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【ホワイトデーSS】君へのお返し【マグナゲート】

 ▼ 1 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 18:02:21 ID:yB7OdwBU [1/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







――私、あなたが好きだった。






 ▼ 229 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 21:57:04 ID:yB7OdwBU [2/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○

僕は、力を振り絞って身を起こす。

クレアが戦っている。

僕が行って何ができるでもないけれど、だけど、駄目だ。

僕は諦めていない。

少しでも前へ。

少しでも、近くへ。


「氷触体……負けねぇぞ」
 ▼ 230 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 21:58:08 ID:yB7OdwBU [3/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ◇

何度攻撃しても、氷触体は壊れないどころか、傷ひとつ付かない。

硬い。とぐろを巻いてリーフブレードで斬りつけても、ギガドレインで何か吸い取ってみても、何も起こらない。


「こんなに……駄目! 大丈夫、私、やれる」


自分に言い聞かせる。

そうしていないと、絶望に呑み込まれそうだった。


「ク……レア……」

「リオ?!」

「大……丈……夫……だか……ら……」

「でも! リオ、無茶しないで……」

「無茶じゃ……ないっ!」


リオはふらふらと立ち上がると、氷触体めがけて体をぶつけた。

失望の風がリオを薙ぎ払う。リオは吹き飛ばされて、体を浮いている机にぶつけた。


「リオっ!」

「まだ……まだぁ……」


リオはまた、宙を泳ぎ、氷触体にぶつかる。

私はツタを使って、弾き飛ばされたリオを受け止めた。


「リオっ! もうやめてよっ! 私がやるから!」

「人間の……弱っちい体も……壊せないようで……何が……世界だ……」


リオが、ニヤリと微笑んだ。

その口から、血が流れ出す。
 ▼ 231 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 21:58:29 ID:yB7OdwBU [4/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……壊れてるじゃないの。リオ、やめてよ……」

「僕も、やら、なきゃ……」

「違うよ、私に任せてよ……リオが全部背負う必要なんて、ないんだから……」


リオは、何も答えない。

私は、え、とリオを揺する。


「リオ? リオ?! 返事して! リオ、リオ! リオ……」

「……静かに」

「え」

「聞こえる……」


私は黙りこくる。

……声が聞こえた。
 ▼ 232 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 21:59:03 ID:yB7OdwBU [5/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――


梠辺は、ツイキャスで学校の様子を生配信しているらしい。


「今……ヤバいけど……でも、あの中で、ヒーローが戦ってるから……みんな、応援よろでーす……」


声を晒し、学校まで晒して、それでも彼女は訴えかける。

本当に、凄い。


命の声「感じる……この放送は、優しい声で溢れてるって……」

「デマ乙……みたいなコメントが……あったと……しても?」

命の声「割合的にはね……。この子、凄過ぎだよ……」


呆れたように言った。


「頑張れって……諦めるなって……応援プリーズ! ……へへ」
 ▼ 233 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 21:59:48 ID:yB7OdwBU [6/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○◇

声が聞こえる。

頑張れって。諦めるなって。

その声が、往くべき道を指し示している。


「ほんとだ……声が……」

「希望の声が……聞こえる……」

「行ける、よね、クレア」

「……うんっ!」


僕は、
   氷触体を見据えた。
私は、

風が弱まって来ている。

これなら、行ける。

僕の体から、鈍痛が消えた。

私の心から、絶望が消えた。

僕は、クレアに指示を出す。


「クレアっ! とぐろをまくっ!」


私は、リオの指示を聞いて、行動に移す。


「来るよしゃがんでっ!」


咄嗟の僕の言葉に、私は身をかがめる。


「そのままリーフブレードっ!」


私の攻撃は、見事に氷触体にぶつかる。

ピキリ、と音が聞こえる。


「やった!」


僕は
  叫ぶ。
私は
 ▼ 234 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:00:33 ID:yB7OdwBU [7/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「続けるよクレアっ!」

