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【SS】ミクリ『約束を果たしに来たよ……ダイゴ。』

 ▼ 137 クア◆73tB3kDfxw 17/08/27 20:11:33 ID:kSfK5WDA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

穏やかな雰囲気も束の間、戦場に再び張り詰めた空気が漂い始めた。

ルチアは勿論の事、場慣れしているアダンでさえ怯む程の迫力である。

───これが……今のミクリか……!───

チャンピオンと互角の風格を醸し出す弟子の姿に、アダンは高揚を隠せなかった。


そんな彼の傍らに立つルチアは、ある事に気がつく。

「……叔父様……?」

静かに呟いたルチアを、アダンは横目で見た。

「叔父様、笑ってる……。」

ルチアの視線の先には、生き生きとしたミクリの横顔があった。一方のダイゴも、屈託のない微笑を浮かべている。

本気のポケモン勝負ともなれば、お互いに険しい顔つきになるものかと予想していたルチアには、その光景が特異に見えた。


彼らの心情に気づいていたアダンは、囁き声でルチアに説明する。

「……双方とも真剣だからこそ、心が踊る……そんなバトルもあるのです。ううむ……この上なくワンダフルではありませんか……!」

それを聞き、ルチアは想起する。自分自身も、コンテストライブにてライバルと全力で競い合いながら、幸せを感じていた事を。

舞台は違えど、気持ちは一緒だと納得したルチア。彼女は、応援を送るべきタイミングに備えて、じっと戦場を見つめた。
 ▼ 138 カチュウ@アイスメモリ 17/08/27 20:33:11 ID:VVS0r52o NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そういやこれももう二年選手か
支援
 ▼ 139 クア◆73tB3kDfxw 17/08/31 22:50:13 ID:la3TyGBI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

───そして、唐突に“その瞬間”は訪れる。

「……シャドーボール!」「……目覚めるパワー!」

全く同じタイミングで、両者の指示が響き渡った。二匹のポケモンは威勢のこもった鳴き声を発しながらエネルギーを生成する。

開幕から、平均的な規模を超越した攻撃技を目の当たりにし、外野の二人は唖然とした。


ダイゴは、目覚めるパワーの数量に目を細めた。弱り切った状態で撃ってきた先程と比べ、僅かに密度が増している。

───応援に感化されたのは、ポケモンも同じか……!───

幾多の光が群れを成して、巨大な暗黒の球体へと突っ込み、眩い爆発を引き起こす。


攻撃の相殺を確認すると、すかさずダイゴが叫ぶ。

「メタグロス!」

視界を遮る爆煙の向こう側からダイゴの声を聞いたミクリは、直感的に相手の行動を悟った。そんな彼と同様の予感を抱いたメガミロカロスは、指示されるまでもなくアイアンテールの効力を発揮し、長い尻尾を体の前に持ってくる。

彼らの判断は正しかった。
死角から急加速し、黒い煙を吹き飛ばしながら、拳を突き出したメガメタグロスが現れる。

眼前のバレットパンチに対し、メガミロカロスは既に構えていた尻尾を押し当て、上手く拳を受け流してみせた。

「まだまだっ!!」

声に出たミクリの意志と、メガミロカロスの心は一致していた。勝利を願う仲間達の想いを追い風にして、メガミロカロスは過ぎ去っていったメガメタグロスを追跡した。
 ▼ 140 クア◆73tB3kDfxw 17/09/05 15:26:33 ID:DM86SR8U NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
接近するメガミロカロスをサイコキネシスで阻止しようと判断しかけたダイゴだが、相手の姿勢を見て考えを改めた。メガミロカロスは、アイアンテールの予備動作を行なっていなかった。それでも近距離戦に挑むとなれば、仕掛けてくるであろう技は一つしかない。だとすれば、サイコキネシスではその攻撃を対処し切れない。

「もう一度……!」

『もう一度バレットパンチを使って加速しろ』とダイゴが言い切る前に、メガミロカロスは対象をほぼ射程圏内に捉えていた。

だが、言葉では伝え切れなかったダイゴの指示は、しっかりとメガメタグロスの心に届いていた。メガメタグロスは、振り抜いた腕とは逆側の腕を斜め上に突き出し、再度とてつもない速さを発揮して上方へと飛び出す。

