ひかえめなコレクレーとすなおなチョンチーのお話

ある山奥の廃墟に、ひかえめでびびりのコレクレーがいました。
仲間のコレクレーたちもびびりではありましたが、中には999枚のコインを集めきって旅を終えたものもいます。
しかし、ひかえめなコレクレーは中々宝箱の中から出たがりません。
この廃墟にかつていたゴーストタイプのポケモンたちは肝試しに来る人間たちや山に住むポケモンたちの生気を吸っていましたが、屋敷が形を保てなくなってからはみな離れていってしまいました。
残ったのはコレクレーだけです。
そんなコレクレーに、あるポケモンが話しかけました。

？？？「箱の中にずっといるのは退屈じゃないか？」

コレクレー「だっ、だれですか」

？？？「通りがかりの旅するポケモンさ」

コレクレーは宝箱からちらりと顔を出します。すると、そこにはポケあたりのよさそうな金色のポケモンがいました。
何となく自分とは違うポケ種だと感じたコレクレーは箱を閉じようとしました。
ちょっと待ってくれ、と言って金色のポケモンは腰につけたポーチからカップを取り出しました。

？？？「お茶のついでに話でも聞いてくれたら、夜明けを待ってこの廃墟から出発するつもりなんだ」

迷惑かな、と金色のポケモンは聞きました。
コレクレーはちょっと迷惑だなと思いましたが、お茶のお誘いなんて初めてだったのでとても魅力的に感じました。

コレクレー「……聞くだけなら」

金色のポケモンは世界を巡るのが小さいころからの夢だった、と言います。
だから今はとても楽しいのだと、旅先で出会った色々なポケモンの話をしました。
空からリングのポケモンが落ちてきたこと、農園のミツハニーたちとあまいミツを集めたこと、雪山で迷子のユキワラシをユキメノコの元に届けたこと、ナミイルカの群れとサーフィンをしたこと、そのどれもが日陰の宝箱でぼうっと過ごしているコレクレーにはキラキラと輝いているように思えました。

コレクレー「……いいなぁ」ﾎﾞｿｯ

？？？「もしよければ君も一緒にいかないか」

コレクレー「えっ」

？？？「無理にとは言わない、行くのもここと留まるのも君の自由だ」

コレクレー「次の目的地は……？」

？？？「決めてないよ」

コレクレー「えっ」

？？？「ここパルデアからは出たいと思っていたけど、どこに行くかまでは決めてないんだ」

コレクレー「海外に行くってことですか？」

？？？「ああ。フーパが旅をするなら手……もとい、輪を貸してくれるっていうから」

コレクレーは首をかしげました。
金色のポケモンの話に出てきた、空から落ちてきたリングのポケモンも聞いたことのないポケモンでした。
輪をかけて不思議なのは金色のポケモンが見せてくれたフーパから借りたという輪っかは何の変哲もない金色のリングに見えるのです。

？？？「これに向かって呪文を唱えたら空間と空間をつなげる魔法のリングになるらしいんだ」

コレクレー「それって本当にどこに行くか分からないってことですよね」

？？？「そういうことになるね」

コレクレーは考え込んでしまいました。
この機会を逃せばきっと自分はこの箱の中で閉じこもったまま、でも行先が分からぬままなんてそれはあまりにもギャンブルすぎるように感じたのです。

？？？「まあ、気長に考えてくれればいいよ。君の気が向いたら言ってくれ、僕はここで夜明けを待つとするよ」

そう言って金色のポケモンは朽ち果てた柱の上で寝転びました。
真ん丸な満月はまるで自分の瞳のようで、コレクレーは久しぶりに月を見上げたと気が付きました。
もしもどこかここじゃない場所に行けるなら……。
どこまでも広がる空とたゆたう水面に境界はあるのかな。
うとうとと微睡む中で夢に見たのは、まだコレクレーが見たことのない「海」でした。

何となくそわそわとした感覚でコレクレーは目を覚ましました。
肌寒い空気とのぼりかけのおひさまは、まだ朝と呼ぶには少し早いような時間です。
コレクレーがおそるおそる宝箱から出ると、金色のポケモンは何やら魔法陣を地面に描いているところでした。
日の光を浴びて輝く金色のポケモンと、あの金色のリングはとても眩しく見えます。
勇気を出して、コレクレーは金色のポケモンに声をかけました。

コレクレー「あの……」

？？？「決まったかい？」

コレクレーはこくりと小さくうなずきました。

コレクレー「ぼくも連れて行ってください！」

？？？「その言葉、まっていたよ」

自分に酔ってないか？大丈夫か？

金色のポケモンは手にしていたチョークをベルトのポーチにしまい、金色のリングを魔法陣の中心にセットしました。

？？？「お〜で〜ま〜し〜！！！」

金色のポケモンがそう叫ぶと、地面に置かれていた金色のリングから光が放たれました。
何の変哲もない地面はブラックホールのように底が見えなくなり、ひゅうううとあたりを吸い込み始めます。
びびりなコレクレーはその異様な光景に後ずさりしてしまいました。

