時12分 母親と共にブルー広場に繋がる道沿いにあるカフェにて死亡

死亡者:レントラー オス 34歳
死因:心臓麻痺...午後4時01分 オトンヌアベニュー通りの中心にあるカフェにて死亡

ピカチュウ「全員カフェで死亡...確かにきな臭い事件だな...」

だかその他は性別もタイプも年齢もバラバラ...死亡者の中には子供までいる
ピカチュウはこれだけでも頭を悩ませるのに、追い打ちをかけるように資料はこう続いた

司法解剖の結果...内蔵及び血液成分:全数値正常
考察:過剰摂取などの病的死因は可能性が低い

ピカチュウ「カフェイン中毒とかでもないのか...」
 ▼ 14 スイジュナイパー@ポフのみ 22/12/30 19:20:53 ID:YCqEtZMY [12/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
これが全て1ヶ月の間に起こったのだからまるで心霊現象のようにも思える
だが霊的なことをトンと信じないピカチュウにとっては現実に即した答えが欲しかった
……そろそろ相棒の手を借りるとしよう
ピカチュウは近くの泥だまりにイーブイを投げ捨てた
突然の出来事にイーブイは混乱した様子で起き上がり周りを夢中で見渡している
見事に真ん中から落ちたものだから自慢の毛も帽子も服も酷く汚れた

イーブイ「おい!なんのつもりだ!もうちょっと粋な起こし方ってものがあるだろ!!」

ピカチュウ「すまん、柄にもなくイライラしてしまってね…謝るから詫びにこれでも見てくれ」

イーブイ「ん?…!」

イーブイは俺から資料をひったくりペラペラめくり始めた
触るごとに資料に泥ジミができることまでは考慮していなかったのでピカチュウは少し後悔した

イーブイ「…全員カフェで死んだのか?ますます怪しいな…」

ピカチュウ「何か思いつかないか?少なくとも俺にはやっぱり連続して不幸が起こったようにしか見えないぞ」

イーブイ「…とりあえず汽車に乗ってる間に考えよう」

泥まみれで何も考えられないのだろう
俺に資料を渡し返すとイーブイは近くの水タイプに頼んで、弱性のハイドロポンプを受けて汚れを落とした
技を受けた後は少し衰弱しているように見えた

イーブイ「さ…さぁ…行こう…」

ブルブルと震えるイーブイを見てピカチュウはいい気味だと感じた
 ▼ 15 ノワール@かたいいし 22/12/30 19:21:30 ID:YCqEtZMY [13/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ーーーーー

イーブイ「ローズ広場…イベールアベニュー…」

隣で地名を復唱している相棒を反対席からピカチュウは見守る
ピカチュウたちは四人分の席があるコンパートメントを独占し、扉に鍵をかけ邪魔が入らないようした
汽車はたった今、田園地帯を疾走している
高速で水面の陽光が線となって蒸気車を追いかける情景が延々と続くように感じた

イーブイ「…!そうか!分かったぞ!!」

ピカチュウ「お?何か収穫があったか?」

イーブイ「この死亡者たちの時計を見てくれ」

イーブイは資料に載っている死亡者がつけていた腕時計や懐中時計の写真を指差しながらピカチュウに見せた

ピカチュウ「…?特に代わり映えしないぞ」

イーブイ「よく見ろよ。死亡時刻と全て時間がずれているんだ…偶然にしてはおかしくないか?」

よくよく見てみるとイーブイの言う通りだった
レントラーの懐中時計は4時間、コジョンドの腕時計は5時間…とピッピが何もつけていない一例を除いて、全ての時計がズレている

ピカチュウ「…てことは全員…カロスに来る前に別の場所にまた旅していたってことか?」

イーブイは無言で顔をニヤつかせ、その通りと言わんばかりの顔をした

ピカチュウ「だがカロスに来たときに直すのを忘れただけじゃないのか?」

イーブイ「それはおそらくない。こいつらは全員ガラルから来てるだろ?ガラルとカロスの時差はミアレから考えても2時間しかない…こんなにずれているのは明らかにおかしい」

ピカチュウ「なるほど…」

言われてみれば確かにそうだ
最低4時間のズレとなると…

ピカチュウ「…イッシュか?」

イーブイ「…それは分からないが死亡者の遺留品からパスポートをミアレ警察署に請求しよう。そうすればどこに行ってたかなんて1発で分かるさ」

ピカチュウ「了解。まぁその前に事件現場でお茶しないとな」

イーブイたちの考察の後、今後のスケジュールがあらかた決まる
今、この瞬間は2匹ともに事件解決に一歩進んだ満足感に浸り、2匹して口元はかすかに微笑んでいた
 ▼ 16 ウマージ@でんせつのメモ2 22/12/30 19:22:43 ID:YCqEtZMY [14/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
汽車はまもなくミアレシティーに着こうとしている
1時間半の走行の間に、時計の時間差以外に有益な情報がないか資料を隈なく見返したが2匹とも何も見つからない…イーブイたちはとうとう諦め、泥まみれの紙をコートにしまった

イーブイ「…とりあえずミアレにはしばらく滞在する。君はホテルに行って予約を取ってくれ」

ピカチュウ「君はどうするんだい?」

イーブイ「先にブルー広場で調査してるよ」

ピカチュウ「それならこれを持っていった方が良い」

イーブイは分厚い羊皮紙を2枚渡された
びっしりと細かい字でタイプピングされた格式貼った分書体に、豪勢なハンコ印といかにも上流階級民が書いたようなサイン
もう片方は封筒となっており、中には相当量の金額

イーブイ「…これはなんだい?」

ピカチュウ「カフェの強制家宅捜査状と申込用の金だ。それをまずミアレ警察署に持っていけ」

イーブイ「いきなりどうしたんだい?いつもは勝手に調査してたんだからこんなもの必要ないだろう?」

ピカチュウ「それがそうでもないんだ。ここ最近になって都市部の方は、一般市民の事件への介入を拒み始めているらしい…港の女警官がこっそり教えてくれたよ」

イーブイ「…あのパチリスか。地方は手を緩めてるから、その反動でこうなったのかな?」

ピカチュウ「そうかもな。まぁ、何はともあれ面倒ごとは避けた方がいい。お前のお兄さんのサイン入りだから効力は確かだろうさ」

イーブイ「兄にはあまり頼りたくないけど…意地を張ってる場合じゃないな。分かった。ミアレ警察署に行って許可を貰ってくるよ」

高級感を感じる公式書に泥が被らないよう、シルクハットの中に放り投げ被り直す
そうしてピカチュウはホテル、イーブイはミアレ署にそれぞれ向かった
 ▼ 17 ゲキッス@ラッカのみ 22/12/30 19:23:53 ID:YCqEtZMY [15/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イーブイはホテルへ向かうピカチュウを見届けた後に自分も目的地へ向かう
ついでにパスポートの請求も済ませてしまおうと考えているとプリズムタワーから少し離れたところにある石造の見事な建物に着いた
ゼルネアスの立派な彫像が重々しい閂扉の両サイドに鎮座した外観はなかなかに威圧感がある
イーブイは自身の体重の2倍はあるであろう扉を、両前足を付けて踏ん張りながら開けた
円形上の柱が均等に12本、弧を描くように並べられ、天井には1000本シャンデリア
制服を着た公務員が絶え間なく行き来しており、イーブイは一瞬来た場所を間違えたかのような錯覚に陥った
気を取り直してコートから羊皮紙を取り出してゴージャスなカウンターを目指した
受付にはなんともカロスらしい、優美なポケモンが待っていた

