【SS】イーブイ「あの子の元に帰るまで」:ポケモンBBS(掲示板) 【SS】イーブイ「あの子の元に帰るまで」:ポケモンBBS

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【SS】イーブイ「あの子の元に帰るまで」

 ▼ 1 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:33:07 ID:NLVAUa2w [1/43] NGネーム登録 NGID登録 報告





私は、真っ青な夏の空を見上げていた……




澄んだ空に響き渡るのは、テッカニン達のオーケストラ……



何度拭っても溢れてやまない涙の向こうには、もう「あの子」の姿は見えなかった。






悲しさの中で私は、ただただ夏空の下で泣き続けた……





 ▼ 2 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:33:44 ID:NLVAUa2w [2/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





それは、ある街で起こった出来事……







とある街、人通りの多い騒がしい街の歩道を、一人の少女と一匹のポケモンが駆け回っていた。



少女「イーブイ! こっちこっち!」


イーブイ「ブイっ! ブイーっ!」



街を行く人々の波を上手に避けながら、今日も彼女らの小さな追いかけっこが続く……


 ▼ 3 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:34:34 ID:NLVAUa2w [3/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


少女「ほら! 置いてっちゃうよ!」


そう言いながら笑う少女は、ほんの少しも疲れる様子を見せない。


なんせ、少女は通っている小学校でも一番の早足が自慢で、かけっこが大好き。


だから、こうして毎日大好きなイーブイとかけっこをしていたのだ。






イーブイ「ブイっ……ブ……」


それに比べてイーブイは……少し苦しげに息を切らせ、なんとか追いつこうとして見える。


そう、実はこのイーブイ、かけっこが大の苦手。


しかし、大好きなご主人と遊びたいが故に、それだけの理由で毎日の追いかけっこを楽しもうとしているのだ。






大好きなご主人を思う気持ちが、苦手な物事を乗り越えさせる、不思議な力を与えている訳である。
 ▼ 4 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:35:17 ID:NLVAUa2w [4/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイを置いて、少女はどんどん駆けていく……



少女「イーブイ! 先行っちゃうからねー!」



その声にイーブイは焦る……置いていかれてしまうと……


イーブイ「ブ、ブイっ……」



既にご主人の姿は見えない……どこを見ても、見知らぬ人ばかりの大通り……



イーブイ「ブイっ! ブイーっ!!」



その足に踏まれぬ様、通行人の波を抜けて、時にはぶつかりながらもひた走る……




イーブイ「ブイーっ!」




不安になってご主人を呼ぶも、返事はない……


どんどん焦る……まだ、ご主人は見えない……



このままでは拉致が開かない……一旦この人混みから抜けるのが先と、イーブイは脇道に逸れ、人混みを飛び出した。
 ▼ 5 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:36:10 ID:NLVAUa2w [5/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「ぶ、ブィィ……」


息を切らせて人混みを飛び出す……ここは?


辺りを見渡した……ここは……車道?




バーーーーーっ!!!




大きなクラクション、そちらを向くと、もう目の前に大きなトラックが!



イーブイ「ぶっ! ブイっ!!」


急いで引き返そうとしたが……時既に遅し。

イーブイはトラックに跳ね飛ばされて宙を待った……


小さな身体は大きく吹き飛び……そして、隣を走っていたトラックの荷台にポスンと落ちた。


イーブイ「……」


ピクリとも動かないイーブイを乗せて……イーブイが乗っているとも知らずに、そのトラックは走り出す……



……



そんな一連の流れを見ていた一つの影……

信号機の上に腰掛けて、ニヤニヤと荷台に転げたイーブイを見つめていたが……



「けけっ、いい暇つぶしになりそうだ……」


そう笑ってトラックの荷台、イーブイの隣に飛び降りた。



二匹を乗せたトラックは、大きな街をどこまでも続く道……真っ直ぐに走って行った……
 ▼ 6 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:36:38 ID:NLVAUa2w [6/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告










第一話 意地悪な同行者








 ▼ 7 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:37:13 ID:NLVAUa2w [7/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告










う……うぅっ……



……? あれ? 私……






イーブイ「ん、んんっ……」



風を受け、目を覚ます……ここは……走行中のトラックの荷台?


イーブイ「あれ? 私、追いかけっこしてて……あれ? あれ?」


何が起こったのか……突然の事にパニックに……





……ダメだ。何一つ思い出せない。


 ▼ 8 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:38:07 ID:NLVAUa2w [8/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

頭を抱えたその時、イーブイは隣に寝転がっていた真っ黒いポケモンに気づいた。


イーブイ「っ!」


そのポケモンも、イーブイの方を見るなり身体を起こし……ニヤリと笑って返した。



?「おう、やっと起きたか……」



その声……その身なりは不気味ではあったが、何故か悪者にも見えない……

恐る恐るイーブイは問いかける。



イーブイ「あ、あなた……誰?」


?「俺か? 俺は……ジュペッタだ」


イーブイ「ジュペッタ……さん?」



その呼び方に、やや嫌そうな顔を見せた。



ジュペッタ「呼び捨てにしてくれ……気味が悪い……


イーブイは気怠く話すジュペッタのノリに、少しやりにくさを感じたが……


イーブイ「……あなたは誰なの? ここは? 私はなんで……」



そんなやりにくさよりも、聞きたい事が山程あった。



ジュペッタ「まぁ、そう急かすな」


ジュペッタは側にあったブルーシートの被さった木箱の山に手を突っ込むと、その中に隠されたオレンのみを一つ取り出し、イーブイに投げ渡した。




ジュペッタ「これでも食いながら、ゆっくり話そうぜ」

 ▼ 9 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:38:44 ID:NLVAUa2w [9/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



オレンのみはみずみずしく、イーブイの乾いた喉を潤した。



イーブイ「それで……ここは?」


ジュペッタ「トラックの荷台だ」


イーブイ「それはわかってるよ!」


その返しにジュペッタはニヤニヤしている……


ジュペッタ「ケケっ! 冗談だ。ま、そう怒るなって」



やはり不気味……そして、どこか信用が出来そうもない……

それでも、今はこのポケモンしかイーブイの事を知っていそうなポケモンは他にいない……



頼る相手も……他にはいない。




仕方ない。今は信じるしかなさそうだ。


 ▼ 10 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:39:23 ID:NLVAUa2w [10/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


二匹を乗せたトラックはトンネルを抜ける……

真っ暗なトンネルを抜け……また、真っ白い日差しに包まれる……



イーブイ「私は……あっ! そうだ!」



その日差しの刺激をきっかけに、イーブイの頭の中、ここに来るまでに何が起こったか……微かな記憶の扉が開いた。



イーブイ「私、リリちゃんと追いかけっこしてて……それで、トラックに……撥ねられて……」


ジュペッタ「そうだ。跳ね飛ばされたお前は、このトラックの荷台の中に落ちたって訳だ」



その一言にゾッとする……ふと遠くに見えた看板を見ると……聞いた事の無い地名……



イーブイ「じゃ、じゃあ早く戻らなきゃ!! リリちゃんが探してる!」


走るトラックの荷台から飛び降りようとしたイーブイの尻尾、ジュペッタがギュッと掴む……


イーブイ「うわっ!? はっ、離してよ! 早く戻らないと!」


ジュペッタ「リリちゃんだ? そいつがお前の飼い主か?」


イーブイ「そうだよ! 早く戻らなきゃ!」



イーブイの必死な顔を見て、ジュペッタはニヤっと笑った。




ジュペッタ「そいつは探してねぇよ。お前の事なんか」


 ▼ 11 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:40:20 ID:NLVAUa2w [11/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「っ! な、なんでそんな事言うのさ!」


ジュペッタ「俺にはわかる。そいつは最初こそ悲しむだろう……けど、すぐに次を見つけるさ。お前の代わりになるポケモンをなぁ……」



ジュペッタはオレンの皮を剥くと、それを放り投げ、丸呑みした。



ジュペッタ「人間ってのはぁ……そう言うもんさ。悲しいけど諦めな……ケケケッ!」




そのニヤニヤ顔を見ていると、無性に腹が立つ……




イーブイ「何さ! リリちゃんの事何にも知らない癖に!」


そう言って自慢のふさふさ尻尾を乱暴に掴むジュペッタの手に噛み付いた。


ジュペッタ「ぎっ、ぎぇぇえええっ!!?」



尻尾を掴む手が緩む……


イーブイ「じゃあね! さよなら!」




荷台から飛び降りる……着地した瞬間、イーブイは草原を勢いよく転げ落ち……見えなくなった。




暫くジュペッタは噛みつかれた手をさすっていたが……


ジュペッタ「……なんだよ。あいつ」



そう呟き、またオレンのみの皮を剥いて、丸呑みにした。



 ▼ 12 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:41:04 ID:NLVAUa2w [12/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






うわぁぁぁぁああ!!






かなりの速度で走っていた車から飛び降りたせいで、イーブイは勢いよく道沿いの草の茫々と生えた坂道を転げ……


平坦な草地で、やっと止まった。



イーブイ「いっててて……おしり打ったよ……」 


痛む体をさすり、身体についた土を払って立ち上がる……


イーブイ「それにしても……」



先程のジュペッタ……その発言もその顔も、思い出すだけで腹が立ってきた。



イーブイ「あいつ……本当ムカつくよね! なにさ! リリちゃんの事何にも知らない癖に!」




「まぁまぁ、ムカつくなんてそんな酷い事言わないでくれよ」




イーブイ「え?」


声の方を見れば、いつの間にか隣にジュペッタが……


イーブイ「うわぁぁああっ!!」


 ▼ 13 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:41:29 ID:NLVAUa2w [13/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



飛び上がったイーブイを見てジュペッタはヘラヘラ笑う……


ジュペッタ「ケケケッ! いいリアクションだな!」


イーブイ「もうっ! 何さ! なんで着いてくるの!?」



怒るイーブイだが、ジュペッタは怯みさえしない……



ジュペッタ「そんなの決まってるだろ? ただの暇つぶしだ!」



その答えに怒りが振り切れたイーブイは、もう一言も言い返さずに、自分が転がり落ちてきた坂道を黙って登り始めた……


ジュペッタ「ケケケッ! 面白い奴だ!」


 ▼ 14 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:41:59 ID:NLVAUa2w [14/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


草花の生えた坂を登る……昨日雨でも降ったのか、足元の草葉は濡れ、日の光を浴びて輝いている……



イーブイ「……」


ジュペッタ「ケケケッ! ここら辺の地面、どうやら昨日の雨でぬかるんで滑りやすくなってるから気を付けろよ!」


イーブイはその忠告を無視して登り続けていたが……


イーブイ「っ!」



イーブイは泥を踏み、少し下まで滑り落ちた。


なんとか踏み締めて、先程の様に下まで転がり落ちる事は無かったものの、それを見ていたジュペッタはニヤニヤしている……



ジュペッタ「だから言ったのにな! ケケケッ!」


イーブイ「うるさいっ! あっち行ってよ!」


 ▼ 15 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:42:41 ID:NLVAUa2w [15/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


それから数分……なんとか登り終えたイーブイは、ヨロヨロと……



イーブイ「やっと……戻ってこれた」



自分が乗っていたトラックが走っていた、山道に作られた、コンクリートで舗装された大きな道……


車の通りは多くないその道……自分がやってきたのは……多分……



イーブイ「こっちだ!」


勘を頼りに右へと歩き始めた直後……



ジュペッタ「お前が向かうのは、あっちだぜ?」


また、いつの間にか背後に……ジュペッタは逆方向の左へと歩き出す……



イーブイ「っ! べ、別に間違ってないもん! そっち側だって、最初から気付いて……」


ジュペッタ「ん? いや、すまん。俺が間違ってたみたいだ。お前の行く方であってるぜ?」



ジュペッタはニヤニヤと……



イーブイ「〜っ!!」


怒鳴り散らそうとしたが……もう、疲れて元気も出ない……


イーブイは、ため息をつくので精一杯だった。

 ▼ 16 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:43:18 ID:NLVAUa2w [16/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


歩き出したイーブイ……その後ろをのそのそとついてくるジュペッタ……



イーブイ「……」


ジュペッタ「ケケケッ」


イーブイ「だから! なんでついてくるの!?」


ジュペッタ「言っただろ? 暇つぶしだって!」


イーブイ「もーーっ!! あっち行ってよ!!」




その時……


ぐぅぅぅ……




イーブイ「!」


ジュペッタ「おっ? 腹減ったのか?」


イーブイ「べ、別に……」


ジュペッタ「あーあ、あのままトラックに乗ってりゃあ……暫くは食い物に困らなかっただろうによ」


イーブイ「うるさいっ! だって降りなきゃリリちゃんに……」



ぐぅぅぅ……



それでも、イーブイのお腹は鳴るばかり……


 ▼ 17 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:43:41 ID:NLVAUa2w [17/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「うぅっ……おうちに帰りたいよ……」


ジュペッタ「……」



ぼやくイーブイ……ジュペッタはどこからともなくオレンのみを取り出し、その前に置いた。



ジュペッタ「さっきのトラックから一つだけくすねてきたんだが……そんなに食いたいなら食えよ」


イーブイ「っ! い、いいの?」


ジュペッタ「……ただし、条件がある」


イーブイ「……何さ」





ジュペッタ「これから始まるお前の旅……俺を連れて行け」


 ▼ 18 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:44:15 ID:NLVAUa2w [18/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「!」


驚き……その目を見てゾッとする……ニヤニヤと笑うその目……



しかし、野性で生きた事の無い自分に……家まで……飼い主の元まで戻るまでの間、この道を倒れずに歩き続ける事はできるだろうか?



