【ホワイトデーSS】

1 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:29:01 ID:yMFydoeU [1/19] 報告
1.

熱い。全身が熱い。暑いではない。熱い。むしろこの時期はまだ寒い方だ。けれども熱くて熱くて堪らないのは全身に縦横無尽に走る切り傷と打撲のせいだった。その傷だらけの体に鞭打ち、上下に不規則な軌道を描きながら逃げ場所を懸命に探す。
徐々に色を無くしていく視界がやっとの事で捕らえたのは、鬱蒼と茂る葛がカーテンのように覆う木の洞だった。
2 : ラッタ@アロライZ 18/03/14 16:43:49 ID:Il5OrCoE [1/2] m 報告
ブースターかな?
3 : ロンダ@タウリン 18/03/14 16:45:16 ID:x7J20RSs m 報告
もうそろそろで締め切りですけど
4 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:50:43 ID:yMFydoeU [2/19] 報告
葛のカーテンを退け、糸を切らすように、その洞に滑り込んだ。着地とも言い難い落下の衝撃で全身に激痛が走る。危機というドーピングが切れたであろう体はもうピクリとも動かなく、霞んでいく視界に抗う事もせず、意識を手放したのだった。
5 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:54:02 ID:yMFydoeU [3/19] 報告
・・・・・・夢を見た。
人里は楽しいし、美味しいものもいっぱいある。そんな事を言ったのは何処のどいつだったか。そもそもそんな事を言った奴は居たのだろうか。噂の延長線上だったのか。今となってはそんな事を気にする程馬鹿らしいことは無いけれども、そんな話に心を弾ませ、意気揚々と森を出る僕の姿が見えた。
兎も角その話に釣られて僕は人里に出たのだ。以前見た人々の僕を見た時の攻撃的で突き刺さるような目をすっかり忘れて。
6 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:54:34 ID:yMFydoeU [4/19] 報告
『人の魂を取る悪い輩め』

『近付いては駄目よ、あれは危険な存在なのだから』

『出ていけ』

僕を出迎えた。否、僕を迎え撃ったのはそんな言葉だった。
時に避けられ、罵声を掛けられ、石を投げられるて、話と違うじゃないかと、僕は慌てて逃げ出す。それでも容赦なく、僕を目掛けて石や棒が襲い掛かって来た。その時、突然人一倍大きい石というよりかは岩が横っ腹目掛けて飛んできて・・・・・・
7 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:55:06 ID:yMFydoeU [5/19] 報告
そこで目が覚めた。
酷い夢だ。いや、夢であったらどんなに良かったことか。
まだ体は動かない。予想以上にダメージか大きいようだ。
もう一眠りしようかと瞼を押し下げようとした時。
─ガサ、ガサ
草木を掻き分ける音が響いた。
ビクリと体が震える。心臓をがっしりと掴まれる感覚。即ち恐怖が全身を支配した。人が追いかけてきたのだろう、その音が段々と此方に近付いて来る。それも一直線に。
8 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:55:30 ID:yMFydoeU [6/19] 報告
思えば折角のカーテンを閉めていなかったのを思い出す。これでは外から丸見え。バレるのも至極当然な事だ。

来るべきトドメの一撃を避ける程の気力はもう無く、僕はただそれを待っていた。

「やっぱり、酷い傷じゃない・・・・・・待っててね、今手当てするから」

手当て。彼女はそう言ったのか。半信半疑で次の動作を待つと、彼女は箱から何か出したかと思うと、僕の体にそれを塗りつけた。

激痛が走る。燃えるような熱さが塗られた所から発せられた。痛みが出るとなると毒か。やはり僕はここで死ぬのだろうか。緊張で繋ぎとめていた意識は、諦めという穴からどんどんすり抜けて行った。
9 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:56:47 ID:yMFydoeU [7/19] 報告
2.