刹那、メガメタグロスの背面を掠るか否かという位置に、目覚めるパワーの光が忽然と発現した。まさしく間一髪の回避である。

ミクリ達は、ただでさえ高難度である“目覚めるパワーの出現位置に相手を重ねるテクニック”を、極限の精神状態で敢行したのだ。

ダイゴは今一度思い知らされる。この一戦の最中にも、ミクリ達は常に挑戦し、驚異的な成長を続けているのだと。


─────ここだ。

あらゆる動きが遅く感じる光景の中で、ミクリは決着のチャンスを見出した。今、メガメタグロスはこちらに背を向けた状態のまま、有り余る推進力に身を任せて離れていく。

ここでメガミロカロスが後退し、適切な距離さえ確保すれば、大技を満足に放てる間合いとなる。

そんな思考が過った頃には既に、メガミロカロスは主の意のままの行為に及んでいた。

寸秒、ミクリとメガミロカロスは視線を交わす。
『大丈夫。』という彼女の声が、ミクリには聞こえた気がした。

「……ミロカロスッ!」

これまでに積み重ねた経験値と、相棒との絆の深さを誇りながら、彼は宣言する。

「ハイドロポンプ!!」
 ▼ 141 クア◆73tB3kDfxw 17/09/12 11:03:12 ID:ffhBzoMU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
周辺の水面が流動し、蒼白く発光した。


このままでは敗戦する。かけがえのない一時が、終わってしまう。
確信に等しい嫌な予感が、ダイゴ達を襲った。

「メタグロスッ!!」

具体的な打開策は用意していない。それでもダイゴは、無我夢中で呼びかけた。


懸命なダイゴの声をきっかけに、メガメタグロスは堪え難い鈍痛の中で“決死の反撃”を決意する。既に無理を押して連続行動を為した現時点から、更に攻撃を続けるとすれば、次に起き上がれる保障は無い。しかし、背に腹は変えられなかった。

メガメタグロスは、荒々しい咆哮をあげて己を鼓舞する。

「……!?」

それは、ダイゴですら初めて目にする挙動だった。メガメタグロスは、空中で全身を横方向に猛回転させ、バレットパンチの推進力を分散し、その場に滞空したのだ。

この瀬戸際でメガメタグロスは、新たなテクニックを即座に試み、使いこなしてみせた。

おかげで想定よりも相手との距離が開く事なく、メガメタグロスは制動できた。


こうして、ダイゴ側は選択肢を一つ得る。

───あの位置ならば……ハイドロポンプの阻止が間に合う!───

無論、ただちにメガメタグロスは実行に移る。この一撃で確実に倒すという想いで、メガメタグロスはシャドーボールを撃つ体勢を取った。
 ▼ 142 クア◆73tB3kDfxw 17/09/18 16:30:56 ID:28dHHL9o NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
必死さを露わにし、エネルギーを振り絞るメガメタグロス。

普段の戦いの最中ではまず見る事の無いその姿を見つめ、ダイゴは呟く。

「“この言葉”を送るのは、いつ以来かな……!」

思い返せば、力を得るに連れて、メタグロスに対して言う機会はめっきり減っていった。何故なら、言う必要性が低い状況が殆どになっていたからだ。

だが、今回ダイゴは改めて思い知らされた。時として、どんな策をも上回る影響力を秘めた特別な指示……『応援』の強さを。

戦術は尽くした。あとはトレーナーとして、ポケモンの心を支えるだけだと断じた彼は、感情のままに叫ぶ。

「“頑張れ”!!」

久方ぶりに主の口から聞いた四文字の響きに刺激され、メガメタグロスの闘魂は最高の熱を帯びた。

そして、意地で発生させたシャドーボールは、大きさこそ不十分であったが、格段に深い黒色に染まっていた。


片やメガミロカロスは、相手よりも僅かに技の生成が遅れていた。
いくら応援の影響で勢いを得たとはいえ、やはり大技は時間を要する。そもそも、ただ立っているのも厳しい体で、水流を圧縮しつつ照準を定める行為を成せている事自体が奇跡に近い。

そんな危うさも認めたうえで、ミクリはメガミロカロスを信じて毅然としていた。

───そうだね、ダイゴ。ここまできたら、私達トレーナーが出来ることはただ一つ……。───

ダイゴに続き、ミクリも大きく息を吸い、想いを込めてエールを送る。

「“頑張れ”!!」
 ▼ 143 ロンダ@ズリのみ 17/09/26 13:26:06 ID:MJy9BiT. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 144 クア◆73tB3kDfxw 17/09/26 21:58:45 ID:3pv0X8WA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
頼もしく、温かい彼の声が支えとなり、歪で不安定だった水の塊は丸みを帯びていく。ひとまず現段階でハイドロポンプは、攻撃技として使用できる完成度まで至った。