さっきだって……トラックの上でも……このポケモンは一応、私を助けてくれた。




そして、今も……




……




何を考えているのかわからない。


悪さを考えてる可能性はある。



意地悪で、一緒にいても気分が悪いけど……




それでも……今は…………


 ▼ 19 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:44:47 ID:NLVAUa2w [19/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイはそのオレンのみにかぶりついた。


ジュペッタはニヤニヤと、その様子を見守る……



ジュペッタ「……取引き成立だな」



ジュペッタはふわりと飛び上がると、近くのガードレールに腰掛けた……


見上げる……夏の空……


テッカニンの鳴き声が煩く響く山道……その上に広がる雲ひとつない青空……



ジュペッタ「けっ……」





暫くは退屈せずに済みそうだ……





その呟きは、青空に響くテッカニン達の泣き声にかき消された……



続く



 ▼ 20 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 02:45:11 ID:NLVAUa2w [20/43] NGネーム登録 NGID登録 報告


一話目おしまい。

基本一日一話のペースでやってきますんでよろしくお願いしますっす。

自宅待機の人の暇つぶしになれば幸いっすわ。


って訳で、続きはまた明日や

 ▼ 21 ロリンガ@わざマシンケース 20/05/10 08:00:33 ID:VRkcuhHA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 22 ドシシ@こうかくレンズ 20/05/10 08:52:30 ID:O5OUeYZ. [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
凄い
 ▼ 23 ドレックス@フェアリーメモリ 20/05/10 10:51:09 ID:SwRgihSo NGネーム登録 NGID登録 報告
昔あったSSにそっくりで懐かしくなった
 ▼ 24 イル@メガイカリ 20/05/10 11:32:25 ID:pMH2EeR6 NGネーム登録 NGID登録 報告
超絶支援
 ▼ 25 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:37:34 ID:NLVAUa2w [21/43] NGネーム登録 NGID登録 報告


暑い日差しが照りつけると、アスファルトはその熱を吸収し……そして、放出する……


その熱は、長い長い道路を歩き続けるイーブイを衰弱させていた……




イーブイ「う、うぅ……暑い……」



陽炎で揺らぐ視界の中、遥か遠くまで続く道……あの街には、いったいどれだけ歩けば辿り着けるのだろうか?


ただ、この辺り一帯……どこまでも続く山……森……田畑……


開発されたあの街とは真逆の見慣れない風景に、イーブイの不安は加速するばかりだった。
 ▼ 26 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:38:10 ID:NLVAUa2w [22/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



イーブイ「(どうしよう……私、どこまで行けば……)」


ジュペッタ「ケケケッ!」


イーブイ「(なんだか今日は特別暑いし……うぅっ……)」


ジュペッタ「ケケケケケケッ!」


イーブイ「(私……帰れるのかな……)」


ジュペッタ「ケケケケケケケケケッ!!」


イーブイ 「……」


ジュペッタ「ケ……」




イーブイ「うるさいっ!!!」



 ▼ 27 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:40:58 ID:NLVAUa2w [23/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告









第二話 二匹での旅路








 ▼ 28 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:41:33 ID:NLVAUa2w [24/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「うるさいよ!! さっきから変な笑い方してっ!!」


ジュペッタ「仕方ないだろ? 癖だからな! ケケケッ!」


イーブイ「もーっ! 私の事馬鹿にするならあっち行ってよ!」


ジュペッタ「やーだよ! だってそう言う約束だろ?」



そう、先程ジュペッタからオレンのみをもらった時……そう、イーブイは約束してしまった。


これからの旅、ジュペッタが同行しても構わないと……



イーブイは耳を垂らしてしょげる……


イーブイ「(あの時は目の前のオレンのみが欲しくてつい……けど、やっぱり我慢すればよかった……)」



激しく後悔しても、時既に遅し……そして、イーブイの心を読んでいるかのように、ジュペッタはニタニタと……


そんなジュペッタを見て、またイーブイはため息を漏らす……
 ▼ 29 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:42:56 ID:NLVAUa2w [25/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


トボトボと歩くイーブイ……後ろからニヤニヤと付いてくるジュペッタ……



イーブイ「ねぇ、ジュペッタ……さん?」


ジュペッタ「さんをつけるなって言っただろ? 気味が悪い……」


イーブイ「あ……ごめん。ジュペッタ……?」


ジュペッタ「なんだ?」


イーブイ「いったい私、どこまで来たのかな……私のいた街って、あとどれくらいで着くのかな……?」


ジュペッタ「俺も詳しくは知らねぇが……結構遠くまで来てしまったとは思うぜ?」



イーブイはその答えにまた、耳を垂らしてしょげる……



イーブイ「うぅっ……でも、早く帰らないとリリちゃんが……」


ジュペッタ「だから言ってるだろ? お前の主人はお前の事なんか探してねぇよ。行くだけ無駄だって」


 ▼ 30 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:44:22 ID:NLVAUa2w [26/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

イーブイはギリリと歯を食いしばる……


イーブイ「……なんで決めつけるのさ」


ジュペッタは怒りに震えるイーブイなど気にせず、トコトコと短い足で追い抜く……



ジュペッタ「人間なんて、みんなそんなもんだ」



イーブイ「……」


ジュペッタ「その浮かれた妄想も、今のうちに捨てといた方が身のためだぜ?」



ジュペッタはどんどん歩く……その背中は陽炎に揺れ……



ジュペッタ「こんな腐った世界、それくらいじゃなきゃ生き残……ん」



ジュペッタはふいに立ち止まると、空を見上げる……




ジュペッタ「……いや、なんでもねぇや」




そう言って、またケラケラと……


イーブイ「(……意味わかんない)」



イーブイは言い返すかわりに、ジュペッタをなんとか追い抜いた。

 ▼ 31 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:45:39 ID:NLVAUa2w [27/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



歩く……歩く……



ただ、何も考えず……蒸し暑い車道の隅を……




アスファルトは酷く熱く、足裏の肉球が焼けてしまいそうだ……




イーブイ「……」




何も話さないでいると、森から聞こえてくるテッカニンの鳴き声が、やけに大きく聞こえる……


何故か、その鳴き声は体感温度を上げ……じわじわと汗をふきださせる。



それでも、たまに車道を走っていくトラックが巻き起こす風が涼しい……







まぁ、その涼しさの直後……すぐにモワッと蒸し暑さが蘇るのだが。




 ▼ 32 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:47:03 ID:NLVAUa2w [28/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

そうして、どれだけ歩いていたのだろうか?



何度も何度も休憩を挟み……その度にジュペッタに嫌味を言われ……


それでも、なんとか歩き続けたイーブイの脚は……もう、まるで棒にでもなってしまったかのように……



……気がつくと日は落ち……そして、月が昇っていた。



山と空の境……夕闇空が美しく、その側には一番星が輝いている……



生温い風の中、ジュペッタはそんな星を見てケケケと笑った。



ジュペッタ「そろそろ、ここらで野宿でもするか?」



その提案にイーブイが飛び上がる……


イーブイ「の、野宿!? 嫌だよ!」


 ▼ 33 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:47:30 ID:NLVAUa2w [29/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


何処かに家でも無いかと辺りを見回すが……ここは山道……辺りに民家など一つも……


ジュペッタ「ケッ……これだから野良での暮らしに慣れてないあまちゃんは……」



また嫌味……その馬鹿にした言い方に少し腹を立てたが……まさに言う通りのあまちゃんである事は、イーブイも今日一日で嫌と言うほどわかっていた。


言い返す事など出来ない。出来るはずも無い。



その言葉を素直に受け止めると、悔しくて……でも、認めたくなくて……




泣きそうになっていた。




ジュペッタはそんな気持ちを知ってか知らずか……ただ、ニヤニヤと笑いながら、闇へ向かって歩き出す。


ジュペッタ「ほら、ついて来な」


その暗闇に足を踏み入れる事すら、イーブイには怖くて……でも、ジュペッタと離れれば、ひとりぼっちで……




それが怖くて、イーブイは急いでジュペッタについて行った。
 ▼ 34 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:49:52 ID:NLVAUa2w [30/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


山沿いの車道から外れ、二匹の背の丈よりも大きな草をかき分けて歩く……


もう、ほぼ真っ暗になりつつある……暗闇の中でも、ジュペッタの目にはしっかりと見えているらしい。



イーブイ「ねえ、どこに向かっているの?」



問いかけても、ジュペッタの返事はない……



イーブイのお腹がなる……あの後、イーブイは何も食べていなかった。


歩き疲れた上の空腹に、途方に暮れそうに……その時、急にジュペッタが立ち止まった。



ジュペッタ「おっ、いいもん見つけたぜ」



イーブイ「いい物?」



二匹は草むらを抜けた……


ジュペッタ「ケケっ、あれだ」



ジュペッタが指差す先……小さな祠がある。


祠の前には、二匹のポケモンが見えた。



ジュペッタ「交渉してくる。ここで待ってろ」


イーブイ「え? う、うん」

 ▼ 35 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:52:27 ID:NLVAUa2w [31/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ジュペッタは祠の前、集まるポケモン達に近寄ると、知り合いでもないポケモン達に馴れ馴れしく話しかけた。



ジュペッタ「おう。食い物は残ってるか?」


オオタチ「え? あぁ、まだ腐ってない物が少しだけだけど……」


ジグザグマ「君、ここらじゃ見ない顔だね。どこから来たの?」


ジュペッタ「わからねぇ。だいぶ遠くの街から訳あってトラックに乗ってな……これから街まで歩いて帰るところだ」


ジグザグマ「そりゃ大変だ! ほら、このオボンのみを持ってって!」



ジグザグマは祠に供えられていたオボンのみを一つ、ジュペッタに手渡す……



ジュペッタ「あー……すまん。もう一個貰えるか?」



オオタチは辺りを見回した……



オオタチ「どうして? 君、一匹だよね?」


ジュペッタ「すまん。寝床で仲間が一匹待ってるんだ。そいつの分」


ジグザグマ「わかった。じゃあもう一個ね」



ジュペッタはもう一つ、オボンのみを受け取った。
 ▼ 36 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:53:14 ID:NLVAUa2w [32/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ジュペッタ「ありがとな。助かった」


オオタチ「いいよ。困った時はお互い様だからね」


ジグザグマ「長旅みたいだけど、気をつけてね!」


ジュペッタ「おう」



ジュペッタはだるそうに手を振ると、そのままイーブイの元に戻ってきた。



ジュペッタ「ほら、向こうで食うぞ」


イーブイ「うん」



イーブイは背を押され、ジュペッタとともに草むらの中を歩き出す……



祠の前のジグザグマとオオタチは、遠ざかるジュペッタにいつまでも手を振っていた……



 ▼ 37 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:54:46 ID:NLVAUa2w [33/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

真っ暗い草むらを二匹は進む……



イーブイ「祠のお供えなの? そのきのみ……」


ジュペッタ「おう」


イーブイ「そんなの勝手に取ってきて良かったの?」


ジュペッタは心配そうなイーブイを見て、やれやれと……



ジュペッタ「人間ってのはな? いるかいないかもわからねぇ『神様』って存在に、やたらと食い物を供えにやってくる。けど、あんな所にいる訳もねぇんだ。本物の『神様』ってのはな……」



ジュペッタは持ってきたオボンのみをかじった。



ジュペッタ「だから野生のポケモンってのは……ああ言った、神様のいない祠に供えられた食い物を皆で山分けして、協力しながら過ごしてんだよ。この野生の世界、どこにいるポケモン達だって野生なら皆、そうやって生きているんだ」



イーブイ「へぇ……ジュペッタは物知りなんだね」


その言葉に、ジュペッタは立ち止まる……目を細め、夜空を見上げていた……




ジュペッタ「物知りなんかじゃねぇ……俺も昔、一匹で旅をしていた時に教わっただけだ……」


 ▼ 38 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:55:54 ID:NLVAUa2w [34/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



草むらの開けた先にあった切り株……ジュペッタはそこに腰掛けた。



ジュペッタ「この星空……今日は雨も降らなそうだ……この辺で寝ようぜ」


ジュペッタはイーブイにもう一つのオボンのみを投げ渡す……


イーブイ「うわっ! 投げないでよ!」


慌ててなんとかキャッチしたイーブイを見て、ジュペッタはケケケと笑った。


ジュペッタ「さっさと食ってさっさと寝な。今日は疲れたろ?」


イーブイ「……そうだね」



イーブイは目の前のオボンのみにかぶりついた。

 ▼ 39 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:56:45 ID:NLVAUa2w [35/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

オボンのみを食べ終える……その頃には、明かりの無い山は真っ暗に……



イーブイ「うぅ……暗くなっちゃったね……」


ジュペッタ「俺は暗くてもよく見える目なんだが……お前は何も見えないのか?」


イーブイ「うん……なにも」


ジュペッタ「使い勝手の悪い身体だな……ま、仕方ねぇか」



ジュペッタは辺りをガサガサと……枯れ葉や折れた枝を集め……その指先から、小さな鬼火を飛ばした。



ジュペッタ「ほらよ。これでどうだ」



火がついて、小さな焚き火が出来上がる……


明るくなった闇の向こう、ジュペッタの不気味な笑顔が浮かび上がり、またイーブイは飛び上がった。



イーブイ「うわぁあ!!」


ジュペッタ「ケケケっ! いいリアクションだな!」


イーブイ「〜っ!!」



また、してやられた……イーブイは頬を膨らせた。


 ▼ 40 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:57:28 ID:NLVAUa2w [36/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイは仕方なく、あまり乗り気ではなかったが……そのまま地面に寝転がった。



いつも寝る時は、ベッドやフローリングの上……


けど、今日は冷たく湿った土の上……



まるで雲泥の差。気持ちが悪いったら無い……



居心地の悪さにそわそわしていると、切り株にかけてニヤつくジュペッタと目があった。



ジュペッタ「今のうちに慣れておきな。これから……いや、もしかすると一生……お前は野良って可能性も0じゃねぇからな」


イーブイ「うぅっ……そんなのやだよ……絶対帰る! リリちゃんの元に!」



改めての決心……しかし、ジュペッタはそんなイーブイを見てケケケと笑うだけだった……


 ▼ 41 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:58:05 ID:NLVAUa2w [37/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