「了解っ!」

「「リーフブレードっ!」」


また、斬りつける。

私の尾が、鋭い刃となって氷触体を破壊する。


「跳んでっ!」


僕の声が私の耳に届き、失望の風を回避する。


「もういっちょ! リーフブレードっ!」

「うおおおおおりゃぁぁああああああ!」


氷触体はまた、音を立てて砕けていく。


「行けるっ! クレアっ!」

「うんっ!」

「「リーフブレードっ!」」


僕の
  声が重なる。
私の


「行けるっ!」

「勝てるっ!」

「「救えるっ!!」」


私は、何度も何度も、リーフブレードで斬りつける。

僕は、攻撃にその都度、回避の指示を出す。
 ▼ 235 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:01:10 ID:yB7OdwBU [8/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ひとりだけじゃ」

「1匹だけじゃ」

「勝てなかった」

「耐え切れなかった」

「「だけど!!」」

「僕には」

「私には」

「みんながいた」

「仲間がいた」

「「そして」」

「クレアが
     いたっ!!!」」
「リオが

「僕たちは支え合って」

「迷惑も掛け合って」

「それでも一緒に」

「生きていくっ!」

「邪魔……」

「……するなぁっ!」


「「リーフブレードっ!」」
 ▼ 236 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:01:51 ID:yB7OdwBU [9/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
氷触体を取り囲む硬い結晶が、砕け散った。

漆黒のコアがあらわになる。

僕と、私は顔を見合わせて、頷く。

そして同時に、それめがけてタックルした。

鈍い音が響く。

ピキリピキリとひびが入り、そして、そこから眩い光が漏れ出して。

僕は
  その目を覆う。
私は

急に重力を感じ、ドサリと地面に叩き付けられる。


「やった……」


僕の口から、そう漏れた。
 ▼ 237 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:02:33 ID:yB7OdwBU [10/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

ふと、頭痛が消えた。

学校から強い風が吹き抜けて行ったと思うと、それはもう、消えていた。


「今の……」

「やったんだ」


梠辺の言葉を俺が引き取った。

梠辺がスマホに向けて快哉を叫ぶ。


「やった! 勝った! みんな応援ありがとー!」


そのハイテンションな配信を見て、少し微笑む。

それから学校の方へ視界を移し、そして……気付いた。


命の声「……2人が、やったのよね」

「ああ。だけど……」


宙を漂う学校。それが、氷触体の浮力を失い……。


「落ちるっ!」


忘れていた。落ちるのだ。

どうしろって言うんだ、あんなどでかい建物を。

物理の細かい計算は覚えてないけれど、質量が大きければぶつかった時の衝撃もデカくなる。

きっと、学校は大破する。

中にいる木場とツタージャも、無事では済まない。


木場っ!


俺は叫ぶ。


「逃げろっ!」


どこへ。わからないけれど、それしかできなかった。


「逃げてくれっ!」
 ▼ 238 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:03:10 ID:yB7OdwBU [11/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ◇

外が見える。次第に、その高度を減じて行く。


「リオ、どうしよう、落ちるよ……」


リオはぐだりと倒れ伏し、何も反応できずにいる。

今更になって襲って来た痛みがたぶん、リオを縛る。


「どうしよう……」


私も私で、限界だった。

類を見ない程の激しい戦いに総力をぶつけた結果、もうエネルギーはすっからかんだ。

思考なんて、できやしない。


「リオ、起きてよ、リオ、ねえ……」


リオはそれでも、動かない。

死んではいない。脈はある。けれど……。


「絶対に、生きて帰るって約束したでしょ?! リオ、起きてよ、起きて……」


そうしている間にも、どんどんこの建物は落ちて行く。

地上までもう、時間がない。


「どうすればいい、どうすれば……帰らないと、どうやったら帰れる……帰る?」


その言葉を捉え、私は叫んだ。


「これだっ!」


私はリオをツタで掴むと、意識をとろかした。

リオ、一緒に来て。

今のあなたの意識はきっと、私と共にある。

だから、行こう、リオ。
 ▼ 239 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:03:35 ID:yB7OdwBU [12/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ぽちゃり、と水音が響く。

私の体は、その中をリオと共に進んで行く。

ひとつになる。重なり合う。混ざり合う。

私とリオの境界線が融けていく。


「リオ、大丈夫だから」


私はそう、語り掛ける。

リオはゆっくり頷いた。


「一緒に、帰ろう」


「パラダイスへ」


「私たちの夢が詰まった、パラダイスへ」


「みんなが待ってるから」


「行こう」


私の声なのか、リオの声なのか。

もう、何もわからない。

ただただ、心地よかった。

リオとひとつになったその感覚は、ゾクゾクする程に気持ちいい。

その快楽だけを頼りに、私は進む。

けれど、至福の時間は終わってしまう。

私とリオの魂は引き離され、それぞれの形を創る。

キバゴと、ツタージャ。

私たちの、その姿。

待って。離れないで。

その願いも虚しく、私たちは家にいた。
 ▼ 240 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:04:03 ID:yB7OdwBU [13/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○