とはいえ、最低限の威力で放水したところで、相手側の高密度なシャドーボールに対抗できる可能性は低い。あの球体を打ち消しつつ、メガメタグロスに止めを刺せるレベルのハイドロポンプを放つには、更に水圧を高めなければならない。

その為に必要な時間は、数秒程度。この状況において“数秒”は、許容し難い大きな隙と化す。

乗り越えなければならぬ難題が、ミクリ達を阻む。ポケモンリーグの連戦中に何度も突破してきた、目に見えない巨大な壁。


「これで、終わりだ!!」

そして、信念のこもったダイゴの叫びに合わせて、メガメタグロスが全てを捧げて完成させたシャドーボールは、重低音と共に発射された。

───勝敗が確定する寸前、ミクリは首に下げたキーストーンから、はっきりとメガミロカロスの意志を感じ取っていた。伝わってきたイメージは、失敗の許されない一発勝負を仕掛けようとする覚悟。無論、ミクリは微塵も反対の意を抱かず、相棒の揺るぎない決断を認めていた。


同時に、付近から懸命な声援が飛んでくる。
「頑張って!!」
「決めなさい!ミロカロス!!」

二人分の想いは、メガミロカロスに最後の原動力を与えた。昂ぶる感情を筋力に変換し、メガミロカロスは勢い良く姿勢を低める。


───目紛しい死闘の合間に生じた束の間。その場にいた全員が、確かに視認した。

それは、空中にふわりと浮かぶメガミロカロスの姿。シャドーボールを飛び越える高さにまで及んだ肉体は、あまりにも無防備で弱々しい様相をしている。どうにか定め続けていた照準……即ち顔面の向きも、あらぬ方向に逸れてしまっていた。

ただ、メガミロカロスはその口元にしっかりと、清らかな蒼い光を保っていた。全身全霊を使い果たそうとも輝き続ける不屈の魂が、下方で見上げる者達を照らす。

今まで見た何よりも美しい英姿を魅せられたミクリは、込み上げる激情を抑えきれず、瞳に涙を滲ませていた。
 ▼ 145 クア◆73tB3kDfxw 17/10/03 18:07:03 ID:gatlNKG. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
保守
 ▼ 146 ャランゴ@ひでんのくすり 17/10/14 10:44:17 ID:KodHT6Uk NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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 ▼ 147 クア◆73tB3kDfxw 17/10/16 17:58:38 ID:blrfxG1Y NGネーム登録 NGID登録 報告
ダイゴは愕然としていた。定め続けていた照準を放棄し、ごく僅かな体力を投げ打ったメガミロカロスの行為は、流石の彼も予想だにしていなかった。

あれだけ崩れた体勢を空中で整え直すのは、恐らく万全のメガミロカロスでも難しい。

───どういう事だ……!?一旦攻撃を断念し、回避に移行したのか……!?───

そう疑いかけたダイゴだったが、直後に彼はハッとして、背筋を凍らせた。気付いてしまったのだ。最早、照準など必要ない事に。

メガミロカロスは、今もなおメガメタグロスを視線で捉え続けていた。


本来ハイドロポンプを使う場合、照準を合わせる行為は必要不可欠と言える。遠距離攻撃の中では優れた攻撃範囲を誇るものの、動き回る強敵に対しては狙いをつけなければまず避けられてしまう。また、ハイドロポンプは連続的な放水攻撃故に、射線を固定して当て続けなければ遺憾無くダメージを与える事が出来ない。

