【SS】ゆめうつつ:ポケモンBBS(掲示板) 【SS】ゆめうつつ:ポケモンBBS

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【SS】ゆめうつつ

 ▼ 1 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 03:53:47 ID:elm2g4Ls [1/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
1.僕の世界


生物――ポケモンの姿は長期間同じに保たれ、特定の条件を満たしたときのみ大きく変化する。
唐突に背後で生まれる悪魔はいない。
世界を破壊しつくす怪物も存在しない。
それが、皆が知る世界だという。
おかしな話だ。

絶えず姿を変えていく生物も、悪魔も、怪物も……
僕は全部見てきたって言うのに。
 ▼ 2 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 03:54:49 ID:elm2g4Ls [2/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
1匹のポケモンとして生まれ落ちた僕の1番古い記憶、それは世界の破壊だった。
空も大地もおぞましい悲鳴を上げながら砕け、無に飲まれていく。
最初だけ母親の叫び声も混ざっていたが、2回目からは聞こえなくなった。

――怪物。怪物が世界を破壊していたんだ。

無となった世界は怪物の喜びに置換され、僕にとてつもない恐怖と苦痛を与えた。
世界と一緒に意識や記憶も破壊されたのか、全てはおぼろげだった。
世界が全て無に侵された時、僕の意識は完全に途切れた。


僕の意識が戻った時、世界はすでに再生されていた。
空の色は僕の感情とリンクし、恐怖を湛えた漆黒へと変わっている。
しばらくして恐怖は薄まり空の色も明るく変化していったが、ほどなく無へ飲まれた。

前述の《2回目》。それより後の数は覚えていない。
世界の破壊、怪物の喜び、意識の断絶、世界の再生――
あの頃の僕は、これをひたすら繰り替えす無間地獄ともいうべき状況にあった。
 ▼ 3 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 03:55:29 ID:elm2g4Ls [3/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
破壊と再生のサイクルは、唐突に終わりを迎えた。
誰かが腕をぐねりと伸ばし、僕の身体を優しく抱き上げ連れ去ってから、怪物は世界に現れなくなった。

その誰かは僕にたびたび声をかけてきたが、大部分は意味が分からなかった。

「怖かったでしょう」
 「安全」
  「スリーパー」
   「大丈夫」
    「エーテル」
   「保護」
  「眠っているから」
 「もうすぐ」
「野生に」

僕の名前以外だと、そんな言葉たちが記憶に残っている。優しげな声で、敵ではないようだった。
時々あの怪物とよく似た気配を感じたものの、この頃の世界は平穏そのものであり、空も美しく輝いていた。

世界には平和が戻りました、めでたしめでたし……で、終わればよかったんだけれど。

その誰かは再び僕を抱きかかえ、手を地面スレスレまで伸ばし……
僕を降ろしてから、世界の様子はまた変わっていった。
 ▼ 4 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 03:56:08 ID:elm2g4Ls [4/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
今回の変化は、僕の目の前や背後で悪魔が産まれるようになったことだった。
産まれたときの悪魔は、大抵僕に噛み付いた状態だ。

でも僕が身体を振るい、じたばたしたりたたきつける攻撃をして抵抗すれば悪魔たちは悲鳴を上げて逃げていく。
怪物に比べれば大したことは無かった。でも今はまたひとりぼっち。楽しくはなかったので空の色は少し淀んでいた。

産まれた悪魔を追い払う日常がしばらく続いた後、また大きな変化を迎えることになる。
 ▼ 5 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 03:57:13 ID:elm2g4Ls [5/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
きっかけは小さな衝突の感覚だった。
僕の頭に、何か固いものがコツンとぶつかったんだ。
すると、僕のいる世界は急激に《薄く》なった。あらゆる音が遠くなり、一切の衝撃が失われた。

「やったー!」

「捕まえたぞ!」

聞こえたのはそんな遠い声。
しかし《薄い》世界は長くは続かず、すぐ正常な感覚が戻ってきた。

誰かが目の前に現れる。以前、僕を抱きかかえ連れ去った誰かに似た気配を感じた。
その後知ったことだけど、彼らは《人間》と呼ばれる生物らしく、その中でもポケモンを連れている者は《トレーナー》というそうだ。

人間は僕の頭を撫で、口元に食べ物を差し出してきた。どうやら今回も敵ではないようだった。
人間は僕以外にも複数のポケモンを連れていた。つまりトレーナー。僕もそのポケモンたちに加わることになった。

薄い世界と正常な世界を繰り返しながら、僕はそのトレーナーと共にいた。
世界の薄さがなくなるたび、感じる臭い、風、足元の感覚も変わっていくのが面白い。こんなに頻繁なのは初めてだ。
どうやら、トレーナーが《ボール》というものを使うと世界が薄くなるらしいが、何のためかはわからなかった。
でもそんなことはどうでもよかった。幸せな日常が続いたんだから。

