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【クリスマスSS】 アルトマーレ・クリスマス

 ▼ 1 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:30:00 ID:MaSn5he. [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

SS企画、クリスマスSS大会に参加しています。
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=721326

途中ごく一部でR-18描写があります。


 ▼ 2 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:32:01 ID:MaSn5he. [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



〜 TV 〜



続いては、アルトマーレの旬な情報をお伝えするコーナー、“アルトマーレ・ナビ”。

今週は、大聖堂のイベントをご案内します。


毎年クリスマスに多彩なイベントを開催している大聖堂。

今年のクリスマスは、トップコーディネーターによるポケモンコンテストのエキシビジョンが行われます。

トップコーディネーターと言えば、ポケモンコンテスト・グランドフェスティバルで優勝したコーディネーターに与えられる称号で、まさしく、コンテストのプロ。

そんなプロの織り成す美しいポケモンコンテストを、地元で観覧してみませんか?


今回お招きするトップコーディネーターは、ホウエン地方を拠点とするコーディネーター芸能事務所のカナズミ支局、“PPPK”に所属する、ハルカさんとモブミさん。

ハルカさんは“ホウエンの舞姫”と呼ばれる実力派。

モブミさんは“つじぎりメロディ”で有名な演技派。

ホウエンの名トップコーディネーターのコンテストを、間近で見ることが出来ます。



コンテスト会場の無いアルトマーレで、生のポケモンコンテストを見れる絶好のチャンス!

開催は、23日(土)と24日(日)の2日間。

当日は大聖堂前広場の特設ステージに、是非お越しくださいませ。



〜 TV 〜


 ▼ 3 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:33:00 ID:MaSn5he. [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 カノン (もう そんな時期かぁ……)



部屋のテレビを流し見ながら、いつもと同じ朝を迎えた。


薄着に慣れてる私でも、12月になって肌寒さを感じるようになったかと思えば、もうクリスマスシーズン。

1年なんて あっという間だ。


クリスマスムード、なんて言葉もあるけど、アルトマーレも その通りで、クリスマスツリーが飾られたり、イルミネーションで彩られたり。

そして一番の目玉と言うか、アルトマーレの皆が楽しみにしているのが、大聖堂のクリスマスイベント。

毎年いろんなイベントを行って、街の人や、観光客を楽しませている。

……って言っても、聖堂の中に手は付けられないから、聖堂前の広場に特設会場を作るんだけどね。

去年は確か、氷タイプのポケモンとアイススケート体験だったっけ。


今年はポケモンコンテストのエキシビジョン。

きっと大勢の人で賑わうんだろうな。
 ▼ 4 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:33:40 ID:MaSn5he. [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんなことを考えながら、私はパジャマから着替えて、髪を整えて、部屋を出る。

まだ7時前。

おじいさんを起こさないように、そっとドアを閉めて、私は秘密の庭へと足を運んだ。



朝露に濡れた、しっとりとした空間。

木々の間から、まだ顔を出したばかりの太陽の光が降り注ぎ、庭に陰影を付ける。

とっても清々しい朝だ。



そんな時、私は背後から、“風”を感じた。



 カノン 「おはようラティアス。今日は冷えるね」

 ラティアス 「くぅ」


ラティアスは、今日も元気そうだ。

この秘密の庭に定住するのは、今は この子だけ。

ラティアスとラティオスは元々は渡り鳥で、アルトマーレにある この秘密の庭は、そんなラティアスたちの立ち寄り場所、休憩場所のような意味合いが強い。

今までは この子の お兄さんのラティオスも一緒だったけど、あの事件で……。
 ▼ 5 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:34:20 ID:MaSn5he. [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 カノン 「おはようラティオス。今日も頑張るね」

 ラティアス 「くぅぅ〜」


……ううん。

今もラティオスは一緒。

“こころのしずく”として、いつも私たちを見守ってくれてるもんね。


 カノン 「さてっ。急がないとね」

 ラティアス 「くぅ!」


さっそく私たちは、庭の一角に向かう。

ラティアスが少し土を掘り返して、私は そこに、持ってきた苗木を植えた。

ヒノキの苗木。冬でも葉が散らない常緑樹で、成長すると、高さは30メートルにもなる。


 カノン 「……ふぅ。少しずつだけど、元の庭に近付いてきてるよね、ラティアス?」

 ラティアス 「くぅぅ〜♪」


ラティアスは笑顔で応えると、嬉しそうに宙を舞う。

そんな無邪気な彼女の姿を見ていると、こういう苦労も すぐに吹き飛んじゃう気がする。

ラティアスは強い子だ。


 カノン 「ふふっ。じゃあラティアス。また後でね」

 ラティアス 「くぅ〜!」


私は秘密の庭を後にして、自分の部屋へと戻った。




 ▼ 6 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:35:01 ID:MaSn5he. [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


おじいさんと一緒に、少し遅めの朝ごはん。

クロワッサンとスクランブルエッグに、ベーコンと、ミニトマトを少し。


いつも通りの朝の一時を過ごしていると、電話が鳴った。


 カノン 「はい、もしもし……」


こんな時間に電話なんて珍しいなと思いながら、受話器を取る。


 カノン 「おはようございます。……はい、ちょっと待って下さいね。 おじいさん、聖堂の館長さんから」

 ボンゴレ 「何かあったのかのぉ。……もしもし」


電話の相手は、大聖堂の館長さんだった。

おじいさんはゴンドラの修理職人だけど、暇なときは、大聖堂のガイドを手伝っている。

またガイドの応援の お願いかな?

……でも今日は元々ガイドに行く日だし、用があるなら聖堂で直接伝えればいいのに。


 ボンゴレ 「……それは厳しいのぉ。分かった、ワシの方でも探してみる。詳しくは後ほど。あぁ、それじゃあ」
 ▼ 7 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:36:00 ID:MaSn5he. [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
電話を終えた おじいさんは、溜め息交じりにテーブルに戻って来た。


 カノン 「何かあったの?」

 ボンゴレ 「おぉ。聖堂のクリスマスイベント、それのスタッフの応援を引き受けたこと、カノンには話してあるな」

 カノン 「えぇ」

 ボンゴレ 「何人かに応援を頼んでいたらしいんじゃが、インフルエンザで3人も欠員が出たらしいんじゃ」

 カノン 「3人も……。インフルエンザってことは、熱が下がっても2日は安静よね。それじゃあイベントの日には……」

 ボンゴレ 「間に合わんな。弱ったのぉ、スタッフの配置は割り当て済みじゃし、このタイミングで3人の欠員は……」

 カノン 「うーん……」

 ボンゴレ 「とにかく、ワシは早めに聖堂に顔を出す。カノン、出かけるのなら、戸締りは しっかりな」

 カノン 「はい」


おじいさんはクロワッサンを口に詰め込んで、コーヒーで流し込むと、すぐに支度を始めた。

そして、私が朝ごはんを食べ終わる前に、聖堂へと出発してしまった。


男の人は出かける準備に時間がかからなくて羨ましいなと、時たま思う。それとも、おじいさんが特別なのかな。
 ▼ 8 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:37:41 ID:MaSn5he. [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 カノン 「……さて。早く片付けないと」


食器を洗って、洗濯機を回して、その間に掃除機をかける。

洗濯ものを干して、お風呂掃除をすれば、あとは私の時間だ。




画材道具をまとめて、私は秘密の庭に向かった。


 カノン 「ラティアース。絵を描きに行くけど、ラティアスも来るー?」

 ラティアス 「くぅぅん♪」


広い庭に声を投げかけると、すぐにラティアスは私の元に来てくれた。

そして、姿を消す。お出かけ準備完了だ。
 ▼ 9 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:38:21 ID:MaSn5he. [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
秘密の庭を出発、細い路地を抜けて運河に出て、そのまま下流へと進めば、目の前に青い海が広がる。

アルトマーレの玄関口とも呼べる、島のメインの埠頭側。ラティアスとラティオスの石柱が、誇らしげに そびえ立っている



 カノン (大聖堂、けっこう準備 進んでる……)


大聖堂は、海から見て、2匹の石柱の中央に来る位置に建っている。

正面の広大な広場では、例のポケモンコンテストのイベント用の準備が進められていて、特設ステージは、ほぼほぼ完成してるみたい。

その様子を、多くの人が眺めている。

観光客っぽい人も居れば、地元の人の姿の方が多いように感じる。私と同い年くらいの男の子、女の子も、もの珍しそうにスマホを向けていた。


 カノン (やっぱりコンテストって人気なのかな)


ポケモンコンテストの人気度合いは、私には分からない。

アルトマーレに常設のコンテスト会場は無いし、コンテストのテレビ中継を見るようなことも無いし。

以前、ポケモンパフォーマンスのエキシビジョンが、同じように大聖堂の特設会場で開催されたことがあったけど、それも含めて、私は こういうイベントに興味が湧かなかった。

絵を描いてる方が楽しい、落ち着けるってのもあるけど、どうしても私は、人と触れ合うのが苦手だから……。


別に、人と話すのが嫌いって訳じゃない。

けど私には、気軽に人と付き合えない理由がある。


それは、秘密の庭を護り、島に訪れるラティアスとラティオスを癒すって言う、先祖代々受け継がれてきた使命を抱えているからだ。
 ▼ 10 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:39:01 ID:MaSn5he. [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
こころのしずくや秘密の庭を護る者として、あんまり他人に親しくするのは避けるべきだと、私は小さい頃から教わって来た。

ラティオスだって、積極的に外へ出たり、秘密の庭の外に住む野生ポケモンとは関わろうとしなかった。

……この子は例外だけどね。


 ラティアス (♪♪♪)


姿を消しているラティアスが、特設会場を眺めているのが分かる。

見えなくても、この子の性格を考えれば分かる。好奇心旺盛だもんね、ラティアスは。


話を戻すけど、そんな訳だから私は、当然、友達が少ない。

……いや、いない、って言ってもいいのかな。小さい頃から仲の良かった子とは、もう疎遠になっている。

成長するにつれて、私自身の役目、一族の使命を理解するにつれて、あまり部外者と関わては いけないんだという考えが生まれて来て、そうなるとどうしても、相手に素っ気ない態度を取ってしまう。

そしていつしか、私の親しい友達は、居なくなっていた。


孤立するようになった私を待ち受けていたのは、嫌がらせだった。と言っても、別に物を隠されるとか、暴力を受けるとか、そういうものではない。


無視されるの。
 ▼ 11 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:39:40 ID:MaSn5he. [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
はじめのうちは、悪口を言われていた。

大好きなスケッチを1人で楽しんでいる時も、私への嫌がらせは続いた。


……けどある時。

いい加減怒ったのか、ラティアスが突風を巻き起こして、私に嫌がらせしてくる子を、運河に落としちゃって。

当然、ラティアスたちの姿は見えていないから、いじめっ子は不思議そうな顔をする。そして怖がる。

そのうち、私には地縛霊が付いてるーとか、関わったら呪われるーとか言い出し始め、いつしか、みんな私を無視するようになった。


私にとっては好都合だった。

大好きなスケッチを静かに こなせるし、部外者と関わらない方が良いと言う、一族の暗黙のルールにも合致する。

こうやって静かに絵を描いて、秘密の庭ではラティアスやラティオスと一緒に遊んで……。

それだけで、私は満足だった。


何人かは、私を見て ちょっかい出してくる子も居たけど、最近は その子たちからも完全に無視されている。

面倒ごとにならないし、変に反応することも無い。


好都合――、なんだよね。
 ▼ 12 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:40:20 ID:MaSn5he. [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン (……よし。今日は このアングルかな)


大聖堂近くの桟橋にポイントを定めて、私はスケッチブックを用意する。

ここから海の方を向けば、青い海と青い空、ラティアスとラティオスの石柱を おさめることが出来る。


 カノン (あんまり遠くに行っちゃだめだよラティアス)

 ラティアス (くぅ〜)


私は しばらく、何も考えないでスケッチに集中した。

波の音を聞きながら、優しい風に撫でられながら、絵を一筆ずつ完成に近付けていく――。

それが私の趣味。とっても心地良い時間。



私は心ゆくまで、この時間を楽しんだ。




 ▼ 13 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:41:22 ID:MaSn5he. [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ボンゴレ 「帰ったぞ」

 カノン 「お帰りなさい、おじいさん」


夕方、おじいさんが帰って来た。

大聖堂の開放時間は17時までだけど、おじいさんは正規の職員じゃないから、閉館より早めに帰って来れる。

手にはマーケットで買った食材。これが今日の夕ご飯だ。


 カノン 「お風呂、沸かしてあるよ」

 ボンゴレ 「おぉ。……それより、なかなかマズいことになってしまってのぉ」

 カノン 「マズいこと?」

 ボンゴレ 「例のイベントの手伝いじゃが、どうにも人員が確保できそうにないんじゃ」

 カノン 「そっか……、そうだよね。クリスマスだし、もうみんな予定入れてるよね」

 ボンゴレ 「欠けた3人分を、居る者たちで回さねばならん。カノン、すまんがイベントの23日と24日、帰りが遅くなると思うから、よろしく頼む」

 カノン 「うん。大変ね、おじいさん」
 ▼ 14 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/20 23:43:00 ID:MaSn5he. [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
確かに、既存の人に3人分の仕事が増えるんだから、とっても忙しくなりそうだ。

おじいさん、もう若くないんだから無理して欲しくないのになぁ。

でも、おじいさんガイドの仕事は楽しいみたいだし、まだまだ第一線で働きたいって気持ちもあるみたいだし……。


……仕方ないか。


 カノン 「ねぇおじいさん。私もイベント手伝うよ?」

 ボンゴレ 「本当か!? いやしかし、クリスマスにまでカノンに迷惑かける訳には いかん。お前さんは女の子らしく、クリスマスを楽しみなさい」

 カノン 「大丈夫よ。私も大聖堂の仕事は時々手伝ってるから勝手は分かるし、そういう人の方が助かるでしょ?」

 ボンゴレ 「確かにそうじゃが」

 カノン 「それに私、クリスマスの予定は無いもん。絵を描きに行くくらいなら、大聖堂の人を手伝いたいし、来てくれる人の役にも立ちたいな」

 ボンゴレ 「そうか……。すまんなカノン。本当なら断る所じゃが、そんな余裕も無いからのぉ……、よろしく頼む」

 カノン 「はいっ」



いいんだよね、これで。


クリスマスの予定……。

一緒に遊びに行く人も居ないし、特に やりたいことも無いし。男の人と過ごすなんて論外だし。


でも……、私くらいの女の子って、やっぱりクリスマスは、友達や彼氏と一緒に過ごすものなのかな?




