【ホワイトデーss】卒業

1 : イコウ@サメハダナイト 18/03/07 18:57:05 ID:fzYRSifM [1/2] 報告
よく創作では、印象的な出来事は特別な背景で行われる。例えば、キスシーンを観覧車の天辺で行ったり、桜舞う並木道の下で告白したり、スコールが降る中でカップルが別れたり、というような。そういう、わざとらしすぎて胸焼けするくらい「絵に映える」背景がよく使われるのだ。
が、それはあくまで創作世界においての話だ。現実にて、例えば桜並木の下で告白する例がよくあるかと訊かれたらまあ答えはノウだし、カップルが離れるのにしてもキスシーンにしてもそう。現実において、そういう背景は印象的な出来事には付随しない。創作は創作、現実は現実なのだ。

だから、その日の天気が特筆に価しない極めて穏やかなものであったのも、まあ当然と言えた。

「ねえ、カルム。私達、もう別れない?」

――ミアレシティの一角、とある高級カフェにて。
いきなり別れ話を切り出してきたセレナに、僕はコーヒーカップをテーブルに置くと。

「ああ、別にいいよ」

セレナはまじまじと僕の顔を見つめた。

「……意外とあっさりしてるのね。普通、もっと狼狽するものと思っていたわ」
「そりゃあ、ね。でも、理由くらいは聞きたいな」
「理由? そうね、色々あるけど、総括すると……」

髪の金色をくるくると弄びながら、セレナは何でもないふうに言った。

「……『飽きた』から、かしら」
「『飽きた』」

おうむ返しする僕。セレナは首肯すると、

「私達、一緒になってもう4年。ただの”お隣さん”だった頃を含めれば6年になるのかしら。……それだけ一緒にいれば、当然飽きだって入ってくるわよ」
2 : リゴン2@ヒレのカセキ 18/03/07 18:57:39 ID:fzYRSifM [s] [2/2] 報告
溜め息を吐くように言って、フラペチーノを吸い始めた。

僕は固まっていた。別にセレナの発言に衝撃を受けてそうなったわけではない。いやまあ、結構ひどいことを言われたような気がしたけれど。でも、断じてそういうわけではない。
ただ、その言葉に胸を突かれた。心臓の中心部をボウガンかなんかで貫かれたような心地がした。自分の考えていたことをピタリと当てられて、全身の体毛が逆立った感覚がした。
要するに、共感してしまったのである。僕もまた、『飽きていた』。セレナに、恋人に、カップルに、そういう関係に、積み重ねた日々に。色々なものに飽きていた。
なんてひどいエゴだろうか。「飽きたから別れる」なんて、破局の理由としては限りなく最低に近しいところにあるのではないか。そんなことを思いながらも、一方で、別にいいじゃないかと考える僕もいて……。

僕は、極めて何でもないふうに装って言った。

「奇遇だね。僕もそう思っていたところだったんだよ。……だって、さ」

セレナが顔を上げる。僕は言葉を続ける。

「フラダリさんの件から、もう6年が経った。僕達もそろそろ20代。もういい大人なんだよ。人並みに、もうそれなりに新しい恋とかしてみたいんだ」
「……そうね」 セレナはふっと笑った。笑いは笑いでも、それは嘲笑であるように見えた。
「そう言って貰えて、私も安心したわ」
「そっか。それはよかった」

僕もまた、嘲笑った。

まるで道化のようだ。僕も、セレナも。
この関係性――恋人みたいな何か――に早く終止符を付けたくて仕方がなくて、でもその理由がエゴに塗れているせいで胸を張ることが出来なくて。結局、罪悪感を押し殺して虚勢を張ることしか出来ない。
きっと、セレナは僕が虚勢を張っていることが分かっている。何故ならセレナが虚勢を張っていることを僕は分かっているから。4年も一緒にいたのだ、それくらい分かって当然だ。
そして、分かってしまっているからこそ、安心したなどとのたまえるのだろう。相手もエゴに塗れた、最低な奴だから。
そして、それが分かっているから、よかったなんて口走れるのだ。相手も自分と同じだから。
……お互い、そこまで分かっているというのに未だに虚勢を張っているのは、これはもう道化としか言いようがなかった。
3 : ュプトル@かみなりのいし 18/03/14 18:38:14 ID:54LD15Us [1/9] 報告
……ああ、こりゃ別れるよな、と思う。気分はまるで休日のアウトレットモールの中。息苦しくて仕方がない。というより、この息苦しさにすら飽きてしまっている。早く新鮮な空気を吸いたい。吸いたくてたまらない。