「たたきつける!」

「あくびだ!」

人間の指示を受け、次々と現れる対戦相手と戦っていくのは中々楽しかった。悪魔との戦いの何倍もだ。
トレーナーと一緒にいると、本当に色んな対戦相手が現れるんだ。何1つ同じ勝負はない。それが楽しかった。

勝負の後はトレーナーと触れ合う。名前を呼ばれ、身体を手入れされ、撫でられ、おやつを貰う。
細い体肢の1本にしがみついて困らせたこともあったっけ。
とても、とても幸せだった。
 ▼ 6 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 03:58:04 ID:elm2g4Ls [6/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
2.夢の世界


しかしその新たな日常までも徐々に変化していく。

薄い世界と正常な世界の繰り返し、そのうち正常な世界では常にあのトレーナーと一緒にいたのに……
そうでないことも多くなっていった。全く会えなくなったわけではないんだけれど、淋しい。感覚の変化もあまりなくなった。
代わりに周囲にいるポケモンは増えたけど、やっぱりあのトレーナーに会いたい。

しかもその日常の変化が起こってから、またあの怪物に似た気配を感じるようになっていた。
世界が壊されることは無かったけれど、僕の心は再び不安に侵されていった――
 ▼ 7 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 03:58:58 ID:elm2g4Ls [7/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「お前、何をそんなに怖がってるんだよ」

怪物に似た気配を強く感じたとき、誰かが話しかけてきた。
何を怖がってるかって? そんなの、あの世界を壊す怪物に決まってる。

「何? 怪物? はっきり喋ってくれないとわからねえよ」

だから、世界を壊す怪物だよ、怪物。
この世界を何度も壊したあいつだ……

「ああ、これじゃ埒が明かないな。ちょっと待ってろ」

埒が明かない?

その言葉の数秒後、誰かの姿は大きく変わり、以後一切の変化をしなくなった。
黄色と茶色の身体、口の前に垂れ下がった鼻、2本の脚と2本の腕……
誰かはそんな姿をしていた。
そして、怪物に似た気配はさらに強まった……

「最初から完全に夢に入り込むんだった。寝言じゃ話にならない」

《夢》? 《寝言》?
何の話だ?

「俺はスリープ。今はお前の夢の中に入って話しかけてる」

《夢》って何?

「そんなことも分からないのか。寝ている時に見る幻覚みたいなもんだよ」

《寝ている》って何?

「……そこからか。1回も起きた経験がないから区別もないんだな……」

スリープはあきれた様子で《夢》などについての説明を始めた。
 ▼ 8 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:00:47 ID:elm2g4Ls [8/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
僕は《寝ている》…… 《ねむり》《睡眠》とも呼ばれる状態にあるらしい。

僕の意識の無い状態が《ノンレム睡眠》、僕の意識がある状態が《レム睡眠》……
スリープは少し表現に悩んだ後、《レム睡眠》を超えて更に意識がある状態が存在し、それが《目覚め》《起きている状態》だと言った。
夢は《レム睡眠》にある者が見る《幻覚》であり、目覚めている状態で見られる世界こそが《現実》だという……

「つまりお前はずっと幻の中で生きてきたのさ」

僕の生きてきた世界は全部《嘘》だったって言うのか?

「……そうとも言えるな」

「触った感覚や聞いた音は本物だろう。でもそこから想像で補われる視覚情報はあてにならないだろうな。目は閉じてるから全く現実を見ていないんだ」

目を閉じてる?

「でも今、お前が見ている俺の姿…… これは現実と同じ姿のはずだ。俺そのものが夢の中に入って来てるんだから」

今のスリープの姿は《固定》されている。
それが現実? 生物の姿は絶えず変化するんじゃなかったのか……?

「そんなことはないさ。ポケモンは成長こそすれど、条件を満たして《進化》とかするまで大体同じ姿でいる。人間や一部のポケモンは《進化》もしないな」

「……多分、お前が見てきた珍妙なもの全て、この世には実在しない。別の形で存在はしているだろうが……」

存在しない?
噛み付いた状態で現れる悪魔も?
僕は何度もそいつらに会ってる、これは実在するはずだ。

「それは忍び寄ってきたヤングースか何かに噛み付かれたのに気付いたお前の心が、夢に反映させたんだ」

世界を破壊しつくす怪物は?
世界は何度も壊されてるじゃないか……

「世界が壊されたことなんてない。全部、お前が見てきた夢だ」

……おかしな話だ。
僕は全部見てきたって言うのに。
 ▼ 9 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:02:01 ID:elm2g4Ls [9/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「で、なんだったっけ? お前が怖がってる理由」

だから、怪物だよ。何度も世界を壊した怪物……
君は夢だって言ってたけど……
最近その怪物によく似た気配を感じるんだ。今だって……

「今?」

そう。ちょうどスリープが話しかけてきたくらいから――

「あー悪い……」

「その怪物、多分俺だわ。今この辺には俺とお前しかいないし……」

なんだって?
君が世界を壊した――

「いや違う違う。正確に言うと今お前が感じてる怪物によく似た気配が俺だ」

「そうか。……予想がついたぞ、お前が怪物だと思ってる奴の正体」

怪物の正体?