 ▼ 15 グノム@どくけし 17/12/21 08:48:50 ID:uQaUUMH. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
カノン好きの俺得SSだ!
ゼンリョクで支援!
 ▼ 16 エトル@じめじめこやし 17/12/21 08:55:48 ID:c3pf/.S6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 17 ーフィア@きょかしょう 17/12/22 16:16:41 ID:Tr4/BnbA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 18 pope◆29thbc/0F6 17/12/22 17:49:35 ID:1gKjBttk NGネーム登録 NGID登録 報告
アンタか

支援
 ▼ 19 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 19:33:33 ID:LmDphBBI [1/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


そうして迎えた23日、土曜日。

クリスマスイベントなら24日と25日に開催するのが良いんだろうけど、土日の開催を優先したのかな。



 カノン 「おはようラティオス。今日は大聖堂のイベントの お手伝いに行ってくるね」

 ラティアス 「くぅ〜?」

 カノン 「人が足りないんだって。私クリスマスの予定は無いから、こういう時は協力しないとね」

 ラティアス 「くぅ」

 カノン 「急がないと。ラティアス、今日は向こうのエリアに植えよっか」

 ラティアス 「くぅん」


私たちは いつものように、秘密の庭の一角に苗木を植えた。

苗木を植え始めてから1年以上経つけど、みんな、ちゃんと定着して大きく育ってくれている。

秘密の庭が再び美しい緑に包まれるまで、この調子で頑張らないと。



私は簡単に朝食を済ませて、おじいさんと一緒に、大聖堂へと向かった。
 ▼ 20 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 19:47:00 ID:LmDphBBI [2/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 カノン 「わぁ……まだ開演前なのに凄い人」

 ボンゴレ 「ポケモンコンテストとやらは、アルトマーレでは珍しいからのぉ。これは忙しくなるぞ」


午前8時。

大聖堂に着いた私たちは、人の多さに驚いた。

大聖堂の開館は9時、コンテストのイベントは10時からなのに、聖堂前広場には、既に多くの人が集まっている。

アルトマーレの人は勿論、観光客の姿も多く、ポケモンコンテストが こんなに有名なんだと痛感した。

私の知らない世界は、思った以上に広いみたい。



職員用の通用口から大聖堂に入って、早速、イベント前の最終打ち合わせ。

私は受付スタッフの補助役で、館長さんが言うには、そこが一番安全らしい。

“安全”って言うと変な意味に捉われがちだけど、会場の警戒とかグッズ販売、待機列の整理とかは、女の子には向かないとのことだった。
 ▼ 21 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 19:54:00 ID:LmDphBBI [3/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 受付K 「それじゃあカノンちゃん、今日は よろしくね」

 受付L 「聖堂に詳しいカノンちゃんが手伝ってくれて、ホント助かるよ」

 カノン 「いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」


受付スタッフのKさんとLさんは、大聖堂の正規職員。

何度も顔を合わせてる人だから、緊張することも無い。館長さんと おじいさんが、そういう配置にしてくれたのかな。


 受付K 「9時半になったら受付開始だから、それまでに準備しておいてね」

 受付L 「あと腕章ね。これ もしかすると、開場時間早めた方が良いかもね。10時開始までに捌ききれないかも」

 カノン 「既に凄い人ですもんね」

 受付K 「そうですね。じゃあひとまず、9時15分に集合で、受け付け出来る態勢を整えておきましょう。館長さんに確認して来るわ」

 受付L 「お願いします」


クリスマスだし、やっぱり来てる人、多いんだな。

忙しくなる……、覚悟しておかないと。


 ▼ 22 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 20:05:22 ID:LmDphBBI [4/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


9時20分。

私たちは持ち場に着く。特設ステージの入口に設置されたテントの中だ。

これほどの混雑は館長さん達も気にしていたみたいで、開場時刻は10分早まり、仕事がスタートした。



 受付K 「こちら受付になりまーす」

 受付L 「整理券お持ちの方は左側に! お持ちでない方、当日券の方は右側に並んでお待ちください!」


受付に続く長蛇の列は、聖堂前広場に設置された特設ステージを囲むように伸びて、曲がって、ここからでは最後尾が見えない。

特設ステージのキャパシティーを考えると、開始の10時までに全員を案内できるかどうか……。


それに、この列を捌いて終わりと言う訳では無い。


トップコーディネーターのハルカさんとモブミさんのエキシビジョンは、一コマ20分くらい。

休憩と観客入れ替えのマージンを取って、合計7回の公演が行われ、全ての公演で、演技の内容を変えるらしい。

そうなると、公演を複数回見る人も出てくるはずだ。熱心なファンなら、全部の公演を見るかもしれない。


つまり、混雑の傾向が見えにくく、常に忙しい可能性があるってことだ。
 ▼ 23 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 20:21:24 ID:LmDphBBI [5/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 受付K 「はい、それではD-4ブロックにお進みください」

 受付L 「混雑していますので、一部立ち席になっちゃうかもしれないです……はい、もしよろしければ、次の時間の公演を……」

 カノン 「はい、こちらパンフレットになります。次の……、あ、受付を済まされた方、こちらでパンフレットをお配りしてます」


うぅ……、入場の流れが早い……。

私の仕事は受付補助で、パンフレットを渡したり、質問に答えたり、当日券の割り当てを調整したり。

本来なら4人配置される予定の受付を、私たち3人で対応している訳だから、忙しさを感じて当然だ。


 観客C 「ねぇ、10時の回ってもう座れないの?」

 カノン 「あっ、はい。申し訳ありませんが、10時の公演の整理券は配布済みになってます。立ち席でよろしければ」

 観客C 「立ち見か〜。どうするDちゃん?」

 観客D 「えー、どうせなら座りたいじゃん。次の回は?」

 カノン 「10時45分の公演ですと……、まだ大丈夫ですが、大変k」

 観客D 「じゃあそれ2枚」

 観客C 「45分あるならカフェでも行くか?」

 観客D 「さんせーい。アルトマーレのクレープとか人気みたいだし、インスタ用に撮ってみたーい」

 カノン 「えっと、すみません。10時45分の回ですが、非常に混雑しているので、早めに並ばれないと、隣同士で座れない可能性があるんです」

 観客C 「えーマジかよ」

 観客D 「はー? そういうこと、もっと早く言って貰えない?」

 カノン 「すっ、すみません……」

 観客C 「じゃあいいや。昼過ぎの2枚。飯食いながら並んどこうぜ」

 カノン 「では、13時からの公演を2枚で、よろしいでしょうか」

 観客D 「食べ歩きも乙よねー」

 観客C 「なんか食べ歩きサイズのピザとか、向こうで宣伝してたじゃん」

 観客D 「あー、それ良いかもー!」

 カノン 「あのっ、13時のでよろしい……」

 観客D 「それでいいから早くしてよ!」

 カノン 「……はい。すみません」
 ▼ 24 ラードン@ハイパーボール 17/12/23 20:26:53 ID:tV0o6OZs NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援ぬ
 ▼ 25 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 20:28:40 ID:LmDphBBI [6/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私は忙しさを、甘く見ていたかもしれない。


こういう場面、アルトマーレの人なら、ここまで苦労は無い。

現に、コンテストを一目見ようと並んでいた地元の人は、“大変ねぇ”とか“凄い人ねぇ”とか、私たちを労ってくれる。


けど、余所から来た観光客は、全員が全員、そういう良い人ではない。

お客様気分って言うか、持て成されることを当然として大聖堂に訪れているから、とっても横柄な態度だ。今のカップルが良い例。


勿論、観光客全員が そうでは無いし、これだけ並んでイライラもあると思うけど。

それでも、私だって一生懸命対応してるのに、そんな態度を取られたら、悲しくなる。

頭に来るんじゃなくて、悲しい気持ちになる……。
 ▼ 26 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 20:37:08 ID:LmDphBBI [7/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 観客E 「ねぇ、こっちにパンフレットくれないの!?」

 カノン 「あっ、失礼しました。こちら……どうぞ」

 観客E 「ボーっとしてないでよ! 開演まで時間無いんだから!」

 カノン 「すみません……」

 観客G 「10時の回、もう立ち見って聞いたんだけど」

 カノン 「10時……はい。整理券の配布は終わっていまして」

 観客G 「あーもしもし、やっぱ10時ムリ。……うん、……うん。オッケー聞いてみる。昼くらいの公演まだ大丈夫?」

 カノン 「お昼頃ですか? それでしたら11時30分の回、こちらまだ少し余裕が……」

 観客G 「……うん、あ、じゃあオレはコンソメと、コーラのMで。 空いてるのね。それ4枚」

 カノン 「かしこまりました。では4枚ご準備いたします」

 観客G 「そう、だからさ、Fちゃんの希望でも良いんじゃん? とりあえず聖堂の中を見てさ」

 カノン 「お待たせしました。11時30分の回を4枚と、パンフレットになります」

 観客G 「あとほら、クレープの店とか……ちょっと待って。 はい4枚ね、ありがと。……ってオイこれ11時半って書いてあるんだけど!?」

 カノン 「えっ……、あのっ、11時30分の回と ご説明……」

 観客G 「昼頃って言ったら、ふつう12時以降を案内するんじゃないの!?」

 カノン 「いえっ、そのっ……次が13時になるので、お昼頃の公演ですと、11時30分が……」

 観客G 「だったら最初に言えよ! これキャンセルで13時にしてよ。早くさぁ!」

 カノン 「はい……っ、グスッ、少々、お待ちください……」

 観客G 「あーもしもし? いま若い受付の奴が間違いやがってさぁ! マジ時間の無駄だし!」

 カノン 「お待たせ致しました。13時からで、4枚です。それと、こちらパンフレットに……」

 観客G 「パンフとかいいから! ったく!」
 ▼ 27 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 20:38:00 ID:LmDphBBI [8/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なんで……。


なんで私、こんなに怒られてるんだろう。

一生懸命やってるのに。

クリスマスなのに。

みんなが大変だと思ったから、手伝ってるのに。

アルトマーレに来てくれた人に、楽しんで貰いたいから……、手伝ってるのに……。


 受付K 「では次の10時45分、確実に お座り頂くために、早めのご来場をお勧めします」

 受付L 「午後ですか? 13時45分と、少し空いて、15時からになりますね」


……ダメ。

クヨクヨしてる暇なんて無い。

KさんもLさんも、私が怒られてたのに気付かないくらい、忙しそうに対応している。

2人に比べたら、補助役の私は まだ楽な方だ。

気持ちを切り替えないと。しっかり働かないと。
 ▼ 28 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 20:41:10 ID:LmDphBBI [9/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 司会 『皆様お待たせいたしました。只今より、大聖堂クリスマス特別イベント、ポケモンコンテストエキシビジョンの開会です』

 司会 『ホウエン地方カナズミシティから、トップコーディネーターをお招きし、ここアルトマーレでコンテスト初開催!』

 司会 『それではご紹介します。ピュラ・パフォーマンス・プロダクション・カナズミ(Pure Performance Production of KANAZUMI:以降“PPPK”)の、ハルカさんと、モブミさんです!』


  \ うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! /


 ハルカ 『皆さん おはようございます。紹介に預かりました、PPPKのハルカです! “ホウエンの舞姫”なんて呼ばれていますが、まだまだ毎日が修行の身です』

 モブミ 『“おはよう”は10時までよ』

 ハルカ 『あっ……で、でも! 10時3分だからセーフですよ!』


  \ ぁはははははははは /


 モブミ 『まったく。皆様ごきげんよう。同じくPPPKのモブミです。1年間のお休みを頂いて、身も心もリフレッシュ、心機一転、今後ともコンテストに精進していきます』

 司会 『お二人はホウエンでもトップクラスの実力を持つ、プロ中のプロ! トップコーディネーターの中のトップコーディネーター! そんな彼女たちの美しいエキシビジョン、心ゆくまでお楽しみくださいませ!』



特設ステージの中から、マイクで拡散された声が聞こえてきた。

受付からは見えない位置にあるから、中がどんな配置なのか、どれくらい立ち見がいるのか、ハルカさんとモブミさんが どんな人なのか、ここからじゃ分からない。

でも、エキシビジョンが時間通りに始まったみたいで、とりあえず一安心だ。
 ▼ 29 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 20:42:00 ID:LmDphBBI [10/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 受付L 「ふぅ……。一段落」


 受付K 「常に忙しいと思ってましたけど、案外落ち着けるタイミングってあるんですね」

 受付L 「やっぱり最初の回に集中するんでしょうね。この後だと、13時の回が忙しいかも」

 受付K 「そうですね。整理券も減って来てますし、第二波は要注意ですね」

 受付L 「カノンちゃんも一旦お疲れ様。どう? 大変?」

 カノン 「はい。次から次へと お客さんが来て、あたふた してしまって……」

 受付K 「仕方ないわよ。これだけ大規模なイベントなのに、欠員1で受付を回してるんだもん」

 受付L 「ホント、カノンちゃんが来てくれて助かってるよ。でも、くれぐれも無理しないでね」

 カノン 「はい。ありがとうございます」


KさんとLさんに、理不尽な お客さんのことを話そうと思ったけど、やめた。

心配させたくないし、もし私が抜けるようなことになれば、2人は ますます忙しくなってしまう。

自分で決めたことだもん。今年のクリスマスは、観光に来てくれた人のために働こうって。

割り切らないと。どんな理不尽なことを言われても、それが仕事なんだよって。




 ▼ 30 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:26:01 ID:LmDphBBI [11/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