夢を見ていた。

もし僕が、ずっとこっちの世界にいたのなら。

きっとクレアと、ひとつになっていた。

そんな感じの夢だった。



「おはよう、リオ」


目を覚ました僕に向けて笑い掛けて来たのは、クレアだった。

僕は目をこすりながら立ち上がり、そして、笑った。


「おはよう、クレア」
 ▼ 241 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:04:54 ID:yB7OdwBU [14/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――

学校が、大地と衝突した。

その衝撃は、圧巻だった。

こういう情景を描写できない俺は、まだまだだ。そんな場違いなことを考えてしまうぐらいには、凄い。

茫然とそれを眺めていると、命の声が言った。


命の声「リオとあの子の声が……消えた」


我に返り、呟く。


「嘘……だろ?」

「先輩……そんな……」


俺は学校へ向けて走り出す。


「木場っ! 木場っ! 生きてろっ! 生きてるんだろ?! 返事しろ木場っ!」


がれきの山と化したグラウンドを駆け抜け、俺は闇雲に声をあげる。ひたすらに、その名を呼び続ける。


「クソやろっ! 俺が、レントラーなら……すぐに見付けられるのに……」


涙が滲む。

倒れた木場が消えた時、俺は、嬉しかったんだ。

なんとなく悟ったから。あいつもポケモンなんだって。

初めて、体験を共有できる相手と巡り合えたこと。

ポケモン世界のよさを真に語り合える相手と巡り合えたこと。

この世界で生きて来た中で、トップクラスに嬉しかった。

それなのに、ロクに話もしない内に終わりだとか、嫌だ。

あいつとなら、俺はなんでも話せる。

俺の過去だって、体験だって、全部。

まだ。


「まだ、転生記読み終わってねぇだろうがよ……」


がれきの山の上、僕はがっくりと、膝をついた。
 ▼ 242 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:05:52 ID:yB7OdwBU [15/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○

「……えっと、どうなってるんだっけ」

「氷触体ぶっ壊して、学校が落ちるから、逃げて来た」

「そっか。ありがと、じゃあ、クレアが助けてくれたんだ」

「そういうこと。やっと、やっと肩を並べられるよ」

「え?」

「お返し。世界を救ってくれたから、私も世界を救った。

 これで、やっと対等だよね」


クレアはニコリと微笑む。


「……気にしなくてもよかったのに。でも、うん。これからは、一緒だ」

「ありがとう。……そうだ、お返しで思い出したけど、バレンタインチョコの感想教えてよ」


僕は思わず吹き出した。


「今更?」

「もちろん。なんならホワイトデーのお返しくれたっていいよ?」

「わかった。約束な。でもそれよりも今は、一旦帰りたい」

「え?」

「小林、梠辺、それから命の声。あそこにいた3人は、僕たちのことを心配してるはず」

「あ、そっか」

「クレアは、みんなに報告しておいてくれないか? 僕も、僕の世界も無事だって」

「うん。じゃ、上手い事分業ってことで」

「よろしくね」


僕は手を差し出す。クレアもそこに手を重ねた。


「ありがとう」


どちらからともなく、そう言った。
 ▼ 243 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:06:29 ID:yB7OdwBU [16/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ◇

「おーい!」


私は声をあげる。

広場には、みんないた。


「たっだいまー!」

エーフィ「クレアっ! お帰りっ!」


みんなが駆け寄って来る。

サザンドラを除いて。


「ただいま。あれ、サザンドラどうしたの?」

ノコッチ「お疲れ様のごちそうのつもりだったんだけど……ほら、飯抜きって言われてさ」

「あ……」
 ▼ 244 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:07:12 ID:yB7OdwBU [17/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エモンガ「で、リオは?」

「向こう。ニンゲンの協力者と話して来るんだって」

ビリジオン「なるほどね」

ブラッキー「そういうことなら仕方ないな。でも、1匹分余るな飯……」

ケルディオ「……まあ、いいんじゃない?」

「だね。サザンドラ!」

サザンドラ「どうせ私なんて……ブツブツ」

「ごはん、食べよう!」

サザンドラ「えっ、いいんですか?!」

「もちろん! 今日はパーティーだよ!

