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【クリスマスSS】イブの日の追憶

 ▼ 1 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:18:00 ID:RG5uH6rY [1/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――あれは、イブの日の物語。






 ▼ 2 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:18:20 ID:RG5uH6rY [2/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







プロローグ 今年:24日:クリスマスイブ






 ▼ 3 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:18:55 ID:RG5uH6rY [3/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「イブ、かぁ」


そう言って、ため息を吐いたのは、チョロネコのローネ。

それを聞いたリオルのリオは、イブ、という単語に思わず怯む。

それはたぶん、ローネのため息と同じ理由で。

離れて行った、2匹の親友のナマエが、イブだったから。

ローネは小さく笑って、首を振る。


ローネ「クリスマスイブって、あたしは、今まで祝ったことないんだけど、リオはどうなの?

    やっぱ、サンタって来るの?」

リオ「えっと……実はさ、もう、知ってるんだ、サンタの正体」

ローネ「え、嘘。意外」

リオ「まあ、いろいろとね……」


苦笑して、それから思案顔を浮かべると、リオは言った。


リオ「ママ、忙しいしさ」

ローネ「ああ、なるほどね」


ローネは、納得したように、頷いた。
 ▼ 4 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:19:10 ID:RG5uH6rY [4/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リオ「だけど、大丈夫。きっと、ママはくれるから」


リオはそう言って、ローネに笑い掛けた。ローネは、虚に突かれたような表情を浮かべ、それから問う。


ローネ「なんで言い切れるの?」

リオ「あはは、さすがローネ。イブの知りたがり、うつっちゃったんだね。

   いいよ、教えてあげる。あれは、去年のイブ。まだ、イブと出会う前の話なんだけど……」
 ▼ 5 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:19:32 ID:RG5uH6rY [5/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







1章 去年:12月24日:夕方






 ▼ 6 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:20:00 ID:RG5uH6rY [6/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シシコ「なあリオル、何もらうんだ?」

リオル「え、クリスマス?」

シシコ「当たり前だろー? 何言ってんだよ」


シシコは、そう言って笑う。

家の近い僕ら3匹は、よく一緒に登下校していた。これは、その帰り道のこと。

考えていなかった僕は、あーと悩んで、それから呟いた。


リオル「まだ決めてないや」


「まったく、サンタさんだってそんなイブの遅くに言われても、プレゼント用意できないよ?」


そう言ってあきれたように言って来たのは、ミミロルだった。


ミミロル「物理的に手に入らないものは、配れないんだから」


僕は、しゅんとしてしまう。今年はもしかしたら、何ももらえないかもしれないのか。


シシコ「そんなもんか?」

ミミロル「そんなもんよ。お父さんが言ってたんだけどさ」

リオル「へー、サンタさんも大変なんだね」

シシコ「だな」


サンタさんの意外な一面を垣間見たような気がして、なんだか笑ってしまう。

プレゼントがもらえないかもしれないってのは、笑えないのだけれど。


リオル「そういうシシコはどうなのさ、何もらうの?」

シシコ「俺か? 俺は……秘密だ!」

リオル「えー! 教えてよ」

シシコ「いいじゃねぇかなんでも」

ミミロル「ったく、シシコったら……」


ミミロルが、肩を竦めた。
 ▼ 7 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:20:17 ID:RG5uH6rY [7/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その日は終業式で、僕らは明日から、冬休みに入る。

イブと長期休みの重なり、ということで、僕らの心は皆、一様に湧きたっていた。

まあ、例外も1匹いた訳だけれど、僕はそれを知らなかった。


シシコ「じゃ、また! メリクリー!」

ミミロル「アンドハッピーニューイヤー」

リオル「よいお年を!」


そんな風に、お気楽に挨拶をして、僕らは別れた。
 ▼ 8 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:20:42 ID:RG5uH6rY [8/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
家に帰ると、誰もいない。

わかっている。ママは警察官だ。クリスマスだって、関係なく、忙しい。

お父さんはいない。初めから、ずっと。

だから僕は、1匹で時間を過ごす。

お昼ごはんは作り置きのものを電子レンジで温める。

見た目は滅茶苦茶だけど、食べるととろけるようにおいしいごはんを食べると、僕はそれから自室に入り、少し休憩する。

要するに、お昼寝だ。

目を覚まして、自室から出て、裏庭に吊るしてあるサンドバックを軽く叩き、トレーニングを行う。

それを終わらせて、部屋に戻った時、ふっと気付いた。

テーブルの上に、メモがある。

僕はそれを拾いあげて、読んだ。


リオル「えっと……ごめんなさい」
 ▼ 9 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:21:18 ID:RG5uH6rY [9/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
どうしても、今日は忙しくて、帰れないかもしれません。