ただ、今回は戦況が特殊である。
メガメタグロスは完全に余力を使い果たし、身動きが叶わない。尚且つ瀕死寸前に陥っている。

よって、前述した問題点を無視できる。

もうメガメタグロスは回避を為せる状態ではない事を、ミクリとメガミロカロスは見破っていた。

───そう、たとえ一瞬だろうとも……メガメタグロスはこの衝撃に耐えられない。───

ミクリは決着をつけるべく、片手を高く掲げた。

そして、メガミロカロスは溜め込んでいたハイドロポンプを解き放つ。方向が定まらない状態で撃った水流は対象から大きく逸れ、遠くの壁に打ち当たった。

「メタグロスッ!!」

己の身に危機が迫っているのは分かっていた。ダイゴの呼びかけもはっきりと聞こえていた。それでも、メガメタグロスはその場で為す術も無く沈黙していた。
 ▼ 148 クア◆73tB3kDfxw 17/10/24 12:34:52 ID:hm/DfjCk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
保守
 ▼ 149 ネズミ@かいふくのくすり 17/10/26 18:06:55 ID:Mcm2st9w NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 150 クタン@あおぼんぐり 17/11/01 19:28:12 ID:yUgiLUjU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シエンネ
 ▼ 151 クア◆73tB3kDfxw 17/11/03 09:43:17 ID:giOBWXQQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メガミロカロスは、俯くメガメタグロスを虚ろな目で見つめながら、重心を上半身に置いた。すると、メガミロカロスの頭部は下がり、それに伴ってハイドロポンプの水流が移動する。

重力に身を任せ、落下していく過程で水流を当てる。それが彼らの狙いだった。

猛威は衰えぬまま、膨大な水流が振り下ろされる。下方には、メガメタグロスの体躯が位置していた。


ミクリは確固たる責任感を胸に、ホウエンの歴史に刻まれるであろう瞬間に臨む。

今後背負う称号に恥じぬよう、そして、頂点に立ち続けた偉大なるトレーナーに後継者としての尊厳を示すべく、ミクリは覇気を込めて宣する。

「……フィナーレだ!!」

彼は、堂々と掲揚したその右手を前方へ突き出す。


───チャンピオンの間に、運命を決する鮮烈な高鳴りが生じた。

剣の一振りの如く放たれた激流が、メガメタグロスを打ち払った。


忽ち、張り詰めていた雰囲気が一変する。

ポケモン勝負の空気感とは殆ど縁の無いルチアでさえ、“目には見えない火花”が周囲から消滅する様な感覚をはっきりと得ていた。

「………っ!!」

アダンは声にならない叫びをあげて、両の拳を握り締める。


決定打となったハイドロポンプは急速に細まり、水流の轟音は僅かな残響を置いて消え失せた。
 ▼ 152 ボツボ@ブレイズカセット 17/11/03 18:02:04 ID:Flrzu02M NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おおおおお

支援
 ▼ 153 イオーガ@ドラゴンメモリ 17/11/04 12:07:10 ID:jzcIHzhw NGネーム登録 NGID登録 報告
始めから見てやっと追い付いた
支援
 ▼ 154 クア◆73tB3kDfxw 17/11/05 20:46:19 ID:c63Gwsyg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
重大なダメージを被り、眼光を無くしたメガメタグロスは、鳴き声一つあげぬまま、緩やかに落ちていく。全身を脱力させて、8本の厳つい腕を伸ばしきった無防備な様相は、間違いなく『戦闘不能状態』である事を周囲に知らしめていた。

そんな宿敵の姿を、メガミロカロスは曖昧な意識の中で見届けると、眠る様に瞼を閉じた。

虚脱した二匹は、清らかな水が広がる戦地に体を打ちつけ、小さな飛沫をあげた。


直後、メガメタグロスは淡い光に覆われる。程なくして光はふわりと拡散し、静まった戦場を舞った。

メガシンカが解除され、元の姿に戻ったメタグロスを前にし、ダイゴは短く溜め息を吐きながら空を仰ぐ。

彼は清々しい面持ちで、自然と心に浮かんだ言葉をそのまま口にする。

「………ありがとう、ミクリ。」

彼らが交わした約束は、遂にこの場で果たされた。


ミクリは、早いペースで脈を打つ己の鼓動を感じながら、ゆっくりと腕を下ろす。

様々な気持ちが入り混じる状態で、ミクリは何よりも先に、おぼつかない足取りで戦場の中央へ歩み寄った。


「おじっ……!」

顔を赤らめ、涙声になったルチアが駆け出そうとした所を、アダンが優しく制止する。彼女の肩に手を置いたまま、アダンは少しだけ屈み、小声で言い聞かせる。

「………まずは、彼らの時間を見守りましょう。」

柔らかい笑みを浮かべつつ、アダンもまた、彼女と同じく目頭を熱くさせていた。ルチアは、彼の言う通りだと納得し、大人しくその場に留まる。
 ▼ 155 クア◆73tB3kDfxw 17/11/11 00:10:32 ID:XM2Wh1kY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
保守
 ▼ 156 クア◆73tB3kDfxw 17/11/14 20:45:59 ID:i729fmP2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
透き通った水面をミクリが足首でかきわける度に、穏やかな波紋が広がっていく。

