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【小説っぽい】過去の意味【SS】

 ▼ 1 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:12:25 ID:5d1Omc.. [1/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 パン。と軽い音が辺りに弾ける。
 彼は頬に手を当て、呆然とする。

 私は震えた声で、静かに言い放つ。

「どうして……どうして、失った輝きを嘆くこと、それだけにしか過去の意味を見出せないの ?」

 「倒れたら、それだけ立ち上がればいいじゃない ! 私は知ってる。あなたにはその力がある事を。今を一生懸命生きれば、未来は変わるの。未来だけじゃない。過去だって。」
 ▼ 2 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:13:33 ID:5d1Omc.. [2/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ──少し、時間を遡る。そして、その前に彼の話をしよう。

 彼。青を基調とした毛並みに大きな耳と房。腹部はクリーム色の体毛持つ、波導ポケモン。彼はルカリオだ。

 ルカリオにはトレーナーが居る。それも、それなりの腕を持った。

 ルカリオは類い稀な才能を持っていた。そしてそれ故に、苦しみも抱えていた。丁度、視界の成立に必要な光が、強すぎれば視界を奪うように、才能も大きすぎると自らに牙を剥く。

ルカリオの才能は、幼き自分に悪意という形で襲いかかった。
 ▼ 3 ゴジムシ@こんごうだま 16/12/02 20:13:49 ID:nO0S5JEY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
久しぶり
 ▼ 4 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:14:13 ID:5d1Omc.. [3/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 ルカリオには波導によって動物やポケモン、それに留まらず物に至るまで様々なことを感じ取る能力が備わっている。

それは、進化前であるリオルも、未熟ながら共通している。

ルカリオはその力が強すぎたのだ。
 ▼ 5 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:14:45 ID:5d1Omc.. [4/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 幼い頃その力で様々な悪意に晒され、また、幼さ故にそれを防ぐ手段を知らず、心を閉ざした。

 光がなければ、視界は成立しない。だが、強すぎる光は目を眩ませる。

 幼きリオルにとって己が持つ才能は大き過ぎた。

 心を閉ざしたリオルは療養のため人里離れた小屋に、トレーナーによって世話係のタブンネと住まわされた。

 トレーナーはリオルにこう言った。



「元気になったら、迎えに来るから」



 ▼ 6 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:15:12 ID:5d1Omc.. [5/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 その後、閉ざされたリオルの心は、縁と奇跡が相まってサーナイトにより開かれる。彼はルカリオに進化した。

 回復したルカリオのもとに、残された言葉通りトレーナーは現れた。ルカリオはトレーナーの下、バトルに励むようになった。
 ▼ 7 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:16:00 ID:5d1Omc.. [6/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 これが、ルカリオの過去。

 そして今、ルカリオに更なる試練が課せられようとしている。いや、試練というにはあまりに一方的で、あまりに理不尽なものかもしれない。

そして、この試練はルカリオだけではなく、トレーナーのいるポケモン全員に課せられたものだ。


 その試練とは「アローラ地方での公式試合は、アローラ出身のポケモンのみ可」というものだ。

 戦いの中に身を置き、そこに意味を見出すルカリオにとってこれは非常に残酷な宣告だった。

 その報せににホウエン地方、並びにカロス地方は震撼した。

 ▼ 8 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:16:55 ID:5d1Omc.. [7/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「冗談でしょ…… ?」

 その事を伝えた私に、彼はそう応えた。

「本当よ。……私、こんな冗談は言わない」

 だって、サーナイト。そう私の名を呼び、彼は続ける。
「それはボク達に、今の引退組、つまりカロス地方出身者以外のポケモン達のように、ボックスの中で暮らせって言ってるようなものだよ」

「そうじゃないでしょ。ただ試合に出られなくなるだけで」

 私はそもそもあまりに試合に出ないけどね、と嘯く。

「同じことさ。どうせあの人は戦えないボクには興味ない」
 ▼ 9 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:17:47 ID:5d1Omc.. [8/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 あの人、つまり幼いリオルを外に放り出したトレーナーのことだ。

そして、私も今、そのトレーナー下にいる。


 野生のポケモンだった私は、ルカリオとなったリオルの所へ現れたトレーナーの下へ、ルカリオと共に居るためゲットされたのだ。
 ▼ 10 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:18:18 ID:5d1Omc.. [9/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 私はリオルと似たような過去を持った、つまり捨てられたポケモンで、それなりのバトルの才能がある。そのため、たまにパーティに参加することもあった。

 対して、そのトレーナーの手持ちの殆どにルカリオは入っている。つまるところスタメンだ。

 今はボックスの外に居て、「アローラ地方出身ポケモン以外の試合参加を禁止する」という事を耳にし、それをルカリオに伝えた、という状況だ。
 ▼ 11 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:19:08 ID:5d1Omc.. [10/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 そんなことがあった数日後。問題が起きた。