晩ごはんはいつものようにへそくりから取って適当なものを買ってください。

クリスマスなのに、忙しくって……


リオル「ごめんなさい……う、嘘でしょ?」


僕は、愕然と呟いた。

ママが、帰って来ない。クリスマスイブの、その日に。

何度読み返しても、書かれてある内容が変わることはない。

書き言葉だけ異様に丁寧になる、ママ特有の手紙。

それに、間違いはなかった。


リオル「……だ、大丈夫。僕は、強いんだ」


そう、無理に呟いて、僕は頬を叩く。


リオル「強くなきゃ、何も護れないんだもん。1匹だって、問題ないよ」


そう言って、僕はママのへそくりを漁る。

こういう時のための貯金だと言っていた。他の時に手を付けたら、たぶんまあ、無事じゃ済まない。

だから、まるっと残っている。2食分を凌いでなお、ケーキの1つを買えるぐらいには、余裕で。

僕はコンビニに出掛けて、お弁当を買うことにした。
 ▼ 10 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:22:03 ID:RG5uH6rY [10/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
街は、クリスマスの気配で溢れていた。

コンビニは商店街の向こう端にある。

だから、商店街を歩くのが一番安全で、近い。

けれど、その道を歩くだけでも、周りはクリスマスだと高らかに声をあげているのがわかる。

ケーキを売ってるお菓子屋さん。パーティーグッズを売ってる雑貨屋さん。

八百屋のおじちゃんの店も、ツリーで飾り付けがされていた。

僕は、それを見ないように、足早に商店街を抜け、晩ごはんと明日の朝ごはんを調達する。

お会計の時に、店員さんが、言った。


店員「リオル君も大変ね。今日もお母さん、忙しいんだ」


同情の籠ったような言いぶりで。僕は、もう、耐えられなかった。

逃げるように、走った。
 ▼ 11 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:22:41 ID:RG5uH6rY [11/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
家に戻る頃にはもう、泣きそうになっていて、部屋に入った途端、涙が、溢れていた。

クリスマス。みんな、誰かと一緒にいる。

僕だけが、1匹なんだ、って。
 ▼ 12 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:23:16 ID:RG5uH6rY [12/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







幕章 今年:12月24日:クリスマスイブ






 ▼ 13 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:24:02 ID:RG5uH6rY [13/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ローネ「……ったく、甘いにも程があるよ」

リオ「ごめんね」


今にして思えば、とリオは思う。

ローネは同じ頃、もっと過酷な現実と戦っていたのだ。

あの頃のこんな悩みなんて、ローネには、本当に些細なことなのだろう。


ローネ「ま、でも、そうだよね。

    周りの幸せは、どうしたって羨ましくて、それを持ってない自分に絶望しちゃうもの。

    そうやってみれば、似たようなもんか」

リオ「ううん、ローネとは、比べるのも申し訳ないよ。

   だけど、あの頃のリオル君には、一大事だった」

ローネ「ま、そうだろうね」


ローネは、小さく笑う。


ローネ「それで? そんなあんたが、どうして『母さんはプレゼントをくれる』って言い切れるのか。

    それは、その日の夜にあるんでしょ?」

リオ「まあね。そう、部屋に入ってしばらくしたら、雪が降りだしたんだ」

ローネ「ちょうど、今みたいに、か」


リオは、窓を振り向く。確かに、雪が降っていた。今だから、少し微笑む。


リオ「そ、こんな風に、ね」
 ▼ 14 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:24:34 ID:RG5uH6rY [14/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







2章 去年:12月24日:クリスマスイブ






 ▼ 15 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:24:52 ID:RG5uH6rY [15/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雪が降り出していた。

部屋の中にも、冷気が忍び込む。

僕は泣きながら、見た目は整った、普通な味のお弁当を食べる。

不味くはない。けど、決しておいしいとは言えない。

食べ慣れた味ではあるのだけれど、そんなこともやたらに寂しかった。

お風呂に入って、そのまま布団に潜りながら、思った。

サンタさん、お願い、ママとパーティーさせて。

それだけでいいよ。お願い、ママ、帰って来て。

僕は、布団にくるまり温まってはいたけれど、それは外側だけ。

心の隙間に忍び込んで来る北風は、涙となって溢れ出て、枕を濡らした。
 ▼ 16 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:25:20 ID:RG5uH6rY [16/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いい子にしてないと、早く寝ないと、サンタさんは来ない。