パチパチと、小さな焚き火が音を立てる……


生暖かい風が吹き抜ける……


その暗闇の中で、イーブイは目を瞑った……



イーブイ「(……本当に、帰れるのかな)」



悩めば悩む程、不安は無くならない……


その不安が無くならない要因の一つは……



チラと目を開ける……切り株に腰掛けたジュペッタ……チャックの様なその口がキラキラと不気味に輝く……


イーブイ「……」



その怪しい輝きを見つめているイーブイ……その心は小さな焚き火の様に、ゆらゆらと揺れていた……


 ▼ 42 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 15:59:34 ID:NLVAUa2w [38/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





ジュペッタとは今日出会ったばかり……まだ、よくわからない。



出会ってすぐに馬鹿にしてきて、なんかムカついたけど……




……




けど、出会った時から……その……助けてくれた。



何が起こったかわからなくて、パニックになった私の相手をしてくれたし……なんだかムカつく言い方だけど、坂を登る時は注意してくれたり、変な約束の上でだけどご飯をくれた。



さっきだって……私一匹だったら祠でご飯を分けてもらえるなんて、野生ポケモンの生き方なんて知らなかったし……こうして、焚き火も作ってくれた。



……




もしかして……ジュペッタって、いいポケモンなのかも……



自分が悪いポケモンと、勝手に決め付けていただけかもしれない……




馬鹿にされて一方的に怒っていたのは、いつも私……





私がそう、思いこんでいただけなのかも……

 ▼ 43 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 16:01:07 ID:NLVAUa2w [39/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




イーブイ「……ねぇ」



ジュペッタ「あ? なんだ?」



イーブイ「……その……今日はありがとう」




ジュペッタはその言葉を聞くと、しばらく返事がなかったが……




ジュペッタ「そうか」



……そう、一言返すだけだった。
 ▼ 44 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 16:02:18 ID:NLVAUa2w [40/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


予想外の反応に、少し気まずさが残る……


面と向かってのありがとうが少し恥ずかしかった事もあり……イーブイは話題を変えた。



イーブイ「そうだ……さっき祠でオボンのみを貰った時、ジュペッタ言ってたよね。『昔、一匹で旅をしていた時に……』って……」



ジュペッタ「っ……」


イーブイ「ねぇ、ジュペッタはなんで旅をしていたの?」




問いかけて、すぐに違和感を感じた。


ケケケっと笑って旅の話でもしてくれるかと思って話を振ったのだが……そんな様子では無い。


ただ、遠く遠くを見つめているその目は……一体何を思っているのだろうか……



まるで闇の様に光のない……真っ黒いその目……



不意にジュペッタがこちらをギロリと……



ジュペッタ「昔話でも聞きたいのか?」


イーブイ「えっ……」


突然聞かれて少したじろいでしまったが、なんとか頷くことができた。


ジュペッタはそんなイーブイを見てケケケと笑う……


ジュペッタ「寝る前に一つ、聞かせてやるか……」



悪いことでも聞いてしまったのだろうか……しかし、頷いてしまった以上は聞くしかない。


イーブイは少しだけ恐れながら……それでも、どんな話を聞けるか……ワクワクしていた。

 ▼ 45 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 16:04:43 ID:NLVAUa2w [41/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ジュペッタは夜空を見上げたまま、ゆっくりと呼吸を整えると……




ジュペッタ「昔々あるところに……おじいさんとおばあさんがいたんだ」




ジュペッタのつぶやく様な語りは、どこか重々しく……少しの切なさを感じる様な……




ジュペッタ「おじいさんは、不意に思い立って山へ芝刈りに行っちまった。残されたばあさんは暇だったから、仕方なく川へ洗濯をしに行ったんだ」




イーブイ「……?」


待て……何かがおかしい。



ジュペッタ「川についたばあさんが洗濯をしていると、川上から大きなモモンのみが……」



イーブイ「待って。何を話してるの」


ジュペッタ「何って……モモン太郎だ。昔話の」


イーブイ「はあ!? なんで今そんな話!?」


ジュペッタ「いや、眠れなさそうだから寝る前の昔話でも必要かと思ってな……舌切りオニスズメの方が良かったか?」


イーブイ「そういう問題じゃない!」

 ▼ 46 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 16:05:36 ID:NLVAUa2w [42/43] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


怒るイーブイの顔を見てジュペッタはやはり、ケケケッと笑うだけ……



ジュペッタ「とにかく早く寝ちまえ。明日もたくさん歩くんじゃねえのか?」



なんだかうまく逃げられてしまった様な……少し悔しくなって、イーブイはジュペッタに背を向けた。



そんなイーブイの心を読んでいるかの様にケケケッと笑う……そして、またゆっくりと……




ジュペッタ「大きなモモンのみがどんぶらこ……どんぶらこ……」



イーブイ「……(続けるんだ……モモン太郎……)」


訳の分からないジュペッタに呆れながらも、何と無くその声に耳を傾ける……




真っ暗な闇の中、その読み聞かせは夜遅くまで響き渡っていた……






続く


 ▼ 47 1◆v1GnTfaqxg 20/05/10 16:06:28 ID:NLVAUa2w [43/43] NGネーム登録 NGID登録 報告
第二話終わり。

続きはまた明日。
 ▼ 48 ーボ@すごそうないし 20/05/10 16:38:05 ID:O5OUeYZ. [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
最高
 ▼ 49 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:16:53 ID:VYbEpOnI [1/42] NGネーム登録 NGID登録 報告





イーブイ「ん……んんっ……」




風が葉を揺らす……その優しい音に目を覚ます……


イーブイ「朝……そっか」


朝の澄んだ森の空気を吸って思い出す……自分が初めて野宿を経験した事。

そして、立ち上がった瞬間体に走る痛み……これまでは柔らかいクッションの上で寝ていたのに、今日は硬く湿った土の上……それ故の痛み。



イーブイは湿った土を嫌そうに払う……

 ▼ 50 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:17:38 ID:VYbEpOnI [2/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

焚き火はとうに消えている。


伸びをすれば、朝の日差しは木々の葉の隙間から差し込んで、イーブイを包んだ……



イーブイ「ジュペッタはどこだろ……」



辺りを見回す……直後、ジュペッタが頭上の木の上から飛び降りてきた。


ジュペッタ「よぉ! やっと起きたか!」


イーブイ「ぎゃあ!!」


見事に飛び上がったイーブイを見て、ジュペッタはケケケっと笑う……


イーブイ「もう! いい加減にしてよ!」


ジュペッタ「やっぱりいいリアクションだ! やめられねぇ!」



笑いこけるジュペッタ……そうだ。今日もこいつに付き纏われるのか……



イーブイは思い出してうんざりした。


 ▼ 51 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:18:13 ID:VYbEpOnI [3/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

ジュペッタが歩き出し、イーブイもついて歩く……


昨日は暗くてよく見えていなかったが、どうやら昨日の寝床は、それ程車道から離れていない森の中だとわかった。



ジュペッタ「どうだ? 初めての野宿は」


イーブイ「まぁ、なんとか……それにしても昨日のモモン太郎の読み聞かせ、すごく上手だったけど……」


ジュペッタ「ああ、寝る前の昔話は俺の得意分野だ」



イーブイは首を傾げる……



イーブイ「どうして? 寝る前のお話なんて……子どもでもいたの?」


ジュペッタは首を振った。


ジュペッタ「子どもなんていねぇよ。ただ、上手な読み聞かせを聞く機会があっただけだ」



帰ってきたあやふやな答えに、イーブイは首を傾げるだけだった。


 ▼ 52 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:19:07 ID:VYbEpOnI [4/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


山沿いの道を歩き、昨日、ずっと歩いてきた車道が見えてきた。



今日も、この道をまっすぐ歩いていくのか……

まだまだ見えそうもないあの街に、イーブイはそれだけでくたびれてしまいそうに……けど、大好きな飼い主に会えるならと、小さく決意を固める。



イーブイ「よしっ! 今日も歩くよ!」



やや強引に元気を出そうと声に出す……道路へ向かったイーブイだが……そのふさふさ尻尾をジュペッタが掴む。


ジュペッタ「まぁ待て」


イーブイ「うわっ、何さ!」



ジュペッタはそばの大木を登り始めた……



ジュペッタ「いいからついて来い」


イーブイ「え? なんで?」


ジュペッタ「いいから、黙ってついて来い」


イーブイ「……?」

 ▼ 53 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:20:12 ID:VYbEpOnI [5/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


訳がわからないまま、イーブイはその木を登ろうと……


イーブイ「うわっ!! やっぱり無理だよ!! 無理!!」



木登りなんて生まれてこの方、やった事も見た事も無い……どう前脚を掛けるか、それすらもわからない……



ジュペッタが呆れた顔で飛び降りてきた。


ジュペッタ「ほんと、あまちゃんだな……下から押してやるから気合で登れ!」



ジュペッタはイーブイのおしりをぐいぐいと……



イーブイ「いやっ! 怖い怖い! 落ちちゃうって!」


バタバタと暴れる……ぐいぐいとジュペッタは顔を蹴られ……



ジュペッタ「ぐあああ!! 痛い痛い! 落ち着け! 落ち着けって言ってるだろ!」



イーブイ「いやぁあああああ!!」




イーブイの泣き叫ぶ声は山中に響き渡った……

 ▼ 54 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:21:15 ID:VYbEpOnI [6/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



数分後……



イーブイ「……ぐすっ……こ、怖かったよ……」



半ベソで太い木の枝の上に座るイーブイ……


二匹の登った木の下には車道が……たまに、トラックや軽自動車が走り抜けていく……



ジュペッタ「はぁ……はぁ……これくらい出来なきゃ、野性で生きてくなんて……」


イーブイ「野性で生きてけなくてもいいもん!! リリちゃんのところに帰るからっ!! 私っ!!」



ムキになるイーブイにやれやれと……



ジュペッタ「温室暮らしのあまちゃんには、この景色が楽しめないのか……残念だな」


イーブイ「……?」



イーブイは顔を上げる……



そこからは、田畑や山が一望できた……その景色、少し高くに上っただけなのに……何故か、それだけの事で綺麗に見えた。

 ▼ 55 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:22:07 ID:VYbEpOnI [7/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

イーブイ「……綺麗」


ジュペッタ「だろ? 俺、高い所から見下ろす景色が好きなんだ」




自分も、少しだけ高くから見下ろすその景色が好きだった。

そして……初めてジュペッタと自分の共通点を見つけたような……



何故か、少しだけ嬉しくなった。




イーブイ「私も……この景色好きだな」


ジュペッタ「そりゃよかった。昔からバカと煙は高い所が好きって言うからな……お前も俺と似たようなバカだから、気にいると思ったんだよ」


イーブイ「……」




少しでも真面目に返事をした自分に腹が立ってジュペッタを睨む……

ジュペッタはやはり、ケケケっと笑っていた……


 ▼ 56 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:22:41 ID:VYbEpOnI [8/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



イーブイ「もう私降りる!」



腹が立って降りようとすると、またジュペッタがふさふさ尻尾を掴んだ。



ジュペッタ「まぁ待て。本命は景色なんかじゃねぇ」


イーブイ「え?」



ジュペッタは「何か」を確認すると……



ジュペッタ「今だ!!」


イーブイの尻尾を掴んだまま、車道へと飛び降りた!


イーブイ「えっ!? いっ!? いやぁぁぁあああ!!?」




イーブイも引っ張られるがままに……


 ▼ 57 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:25:45 ID:VYbEpOnI [9/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ドスっ!!





イーブイ「……いてて、またおしり打ったよ……」



おしりをさすりながら、顔を上げる……二匹が落ちて来たそこは、車道を走ってきた軽トラックの荷台。

目があったジュペッタはニヤニヤと……



ジュペッタ「車でここまで来たなら、車に乗ってけば帰るのも早い……だろ?」




そう、ジュペッタはこれを狙っていた。木の上に登って探していたのは綺麗な景色ではなく、自分達の進行方向へと向かう車……

その中でも、自分達が乗るスペースのあるトラックを……

その答えに気づいたイーブイは、少しの間ぽかんとしていたが、すぐに飛び上がった。




イーブイ「ほんとだ! これなら早く帰れる! ジュペッタかしこいっ!」


ジュペッタ「ま、これくらい思いつくのが普通だぜ?」


イーブイ「え? ……じゃあ、昨日から思いついてた? この方法」


ジュペッタ「おう」


イーブイ「〜っ!!」



それなら、昨日フラフラになってまで歩き続けていたのはなんだったのか……

怒ろうにも、その元気すらなく……同時に、もうこのやりとりにも慣れてきていた。


ジュペッタはそんなイーブイを見て、ケケケっと……やっぱり笑っていた。


 ▼ 58 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:26:35 ID:VYbEpOnI [10/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告










第三話 ゆらゆら








 ▼ 59 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:27:18 ID:VYbEpOnI [11/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




イーブイ「まぁいっか! とにかくこれで帰れるんだし!」



走るトラック、荷台から身体を乗り出す……

風が頬をヒュンと……景色も……電信柱も……田んぼも畑もどんどん飛んでいく。


そんな景色を見ながら、イーブイはキラキラと目を輝かせていた……




ジュペッタ「とりあえず、暫くは楽できそうだ。なんだかんだで俺も歩き疲れてたからな」




ジュペッタは寝転がると、だらしなく背中をかいた。


 ▼ 60 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:29:10 ID:VYbEpOnI [12/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイは目を輝かせて景色をずっと眺めている……