？？？「すごい！これがフーパの力なんだ……！！」

コレクレー（な……なんか思ってたのとちがう……）ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

？？？「一体どこに繋がっているんだろう……！！」ﾜｸﾜｸ

コレクレー「あ……あの、ぼくやっぱり、」

？？？「さあ行こう！君の知らない世界が君を待っているよ！」

ポケなつっこい笑みを浮かべて金色のポケモンはコレクレーに手を差し出しました。
コレクレーはやめます、と言い出すことができない空気になってしまったと悟りました。
もうどうにでもなれ、という気持ちでコレクレーは差し出された手を取りました。
そして、二匹は手を繋いだまま暗闇へと飛び込んだのでした。

水面が穏やかに揺れているアサギの海。
雲一つない青空に、ぽっかりと大きな穴が開いたかと思うと１匹の小さなポケモンが落ちてきました。

コレクレー「うわああああああああ！！！！！」

コレクレー「こ、こんなことなら宝箱から出なきゃよかったあぁああああああ！！！！！！」

ぽちゃん、という小さな音を聞くポケモンは無く、コレクレーは海へと沈んでいきました。

コレクレー（……どうしよう）ｺﾞﾎﾞｺﾞﾎﾞ

コレクレー（せっかく外の世界にでてきたのに、このままじゃ溺れ死ぬだけだ）ｺﾞﾎﾞｺﾞﾎﾞ

コレクレー（海が見たいって思ってたのに、景色を楽しむ余裕なんてないし）ｺﾞﾎﾞｺﾞﾎﾞ

コレクレー（……そもそもゴーストタイプってしぬの？）ｺﾞﾎﾞｺﾞﾎﾞ

コレクレー（どうせならおっきなポケモンに丸呑みされる方がいたくないよね）ｺﾞﾎﾞｺﾞﾎﾞ

もうだめだとコレクレーが諦めかけていたとき、海の底からゆらりと２つの灯りが見えました。
それはコレクレーたちの頭から生えている２本の触手にとても似ています。

コレクレー（海にも、こんなに明るい光があるなんて）

コレクレー（知らなかったなぁ……）

何もかも諦めてコレクレーは目を閉じてしまいました。
そんなコレクレーに、２つの灯――チョンチーというポケモンが近づいてきました。

チョンチー「……？」

不思議そうにコレクレーを見ていたチョンチーでしたが、何かに気が付いたようです。

チョンチー「アクアリング！」

ぽう、と優しい泡がコレクレーを包みます。
チョンチーはそっとその泡を小さなヒレで持ち上げると、海面へと向かいました。

コレクレー「げほっ！ごほッ！！……えっ！？」

起き上がったコレクレーはぱちくりと目を瞬かせました。
海に真っ逆さまに落ちていったと思ったのに、気が付けば砂浜に寝転んでいたのです。

コレクレー「ここは……」

チョンチー「良かった！目を覚ましたんだね」

チョンチー「ここはアサギシティのはずれだよ」

コレクレー「わあっ！？」

突然目の前に現れたチョンチーに驚いて、コレクレーは咄嗟に逃げようとしました。
しかし、あたりには隠れられそうなものがありません。

チョンチー「ごめんね、驚かせちゃったかな」

しょぼ、とチョンチーの触手が悲しそうに揺れます。
コレクレーは何だか申し訳なく思いました。

コレクレー「僕こそごめん……びびりだから、ちょっと驚きすぎちゃったんだ」

コレクレー「もしかして君が助けてくれたの？ありがとう」

チョンチー「そんな大したことしてないよ、アクアリングかけて陸地まで運んだだけだから」

チョンチーは恥ずかしそうにちらちらと灯を揺らしました。

コレクレー「とんでもないよ！君は僕の命の恩人なんだから……あっ」

チョンチー「どうしたの？どこか怪我してた？」ｱﾜｱﾜ

コレクレー「助けてもらったのに、君の名前を聞いてなくて」

チョンチー「なんだ、そんなこと？私はチョンチーだよ」

チョンチー「そうだ、あなたの名前も教えてほしいな」

コレクレー「僕はコレクレーって言います」

チョンチー「コレクレー……見たことないポケモンだと思ったけど、聞いたこともない名前だね」

コレクレー「僕も……チョンチーさんのこと初めて見ました。アサギシティ？ってさっき言ってた街の名前も、聞いたことがなくて、」

チョンチー「へえ、そうなんだ。アサギシティは高速船の他にも遠くの国から船が来るのよ」

チョンチー「私の種族は結構色んな地方の海に住んでるって聞いたことあるんだけど……コレクレーくんはきっと遠くの国から来たのね」

チョンチーは十字の目を輝かせます。

コレクレー「あー……えっと、僕はパルデア地方ってところにいて……ここに来た経緯は話すと長くなるんだけど、」

