【SS】少女「よろしく、ぐに太。」:ポケモンBBS(掲示板) 【SS】少女「よろしく、ぐに太。」:ポケモンBBS

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【SS】少女「よろしく、ぐに太。」

 ▼ 1 14/07/25 23:36:22 ID:fFs5QPlo NGネーム登録 NGID登録 報告

・台本形式でなく、地の文メイン
・人によっては気分を害すかもしれない要素を含みます(離婚、家庭崩壊など)
・誤字誤用申し訳ない
以上ご注意下さい。




昔、ポケモンという生き物は世界中どこにでもいたらしい。人間とポケモンは当たり前に一緒に暮らしていて、遊んだり、戦ったり、力を合わせて生活をしていた。
そんな、教科書の文章を見たって、あたしには全然、そんな世界想像できなかった。今じゃポケモンは、都会から離れたどこか遠い土地で、人の手で管理されたパークの中にほんの少しの数保護されているだけだ。火を吐いたり、電気を出したりする生き物を連れて歩くなんて危ないんじゃないのとも思うし、それが当たり前だった世界が、たった五十年くらい前まで続いていたなんて所詮生まれて十年ちょっとのあたしには実感しようもないことだった。
ただ、とあたしは考える。この、目の前にいる、ぐにぐにしたピンク色の生き物、こいつはどうやらそのポケモンに間違いないらしい、と。
 ▼ 37 14/07/26 00:18:59 ID:sV3i2SFA [1/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「えっと、じゃあちょっと教えてくれるかな。名前は?」

パイプ椅子に座って、おじさんのくれたあったかいお茶を飲みながらあたしは答えた。

「そう。それじゃ、お父さんかお母さんの電話番号とか、わかるかな。おうちの番号でも。」

電話、と言われて、パパが残していった番号を思い出した。それから、部屋から出て来ないママも。

「…いません。」
「えっ?」
「家はあるけど、連絡できる親は、いません。」

そう言うと、おじさんがすごく悲しそうな顔になった。どうにも良い人そうなおじさんにそんな顔をさせてしまうとちょっと申し訳ない気がしたので、あたしは続けてフォローした。

「でも、大丈夫です。あたし、もう成人したから平気です。ちゃんと、一人でなんでもできるし、ほんと、大丈夫です。」

これでおじさんも安心するかなって思ったけど、おじさんはますます悲しそうな顔になると唇を噛んだ。
 ▼ 38 14/07/26 00:20:44 ID:sV3i2SFA [2/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「成人したから大丈夫、なんてこと、無い。君はまだまだ、子供じゃないか。大丈夫、平気、なんて言わなくて良いんだよ。」

そう苦しそうな声でおじさんは言って、あたしの頭を優しく撫でた。それで、ああ、このおじさんは本当に良い人なんだなって思った。
昨日から涙腺の緩んでいるあたしはもうちょっとで泣いてしまいそうだったけど、そうしたらきっとこのおじさんの方がわんわん泣いちゃうんじゃないだろうかって思う。

おじさんは詳しいことは聞かなかった。朝になったら送って行くから、今晩はここに泊まりなさいと言って交番の奥の部屋に通してくれて、これしか無くて悪いけどと謝りながらあったかいカップうどんをくれた。
あたしはこっそりうどんをぐに太と分け合って、それからぐに太の入ったリュックサックを抱きしめて布団に潜った。眠る前、助けてくれてありがとう、と呟くと、リュックサックがぶるっと震えた。
 ▼ 39 14/07/26 00:22:00 ID:sV3i2SFA [3/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
朝。おじさんは駅まで連れて来てくれた。
家まで送る、と言ってくれたけど、パークのある町の名前を言って、もう電車に乗るだけだからと説得した。
優しいおじさんに嘘を吐くのは申し訳ないなって思ったけど、でもどうしてもパークに行かなくっちゃならない。

おじさんはおにぎりを二つとお茶を買ってくれて、電車が来るまでずっと一緒にいてくれた。電車が来て、あたしが乗り込む時、おじさんは元気でな、と言った。暖かい目だった。