─いいこと?紫色の玉が浮いていたらそれは妖の類いよ。

近付いては駄目。それは魂を奪う存在なのだから。

そう母親に言われて育った。
けれども、ふと思った。それは本当のことなのだろうかと。
勿論母が嘘をついていると思っている訳では無い。
ただ、ありあどすという妖は最近になって無害な存在どころか友好的な存在だということが分かったばかりでもしかしたら、本当はどうなんだろうという好奇心によるものだった。
10 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 16:58:30 ID:yMFydoeU [8/19] 報告
その次の日。例の玉っ子が出たという話ではないか。これは確かめるしかないと、私は意気揚々と家の戸を開いたのだった。

村を何とかという動きで出ていったそれは、森の中へと進んでいった。
私も追いかけようとすると、たちまち大人達が行く手を阻んで来た。
死ぬつもりかと、言われた。
その後は何度も聞いたあの話だった。
それを確かめるために行くんじゃないと私は言ったけれど、聞く耳を持ってはくれなかった。

やむなく30分程して人が居なくなるのを待ち、私は森を掻き分けて行った。
11 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 18:43:36 ID:yMFydoeU [9/19] 報告
3.

目が覚める。目覚めの感想と言われたら、まだ生きてたのかと答えるところだ。まだぼやけている視界のピントを合わせると見えたのは木の板と僕をのぞき込む幼い顔だった。人だ。思わず身じろぐと、激痛が走った。

「まだ動いちゃ駄目よ、そんなになってるのに」

慌てたように彼女は言うと、濡れた布で僕の体を拭いた。
その手つきは優しく、害意が無いのは明らかだった。

まさか助けられたのか。僕を殺そうとした奴らに、今度は。
よく見てみると僕の体には包帯がぐるぐると巻かれており、所々薬と布で出来た凹凸がまだら模様を作っていた。
12 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 22:19:03 ID:yMFydoeU [10/19] 報告
「はい、大人くしくしててね」

そっと囁くような声でそう言うと、彼女はおもむろに冷たい何かを当ててきた。望んでいなくとも体は反射的にビクリと体が動いてしまい、再び激痛が走る。
その痛みとともに脳裏に届いたのは、

─なんで自分だけがこんな目に合わなければならないのか

普通ならば当然出てくる疑問だった。
何故知らぬ内に悪者にされ、忌み嫌われなければならないのだろうか。何故人は自身で作った物語だけであんなに残酷になれるのか。そしてその矛先はなぜ僕らに向けられたのか。
涙が、滲んだ。
13 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 22:19:27 ID:yMFydoeU [11/19] 報告
「ごめんね、痛かったかな」

見当違いの質問が恐る恐るといった感じで飛んでくる。否定の意でまだ動かしても痛みを感じない手を揺らす。

・・・・・・少なくとも彼女は"そう"ではない。そう自分に言い聞かせるとそのまま彼女に身を任せる事にした。どうせこんな状態ては有事の時に逃げる事も叶わないだろう。そうなれば流された方が吉というものだ。

額の冷たさにも慣れ始め、三度意識を手放す事にした。今度は心地良さも感じながら。
14 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 22:19:55 ID:yMFydoeU [12/19] 報告
4.


「どうしよう・・・・・・」

思わず連れて帰って来てしまったけれどもこんな子何処に隠したらいいんだろうか。
取り敢えず応急処置はしたけれども傷が思ったよりひどい。やっぱりあの岩のせいな所が大きいだろう。

兎に角隠せる所・・・・・・何処だろうか。
全く思い付かない。このまま家の自室に居させる訳にもいかないし、何よりここに居ると明らかになってしまったら間違いなく殺される。この子は。
必ずや止めを刺そうと大人達が奪い去っていくだろう。こいつは危険だと、物語でしか語られていない本当かどうかも分からない主張を押し通して。
薄い紙でも重ね合わせてゆけば貫き辛くなる様に、嘘でもそれが信じられると真実として語られていくように。
15 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 22:20:13 ID:yMFydoeU [13/19] 報告
しかし今はこの子を隠せる場所を思い付くのが最優先事項だ。何処か無いか。何処か。