だったら、そんなものクソくらえ。

僕は立ち上がると、リビングの椅子に布団を持って行った。

もう、いいもん。起きてやる。

起きて、ママを待つんだ。

そんな決意の下、布団にくるまりながら、椅子に座る。

暗い部屋の中、ただ、ひたすらに、じっと。

そうしていると、次第に眠気が僕を襲い……。

はっ、ダメダメ、布団があったら寝ちゃう。

僕は布団を払いのけると、それから家の外に出た。

忙しくて帰れないというからには、少なくとも、今日の間には帰って来ない。

日付が変わるまでに戻ってくれば、問題はないはずだ。

お金は持っておく。

目的は、ケーキだ。

結構な額のお金だから、狙われるかもしれない。僕は警戒を強めながら、街へと繰り出す。
 ▼ 17 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:25:44 ID:RG5uH6rY [17/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
商店街には、カップルが溢れていた。

さっきは気付かなかったが、こうしてゆっくり歩いてみると、いっぱいいるみたいだ。

これなら襲われたりする心配もないだろうし、僕は少し気を緩めた。

店の前で、眩いライトが、ちかちかと明滅し、鮮やかな色どりを見せている。

電気タイプのポケモンたちが、自らの能力を駆使して、バイトとしてやっていることらしい。

いつも以上に煌びやかな空間を、僕は歩いた。


リオル「すいませーん。お菓子屋のおばちゃーん」


返事はない。おばちゃんと言ったら返事をしないのをわかってて、わざと毎回やる。


リオル「お姉さーん」

お菓子屋「はいはい、リオル君、どうしたのこんな夜遅くに」

リオル「ケーキください。三角の奴でいいんで、2個」

お菓子屋「いやだからあの、こんな夜遅くに出歩いてちゃ駄目でしょ? お母さんはどうしたの?」

リオル「……お仕事。だから、待ってようって思って」

お菓子屋「早く寝ないと、サンタさん来ないよ? いいの?」

リオル「いいの」

お菓子屋「そう。わかった。じゃ、ショートケーキね?」

リオル「うん!」

お菓子屋「はい。実は、余りそうで、在庫処分みたいなもんだから、大まけにまけて、半額の○○ポケね」

リオル「え、いいの?!」

お菓子屋「余らせちゃうと処分が大変だからね。半額でも売っちゃった方がいいのよ、こっちも」


そう言っておばちゃん、おっと、お姉さんは笑う。

僕も釣られて笑顔になった。


リオル「ありがとう!」

お菓子屋「こちらこそ、また買ってね」

リオル「うん!」


僕はケーキの入った箱を受け取ると、家へと駆けだした。
 ▼ 18 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:26:17 ID:RG5uH6rY [18/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
家に戻ってケーキを冷蔵庫にしまう。

そうしたら、冷えが僕を襲った。

僕は、体を動かして温まるという発想に至り、トレーニングをすることにする。

サンドバックをひたすらに殴り続ける。

まだそう激しい運動はできない。今は、パンチ力を付ける時期だって言って、ひたすらに筋トレと、サンドバック。

普段は大変に感じるそれも、今は寒さの方が辛かった。

筋トレじゃどうにもならないと思い、ランニングをする。

庭をぐるぐると何周も走り続ける。

そうしているうちに、ようやく少し温まって来る。

雪を払って部屋に戻り、それから温かいシャワーを浴びる。

これで温まった。

今頃は、サンタさんがみんなの家を回っているのだろうか。

僕の所には、来ないだろう。諦めている。

だから、ママ、ちょっとでいいから、早く帰って来ないかな。

鐘の音が響く。日付が変わった。
 ▼ 19 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:26:37 ID:RG5uH6rY [19/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







幕章 今年:12月24日:クリスマスイブ






 ▼ 20 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:27:34 ID:RG5uH6rY [20/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ローネ「なるほどね。だいたい話は読めた。帰って来てくれたんでしょ、母さん」