電車の中はがらがらだった。朝早いし、田舎の方に向かう電車だから、乗る人はほとんどいないみたいだ。
あたしは一応周りを見回してから、ぐに太をリュックサックから出した。おにぎりを一個ずつ分けて、目的地に着くのを待った。ぐに太はずっと、興味深そうに窓から外を見ていた。
 ▼ 40 14/07/26 00:23:36 ID:sV3i2SFA [4/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
辿り着いた町は、広いけどあんまり物が無くて寂しい感じだった。
ポケモンパークこちら、と書かれた大きな看板はすっかり日差しや雨で色褪せていて、一緒に描かれたポケモンらしい絵ももうなんなのかわからない落書きみたいになってしまっていた。
案内の通りに歩いていきながら、あたしはちょっとどきどきした。ぐに太も、たぶんそうだろう。背中のリュックサックが、時々ぶるりと震えた。
この道を歩いて十五分、と書いてあったのに、あたしの足では三十分近くかかって、やっとパークに辿り着いた。

「あっ、ポケモン!」

そこには、確かにポケモンがいた。牧場みたいな柵の中に、色んな種類のポケモンが思い思いに寝そべっている。
でも、なんだか皆元気が無かった。じっと寝たまま動かなかったり、俯いて座っていたり、皆ちっとも楽しそうじゃない。
 ▼ 41 14/07/26 00:24:33 ID:sV3i2SFA [5/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
柵に身を乗り出すようにしてポケモンの様子を見ていたあたしに、後ろから声がかけられた。

「おや、ポケモンを見に来たのかい?」

振り返れば、白衣を着たおじいさんがそこにいた。髪も眉毛も真っ白で、でもなんだか若々しい印象の、不思議なおじいさんだった。

「うん。でも、皆元気が無いね。…きっと寂しいんだ。」

そう言うと、おじいさんはちょっと驚いた顔をした後、笑顔になった。

「…ちょっと、中で話さないかい?良かったらポケモンのこと、色々聞いて欲しいんだ。」
 ▼ 42 14/07/26 00:25:48 ID:sV3i2SFA [6/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
おじいさんに通されたのは、パークの隣に建つ、研究所みたいな建物だった。
かなり大きな建物なのに、他に人の姿は無い。もう、ここの職員はぼく一人きりなんだ、とおじいさんは言った。
使ってない部屋もたくさんあるみたいで、一番奥の部屋にだけおじいさんの名前らしいネームプレートがかかっていた。

「やあ、お客さんだよ。」

ドアを開けながら、おじいさんが部屋の中に言う。一人きりじゃなかったっけ、と思っていると、何か黄色い小さないきものが飛び出して来た。

「ピカ!」
「わっ!ピカチュウ…?」

それは、パソコンで見た事のあるポケモンだった。ぐに太にも変身してもらったことがある。でも、鳴き声は初めて聞いた。
 ▼ 43 14/07/26 00:26:50 ID:sV3i2SFA [7/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そう、よく知っているね。」

ピカチュウはあたしの周りをぐるぐる回った後、ほっぺの赤いところをあたしの足にくっつけた。ぴりっとする感覚にびっくりしたけど、ほっぺを離したピカチュウはおじいさんの元に駆け寄りピッカ!と満足そうに鳴いた。

「…?」
「はは、ごめんね。ピカチュウ、君のことが気に入ったみたいだ。」

取り敢えず座って、お茶でも出すから。そう言われて、あたしは示された椅子に腰掛ける。
部屋を見回すと、いろいろな本、見たことも無い果物、丸いボールのような何か、知らないものがたくさんたくさん溢れていた。

「ピーカ?」

あたしが目を奪われていると、ひょい、とピカチュウが膝の上に乗ってくる。それから、くんくんあたしの手やお腹の匂いを嗅ぎ始める。
 ▼ 44 14/07/26 00:28:41 ID:sV3i2SFA [8/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「こらこら、ピカチュウ!女の子にそんなことしたら失礼だろう。」

お茶を持って戻って来たおじいさんが、慌てて窘めた。ピカチュウは首を傾げながらあたしの膝から降りた。

「いや、本当にごめんね。はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「どうも、君はポケモンに好かれるようだね。もしかして、今十歳くらいかい?」
「あ、はい。」