ジュペッタ「……」



ジュペッタは寝転びながらもだるそうに……そして、つまらなそうに空を見上げている……

暫く無言の時間が続いたが、やがてジュペッタが口を開いた……



ジュペッタ「……なぁ、お前の飼い主ってどんな人間だったんだ?」


イーブイ「え? リリちゃんの事?」



何を考えているかわからないジュペッタ……しかも、何度も主人を馬鹿にして来たジュペッタにしては、どこか珍しい質問……イーブイは乗り出していた身体を戻し、ジュペッタに向き直った。



イーブイ「リリちゃんはね……とっても元気な子で、学校でも人気者なんだ! お菓子作りが好きで、お休みの日はお母さんとお菓子作って遊んだり……その時は、私にもお菓子を分けてくれるの!」


ジュペッタ「……」


イーブイ「それで、遊ぶ時はいつも一緒! 寝る時も一緒だし……」


ジュペッタ「……なぁ」


イーブイ「ん? なぁに?」



ジュペッタは無邪気なイーブイを暫く見つめていたが……





ジュペッタ「いや……本当に、ご主人が好きなんだなって……そう思ってよ」

 ▼ 61 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:29:46 ID:VYbEpOnI [13/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「だから言ってるじゃん! 私、リリちゃんが大好きなんだって!」



イーブイは大好きな主人の事を思っているためか、いつもよりも嬉しそうに……

ジュペッタにとっては、その笑顔は初めて見た笑顔だった。



ジュペッタ「っ……」



ジュペッタは黙り込むと、少し目を逸らせ……



ジュペッタ「……まぁ、あれだ……また、会えたらいいな」


そうボソッと……


それだけでも、イーブイはなんだか嬉しくなって……




イーブイ「うんっ!」




満面の笑みで、そう返した。

 ▼ 62 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:30:45 ID:VYbEpOnI [14/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


二匹を乗せたトラックは走る……



田んぼや畑……たまに家がポツンと……


そんな田舎を走り抜ける……



イーブイは大きく欠伸をした……


イーブイ「ふぁぁ……安心したら、なんだか眠くなってきたよ」


ジュペッタ「ま、昨日あれだけ歩いたからな……仕方ねぇ。お前は到着までもう一眠りしたらどうだ?」


イーブイ「え? でも……私だけ寝るなんて、ジュペッタに悪いよ……」



ジュペッタはケケケっと笑った。



ジュペッタ「大丈夫だ。俺の特性は『ふみん』だ。眠くならない体なんだよ」


イーブイ「えっ? じゃあ昨日も……」


ジュペッタ「寝てないぜ? もうこの身体にも慣れちまったよ」


 ▼ 63 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:33:47 ID:VYbEpOnI [15/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ジュペッタ「起きてりゃ腹が減る。体力温存も兼ねて寝てろ」


イーブイは少し悩んでいたが……


イーブイ「じゃあ……少しだけ」



そう言って寝転がる……



イーブイ「到着しそうになったら起こしてね?」


ジュペッタ「おう」



風が吹き抜ける荷台の上、ゆっくり目を閉じた……

 ▼ 64 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:35:28 ID:VYbEpOnI [16/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ジュペッタ「……」


ジュペッタは荷台に積まれた荷物を漁って食べ物がない事を確認すると……


ジュペッタ「……(これは……)」



ある物を見つけた。それは……これから行く先を示す物……



ジュペッタ「……」



一瞬、イーブイを起こそうとしたが……辞めた。



イーブイは小さく丸くなって寝ている……

昨日はあれだけ眠る場所に対するこだわりを見せていたのに、既にこの環境に適応しつつある……


そう。イーブイの特性は「てきおうりょく」……


こんなガタガタと揺れるトラックの上でも寝ている……そんなイーブイを見て、ジュペッタはふっと笑った。



ジュペッタ「ケケっ……」



見上げれば、今日も青空……

前にも後ろにも、このトラック以外に走る車もない……


遠くに見える野性のポケモン……草原を走っては、時々立ち止まる……



そんな大自然を前に、ジュペッタは思い出していた……



遠い遠い……心の奥の…………

 ▼ 65 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:37:19 ID:VYbEpOnI [17/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告







……ここは? ここはどこ?



どうして? どうして僕は……





……辛いよ……寂しいよ……





なんで……



なんで……




 ▼ 66 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:41:13 ID:VYbEpOnI [18/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「……」



確かに聞こえたその声に、うんざりと……

そして、少しだけ……切なく……



ジュペッタ「ケっ……」



確かに断ち切った……いや……


断ち切れていないから、きっと今、自分はここにいる……

ジュペッタは大嫌いな自分に舌打ちした。



ジュペッタ「あまちゃんは……きっと俺の方だな」



呟くと、また見上げる……


遠くに飛ぶ鳥ポケモンを見つめ、目を細めた……



ジュペッタ「……ケっ」



二匹を乗せたトラックは、田舎の道をどこまでも、どこまでも……走って行った。

 ▼ 67 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:42:15 ID:VYbEpOnI [19/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





……



風が吹いてる……





…………? トラックのエンジンの音、止まってるみたい……





そっか、寝ちゃってたうちに目的地に到着したんだ。





じゃあ、そろそろ起きなきゃ……



 ▼ 68 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:44:12 ID:VYbEpOnI [20/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




イーブイ「ふぁぁ……ジュペッタおは……よ……?」




荷台で起き上がったイーブイの目の前に広がっていたのは……


どこまでも広がる砂浜……


果てしなく続く空……




そして……海……




そして、潮風が優しくイーブイの頬を撫でる……


イーブイ「えっ……」




ええええええええええええええええええ!?!!!?

 ▼ 69 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:47:16 ID:VYbEpOnI [21/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



よぉ、起きたか。



その声に振り向けば、トラックの操縦席の屋根の上、ジュペッタがニヤニヤしながら海を眺めていた……



イーブイ「こっ、ここどこっ!?」


ジュペッタ「ここかぁ? ここは海だ!」


イーブイ「見ればわかる!! 聞きたいのはそれじゃない!!」



ジュペッタは怒るイーブイを見て、嬉しそうにケケケっと笑っている……



ジュペッタ「あれだ。街行きかと思ってたけど、どうやらこのトラック、海釣りに向かってたみたいだ」


ジュペッタが荷台の荷物を漁る……空っぽのクーラーボックスに、釣り糸のスペア……長靴やバケツなどなど……


イーブイ「なっ! なんでもっと起こしてくれなかったのさ!!」


ジュペッタ「だって、何回起こしても起きなかったじゃねぇか。もう少し、あと少しってよ」


イーブイ「うっ……」



心当たりは無いが、言ってない確信もない……

 ▼ 70 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:49:13 ID:VYbEpOnI [22/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



二匹の頭の上をキャモメの群れが飛び去っていった……



ジュペッタ「さて、どうする? この車の運転手も釣りに行って帰ってこないし……それに、この車に乗って待っていても、きっとまた、あの田舎まで帰るだけだが」


イーブイ「うぅっ……どうしよ……」



悩むイーブイの顔を見て、ジュペッタはやれやれと……ピョンとトラックの屋根から飛び降りた。



ジュペッタ「ま、今更焦ったところでどうにもならねぇし……せっかくだからここでのんびりして行くか?」


ジュペッタは砂浜をトコトコと歩いて行く……


ジュペッタ「思い詰めても苦しいだけだぜ? もっと気楽に……」


イーブイ「……」


ジュペッタ「な?」



暫く俯いていたが……やがてイーブイは諦めて、トラックの荷台から飛び降りた。



イーブイ「……そうしよっか!」



そして、吹っ切れると暑い日差しの中をジュペッタを置いて、真っ直ぐに走り出した……

 ▼ 71 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:52:23 ID:VYbEpOnI [23/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



イーブイ「はぁ……はぁ……」



砂浜をかけ、息を切らす……目の前には大きな海が広がっていた。


イーブイの前足を、打ち寄せた波が濡らす……



イーブイ「……」



他に人もポケモンもいない海……イーブイは目を輝かせて魅入っていた……


後からトコトコとジュペッタが追いついた。



ジュペッタ「もしかしてお前、海見るの初めてか?」


イーブイ「……うん。テレビでしか見た事なかった……こんなに綺麗なんだね、海って」



ジュペッタはそう言って笑ったイーブイを見て、ややバカにした様にケケケっと笑った。

 ▼ 72 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:53:31 ID:VYbEpOnI [24/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



海は真っ白い日差しを浴びて、キラキラと……

イーブイは、そんな海に見惚れていた……



イーブイ「街に行くにはちょっと遠回りになっちゃったけど……それでも、この海に来れて良かったよ」


ジュペッタ「……」



波がまた打ち寄せる……ジュペッタはその波を避ける様、数歩後戻り……



イーブイ「私、知らない場所まで来た事で、早く帰らないとってすごく焦ってて……けど、それにしても、ちょっと急ぎすぎてたかもって……この海を見たら、そう思えたよ」


ジュペッタ「そうか?」


イーブイ「こんな広い海を見てたらさ……私ってほんとにちっぽけだなって……なんだか、私の悩みも……」


 ▼ 73 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:55:07 ID:VYbEpOnI [25/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタは足元に落ちていた貝殻を拾うと……海に向かって放り投げた。

貝殻は、遠くでポチャンと音をたてた。



イーブイ「……もしかして、ジュペッタ知ってたの?」


ジュペッタ「ああ? なんの話しだ?」


イーブイ「あの車がこの海に来る事……実は知ってたんじゃない?」


ジュペッタ「……」


イーブイ「焦る私にこの海を見せたくて……ね?」


ジュペッタ「本当にそう思ってるなら、おめでたい奴だな」



そう返事をしたジュペッタは、いつのまにか砂の山を作っている……



イーブイ「もー……」


イーブイは、少しでも良い様に考えようとした自分に呆れると、また、輝く海を見つめた……


 ▼ 74 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:57:47 ID:VYbEpOnI [26/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






美しい海を眺め……日の光に照らされながら、砂浜の上で昼寝……




走り回ったり、海に飛び込んだり……




……






いつしか海もオレンジ色に照らされて……そして、夜が来た。






 ▼ 75 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 11:58:58 ID:VYbEpOnI [27/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

真っ暗な砂浜を二匹は歩く……



イーブイ「お腹減ったけど……どうしよう」


ジュペッタ「さて、お前ならどうする?」



イーブイは暫く悩んでいたが……



イーブイ「海に潜って食べ物を探す……とか?」



ジュペッタは吹き出した。



ジュペッタ「本気か? そもそもお前、泳げるのか?」


バカにした様に笑うジュペッタに、イーブイはムッとする。


イーブイ「じゃあどうするのさ!」



問い詰めると、ジュペッタが急に立ち止まった。



ジュペッタ「……ほら、ここで飯にするか」




ジュペッタが立ち止まったのは……砂浜の外れにある、ゴミの山だった……


 ▼ 76 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:00:05 ID:VYbEpOnI [28/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ゴミの山……少し離れた道沿いの明かりが届いてはいるが……それでも薄暗い。



イーブイ「ここ……何?」


ジュペッタ「人間ってのは……海に来るとバーベキューやバカンスってのを楽しむ。その時出たゴミをこうして砂浜の端に勝手に捨てて帰るんだ」



ゴミの山……よく見れば、焼け焦げた炭や破れた浮き輪……ボロボロになったガスコンロなどが乱雑に……


イーブイはその景色に耳を垂らした。



イーブイ「こんな綺麗な海なのに……」


ジュペッタ「な? 人間って自分勝手だろ? 自分だけが楽しめりゃあ……他の奴やポケモン、自然がどうなろうと、構いやしないのさ」

 ▼ 77 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:01:15 ID:VYbEpOnI [29/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタは、ゴミ山を漁り始める……



イーブイ「何……してるの?」


ジュペッタ「人間が捨てていった食い物の残りを探して……おっ、あったあった」



ジュペッタが引っ張り出したビニール袋には、コゲた肉や焼いた野菜がごろごろと……



イーブイ「っ……」


ジュペッタは構う事無く袋に手を突っ込んでは口に運ぶ……


ジュペッタ「ほら、なかなかいけるぞ」


イーブイ「……うん」



イーブイも、ジュペッタが袋から出した肉や野菜の塊をかじった……


油が周り、胃がもたれる……



それでも、空腹を前にしては、そんな事を考える余裕など無かった。


 ▼ 78 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:03:13 ID:VYbEpOnI [30/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



10分とかからずに、油塗れのそれを食べ終えた二匹……



ジュペッタ「げぇふ……ごちそうさま…………だな」


イーブイ「……うぅ……あまり美味しく無かったよ」



後味の悪い口の中……気持ち悪さに嫌そうな顔をするイーブイ……ジュペッタはまた、やれやれと……



ジュペッタ「これが、野生の生き方だ。俺も長い事野性で生きてきた。街のゴミ捨て場で、こんな物食ってる日が殆どだ」


イーブイ「……」


ジュペッタ「野性で生きるなら、この味にも慣れておけ……食えるだけ今日はマシだからな」



ゴミ捨て場を後に、ジュペッタはトコトコと歩き出した……



イーブイはついて行こうとしたが……また、振り返ってゴミ捨て場を見つめていた……


イーブイ「……」




あんなに美しい海とは、あまりにもかけ離れた景色……



あんなに気持ちよかった海には……似合わない後味……





……


 ▼ 79 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:04:03 ID:VYbEpOnI [31/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



イーブイ「……ねぇ」


ジュペッタ「……ん? なんだ?」



立ち止まり、振り返ったジュペッタの口元……金色のチャックがキラキラと……

その何を考えてるかわからない口元を前に、少し怯んだが……イーブイは声を振り絞った。



イーブイ「……人間って……何?」


ジュペッタ「ああ?」


イーブイ「こんなに綺麗な海を汚すなんて……私、許せないよ……誰かの為を考えられないなんて……そんなの、信じられないよ……」


ジュペッタ「……」



イーブイ「私……帰らない方がいいのかな……」



ジュペッタ「!」



 ▼ 80 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:05:08 ID:VYbEpOnI [32/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタは唐突な発言に、少し目を見開いたが……すぐに、いつもの顔に戻った。



