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【SS】失夢回想

 ▼ 1 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:30:30 ID:bCrM0lqg [1/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


視界を白く塗りつぶすような勢いで、外では吹雪が暴れています。


風が強まるたび木でできた戸ががたん、と音を立てますが、心配はいりません。直に私はここを発ちますので。


……誰かの歌声が聞こえます。

あれは誰の声かって?


…………もう、忘れてしまいました。
 ▼ 2 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:31:07 ID:bCrM0lqg [2/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


旅をするポケモンにとって、天候の確認というのは重要なことでしょう。

強い雨は荷物を濡らし、時には道すら流し去ってしまいます。雨なんてまだましなもので、肌を削る砂嵐や霰が降ることもあるのです。


ええ、愚かなのは私です。
夕方ちらちらと雪が降っているのをもっと危惧すべきでした。
自分のタイプなら平気だろう、と高を括っていたのです。
 ▼ 3 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:31:37 ID:bCrM0lqg [3/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
峠をびゅうびゅうと鋭い風が吹きすさんでいます。

いくらこおりタイプの私とはいえ、このような強い風は流石に応えます。

さらに雪は進むべき道すらも覆ってしまって、これでは道がわかりません。

このままここでじっとして夜明けを待つべきなのでしょうか……と、そう考えた瞬間、吹き荒れる雪の向こうに、小さな光が見えたのです。


私は目を疑いました。
小高い丘の上に、小さな宿が一軒あったのです。
 ▼ 4 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:32:08 ID:bCrM0lqg [4/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戸を叩いてみると、鈴のように綺麗な声でどうぞ、と声が聞こえました。

ああよかったと安堵し、私は宿に入りました。

宿に入ると中は暖かく、生き返る心地がします。こおりタイプが必ずしも冷たいものが好きなわけではないのですよ。

部屋の奥には、ユキメノコがひとりで囲炉裏の火を見ていました。


──こんなところに、あなただけで住んでいるのですか?

──ええ。ここは宿なんです。どうぞ泊まっていってください。


泊まる以外の選択肢はありませんでした。

私はユキメノコの好意に甘え、しばらくここで休んでいくことにしました。


夜明けまで、あとどれぐらいでしょうか。
 ▼ 5 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:32:53 ID:bCrM0lqg [5/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雪の夜に囲炉裏の火を見つめていると、なんだか不思議な気分になってきます。

ゆらゆらと、まるで水面の鏡のように……いや、本物の鏡とは違い、決して私の顔を映すことはありません。


──こうも夜が長いと、なにか暇つぶしをしたくなりますね。


ユキメノコが話しかけてきました。


──そうですね。……では、私の昔の話なんてどうでしょうか。決していい話ではありませんが。

──構いません。どうぞお話してください。


偽物の鏡を見ていて、なぜだか「彼女」のことを思い出しました。

私の今までの生の中で最も醜いあのことを、久しぶりに思い出すことにしましょう……
 ▼ 6 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:33:24 ID:bCrM0lqg [6/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


私の生まれ育った村では、子供のポケモンを集めていろいろなことを教える学校がありました。

教えられたのは読み書きや自然のこと、生きていくための術……
そして戦いの技能、いわゆるバトルでした。


自慢になりますが、私はそのバトルで一番優れる生徒だったのです。
 ▼ 7 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:33:46 ID:bCrM0lqg [7/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私には一つ夢がありました。

それは、そこら一帯を治める長になることでした。

この長というのは、最も戦いに優れるポケモンがなるものと決まっていまして、本当に実力のあるポケモンにしかなることはできません。

私は長になることを目標に、日々特訓に明け暮れていました。
 ▼ 8 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:34:30 ID:bCrM0lqg [8/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「はっ!」

こなゆき。小さな、しかし鋭い雪の礫が、対面のキルリアに襲いかかります。

「うっ、痛たっ!……降参、降参!」


「すごい!またロコンの勝ちだ!」

「この学校じゃロコンが一番強いな」

「これ、本当にロコンが長になるかも……」


試合終了の挨拶をしている私の耳にも、称賛の声は届きました。
褒められるというのは素直に嬉しいものです。

私は学校中のポケモンとある程度以上の仲を築いていました。
何しろどのポケモンよりも私は強かったわけですから……ええ、正直に言うと、そのほとんどは私が優越感を感じるための子分です。



しかし誰にだってそういう部分はあるのではないでしょうか?

