【小説っぽい】寄生【SS】

注意、若干のリョナ、生物学、実在の生き物の登場（カニとか）

この話は雷句誠さんの『どうぶつの国』で出てくる、あるセリフから着想を得た話です。予めご了承下さい。

最初ぽかんむ話が続きます

本編次レス

　小学生の頃、モンシロチョウの幼虫を飼ったことがある人は多いのではないだろうか。

　籠の中、天敵のいない環境下で悠々と草を食み、すくすくと大きくなる幼虫。

蛹化前の幼虫は驚く程の量を食す。

　ここに、一匹の幼虫がいる。

その幼虫が蛹になる直前、突然腹を喰い破り小さな黄色い別の虫が出てきた。

　その小さな幼虫は、喰い破った幼虫の側で繭を作り、暫くして黒光りする蜂となる。

　幼虫は自分の体内にいる者の為、必死に食べていたのだ。

　寄生という言葉をご存知だろうか ？

寄生

1・ある生物が他の生物の体表に付着、または体内に侵入し、そこから栄養を摂って成長すること。

2・他の働きなどに頼り生きていくこと。

　カマキリの体内で育ち、成熟するとカマキリを操作し、入水させ腹から出てくる虫がいる。

　幼虫に卵を産みつけ、幼虫が生きた肉を貪る虫がいる。

　冬に宿り、夏には乗っ取り虫をキノコへと変貌させる菌がいる。

　これらに共通する事は、宿主自らが、自らを破滅へ導く者を育てているということだ。

　いずれ、自分を食い破る者を。大切に。大切に。

　宿主と、寄生者の、歪な関係。

　ここに１つの命が宿った。

　コジョンドの体内で、生命の神秘というべき奇跡が起きたのだ。

　その協力者はナゲキ。

　奇跡を起こす為の条件を、余すことなく所有していた2匹。

しかし、これから先の幸せをナゲキは夢想していなかった。

　何故、一部の例外を除き、雄の配偶子を雌に渡すかご存知だろうか ？

　雄が育児を行う生物はいる。コオイムシ、タツノオトシゴ。つまり育児面の問題ではない。

　配偶子は雄雌どちらも、始原生殖細胞から作られる。

しかし、１つの始原生殖細胞から雌は８つの卵、それに対し、雄は32個の精子を形成する。コストが違うのだ。

雄は無尽蔵に作られ、雌は限られている。

　だから、雌は交尾の相手を吟味し、厳選する。優秀な遺伝子を残す為。

　一方、雄は片っ端から遺伝子を残す。自分の遺伝子を後世に伝えるという使命を果たす為。

　つまるところ、どういうことかと言うと、雄は自分の遺伝子を残したらもう、相手は用済みで他の雌を探す、という事だ。

　これを実際の例で言うと、セイウチなどのハレムを形成する生物。交尾が複数回行える昆虫類全般。

　ナゲキは子供ができた途端、それまでコジョンドに抱いていた魅力を感じなくなった。

元々、雄ではなく雌の形質が優先されるポケモンはそれが顕著なのかもしれない。

雄ポケモンは自分の劣性の遺伝子を残す為、多くの雌と関係を持たねばならない。


　理性が発達した生物は本能が抑えられる。


　ナゲキはコジョンドと離れたかった。

しかし世間体などを考えてしまう理性がそれを抑えている。

血液的に無関係な2匹を繋ぎ止める鎖は何なのだろうか。

色違いキャタピーだと思って育ててたら、ただのケムッソでドクケイルに進化したってＳＳ思い出した

　それは、自分とは別の姿でありながら自分の力を受け継いだ、今コジョンドの胎内にいる奇跡の産物だろう。

　ナゲキは愛すべきそれに対し、無意識に微かな苛立ちを、芽生えさせていた。


　植物の成長というのは、好条件の場合、驚く程早い。


　コジョンドの姿を受け継いだ奇跡の産物はもう、明確な形を持ちこの世に生を受けていた。

　子育てをする雌は出産後、雄との交わりを拒む事が多い。

　拒まれ続けるというのは、彼の中の苛立ちの芽を育てる上で打って付けの肥料だった。

　時に、雄は自分の子孫を残す為、雌の子を殺す事がある。

代表的な例を言うとライオンの子殺しだ。

子を喪った雌は新たな子を求め雄と交わる。

但しそれは多くの場合、雄側の血を持っていない子が対象となる。



　ナゲキが自らの子を邪魔に感じるのは、自分の血を感じさせないコジョフーの姿だからであろうか。

　自分の子孫を新たに残す為、自分の子を邪険にするというパラドックス。

それは生物としてはポケモン固有のものかもしれない。

　ナゲキがコジョフーに対し虐待を始めるようになるまで、時間をあまり要さなかった。

「何でお前なんか生まれたんだ ！！」

　そういいコジョフーを罵るナゲキ。

しかしコジョンドはコジョフーを庇えなかった。自分に被害が及ぶから。

　コジョンドは傷付いた我が子を、嵐が過ぎた後、ただ抱きしめる。それだけだ。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ママが弱くて」

