【たぶん】フーパ『フーパ、サートン、たすける!』【劇場版】:ポケモンBBS(掲示板) 【たぶん】フーパ『フーパ、サートン、たすける!』【劇場版】:ポケモンBBS

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【たぶん】フーパ『フーパ、サートン、たすける!』【劇場版】

 ▼ 1 15/08/13 18:49:45 ID:l8bFfsPI [1/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケットモンスター。

略称「ポケモン」。

この地球に生息する、ふしぎな生き物たち。

空に、水のなかに、そして大地に・・・

きっと世界中のいたるところに、その姿を目撃できるだろう。
 ▼ 2 1 15/08/13 18:50:02 ID:l8bFfsPI [2/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
100年前、茫漠と広がる砂の世界の中心に、ある村があった。

そこは経済的に発展しており、豊かな街でもあった。

しかし何百人、何千人という人々の顔には、不安げな色が浮かぶ。

これから起こる何かに、酷く怯えているのだ。

かれらの視線の先は、砂漠ではめずらしい、おおきな湖に集中した。

上を仰げば、いまにも暴れだしそう空が。

風が駆ける音が、耳元で唸る。

その中心に、ある一匹のポケモンが佇んていた。

紫色の、魔人を思わせるような姿。

6メートルもある全身の肩関節から、屈強な腕が複数あった。

腕は肉体から離れており、不気味さが漂う。
 ▼ 3 1 15/08/13 18:50:47 ID:l8bFfsPI [3/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
その光景を不安げに見つめる、ひとりの人間が呟いた。

「あ、あのリングは!!」

人間は、空中に浮かぶ、黄金のリングに指差す。

紫色のポケモンが、それに向かって、ある言葉を言った。

『お〜で〜ま〜し〜!』

紫色のおおきなポケモンが声を上げた途端、

伝説と呼ばれたポケモンたちが、リングから飛び出したのだ。

時を司るディアルガ。

空間を操るパルキア。

海の化身カイオーガ。

陸の化身グラードン。

黒の英雄ゼクロム。

白の英雄レシラム。
 ▼ 4 1 15/08/13 18:51:31 ID:l8bFfsPI [4/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
人々は恐怖に顔を歪ませた。

「嫌あああ!」

「もうやめてくれぇえ!」

悲鳴。怒声。絶叫。

人間はおおきなポケモンに向かって、懇願する。

だが、その声は届かなかった。

紫色のポケモンは、当然とでも言いたげに、伝説に攻撃を仕掛けたのだ。

"悪の波導""破壊光線"

見たこともない、高威力を誇る技の数々。

伝説ポケモンも抵抗しますが、苦戦を強いられた。
 ▼ 5 1 15/08/13 18:52:01 ID:l8bFfsPI [5/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
有利である紫の巨人ポケモンは嬉しそうに哄笑する。

「おおおおおおおっ! フーパ、強ぉーい!!」

紫のポケモンの気分がますます向上する。

オモチャを独り占めするガキ大将だ。

被害は当然、周囲にも広がっていく。

黒に塗りつぶされた嵐雲。

悲鳴をかき消すほどの暴風雨。

轟音とともに降り注ぐ、閃光の束。

ぐらつく足元。

なぎ倒される木々。

倒壊していくビル。

「なぜ闘うんだ!」

「やめてくれ、フーパ!」

本能的な叫びが、あちこちに沸き上がった。

人類は絶望の淵に追い込まれたのだ。
 ▼ 6 1 15/08/13 18:54:14 ID:l8bFfsPI [6/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
そのとき――

轟然たる状況のなか、敢然と歩き出す男が一人・・・

男の眼に鋭い光が宿っており、恐怖の色がない。

不思議なツボを右手に、その足はまっ直ぐ、紫の巨人ポケモンに向かっていった。

気配に気づいたポケモンは問い掛けた。

「なんだ、おまえ?」

男は目を見開き、大きく息巻いた。

「戒めの光よ……」

男は上空に、不思議なツボを掲げ、ふたをぽんっと外した。

「ここに!!」

刹那、ツボの口が爛々と輝くと同時に、

紫のポケモンは身動きが取れなくなった。
 ▼ 7 1 15/08/13 18:55:29 ID:l8bFfsPI [7/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ぐぁ・・・っ」

まるで全身の力が吸い取られる錯覚だ。

いや、実際に力が抜け始めている。

紫色のポケモンは危機感を覚えた。

だが抵抗したくても、その勢いは止まらない。

「ぐわああああぁぁぁ!!」

たまらず呻き声をあげた。

5分後――

あっという間だった。

男が不思議なツボのふたを元に戻したとき、

あの大きなポケモンの影が、消えた。

それから現在まで、あの恐ろしい巨人ポケモンは、姿を現すことはなかった。
 ▼ 8 1 15/08/13 18:56:00 ID:l8bFfsPI [8/29] NGネーム登録 NGID登録 報告



現在――

冷たく硬い風が激しくふきあげてくる、谷の高い崖。

安全とは言い難い場所で、

ひとりの青年が、ヴォーグルの背にのって飛翔していた。

青年の名前は「バルサ」。

ある街の英雄の孫で、民族的な服装を好む。

首にかけた黄金のネックレスを揺らしながら、青年はまっすぐ前を見据えている。

「フーパ、もうすこしだ・・・ヴォーグル!」

バルサの強い想いに応えるように、ヴォーグルはさらにスピードを上げた。

すると前方に、いまにも崩れそうな洞窟が。

青年は視認すると、その心が喜びに波打った。

「着いた!着いたぞ!」
 ▼ 9 ガユキノオー@するどいツメ 15/08/13 18:56:48 ID:hmaa5iKY NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援
 ▼ 10 1 15/08/13 18:57:36 ID:l8bFfsPI [9/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
颯爽とヴォーグルから飛び降り、

逸る感情を抑えきれずに、地を蹴りだした。

道は特に入り組んでいない。

迷うことなく、疾走する。

心拍が上昇して息が苦しいが、気にする余裕が無い。

感情が高まってしかたない。

時間はそう掛からないうちに、バルサが突如、足を止めた。

「あった!」
 ▼ 11 1 15/08/13 18:58:21 ID:l8bFfsPI [10/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルサは手の震えを抑えようと、ぎゅっと拳を握りしめた。

視界に映る、不思議なツボ。

紫色に、その口付近が顔のかたちに象られた、独特のデザインだ

ツボだというのに、その中心がドーナツのような空間がある。

禍々しい光に包まれたツボは、

ヒトの手が触れないように、厳重に縛られていた。

バルサは気を落ち着かせようと深呼吸する。

ふーっと呼気を吐き出し、両手を胸の前にあげた。

「いまこそ、封印を解くとき!」

首元の華奢な飾りが、バルサの言葉に呼応するように輝きだす。

「時よ、空よ、あまねく森羅万象よ!!」

バルサは神経を束ね、力強く言葉をつむいだ。

「届け、我が言葉! 古き結びを開け!!」

首元の飾りもみるみるうちに強い光を放つ。
 ▼ 12 1 15/08/13 19:00:36 ID:l8bFfsPI [11/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
次の瞬間。

禍々しい光が拡散し、ツボが解放された。

バルサは目を輝かせ、思わず歓声をあげてしまった。

「やった!!」

高揚感に身を任せ、バルサはツボを手にした。

その刹那だった。

あの禍々しい光が凄まじいスピードで、ツボにまとわりついたのだ。

バルサは突然の出来事に驚くと同時に、意識がかすんできた。

「う・・・っ」

今、なにが起きているのか。

気が遠くなる……

――はやく……かえらな、けれ…ば…

目の前がまっくらになった。
 ▼ 13 ノマダム@チーゴのみ 15/08/13 19:02:23 ID:z2.0XwcI [1/4] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
ヴォーグル?ウォーグルじゃないの?
 ▼ 14 1 15/08/13 19:02:50 ID:l8bFfsPI [12/29] NGネーム登録 NGID登録 報告

*+*+*+*+


プールが午後の日射しを受けて、宝石をちりばめたように光っている。

今日は快晴で、太陽がギラギラと地上を熱している。

身体全体に水を浴びて、暑さを吹き飛ばしたのだ。

???「ぷはっ!」

黒髪を濡らして、水中から顔を出す少年。

ピカチュウと一緒に、プールを満喫している少年の名は「サトシ」。

マサラタウン出身で、各地方に数々の記録をハイスピートで叩きだしている、

注目の若手トレーナーだ。

本来はポケモンバトルをしたくて堪らないが、

ここ数日間、サトシは砂漠の中を歩いてきたのだ。

すこしぐらい水浴びしても、罰は当たらないはずだ。
 ▼ 15 1 15/08/13 19:03:16 ID:l8bFfsPI [13/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>13
やっちまったww
 ▼ 16 ブカス@こだいのぎんか 15/08/13 19:03:38 ID:z2.0XwcI [2/4] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
>>15
どんま
 ▼ 17 1 15/08/13 19:03:58 ID:l8bFfsPI [14/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「気持ちいな!」

琥珀色の少年がにっこりと笑えば、

ねずみ「ぴかぴ、ぴっかちゅう!」

相棒である電気鼠もにっこりと返す。

するとサトシの背後から、かわいらしい幼女の声が。

???「サトシ!」

金髪を揺らして呼びかけるのは、ユリーカだ。

ユリーカ「見てみて! ポケモンがいっぱい!」

ユリーカは年齢的にポケモンの所持は認められない。

また好奇心も豊かなため、目の前に現れるポケモンにはしゃぐのだ。

ちなみにサトシもポケモン馬鹿だ。

純粋な子供のように、琥珀の瞳をきらきらさせる。

サトシ「おお! カバルドンにディグダ、ダグトリオだ!」

ユリーカ「ヒポポタスもいるよ!」
 ▼ 18 リゴンZ@しあわせタマゴ 15/08/13 19:03:59 ID:z2.0XwcI [3/4] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
>>15
見てるぞ支援
 ▼ 19 1 15/08/13 19:04:48 ID:l8bFfsPI [15/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
平和な雰囲気を醸し出すかれらに、ユリーカの兄、シトロンがくすっと笑った。

糞マロン「りまりまぁ」

パンダ「チャムチャム!」

騒がしいと感じたシトロンは、視線を向けると、

シトロン「ハリマロン、ヤンチャム、危ないですよ!」

それでも彼らは楽しそうに、スタ○ウォーズごっこを繰り広げるだけだ。

シトロンが呆れたようにため息を吐くと、

今度は違う方角から、「じゃじゃ〜ん!」と声が届いた。

シトロンは再び視線を動かせば、ブロンドの単発と、碧い瞳が印象的な少女が、

お皿にてんこもりのドーナッツをのせて、やってきた。

セレナ「でーきまーした〜!」

彼女はスイーツづくりが大好きで、お洒落に敏感な子でもある。
 ▼ 20 1 15/08/13 19:09:25 ID:l8bFfsPI [16/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
最高の逸品ができたとでも言いたげに、セレナはウィンクした。

セレナ「今日は特性!ドーナツ型ポフレよ!」

シトロン「ポフレでしたか!」

糞マロン「りまりま〜!」

ダイエットを繰り返すハリマロンが、うるうると目を輝かす。

食べる気満々だが、制限を加えなければならない。

シトロンが注意を促しながら、ティータイムを楽しむ。

サトシとユリーカも心置きなく味わうなか、

セレナが期待に胸を膨らませながら語りかけてきた。

セレナ「もっとおいしいドーナツ、食べに行かない?」

その言葉にピカチュウとハリマロンが耳聡く反応した。

糞マロン「りまぁ!!」

ねずみ「ぴかー!」

サトシ「おう!食べたい!」

サトシとピカチュウはもぐもぐ食べながら、とびきりのスマイルを浮かべた。
 ▼ 21 1 15/08/13 19:11:25 ID:l8bFfsPI [17/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
好意的な返事を聞いたセレナは、自慢の桃タブレットを指でサクサク動作し、

「じゃじゃーん!」の声とともに、立派な街ビルの写真をみせてきた。

セレナ「この先の『デセルシティ』!」

彼女の青眼が楽しげに揺れる。

セレナ「名物がドーナツなんだって!」

そこでシトロンが悟った。

セレナ「ほかにもね、幻のポケモンにまつわる、観光名所があるんだって!」

サトシとピカチュウの耳が、ピクリと反応した。

シトロンは「やはり」と苦笑した。

デセルシティとは大きく発展した街で、

流行に敏感なセレナにとっては、足を運びたい思いだろう。

サトシ達は見事、「幻のポケモン」という言葉に釣られたわけだ。

ユリーカも興味津々だ。

まあ、偶の寄り道もいいだろう、とシトロンも賛成した。
 ▼ 22 1 15/08/13 19:13:25 ID:l8bFfsPI [18/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
そのときだった。

糞マロン「りま〜〜っ!!」

サトシたちは目がテンになった。

ハリマロンが汗を流しながら、立派な炎を吐き出したのだ。

目を白黒にさせながら、苦しみから逃れるように円を描いて走り回る。

ユリーカ「うわーー!」

しかし、状況を理解していないのか、妹ユリーカは喜びの声を上げた。

ユリーカ「ハリマロンが"火炎放射"を覚えた!」

シトロン「んな訳ないよ!!」

そこで何かを発見した。

ハリマロンは右手に、トゲトゲとした赤い木の実を持っている。

これはホウエン地方でポロックの材料として使われるもの。

食べたら非常に辛いのだ。

しかし――

サトシ「どうして、ここ・・・に?」
 ▼ 23 1 15/08/13 19:17:20 ID:l8bFfsPI [19/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
フ、とサトシの背後に気配を感じた。

そろ〜り背後越しを見つめると、口が開いた。

サトシ「あ!!?」

白いテーブルの上に、黄金のリングが宙に浮かんでいた。

そして、紫色の丸い物体が輪から、のぞきこんでいる。

ドーナッツを一個掴んだのだ。

ねずみ「ぴかぴ!」

サトシ「待て!!」

状況がうまく把握できないが"泥棒"は悪い働き。
 ▼ 24 1 15/08/13 19:18:36 ID:l8bFfsPI [20/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシは咄嗟に、紫の物体ごとドーナツを掴んだ。

――あの先になにかいるはずだ!