心の中では見下している友達が、少しくらい、いるでしょう?
 ▼ 9 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:35:15 ID:bCrM0lqg [9/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ある日のことです。
私は学校からは離れた小さな森で、鍛錬をしていました。

池の水はこおりの技の特訓に使えましたし、何より誰もこの森にはやって来ないので、私のお気に入りの場所でした。

一通りの鍛錬を終え、帰ろうかと思ったところです。



誰かの気配がしました。
 ▼ 10 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:35:54 ID:bCrM0lqg [10/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私の強さの理由を特訓の内容に見出そうと、私の後をつけてきたポケモンはたくさんいました。

しかし今までに後をつけてきたポケモンは全て撒いています。今日だって、誰もついてきていないのを確認したハズです。

警戒します。
しかし焦ってはいけません。
私は振り返らず声だけを上げました。

「誰か、いるの?」

「!」

がさりと茂みをかき分ける音がしました。

「……ロコン?」

「?」

振り返ると、そこにいたのは同じ学級のムウマでした。
 ▼ 11 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:36:25 ID:bCrM0lqg [11/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ムウマのことは以前から知っていました。
あまり喋らず、孤立とまでは言わないものの学級でも少し浮いている存在。
戦ったこともありましたが、特に強いとは感じませんでした。
凡庸。私は警戒を解きました。

「ロコンもここに来てたんだ……えっと、わたしの家もこの近くでね、よくきのみを採りに来るんだよね」

どうやら私をつけてきたわけではないようです。
しかし今まで私は彼女の存在に気が付きませんでした。
気配を紛らすのには長けているんだな、と、その時はただそう感じました。


これが、彼女と私との出合いでした。
 ▼ 12 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:37:01 ID:bCrM0lqg [12/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
次の日から、私はムウマとよく話すようになりました。

あの森にいたという秘密を共有したのもありましたが、私は珍しく彼女の性格を気に入ったのです。
いい意味で空気の読めない性格のようで、他のポケモンと話す時に感じる媚びや、少しでも自分の勝っている箇所を探るような挑戦的な雰囲気を、彼女には感じませんでした。

何より、すごいと思ったことは素直に褒めるところが好印象でした。

そうして一緒に話すついでに、私は彼女のバトルの指導もするようになりました。
 ▼ 13 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:37:24 ID:bCrM0lqg [13/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
最初は遊びの延長のつもりでした。

あの気配を紛らす技術を磨いたら、どれくらい強くなれるのだろうかという好奇心もありました。


しかし、指導を始めて少し経った頃、私が感じたのは紛れもない、恐怖でした。
 ▼ 14 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:38:02 ID:bCrM0lqg [14/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


彼女は天才だったのです。

彼女は私が教えたことをすんなりと身につけ、おそらく私以上の速さでぐんぐんと実力をつけていきました。自覚も無く。


今まではバトルに対するやる気が起きなかったのだと、そう言われた時の私の気持ちが分かるでしょうか?

才能も努力も両方を手に入れたと、そう誇っていた私はなんて思い上がっていたのでしょう。
彼女の才能は、私の才能と努力を足したさらにその上を行っていたのです。

ロコンが教えてくれたお陰だよ、となんの悪気もない顔で言うものですから、私は必死で笑顔が剥がれないように堪えていました。
 ▼ 15 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:38:35 ID:bCrM0lqg [15/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それでもまだ私が上だと、努力する者は勝つのだと、そう自分を励まして、私は自分の鍛錬を過去最高に厳しくこなしました。



そうして、授業の組み合わせで私とロコンの試合をすると知らされたのは、私が焦りを感じてから一月後のことでした。
 ▼ 16 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:39:26 ID:bCrM0lqg [16/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「よろしく、ロコン」

「……ええ」

対面にムウマがいます。
絶対に、負けるわけにはいきません。
私は長になるという夢を叶えるのです。


試合開始、と声が上がった瞬間、私は先手を打ちます。

相手に攻撃させる隙も与えず、真っ直ぐ懐に突っ込みます。当然相手は対応してくるので、私はそこで地面を蹴り、小回りを効かせて背後に回り込みます。

だましうち。

「っ!」


地面に叩きつけられるムウマ。その隙に、私は次の行動に移ります。

天に向かって念を送れば、たちまち灰色の雲が上空を覆います。そして、鋭い霰が吹き荒れてきました。


あられ、です。

この礫は傷がつくほど鋭い……じわじわと相手の体力を奪う、私の必殺技の一つです。

また、私の白い体毛はこの雪の中では視認しにくくなります。相手の攻撃が当たりにくくなるのです。
 ▼ 17 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:39:55 ID:bCrM0lqg [17/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
天候を変える技は予備動作が長く、隙が多いものです。
だから、だましうちで隙を作る必要があった。