ニャオニクス「ご用件はなんでしょうか?」

イーブイ「あっと…その、これを渡しに…はい…」

イーブイはこの堅苦しい雰囲気…というか彼自身の性格上、どうしても赤の他人と話すのが苦手だった
だからいつもピカチュウに頼んでいたフシもあったのだが、ホテルの予約も警察署も結局はこうなってしまう
ピカチュウの負担を考えて(無論、これまで彼にかけてきた迷惑行為への謝罪も込めて)仕事を二手に分けたは良いものの、イーブイはハズレクジの方を引いてしまったと感じた
 ▼ 18 スイニューラ@コインケース 22/12/30 19:24:12 ID:YCqEtZMY [16/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

ニャオニクスは怪訝そうな顔をしながらイーブイの差し出した紙を読み通し始める
時間が経つにつれて彼女はなんとも面倒くさい案件に引っ掛かってしまったと…これほど分かりやすい表情もないとイーブイは思った
ニャオニクスは再び嫌そうにイーブイに目線を返す

ニャオニクス「…イーブイ家の許可証なので上の者も捜査を認可するでしょう。しかし、なぜあなたがまたブラッキー様のサインを?」

イーブイ「ブラッキーは…私の兄です。ほら私もイーブイでしょ?」

ニャオニクス「イーブイ種はミアレを調べただけでも山ほどいますよ?他に証拠はないのですか?」

これは弱った
イーブイは兄の話題をなるべく避け続けてきたものの、ここに来ての証明の要求…まぁ、アレしかあるまい
おもむろにニャオニクスの耳を掴んで引っ張り彼女は驚愕する
ニャオニクスの目線が自分の首元の毛に来るようにした
毛をかき分ける

イーブイ「…見ればわかるでしょう?イーブイ家は産まれたらすぐに家紋を首元に烙印するんです…兄に聞けば分かるでしょう。彼も進化して薄くはなったが、微かに跡が残ってるはずです」

ニャオニクス「…分かりました…ふむ…良いでしょう…」

彼女はイーブイの奇行を咎めることはなかった
しかし周りを見渡してみると、イーブイはフロアのほぼ全員が足を止めるなどして自分達を見つめていることに気づいた
店の捜索状を作成するためにカウンターを離れていた彼女が戻って来るのを見やると、イーブイは真っ先に彼女の持っていた紙の束を奪って出口を目指して疾走
離れぎわにピカチュウからもらった金の入った封筒をカウンターに投げ捨ててその場を後にした
ニャオニクスは終始キョトンとしていた
 ▼ 19 ブト@タブンネナイト 22/12/30 19:26:16 ID:YCqEtZMY [17/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ミアレの街を走る途中、ふとパスポートのことを忘れていることに気づく
だがそんなことは今のイーブイを止める理由としては十分ではなかった
動悸が激しく、たいした距離も走っていないのに息切れし始めている
早く…ピカチュウに…会いたい
早く…話したい…

ーーーーー

エリキテル「それでは2名様で1週間の滞在ですね〜」

ピカチュウ「はい、それでお願いします」

かしこまりました〜っとエリキテルは事務所に戻って部屋鍵を取りに行った
ピカチュウは自分の用事が済むと、改めてホテルの内装を見物
まるでミアレ署を小さくしたような感じだった
この街はさほどが石造だから、内側も似通ってしまうのかもしれないとピカチュウは思った
エリキテルが帰ってくる

エリキテル「それでは307号室へお願いします〜、ごゆっくり〜」

ピカチュウは帽子を取って会釈した後3階へ向かった
木製の廊下と階段はよくキシむ
目的地にたどり着き、鍵を差し込み、錆びついた取っ手を回した
早くベットで休みたいとコートとシルクハットを服掛けにほうって寝室を見やると…先客が気持ち良さそうに寝込んでいた
 ▼ 20 ピアー@ふしぎなタマゴ 22/12/30 21:54:49 ID:YCqEtZMY [18/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ピカチュウ「?!…ブラッキーさん…」

ブラッキー「…Zzz」

見事に真っ黒な物体が背中を丸めてベットを占領している
起こすのはさすがに気が引けるが…おそらく自分に用があるためにここに来たのだろう

ピカチュウ「ブラッキーさん!起きてください!」

ブラッキー「ふがっ?!…あ〜悪い悪い…いつの間にか寝てたよ。いや〜ここのホテルのベットは寝心地いいからついつい…イーブイはどうした?」

ピカチュウ「イーブイなら警察署に行きましたよ」

ブラッキー「あいつ何かやらかしたのか?」

ピカチュウ「そんなわけないでしょ…あなたが書いてくれた許可証とお金を渡しに行ったんですよ」

ブラッキー「あ〜あれね。突然書いてくれってゆうからびっくりしたよ…それで?金は役に立っているかい?それとももう少し必要?」

ピカチュウ「おかげさまでここも借りれましたし…お金はもういらないです。それよりもなぜ私が借りる部屋を知ってたんですか?」

ブラッキー「あのエレキテル君は僕の部下だよ。彼に君がここに来るように誘導させたんだ」

ピカチュウ「そうですか…それで用事はなんですか」
 ▼ 21 ナップ@ざいりょうぶくろ 22/12/30 21:55:10 ID:YCqEtZMY [19/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ブラッキー「…5件目の心臓麻痺事件が先ほど確認された」

ピカチュウ「!…どこで?」

ブラッキー「サウスサイドストリート沿いにあるカフェ」

ピカチュウ「またカフェですか。一体今度は誰が犠牲者に?」

ブラッキー「初老に差し掛かっているゴロンダだ。推定50〜60歳。オス。カフェオレとマフィンを食べている際に突然倒れたらしい。現場は今警察署が押さえて調査中だ。ゴロンダはミアレ病院に連れて行かれたが…今までの事例を考えるとおそらく助からんだろう」