全開パワーで引っ張って『正体』を掴んでやる、と力んだが……

サトシ「うわぁ!!?」

ねずみ「ぴ〜かぁ!!?」

綱引きが成立したかも分からない。

力負けしたサトシとピカチュウは叫び、セレナとシトロンは目を見開いた。

シトセレ「「サトシ!ピカチュウ!」」

サトシ「うわぁあああああああああああ!」

二人のの姿は、黄金のリングの向こう側へ吸い込まれてしまった。
 ▼ 25 コン@つめたいいわ 15/08/13 19:20:01 ID:i7PoCw7I NGネーム登録 NGID登録 報告
支援

これマジで映画? 見てないからわかんないんだけど
 ▼ 26 1 15/08/13 19:21:16 ID:l8bFfsPI [21/29] NGネーム登録 NGID登録 報告

*+*+*+*+*+*


サトシは一瞬、眩しい光を喰らって、まぶたを閉じた。

目の奥がすこし痛い。

身体が宙に浮かんだような感覚も覚え、

サトシは不思議な現象に戸惑っていた。

次の瞬間。

???「おーでましー!!」

サトシ「いってぇええ!」

身体が壁に突き飛ばされたような、痛い衝撃を受けたと同時に、

子供のような、無邪気で高い声が、サトシの耳に響いてきた。

???「ん?」

サトシ「〜〜〜〜っ!」

なにがなんだがサッパリだ。

とにかく、自分が今どこにいるのか、目を開けて周りを見渡すと、

視界に飛び込んできた、大きな街並みに面食らった。
 ▼ 27 1 15/08/13 19:21:58 ID:l8bFfsPI [22/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>25
初日公開に観たから、うろ覚えになりかけてる
 ▼ 28 1 15/08/13 19:27:14 ID:l8bFfsPI [23/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「こ、ここは……デセルシティ!?」

ねずみ「ぴかーちゅう!」

先程、タブレット画像で見た、あの都会にそっくりだからだ。

耳を澄ませれば、人の足音や車の騒音が飛び交う「生活音」まで聞こえそうだ。

しかし、サトシは疑問に思った。

バッと背後に振り向き、サトシは小さなリングを凝視した。

リングは太陽の光を浴びて輝き、キラリと音を奏でそうだ。

サトシ「まさか、この穴から来たのか?」

???「イシシシシ!びっくりしたぁ?」

サトシ「うぉ!!?」

今度は見られないポケモンが、サトシの視界に入り込んできた。

悪戯に成功したような笑顔を浮かべて、感想を聞いてくる。

サトシ「び、びっくりした」

???「イシシシシ!」

実に愉快そうな声だった。
 ▼ 29 ククラゲ@キズぐすり 15/08/13 19:29:28 ID:z2.0XwcI [4/4] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援age
 ▼ 30 1 15/08/13 19:30:50 ID:l8bFfsPI [24/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
紫色のちいさなポケモンは、牛の角みたいな耳にリングをひっかけ、

くるりと宙を旋回してから、自己紹介を始めた。

???「フーパって言うの……これ、見たことない?」

ねずみ「ぴかぁ?」

赤い頬がトレードマークの、黄色の生き物に首を傾げた。

サトシは思い出す。ピカチュウはカントー地方に生息するポケモン。

カロス地方にとって、珍しいポケモンに分類されるのだろう。

サトシは琥珀色の目を細めて、自慢の相棒を紹介した。

サトシ「ピカチュウって言うんだ!!」

ねずみ「ぴか、ぴかちゅう!」

サトシ「んで、俺がサトシ!」

するとフーパは顔に満面の笑みで言った。
 ▼ 31 1 15/08/13 19:32:20 ID:l8bFfsPI [25/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「サートン!ピーカン!」

サトシ「え?」

琥珀色が当惑気に揺れる。

サトシは何度か正しい名前で呼ぶよう繰り返すが、

フーパには上手に発音ができない様子だ。

ピカチュウとサトシは、まだ幼い子供なのだろう、と諦めた。

するとフーパが閃いた!とでも言いたげに、サトシの周りを飛び始めた。

フーパ「サートン、ピーカン大好き?」

サトシとピカチュウを視線を絡ませ、

フーパに負けないぐらい、とびきりの笑顔で答えた。

サトシ「ああ、大好きだ!」

お望みの答えが返ってきて、にやりと笑い、

フーパが黄金のリングを掴んだ。
 ▼ 32 1 15/08/13 19:40:46 ID:l8bFfsPI [26/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「ピーカン大好き!!」

小さなポケモンは円を描くように旋回する。

フーパ「フーパ、おーでましー!!」

元気いっぱいの声と一緒に、輪が大きく広がり、

その中心から大量のピカチュウが、滝のように溢れ出したのだ。

たまに野生で発言する、大量発生チュウより、大漁である。

目前の出来事に、サトシは呆然と眺めるしかなかった。

フーパ「サートン、びっくりしたぁ?」

その顔を拝めたかったのか、フーパは楽しそうに躍る。

フーパ「サートンのピーカン、ど〜れだ?」

フーパはからかう口調で、サトシを試してきた。

本人はその心算はないのか分からないが・・・

すると黒髪の少年はニヤリと、挑戦する目つきを向けた。

サトシ「え、決まってんじゃん!」

フーパの顔が硬直した。

イシシシ!と笑うのはサトシの方だった。
 ▼ 33 1 15/08/13 19:42:27 ID:l8bFfsPI [27/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
そのまま何でもないとでも言いたげに、腰を下ろしたのだ。

サトシ「こーれだ!」

ねずみ「ぴかぴ〜!」

サトシは確信を持って、ピカチュウの身体を大事に抱きかかえたのだ。

ピカチュウも安心しきった顔で甘えるように、サトシの胸に擦り寄る。

その仲良しぶりと予想外の結果に、フーパは呟いた。

フーパ「え〜!? フーパ、つまんなぁい!」

悪戯に失敗して、すっかり落ち込んだフーパは、

壁に殴りつけてストレスを発散させていた。

サトシ「おいおい・・・」

ねずみ「ぴーか」

???「ふぉおおお!」

サトシの肩が僅かに跳ねた。
 ▼ 34 1 15/08/13 19:45:41 ID:l8bFfsPI [28/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
聞き覚えのある鳴き声に、サトシはまさかと、上空を仰いだ。

姿を確認したとたん、サトシは懐かしい思いで胸がいっぱいになった。

サトシ「ラティオスだ!」

青と白を基調とした、珍しいドラゴンポケモン。

それだけではない。

対の存在である、夢幻ポケモン、ラティアスもいるのだ。

まさかの遭遇に、サトシは胸を躍らせる。

が、様子がおかしい・・・

敵意や殺意は感じないが、非常に怒っているのだ。

滞空しながら、鳴き声をあげると、

フーパが困ったように文句を言った。
 ▼ 35 らんな。 15/08/13 19:46:13 ID:gvmQSdUQ NGネーム登録 NGID登録 報告
セレナ「ふふっ...♪」

セレナは慢心の笑みを浮かべると、大きなタワーが写っている写真を取り出した。

セレナ「またまたじゃじゃ〜ん!」

セレナ「この先の『デセルシティ』!ドーナツが名物なんだって!」

セレナ「他にもね、幻のポケモンに纏わる、観光名所もあるんだって。行ってみない?」

サトシ「幻のポケモンかぁ...‼︎ よしっ‼︎次の目的地は『デセルシティ』だ‼︎」

ピカチュウ「ピカピカ!ピッカピカァ!」

その時だった。

ポフレの上に、謎の黄色いリングが現れたのだ。

そして、リングから紫色を帯びた小さな腕が出てきたが、

サトシ達はまだその異変に気づいていない。

腕の様な妙なモノは、ポフレを掴み取り、またリングの中に戻っていった。

と、思いきや、腕は又もや現れた。その掌には、『マトマの実』が握られていた。

腕は、マトマの実をお皿の上に置き、またリングの中にへと消えた。

リングは消滅した。
 ▼ 36 1 15/08/13 20:34:46 ID:l8bFfsPI [29/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>35
そういう風に書けばいいのか

こっそりとした表現って難しいや
 ▼ 37 Urさん◆/fS/i20Qno 15/08/13 20:55:50 ID:3tCl3lr2 NGネーム登録 NGID登録 m 報告
映画見てなくて、ここの奴等から聞いた位だけど
なかなか面白いではないかい
支援だお(´・ω・`)
 ▼ 38 ンドロス@ピーピーエイダー 15/08/13 20:57:05 ID:VjPKLblo NGネーム登録 NGID登録 報告
>>8
「バルサ」になってるけど、「バルザ」じゃない?
 ▼ 39 15/08/14 16:46:52 ID:17RBJOmI [1/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>38
またやってしまったwwww
 ▼ 40 1 15/08/14 20:02:06 ID:17RBJOmI [2/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「フーパ、ちゃんと元に戻すモン!」

頬を膨らませてぷいっとする可愛い姿に、サトシは思案気に首を傾げた。

サトシ「……ピカチュウたちのことか?」

大量のピカチュウは、黄金のリングから飛び出してきた。

そして、サトシたちも同じように、リングから引っ張られた。

つまり、断りの一言もなしに、ピカチュウ達はワープしたのだ。

言い方を悪く変えれば、拉致と同然である。

サトシは頭を掻いてから、フーパに目線を合わせた。

サトシ「フーパ、ピカチュウたちに謝ろう?」

フーパ「え〜・・・」

否定的な声に、サトシは苦笑を浮かべずにはいられなかった。

だが厳しめに言葉を続ける。

サトシ「みんなは困ってはなさそうだけど、突然だったから、驚いたと思うぞ?」
 ▼ 41 1 15/08/14 20:04:56 ID:17RBJOmI [3/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
琥珀の少年はフーパに、ピカチュウの立場を考えてほしいのだ。

悪戯好きなのは、いまの出来事だけで十分に理解した。

とは言っても、やりすぎは"禁物"だ。

幼い子でも分かるように言葉を砕き、サトシは懸命に説明した。

それを聞いて、フーパは大漁のピカチュウに視線を合わせる。

サトシ「悪気はなくても、謝らなくちゃならないことがある」

正当な言葉に、フーパの耳がぴくりと反応した。

サトシはニコッと笑顔を向ける。

サトシ「だろ?」

フーパ「・・・フーパ謝る。ごめんなさい!」

ピカチュウは一斉に(なんて言ってるか分からないが)「ぴかぴか」と声を上げた。

表情も明るいし、許してくれているのだろう。

それから、ピカチュウたちは元の場所に戻り、静かになった。
 ▼ 42 1 15/08/14 20:07:31 ID:17RBJOmI [4/29] NGネーム登録 NGID登録 報告


*+*+*+*+*+


ラティ兄「ふぉおお」

ラティオスはサトシを気に入ったのか、頬ずりをしてきた。

目を細めて、サトシの周囲をクルクルと飛び回る姿は可愛らしい。

くすぐったさに笑い声を立てるなか、サトシは改めて名前を伝えた。

先程のやりとりから考察すると、フーパの友達のようだ。

世間的に言えば、フーパのお兄さん、お姉さんといった役割だろうか?

ちらりと視線を動かせば、フーパはラティアスから絶賛お叱りを受けていた。

さすがに可哀相だと同情したサトシは、途中で会話に介入する。

サトシ「ラティアス、もうそのぐらいでいいんじゃないかな?」

ねずみ「ぴーかちゅう」

それに、シトロンやセレナが心配しているはずだ。

一刻も早く合流しなければ、ラティアスみたいに怒られる可能性が。

できれば避けたい事態である。
 ▼ 43 1 15/08/14 20:09:06 ID:17RBJOmI [5/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシが簡潔に述べると、フーパは胸を叩いた。

フーパ「分かった! お〜で〜ま〜……」

その時――

???「こら! また勝手におでましして!」

女性の怒声に、フーパは夢から覚めたような顔つきに。

じっと観察すれば、フーパの額にうっすらと汗が滲んでいる。

サトシたちも豆鉄砲を喰らい、ゆっくりと背後を振り向けば、

首からさげた華奢なアクセに見覚えのある、

青い民族的な衣装に身を包んだ、年上の少女が仁王立ちしていた。

眉間に刻む、薄い縦ジワが怖い・・・

フーパ「メ、メアリぃ」

メアリ「勝手に物を移動しちゃだめでしょう!」

フーパ「ち、ちがうもん!」

フーパは慌てて首をふるが、メアリは尚も続ける。

メアリ「ラティオスとラティアスも! 注意しなきゃ……あれ?」

民族的な少女が、目をまん丸に見開いた。
 ▼ 44 1 15/08/14 20:10:06 ID:17RBJOmI [6/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
どうやら、赤い帽子の少年にやっと気づいたらしい。

サトシ「お、俺はサトシです!」

やや上擦った声で、なんとか言葉を紡ぐ。

民族的な少女も戸惑い気味に言った。

メアリ「わたしはメアリよ、フーパの新しいお友達?」

サトシの顔がきょとん、と変わる。

琥珀の目線がフーパに移り、サトシの口が弧を描く。

サトシ「もう友達だよな?」

ねずみ「ぴっかちゅう!」

フーパは嬉しそうに宙を回転した。
 ▼ 45 1 15/08/14 20:10:37 ID:17RBJOmI [7/29] NGネーム登録 NGID登録 報告

*+*+*+*+**+*+*+*+*+*+*+**+*+*

面倒なので軽くカット挟むよ!

*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

メアリ「えーっと……」

民族衣装の少女は、困ったように笑った。

メアリ「びっくりさせてごめんね、みんな」

真摯に謝罪をのべる少女に、シトロンは「とんでもない」と答えた。

サトシの姿が消えて、シトロンたちがオロオロしたが、

20分後、あの光輪がふたたび宙に登場し、

その内側からイタズラ顔を浮かべたサトシがひょっこりと現れた。

さすがに心臓が止まった想いもしたが、

貴重な経験を得られたのだ。旅の醍醐味と言ってもいい。

しかも足を使わずに、目的地である"デセルシティ"に到着。

時短・節約・手軽さ、三拍子全て揃ったから、チャラである。

サトシ「そういえば……」
 ▼ 46 1 15/08/14 20:12:36 ID:17RBJOmI [8/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
相棒とユリーカにじゃれ合う、赤と青の竜にサトシは視線を向けた。

サトシ「どうしてラティオス達がここに?」

長年の旅の経験のゆえか、この子たちは野生であると気付いたのだ。

メアリという少女の手持ちなら納得できるけれど。

その鋭い勘に、メアリは感心しながら答えた。

メアリ「わたしが8歳の頃に、フーパが"おでまし"しちゃったのよ〜」

フーパ「えへへへ」

メアリ「たぶん寂しかったのよね」

黒の三つ編みを揺らしながら、申し訳なさそうに顔を俯いた。

メアリ「私たちは学校に通っていて、一緒にいられない時間があったの」

サトシはそこで理解した。

フーパの精神は今よりも幼かったのだろう。

独りぼっちの時間が長ければ長いほど、ストレスも肥大化する。

傍にいてくれる存在が欲しくて、フーパは"おでまし"を……
 ▼ 47 1 15/08/14 20:13:27 ID:17RBJOmI [9/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシは苦々しげに眉を顰めた。

目を閉じれば、鋭い棘がチクリと、少年の胸を刺してくる。

口許をぎゅっと引締め、無音のため息をついてから、

何かを決心したかのように勢いよく立ちあがった。

フーパ「サートン?」

紫色のちいさな頭の上に、クエスチョンマークが飛び交う。

そんな仕草にくすっと笑った。

サトシ「俺たち、しばらくはこの町にいるんだ。案内してくれよ!」

ねずみ「ぴっかちゅう!」

彼ら四人はデセルシティを観光する予定だ。

せっかく友達になれたのだから、楽しい時間を共有したい。

サトシとピカチュウが笑みを濃くすると、フーパの心が弾んだ。

シトロン「僕たち、デセルタワーに行こうと思ってたんです」

メアリ「あら偶然ね、わたしたちもよ!」

ユリーカ「そうだ!!」

名案だとばかりに、アイデアが幼女の頭に浮かんだ。
 ▼ 48 1 15/08/14 20:14:46 ID:17RBJOmI [10/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
ユリーカ「フーパの輪を使えば、すぐに行けるんじゃない?」

フーパ「よーし!」

フーパは自慢のリングを右手で掴んで、大きく広げた。

そう。内側に飛び込めば、デセルタワーは目と鼻の先だ。

建物の高さと技術、科学力に目を輝かせることだろう。

サトシ「みんな、行こうぜ!」

フーパ「おー!」

そんな中、メアリが切羽詰まったように制止の声を駆けた。

メアリ「あ、待って!」

だが一足遅かった――

ボヨンと鈍い音とともに、フーパが光輪から追い出されてしまい、

体勢を整えられないまま地面に転がり落ちた。

フーパは平然とした顔を給うとしているが、

地面に叩きつけられた痛みに、瞳に涙が湛えてくる。

ラティアスが慌てて真っ先に翔け寄り、フーパの顔を覗きこんだ。
 ▼ 49 1 15/08/14 20:15:44 ID:17RBJOmI [11/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「だ、だいじょうぶか!?」

今の一部始終に、サトシは狼狽の色を隠せない。

――どういうことなんだ?

