【SS】「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」


1 : AYr1xkow/g 17/01/15 14:58:17 ID:THPX.20A 名前× NGID× 報告
「……あー」

部屋に備え付けられたスピーカーから緊張している声が聞こえる。どうやらマイクテスト中のようだ。普段は笑うことのない男の口の端が、かすかにつり上がった。

「……我々は泣く子も黙るロケット団!」

声の主は高らかに続ける。

「組織の建て直しを進めた3年間の努力が実り今ここにロケット団の復活を宣言する!」

ああ、とうとうこの日が来たのだ。

「サカキさーん!……聞こえてますー?……ついにやりましたよー!ボスは今どこにいるんだろう……?ラジオを聞いてるかなあ………………」

ラジオから聞こえてくる声は、徐々に小さくなっていった。

確かあの構成員は、確かラムダの班の者だったか。男より年上だが、立場は下だ。一体なぜ彼がこの復活宣言をする役に抜擢されたのだろうか。アポロの考えることはよく分からない。

男はただ黙ってラジオ放送を聞いているだけ。

ボスは聞いてくれているのだろうか。この声は、ロケット団の声は届いているのだろうか。

ボス、私もあなたに伝えたい言葉があるのです。

だからサカキ様。どうか、戻ってきてください。
335 : ーメイル@メトロノーム 17/08/14 16:18:00 ID:hvKkJrEU 名前× NGID× m 報告
支援
336 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:22:54 ID:.Pqi2zgM [1/9] 名前× NGID× 報告
ロケット団の構成員は、全員でコガネシティへと向かった。それからポケモンたちを繰り出し、一般人を脅して撤退させ、ラジオ塔へと向かう。

「ゴルバット、あやしいひかり!マタドガス、えんまくです!」

ランスは先日進化したゴルバットとマタドガスに指示を出し、周囲の人間を錯乱させながらラジオ塔内を歩いていく。今この場に一番詳しいのは自分だ。私がしっかりしなければ。

ランスはラムダを連れて五階へと向かっていた。三階に上がろうとすると、警備員が二人を見て怯えながらも声を張り上げた。

「な、なんだお前ら!ここから先は立ち入り禁止だ!」

局長はあの日以来、警備を強化したのか。そう思いながらもランスは警備員の言葉を無視し、マタドガスに声をかけた。

「マタドガス、スモッグ」

マタドガスはニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら警備員の前までふわふわと浮いていき、警備員の顔面めがけて思いきり臭いガスを吹きかけた。すると、警備員は苦しそうな顔をして咳きこむ。
337 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:24:00 ID:.Pqi2zgM [2/9] 名前× NGID× 報告
ランスはその隙を見て、警備員の腕を掴み、もう片方の手で警備員の首を掴むと、壁に向けて押さえつけ、両腕を背中で捻り上げた。警備員が痛みに叫ぶ。

一部始終を呑気に待っていたラムダは、

「よし、ちょっと失礼するぜー」

そう言って警備員の制服にあるポケットを順に漁り始める。

「早くしてくださいよ。意外と疲れるんですからね」

「まあちょっと待てよ」

ラムダはそう言うと、嬉しそうな顔をして「おっ」と声を上げた。三階へと繋がる階段を封鎖していた扉の鍵を見つけたのだ。

ランスは警備員の腕を離すと、その背中を蹴りつけた。警備員は顔を床にまともに正面からぶつけてうつ伏せに倒れ、気を失ってしまった。幹部で一番腕っ節が強いのは若くて体格のいいランスだ。こういう時には本当に役に立つ。

ランスが警備員を気絶させている間に、ラムダは鍵を開け終えていた。二人は急いで階段を上っていった。
338 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:24:59 ID:.Pqi2zgM [3/9] 名前× NGID× 報告
二人は五階へとたどりついた。お目当てはもちろん、局長である。ランスは以前ここを訪れた時とは異なり、ノックもせず声もかけずにいきなり扉を開いた。