ピカチュウ「…そこに行けということですか?我々としてはありがたいんですけど」

ブラッキー「そういうことだ。警察には俺から言っといたからいつでも捜査に行けるだろう。古い現場よりもフレッシュな方が君たちにとっても、良いと思うからさ」

ピカチュウ「分かりました。イーブイと合流しだい、真っ先にサウスサイドに向かいます」

ブラッキー「うんうん、良い心意気だ。それじゃ…ファイアロー君!!」

彼の叫びと共に部屋がボイル室のように熱気が一気に高まる
何事かと窓を見やると不死鳥のような見た目の鳥が、大きく羽を広げて熱風をこちらによこしている真っ最中だった
業火という言葉をこれほど体現した者はないとピカチュウは思った
ファイアローは窓の格子に足を置くと羽を落ち着かせブラッキーに会釈
ブラッキーがそれに応えた後、呼び出した訳を述べた

ブラッキー「隈なく街を見渡してイーブイ君を探してここに連れてきてくれ…手段は選ばなくていい」

ファイアローは咆哮をあげたのちに再び蒸し暑い羽を広げて勢いよく部屋を出て行く
出て行った際に窓に置いてあった花瓶が床に落ちて粉々になってしまった
 ▼ 22 リゲイツ@トポのみ 22/12/30 21:55:32 ID:YCqEtZMY [20/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
やれやれと花瓶の破片を拾いながらブラッキーに質問する

ピカチュウ「現場には死亡者の遺留品があるでしょう?その中に変わったものは?」

ブラッキー「何の変哲もないトランクと歩行ステッキだけだ」

ピカチュウ「時計などは?」

ブラッキー「時計?時計がどうかしたのか?」

ピカチュウはイーブイと発見した時計類の時差について説明した

ブラッキー「なるほど...確かにそれだけの時間差があればカロス以外に旅行していた可能性はあるな。よし、署の方にゴロンダの時計を探すように言っておくよ」

ピカチュウ「助かります...ところでイーブイのことなんですけど...手段を選ばないとは?」

ブラッキー「...時期にわかるさ、ふふふ」

ーーーーー

イーブイ「離せ〜!!この焼き鳥〜!!」

カロスの街を毛玉を持ったファイアローが滑空していた
左に右にと宙吊りのサンドバッグのように扱われるものだからイーブイはひどい吐き気を感じている
どこに連れて行かれなるにしろ、なるべく近場であってくれと心の底から願いながら毛玉は街中に聞こえるほどの大声で叫び続けた
 ▼ 23 ルリル@タマゴけん 22/12/30 21:55:50 ID:YCqEtZMY [21/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
空に浮かんだイーブイの姿がだんだんとクッキリしてくる
何ともシュールな絵面にピカチュウは心配するべきなのか笑うべきなのかイマイチ分からなかった
ブラッキーはといえば隣で優雅にアフタヌーンティーを飲みながら、つまみにと言わんばかりに実弟を眺めるのをやめようとしない
挙句の果てには紅茶を勧めてきた
断る理由も無いピカチュウは礼を言ってカップを受け取りイーブイの凱旋着陸を待つことにした
5分後にイーブイはダブルベッドの片方に放り投げられ、軟着陸を果たす

イーブイ「何するのさ!全く...何で兄さんがここにいるんだ?」

ブラッキー「可愛い我が弟をいつ見に来ようが私の勝手だろう?まぁ、そうツンツンするな。無論、ファイアローにおまえの捕獲を命じたのは私だけどね?」

ファイアローはクチバシをカチカチ鳴らして満足げにブラッキーに相槌を打った

イーブイ「勘弁してよ...襟首を掴まれる身にもなってくれ。それで?用事は何なのさ」

ブラッキー「いや、もうピカチュウ君に話したから諸事情は彼から聞いてくれ。私は帰るとするよ」

そういうとサッサと帰ってしまった
ファイアローも再び部屋中を真夏模様にした後、窓から飛び出ていった

イーブイ「...俺って信じられないくらいツいてないぜ」

ベットに身体を投げたまま彼はそう呟いた
 ▼ 24 ノガッサ@おくびょうミント 22/12/30 21:56:05 ID:YCqEtZMY [22/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
第1章 サウスサイドの神託

新鮮な空気と事件現場を求めてサウスサイドを目指す
歩を進めながら相方の言い訳をピカチュウは呆れながら聞いていた

ピカチュウ「それでパスポートの請求を忘れたわけ?……お前の人見知りは昔からだと思っていたがここまでとはな」

イーブイ「君も行けば分かるさ…あそこはカロス1怖い場所に違いない」

そのカロス1に俺は何度も行っているぞ と愚痴をこぼそうとしたところで二匹とも足が止まった
思った以上に大騒ぎだったらしい
群青色のテープがカフェ周りを人除けのように二重三重と巻かれ、ゴロンダの図体がいかに巨大であったかを表すように倒れた場所は凹みと亀裂が入っていた
大軍が大挙したような人混みをかき分けながら一番近場の警察にイーブイが取ってきた捜査状を見せる
渋々入れてくれたが当の本人はあまり納得している様子ではなかった

イーブイ「カロスの警官は皆あんな感じなのか?」

ピカチュウ「俺らも逆の立場なら理解できるのかもな」

勤務態度の文句もほどほどにして事件現場を見渡し、二匹で細部をメモすることにした
テーブルクロスを掴んで引っ張りながら倒れた後に割れたであろうカップと皿
クロスにはカフェオレの染みと食べかけのマフィンが散乱している
他のテーブルも死体を見た客が狼狽えた後に散らかした痕跡が残っていた

イーブイ「…だいぶ悲惨だね。こりゃ悪い評判が広がるね」

ピカチュウ「ライバル店舗潰しの犯行路線も考慮した方が良さそうだな」

イーブイ「飲料にも食べ物にも毒物は検出されなかったんだぞ?まぁ、死因がなんであれ噂は一人歩きするものさ。事実、他のカフェは客足がずいぶん減ったらしい」

ピカチュウ「少なくとも私は飲食経営なんてごめんだね…1ヶ月で潰す自信がある」

イーブイ「君にしてはもった方だろうね」

怠け者の悪口を無視しながら観察を続けた
 ▼ 25 グノム@だいしらたま 22/12/30 21:57:13 ID:YCqEtZMY [23/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イーブイ「…これ何?血痕?」