ジュペッタ「帰らない……それでいいか?」


イーブイ「……」


ジュペッタ「本当にそれでいいなら、これからどうする?」


イーブイ「……わからない」



ジュペッタは、その答えにため息を一つ……





闇の中、波の音だけがザァザァと……響いていた。

 ▼ 81 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:06:11 ID:VYbEpOnI [33/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




イーブイ「……もし、私が知らないだけでリリちゃんも……リリちゃんも自分勝手な人間だったらって、怖くなったの……」



ジュペッタには見えていた……真っ暗闇でも見えるその目には、イーブイの涙がはっきりと……



ジュペッタ「……」




また、波が音を立てる……やけに大きく聞こえたその音をかき消す様に、ジュペッタはやや大きな声で嫌味の様に……




ジュペッタ「なんだ? お前らの関係ってその程度か?」


イーブイ「……?」


ジュペッタ「あれだけ帰りたい帰りたいって言ってたのにか? お前言ってたじゃねぇか。とっても元気で人気者で、えーと……お菓子作りが好きだったかぁ?」


イーブイ「……」



ジュペッタ「とにかく、お前の自慢の主人じゃなかったのか? その主人を……お前が信じられなくて、どうするんだっての」



イーブイ「!」





また、波の音が……

 ▼ 82 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:08:07 ID:VYbEpOnI [34/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「……別に、俺はそう思っただけだ」



ジュペッタはトコトコと歩き出した……



イーブイ「……どこに行くの?」


ジュペッタ「俺はお前がいなくても、あの街に帰る。あの街が俺の故郷だからな」


イーブイ「……」


ジュペッタ「車でここに来る道、さっき見てたんだ……そこの道沿いに駅がある。明日出る電車に乗って、あの街まで帰るだけだ」



ジュペッタは振り返らず、闇の中を歩いていった……



ジュペッタ「じゃあな」



真っ黒い身体は、すぐに溶け込んで消えた……



イーブイ「……」




イーブイは同じ闇の中、ただ立ち尽くしていた……


 ▼ 83 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:08:35 ID:VYbEpOnI [35/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



砂浜を抜け、大きな車道沿い……

自分達が乗ってきたトラックの姿はもう無い……



ジュペッタは、点々と車道を照らす明かりの下を歩き出した……


ジュペッタ「……」



今日の空……星がやたらと綺麗に見える。それは、街から離れた自然の中の、澄んだ空気だから……



ジュペッタ「ちっ……」


舌打ちを一つ……誰にも聞こえないそれは、闇に吸い込まれた……


ジュペッタ「……」



ただ歩いていると、あの姿を……イーブイを思い出す……


その無知で純粋な瞳に、いつかの小さな瞳が重なる……





いつかの記憶が……また、蘇った……


 ▼ 84 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:09:27 ID:VYbEpOnI [36/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告








どうして……






……




信じていたんだよ? 僕は……


こんな事になるなら……いっそ嫌いって……




……




僕はもう一度会いに行く……


そして……





……





 ▼ 85 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:10:20 ID:VYbEpOnI [37/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

 




ジュペッタ「……」





やはり、断ち切れていなかった。



イーブイに似たあの瞳……ジュペッタはそれを今度こそ断ち切ろうと、足元の石ころを蹴飛ばした。


蹴飛ばした石ころは、カラカラと跳ねて転がって……段差に引っかかって止まる……




ジュペッタ「ん……」




顔を上げる……気がつくと、例の駅のすぐ前にたどり着いていた。


誰もいない改札……もう終電が出てしまったのだろう……

あかりはついているが、改札は閉じられている。



どうせ、ポケモンに電車賃など発生しない。



ジュペッタは改札を無視してくぐろうとした……その時






おーいっ! 待ってよぉーーっ!!



 ▼ 86 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:11:11 ID:VYbEpOnI [38/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「!」




振り返る……その暗闇からイーブイが飛び出してきた。




イーブイ「はぁ……はぁ…………」



息を切らせ……そして、ジュペッタを見つめ返した。


イーブイ「ごめん……私が信じなきゃだよね……リリちゃんとずっと一緒にいたんだもん……」




ぬるい潮風が吹き抜けた。




イーブイ「私信じる。もう迷わないよ。だから私も……あの街にかえりたい」




暫くの沈黙が続いたが……やがて




ジュペッタ「ケっ……勝手にしろ」


ジュペッタはしまったままの改札を潜り抜けた。



イーブイ「……じゃあ、勝手にするからね!」


イーブイもその背中を追って、改札をくぐり抜けた……



 ▼ 87 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:11:58 ID:VYbEpOnI [39/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




誰もいない改札を抜けて……駅のホームに着いた。


ホームは真っ暗闇……ただ一つ、自動販売機を除いて……




二匹はぼんやりと闇を照らす、その明かりの前にやってきた。





ジュペッタ「じゃ、明日の朝……適当な時間の電車に乗っていくからな。それまでお前は眠っときな」


イーブイ「ジュペッタは……やっぱり起きてるの?」


ジュペッタ「当たり前だ。俺は眠らねぇ……」
 


そう言いながら空を見上げているジュペッタ……



イーブイ「……そっか」



イーブイは、自販機のすぐ隣に併設されたベンチに飛び乗ると……小さく丸く、尻尾を枕にして目を閉じた。



 ▼ 88 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:13:00 ID:VYbEpOnI [40/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「眠れないなら、また寝る前に昔話でもしてやろうか?」




問いかけても返事は無かった……


どうやら、もう寝てしまったらしい……



ジュペッタ「……けっ、遊び疲れちまったのか」



ジュペッタはやれやれと……そして、自販機の釣り銭口に手を突っ込む……


中に残されていた数百円の釣り銭を自販機に入れて、サイコソーダのボタンを押した。



ガコン……



取り出したサイコソーダを手に、ジュペッタは自販機の上に飛び乗った。



 ▼ 89 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:13:50 ID:VYbEpOnI [41/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



やや熱を帯びた自販機に腰掛けて、真っ暗な空を見上げる……


乾いた喉にサイコソーダを流し込むと、グェッと小さくゲップした。



ジュペッタ「……」




イーブイを見れば、丸まって静かに寝息を立てていた。




ジュペッタ「ケッ……」



どこまでも純粋なその生き様はまるで……


……



ジュペッタはその姿にうんざりと……そして、そんなイーブイに暇つぶしと称してついていった自分自身に……




ジュペッタ「……バカじゃねーのか?」




そう言い聞かせ、一匹……ケケケっと……


そう、不気味に笑うだけだった。






続く


 ▼ 90 1◆v1GnTfaqxg 20/05/11 12:14:20 ID:VYbEpOnI [42/42] NGネーム登録 NGID登録 報告

第三話おしまい。

(書いててけっこうキツいな)

けど、まだまだ続く続く。
 ▼ 91 イパム@いのちのたま 20/05/11 14:31:21 ID:nzYEfulg NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
しえん

あなたのペースでがんばって
 ▼ 92 シヘンジン@わすれもの 20/05/11 21:10:55 ID:Sq.YnEl6 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
小説みたいで面白いぞ
 ▼ 93 ンプジン@ちからのハチマキ 20/05/11 22:10:12 ID:3VPY/gWU NGネーム登録 NGID登録 報告
今回はいつもの長編とちょっと世界観が違うのか
支援
 ▼ 94 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:10:17 ID:ms8gL/Ag [1/26] NGネーム登録 NGID登録 報告




朝……人がちらほらと見えてきた駅の中、自販機横のベンチの下、ジュペッタとイーブイの姿があった。




ジュペッタ「そろそろくるな……次の電車に乗るぞ」



ジュペッタは昨日飲み干したサイコソーダ瓶から取り出したビー玉を投げて……キャッチした。



イーブイ「……本当に合ってるの? 次の電車で……」


疑いの目を向けるイーブイ……


ジュペッタ「電車の行き先くらい、何度か乗ってりゃあの表でわかるだろ……」


ジュペッタの指差す先には電車の路線図……


イーブイ「だって私、電車にはあんまり乗った事ないし……ジュペッタはそんなに沢山乗った事あるの?」



ジュペッタは一瞬答えに詰まったが……




ジュペッタ「……それなりにな」


 ▼ 95 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:11:23 ID:ms8gL/Ag [2/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



イーブイ「それなりに……? 電車でどこに行ったの? 旅行?」



ジュペッタはその問いに……ただ、空を見つめていた……



イーブイ「え? 何?」


笑うイーブイ……ジュペッタは……




その口が小さく動いた……と、同時に電車がやってきて、その声をかき消した。




イーブイ「え? なんて言ったの?」


ジュペッタ「なんでもねぇよ。ほら、乗るぞ」


イーブイ「えええーっ!?」



だらしなく頭をボリボリとかきながら電車に乗るジュペッタ……イーブイは後を追った。

 ▼ 96 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:11:54 ID:ms8gL/Ag [3/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告









第四話 伝えたい事、伝えられない事……









 ▼ 97 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:12:50 ID:ms8gL/Ag [4/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



扉が閉まり、電車は走り始める……


海辺の田舎駅だったからか、他に客はあまりいない……


イーブイはトコトコと歩くと、座席の一つに飛び乗った。



イーブイ「ふぅ……久しぶりに座り心地がいい場所……」


くつろぎ始めると、ジュペッタがイーブイを座席から引き摺り下ろした。


イーブイ「うわっ! 何するのさ!」


ジュペッタ「おい、俺達はこっちだ」



ジュペッタはイーブイの首回りの毛を掴んで歩く……


イーブイ「痛っ! 引っ張らないでよ!」




イーブイは引きずられながらジュペッタについて行った……

 ▼ 98 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:24:30 ID:ms8gL/Ag [5/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタ「この辺でいいか……」



ジュペッタが床に座る……そこは、2人掛けの座席の下にある狭いスペース……


イーブイ「えぇっ!? なんでこんな埃っぽい所!? 座席いっぱい空いてるじゃん!」



ジュペッタはやれやれと……



ジュペッタ「バカか? 人の目につく所に座ってると、駅員にトレーナーを探されたりして面倒だろ……それに……」


イーブイ「それに?」


ジュペッタ「っ……いや、なんでもない」


イーブイ「?」



ジュペッタ「とにかく、時間はかかってもこれに乗ってりゃあの街まで直通だ。意外にもあの海まで来てたのが功を制した訳だな」


イーブイはその言葉に目を輝かせる……


イーブイ「じゃあ、もうすぐリリちゃんに会えるんだねっ!!」



ジュペッタ「……そうだな」


 ▼ 99 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:25:18 ID:ms8gL/Ag [6/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ガタガタと電車は揺れる……

ジュペッタは、どこか遠い目を……まるで、心ここにあらず……




イーブイ「ねぇ、さっきから何でボーッとしてるの?」


ジュペッタ「う、うるせぇ」



今日は朝からジュペッタの元気がない気がした。



イーブイ「何か悩んでるなら聞くよ?」


ジュペッタ「うるせぇ。お前なんかじゃどうにも……はぁ」



柄にもなく悩んでいるような……
 ▼ 100 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:26:00 ID:ms8gL/Ag [7/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



先程からため息ばかり……ずっとその手に握ったビー玉を見つめている……



イーブイ「……大丈夫?」


ジュペッタの背中にイーブイの前足が触れる……



ジュペッタ「っ……お前」



電車はガタガタと揺れる……トンネルに入ったのか、急に暗くなり……そして、また真っ白く明るく……



ジュペッタ「いや……俺は……」



そこでまた、黙り込んでしまった……


暫くの沈黙が続く……後、電車はゆっくりと止まった……

 ▼ 101 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:26:51 ID:ms8gL/Ag [8/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



どこかの駅に止まったのか……何人かが降り、何人かが乗り込んでくる……


イーブイ達の隠れる座席に誰かが腰掛けたらしく、ギシッと音を立てた。



その人間の足に踏まれぬよう、イーブイは大きな自慢の尻尾を引っ込める……




その時……




よっ、お前らそんなとこで何してんだ?




