【SS】氷の棺:ポケモンBBS(掲示板) 【SS】氷の棺:ポケモンBBS

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【SS】氷の棺

 ▼ 1 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:08:58 ID:vx7MVqSY [1/24] NGネーム登録 NGID登録 m 報告









洞窟の外は、今日も吹雪が吹き荒ぶ。

貴方は今日も、目覚めない。









 ▼ 2 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:10:01 ID:vx7MVqSY [2/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
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ーーここは一体......


気が付けば私の体は、初めて見る場所にありました。

しかし何故か、デジャヴを感じます。

此処は何処なのでしょうか。


足元には新雪が柔らかく積もっています。

雪に覆われた木々の枝葉が、その重みに耐えかねて、真白な塊を落としました。

どうやら、何処かの冬の林のようです。


遠くから、雪を踏みしめる足音が聞こえてきました。

一定の拍を刻み、近づいてきます。

不思議なことに、その拍が、どうしようもなく心地よいのです。


ーー私はこの足音を知っている?


近くにあった木の陰に隠れ、音の主を待つことにしました。


暫くすると、其の者はやって来ました。


雪よりも透明で白い、それはそれは美しい肌。

それは年端もいかない童でした。



私は驚きに満ちました。

それは、私の主の幼き頃の姿に相違無きお姿であられたからであります。
 ▼ 3 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:11:00 ID:vx7MVqSY [3/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
「こっちだよ」

その童は、歩く速度を落とし、後ろにそう声を掛けました。

懐かしい声です。


その後ろに続くのは、拙い歩き方の小さな雪童。


紛れもなく、幼き日の私です。


ーーこれは一体......?


木の陰に隠れた私に気付くことなく、一人と1匹の童はそのまま歩いていきます。

私は気配を殺し、その後を追いました。


やがて、林の木々が疎らになってきます。

同時に、だんだんと小高い丘になってきているということに気が付きました。

つまり位置的な関係上、彼らが一度でも振り向けば、私の姿が露見してしまいます。


さて、如何したものでしょうか。

このままだと密かに尾行していることがバレてしまいます。

何故だが、それはいけない気がいたしました。
 ▼ 4 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:11:46 ID:vx7MVqSY [4/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
そして悩んだ私のとった行動は、『あられ』を降らすことでした。

私の特性は『ゆきがくれ』。

霰が降る中に限り、私の姿を捉えることは殆ど不可能です。


ただ、本来は戦闘の要素に使うそれですが、かなり威力は弱めました。

当然です。

何も傷つけたいわけではございませぬ。


弱い弱い霰は、殆ど雪と変わりありませんでした。


「ほら、ユキワラシ。見てご覧よ」


丘の頂点に辿り着いた彼らは、そこからの景色を眺め始めました。

彼らは、眼下に広がる村を眺めています。


その村の上で、私が降らした『あられ』が陽光を浴び、美しい光景を織り成しておりました。

これは、細氷と呼ばれる現象に酷似しています。

それを、若き日の主人と私は一心不乱に眺めていました。


「運がよかったね」


静寂を破ったのは主人です。
 ▼ 5 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:12:27 ID:vx7MVqSY [5/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
「こんなに美しい細氷は、僕も今まで見た事がない」

「知ってたかい?雪って、こんなに美しい光景を描く事ができるんだよ」


その時、はっと思い出しました。

先刻から感じていたデジャヴの正体は、私の古い記憶の中にありました。


確かにこれは私の記憶です。


この日まで、私にとって雪や氷は単なる一種の攻撃手段の一つ以上の意味を為さなかった。

しかし、私は魅せられた。

この細氷の美しさに。

そして、それを眺める若き日の主人の瞳の輝きに。


貴方は心からこの光景を愛した。

そしてそれを愛す貴方を私は愛したのです。


それを思い出したその時、景色がグニャリと歪みました。


ーー待って。

ーーもう少しだけ此処にいさせて。

ーー貴方の側にいさせて。


そう願うものの、歪みはどんどんと広がり、やがて視界は真っ暗に。


光が途切れる最後の時。

貴方が此方を向いた気がいたしました。
 ▼ 6 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:13:08 ID:vx7MVqSY [6/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告