メアリは冷静に、呆れたように言った。

メアリ「肝心なことを忘れちゃダメじゃない!」

サトシ「え?」

少女は困ったように笑った。

メアリ「フーパはね。自分のリングを抜けることができないの」

思いもよらぬ事実に、サトシの心が揺れる。

知らなかったとはいえ、フーパを傷付けてしまった。

琥珀の少年は胸に罪悪感を抱き、フーパの元へ急いで近寄った。

サトシ「ごめんな……」

ねずみ「ぴかちゅう」

ちいさな頭を戸惑うように撫でながら謝った。
 ▼ 50 1 15/08/14 20:16:21 ID:17RBJOmI [12/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「フーパ、だいじょうぶ!」

失敗しちゃったと照れるようにニコッと笑う。

二人の間に、すこしの沈黙が降りた。

黒髪の少年は思惑気に視線を逸らし、

直後、太陽に負けないぐらいの笑みを向けた。

サトシ「フーパ、一緒に歩いて行こうぜ!」

フーパ「うん!」

次の瞬間――

ピカチュウの耳がピクリと動いた。

ねずみ「ぴかッ!?」

緊迫した相棒の声に、サトシもバッと周囲を見渡した。

前方、後方、左右。

怪しい影は確認できない……
 ▼ 51 つばん@いかりまんじゅう 15/08/14 20:16:39 ID:pvaYmzoY NGネーム登録 NGID登録 m 報告
よく覚えてんな
 ▼ 52 1 15/08/14 20:20:09 ID:17RBJOmI [13/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
――なんだ、この違和感は……

正体不明の心理的な圧迫感に、サトシは気を張りつめる。

サトシ「――ッ!」

颯々たる風と、舞い降りる影に気づく。

――上空からか!?

雲の欠片もない紺青のなか、大きな鳥ポケモンが。

立派な翼を張り、サトシたちの頭上でおおきく旋回すると、真上で滞空した。

サトシ「ウォーグル……と?」

太陽の眩しさに、反射的に細める目をこじあけて、観察すれば、

もうひとつの存在に気づく。

メアリと同じような民族的衣装を着こなす青年だ。

違うのは、青色と赤色だ。

彼の右手に、独特のデザインのツボがある。

そんな中、メアリは顔をぱあっと輝かせた。

メアリ「兄さま!!とうとうツボを見つけたのね!」

フーパ「バルザ!」
 ▼ 53 1 15/08/14 20:23:05 ID:17RBJOmI [14/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパも喜びに両手を広げて飛んで行った。

――知り合い、か?

肩に食い込む重圧に戸惑いつつ、サトシは様子を見守る。

あの青年は、どうやら少女の兄にあたるらしい。

ラティアスの表情も険しくはない。

バルザという青年に駆け寄ろうとしている。

だが――

バルザ「…………」

3匹は急ブレーキを駆けて、戸惑いの色を浮かべ始めた。

フーパ「ふぱ……?」

目の前の青年に、フーパ達は異変を察知した。

バルザの瞳が赤い光を放ち、

その身体から、禍々しいエネルギーが迸った。
 ▼ 54 1 15/08/14 20:27:45 ID:17RBJOmI [15/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
黒ずんだ紫色。

暗い闇。

思わず身体が震えてしまう。

"殺意"に似た視線をフーパに向けて、

青年の唇が、ゆっくりと動き始めた。

バルザ『消……え……ろ……ッ』

聞き逃しそうな声だった。

未知の恐怖が、身体中に駆け巡った。

次の瞬間、バルザという青年が、ツボを胸の前に掲げた。

それに呼応するように、ドロリと重い闇が漲った。

ポンッとツボの蓋が外される。

サトシ「なにする気だ!」

メアリ「兄さま、ここで!!?」
 ▼ 55 1 15/08/14 20:29:55 ID:17RBJOmI [16/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
青年以外の、全ての人間が不安に陥った。

壺から禍々しい闇が、煙のように溢れだし、とどまることを知らない。

フーパ「ふぱ―――――っ!!?」

闇は凄まじい勢いでフーパを飲み込み、その中心で渦を巻いた。

終結する闇は濃度をあげ、ちいさな身体を覆い尽くす。

サトシ「フーパ!」

ねずみ「ぴかちゅう!」

サトシは我先に助けようと地を蹴るが――

サトシ「なにっ!?」

思うように体が前に進まない。

闇が生み出す風圧に、逆らうことができないのだ。

だが諦めず、サトシは必死に抵抗を続けるなか、

闇が突然、無数の塵となって霧散する。
 ▼ 56 1 15/08/14 20:33:06 ID:17RBJOmI [17/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「なっ――!」

ねずみ「ぴかちゅ!」

琥珀の瞳が驚異に染まった。

フーパの姿がどこにもないのだ。

闇が晴れたその場所にいるのは、見たこともない、巨大なポケモンだった。

まるで『魔人』と形容していいほどおぞましい姿。

逞しい腕が6本もあり、おおきな牙が鋭く光る。

だが驚くべき部分は他にあった。

フーパが自由自在に操る、あの"黄金のリング"が、身体の中心に埋め込まれている。

頭のなかに浮かんだ嫌な予感が、サトシの心を揺さぶった。

メアリ「これがフーパの……本当の姿なの?」

サトシ「!!?」

サトシは巨人ポケモンから目を話すことが出来なかった。

あの可愛らしい容姿とは正反対だからだ。
 ▼ 57 1 15/08/14 20:37:20 ID:17RBJOmI [18/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザ「……ぐっ!」

糸が切れたように、青年は地面に膝をつき、呻き声をあげた。

バルザの瞳から、あの赤黒い光を消え去り、

正気の色が戻ってきた。

バルザ「おれは、いったい?」

額から汗を流し、意識が混濁している様子だった。

息遣いもすこし荒い。

だがバルザに意を介する余裕がなかった――

サトシ「フーパッ!」

赤い帽子の少年の切羽詰まった声に、

バルザは目の前の状況に、ハッと息を呑んだ。

超フーパ『うぐっ……ううううっ』

全身に鳴り響くような痛みに、フーパは耐えていた。

頭を抱え込み、背を丸め、身をよじらせていた。
 ▼ 58 1 15/08/14 20:41:15 ID:17RBJOmI [19/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
琥珀の瞳がカッと見開く。

――助けなきゃ!

サトシ「フーパ、俺が今……」

懸念の言葉が続かなかった。

フーパの身動きが、一瞬止まったのだ。

刹那――

巨大化したフーパの瞳が、赤黒く濁り始める。

目を吊り上げ、岩壁を貫くような視線を周囲に走らせた。

超フーパ『ぐぉおおおおおおおおおお…!!!』

赤黒いまなざしがカッと輝き、

唸り声をあげながら、複数の光輪を操りだした。

宙に飛び回るリングのスピードに、目が追いつかない。

バルザ「!?」

青年の背後に、黄金の光輪が迫る。

それに気付いた時には、その内側から腕が飛び出してきた。
 ▼ 59 1 15/08/14 20:45:21 ID:17RBJOmI [20/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザ「ぐはっ!」

全身を支配する痛みに、バルザは呻く。

今、なにをされたのか頭が追い付かない。

体中に駆け巡る閃光が音を立て、バルザの表情が苦しげに歪んだ。

サトシ「フーパ……?」

ねずみ「ぴ、ぴーか」

琥珀の瞳が揺れ動き、

身体が激しく強張るのを、サトシは感じた。

今起きた光景が理解できなかったのだ。

フーパが人間を襲うとは、信じたくないのだ。

だが――

サトシは歯を食い縛った。

サトシ「ピカチュウ!」
 ▼ 60 1 15/08/14 20:48:15 ID:17RBJOmI [21/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
考える時間はない。

一秒でも早く、フーパの暴走を止めなくては――

意を決して、ある電気技を唱えた。

サトシ「≪10万ボルト≫!!」

まずは時間稼ぎだ。

闇雲に戦ってては、決して状況は好転しない。

焦心を静めつつ、神経を研ぎ澄ませる。

――考えろ、考えるんだ!

手に汗を握る思いで、周りを隅々まで見渡す。

瞬時にすべてを頭に叩き込み、フル回転させた。

サトシ「そうだ!」

行き詰った思考に、一閃の光が落ちた。

答えが出た――

図鑑を右手に持ち、起動させる。

息を大きく吸って、声を張り上げた。
 ▼ 61 1 15/08/14 20:49:55 ID:17RBJOmI [22/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「ラティオス、ラティアス!力を貸してくれ!」

響き渡る少年の声に、ドラゴンポケモンが応えた。

サトシの心に、ちいさな希望が灯る――

サトシ「≪龍の波導≫!」

サトシはまずフーパの動きを牽制するように指示した。

自由に動き回っては困るからだ。

青と赤の二匹は肺いっぱいに空気を吸いこみ、

全開パワーで口から≪波導≫を吐き出した。

――フーパが地上から離れるように誘導できれば!

仲間たちに被害を受ける可能性がある。

絶対に防がなければ。

サトシ「バルザさん、メアリさん、どうすれば!」

その時――

バルザ「クッ!!?」
 ▼ 62 1 15/08/14 20:57:57 ID:17RBJOmI [23/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
再び、バルザの頭上にリングが襲い掛かる。

その直前で、ラティアスが気づく。

猛スピードで突進し、バルザの危機を救った。

バルザ「……まさか!」

青年は声を呑んだ。

不思議なツボを凝視し、ある仮定に辿り着く。

バルザ「フーパはこのツボを破壊しようとしているんだ!」

サトシ「ツボ!?」

一度、ふしぎなツボを一瞥する。

サトシは思い出す。

壺がフーパの前に現れた途端、異変が起きた。

だが『破壊』する目的が掴めない。

メアリ「わたしが!」

すると少女も覚悟の叫びをあげた。

メアリ「わたしが止める!だから……」
 ▼ 63 1 15/08/14 21:03:50 ID:17RBJOmI [24/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
少女は全身全霊をあげて、サトシに助けを乞う。

メアリ「一瞬でいいの!フーパの動きを止めて!」

迷う暇はなかった。

サトシ「分かりました! ピカチュウ!」

ねずみ「ぴっか!」

サトシは足元にいる自慢に視線を投げ、

確認し合うように、2人は同時に頷いた。

サトシ「ラティアス! フーパを遥か上空まで誘導してくれ!」

ラティ♀「くぅうううん!」

ラティアスはフーパに向かって飛翔し、

≪龍の波導≫をお見舞いする。

フーパは間一髪で回避。

作戦通り、目的地までフーパを誘導できた。

サトシは上空に視線を向ける。

その先は、ラティオスと、その背中に乗るピカチュウ。
 ▼ 64 1 15/08/14 21:04:23 ID:17RBJOmI [25/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシは息を張りつめた。

慎重に。

すばやく。

確実に。

サトシ「今だ!」

轟く雄叫びと共に、猛烈な勢いで、

ラティオスは≪しねんのずつき≫を発動――

力強い両翼を張り、鷹のように襲い掛かるそのスピードは驚異的だ。

神秘的な輝きに身を包んだラティオスは、フーパに目掛けて飛ぶ。

しかし、

超フーパ『ふ〜ぱぁあああああああ…ッ!』

渾身の技が躱されてしまった。

ラティオスが地上に滑空するのに対し、

フーパは高々と上昇する。

シトロンたちの顔に不安な影が宿った。

二度も攻撃を外してしまった……
 ▼ 65 1 15/08/14 21:05:10 ID:17RBJOmI [26/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
しかし――

サトシ「ピカチュウ!」

琥珀の瞳が、鋭い光を放つ。

ねずみ「ぴっかああぁ!」

超フーパ『!!?』

フーパに向かって、ねずみの影が舞い降りることに、気付けなかったのだ。

ラティオスとフーパが交錯するその直前で、

ピカチュウは既に、身を投げ出していたのだ。

だがフーパは、ラティオスの攻撃に気を取られしまった。

瞬時に双方の距離が縮まる。

ピカチュウは身を躍らせ、全神経を集中させた。

サトシ「≪10万ボルト≫――ッ!!」

電気エネルギーが体中を駆け巡り、

おおきな束となって、フーパを切り裂いた。
 ▼ 66 1 15/08/14 21:11:53 ID:17RBJOmI [27/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
眩しい光条。

轟音。

飛び散る火花

衝撃波。

ついに閃光が四散する。

超フーパ『くぎゅ!?』

電気技から解放されたフーパは、身動きが取れない。

追加効果『麻痺』だ。

強力な麻痺は、身体の感覚を根こそぎ奪い取る。

サトシはこれを狙っていたのだ。

――今がチャンスだ!