普段のバトルじゃこんなことはやりません。
どうしてもムウマに負けてはならなかったのです。

「……」

起き上がったムウマは周りを見渡しますが、雪に紛れ、しかも常に移動する私の位置をうまく見極められないようでした。

じこあんじか、しんぴのまもりか、何かを呟きます。この状況で自身の強化をするのは確かに得策でしょう。
が、無駄です。
 ▼ 18 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:40:28 ID:bCrM0lqg [18/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
雪に紛れて背後に回りました。

ここから畳み掛けます。

……たたりめ。


「!」

黒く濁った靄が、ムウマに取り憑くように襲いかかります。
間髪入れずにもう一撃。さらにもう一撃。力を使い果たすまで出し切ります。


明らかにやりすぎです。
しかし、あの時の私はとにかく必死だったのです。
 ▼ 19 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:42:38 ID:bCrM0lqg [19/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「う、ぐ……」

倒れ込んだ彼女の呻き声に、ハッと我に返りました。


慌ててムウマに駆け寄ります。

「ムウマっ……!やりすぎた、ごめんなさい」

しかし彼女は動きません。
その時、凍りつく私の背後で、囁き声が聞こえました。
 ▼ 20 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:43:11 ID:bCrM0lqg [20/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ごめんね」


その瞬間、吹き荒れる霰がさあっと晴れていきました。

「え……?」

「騙すような戦法だったけど……悪く思わないでね」


背中に衝撃を感じ、一瞬何も聞こえなくなりました。体力を使い切っていた私はそうして地面に倒れ伏し、見上げた先には……

「ムウ……マ……!?」

「勝者、ムウマ!」
 ▼ 21 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:44:37 ID:bCrM0lqg [21/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何が起きたのかわかりません。

ただわかるのは、彼女が勝ったということ。

彼女が、私に……?

私が、負けた……?


「ありえない……なんでよ!なんで私の負けなの!?」

審判のポケモンに詰め寄ります。

ああ、私はなんて滑稽に見えていたことでしょう。
私は完全にパニックに陥っていたのです。

お願いだから、今すぐムウマが私の前にやってきて、「今のは私がイカサマをしていた」と謝ってほしかった。もしくは、この結果が夢であってほしかった。

しかし、彼女はただ困惑するだけで、残酷に現実を突きつけてきます。


結局私はその後落ち着いて、彼女と審判に謝り、久しぶりに怪我の治療をしました。
 ▼ 22 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:45:50 ID:bCrM0lqg [22/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ムウマの進化系、ムウマージはその呪文によって相手に幻覚を見せる力があるそうです。
彼女はその才能のうちに、進化系の力すらも持っていたのでしょう。

私が勝っていると思っていたあの状況は、彼女の見せた幻覚だったのです。


同級生は皆、人気者の私の肩を持って、「あんなものはイカサマだ」と言ってくれます。
彼女はこの試合によって、より学級で孤立したようでした。

しかし、どんなに励まされようと、居心地の悪そうな彼女を見ても、私の心が晴れることはありませんでした。


私はもう気づいてしまっているのです。
彼女は私に幻覚をかける動作を見せていたのに、それに気づかなかったのは他ならない私なのだと。
自身の体毛を利用して雪に隠れる私と同じく、彼女は幻覚という己の能力を活用しただけなのだと。



あの試合の勝者は彼女だったのだと。
 ▼ 23 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:46:21 ID:bCrM0lqg [23/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼女が嫌いでした。

しかしそれは自分のせいでした。



次第に、私はムウマと距離を取るようになりました。
 ▼ 24 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:47:04 ID:bCrM0lqg [24/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから数カ月後のことです。

私とムウマの試合がまた組まれた、と報せを受けました。


あれから私は以前よりもっと突き詰めた鍛錬をしていましたが、噂によると彼女も特訓を始めたようでした。


ああ負ける、と思いました。


彼女の恐ろしさはよくわかっていました。
あの試合の後彼女も他のポケモンたちとの試合で頭角を現し、今の所負けなしと聞いています。

しかし、一度ならず二度までも彼女に敗北を喫すのは耐え難い屈辱でした。
今度負ければ、あれは偶然だと自分を励ますことができなくなるとわかっていたからです。
 ▼ 25 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:47:26 ID:bCrM0lqg [25/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私は必死に考えました。
正攻法でなくてもいい、どうにか彼女に勝てないものか。


醜い私の自尊心が、私自身の夢を黒く汚すことに気づきもしないで。
 ▼ 26 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:48:27 ID:bCrM0lqg [26/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
試合が始まると、まず私は同じようにだましうちで隙を作り、霰を降らせました。

