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【スワップSS】お花に水をおねがいね

 ▼ 1 1◆N8Nz6gyiSo 20/04/12 17:12:12 ID:8uvUh/uI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ソノオタウン。

北に広大な花園を持ち、東に厳かなテンガン山を臨む長閑な田舎町。

この町に俺はひと月ほど前、あまり広くない一軒家を借りた。

急な転勤のために慌ただしい引っ越しになってしまったが、この町のゆったりとした雰囲気はすぐに俺を受け入れてくれた。

越してきてしばらくは忙しく過ごしていたものの、やがて落ち着いて周りのことに気を向けられるようになると、様々なものが目につき始めた。

澄んだ川のせせらぎや、草原で波を立てながら吹くそよ風。思い思いに日々を暮らす人やポケモン達の姿。

とりわけ町の至る所で咲いている花は、今が見ごろで、馥郁とした空気を町全体に送り出していた。

陽はゆるく照っていて、行き場を失った水のようにのろのろとした時間が過ぎていく。


そんな景色の中で俺はふと、ある一匹のポケモンの奇妙な行動を目の当たりにした。

俺の住んでいる家は、交差する道の角に建っていて、裏手には小さな庭がある。

その庭の先、隣の民家の塀の手前にレンガ造りの小ぢんまりとした花壇があり、そこへ盛られた土の上に、綺麗な赤い花が数本並んで咲いている。

ある朝仕事の準備を終えた俺は、なんとはなしに裏手の窓から庭の先を覗いてみた。

すると、庭に面した道の先から、一匹のニャルマーがこちらへ向かって歩いてくるのが見える。

この辺りでは見かけないポケモンだな、などと考えるよりも先に、俺の意識はそのニャルマーが口に咥えている小さなジョウロに向けられた。

ジョウロはたっぷりと水を湛え、ニャルマーの口元で陽射しを受けて銀色に輝いている。

不思議に思ってその光景を眺めていると、ニャルマーは花壇の前で足を止め、おもむろにジョウロを掲げると、花壇の端の一本の花の近くに寄って、器用にジョウロの水を花壇に注ぎ始めた。

ニャルマーが花壇の縁を歩くのにつれて、赤い花弁と根元の土に潤いが与えられていく。

俺があっけにとられているうちに、やがてニャルマーは水やりを終え、ジョウロを咥えたままそそくさとその場から立ち去ってしまった。

仕事のことを思い出し、俺が慌てて外へ出たときには、もうニャルマーはいなくなってしまっていた。


それ以来、毎日のようにニャルマーは現れ、花に水をやってはどこかへ帰っていった。

雨が降る日にやってきて、しばらく花壇の様子を見ていたこともある。

そんなニャルマーの行動に、俺は次第に興味を覚え、いつしかそれを見ることが俺の朝の日課になっていた。
 ▼ 2 1◆N8Nz6gyiSo 20/04/12 17:12:36 ID:8uvUh/uI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
https://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=1189712

このスレッドはスワップSS企画2020に参加しています。
これ以降のお話は、スワップ先の方に執筆をお願いする形になります。よろしくお願いします。
 ▼ 3 がしのうみ◆kwS3uY81Tc 20/04/13 21:24:45 ID:C5qsACLs [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
続き書かせていただきます!お願いします!
 ▼ 4 がしのうみ◆kwS3uY81Tc 20/04/13 22:00:02 ID:C5qsACLs [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
徐々にこの町に慣れ、住人と名乗れる程の時が経ったが俺の日課は変わらない。