「……セレナ、それ飲んだらもう出ようぜ」

ぶっきらぼうに言った僕に、セレナは。
待ったを掛けるように平手を前に突き出すと、「ちょっと待って」と言った。

「実は、カルムに渡したい物があるの」
「え?」

呆けている僕をよそに、セレナはバックから何かを取り出し。
さっきの嘲笑とは打って変わった、三日月みたいに綺麗な笑顔を添えて渡してきた。

「はいこれ、ハッピーバレンタイン」
「……いや、え?」
「え? とは何よ。ハッピーバレンタイン、よ。チョコレート受け取りなさいよ」
「いや、それは分かってるけど。日付的にも状況的にも。だけど、まさか別れ話の後にチョコ渡してくるとは思わなくてさ」
「来年から誰からもチョコを貰えなくなってしまうカルムへの慈悲の心を以て贈ったチョコよ」
「っていうかこれ、チョコレートはチョコレートでもチョコレート効果じゃん。カカオ75%の、超苦いやつ」
「何? 甘いのがよかったの? でも、カカオって体にいいらしいのよ?」
「えー……」
「限りないあいを込めて贈ったから、感謝して味わうがいいわ。……あ、勿論今言ったあいはラブの愛じゃなくてサッドの哀だからね」
「補足しなくてもいいよ。ちゃんと分かってるって。……ここで開けてもいい?」
「ええ、どうぞ」

釈然としない気持ちを抱えながらチョコを開封する。
……見た目は普通のチョコレートだ。あくまでも、見た目は。
だけど、一度口に入れてみると……。
4 : ロトック@ハーバーメール 18/03/14 18:38:43 ID:54LD15Us [2/9] 報告
「…………」

……何とも言えない。
超渋いとか、超苦いとか、どういう味か簡単に言い表すことは出来るけれど。でも、それは正確に、克明に言い表せてはいない。
じゃあどんな表現なら克明に言い表せられるのか、というと、僕の貧相な言葉では丁度のものは見つからない。
ただ一つ言えるのは、例えお冷やですすいだとしても暫く苦味は口内にこびりついて離れないだろう、ということだった。

そんな僕を見たセレナが、

「ふふっ」
「おい何だよ。僕の苦しむ姿を見るのがそんなに面白いのか?」
「そういうわけじゃ……いや、そうかもしれないわね」
「そうなのかよ」
「この4年で、あなたのそういう顔を見たの、全然なかったから。何だか胸がスッとしたわ」
「お前なぁ……」

一通りくすくす笑った後、セレナは帰り支度を始めた。

「じゃ、最後に面白いものも見れたし。私はもう帰るわ」

何か言わなければならない気がして、僕は口を開いた。

「おい、お会計は?」
「? いつも通り、あなたの奢りじゃないの?」
「あー、えっと……」 僕は頬をぽりぽりと掻きながら。
「俺達、もう別れたんだから。恋人だった頃は確かにいつも僕の奢りだったけれど、今となってはただの赤の他人。自分の頼んだ物くらいは代金を支払うべきだと思う」

急造だったためか、妙に言い訳がましくなった意見に。
セレナは目を細めると、

「……あなた、そんなケチ臭い性格だったかしら? 前はもっと、チャンピオンだからチャンピオンらしく振る舞うぜって感じで超お大尽だったのに」
5 : ンゲラー@ラブタのみ 18/03/14 18:39:30 ID:54LD15Us [3/9] 報告
「ほっとけ。もう大人になったんだよ」

吐き捨てる僕。
セレナは指先を頬に撫でるように当てると、考え込むように言った。

「そうねえ、確かに自分で頼んだものくらいは自分で払わないといけないわね」
「…………」
「……でも、ま、そうね。この喫茶店に来店したときはまだ私達恋人だったわけだし、恋人じゃなくなるのは喫茶店を出てからにしましょうか」
「……は?」

この女今なんて言った?
呆気に取られてセレナを見ると、彼女は悪戯っ子のように笑い、ウインクしてみせた。

「じゃあそういうことで。お会計、よろしくお願いします」
「おい待てこの野郎」

思わず立ち上がった僕を綺麗に無視し、セレナはすたすたと店の外へ出ていった。

「なんだあいつ。……次会ったときは、絶対にフラペチーノ代払わせてやる」

後ろ姿を眺めつつ、ひとりごちながら座る。
……次会ったとき、か。
これで僕とセレナは無事に別れた訳だが、今後の関係はどうなるのだろう。
一度付き合って、そして別れた。僕らは元カップルになる。その元カップルとはどういう関係なんだろう。
僕らの関係は、今まで赤の他人から、お隣さん、仲間、ライバル、仲良い友達、カップルと変遷してきた。元カップルは、カップルからどれだけ後退するのだろうか。
仲良い友達くらいの関係性になるだけかもしれないし、ライバルや仲間にまで戻るのかもしれないし。お隣さんや赤の他人になってしまうかもしれない。
あるいは、もっと…………。