ここまでは前回と同じです。


そして霰の天蓋の下で、私はこなゆきを繰り出します。

「……!?あっ!?痛っ!」

苦しむ彼女を見ながら、私は下劣な笑みを浮かべます。
こなゆきを繰り出す際、きよめのおふだを千切ったものを一緒に飛ばしていたのです。
 ▼ 27 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:49:11 ID:bCrM0lqg [27/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
きよめのおふだというのは、ゴーストポケモンを退ける効能があるとされています。
ぴったりと貼り付けてしまえば火傷のような裂傷ができるというそれを、少しずつとはいえぶつけているのです。
相当効いているでしょう。

今度は呪文を唱える隙なんて与えません。
私の夢の一番の障壁である彼女を、徹底的に倒してやる。

悪魔に取り憑かれたかのように、私はこなゆきを出し続けました。
 ▼ 28 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:49:59 ID:bCrM0lqg [28/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
試合は私の有利に進んでいます。
もうすぐ倒せる、そう思った瞬間、私は私の夢を追いかける道を、完全に踏み外しました。


隠し持っていたきよめのおふだ……千切っていない完全なものを、間違えて飛ばしてしまったのです。

あっ、と気づいた時には、もう遅かった。



「!?っ……い”ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」



目元を抑えてうずくまった彼女をただ見つめる視界に、黒い幕が降ろされていくような気がしました。
 ▼ 29 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:50:42 ID:bCrM0lqg [29/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私はすぐさま彼女に駆け寄ります。
きよめのおふだは彼女の目元を覆うように貼り付いたようで、彼女の顔にはそれは酷い火傷ができていました。
おふだは消滅していました。

辺りを見渡しておふだの破片が無いことを確認すると、私は彼女を揺り動かします。


「ムウマ!ムウマ!」

「あ……」


この時謝っていれば、何か変わったのでしょうか。

彼女は怯えた、絶望したかのような眼を私に向けたかと思うと、私を振り払いました。

そして、誰もいない方向へよろよろと去っていきました。



彼女は帰りませんでした。
 ▼ 30 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:51:28 ID:bCrM0lqg [30/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私と彼女の間に何があったのかは誰も知らず、私が咎められることはありませんでした。

学級で孤立しており家族もいない彼女を気にかける者は少なく、すぐにいつも通りの日常が戻りました。


私はその後もバトルで負けることはありませんでしたが、だんだんとその楽しさを忘れ、数年前ついに村を出ました。


夢を失い、今はあてもなく彷徨っているのです。
他の誰でもない、私自身の嫉妬と自尊によって。


一体どこから私の生は狂っていったのでしょうね?
彼女に話しかけた時でしょうか、戦闘の指導を始めた時でしょうか。
それとも最初の試合で負けた時でしょうか。



今はそんなことを考えても仕方がありません。
ただ、私はもう二度とあの村には戻らないでしょう……
 ▼ 31 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:52:56 ID:bCrM0lqg [31/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
話し込んでいるうちに、吹雪の音はだんだんと止み、外は静かになってきました。


──そろそろ、夜明けでしょうか。

──そうみたいですね。宿のお代はいくらですか?

──いえ、お代はいりません。キュウコンさんのお話がお代代わりです。お話してくれてありがとうございました。

──いいのですか?ありがとうございます。


偶然訪れた宿でしたが、誰かにこの話を聞いてもらうことができてよかった。

きっともう来ることはないでしょうが、来て良かった。そう思えました。


宿を出ると、白銀の平原と夜明けの空が広がっています。
私は振り返らず、風を感じて歩き出しました。
 ▼ 32 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:54:06 ID:bCrM0lqg [32/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


吹雪はさらに強くなり、夜の闇さえも白く塗りつぶします。


……そろそろ解けたころでしょうか。


あの一帯には大きな崖があり、気づかず落ちればまず助かりません。

仮に生きていたとしても、あの体毛なら雪に紛れて誰にも見つけてもらえないでしょうが。


……ああ、歌が聞こえます。

あの時の私と同じ、絶望の響きを含んだ歌です。

歌声はしばらく吹雪との合唱を奏でていましたが、やがて、聞こえなくなりました。


こんな寒い日は、古傷が痛みます。

 ▼ 33 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:55:01 ID:bCrM0lqg [33/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


  失夢回想    完


読んでくれた方
ありがとうございました
 ▼ 34 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/15 19:56:01 ID:bCrM0lqg [34/34] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あと本文に関係ないけど>>31の最初に*つけるの忘れました
 ▼ 35 クリュー@リンドのみ 18/12/17 01:16:30 ID:f0IsEN/Q NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙 です
 ▼ 36 オン仮面◆UZU8sNex1I 18/12/31 23:15:56 ID:hYeM..kM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
コテ証明
 ▼ 37 トラポット◆Pcf6Vw29GM 18/12/31 23:16:23 ID:hYeM..kM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
コテ証明
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