その後、10時45分の回と、11時の回は、最初ほどの混雑は無かった。

その分、お客さんへの対応も余裕が生まれて、私は落ち着いて仕事が出来る。

そんな気持ちの余裕から、理不尽な お客さんからのクレームも、黙って聞き流せるようになった。



けど、13時の公演を前に、状況は一変する。



 観客H 「ちょっとまだですかー」

 観客I 「立ち見〜!? キャパ少な過ぎるんじゃないの!?」

 観客O 「3人なんですけど、隣同士になれないんですか?」


 受付K 「順番にご案内します! 2列でお願いしまーす!」

 受付L 「申し訳ない。整理券は配布済みなので、この回は立ち見しか空いてないんですよ。次は15時が……」


みんな考えることは同じなようで、お昼ご飯を食べ終わった人が、13時の公演に集中して集結、再び長蛇の列が形成されたのだ。

KさんとLさんの予想が的中した形だ。

しかも、10時の回とは違って、午後になって人でも増えてきている。もしかすると、初回以上の混雑かもしれない。
 ▼ 31 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:26:40 ID:LmDphBBI [12/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 観客O 「ねぇ3人一緒になれないの!?」

 カノン 「すみません。13時の公演は、もう立ち席しか残っていないので……」

 観客O 「座れなきゃ意味ないじゃん! どうしても13時のダメなの!?」

 カノン 「申し訳ありません。整理券は全て配布済みで……」

 観客O 「はぁ。じゃあいいわよ。次の……13時45分。これ3人」

 カノン 「あのっ……すみません。13時45分の回も整理券は配布済みとなってまして……」

 観客O 「なに? 次も立ち見なの!? どうなってんのよ!?」

 カノン 「すみません。この2コマに お客様が集中してしまって、そのっ……」

 観客O 「ったく! じゃあ立ち見で良いから早く13時の入れて!」

 カノン 「はい……」

 観客P 「お姉さん! こっちずーっと待ってるんだけど!」

 観客Q 「ってか立ち見〜? なんでこんな混んでるのよ〜」

 カノン 「すみません、少々お待ちくださいっ……」


さっきまでの余裕、無くなっちゃったよ。

混んでてみんな苛立って、私たちスタッフへの風当たりが強くなる。

待たせたり、立ち見になっちゃうのは申し訳ないと思うけど、でもっ、そんな酷い言い方しなくたって……。
 ▼ 32 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:27:23 ID:LmDphBBI [13/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 受付L 「うぉ〜こんなタイミングで釣り札が切れた!?」

 受付K 「えぇっ……」

 受付L 「ちょっと貰ってくる……って、僕が行ったら女性2人だからマズいか。カノンちゃん!」

 カノン 「……あっ、はい!」

 受付L 「悪いんだけど、本部に行って、釣り札を貰って来てくれない? ここは僕たちで回すから!」

 受付K 「お願いカノンちゃん」

 カノン 「分かりました。すぐ行ってきます。じゃあえっと、こちらの お客様をお願いします」

 観客R 「おい待たせた挙句たらい回しかよ!?」

 受付L 「はい申し訳ありません! こちらで伺いますよー」


釣り札が切れたのは、案外好都合だったかもしれない。

ダメ……、あんな殺伐とした雰囲気で仕事を続けていたら、体が悲鳴を上げそうだ。

男の人にも、女の人にも、理不尽なこと言われて、怒鳴られて、馬鹿にされて……。

私、一生懸命やってるのに。全然 手抜きなんてしてないのに。

なんでだろう……、涙、でてきちゃうよ……。
 ▼ 33 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:28:00 ID:LmDphBBI [14/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


イベント本部は、大聖堂の中にある控室を使っている。

あれだけ混んでいた特設ステージとは違って、大聖堂の中は静かだし、人も全然少ない。……って言っても、普段よりかは明らかに多いけど。

その ほとんどが観光客らしき人。

何人かのスタッフが、大聖堂を案内している。おじいさんは古代マシンについて説明していた。

受付で あれだけ理不尽なクレームを付けられたけど、ここを見学している人に そういう様子は見られず、至って平和だ。

この歴史ある大聖堂で騒ぐような人が居なくて、ひとまず ほっとした。



本部で両替して貰って、私は足早に、あの殺伐とした受付へと戻る。

本音を言えば、もう あそこは嫌。違う配置に変えて貰いたいけど、人手不足なのに、そんな我儘は言っていられない。

足取りは重いけど、我慢しないと。今日明日だけだから、我慢しないと。





   「あ、カノンじゃん」

   「ホント。久々に見た」
 ▼ 34 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:28:40 ID:LmDphBBI [15/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな矢先、私は新たな不安要素に襲われた。

背後から声を掛けてきたのは、A子とB子。これまで私に嫌がらせしてきた、代表格の2人だ。


 A子 「クリスマスなのに1人で観光? 悲しいわねー」

 B子 「違うっぽいわよ。あの腕章ココのでしょ?」

 A子 「ぁそっか。ボッチだからバイトして気を紛らわそうってワケ? 余計 悲しいじゃん」

 B子 「ホントよね〜。マジウケるんだけど!」


ケラケラと笑う2人。

今このタイミングで会いたくなかったな。

最近ずっと顔を合わさないでいたのに、なんで今なの……。


 A子 「……チッ。また無視かよ。ホントつまんねー女」

 B子 「今まで通りじゃん。絵を描くだけの根暗女。それでクリスマスにバイトとか」

 A子 「あーカノン。私たち今からクリスマスパーティーなのよ。カラオケで、イケメン男子と一緒に」

 B子 「アンタには無縁の話よね〜。去年だっけ? 一緒に居た あの生意気な男、もう全然見ないし、やっぱアンタはボッチが お似合いなのよ」

 A子 「良かったらカノンも一緒に来るー?」

 カノン 「えっ……」
 ▼ 35 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:29:40 ID:LmDphBBI [16/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 B子 「やめなよ。こいつカラオケなんて出来っこないし、場が白けるわ」

 A子 「冗談に決まってんでしょ。お願いされても お断りよ」

 B子 「あははっ。友達料とか貰っても拒否よねー」

 A子 「……あ! カノンあれ使えば? レンタル彼氏!」

 B子 「あははっ! それ傑作! 寂しさを金で紛らわすとか、どんだけ悲しい人生なのよ!」

 A子 「ってか、去年いた あの男もレンタル彼氏だったんじゃない?」

 B子 「確かに! カノンに男が居るとか おかしいと思ったのよね〜」

 A子 「その男も悲惨よね〜。こんな奴にレンタルされるとか」

 カノン 「やめてっ!」


私の悪口を言う分には別にいい。もう慣れっこだもん。

でも、“彼”のことを貶すような発言は、絶対に許せない。

アルトマーレを救ってくれた“彼”を悪く言う資格、アルトマーレに住んでるA子とB子に あるはずが無いんだから。
 ▼ 36 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:30:21 ID:LmDphBBI [17/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 B子 「なに? 刃向うワケ?」

 カノン 「あなたたち、そんなこと言える立場じゃないのよ! なんで……グスッ、分かってくれないのよ……」

 A子 「なに言ってんのアンタ? 意味わかんないんだけど」

 B子 「……白けたわ。行こA子。こんな奴に構ってると時間の無駄よ」

 A子 「そうね。じゃあカノン、せいぜい寂しいクリスマスを楽しんでなさいよ」

 B子 「じゃあね根暗」



A子とB子は、常に私を見下した感じで、立ち去って行った。



残された私は……、居た堪れなかった。

両替金が入ったバッグを強く握りしめ、その手は震えて、気が付くと私は、涙を流していた。


 カノン (なんで……)

 ▼ 37 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/23 23:31:40 ID:LmDphBBI [18/18] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なんで、こんなこと言われなきゃならないんだろう。

なんで、大切な人を馬鹿にされなきゃいけないんだろう。

なんで、私は泣いてるんだろう。


悪口を言われるのは慣れているはずなのに。

今までそれを、一族の使命によるものだと、受け止めていたのに。

私は そういう立場だって、ずっと、もうずっと、理解していたのに。


 カノン (なんでみんな……、分かってくれないの……)



……ダメ。

今は そんなこと考えてる場合じゃない。

KさんとLさんが、両替金を待っている。早く戻らないと。

でも、泣いた顔で戻る訳にはいかない。


私は洗面所に立ち寄って、顔を洗って、笑顔を作る練習をして、受付へと戻った。


 ▼ 38 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 00:22:25 ID:sn45ZzK. [1/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


受付の列は相変わらずの混雑だけど、一番混んでると思われる13時の公演が始まったことで、少しずつ、落ち着きを取り戻していた。

そして私も少しずつ、普段通りの私に戻りつつあった。

やっぱり忙しくて余裕がないと、どうしても負の方向に物事が進んでしまう。

理不尽なクレームを受けたり、A子とB子に酷いことを言われたりしたことも、割り切らないといけない。

今日の私は、そういう立場なんだから。




……でも、人が多い、忙しいってことは、それだけトラブルも発生しやすいってことにも繋がる。



 観客W 「ちょっと係の人!」

 受付K 「はい。どうかされましたか?」

 観客W 「ウチら、13時の整理券持ってたのに、座れなかったんだけど」

 受付K 「座れなかった……、整理券の指定の席に、誰かが座られていたのですか?」

 観客W 「そう! どういうこと!? わざわざ並んで整理券ゲットしたのに、これ詐欺じゃないの!?」

 観客X 「座りたいから30分並んだんだけど、ふざけてんの?」
 ▼ 39 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 00:27:00 ID:sn45ZzK. [2/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
整理券を持ってたのに、その席に先客が居て、座れなかった――。

2人の お客さんは、明らかに怒った様子で私たちを怒鳴りつけた。

確かに、30分も並んで整理券を買ってくれたのに、それで座れないとなれば、怒るのも当然だ。だけど……。


 受付K 「申し訳ありません。ですが、それですと、先に座られていた方が座席を お間違えになったか、立ち席にも関わらず座ってしまったかで……」


そう。それだと、先客の人が間違えていた可能性が高い。


 観客W 「違う! ウチらもそう思って、そいつらに言ったから!」

 観客X 「整理券見せて貰ったら、席の番号は合ってたんだよ」

 観客W 「そいつら見るからにDQNで、確認すんの怖かったんだから! それで確認して貰ったら席は合ってるし! どういうことなのよ!?」

 観客X 「ダブルブッキングじゃないの? ちゃんと管理されてんのかよ このイベント!?」


えっ……先客の人も席は合ってたの?

なんでだろう。整理券は、既に出来上がっている紙を渡すだけだから、ダブルブッキングなんて有り得ないのに。

出来上がっていた整理券が、二重に作られてたってこと?

……ううん。客席分の枚数は数えて確認してるから、それは無い。
 ▼ 40 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 00:34:00 ID:sn45ZzK. [3/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 受付K 「申し訳ございません。でも……Lさん! 整理券って予め作ってるやつですから、ダブルブッキングって起こり得ないですよね?」

 受付L 「あぁ……そのはず。えっとお客様。その、座ってた方の席番号は、確かに合ってたんですよね?」

 観客W 「そうだって言ってんでしょ!」

 受付L 「そうすると考えられるのは……、24日、明日の整理券を持ってた人が、今日の公演に来ちゃったってパターンか」

 受付K 「私も それ思ったんですけど、明日の整理券は色を変えてるので、違ったら分かるはずなんですよ。お客様、その方の整理券、同じ色でしたよね?」

 観客W 「同じだったわよ!」

 観客X 「違ったら こっちから言うってーの」

 観客W 「マジ腹立つんだけど! なんでDQNの4人組にウチらの席 奪われなきゃいけないのよ!? せっかく楽しみにしてたのに!」



……4人組?

ねぇ待って。

DQNって、ガラの悪そうな人のことだよね?

その4人組で、13時公演って、もしかして……。


 カノン 「あのっ……」

 受付L 「あ、ごめんねカノンちゃん。こっちで対応するから、カノンちゃんは……」

 カノン 「違うんです。そのっ、そちらの お客様が座れなかったの、私のミスかもしれないんです……」

 受付L 「えっ!?」

 観客W 「はぁ!? アンタのせいなの!?」

 観客X 「どういうことだよ?」
 ▼ 41 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 00:43:00 ID:sn45ZzK. [4/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
午前中、本当に忙しかった時間帯、私は1人の男の人から、理不尽なクレームを受けた。

“昼頃の公演”って言われたから、11時半の整理券を4枚、確認した上で用意したんだけど、その人は電話しながらで、話を聞いて無かったみたいで。

11時半の整理券を渡したら、突然 怒りだして、お昼以降に変えろって。

怒鳴り散らされる仕打ちに耐えながら、私は13時の整理券を4枚渡した……はずだった。


 カノン 「私、11時半の整理券を、間違えて13時公演を希望した人に渡してしまったかもしれないんです……。ごめんなさいっ」


それしかない。

この お客さん、先客の座席番号は確認したって言ってたけど、どの回の公演かは確認していないみたいだし、十分に有り得る話だ。

……ううん。整理券全体の枚数が合ってて、明日の整理券じゃないってことは、原因は私のミス以外、考えられなかった。


 観客W 「はぁぁぁぁ!? ざけんじゃないわよ! アンタのせいで並んだ時間ムダになったじゃない! どうしてくれんのよ!?」

 観客X 「結局そっちのミスかよ。そんなガキ受付に使ってんじゃねーよ」

 受付L 「大変申し訳ありません。整理券の分、返金させて頂きますので……」

 観客W 「当たり前でしょ!」

 受付K 「申し訳ございません。せっかくお並び頂いたのに、こんな形になってしまって、なんとお詫びすれば……」

 観客X 「そういうテンプレ謝罪いらないから。マジ最低だな」

 観客W 「二度と来ないから! ヤバいほど綺麗な街なのに、ホントこういうのあると白ける!」

 受付L 「本当に申し訳ありません。今後このようなことが無いよう、確認を徹底致します」
 ▼ 42 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 00:48:30 ID:sn45ZzK. [5/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私のせいだ。