二匹「?」

声のした方に向くと、一匹のポケモンがこちらを見ている……


イーブイ「あなたは?」


ヤミラミ「オイラか? オイラはヤミラミ! ご主人と電車で旅してんだ!」

 ▼ 102 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:27:39 ID:ms8gL/Ag [9/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタ「……何か用か?」



ヤミラミはニヤッと、不気味に笑う……


ヤミラミ「いやあ、お前いいもの持ってるなって……」


ジュペッタ「ん? ……これか?」



ヤミラミがニヤニヤと見つめているのは……ジュペッタが握っていたサイコソーダの瓶に入っていたビー玉……



ヤミラミ「それくれよぉ……オイラ、キラキラしたキレイな物が大好きなんだよぉ……なんでもするからよぉ……」



ヤミラミがジワジワと手を伸ばす……ジュペッタはその手を払った。



ジュペッタ「……嫌だ」


イーブイ「えぇっ!? あげなよ! ただのビー玉でしょ!? それ!」


ジュペッタ「なんとなく持ってただけだが、タダじゃ譲りたくねぇな……」


ジュペッタはニヤニヤと……




イーブイ「意地悪……」


 ▼ 103 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:28:19 ID:ms8gL/Ag [10/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ヤミラミ「まぁ、くれないなら諦めるけど……それにしても、お前らなんでこんな狭い所にいるんだ? トレーナーはどこだ?」


イーブイ「私はちょっと色々あって今は一匹だけど……今、こうしてジュペッタと飼い主の元まで帰ってるんだ!」



ニコニコと笑うイーブイ……ヤミラミはその笑顔を見て、何かに気づいた様に……



ヤミラミ「ん? あれ? お前……」



ヤミラミがイーブイを見つめる……



イーブイ「ん? なぁに?」



ヤミラミ「……」


イーブイ「……?」




ヤミラミ「もしかしてお前……」


 ▼ 104 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:29:17 ID:ms8gL/Ag [11/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




その時、ヤミラミの顔の前にジュペッタが手を出した。



ジュペッタ「そいつをいじめるな」


その手には……ビー玉が……



ヤミラミは暫く黙っていたが、やがてニヤッと……それを受け取った。


ヤミラミ「わかったよ。何があったか知らないけど! とにかくラッキー!」



ニヤニヤしながらビー玉を嬉しそうに見つめている……



イーブイ「ジュペッタ、なんで突然ビー玉あげたの?」


ジュペッタ「……気が向いただけだ」


 ▼ 105 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:30:34 ID:ms8gL/Ag [12/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ガタガタと電車が揺れる……次の駅のアナウンスが入る……



ヤミラミ「とにかく、こいつが手に入ったしラッキー!」



ヤミラミはピョンピョンと嬉しそうに跳ねている……


ジュペッタはやれやれと……うんざりした顔を見せる……



その時、座席の上から声が……



「ヤミラミ、行くぞ」



ヤミラミ「おっ! 着いたみたいだな! それじゃ、オイラはこれで!」


イーブイ「もうお別れかぁ……じゃあね!」



ジュペッタは挨拶もせず、睨む様にヤミラミを見送る……




ヤミラミはそんなジュペッタのもとに不意に駆け寄ると……その耳元でささやいた。





ヤミラミ「隠してるのか? お前、隠し通せると思ってるのか?」


ジュペッタ「!」

 ▼ 106 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:31:39 ID:ms8gL/Ag [13/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタの額、うっすらと汗が……



ジュペッタ「……お前には関係ない」



睨むジュペッタに、ヤミラミはニヤニヤと……



ヤミラミ「とにかく、あんまりイタズラするのもあの子に悪いと思うぜ?」


ジュペッタは目をそらすと、小さく舌打ちした。


ヤミラミ「わかってるって顔だな。ま、お節介が過ぎるか!」



ヤミラミはビー玉片手に駆け出した。



ヤミラミ「じゃあな! ビー玉ありがとなー!」




ヤミラミが出ていくと扉が閉まって、電車は何事もなかったかの様に走り出した……

 ▼ 107 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:32:24 ID:ms8gL/Ag [14/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


騒がしかった車内も、ヤミラミ一匹居なくなっただけで静かになる……



イーブイ「なんだか面白いポケモンだったね。けど……何話してたの?」



不思議そうにジュペッタを覗くイーブイ……



ジュペッタ「なんでもない……」


ジュペッタはやや不機嫌そうに目を逸らした……



イーブイ「?」


ジュペッタ「気にしてんじゃねぇ……」



朝から持っていたビー玉がなくなったせいか、手持ち無沙汰にジュペッタはイライラと……



イーブイ「……」


いつもの余裕の無くなって見えるその姿に、イーブイはどう声を掛けたらいいかわからなかった……


ジュペッタ「……」




少しピリピリとした空気の中、ジュペッタはずっと考えていた……

 ▼ 108 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:33:48 ID:ms8gL/Ag [15/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






正直、こいつに着いてきたのは、ほんの暇つぶしのつもりだったが……



……



ここまで悩む事になるなんて……な。




……


俺は……




なんで、こんな関係のないポケモンの為にここまで……


……


俺は……どうしたいんだ?





どうすればいいんだ……?







 ▼ 109 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:34:19 ID:ms8gL/Ag [16/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




イーブイを見れば、出会ったあの日よりも毛並みはややボサボサ……



それでも、変わらず無邪気に……その姿にジュペッタは不思議な気持ちでいた。




ジュペッタ「……なぁ」


イーブイ「なぁに?」





笑顔で聞き返してくるイーブイに、ジュペッタは少し怯んだ。


 ▼ 110 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:35:22 ID:ms8gL/Ag [17/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






……出会ったあの日なら、きっとこいつも喧嘩腰だった……



それなのに、今では……




……





この数日で……俺はこいつと仲良くし過ぎたみたいだな……



……



ここまで悩んでる俺も……



やり過ぎた。イタズラにしても……だ。






 ▼ 111 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:35:52 ID:ms8gL/Ag [18/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタ「……なぁ」


イーブイ「だから……何?」



ジュペッタ「……」




覚悟を決めて……話しかけ……




その時、遮る様に車内にアナウンスが……

それは、二匹が降りるべき街の名を告げる物だった。




ジュペッタ「……ここだ。降りるぞ」



イーブイ「え? う、うん」



ジュペッタは歩き出す……

戸惑いながらも、イーブイは後を追った……


 ▼ 112 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:36:46 ID:ms8gL/Ag [19/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





電車を降りると、駅のホームに溢れるあまりの人の多さに二匹は驚く……


いや、暫く街を離れていたせいで、知っていた人混みですら新鮮に……



やっと辿り着いた自分達の街……だが、喜ぶ暇も与えない程に忙しく、街の人々はごちゃ混ぜに二匹の周りを歩き続ける……




イーブイ「着いた……やっと着いたんだ!」


ジュペッタ「こんな所に立ってたら踏みつけられちまう……早くこの人混みを抜けるぞ!」


イーブイ「え? あ、うん!」


ジュペッタ「俺から離れるなよ!」


イーブイ「わ、わかってる!」



ジュペッタはこの人混みを抜け出そうと、イーブイの首の毛を引っ張って走る……



イーブイ「だ、だから引っ張ったら痛いってば!」



イーブイも何とか人の足の森を抜ける……


その中で、イーブイは違和感を感じていた……




イーブイ「(あれっ……なんだろう……この感じ……)」



 ▼ 113 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:37:25 ID:ms8gL/Ag [20/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




先程から、何かがおかしい……



人の足と足の隙間を抜けて、ジュペッタと走る……




走ってはいるのだが……これは……





……そして、同時に感じたデジャブ……




イーブイ「っ!」



そのデジャブの正体に気づいた……そう、この街であの日……ご主人と走っていた……こんな人混みを……



 ▼ 114 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:38:01 ID:ms8gL/Ag [21/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


いつの間にか、駅の中を抜け……ジュペッタと共にイーブイは街を走っていた……


街中も相変わらず人が多く、ジュペッタと離れてしまったらきっと……もう再開する事も難しいかもしれない。




そう思うと、イーブイは必死に離れない様に……



……が


ジュペッタの手が滑り、イーブイから離れた……




ジュペッタ「っ!!」



ジュペッタはすぐに振り返ったが、もう人混みに飲まれてイーブイが見えない……


ジュペッタ「し、しまった……やっちまった!」



その名を呼ぼうとして気づいた。そう言えば、自分は今呼ぶべき名前を知らない事に……


いつも「お前」としか呼んでいなかった……



それでも、息を吸って……




ジュペッタ「どこ行った! バカ!」


そう叫ぶしか無かった。


 ▼ 115 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:38:30 ID:ms8gL/Ag [22/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




確かにその乱暴な呼び声は、イーブイに届いてはいた……



それでも、この騒がしい人混みの中で、声の聞こえた方向を知る事など不可能に近かった……




イーブイ「この人混みじゃあ……とにかく、人のいない開けた場所に……!






人の少なそうな場所目掛けて走り出す……






そして、飛び出した……





そこは……車道……


 ▼ 116 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:39:03 ID:ms8gL/Ag [23/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

ジュペッタも人混みから飛び出し、車道に立つイーブイに気づいた。



ジュペッタ「っ!! おい!! お前どこに立ってんだよ!!」


イーブイ「あっ! ジュペッタ!!」



笑ってジュペッタの方へと駆け出そうとしたその時……もう一つ思い出した。



イーブイ「!」




全てを思い出した時には……すでに遅い。



エンジンの音、見ればすぐ目の前に大型トラックが……





そう、あの日と同じ……



そして、イーブイはトラックに……





















 ▼ 117 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:39:39 ID:ms8gL/Ag [24/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


















トラックは……そのまま走って行って、見えなくなった……




ジュペッタ「……」




ジュペッタは、全てを知られてしまって……ただ、立ち尽くしていた……



イーブイ「……え?」



イーブイの目の前……どんどん走ってくる車はイーブイを見て止まる事など無く、どんどん走り抜ける……




その車達はイーブイを傷つける事も無く、ただその身体をすり抜けて行く……




やっと、イーブイは気付いてしまった……涙目でジュペッタを見ると、ジュペッタは背を向けて……呟いた。




 ▼ 118 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:40:01 ID:ms8gL/Ag [25/26] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告










「お前……実はあの日、死んでるんだ」











続く


 ▼ 119 1◆v1GnTfaqxg 20/05/12 21:43:15 ID:ms8gL/Ag [26/26] NGネーム登録 NGID登録 報告


第四話おしまい。遅くなってすんません。

もうちょい続く続く。

とりあえず続きはまた明日。


>>93前のシリーズは一旦打ち止めや。
ジュペッタの台詞、一つだけそっちのジュペッタの台詞からセルフパロしただけで、このSSは別の世界線でお願いしますやな。
 ▼ 120 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:21:40 ID:0SIUEPpI [1/24] NGネーム登録 NGID登録 報告



「お前……実はあの日、死んでるんだ」



その言葉で、ほぼ確信していた予測にとどめが刺される……



イーブイ「どうして……? 知ってたの? 知ってたなら……なんで黙ってたの……?」




涙はボロボロと溢れる……


ジュペッタはそんなイーブイの顔を見ていられなくなって……



ジュペッタ「……全部、俺のせいだ」



人混みの中へと走り出した……


イーブイ「っ! 待ってよ!」


 ▼ 121 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:22:14 ID:0SIUEPpI [2/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告










第五話 とあるバカの昔話








 ▼ 122 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:22:46 ID:0SIUEPpI [3/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

再び人混みに飛び込んで走り出したジュペッタ……イーブイもすぐに飛び込んで追いかけた。


その時気づいた、先程の違和感の答え……



イーブイ「(そっか……死んだって事は、幽霊だから……)」



電車から飛び出したあの人混み……ここまで走ってくるまでに一度も踏まれず、誰かにぶつからずに来る事など不可能に近い筈……


なのに、ぶつからなかったのは……自分の身体が人の足をすり抜けていたから……



イーブイ「っ……」


思った通り、人の足に向かって走れば自分の体はぶつかる事無く、何も無かったかの様にすり抜けた……

改めてその事実を突きつけられて、また涙が溢れたが……今はそれどころでは無い。



ただ、前を走るジュペッタを……


まだ、このまま別れるなんて……絶対に嫌だったから……




だから、ありったけ……走るのが苦手な事も忘れて走り続けていた。


 ▼ 123 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:23:12 ID:0SIUEPpI [4/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ジュペッタは走る……あの街を……


イーブイにとっても……ジュペッタにとっても故郷と言えるこの街を……



イーブイはそれを追う……


もう、自分の足の感覚さえなかった。




ただ、真実を知りたくて……


そして……




伝えたい事が……あったから……

 ▼ 124 アル@ピジョットナイト 20/05/13 20:23:31 ID:rUMsK6KA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 125 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:25:00 ID:0SIUEPpI [5/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

ジュペッタ「はぁ……っぐ」



息を切らせたジュペッタは、ビルとビルの合間にヨロヨロと……


そこは薄暗い袋小路……


ゴミの溢れたペールや生ゴミ、タバコの吸殻が散らばるその道……



ジュペッタ「っ……」



振り返ると……イーブイがいた。



イーブイ「やっと追いついた……」



ジュペッタはその場に手をついて倒れた……


イーブイ「ジュペッタ!」


イーブイが駆け寄る……ジュペッタはイーブイの目を真っ直ぐに睨んだ。


ジュペッタ「なんでだ……なんで追いかけてくる……復讐か?」



イーブイはその言葉に首を振った……



イーブイ「なんで……復讐しなきゃなんないの? ただ、伝えたかったからだよ……」



ジュペッタ「伝えたい……事……?」


イーブイ「うん。伝えたい事」


 ▼ 126 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:25:51 ID:0SIUEPpI [6/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






ジュペッタは悪くないよ。死んだのに気づいてなかった私が……あの日、道路に飛び出した私が悪いんだ。


 
それに、隠しても隠しても、いつかはどこかで気づく……



ただ、もしリリちゃんとの別れの直後、すぐに死んでしまった事に気付いていたら私は……きっと、今より酷く絶望していた。



それに……一匹でこの街まで帰ってくる事なんて……私にはきっと出来なかった。




むしろ、ジュペッタのおかげなんだよ。




ここにこれたのも……私が今日まで毎日頑張れたのも……全部、ジュペッタのおかげなんだよ。



だから、追いかけて伝えに来たんだ。





ありがとうって。





 ▼ 127 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:26:19 ID:0SIUEPpI [7/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「っ……お前」


イーブイ「ジュペッタ、ありがとう」



イーブイの笑顔……ボロボロの毛は、出会ったあの日と違った……もう、野生になじんだその姿……




ただ、やはり笑顔だけはあの日から何も……



その変わらない笑顔にジュペッタも、つられて笑ってしまった……



ジュペッタ「ケケっ……馬鹿野郎……俺をからかうんじゃねぇよ……」


 ▼ 128 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:27:21 ID:0SIUEPpI [8/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

ジュペッタはゆらりと体を起こした……



ジュペッタ「あの日……俺は信号の上から見てたんだ。お前が撥ねられて死んだ事も、初めから知っていた。ついて行ったのも、死んだお前の行く末を見てみたいって、本当にただの暇つぶしのつもりだった……だが」


イーブイ「だが?」



ジュペッタ「お前を見ているうち……お前と話をするうちに俺は……思い出しちまったんだよ……お前にそっくりな、バカの昔話を……」



ジュペッタは歩き出す……



ジュペッタ「お前に聞かせてやるよ……俺の知る限り、最もバカで間抜けで……おめでたいポケモンの、その昔話って奴をよ……」



イーブイ「……」





ジュペッタはふわりと飛び上がると、袋小路の隅に捨てられた、ボロボロで錆だらけのドラム缶に背を向けて腰掛け……ゆっくりと語り出した。


 ▼ 129 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:27:55 ID:0SIUEPpI [9/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告









昔々……ある所に、小さなぬいぐるみがいたんだってよ。









そいつは、ある人間の女の子の友達だった……



どこに行くにも一緒。


遊ぶのも、寝るのも、時にはお風呂だって……



友達であり、同時にその人間にとって、そのぬいぐるみは宝物でもあったんだ。



別に、手作りでもなんでもない。工場で作られた、ただの量産型のぬいぐるみだったのに……



それでも、その人間にとっては特別な物だったんだってさ。




馬鹿げた話だろ?