「スリーパー。俺達スリープの進化系…… だから似た気配がしたんだ」

スリーパー…… 聞き覚えがある。
1度目の平穏に導いてくれた、あの人間が口にしていた単語の1つ。

「俺達スリープやスリーパーは夢を食料にする。特にスリーパーは大食いでな……」

「常に眠っているお前たち《ネッコアラ》は格好の獲物で、スリーパーになった奴らはみんなネッコアラを襲ってるな」

――ネッコアラ。僕の名前だ。
みんな僕のことをそう呼んでいる。
 ▼ 10 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:04:00 ID:elm2g4Ls [10/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「今日話して分かったけど、お前は夢以外の世界を知らなかった。いくらネッコアラでも現実を知らなさすぎる、ここまで現実とかけ離れた夢は初めて見るぞ」

「夢の外という概念がない。夢の外の概念がないから、それらと区別するための夢という概念すらなかった」

「そんな奴の夢を食べるのは…… きっと世界を食べるのと同じだったんだろうな。外に現実があるのを知らないから、夢の終わりは世界全ての終わりに感じるわけだ」

あの頃は、世界が壊され、意識が途切れ、世界が再生され、また世界が壊され……
その繰り返しだった。

「お前の意識の中だけでの出来事だ。夢が食べられた後ノンレム睡眠に入り、再びレム睡眠に入ったことで夢を見てそれも食べられた……ということだろう」

「スリーパーは好みの味の夢を見る者を攫うことがあるんだ。繰り返されたのは多分きっと」

そうか。1回目の母親の悲鳴、2回目以降聞こえなくなった母親の声……
僕は意識が途切れた間に、スリーパーに攫われていたんだ。

「お前がの夢が現実と違い過ぎる理由、それかもな。多分現実の知識は親から子へ引き継がれるんだろう、寝言で…… その前に攫われるとはついてないな」

…………。
 ▼ 11 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:05:20 ID:elm2g4Ls [11/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「まあこのポケリゾートでは同じトレーナーのポケモン同士仲良くすることになってるから……」

君も、あのトレーナーのポケモンなのか。

「ああ。新しくスリーパーが入って来たり、俺が進化してスリーパーになっても襲われることは無い、安心しろよな」

じゃあもう、怪物の気配に怯えなくていいんだ。

「そうだぜ。……まあ実は俺、さっきまでちょっとだけ夢を頂こうと思ってたんだが……」

えっ?

「お前の夢、俺が嫌いな酸っぱそうな悪夢ばかりだったからな。まるで何かに怯えるような…… 恐怖の原因を取り除かなきゃとても食えたもんじゃない」

だから何を怖がっているのか聞いて来たのか?
それを取り除いて僕の夢を美味しくいただくために――

「でも話を聞いたら全く食う気がなくなっちまったよ。一齧りするのも躊躇うくらい」

「お前を攫ったっていうスリーパーも物好きだな…… こんな精神構造の奴の夢よく食える、きっと悪夢ばかりだったろうに」

もう2度とあんな目には遭いたくない。

「そりゃそうだろうさ」

スリープ。

「なんだ?」

君が最初思ったよりいい奴そうでよかったよ。

「そりゃどうも……」
 ▼ 12 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:06:50 ID:elm2g4Ls [12/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
気付けば、僕の恐怖心はきれいに消えていた。気配の正体が無害なものだとはっきりしたから当たり前だけれど。
それにしても、こんなふうに誰かと話したのは初めてだ。

「お前が他の奴とコミュニケーションをとるときは絶対に夢というフィルターを通してになっちまうからな…… でも俺は夢に直接干渉できる」

今だけじゃなくて、またこんな風に話がしたい。
もしスリープが良ければ。

「いいぜ。俺もあいつの手持ちに入ってないときは中々暇なんだ……」

ありがとう、スリープ。
次は、《現実》のことをもっと知りたい。
今回《夢》について教えてくれたみたいに……

「現実?」

あのトレーナーが見ている世界が知りたい。
同じ世界を知りたい。
君の言う通りなら、今までの僕が見てきた世界とは全くの別物なんだろう?

「ああそうだ…… それならいいものを用意してやる」

いいもの……?

「あのトレーナーが見ていた夢、何回か食べたことがあるからな。俺の力でお前にも同じものを見せてやる」

夢だって?
僕は現実が……

「夢って言っても、あいつが見た現実での記憶をベースにした夢だ。お前の夢よりずっとずっと現実に近いぞ」

本当に?

「ああ本当だ。少なくとも視覚情報はお前よりまともだ…… あいつ、ちょっとだけ自分の見た目盛っててカッコよくなってるけど。でもまあ大体は一緒だな、多分」

次に話すときが楽しみだな。
本当の……よりはちょっとカッコよくなってるらしいけど、あのトレーナーの現実に近い姿が見られる。

「おう楽しみにしておけよ。また明日ここに来るから」

《明日》って?