私のミスのせいで、お客さんに不快な思いをさせちゃって、KさんとLさんにも迷惑かけて、アルトマーレの評判も落としちゃって……。

一生懸命やってるのに……、なんでこんなミスしちゃったんだろう。

観光客の人にアルトマーレを楽しんで貰いたいのに、なんで私……。


 カノン 「Kさん、Lさん……本当に、グスッ、ごめんなさいっ……」

 受付L 「ドンマイドンマイ! 気にすること無いよカノンちゃん」

 受付K 「そうよ。これだけ忙しいんだもん。人間誰だってミスしちゃうわよ」

 カノン 「でもっ、せっかく来てくれた お客さんに申し訳なくて……、KさんとLさんにも、ご迷惑おかけしてしまって……」

 受付L 「大丈夫大丈夫。本当なら2人のところを、カノンちゃんが来てくれて助かってるんだから」

 受付K 「そうよカノンちゃん。自分を責めないで。カノンちゃんのミスをフォローするのも、私たち正社員の仕事なんだから。ねっ?」

 カノン 「グスッ……はい。本当に、ごめんなさい……」


KさんとLさんは、そう言って、私を責めたり、怒ったりすることは無かったけど……。

でも私にとって、自分のミスが許せなかった。


頑張ってるのに、なんで私……。

 ▼ 43 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 00:49:00 ID:sn45ZzK. [6/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




その後、15時、15時45分の公演は、そこまで混むことは無く、特にトラブルも無く、受付の仕事は、無事に終了した。


私は絶対にミスしないように、注意深く対応に当たったけど、心の余裕は全然無くて、きっと不愛想な対応になっちゃったと思う。


アルトマーレに来てくれた人に対して、そんな対応ダメなのに。





早く時間が経って欲しいって ここまで思ったこと、生まれて初めてだった。



 ▼ 44 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:21:30 ID:sn45ZzK. [7/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


閉館の17時。


おじいさんは、細かな打ち合わせがあるみたいで、私1人だけ、帰路に着いた。


夕焼けのオレンジ色が街並みを染めて、アルトマーレを一層美しく際立たせる時間帯。

だけど私の足取りは重い。

俯いて歩く私の影は、クリスマスムードの煌びやかな街に、驚くほどミスマッチだった。



明日も同じくらい混むだろうし、もう絶対にミスは出来ない。

でも、きっと理不尽な お客さんも多いだろうし、それに耐えなきゃいけない。


私……、明日の仕事、ちゃんと出来るかな……。
 ▼ 45 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:24:07 ID:sn45ZzK. [8/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 観光客Y 「綺麗ね、アルトマーレの運河。ムードたっぷり」

 観光客Z 「そうだね。夕暮れ時は格別だよ」

 観光客Y 「それだけ?」

 観光客Z 「なんだよ。“君の方が綺麗だよ”とでも言って欲しいの?」

 観光客Y 「やだも〜///」

 観桜客Z 「まんざら嬉しそうじゃん!」

 観光客Y 「えへへっ。……ねぇ、良いホテル、取ってくれたんでしょ?」

 観光客Z 「あぁ。奮発して最上階のスイートルームをね」

 観光客Y 「嬉しいっ。じゃあ誰も気にしないでエッチできるねっ ///」

 観光客Z 「おいおい街中で大胆なこと言うなよ〜」

 観光客Y 「だって楽しみなんだも〜ん」



運河を眺めていたカップルの会話が、嫌でも耳に入って来た。

え、えっちなんて……、こんな街中で破廉恥なこと聞かされて、私の方が恥ずかしい。


でも、それがクリスマスの“普通”なのかな。

私の方が……、私だけが、こんな寂しいクリスマス、送ってるのかな……。
 ▼ 46 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:25:19 ID:sn45ZzK. [9/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




家に着いた私は、逃げ込むように、自分の部屋に閉じ籠った。

やっと安全な場所に辿り着いた。文句も言われない、誰も視界に入らない、私だけの空間に。



 カノン 「はぁ……」


ベッドに寝転がって、天井を見つめて、私は溜め息をつく。

……溜め息しか出てこないよ。


 カノン 「……グスッ」


溜め息と一緒に、涙が零れ落ちた。

ダメだ。今日のことを思い返すと、自然と涙が溢れて来る。
 ▼ 47 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:26:16 ID:sn45ZzK. [10/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
何の予定も無いクリスマス。

親しい友達も居ない、お付き合いする人も居ない。

寂しいクリスマス。


勿論それは、秘密の庭を護り、ラティアスたちを お世話するって言う、先祖代々の役目を受け持つ私にとって、仕方のないこと。

物心ついた頃から、自分の役目の重要さを理解していたし、それを嫌だと思ったことなんて、一度も無い。

そして私は、それを誇りに思っている。この美しいアルトマーレを影で護る存在なのだから。


でも、ときどき思うんだ。

もし私が普通の女の子だったら、どんな生活を送っていたのかなって。


 カノン 「私っ……、ダメだなぁ」


A子やB子のような“普通の”女の子は、クリスマスは友達同士で集まって、パーティーとかするんだろうな。

カラオケで合コンって言ってたけど、格好良い男の子と集まって、楽しく過ごすんだろうな。


少なくとも私みたいに、大聖堂のイベントの仕事なんて してないよね。

とっても忙しくて、一生懸命やってるつもりなのに、理不尽なクレームを言われて。

それでも頑張って働いてるのに、不注意でミスしちゃって、皆に迷惑をかけて。

アルトマーレ観光の人に喜んでもらいたかったのに、全然ダメで。
 ▼ 48 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:27:23 ID:sn45ZzK. [11/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな私を嘲笑うかのように、お客さんは楽しそうで。

友達同士、仲間同士、そして、恋人同士。

今日だけで、何組のカップルを見たんだろう。その何組のカップルが、どんなクリスマスを楽しむんだろう。

さっき運河で見たカップルみたいに、えっ……えっち、とか、そういう方向になる……のかな。


 カノン 「……もぉ ///」


私には、勿論、男の子の友達は居ない。

もともと私は、積極的に男の子と話すタイプじゃなかったから、昔からの友達――って考えても、やっぱり男の子の知り合いは浮かばない。


唯一とも言える知り合いは、アルトマーレの危機に一緒に立ち向かってくれた彼――、サトシ君だけ。


 カノン (あれっ……?)


なんで私いま、サトシ君のこと思いだしたんだろう。
 ▼ 49 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:28:29 ID:sn45ZzK. [12/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ラティアスに気に入られて、秘密の庭に招き入れて、部外者で唯一、ラティアスたちの伝説を知っているサトシ君。

怪盗姉妹に捕まった時、真っ先に助けに来てくれたサトシ君。

ラティオスを助け出そうと、体を張って体当たりしたサトシ君。

悲しむラティアスを優しく抱きしめてくれたサトシ君。


サトシ君が居なかったら、果たしてアルトマーレの危機は、本当に回避できてたのかな。

今この平和なアルトマーレは、サトシ君が居てくれたからこその平和でもある――、そう、時々思う。




そんなサトシ君は、男の子を知らない私にとって、すっごく逞しくて、格好良く見えて……。




もし私が一族の使命とか、そういうのが無しになるんなら、サトシ君と一緒に居たい。

もし私が普通の女の子なら、サトシ君と お付き合いしてみたい。

普通の女の子みたいに、クリスマスをサトシ君と過ごしてみたい。

そうなったら、私、サトシ君と、えっちなこと……///
 ▼ 50 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:29:26 ID:sn45ZzK. [13/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン (んっ……///)


疲れてるのかな。

なんでこういう行動に出ちゃったのか分からないけど、私は多分、いま、普通じゃない。

今日あった色んなことが頭の中でグルグルと巡って、普通の判断が出来なくなってるんだと思う。


ベッドに横たわったまま、服を脱ぎ捨てる。

ブラの中に手を忍ばせて、私は自分自身の、膨らみかけの胸を、優しく揉んだ。


 カノン 「ふぁっ……///」


もし私が普通の女の子だったら――。

もし今、私の胸を揉んでいる この手が、サトシ君のものだったら――。


考えるだけで、体がキュンとなる。

乳首がツンと固く立ってくるのが分かる。

そして私は、スカートをめくって、パンツ越しに、アソコを そっと撫でた。


 カノン 「んくっ……///」


ダメ、どんどん変な方向に進んで行く。

こんなハシタナイこと、私っ、ダメなのに……。
 ▼ 51 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:30:07 ID:sn45ZzK. [14/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
  サトシ 『カノンの胸、柔らかいんだな』 モミモミ

  カノン 『やらっ……恥ずかしいよサトシ君……///』

  サトシ 『いいじゃん、付き合ってるんだからさ』 モニュモニュ

  カノン 『ふぁぁぁっ……///』


想像の中のサトシ君が、私の胸を揉む。

ベッドに私を押し倒して、私の上に跨って、私の胸を揉みほぐす。


  カノン 『もっ……ダメだよサトシ君……、こんなことっ……///』

  サトシ 『そんなこと言って体は正直じゃん。乳首、こんなに固くして』 クリクリ

  カノン 『ひゃんっ!? ぁぁっ……///』

  サトシ 『エロイ喘ぎ声も可愛いぜ、カノン』 モミモミクリクリ

  カノン 『っ……うぅっ……///』


私の反応が面白いのか、サトシ君は、固くなった私の乳首を摘まんで、転がして、重点的に責め始める。

その何とも言えない感覚に、私は声を漏らさないように耐えるので精一杯。
 ▼ 52 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:31:12 ID:sn45ZzK. [15/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 サトシ 『我慢すると体に悪いぜ? 感じてんだろ?』 モミモミクリクリ

 カノン 『ゃっ……ちがっ……///』

 サトシ 『でも……濡れてるぜ?』 クチュッ

 カノン 『ひっ……』 ビクッ


それなのにサトシ君は、手を緩める気配はない。

それどころか、私のアソコ……割れ目を、パンツ越しに撫で始める。


 サトシ 『白パンツだからパッと見でも濡れてるのバレバレだぞ?』 クチュクチュ

 カノン 『ふぁっ……やぁぁっ……///』


サトシ君は、左手で私の乳首を弄って、右手で私のアソコを なぞって。

気持ち良い所を同時に責められて、私っ、おかしくなっちゃいそうだよぉ……。
 ▼ 53 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:31:56 ID:sn45ZzK. [16/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 『んっ……ぁぁっ……んくっ……///』

 サトシ 『気持ち良いんだろカノン。オレに恥ずかしいとこ責められて』 クリクリクチュクチュ

 カノン 『ゃらっ、もっ……はずかしぃ……///』

 サトシ 『へへっ。カノンって静かに絵を描いてる、大人しい女の子のイメージなのに、こんなにエロいんだな』

 カノン 『やだっ……そんなことっ……言わないでよぉ……///』

 サトシ 『そのギャップも可愛いぜ。イッちまえよ。大人しいカノンが思いっきりイクとこ、オレすげぇ見たい』 クリクリクチュクチュクチュクチュ

 カノン 『ふぁっ……あぁぁぁぁっ!?』 ゾクゾクッ


サトシ君、私のこと、可愛いって。エッチだって。

だめっ……、こんな姿、男の子に見られたくない。

恥ずかしいとこ見られて、触られて、責められて……、こんなの絶対ダメなのにっ。


でもっ、アルトマーレを護るために一緒に立ち向かったサトシ君なら。

サトシ君になら、私の恥ずかしいこと見られても……。

格好良いサトシ君にっ、私っ、見られてっ……恥ずかしいのにっ、見られちゃって……。


あぁっ……ダメッ! 来ちゃうっ……もぉダメッ、我慢……できないっ……!
 ▼ 54 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:32:48 ID:sn45ZzK. [17/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 カノン 「んやっ!? ぁぁっ……んくぅぅぅぅっ……!!!」


  ― ビクン! ビクッ……ビクビクッッ……ビクッ……



私の体は、大きく仰け反った。

重いベッドがガクンと少し ずれるほど、私の体は仰け反った。


 カノン 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


空想のサトシ君にエッチなことされて、私、こんなに……。

空想なのに、私の虚しい空想なのに、すっごい気持ち良くて……。


体に力が入らない。

私は自分の手で胸とアソコを押さえたまま、自分で慰めた状態のまま、目を瞑る。


パンツが濡れてるのが分かる。

私、自分で こんなに気持ち良くなって……。

空想のサトシ君で……、サトシ君にエッチなことされる妄想で、私、こんなに……。
 ▼ 55 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:33:26 ID:sn45ZzK. [18/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 カノン 「……何やってるんだろう、私」



でもそれは、果てしなく虚しいことでもあった。

サトシ君が、こんなにガッツリ責めてくるタイプかも分からないのに、私、勝手に妄想しちゃって……。


寂しいクリスマスだから?

彼氏が居ないって馬鹿にされたから?

理不尽なクレームに心を削られたから?

仕事でミスしちゃったから?

落ち込んでたから?

カップルを何組も見かけたから?


ねぇ、私、なんで今日、こんななの?

