【エイプリルSS】コジロウ「恋からの嘘、嘘からの恋」

ようみんな、ロケット団のコジロウだ。
今日はエイプリルフールだからな、ひとつ面白い話をしよう。
といっても嘘じゃない…嘘に関する話ではあるが、本当にあった話。
それはポケモンスクールに通う、カキっていうジャリボーイの初デートの話だ。

マオ「デート！？カキが！？」

カキ「ああ…明日な…」

その日、あいつはとても困っていた。
デートに行く約束をしたのはいいが、異性と二人きりで出かけたことなんて無かったからだ。
せいぜい妹と買い物に行くくらいだからな。

マーマネ「相手は誰なの？」

カキ「ノアさんだ」

マオ「えっ？もしかしてパンケーキレースの？」

カキ「ああ…この前のレースで棄権せずに最後まで頑張ったら、ノアさんに興味を持たれてな。メアドを交換した」

サトシ「たしかにあの時はかっこよかったぜ！カキ！」

カキ「で、メールのやりとりを繰り返すうちに親しくなっていき、ついにデートに誘われたんだ」

カキ「バトルの練習に付き合ってほしい。それに食事やショッピングにも行こうと…」

ククイ「すごいじゃないか！おめでとう！」

カキ「だが…デートなんて俺には無理だ…」

マオ「まあ…大丈夫だって！自然に振る舞えばいいんだよ！」

カキ「無理だ…緊張で何も話せなくなる！」

リーリエ「でしたら断ればよろしいのでは？」

カキ「いや…それでも行きたいんだ…行きたいが無理だ…」

マーマネ「わけわかんないよカキ…」

ロトム「意味不明ロト」

そういう矛盾した感情は、まともな恋を経験した奴にしかわからないんだろうな。
変な許嫁から逃げた俺には全く理解できないぜ。

サトシ「うーん、なんとか自信をつけてやりたいけどな」

ククイ「女性との関係は初デートで決まるってもんだ」

マーマネ「それって博士の経験則？」

ククイ「そうだな。第一印象って大事なんだぜ？」

カキ「うっ…」

マオ「ちょっと！カキが余計に緊張しちゃう！」

ククイ「おっといけない！その…なんだ、がんばれカキ！」

リーリエ「何か作戦は無いものでしょうか…」

スイレン「初デートをうまくいかせて、その後の関係をよくする作戦…」

スイレン「無いんじゃない？」

カキ「ぐああああああああああああああ！」

この時はデートをする予定があると話したことを後悔したんだってさ。
クラスメイトの一言一言が、あいつの心にグサグサと突き刺さったらしい。

サトシ「うーん…どうするかなあ…」

「なーっはっはは！」

サトシ「ん？」

コジロウ「アローラ！生徒諸君！」

ムサシ「今日こそピカチュウゲットよ！」

ニャース「予算の関係でメカは作ってないけど気合でゲットするのニャ！」

と、ここで俺たちロケット団が登場した。
もちろん目的はジャリボーイのピカチュウだ。
だがなあ…予想外の展開になったよ。

サトシ「そうだ！そうだよカキ！」

カキ「え？」

この時俺たちがピカチュウを奪いに行ったことによって、あいつの初デートはとんでもないものになったんだ。

デート当日。
ハウオリシティの広場。

ムサシ「コジロウ！ちょっとコジロウ？」

コジロウ「えっ…ああ…どうした？」

ムサシ「何ボーっとしてんのよ？」

コジロウ「い、いや…大丈夫だ。ム、ムサシ」

あいつの姿が衝撃的すぎて、思考が停止してた。

カキ「ふう…そろそろ時間か」

あいつは…やけにセンスのいい、カジュアルな服装で立っていた。
そしてデートの相手であるノアさんを見つけると、堂々と彼女に話しかけた。

カキ「ノアさん。お待ちしてました。お会いできて嬉しいですよ」

そして無駄に紳士的なセリフを、爽やかなスマイルと共に言い放ちやがった。

マオ「わあ！すごい！完璧じゃない！」

マーマネ「うーん、たまにはやるもんだね…」

ムサシ「よーしいいわよ！その調子！」

ロトム「データ採取ロト！」

離れた場所からその様子を見守る俺たち。
しかし…こいつらは完全に面白がってるよな。

ノア「えっと…カキくん？」

カキ「なんです？」

ノア「…うん！私も嬉しいわ！今日はよろしくね！」

カキ「ええ。こちらこそ！」

カキ「今日はバトルの練習がしたいんですよね？」

ノア「ええ…そうなの。それも野生ポケモンとの1対多バトル」

ノア「私のライチュウ、すばやさを鍛えたいのよ。反応速度とかもグーンと伸ばしたいの」

カキ「ああ…パンケーキレースの関係ですか」

ノア「そうそう。で、そのためには多くのポケモンと一度に戦うのがいいかなって」

カキ「なるほど。わかりました！俺がしっかりサポートしますよ！」

ノア「わあ！頼りになるわね！」

デート本番でああも喋れるとは…
だがあいつ…俺の憧れのノアさんに変なことをしないだろうな？

カキ「しかしもうお昼だ。まずは食事でも行きましょう」

カキ「一緒に町を回って…練習はそれからにしませんか？」

ノア「そうね、おなかすいちゃったし…おいしいお店知ってる？」

カキ「ええ、もちろん！こちらです！」