真っ暗な世界で私は想いに耽ります。

確か、この後、私は貴方に付いていった。

貴方の両親は私を歓迎して下さった。


貴方の土地には、雪童の訪れた家は幸運が訪れるという伝説があったのですね。


そして私たちは共に成長いたしました。

貴方は、時折家を抜け出して、あの丘へ私を連れて行って下さいました。


貴方は何よりあの景色が好きだった。

美しいものを見て、それをただ眺める事が貴方の幸せであったのを、私は誰より知っておりました。
 ▼ 7 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:14:16 ID:vx7MVqSY [7/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
そしてある程度の歳になり、私たちは旅に出ます。

ある程度の歳になった子供はその相棒と共に旅に出て、見物を広め、そして帰ってくるのは一般的な事でした。


貴方の両親は、最後まで反対していらっしゃいましたね。

貴方は体が弱かった。

透き通るような美しい肌も、あまり活発に動くことのできない、代償のようなものでした。


それでも、世界を見て回りたい貴方の気持ちは家に籠っていることを許さなかった。

反対を押し切り家を出た時の、ご両親の気持ちは推して量るべきでしょう。


旅の中、私は進化しました。

雪童の進化系は二種類あります。

その中で、私がより人に近い姿になったのは、貴方と一緒にいたかった心の現れかもしれません。




視界がだんだんと明るさを取り戻してまいりました。

続きが、始まるようです。
 ▼ 8 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:14:45 ID:vx7MVqSY [8/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
それはどうやら、私たちが旅を終えて、村へ帰ってきた時のようです。

心配していた貴方の体調も問題なく戻ってくる事ができました。


ただ、どうも村の様子がおかしい。


「......?」


妙な違和感を感じた私たちは、その正体も分からないまま家へ向かいます。


「誰も......居ないのか?」


そこはもぬけの殻でした。


隣の家も、そのまた隣の家も。


ただ、荒らされた形跡はなく、忽然と人の姿だけが消えてしまったようです。


部屋には埃が積もっていませんでした。

つまり人が消えたのは極々最近なのでしょう。
 ▼ 9 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:15:24 ID:vx7MVqSY [9/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
村の中心部。

村のシンボルの大きな針葉樹が生えた広場です。


ところがそこには、シンボルの代わりに立て看板が一つ立っているのみでした。


内容は大まかに以下のようなものでした。


この地は国の公共事業の一環で、開発されることが決まった。

よって速やかな住民の退去を求める。

従わない者の身分は保障されない。


そういう時代です。

いつぐらいかといいますと、私と主人が出逢ってからなので、ざっと150年は前でしょうか。


村に何があったかは、明白です。

私たちは知っていました。

この地に住む人々の、この地への愛着を。


その結末がこれなのだろうと。

ただ、力がなかっただけなのです。
 ▼ 10 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:15:55 ID:vx7MVqSY [10/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
しかし私たちは違う。

私たちは皮肉にも、旅で培った、抗う力を持っている。


村に帰って10と5日後。

様々な器具を持った人間たちが村へ入ってきました。


彼らは何食わぬ顔で、無人の住居を次々と破壊していきます。

帰ってくる人を失った家は最早家にあらず。


何十年と、降り積もる雪に耐えてきた家々は、その役目を果たしたかのように呆気なく消えていきました。


そこへ、霰が降り始めます。

作業員たちは特に気にする素振りは見せません。

この地は年中雪の降る土地です。

霰が降ったとて、さもありなんという気持ちでいたのでしょう。
 ▼ 11 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:16:21 ID:vx7MVqSY [11/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
声も無く。