なんで私、こんな ふしだらなこと……。



 カノン 「グスッ、何やってるんだろう、私……」


 ▼ 56 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 01:35:30 ID:sn45ZzK. [19/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ボンゴレ 「帰ったぞ、カノン」


玄関が開いた音がしたかと思うと、おじいさんの声が下から届いた。

ダメ。こんな格好、おじいさんには絶対に見せられない。

私は急いで乱れた服を整えて、ベッドも綺麗にして、一応、パンツも穿き替えた。


夕食の準備をしないと。

あぁ、お風呂も入れておかないと。

その前に、カーテンを閉めないと。


あぁもぉ、家に着いてから時間あったはずなのに。

おじいさんが帰ってくるまでに済ませておくべきこと、いっぱいあったのに。

まだ明日も仕事があるのに。



 カノン 「何やってるんだろうな、私……」


 ▼ 57 ドシシ@ほしのすな 17/12/24 07:51:32 ID:bImAQ1lg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 58 キワラシ@コインケース 17/12/24 12:34:09 ID:Wmhj5SBQ NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 59 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 17:00:00 ID:sn45ZzK. [20/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


24日、日曜日。


イベント2日目であり、最終日。

と言うことは、昨日より混雑する可能性がある一方、明日はもう休みじゃないから、昨日より空いてる可能性もある。

こればっかりは蓋を開けてみないと分からない。


けど少なくとも、昨日みたいなミスを犯すことだけは避けないと。

理不尽なクレームは、私が耐えれば良いだけの話。

お客さんにも、KさんにもLさんにも迷惑をかけてしまう私のミスは、絶対に起こさないようにしないと。



それだけを考えながら、大聖堂に到着した。


特設ステージ周辺は、やっぱり多くの人が既に集まっていて、まだクローズの受付にも、ぼちぼち列ができ始めている。

けれど、人口密度的に、昨日より人出は少ないみたいだ。
 ▼ 60 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 17:04:00 ID:sn45ZzK. [21/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ボンゴレ 「カノン。館長さんから話があるそうじゃ。まず会いに行ってくれないか」

 カノン 「館長さんから……? うん、行ってみるね」


大聖堂に入るなり、おじいさんが言った。

本当に突然、なんの前触れも無く言われたから、ちょっとビックリしたけど、緊張するようなことでも無い。

館長さんとも、私は一応、面識があるんだから。

でも、館長さん直々に呼ばれたのは、今日が初めて。


 カノン (やっぱり、怒られちゃうよね……)


考えられる内容なんて決まってる。

昨日の私のミスのことだ。

皆に迷惑をかけただけじゃなく、返金した分、売り上げも減らしちゃったんだから、怒られるのは当然だ。
 ▼ 61 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 17:07:02 ID:sn45ZzK. [22/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「失礼します」

  ― 館長 「はい、どうぞー」


ノックをして、館長室のドアを開けた。

館長さんは、正面のデスクで書類に目を通していたけど、私が入って来たのを確認して、目線を私に移した。


 カノン 「あのっ、館長さん……」

 館長 「おはようカノンちゃん。君を呼んだのはね、ちょっと頼みごとがあるからなんだ」

 カノン 「頼み事……ですか?」

 館長 「あぁ。実はね、今日はカノンちゃんに、招いてるコーディネーターの控室で仕事をして欲しいんだ」

 カノン 「えっ?」

 館長 「具体的には、控室で待機して、コーディネーターさんへの連絡事項を伝える役割だね。ステージの整備が整った、とか、次の公演を○○分遅くする、とか」

 カノン 「えっと……はい。それは勿論かまいませんけど……」

 館長 「良かった。コーディネーターのハルカちゃんとモブミちゃん、カノンちゃんと同年代だからね。ウチのスタッフより、カノンちゃんの方が適任かと思ったんだ」

 カノン 「そうなんですか。 あのっ、館長さん、昨日は私……」

 館長 「そうと決まれば急がないと。カノンちゃん、早速コーディネーター控室に行ってくれたまえ。連絡は控室のPHSを使うから、携帯しておくようにね」

 カノン 「あっ……はい」

 館長 「それじゃあ私は会議があるから、一つ、よろしく頼むよ」


そう言うと館長さんは立ち上がって、私を部屋の外へと促した。

自分も一緒に外に出ると、そのまま会議室の方へと歩いて行った。
 ▼ 62 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 17:10:00 ID:sn45ZzK. [23/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
うぅ、昨日のミス、謝る暇なかったな。

それより、館長さんからの話って……。


 カノン (配置換え、ってことだよね)


今日の私は、あの殺伐とした受付に居なくて良いってことだ。

やっぱり昨日のミスがあったから、私を受付から外したんだろうな。

だとしたら館長さん、本当は怒ってて、私の謝罪を聞く気なんて無かったのかな。


ダメだな私。館長さんにまで迷惑かけちゃって。

自分から手伝うって言っておいて、こんなに お荷物になっちゃって……、本当に、申し訳ないよ、皆に。


 カノン (……せめて、新しい仕事は ちゃんとやらないとな)


私は急いで、コーディネーターさんの控室へと向かった。


 ▼ 63 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 20:51:20 ID:sn45ZzK. [24/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「失礼します」

  ― ハルカ 「はーい」

 カノン 「あのっ、今日、こちらの控室で お仕事させて頂く、カノンと申します」

  ― ハルカ 「あ、どうぞどうぞ! 入ってください!」

 カノン 「はい。失礼します……」


コーディネーターさんの控室の扉を、そっと開けた。

そこまで広くない室内は、絨毯が敷かれて土足厳禁。大きな鏡と化粧台。ソファと衣装掛けがあって、テーブルの上には、飲み物とお菓子が置かれている。


 カノン 「初めまして。今日こちらで お仕事させて頂く、カノンと申します。よろしくお願いします」

 ハルカ 「こちらこそ、よろしくお願いします。私、PPPK所属のハルカです」

 モブミ 「同じく、モブミです。カノンさん……、今日は随分お若い方なのね。昨日と違って」

 カノン 「あっ、はい。館長さんからの指示で、今日は私が担当させて頂きます」

 ハルカ 「良かった〜。やっぱり明らかに年上の人って気を使っちゃうから、カノンさんが来てくれて良かったかも」

 カノン 「そんなっ。……あ、私のこと、呼び捨てで構いませんよ」

 ハルカ 「そう? じゃあカノンも、私のことは“ハルカ”で良いよ」

 カノン 「そんなっ。アルトマーレにお招きしたゲストを、そんな呼び捨てなんて……」
 ▼ 64 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 21:00:00 ID:sn45ZzK. [25/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ハルカ 「良いんだよ同い年くらいなんだし。むしろ堅苦しいから呼び捨ての方が良いかな? 勿論、敬語も無しで!」

 カノン 「それじゃあ……、ハルカちゃんとモブミちゃん、で良いですか?」

 モブミ 「私は許可してないわよ」

 カノン 「あっ……ごめんなさいっ」

 ハルカ 「も〜モブミさん厳しすぎかも!」

 モブミ 「冗談よ。でも私、ちゃん付けってキャラでもないから、“モブミちゃん”は辞めて貰える?」

 カノン 「はい、えっと……、分かりました。モブミさん」

 モブミ 「ふふっ。よろしくね、カノン」


もぉ……ビックリした。

ハルカちゃんとモブミさん……、昨日、声だけは聞けたけど、こうして顔を合わせて お話しするのは初めてだ。

トップコーディネーターって言うだけあって、2人とも すっごく可愛い。

ハルカちゃんは元気で活発な感じで、自信に満ち溢れているような印象を受ける。

モブミさんは、逆にクールなイメージで、スレンダーなスタイルは羨ましいくらいだ。体操とか習ってたのかな。
 ▼ 65 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 21:10:00 ID:sn45ZzK. [26/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 モブミ 「……なによ、人のことジロジロ見て」

 カノン 「あっ……ごめんなさい。そのっ、2人とも、すっごく可愛いなって」

 ハルカ 「そう? ありがとうカノン!」

 モブミ 「ありがとう。でも、カノンだって良い線いってるわよ?」

 ハルカ 「うんうん! カノンスタイルも良いし、スカウトしたいくらいだよ」

 カノン 「えっ、そう……かなっ。ありがとう。そんな風に言って貰ったの、初めて」


ハルカちゃんもモブミさんも、とっても良い人そうだ。

こうやって同い年くらいの子と普通にお話ししたの、いつ以来だろう。


  ― ピピピピピッ ピピピピピッ


 カノン 「あっ……ちょっとごめんなさい。もしもし控室です」


控室のPHSを受けると、それは早速仕事の指示だった。

そうだよ、いま私は仕事中なんだから、いくら久しぶりだからって、お喋りしてる場合じゃないんだ。
 ▼ 66 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 21:20:00 ID:sn45ZzK. [27/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「ハルカちゃん、モブミさん。ステージの準備が整ったみたいなので、10分後を目途に、移動をお願いします」

 モブミ 「10分後ね」

 ハルカ 「あ、じゃあ このクッキー食べとこ」

 モブミ 「まったく……。こんな食い意地が張ったコーディネーター見たこと無いわよ」

 ハルカ 「甘いものは体に良いんですよ。特に体を動かす前には」 モグモグ

 モブミ 「はぁ……。相変わらずね」

 カノン 「……ふふっ」

 モブミ 「なによ?」

 カノン 「いえ、そのっ、ハルカちゃんとモブミさん、すっごく良いコンビだなって」

 モブミ 「私としては、ハルカと同類って思われるの嫌なんだけど」

 カノン 「えっ……」

 ハルカ 「も〜! モブミさん冷たいかも。気にしないでカノン。モブミさん、いつも この調子だから」

 モブミ 「……まぁ、ハルカの社交性だけは見習いたいわね。あんなことがあったのに、こうやって私とコンビで仕事してくれるんだから」

 ハルカ 「その話は とっくに終わってますよ。コンテストで皆を笑顔にしたいって想いは同じなんですから、ねっ」

 モブミ 「はぁ……。ふふっ」
 ▼ 67 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 21:30:00 ID:sn45ZzK. [28/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本当、良いコンビなんだな。

モブミさんの言う“あんなこと”が何かは知らないし、聞くのは何だかマナー違反な気がするから そっとしておくけど、でも何だろう。

対立があって、それが和解したからこそ、って言うような雰囲気だ。そういう結びつきって、きっと一生モノなんだろうな。


 カノン 「それに2人とも、すっごく素敵な衣装ですね」


コンテスト用の衣装は、とても華やかなものだった。

ハルカちゃんはピンクを基調のドレス風で、リボンのアクセントが可愛らしい。

モブミさんはシックな紺色のワンピース風。胸元の氷を模ったアクセサリーが美しさを引き立てている。


 ハルカ 「えへへっ。トップコーディネーターだから、衣装も ちゃんとしたものが求められるんだ」

 モブミ 「けど、主役はポケモンたちだから、私たちが目立ちすぎるのはNGよ。ハルカのはギリギリね」

 ハルカ 「これでも控えめのつもり なんですよ」


綺麗だな、ハルカちゃんも、モブミさんも。

こんな衣装、私は着たことも無いし、これから着ることも無いだろうな。
 ▼ 68 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 21:32:30 ID:sn45ZzK. [29/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「あっ、そろそろ時間ですね」

 モブミ 「そうね。ほら行くわよハルカ」

 ハルカ 「はいっ。今日もよろしくお願いします」

 カノン 「頑張って下さいね」


ハルカちゃんとモブミさんは、仲良さそうに、ステージへと向かって行った。


沢山の人が集まってるステージに立つのって、とっても勇気がいることだと思う。

プロだから失敗は許されない訳だし、緊張とかしないのかな。恥ずかしくないのかな。お客さんからの反応とか、気にならないのかな。


私とは、大違いだな……。




 ▼ 69 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 22:49:30 ID:sn45ZzK. [30/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ハルカちゃんとモブミさんのコンテストの様子は、控室のモニターで見ることが出来た。

バシャーモとゴルダックが織り成す、美しいワザのぶつかり合い。

炎と水、一見すると相反する組み合わせだけど、互いのワザが互いの魅力を引き出し合って……って言うのかな。

私はコンテストの知識なんて全くないから上手く説明できないけど、でも、私みたいな素人でも楽しめるんだから、やっぱりポケモンコンテストって面白い。

トップコーディネーターって凄いんだな。





 ハルカ 「ふー。今日もお客さんいっぱいでしたね」

 モブミ 「そうね。それにしてもハルカ。さっきの“ブレイズキック”、タイミング微妙に ずれてたじゃない」

 ハルカ 「バレちゃいましたか……。ごめんなさい、炎の残り具合的に、勝手に調整しちゃって」

 モブミ 「その場の調整は良いことだけど、私たちはプロなんだから、打ち合わせした内容は その通りでやらないとダメよ」

 ハルカ 「はいっ。次からは気を付けます」

 モブミ 「まったく……」
 ▼ 70 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 22:50:41 ID:sn45ZzK. [31/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ハルカちゃんとモブミさんが戻って来た。

移動中も演技の話、しかも、ちょっとしたミス(?)の話をしながら。

ずっと見てたけど、全然ミスしたようには見えなかったのに、やっぱりプロって凄いんだな。


 カノン 「お疲れ様です。冷たい飲み物、用意してありますけど、温かい方も、すぐ用意できますよ」

 ハルカ 「ありがとう。冷たいので大丈夫。炎の演技だから、冬なのに汗かいちゃって」

 モブミ 「私も冷たいのを貰うわ。あと、制汗シートあるかしら?」

 ハルカ 「あっ、私も」

 カノン 「えっと……はい。普通のと、ノンアルコールタイプを用意してあります」

 ハルカ 「ありがとう」

 モブミ 「本当なら、公演ごとにシャワー浴びるのが理想的なんだけどね」


2人とも、体にも気を遣ってるんだ。

美しさを保つには、こうやって人知れない苦労があるんだな。
 ▼ 71 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 22:52:20 ID:sn45ZzK. [32/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


その後、10時45分、11時30分と、公演は順調に進んでいく。

お昼休憩を挟んで、13時00分、13時45分と、午後の部もスケジュール通りだ。


私の仕事はと言えば、細々した指示をPHSで受けるけど、昨日の受付に比べれば、驚くほど楽な仕事だった。

むしろ、他の持ち場で働いてる人に申し訳ないくらい。

時間があるから、控室の掃除とか、飲み物の補充とか、書類に目を通したり、関係ない仕事に手を出しても、なお余裕がある。


 カノン (良いのかな、こんな感じで……)


館長さんの指示とは言え、こんな忙しさの無い仕事って言うのも……。

けど、もしかしたら当然の流れかもしれない。

昨日の仕事でミスして、皆に迷惑をかけてしまった訳だから、忙しくない配置に回されたんだろうな。


 カノン (せめて、ハルカちゃんとモブミさんが最高の演技が出来るように、協力しないとな)