おじいさんはますますにこにこ笑った。皺の寄った目元で、どこか遠くを見るような顔をする。

「懐かしいな。十歳の頃、ぼくは初めて旅に出た。十歳っていうのは、自分のポケモンを連れて、旅に出ることが許される年齢だったんだ。色んな所に行って、色んなポケモンに出会ったなあ。」
「旅って、一人で大変じゃないんですか。」
「そりゃあ、大変だった。でも、ポケモンが一緒だったから、寂しくなかったしワクワクした。次はどんなものが見られるだろう、どんなポケモンに出会えるだろうって。」
 ▼ 45 14/07/26 00:30:07 ID:sV3i2SFA [9/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
話しながら、おじいさんは優しい目でピカチュウを見る。ピカチュウはといえば、今度はあたしが下ろしたリュックサックが気になるみたいでその周りをうろうろしている。

「あれから、あっという間に五十年か。こんな風になるなんてあの頃は考えたことも無かった。車がどんどん道を走るようになって、草原や森は無くなり、ポケモン達は居場所を失った。都市に適応していたポケモン達も、事故や誤作動の原因だと言われて駆除された。残った貴重な個体が愛玩動物としてたらい回された末に絶滅してしまったポケモンもいるし、人間とひっそり暮らしていたポケモンも次第に野蛮だ、危険だと居場所を追われた。」
「…。」
「ぼくも、何人もの仲間達と必死に抗議したんだけどね。駄目だった。今じゃ、もうその仲間もいない。残ったポケモンを必死に掻き集めて、なんとか居場所を守るのが精一杯だ。それも、研究材料、観賞用、という扱いでようやく認められているわけだけど。」
 ▼ 46 14/07/26 00:31:10 ID:sV3i2SFA [10/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
あたしはテレビで見たポケモンの特集を思い出した。
変だ、面白い、可愛い、怖そう。珍しい動物として、レポーターが大騒ぎしながらポケモンを紹介していた。餌を差し出して食べた食べたと喜んだり、何か芸はできないんですかと聞いたりもした。

「ポケモンは、人間が思うよりずっと賢いし、きちんと心を持っている。だから君が、ポケモン達は寂しいんだと言った時、僕は本当に嬉しかったんだよ。そう。彼らはもうずっとずっと寂しいままなんだ。そして悲しいことに、もう自分達に先が無いのだとしっかり理解してしまっている。少しでも元気になってもらおうと頑張っているけれど、もう、難しいのかもしれないね。」

おじいさんは笑った。悲しい笑顔だった。
 ▼ 47 14/07/26 00:32:35 ID:sV3i2SFA [11/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
その時、ずっとリュックサックの様子を検分していたピカチュウが、ピカ!と鳴いてリュックサックに軽い電気を走らせた。
おいおい、とおじいさんは慌て、あたしも思わず青くなる。少しして、ぶるっ、とリュックサックが震えると隙間からぐに太が零れ落ちて来た。

「ぐ、ぐに太!大丈夫!?」

心配して声をかけるが、ぐに太はすぐにぷくっと膨らむ。それから、ピカチュウをじっと見た後、自分もピカチュウの姿になった。

「ピカ!」

ピカチュウが、嬉しそうにぐに太にじゃれつく。ほっぺを合わせたり、しっぽをくっつけたり、おおはしゃぎだ。
 ▼ 48 14/07/26 00:33:49 ID:sV3i2SFA [12/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
元気そうなぐに太の様子にあたしがほっとしていると、おじいさんが目と口を真ん丸にしていた。

「これは…これは、メタモンかい?驚いた、もう、見るのは何十年ぶりだろう。」
「あ…結構前に、うちに忍び込んで盗み食いをしてたんです。ぐに太って呼んで、それからうちに住んでたんだけど…。」

やっぱり、まずかったですか。貴重なポケモンを、うちに隠してて。そう聞くと、おじいさんはぶんぶんと首を振った。

「そんなこと無いさ!なるほど、君はポケモンと一緒に暮らしていたんだね。ぼくは、とっても嬉しいよ。それが、ポケモンのあるべき姿の一つだと思うからね。」

ぐに太は、なんだかすごく楽しそうだった。良かったら、他のポケモンとも会って行くかいと言われて、あたしはぐに太を連れておじいさんとパークに戻った。

パークで、ぐに太は色んなポケモンに変身した。はじめは元気無く地面に伏せていたポケモンも、次第に不思議そうにぐに太に近付いたり、じゃれあったりするようになった。
もう、このパークにもいないポケモンの姿にもなって見せるぐに太を見て、おじいさんは少年のように目を輝かせた後、静かに泣いていた。
 ▼ 49 14/07/26 00:35:29 ID:sV3i2SFA [13/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ありがとう、本当にありがとう。あんなに元気なポケモン達の姿を見たのは、本当に久しぶりだ。」