「!?一体何が……、……!」

局長はそんな声を上げたかと思えば、ランスを見て絶句した。あのロケット団の幹部が、今度は黒い装束に身を包んでまた目の前に現れたのだ。

「お久しぶりです」

ランスは爽やかに言い、恭しく礼をした。その瞬間、扉から更に三人の団員たちが入ってきた。

「っしゃオラァ!」

「おいおっさん、おとなしくしてろよ」

「抵抗しなければ痛い目には遭わせないからよぉ」

三人は乱暴な言葉を吐きながら局長を拘束した。局長は「なんだね君たちは!放したまえ!」と大声を上げるが、三人は構わず強引に部屋から連れ出していく。

「そのお方を地下通路の奥まで連れていったら、ラムダは鍵を持ってここに戻ってきてくださいね」

ランスがそう言うと、ラムダは右手の親指を立ててみせた。

「ん、了解。お前も頑張れよ!」

「言われなくてももちろん、力を尽くしますよ」

「相変わらず一言多いな。……じゃあ、後でな」

ラムダはそう言って軽く手を振って、部下たちについていった。
339 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:25:58 ID:.Pqi2zgM [4/9] 名前× NGID× 報告
ランスは自身の持ち場に向かい、階段を降りてラジオ塔の廊下を歩いていた。すると、反対方向から三人の構成員が歩いてくるのが見える。三人はランスに気がつくと、声をかけてきた。

「ひゃひゃひゃ!久しぶりだな、幹部のランス様!」

「あ、久しぶり」

「お久しぶりです!」

その三人は、かつて同室で生活していた二人の先輩と一人の後輩だった。元々は四人全員プロトンの班に所属していたのだが、プロトンが除籍されランスが幹部になってからは、三人はラムダの班へと移動になった。それゆえにほとんど会うことはなくなったのだった。

「ええ、お久しぶりです」

ランスも挨拶を返した。ランスが幹部に昇進してすぐ、先輩の二人は敬語を使うべきかどうか悩んでいたが、面倒だったランスは今まで通りでいいと伝えたことが、今となっては懐かしい。

「ひゃひゃひゃ!こいつガチガチになってるから、緊張ほぐしてやってくれよ!」
340 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:26:37 ID:.Pqi2zgM [5/9] 名前× NGID× 報告
あの奇妙な笑い声が特徴的な男が言う。見れば、もう一人の先輩の顔が強張っている。

「緊張することは悪いことではありませんよ。……それにしても、ちょっと緊張しすぎではありますが」

ランスは先輩の男を見つめながら冷静に言った。すると、先輩はビクビクしながら口を開く。

「お、おおお俺……復活宣言係に任命されちまったんだよ……!」

ランスは目を丸くした。

「一体なぜあなたが?」

思わずそんな言葉が口から飛び出してしまう。

「ひゃひゃひゃ!失礼かよ!」

「いやほんとなんでだろう?俺が一番分かんねえよ!」

彼は「恐れ多いわ!」と喚いている。話を聞くと、どうやらアポロが任命したらしい。アポロの考えることはよく分からない、とランスは心の中でこっそり呟いた。
341 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:27:47 ID:.Pqi2zgM [6/9] 名前× NGID× 報告
「いやまあ、もちろん、ちゃんとやるよ。大切な任務だ……。落ち着け、落ち着け俺」

先輩が深呼吸をしながら言う。

「自分も、入り口付近担当になったんで。責任重大ですね。侵入者が来たら、すぐに連絡しないといけませんし!」

後輩もそう言った。

「ひゃひゃひゃ!俺もアジトで侵入者に負けちまったからな、気を引き締めないとな!」

三人はそう言って、各々の士気を高めている。

そうだ。あと少し、あと少しでロケット団はついに正式に復活する。ラジオを利用して、復活宣言を全国中に放送するのだ。

過去の栄光を取り戻すために。そして、どこかで聞いているかもしれないサカキに声を届けるために。
342 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:28:50 ID:.Pqi2zgM [7/9] 名前× NGID× 報告
ランスは三人に「力を尽くしましょう」と声をかけると、別れを告げ、自分の持ち場へと再び歩き出した。