そう、ローネは呟く。リオはそれを聞いて、にんまりと笑った。


リオ「と、思うでしょ? だけどさ、それ、外れだよ」

ローネ「え?」

リオ「紹介してないっけ、ママの同僚の娘のチルタリス」


ローネは、しばらく思案をその顔に浮かべ、それから頷いた。


ローネ「聞いた事ぐらいはあるよ」

リオ「そのチルタリスがちょっと絡んで来るの。

   軽く紹介しておくと、もふもふヒーローなんだ」

ローネ「……へ?」

リオ「悪いポケモンをもふって改心させるんだ」

ローネ「悪……もふって?」

リオ「そ! 強いんだよ、メガシンカまで使いこなしちゃってさ。僕がそれ知ったのは、これでなんだけど」


ローネは、気圧されたような声を出す。


ローネ「ふ、ふうん。ま、いいや。

    そのチルタリスがどうしたって?」

リオ「それが、これから出てくるの」

ローネ「なるほどね、わかった。じゃ、どうぞ」

リオ「うん」
 ▼ 21 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:27:53 ID:RG5uH6rY [21/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







3章 去年:12月25日:クリスマス






 ▼ 22 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:28:17 ID:RG5uH6rY [22/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ママは、帰って来ない。

ぼうっとしながら時間を過ごしても、それじゃ駄目だと宿題に手を付けても、ママは帰って来ない。

僕は窓へと向かうと、思った。

ねえ、サンタさん。どうして、僕の願いを叶えてくれないの?

サンタさん、ママと一緒にいたいってプレゼントは、そんなに難しいの?

確かに、僕は悪い子かもしれない。バカだし、宿題は終わらないし、今だって遅寝だ。

だけど、そのぐらい、いいじゃない。ママと一緒にクリスマスを過ごしたいって思うぐらい、いいじゃない。

そう、雪の降りしきる外を眺めていた。
 ▼ 23 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:28:41 ID:RG5uH6rY [23/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





――その時だった。





謎の炸裂音が聞こえたのは。




 ▼ 24 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:29:06 ID:RG5uH6rY [24/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
え、と窓を開け放ち、また音が聞こえないか耳を澄ます。

先程のような露骨な音は、聞こえない。けれど、雪の音に紛れて、戦闘音は、確かに聞こえた。

僕は、窓を閉ざして、支度をした。

軽くウォームアップを済ませ、家を出る。

耳が捉える音は、あまり頼りにならない。

僕は目を閉ざし、それから意識を集中させた。

これでも波導の一族の端くれなのだ。僕なら、戦いの波導ぐらいなら、探知できるはず。

微かな気配を感じて、僕は駆け出した。
 ▼ 25 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:29:41 ID:RG5uH6rY [25/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこで戦っていたのが、白いもふもふだった。

見覚えのある質感に、僕は思わず呟いた。


リオル「チルタリス……」


戦っているポケモンは、闇夜に紛れてよく見えない。

とにかく今、チルタリスが戦っている。


リオル「な、なんで……」


状況がさっぱり見えない。

僕は、物陰からそれを覗いていた。

しばらく激しい戦いが続く。

チルタリスは、どうも劣勢なようで、次第にその羽毛はボロボロになって行く。

その中で、敵の正体も見定めた。

ドータクン、らしい。

なんでも、このドータクンは、「さいみんじゅつ」でもってカップルを別れさせたとか。

そういうことも、聞き取れた。

そして、タイプ相性の問題で、チルタリスはどうしたって不利なのだ。

僕は、おい、と声をあげる。

2匹が、こちらを振り向いた。

それから、チルタリスの顔に驚愕が浮かぶ。


チルタリス「おまっ、なんで……」
 ▼ 26 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:30:15 ID:RG5uH6rY [26/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リオル「ドータクン! カップルを別れさせるなんて、なんでそんな変なことしたんだ!」