そう言ってあいつは、ノアさんの手を握って歩き出しやがった。
ちくしょう…ちくしょう！
なんて羨ましい…！

ククイ「ははは！やるじゃないか！」

スイレン「うーん…振る舞いがイケメン…」

リーリエ「打ち合わせ通りですね！」

打ち合わせ通りなのが問題なんだよと言いたい。

そもそも打ち合わせの時点でおかしかったんだ。
あいつ、あれ以外に何着もの高そうな服を持ってきてコーディネートを考えたり！
鏡の前でスマイルの練習を始めたり！

果ては「せっかくだからアクセサリーでもプレゼントしよう」なんて言い出したり！
やはりあいつの本性は頭のネジが外れたアホ男だった！

ニャース「さてと…食事が終わって、楽しくデートしてるところでニャーたちが二人の前に出て行くのニャ」

ムサシ「できるだけガラの悪い感じでやるわよ！わかってんのコジロウ！？」

なんでこいつらまでノリノリなんだ…

ノア「すごくおいしい！あなたってこういうおいしいお店、いっぱい知ってるの？」

カキ「ああ、実はここも昨日知ったんですよ」

カキ「昨日のうちに調べたんです。ノアさんが喜ぶような店を」

ノア「え…ちょっと！何言ってんのよ！もー！」

カキ「ははは。すみませんノアさん」

ああ、ひどい会話だ。
少し離れた席とはいえ、会話が聞こえるところに座ったのを後悔した。
あいつ女の扱いに慣れていたんだな…普段の行動からは全く想像できない。

マオ「よしよし、いい雰囲気！やればできるじゃない！」

少し黙ってろ。

カキ「さて、少しウィンドウショッピングでもしませんか？」

ノア「うん…そうね！行きましょう！」

全く、あいつらの甘酸っぱいムードのせいでランチの味がわからなかった…

ニャース「そろそろ出番かニャ？」

ククイ「あー、もう少し後のほうがいいな」

ククイ「もっと親密度を高めてから、トドメにガツンと行こう」

既婚者の悪魔のようなアドバイス。
俺の胃腸がボロボロになるからやめてほしい。

そこからのあいつの行動は、さらにひどかった。

カキ「あの…ノアさん。これさっき買ったんですが」

ノア「え！？かわいいブローチ…いいの？」

カキ「ええ。きっとノアさんに…似合うと思いますよ」

ノア「わあ…ありがとう！」

サプライズでアクセサリーを渡したり。

ノア「きゃあ！」

カキ「危ない！」

ノア「うう…助かったわ。ごめんね…」

カキ「いいんですよ。ずっと傍にいて支えてあげたいくらいです…」

ノア「へっ…あ…ありがとう…その、嬉しい…」

転んだノアさんを咄嗟に庇い、その上キザなことを言ったり。
なんてことだ…ノアさん顔を赤らめてるじゃないか！

ムサシ「ヘイヘイそこのジャリボーイ＆ジャリガール！」

コジロウ「なぁーにをイチャイチャしているんだ！今すぐ別れろ今すぐ！そしてそこの男はヴェラ火山の火口に沈め！」

ニャース「コ、コジロウ落ち着くのニャ…」

打ち合わせ通り、あいつらに絡みにいった俺たちに対して…

ノア「えっ？あの…カキくん…」

カキ「なんだお前らは！ノアさんに触れるな！彼女は俺の大事な人なんだ！」

ノア「ふぇっ…！？」

打ち合わせに無い変なセリフを吐いたり！
本当になんなんだこの最低な作戦は！

デート中のあいつの行動はほとんど、事前に決めてあったもの。
とはいえこうも見事にやられてしまっては感心せざるを得ない…ムカつくほどに。

あいつの無駄に紳士的な振る舞いは、純情なノアさんをすっかり惚れさせてしまった。
あいつとノアさんが出会ってから約2時間…

ノア「あなたって…すっごく頼りになるわね！」

カキ「それは嬉しいですね」

ノア「あの…私、あなたのこと嫌いじゃないよ！」

今の俺の複雑な気持ち、誰かわかってくれるか？
誰か止めてくれ。
この嘘だらけでクソまみれの作戦を。

2番道路。
今回、ノアさんが修行場所に指定したのはここだ。

カキ「では始めましょうか。バトルの練習」

ノア「サポートよろしくね！」

カキ「任せてください！ああ…もちろん、ノアさんは俺が守りますから」

いちいち俺を苛立たせるセリフを吐かなきゃいけないノルマは無いはずなんだが。
わざとやっているのかあいつは。

カキ「ノアさんが使うのはアローラの姿のライチュウですね。アローラのコラッタは悪タイプで、エスパー技が効かないので注意してください」

ノア「わかったわ！」

流石にここまで尾行するわけにはいかないので、残念ながら今はカメラとマイクであいつらの様子を窺っている。

ノア「ライチュウ！10まんボルト！」

ノア「サイコキネシス！」

ライチュウ「ﾗｲﾗｲ！」

あいつの指導のもとでノアさんはライチュウを操り、何十匹もの野生ポケモンたちを倒していく。

カキ「いいですね。迫って来るポケモンをなるべく早く倒す…とりあえずはそれだけを意識しましょう」

ノア「ええ！」

認めたくないが、あいつもそれなりに強いトレーナーだ。
ノアさんにポケモンの扱いを教えられるほどの実力はあるんだろう。
ああしかし…あいつとノアさんの仲が親密になっていくのは本当に複雑な気持ちだ…