 リオがいないのは残念だけど……でもきっと、リオも向こうで楽しくやると思うし!」

サザンドラ「やったーーーー! ありがとうございますクレアさん!」


私たちは、爆笑した。

そう。このチームはやっぱり、最高だ。

私はリーダーだけど、みんなが私を支えてくれる。

無理しがちな私を、諫めてくれる。

それが私たちのチームだ。


「みんな……ありがとうね」
 ▼ 245 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:07:51 ID:yB7OdwBU [18/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○

目を覚ますと、グラウンドにいた。

そう設定したからだ。


「……えっ、先輩?」

命の声「リオ?!」


僕は体を起こす。

そして、辺りを見回す。


「小林は?」

「あっちです」


梠辺が指し示した先に、うずくまる小林がいた。

僕はそっちへ駆け寄り、それから言った。


「小林、ありがとう」

「え……木場?」

『泣くなって』


キバゴの言葉で話しかける。小林は涙に滲んだ顔を歪ませて、言った。


『……無事で、よかった』


なんのポケモンかはわからないが、確かにポケモンの言葉だった。


「これから、もっといろいろ、話そうな、ポケモンについて」

「言われなくても、俺だってそのつもりだ」


涙を拭い、小林はニッと笑った。
 ▼ 246 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:09:11 ID:yB7OdwBU [19/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
梠辺と命の声も僕たちの周りにやって来た。

まさに大団円って感じだ。


「先輩……無事でよかったです」

命の声「……ありがとうな、世界を救ってくれて」

「いや、でも僕だって、危うく諦めかけたよ。

 途中で、応援の声が聞こえて……」

「それは梠辺だ。全世界に動画配信したんだ。こいつ、フォロワー4桁行ってるらしいぜ?」

「キャスで配信したんで、8割に信じてもらえれば世界も動きますよー?」


梠辺はそう、自慢げに笑う。

そうだ。こいつの影響力は、味方に付けるとありがたい。


「ったく、すげぇやお前」

「でしょ。

 あの……先輩、ごめんなさい。私、全然考えてなかった。

 久瀬の事情なんて、そんなの、気にした事もなかった」

「……過ぎたことはしゃーないだろ。それよりも、その分これから、信じてあげることが大事なんだ」

「……みんなが殺されたのも、私のせいなのかな」

「それは……全く違う訳じゃないが、お前だけのせいでもない」


小林がそう言う。


「いじめってのは、やった奴もだし、傍観した奴だって等しく罪だ。

 誰のせいって言ったら、クラスメイト全員のせいだ。

 クラスメイトに同調していじめに参加したお前も、もちろん悪い。

 やり直せなんか、しない。

 だけど、それを受け止めて、変わることならできるだろ?」

「……うん」

「これから、変えて行こう」

「……はいっ! あの……小林先輩、好きです」

「……は?」
 ▼ 247 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:09:38 ID:yB7OdwBU [20/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「好きです! 付き合ってください!」

「……は?」


僕は思わず大笑いした。

命の声も笑っている。

享楽的な性格は相変わらずだけれど、自分を諫めてくれる小林が相手ならいいんじゃないの?

そんな風に思った。


「あのな? 俺無理だって」

「えー……」
 ▼ 248 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:09:57 ID:yB7OdwBU [21/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふたりを放っておいて、僕は命の声に語り掛ける。


「ねえ、これからどうすんの?」

命の声「どうしよっかな……。もともとこの世界の概念であって、実在ではないしなぁ……。

    望めば離散はできるし、一旦消えようと思います」

「そっか」

命の声「また危機が起きたら、頼んでいいか?」

「いや、僕だけに頼ってちゃ駄目だと思う。

 いつまた僕が、この世界から離れたくなるかもわかんないしね」

命の声「わかってる癖にー。そんなことありえないっしょ」

「……ずっと思ってたんだけど、性格一定しないね」

命の声「集合体だからね」


彼女はそう言って、笑った。


命の声「まあ、少しずつ、みんなが前向きになれるように。そしたらまた、私も元気になるからさ」

「だな」


その姿が、薄れていく。


「バイバイ」

命の声「ありがとうな、木場。向こうの命にも、そう伝えておいてください」


そして、彼女は消えた。

それを見届けて、僕は呟く。


「俺、この世界、大好きだ」
 ▼ 249 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:10:14 ID:yB7OdwBU [22/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