　そう謝る彼女に対し、コジョフーはどこか疑問に思った。

自分にとって虐待は日常で、意味の無い暴力は意味が無いからこそ、無関心だった。

　ただ、何も感じず父やり過ごす。

そして、その後に優しく慈しむ母。

相反する両者にコジョフーが抱いていたものは、何もなかった。


　幼い頃、暴力を日常的に受けた者は、それから逃げる為、別の人格を作り出す事がある。


　しかしそれは、辛いと感じるからだ。

何も感じてないコジョフーはそれすら、創り出す事はなかった。

　ただ、虐待の中で芽生えたものは別にある。

　ある朝、コジョフーは外でアリの大群を見つけた。

　１つの目的に従事し、個を失った黒い集団。コジョフーはそれを注意深く眺める。

　そこから一匹を摘み上げ、胴を千切る。

脚をビクつかせすぐに絶命したアリにコジョフーは微かな悦びを感じた。

　また次のアリを掴み、千切る。動かなくなると、また次のアリへ。

アリは自分たちの仲間を喪っても、一糸乱れぬ行軍をしている。

　コジョフーの周りにあるのは、千切れた無数のアリと、自分達の仲間に群がる他のアリ。それだけだった。

支援

　虐待で芽生えたもの。それは、狂気だ。


「おい ！コジョフー ！」

　父の声が聞こえる。何かを言い付けるか、暴力のどちらかだろう。

コジョフーはアリの観殺を止め、何のためらいもなくナゲキの元へ向かった。

　反応を示さないコジョフーに対し、ナゲキの暴力はすぐに強くなった。

そして、コジョンドは変わらず、父が居なくなると抱きしめる。

彼女も彼も、少しづつ、着実に、歪に、壊れていく。

　コジョンドが言った。

「コジョフー。神様は何で、死んでからしか行けない場所に、天国を作ったんだろうね」

　別の日。いつものようにナゲキがコジョフーの所へ向かう。コジョフーを見ると同時に、目を疑った。

「お前何してんだコレ ？汚ねぇなぁ」

　彼はそう言い、コジョフーが世話をしていたものを、摘み、捨てた。その数は３つ。

　そして、「気持ち悪りぃ」とナゲキはコジョフーを殴る。

　コジョフーが世話をしていた『もの』。それは、四肢のないカニ。

鋏も脚も全て付いてない、胴体だけのカニに、コジョフーは笑みを浮かべ餌を与えていた。

その餌とは、カニ自身の脚。

　普段は表情のないコジョフーのその顔に、感情が映されるのは、他の生物と接していた時だけ。

　コジョフーは死に際の生物に神秘さを感じていた。

生への執着。そして、それが叶わないと手放し、死を受け入れる時に見せる、生き物の正直で美しい姿。

それにコジョフーはたまらなく神秘さと魅力を感じていたのだ。

支援

　母の問いを思い出す。


―コジョフー。神様は何で、死んでからしか行けない場所に、天国を作ったんだろうね


　コジョフーは思う。

　神様が死後の世界に天国を作った理由。

それは、そんなものは存在しないから。だから、確かめようのない所に作った事にした。

実在しないただの虚像。

死への恐怖を和らげる為の偶像。

　コジョフーの行為は、地に這う虫では止まらなかった。

もっと大きく、動物、そしてポケモンにさえ。

　ポケモンで最初に犠牲となったのは、チェリンボ。

幸せそうな笑顔が悲愴と絶望に変わり、それから諦めになる。


　狂気が育っていく。


　狙いはさらに大きなポケモンになっていった。

　今回はコマタナ。相性の良さも手伝い、ただ殴り続けるだけで、コマタナは気絶した。

　コマタナの体を岩で押し千切り、抉っていく。少しづつ、彼が目覚めるまで殺さないよう。

　コマタナが目覚めた時、自身を確認し、その後放たれる絶叫。

それは生への執着の象徴だ。