そして三階にあるスタジオの隣の小部屋にたどりついた。

ランスは部屋に入ると内側から鍵を閉めた。ここの鍵は誰が持っているのかは分からない。恐らく局長だろう。つまり、侵入者はラジオ塔に入りこむことができても、局長を探し出さなければ展望台までたどりつけないということだ。

ランスはそのまま部屋にある階段を登り、四階に上がると、自分の持ち場に着く。

「……」

ランスは小さく息を吐いた。

そろそろ、頃合いだ。
343 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:31:06 ID:.Pqi2zgM [8/9] 名前× NGID× 報告
「……あー」

部屋に備え付けられたスピーカーから緊張している声が聞こえる。どうやらマイクテスト中のようだ。普段はあまり笑うことのないランスの口の端も、思わずかすかにつり上がる。

「……我々は泣く子も黙るロケット団!」

声の主は高らかに続ける。

「組織の建て直しを進めた三年間の努力が実り、今ここにロケット団の復活を宣言する!」

ああ、とうとうこの日が来たのだ。

「サカキさーん!……聞こえてますー?……ついにやりましたよー!ボスは今どこにいるんだろう……?ラジオを聞いてるかなあ……」

ラジオから聞こえてくる声は、徐々に小さくなっていった。

聞こえてくるのは先輩の声だ。それにしても、一体なぜ彼がこの復活宣言をする役に抜擢されたのだろうか。再び疑問が湧いてくる。アポロの考えることはやはりよく分からない。

ランスはただ黙ってラジオ放送を聞いているだけ。

ボスは聞いてくれているのだろうか。この声は、ロケット団の声は届いているのだろうか。

ボス、私もあなたに伝えたい言葉があるのです。

だからサカキ様。どうか、戻ってきてください。
344 : AYr1xkow/g 17/08/14 19:31:33 ID:.Pqi2zgM [9/9] 名前× NGID× 報告
外はどうなっているのだろう。ラジオを聞いた者たちは、何を感じただろう。

恐れ?嘆き?それとも――怒り?

ランスはじっとただ一点を見つめ、身じろぎひとつせずに待機している。背後のガラス越しに強烈な視線を感じるが、ランスは無視していた。いつもなら当たり障りのない言葉をかけて適当に喜ばせてやっているところだが、今はそれどころではない。それに、本当はああいう女の相手をするのは面倒なので嫌いなのだ。

やがて、ラジオ塔内がざわつき始めた。通信機から声が聞こえる。どうやら、侵入者が現れたらしい。ランスは冷静に返事をし、瞳を閉じて神経を研ぎ澄ます。

ここで負けるわけにはいかない。負けるわけにはいかないのだ。
345 : ギギアル@いんせき 17/08/14 21:54:09 ID:b4SXFZD2 名前× NGID× 報告
支援
346 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:04:37 ID:9uUYbGE6 [1/14] 名前× NGID× 報告
階段を上がる音がする。

その足音は、思ったより軽い。侵入者はどうやら小柄なようだ。

その足音には強い意志が感じられた。一歩一歩踏みしめるように、しかし急ぎながら、足音はどんどん近づいてくる。

ランスは腰につけたモンスターボールに手をかけた。

ここまでやってくるとは、本当に大したものだ。

ならばこちらも本気で迎え撃ってやらなければ。
347 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:06:08 ID:9uUYbGE6 [2/14] 名前× NGID× 報告
侵入者は、ポケモンを後ろに連れていた。階段を登りきると真っ直ぐ進み、五階へと繋がる階段へと向かおうとする。前を向いて歩く彼は、ランスよりもずっと小さい。そう、子供だ。

「お待ちなさい!」

ランスは鋭い声を出した。子供が振り返る。瞬間、ランスは「……おや?」と声を上げる。

やはり、そうだったのだ。後ろのポケモンを見てもしやとは思ったが、ずっと感じていた嫌な予感は当たっていた。きっと、アジトに侵入したのもこの子供なのだろう。

ランスはわざとらしく首を捻り、顎に手を当て、子供を冷たい瞳で見下ろした。そう、あの時と同じように。

「君は確かヤドンの井戸で我々の作戦を邪魔してくれた……」

そう言いながら、少年の方へとゆっくり歩いていく。
348 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:07:01 ID:9uUYbGE6 [3/14] 名前× NGID× 報告
少年はランスの顔を見上げ、睨みつけた。身長は三十センチメートルは違うだろう。まだ幼い。十一歳くらいの少年だ。