ノア「！オニスズメの大群！」

ノア「ライチュウ！ほうでん！」

ライチュウ「ﾗｲﾗｧｰｲ！」

迫り来るポケモンたちを、走り回りながら次から次へと倒すライチュウ。
たしかにこれはいい修行になるだろう。

ノア「ここはガーディもいるのね。あの子かわいいから好きなの」

カキ「ガーディは子供の頃、家で飼ってたなあ…本当にかわいかった」

ノア「そうなの？いいわね！私も捕まえようかなあ…」

ノアさんの顔に喜びの色が生まれた瞬間…

カキ「！ノアさん危ない！」

ノア「え？」

突然、鋭い叫び声が俺の耳に届いた。

ノアさんの背後から、一匹のマクノシタが襲って来たのだ。

マクノシタ「ｼﾀｧ！」

俺が思わずパニックに陥る中、あいつは冷静に、極めて冷静に対処した。

カキ「ヒドイデ！とげキャノン！」

ヒドイデ「ﾄﾞｲﾃﾞ…ﾃﾞﾃﾞﾃﾞﾃﾞﾃﾞ！」

マクノシタ「ｼｯ…！？」

全く無駄のない動きでモンスターボールを投げ、ヒドイデを繰り出し…
的確な技を指示してマクノシタを倒したのだ。

カキ「大丈夫ですか？ノアさん」

ノア「あ…ありがとう！びっくりした…」

カキ「言ったでしょう。ノアさんは俺が守るって」

ノア「うん…！」

それでその日のデートは終わった。
ノアさんは大満足だったという表情で、また会う約束をして帰って行った。

カキ「いやあ、疲れたぜ…」

ムサシ「おつかれコジロウ！名演技だったわよ！」

マオ「ロケット団もたまにはやるじゃん！見直しちゃった！」

サトシ「ほんと、カキのためにありがとな！今回ばかりは礼を言うぜ！」

俺の目の前には、変装を解いたあいつ…
ロケット団の一人、コジロウが立っていた。

昨日、俺はサトシたちにデートがあることを話した。
その後ロケット団の連中が来たわけだが…そこでサトシは、恐ろしいことを思いついたんだ。

サトシ「ロケット団！カキと入れ替わってさ、デートに行ってくれないか？」

変装の達人であるロケット団に俺の代役をしてもらう。
たしかにデートを成功させるにはいいアイデアだが…正直抵抗もあった。

悪人であるロケット団にノアさんとデートさせるというのも嫌だった。
ノアさんに嘘をつくのも嫌だった。
しかし…

マオ「いいじゃん！やるしかないよ！」

リーリエ「褒められた方法ではありませんが、論理的結論として効果的ではありますね」

ククイ「教師としてこんなこと言うのもアレだが…恋愛に正攻法なんて無いんだぜカキ」

ククイ「絶対に付き合いたい相手には手段を選ぶな。既婚者の言葉だ」

ムサシ「へえ、面白そうじゃない」

コジロウ「そうだな…よし！協力してやろう！」

クラスメイトたちは賛成。
ロケット団は面白がって手を組み、この作戦が実行に移された。

俺はコジロウの姿になり、コジロウは俺の姿になる。
俺に変装したコジロウがノアさんとデートに行く…そういう作戦だった。

たしかにノアさんは満足してくれたし、俺への好感度も上がっただろう。
そうなると次のデートで多少緊張しても、笑って許してくれるはず。
この作戦は大成功と言えるが…

カキ「だが…」

カキ「今日のストレスで胃腸が…おええええええええええ！」

マオ「ちょっ…カキ！しっかりして！」

本当に散々な一日だった…
しかしおかげでノアさんとの仲が進展したんだし、そこだけは良かったか。

後日
今日はノアさんとの2回目のデートの日だ。

カキ「はあ…ロケット団の悪ノリのせいで、あの日は本当に散々だったな」