サトシ「メアリさん――!」

メアリ「分かってるわ!」

少女はツボを翳して、大きく息巻いた。

メアリ「わたしがもう一度、"封印"する!!」

ツボが独特の光を迸りながら、フーパの闇を吸い込んでいく。
 ▼ 67 1 15/08/14 21:13:02 ID:17RBJOmI [28/29] NGネーム登録 NGID登録 報告
渦を撒く気流を視認できるほどの勢い。

フーパの身体から、容赦なく闇を奪い続ける。

フーパ「ぐおおおぉぉ…っ」

その瞬間は苦痛そのものなのだろう。

叫びながら身をよじった。

数分後――

闇が晴れた。

激痛から解やっと放されたフーパは、

力なく空から落ちてきた。

サトシ「フーパ!」

このままでは地面に叩きつけらてしまう。

左足で地を蹴りあげ、瞬時に数メートル飛翔し、

間一髪のところで、サトシはフーパの身を守った。
 ▼ 68 1(修正) 15/08/14 21:30:38 ID:17RBJOmI [29/29] NGネーム登録 NGID登録 報告

*+*+*+*+*+*+*

俺が知る限りの「誤字」

>>2
かれらの視線は、砂漠ではめずらしい、おおきな湖に集中した。

>>3
伝説ポケモンも抵抗するが、苦戦を強いられた。

>>14
身体全体に水を浴びて、暑さを吹き飛ばしたい。

>>21
自慢の桃色タブレットを指でサクサク動作し、

>>32
*たまに野生で出現する、大量発生チュウより、大漁である。

*本人はその心算ではないかもしれないが・・・

*+*+*+*+*+*+*+*
 ▼ 69 EEVEE◆Y3W/A8GX8A 15/08/14 22:27:50 ID:D5DWvSbg NGネーム登録 NGID登録 m 報告
>>68
激痛から解やっと放されたフーパは、
↑ここ間違ってる
支援
 ▼ 70 ガプテラ@でんきだま 15/08/14 22:31:28 ID:ZuQs0jgQ NGネーム登録 NGID登録 報告
これマジで劇場版そのままなぞってんのかな?
だとしたら凄い嬉しいんだが
 ▼ 71 1 15/08/16 22:16:21 ID:ZAJWEql2 NGネーム登録 NGID登録 報告
>>69
クリックする場所間違えちまったwwww

さらにオレが把握する「誤字」

>>10
感情が高まってしかたないのだ。

>>19
シトロンは再び視線を動かせば、ブロンドの短髪と、碧い瞳が印象的な少女が、



更新は明日の夜の予定
 ▼ 72 無警察◆2aSRhNxM4g 15/08/16 22:16:47 ID:0K8P1SdQ NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援
 ▼ 73 Urさん◆/fS/i20Qno 15/08/17 09:47:17 ID:NA0a5e8U [1/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援
 ▼ 74 15/08/17 20:15:56 ID:3s.zkCHg [1/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
それと同時に、蓋がツボの口を閉ざした。

メアリ「!!?」

バチチと頭の芯まで染み渡るような痺れが、メアリの身体を襲う。

前触れのない激痛に、少女は我知らず顔を歪めた。

暗い闇が再び、紫色のツボを覆い始めたのだ。

ゆらりと蠢く闇はどくろを巻き、強いエネルギーを生み出す。

閃光のような闇を、少女は思わず手を放してしまった。

不思議なツボは重力に従って地面に転がり落ちた。

まるで幽霊に憑りつかれたかのように、右へ左へと動き回る。

得体のしれない不気味さに、背筋が凍る。

何かの拍子で、また蓋が取れてしまうのではないか。

そんな脅迫観念が、セレナを衝き動かす。

だが――

バルザ「触るな!!」
 ▼ 75 15/08/17 20:17:41 ID:3s.zkCHg [2/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
緊迫した声に、セレナの身体が金縛りにあったように硬直する。

青年は顔面神経を強張らせて続けた。

バルザ「なにか邪悪なものを感じる、触るんじゃない!」

空気が張られた弦のように、固まる。

そのとき――

シトロン「触れないというのなら……」

閃き得たシトロン、その目を光らせる。

今こそ、サイエンスが未来を切り開くときなのだ。

シトロン「シトロニック・ギア・オン!!」

シトロンが背負う重いリュックから、白いアームが伸びる。

シトロン「手を使わずに何でも運べる、"全自動持ち上げマシン"です!」

何でも運べるかは些か不安だが、名称通りに、

人間の手が触れることなく済みそうだ。

無機質なモノに抑え込まれたツボは、ぴたりと身動きを止まった。

そのまま息を潜めたかのように、薄気味悪い闇も拡散する。

バルザは無意識に、肩の力を抜いた……
 ▼ 76 15/08/17 20:21:04 ID:3s.zkCHg [3/17] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

ねずみ「ぴっか――ッ」

ピカチュウは上空から垂直方向にくるりくるりと、宙返り。

地上から約数十メートルから落下すれば、その衝撃が凄まじいだろう。

ただし、強敵に果敢に立ち向かう者は例外だ。

ピカチュウは時機を見極め、≪アイアンテール≫を発動――

衝撃緩和を図って、鋼の尾を力強く地面に叩きつけた。

さらにその反動で跳ね返り、無事に着陸を果たす。

ねずみ「ぴかぴ!」

騎虎の勢いのまま、主人の元へと真っ先に駆け寄る。

ラティオスとラティアスも近寄り、気遣わしげな視線を送った。

小さな体には、所々に焦げた傷跡が目立つ。

呼吸音もいくらか荒い。
 ▼ 77 15/08/17 20:22:32 ID:3s.zkCHg [4/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
その痛々しい姿に、サトシは目を背けそうになるのを必死に耐えた。

サトシ「フーパ、しっかりしろ!」

焦心に駆られるように呼び掛ける。

しかし、フーパはぴくりとも動かない。

なかなか戻らない意識に、サトシは動揺する。

押し潰されそうだ――

サトシ「フーパ、しっかりしろ、フーパ!」

フーパ「うっ……」

フーパのまぶたが震える。

サトシは息を呑んだ。

フーパ「サートン?」

焦点の合わない翠の瞳が、サトシを捉える。

姿がはっきり映ると、小さな唇がわなわなと震え始めた。
 ▼ 78 15/08/17 20:23:33 ID:3s.zkCHg [5/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシはフーパの顔を覗き込む。

サトシ「フーパ?」

フーパ「消えそう、だった……」

曖昧な言葉に、サトシは不安げに首を傾げる。

すると大きな目に涙が滲んだ。

フーパ「こわ……い」

サトシ「え?」

喉を鳴らしながら、すがるようにサトシの青いシャツを掴んだ。

フーパ「暗い……怖い……消えちゃう……っ」

言葉足らずの悲痛な叫びだった。

暗くて怖い何かから逃げるように、

フーパはサトシの胸に顔を埋め、堪えきれない嗚咽を漏らした。
 ▼ 79 15/08/17 20:25:40 ID:3s.zkCHg [6/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「―――ッ」

痛切なトゲが、サトシの胸を貫く。

怯えるその姿に、懸命に言葉を紡いだ。

サトシ「大丈夫! もう大丈夫だフーパ、な?」

両腕に力を込めて、フーパを抱き寄せる。

すこしだけでもいい……

暗くて怖いモノを遠ざけようと、

何度も何度も、ちいさなの頭をやさしく撫で続けた。

どれ程の時間が経っただろう……

不意に、フーパの震えが止まった。

その全身から、糸が切れたように、ゆっくりと力が抜ける。

サトシ「フーパ?」

まぶたが腫れている。

泣き疲れてしまったらしい。
 ▼ 80 15/08/17 20:28:52 ID:3s.zkCHg [7/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシは嘆息を漏らし、奥歯を噛みしめた。

――ごめんな……

頬を伝った涙を指で払い、もう一度頭をなでた。

フーパは何に怯えていたのだろう?

こんな時、自分が聡明であれば、正体不明の恐怖を理解できただろうか?

サトシは一度目を閉じる。

今は考える場合ではない。

思考を中断させ、悔しさに唇を曲げながら、立ち上がった。

サトシ「ポケモンセンターへ連れて行かないと!」

ねずみ「ぴかぴ……」

サトシはフーパを大事に抱え直し、走り出した。
 ▼ 81 15/08/17 20:31:37 ID:3s.zkCHg [8/17] NGネーム登録 NGID登録 報告


*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

吸いこまれるように青く高い大空に、気球が一つ、空中散歩をしている。

目を細めてじっと観察すれば、

泥棒面で悪巧みに思いを馳せる人間とポケモンが乗っている。

サトシのストーカーと言っても過言ではない、

ロケット団3人組のムサシ・コジロウ・ニャースである。

かれらの目的は、サトシの相棒である、

電気を無限に貯め込める高い潜在能力を秘めたピカチュウを、この手で捕獲することだ。

しかし行動に出るも、毎度の如く失敗を重ねている。

宇宙まで飛ばされそうな勢いでぶっ飛ばされているが、無事に生還を果たす。

その日々の繰り返しだ――

そう、『奇跡』という言葉に謝れと言いたくなるほど、何度も。
 ▼ 82 リゲイツ@かたいいし 15/08/17 20:33:29 ID:wgqJnE/M NGネーム登録 NGID登録 報告
糞マロンわろた
 ▼ 83 15/08/17 20:33:31 ID:3s.zkCHg [9/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
とは言え、常に命の危機と隣り合わせにもかかわらず、

ピカチュウを奪う事を諦めないその根性は別格である。

ムサシ「ふふふッ、あのツボ凄いわぁ〜」

髪が赤い女性は、にやりと笑った。

ムサシ「あれはきっと、ポケモンを巨大化させる能力があるのよぉ!」

コジロウ「ああ!そうに違いない」

ニャース「にゃにゃ!巨大化できれば……」

二足歩行ができる小判猫は、瞳をきらきらと輝かせる。

実はこのニャース、人間の言葉を軽々と覚えるほど非常に頭が良い
 ▼ 84 15/08/17 20:36:29 ID:3s.zkCHg [10/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
だが個人差があれど、

脳が記憶できる情報量には制限がある。

つまり、主力技は≪みだれひっかき≫のみ。

技が一つだけなので、集中的に精度を磨き上げることは可能だ。

だが当然、限界がある。

そんな悩みに、ある希望の光が差し込んだのだ。

あの不思議なツボの能力を使って、ニャースが大きくなれば、強くなるのではないか?

子供のような喜びが、ニャースの顔に浮かんだ。

ニャース「にゃにゃ!作戦実行だにゃー!」

ムサコジ「「おおーっ!」」

景気の良い叫びが、大空に響き渡った。
 ▼ 85 15/08/17 22:21:29 ID:3s.zkCHg [11/17] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*+*+*+*+

淡朱の光が海面に注ぎ、きらきらと輝かせていた。

夕暮れの色が濃くなるにつれて、肌寒さを感じる。

空は次第に濃紺へと変わるだろう……

ポケモンセンターの空間は、白を基調とする、広々とした清潔感を放つ。

どことなく安心感を覚えさせるが、サトシの心は不安でいっぱいだった。

静寂の中で聞こえてくるのは、大きく波立つ鼓動だけ。

赤いソファに座り込み、祈るような想いで待ち続ける姿は心許ない。

心配で心配でたまらないのだ。
 ▼ 86 15/08/17 22:21:56 ID:3s.zkCHg [12/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「?」

不意に、そよ風が黒髪が揺らした。

ラティアスとラティオスがふわりとサトシの元へ舞い降り、

サトシの様子を見に来てくれたのだ。

琥珀の視線がちらりと動いた。

ラティアス「くぅうううん?」

ラティオス「ふぉおおおお?」

赤と青の存在に気が付いたサトシは、瞳を柔らかくした。

サトシ「お礼、まだだったな。ありがとう、力を貸してくれて……」

サトシは無理に笑って見せようとするも、

かえって顔の筋肉が強張ってしまい、ぎこちなくなる。

それに気付いたのだろう――

音のない嘆息を漏らし、サトシは再び顔を俯かせてしまった。
 ▼ 87 15/08/17 22:27:01 ID:3s.zkCHg [13/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴ、ぴーか?」

黄色い相棒もサトシの表情を窺おうと、仰ぎ見る。

しかし、サトシは赤い帽子を目深にかぶってしまい、

その顔を覆う影が広がってしまった。

サトシ「ごめん」

ねずみ「……ぴかぴ」

混じりけのない漆黒の瞳に、深い哀愁がこもる。

きっと、暗鬱な表情が浮かんでいるのだろう。

ピカチュウは何も言わずに、小刻みに震える拳にすり寄った。

そのとき――

???「サトシ君、だったね……?」

誰かの視線を肌で感じ、サトシは顎をくいっと上げる。
 ▼ 88 15/08/17 22:28:20 ID:3s.zkCHg [14/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
前に立っていたのは、青年バルザだった。

彼は傷口に触れるかのように、そっと話しかけてきた。

バルザ「すまない、嫌な想いをさせてしまったね」

サトシ「いえ、そんな……」

サトシは知らず首を振り、視線を落とした。

今も自責の念が激しく迫ってくる。

思えば、もっと他に方法があったんじゃないか?

今悔やんでも仕方がないと頭のなかで理解しても、

あの手この手と、考え込んでしまう自分がいた。

無気力感に包まれる……

だが、そこで思考を中断させた。
 ▼ 89 Urさん◆/fS/i20Qno 15/08/17 22:28:50 ID:NA0a5e8U [2/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
見てるで(^^)
 ▼ 90 15/08/17 22:29:51 ID:3s.zkCHg [15/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシは肩で息を吸っては吐いて、拳をぎゅっと握る。

琥珀色の眼差しがまっ直ぐ、バルザを捉えた。

サトシ「フーパはどうして、暴走したんですか? あのツボはいったい――?」

バルザ「…………」

探るような力強い視線に、バルザは呼吸を止める。

今度はバルザが視線を外してしまった。

かれらの間に沈黙が降りる。

バルザは物思いに目を伏せ、

長いため息を吐いてから、サトシの隣に腰を下ろした。

バルザ「100年前、フーパは町を破壊したんだ……」

息が詰まるほど驚いた。

サトシは矢継ぎ早に質問したくなるのを我慢し、

静かにその続きを待ち続けた――
 ▼ 91 (訂正) 15/08/17 22:42:51 ID:3s.zkCHg [16/17] NGネーム登録 NGID登録 報告

【訂正@】
*+*+*+*+*+*+*+*+*
>>60

焦心を静めつつ、神経を研ぎ澄ませる。

――考えろ、考えるんだ!

手に汗を握る思いで、周りを隅々まで見渡す。

瞬時にすべてを頭に叩き込み、フル回転させた。

サトシ「そうだ!」

行き詰った思考に、一閃の光が落ちた。

最善の策はこれしかない――

図鑑を右手に持ち、起動させる。

息を大きく吸って、声を張り上げた。
 ▼ 92 (訂正) 15/08/17 22:43:45 ID:3s.zkCHg [17/17] NGネーム登録 NGID登録 報告

【訂正A】
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
>>65

しかし――

サトシ「ピカチュウ!」

琥珀の瞳が、鋭い光を放つ。

ねずみ「ぴっかああぁ!」

高らかに咆哮が鳴り響く。

フーパの頭上に舞い降りる、ねずみの影が――

超フーパ『!!?』

ラティオスの攻撃に気を取られしまい、

ピカチュウが目前に迫ってくるその姿に、気付けなかった。

ラティオスが攻撃態勢に入るその直前で、

ピカチュウは既に、身を投げ出していたのだ。

瞬時に双方の距離が縮まる。

ピカチュウは身を躍らせ、全神経を集中させた。
 ▼ 93 ルダック@かくとうジュエル 15/08/17 23:55:49 ID:I6opWRwc [1/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援☆
 ▼ 94 ャローダ@タンガのみ 15/08/17 23:56:35 ID:I6opWRwc [2/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
>>70
ちょっとオリジナル入れてると思う
 ▼ 95 EEVEE◆Y3W/A8GX8A 15/08/18 09:43:51 ID:Q9d288Bs NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援
 ▼ 96 15/08/21 13:26:04 ID:NWkfoR.w NGネーム登録 NGID登録 報告
次の更新は、明日の夜の予定
 ▼ 97 ティ主◆UaRXLsoQrg 15/08/24 16:54:58 ID:XD029GtE NGネーム登録 NGID登録 報告
どーりで、知ってるのと違うわけだ
 ▼ 98 を操りし者◆mW5riGQ7/2 15/08/24 17:01:55 ID:HrXFsX6s NGネーム登録 NGID登録 報告
映画そのまま全部覚えてんの!?
SUGEEEE!!
てか文にするだけでだいぶ違うのな
 ▼ 99 15/08/28 17:15:04 ID:XnEcaU2I [1/23] NGネーム登録 NGID登録 報告




昔、デセルシティは小さな村だった。

ある日、フーパが突然その姿を現した。

フーパは勝手に人々の食べ物を、

口の中に流し込むように、美味しく頬張っていた。

ここは砂漠のど真ん中だから、

空腹を満たしたり、渇いたのどを潤したかったのだろう。

とは言え、村人にとって、食べ物は命を繋ぐ貴重なものだ。

怒った村の住人に、フーパはお詫びの品として"お宝"をおでましした。

金銀財宝……

お宝の数々……
 ▼ 100 15/08/28 17:16:55 ID:XnEcaU2I [2/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
リングの内側から顕れたのは、人々の欲望を満たすものだった。

人間の目は、どのように変わっただろうか?