昼ごはんを食べるのも忘れてぐに太達を見ている内に、夕暮れが迫っていた。
何度も何度も、おじいさんはあたしとぐに太にお礼を言った。ぐに太はまたピカチュウの姿になって、足元でおじいさんのピカチュウとじゃれている。
その様子を見て、おじいさんは何か口を開きかけて、でも何も言わずに閉じた。だから、あたしが代わりに言うことにした。

「…あたし、前に調べたんです。メタモンのこと。色んなポケモンに変身できて、色んなポケモンとタマゴを残すことも出来るって。」

おじいさんは、はっとした様子であたしを見た。

「ぐに太がここで暮らせば、きっと前よりポケモン達は寂しくなくなって、上手く行けば、新しいポケモンの赤ちゃんが産まれるかもしれない。そうですよね。」
「ああ、確かに、それはそうだ。」

おじいさんはゆっくりと頷いた。
 ▼ 50 ーマルド@リニアパス 14/07/26 00:36:08 ID:9vd1mzBs [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
これは良スレ
 ▼ 51 14/07/26 00:37:31 ID:sV3i2SFA [14/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「でも、さっきも言った通り、ぼくは心の通じたポケモンと人間が一緒に暮らすのが一番だと思っている。ぐに太は、君の家族なんじゃないのかい。」
「はい。ぐに太は、ぐに太しか、もう、あたしには…でも、あたしも、こんなに楽しそうなぐに太、初めて見た。きっと、ぐに太もひとりぼっちで寂しかったんだと思うんです。」

あたしはぐに太のそばにしゃがんだ。
ぐに太は不思議そうにこっちを見た後、あたしの元気が無いと思ったのかピカチュウの姿のまま器用に顔だけぐに太になって見せた。ふふ、と笑ってぐに太の頭をぐいぐい撫でた。

「そうか。君が、ぐに太のトレーナー、パートナーだ。今日はもうこの時間じゃ電車も無いだろうし、泊まって行っていいから、ゆっくり考えなさい。ずっと遠く、もっと都会の方から来たんだろう?」

あたしはちょっとびっくりして、おじいさんを見上げた。おじいさんは悪戯っぽく笑う。

「そのランニングシューズ、僕も昔使っていたところの最新作だ。こんな田舎じゃ、なかなか手に入らないからね。」
 ▼ 52 14/07/26 00:40:24 ID:sV3i2SFA [15/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
研究所の仮眠室を一つ貸して貰って、あたしはベッドに腰掛けていた。
夜ごはんに食べた、おじいさん手作りのお菓子みたいに甘いカレーで胃の中がいっぱいだ。チョコレートが隠し味だって聞いたんだけど、とおじいさんは頭をかきながら苦笑いしていた。一緒に食べたぐに太は、あたしの足元でそれはもうべったりと床に伸びている。相当にご不満らしい。

「ぐに太、もしここで暮らすことになったらさ。」

あたしが声をかけると、ちょっとだけぐに太が膨らむ。

「毎日毎日、あの破壊的な料理、食べることになるかもね。平気?」

ぐに太はぶるるっと震えた。でもその後、あたしの顔をじっと見てくる。

「…ごめんね、ちょっと、ずるい言い方した。大丈夫だよ、ポケモンにはちゃんとおいしいごはんを準備してるって。」
 ▼ 53 14/07/26 00:42:06 ID:sV3i2SFA [16/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
ぐに太はするするとベッドによじ登って来た。そして、あたしの隣に収まる。