毎日毎日、雨の日だって現れるニャルマーに、いつしか親心が芽生えてきた。

どんな気持ちで水を与えているのだろう。なにか想い出があるのだろうか。

なにしろ、花に水を与えるポケモンなんて聞いたことがないもんで、ニャルマーをいっそう追求したくなる。

直接聞いてみたいが、ポケモンと話なんて出来るはずもない。ましてや、窓越しでしか見たことがないのだ。

そうだ、俺はひとつ思い付いた。いや、ありきたりなのかもしれないが、唯一の策であった

あの家の主人に話を聞けばいい。なにかわかるかもしれない。そう思い、家からそうない距離を、仕事も忘れて駆けたのだ。

こんな少年のような心を持つのは久しぶりだ。ふわふわと漂うジャムの香りに紛れ、そよ風が背中を押してくれる。

俺の心はオーバーに弾み、それを表すかの如くドアをノックをした。

「はい」

聞こえてきたのは老人の声だった

「待ってくださいね。今向かいます」

温もりのある声だ。どことなく、昔を思い出す

家から出てきた老人は、名をシダと言うらしい

「人が訪ねてくるのは珍しい。さ、入りなさい」

中へ入るとパチパチと心地のよい暖炉の音色が聞こえてきた。老人は俺を椅子に座らせると、向かいに腰を掛けた

「どうだ、この町は気に入ってるかな」

俺は驚いた。記憶を探っても、この老人にあった記憶が無いのだ。ましてや、近隣との交流も少ない。

「はは、驚くか。」

老人は優しく微笑んだ。この人の笑みは人に安らぎを与える。話していると心地がよい。不思議な老人である

「なんとなくだよ。なんとなく」

哀愁すら漂う家。今、ニャルマーは庭に居るのだろうか。本題を忘れるところであった。その事を、老人に聞いた。

「ニャルマー?あぁ、あの娘かい」

「いっつも水をやっているだろう。あれには私も驚いててね」

「死んだばあさんが植えた球根なんだけど、なんでかね」

老人は嬉しそうに語る。老人が飼っている訳ではなく、どんな訳やら何年も前から住み着いているみたいだ。

「ばあさんと、なんかあったのかもね」

礼を言ってから、俺は家をあとにした。帰りに貰ったアップルパイがどうも美味くて、花壇に欠片を置いといた。毎日見させて貰っている訳なので、感謝としてだ。

しかし次の日、ニャルマーは現れなかった。
 ▼ 5 nfYyot98RE 20/04/21 07:57:21 ID:01hMoOnQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

理由は火を見るより明らかだった。飛び散った陶器の破片。地面にぶちまけられた土。哀れ、むき出しになった球根。何か野生のポケモンが飛び乗った拍子に倒れたのだろうか。無惨な姿を陶片を手に取りながら拝む。

毎日せっせせっせと水をやっていたのにこの有り様とは。見ていただけの俺でも心がひしゃげる。あのニャルマーは今頃さぞかし落胆と悲壮に胸を痛めているのだろう。しかも、おばあさんとの約束がある、特別な花だ。
それは、無理もない。

「シダさん、大変だ」

俺は思わずピーピーマックスやら、むしよけスプレーの缶やら入ったゴミ袋を持ったまま、あの家の老人の家の戸を叩く。老人が杖を突き、ヤドンの如き動作で現れる。

「どうされたかな? 若い人」

老人を連れて植木鉢の残骸を見せた。自体に、流石のシダさんも言葉を失くしていた。危ないのでちりとりを持ってきて破片を片付ける。

その中から、球根を取り出し、丁重に扱う。割れたのはつい昨日のことのようで、球根はまだ生きていた。青々とした茎が痛々しく折れていたが、しかしまだ生きていた。

俺は、近所のホームセンターに行き、土と植木鉢、心做しの栄養剤を買った。柔らかな土に球根を埋め込み、根を傷つけないように被せる。そして水をやった。

またあのニャルマーが器用な妙手で水をあげられるようにと、切なる願いを込めるように、水をやっていた。
 ▼ 6 チコール@かわらずのいし 20/04/22 09:39:08 ID:uaK631Ks NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 7 nfYyot98RE 20/04/22 19:31:13 ID:k2cYoWZ2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
次の日、また裏窓から、仕事に行く前に植えた球根を見た。あのまま根付いてくれたのかどうか不安だったのだ。

そして、あのニャルマーのことも。

そこには、優雅な佇まいで新しく植えられたあの球根を見る、靱やかな肢体のねこかぶりポケモンがいた。

驚き、訝しむように、しかしながら何処か安心したように。脚をぴんと伸ばして微笑んでいた。

俺が慌てて外に出ると、見慣れた、いつものコダックジョウロを尻尾で持つ彼女がいる。そっと近寄って、まじまじと見ていたが、俺のことなど気にせずに滔々と水をやっている。

ここまで近づいたのは初めてだった。瞳は群青の空を見据えている。土が水をたっぷり吸って、湿るのを確認すると、彼女はするりと細やかに身体を使って去っていった。

俺は、日常が戻ってきたことに安心していた。ささやかな平生の崩壊を食い止めることが出来て、大いに胸を撫で下ろしていた。

と、植木鉢を見つめる俺に再びニャルマーがやってきた。尻尾にはいつものコダックジョウロはない。一体、どうして?