「…………」

考えるのが馬鹿らしくなってきた。僕らは別れた。もう別れたんだから、今更関係性について思考を巡らせてもしょうがないじゃないか。さっき自分で「今となっては赤の他人」と言ってただろうに。
思考をリセットするために、僕はお冷やに口を付けた。
冷たい水が通り抜けて、口内と喉がキンキンに冷やされる。
だというのに。さっき予想した通り、口の中にこびりついた苦味はどうしようもなく。消えてくれる気配なんて微塵もなかった。
6 : ネネ@するどいツメ 18/03/14 18:45:12 ID:54LD15Us [4/9] 報告





それから数日後。
ティエルノとトロバにセレナと別れたと話すと、やはりというか、ぎょっとされた。

「えーっ、別れちゃったんですか!?」
「別れちゃったの!?」
「そうだよ。数日前にね」
「「え――っ!?」」

補足すると、二人は目をコイキングみたいに丸くした。

「つい最近のことじゃないですか!」
「諸行無常だねぇ。どうして別れたの?」

少し考えてから答える。

「一緒にいても楽しくなくなったから、かな」
「本当ですか? あんなに仲良かったのに……」
「そんなこともあるんだねぇ。今って付き合ってから4年目だったんだっけ?」

ティエルノの質問に、トロバが即答する。

「フラダリさんの件から丁度二年後に付き合い始めたので、四年間で合っていますね」
「いや、なんで僕じゃなくてトロバが答えるんだよ。合ってるけどさ」

トロバは苦笑を浮かべて、

「そりゃあ覚えてますよ。なんてったって、二人は……カルムとセレナは、僕達の光ですからね」
7 : ロマツ@おとしもの 18/03/14 18:46:19 ID:54LD15Us [5/9] 報告
「光」

おうむ返しになる僕に、ティエルノが頷いて。

「そうだねぇ。六年前、フレア団崩壊の立役者。バトルハウスの連勝記録保持者にして、カロスポケモンリーグのチャンピオン、そしてそのチャンピオンに史上最もバトルを挑んだ女。カロスポケモントレーナーパワーランキングで堂々の1-2フィニッシュを飾ってる二人だからねぇ。友人として、誇りに思うよ」
「こんな凄い、というより凄まじい二人がいるからこそ僕も頑張れたし、頑張れるんですよ。それはティエルノも同じでしょうし、サナだってそうだと思います」

トロバは力強く断定した。が、凄まじいというだけなら彼だって……というか、その発言に横で赤べこみたいに頷くティエルノや、ここにはいないサナにしてもそうだ。
トロバは世界でも有数の難関大学であるミアレ大学の学生だし、ティエルノはダンサー業界ではネクストブレイク間違いなしの期待の新人と言われている。サナはこの年にして世界の殆どの地域に訪れていて、世界中に人脈を持っている。
色々な地方のポケモンを持っているから、彼女のボックスはレアポケモン収集家垂涎ものであるとかないとか。
たかがポケモンが強いだけの僕やセレナと比べると余程凄いことをしていると思うのだが、しかし目の前の二人曰く、その成果は僕らがいなければなかったろうとのこと。
きょとんとして、僕は問いかけた。

「……マジ?」

二人とも頷いた。凄く真剣な表情をしているのを見るに、冗談なんて一切も含まれてないみたいだ。
……なんか。なんか、

「照れるな……」

口元がなんだかにやけてきて、その表情を二人に見せたくなくて、少しだけうつむいた僕に。
トロバが真剣な表情を崩すことなく、「だから、」と続けた。
8 : グラージ@かなめいし 18/03/14 18:47:35 ID:54LD15Us [6/9] 報告
「だから、応援していたんですよ。二人のこと。僕らの光、ポラリスとでも言うべき二人が付き合うと聞いたとき、僕は心の底から嬉しかった。心底祝福したんですよ。……したんです、けどね」
「……トロバ」

思わず漏らしたその声は、自分のものとは思えないほど低く、掠れていた。
トロバも自分がどういうことを言っているか気付いたらしく、慌てた様子で、

「ああ、すみません。気にしないで下さい、ちょっとエゴが……わがままが過ぎましたね。二人には二人の事情があったというのに。もういい年なのに、子供の駄々こねみたいなことを言ってしまいました。ごめんなさい」
「いや、別にいいけど」

頭を下げる彼に、僕は表情を変えずに了承する。
その様子を見ていたティエルノが「そうだねぇ」と言った。

「フラダリさんの件から、もう六年が経った。僕達もそろそろ20代、子供と名乗れるタイムリミットも刻一刻と迫ってきている。子供時代の色々がどんどん過去のものになるのも仕方のないことなのかもしれないねぇ」

