短編SS 初代育て屋「無能と呼ばれて」

私はハナダシティで育て屋をしている……

今や育て屋は、各地方に必ず1つはあるメジャーな存在だが……これを最初に始めたのは私だ。

つまりは、私はこの業界の「パイオニア」ということになる……

私は自分が開発したノウハウを活かし、数々のトレーナーからポケモンを預かり……育て……見返りに幾許かの金を貰いそれなりに幸せに暮らして来た……のだが……

最近、どうにも困った事になっている……

増殖バグでお世話になってます

ケーシィをミュウにしてくれてありがとう

困った事というのは他でもない……

私のお得意様だったトレーナーが、揃って別の育て屋に流れてしまったのだ。

どうもその育て屋では「2匹同時預かり」なるサービスを導入しているらしく、これが大層好評なのだという。

それならば……と、私も真似して「2匹預かり」を始めてみたものの……何故だか客足はもどらない。

客足が戻らない理由をどうにか突き止めようと色々調べている時、私は衝撃の事実を耳にした。

なんと、他の育て屋では「ポケモンのタマゴ」なるものが見つかるというのだ。

また、トレーナー達はこの「タマゴ」目当てで育て屋にポケモンを預けていて、ポケモンの育成は二の次だという事も合わせて分かった。

なるほど……育成が目当てで無いのならば、ただ闇雲に「2匹預かり」を導入したところで客足が戻らないのも当然だ。

理由が分かったところで次に私が行ったのは、「ポケモンのタマゴ」を発見する方法の調査。

しかしながら、これが存外難しく……私は完全に壁にぶち当たってしまった。

リメイクされてもお前のとこかわらずもシンクロも反映されないし乱数も難しいんだもの

調べ始めてから半年……タマゴを作る方法を発見出来ず、客足も戻らず……私の生活は荒れ始めていた。

身だしなみを整えるのも億劫になり、体型も以前よりもだらしなくなったのが自分で分かる。

荒れているといえば周りの人間の態度もそうで、

以前は会うたびに「いつもありがとう」「これからもよろしく」と言ってくれていたトレーナー達も、今では

「無能」「廃業しろ」

と私を罵る様になった。

「タマゴ」について調べつつ、「タマゴ」以外の方法で客足を増やせないかとアイデアを出しては失敗……これを繰り返す毎日。

正直私は疲れ切っていた……

もう諦めて廃業してしまおうか。新しい人生を歩もう……

そう思った私の脳裏に、突然妙案が浮かんだ。

そうだ……空を飛ぶ育て屋なんてどうだ……。空を飛ぶよりは、宙を舞うと言った方が正しいか……

きっと話題になる。もしかしたらニュースにもなるかもしれない。

そうなれば、私を「無能」と罵った連中は大層驚くだろう……実に愉快だ。

思い立ったが吉日、善は急げ……だ。







さっそく物置に「脚立」と「ロープ」を取りに行くとしよう……





〜完〜

育てやのおじさんと空飛ぶ家