 ルカリオがボックスに引き篭もった。バトルをボイコットしたのだ。

私はトレーナーの指示でルカリオの説得に向かった。

「どうして、バトルに参加しようとしないの」

 私は不貞腐れたルカリオに尋ねる。ルカリオが応える。

「どうせ、もうボクは戦えなくなるんだ。今から戦わなくなっても構わないだろ」
 ▼ 12 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:19:43 ID:5d1Omc.. [11/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「それで、ルカリオがいいんなら、ね。それに、あなたが我儘を通そうとしても、それが通らないのはよく分かってるでしょう。

ヒトは私達と共存しているようで、してない。私達が何を言っても、行動を示しても意味なんてない。ヒトも、ポケモンも自分の都合でしか動かないもの」

 ルカリオが噛み付くように言い返す。

「煩いな ! サーナイトには関係ないだろ。ボクは、ボクにはバトルが全てなんだ ! サーナイトにボクの気持ちはわからないよ」
 ▼ 13 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:20:07 ID:5d1Omc.. [12/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「私だって、バトルを目的として産まれ、そしてヒトに捨てられたポケモンよ。でもあなたに出会って、バトルをしなくても、意味のある生き方ができるって知ったわ」

「……それでも、それでもボクはバトルが全てなんだ。戦えなくなったボクに、価値なんてない」
 ▼ 14 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:20:31 ID:5d1Omc.. [13/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告






──こうして舞台は冒頭に帰る。





 ▼ 15 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:21:20 ID:5d1Omc.. [14/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 ルカリオを救い、同時に救われた私にとって、「価値がない」という一言は心を沸騰させるには十分すぎた。


 パン。と軽い音が辺りに弾ける。
 彼は頬に手を当て、呆然とした。

 私は震える声で、静かに言い放つ。

「どうして……どうして、失った輝きを嘆くこと、それだけにしか過去の意味を見出せないの ?

 倒れたら、それだけ立ち上がればいいじゃない ! 私は知ってる。あなたにはその力がある事を。今を一生懸命生きれば、未来は変わるの。未来だけじゃない。過去だって」
 ▼ 16 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:22:09 ID:5d1Omc.. [15/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 ルカリオが、静かに呟く。


「サーナイトには、サーナイトには分からないよ。僕は、僕にはそれだけしか価値がないんだ。そのたった1つの価値がもう、消えたんだ。 ……僕にはもう、何も残ってないんだ」
 ▼ 17 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:23:09 ID:5d1Omc.. [16/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 叫ぶように、私はその声を遮る。


「私がいるじゃない ! 確かに私はあなたの苦しみを、絶望を、本当の意味では分からない。でも、だからこそ」


 涙が溢れてくる。それを拭う事なく続ける。


「一緒に生きよう !」


 彼が目を見開く。


「一緒に生きよう。一緒に歩こう。私をあなたの隣に居させてよ ! なんで、1匹で抱え込むの。なんで、1匹で嘆くの。私にもあなたの、ルカリオの悲しみを、苦しみを背負わせてよ。

確かに、私はルカリオの絶望は上辺しか分からない。でも、それでも、少しぐらい背負うことはできる。ルカリオを支えることができる。なら、そうさせてよ……」
 ▼ 18 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:23:47 ID:5d1Omc.. [17/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 息を切らしながら、そうまくし立てる。


「……ルカリオの隣に私の居場所を作ってよ」


 彼の目頭に輝く大粒の玉が浮かんだ。それがすぐに流れ落ち、一筋の線を描く。


「ボクは……ボグはぁ」


 堰が外れたように泣き出したルカリオに釣られ、私も叫び、泣く。



 2匹の咆哮はボックスの無機質な電気の中に吸い込まれ、消えていった。

 ▼ 19 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:24:34 ID:5d1Omc.. [18/19] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
 後日、ルカリオは言った。

「ボク、決めたよ」

 ルカリオの話は偶に、このように要領を得ないことがある。私は聞き返す。

「何を ?」

「アローラに行く。ボクは向こうの公式試合には出られないけど、それでも、サーナイトが言うようにバトルが禁止される訳じゃない。向こうでもまた、頑張るよ」

「そっか。いいんしゃない ? で、タブンネさんにはもう伝えたの?」

 タブンネとはルカリオの世話をしていたポケモンで、義母のようなものだ。

「い、いや。まだだよ。で、だから、その……」

 ルカリオが急に口籠る。

「サーナイトも一緒に来てくれない ? 勿論ボク1匹じゃ決められないけど。トレーナーには頼んでみるからさ。……だから」

 私は微笑み、そして言った。

「うん。喜んで」

fin
 ▼ 20 カ◆Ibi/.BQaas 16/12/02 20:25:56 ID:5d1Omc.. [19/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
お久しぶりです
大学決まったんで、テキトーに短編書きました
一作目の続編みたいなものですが、読まなくてもある程度はわかると思います。
 ▼ 21 ッシブーン@1ごうしつのカギ 16/12/02 20:59:41 ID:ixIcDXYA NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙なんやで

そしてこいつらは恐らく豆を食うだろう事実
 ▼ 22 ニリッチ@しろぼんぐり 16/12/02 21:18:17 ID:hVKsQBCU NGネーム登録 NGID登録 報告
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