少年の目は、ヤドンの井戸で戦った時と同様、本気だった。屈する気配は感じられない。

「なるほど……そうまでして私を怒らせたいのですね……」

とうとうここまで来たのだ。あと少しでロケット団は復活するのだ。邪魔されてなるものか。相手が子供であろうと変わらない。それを止めたいのなら、それなりの覚悟が必要だ。この少年だって覚悟を決めてここまでやってきたのだろう。

そうだ、絶対に邪魔させない。ロケット団は、ランスにとってのすべてだ。復活させる。絶対に取り戻す。そう決めたのだ。三年前に、三人の同胞と共に誓ったのだ。

「いいでしょう」

ランスの表情は怒りのあまり引きつっていた。ランスは完全に「怒り」の使い方を忘れていた。この怒りは、手段ではない。ランスのありのままの感情だ。

「お望み通りロケット団幹部の怒りを見せてさしあげますよ!」
349 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:08:29 ID:9uUYbGE6 [4/14] 名前× NGID× 報告
ランスはモンスターボールからゴルバットを繰り出した。少年も背後のポケモンではなく、モンスターボールからポケモンを繰り出す。現れたのは、なんと赤いギャラドスだった。

ランスは無言でギャラドスを見上げた。この子供は、ランスをとことん怒らせたいようだ。アジトに侵入したのもこの子供なのだと、ランスは今度こそ確信した。

「ゴルバット、あやしいひかり!」

「ギャラドス、たつまきだ!」

ギャラドスは少年に指示され、竜巻を起こした。ゴルバットは飛び回って竜巻を避け、ギャラドスの顔までやってくると、目の前で光を発する。ギャラドスは目を何度も瞬いた。そして、どこかへ飛んでいく光を追ってキョロキョロと目を忙しなく動かし、大きな体を動かして追いかける。成功だ。

「ゴルバット、かみつく」

ランスは冷静に指示を出した。ゴルバットは混乱して動き回るギャラドスの背後に回り、がぶりと噛みつく。ギャラドスは痛みに呻き、振り返った。ゴルバットはその隙を見てまた背後へと飛んでいく。
350 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:09:51 ID:9uUYbGE6 [5/14] 名前× NGID× 報告
「つばさでうつ!」

ランスの声にゴルバットは素早く反応し、翼を思いきりギャラドスの背中に叩きつけた。ギャラドスはまたも呻く。

ギャラドスはゴルバットを払いのけようとしたのか、大きく尾ビレを振り上げた。しかし混乱しているせいか、尾ビレはまったく見当違いな方向へ行き、ギャラドスはバランスを崩してその場に倒れこんだ。

「ギャラドス!落ち着くんだ!」

まったく攻撃できていないギャラドスを見て、少年は慌てて声を上げる。ランスはいい気味だと思いながら更に指示を出した。この子供は実験に使用したポケモンを奪っていったのだ。徹底的にぶちのめしてやらないと気が済まない。

「ゴルバット、さっさと終わらせてやりましょう。つばさでうつ!」

ランスの声を聞いたゴルバットは高く飛び上がった。そして、未だ起き上がることのできないギャラドスの顔面めがけて猛スピードで降下し、勢いをつけたまま翼を打ちつけた。

ギャラドスはそのまま動くなり、戦闘不能状態になってしまった。少年は悔しそうな顔でギャラドスをボールに戻してランスを睨む。ランスは澄まし顔で応えた。
351 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:10:25 ID:9uUYbGE6 [6/14] 名前× NGID× 報告
少年は今度は可愛らしいポケモンを繰り出してきた。モココだ。あの時のメリープが進化したものだろう。

「モココ!でんきショックだ!」

少年は焦っているのか、メリープを出した瞬間叫んだ。しかし、ゴルバットの方が素早い。モココの起こした電流を飛んでかわすと、ランスの「ゴルバット、あやしいひかりです!」という声に合わせ、ゴルバットは光を発生させた。