そして、それは同時にコジョフーへ悦びを与えるものでもある。

　コマタナの解体には思わぬ成果があった。

コマタナは刃を持っている。今迄尖った岩で行ってきた事が、刃物でできるようになったのだ。

　急所を刺せばそれだけで、自分よりも強い相手を殺せる。

コジョフーが最も欲していたものだった。

　父がいつものように自分を殴る。

そんな日常の中、自分が父を殺せる力を持っている事に気付く。

　ナゲキの腹部にコマタナから削ぎとった刃を刺した。

そこに恨みはなく、ただの好奇心で、父を刺した。

　何処を刺せば確実に死に、且つ長く生きるのか。それをコジョフーは知っていた。

　刺した直後、ナゲキの表情は凍り、そしてすぐに暴れだした。

「馬鹿野郎 ！ふざけるな ！早く治療しろぉ ！」

　まだ、生に執着している。

　それがもう助からないと悟った時、彼の表情から険が消えた。

死を、受け入れたのだ。

「もう、死ぬのか」

「うん」

　父の問いに残酷な事実を簡潔に応える。

「あぁ、コジョフー。今迄すまなかった。大切なお前にあんな事を。俺は、おれは、こんな筈じゃ……なかったのに。もっと、幸せになる筈だったのに……。

　あぁ、コジョンドにも謝らなくては、すまなかった。コジョンド、コジョンド。ありがとう……愛してくれて」

　そこに居ないコジョンドに感謝し、そのままナゲキは絶命した。

　コジョフーの頬に涙が伝う。

それは、悲しみでも、同情でもなく、感動の涙だ。

　初めて見た父の顔。優しさに満ち、慈しみに溢れた正直な顔、美しいと、思った。

　いつも、ナゲキの罵声が消え少しするとコジョンドは来る。今回もそうだった。

　コジョンドは夫であるナゲキに見向きもせず、機械的にコジョフーを抱きしめた。父と同様に彼女もまた、壊れている。

　コジョフーは自分を抱きしめるコジョンドの腹部を、刺した。父と同様に。

　しかし、彼女は叫ばなかった。

ただ、涙を流しながら言った。

「コジョフー、神様は、何で死んでからしか行けない場所に、天国を作ったんだろうね。ママは、それを確かめてくるわ。」

　忘れていたその問い。

　前に考えた物と、今なら違う答えが浮かぶ。

「ママ、それはね。生きてたら作れないからだよ。生に執着していたら作れない。優しさと慈しみに満ちた天国は、死んでからでないと作れないんだ」

　死にゆくコジョンドにそう、呟く。

　寄生者は、その殆どを他の生物の体内で過ごす。宿主から離れた寄生者の命は概して短い。


　コジョフーは刃を自分に刺した。自分も正直になりたかった。

　彼の頬に涙が伝う。理由はわからない。ただ、流れた。それは何故かと自問しながら、彼は天国のある場所へと向かった。

寄生

　カマキリの体内で育ち、成熟するとカマキリを操作し、入水させ腹から出てくる虫がいる。

　幼虫に卵を産みつけ、生きた肉を貪る虫がいる。

　冬に宿り、夏には乗っ取り虫をキノコへと変貌させる菌がいる。

　これらに共通する事は、宿主自らが、自らを破滅へ導く者を育てているということだ。

　いずれ、自分を食い破る者を。大切に。大切に。

　宿主と、寄生者の、歪な関係。



　コジョンドとナゲキは、自分達を壊す存在を自分達で育てた。

　これもまた、一種の寄生なのだろうか ？

fin

終わりです

三人称視点に挑戦してみました
今回はシリアス且つサイコパスです
気分が悪くなった人は御免なさい

乙乙

初見パラセクトの話かと思った

そういえば、どうぶつの国読んでた人居るのかな ？
居るならどのセリフから取ったかわかるよね

あ、ちなみにどうぶつの国はこんなに重い話では無いです
是非読んでみて下さい。作者はガッシュの人です