モニターに映し出される、2人の演技。

グレイシアとマニューラ、氷タイプの2匹が、息の合ったコンビネーションで舞っている。

冬にピッタリの、氷を使ったイリュージョン。降り注ぐ結晶は、観客の心を虜にしている。勿論、その美しさに私もウットリだ。


 カノン 「……そうだ」


私はバッグから、普段から持ち歩いている画用紙を取り出した。

流石に筆と絵具のセットは持ってこなかったから、水性ペンを使ってみようかな。

グレイシアとマニューラ、その美しさを最大限に引き出すような構図で、私はペンを滑らせた。
 ▼ 72 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 22:53:20 ID:sn45ZzK. [33/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





16時10分。

全ての公演を終えたハルカちゃんとモブミさんが、控室に帰って来た。


 カノン 「お帰りなさい。ハルカちゃん、モブミさん。今日は本当に お疲れ様でした」

 ハルカ 「ありがとう。流石に疲れちゃったなー」

 モブミ 「やっぱり2日間の公演は堪えるわね」

 ハルカ 「バシャーモたちも、ゆっくり休ませてあげないとな」


本当に凄いな、2人とも。

2日間の全ての公演を、無事に、最高の形で終えることが出来て。

疲れてるはずなのに、ずっと笑顔で、お客さんたちを楽しませて。

それがプロとしての仕事、って言われてしまえば それまでだけど、でも私は、ハルカちゃんとモブミさんのことが、とっても眩しく見えた。


 カノン 「さっき連絡があって、帰りの定期船の時間まで、この控室で待機だそうです」

 モブミ 「あぁ、外は凄い人だもんね」

 ハルカ 「このまま船乗り場に行っちゃったら、軽くパニックになっちゃいますよね」

 カノン 「ふふっ。2人とも、もうアルトマーレの有名人ですもんね」
 ▼ 73 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 22:54:50 ID:sn45ZzK. [34/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 モブミ 「そうそう、カノンも今日は お疲れ様ね。昨日の人とは違って、控室でもリラックスできたわ」

 ハルカ 「うん。カノンちゃんみたいな女の子がスタッフさんなら、私たちも安心できるもんね」

 カノン 「そんなっ。私は なんにも」

 モブミ 「いいえ。指示は丁寧でトゲが無いし、それに、戻ってくる度に部屋が片付いてて、気持ち良かったわ」

 ハルカ 「カノンの丁寧な お仕事、私たち、本当に助かってたんだから」

 カノン 「ぁっ……はい! ふふっ、そう言って貰えると嬉しいです」


嬉しいな、こうやって、私の仕事を評価して貰えて。

私は ただ、与えられた仕事を、ミスしないように一生懸命こなしただけなのに。

でも、それでハルカちゃんとモブミさんが喜んでくれたのなら、こんなに嬉しいことってないよ、うん。


 カノン 「ありがとう、ハルカちゃん、モブミさん。なんだか勇気を貰えました」

 ハルカ 「ふふっ、大袈裟だなぁ」

 カノン 「ううん。 実は私、昨日、ミスしちゃったんです……」

 ハルカ 「そうなの?」

 モブミ 「あら? ミスするタイプには見えないけどね」

 カノン 「そのミスで、お客さんにも職員の人にも、館長さんにも迷惑かけちゃって……。それで私、今日は絶対にミスしないようにって思ってて……」

 ハルカ 「ミスなんて気にすること無いのに」

 モブミ 「ハルカが言うと能天気に聞こえるわ」
 ▼ 74 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 22:55:52 ID:sn45ZzK. [35/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「だから私っ……嬉しくて。ハルカちゃんとモブミさんに……グスッ、そう言って貰えて……」

 ハルカ 「えっ……カノン?」

 モブミ 「……何かあったの?」


あぁ、ダメだな私。

こんな時に泣いちゃうなんて。

でも、ハルカちゃんとモブミさんの優しさが嬉しくて、自然に涙、出てきちゃう。


私っ、こんなに溜め込んじゃってたんだなぁ……。


 ハルカ 「ねぇカノン。話してみてよ。私たちで良かったら、聞いてあげるよ?」

 モブミ 「えぇ。どのみち船の時間まで待機なんだから、話してスッキリさせちゃいなさいよ」

 カノン 「グスッ……はい、ありがとう……」


気が付けば私は、ハルカちゃんとモブミさんに、これまでの私の想いを話していた。

初対面の2人なのに、なんで話す気になれたのかは分からない。

これまで ずっと一人で抑え込んで来たことを、なんで私、こんな正直に……。
 ▼ 75 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 22:57:00 ID:sn45ZzK. [36/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



先祖代々護って来たものがあって(秘密の庭のことは、当然話していない)、その一族の使命から、他人との干渉を自然と控えるようになってしまったこと。

そのせいで、アルトマーレに友達が居ないこと。昔は親しかった子とも、疎遠になってしまったこと。

当然、男の子との お付き合いも出来ないこと。

そんな私に、ぼっち とか根暗とか、悪口を言う子が居ること。


そんな子たちに、クリスマスに働いていることを笑われて。

恋人が居ないって、馬鹿にされて。

お客さんからは、理不尽なクレームを何件も受けて。

そうしたら、自分の不注意でミスをしてしまって、皆に迷惑をかけちゃって。


私は、アルトマーレに来てくれる人の役に立ちたい一心で、この仕事を引き受けたのに。

欠員が出てみんな困ってたから、クリスマスに予定の無い私が名乗り出たのに。

一生懸命頑張ってるのに、それが空回りしちゃって。


先祖代々の役目だから仕方ないって分かってるけど、こんなクリスマス、寂しすぎるよ……。

 ▼ 76 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 23:41:01 ID:sn45ZzK. [37/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ハルカ 「……そっか。大変なんだね、カノン」

 モブミ 「先祖代々って……、お寺か何かかしら?」

 カノン 「えっと……はい。そんなところです」

 ハルカ 「でも辛いよね。そういう しきたりのせいで、友達が作れないって」

 カノン 「うん。……慣れっこなはずなんだけどね。でも、それでクリスマスに仕事してるのを馬鹿にされて……、私、なにやってるんだろうな、って」

 モブミ 「偉いじゃない、カノン」

 カノン 「えっ?」

 ハルカ 「うん。それに凄いかも。そういう使命があるのに、アルトマーレのために働くなんて、すっごく立派!」

 モブミ 「貴方を馬鹿にした子たちが おかしいのよ。フラフラ遊んでるだけの奴が、働いてる人間を馬鹿にするなんて許せないわ」

 カノン 「モブミさん……」

 モブミ 「良い? カノン、貴方は恥じるべきことなんて、何もしてないのよ。むしろ誇りに思って良いわ」

 ハルカ 「クリスマスって、友達や恋人と一緒に過ごすのが普通かもしれないけど、そのために働いてる人だって、いっぱい居るんだから」

 カノン 「そのために……働いてる……?」

 ハルカ 「レストランの店員さん。ホテルのスタッフさん。バスの運転手さん。それに、私たちだって」

 モブミ 「クリスマスイベントだから、当然 私たちも、クリスマスは潰れちゃうわね」

 ハルカ 「でもクリスマスに働いてる人って、気持ちは皆、同じはずだよ。“クリスマスを楽しんで貰いたい”ってね!」

 カノン 「あっ……」

 モブミ 「だからカノン。貴方は偉いのよ。まわりが遊んでる時に、こうやって誰かのために働いて。簡単に出来ることじゃないわ」

 ハルカ 「そうだよ。もっと自信を持って良いんだよ、カノン!」
 ▼ 77 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 23:41:40 ID:sn45ZzK. [38/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ハルカちゃんとモブミさんの言葉が、優しく私の心を包み込んだ。

偉い――か。

沢山の人を楽しませたトップコーディネーターの2人に言われるなんて、なんだか くすぐったいな。

それに、働く自分が存在する意味が、何となく、分かった気がした。



そうだよね。

遊ぶためだけにクリスマスがある訳じゃない。

恋人同士で過ごすのがクリスマスの当たり前って、いったい誰が決めたって言うんだろう。



私は、クリスマスを楽しむ人のために、働いている。


皆がクリスマスを楽しめるのは、私たち、クリスマスに働いている存在の お陰。


私たちが居なかったら、クリスマスは回らない。皆が楽しむことは出来ないんだ。



当たり前のクリスマスとは違う、影で支える12月24日――。

こんなクリスマスの過ごし方も、たまには良いよね。
 ▼ 78 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 23:42:20 ID:sn45ZzK. [39/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「……うん。ありがとう、ハルカちゃん。モブミさん」

 ハルカ 「ふふっ。やっぱりカノンは笑顔が似合うよ。可愛いんだからっ」

 カノン 「そうかなっ……えへへっ」

 モブミ 「良い顔じゃないの。その気持ち、忘れちゃダメよ?」

 カノン 「はいっ」


 モブミ 「なんだか……、カノンの気持ち、私、すっごい分かるわ。友達が居ない寂しさとか」

 カノン 「えっ……そうなんですか?」

 モブミ 「私ね、トップコーディネーターになるために、小さい頃から英才教育を受けてたのよ。ダンスとかピアノとか、弓道なんかもね」

 カノン 「凄い……。やっぱりプロになるって厳しいんですね」

 モブミ 「でも、犠牲も付き物よ。そういう習い事に集中したせいで、私は友達が出来なかった。作る時間が無かったのよ」

 カノン 「友達を……?」

 モブミ 「今だから言うけど、辛かったわよ。まわりの子たちは遊んでるのに、私は習い事ばっかりで。自分で選んだ道だけど、なんで自分だけ、こんなに苦労してるんだろうって」

 カノン 「本当に……私と同じなんですね」
 ▼ 79 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 23:43:01 ID:sn45ZzK. [40/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 モブミ 「えぇ。けど、その甲斐あって、こうやってトップコーディネーターを務めてるのよ。自信も実力も付けて、自分の手で掴み取った地位だからね」

 ハルカ 「ホウエンでモブミさんを知らない人、ほとんど居ないんだから」

 モブミ 「それは大袈裟よ。それに、犠牲は大きかった訳だし。ハルカにも、悪いこと しちゃったしね」

 ハルカ 「だーかーらー、その話は もう良いんですよっ! プロのモブミさんに認めて貰えて、私、嬉しかったんですから」

 モブミ 「……まったく、可愛い子ね、ハルカは」

 ハルカ 「えへへっ」

 モブミ 「だからカノン。先祖代々の使命とか、私は詳しいことは分からないけど、一生懸命それに突き進めば、悪いようには ならないわ。私が その証拠よ」

 カノン 「モブミさん……」

 モブミ 「友達が居ないなんて、もう二度と言わせないわよ」

 カノン 「えっ?」

 ハルカ 「ふふっ。私たち、もう友達でしょっ!?」

 カノン 「ぁっ……」

 モブミ 「貴方みたいな真面目で素直な人が、不幸になる訳が無いのよ。私は個人的に、今後も貴方と お付き合いしたいわ」

 ハルカ 「私もっ。カノン可愛いし、コンテストにデビューさせてあげたいなぁ」

 モブミ 「ダメよ。カノンには先祖から続く使命があるんだから」

 ハルカ 「あ、そうでした」

 カノン 「ふふっ……グスッ、もぉ……」
 ▼ 80 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/24 23:43:40 ID:sn45ZzK. [41/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
もぉ……、嬉しいよ、ハルカちゃん、モブミさん。

こんな私なのに……、こんな私を、評価してくれて。

こんな私と、友達になってくれて。

初対面なのに、こんなに私のこと、優しくしてくれて。


 カノン 「ありがとう、ハルカちゃん。モブミさん。ホントに、グスッ、本当にっ……」

 ハルカ 「泣いちゃダメっ。可愛い顔が台無しだよ?」

 モブミ 「純粋なのね、カノンって」

 カノン 「グスッ……、だって、嬉しいっ……。私っ、こんな気持ち、初めてで……」


泣いちゃダメなのに。

でも、涙が溢れて来る。きっとこれが、嬉し涙なんだな。


 カノン 「んっ……ふふっ」

 ハルカ 「良い笑顔だよ、カノン」

 モブミ 「お互い頑張りましょう。目指すものは違うけど、私たち、似た者同士なんだから」

 カノン 「はいっ。ふふふっ」


 ▼ 81 ノヤコマ@かがやくいし 17/12/25 00:39:09 ID:9.kmhB9E NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
すげぇ一気に更新来た
めちゃくちゃ嬉しい
 ▼ 82 カシャモ@ふしぎなおきもの 17/12/25 01:16:32 ID:jg9qOxEE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
モブミってあれかめちゃくちゃゴミ扱いされた奴カ
 ▼ 83 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:30:01 ID:9.srXmis [1/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


  ― ピピピピピッ ピピピピピッ


 カノン 「ぁっ……と電話、もしもし?」

 ハルカ 「もう船の時間?」

 モブミ 「流石にまだ早いわよ」

 カノン 「えっ……はい、分かりました。失礼します」


 ハルカ 「どうしたの?」

 カノン 「えっと、ミナミダさんって方が、モブミさんに会いに来てるって……」

 モブミ 「お父さんが?」

 カノン 「お父さんだったんですね。言えば分かるって言ってたので。応接室で待ってるそうです」

 モブミ 「分かったわ。応接室って、さっき通ったあそこよね。ちょっと行ってくるわ」

 ハルカ 「ふふっ。ミナミダさん、あれからモブミさんのこと、過保護気味ですもんね」

 モブミ 「うるさいわよ」


そう言ってモブミさんは、控室から出て行った。

仕事場に会いに来てくれるなんて、良いお父さんだな。……それとも、ハルカちゃんの言うように過保護なのかな。
 ▼ 84 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:31:00 ID:9.srXmis [2/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