よくよく見てみるとテーブルクロスには極少量の血が付いている
ピカチュウは目を近づけて繊細な現場証拠を凝視する

ピカチュウ「血量からして銃やナイフの類では無いな…むしろこれは…」

イーブイ「医者の目線からしたら?」

ピカチュウ「針…とか、鋭利なものを刺した感じ?…ゴロンダの検体の時に跡がないか調べてみよう」

ピカチュウは着実に集まっていく情報をメモしていく
一方のイーブイは如何にも探偵を気取ったように虫眼鏡を持って楽しそうに飲食カウンターや壁の模様などを見つめている
ピカチュウはそれが何も考えていない時の様相であることを理解していた
呆れながら成長しない姿を見つめ続ける…だが時に妙なひらめきや発見をするものだから止めることはしない
今回はそれが吉と出る
ゴロンダの座っていた椅子に立って前を見つめているイーブイはあることに気づいた

イーブイ「…ゴロンダの身長ならここからでも窓の外が見えるんじゃないか?」

ピカチュウ「身長?」
 ▼ 26 ンペルト@ヒポポタスのすな 22/12/30 21:57:41 ID:YCqEtZMY [24/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イーブイは検証のためだと言い、ピカチュウに肩車をさせてゴロンダの身長を再現した
椅子に立っている上にグラつくものだからなんとも危なっかしい

イーブイ「思った通りだ…他の客席では死角になっている角の窓から景色が見える」

ピカチュウ「それがどうしたって言うんだい?窓なんてどれから覗板って一緒だろう?」

イーブイ「向こうの街はヒスイタウンだ。そこから何かしらの関連性があるかもしれない」

ピカチュウ「どういうことだい?ヒスイがなんだって?」

イーブイ「パスポートを見れば分かるさ。ゴロンダの遺留品はまだカフェの中だろう?それを探すぞ」

ピカチュウはさっぱり理解できない
危険な検証によって何か得たつもりの相方を降ろし、2匹はゴロンダのトランクを漁った
望遠鏡やらミアレビスケット…いかにも観光客としか思えない品物が続く
パスポートはトランクが空っぽになる手前で見つかった
旅行先欄を眺め前回の旅路を探る
ビンゴだった
ハッキリとヒスイと書いてある

ピカチュウ「本当だ…だがゴロンダはヒスイで何をしていたんだ?」

イーブイ「それは分からないけど、こんな渡り鳥みたいにポンポン行き先を変えるほどゴロンダは金持ちには見えない。このビスケットは半額の値札が付いてるし安物だ」

ピカチュウ「…旅行用の金を出してくれるスポンサーが居るってことか?」

イーブイ「そう考えるのが妥当かもな。金銭目的なら観光のはずがない。となると…」

ピカチュウ「犯罪?まさかねぇ…」

イーブイ「…もう一度肩車だ。望遠鏡を僕に渡して」

ピカチュウ「またかよ。お前重いんだから勘弁してくれよ」

ピカチュウはイヤイヤ言いながらも再度椅子に乗ってイーブイを持ち上げた
 ▼ 27 つばん@メガイカリ 22/12/30 21:58:01 ID:YCqEtZMY [25/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
椅子がグラグラ、手元がフラフラ
側から見たら珍妙な姿に周りの警官は呆れた様子だ
ゴロンダが見つめていたであろう窓に焦点を当て望遠鏡を覗き込む

イーブイ「…何か記号が書かれているぞ。あれは多分…なんだ?」

ピカチュウ「一旦降りてメモにどんな記号か書き出してくれ…重い…」

イーブイはヒスイタウンにある建物の外壁に記されている記号を書き出す
○□△

ピカチュウ「…なんだこれ?」

イーブイ「う〜んこれだけじゃ情報が少なすぎるな…」

ピカチュウ「あの記号はなにで書かれているんだ?」

イーブイ「墨みたいなものだったと思う…ヒスイではインクの代わりに墨を使う文化だろ?ゴロンダはヒスイに関わりのあるスポンサーから出資を受けていたのかも」

ピカチュウ「でもそれがこの記号と何の関係があるんだ?」

イーブイ「コレは俺の憶測の域でしかないけど…あの記号はスポンサーが暗号としてゴロンダに送ったものだと思う」

ピカチュウ「暗号…それなら説明はつくかもな。あの記号の意味を理解していたゴロンダは死ぬ間際に何かを察していたのかもしれない」

暗号を見たゴロンダがなにを理解したのかまでは分からないが…おそらく望遠鏡はそれを探すためのツール
でもそれならわざわざ壁に書く意味が分からない
その理由を求めてイーブイに質問する
イーブイは俯いて少し考えた後

イーブイ「…多分、知らせというより警告だったんじゃないかな。暗号の書かれた紙を渡されるだけなら仕事仲間って感じだけど…壁いっぱいに書かれた自分しか理解できない暗号があったら怖くないか?」

ピカチュウ「恐怖感を植え付けようとしたのかなぁ?…てことは意図的に心臓麻痺が起こったと?」

2匹は沈黙する
ただの心臓麻痺ではとどまりそうにない、大きな組織の影を感じる
それとも僕たちの考え過ぎだろうか?
 ▼ 28 ラナクシ@ムシZ 22/12/30 21:59:30 ID:YCqEtZMY [26/40] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ピカチュウ「心臓麻痺は別として、ゴロンダが仕事で得た金はどうしたと思う?ある程度スポンサーからもらっているはずだろう?それなら半額のビスケットなんて買わないだろうに…」

イーブイ「…親族に金を流していた可能性もある。そのためにコレを持って銀行に行こう」

ゴロンダのトランクから通帳と小切手のようなものを取り出した
小切手には相当額の桁が書かれている
ピカチュウは目を丸くしつつ慌てて通帳を開けてみた
520ポケ…

ピカチュウ「その線で合ってそうだな。小切手は換金せずに誰かに送る予定だったんだろう」

イーブイ「銀行でゴロンダの親族が今まで換金してきた小切手の出所も探らないとな…おそらくゴロンダは稼いだ金を家族の支援金にしていたか…それとももっと大きな組織に流していたか」

ピカチュウ「善人か悪人か…どっちみち犯罪臭いな」

イーブイ「だが問題は『ナニ』で稼いだかだな。仕事内容によっては国家の転覆もあり得る」

ピカチュウ「おいおい、ちょっと待て待て。いくら何でも話を飛躍しすぎだ…機密情報でも売っているってのかい?」

イーブイ「十分あり得る路線だろう?情報は金になるだろうさ。それに貧乏人にとっては愛国心よりも家族愛が勝つものかもよ?」

ピカチュウ「国が滅んだら元も子もないだろう…」

イーブイ「そのために国を旅行しているんじゃないか。仕事現場もわざわざ変えてまでコイツらは働いていたんじゃないのか?」

ピカチュウ「それはまだ分からない…それにゴロンダや他の被害者も犯罪に関わったと決定付けるには証拠不十分だ。本当に運が悪かっただけかもしれない」

イーブイ「あの暗号と身体の傷穴を抜きにすればそうかもな…」

意見の相違によって2匹は黙ってしまった
しかしこんな感じで俺たちが口論になることも珍しくはない
人見知りだけでなく、イーブイの考えすぎる癖を治すこともピカチュウの大事な役目なのだ
イーブイが意見を述べ、ピカチュウが矛盾点を洗い出す
このチグハグなコンビネーションが難事件を解決したことも少なくない