 ▼ 130 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:28:34 ID:0SIUEPpI [10/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

ずっとずっと一緒だった……


そりゃ、たまには投げられたり、無茶な遊び方だってした。


そのせいもあって、そのぬいぐるみはいつもボロボロだ。



それでも、そいつは……一緒にいれる事が本当に幸せだったんだよ。



その気持ちが、まるで伝わっているかの様に……人間も、月日が経つにつれ……ボロボロになればなる程、大切にしてくれた。


腕がちぎれたり……目が取れたりした時は、その人間の母親が何度縫い直してくれたか……


くたびれた時は、何度中の綿を取り替えてくれただろうか……


それでも繰り返していくうちに……とうとうその母親の手では、修理などできない程ボロボロになってしまった。



その母親は、どうしたと思う?



……




その母親は……ボロボロのぬいぐるみをゴミ袋に詰めて、そのまま生ゴミと一緒に……ポイだ。





悲しい話だな。



 ▼ 131 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:29:30 ID:0SIUEPpI [11/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




そのぬいぐるみはバカだった。




まさか、自分が捨てられたなんて……




……いや、本当はわかっていた。


わかっていたんだ。




それでもバカなぬいぐるみは、きっとこれは何かの間違いだろうと……そう、強く自分に言い聞かせた。



きっと、あの子は今頃……自分を探して泣いていると……そう、思ったんだ。




……めでたい奴だ。



 ▼ 132 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:29:55 ID:0SIUEPpI [12/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



数多のゴミが集まる集積所……他のゴミと共に運ばれてきたぬいぐるみは、高く積み上げられたゴミの山のてっぺんまで登ると、その高みから辺りを見渡し、人間を待った。



……バカだな。来るはずもないのに。



だって、そこは捨てられた物が集まる場所。


いらない物が集まる場所……



わかっていた。……けど、自分を探してくれていると思っていないと、きっと心が潰されそうになったんだろうな。




その、布と綿で作られた……あまりにも柔らかくて小さな心が……


 ▼ 133 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:30:34 ID:0SIUEPpI [13/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



何年たっただろうか。



ざっと、1年……いや、2年?



わからねぇ……



ある日、唐突に終わりは訪れた……




突然やってきた大きなトラック。

そいつに他のゴミと一緒に乗せられて……ぬいぐるみがやってきたのは、大きな工場の様な……



訳もわからないまま、そこに下されたぬいぐるみは、他のゴミと一緒に……




燃やされた。


 ▼ 134 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:31:15 ID:0SIUEPpI [14/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




火の中で炙られ……腕が……足が……


身体も心も……一瞬で……



それでも、ただ一つだけ……焼き消せない物があった。



何だと思う?



……




それは恨みだ。



唐突に捨てられた恨み……


裏切られた事への恨みが……恨みだけが、焼けたぬいぐるみに残された……



あまりに小さなぬいぐるみから生まれたその恨みは大きく……その恨みのエネルギーは、いつしか実体を持った……



気がつくと、ぬいぐるみは新しい姿を得ていた……




不気味な姿のポケモンに……


 ▼ 135 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:32:41 ID:0SIUEPpI [15/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





ジュペッタ「……」




ジュペッタは振り返る……


その口……黄金のチャックが薄光を反射してキラキラと……怪しく光った。




イーブイ「それって……」



ジュペッタはイーブイの問いかけをかき消す様に、再び語り始めた……


 ▼ 136 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:33:21 ID:0SIUEPpI [16/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



そのポケモンは、その身体で主人の元へと急いだんだ……



何をするかって? そりゃ……復讐さ。


よくも捨ててくれたなって、その復讐さ。



真っ直ぐなその思いを裏切られたぬいぐるみ……いや、ポケモンは……恨み辛みを力に変えて、当てもなくふらふらと、主人を探し続けた……



一匹、山を越え……森を越え……


時には街を……時には海を……



そうしながら、いくつもの孤独な夜を過ごした……



そんな旅を続けて……どれだけかかっただろうか?




そのポケモンは長い長い旅の末……とうとう見つけたんだ。かつての友達である、にっくきご主人をよ……


 ▼ 137 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:33:53 ID:0SIUEPpI [17/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「……」



再び黙り込んだジュペッタは、ため息をついた……



イーブイ「……」


暫く様子を伺っていたイーブイだったが、ジュペッタの顔を覗きにその正面へ回る……



ジュペッタ「っ……」


ジュペッタはその顔を見られたくないのか、急いで背を向けた……



イーブイ「……」



イーブイが立ち尽くしていると、再び……ゆっくりと語り出した……


 ▼ 138 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:34:45 ID:0SIUEPpI [18/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



主人は……新しいぬいぐるみ達に囲まれていた……



綺麗なぬいぐるみ……認めたくなっかったが、そのポケモンよりも可愛いぬいぐるみにな……




……




そのポケモンの怒りは頂点に達した……



やはり、自分を捨てたのは……新しいぬいぐるみと取り替える為だと。


そのポケモンは、怒りを力に……鋭い真っ黒な爪を構え……




切り裂いた。



 ▼ 139 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:35:30 ID:0SIUEPpI [19/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





……





しかし、切り裂いたのは人間じゃなく、空……



ポケモンは、切り裂く寸前に聞いてしまったのさ。その人間の震える声……


何故か泣いていた……その人間の呟きを聞いてしまったんだ。





あの子じゃないと嫌だ……ってな。





よく見りゃあ、大小沢山のぬいぐるみに囲まれていたのに、そのどれもが傷一つない……



ただ、あの子はどこ……そう、泣きながら……




やっと気付けたのさ。そのポケモンも真実に……




ああ、そうか……


そう言う事だったのか……と。


 ▼ 140 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:36:04 ID:0SIUEPpI [20/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




爪を引っ込める……ここに帰ってきたって……そう伝えたくて、その背中に抱きついた。



……しかし、人間はそのポケモンを見るなり悲鳴を上げた。




何故って? そりゃ……人間が待っていたのは……






「ポケモン」じゃなくて、「あのぬいぐるみ」だからな。





自分が強い恨みによって、不気味な姿に変わってしまっていた事をすっかり忘れていたポケモンは、慌てて窓から飛び出した。




……





人間と、もう一緒にいられないと気づいたポケモンは……それっきり、友達の元へと帰る事は無かった……


 ▼ 141 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:36:36 ID:0SIUEPpI [21/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「……」



ジュペッタはふわりとドラム缶から降りてくると、イーブイの正面に立って不気味に見つめた……



イーブイ「ジュペッタ……」


ジュペッタ「……お前は、あのバカとは違う。死んではいるが、姿は変っちゃいない……だから」








会ってこい。最後になるだろうが……それが、お前の求めるゴールだろ?






 ▼ 142 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:37:18 ID:0SIUEPpI [22/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



イーブイ「会ってくる? そんな……この姿はリリちゃんには……」



ジュペッタ「そうだな。普通の人やポケモンには見えねぇ……魂だけの姿を見る事が出来るのは、俺やさっきのヤミラミみたいなゴーストポケモンだけだ……」



イーブイ「じゃあ……どうするのさ」



ジュペッタ「わからねぇ……けど、もしお前と飼い主に本当の絆があったのなら……少しくらいは主人の目に、少しだけでも何かメッセージを……伝えられるかもわからねぇ」







最後の最後くらい、奇跡は起こせる……いや







起こしてみせろ。バカ。


 ▼ 143 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:38:27 ID:0SIUEPpI [23/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ジュペッタ「いけ。馬鹿正直で真っ直ぐなお前なら……バカで間抜けなぬいぐるみに出来なかった事の一つや二つくらい……そして……」




お前の物語の結末を……俺に見せてくれよ。




イーブイは頷くと、走り出した……


ジュペッタはその背中を見つめながら呟いた……







俺は……お前があまりにもそっくりだから……あまりにも真っ直ぐな瞳だったから、虐めちまったんだよ。





ごめんな。






その呟きは、街の空へと吸い込まれて消えた。





続く。

 ▼ 144 1◆v1GnTfaqxg 20/05/13 20:38:50 ID:0SIUEPpI [24/24] NGネーム登録 NGID登録 報告

第五話おしまい。

次でラストや。あと少しだけお付き合いくださいな。

ほな、また明日や。
 ▼ 145 メテテ@つきのふえ 20/05/13 20:39:29 ID:a9BgBdHQ NGネーム登録 NGID登録 報告
ジュペッタ厳選してくるわ。
支援
 ▼ 146 ランセル@ジメンZ 20/05/14 10:50:32 ID:B3Jc/FT2 [1/32] NGネーム登録 NGID登録 報告



イーブイは走っていた……



大好きな街並みを……



あの子と一緒に駆け回っていた、あの道を……






いつも一緒に笑って帰った……あの帰路を……






全力で……駆けた……


 ▼ 147 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:51:57 ID:B3Jc/FT2 [2/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




その姿……誰の目にも映らぬ姿。


今なら人にも車にもぶつからない……


 

イーブイ「っ……!」




力強く蹴り、加速する……目の前を走る自転車をすり抜け……信号を無視して赤信号の歩道に突っ込む……



邪魔するものがいない今、イーブイはただ真っ直ぐに……あの家へと……




イーブイ「はぁ……はぁ……っ! 見えたっ!」




遠く……遠くに見覚えのある、真っ赤な屋根の家が見えた……


イーブイはその建物に向かって、さらに力強く走り出した……
 ▼ 148 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:52:39 ID:B3Jc/FT2 [3/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




息を切らせて立ち止まる……




目の前にそびえ立つのは大好きな家……


大好きなご主人と……楽しく過ごしていた家……



思い出の詰まった、大好きな場所……




イーブイ「……」




庭の花壇……この前ご主人と一緒に植えた花の苗……蕾が大きく膨らんでいる。


イーブイ「(あの花が咲いたら、一緒に写真を撮る約束をしてたっけ……)」



二階の窓から見える……開けた窓際に置かれていたのは、懐かしいぬいぐるみ……


イーブイ「(いつもリリちゃんが抱き枕に使うくらい、お気に入りだったぬいぐるみ……)」




外から見ているだけでは耐えられなくなり、イーブイは玄関に向かって駆け出した。


 ▼ 149 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:53:08 ID:B3Jc/FT2 [4/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告









最終話 あの子の元に帰るまで








 ▼ 150 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:54:20 ID:B3Jc/FT2 [5/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



玄関の扉をすり抜けて、中へと入る……


玄関には靴が一つもなかった……



イーブイ「? みんな出かけてるのかな……」



たった数日帰らなかっただけで……玄関の匂いが懐かしい……



イーブイ「(よく、リリちゃんと一緒に泥だらけで帰ってきて、お母さんに怒られていたな……)」


確かに今も、イーブイは泥……と言うより汚れだらけの身体……



きっと、今家には誰もいない……

そもそも、声は届かない……



わかってはいたが、言わずにはいられなかった。




イーブイ「ただいま……」




やっぱり帰ってこないおかえりに、少し寂しくなる……

少し残念に……その気持ちをしまい込んで、イーブイは玄関を駆け上がった。


 ▼ 151 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:54:47 ID:B3Jc/FT2 [6/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




キッチンに向かう……



キッチンにもやはり、誰もいない。


いつもの場所を見れば、自分の餌鉢があった……



イーブイ「……」



空っぽのその餌鉢は、綺麗に洗ってある……


ピカピカになったその餌鉢は、なんだか自分のものでない様な……



そんな寂しさを振り切る様に、イーブイは二階へと続く階段に向かった。


 ▼ 152 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:56:12 ID:B3Jc/FT2 [7/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




二階に駆け上がると廊下の突き当たり……いつも、ご主人と一緒に遊んでいた部屋……



いつもは一匹じゃ開けられなかったドアも、今は関係ない。


部屋の扉をすり抜ける……そこは、久しぶりに帰ってきた、大好きな匂いのする部屋。



お腹いっぱいにその匂いを鼻から吸い込むと、部屋を見渡す……



やはり、誰もいなかった。



ただ、窓だけ開け放たれて……そこから風が時たま吹き込んでいるだけ……


イーブイはその景色をしっかりと目に焼き付け……心にしまった。


 ▼ 153 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:57:27 ID:B3Jc/FT2 [8/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「……」



壁にはいつかご主人がカラーペンで描いてくれた、自分の似顔絵……


机の上には、今年の誕生日に一緒に写った写真がたててある。




断片的な記憶……思い出が蘇る……



それだけで、懐かしく……




イーブイ「……リリちゃん」


イーブイは写真を近くで見ようと、机の上に飛び乗った……


その時、机の上に開きっぱなしになっていたノートに気づく……



イーブイ「ん? これ……?」



それは、日記だった……


懐かしい文字で刻まれた日記……まだ子どもとあって、やや読みにくい字ではあるが、かろうじてイーブイでも読み解けた……

 ▼ 154 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:57:53 ID:B3Jc/FT2 [9/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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8がつ9にち