控室に残った、私とハルカちゃん。

するとハルカちゃんは、私を見て微笑むと、ゆっくり口を開いた。


 ハルカ 「ねぇカノン。モブミさんが、友達の居ないカノンの気持ちを分かったみたいに、私もね、カノンの気持ち、分かるんだ」

 カノン 「ハルカちゃんも?」

 ハルカ 「友達に関しては……ごめんね、いっぱい居るからアレなんだけど、男の子と お付き合い出来ないってこと、私、痛いほど分かるよ」

 カノン 「あっ……///」

 ハルカ 「彼氏が居ないって馬鹿にされたこととか、すっごい分かるよ、カノンの気持ち」

 カノン 「ハルカちゃんも……、男の人と お付き合い、出来ないの?」


それは、意外な告白だった。

ハルカちゃんみたいな可愛くて社交的な子、お付き合いしてる人が居ても おかしくないのに。


 ハルカ 「トップコーディネーターってね、なんて言うんだろう……、芸能人に近いものなのかな。だからね、異性との関係って、タブーなんだ」

 カノン 「あっ……そうなんだ」

 ハルカ 「たとえ普通の友達でも、男の人との関係は気を付けなさいって。所長からも厳しく言われてるの」

 カノン 「そうだよね。こんなに可愛くて人気があるんだもん。男の子と お付き合いなんて知られたら、どんな反応されちゃうか……」

 ハルカ 「ふふっ、ありがとう。 それでね、私、前に問題になっちゃったんだ」

 カノン 「問題に?」
 ▼ 85 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:32:21 ID:9.srXmis [3/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ハルカ 「私ね、トップコーディネーターになる前は、旅をしてたの。色んな街のコンテスト会場を巡って、グランドフェスティバルに出場するために」

 カノン 「うん」

 ハルカ 「そのとき一緒に旅してた男の子と、久しぶりに会ったんだけど……、その様子をね、写真に撮られて、ゴニョッターで拡散されちゃったんだ」

 カノン 「酷い。そんなことする人いるんだ……」

 ハルカ 「ゴニョッターは匿名だから、火付けの人は誰だか分からないけど……、それがニュースにまで なっちゃったの」

 カノン 「ニュースに!?」

 ハルカ 「うん。“トップコーディネーターに男の影が!?”とかタイトル付けられて。あの時は悲しかったなぁ」

 カノン 「そんな……」

 ハルカ 「スキャンダルの扱いだよ。所長からも、彼とは縁を切れって迫られて、本当に私、どうすればいいか分からなかったもん」

 カノン 「縁を切れって……。そんなの あんまりだよ。異性ってだけで そこまで……」

 ハルカ 「その人は大切な旅仲間なの。私のこと、何度も助けてくれた、バトル一筋で、純粋で、優しくて、……ちょっと鈍感で。縁を切るなんて有り得ない存在なの」

 カノン 「良いね、そう言う人って。それで、大丈夫だったの?」

 ハルカ 「うん。色々あったけど、最終的にね、デボン・コーポレーション社長のツワブキさんが、私たちは単なる友達で、純粋な関係だって、宣言してくれたんだ」

 カノン 「えっ……、なんだか凄い人が出てきたね」

 ハルカ 「えへっ、旅してる時に、会ったことがあるんだ」

 カノン 「そうなんだ」
 ▼ 86 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:34:05 ID:9.srXmis [4/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ハルカ 「そのお陰で、その人とは縁を切らなくて済んだの。ツワブキ社長には、感謝してもしきれないな」

 カノン 「シビアな世界なんだね、トップコーディネーターって。友達でも男の子なら縁を切れだなんて……」

 ハルカ 「全部が全部そうって訳じゃないけど、でも、やっぱり異性関係には厳しいかな」

 カノン 「そっか……」


 ハルカ 「……でもね、実は私、その彼のこと、ちょっと……気になってたんだ」

 カノン 「わぁっ……密かな恋?」

 ハルカ 「そのトラブルの時も、彼が私のこと守ってくれて、やっぱり格好良いなって。一緒に旅してた頃から成長して、すっごく素敵な男の子になってて」

 カノン 「ふ〜ん。そのこと、彼には……?」

 ハルカ 「勿論、伝えてないよ。伝えられないよ、やっぱり。トップコーディネーターって言う立場を考えたら」

 カノン 「あぁ……そうだよね、やっぱり」

 ハルカ 「……まぁ、その彼が超鈍感ってのもあるんだけどね」

 カノン 「鈍感なんだ」

 ハルカ 「好きな人に気持ちを伝えられない。恋人を作れない。……だから私もね、先祖代々のことで、男の子と お付き合いが出来ないカノンの気持ち、すっごく分かるよ」

 カノン 「うん……ふふっ。私たち、立場は違うけど、本当に似た者同士、なんだね」

 ハルカ 「えへへっ。そう言う意味でも頑張ろうね、カノン。もうカノンは、一人じゃないんだからさっ!」

 カノン 「うん! ありがとうハルカちゃん」

 ▼ 87 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:34:50 ID:9.srXmis [5/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





  ― ピピピピピッ ピピピピピッ


 カノン 「電話だ……」

 ハルカ 「今度こそ船の時間みたいね。私、モブミさん呼んでくるね」

 カノン 「うん。……もしもし」




その電話は、やっぱり、ハルカちゃんとモブミさんが船着場へ移動する時間を知らせるものだった。


アルトマーレに訪れたトップコーディネーターは、まるで要人輸送のように、厳重な警戒の元、アルトマーレを去ることになる。



 ▼ 88 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:36:35 ID:9.srXmis [6/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 カノン 「それじゃあ、私は ここで お別れですね」

 ハルカ 「寂しいな。せっかく仲良くなれたのに、もう お別れなんて……」

 カノン 「私も寂しい。こうやって楽しく お話しできたの、本当に久しぶりだったから……」

 モブミ 「お別れは、次の出会いの招待券よ。大丈夫、また会えるし、貴方のこと、忘れないわ」

 ハルカ 「私も。カノンのこと忘れない。私たち、ずっと友達だからねっ」

 カノン 「うん。私もハルカちゃんとモブミさんのこと、絶対に忘れません。楽しかった今日のこと……グスッ、絶対に忘れないです……」

 モブミ 「ほら、泣かないの。可愛いんだから」

 ハルカ 「そうだよカノン。寂しいけど……グスッ、お別れに涙は似合わないんだから」

 カノン 「グスッ……ふふっ。ハルカちゃんだって」

 ハルカ 「……えへへっ」


 カノン 「あっ……これ、私から、ハルカちゃんとモブミさんに」


私は2人に、さっきまで描いていた絵を渡した。

細く丸めた画用紙を、ピンクのリボンで留めた、簡単なプレゼントだけど。


 ハルカ 「えっ……なになに!?」

 モブミ 「画用紙ってことは、絵画? カノンって絵を描くの?」

 カノン 「はい。私、絵を描くのが趣味なんです」

 ハルカ 「見ても良い?」

 カノン 「うん」
 ▼ 89 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:38:00 ID:9.srXmis [7/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ハルカちゃんは、リボンを解いて画用紙を広げる。覗き込むモブミさん。

私の絵が広がったその瞬間、2人の顔がパァァっと明るくなった。


 ハルカ 「凄い凄い! これ、私のグレイシアとモブミさんのマニューラ!?」

 カノン 「うん。初めてコンテストを見て、とっても綺麗だったから」

 ハルカ 「凄い! ホントに凄いよカノン! こんな上手いポケモンのイラスト、私はじめて見たかも!」


控室での待機中に描いた、ハルカちゃんのグレイシアとモブミさんのマニューラ。


グレイシアは、大きく飛び跳ねて“れいとうビーム”している瞬間を。

マニューラは、モブミさんが編み出したって言う“つじぎりメロディ”(※)を、優雅に奏でている瞬間を。

私なりのアングルと色使いで表現してみた作品だ。







※ つじぎりメロディ

“つららおとし”でフィールドに発生させた氷柱を、“つじぎり”の爪で擦ることで音階を生み、メロディを奏でるコンテスト向けのワザ。モブミが考案。


 ▼ 90 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:39:40 ID:9.srXmis [8/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 モブミ 「本当、これ凄いわね。マニューラの“つじぎりメロディ”の様子、こんなに躍動感あって……。初めて見たのに、こんな上手な絵を描けるって……、カノン、もしかしてプ

ロの絵描きさん?」

 カノン 「そんなっ。ただ趣味で描いてるだけですよ。本当は、ちゃんと絵具で描きたかったんですけど、持って来てなくて……」

 ハルカ 「えっ……これ絵具じゃないの!?」

 カノン 「これ、水性のカラーペンなんだ。色味が少ないのは、そのせいなの」

 ハルカ 「色味って……そんな気にならないよ! って言うよりカラーペンで ここまで描けるって、ちょっと信じられないよ!」

 モブミ 「えぇ。これ……、カラーペンを絵具タッチで描いてるみたいだけど、言われないと気付かないわよ。私も絵には自信あるけど、貴方に勝てる自信は無いわ」

 カノン 「えへへっ……ありがとう、ハルカちゃん。モブミさん。これが私からの、精一杯の お礼です」

 ハルカ 「も〜カノンってば最高! 本当に ありがとう! 大切にするね!」

 モブミ 「これ、帰ったら額を用意して事務所に飾りましょうよ。こんな素敵な絵画、大切にしないとバチ当たるわよ」

 ハルカ 「はい! 目立つところに飾りましょうねっ」

 カノン 「そんな大袈裟ですよ〜」



良かった。

こんなに喜んで貰えるとは思わなかったな。


私を勇気付けてくれたハルカちゃんとモブミさんには、感謝してもしきれないもん。

そう言う時、私は感謝の気持ちを込めて、絵画を贈ることにしてるんだ。


あの時……、サトシ君にも贈ったもんね。
 ▼ 91 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:40:45 ID:9.srXmis [9/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ハルカ 「それじゃあ……ホントのホントに、さよならだね」

 カノン 「うん。……もう泣かないよ? お別れは笑顔で、だよね?」

 ハルカ 「ふふっ……うん! カノンの笑顔、とっても素敵だよっ」

 カノン 「ありがとう。ハルカちゃんだって」

 ハルカ 「えへへっ」

 モブミ 「またアルトマーレ公演があったら、遊びに行かせて貰うわね」

 ハルカ 「うん。絶対行くからねっ」

 カノン 「はい。待ってますね、モブミさん。ハルカちゃん」


 モブミ 「それじゃあね。頑張るのよ、カノン!」

 ハルカ 「私たち、いつも応援してるからねっ!」

 カノン 「ありがとう……、本当にありがとう。ハルカちゃんとモブミさんも頑張って! 私、辛くなったら今日のこと思いだして……頑張ります!」



 ▼ 92 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:41:43 ID:9.srXmis [10/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




マネージャーらしき人と警備員の人に連れられて、ハルカちゃんとモブミさんは、控室を後にした。


ここの仕事が無ければ、船着場まで お見送りしたかったけど、そう言う訳にも行かないよね、私の仕事なんだから。


私は、廊下を進む2人の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。

ハルカちゃんとモブミさんも、手を振り返してくれて。


こういう友達の関係って、本当に、いつ以来だろう。

とっても暖かい気持ちになれたよ、ハルカちゃん、モブミさん。

本当にありがとう、ハルカちゃん、モブミさん……。



 カノン 「……さてっ」


私は ずっと軽い気持ちになって、控室の片付けを始めた。

こうやって私が働くことで、皆のクリスマスを、楽しいモノにしてるんだもんね?




 ▼ 93 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:43:45 ID:9.srXmis [11/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





18時を過ぎて、私のクリスマスの仕事は終わった。


ポケモンコンテスト特設ステージの応援スタッフ。

昨日は大忙しで、辛くて、寂しくて、挫けそうになっちゃったけど、今となっては、それも一つの経験だ。

そういう気持ちになれたのも、ハルカちゃんとモブミさんに出会えた お陰。

楽しく お話しできて、励まされて、支えられて……。私の心を、“かいふくのくすり”のように癒してくれた。



クリスマスの仕事する寂しい女の子?


ううん。

私は……、私も、ハルカちゃんも、モブミさんも、皆にクリスマスを楽しんで貰いたいから、仕事をしてたんだ。

私たちの頑張りで、皆を笑顔にする――、ねぇ、それって とっても素敵なことだよね?

一生懸命働いたこと、誇りに思って良いんだよね。


誰かに必要とされてるんだよね、私。
 ▼ 94 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:44:55 ID:9.srXmis [12/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
特設ステージの片付けやイベントの総括があるみたいだけど、まだ若い私は、そこまで残らないで良いってことになった。

お酒が入る打ち上げも あるみたいだから、どのみち私は残れない。

でも おじいさんは打ち上げに参加するから、帰りが遅くなるみたい。今夜は私だけだ。



 カノン (……そうだ)



私はショッピングモールに立ち寄って、ちょっと買い物をした。

こういう気持ちになれたのも、ハルカちゃんとモブミさんの お陰。2人に出会えて、本当に良かったな。







 カノン 「ただいまー!」

 ▼ 95 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:45:11 ID:9.srXmis [13/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ラティアス 「くぅぅ〜♪」


私は自分の部屋には入らないで、秘密の庭に足を運んだ。


声をかけるなり、ラティアスが嬉しそうに飛んでくる。

とっても良い笑顔。まるで、私の気持ちを読み取ってるみたい。


 カノン 「ただいまーラティアス。今日の仕事はね、とっても楽しかったんだよっ」

 ラティアス 「くぅう〜?」

 カノン 「素敵な友達も出来てね、私、すっごく幸せな気持ち。昨日の憂鬱さが嘘みたい」

 ラティアス 「くぅ!」

 カノン 「ふふっ。ごめんね、心配かけちゃったよね、ラティアス。でも私、もう大丈夫だから、安心して。……ラティオスもね」

 ラティアス 「くぅぅ〜くぅぅ〜♪」


私の笑顔を見て、ラティアスは嬉しそうに、宙を回転した。

噴水の“こころのしずく”も、少しだけ、輝きを増したような気がした。
 ▼ 96 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:46:02 ID:9.srXmis [14/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「それでね。今日は おじいさん遅くなるみたいだから、夕ご飯、ここで食べようかと思って。ケーキ、買ってきちゃった」

 ラティアス 「くぅぅぅ♪」 キラキラ

 カノン 「ふふっ、ラティアス、ケーキ好きだもんね。一緒に食べよっ。今日はクリスマスだもんね。……みんなも一緒に食べよー!」


食事は大勢の方が楽しいって、私は経験済みだ。

庭に住んでいるウパーやヤンヤンマ、ナゾノクサやジグザグマといった野生ポケモンたちを私は呼び寄せた。




 カノン 「ふふつ。1人分は ちょっと小さくなっちゃうけど、ささやかなクリスマスパーティー、執り行いたいと思いますっ」

 ラティアス 「くぅぅぅぅ〜♪」

 野生たち 「「「 わぁぁぁぁぁぁぁ♪ 」」」


24日の夜だから、大きなクリスマスケーキ、半額になってたんだ。

そんな裏話は置いといて、私たちは、私たちだけのクリスマスパーティーを楽しんだ。

 ▼ 97 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:46:51 ID:9.srXmis [15/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
私、ひとりぼっちじゃないもん。

こんなに沢山、一緒に笑い合える友達が居て、一緒にパーティーを楽しめて。


私は これからも、先祖代々続いてきた使命――、秘密の庭を護り、この島を訪れるラティアスとラティオスを癒し、お世話する――、そんな重大な使命を、全うする。

それには、島の人たちとの深い干渉は やっぱり避けなきゃいけないから、ここで友達を作るのは、今まで通り、難しいかな。


でも、私には掛け替えのない仲間がいる。


ここに居る皆がそう。

元気いっぱいのラティアス。

私たちを見守ってくれている暖かい光、ラティオス。

私に勇気をくれた、ハルカちゃんとモブミさん。


私、もう寂しいなんて思わない。

私には私の使命がある。誰に何を言われたって、私はもう、迷わない。



私はもう、迷わないんだ!