エピローグ 世界は輝きで満ちている






 ▼ 250 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:10:31 ID:yB7OdwBU [23/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○

あれから、この世界は梠辺のツイキャスを手掛かりにうちの学校であった大事件を報道した。

謎のヒーローの正体を考察するものも現れていたが、映りがいい訳でもなく僕に到達する人はいなかった。

増して、ポケモンであるツタージャがこの世界を救っただなんて、考えもしないだろう。

梠辺はノリノリで取材を受けたが、適当にはぐらかしてくれた。

だから、世界に起きかけていた惨事は、未然に防がれた。学校の損壊という被害を除いて。

それがこの事件の結末だ。

その間中、僕はずっと、家に隠れていた。

当たり前だ。不用意に外に出るのは危険でしかない。

父さんも母さんも、そんな僕を支えてくれた。

その間に小林のくれた物語を読み進めて行く。

そんな風に、忙しい時間を過ごしながらも、僕はひとりじゃないんだと感じて、幸せだった。

この世界は、素晴らしい。


――だけど。
 ▼ 251 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:11:04 ID:yB7OdwBU [24/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ◇

あの事件以来、リオは来ない。

きっといろいろ忙しいんだろう。そうわかってはいる。

だってリオは、英雄だ。私たちがリオをそうしたように、あの世界もきっと今頃、リオを讃えている。

だけど、寂しかった。

あんな風に戯れに口にしたホワイトデーのお返しだけど、それでも少し、期待していた。


「リオ……元気かな。疲れてないといいけど」


私のそんなため息は、空へと融けて行く。
 ▼ 252 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:11:28 ID:yB7OdwBU [25/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しばらくは、いつもと変わらない日常を過ごした。

依頼をこなし、ごはんを食べ。

でも折々に思い出される。リオの不在を。

たまに、押し掛けようかと思う時もある。

だけど、あの世界ではたぶん、私はイレギュラー。

不用意に行っちゃいけない。

それをわかっているから、なおさら辛い。

リオ、会いたいよ。
 ▼ 253 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:11:51 ID:yB7OdwBU [26/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○

向こうの世界には、行けなかった。

ホワイトデーのお返しという約束をしたはいいけれど、僕は向こうに、何も持っていけないから。

じゃあ、どうしようか。ずっと一緒にという約束を破って以来、僕は極力、クレアとの約束は守るようにしている。

だから、ホワイトデーのお返しもなしに向こうへ行くのは嫌だった。

けれど、どうしようもない。その言い訳を並べ立てるのも嫌で、僕は向こうへ行けない。

結局は問題の先延ばしでしかないということはわかっている。でも、持っていけないものは仕方ないのだ。

かと言って、こちらの世界でクレアを連れ出すことも不可能だ。こっちの世界で渡すことも難しい。

じゃあどうすればいい、と悩んでいる内に3月も13日になってしまった。

あーと悩んでいると、小林からラインが来た。


「今日、お前んち行っていい?」

「いいよ」
 ▼ 254 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:12:09 ID:yB7OdwBU [27/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「どうしたんだ?」


やって来た小林に僕は問う。

彼は机に置いてある原稿を見て、言った。


「読んでるのな」

「グロ長いけど」

「わりぃ。そのぐらい書かないと、語れなくって」

「んで、どうしたんだ?」

「いや……なんか、無性にポケモンの話がしたくなって」

「はあ」

「……んだよ乗り気じゃねぇな?」

「今さ、考え事してて」

「ん? なんだよ。相談乗ろうか?」

「頼めるか?」
 ▼ 255 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:12:30 ID:yB7OdwBU [28/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
伝え終えると、彼は呆れたように笑った。