どこかで聞いたような台詞だな、と思った。
9 : ブラン@ピーピーエイド 18/03/14 22:27:03 ID:J.GE/x02 [1/2] 報告
支援
10 : マクロー@コオリZ 18/03/14 23:32:26 ID:54LD15Us [7/9] 報告





更に数日が経って、三月の某日。
ホロキャスターが鳴った。
一体なんだろうと思って応答すると、目の前に半透明のサナが現れた。……いや、本当にサナなのだろうか。普段の快活な彼女からは考えがつかないほど神妙な気配を醸し出している。よく似た別人と言った方がしっくりくるくらい、普段の面影がない。
しかしホロキャスター本体には、きっちりと「from サナ」と書かれている。

「どうしたんだサナ。財布でも落としたのか? それとも、うきうきで並んでいたヒウンアイスが目の前で売り切れたとか? ……いや、そう報告してきたときって確か何でこいつこんな嬉しそうなんだってくらい笑ってたな。じゃあまさか、お金がなくなって食べるものもなく、栄養失調に」

反応がないので適当なことをのたまわっていると、サナは。

「聞いたよ、カルム。……セレナとのこと」
11 : ンバス@マグマのしるし 18/03/14 23:32:45 ID:54LD15Us [8/9] 報告

唐突に声を出して、僕の冗談を遮ってきた。
いつもならある程度は僕の冗談にも乗ってきてくれるのだが、今日は全くもってその気配がない。
思わずため息を吐いてしまった。

「ああ……その話か」
「うん。その話だよ」

自分の声のトーンがはっきり落ちているのを自覚する。
あのときと同じようなやり取りが始まるのかと思うと、気が滅入ってくる。

「ねえ、どうして別れたの?」

ほら、そういうことを聞いてくるんだから。
僕は内心の苛立ちを悟らせないよう、言葉を絞り出すように話した。

「……別に。普通のことだよ。ずっと一緒にいて、一緒にいても楽しくなくなったから、かな」
「そうなんだ。……でも」

サナは。

「セレナ、カルムとヨリを戻したいって言ってたよ?」

おばちゃんが井戸端会議を始めるかのように、そんなことを言って……。
………………!?

「……な、な、」

何だそれ。どの口がそれを言っているのか。別れようって言ったのはセレナの方だ。僕も僕で、それに同意した。
12 : イドン@かくれポン 18/03/14 23:33:04 ID:54LD15Us [9/9] 報告
僕らは長く一緒にいすぎて、互いが互いに飽きていた。子供の頃みたいに何でもなくても楽しくいられた時間はとうに過ぎていた。
それが分かってしまっていたし、セレナだってそうだったはずだ。だから僕達は別れたのだ。
大人になってしまったから、子供の恋は卒業したと思っていた。……なのに。それなのに、セレナはそのちゃぶ台を全部ひっくり返して、また僕と付き合おうとしているのか。
大人になったんじゃなかったのか。とうに卒業を果たしたんじゃなかったのか。
あいつ、一体なんなんだ。何がしたいんだ。
僕の心の中で、刺激臭のする感情が渦を巻いていく。憤りとか、後悔めいた何かとかがごちゃまぜになって、自分でも何だかよく分からなくなっていく。
サナはそんな僕を見て、はあと溜め息を吐いた。

「嘘だよ。セレナはそんなこと言ってない」
「……何だよ、嘘なのかよ」

自分の心の空気清浄機の電源が入った音が聞こえた。風船の空気が抜けるように刺激臭がふんわりと消え、清らかな気分になっていく。
サナはやれやれとばかりにかぶりを振ると、ぐいっと僕に顔を寄せて。

「ねえカルム、今、安心してるでしょ」

まるで中身を覗き込もうとするように、僕の目を凝視し始めた。
首を振ることも出来ず、僕は口だけを動かした。

「そんなわけないだろ」
「さっき私が嘘を吐いたとき、カルム、酷く狼狽したでしょ」
「そんなわけないだろ」
「それで、嘘だとわかって、心底安心してるんでしょ」
「そんなわけないだろ」

サナは大げさに溜め息を吐くと、

「ねえ。今、セレナのことはどう思ってるの?」

目を覗き込んだまま、そんなことを訊いてきた。
だがこれは既に答えを用意していた質問だ。にべもなく答える。
13 : ギアル@ようせいジュエル 18/03/14 23:34:05 ID:J.GE/x02 [2/2] 報告
おもしろいです
14 : イル@もえぎいろのたま 18/03/20 18:43:33 ID:NC13DQqU [1/3] 報告

「心底どうでもいいと思ってる。未練なんてないし、その後セレナがどうなるかについても興味がこれっぽっちもない」
「ふうん。でも、」

しかし、サナは僕のこの返答も予想していたようで。

「でも、さっき狼狽してた。心底どうでもいい奴がヨリを戻したいって言っても、普通そこまで取り乱すかな?」
「狼狽してなんかない」
「してた。あれはどう考えても狼狽していたよ。世界中の誰に聞いても、カルム以外は全員してたって答えると思う」
「むう……」