「……そうか、沈む太陽も昇る月も見てないから《1日》って概念すらないのかお前……」

それについても教えてくれるかな。

「……ああ」
 ▼ 13 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:08:21 ID:elm2g4Ls [13/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
3.現の世界


あの日から俺は、ネッコアラに夢を見せてやるようになった。
最初、ネッコアラは何もかもが新しい世界に大喜びだった。
ポケマメの色や形だけではしゃぐほどに……

カントー地方へ行く夢で街並みを楽しんだり、
アローラの花園を巡る夢で和んだり、
気になる女の子とデートする夢でニヤニヤしたり、
世界中の強者たちと戦う夢に興奮したり……
それはそれは、楽しい日々だった。

どれも夢というだけあって景色はおぼろげ。
でもあいつには十分すぎるほど《現実》に満ちた夢だ。
やがて、あいつの夢の中には太陽や月が昇るようになった。現実の知識が徐々に反映されるようになったんだ。
 ▼ 14 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:10:07 ID:elm2g4Ls [14/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
でも、夢のストックは有限だ。トレーナーの夢はもう残っていない。
そのことを告げると、あいつはひどく落ち込んだ。
あいつは現実を望んでいる。しかしあいつは絶対に夢から覚めない、《ぜったいねむり》のポケモン。
あいつが《現実を見る》方法は他者の夢しかない。

それからほどなくして、俺とネッコアラはトレーナーの手持ちに入った。
隙を見てトレーナーの夢を食べようとしたがなかなか機会に恵まれない。
そこでトレーナーの夢の代用品として他のポケモンの夢を食べ、ネッコアラに見せてやることにした。
しかし「楽しい夢を見てたはずなのにお前が食べたせいで覚えてない」と苦情が殺到したので、気づかれない程度の量――夢の中のほんのわずかな間だけを頂くようにした。

そうして毎日短い夢を見せてやったが、ネッコアラの反応は微妙だった。トレーナーの夢の時はあんなに喜んでいたのに。
ポケモンの夢を見ている時より、夢越しにトレーナーと触れ合ったり、一緒にポケモン勝負をしている時の方が幸せそうだ。
チラとその時の夢の中を覗いてみたが、まだトレーナーの姿の再現度はお世辞にも高いとは言えなかった。前の不定形の化け物よりは実物に近いけど。

さらに、トレーナーが寝ている間は塞ぎ込んでしまうようになった。
一体どうしたって言うんだ?
俺は心配でネッコアラに問いかけたが、答えてくれることは無かった。
それどころか、「もう夢は見せなくていい」と言う。
打つ手を失くし、かける言葉も見つからなくなってしまった俺は、徐々にネッコアラと疎遠になっていった。
 ▼ 15 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:11:00 ID:elm2g4Ls [15/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
そうこうしているうちに、俺達は再びポケリゾートへ戻された。
トレーナーの前では元気に振る舞うので、最後までネッコアラが特別気にかけられることはなかった。
それどころか島の管理人のオッサンの前でもそんな調子だ。
とことんトレーナーに心配させる気はないらしい。

しばらくして、トレーナーは新たな仲間を連れてきた。
ムシャーナというポケモンで、遠い地方から引き取ったらしい。
俺やネッコアラと同じように夢に深く関わるポケモンらしく、以前の俺のように夢の中に入ってネッコアラと何か話しているようだった。
ムシャーナはあいつの夢に強く惹かれているみたいで、見るからにのめり込んでいった。
 ▼ 16 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:11:47 ID:elm2g4Ls [16/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてある日、ムシャーナは俺にも話しかけてきた。

「あのネッコアラは悪夢を見ています」

そりゃ、見たら分かる。
あいつは幸せそうじゃない。
そして、あいつにとって夢は自分のいる世界そのものだ。

「貴方はネッコアラのお友達ですよね?」

そうだ。いや、《そうだった》かもしれない。
今の俺は、あいつの《友達》を名乗れる存在なんだろうか?

「貴方は彼を悪夢から解放しようとは思わないのですか?」

悪夢からの開放か…… もしできるものならしたいよ、そりゃ。
でも、あいつの悪夢なんてどう処理すりゃいいんだ。
あいつも今は夢の外を知っている……俺が腹を壊すのを堪えて夢を食べても、世界全てを壊される感覚には至らないかもしれない。
でも、世界が破壊された記憶自体は残っている。
それを思い出させやしないか、なによりあいつ自身《もう2度とあんな目には遭いたくない》と言っていたんだ。

「では私が何とかしましょうか」

できるのか? 何とか……

「私たちの一族は悪夢を処理する者ですから…… 悪夢を食べ尽くす以外にも策はあります」

本当か?

