SS 嘘から出たまこと

俺は嘘をつくのが好きだ。特に心霊系が良い。

「どうせ嘘だろ。」なんてビビりながら言う相手の姿を見るのも良いし

「嘘だよ。」ってバラした後の、安心した顔を見るのも悪くない。

今まではそんな感じで楽しんでたんだけど、最近は新しいパターンに目覚めつつある。

はよ

俺は今まさに、1人の友人に嘘をついてる。

「ミアレにさ、幽霊が出るって噂のビルあるじゃん？」

「あぁ……「あなたは違う……」だかなんだか言われるっていう？」

「そうそう。その霊がさ、たま〜に「あなたよ……。」って言ってくるらしいんだよね。」

「えっ……？」

「いやいや……そんなわけねぇだろ……。そんなの聞いた事ねぇし……。」

これこれ、この顔がたまらないんだよね。今までならここでネタバラシだったんだけど、最近は更に詰めて行くようになった。

「俺もそう思ったんだけどさ、実際何人か言われたっていうやつがいるんだよ。だからさ、今日実際に確かめに行こうと思ってるんだけど……。」

「1人で？」

「いや、お前も。」

「なんでだよ？俺は嫌だぜ。」

「良いのか？もし本当だったら、映像をテレビ局に売っぱらって一儲け出来るかも知れないぞ？」

そう言ってはみたが、そんな事ありえないのは俺が一番分かってる。友人をその気にさせるための嘘。嘘も方便ってやつだ。

「なるほどな……よし……行くか。」

あゆみんかな？

俺たちは今、エレベーターに乗ってる。勿論、例のビルのだ。

「もし本当に「あなたよ……」とか言われたら、俺は速攻逃げるからな。そん時、お前がどうなってても……。」

「それで良いよ。どっちかは生きて帰らないと、世間に発表出来ないからな。」

俺は適当に調子を合わせる。

「お前……全然怖くないのか？」

そりゃそうだ。お前をビビらせるためにその場で考えた嘘なんだから。

まぁ「嘘でした」で終わらせるつもりは毛頭ないわけだが。

今回のプランは至ってシンプル。例の部屋に入ったら、あらかじめ奥の部屋にセットしてあるテープレコーダーをエスパーポケモンに作動させるだけ。

これで、お手軽心霊現象の出来上がり。嘘から出たまことってやつ？いや、ちょっと違うか。

「それにしても……「あなたよ……」って一体どういう意味なんだろうな？」

「そりゃお前、「私があの世に連れて行きたいのはあなたよ。」って事だろ。幽霊なんだから。」

「やめろよお前……。」

「悪い悪い……。」

そんな事を言ってる間にもエレベーターは上昇を続け、目的のフロアに到着した。

エレベーターから外へ出たタイミングで、俺はポケモンに指示を出す。

「あなたよ……」

無機質な声が室内に響く……そして、次の瞬間……。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」

とんでもない叫び声と共に、友人が一目散にエレベーターに飛び乗り逃げて行った。

「どうせ嘘だ」と心のどこかで決めつけていた事が現実に起きた時の恐怖は、どうやら尋常ではないらしい。その時の表情は凄まじく、それを見るのが最近の俺の楽しみなのだ。

我ながら悪趣味な話だが、「たった一言」録音して再生するだけで十分に楽しめるのだから手頃な趣味と言えなくもない。

「しかし、すごい速さで逃げて行ったなあいつ……。」

「一応明日謝っとくか……。」

一人そう呟きながら、テープレコーダーを置いた部屋の扉に手をかけたその時……

「あなたよ……」

「私が連れて行きたかったのは……。」

〜完〜

怖ぇな
乙