きょうは、イーブイとおいかけっこをしていたんだけど、そのとちゅうでイーブイとはぐれちゃった。



いえにかえってもいなかったし、とてもしんぱい。

はやくかえってこないかな。

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 ▼ 155 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:58:17 ID:B3Jc/FT2 [10/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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8がつ10にち


おかあさんにたのんだら、けいさつのおじさんたちにでんわしてくれた。

おじさんたちもさがしてくれるっていってるから、すこしあんしん。



だけど、きょうもイーブイはかえってこなかった。

はやくかえってきてほしいな。

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 ▼ 156 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 10:58:49 ID:B3Jc/FT2 [11/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




イーブイ「リリちゃん……」



読んでいるだけでも心が痛くなった……


自分と同じ気持ちで待ってくれていたご主人に……



泣きそうになったけど、なんとか堪える。



イーブイ「……あれ? もう今日の日記が……」



何故か、既に今日の分が書いてある……


イーブイは、まだ書きたてのページに目を通した……



 ▼ 157 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:00:18 ID:B3Jc/FT2 [12/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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8がつ12にち


あさ、おかあさんがイーブイのかわりをかってくれるっていった。


けど、そんなのいやだ。だって、イーブイのかわりなんていないから。


だけど、そのあとけいさつのおじさんからでんわがあった。


イーブイはもういないって。


すぐにイーブイをさがせばよかった……ごめんねイーブイ。



きょうはがっこうをやすんで、いまからおはかをつくってあげるからね。


いつもあそんだ、あのはなばたけに。


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 ▼ 158 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:01:14 ID:B3Jc/FT2 [13/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「……」



イーブイの目から涙が落ちた……その涙は日記のページを濡らした。



イーブイ「っ……!」



イーブイは暫く驚いていた……


死んだ自分の涙が日記に干渉している事に……



イーブイ「……」


頭の中に浮かんだ手段……そして、日記の最後に記された花畑……



全てを理解して、イーブイは開けっ放しの窓から日記をくわえて飛び出した。

 ▼ 159 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:01:49 ID:B3Jc/FT2 [14/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



あの花畑……そうだ。街外れの……



あの日だって、あの花畑から始まった帰り道のかけっこだったね。



一緒に遊ぶ毎日は、本当に楽しかった。




リリちゃんと一緒だったから……楽しかったんだ。



……



私……




私、リリちゃんのポケモンで……よかった!



 ▼ 160 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:02:39 ID:B3Jc/FT2 [15/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




街の外れの花畑……そこに、小さな後ろ姿がポツンと一つ……




少女は、泥や土で汚れきったその手で穴を掘っていた……



穴を掘り、ちぎった花を沢山……沢山入れると、また、土をかぶせ直す。



どこから持ってきたのか、少し大きな石をその上にのせると、手を合わせる……その目から溢れたのは……涙。




小さな声で、天に届くよう……静かに祈った。




「イーブイ……ごめんね」

 ▼ 161 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:03:09 ID:B3Jc/FT2 [16/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




そこに、日記をくわえたイーブイが駆け込んできた。



振り返った少女は驚く……目の前に浮かんでいる、自分の日記帳に……



少女「えっ……?」



イーブイ「リリちゃん!」




その声は、やはり届かない……




イーブイはしょげる……もう届かない声……



いや、それくらい覚悟してきた。


 ▼ 162 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:03:51 ID:B3Jc/FT2 [17/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



イーブイは少女の足元に日記のページを開く……それは、今日書かれたばかりのページ……



少女は驚きを隠せない……



そう言えば、部屋の窓を閉めるのを忘れていた。


……が、風で日記が飛んできたにしても、目の前に落ちて、ページが開くなんて上手くできすぎている……



この目の前で起きている異変、小学生にもわかった。




少女は、そのページを覗き込む……



イーブイはそれを確認すると、自分の目に浮かんだ涙を前脚で拭い、湿った前足で日記の3、4、5、6行目の頭に……


イーブイの触れた文字だけが湿って、少し滲んだ……


 ▼ 163 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:04:21 ID:B3Jc/FT2 [18/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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8がつ12にち




あさ、おかあさんがイーブイの代わりをかってくれるっていった。


しかたないって言われたけど、そんなのいやだ。だって、イーブイのかわりなんていないから。


だけど、そのあとけいさつのおじさんからでんわがあった。


イーブイはいないって。


すぐにイーブイをさがせばよかった……ごめんねイーブイ。



きょうはがっこうをやすんで、いまからおはかをつくってあげるからね。


いつもあそんだ、あのはなばたけに。



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 ▼ 164 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:05:01 ID:B3Jc/FT2 [19/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



全てを察した少女の目から、涙がこぼれ落ちた……




少女「イーブイ……?」




確かに届いた……イーブイは安心して、その場を後に歩き出す……



イーブイ「リリちゃん、ありがと」



その時、涙でぐしゃぐしゃの視界の少女の目に……一瞬、確かに見えた……




大好きな……大きな尻尾が自慢の、小さな親友の姿が……




「ブイっ……」



幻聴の様なそれに、目を擦る……が、そこには何もない……




ただ、自分の日記帳が落ちていただけ……

 ▼ 165 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:05:23 ID:B3Jc/FT2 [20/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






私は、真っ青な夏の空を見上げていた……




澄んだ空に響き渡るのは、テッカニン達のオーケストラ……



何度拭っても溢れてやまない涙の向こうには、もう「あの子」の姿は見えなかった。






悲しさの中で私は、ただただ夏空の下で泣き続けた……






 ▼ 166 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:05:41 ID:B3Jc/FT2 [21/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告















リリちゃん……さよなら。

大好きだよ。











 ▼ 167 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:06:11 ID:B3Jc/FT2 [22/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




あの路地裏では、ジュペッタが空を見上げていた……




ジュペッタ「……」



小さな足音に振り返る……


そこに、イーブイがいた。



ジュペッタ「……上手くいったのか?」



イーブイは少し不器用に笑って頷いた。


ジュペッタはその顔に安心し、ケケっと笑うと……




ジュペッタ「そうか……」




そう呟いた。


 ▼ 168 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:07:02 ID:B3Jc/FT2 [23/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




イーブイ「ねぇ、ジュペッタはこれからどうするの?」


ジュペッタ「あ? 俺か? …………そうだな」



少し悩んでいたが……ジュペッタは立ち上がると、大通りへ向かって歩き出した……



ジュペッタ「俺は……何も変わらない。今まで通りこの街で生きる。この街を高い所から見下ろす事が、何より好きだからな……それに、この街にいれば……」


イーブイ「……この街にいれば?」




ジュペッタ「……この街にいれば、また……お前みたいな面白い奴に会えるかもわからねぇ」




ジュペッタはケケっと笑う……その口元の黄金のチャックがキラキラと輝いた。



ジュペッタ「お前はどうするんだ? このままあの世に向かうか? それとも魂のまま、この世界を旅してみるか?」


イーブイ「……」


黙っていると、ジュペッタはケケケっと笑う。



ジュペッタ「俺は、お前に野良での暮らし方を教えた筈だ……ま、好きにやってみろ。また違った世界を観れるかもわからねぇ……」



そして、そのままイーブイを置いて……ジュペッタは大通りへと……



 ▼ 169 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:07:35 ID:B3Jc/FT2 [24/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ジュペッタ「っ……そうだ。最後に名前……お前の名前、一度も聞いてなかったからな」


イーブイ「え?」




そう言えばそうだ。自分の自己紹介……出会ったあの日にするのをすっかり忘れていた。


そして、ジュペッタが名前で呼ぼうとしなかった事も、忘れていた原因の一つだっただろう。




イーブイはそんなおかしな関係にぷっと笑う……



イーブイ「……私はイーブイ! イーブイだよ!」



ジュペッタはケケっと笑った。



ジュペッタ「イーブイか……そうか」


大通りへつながる道へと踏み出す前、ジュペッタが不意に振り返った……




ジュペッタ「イーブイ……ありがとな」




イーブイ「!」


その言葉を言うなり、すぐにジュペッタは視線をずらして笑った。

 ▼ 170 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:08:12 ID:B3Jc/FT2 [25/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


イーブイ「っ……」



ついて来ようとするイーブイをジュペッタが睨む……


ジュペッタ「おい、ついてくるな」


イーブイ「いいじゃん」



それでもついて来ようとしたイーブイを、ジュペッタが軽く突き飛ばし……睨んだ。


ジュペッタ「イーブイ、お前の旅は終わった。俺の目的も果たした。だから……あの日の俺達の契約も、これでおしまいだ」



イーブイ「……」



ジュペッタ「俺はもう、お前を追う事も無い。お前はどこか好きな場所にでも……新しい居場所でも探しに行きな」


ジュペッタはまた、歩き出す。



振り返らず……そして……



ジュペッタ「……(あばよ)」



口には出さず、別れを告げた……


 ▼ 171 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:09:06 ID:B3Jc/FT2 [26/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


しかし、歩き出した直後……



ぐぅぅぅぅ……




やや大きめに腹が鳴る……ジュペッタは空きっ腹をさする……


ジュペッタ「(どこかで飯にするか)」


そんな事を思っていると、突然追い抜いたイーブイがジュペッタの前に飛び出した……


ジュペッタ「!」


その口にくわえられていたのは……どこから持って来たのか……オレンのみが一つ。



イーブイ「さっきそこのお店に並んでたものをくすねて来たの! 私もお腹減ってるけど……そんなに食べたいならあげるよ?」



ジュペッタはオレンのみをくすねた事でも自慢するかの様に、ドヤ顔を決めたイーブイを暫く見つめていた……



すると、イーブイは少し下手ではあるが、ニヤニヤと不敵な笑みを見せた……



イーブイ「けど、約束して? これが食べたいなら……これから始まるあなたの旅に、私を連れてって!」



 ▼ 172 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:09:34 ID:B3Jc/FT2 [27/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




ジュペッタ「!」




突然の発言に驚く……


が、やがて小さく吹き出した。



ジュペッタ「ケケっ……」



イーブイからオレンのみを乱暴に奪い取ると、半分に割ってそれを丸呑みに……残り半分をイーブイの顔の前に差し出した。



ジュペッタ「ほらよ。お前も腹減ってるんだろ? ……けど、これが欲しいのなら……俺からも交換条件だ」




イーブイは条件を聞く前に、すぐにその手からオレンのみを奪い取ってかぶりついた……


 ▼ 173 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:09:52 ID:B3Jc/FT2 [28/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告













「そいつを食いたいのなら、お前のこれからの長旅……俺をつれて行きな」












 ▼ 174 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:10:19 ID:B3Jc/FT2 [29/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告









エピローグ









 ▼ 175 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:10:42 ID:B3Jc/FT2 [30/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






いつかの時代……どこかの場所……






真っ暗な闇が包む、大きな交差点……



空に浮かんだ月は雲に覆われ、明かりも少ない夜の街……



交差点の信号機の上、ポケモンが一匹腰掛けている……




そのポケモンは一匹、高みから暗闇を走るトラックやタクシーを眺めていた……


 ▼ 176 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:11:27 ID:B3Jc/FT2 [31/32] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




風が吹く……その風にあおられて、月にかかった雲が晴れる……



差し込んだ眩しい月明かりが照らし……信号機の上に腰掛けるそのポケモンの影を、交差点の真ん中に大きく映し出した。





……





そのポケモンの影の隣には、もう一つ……小さな影……



小さな身体に大きな尻尾……その尻尾が嬉しそうにパタパタと揺れている……



何を話したのか……その幼さを感じる影から耳打ちをされた、そのポケモンは……暗闇の中、不気味に笑った……





ケケケっ……





その月が照らす影、実体のないもう一つの影……道路に映された二つの影は、仲良く寄り添い……いつまでも、その街を見下ろしていた……








おしまい。


 ▼ 177 1◆v1GnTfaqxg 20/05/14 11:12:48 ID:B3Jc/FT2 [32/32] NGネーム登録 NGID登録 報告


って訳でおしまい。



大切な友達を失って、凹んで発狂して心療内科送りにされたあの日から半年超。
それ乗り越えるために、当時の経験を思い出しながらこれ書いてました。


例え太陽の下じゃなくても、イーブイとジュペッタがこの世の何処かで笑ってたらええなって思ってます。



何はともあれ、結果久しぶりにまじめなSS書けたから、個人的には満足や。

とりあえず、ここまで読んでくれた方サンクス&乙乙な。




(もしもいつか2人にこれが届いたのなら……足を洗っていつか必ず帰ってきてな。また、みんなで焼肉食いながら酒飲もうぜ。今度は俺が全員分奢るから)




じゃ、またどこかで会おうやな。マジで。 


 ▼ 178 クバード@ピッピにんぎょう 20/05/14 11:15:25 ID:1bCEYZ/Y NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 ▼ 179 ガライボルト@みずたまリボン 20/05/14 15:24:33 ID:XrgwdfD6 NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!面白かったです!
 ▼ 180 マゲロゲ@ビアーのみ 20/05/14 16:40:02 ID:EOA2dROM NGネーム登録 NGID登録 m 報告
乙です!面白かった!
 ▼ 181 バルドン@ジガルデキューブ 20/05/17 21:37:40 ID:V/vQfzyA NGネーム登録 NGID登録 報告
感動しました!
 ▼ 182 ロバンコ@きのみ 20/05/17 21:42:19 ID:KVisVhNs NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
 ▼ 183 ンチュラ@てんかいのふえ 20/06/05 03:13:13 ID:eG/cSuPU NGネーム登録 NGID登録 m 報告
良かった。乙やで。
 ▼ 184 ニプッチ@ポロックケース 20/06/05 07:38:02 ID:e6wsI8X. NGネーム登録 NGID登録 報告
良SSだった!乙!
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