イーブイ「……ともかく、まずは銀行だ」

ピカチュウ「…おう」

そして決まって喧嘩になった後は何か別の行動をとって忘れることにするのだった
 ▼ 29 ュレム@こだいのツボ 22/12/30 22:00:35 ID:YCqEtZMY [27/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ーーーーー

ミアレ銀行の立派な造形美は警察署のそれを超える
さすがカロスの資本の全てを管轄する機関
室内にも贅沢に金をかけていることを見せつけるように純金で出来たアルセウス像を中心に、丁寧に剪定されたバラやボタンバナが円形に並べてある
従業員は全員タキシードまたはその場に相応しい正装
どこを見ても金、金、金…山のような金塊とともに真鍮製の天秤がカウンターに用意されていた

ピカチュウ「小切手の受付はどこでやっているんだ?」

イーブイ「それは探してくれ…頼む…」

イーブイはピカチュウの尻尾を掴んで顔を隠していた
やはり場慣れが足りないのだろうか…っとピカチュウは呆れながらイーブイの手を握って一緒にカニ歩きをしながら近くのカウンターに向かう
目的地につく頃には周りから怪訝な視線をたっぷりと浴びてしまった

ピカチュウ「あの、すいません。この小切手の差出人と受け取り先を知りたいんですけど…」

マニューラ「分かりました。少しお待ちください」

マニューラはピカチュウの差し出した小切手を持ちながら上司に確認しに行ったようだ
果たして小切手はどこから来てどこへ向かうはずだったのか…
 ▼ 30 タッコ@きあいのタスキ 22/12/30 22:01:50 ID:YCqEtZMY [28/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
20分後…

マニューラ「お待たせしました。小切手の送り主は競売場からですね」

ピカチュウ「競売場?何でまたそんなところから…受取人は誰ですか?」

マニューラ「ゴロンダ家の親族です。複数の銀行口座に送るように…とゴロンダさんが先日銀行に来られて頼んだそうです」

イーブイの推理は当たっている
しかし、競売場という意外な場所は予想外だった

イーブイ「競売場…小切手と何かを交換したのかもしれない」

ピカチュウ「そうだとしたら、この金額に見合うものって相当な品だろうな…」

イーブイ「オークションに出す品物かも。競売場も買い取った値段から競売を始めれば利益は出るだろうし」

ピカチュウ「…とりあえず競売場に行ってみよう。どこですか?」

マニューラ「ヒスイタウンにあるニューラズオークションって所です。オオニューラが競売長を務めているそうですが…なにぶん怪しい建物ですので、あまり近づかない方がよろしいかと」

ピカチュウ「…あなたも同族ですけど」

マニューラ「な…!あのですね!失礼がないようなら言っときますけど!!マニューラ家は立派なカロス生まれの家系です!ヒスイのような辺境地の蛮族と一緒にしないでください!!……もういいですか?」

恐ろしい剣幕の後、2匹は背中に食い込み気味のマニューラの爪に押されながら銀行を追い出された
 ▼ 31 ディバ@ぬまのシズメダマ 22/12/30 22:02:07 ID:YCqEtZMY [29/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
強引に追放された2匹は気分転換に近場のカフェによって糖蜜パイとサイコソーダを注文し、休憩も兼ねてこれまでに仕入れた情報で考察をすることにした
パイを頬張りながらピカチュウは話す

ピカチュウ「5人の犠牲者に似通った事件現場、暗号と怪しい小切手…ゴロンダだけでも手一杯なほどに複雑だぞ。それにゴロンダはヒスイタウンで何をしていたんだ?」

イーブイ「少なくともゴロンダはニューラズオークションに立ち寄ったことは確かだろう。そこで何かしらの品物と小切手を交換したんだ。小切手は家族への支援金ってことも分かってる」

ピカチュウ「そりゃそうだろうけど…オークションの競売品に匹敵するような品をどうやって手に入れたんだろう?」

イーブイ「カロスに旅立つ前にヒスイに立ち寄っていただろう?そこで貴重品をゲットしてカロスに持って来たのかも」

ピカチュウ「……密輸?」

イーブイはサイコソーダを飲み干した後にうなずいた

イーブイ「ゴロンダは貧乏人だからカロスに来た際の物品の関税は払えないだろう…となると密輸しか手はない。その荷下ろし先がおそらくニューラズオークションだ」

ピカチュウ「ニューラズオークションが密輸の手助けをしていたのか?…でもそれなら殺される理由がないじゃないか」

イーブイ「…そこまでは俺もお手上げだ。だが少なくとも殺した犯人はその競売場の関係者だろうさ。もしかしたらゴロンダと仕事仲間だったかもな」

ピカチュウ「他の被害者についてはどうなんだ?まだ分からないじゃないか」

イーブイ「お前が注文してる間にブラッキーがパスポートをミアレ署から取り寄せて調べたって手紙を受け取ったよ…全員ヒスイに行っていたらしい。それと手紙と一緒にパスポートと遺体の写真が送られてきた」
 ▼ 32 バニア@まんまるいし 22/12/30 22:02:23 ID:YCqEtZMY [30/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イーブイ「ちゃんと保存されない限り遺体が原型を保つのはせいぜい3日間だから写真はその前後に撮られたものらしい。今は内臓やらが融解してしまってグチャグチャだ」

ピカチュウ「…カロスは遺体保存に力を入れていないのか?まぁいいや。写真を見せてくれ」

写真を数枚ペラペラとめくる
ゾロアーク、コジョンド、ピッピ…そしてレントラー
軍医として戦場で数々の遺体を見てきたピカチュウでも、虚ろな目をした生気を感じないこの姿には未だに慣れそうにない
それでも情報収集のため、医者としての経験を活かして写真を凝視する

ピカチュウ「やっぱり銃痕も切り傷も無いな…残っているゴロンダの遺体がふやけちまう前に調べた方が良さそうだな。ニューラズオークションの調査が終わったら真っ先に搬送先の病院に向かおう」