「ぐに太、ぐに太はどうしたい?ここで暮らすのと、うちで暮らすの、どっちがいい?」

ぶるぶるとぐに太が震える。うん。そうだよね、あたしも、簡単に決められない。

家に残して来た、ママのことを考えた。もっと早く帰る予定だったけど、三日留守にしてしまうことになる。
夕食前に、お家の人に連絡した方がいい、事情はぼくが説明すると言われたけど、許可は貰って出て来たから大丈夫ですと誤魔化した。今頃、どうしてるかな。ごはんを運ぶ人間がいなくて困ったな、くらいには思ってるだろうか。学校も、ママが連絡するはずは無いからもしかしたら迷惑をかけているかもしれない。
 ▼ 54 14/07/26 00:44:48 ID:sV3i2SFA [17/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
ぐに太がいなくなった家を想像してみた。ただいまって言うことがなくなって、一人でずっとテレビを見て、一人でごはんを食べる。ぐに太に会う前のあたしの生活に戻る。なら、別に、困らない。一度出来てたんだ、もう一度出来ないってことはない。

嘘だ。

本当は、すごくひとりぼっちになるのが怖かった。寂しいって気付いてしまったら、心に穴が空いたみたいにひゅうひゅう音を立てる空洞が広がって行った。

「ぐに太…。」

ぴったり、ぐに太があたしに寄り添った。ぐに太はなんにも喋らないけれど、すごくすごく優しいんだってあたしは知っていた。
昼間見た、ポケモン達の楽しそうな様子を思い出した。元気を失って動かないポケモン達を、一生懸命励ますぐに太の姿。
 ▼ 55 14/07/26 00:46:40 ID:sV3i2SFA [18/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
ふと、きっとママも同じなんだ、と気が付いた。
ママだって、パパがいなくなって、寂しくて、悲しいんだ。寂しくて、もう先が見えなくて、動けなくなっている。だったら、ぐに太がしたように、あたしがいっぱいいっぱいママを励ましてみたらどうだろう。
思えば、パパがいなくなってから、ちゃんとママと話したことは無かった。ずっと泣いて部屋にこもって、あたしの声に返事もしなかったから、あたしもママと話すことを諦めてしまっていた。
頑張っても、駄目かもしれない。もう、ママが返事してくれることは無いかも。でも。
でも。

「……ぐに太。あたし、たぶん、決められると思う。ぐに太も、明日起きたら考えたこと、教えてね。」

ぐに太は、動かなかった。きっと、ぐに太も一生懸命考えているのだ。

それから、あたしはもう何も言わなかった。黙ったまま、あたしとぐに太はじっと寄り添っていた。
 ▼ 56 14/07/26 00:47:50 ID:sV3i2SFA [19/27] NGネーム登録 NGID登録 報告

その日、眠りに着いた後、あたしは夢を見た。
ぐに太が、パークのポケモンや、たぶん、その子供かなって思う小さなポケモンに囲まれている夢。ぐに太はとっても幸せそうで、それを見ているあたしもにこにこ笑っていた。

ああ、これなら大丈夫だ、と思った。
 ▼ 57 14/07/26 00:50:10 ID:sV3i2SFA [20/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌朝。
おじいさんが作ってくれた、玉子焼きのはずだったんだけどという甘い甘いスクランブルエッグを食べて、あたしはぐに太とパークに向かった。
おじいさんは、あたしがどちらを選んだのか聞かなかった。少し離れた所で、あたしとぐに太を見ていた。

「ぐに太。」

パークの前で、あたしとぐに太は向き合った。すう、と息を吸い込む。

「ぐに太は、ここで暮らすべきだと思う。あたしは、そうしてほしい。」

ぐに太はぴくっと動いたが、じっとこちらを見返した。

「最後は、ぐに太に任せる。でも、これがあたしの決断。」

少し間があった。
やがて、するっ、と音も無くぐに太が上に伸びた。それから、あたしの顔をじいっと、本当に長いこと見つめた後。すっと頭を下げるように身体を折った。

「うん。…うん。」

滲んだ視界でぐに太が膨らんだかと思うと、初めて会った時と同じ、あたしそっくりになったぐに太がぎゅうっとあたしに抱きついて来た。

「ありがとう、ぐに太。頑張れ、あたしも、頑張る。」

抱き締める力が痛いくらいに強まった。それが、喋ることのできないぐに太の言葉だった。
 ▼ 58 14/07/26 00:51:56 ID:sV3i2SFA [21/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
ぐに太と、おじいさんが駅まで送ってくれることになった。ホームに並んで、電車を待つ。
名残惜しいけど、家までまた八時間かかるから、早めに出ないと今日中に帰れない。ママと向き合おう、と決めたんだし、ずっと留守にしたせいでもしママが困ってたら早く助けてあげなくちゃ。