そうまで言われては黙るしかない。
口を閉ざした僕に、サナは畳み掛けるように。

「ねえ。カルム。本当はまだ、セレナに未練があるんじゃないの?」
「――――」
「まだ、付き合いたいって思ってるんじゃないの?」
「――――それ、は、ちが」

僕の言葉を遮って、サナは諭すように。

「……違わないよ。だってそうじゃん。今だって、明らかに動揺してるじゃん。私が何度ポケモンバトルを挑んでも、一回も見せたことなかった表情してるじゃん」
「――――」

言葉が出なかった。出そうとしても、形になる前に縫い目がほどけて紡ぐことが出来ない。
心臓の中心をボウガンかなんかで突かれたような心地がした。
……と、同時に。泉がちろちろと湧いてくるかのように、違和感が僕の心の中を一杯にしていく。
サナ、変わったな。昔は、……六年前にカロスを巡ったときは、こんなふうにカマ掛けてきたり、理論攻めなんてしてきそうにもなかったのに。
いつの間にか、こんな。大人みたいな交渉術っぽいものを身に付けてしまって……。

……大人?
15 : ニョニョ@せいなるはい 18/03/20 18:59:48 ID:NC13DQqU [2/3] 報告
評価にすら思いっきりまにあわなそうです
ごめんなさい
16 : ビヨン@みずたまリボン 18/03/20 19:01:16 ID:4XewCv/I m 報告
ポケモンでやる必要があるのかひたすら謎
女性誌でひそかに連載してそうな感じ
17 : ッポ@はっきんだま 18/03/20 19:04:54 ID:JtgInDa2 報告
いい
18 : ミカラス@イリマのノーマルZ 18/03/20 19:09:51 ID:Q9gSZGtk m 報告
続きが気になる
19 : ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/03/20 21:33:57 ID:NC13DQqU [3/3] 報告

「……なあ。サナは何でこんなことしてるんだ?」

気付いたら、俺は言葉を発していた。

「わざわざ電話までかけてきて、どうしてサナは俺にあんな答えにくい質問をぶつけてくるんだ? 暇なのか?」
「……そんなわけないじゃん」

初めて、サナが目を逸らした。

「私は、……私は。二人に恋人のままでいて欲しいだけなんだよ」
「サナ……それは、」僕が言う前に、サナは苦笑を浮かべてかぶりを振った。
探偵ドラマのクライマックスで真相を突き止められた犯人が浮かべるような、諦念が色濃く滲んだ苦笑だった。
「分かってるよ。こんなのは単なるエゴだって。駄々こねだって。……分かってるんだよ」

今では見えなくなってしまった何かに語りかけるように、サナは空を仰いだ。

「けどさ。それでも、やっぱりそれでも私は、二人に付き合っていて欲しい。いつまでもカップルでいて欲しい。私の北極星達には、お互いに一緒にいて欲しい。これがただのわがままなのは分かってるけれど、それでも私は一緒にいて欲しいんだ。じゃないと、」

目を閉じて、言葉を噛み締めるように、緩やかに零れ落としていくように。
彼女は、ぽつりと。

「――身を引いた私が、馬鹿みたいに思えてくるから」

ぽつりと。
サナの目から、透明な何かが滲み落ちるのが見えた。
僕は、やはり、何も言えなかった。……ただ一つだけ。カマ掛けてきたり、したたかに話を持っていったり。大人みたいな交渉術(?)を会得していたサナだけれど。
目の前で死刑宣告を受けたかのような彼女を眺めていると、大人みたいだとは微塵も思えなかった。

20 : ーブシン@サンのみ 18/04/02 20:14:12 ID:XXhdrCUA 報告




――むずむずする。
サナが逃げるように電話を切った後、僕は得体の知れない気味悪さに駆られていた。
喉元の辺りにしこりを感じるような、胸の内で寄生虫のような何かが蠢いているような。何か言いたいことがあるのに、それを形にすることはできなくてもどかしいというか。しなければならないようなことがある気がするし、してはいけないことが大量にある気もする。

溜め息を吐いた。

「……はあ」

コップに水を汲んで、一気に飲み干す。しかしそれでも胸のしこりは取れそうにない。
もう一度溜め息を吐いた。

「……はあ」

脳裏にさっきのサナがちらついて離れない。
些細な発言の言質を取り、カマ掛け、理論攻めする、大人の顔のサナ。
死刑囚のような表情をしていた、エゴの塊を吐き出した、子供の顔のサナ。
前者を見た僕は、彼女も年月を経て変わったと思った。だけど、後者を見たらやっぱり彼女は変わっていないように見える。
結局、サナは大人になったのか。それとも子供のままなのか。