光はくるくると回りながらモココの方へと降りていく。モココは光を追いかけてその場を回り、目を回してしまった。今度も成功。

「ゴルバット、かみつく!」

ゴルバットはモココの尻に噛みついた。モココが痛みに叫ぶ。

「モココ、大丈夫だ。でんきショック!」

少年は指示を出したが、モココはまだ目を回してフラフラと動き回っている。

「ゴルバット、つばさでうつ!」

ゴルバットはもう一度飛び上がって体勢を整え直すと、モココの体に翼を打ちつけた。ゴルバットの翼が、モココの綿毛に触れる。パチッという音がして、ゴルバットはその場で硬直し体を震わせた。どうやら、せいでんきで麻痺してしまったらしい。
352 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:11:01 ID:9uUYbGE6 [7/14] 名前× NGID× 報告
「ゴルバット、耐えてください。もう一度つばさでうつ!」

ランスはそう言ったが、ゴルバットは危なげに飛んで苦しそうにしていた。体が痺れているので上手く飛べないのだ。ゴルバットが動けずにいる間に混乱が解けたのか、モココはゴルバットに向き直りこちらを睨みつけてきている。

「モココ、でんきショックだ!」

モココの攻撃はゴルバットに直撃した。ゴルバットは痺れが治らずかなりダメージを受けている。しかし、ランスは厳しく指示を出した。

「ゴルバット、飛ぶのです。つばさでうつ!」

ゴルバットはランスの言葉を聞いて、苦しそうながらも羽ばたいて高度を上げた。そう、ゴルバットの主人は決して優しくない。ゴルバットももう分かっていることだ。
353 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:12:53 ID:9uUYbGE6 [8/14] 名前× NGID× 報告
ゴルバットはモココの元まで飛んでいき、翼を叩きつけた。モココはきゃん、と可愛らしい鳴き声を上げ、倒れた。少年は唇を噛みしめてモココをボールに戻し、「ごめんなモココ。お疲れ」と声をかけた。

二匹のポケモンを瀕死にされた少年は、鼻から息を吐いた。そして、拳をぎゅっと握りしめる。ランスが黙ってそれを眺めていると、少年は後ろを振り向いた。そして、そこで待機していたポケモンに声をかける。

「バクフーン。頼んだ!」

バクフーンと呼ばれたポケモンは頷いた。そして、ゴルバットの前へとやってくる。このポケモンも、以前戦ったポケモンが進化したものだろう。

バクフーンはゴルバットの前までやってくると、体に力をこめた。すると、首の周りから炎が燃え上がる。バクフーンは威嚇するように鳴き声を上げた。

「バクフーン!ふんえん!」

少年が言うと、バクフーンは再び体に力をこめた。首の周りの炎が更に激しく燃え上がり、火が噴出してきた。凄まじい勢いだ。飛び出した火がゴルバットに当たる。ゴルバットは地面に叩きつけられ、そのまま力尽きた。

このバクフーンは強い。今までのポケモンとは違う。ランスはそう確信した。ゴルバットをボールに戻し、もうひとつのボールを投げる。

「マタドガス!行きますよ!」

マタドガスは体に空いた穴と口と鼻から異臭のするガスを吐きながらボールから出てきた。ランスは少年を見つめる。少年は怒っている。しかし、その顔には希望も感じられる。見れば分かる。大して辛い経験もしたことのない小童だ。ああ、見れば見るほど腹が立つ。

「私をこれほどまでに追い詰めるとは……!」

ランスは歯を食いしばりながら声を絞り出した。
354 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:13:40 ID:9uUYbGE6 [9/14] 名前× NGID× 報告
「バクフーン!スピードスター!」

バクフーンは正確にマタドガスに狙いを済まし、攻撃を当てた。マタドガスはまともに攻撃を受けてふらつき、思わず落ちそうになってしまう。かなりダメージを受けてしまったようだ。