その顔に歓喜の色を浮かべ、喉から手が出る思いを抱いた。

おかげで村は街へと発展していった。

水や食料に困ることもなくなり、暮らしは豊かになった。

やがて人々はフーパに住処を造り、

お供え物をしては、望みを叶えてもらうようになった。

そんなある日、子供の幼い好奇心が、

フーパに向かって、生意気に問いかけたのだ。

――おまえデカイし、強そうだよな。

――でも、他のポケモンと勝負したら、勝てんのかよ?

フーパはその疑問に答えるために、ポケモンを呼び出した。

勢いのある戦いを繰り広げては、連戦連勝。

どわんと空気が弾け、人間たちは拍手喝采を送った。

熱狂・喧騒・罵倒が飛び交い、呼び出されるポケモンが強くなるほど、

周囲も一段と興奮を上昇させた。
 ▼ 101 15/08/28 17:19:28 ID:XnEcaU2I [3/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
その熱が、フーパをエスカレートさせてしまった。

ついには"伝説のポケモン"を舞台に"おでまし"し、

フーパは自分の力量・能力を見せつけるように大暴れを始めたのだ。

荒れ狂う竜巻。

轟く雷鳴。

絶え間ない振動。

逃げ惑う人々。

デセルシティは混乱の渦に飲み込まれてしまう。

壊滅の危機に瀕していた。

そのとき、ある旅人が現れる――…

名前は『グリス』。

フーパの能力を『いましのツボ』に封印した英雄だ。

バルザ「その旅人が、おれたちのひいじいさまだったんだ」

サトシ「その、グリスさんはすごい力の持ち主なんですね」
 ▼ 102 15/08/28 17:20:09 ID:XnEcaU2I [4/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
語られた事実に、サトシは驚きを隠せなかった。

戒めのツボを造りだし、あれほどの能力を封じ込め、

デセルシティは無事に救ったのだ。

だけど、どうやって?

サトシの思考を読み取ったのだろう。

バルザは突然、黄金の首飾りを手に掛け、

サトシに見えやすいように持ち上げた。

バルザ「この形、なにかに見えない?」

そう問われ、じっと目を凝らすと、琥珀色の瞳が見開かれた。

過去の記憶がすーっと頭のなかで甦る。

全てを超越し、宇宙を創造した神のポケモン――

サトシ「アルセウス?」

バルザ「すごいな……」
 ▼ 103 15/08/28 17:21:50 ID:XnEcaU2I [5/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
青年は感心したように呟いた。

宇宙がない頃に生まれた最初のポケモンとして、

遥か遠い地方の神話のなかで語られている。

まさか答えが返って来るとは思わなかったのだろう。

バルザ「おれたちの遠い先祖が、アルセウスと通じ合い、力を授かったとされているんだ」

そのなかでも、グリスは特に強いチカラの持ち主だったと言われていた。

彼は"土""水""火"、自然に満ちる3つの力を借りて、

"いましめのツボ"を創り出したのだ。

その事実にサトシは腹の底から驚いた。

しかし謎が解けると、背筋を駆け抜ける静かな何かが現れる。

サトシ「だけど……」

その口許から、かすから声が零れる。

サトシ「フーパばっかり封じられて、不公平だ」

サトシはフーパの無邪気な姿を思い出した。

きっと、みんなが喜ぶ顔が見たかっただけなのだ。

それなのに……
 ▼ 104 15/08/28 17:23:09 ID:XnEcaU2I [6/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
そこで、サトシはハッと我に返る。

感情的になってしまったのだ。

サトシ「すみません、俺……」

礼儀のない言動に謝罪を述べる少年に向かって、

青年は首を振り、優しく微笑んだ。

バルザ「気にしなくていい」

バルザは心から嬉しいのだ……

知り合ったばかりだと言うのに、

ここまで親身になってくれる少年の存在が。

サトシ「そのあと、どうなったんですか?」

青年は目を閉じた。

バルザ「『いましめのツボ』を人知れず封印した後……」

グリスはフーパを自分の故郷に連れて帰った。

それがオアシス『アルケーの谷』だ。
 ▼ 105 15/08/28 17:26:44 ID:XnEcaU2I [7/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
能力を失ったフーパは当初、反抗心を抱いていた。

力を返せ返せと、必死に抵抗を繰り返した。

そのとき、地団駄を踏むフーパに向かって、グリスは凛然と告げたのだ。

戒めの意味を悟らぬ限り、フーパがリングを通ることはできないと。

世界はお前一人だけのモノではない、リングから見る世界が全てじゃないのだと。

咎めるような厳しい眼光に、フーパはこれ以上何も言えなかった。

こうして戸惑いばかりの、フーパとグリスの新しい生活が始まったのだ。

バルザ「それでも、しばらくの間は抵抗を繰り返したらしい」

サトシは思わず苦笑する。

たしかにそうだ。当たり前のように過ごしていたのに、

ある日前触れなく、その能力が使えなくなったら戸惑うだろう。

さらに奪った人間と暮らしていくとなったら、余計に落ち着かない。

すると、バルザは昔を懐かしむように、凛とした瞳をそっと柔らかく綻ばせた。

バルザ「……ひいおじいさまは一生懸命だったと思う」
 ▼ 106 15/08/28 17:28:55 ID:XnEcaU2I [8/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
瞼の裏にはフーパと、10歳も満たない妹メアリ、そしてひいおじいさまの姿が。

脳裏に数々の思い出が、打ち寄せる波のようにやって来ては去っていく。

バルザ「妹がフーパと森の中で迷子になったとき、ひいおじいさまは慌ててたな」

今思えば珍しい顔だったと、バルザの口に微笑が滲んだ。

無事にフーパたちを見つけたとき、グリスは我が子のように抱き寄せたという。

怪我がなくて良かったと、安堵に目を細めて。

優しくて穏やかな記憶に、サトシは柔らかな声で言った。

サトシ「グリスさんは優しい人だったんですね」

ねずみ「ぴーぴかちゅう」

胸に宿る怒りが静まり、切なくて穏やかなモノが湛えていた。

淀みなく楽しそうに語るバルザの姿を見て、サトシの顔に穏やかな笑みが浮かぶ。

グリスという人に会ってみたいと、密かに思ってしまった。

厳しいけど、フーパに心から愛情を注いでくれた人。

気持ちがだんだんと温まる。

きっとフーパにとって、アルケーの谷は大切な場所に変わっただろう。

バルザ「だから、俺は思ったんだ……」
 ▼ 107 15/08/28 17:30:06 ID:XnEcaU2I [9/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
重い影がバルザの胸の内に宿る。

深い吐息を零して、宙を見つめた。

バルザ「もうチカラを戻してもいいんじゃないかって」

しかし、フーパは暴走してしまった。

原因は不明だ。

強すぎる力を制御できず、飲み込まれてしまったのか。

あるいは、長年決別していた能力の使い方を忘れてしまったのか。

一族の歴史や文献を漁れば、解決の糸口があるかもしれない。

だが――

バルザ「俺は焦っていたのかもしれない」

青年の表情が強張り、声には自己嫌悪の響きがあった。

自責に心が絶えられず、拳を強く握る。

バルザ「結果的に、フーパを怖がらせてしまった」

サトシ「バルザさん……」

サトシは切なげに眉根を寄せて視線を彷徨わせ、

胸が重たくなるのを感じながら、ぽつりと呟いた。
 ▼ 108 15/08/28 17:33:01 ID:XnEcaU2I [10/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「"いましめツボ"はどうするんですか?」

バルザ「明日、元の場所に戻すよ」

次に封印を解いたとき、無事に事が済むとは限らない。

それが最善の選択だと、青年は結論を下した。

そのとき――

不意に、ポケモンセンターの自動ドアが開いた。

ひんやりとした空気が肌を撫でた。

外に出れば、冷たい風が骨の髄を刺しそうで、

窓から覗く空はすでに真っ黒に染まっていた。

そして足音がこちら側に近づいてくる。

その気配を辿り、ゆっくりとふり仰ぐと、

シトロンがサトシの顔を心配そうに覗き込んでいた。

サトシ「シトロン……」

ねずみ「ぴーか」

二人の視線が交錯する。
 ▼ 109 15/08/28 17:37:27 ID:XnEcaU2I [11/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
シトロン「軽食ですよ」

カサリと立てた音が耳に届いた。

シトロンの右手には中身が詰まった茶色の紙袋が。

中身はデセルシティの名物である"ドーナツ"。

種類はリラックス効果がある、リッチなダブルチョコレート。

カカオの風味が空気を伝い、鼻をくすぐる。

生地の自然な甘みと独特の食感が、あたまの中で再現され、

おもわず唾液が口内であふれてくるだろう。

普段のサトシであれば、腹の音が鳴り、すぐにでも飛びついたはずだった。

けれど彼は視線を落とし、ふるふると首を振ってしまう。

シトロンは困ったように笑った。

シトロン「なにか食べないと持ちませんよ?」

なにか口に運ばなければ、倒れてしまうかもしれない。

けれど本人の身体が受け付けようとしない。
 ▼ 110 15/08/28 17:41:20 ID:XnEcaU2I [12/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
シトロン「1個だけでも構いませんから……」

体調を崩してしまったら本末転倒だと、主張する。

ピカチュウもシトロンに賛同して主人に抗議した。

フーパに心配をかけては駄目だと、頬を膨らませて。

ラティアスも、ラティオスもだ。

かれらの顔は真剣そのもので、なかなかの説得力がある。

サトシが折れるのにそう時間は掛からなかった。

軽く肩を落としたサトシは礼を述べてから、それを受け取った。

揚げたてなのかほかほかと温かい。

が、実際に目の前に運ぶと、我知らずと口が閉じてしまう。

かと言って彼らの好意を無下にすることはできない。

頭を悩ませたうえで、サトシは綺麗に真っ二つに割った。

申し訳ない気持ちを覚えながら、

すこしだけ口角を挙げて、それを相棒のピカチュウに手渡した。
 ▼ 111 15/08/28 17:43:34 ID:XnEcaU2I [13/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴ?」

サトシ「はい、はんぶんこ」

無理に一個まるごと食べなくてもいいだろう、サトシはそう考えたのだ。

ピカチュウは黙ったまま受け取り、ドーナツに視線を送る。

まんまると黒い瞳をパチクリさせれば、ぱあと顔を輝かせた。

なにが相棒の心を喜ばせたのか、サトシは首を傾げると、

ねずみ「ぴかぴ、ぴかぴかっちゅう!」

サトシ「ピカチュウ……」

顔一面に浮かんだ満悦らしい笑みに、息を呑む。

琥珀と漆黒、二つの視線が交じり合った。

口元が緩む。

――そっか。そうだったな!

ピカチュウの頭のうえにぽんっと手を置いた。

そして、嬉しそうに笑い返した。
 ▼ 112 15/08/28 17:44:05 ID:XnEcaU2I [14/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「ありがとう、ピカチュウ」

すこしでも感謝が伝わるように、整った毛並みを撫でる。

ピカチュウも甘えるように主人の手に擦り寄った。

サトシ「いただきます」

ねずみ「ぴかっちゅう」

シトロンの召し上がれを合図に、

ぱくりと大きくはない一口を頬張ってみる。

チョコの甘い香りとくちどけに、思わず頬が緩んでしまう。

食べ終わる頃には、その優しさが全身に染みわたって、心が軽くなった気がした。

ほっとした雰囲気が周囲に満ちるなか、

不意に、軽快な音がポケモンセンターで鳴り響く。

サトシの背中に緊張が走った。

一直線の白い通路から、複数の足音がサトシの耳に届く。

セレナとユリーカ、バルザの妹、そして……
 ▼ 113 15/08/28 17:46:25 ID:XnEcaU2I [15/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「バルザ、サートン!」

バルザ「フーパ、元気になったんだな!」

フーパ「うん!」

心も体も踊っている姿はとても微笑ましい。

傷も完治しており、生命力が漲っていた。

フーパはステップを踏むかのように、くるりくるりと、

バルザ、ラティオス、ラティアス、そしてサトシの元へと駆け寄る。

フーパ「サートン、ありがとう!」

サトシ「あ、あぁ」

不自然な返事だった。

自分でも驚くほど弱々しかった。

違和感を感じ取ったのだろう、フーパはピタリと身動きを止めた。

翠の瞳がまっすぐサトシに向けられる。

フーパ「サートン?」
 ▼ 114 15/08/28 17:50:02 ID:XnEcaU2I [16/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
気遣うような声を掛けられるが、サトシは黙り込んだまま。

するとセレナが複雑な面持ちを引っ込めて、笑顔を張り付けた。

セレナ「わたしたち砂漠のなか歩いてきたから、疲れが出たみたいなの」

フーパ「ふぱ?」

彼女の言葉に、フーパはぱちぱちと瞬きした。

かと思えば、ニッと笑い、片手で自慢のリングを握った。

なにをするのかと軽く身構えると同時に、フーパは能力を発動させた。

フーパ「お〜でまし〜!」

金色のリングは回転しながらサトシの頭上へ移動、

その内側から、花弁が乱舞しながらあふれ出てきた。

赤、黄、桃、オレンジ、彩り豊かな無数の花弁が、

ちいさな蝶のように、ひらりひらりと足元に舞い降りた。

花びらの絨毯だ。

驚きのあまり言葉が出ず、呆然と眺めてしまう。

いわゆる放心状態だ。
 ▼ 115 15/08/28 17:51:25 ID:XnEcaU2I [17/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパはくるりと宙を旋回して笑う。

フーパ「イシシシ! びっくりしたあ?」

その問いかけにサトシは我に返った。

弾かれたように視線を戻せば、

期待を込めた目でこちらを窺っているフーパの姿が、視界に映った。

雑念のない無心の表情に、笑みを添えている。

その無邪気さになにか熱いものが胸に込み上がってくる。

思わず唇をきゅっと結び、俯いてしまった。

フーパ「サートン?」

反応が返ってこないことに不思議に思い、

サトシの顔を覗き込むようにゆっくりと近寄った。

すると、きらりとしたものが滴り落ちて、床の上で弾けた。

翠の瞳が大きく揺らぐ。

幼い面差しが不安げに歪み始めた。

どうしよう、フーパはそう思案する。

しかし頭のなかが澄み切った。
 ▼ 116 15/08/28 17:55:43 ID:XnEcaU2I [18/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
光輪を片手に、ある場所の空間を繋げる。

そのなかへ手を突っ込んで、目的のモノを引っ張り出した。

フーパ「サートン!」

サトシ「え……?」

フーパはサトシの手を掴んで、それを手渡した。

サトシは手の平に注目すると、瞼をしばたかせる。

小さな宝珠だった。

虹色の輝きが控えめに放っており、

金の留め具にボロボロのひもが繋がっている。

首飾りだ。

時間の経過を感じさせるが、その石には傷ひとつ付いていない。

大事にしてきたのだろう。

サトシ「フーパ、これ?」

フーパ「サートンにあげる!」
 ▼ 117 15/08/28 18:01:41 ID:XnEcaU2I [19/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
笑顔でそう言われてしまい、サトシは慌てた。