影も無く。

霰に隠れ、一人、また一人、消えていきます。


5人ほど消えたところで彼らは異常事態に気づいたようです。


しかし既に手遅れもいいところ。

霰に身を溶かした私が、一人、また一人と氷像に仕立て上げていっているのです。


やがて村から人影は消え、再び村に静寂が訪れました。


氷漬けにした人間を、貴方はあえて解放し、その恐怖を覚えさせようと考えていました。

そうすればきっと、この村を諦めるだろうと。


消えた人々も帰ってくるだろうと。
 ▼ 12 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:17:08 ID:vx7MVqSY [12/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
しかし現実はそうはならず。

一陣が去ればまた一陣。

終わることなき人の群れは、確実に貴方を蝕んでいました。


追い払い続け、何回目の冬か。


特に寒さが厳しい冬でした。

それはこの地で育った貴方でさえ倒れてしまうような。


誰も帰ってこない、貴方の生家。

今日、貴方の為だけにこの家は、いや、この村は息を吹き返しました。


暖炉に数年ぶりの火が灯り、貴方がその側で寝ています。

その息は荒く、鼓動は悲壮感が溢れるほど弱々しいものでした。
 ▼ 13 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:17:37 ID:vx7MVqSY [13/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
「......みんなが、帰ってきてから、って思ってた......」


貴方が高熱を発症して15日目。

眼を開けて貴方は久々に喋りました。


単なるうわごとだったのかもしれません。


貴方は火のついた暖炉を見ます。

身体が起き上がらないので、顔だけを向けて。


「また、この火をみんなで囲みたかった......」


「僕と、母さんと、父さんと、......君と......」

「......ユキメノコ。君を置いていく僕をどうか許して欲しい......」


「覚えているかい?初めてあの丘に登った日」


「僕は......ただ、守りたかった、それだけなんだ」

「......あの景色を......」

「君と過ごした.....この場所...を......」


それだけ言うと、貴方は、眼を閉じました。


その夜、暖炉の火は消えました。
 ▼ 14 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:18:25 ID:vx7MVqSY [14/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告




私には信じられなかった。

眼を閉じた貴方の顔があまりにも美しくて。

童の頃から何も変わらない。



透明で、雪のような肌。


貴方はきっといつかまた起きるのだろう。


だからその日まで、さようなら。




 ▼ 15 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:19:00 ID:vx7MVqSY [15/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
貴方の骸を氷の棺に閉じ込め、決して腐らないように。

貴方がいつか帰ってこれるように。


あの丘へ、貴方を私は運びました。

持てる力の限りを尽くし、洞穴を作り、その奥に氷の棺を安置しました。

誰の目にもつけさせない。

その覚悟を持ちました。


幸いに、その寒さのせいか、侵入者たちも冬の間は訪れることはなく。


そして春になりました。

相変わらず雪は積もっていますが、寒さもだいぶ落ち着き、また彼らがやってきます。


本気の『あられ』を使いました。

今までは貴方が、私のリミッターになっていました。


しかし最早許す理由はありません。
 ▼ 16 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:19:43 ID:vx7MVqSY [16/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
巨大な霰は、残された民家の屋根をいとも容易く突き破る威力です。

そして巻き起こる『ふぶき』。


数分後、そこに村は無くなり、ただ吹き荒ぶ吹雪だけが残りました。


犠牲者が出て流石に懲りたのか、もうそれから人が来ることは無くなりました。

しかしそこにもう村は無い。

誰も帰ってくるなんて思わないでしょう。


貴方の望みとは少し違うかもしれません。


でも、私にとっては貴方が全て。

貴方のいないこの村は、もう私にとってはなんの価値も無いのです。


美しい景色も。

愛に溢れた家庭も。


その全ては、私にとって貴方そのものなのです。


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 ▼ 17 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:20:06 ID:vx7MVqSY [17/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
......瞼が重い。