僕は叫ぶ。ドータクンが、虚に突かれたような、そんな風に体を揺らす。


ドータクン「な、なんでって……」

リオル「そんなことしたって、お前になんの得があるんだっ!」

ドータクン「うるさい、うるさいうるさいうるさいっ! 性別がないからって、このやろ……。

      いちゃつくな!」

チルタリス「かー、こうなったらポケモンおしまいだよ、ホント」


痛みに顔をしかめながらも、チルタリスはそう悪態を吐く。

ドータクンが、体をぶん回し、チルタリスへと殴り掛かる。

恐らくは、ジャイロボール。

ただ、その速度が、異様に速い。ドータクンって、こんなに速いっけ。


チルタリス「トリックルーム貼ってんだよ!」


チルタリスが叫びながら、上昇して攻撃をギリギリ回避する。

僕は、ドータクンに殴りかかった。

グロウパンチだ。

攻撃を終わらせた隙を突いたから、攻撃はヒットした。

だけど、ドータクンに、攻撃が効いた気配はなかった。

こいつ、硬い。


ドータクン「てめぇ……おらっ!」


その鈍重な体躯から繰り出されるジャイロボールは、僕を勢いよく、壁まで叩き付ける。

背中にどすんと重い衝撃が来て、僕はガクリと膝を付く。


リオル「つ、強い……」
 ▼ 27 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:31:05 ID:RG5uH6rY [27/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ドータクン「もう、容赦しねぇぞ……」


その何を考えているのかさっぱりわからない顔が、僕に迫る。

しかし、その上から、炎が降り注ぐ。


チルタリス「てめぇリオル巻き込んでんじゃねぇぞオラっ!」

ドータクン「だから『たいねつ』だって言ってるだろ? 炎はあんまり効かないの」

チルタリス「てめぇ……」

ドータクン「そろそろいいかな。お前、♀だろ? 俺の彼女になれよ」

チルタリス「ふっざけんな! このロリコン!」

ドータクン「あー、そんな口調聞いていいの? 君もうボロボロだけど」

チルタリス「ちっ……」


僕は、必死で考えを巡らせる。

どうすれば、このクソ耐久の牙城を崩せるのか。

グロウパンチを何度か積んで、それで戦えるだろうか。

けれど、グロウパンチを悠長に積んでいる余裕はないみたいだ。

今にも、さいみんじゅつを撃つ構えを取っている。

僕はうめき声をあげ、それから躍りかかる。


リオル「うおぉぉおおおっ!」


ドータクンの硬い体にむしゃぶりつく。かみつくだ。効果は抜群だ。

ドータクンが、少し怯んだように見えた。

チルタリスが、その隙を突いて、ドータクンに躍りかかる。

何をするのかと思えば、いきなりドータクンをもふりだした。


リオル「……へ?」

チルタリス「ちょっと離れてろ、ってか聞くな」

リオル「う、うん……」


言われた通り、僕はそこから離れる。
 ▼ 28 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:31:32 ID:RG5uH6rY [28/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくして戻ると、ドータクンは戦意を喪失していた。

何があったのかと聞いたが、封殺されてしまう。

ただ、もふることがそのキーなのだけはわかった。


チルタリス「サンキューな、リオル。隙を見て強引にもふったのは初めてだけど、なんとかうまく行った」

リオル「ああ、うん」

チルタリス「……お前も、いないんだな、母さん」

リオル「そうなんだ」


俯く。救いは、チルタリスもお父さんしかいなくって、しかもそのお父さんが警察だから、わかってくれるってこと。
 ▼ 29 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:32:09 ID:RG5uH6rY [29/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ママがどうしても忙しい時、ママの同僚、というか上司のボーマンダさんにママが頼んで、

ボーマンダさんが娘のチルタリスのとこに連れて来てくれたのが始まり。

ボーマンダさんに乗って空を飛ぶのは、凄い楽しかった。

チルタリスは、ちょっとヤンキーだけど、優しい。

まだ高校生らしいけれど、凄くしっかりした♀ポケモンだった。


チルタリス「結構こっ酷くやられちまったな……手当してあげる。乗って」

リオル「お願い……」


もふもふの羽毛に乗っかり、僕はしばらく目を閉じた。

体温が、温かかった。
 ▼ 30 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:32:29 ID:RG5uH6rY [30/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリス「これでよしっと。っつー、まだちょい痛むな」

リオル「ありがとう、チルタリス」

チルタリス「いいのいいの。あんたが来なかったら、あたしもやられてたし」


こう、ストレートに僕のお陰だと言われると、なんだか照れる。

少し赤面していると、チルタリスが問うた。


チルタリス「だけどなんだって、お前、こんな夜中まで起きてんだ? しかもイブに。小1だろ?」

リオル「……寂しくって。ママを、待ちたくて」

チルタリス「……なるほどな。気持ちはわかる。でも、寝ろ。体に毒だぞ」

リオル「……サンタさんが来なくたっていい。ママを待ちたい。

    そう思ってたら、音がして」

チルタリス「……来てみたら、あたしがあいつと戦ってたのか」

リオル「うん」


チルタリスは、しばらく黙り込む。

窓から雪景色が見える。月がそれを照らし、幻想的な光景を描き出している。


チルタリス「とりあえず、送るわ」

リオル「……うん」
 ▼ 31 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:32:46 ID:RG5uH6rY [31/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
羽毛に包まれながら、僕はいろいろと考えていた。