田舎の、端っこにあるこの町は電車の終着駅だ。予定の発車時刻が近付く頃、向こうからやってきた電車が乗客を吐き出した。からっぽになったら、今度はあたしを乗せて帰って行く。


「ーーー!」


あたしは、びっくりして固まった。もうずっと聞いていなかった声が、あたしの名を呼んでいた。
ぱらぱら歩き出す人波の向こう、窶れて、髪だってぼさぼさで、でも間違いない、あたしのたった一人のママがこちらに向かって駆け出していた。
 ▼ 59 14/07/26 00:53:01 ID:sV3i2SFA [22/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「…ママ?」

「ああ、良かった、良かった…!」

ママは力一杯あたしを抱き締めた。ずっと部屋にこもっていたせいで、ちょっと走っただけなのにぜえぜえ肩が揺れている。

「無事で良かった、ごめん、ごめんね…」

ぽたぽた、背中がママの涙で濡れた。発車ベルが鳴って、あたしの乗るはずだった電車がゆっくりとホームから滑り出て行く。
 ▼ 60 14/07/26 00:54:37 ID:sV3i2SFA [23/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
ママはもうぐずぐずに泣いていて、だからきっとつられてあたしも泣いてしまった。
ママは何度も何度もあたしに謝った。
悲しくて辛くて、ずっと元気が出なかったこと。あたしの声は聞こえていたけど、どうしても返事をする気力も湧かなかったこと。あたしがいなくなって、呼んだあたしの名前が、もう何ヶ月も口にしてなかったものだと気付いたこと。どんなに呼んでも探しても返事が無くて、不安で、あたしにどれだけ寂しい思いをさせたのかやっとわかったこと。

とにかく駅であたしを見なかったか、どんな電車に乗ったかを聞いて探し回ってきたというママは、ぼろぼろに汚れてしまったつっかけのサンダルを履いて、お財布だけなんとか握りしめているような状態だった。
それがかっこ悪くて、でもそれだけ必死にあたしを探してくれたんだとわかって。ひとしきり、ママとあたしは泣いた。
 ▼ 61 14/07/26 00:55:40 ID:sV3i2SFA [24/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
それからしばらくして。お互いの涙が尽きた所でようやく、ママはおじいさんに気付いたらしい。

「あ、あら、こちらの方は…?」

そういえば、あたしが泊まりの許可はあると嘘をついたことがばれてしまった。でもおじいさんは、優しい目でにっこり笑ってくれた。だからあたしも涙を拭いて、笑う。

「あたし、おじいさんの所に、ポケモンを連れて訪ねに来たの。」
「ポケモン?」
「そう、あたし、ポケモンと友達になったんだよ。寂しかった時、ずっと一緒にいてくれて、たくさん遊んだりしたの。」

ね、ぐに太、と言うとおじいさんの持っていた鞄からぐに太が顔を出した。ママはびっくりした顔でぐに太を見つめる。

「あたし、ぐに太を仲間のポケモンに会わせてあげたかったの。それから、ぐに太と、色々考えて。おじいさんのパークで、一緒に暮らすようにしてもらったんだ。」
 ▼ 62 14/07/26 00:57:17 ID:sV3i2SFA [25/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
「お母さん。」

おじいさんが、穏やかに言った。

「ぼくが、この子を引き留めてしまったんです。ご心配をおかけして本当に申し訳無い。ただこの子は、大事な友達のために、ここまでやって来たんです。勝手に出て来たのはいけないけど、友達を想って頑張ったことも、認めてあげて欲しい。」
「いえ、そんな…私の方が、これまでずっといけない母親でした。この子の面倒を見て下さって、ありがとうございました。」