メガミロカロスは、視界を閉ざした暗闇の中で、己の身を撫でる小波に心地よさを感じていた。


おもむろにミクリは立ち止まり、その場で膝をつく。

そして彼は、本当に動けなくなるまで戦い抜いてくれた相棒の頭をそっと抱え、優しく抱き締めた。


言葉では伝え切れない愛情が、涙となって溢れ出す。

声を抑えて咽び泣き、体を震わせるミクリの温もりに包まれて、メガミロカロスはこの上ない安らぎを得た。


すると、メガミロカロスの体がぼんやりと発光し、それに伴い周囲の水面も光り始める。

次の瞬間、場に満ちた水が一斉に燦然たる水蒸気と化して、儚く霧散した。

同時にメガシンカが解除され、ミロカロスは元の姿に戻った。


一連の光景を見尽くしたダイゴは、一息置いてから相棒の元へと向かう。

胴体を地に着けて静止しているメタグロスに触れて、彼は話しかける。

「………素晴らしい戦い振りだったよ、メタグロス。……まずはゆっくり休んでくれ。そしたら……、新しい旅を始めようか。」

反応は無かったが、ダイゴはメタグロスの返事をはっきりと感受していた。彼はモンスターボールを手に取って光を照射し、メタグロスを退場させた。
 ▼ 157 クア◆73tB3kDfxw 17/11/18 18:03:15 ID:2gulLa46 NGネーム登録 NGID登録 報告
一方のミクリも、依然ほとぼりが冷めないままだが、ミロカロスを休息させるべくボールを取り出す。

「………ミロカロス。それに、皆んなも……本当にお疲れ様。………愛しているよ。」

形容できない想いを含んだ一言だった。

ミロカロスは薄ら目を開けて、ミクリにだけ届く程度の微かな声を出した。

光に照らされ、ミロカロスはモンスターボールへと戻った。


直後、気配を感じてミクリが顔を上げる。そこには、手を差し伸べて微笑むダイゴの姿があった。

思わずミクリは、潤んだ両目を隠すように手で顔を覆う。

「ハハっ、柄じゃないな……。」

呟きながら、彼はダイゴの手を借りて立ち上がる。

「………その涙を見て、再確認したよ。やはり君は、ホウエン地方の新しいチャンピオンに相応しい心の持ち主だ。……本当に、おめでとう……!」

心からそう祝うと、ダイゴはじっくりと語り合いたい欲を抑えて、視線を移す。

「お二人とも!」

呼び掛けを受けた途端、真っ先に走り出したのは当然彼女である。

「う……うわーーん!!叔父様ぁーーっ!!」

ルチアは涙をぽろぽろと零しながら飛び出し、思い切りミクリの胴に抱きついた。
 ▼ 158 クア◆73tB3kDfxw 17/11/27 11:45:19 ID:nxDfXPqI NGネーム登録 NGID登録 報告
「うわ……っと!」

唐突に受けた衝撃に、ミクリは倒れる寸前までよろめくも、どうにか踏み止まる。

「ぐすん……凄いよぉ叔父様!私、もうすっごい感動しちゃった……!叔父様も、ミロカロスも、とってもカッコ良かったよ〜!!」

「………フフフッ、ルチアと師匠の応援があってこそ掴んだ栄光さ。……ありがとう、ルチア。」

ミクリは、自分よりもよっぽど感激を露わにしている姪につい笑ってしまった。ルチアによって朗らかな雰囲気が生まれ、ミクリは落ち着きを取り戻していく。


笑顔を浮かべる三人の側へ、マイペースな歩調で近寄るアダン。彼は、拍手をしながら陽気な笑い声を上げる。

「たっはっはっは!コングラッチュレーション!!よく頑張ったな、ミクリ!これで遂に、ホウエン地方のニューチャンピオンとなったのだな……!師匠としても、鼻が高いぞ!」