「本当です。私が行動を起こせば貴方にも分かるでしょう。見守っていてください」
 ▼ 17 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:13:14 ID:elm2g4Ls [17/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
4.夢現の世界


スリープとお話しして数日後、私はネッコアラの元へと向かいました。
そろそろ、あの人がこの島を訪れる頃…… 今がチャンスなのです。

ネッコアラは当然、今日もまどろみの中にいました。
私と同じ《ゆめうつつポケモン》…… しかし彼は私と違い、目を覚ますことはありません。
永遠の夢……夢を求める私が惹かれるのは当然のことでした。
その夢が現実のせいで悪夢にしかならないなんて、なんて残酷なのでしょうか。
何故、あの夢が現実などというものの存在によってただの《嘘》《虚構》にならなければいけないのでしょう。
彼にとっては紛れもない本物の世界だというのに。
そんな彼には皆と同じ…… いえ、あの人と同じ現実を生きられるようにしてあげるつもりです。
私はネッコアラの夢の中へと入っていきました。
 ▼ 18 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:14:15 ID:elm2g4Ls [18/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ムシャーナ?」

ええ、ネッコアラ。私です。
貴方は、現実と自身の夢の違いに苦しんでいる…… そうですね?

「どうやっても僕はトレーナーと同じ世界には生きられないんだ」

「現実に近い夢を見てるうちに、虚しくなっちゃって…… 結局は全部《嘘》の世界なんだ」

「最初はトレーナーと一緒に同じ世界を冒険しているような感覚で楽しかったんだよ」

「でも後から他のポケモンの夢を見たら、みんな違った感じの夢で違和感があって」

「それで気づかされたんだ。最初の方に見たトレーナーの夢も、それらと同じただの夢に過ぎないって。トレーナーだけが現実に等しい夢を見ているなんて保証はないんだ」

「トレーナーと触れ合ってるとき、一生懸命本物をイメージするんだけど、現実とは違う。とてもとても虚しいことだ」

「だから、スリープが見せてくれる夢も断った。でも《逆に虚しくなるから嫌だ》なんて、とても言えなくて、そのままずるずる今へ来てしまった」

「本物だったはずの友達も遠ざけてしまった」

それはとてもつらかったでしょう……
でも貴方は何も悪くない、全ては夢と現実の《差》が悪いのです。
私が何とかして見せましょう。

「いくら差が縮まっても夢は夢、現実は現実だ」

「僕の夢はずっと悪夢のまま。それはきっと当然で必然なんだ」

大丈夫、私は差を縮めることはしません。
差を無くすのです。

「無くす?」

そのために、貴方の夢を少しずついただきます。
全てとなると苦痛となるようですから、少しずつ……
 ▼ 19 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:14:59 ID:elm2g4Ls [19/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
…………


俺は今日もポケリゾートにいる。
そろそろトレーナーが島に来る頃合いだ。
ムシャーナと話して数日経つが、まだ彼女が何かした様子はない……

俺がネッコアラにしてやれることは、トレーナーを引っ張って来てやることくらいだな。
リザードンの着陸ポイントで待ち伏せるか……

うん?

いつもネッコアラがいる場所…… そのあたりから、黒い煙のようなものが立ち昇っている。
もしかして、火事か……!? 早く消火しないと、まずい!
俺は煙の下へ駆け出した。
 ▼ 20 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:15:58 ID:elm2g4Ls [20/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
…………


少し薄れた意識が戻ってきた。
ムシャーナは僕の夢を少し貰うと言っていたから、そのせいだろうか。

僕の周囲ではポケモンたちが何やら慌てふためき、声を上げている。
ムシャーナ、あのポケモンたちは現実で何があったんだ?

「見たとおりですよ」

見たとおりだって?
前にスリープが言っていた。僕の視覚情報はあてにならないと……
ここは僕の想像で補われた夢の世界なんだから。

「その夢の世界を現実にまで広めたのです。だから、貴方の見る世界と現実の世界の差は無くなりつつあります」

なんだって?

「今は皆慌てふためいていますが、じきに皆新しい世界に慣れるはずですよ」

本当に、あの姿で現実にいるのか……

「はい、空の色も、大地の草も、全ては見たとおりです」

「私が夢から作り出す煙は、現実へと生まれ変わります」

「貴方が夢を見ている間、私は現実をその通りに書き換えましょう」

「範囲はこの島に限られると思いますが…… 貴方の大切な人も今日ここに来るはず。そしたらこの島にずっといてもらいましょう」

トレーナーも……?

「はい。私も少し疲れますが、どうってことありません」

「貴方はもう、思い悩むことは無いのです」
 ▼ 21 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:16:48 ID:elm2g4Ls [21/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
でも……

「でも?」

うまく言葉にできないけど、それは…… やってはいけないことだ。
みんな戸惑っているし、やめてくれ。

「皆慣れるはず、私はそういいました。慣れるまではそうかかりませんが…… 夢と現実に差を残したら貴方は一生思い悩むことになるのです」

分かっているよ。やめてくれ。

「……貴方も突然のことで困惑しているのでしょう。もう少し夢を頂く量を増やして、一旦意識を薄れさせますね」

やめてくれ……

「意識がはっきりしたときには、貴方を歓迎する世界に生まれ変わっているはずですよ」

やめて……

「貴方に罪はない。悪いのは貴方を苦しめる現実なのですよ」

…………。
 ▼ 22 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:18:20 ID:elm2g4Ls [22/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
…………


俺は、煙の発生源が見えるところまでたどり着いた。
煙の元は、火じゃなかった。
黒い煙は…… ネッコアラに抱き着いたムシャーナが出していた。
遠目だし、煙に囲まれてあまりよくは見えなかったが、きっとそうだ。

目に付くのは、おかしな形に変化したポケマメツリー、咲き乱れる奇妙な花。
そして、変わり果てた姿となったポケモンたち。
全てが曖昧で、霞がかった姿…… 何匹かは元の姿が想定できる感じだったが。
まるで、あいつの夢の中じゃないか……


「スリープ!」

紐状の異形となったポケモンのうち1匹が俺の名前を呼んだ。
この声は…… アーボか!