「マタドガス、ヘドロこうげき!」

マタドガスは持ち直すと、口からヘドロを吐き出してバクフーンにかける。バクフーンは気持ち悪そうな声を出した。濡れたヨーテリーのように体を震わせ、ヘドロを払う。毒状態にはならなかったようだ。

ランスはむむ、と唸った。それから口元を引きつらせ、ピクピクと口の端を震わせながら「なんて奴!」と呟いた。言葉遣いが荒くなっていることには気付いていない。
355 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:14:10 ID:9uUYbGE6 [10/14] 名前× NGID× 報告
「バクフーン!次で決めよう!ふんえんだ!」

少年が叫ぶ。バクフーンは力強く頷き、マタドガスに向き直ると体に力をこめた。

まずい。あの攻撃をもう一度受ければ、きっと負けてしまう。子供に負けてしまう。ロケット団の邪魔をする者に負けてしまう。この私が負けてしまう!

「マタドガス!よけ――」

ランスは叫んだ。しかし、言い終わる前にバクフーンの首の周りから炎が大きくなり、辺り一面に火を撒き散らした。マタドガスはまたその炎を受け、熱さに呻きながらよろよろと浮かんでいたかと思えば、やがて落ちて戦闘不能になってしまった。
356 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:15:46 ID:9uUYbGE6 [11/14] 名前× NGID× 報告
ランスは愕然とマタドガスを見下ろす。

負けてしまった。小さな子供に、同じ相手に、ロケット団の行く道を阻む者にまた負けてしまった……。

ランスはマタドガスをモンスターボールに戻した。そして無言で腰にボールをつけながら息を吐く。

「ふぅぅ……」

音が聞こえるほど大きく息を吐いていたらしい。ただ、そのおかげで少し冷静になることができた。ランスは、自分が我を忘れていたことにやっと気がついた。

悔しげに少年を睨みつける。少年と目が合った。二人は数秒間無言で睨み合う。ランスは唇を震わせながら口を開いた。
357 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:16:43 ID:9uUYbGE6 [12/14] 名前× NGID× 報告
「私に勝ったところで、所詮はロケット団の怒りを強めただけですよ……」

ランスの発した言葉は、ただの負け惜しみだった。

少年はランスを睨みつけたまま数歩後ろに下がった。そして、バクフーンを労わりながら駆けていく。少年は振り向きもせずに、真っ直ぐに進んでいった。

部屋に鈍い音が響き渡った。ランスが拳を思いきり後ろの壁に叩きつけた音だ。

ランスはそれから、深い溜息をつきながら壁に体をくっつけてずるずるとその場に座りこんだ。
358 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:20:25 ID:9uUYbGE6 [13/14] 名前× NGID× 報告
十一歳の少年だった。今も。三年前も。ランスの居場所を奪っていったのは、勇気と希望に満ち溢れ、明るい未来の待っている十一歳の少年だった。

あの時、ランスは十一歳の少年だった。すべてを失い、サカキに試され、拾われ、ロケット団に入ったのは十一歳の少年だった。

悔しかった。何が変わればこんなことにならずに済んだのだろうか。一体何が悪かったと言うのだろう。信念があったとしても、世の中で悪とされる立場にいる限り、どうしても天は味方してくれないらしい。でも、じゃあどうすればよかったと言うのだ。父が騙されて借金も背負わされてしまうようなことのない抜け目ない人間であればよかった?あの時、サカキの誘いを断ればよかった?

そういえば、あの少年はアジトに来た時に青年の仲間を連れていたという。ランスにもそうやって、正しい道へと導いてくれるような存在がいればいたのだろうか。かつて十六番道路で声をかけてくれた、あの青年のポケモンを盗まずについていけばよかったのだろうか。

今まで、過去のことを後悔したことは一度もなかったが、ランスはふとそんな疑問にかられた。

すべてを失ったシママは、美しく、素早く、賢いゼブライカに進化した。それでも、結局失ったものは失ったままなのだ。
359 : AYr1xkow/g 17/08/15 02:21:52 ID:9uUYbGE6 [14/14] 名前× NGID× 報告
後悔してもしきれない。そもそもこれは後悔なのだろうか。それさえも分からなかった。すべてを与えてくれたはずのサカキは、もうここにはいない。ラジオも聞いていないのではないかと思えた。

