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【寒い日】雪解けの日【地の分多め】

 ▼ 1 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/03 14:02:30 ID:iXnfxxmo [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夜の底が白くなった雪の日。僕は、彼女と出会った――
 ▼ 2 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/03 14:03:21 ID:iXnfxxmo [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

『Route : A』


ことの始まりは十年前。僕がまだ、ラルトスだった頃。
その頃の僕は力が弱く、気も弱く、泣き虫で、いじめられっ子というやつだった。小学生だったのでクラス内カーストは中学、高校と比べると漠然としたものだったが、そんな中でも間違いなく最底辺に位置していたと断言できるほどだった。
 ▼ 3 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/03 14:03:45 ID:iXnfxxmo [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ある日のこと。僕らの町には珍しく、雪が降った。
大人にとって雪というのは交通機関を麻痺たらせしむ忌んでしかるべき存在だが、子供にとっては新品のおもちゃのような夢と希望に溢れた物質だ。ましてや辺り一面の雪景色なんて、それこそ作ってワクワク遊んでワクワクなワンダーランド。子供たちがそこらじゅうを駆けずり回るようになるのも当たり前だった。

もちろん僕も駆けずり回った。だって子供だったし。

「わーい!」

「すっごーい!」

「たーのしー!」

一面の雪景色に足跡をつけたり、寝転がったり、更にはひとつまみして食べてしまったり。
そうやって雪を堪能していた子供たちだったが、やがて高揚した精神がある程度落ち着いてくると、今度は雪だるまや雪うさぎを作ったり、

「えーい!」

「うわあ、ちょっと投げないでよ!」

「雪合戦しようぜ! お前ボールな!」

「投げてから言う台詞じゃないよね!?」

「雪要素はどこ行った!?」

雪合戦を始めたりした。

が。

雪合戦とは雪球を相手にぶつけ合う遊び。とはいえ雪は意外と冷たいし、当たると案外痛い。なのでカーストが上の者に雪球をぶつけるというのはどうしても躊躇われる。反面、下の者に対してぶつけるのには特段問題はない。

故に。

「そら、喰らえい!」

「えーい」

「ちょっと皆! どうして僕に投げてくるの!?」

雪合戦だったのは最初だけ。早々に、僕を標的とした雪ぶつけへと変貌した。
多勢に無勢もいいところ。『三人に勝てるわけないだろ!』である。最も三人どころじゃなかったけれども。

そんなわけなので、僕は逃げ出した。逃げるが勝ちというやつだ。逃げなきゃ間違いなく負けていた、とも言う。

「ああッ、逃げた!」

「ずるいぞ卑怯者、正々堂々戦えー!」

「逃げるし恥だし役立たずー!」

非道い。最後のはあんまりだ。
ぼくは泣きそうになりながら走った。
前を向きたくなくて、俯きながら、それでも無我夢中に、逃げるために。
 ▼ 4 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/03 14:04:05 ID:iXnfxxmo [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そして、そのままどれくらいの時間が経ち、またどれだけの距離を走ったか分からなくなってきてきた頃。

「ここ、どこ……?」

ようやく足を止めた僕は、いつの間にやら見知らぬ森の中にいることに気付いた。

周りを見回すが、見えるものは木、木、木、木、木。木ばっかりである。
森というのは木を三つ組み合わせて作られた漢字であるが、『何が三つだコンチクショー、百個くらい組み合わせろ』と辞書に抗議したくなるくらい、まわりには木しか生えていなかった。

「どうしよう……」

呟いた。
ずっと下を向いて走ってきたから、どういう道を通ってきたのか分からない。周りには木ばっかりで、目印になれそうなものもない。

僕は町に戻れるのだろうか。不安になってきたのを、ぶんぶんと頭を振って押し留める。
何も行動していないのに勝手にあーだこーだとネガティブなことを考える僕の悪癖は、その頃から既にあったらしい。
僕はひとまず、走ってきた方角を引き返すことにした。
 ▼ 5 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/03 15:29:32 ID:iXnfxxmo [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


まあ、素人がそんな簡単に森を抜けれるわけもなく。
辺りがだんだん暗くなり始めとき、僕はどさりと地面にへたりこんだ。
カーペットのように雪に覆われた大地から、ひんやりとした感触が伝わってくる。
それが、なんだか僕の命をも冷やしているように思われて。また、知らない森で一人ぼっちという孤独に襲われたせいで。
僕は今にも泣き出してしまいそうな面構えをしていた。

「どうしよう……」

うなだれる。どうやって帰ればいいのか分からないし、そもそも冷たすぎて足の感覚がない。
エスパータイプなんだからテレポートでもしろよと言われるかもしれないが、当時の僕はまだ使えなかったのだ。
出来ることといったらただ可愛く鳴いて相手の攻撃を躊躇させる――ワン、ワン(迫真)といった汚いものではない――くらいだった。