「そうだ、楊おじさんの小屋」

楊おじさん。村八分にされている変わり者のおじいさん。私は行ってはいけないと言われているけども、おじさんの話を聞きに時々こっそりと行っている。
おじさんなら、分かってくれる。

私は丁度落ち着いたその玉を抱え上げ、再度裏道へ走り出した。
16 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 22:20:32 ID:yMFydoeU [14/19] 報告
⒌

騒動はここまで届いてはいたが、まさか元凶がいつものちっこい客に抱かれて来るとは。
思わず声を上げたが、どこかでそんな予想を立てていた自分がいた。

「お前さん・・・・・・その、これは何だい」

「まんまるちゃんよ」

「その名付けはどうかと思うけどなぁおじさんは」

相変わらずこの子はよく分からんが、人一倍優しい所があるし、よく出来た子だ。大人の事を鵜呑みにせず、自分で確かめようとする態度は素晴らしいものだとは思う。
しかし。
そうなるか。

「成程ねぇ・・・・・・」

どうしたものか。
噂ほど邪悪な見た目はしていない、むしろ可愛い部類に入るだろうそれは今の所は大人しいが何をするか分からない。
危険だという確証が無いと同時にまた安全だという確証も無いのだ。その点彼女は失念しているらしいが。
17 : ダック@きぼんぐり 18/03/14 22:35:04 ID:Il5OrCoE [2/2] m 報告
わかりづらい
18 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 22:55:47 ID:yMFydoeU [15/19] 報告
ま、いいか。
悩むのは俺の性分じゃない。
駄目だったら俺が何とかすればいいだけだな。なんて能天気な考えの方が気が楽だ。

「・・・・・・じゃあおじさんの家に置いておこうか、今んとこは」

「ありがとうおじさん!」

飛び付いてきそうな勢いでそう言ってくる。これだけ喜ばれたらきちんとやらなきゃいかんな。そう思った。
その矢先の事。
19 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 23:36:37 ID:yMFydoeU [16/19] 報告
6.

「そうだ、チョコ食べる?」

回復した僕を時々見に来る彼女は、彼の家に来るなりそう言ってきた。

ちょことはなんぞや。今ではなんで耳を傾けたのかと責めたくなるようなあの噂話にあった美味しいもの、というものなのだろうか。今ではすっかり信頼の情を寄せてはいるが、まだ中々慣れない。彼女と彼。それ以外の人間はどうなのか。その情報源はあの忌々しい体験しか無いのだ。

僕が迷っていると彼女は待ちきれなくなったのか、顔をむくれさせ

「もう、どっちよ」

とずいと近付いて来た。圧されてそのまま首肯する。
首肯。そう、浮けるまでには回復したのだ。そこまで回復したのは、ひとえに彼──楊という男と彼女──名前は未だに知らない──のおかげだった。

彼女はそのままの勢いで更に近づく。負けて少し下がると、彼女は持っていた袋から何やら取り出し

「バレンタインの日はね、好きな子にチョコを送るのよ」

そう言って包みを渡してきた。
慎重に開き、その黒い塊を口に運ぶと、甘い味が広がった。
なんだこれは。
こんな美味いものがこの世にあったのか。憎らしいが、噂は半分本当だったらしい。
半分は嘘だ。これは間違いない。
20 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 23:49:37 ID:yMFydoeU [17/19] 報告
7.