「あの煙に触るな! あれに触れたらみんなおかしくなっちまったんだ!」

やっぱり、煙が元凶か……
ムシャーナの奴、一体何しやがった!
 ▼ 23 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:19:48 ID:elm2g4Ls [23/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
煙は広がりつつある。
迫って来る煙を、俺は鼻息で吹き返し払いのける。

そして1度距離を取り、ムシャーナに対してのテレパシーを試みた。


ムシャーナ……! お前、一体何をしてやがる!

「スリープ、聞こえましたよ」

テレパシーは無事聞こえたらしい。
それならもう1度聞くぞ、一体何してやがるんだ!

「ネッコアラの夢を、私の力で現実に変えているのです」

夢を現実に……!?
一体どうしてそんなことを!

「ネッコアラはどれだけ夢を見ても現実にたどり着けないことに苦痛を感じていました」

「全てお話ししましょう」

そう言うと、ムシャーナはネッコアラの心境を説明した。

どうあってもトレーナーと同じ世界に生きられない絶望。
夢は夢でしかないと気付いてしまった虚無感。
そして、その原因である俺への感情。

全部、俺のせいじゃないか……
そもそも俺があいつに《現実》なんて教えなければ、生きる世界が違うなんて悩みは持たなかったんだ!

「そうかもしれませんね。でも全てが変わればそんな悩みも解決します。貴方ももう気に病まなくていいのですよ」

……ムシャーナ、1つ聞かせてくれ。

「何でしょうか?」

お前が今やっていることは、本当にネッコアラが望んだことなのか?

「私からの贈り物です。今は突然のことで戸惑っていますが…… すぐにこれが自身の理想だと気づくでしょう」

……自分勝手なおせっかい野郎め。
 ▼ 24 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:21:29 ID:elm2g4Ls [24/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
俺の拳は怒りに震えた。現を夢で書き換えるおせっかい野郎と、夢と現の区別を教えてしまったおせっかい野郎、その両方への怒りで。
怒りはしたが、一体俺はどうすべきなんだ?
このままだとどんどん煙が広がり、みんな異形になる。やがてトレーナーも来て、犠牲になってしまう。
しかしムシャーナのところへ向かえば、俺も煙の影響を受ける。
夢の異形になったら何が変わるんだ? 何ができなくなるんだ? 闇雲に突っ込んで大丈夫な相手なのか?

俺が思い悩んでいると、煙の影響下の地面に次々と新たな奇妙な形の大ぶりの花が咲いていった。
花は2列に並び、まるで道を作っているかのようだった。そして、色は黄色と茶色の2色。
花の道は、ムシャーナとネッコアラの方へ伸びている。

煙は、ネッコアラの夢と同じになるように現実に影響を及ぼす。
だったらこの花の道は、俺と同じ色の花の道は……

俺を夢で呼んでいるのか。
もう友達ではなくなってしまったかもしれないこの俺を。

もう悩んでる暇なんてない。
俺は再び煙の発生源へと駆け出した。

「あ、おいスリープ! お前何考えて――」

「お前も変な姿に…… あれ?」

他の連中の心配とは裏腹に、俺の身体は煙の中に突っ込んでも変わることは無かった。
……そうか、あいつは俺の姿をしっかり覚えていたんだな。
俺はそのままネッコアラの下へ駆けて行く。

「……貴方は何故夢の煙の影響を受けないのですか?」

多分、影響は受けてるさ。夢の中でも俺は俺ってだけで。

俺はネッコアラの下へたどり着くと、夢の中へ飛び込んだ。
 ▼ 25 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:22:13 ID:elm2g4Ls [25/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
…………


ムシャーナによって僕の意識は曖昧なものになっていた。
このままじゃみんな僕の夢で塗り替えられてしまう、このままじゃダメなんだ……

こんな時……
こんな時、彼がいてくれたら……
彼がここに来てくれたら……

そう願うと、彼の色の花々が咲き、道を作っていった。

……こんなことがあるのか……

花の道を見届けた僕の意識は、また薄くなっていった。
 ▼ 26 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:23:52 ID:elm2g4Ls [26/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
…………


「ネッコアラ! ネッコアラ!」

「夢の中で寝てるんじゃねえ! 起きろ!」

世界に懐かしく、そしてよく知った声が響く。
これをきっかけに、僕の意識ははっきりとしたものになった。

……スリープ。

「……お前が花で呼んでたから、夢の中まで来たんだ」

そうか、あの花の道は……
ムシャーナの煙を通して現実になったんだ。

「こうなっちまったのは俺の責任だ。だから、俺にできることをやりに来た」

「聞かせてくれ。現実が夢に変わっていくこの状況は、お前が望んだことなのか?」

違う! 僕はこんなこと望んでない、願ってない。
ムシャーナは、トレーナーもここにいてもらうって言っていた。
トレーナーのことも夢のものに変えてしまうつもりだ、そんなのはダメだ!