不思議に思っていると、ブロック塀からこちらへ飛び降り、俺の足元にやってきた。するりするりと、身体を俺の足に擦り付け、尻尾で撫でると短く鳴いた。それだけすると満足したように、再び俺の前から姿を消したのだった。
 ▼ 8 ガヤンマ◆tNBlQV57Hs 20/04/28 17:50:38 ID:tJowAuzQ [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
乗っ取り進行させていただきます。
よろしくお願いします
 ▼ 9 ガヤンマ◆tNBlQV57Hs 20/04/28 18:09:39 ID:tJowAuzQ [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
その次の日は日曜日だった。俺の仕事は休みで、いつもより少し遅く起きた俺は、手早く朝食を済ませ、裏窓から花の様子を見る……が
急に俺の額に汗が出る。ニャルマーの顔が怒りに満ちていたからである。

なぜ彼女は怒っているのか、それは第三者である俺でもすぐ分かった。
彼女が怒りの形相で睨んでいるポケモン。
真っ黒な体、赤い目、帽子のような頭……
………ヤミカラスだ。

奴が植木鉢を壊そうとしたのだろう。きっと一昨日も。
幸いにも植木鉢は残っているが、彼女は許せないとでも言いたげだ。

……俺の目の前で、ポケモンバトルが始まろうとしていた。
 ▼ 10 ガヤンマ◆tNBlQV57Hs 20/04/28 18:24:14 ID:tJowAuzQ [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
バサッ……

ヤミカラスの羽音が、静寂の時間を終わらせた。

「ニャアアアールッ!!」
「クェェエアアーッ!!」

一瞬だった。ニャルマーの"ひっかく"とヤミカラスの"はがねのつばさ"がぶつかり、金属音に似た大音が轟く。

反動を受けた両者の体制を片方は羽ばたき、片方は尻尾で整える。

次の瞬間、ニャルマーが俺の方を振り向いた気がした。

そして、彼女の身体は白い光に包まれる。その光はだんだんと彼女の右前足に集中していき…
刹那、ニャルマーは尻尾をバネの様にして跳び上がった。

放物線を描きながら美しく跳ぶ彼女の容赦無い右前足が重力によって加速する…

「ニャァアアール!!」

彼女の一撃はヤミカラスの脳天に命中し…

「クェッ……クカァ………」

重い一撃を受けたヤミカラスは、力無く倒れた……
 ▼ 11 ガヤンマ◆tNBlQV57Hs 20/04/28 18:36:22 ID:Ac/kWhk2 NGネーム登録 NGID登録 報告
「あの技は……!」

聞きなれた声が聞こえた。

「あっ、シダさん」

「ああ、あんた。今の技を撃つ前に、ニャルマーがそっちを見つめなかったかい?」

俺の脳内に、さっきの出来事がよみがえる。あれは気のせいではなかったのか。

「はい、なんでそれを?」

「今の技はね、"おんがえし"って言うんだよ。」

「あの娘が死んだ婆さんと一緒にいる頃の得意技だったらしいけど、婆さんが死んだ後、使わなくなったらしいよ」

"おんがえし"。聞いたことがある。ポケモンが懐いていれば懐いている程威力が上がる技だ。
彼女がこの技を封印していた理由も主人であるお婆さんがいなくなり、使わないようになったというのなら納得できる。
でも、もしそうなら何故さっき?

するとシダさんが心を読むかのように答えを返してくる。

「…今のはあんたへの"おんがえし"みたいだね」

「…!!」

「婆さんが植えたその球根を守ってくれたあんたへの、ね」

「俺への……ですか?」

「きっとそうよ」

すると、ニャルマーが笑顔でこちらへすり寄ってくる。

「俺への"おんがえし"か……… ふふっ。どういたしまして、ニャルマー」

俺はこのポケモンの健気な一面に感激し、静かに彼女の頭を撫でた。
 ▼ 12 ガヤンマ◆tNBlQV57Hs 20/04/28 18:42:13 ID:Jgx.zLAw NGネーム登録 NGID登録 報告
一週間後。
あの球根は今でも元気に育っている。

今日もいつものようにコダックじょうろを抱えたニャルマーが現れる。

そのニャルマーが現れる度に俺は声をかけるのだ。

「今日もお花に水をおねがいね!」

〜完〜
 ▼ 13 ガヤンマ◆tNBlQV57Hs 20/04/28 18:44:26 ID:BrfE52GI NGネーム登録 NGID登録 報告
完結させて頂きました!
企画者さん、>>1さん、ひがしのうみさん、>>5さん、ありがとうございました!
 ▼ 14 がしのうみ◆kwS3uY81Tc 20/04/29 22:41:17 ID:KbBkSl1g NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
失踪すみません……
>>1さん、>>5さん、ギガヤンマさん、ありがとうございました
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