ようやく出来上がったチョコを掬い上げるように掴み、そのまま走り出す。
正直、浮かれていた。
いつも通っている裏道に人影があった事に気付かないほどには。

「彼女はどうやら楊の所に通っているらしい」

「それだけじゃない、菓子も持っていたらしいぞ」

私が帰ってくる頃には、そんな噂が出回っていた。
噂というのは足が速いもので、その日のうちに村長に母と呼び出された。
母は道中何度も何度も大丈夫、大丈夫と励ましてはくれたが、それは母自身に言い聞かせている様に感じた。
大体結果は見えている。そしてそれが覆らない事位、母も私も分かっていた。

「来たか」

村長はそうとだけ言った。
続いて、村長の横にいた初老の男の人が声を発する。

「お前の娘を、村八分にする」

「私が代わりになるのは」

駄目でしょうか、と母が言うよりも早く。

「駄目だ」

村長が先程より低い声で制した。

「・・・・・・そうですか」

私は、その日のうちに楊おじさんの小屋に送り込まれた。
21 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 23:53:16 ID:yMFydoeU [18/19] 報告
8.

人の声が聞こえる。しかも複数。
そしてその声は段々と近付いて来ている。

「隠れろ!早く!」

俺はそう命令すると、玉っ子はすぐに小屋の奥に消えていった。

それとほぼ同時に、扉が乱雑に開けられ、彼女が投げ込まれる。

「何故、彼女が」

男達は答えることもなく、応えることもなく、去っていった。
22 : 7tHEjPXmEA 18/03/14 23:58:40 ID:yMFydoeU [19/19] 報告
9.

彼女は、この小屋に住むようになってから、彼女は時折傷を負って帰ってくるようになった。

どうしたのかと疑問を寄せるも、彼女は何でもないの、と首を振った。

楊に聞いても、頭を降るばかり。

僕は外に出てはいけないと言われてはいたが、堪えきれずに彼女を追うことにした。

そこで見た物は、以前の僕を想起させるようなものだった。

彼女はどうやら人里という集団から追い出されたのか、迫害を受けていた。

しかし自分が出ていっても余計状況を悪くするだけだ。

僕は理性と理性の狭間に揺れていた。

その地獄のような日々が続いたある日。

月が同じ形に戻った頃のこと。
23 : 7tHEjPXmEA 18/03/15 00:00:38 ID:o072F/Us [1/4] 報告
離れていたから声は聞こえなかったが、彼女は地の淵に追いやられていた。

やっていたのは男の子供3人組。
そいつらは彼女をじりじりと追い詰め、手を伸ばした。

それを避けようとした彼女が。

足を滑らせ。

そして堕ちた。

僕の体はバネのように飛び出して行った。
24 : 7tHEjPXmEA 18/03/15 00:04:40 ID:o072F/Us [2/4] 報告
楊が言っていた。

バレンタインという日にチョコを貰ったやつは、何かお返しをしなくてはならない、と。

ならば今がその時ではないか。

治った体はまだ本調子では無いにせよ、動く。

手を伸ばした。

しかし、届く事は無かった。
25 : 7tHEjPXmEA 18/03/15 00:12:57 ID:o072F/Us [3/4] 報告
隣から男達の喧しい罵声が聞こえる。

彼女の体は掬い上げるには勢いがつきすぎていて、それ故時間もあまり残っていなかった。
いや、違う。
まだ残っている。
僕は彼女を追いかけて急降下を始めた。
早く、速く。
それはとても長いように感じられ、また彼女の驚く顔とそれに続く涙も鮮明に映った。彼女もこれから起きるであろう事を想像出来た様だ。

僕は彼女の下に潜り込み、精一杯膨らんだ。
クッションになるように、下敷きに。
膨らみきった頃、鈍い音と共に衝撃と痛み、内から来る圧力が一気に僕を襲った。

視界が真っ赤に染まる。
血の味が舌に広がる。
ぐしゃりと、何かが潰れる音。
ホワイトアウトしそうになる意識をなんとか繋ぎとめ、僕は祈る。
どうか、彼女は無事で。
これがお返しになるのなら。

一頻り耐えた後。殆ど残ってない感覚が彼女の重みだけ伝えているのに安堵すると、僕は4度目の意識を手放す事にした。

─人里は、楽しいところだし、おいしいものもいっぱいある。─

それは、本当の事だったのだと思う。

26 : 7tHEjPXmEA 18/03/15 00:13:16 ID:o072F/Us [4/4] 報告