マオ「まあまあ！元気だしてよカキ！」

サトシ「そうだぜ！今日がんばればいいじゃんか！」

ロトム「ノアさん、今日の11時にこの広場で待ち合わせって言ってたロトね」

カキ「ああ、ロケット団がそう言っていた」

マオ「じゃ、私たちは離れて見てるから！がんばってねカキ！」

カキ「ああ！」

本当に頑張らねば。
今度こそ自分の力で、ノアさんとデートするんだ！

ムサシ「ああいたいた。ジャリボーイ！」

サトシ「！ロケット団！何しに来たんだ！」

コジロウ「せっかくだからな。あいつ本人のデートがうまくいくかどうか、見届けてやろうと思ったんだ」

マオ「うまくいくわよ！カキ張り切ってるもん！」

コジロウ「だといいがなあ…あ、来たぞ！」

ノア「えーっと…あ、いたいた！」

カキ「ノ、ノアさん！」

広場に現れたノアさんは、前回より気合の入ったファッションだった。
俺ももっとマシな格好をすればよかったか…

こちらに走って来るノアさん。
ノアさんは弾けんばかりの笑顔を浮かべ、スマートに立つ俺…

ノア「こんにちは！」

をスルーし、ロケット団のほうに走って行った。

カキ「え？」

コジロウ「え？」

ノア「この前はありがとう！今日はカキくんの格好してないのね？」

コジロウ「え？え？」

ノア「何か事情があってカキくんと入れ替わってたのよね？あなた」

ノア「まあ一応、深くは詮索しなかったけど」

コジロウ「え…えっと…どうして…」

ノア「わかんないと思ったの？声！身長！体格！雰囲気！会話！ポケモン！ヒントはいっぱいあったじゃない」

ノア「乙女をなめたらダメよ！」

コジロウ「う…」

ノア「本当かっこよかったわ！今日は素のあなたとデートできるのね！」

ノア「あなたパンケーキレースにもいたわよね？あ、お名前を聞いてなかった！なんていうの？」

コジロウ「俺はコジロウだけど…」

ノア「コジロウさん？じゃ、行きましょうコジロウさん！」

ノア「あ、カキくん。また今度メールしようね」

カキ「え…あ…」

そのままノアさんたちは走り去って行ってしまった。

ニャース「こ、こういうオチなのニャ…？」

マオ「そういえばノアさん、ずっと『あなた』って呼んでたね…」

サトシ「カキ…かわいそうに…」

ムサシ「ま、嘘ついてた罰ね。帰ろ帰ろ」

ロトム「結果は失敗。恋愛カテゴリのデータアップデート完了ロト」

カキ「あ…あ…」

俺が思ったことは二つ。
一つは、やはり嘘はつけないということ。
もう一つは…

カキ「この作戦…やはり最悪だったあああああああああああああ！」

これで話は終わりだ。
ジャリボーイのピカチュウを奪いに行ったら女の子と親しくなるんだもんなあ…
何が起きるかわからないもんだな。

とはいえ、あいつは初デートがメチャクチャになった挙句デート相手に逃げられたわけだ。
やっぱり嘘をついた報いってやつかもしれない。
そうなると俺も報いを受ける可能性があるわけだ…

あいつがノアさんを想ったことから嘘が生まれて
その嘘のおかげでノアさんは俺に惚れちまった。
この話を短くまとめるとするなら…「恋からの嘘、嘘からの恋」ってところか。

言いたいことはただひとつ！
みんな！嘘はやめておけよ！

これで完結になります
叙述トリックは初めての試みでしたが、やはり簡単に見破られましたね
お読みいただきありがとうございました

乙！
トリック、わりと上手かったと思う

乙

このとおりにデートすればモテるんですね！？
乙