夢は覚め。

私は棺に突っ伏して寝ていたようです。


棺の中、透明な氷の中には、100年前と変わらぬ美しい貴方がいます。

洞窟の入り口から、太陽の光が、この場の静謐な空気を掻き乱していました。


ーーおかしい。


それはあたかもあの時のような違和感。

外を見ると、あの日から止まなかった吹雪がぴたりと止んでいたのです。


私は狼狽しました。


ーーいけない。

ーー吹雪が止めば、また人が来る。


再び吹雪を行うため、洞窟の外へ出ようとします。
 ▼ 18 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:20:30 ID:vx7MVqSY [18/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
ーーえ?


突然視界が真っ暗に。

いえ、私が地面に倒れこんだようです。


身体を起こそうとしますが、うまくいきません。


ーーああ。そうか。


遂にこの時が来たのですか。

貴方の目覚めを待つことも叶わず。

不甲斐ないことです。


まだ斃れる訳にはいかない。

せめて自分がしたことは、見届けなくては。


地面に伏したままの身体を引き摺り、外へ出ようとします。


この命を散らして、最後の吹雪を人間にご覧にいれましょう。
 ▼ 19 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:20:52 ID:vx7MVqSY [19/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
そう、決心したその時、背後で乾いた音がしました。


首だけを回し、後ろを見ます。

100年もの年月を無傷で過ごした氷の棺に、皹が入っているのです。


驚きに眼を見張る私をよそに、皹はどんどんと大きくなります。

そして一際大きな音と共に、大きな亀裂が走りました。


漏れ出た氷の欠片が、洞窟の入り口へと流されていきます。


ーーいかないで。

ーーまだ行っちゃダメ。

ーー貴方はまだ起きていないのに......


すると、氷のかけらは私の目の前で、人型を描き始めます。

陽光を反射するそれは、まるであの日の細氷でした。
 ▼ 20 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:21:29 ID:vx7MVqSY [20/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
『ーーごめんね』

『ーー随分待たせてしまった』


ーーそんなことはありません。

ーー私はこの日をただひたすらに、待っていました。


『ーーごめんね』

『ーー僕の言葉が君をここに縛り付けた』

『ーー君は自由に生きるべきだったのに』


ーー私の自由は貴方と共に。

ーー貴方が起きるのをずっと待っていました。


『ーー随分と待たせてしまったね』

『ーーじゃあ、行こうか』


ーーはい。

ーー私は貴方の望むままに。


『ーーみんなが君を、待っているーーー
 ▼ 21 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:22:03 ID:vx7MVqSY [21/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
氷の棺は粉々に砕け散りました。

吹雪も止みました。

貴方はきっと目覚めたのですね。

私は意識を手放した。
 ▼ 22 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:22:34 ID:vx7MVqSY [22/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告



ーー今、其方へ参ります。





 ▼ 23 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:22:55 ID:vx7MVqSY [23/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告




ユキワラシ No.361
ユキワラシの すみついた いえは おかねもちになるという いいつたえが ゆきぐにには のこっている。


ユキメノコ No.478
きにいった にんげんや ポケモンを れいきで こおらせる。 すあなに もってかえって かざるのだ。
 ▼ 24 1◆2v71vgndRI 19/08/05 00:23:10 ID:vx7MVqSY [24/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
 ▼ 25 フキムシ@ハーバーメール 19/08/05 10:32:25 ID:l.Vc3Fe6 NGネーム登録 NGID登録 報告
ダイヤモンド・ダストが見えた
綺麗っすね 乙
 ▼ 26 クレー@ミクルのみ 19/08/05 21:44:51 ID:ezsAv9Sg NGネーム登録 NGID登録 報告
素敵なお話ありがとう
乙!
 ▼ 27 ジョンド@きいろビードロ 19/08/08 19:25:04 ID:giIo.tTo NGネーム登録 NGID登録 m 報告
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