ランスがサカキに伝えたいこと。それは、怒りだった。サカキに対する強い怒りだった。

ランスはかつてサカキにロケット団で最も冷酷な男だと言われた。しかしそれは違う。サカキに教えられた通りに動いた結果、冷酷に見えただけである。怒りをエネルギーに変えて行動していたら、そのように見えただけである。

ランスは、自分が冷酷だと思ったことは一度もなかった。自分なんかより、サカキの方がよっぽど冷酷だ。だって、こんなにも呼んでいるのに、戻ってきてくれないのだから。
360 : ゲツケサル@カロスエンブレム 17/08/15 13:17:55 ID:olvHt6D6 名前× NGID× m 報告
支援…
361 : RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/15 13:20:20 ID:B3k6xIos 名前× NGID× m 報告
サカキのセレビィイベントって主人公が負けたら何度でもやり直しになるんだよね……

確定で詰んでるロケット団の悲しみ

支援
362 : ャラランガ@にじいろのはね 17/08/15 15:11:03 ID:HhGzI2mI 名前× NGID× m 報告
支援
363 : AYr1xkow/g 17/08/16 00:14:52 ID:aJ09toHQ [1/7] 名前× NGID× 報告
どれくらいの時間が経っただろうか。

一瞬のようにも、永遠のようにも感じられた。

力なく座りこんだままのランスの耳に、通信機の音声が聞こえてくる。

「――りました。サカキ様がそうしたように」

アポロの声だ。誰かに語りかけているような口調だ。きっとあの子供と話しているのだろう。話している途中で通信機をつけたのだろうか。

ランスはそれ以上聞きたくないと思った。アポロの声を聞けば分かる。最悪の結果となったのだ。

「私たちロケット団は、ここで解散しましょう」

ああ、そんな。

「さらばです」
364 : AYr1xkow/g 17/08/16 00:16:13 ID:aJ09toHQ [2/7] 名前× NGID× 報告
ロケット団の団員たちが、逃げ惑っている。通信機でアポロから撤退命令が出たからだ。

ラジオ塔を降りていると、アテナとラムダに会った。三人は無言のまま歩いていく。

ラジオ塔の外に出ると、コガネシティは部下たちに溢れており、混乱状態だった。命令通り逃げている者もいれば、迷っている者もいる。立ち尽くしている者もいた。

背後から足音が聞こえ、三人はほぼ同時に振り向く。やってきたのはアポロだった。

「……私の責任ですね」

アポロが呟く。

「最高幹部である私が、責任を取らなければ」

アポロの言葉に、三人はそれぞれ何かを言おうと口を開いた。
365 : AYr1xkow/g 17/08/16 00:17:37 ID:aJ09toHQ [3/7] 名前× NGID× 報告
「嫌よ、何を言ってるの。やめてちょうだい……」

アテナは涙声になっていた。

「そうだぜ。自分が一番偉いアピール、やめろって言ってるだろ」

ラムダがやるせなさの残る声で言う。

「……私たちも、同じですよ。立場も、罪の重さも」

ランスも悲痛な声を出した。

そうだ、三年前にこの四人で誓ったのだ。ロケット団を復活させると。

どこまでも行くつもりだった。でも、限界があった。そしてランスたちは、ロケット団は限界を知ってしまったのだ。もうこれ以上、上には行けない。過去の栄光を取り戻すことはできない。サカキを呼び戻すことはできない……。
366 : AYr1xkow/g 17/08/16 00:18:22 ID:aJ09toHQ [4/7] 名前× NGID× 報告
どこからか、パトカーのサイレンが聞こえてくる。団員たちは本格的に逃げ始めた。かつての同室だった先輩や後輩はもう逃げ切っただろうか。ランスのことを特に好いていたあの女の部下はどうだろう。今もどこかでランスを見ていて、早く逃げてください!と声をかけたそうにしているかもしれない。