ママが慌てて頭を下げる。それを、おじいさんは明るく笑い飛ばした。

「とんでもない!面倒を見るどころか、ぼくはこの子にたくさん勇気と希望を貰った。だって、あれから五十年経った今、この子はやり遂げたんです。十歳の子供が、友達のポケモンと一緒に、小さいけれど立派な冒険をね。」
 ▼ 63 14/07/26 00:58:39 ID:sV3i2SFA [26/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
次の電車で、あたしとママは家に帰ることになった。
電車が出るとき、おじいさんとぐに太はずっとずっと手を振ってくれていた。
必ず会いに行くから、と約束した。おじいさんは、時々ぐに太の事を手紙で教えるとも言ってくれた。
やっぱり、寂しい気持ちはある。でも、隣に座ったママがずっと手を握っていてくれるから、大丈夫だ。
 ▼ 64 メモース@もくたん 14/07/26 00:59:17 ID:9vd1mzBs [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
このスレのせいで今日眠れないぞどうしてくれる
 ▼ 65 14/07/26 00:59:48 ID:sV3i2SFA [27/27] NGネーム登録 NGID登録 報告
電車に揺られる長い長い時間、ママはこれまでの分を埋めるみたいに色んな話をしてくれた。

「そうだ、これまで、すっかり忘れていたんだけど。ママにもね、ポケモンの友達がいたのよ。」
「ほんとに!?」
「ええ。ママは田舎の出身だったから、ママが子供の頃にはまだ森も川もいくらかあったの。その、森の中に住んでいたポケモンの所を訪ねて、こっそり一緒に遊んでいたなあ…。その内、ママの家が都会に引っ越しすることになって、それっきりになってしまったけど。あの森はもう整備されて自然公園になったそうだし、あの子は、どこかで元気にしているかしら…。」
「そうだったんだ…ねえ、そのポケモンってどんな子?」
「うーん、姿はもうはっきり覚えてないけど…ああでも、付けた名前は覚えてる。ぴょん太って呼んでたんだけど、最初、すっごく嫌そうな顔をされたっけ。ふふ、なんだかぐに太と似てるわね。ネーミングセンス、似てるのかしら?」
「さあ?…でも、似てたって良いよ、親子なんだもん。」
「…そうね。…うん。そうよね。」

ぎゅっと、ママがあたしの手を握る力が強くなった。
がたんごとん。電車は揺れる。あたしとママを乗せて、ゆっくりと帰っていく。
 ▼ 66 ロアーク@くろいビードロ 14/07/26 01:00:15 ID:Uk3mM4fE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>64
俺も俺も
一緒に夜更かししようぜ
 ▼ 67 14/07/26 01:02:05 ID:9AOmQcn6 [1/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
もうすぐ終わりです。遅くまでお付き合い頂いている方、コメントして下さった方、ありがとうございます。
 ▼ 68 14/07/26 01:03:41 ID:9AOmQcn6 [2/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
ママと家に戻った後、また色々大変だった。
その日はもう疲れ切って、家に着くなり二人とも眠ってしまったけど、朝起きるとたくさんたくさん留守電が入っていたことがわかった。学校の先生や友達のお母さんがあたしを心配して何度も電話したり探したりしていたらしい。
ママが電話をかけてあたしが無事なこと、これまで本当に心配をかけて申し訳なかったことを話したけど、また担任の先生が泣いてしまったり、お説教と心配と激励の言葉をたくさんもらったり、大騒ぎだった。
ママはすっかり体力も落ちていたけど、周りに手助けしてもらいながら、家事をしたり仕事を探したりするようになった。友達のお母さん達は、あたしに会うと、良かったね、って言うようになった。だからあたしも、笑って、うん!と答えるのだ。
 ▼ 69 14/07/26 01:05:21 ID:9AOmQcn6 [3/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
パークには、学校がお休みの時期に何度か出かけていた。ぐに太は相変わらず元気で、顔だけピカチュウであとはおじいさん、とか顔だけぐに太であとはおじいさん、とか日々新しい変身のレパートリーを増やしているらしい。
でもおじいさんシリーズは気持ち悪いからやめた方がいいよってこっそりアドバイスしておいた。

あっという間に一年が経って、あたしとママの生活もすっかり落ち着いた頃、おじいさんから手紙が来た。見せたいものがあるから、良かったら来て欲しいと書いてあった。手紙を受け取ってすぐの休み、あたしは電車に乗ってあの町に向かった。
 ▼ 70 14/07/26 01:07:39 ID:9AOmQcn6 [4/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
辿り着いたパークで、ポケモン達は見違えるくらい元気になっていた。皆目がきらきらしている。もう、未来を諦めた、寂しい顔のポケモンはいない。