再三、溜め息。

「……はあ」

大人になるってなんだろう。子供ってなんだろう、大人ってなんなのだろう。
ただ年月を経れば大人になれるのか。それとも、中身が成長していなければ子供のままなのか。
例えば、不相応にも空に輝く太陽を手に入れたいと思ったり。胸の内に腐ったどろどろを日々積み重ねたり。自分の黒い感情を押し通そうとしたり。
そういう子供みたいなものの一切を排して『成長』すれば大人になれるのだろうか。……まさか。そんな筈はないだろう。それは流石に分かる。
21 : ルトロス@ドラゴンのホネ 18/04/04 00:14:15 ID:BGhpk18g m 報告
支援
22 : ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/04/04 18:12:21 ID:83YpWSTI [1/4] 報告
しかし、それじゃあ大人になるとはなんなのだろうか。……それは、分からなかった。
一滴の光もない中で、遠泳を強制させられているかのようだ、とぼんやり思う。泳げど泳げど真っ暗闇。後どれくらい泳げば向こう岸に辿り着けるのか全く分からない。もしかしたら、向こう岸なんて存在していないのではないかとすら思えてくる。
うつむいて、僕は四度目の溜め息を吐こうとした。が、視界に見覚えのない黒い小さな箱が入り込んできて、息を溜めるのをやめてしまった。
ただの息が口から抜け出ていくのを感じながら、僕はその箱を手に取った。

「なんだこれ。いつこんなものを――」

買ったんだっけ、と言おうとして、『チョコレート効果』と書いてあるのが目にとまった。

「――ああ、なるほど。そういえばセレナに貰った後、一個も手付けずに放置してたんだっけ」

呟きながら、僕は数週間ぶりにカカオ75%をつまんだ。あのときと同じように包装紙を剥がし、口に放り込む。
当然のように広がる苦味を味わいながら、僕は、そういやあれからセレナと会ってないなあと思った。
今でも一応お隣さんなのだから、一週間に一回くらいは会うかもしれないと考えていたのだが。まあ、数週間程度ならこういうこともあるのかもしれない。
とはいえ、一時期はほぼ毎日のように会っていたことを思えば、今は結構珍しいことかもしれないけれど。トロバ辺りが聞いたらビックリするんじゃなかろうか。「あんなに仲が良かったのに」なんて、目を思いっきり見開いて。

――だから、応援していたのですよ。二人のこと。

不意に、胸がちくりと痛んだ。

――僕らの光、ポラリスとでも言うべき二人が付き合うと聞いたとき、僕は心の底から嬉しかった。心底祝福したんですよ。……したんです、けどね。

以前あったときに言われた悪気のないエゴが、矢となって僕の心を掠めていく。

――子供時代の色々が過去のものになっていくのも仕方のないことなのかもしれないねぇ。
23 : ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/04/04 18:13:05 ID:83YpWSTI [s] [2/4] 報告

どこか自分に言い聞かせるようなティエルノの言葉が。

――私は、二人に恋人のままでいて欲しいだけなんだよ。

サナが。

――じゃないと、身を引いた私が馬鹿みたいに思えるから。

いつの間にか三人は僕を取り囲むように突っ立っている。どこか虚ろな目をして、以前言った台詞をうわごとのように呟いている。その言葉の一片一片が僕の心を掠め、貫こうとしてくる。まるでどこかの宗教結社の異端審問のようだ。あるいは宗教裁判。
大人になりかけの子供が、子供時代の煌めいた思い出に囚われて――信仰しているのだ。
負けてたまるか、と叫んだ。

「皆は! 僕への憧れを、それに起因する不満と失望を、エゴをぶつけているだけじゃないか! 憧れるのはいい、だけど憧れを僕を縛る鎖にしないでくれ! 僕のやりたいことをやらせてくれよ!」

そこで初めて、サナが新しいことを言った。

「でも、それだってカルムのエゴじゃない」

……息が出来なかった。

「前に私言ったよね。まだセレナに未練があるんじゃないのって。セレナと付き合いたいんじゃないのって。教えてよカルム、君が本当にしたいことって何なの?」
「それ、は……」

――この喫茶店に来店したときはまだ私達恋人だったわけだし、恋人じゃなくなるのは喫茶店を出てからにしましょうか。
――……は?
――じゃあそういうことで。お会計、よろしくお願いします。
――なんだあいつ。……次会ったときは、絶対にフラペチーノ代払わせてやる。

……そういや僕、結局フラペチーノ代貰ってないなあ。
僕は深く息を吸い込むと、
24 : ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/04/04 18:13:52 ID:83YpWSTI [s] [3/4] 報告