現実は、現実のままじゃないとダメなんだ……
みんな、困ってるし……

「困ってるのもすぐなくなりますよ?」

「ムシャーナ! お前は黙ってろ!」

「……ネッコアラ、何故ダメだと思うのですか?」

それは……
うまく言えないけれど、現実を……
あの現実を僕の見ている夢に変えてしまうなんて……

「……解せませんね」

「こいつは現実にあこがれてるんだ、現実にいるあのトレーナーが好きなんだ。それを勝手に塗りつぶされて……嫌じゃない訳がない」

スリープ。

「私はネッコアラに聞いているのですよ。ネッコアラ、どうなのですか?」
 ▼ 27 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:25:00 ID:elm2g4Ls [27/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
……ムシャーナ。多分、スリープの言う通りだ。

僕は現実のものにあこがれ、強く惹かれていたんだ。
それは僕の知らないものだからだ。
僕は現実にいるあのトレーナーが好きだ。
それは僕の知らないものを見せてくれるからだ。
彼とのポケモン勝負も、冒険も、未知に満ちていた。
彼の夢も、彼の記憶からできている。その記憶の先の知らない現実に思いを馳せていたんだ。

「しかし、その《届かない》現実に貴方は苦しめられていたのですよ?」

確かに苦しい。
でも、好きなものがなくなるのはもっと嫌だ。

「無くなりません、貴方の夢に染まるだけです」

染まった時点で、もう違うんだ。

「……でも、私は」

「私は貴方を苦しめる現実を許すことができません。貴方の夢を《嘘》の地位に叩き落しあざ笑っている現実を」

「それがお前の本音か」

「…………」

「ネッコアラは現実に惹かれすぎた、ムシャーナはネッコアラの夢に惹かれすぎた。そういうことだろ」

そうかもしれない。
 ▼ 28 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:26:57 ID:elm2g4Ls [28/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ネッコアラ、現実と夢の差で苦しんでるお前に聞いてほしいことがある」

僕に聞いてほしい事?

「夢だろうと、現実だろうと、生物が見ている世界なんてのは全部違うんだ。感じられるものは個々で違うんだから」

世界が全部違う?
どういうことだ?

「例えば、俺やムシャーナは夢の匂いや味がわかるけど、人間はそれがわからないだろう」

「夢には匂いや味が間違いなく存在する、でも人間はその存在を隠された《嘘》の中で生きてるんだ。お前が本当のものを見られないのと同じように」

「あと夢の匂い以前に人間は鼻そのものが鈍いからな。お前が感じた本物の匂いも、あいつにはわからない事が多い。殆どの匂いが存在しないという《嘘》の中で生きてる」

僕にわかって、トレーナーにはわからない……

「逆にあいつには分かるけど俺達にはわからない本物の何かもあるんだろう」

「視覚だって、紫外線が見えるやつは全然違った景色を見るだろう。俺も色覚があいつと完璧に同じ自信はない」

「超音波で空間を把握する奴とかどんな感覚なのか想像もつかないし、身体の大きさによっても物の感じ方は違うだろうし…… つまり……」

「《嘘》の中で生きているのはお前だけじゃない。全部本物の現実の中で生きてる奴なんていないんだよ」

「そして、お前の夢は全部が《嘘》ってわけじゃない。触ったり食べたり嗅いだり聞いたりして感じ取れた感覚は本物だ。もっと鋭い奴にしか感じられない本物もあるかもしれないけど」

「見る世界が違うのは、生物全員にとって当たり前のことなんだ。だから、そこまで気に病まないでくれ……」

……そうか。

みんな違った感覚の夢を見ていたのも、そういうことだったのか。
そもそも感じる現実が違うから、それを基にした夢も違ってくる。
トレーナーがちょっとカッコよくなってるのも、本人にとっては現実だったのかもしれない。
そのちょっとカッコよくなってるトレーナーが見られない者は全員、トレーナーと違う現実を見てるんだ。

ありがとう、スリープ。
とても、とても気が楽になった。

「さっき言っただろ。こうなっちまったのは俺の責任だから、俺にできることをやりに来たって」

それでも、ありがとう。

「……どういたしまして」
 ▼ 29 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:28:17 ID:elm2g4Ls [29/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「おいムシャーナ。聞いてただろ? 現実も夢も生物が見てる限り《嘘》は絶対に含まれるんだよ」