イーブイ「…そろそろ遺体に見慣れてもいい頃じゃないか?そんなに写真を遠ざけなくても良いだろうに」

ピカチュウ「お前も戦争に行けばわかるさ。銃弾で蜂の巣になった兵士の処理役をよく任されたもんだよ。こんだけ綺麗な状態の写真なんてなかなか無いぞ」

イーブイ「ならまだ楽な方だろ?戦場のトラウマを思い出したくないなら、何でお前は俺のアシスタントをやっているんだ?」

ピカチュウ「…君は生き死にが掛かった場所から突然平穏な毎日に戻ったら耐えられるかい?ようは君と一緒で私もドラマを求めているんだよ。奇人だ、奇人」

その言葉に妙に納得のいったイーブイは、俗世に身を置きつつも僕達はどこか浮世離れしていることを再認識した
 ▼ 33 ィ@オリジンこうせき 22/12/30 22:03:53 ID:YCqEtZMY [31/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜食を終えた後2匹はニューラズオークションを目指した
ヒスイタウンはカロスの街並みを全く受け継いでおらず、和的な文化に対する理解の乏しいピカチュウたちにはスラム街にしか見えなかった
路上に出店のように商売を営む者も多く、異文化色の強い品々はなかなかに興味をそそられる
試しに近くで扇子を売っているガーディに場所を聞き出してみた

イーブイ「すまん。ニューラズオークションはどこか知ってるか?」

ガーディ「なんだあんた、流れもんか?ここいらじゃニューラさんのことを知らん人はいないよ」

ピカチュウ「主に何をしている場所なんだ?」

ガーディ「そうだな〜…まぁ交易所みたいな感じだな。いろんな品がヒスイ本土からカロスに送られて来るだろう?ニューラズオークションはヒスイの品物を全て管理しているんだ。あそこにお世話にならない店はヒスイタウンでは聞いたことがないぜ」

イーブイ「ずいぶん理不尽なシステムだな…ニューラズオークションのさじ加減によっては店は丸損じゃないか」

ガーディ「……ここだけの話だが、あそこはヤクザ経営をしているんだよ。あっちが決めた値段に従わないと店ごと潰されちまうよ」

ピカチュウ「他にやっていることはないのか?例えば競売とかさ?」

ガーディ「名前にはオークションって書いているが副業程度だな。たぶんカロス警察に品物を独占していることがバレたくないんだろうよ」

イーブイ「密告すれば良いじゃないか」

ガーディ「とんでもない…そんな勇気、この街だと命取りだぜ。ニューラさん達に逆らうことは死を意味するよ…」
 ▼ 34 オチルドン@みずのいし 22/12/30 22:04:10 ID:YCqEtZMY [32/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ピカチュウ「…どうするイーブイ?聞いた感じ、かなり野蛮そうな施設に聞こえるけど…」

イーブイ「臆していてもしょうがないだろう…それで正確な場所はどこなんだ?」

ガーディ「ここから3里ほど離れた十字路を右に曲がってそのまま道なりに進めば行き止まりになっている。そこら辺で物乞いみたいにフードを被ったニューラが待っているはずだ。ソイツが用事のある輩をニューラズオークションまで連れてってくれるよ」

イーブイ「君は店の場所を知らないのかい?」

ガーディ「正確な場所は誰も知らないんだ…だが『行き方』は知ってる。フード被りのニューラをあてにして場所に辿り着ける。だが連れていかれる際に同行者は視界を奪われるんだ」

ピカチュウ「どうやって?」

ガーディ「同じくフードを被らされる。だがニューラみたいなやつじゃなくてもっと深く被らされるんだ。巾着袋の中にいるみたいな気分になるだろうさ」

ピカチュウ「…分かった。教えてくれて感謝する」

前髪の重そうなガーディに一瞥をした後、イーブイ達はガーディの言っていたとおりに道を進んだ
(しかしガーディくらい視界が悪ければフードなんていらないだろうに…そんな思いに駆られるのは流石に野暮だろうか?)などとくだらない事を考えながら、ピカチュウは敵陣の本丸に行くような気分を誤魔化そうとしていた
一方の相方は鼻歌で流行りの歌を吹かしながら…うん、コイツも恐らく怖いのだろう
 ▼ 35 オチルドン@ルカリオナイト 22/12/30 22:04:32 ID:YCqEtZMY [33/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
歩を進めながらピカチュウは思案に耽る
サウスサイドの現場がイーブイ達に伝えてくれた貴重な情報は確かに殺人事件の匂いがする
だがピカチュウは未だに疑問に思っていた
改めて考えてみると凶器と呼べるモノも見つかっていない上に危害を加えた加害者の片鱗すら確認されていない
被害者の死際にとった行動は明らかになっていくのに…

ピカチュウ「…なぁ、イーブイ」

イーブイ「何?」

ピカチュウ「本当にこの事件は殺人によるものなのか?怪奇現象染みてはいるが、ただただ運が悪かっただけじゃないのか?ニューラズオークションも、もしかしたらまともに運営されている場所かもしれないだろう?げんに殺人に使われた凶器も実行した人物も情報が無いんだし…」

イーブイ「だとしてもどうって言うんだい?この事件が仮に僕の考えが外れていて、ただの不運な事故だったとしても僕達は調査をやめないし結果が出て満足するまでガラルには帰れない。君が僕に疑心になるのもよく分かる」

ピカチュウ「いや、君を疑ってる訳じゃない…ただなんかこう…確信が持てないんだ」

イーブイ「…サウスサイドからの神託と思って突き進もうよ。それで危険な目にあったとしても僕が守る。反対に君も僕を守ってくれ」

ピカチュウ「私はもう十分過保護な気がするが?」

イーブイ「…なら問題は無いだろう?後は全速前進だ」

イーブイは気恥ずかしさから話を終わらせたいがためにピカチュウから顔を逸らして歩く
ピカチュウは消化不良気味ではあるがイーブイの意向を尊重することにした
サウスサイドの神託…そんな言葉をイーブイが使うと言うことは、彼も少しばかりは自分の推理に疑念が生まれ始めているのだろう
サウスサイドはピカチュウ達にヒント以外にも更なる謎を与えてしまった…自信家なイーブイに動揺を与えるほどに

ーーー第1章終わり
 ▼ 36 ナヘビ@アクアカセット 22/12/30 22:04:52 ID:YCqEtZMY [34/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
第2章 ニューラは思う

ガーディの示してくれた道も終盤に近づいていた
十字路を曲がって進んで行くうちに人通りも少なくなってきた上に、時間帯的にも夕暮れ時を迎えようとしている
道が舗装されていないこともあって、今朝の大雨の影響でピカチュウ達の足は泥んこ塗れ
いよいよコートにシルクハットも汚れてきた
いい加減にフード被りのニューラが見つからないかと2匹がイライラし始めた時…