でも、そんなことはもう、どうでもいい。

四人は、逃げる部下たちとは反対方向へと歩いていった。

すべてがスローモーションのように感じられる。

「我々は、泣く子も黙るロケット団……」

誰かが呟いた。ラムダの声だろうか。アテナの声のようにも聞こえた。いや、アポロの声だったか。もしかしたら、ランスの声だったかもしれない。それとも、幻聴だろうか。
367 : AYr1xkow/g 17/08/16 00:20:02 ID:aJ09toHQ [5/7] 名前× NGID× 報告
ああ、サカキ様。

結局、私たちの声はあなたに届かなかった。

あなたは冷酷な方だ。あなたのことを待っている部下たちがこんなにいるのに、大事なことは何も告げずに去っていって、戻ってきてもくれないなんて。私なんかよりずっと、あなたの方が冷酷です。

……でも、それでも、私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男ですから。ロケット団の幹部ですから。諦めきれないのです。どんなに怒りを感じていても、あなたのことを。組織のことを。

だから、あなたがいつかまたロケット団を復活させてくれたとしたら。私たちに「戻ってこい」と何らかの手段で伝えてくれたとしたら。

私たちは四人とも、どこまでもついていきます。独房なんてどんな手段を使ってでも抜け出して、またあなたの元へと馳せ参じますよ。

ですから、待っています。待たせてください。どうしても、待ってしまうのです。
368 : AYr1xkow/g 17/08/16 00:20:47 ID:aJ09toHQ [6/7] 名前× NGID× 報告
ロケット団の四人の幹部は、人で溢れる混乱状態のコガネシティの中を、何にも阻まれることなくゆっくりと歩いていく。

やがて、コガネシティに四台のパトカーが入ってきた。

〈了〉
369 : ィオネ@しんかのきせき 17/08/16 00:48:08 ID:DQz4l6k. [1/2] 名前× NGID× 報告
お疲れ様でした!
素晴らしいSSをありがとうございます!
370 : RIVER◆zFLCCAWaiw 17/08/16 01:10:19 ID:HJ0F.cC2 名前× NGID× m 報告
乙です

地の文がすごかった
371 : ニューラ@こころのしずく 17/08/16 01:11:59 ID:OX37.8vY 名前× NGID× 報告
語彙力? に感動
イッチお疲れ様!!!
372 : AYr1xkow/g 17/08/16 01:28:51 ID:aJ09toHQ [7/7] 名前× NGID× 報告
最後まで読んでくださりありがとうございます
ランスは人間キャラでも特に好きなキャラのうちの一人です
明らかに一番若いので、他の三人と比べてサカキとの接点はあまりなさそうだと勝手に解釈していたのですが、このSSでは逆に接点ありまくりにしてみました
ロケット団幹部は地味ですがいいキャラしてると思うのです

余談ですが、ロケット団の3DSテーマ最高だと思いませんか?
四人の幹部とボスが一緒にいるのです、初めて五人が一緒にいるイラストを見て本当に泣きそうになりました
後ろにいる下っ端たちは緑髪なので、FRLG時代のロケット団なんですね

ロケット団幹部たちのことを好きになってくれる方が増えたら嬉しいなと思います
最後までお付き合いくださり本当にありがとうございました!
373 : リゴン2@スピードパウダー 17/08/16 01:30:44 ID:DQz4l6k. [2/2] 名前× NGID× 報告
この作者のとあるSSのファンであるこの私は
この作者が次にどんなSSを書くかを把握している
誠に楽しみである
374 : ャランゴ@ふといホネ 17/08/16 02:17:47 ID:/3iTxVFg 名前× NGID× m 報告
イッチさんお疲れ様でした。
元々ポケモンの悪役が好きな私ですが、このSSを観てゲームでは見られないロケット団の一面が見えました。
想像力も語彙力も素晴らしく(ヒガナさんも納得しそう)、話を読んでいるだけで物語が脳内再生されるようで、とても楽しい一時を過ごせました。
アクア、マグマ、ギンガ、白プラズマ、黒プラズマ、フレアも
掘り下げていって欲しいなと思います。

次回作も胸を高鳴らせて待っています。
本当にありがとうございました!!