「木場って頭いいのに、どっか抜けてるよな」

「は?」

「誰かがここに何かを買ってきてくれれば、ここにクレア? って言うんだあのツタージャ。クレアを連れて来ればいい話じゃん」

「……あ」

「パシリになっていいよ。何か買って来ようか?」

「じゃあ、明日……」


いろいろ考えて、それから僕は結論を出す。

こっちの世界の文明の象徴、ハンバーガーしかありえない。


「お菓子じゃねぇじゃん」

「気にするな。僕にはクリスプをお願い」

「ハイハイ。じゃ、後払いで200円ね」

「了解、ありがとう」

「んじゃ、話そうぜ」

「いいけど……何について?」

「じゃあ……なんで、俺の周りでこんなにポケモンの事件が起こるのか」


小林の疑問は、もっともだった。

小林に始まり、僕、それから久瀬。

ポケモン世界との接触は、この近辺だけで3回もある。

それは僕も気になっていた。


「ああ、それはそう」
 ▼ 256 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:13:18 ID:yB7OdwBU [29/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「引っ越した訳じゃないんだろ?」

「ああ。ずっとこの辺だ」

「じゃあやっぱ、この辺になんかあるってことだと思うんだ」

「うん。なんでだろうな」

「たぶん……さ。これのせいだ」


小林は、あの日僕たちを繋いでくれたメガストーンを取り出した。

あの時こいつは言っていた。これは、レントラナイトだと。

恐らくそれは、事実だった。


「これが、マグナ風に言うなら宇宙律に影響を与えて、繋がりやすくしてるんじゃないかなって思うんだ」

「ああ、なるほど」


そういう訳なら、納得がいく。

確かに、向こうの世界のものがあれば、バランスは崩れそうだ。


「……でもさ、思っても、捨てられねぇ。だって、俺とアカリを繋いでくれる、唯一の証拠だから」


アカリ。彼を捕らえたトレーナー。僕はまだ、ヨスガまでしか読んでいないけれど、きっとここからいろいろあるのだ。


「……ごめんな。俺のワガママで、2回も巻き込んだ」

「いいよ。むしろ、感謝してる。僕、中学受験に落ちて、でもこのお陰で立ち直れたから」

「……これからも、また俺の周りで事件が起こるかもしれない」

「かもな。それで命を落とした奴だっている。大迷惑だ。

 でも……少なくとも僕は、その石のお陰で幸せになった。梠辺だって変わった。

 ……そういうもんだ、人生って」

「……ありがとな」

「こっちこそ」
 ▼ 257 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:13:35 ID:yB7OdwBU [30/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここで、湿っぽい話は終わりになった。

ここから僕は、僕の知るマグナゲートの世界のその後を夕方まで語り通した。


「じゃ、またな」


と言って別れたその日の夜9時、小林に頼んでハンバーガーを買ってきてもらった。

危うく時差を忘れる所だった。

深夜料金として50円割高になってしまったけれど、そのぐらいは些事だった。


「んじゃ、行って来るわ。ありがとな」

「いいってことよ。んじゃ、またな」


小林を見送って、僕は部屋へと戻って行く。

そして、意識をとろかした。
 ▼ 258 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:13:59 ID:yB7OdwBU [31/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ◇

目を覚ますと、リオがいた。

私は目を見開き、それから抱き着いた。


「ホワイトデーのお返しがしたくって」

「! ってことは」

「いや、こっちには何も持って来られないから、向こうの僕の家にあるんだ」

「え……」

「後で、来てよ」

「……うん!」


それから私は、リオと一緒にパラダイスを巡り、それからみんなに指示を出した。

サザンドラは相変わらずみんなにお返しを求めるし(あげてもないのに)、ビリジオンはあげてもないのにチョコをいっぱいもらってる。

ブラッキーとエーフィは相変わらずのラブラブぶりを発揮していた。


エーフィ「クレアたちも、いよいよか」


おいしそうにブラッキーの手作りチョコを食べながら、エーフィがそう笑った。

私たちは照れながらも、こくりと頷く。


ブラッキー「お、ついに認めた」

エモンガ「このこのー」

ケルディオ「ひゅーひゅー!」

「……やめろ」

ノコッチ「まあでも、わかってるよ。2匹の間は誰も邪魔できないってね」

ビリジオン「そうね、ラブラブだもの」

「やめてよもうっ!」

サザンドラ「リオさん! 私の分は?!」

「……仮にあったとしても持って来られねぇし」

サザンドラ「ガーン……どうせ私なんて……ブツブツ」

「アハハ……。それじゃあ、私、行って来るね」


みんなに手を振って、それから私は、リオと手を繋ぐ。
 ▼ 259 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:14:48 ID:yB7OdwBU [32/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目を覚ました時、私はふかふかとするものの中にいた。