 ▼ 98 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:47:12 ID:9.srXmis [16/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







 ボンゴレ 「これカノン。朝じゃぞ」



 カノン 「う〜ん……ぇっ……あれっ、もう朝?」




12月25日。

カーテンの隙間から、朝日が優しく部屋を照らす。

ベッドから飛び起きた私は、普段より1時間も寝起きが遅いことに驚いた。
 ▼ 99 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:47:43 ID:9.srXmis [17/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ボンゴレ 「すまんのカノン。昨日は遅くなってしまって」

 カノン 「ううん。私も気にしないで先に寝ちゃったし……、あぁもぉ、なんで寝坊しちゃったんだろう!」



昨日の夜、私が眠るまでの間に、おじいさんは帰って来なかった。

きっと楽しい打ち上げだったんだろうけど、私だって、ラティアス達と楽しいパーティーをしたんだから、別に怒ったりは していない。

それより、寝坊なんて久しぶりだな。早く朝ごはんの準備しないと。



 ボンゴレ 「良いんじゃカノン。たまには ゆっくりしなさい」

 カノン 「でもっ」

 ボンゴレ 「それに……、メリークリスマス」

 カノン 「えっ……?」


突然おじいさんから飛び出した言葉に、私は一瞬驚いた。

でも、おじいさんが両手に抱えているラッピングされた箱を見て、理解することが出来た。
 ▼ 100 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:48:28 ID:9.srXmis [18/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン 「それ……私に?」

 ボンゴレ 「あぁ。……ほれ」

 カノン 「わぁ……ありがとう」


プレゼントの箱を受け取った。

軽くは無いけど、重い訳でもない。30cm四方くらいの箱で、厚みは10cmちょっとかな。


若草色のラッピングを丁寧に剥がすと、顔を出したのは、黒いシックな箱。金色の帯を巻いて、そこに写る写真には、木箱と絵具がズラリ。


 カノン 「えっ……これって!」


箱を開けると、高級そうな木箱が。

そっと手に取り、鈍く光る真鍮の金具を開けば、油絵具が鮮やかなグラデーションを成して詰まっていた。

5号絵具が20色と、9号絵具が10色の計30色。

絵具が収まっている部分の下には引き出しがあって、そこにはペインティングメデュウムやオドレスホワイトスピリット、木製パレットに油ツボダブル、混色ガイドなど、絵画をサポー

トする品々が収納されていた。


 カノン 「これっ……、“ターレンス”の油絵具!?」


ターレンスの油絵具は、画材メーカーの中でも最高級品で、著名な画家さんも愛用している、素人には手が出しにくい品だ。

おじいさんからのプレゼント、木箱入りの30色で、しかも色んな物が付いてて……、これ、普通に買ったら5万円じゃ おさまらないはずだよ!
 ▼ 101 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:49:18 ID:9.srXmis [19/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ボンゴレ 「昨日、あの後な。KさんとLさんから聞いたんじゃ。イベント初日、カノンがミスしてしまったこと」

 カノン 「あっ……」

 ボンゴレ 「凄い混雑だったようじゃな。休む暇も無く観光客の対応で、あの状況なら、誰がミスしてもおかしくないと言っておった。むしろ、よくミスを1回で済ませたのぉ」

 カノン 「ううん。ミスはミス。私が ちゃんと確認していれば……」

 ボンゴレ 「実はな、昨日カノンの配置が変わったのは、館長さんの指示なんじゃ」

 カノン 「やっぱり……、ミスする人間に、受付は務まらないもんね……」

 ボンゴレ 「いいや違う。館長さんも、あの混雑は想定外だったらしい。あれだけ混むことが分かっていれば、カノンを受付に配置することは無かったそうじゃ」

 カノン 「えっ……と?」

 ボンゴレ 「つまりな、あの受付は、大聖堂の正社員が受け持つべき仕事だったと言うことじゃ。そこに素人のカノンが入ってしまったんじゃよ」

 カノン 「そうだったんだ」

 ボンゴレ 「しかしカノンは、1回ミスしたとは言え、受付の仕事を やり切った。正社員の仕事をじゃ。これは凄いことじゃぞ」

 カノン 「凄い……のかな。私、ただミスしないようにって、いっぱいいっぱいで……」

 ボンゴレ 「館長さんも、Kさんも、Lさんも、みな褒めておったぞ。流石カノンだと。ワシも鼻が高かったわ」

 カノン 「褒めてくれてたの……? みんな?」
 ▼ 102 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:50:28 ID:9.srXmis [20/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ボンゴレ 「そうじゃ。それに加えてカノン。昨日の仕事ぶり、コーディネーター事務所のPPPKから お褒めの電話を貰ったぞ」

 カノン 「PPPK……、ハルカちゃんとモブミさんのところ!」

 ボンゴレ 「あぁ。“うちのハルカとモブミがリラックスして最高の演技を出来たのは、カノンの丁寧な仕事の お陰。またアルトマーレ公演があれば、是非ともカノンを指名したい”

とな」

 カノン 「そんなぁ。私、自分で精一杯やってただけなのに」

 ボンゴレ 「とにかく、大聖堂の皆、カノンに感謝しておったぞ。昨日の打ち上げも、お前さんの話で持ちきりじゃ。本当にワシは、良い孫を持ったわい」

 カノン 「……えへへっ。大袈裟だよ、おじいさん」


そっか、みんな、私のこと褒めてくれてたんだ。

館長さん、怒ってなかったんだ。


なんだか心配して損しちゃったな。落ち込むと、まわりのことが どんどん暗いイメージになっちゃって、余計に憂鬱になっちゃって。

私、悪いほう悪いほうって考えちゃってたけど、全然大丈夫だったんだ。


良かった。

迷惑をかけちゃったのは事実だけど、落ち込むようなことでも無かったんだよね。

本当に、良かった……。
 ▼ 103 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:51:41 ID:9.srXmis [21/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ボンゴレ 「ほっほっほっ。とまぁ、その油絵具セットは、お礼を兼ねたクリスマスプレゼントじゃ。カノンが欲しいものは分からんから、ひとまず良さそうなものを買ってみたが…

…」

 カノン 「良さそうって言うか、これ最高級品だよ! こんなの買って貰っちゃうの、逆に申し訳ないよぉ」

 ボンゴレ 「気にするでない。普段からカノンには、色々 苦労をかけておるからな。我々一族の使命もあって、お世辞にも自由な生活が出来ているとは言えん」

 カノン 「そんなこと」

 ボンゴレ 「黙って受け取りなさい。こうでもして、ワシから お前さんに、感謝の気持ちを伝えさせておくれ」

 カノン 「おじいさん……」



おじいさんからの、感謝の気持ちか――。

先祖代々の使命のことで、おじいさんから感謝の言葉を聞いたの、もしかすると、これが初めてかもしれない。

おじいさん、私のこと、ちゃんと見ててくれたんだね。私のこと、気にかけてくれたんだね。私の気持ち、気付いてくれてたんだね……。



 カノン 「ありがとう。大切に使うね、この素敵な画材セット!」

 ボンゴレ 「あぁ。思いっきりカノンの趣味を楽しんでおいで」

 カノン 「うん!」

 ボンゴレ 「その前に、朝食にしよう。今日はワシが作るから、カノン、早く着替えて来なさい」

 カノン 「はーい!」
 ▼ 104 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:52:31 ID:9.srXmis [22/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おじいさんは恥ずかしかったのか、足早に、1階のリビングへと下りて行った。

おじいさんの朝ごはん、久々だな。




 カノン (……ふふっ)


私は もう一度、プレゼントを じっくりと眺める。

木箱入りの、高級油絵具。いま私が使っている絵具とは、比べ物にならないほど高価なものだ。


……良いのかな、こんなに高級なもの、貰っちゃって。

おじいさん。私が欲しいもの分からないから、とりあえず高いもの買ったんじゃないかなぁ。


 カノン (まぁ……いいよね、たまには)


でもおじいさんは、普段からの お礼と言っていた。

なら素直に受け取ろうよ。

気を遣いすぎるのも逆に変だし、おじいさんからの気持ち、ちゃんと受け取らないとねっ。
 ▼ 105 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:53:10 ID:9.srXmis [23/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



最初は憂鬱で仕方なかったクリスマス。


今は、最高のクリスマス。




皆の役に立てて。


大切な友達が出来て。


おじいさんから。館長さんから。Kさんから。Lさんから。ハルカちゃんから。モブミさんから。皆から感謝されて。




私の頑張り、皆が見ててくれたんだよね。


私の一生懸命、こうやって報われたんだよね。




本当に、最高のクリスマスだ。


 ▼ 106 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:54:29 ID:9.srXmis [24/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




 カノン 「……あれっ?」


着替え終えて、ベッドを整えていると、枕元に、小さな箱が置いてあるのに気付いた。

10cmくらいの立方体で、飾り気のない茶色の箱だけど……。


 カノン (昨日は無かった……はず)


こんなものがベッドにあれば、すぐ気付くはずだ。

……今は起きがけで おじいさんに話しかけられたから、気付けなかったけど。



ひとまず私は、その箱を開けてみた。



 カノン 「わぁ……! これっ、アルトマーレグラスのペンダント!」


そこには、美しい水色のペンダントが入っていた。

シルバーのチェーンに続く、水色のガラスの球体。

それは正しくアルトマーレグラスの逸品で、アルトマーレの伝説として登場する“こころのしずく”をモチーフにしたものだった。
 ▼ 107 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:55:50 ID:9.srXmis [25/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 カノン (このペンダントって……)


そうだ。

先月……だったかな。マーケットで見つけて、すっごく気に入ったんだけど、贅沢しちゃダメだって思って、結局買わなかった。

でも、本当は すっごく欲しかったんだ、このペンダント。


それが……どうして?


 カノン 「……もぉ。おじいさんったら」


どうしてもなにも、私にプレゼントしてくれる人なんて、おじいさんしか居ないよね。

おじいさん、さっき私を起こす前に、このペンダントを、枕元に置いたんだ。

その後に私を起こして、油絵具をプレゼントしてくれて。


“私が欲しいものが分からない”って、それ、私をビックリさせるために言ったのね。

油絵具に加えて、私が本当に欲しかったものをプレゼントしてくれて……、もぉ、最高のサプライズだよ。




 カノン 「おじいさん! おじいさーん!」


私は早速ペンダントを付けて、おじいさんの待つリビングへと駆けて行った。


首元で揺れるペンダントは、朝の光を浴びて、美しく輝いた。


まるで、本当の“こころのしずく”のように――。






 ▼ 108 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:57:00 ID:9.srXmis [26/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告






 ラティアス <……ふふっ>


 ラティアス <カノン、喜んでくれて良かった♪>


 ラティアス <それはね、いつも頑張ってるカノンに、私からのプレゼント。こっそりカノンの様子を観察して、欲しいもの、リサーチしてたんだ>


 ラティアス <でも、私からのプレゼントって言うのは内緒だよ。これはサプライズなんだから。頑張ってるカノンに、サンタさんからのプレゼントなんだから♪>


 ラティアス <カノン。私だって、あなたの友達だよ。ずーっと一緒に、秘密の庭を、護っていこうねっ!>



 ラティアス <メリークリスマス、カノン!>



 ラティアス <メリークリスマス、アルトマーレ!>





     ――― 完 ―――


 ▼ 109 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:58:15 ID:9.srXmis [27/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





これにて完結です。


クリスマスと言えば、恋人同士、友達同士、華やかなイメージですが、その影で働いている人が居るからこそ、皆が楽しめているんですよね。

そんな“影で働く存在”をテーマに、当SSを書いてみました。


これまでの ご支援、ご感想、ありがとうございました。


>>1もクリスマスは仕事でした。正月三が日も仕事ですリア充くたばれ
 ▼ 110 州街道◆IVIG1YNTZ6 17/12/25 23:58:50 ID:9.srXmis [28/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


なおこのSSは、以下の2作品の続編となっています。

カノンの背景、ハルカとモブミの関係など描いてありますので、もしよろしければ ご覧くださいませ。



カノン 「さよならっ……」
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=58149

サトシ「ハルカを助けに行ってくる!」
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=50724

 ▼ 111 マガル@ミュウツナイトX 17/12/26 08:19:54 ID:mTosN5D. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少しサトカノ期待してましたww
今度、機会あればよろしくお願いします
 ▼ 112 レディア@はかせのてがみ 17/12/26 12:10:32 ID:rhpi0aSo NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です
 ▼ 113 ガアブソル@トロピカルメール 17/12/26 18:22:03 ID:udPbJjfk NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
 ▼ 114 ルマイン@サファイア 18/01/06 01:10:39 ID:K/Q0CpWM NGネーム登録 NGID登録 報告
良かったよ
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