チョンチー「コレクレーくんの話聞きたいな。いつか陸に上がるのが夢なの」

コレクレー「……僕、話うまくないよ。あんまり他のポケモンと話したこともないし、」

チョンチー「大丈夫。私も陸に上がりたいなんて変なチョンチーだねって言われるから」

コレクレー（それとこれとは違う気がするけど……まぁいっか、）

そう言って、コレクレーはぽつりぽつりと話し始めました。

>>8
別にこの作者酔ってなくね

しえん

ずっと1匹ぼっちだったこと、金色のポケモンが話しかけてくれたから外に出てみようと思ったこと、信じてもらえないような方法でここまで来たこと。
突拍子もないような話だとコレクレー自身は思いながら話していましたが、チョンチーは楽しそうにコレクレーの話を聞いていました。

チョンチー「いいなぁ、私もそんな風なドラマチックに……は無理かもしれないけど、旅をしてみたい！」

コレクレー「あの……チョンチーさんはどうして旅をしてみたいんですか？」

チョンチー「私たちの種族のほとんどは深海で暮らしているの。狩りをするにはその方が都合がいいからっていうのと、浅瀬では人間に見つかってしまうからなんだけどね」

チョンチー「深海にいないみんな……私もそうだけど、アサギの港にいるの。そこで、人間たちが話していたこととか、知らない船が来てるとか、深海のみんなに教えるんだ」

コレクレー「人間に捕まるかもしれないのに、勇気があるんですね……」

チョンチー「……人間に捕まるのって悪いことかな」

コレクレー「あっ、ええと……良い人間も勿論いると思うんですけど、中には悪い人間もいるかもしれません」

チョンチー「ごめん、困らせるつもりじゃなくて。コレクレーくんは優しいんだね」

コレクレー「いや、そんなことないですよ」

チョンチー「人間の話を聞いてると、きっとここでは見られない景色ってたくさんあるんだろうなって思うんだ。エンジュシティの紅葉が綺麗だとか、いかりのみずうみに赤いギャラドスが出たとか、遠い地方のキッサキシティはずーっと雪が降っていて、遠い国のガラル地方ではチョンチーが街でぴっかりしてるんだって、」

チョンチー「……さすがに最後のは信じられないけど」

チョンチー「でも、もしも本当に陸に上がったチョンチーがいるなら……私もそのチョンチーみたいになりたい」

チョンチー「ごめんね、いっぱい喋って。みんなには陸に上がって光るキノコの上にいるチョンチーなんて絶対嘘だって言われてばかりだから、コレクレーくんが黙って聞いていてくれるのに甘えちゃった」

コレクレー「と、とんでもないです！素敵だなって思って……えっと、うまく言えないんですけど……」

コレクレー「……きっと、叶うと思います」

コレクレー（こういう時に、あの金色のポケモンがいてくれたらなあ）

コレクレー（一緒に旅に出ないかって、手を差し伸べてくれるのに）

コレクレー（……僕は、言えないな）

コレクレー「あっ、えっ、ごめんなさい、泣かせるつもりじゃなかったんです」

チョンチー「ちがうの」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

チョンチー「話をきいてくれるのもそうなんだけど、」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

チョンチー「叶うと思いますって言ってくれたのが本当にうれしくて、」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

こんな時に気の利いた言葉の一つも出てこない自分が情けなくて、コレクレーも泣きそうでした。
海岸のクラブがぷかぷかと泡を吹いている中、真っ赤な夕日が海に沈んでいきます。

チョンチー「ごめんね、みっともない所みせちゃった」

コレクレー「そんな……僕の方こそ、何もできなくて……申し訳ないです」

チョンチー「コレクレーくんは何も悪くないよ。それに今日はもう遅いし、そろそろ帰らないと……あっ、」

チョンチー「コレクレーくん、行くあてとかないよね……どうしよう」

コレクレー「だ、大丈夫です。自分で何とかしますから、」

チョンチー「本当に？連れて行くからアサギの港まで一緒においでよ」

チョンチー「住んでいたっていう宝箱ほどいいものはないと思うけど、もしかしたら人間が捨てていった箱とかあるかもしれないよ」

コレクレーは躊躇いましたが、実際これからどうするか困っていたのでチョンチーに連れて行ってもらうことにしました。