装飾品に関する知識は皆無と言っていい彼でさえ、

大切な物ではないかと考えてしまう。

サトシ「え? いいのか?」

フーパ「だって、サトーン、泣いてる」

哀しげに答えたフーパに、サトシは瞠目する。

琥珀の目にはわずかな涙の膜をが張られていた。

声も震えている。
 ▼ 118 15/08/28 18:02:18 ID:XnEcaU2I [20/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシは破顔した。

その弾みで琥珀の瞳からキラキラと涙が零れ落ちる。

サトシ「"嬉し涙"って言うんだぜ、な?」

ねずみ「ぴかぴかっちゅう」

サトシとピカチュウ、二人のスマイルに、フーパも釣られた。

サトシ「でもいいのか、これ?」

フーパ「うん!」

だから早く身に付けてと、眩しい笑顔で促した。

さっそく首元にかけると、控えめな存在感がきらめいた。

虹色の輝きと黒いTシャツが美しいコントラストを生む。

サトシ「フーパ、ありがとう!」

フーパ「イシシシ!」

二人の笑顔が濃くなった。

そのとき――

 ▼ 119 Fennekin◆JR8fjYKDLI 15/08/28 18:05:08 ID:BXtSz9j6 NGネーム登録 NGID登録 m 報告
思ったより壮大なssだった
支援
 ▼ 120 (訂正) 15/08/28 21:12:49 ID:XnEcaU2I [21/23] NGネーム登録 NGID登録 報告


【訂正B】

*+*+*+**+*+*+*+*+*+*+*+*
>>112

不意に、軽快な音がポケモンセンターで鳴り響く。

サトシの背中に緊張が走った。

この音は治療が無事に終わったと告げる合図だ。

一直線の白い通路から、複数の足音がサトシの耳に届く。

セレナとユリーカ、バルザの妹、そして……
 ▼ 121 (訂正) 15/08/28 21:15:13 ID:XnEcaU2I [22/23] NGネーム登録 NGID登録 報告


【訂正C】

*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
フーパ「バルザ、サートン!」

今にも歌いそうな声を弾ませながら、フーパが現れた。

バルザも安堵に胸をなでおろした。

バルザ「フーパ、元気になったんだな!」

フーパ「うん!」

心も体も踊っている姿はとても微笑ましい。
 ▼ 122 (訂正) 15/08/28 21:16:09 ID:XnEcaU2I [23/23] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>121

安価先は>>113
 ▼ 123 (誤字) 15/09/02 02:51:02 ID:q6RjGblI [1/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
【誤字】
>>44
× どうやら、赤い帽子の少年にやっと気づいたらしい。
〇 どうやら、琥珀色の瞳を持つ少年にやっと気づいたらしい

>>117
× フーパ「だって、サトーン、泣いてる」
〇 フーパ「だって、サートン、泣いてる」

 ▼ 124 15/09/02 22:41:32 ID:q6RjGblI [2/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
なんの前触れもなく明かりが一斉に消えてしまい、

辺りが急に真っ暗になった。

突然の出来事にユリーカが驚きの声を上げた。

シトロン「ブレーカーが落ちたんでしょうか?」

停電になった原因を探ろうと、シトロンは冷静に考える。

真っ暗闇では視界があまり利かない。

刹那――

地鳴りと共に、爆発音がポケモンセンターのなかで木霊する。

次いで派手な音と共になにかバラバラ割れた音が。

セレナ「今度はなに……ッ」

セレナとユリーカが驚きと不安で悲鳴を上げた。

強い緊迫感に支配され、サトシとシトロンは警戒心を抱くと、
 ▼ 125 15/09/02 22:42:51 ID:q6RjGblI [3/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴか!?」

ピカチュウがピンと両耳を立てた。

ギザギザ尻尾に小さなエレキボールを発動させ、それをライト代わりに、

ねずみ「ぴかぴ、ぴかちゅう!!」

サトシたちを誘導しようと大きな声で、廊下の向こう側へと駆けだした。

サトシ「ピカチュウ!」

サトシは叫び、その黄色い背中の後を追いかける。

シトロンたちも追随してくる。

息を弾ませてただ一直線に走り抜ける。

サトシはひどく嫌な胸騒ぎを覚えた。

足元が向かう先は――

デセルシティを一望できるポケモンセンターの広場の入り口で、

ピカチュウが急ブレーキを駆けた。
 ▼ 126 15/09/02 22:44:34 ID:q6RjGblI [4/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぁ!?」

サトシ「な……っ」

その視線のが映したものは、所々に散らばったガラスの破片。

次に岩音が崩れるような音が耳に入った。

その音を辿ってサトシ達が見上げれば、

シトロン「僕たちの部屋が!!」

驚きに目が見開く。

あの場所はサトシ達が今夜宿泊する予定だった部屋だ。

大破されたガラス窓はとうにその役割を失い、外壁は脆く崩れていた。

一部の岩塊が今にも崩れ落ちそうだ。砂煙も夜風に巻かれて立ち昇っている。

いったいどこの誰がこんなことを、そう考えた矢先だった。

???『にゃ〜はっはっはああああああッ!』
 ▼ 127 15/09/02 22:47:01 ID:q6RjGblI [5/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
耳に馴染んだあの高笑いが鼓膜を揺さぶった。

瞬時に背後に振り返ると、

夜空に浮かぶ化け猫ポケモンを模型にしたあの気球が視界に入った。

サトシ「ロケット団!!」

招かざる客も同然の相手に向かって、サトシは大声を張り上げる。

停電と爆発の仕掛け人は、ムサシ・コジロウ・ニャースの三人組。

サトシの相棒を狙いにここまで来たのかと怒鳴りかかるも、

目を凝らせば、奴らはすでに得意げにほくそ笑んでいた。

不審を覚える。

ロケット団はポケモン泥棒専門のはずだ。

ピカチュウを奪い取るのが目的ではないのか!

だがそこで、怒りの炎が鎮火した。

サトシとバルザが同時に、血相を変える。

ニャースの手元には"全自動持ち上げマシン"で囲まれた"いましめのツボ"が。
 ▼ 128 15/09/02 22:51:32 ID:q6RjGblI [6/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザ「きみたち、その壺を返せ!!」

バルザの叱責が飛ぶ。

しかしロケット団は逆撫ですように笑い返すだけだ。

ニャース「にゃにゃ、素直に応じる訳がないのにゃあ!」

ムサシ「返してほしかったら、ピカチュウと交換ね〜!」

挑発的な申し出に、サトシは思わず内心で歯噛みする。

力づくで取り返してやるとモンスターボールに手を掛けた途端、

心臓が激しく鼓動を打った。

"全自動持ち上げマシン"が壺から外されてしまった。

バルザの目がカッと開いた。

バルザ「だめだ! 触るな!!」

警告を与えるように短く鋭く吠えた。

しかし――
 ▼ 129 15/09/02 22:55:35 ID:q6RjGblI [7/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
闇がどろりと渦を巻き、ニャースの腕を伝った。

しまった!と琥珀の瞳が揺らいだ。

背筋に冷たいものが這い上がっていく。

ニャース「にゃ、にゃにゃ」

一足遅かった。

ニャースの意識が暗転し、瞳を赤黒く光らせ、

その口元から意味を成さない声が漏れた。

まるで操り人形のように片手が蓋に伸ばされる。

コジロウ「ニャース?」

ロケット団が異変に気づき声を掛けるも、いまはニャースの耳には届かない。

中身を開放するのが当然だというように、ニャースは蓋を外してしまった。

誰かが息を詰めた。

フーパが蒼褪める。

"いましめのツボ"から底なしの闇が奔流となって、あふれかえった。

サトシは血の気が引くのを感じた。

矛先は――
 ▼ 130 Urちゃん◆/fS/i20Qno 15/09/02 22:56:07 ID:qNkZKUAw NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援
 ▼ 131 15/09/02 23:03:36 ID:q6RjGblI [8/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ!」

危機迫った表情で、勢いよく背後を振り返り、

強く地面を蹴りあげて、フーパに向かって手を伸ばす。

――頼む、間に合ってくれ!!

サトシの指がフーパの身体に届いたと同時に、

濃い闇の霧が二人の全身を舐め回すようにまとわりついた。

サトシ「うぐ――っ」

フーパ「―――ッ」

琥珀と翠の目が凍りつく。

サトシとフーパの周りに、その身体の中心に闇が凝縮し始めた。

ねずみ「ぴかぴ!!」

サトシ「うっ……ぐぁぁぁ……っ」

フーパ「ふぱぁああああ――!!」

邪悪な闇が神経を直接蝕んでいるようだ。

身を引き裂くような苦しみと痛みに、顔全体が強張ってしまう。
 ▼ 132 15/09/02 23:08:09 ID:q6RjGblI [9/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
――なんだよ、コレ……!

サトシは形容しがたいものに激しく動揺する。

苦痛に耐えるために歯噛みをするも、緩和すらしない。

まるで荒波に投げ出され、飲まれるような、

奈落の底まで意識が引き込まれていくような錯覚に身震いする。

脂汗が知らず額に滲んだ。

いくら酸素を吸い込んでも息苦しさが増していた。

だが、今は――

フーパ「いやだ嫌だ! フーパ消えたくない!!」

フーパは闇を振り払おうと、声にならない鳴き声をあげて暴れ回る。

反射的に首を振り、右手も振り上げたりして身を捩っていた。

気を抜いてしまえば、サトシの手がフーパを離してしまいそうだ。

サトシは朦朧とする意識を掻き集めた。

サトシ「フーパっ」
 ▼ 133 15/09/02 23:11:20 ID:q6RjGblI [10/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシも苦痛のあまり腕や脚の感覚が失いかけている。

それでも精神力を振り絞り、苦痛に持ち堪えながら、

フーパを守るようにその小さな身体を両腕で抱き寄せた。

二度と同じ過ちを繰り返すものかと、必死に。

サトシ「フーパ、負けんな!」

歯を食い縛ってでも耐え抜かなければ、

サトシは自分自身を叱咤するそのとき――

バルザ「メアリ!」

メアリ「分かってる!」

バルザとメアリの声が聞こえた。

兄妹は決然とした光を瞳に称え、

サトシとフーパを間に挟むようにして身を構えた。

足を肩幅まで開き、両手を胸の前に持ち上げた。
 ▼ 134 15/09/02 23:16:09 ID:q6RjGblI [11/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
二人は全神経をその手の平に集中させる。

バルザ「フーパしっかりするんだ!」

メアリ「頑張って!」

早く助け出さなければ、その想いに応えるように、

胸元の華奢な金色の首飾りが強く光り輝いた。

眩い光が、腕を伝い手を伝って、

サトシとフーパを守るようにその全身を包み込んだ。

だが闇は決して離れようとしない。

その輝きに対抗するかのように渦を巻き始める。

バルザとメアリが息を荒げた。

この瞬間にも二人の精神力が瞬く間に削られていくからだ。

我知らずと厳しい顔つきになる。

あまりにも強い力だ。

だけど――
 ▼ 135 15/09/02 23:20:12 ID:q6RjGblI [12/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ!」

今踏ん張らないで、いつ踏ん張るんだ。

身体を蹂躙する痛みに抗いながら、サトシは声を振り絞って叫んだ。

サトシ「負けんな! 追い出すんだ!!」

サトシの力強いその言葉に、フーパは力んだ。

フーパ「うおおおおおぉぉぉ――ッ!!」

黄金の輝きが秘めた力を解き放るように強くなる。

その勢力に邪悪な闇が逆らうことができずに、風とともに四散した。

サトシ「くっ……」

解放されたサトシは崩れるように、膝を地に着けた。

汗が頬を伝って流れ落ちる。

肩を忙しく動かして肺に空気を送り込むが、

血が全身を駆け巡っていて熱い。

サトシ「大丈夫かフーパ?」

すこしだけ落ち着きを取り戻し、

フーパの無事を確信する為にサトシは声を掛けた。
 ▼ 136 15/09/02 23:26:45 ID:q6RjGblI [13/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「サートン、フーパ、がんばった……」

フーパは弱々しく笑い返した。

大丈夫だと、安心させるように。

サトシはホッとため息が吐いた。

その足元に黄色い相棒が駆け寄った。

ねずみ「ぴかぴ、ぴかちゅう?」

サトシ「あ、あぁ……平気さ」

ねずみ「……ぴかぴ?」

その返事にピカチュウは小首を傾げた。

サトシの安心した表情に、痛みに耐えるような複雑な色を

わずかばかりに浮かんでいたのだ。

闇が消えたというのにどうしてなのか、

ピカチュウが不思議に思ったそのとき、

シトロン「あれは――!?」

シトロンの戸惑った叫びが全員の意識を奪い取った。
 ▼ 137 ジェンド巡◆lv0QUMYgrg 15/09/06 02:53:26 ID:vZIrMXmQ NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 138 スカーン最高◆pGt6/pVDLk 15/09/06 03:16:22 ID:KVpUhanE NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみwwwwwwwwwwwwwwwwww
 ▼ 139 チエナ@しらたま 15/09/06 03:18:57 ID:IxD5KPVM NGネーム登録 NGID登録 m 報告
久々に見た!支援
 ▼ 140 15/09/07 17:06:50 ID:Tf3d6E8I [1/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
仲間の鋭い声に弾かれたように、サトシも顔を上げると、

サトシ「―――ッ」

呼吸が止まった。瞬きすらできなかった。

夜の世界に溶け込むような深い闇が、どくろを巻き始め終結し、

その力を増幅させるように、やがてひとつの巨大なモノが形成された。

その姿を、サトシは愕然と凝視する。

サトシ「フー、パ……?」

この手で抱えている小さなポケモンと同じ名前を紡いだ。

増えた黄金のリング、

6本の豪然たる腕、

赤く漲る双眸、

巨大化を遂げた身体。

メアリが言っていた、フーパの"真の姿"だ。
 ▼ 141 15/09/07 17:12:03 ID:Tf3d6E8I [2/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
だがサトシはすぐに頭を振って、視線を戻した。

そうだ。フーパは今サトシの腕の中に存在している。

バルザたちの助けを借りながら、全力を振り絞って、

フーパはあの闇を追い出したのだ。

壺に封印された能力がその身に帰ったわけではない。

では、上空に佇んでいるあの存在はいったい――

サトシ達が混乱するそのとき、あの闇が動き出した。

影フーパ「ふーぱぁあああああ!」

フーパの声より数段低い声だった。

ムサコジ「「!!?」」

黄金リングが宙を旋回すると同時に、

豪然たる腕の一本が、ロケット団の気球を鷲掴みしたのだ。
 ▼ 142 15/09/07 17:16:16 ID:Tf3d6E8I [3/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
はそのリングに向かって勢いよく放り投げる。

気球は回転しながら光輪まで軌道を描いた。

ニャース「にゃにゃあああああああ!!?」

前触れのない衝撃に耐えきれず、ニャースの手から離れてしまった。

支えを失くした壺はその勢いのまま、重力に従って落ちていく。

そのとき、赤い双眸がぎらついた。

闇の意識が"いましめのツボ"に統一する。

次の瞬間だった。

回転しながら空高く放り出された壺が、

無数の欠片となって砕け散った。

メアリ「ツボが……っ」

あっけなかった。文字通り、木っ端微塵だ。

原形を留めた小さなリングだけが地に落下し、

金属音が虚しく反響した。

その一部始終を、サトシは茫然自失と目の当たりにするしかなかった。
 ▼ 143 15/09/07 17:18:30 ID:Tf3d6E8I [4/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「サイコ……キネシス……?」