「《嘘》が生まれるのは現実のせいじゃない、個々の感覚の違いのせいだ。あと、もうこいつの気は楽になってる。お前が現実を変える理由はもうないはずだ」

「何が言いたいかはわかるよな?」

「今すぐやめろ」
今すぐやめてくれ。

「……わかりました。私も、夢に心を奪われ過ぎて現実が見えなくなっていたようです」

ムシャーナは夢の煙を広めるのをやめた。
その頃、黒色だったはずの煙はいつの間にか穏やかなピンク色に変わっていた。


「なあネッコアラ。もう1つ、俺にできることで提案があるんだけど聞いてくれるか?」

提案? なんだろう……
 ▼ 30 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:29:15 ID:elm2g4Ls [30/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
5.現を越える夢


ムシャーナが煙を止めた後、俺は現実世界へと戻ってきた。
夢の痕跡は跡形もなかった。どうやら、あのおかしな世界を保つためには常に煙を出して触れさせる必要があったらしい。

あの時のことを、ポケモンたちは《唐突に集団で見た悪夢の様だった》と語る。まあ間違っちゃいないか。
ムシャーナは皆に謝罪してまわり、希望者には悪夢の記憶の完全な除去と安らかな夢の提供を行った。

結局、あの出来事は夢だったのか現だったのか……
もしかしたら皆夢を見せられていただけで、本当は姿なんて変わってなかったのか?
紛れなく現実に起こったことなのだが、内容が内容なのでややこしい。

その後、トレーナーは無事リザードンでこの島へやってきた。
俺はネッコアラのところへトレーナーを引っ張っていく……その前に。
さいみんじゅつを使って、トレーナーを眠りに落とした。
 ▼ 31 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:30:15 ID:elm2g4Ls [31/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
…………


僕は今日も夢の中にいる。
現実から吹いてくる風が、いつもより心地よく感じた。
今日はトレーナーが島を訪ねてくる日だ。手持ちに入れてもらえるといいな。
それと、スリープのあの《提案》は上手くいったんだろうか。

ガサリ、と音がして、唐突に僕のいる世界の景色は違うものに変わった。
緑の草原、青色の空、そして目の前に立っているのは――

「こんにちは。いや、こんばんは? ちゃんと話すのは初めてだから初めまして? よくわかんないや」

ちょっとカッコよくなってる、僕のトレーナーだ。
 ▼ 32 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:31:43 ID:elm2g4Ls [32/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「スリープに急に眠らされてびっくりしたけど、あんな提案はもっとびっくりだったよ」

僕も、まさか今日会わないうちに実行するなんてびっくりだ。

「メッセージを読み上げる夢をスリープに回収させての交換日記だなんてさ」

スリープの提案は本物の思いを伝えあう交換日記だった。

「そっちの言ってることが分かったから…… きっと僕の言ってることも分かるよね?」

彼の言葉は問題なく理解できた。
僕のメッセージは既に受け取っているはずだ。
一体どんな風に受け取ったのか非常に気になる。気になって仕方がない。

「ネッコアラ。いつも眠っているから不安だったけど、ネッコアラは僕のことが大好きになってくれてたんだね。ありがとう」

こうして、直にお礼を言われると照れ臭いな。
いや、これは直ではないのか?

「僕はいろんなポケモンと一緒に強くなるのが夢なんだ。ネッコアラとも強くなりたいけど、他のポケモンたちとも」

「だから、ずっと手持ちに入れることはできないや。ごめんね」

「でも、君のメッセージを受け取って…… もっとポケモンたちと一緒に居なきゃって思ったから」

「前よりも多めにポケリゾートに来ることにするよ」

それは僕にとって、とても、とても嬉しいことだ。

「あんまり長いとスリープも大変だから、今回のメッセージはこれで終わり。返信待ってます」

「あ、そうだ。これもスリープからの提案なんだけど、見てみたい景色があったら言ってね? 頑張って夢の中で思い出すから」

「じゃ、あとは未来の…… 現実の僕に任せます! さよなら!」

メッセージの夢は終わり、トレーナーは掻き消え、景色が元に戻った。
この夢はスリープが見せているはずだ。トレーナーを眠らせて夢を受け取っていたはずのスリープがここまで来ているということは……
 ▼ 33 Y5Zk8zw5YA 20/06/10 04:32:17 ID:elm2g4Ls [33/33] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ひさしぶり、ネッコアラ」

僕は再び現れたトレーナーに抱きかかえられ、撫でられる。
今度の声は、現実から響くものだろう。曖昧に分かる人間の言葉だ。

「さあ、冒険に行こうか。スリープもついておいで」

「おう! ……よかったなネッコアラ」

僕は両者にに対し、強く頷く。
今まで以上に楽しい日々が続きそうだ。


END
 ▼ 34 ゲハント@おはなのおこう 20/06/10 07:12:16 ID:pT.QfiWk NGネーム登録 NGID登録 m 報告
乙です〜
 ▼ 35 ゴラス@スーパーボール 20/06/11 21:47:46 ID:M6wkAPAs NGネーム登録 NGID登録 報告
乙でした
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