アダンの述べた事に反応し、ルチアは改めて歓喜する。

「ああっ!そうよね!叔父様、遂に……本当にチャンピオンになっちゃったんだ……!そう、この物語にタイトルを付けるなら……!」

その時、パッと想起した決め台詞を、ルチアはいつもの振る舞いに合わせて言い放つ。

「ついにきた!パーフェクト☆チャンピオンデビュー!!って感じよね!」

今度こそ、早とちりではなく然るべきタイミングに言えたルチアは、とても満足げであった。

「あぁ、そうだね。……ここから始まるんだ。私の、新しいポケモントレーナーとしての道が。」

挑戦者を迎え入れる巨大な門の方を振り返り、ミクリはしみじみと呟いた。
 ▼ 159 クア◆73tB3kDfxw 17/12/05 22:48:13 ID:Yncsi87c NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
保守
 ▼ 160 ダンギル@すくすくこやし 17/12/05 23:48:06 ID:jnzuU2RY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 161 クア◆73tB3kDfxw 17/12/07 18:24:38 ID:kpKSyQ7s NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すると、ダイゴは空気を切り替えるように手を打ち鳴らす。

「さて!積もる話はあるけれど、まだやるべき事は残っている。」

3人がダイゴの方を向く。

彼の背後には、ホウエンリーグを制覇した者だけが入室を許される部屋へと続く階段があった。

神聖さを醸し出す入り口を面前にして、ミクリは無意識に姿勢を正した。

「ミクリ。君の名を……ホウエンリーグの歴史に刻もう!」

「……ああ!」

力強く返事をして、彼はダイゴの隣に立つ。


チャンピオンを倒した挑戦者が、その後に行う事について、アダンはルチアに易しく説明する。

おかげで状況を呑み込めたルチアは、元気な声で叔父に声をかける。

「いってらっしゃい、叔父様!私達、ここで待ってるよ!」

続いて、アダンも想いを伝える。

「ミクリよ、No. 1の誇りを胸に進みなさい!」

ミクリは、凛々しい眼差しで2人を交互に見つめてから、心を込めて頷いた。

それから、彼は一度も振り返らずに、ダイゴと共に最後の部屋へと歩を進めていった。
 ▼ 162 クア◆73tB3kDfxw 17/12/11 19:00:09 ID:3afmIfok NGネーム登録 NGID登録 報告

──────

薄暗い通路に、2人分の靴音が響く。

床には磨き上げられたタイル床が敷かれており、周囲の景色をぼんやりと反射していた。

殿堂入りを遂げたトレーナーだけが通れる場所なだけあって、厳かな内装が奥まで広がっていた。


暫し無言が続いていたが、途中でミクリが切り出す。

「………一つ聞いていいかな、ダイゴ。」

「ん?」

やや言いにくそうに、彼は問う。

「もし……私が負けていたら、どうするつもりだったんだ?」

結果的にミクリは勝ち抜いてみせたが、途中で敗退する事態も当然あり得た。実際、危うい状況は何度も発生していた。

高い可能性で存在した“ミクリの敗北”について、ダイゴはどう考えていたのか、彼は知りたかった。

「……うーん。」

顎に手を当て、考え込む素振りを見せるダイゴ。

『それほど難しい質問をしただろうか?』とミクリが疑念を抱いた瞬間、ダイゴは失笑する。

「フフフッ……いや、すまない。実のところ、全く考えていなかったよ。大事なことなのにね。」
 ▼ 163 チニン@かがやくいし 17/12/11 20:25:00 ID:f19C22Mg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 164 クア◆73tB3kDfxw 17/12/12 22:20:08 ID:X9Gio2z. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
呑気な返答を食らい、ミクリは呆気に取られる。

「はぁ……。まさかノープランだったとはね。まあ、何となく君らしいけれど。」

やれやれ、と肩を竦めるミクリに対し、ダイゴは悠然と弁解を始める。

「誓って言うけれど、僕は君にチャンピオンになって欲しいと頼んだものの、その為に勝負で手を抜くなんて真似は一切していない。ただ……。」

ダイゴは、ルネシティでミクリと対話した時を回想する。

「思えばあの時から……無意識の内に、心の奥底で、君に負かされる未来を予感していたのかもしれないな。……残念ながら、僕の勘はよく当たる。」

苦笑するダイゴに、ミクリはやんわりと意見する。

「……未来は、誰にも決められないさ。」


そんな会話のやり取りをしている内に、彼らは広めの空間に出た。

ミクリの視線の先には、重厚な装置が据えられている。

「ここが……ホウエンリーグの最深部。真の強さを証明したトレーナーとポケモン達を、永遠に記録する為の部屋だ。」

概要を述べながら、ダイゴは先導する。

彼の後に同行し、ミクリは装置の正面にまで歩み寄った。

かつての殿堂入りトレーナー達全ての成績が刻まれた“栄誉の結晶”と、ミクリは真摯な態度で向き合う。
 ▼ 165 クア◆73tB3kDfxw 17/12/19 10:11:18 ID:eV.1MAU. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すっかり風格を帯びた友の横顔に向かい、ダイゴは告げる。