手を触れることなく強力な念動波で相手を攻撃する特殊能力。

あの闇はたった今、エスパータイプの技を使ったのだ。

それだけではない。

闇で形成された腕が、ニャース型の気球を掴んだのだ。

まるで命が宿っている生き物と同じように――

サトシ「あれも"フーパ"なのか……?」

琥珀の目が泳ぐ。

ありえる訳がないと、頭のなかで声がした。

バルザ曰く、"いましめのツボ"はフーパの能力の一部を封印しただけ。

ポケモン本体が閉じ込められたわけではないのだ。

疑問が疑問を呼び、サトシの思考は迷宮に放り込まれた。

しかし、すぐに意識が別の方向に傾いた。
 ▼ 144 15/09/07 17:20:08 ID:Tf3d6E8I [5/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
赤黒い眼差しが稲妻の如くサトシとフーパを貫いたのだ。

影フーパ『消……え……ろ……っ』

サトシ「え……?」

怒りに震える声を全身で浴びると同時に、

サトシ「――――ッ」

フーパ「ふぱぁあああああ」

身体に違和感が生じた。

頭が割れそうな痛みと吐き気が波のように襲ってくる。

痛みは徐々に増強され、再び意識が混濁する。

電流とはまた違う刺激が骨の髄までえぐってきた。

≪サイコキネシス≫、旅の途中で何度か喰らったことがあった。

間違いない、サトシはここで確信を得たその矢先――

バルザ「ウォーグル! ≪エアスラッシュ≫!」

勇猛ポケモンが鋭い目で狙いを定めるとともに、

紺と赤の強靭な翼が羽撃き、荒れ狂う風を起こした。
 ▼ 145 15/09/07 17:21:36 ID:Tf3d6E8I [6/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
その風は切り裂く刃となって闇に迫る。

ウォーグルの飛行技が凄まじいスピードで無防備な闇に命中した。

しかし――

バルザ「なにっ!?」

言葉を失った。

≪エアスラッシュ≫はたしかに直撃したはず。

なのに無傷だ。効いていないのか。

けれど成果があった。

闇の集中力が途絶えたのか、サトシとフーパの呪縛が解ける。

ならばこのまま、注意を引き付けておかなければ――

バルザ「≪破壊光線≫!!」

青年の指示にウォーグルはクチバシから、

破壊と呼ぶにふさわしい威力を誇るエネルギーが迸る。

直線的な軌道を描いて急速に闇を襲う。
 ▼ 146 15/09/07 17:23:27 ID:Tf3d6E8I [7/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
だが邪悪な闇も黙ってはいない。

影フーパ「ふ〜ぱぁああああああ!!」

闇に満ちたその身体から波導があふれ出ては、胸の前で収束する。

――≪悪の波導≫か!?

サトシが相手の動きを察知したその瞬間に、

≪悪の波導≫がウォーグルの技に激しくぶつかった。

そのまま≪破壊光線≫を飲み込み、ウォーグルの身を追い詰める。

ウォーグル「〜〜〜〜〜っ」

バルザ「ウォーグル!!」

爆発音。巻かれる煙。

直撃を喰らったウォーグルは吹き飛ばされ、

翼をもがれた鳥のように墜落していく。

瀕死状態だ。
 ▼ 147 15/09/07 17:25:05 ID:Tf3d6E8I [8/8] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザたちは苦々しく奥歯を噛みしめた。

たったの一撃で戦闘不能まで追い込む威力。

窮地に立たされ、戦慄する。

次の瞬間――

赤と青の閃光が圧倒的なスピードで夜空を切り裂く。

ラティアス「くぅううううううん!」

ラティオス「ふぉおおおおおおおお!」

目も追いつけない速力に闇が焦った。

ラティアスとラティオスが一気に接近し、

その目前で≪竜の波導≫をお見舞いする。

闇が怯んだ。

さらにたたみ掛けるために次々と攻撃を仕掛ける。

バルザ「今のうちだ!」

バルザの号令にサトシたちは踵を返した。

サトシ「ラティオス、ラティアス、頼む!!」

 ▼ 148 ドキング@そうこのカギ 15/09/12 21:25:43 ID:EC8xesUk [1/17] NGネーム登録 NGID登録 報告


*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

夜空には鋭い風が吹かれているなか、

実体化した"闇"は夢幻ポケモンと激しく交錯していた。

ラティアスは左右への華麗な飛翔で回避するも、

"闇"への反撃の余地はなかった。

だがこちらには同じ種族であるラティオスがいる。

青い閃光は影のまわりを旋回し、≪竜の波導≫を不意打ちする。

だが少しでも油断すれば、あっという間に窮地に追い込まれるだろう。

2匹は気を引き締めて影の注意を引き続けていた。

激闘のなか、地上では子供や女性の悲鳴があちこちで飛び交い、

パトカーや爆発音、ビルが崩壊する音、地が裂ける音が空気を震わせる。

人間たちは恐怖に顔を歪ませ、戦慄しながら我先にと逃げ惑った。

そして、長年と受け付かれてきた歴史を呼び起こす者がいた。

彼らは見込んだのだ。

これは100年前の再現なのだと――
 ▼ 149 ルトス@なぞのすいしょう 15/09/12 21:32:09 ID:EC8xesUk [2/17] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*+*+*+*+*+


ラティアスとラティオスの加勢のお陰で、

ポケモンセンターから離れることができたサトシたちは、

無事にビルの裏側に回り込んだ。

セレナとシトロンは状況説明を要求したため、

バルザたちは簡潔に答えた。

兄妹はアルケーの末裔であり、

その先祖がアルセウスと心を通わせていたこと。

創造ポケモンから、自然と通じ合う力を授かった者だと。

かれらの曽祖父であるグリスが"いましめのツボ"を造り上げたことを。

シトロンが驚愕しながら疑点を指摘した。

シトロン「封印された能力がフーパを襲うのはなぜですか!?」
 ▼ 150 コリータ@ひかりのいし 15/09/12 21:35:17 ID:EC8xesUk [3/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
青年の面差しが険しいものになった。

バルザ「今ので分かったことがある……」

凶暴さを漲らせる赤い双眸と、

邪悪なオーラを脳裏に浮かべながら、

バルザはなにかを辿るように両手の凝視する。

漠然とだがはっきりとバルザは感知したのだ。

邪悪な闇からフーパを守るために、手をかざして気を送りこむときに、

そして、闇と対峙しているときに――

バルザ「フーパの意識を消そうとしている正体、それは"怒り"だ」

サトシ「怒り……?」

サトシのまつ毛が震えた。

その言葉を咀嚼し、手の平で左腕を擦りながら、

思案に沈むようにゆっくりと目を伏せる。

琥珀色の瞳が鋭くなった。

バルザ「100年も封じ込められた怒りや憎しみが膨張したんだろう」
 ▼ 151 クノシタ@たんけんセット 15/09/12 21:43:41 ID:EC8xesUk [4/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
怒りの塊が"影の意思"を生み出したのか、

サトシはそう整理すると、額から一筋の汗が流れる。

そこでメアリが気が動転したかのように、兄バルザに詰め寄った。

メアリ「そんな! もともとフーパの能力だったのに!」

バルザ「あの闇はフーパにしてフーパにあらず。言わば、フーパの『影』だ」

サトシ「『影』……」

驚きのあまりに言葉が出てこなかったその矢先――

サトシ「……っ」

セレナ「なに!!?」

なにかが地響きを立てて落下した衝撃が、

アスファルト全体をぐらりと揺らし、サトシたちの足を崩した。

ここまで距離があるにも関わらず、余波と振動音が届いた。

メアリの顔が真っ青に染まった。

このままでは100年前と同じように、

デセルイティは壊滅の一途を辿ってしまう。
 ▼ 152 グラージ@メタルコート 15/09/12 21:51:18 ID:EC8xesUk [5/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
メアリ「どうしよう……兄さま……」

思わず縋るように両手を握り締めると、

小さな金属音が指の間から零れた。

無残に砕け散った壺の亡骸がを見つめる。

形を保っているのは黄金の小さなリングと、

フーパの顔を象ったフタだけ。

曽祖父グリスが生きててくれたら、知恵を貸してくれただろうか。

底知れぬ絶望感に浸ったそのとき、

青年バルザが突然、目が覚めたように瞠目した。

バルザ「まさか!」

高ぶる気持ちをそのままに壺の亡骸に手をかざす。

すると、優しくて暖かな光が黄金色に輝き始めた。

バルザにとって、それは一筋の光に見えた。

バルザ「まだ手はある!」
 ▼ 153 マケロ@すごいキズぐすり 15/09/12 21:58:05 ID:EC8xesUk [6/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
その思い掛けない一言に、全員の表情ががらりと変わった。

バルザ「もう一度作ろう、"いましめのツボ"を!」

サトシ「で、できるんですか!?」

サトシは弾かれたように大声でバルザを凝視する。

バルザ「あぁ。この"フタ"と"リング"さえあれば……」

青年は凛とした声で答えた。

バルザ「ひいじいさまがの力が残っているデセルタワーで、おれたちが力を使えば」

メアリ「待って兄さま。私たちはまだ修行中の身よ!」

戸惑いと不安に眉を寄せ、メアリは制止の声をあげる。

メアリ「ポケモン達の力を借りなければ、ひいじいさまみたいに壺を創り出せないわ!」

バルザ「そんな事は分かっている!」

焦燥心に染まった声が鞭のように空気を打った。

心臓が止まった気がした。

気まずい沈黙が流れるなか、

バルザは落ち着きを払おうと肺に溜まった空気を押し出す。
 ▼ 154 15/09/12 22:05:47 ID:EC8xesUk [7/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザ「すまないメアリ」

静寂を破るようにバルザはモンスターボールを手に持った。

なかには青年の相棒ウォーグルが待機している。

バルザ「事情を話して、協力してくれるポケモン達を探す」

青年の声調はあくまで冷静だった。

メアリは不安げに兄の顔を見つめる。

メアリ「兄さま……」

バルザ「やるしかない!」

"影"の暴走に歯止めを掛けるには、

もう一度"いましめのツボ"を復元させるしか方法は無い。

兄の言葉に、メアリは遂に覚悟を決める。

ねずみ「ぴかぴ」

サトシ「あぁ」

迷ってる暇はない、サトシとピカチュウも阿吽の呼吸で頷く。

二人の決意を肌で感じたサトシは頬を引き締め、

腰のホルダーから2個のモンスターボールを手に取った。
 ▼ 155 15/09/12 22:14:31 ID:EC8xesUk [8/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「ゲコガシラ、ヒノヤコマ、君に決めた!」

夜空に向けて高々と舞い上がるモンスターボールから、

"火の粉ポケモン"と""泡蛙ポケモン"が鳴き声をあげて登場し、

ヒノヤコマはサトシの右腕に、

ゲコガシラはその足元に待機する。

レベルの高いその2体に青年バルザは声を呑んだ。

バルザ「サトシくん……」

サトシ「"火""水""土"、3つの自然の力が必要なんですよね?」

ヒノヤコマは≪火炎放射≫、ゲコガシラは≪水の波導≫が使える。

こちらもまだまだ修練を積まなければいけない身だが、

みんなで力を合わせればできるはずだ。

残りは【地】の力だけ。

サトシ「シトロンはホルビーの≪マッドショット≫"を頼む」

シトロン「分かりました! ホルビー!」

セレナ「私も協力するわ! テールナー!」
 ▼ 156 15/09/12 22:25:33 ID:EC8xesUk [9/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
これで3つの自然の力がすべて揃った。

あとはデセルタワーを目指し、"いましめのツボ"を完成させれば――

バルザ「みんな離れろ!」

サトシ「――――っ」

黄金のリングが出し抜けに出現。

内側から実体化した"影"が、こちら側に移動しようとしている。

フーパの本体がここ存在していると突き止めたのか、

そう全身を強張らせるが、

"影"の顔が勢いよく突っ込んだ次の瞬間、

透明な膜に阻まれてしまい、元の空間へ弾き飛ばされてしまった。

バルザは吃驚する。まさか"戒め"の効力がここで役に立つとは。

だが一定の距離であれば、

屈強たる腕は制約を受けることなくリングを通過できるらしい。

サトシ「ピカチュウ、≪10万ボルト≫!」

ピカチュウが≪10万ボルト≫で追い払うと同時に、

リングが消え去ると同時に、どこか遠くの場所で爆発音が聞こえた。
 ▼ 157 15/09/12 22:35:00 ID:EC8xesUk [10/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパが安全でいられるのは、

ラティオス達が"影"の動きを封じているおかげだ。

しかし、いつまでもその均衡が保っている保証はない。

急がなければ。

サトシが走り出そうと地を蹴りだす瞬間、

ユリーカ「サトシ、リングを使おうよ!」

ユリーカが提案をしてきた。

幼い子供にとって、"影"脅威に身を竦むのだろう。

だがメアリがすぐに頭を横に振った。

メアリ「だめよ! フーパが!」

シトロンたちがハッとする。

フーパは"戒め"の意味を悟ってない現状では、

制約によって光輪を通ることはできない。

名案とは言い難い。

ここからデセルタワーまでは距離があり、

到着するまでに時間を要する。
 ▼ 158 15/09/12 22:36:46 ID:EC8xesUk [11/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
リングの能力を使えば一秒でも早く"いましめのツボ"が復元できるが、

影に追われているフーパを置いて行くわけにはいかない。

もしも邪悪な"影"がフーパを乗っ取ってしまったら、

それこそ本末転倒だ。

苦渋の決断が迫られるなか、不意に、サトシの声が朗朗と響いた。

サトシ「俺、フーパの傍にいます」

ねずみ「ぴっか!」

メアリ「サトシくん!?」

その言葉を聞いた途端、バルザとメアリは驚愕で口籠った。

バルザ「だ、駄目だ! 君にも危害が及ぶ可能性があるんだ!」

少年1人だけに重荷を背負わせるわけにはいかない。

また彼の体力は"影"の攻撃などで消耗しているのだ。

これ以上の無茶を強いれば、

取り返しのつかないことになるかもしれない。
 ▼ 159 15/09/12 22:43:37 ID:EC8xesUk [12/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザとメアリがその申し出に躊躇するばかりだが、

それでもなお、サトシは毅然とした態度を崩さず、

安心させるように柔らかく口角をあげた。

サトシ「心配しないでください。それに……」

フーパがサトシの青い袖を控えめに引っ張っている。

自分の背後に身を隠しているフーパに、サトシは振り返った。

なにかを恐れるように翠の瞳が揺れていて、

泣き出す寸前まで歪む小さな表情はどこか心許ない。

守らなければ。

その不安定な心を包み込むかのように、

サトシは優しく言葉を紡いだ。

サトシ「言ったろ、俺たちは友達だ」

目線の高さが同じになるように屈めば、黒髪がふわりと舞う。

大丈夫だと胸を叩き、眩しい笑顔をフーパに注いだ。
 ▼ 160 (誤字) 15/09/12 22:45:47 ID:EC8xesUk [13/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>156
× リングが消え去ると同時に、どこか遠くの場所で爆発音が聞こえた。