満面の笑顔であたしを迎えたおじいさんは、まるで子供のように浮き足立った様子であたしを研究所に案内した。一番奥の部屋、扉を開けて、お客さんだよ、と中に向かって言う。

「ピチュ!」
「ピ?」

ころころっと、小さな生き物が二匹飛び出して来て、興味津々という顔であたしを見た。

「この子達、もしかして…。」

二匹はくるくるあたしの周りを回ると、それぞれほっぺたをあたしの足にくっつける。ぱりっ、と弾ける感覚がして一匹がこてんとひっくり返るが、すぐに起き上がって二匹揃って奥に駆けて行く。

「ピ!」
「ピチュピ!」
「ピー、ピッカ!」

二匹はピカチュウに楽しそうにじゃれつき始めた。なんだか、見た目も仕草もよく似ている。
 ▼ 71 14/07/26 01:09:15 ID:9AOmQcn6 [5/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
おじいさんが笑って頷いた。

「そう、新しく、この研究所で生まれた子だ。まだ、どこにも発表してないんだけどね、君に、一番に見せたくて。」

と、その時。
シンクの方から、顔だけルージュラのおじいさんがばあっ、と出てきた。二匹はそれを見てけたけた大喜びするが、おじいさんは微妙な顔をしている。

「やめるように頼んでるんだが、聞いてくれないんだよ…。」

「ぐに太。」

あたしが呼ぶと、ぐに太はこちらに駆け寄った後元のぐにぐにに戻った。あたしはしゃがんで、ぐに太を抱き上げる。

「ぐに太、お父さんになったんだね。あ、もしかしたらお母さんかな?…ふふ、おめでとう。」
 ▼ 72 14/07/26 01:11:23 ID:9AOmQcn6 [6/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
「この子達が生まれた事が、他のポケモン達にも大きな希望になっている。近い内に、世間にも公表するつもりだ。最初は、珍しい動物の赤ちゃん扱いだろうが…この体が持つ限り、ぼくはポケモン達のために、力を尽くすよ。」

決意を燃やすおじいさんに、あたしは振り返る。

「…実は、あたし来年初等学校を卒業したらこっちの学校に通おうと思うんです。ママとも話し合って、そうしなさいって言ってくれました。」

おじいさんが驚いた顔になる。

「あたし、ずっとママの手伝いを続けてるから、料理の腕はかなり良いんですよ。ぐに太の好物だって前よりもっと上手に作れるし、何より、おじいさんもちゃんとした料理を食べて、ポケモンのために長生きして貰わないと。それで、あたしにたくさん、ポケモンのこと教えて下さい。」

にっこり、あたしは笑って見せる。おじいさんは目をパチパチさせて、目を潤ませた後頷いた。

「全く、君には何度お礼を言っても足りないな。…本当に、本当にありがとう。」
 ▼ 73 14/07/26 01:13:16 ID:9AOmQcn6 [7/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモン達の扱いは、きっと簡単に変わらない。
自然やポケモンを押し退けて発展してきた街に当たり前にあたしたちは暮らしていて、あたしだってきっとぐに太に出会わなかったら一生ポケモンの事なんて考えもせずに過ごしていた。

でも、あたしみたいにポケモンと出会うことで救われる人間はきっとたくさんいる。人間と出会って幸せになるポケモンも、きっと。
なら、あたしは頑張ってみたい。一人じゃない、ママや、おじいさんや、ぐに太、皆の助けがあるから、きっと大丈夫。

「だからこれからも、よろしく、ぐに太。」
 ▼ 74 14/07/26 01:15:23 ID:9AOmQcn6 [8/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
以上で終わりです。

はじめ、見づらい構成でご迷惑をおかけしてすみませんでした。
ややご都合展開が多かったり、反省点は多々ありますが、ここまで読んで下さった方、支援やコメントを下さった方、本当にありがとうございました。
 ▼ 75 イナン@ピントレンズ 14/07/26 01:17:48 ID:KhG2GM5I NGネーム登録 NGID登録 m 報告
乙です
 ▼ 76 ワライド@ディアンシーナイト 14/07/26 01:29:34 ID:Uk3mM4fE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です
じんわり心があったかくなる素敵なお話でした
おじいさんはサトシなのかな?
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