イーブイ「あれじゃないか?麻を被ってる…」

ピカチュウ「頼むよ…もう服が汚れてしょうがない」

イーブイ「…すみません、ニューラズオークションに行きたいんですけど…」

フードを被って、泥も気にせず路上に座っていた者は頭を上げて2匹を見つめる
微かに朱色をした瞳をピカチュウはとらえることができた

ニューラ「ニューラは思う。用事を言ってから場所に行きたいと言うのが筋」

イーブイ「あっすみません…オオニューラさんに用があって来ました」

ニューラ「!…ニューラは思う。親方様に会うのは相当な用事じゃ無い限り…またはそれなりの対価を見せない限りは合わせられない」

ピカチュウ「それならこれでどうだ?」

ピカチュウは例のカフェの強制家宅捜査状を見せた
ニューラは明らかに動揺していた…危うくフードが脱げそうになっている

ニューラ「ニュ、ニューラは思う…これはもう僕が管轄できる者じゃない。だ、だから親方様に合わせてあげる…頭を下げて。フードを被って欲しいから」

2匹は素直に従って、ほぼほぼ袋と言っても差し支えない深さの布を被らされた
さらに手首、足首と鎖を付けられて身動きが取れない
ピカチュウは酷く恐怖を覚え始め、同時にイーブイへの心配の念が止まらなかった
視界を奪われたことから体に伝わる衝撃や音を頼りに自分が何をされているかをピカチュウは考え始める
体が上に投げ出されたことや扉の閉まる音、ヒズメがパカパカと地面を擦る響きから馬車に乗せられて目的地を目指していることを理解した
不安しかないこの状況で少し安心する情報を得たピカチュウは不思議と眠気に誘われる
このまま…どうか無事に…着きますように…
 ▼ 37 ウッツェル@だいこんごうだま 22/12/30 22:05:11 ID:YCqEtZMY [35/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ーーーーー

馬車が段差をのぼった衝撃でピカチュウは目を覚ます…やはり袋を被らされたままなので視界は暗い
格子状に区分けされたヒスイタウンを疾走する車はいつしか下水通りを下に降り地下に潜っていた
どうやらニューラズオークションは地上にはないらしい…それともオオニューラは地下暮らしなのか?
ピカチュウは下水の悪臭から顔を顰めつつ下水道にいることを認識する

ピカチュウ「…イーブイ?聞こえるか?」

イーブイ「あぁ…何とかな。そっちは体大丈夫?」

ピカチュウ「鎖を付けられて動けないこと以外はどうってこと無い。しかしどうやら地下に連れてかれているみたいだな…」

イーブイ「音だけしか情報がないから困ったな…今はなすがままにされるしかないだろう」

イーブイの言う通りだった
ここまで拘束されてしまうと思考も行動もクソもない
そう諦めかけた瞬間馬車が急激に揺れて止まった…どうやら着いたらしい
ピカチュウ達はニューラに誘導されるがままに、ふらつく足取りで重い扉が開く音を聞いていた
突然柔らかい声色で止まれと言われて、続いて袋を外すように言われる
ニューラは袋と鎖をピカチュウ達から外して解放した
久しぶりの外光に目を瞬いていたイーブイは、視界が良好になるにつれて目の前の光景に顎が外れそうになった
自分の4倍は高さがあろう、浴衣を少し肌けさせながら着た優美な女が脚を組んで豪勢なソファに座っていた
女はピカチュウ達を愛でるような眼差しで見つめてくる

オオニューラ「あら〜なかなか可愛らしいお客さんじゃない♪ご用件は何かしら?」

ニューラ「ニューラは思います。こちらを持ってきて我々に話を聞きたいようです」

ニューラはピカチュウの持っていた調査許可証をオオニューラに渡した
オオニューラは途端に余裕の消えたような表情になる

オオニューラ「…あなた達も気づいてしまったみたいね…」

ピカチュウ「気づいた?」
 ▼ 38 クスロー@カントーのせきばん 22/12/30 22:05:30 ID:YCqEtZMY [36/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オオニューラは持っていたキセルを深く吸った後に少し涙目になる

オオニューラ「最近ウチの店によく依頼品を届けてくれた運び屋がたびたび不可解な死に方をしてるのよ。可哀想なピクシーちゃん…早くに娘を失って…」

ピカチュウ「…お悔やみ申し上げます。しかし私たちはその不審死に事件性を感じたために情報収集をしているのです」

イーブイ「残念ながらこの施設の人々も容疑者として疑われています」

オオニューラ「な…!失礼なおチビだね!!私達がわざわざ自分達の利益を損失してまで関係者を殺すと思うのかい?!」

ニューラ「ニュ、ニューラは思う。疑わしきは罰せずと…」

イーブイ「現代の法律はそれほど寛容ではないぞ。この事件は誰が疑われてもおかしくないんだ…たとえ君の親方さんが犠牲者を嘆いていたとしてもね」

オオニューラは未だに憤慨している
しかしその怒らせたチビに説得されたのかまでは分からないが、再びキセルを吸引したのちに澄んだ目でピカチュウ達を凝視する

オオニューラ「…大人気ない態度はお互いに何も生まないだろうね。ムカつく言い分もあるがアンタ達の言う事も一理ある。我々も目を覚ます必要のある部分もあるかもしれない…なぁ、ニューラよ」

ニューラ「…!は、はい」

オオニューラ「お前はどう思う?ニューラは何を思う?」
 ▼ 39 ジョフー@レトルトバーグ 22/12/30 22:05:48 ID:YCqEtZMY [37/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ニューラ「ニューラは思います。我々はカロスに住む民の中でもマイノリティーでございます…ゆえに仕事は選べないし、差別も受け続けて来ました」

ピカチュウは銀行でマニューラに追い出される際に彼女が放った言葉を思い出す
『ヒスイのような辺境地の蛮族』

ニューラ「ヒスイタウンを一歩出れば、穢多非人がごとく扱われるのは日常茶飯事です。中でもヒスイニューラ族は特に社会的立場が低い…かつてのアブソル族のように。しかしオオニューラ様は違いました」

ニューラはピカチュウ達に訴えかけるようにこちらを見やる

ニューラ「オオニューラ様は理解のあるお方です。ゴミ同然のような身分であった我々を救って下さった。ちゃんとお給料も出る立派な仕事を下さった…感謝してもしきれません」

ピカチュウ「しかし私達が調べたところによると、ニューラズオークションはヒスイタウンの物品を全て管理してると聞いているが…それは果たしてマトモな仕事と言えるのか?」