どうして、こうなっちゃうんだろう。

僕が何か、悪いことをしたんだろうか。

だから、全然願いが叶わないんだろうか。

また、瞳が潤み始める。

そんな気配を察したのか、チルタリスが言った。


チルタリス「リオル、サンタってのはな、いないんだ」
 ▼ 32 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:33:30 ID:RG5uH6rY [32/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リオル「へ? じゃ、じゃあなんで、プレゼントが毎年?」

チルタリス「サンタってのはな、親なんだ」

リオル「……そ、そうなの?」

チルタリス「そうだ。あたしも、初めて知った時はショックだった」


チルタリスの声は、ぶれない。その表情も、いつもと変わらない。

だから、嘘じゃないんだろう。

だからこそ、余計にショックだった。


リオル「サンタさんが、いない……?」

チルタリス「ああ。願いを叶えてくれる、そんな都合のいい存在は、いないんだ」

リオル「そ、そんな、じゃあ……」
 ▼ 33 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:33:53 ID:RG5uH6rY [33/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







チルタリス「だから、あたしたちは大丈夫」






 ▼ 34 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:34:18 ID:RG5uH6rY [34/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リオル「……へ?」

チルタリス「それでも、プレゼントをもらえてるんだから、あたしたちは大丈夫なんだ。

      わかるか?」

リオル「ど、どういうこと?」


チルタリスが、ニッと笑った気がする。


チルタリス「いずれわかるさ。よっと、そろそろ着くな」
 ▼ 35 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:34:36 ID:RG5uH6rY [35/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
チルタリスが着陸し、僕はその背中から飛び降りる。


リオル「ありがとう」

チルタリス「おうよ。まあなんにせよだ、とりあえず寝ろよ、ガキんちょは」

リオル「はーい」


そう言うと、チルタリスは飛び去った。

僕は、家に入ると、布団を部屋に戻す。

もう、寝ないといけない。

ママは帰って来られないかもしれない。それは、もう諦めた。

だけど、チルタリスが大丈夫だと言ってくれた。だから、信じてみる。

サンタがいなかったとしても、大丈夫だと、言っていたから。
 ▼ 36 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:35:07 ID:RG5uH6rY [36/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌朝、というか、目を覚ますと、昼だった。

枕元に、人気のおもちゃが置いてある。

冷蔵庫を覗くと、ケーキが1個、減っていた。
 ▼ 37 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:35:33 ID:RG5uH6rY [37/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







エピローグ 今年:12月25日:クリスマス






 ▼ 38 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:35:50 ID:RG5uH6rY [38/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ローネ「なるほど」

リオ「だから、サンタの正体はわかってるんだ」

ローネ「そうだろうね。確かにサンタは、母さんだ」


ローネは頷くと、窓の外に目をやった。


ローネ「わざわざ帰って来てくれたんだ」

リオ「ってことなんだろうね。

   遅寝し過ぎて、ママが帰ったことに気付けなかったけど」

ローネ「……凄いよね、母さん」

リオ「ホント」


2匹揃って、外を眺めた。


ローネ「仕事の隙を縫ってプレゼントをしに戻って来てくれる。

    そのぐらい思って貰えてるんだから、あたしたちは大丈夫、か」

リオ「やっぱり、そういうことなんだ」

ローネ「たぶんね。

    なんだろ、そのチルタリス、会ってみたくなっちゃった」


ローネが穏やかに微笑む。リオは立ち上がって、言った。


リオ「寝よう。遅寝してると、サンタさん来ないよ?」

ローネ「だね。お休み」

リオ「お休み」
 ▼ 39 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:36:06 ID:RG5uH6rY [39/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【クリスマスSS】イブの日の追憶 完






 ▼ 40 しゃまん◆NKmNEeVImk 17/12/25 23:36:30 ID:RG5uH6rY [40/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました

関連作
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=283054
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=295723

また、当SSはクリスマスSS企画(↓)の投票外作品です
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=721326
 ▼ 41 人証明◆J44kAZeDOM 17/12/25 23:37:31 ID:RG5uH6rY [41/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
関連作と酉が違いますが、本人であることをここに証明します
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