「………さあ!チャンピオンミクリ!君の名前と、共に戦ったポケモン達を、このマシンに記録しよう!」


ミクリは、懐から一つずつモンスターボールを手に取り、機械の窪みへ丁寧に配置していく。

己の弱点をカバーしつつ、有効打を多く与えたドククラゲ。

持ち前の根強さで食らいつき、勝利に貢献したナマズン。

機敏な動きで奮闘し、主を勇気付けたルンパッパ。

自慢の持久力を、余す事なく使い果たしたホエルオー。

豪快な戦いぶりで、頼もしい力となったギャラドス。

そして……唯一無二のエースとして活躍し、最高の輝きを放ったミロカロス。

それぞれ一匹でも欠けていたら、この場には立てなかったと、ミクリは今一度思い知る。


全てのモンスターボールが嵌め込まれた。

最後に、彼は自分自身が何者であるかを口にする。

「私は、“水のアーティスト”……ミクリ。」

新チャンピオンが手を添えると、装置は音も無く起動し、新たな記録を刻み始めた。

─────────
 ▼ 166 クア◆73tB3kDfxw 17/12/22 20:22:43 ID:2zIdmhPU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



─────数年後。


ホウエン地方中を騒がせた“チャンピオン交代”というビッグニュースも、今となってはすっかり世間の常識となっていた。

そんなある日、一匹のペリッパーが封筒を咥えてミクリの住居に現れる。

生憎、家の主は不在だった。配達係のペリッパーはポストに封筒を納めると、早々に飛び立っていった。

差出人は、遥か遠方の地にある研究所からであった。


封筒の中には、一通の書状が入っている。

そこには、以下の様な内容が美しい字で記されていた。


──────

やー、久しぶり!
相変わらず、チャンピオンとして目覚ましい活躍をしている様だね。


さて、今回手紙を送ったのは他でもない!君が僕の元に届けてくれた素敵なプレゼントについて、ある程度判明した事がいくつかあるから、取り急ぎ連絡しようと思ったんだ。

何の事だか、勿論分かってるよね!そう、あの粉々に砕けてしまったという『ミロカロスのメガストーン』についてさ。
 ▼ 167 クア◆73tB3kDfxw 17/12/27 22:19:28 ID:DjFwtKP. NGネーム登録 NGID登録 報告
君がダイゴ君との勝負に至るまで、メガシンカの予兆は見られなかった事……。

尚且つ、ミロカロスが姿を変えたのはその一度っきりで、次にボールから出した時には、既に粉々になったメガストーンが一緒に出てきた事……。

それらの証言が、とても参考になったんだ!


例のメガストーンをよく調べてみたところ、どうやら通常のメガストーンと比べて非常に脆弱で、内包されていたエネルギー量が不十分な状態だったみたいなんだ。

いわば、世にも珍しい『不完全なメガストーン』だった、という訳だね。

はっきり言って、これだけでも大発見なんだけど……驚くべきは、この不完全なメガストーンを媒体に、メガシンカと同様の現象を引き起こしてみせた君達の絆の強さだ!

君達の強すぎる絆が、不足していた分のエネルギーを補った事で、一時的にメガシンカが発生したんだ。

しかし、不完全なメガストーンは外部からの強烈な影響に耐え切れず、一回の戦闘を終えた時点で瓦解してしまった。


……と、ここまでは研究によって分かった部分なんだけど、正直まだまだ謎は多いんだよねえ。

何故このような状態のメガストーンが生まれたのか?
そもそも、君達が目の当たりにした現象は、本当にメガシンカだったのだろうか?

次々と生まれる疑問を解き明かすのが楽しいから、研究はやめられないんだよねー!