オオニューラ「少し語弊があるようだね。我々は品物を『独占』しているのではなく『共有』しているんだ。ヒスイタウンの連中は気づいていないかもしれないが、仮にニューラズオークションがこの大義ある仕事を辞めてみな。1週間後にはみんな餓死しちまっているだろうよ」

イーブイ「…カロスはヒスイタウンに規制でもかけているのか?」

オオニューラ「なんだ、あんた知らないのかい?ヒスイタウンはカロス政府からバカ高い関税を払うように言われているんだ。それ以外にも、法外な税の徴収が後を尽きないのさ。それを黙って見ているほど我々もアホではない。」

ピカチュウ「それで関税を逃れるために、この店が直接輸入品を?」

オオニューラ「…この先は企業秘密。聞かれちゃまずい話もあるってものさ」

気まずそうに話を終えるオオニューラを見て、イーブイ達は恐らく犯罪まがいの方法であろうことを理解した
だが話を進めるためにも、あえてツッコミを入れないでおく

イーブイ「…論点を戻そう。君達の事情はよく分かった。しかし私たちは悪魔で仕事の妨害に来たわけじゃない。数名の犠牲者が、ここと関わりを持っていることに疑問を持ったから訪ねた次第だ。そこで質問させて貰おう」

ピカチュウ「…ゴロンダと小切手を交換する際に、何と交換した?」
 ▼ 40 オタチ@トライパス 22/12/30 22:06:06 ID:YCqEtZMY [38/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
オオニューラ「…我々は情報が命だ。ゆえにどんな高値でも大抵は買い取るのさ」

ピカチュウ「だけどあなたは自分で『依頼した』って言ってましたよね?依頼品はどこにあるんですか?」

オオニューラ「頭の固いおチビちゃんだねぇ。モノ自体にそんな付加価値を見いだすわけがないだろう?ようは情報収集料を払っていたのさ。『どの輸入船がヒスイから来てどの港に停泊するのか』っとかいう情報をチョチョイとね」

イーブイ「…つまりオークションに出すための高額商品を密輸していたわけじゃないのか」

オオニューラ「そんなチマチマしたようなことは絶対にやらないね。ゴロンダから受け取った情報は大いに役立ったよ…命と引き換えにはなってしまったがね」

ピカチュウ「それならもう一つ質問がある。情報料を払うための金はどこから入手してるんだ?」

オオニューラ「ヒスイタウンの民に売りさばく食料を除けば、船に乗ってる大抵の品物はアタシ達からすればガラクタ同然だ。だが世の中にはそのガラクタに価値を見いだす奇人がいるもんでね?カロスはそんな奴が五万といる」

イーブイ「それをオークションに出すわけだな?」

オオニューラ「その通り♪あんたはそこの黄色いのと違って理解力があるねぇ。ゴミを売りさばいて食べ物に還元する。これがニューラズオークションの錬金術さ」

イーブイは唸った
情報を得たニューラズオークションのメンバーは目的の輸送船を奇襲して食料を奪う
そしてそれをヒスイタウンの人々に商品としてばら撒く
立派な犯罪行為であることは間違い無いのだが…義賊的な一面も持ち合わせている
この一件をカロス警察に申告すればすぐに強制捜査が始まるだろうが、そうなればヒスイタウンが食糧難で壊滅する
これを密告するほどの勇気をイーブイもピカチュウも持ち合わせてはいなかった
それをおそらく理解した上でオオニューラはピカチュウ達に、この事実を伝えてくれたのだろう…手の汚いやり方だ
 ▼ 41 ルキモノ@チルットのはね 22/12/30 22:06:29 ID:YCqEtZMY [39/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかしピカチュウ達はまだ疑問が残っていた
これだけの犯罪行為を自供しといて、オオニューラの言う企業秘密とはいったい何なのだろうか?
しかし答えは案外あっさりと出てきた

オオニューラ「…先ほど企業秘密と言ったが今言ったことが全てだよ。アンタ達なら公的機関にチクるようなバカな真似はしないだろうと信じているよ?」

ピカチュウ「…分かった、約束するよ。俺たちもこの街を犠牲にしてまで警察に伝言はしないさ」

オオニューラ「これでお互いが助かるってもんさ。…それに公表しようものならアンタのお兄さんも大変な目に遭うだろうしね」

イーブイは酷く驚いた
この大柄な女が兄の存在を知っている上に危険を予見しているとなっては気になってしょうがない

イーブイ「どう言うことだ?兄が何かしたのか?」

ニューラ「…ニューラは思います。あなたの兄上様は我々に多額の寄付をして頂いております。その事が上にバレれば兄上様はタダごとでは済まされないでしょう…犯罪集団に支援金を提供しているだなんて世間に知られれば。」

オオニューラ「だが勘違いはしないでほしいね…君のお兄様は我々に感銘を受けて出資したんだ。少なくとも善行であると判断してね。君もお兄様のご好意を無駄にはしたくないだろう?」

イーブイ「…ふざけろ!!兄がなんだ!弟がなんだ!!」

これにはニューラ達も予想外だったらしい
イーブイは怒り任せに大きく足音をたてながら扉を蹴っ飛ばして部屋を出てしまった
冷静なピカチュウはこの地下の迷宮ではおそらく地上への脱出は不可能だろうと思う
今度はオオニューラが疑問をぶつける番のようだ

オオニューラ「突然どうしたんだい?眉間にシワなんか寄せちゃってさ…」
 ▼ 42 ングース@ジェットボール 22/12/30 22:06:58 ID:YCqEtZMY [40/40] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ピカチュウ「気に触れたようなら申し訳ない。家族ぐるみでイーブイ家は複雑なんだ。…詳しい話は俺も聞いたことはないが多分、ブラッキーさんの成功を妬んでいるのかもな」

オオニューラ「ガラル政府の重役だからかい?兄に比べてずいぶん器の小さい男だねぇ」

イーブイの評価がコロコロ変わるオオニューラの見解にピカチュウは笑いそうになる
しかし相方はそれだけで自分の兄を恨むとはピカチュウも思わない
感情的になるほどだからよっぽど何か…しかしブラッキーさんにはあんなにもお世話になっている
むしろ感謝するべきなのではと

オオニューラ「ニューラよ、あの小心者を捕まえてきておくれ。この地下道に一番精通してるのはアンタだから、すぐに見つけられるだろうさ」

ニューラ「ニューラは質問します。捕獲後は何をいたしましょう?」

オオニューラ「そこのピカチュウと一緒に袋に詰め込んでヒスイタウンに出してやりな」

ピカチュウ「は?」

ニューラは親方に一礼したのちに素早く襲いかかり、みねうちを放つ
真正面からもろに喰らったピカチュウは次第に視界が暗くなってゆく
なんで…いつもこんな…役目ばかり…
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