「――セレナに会いたい。会って、こないだのフラペチーノ代を払わせたい」

きっぱりと、拒絶するように、自分に言い聞かせるように宣言した。
サナは眉を寄せる。

「本当に? それが、本当にカルムのしたいことなの?」
「……ああ、本当だ。これが正真正銘、今の僕がやりたいことだよ」
「……ふ〜ん」

サナは疑わしげに目を細めたが、やがて肩をすくめると、

「……まあ、いいか。少なくとも、セレナに会いたいって気持ちは本当だろうしね」
「おい、僕がセレナに会いたくて堪らないみたいな言い方は止めて貰おうか。セレナに会いたいのは確かに本当だが、それはフラペチーノ代を払わせたいからでだな」
「はいはい、分かってる分かってる」

少しも分かってなさそうに言うと、サナは背を向けた。同時にトロバとティエルノも背を向ける。
そうして全員が僕に背を向けたのを確認すると、三人は遠くへと歩き出した。
僕は呼び掛ける。

「おーい、本当に分かってんのか? っていうか、どこに向かおうとしてるんだ?」

サナは歩きながら首だけ僕の方に向けると、

「ねえカルム、セレナから聞いたんだけどさ、バレンタインチョコ貰ったんだって?」
「ああ、貰ったけど……っていうか、質問に答えろよ」

僕の言葉を綺麗に無視して、

「お返し、ちゃんと考えておいてね!」
「いや、だから……って、お返し?」

ようやくいつものようににししと笑うと、前に向き直り、そのまま歩き出して――
25 : ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/04/04 18:14:18 ID:83YpWSTI [s] [4/4] 報告
「……夢?」

起き上がりながら周りを見回す。当然のようにサナ達の姿はそこにはなかった。というか、形跡すらない。あるのはセレナから貰ったチョコレート効果の箱だけだ。
手を伸ばそうとして、やめた。今は苦いものより甘いものの気分だった。
……そういえば、夢のサナはお返しだなんだって言っていたな。

「ホワイトデーに会えってことか……?」

ホワイトデー、それはチョコを貰った男がお菓子をお返しする日。チョコを貰った男はこの日に貰った分の三倍のお菓子をお返ししないと女子社会にてドブネズミのような扱いを受けるとかなんとか。
それが事実かどうかはともかくとして、確かにこれはセレナと会うのにちょうどいい口実だ。お返しの品を用意しなきゃいけないのは若干面倒くさいが、まあ安いものだろう。
問題は、セレナに連絡しなければいけないことだが……。まあ、なんとかなるだろう。
僕はホロキャスターを取り出すと、えいやっとセレナの番号を打ち込んだ。少しでも躊躇したらなんとなく一生通話出来ない気がしたので、すぐさま発信ボタンを押す。
一コール。
二コール。
三コール目で、目の前に半透明のセレナが現れた。
彼女はいつものようにクールな表情で、「久しぶりね」と言った。

「ご用件は何かしら?」

ひょっとしたら出て貰えないかもしれないと思っていたので、正直ホッとしながら。
なるべくいつもの通りになるように繕って、僕は言った。

「久しぶり、セレナ、いきなりで悪いんだけど、十四日って暇かい?」

26 : ングドラ@ドクZ 18/04/04 18:27:22 ID:AF/jTGL6 報告
支援
27 : ラカッチ@こだわりスカーフ 18/04/04 18:28:28 ID:jvos7I9E [s] m 報告
もうとっくにホワイトデーのことなんか頭にないわ
28 : カシャモ@ゴツゴツメット 18/04/04 18:30:32 ID:/qg0RSKI [s] m 報告
冒頭からクドくてキモいわ
29 : モネギ@モンスターボール 18/04/05 00:21:42 ID:usciIAPM [1/4] 報告





――十四日、当日。天気は、快晴とは口が裂けても言えないが、さりとて雨が降っている訳でもない、ぼんやりとした曇り。
約束のカフェに赴いた僕は、どうやら先に来ていたらしく、窓際の席で退屈そうに頬杖をついたセレナを発見した。金髪が日差しを吸収し、金星のように輝いている。本人の端正な顔立ちと合わさって、嘘臭く感じられるほど美しく見えた。
暫し立ち竦んでいた僕だったが、やがて向こうがこちらの存在に気付いたらしく、ちょいちょいと手招きした。店内とあって外まで聞こえる声は出せないのか、「ちょっと、カルム? そんなところで何ぽけーっと突っ立ってるのよ。邪魔だからさっさと店内に入ったらどう?」と口をぱくぱくさせている。

「へいへい、分かりましたよ分かりました」

呟いて、入店する。
店員のいらっしゃいませという声を聞き流しながら、すたすたとセレナの元へ向かった。僕が近付いてきたことを認識した彼女はわざとらしくむすっとした顔を浮かべると、