とまあ、以上が僕からの経過報告さ。

そして、これは僕のお願いなんだけど……もう少しだけ!このメガストーンをお借りしててもいいかな!?おかげさまで、今まで不透明だったメガシンカに関する様々な問題が解き明かせそうなんだ!
 ▼ 168 プ・レヒレ@ヒウンアイス 17/12/28 06:43:18 ID:Nkw0ByS. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 169 クア◆73tB3kDfxw 18/01/04 20:09:10 ID:jYch450k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
保守
 ▼ 170 クア◆73tB3kDfxw 18/01/08 09:46:00 ID:QDVUGl3U [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
君からの、素直な返答を待っているよ!

それじゃあ、またね!

──────


後日、ミクリは彼の頼みを承諾する旨を手紙に綴って送り届けたという。

研究に役立つのであれば、という善意もさることながら、『思い出を振り返るのは今ではない』という考えがミクリの中にあったのだ。


現在、彼はホウエンリーグの頂にて、数多の挑戦者を待ち受けている。



──────某日、ホウエンリーグにて。

たった今、四天王全員を打倒した若きトレーナーが、チャンピオンの間へと伸びる長い通路を歩き始める。

その者は、生気に満ちた面持ちで、臆する事なく前進していく。

徐々に開いていく扉から漏れる輝きは、まるで来訪者を歓迎している様だった。

そして、挑戦者は最後の部屋へと足を踏み入れる。


決戦の舞台は、チャンピオンのイメージに合わせて改装されていた。戦場を取り囲んでいた黒いタイルは白色に張り替えられており、下方からエメラルドグリーンの光でライトアップされている。

そんな空間の中央で、ホウエン地方のチャンピオンは佇んでいた。
 ▼ 171 クア◆73tB3kDfxw 18/01/08 11:55:36 ID:QDVUGl3U [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チャンピオンになって以来、ミクリは足元まで覆う大きなマントを身につけて、品格に磨きがかかっていた。

登場した若きトレーナーは、ミクリを視認すると、明るい微笑みを浮かべる。

ミクリは、現れた相手に対し、同様の表情を見せた。

「……ようこそ、ポケモンリーグへ。こうして会うのはいつぶりだろうね?“ホウエンの英雄”も、随分と大人びたものだ。」

今回の挑戦者は、ミクリを含めたホウエン地方の多くの人々にとって所縁のある人物である。

かつて、自分よりも先に殿堂入りを果たしたポケモントレーナー。最後に会った頃と変わらない、爽やかな眼差しがそこにあった。

「フフッ、ダイゴとここで対峙した日の事を思い出すな……。お互いワクワクしていたんだ。別々の場所で築き上げた成果をぶつけ合える時がついに来たってね。」

そう述べてから、ミクリは勝負を行うのに適切な位置に移動した。


それから改めて向かい合い、彼は言葉を続ける。

「君はあれから、新たに様々な体験をし、何かを感じ、更に成長したのだろう。……私も同じさ。これはきっと、言葉では伝えきれないものだ。」

すると、挑戦者はモンスターボールを取り出し、ミクリの方へ差し向けた。

勇ましいその姿に懐かしさを感じながら、ミクリはマントの内側に隠されたモンスターボールに手で触れる。

「そう……!だからこそ、私達はポケモン勝負で語り合うんだ!」

チャンピオンのミクリは、マントを勢い良く翻し、堂々と構えた。

「さあ!ホウエンで一番華麗にポケモンと踊れるのは誰なのか!今ここで魅せてもらおう!」
 ▼ 172 クア◆73tB3kDfxw 18/01/08 11:56:28 ID:QDVUGl3U [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──THE END──

 ▼ 173 クア◆73tB3kDfxw 18/01/08 11:57:36 ID:QDVUGl3U [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜作中のミスについて〜

・タイプ相性的に効果が無いハズの攻撃が効いている

・覚えるハズのない技を覚えている

・技を5つ覚えている

などなど……

自己満足で書いた作品とはいえ、読んで下さった方々を混乱させてしまったと思います。申し訳ございませんでした。

ありがとうございました。

終わり
 ▼ 174 つばん@ようせいジュエル 18/01/08 11:58:39 ID:7a78CnZs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 175 ンヤンマ@ひかりごけ 18/01/08 12:48:41 ID:t17B6fKM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白かった!乙
 ▼ 176 ォレトス@ヒールボール 18/01/08 13:37:26 ID:nLaSB1kA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バトル上手いSS紹介して系のレスに何度も名前を挙げさせてもらった
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