「これ何?」

「布団だ」

「えっ、これが?! 凄い……」


布団に触れる。もふもふする。何度も何度ももふついていると、リオが笑った。


「そんなにしても何もないって。

 それよりもクレア、あれがそのお返しだ」


リオが指し示した先には、袋に入った何かがある。

独特の匂いを醸し出すそれを見て、私の口の中にはよだれが溜まって行く。


「何あれ」

「ハンバーガー。人間文明の象徴だ」

「へえ……」

「旨いぞ? 体にはよくないけどさ。あ、ホワイトデーのお返しだけど、お菓子じゃない。

 甘くないから気を付けてな」

「わかった」


私は袋を剥ぎ、それからその、茶色に挟まれた濃い茶色を見て、思う。

これが、食べ物……。

だけど、食欲を刺激するその匂いには抗えず、私はそれにかじりつく。


「おいしい! 何これ凄い!」


口の中に広がる幸福に、私は舌鼓を打つ。


「よかった」
 ▼ 260 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:15:07 ID:yB7OdwBU [33/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「こっちの世界、こんなおいしい食べ物があるんだ……みんなにも分けてあげたいな」

「……だな。僕も、ずっと思ってた。みんながこっちの世界に来てくれたら、どんなに嬉しいかって」

「……でも、駄目だね。私たちだけの秘密だ」

「え?」

「私とリオだけの秘密にしたいな。これは」


ワガママだ。みんな、私たちのことを支えてくれる。

だからそんなことを思うなんて、本当はよくないこと。

だけど、思ってしまう。


「リオを、ニンゲンの世界を、1匹占めしたいなって」

「ハハ……。わかった」


しばらく私たちは、このはんばあがあというおいしい食べ物を味わっていた。
 ▼ 261 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:15:30 ID:yB7OdwBU [34/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  ○

「なあ、クレア」

「何?」

「僕は、君みたいにはできない」

「私だってリオみたいにはできないよ?」

「うん。でも、誰かに対して、変わって欲しくって、だけど失敗して。

 クレアは、本当に凄いんだって、思い知らされた」

「そっか。でも、違うから、助け合えるんだよね」


僕は笑った。そして、言う。


「決めたんだ。僕は、この世界をパラダイスにしたい。

 悪意があることからは逃れられない。でも、みんなが笑い合える、そんな世界が来たなら……」

「最高だよね。私も、そう思う」

「うん。でも、この世界を変えるのは難しくてさ」

「でも、リオならできるよ。私も、応援する。あなたが私にしてくれたみたいに、私も」

「うん。ありがとう」

「ホワイトデーのお返し、だね」

「だね」


僕はクレアと顔を見合わせて、笑う。
 ▼ 262 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:15:54 ID:yB7OdwBU [35/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ありがとう、傍にいてくれて」

「こっちこそ」

「クレア」

「ん?」

「大好きだよ」

「――私、あなたが好きだった」

「え?」

「……今はあなたのことが……
 ▼ 263 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:16:22 ID:yB7OdwBU [36/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







大好きっ!






 ▼ 264 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:16:42 ID:yB7OdwBU [37/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







【ホワイトデーSS】君へのお返し【マグナゲート】 完






 ▼ 265 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/13 22:17:02 ID:yB7OdwBU [38/38] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました
また当SSはホワイトデーSS企画(↓)に参加しております
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=768396

ロベリアの花言葉
謙遜
貞淑、高貴な女性
悪意、敵意

関連作(途中に貼ったシンオウ転生記シリーズを除く)
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=563163
 ▼ 266 ントラー@きりのはこ 18/03/14 08:34:06 ID:54LD15Us NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ▼ 267 ースト@ふるびたかいず 18/03/17 23:54:36 ID:flWG3I3M NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
素敵な作品過ぎて思わず絵を描いてしまいました......!
挿絵としてみていただければ幸いです
 ▼ 268 しゃまん◆NKmNEeVImk 18/03/18 04:44:20 ID:VBn4snMM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>267
うおおおおおお!
マジですか! ありがとうございます!
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