「遅かったじゃない。レディを待たせるなんて万死に値するわ。どう責任とってくれるのかしら」
「言うほど遅くないだろ、待ち合わせ時間の十分前だ。どちらかって言うとセレナが早すぎるんだよ」
「あら、そうやって言い訳するつもり? 残念だけど、あなたがどう言い繕っても私が何分も待たされたという事実は覆らないわ。ちょっとは謝ったらどう?」
「……まさか、それ言うためだけに早く来たとかじゃないよな」
「さて、どうかしら。好きなように想像してくれて構わないわよ?」

こいつ……。
勝ち気な笑顔でウインクしたセレナを尻目に、僕はどっかりと席に着く。と、テーブルにフラペチーノが置いてあることに気が付いた。

「……また飲んでるのか、それ」
「ええ。意外と美味しくてね」
「気に入っちゃったのか、なるほどなるほど。それは結構。……何だよ、じろじろと見てきて。言っとくけど、奢んないぞ」
「心配しなくても、自分で払うわよ。もう私たち、ただのお隣さんなんだからね」
「……そうか」

『ただのお隣さん』、か。
30 : ドラン♂@まんぷくおこう 18/04/05 00:25:33 ID:usciIAPM [s] [2/4] 報告
セレナの方はそういう認識だったんだな。
急に黙りこくってしまった僕を、セレナは怪訝そうな顔で。

「ねえ、どうしたの? いきなり黙りこくってしまわれると、ちょっと困るのだけど」
「あ、ああ悪い。ぽけーっとしてた」

セレナは閉口した。

「惚けの入った老人か何かかしら。大人になったと言ってたけど、そこまでだったとは思わなかったわ」
「やかましい。なら後で、僕がボケてないって証明のためにポケモンバトルしようか?」
「別に構わないけど……あなたって本当にポケモンバトル好きね」
「とか言いつつノリノリの癖に。バトルしたくないんだったら「別に構わない」なんて言わないんだよなあ」
「当たり前じゃない。何だかんだ、久しぶりに会ったんだから。この一ヶ月、妙に退屈だったのよね」

……退屈だったのか。
内心の動揺を表に出さないようにしつつ、僕は。

「よし、そういうことなら決まりだね。ルールは6on6のフルバトル。場所はキナンシティの広場。……要するに、いつものルールだ」
「変わり映えしないわね」
「ほっとけ。変わらないからこそいいものもあるんだ。セレナだっていきなりルール変えられても困るだろ?」
「まあ、そうね」

同意したセレナに満足した僕は、続けて、

「で、懸けるのは僕がボケた老人なのか否か、という証明。……それと、このフラペチーノ代だ」
「フラペチーノ代?」 意外に思ったのだろう、セレナは首を傾げて、
「でも、今日は元々私が払う予定だったんだけど。私が負けても、あまりデメリットはないんじゃないかしら」

僕は首を振った。
31 : メックス@やけどなおし 18/04/05 00:25:59 ID:usciIAPM [s] [3/4] 報告
「今日のやつは勿論セレナに払ってもらうぞ。当たり前じゃないか。今回懸けるのは、前会ったときに何故か奢らせたフラペチーノの代金だ。セレナが負けたらあの時の代金を僕に支払ってもらう」
「うわぁ……」

あからさまに引いた表情で、セレナは。

「……根に持ってたのね」
「まあ、大体そういうところかな。……おいやめろ、引くんじゃない、これじゃ僕がくそ人間みたいじゃないか」
「私が言うのもなんだけど、みたいじゃなくてそのものじゃないかしら」
「やかましい。ほら、そのフラペチーノ飲んだらさっさと出るぞ」
「ええ。もう出るの? あなた飲み物頼んでないじゃない」
「そんなものよりバトルのがしたい」

溜め息。
セレナは苦笑を浮かべて、

「全くあなたって人は。筋金入りのバトル狂なのね」

と言うと、フラペチーノを飲み始めた。
なんだかこそばゆくなって、外の景色に目を向ける。
相変わらず、太陽は雲の中に引きこもっていて、一向に出る素振りを見せない。一方で、雨が降る気配もやっぱりない。
よく創作では、印象的な出来事は特別な背景で行われる。わざとらしすぎて胸焼けするくらい「絵に映える」背景がよく使われるのだ。
が、それはあくまで創作世界においての話だ。現実において、そういう背景は印象的な出来事には付随しない。創作は創作、現実は現実なのだ。
だから、今日の天気が特筆に価しない極めて中途半端なものであったのも、まあ当然だったのだ。

フラペチーノを飲み終わる音が聞こえた。



32 : ラベベ@カロスエンブレム 18/04/05 00:27:19 ID:usciIAPM [s] [4/4] 報告
これで終わりです。
超遅れてすみませんでした。
33 : ョロボン@シルクのスカーフ 18/04/05 03:47:41 ID:/T4UInp6 報告
おつ