そんな僕に追い討ちをかけるように、冬の寒風が襲う。

「さむっ……」

体を縮こまらせるが、それで耐えうるものかというとそうでもない。体温が冷えて、足元の白の絨毯に近づいているのではという気がしてくる。

嗚呼、このまま寒風に命を奪われ、真っ白で冷たい雪の一部と成ってしまうのか。
そんな悲劇的ビフォーアフターなんて真っ平ごめんだ。なんということをしてくれたのでしょうとなること間違いない。

だが一方で、それに抗う元気も残っていなかった。
こんなことなら逃げ出さず甘んじて受け入れていればと思うも後の祭り。ため息を吐く気にもなれず、ぼくはひたすらに額を落とした。
そのときである。

「……少年、どうしたの?」
 ▼ 6 ーマンダ@フェアリーZ 17/07/03 17:41:31 ID:nWB3xShw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しえーん
 ▼ 7 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/04 17:02:09 ID:JipaJO9M [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
誰かに呼び止められて、僕は顔を上げた。すると、そこにはすごく綺麗なユキメノコのお姉さんが立っていた。
人形のような端正な顔立ちに、生きているのか疑わしくなるほど白い肌。
そんな風に可愛らしい容貌とは対照的に、漂わせる雰囲気は妖艶で魅力的だった。

「どうしたの?」

お姉さんに見とれていた僕だったが、本人から尋ねられてハッと意識が着陸する。
僕はとりあえず、これまでの経緯を説明した。

雪が降ってきたので、皆で遊んだこと。
気がついたら、雪ぶつけの標的になっていたこと。
それから懸命に逃げてきたら、いつのまにかこんなところに迷い込んでいたこと。

話を全部聞き届けたお姉さんは、

「それは酷い。雪ぶつけだなんて、それこそ卑怯者のすることだ。親の顔が見てみたいね」

ぷんすかと怒っていた。釣られて僕も饒舌になる。

「そうなんですよ。あいつら、この前なんて給食でピーマンが出たからって僕に全部おっつけたんですよ。僕だってピーマン苦手なのに。酷いと思いません?」

「うんうん、酷い酷い。つらかったね、よしよし」

お姉さんは相槌を打ち、僕の頭をわしゃわしゃと撫で回していたが、不意に眉をひそめた。
 ▼ 8 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/04 17:02:34 ID:JipaJO9M [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それでも、道を覚えずに森に入ったのはいただけないなあ。特にここ、『ウバメの森』は大昔、ヒトという動物が生息していたころならまだしも、今は見てのとおり木々がそこら中に生えている。密林といっても許されるような場所だ。
そんなところに何の準備もせずに入るんだなんてよくない。最悪出られなくなるかもしれない。自殺行為なんだよ? ましてやこんな雪の日に」

「ごめんなさい……」

一気にまくし立てるお姉さんに、僕がうつむいていると。

「分かればよろしい。それでは私が少年の住む町まで送ってあげよう」

お姉さんが、そんなことを言ってきて……。

「ええっ!? 道が分かるんですか!?」

飛びつくように顔を上げた僕に、お姉さんはフフンと笑った。

「私を誰だと思っているのかな? 町の人からウバメの森のエキスパートとまで言われているユキメノコさんだよ? 森に繋がっている町ならどこへだって案内できるんだ。だから、」

お姉さんは二の腕を叩いて言った。

「お姉ちゃんに任せなさい。君の町まで案内してあげましょう」

僕はやっぱりおずおずと、自分の住む町の名前を口にした。

「ふむ、ヒワダタウンかあ。となると、こっちの方かな。ついておいで」

お姉さんはそう言うと、僕の手を引っ張り上げた。
そうして無理やり立たせたあと、手を引いて、白く染まった森を突き進むように歩を進める。

お姉さんの手はゴーストタイプと氷タイプの混合ということもあってか、とても冷たかったけれど。

でも、とってもあたたかかった。
 ▼ 9 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 17/07/05 19:44:52 ID:cYMcfzmI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ねえ、お姉さん」 手を引かれながら、僕は問いかける。

「お姉さんはどうして、あの森の中にいたの?」

「んー……」 お姉さんはもう片方の手で首筋をぽりぽりと掻いて、ばつの悪い笑顔を浮かべた。

「探し物かな」

ふうん。

「どんな探し物なんですか?」

「おいおい少年、それを訊くのかい?」

お姉さんは苦笑を浮かべた。訊かれたくないことだったのだろうか。そんな気配は見せていなかったけれど、ひょっとして自分の意図していないところで地雷を踏んづけてしまったのだろうか。
僕は反射的に口を開く。

「あ、あの、嫌なら答えなくても「いや、いいんだよ少年。答えてあげようじゃないか」ありがとうございます」……」

が、お姉さんに遮られてしまった。よく分からず、とりあえずお辞儀した僕に、お姉さんは軽い口調で言った。
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