◎ リングが消え去り、どこか遠くの場所で爆発音が鳴り渡った。
 ▼ 161 15/09/12 22:48:34 ID:EC8xesUk [14/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「だから、フーパを守るのは当然だろ?」

フーパ「サートン……」

サトシは白い歯を見せ、フーパの左頬をくすぐるように撫でる。

不安げに揺れる緑の瞳がぱあっと輝いた。

サトシはそれを確認すると、真っ直ぐにバルザたちを見捉えた。

その琥珀色の双眸から強い意志力が沸き上がっている。

それを正面から受け止めるバルザたちは、思わず大きく胸を波打たせる。

サトシ「俺は大丈夫ですから、バルザさんは壺を!」

バルザ「……すまないサトシくん」

今度こそ何も言えなくなった。

彼が固めた決意は、誰にも止められないのだと悟ったのだ。

目の前の少年は、強い。

バルザ「フーパのことを、頼む!」

メアリ「ありがとう、サトシくん」

サトシは緊張した面持ちで頷く。
 ▼ 162 15/09/12 22:53:59 ID:EC8xesUk [15/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「シトロン、ゲコガシラとヒノヤコマを頼んだぜ」

シトロン「分かっています。ピカチュウはサトシのこと頼みましたよ!」

シトロンの言葉を聞いて、

黄色い相棒はサトシと同じように頼もしく胸を叩いた。

サトシが思わず苦笑する。

そして、リングが幅が3メートルほど広げられた。

みんなが次々と空間移動をするなか、

セレナはサトシの方へと振り返り、声を奮わせて言った。

セレナ「サトシ、気をつけて……!」

くしゃっと顔を歪め、唇をぎゅっと結んでいた。

眉根を寄せては、大きな蒼眼を不安そうに見開いている。

そんな彼女の懸念を吹き飛ばそうと、サトシはニカッと笑った。

サトシ「分かってる。さあ、早く!」

セレナ「うん!」

セレナは大袈裟に頷いてから、リングの内側へと飛び込んで行った。
 ▼ 163 15/09/12 22:58:00 ID:EC8xesUk [16/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
――頼むぜ、みんな……

デセルタワーへと向かったバルザたちの背中を見送ってから、

サトシは鋭く呼気を吐き出す。

自分の任務はフーパを最後まで守り抜くこと。

失敗は許されない、そう意気込んだ次の瞬間、

ピカチュウが注意を喚起すべく、焦った様子で叫んだ。

ねずみ「ぴかぴ!」

サトシ「来たか……っ」

サトシが瞬時に顔色を変えて身構える。

"影"のリングが姿を現した途端、

一瞬の油断もならない状況に変わった。

リングは自由自在にすばやく現れ、好きなように飛び回る。

神出鬼没のリングの行動は読めない。

唯一の救いは"影"の本体が姿を現せないことだ。
 ▼ 164 15/09/12 23:04:11 ID:EC8xesUk [17/17] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ、俺から離れるな!」

サトシは鋭い声で叫び、

腕の中にいるちいさな身体を再度抱きしめる。

追いかけっこの始まりだ。

相棒の電撃で追い払い、全速力で逃げ回るが、

"影"のリングはどこまでもどこまでも、執念深く追いかけて来る。

リングが目前に現れるたびに心臓が掴まれた気分だ。

まるで透明な壁がサトシたちの行動に制限をかけているみたいで、

言ってみれば、八方塞りそのものだ。

サトシは奥歯を噛み締める。

だったら片っ端から壁をぶち壊して道を開くまで。

サトシ「ピカチュウ! ≪10万ボルト≫!!」

ねずみ「ぴ〜かあ〜ちゅううううう!!」

ピカチュウも業を煮やす思いで、全身全霊で撃退する。

"影"の腕から逃れるために、サトシたちは俊足で静寂の街を駆け抜けた。

夜はまだ明けそうにない……
 ▼ 165 15/09/16 21:12:19 ID:f5lOPk5o [1/5] NGネーム登録 NGID登録 報告


*+*+*+*+*+*


吹き抜け構造である大聖堂のなかで、

バルザたちの靴音がリズムよく響き渡っている。

まるでここだけ時が止まったかのような静寂が、

この空間を包んでいた。誰も沈黙を破ろうとはしない。

すると歩みを進めていたバルザが不意に、立ち止まった。

青年はモンスターボールを手に取り、高い天井に放り投げる。

隕石ポケモンに分類される、太陽の形をしたポケモンだ。

バルザ「ソルロック、≪フラッシュ≫だ!」

陽射しのような眩い閃光が、大聖堂の全てを照らした。
 ▼ 166 15/09/16 21:24:51 ID:f5lOPk5o [2/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
ここは旅人グリスが"いましめのツボ"を創造した場所。

その厳然たる空間の中心には、祭壇があった。

まるで神様が本当に存在している気がして身が竦む。

パワースポットとはまた違う、重苦しい雰囲気が漂っているのだ。

その祭壇の上に、バルザは静かに壺の亡骸を置いた。

金属音が小さく響く。

バルザはそれを合図に号令を掛けた。

バルザ「みんな準備を!」

シトセレ「「はい!」」

シトロンたちは三角形を描くように祭壇を中心に囲んだ。
 ▼ 167 15/09/16 21:35:58 ID:f5lOPk5o [3/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザとメアリは壺の亡骸を挟むような配置に立つ。

両の手を胸の前に掲げ、緊張の息をゆっくりと吐き出した。

心臓の奥がきゅっと痛くなり、心拍数も劇的に上昇する。

感覚が鋭敏になるのが嫌でも分かった。

そして、なによりも――

メアリ「……ひいじいさまのチカラを感じるわ」

バルザ「ああ、俺たちのなかに流れてくる……」

100年の時空を越えた現在でも、

曾祖父の圧倒的なパワーがこの空間を漂い続けており、

また兄弟の全身を支配するようで、知らず身震いする。
 ▼ 168 ックラー@ねむけざまし 15/09/16 21:49:40 ID:f5lOPk5o [4/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
シトロンたちも同じような気持ちだった。

緊張の糸がシトロンたちの身体を絡み、

呼吸ができないほどまで縛り上げてくるのだ。

だがアルケーの一族以外の人間が、

ここで精神的に参っても仕方がないのだ。

シトロンとセレナは自分を叱咤して、

ポケモン達の緊張を解すように穏やかな声で語りかけた。

いよいよ、壺の再生が始まるのだ――

バルザ「時よ、空よ、あまねく森羅万象よ。我、ここに求めん……」

バルザとメアリの黄金色の華奢な首飾りが、輝きだす。

バルザ「"火"と"水"と"土"の力をもって、失われし封印を蘇らせよ!」
 ▼ 169 15/09/16 22:04:43 ID:f5lOPk5o [5/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
青年の言葉に反応したかのように、

対数螺旋状のような光が祭壇の上で生まれ、

形がある"フタ"と"リング"が

その流れに誘われるように回転しながら浮上する。

バルザとメアリの首飾りも輝きが一層強くなり、

一般人であるシトロンたちも身体の内側から力が湧いてくる感覚を覚えた。

この神秘的なチカラに大きな感動さえも……

メアリ「みんな、今よ!」

すべての神経が磁石に吸い寄せられるかのように、

台座に鎮座する壊れた壺の亡骸に集中する。

シトロン「ホルビー、≪マッドショット≫!」

セレナ「テールナー、ヒノヤコマ、≪火炎放射≫!」

ユリーカ「ゲコガシラ、≪水の波導≫!」

全員の指示が異口同音に反響した。
 ▼ 170 15/09/17 17:28:58 ID:1wnUElGk [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
影の追駆からやっとの思いで振り切ったサトシたちは、

飛び込むように高層ビルの路地裏へと身を隠した。

流汗がうなじや背中を伝って、びっしょりと黒シャツを濡らした。

すぐに耳を澄ましてみる。気配は感じない。

跡を暗ませることに成功したらしい。

安堵の息を漏らすと同時に、

サトシは相棒とフーパの状態を一瞥する。

サトシ「ピカチュウ、フーパ、大丈夫か?」

ねずみ「ぴかぴ、ぴーか!」

フーパ「うん……」

息切れ交じりだが元気そうな声が聞けて、思わず気が抜けた。

ずっと走り続けてきたのだ。

休息を取らなければガス欠を起こしてしまう。

そう思い、壁に背中をぶつけてずるずると座り込んだ瞬間、

琥珀の瞳がおおきく揺らいだ。
 ▼ 171 15/09/17 17:32:12 ID:1wnUElGk [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
――また、だ……

何かが不意に、サトシの胸中を荒々しくかき乱した。

反射的に左腕を擦る。

バルザと状況整理や対処を話し合っていた時も、

フーパの身を守るために影から逃げ回っていた時も、

サトシは恐怖とは別の、身体中を奔走する怖気をもてあましていた。

最初に感じたのは、邪悪な闇がサトシとフーパを飲み込んだ時だったか。

――いや、違う……

サトシは瞑目して思いを凝らした。

冷静に心を鎮めて、一度、二度、三度、吸っては吐いてを繰り返す。

瞼の裏には、怒り狂ったように漲る"影"の赤い双眸。

鋭利な眼光に呑まれたあの瞬間から、

全身が斬り刻まれるような感覚がサトシの中に居座り続けているのだ。

忘れようにも忘れられない、

まるで心の奥底まで沈み込んでいくようで、

古傷が疼いて、今でも心臓が嫌な音を立てる。
 ▼ 172 15/09/17 18:26:44 ID:1wnUElGk [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
そこで刹那、サトシの脳裏に"影"の叫び声が流れた。

『消えろ』『貴様は消えろ』と、憎悪を剥き出しにして訴えていた。

いま直接聞いたわけではないのに、ぶわっと鳥肌が立つ。

サトシ「…………」

これは何なのか、何が原因なのか、

サトシはその正体を掴むために胸に手を当てて思考を巡らせてみた。

本来、邪悪な"影"はフーパ自身の能力だったが、

怒りの感情を抱いたそれは、フーパの意識を掻き消そうと躍起になっている。

旅人グリスが100年前に"いましめのツボ"に封印するまでは、

お互い同じ存在として生きてきたというのに。

ふと今日起きた出来事を、1枚1枚とページをめくるように、

頭のなかで丁寧に思い浮かべてみた。

フーパ、邪悪な闇、青年バルザの言葉、影の姿、そしてあの叫び――

思い出せば思い出すほどあの感覚がまた、サトシの意識に強く働きかけてくる。

胸が騒いで、落ち着かない。

しっかりと目を瞑り、心の奥に意識を潜り込ませてみた。
 ▼ 173 15/09/17 18:27:41 ID:1wnUElGk [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
ただ静かに嘆息を漏らした。

心臓の音だけが聞こえてくる。

すると身体中に巡っていたあの感情がサトシの近くを通り過ぎた気がした。

咄嗟に、逃がさないようにぎゅっと捕まえると、

それは駄々をこねるように暴れ出した。

サトシは驚く。

どうして暴れ回るのか、問い掛けるように優しく握り直すと、

それは急に大人しくなる。

かと思えば、泡が弾けるように手の中へ溶け込んでいった。

空虚となった掌から、サトシは目が離せなかった。

胸に穴が開いたような気がして、その中を隙間風が冷たく通り過ぎていく。

サトシ「…………」

ゆっくりと目を開けたときには、あの感覚が悲鳴を上げることはなかった。

目の前にある自分の右手を、爪が食い込むまで握り締める。

サトシ「なあフーパ?」
 ▼ 174 (修正) 15/09/25 13:10:49 ID:ILL8oLH. NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 175 15/10/01 19:08:06 ID:eFh2u2/M [1/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「ん?」

小首を傾げて自分の顔を覗き込んでくるフーパに、

サトシは視線を送った。

しばしの無言。

それから、躊躇いながらもゆっくりと口を開いた。

サトシ「俺、"影"と話がしたい」

翠の大きな瞳がまんまると見開く。

一瞬、なにを言われたのかさえよく理解できなかった。

サトシはそれに気づかないまま、さらに言葉を重ねた。

サトシ「もう閉じ込めないから……こんなことはやめようって……」

驚きの余り息を飲んだ。

サトシ「だから俺……」

フーパ「い、嫌だ嫌だ! "影"、フーパ消そうとする!」

硬く目を閉じては肩を縮め、

フーパは我に返ったようにぶんぶんと頭を振った。
 ▼ 176 15/10/01 19:24:38 ID:eFh2u2/M [2/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
震えが止まらない。怖いからだ。

涙声には拒絶の響きが物語っている。

サトシはそれを分かったうえで、

まるで小動物をやさしく抱えるように、

自分の視線とフーパの視線の高さを合わせた。

そしてそれほど大きくはない声が、摩天楼に強く響いた。

サトシ「"影"、すごく苦しそうだった」

フーパ「……ふぱ?」

弦を震わすような彼の声がフーパの身動きを止めた。

意を決したサトシの面持ちに、

ピカチュウも無意識に背筋を伸ばしてしまうほどだった。

サトシ「おまえと一緒で、暗くて怖いだけなんだ!」

フーパ「…………」

その言葉にフーパは身体を硬くさせ、逃げるように目を伏せる。

それでも強い光を宿した琥珀色の視線を肌で感じ、

フーパの瞳が再び忙しく揺れ、その呼吸も荒くなった。
 ▼ 177 15/10/01 19:28:14 ID:eFh2u2/M [3/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
怯えるその身体を落ち着かせるように、

サトシはその頬を指先でそっと撫でた。

サトシ「どうすればいいのかまだ分からないけど……俺はおまえも"影"も、助けたい」

腕に力を込めるサトシの声音に迷いはなかった。

目の前のフーパも"影"も、もともとは同じ存在なのだ。

放っては置けない。

これからどうすべきか思慮を巡らせつつ、

フーパが平静を取り戻すのを待っていると、

不意に、その小さな口許から不安を滲ませた声が零れた。

フーパ「ねぇ、サートン」

硬い表情で躊躇いながらサトシにゆっくりと焦点を向けて、

恐る恐るといった様子で呟いた。

フーパ「フーパ、"影"と仲直りできるかな?」

サトシ「……なかなおり」

胸中でその言葉を噛みしめるように繰り返すと、サトシの表情が綻んだ。

サトシ「そうだよフーパ! "影"と仲良くすれば――」
 ▼ 178 15/10/01 19:32:46 ID:eFh2u2/M [4/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「そうだよ! そうすれば――」

だがそこで胸騒ぎと、何かが自分の背後に迫るその気配が

サトシの言葉を遮った。

サトシは反射的に地を伏せるようにフーパを抱えて守った。

視界に"影"の腕を捉え、胆が冷える。

危なかった。

もう見つかってしまうとは。

屈強な腕は方向を変えて再び襲い掛かってくる。

"影"はフーパを捕まえることに一心不乱だ。

可能であれば闘いたくはないが、今はそれどころではない。

分かっていたことは言え、

"いましめのツボ"に封印するしか手段はないのか。

奥歯を噛み締める。

何にせよこの狭い路地ではこちら側が不利だ。
 ▼ 179 15/10/01 19:36:25 ID:eFh2u2/M [5/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
"影"の猛攻撃から回避しつつ、大道路まで駆け出さなければ、

暴れ出す心臓に構うことなく足を動かした。

あと少しで出口だ。

そう思った瞬間、赤い何かが悲鳴とともに、

凄まじいスピードでサトシの視界を横切った。

衝突音。

アスファルトが砕ける音。

サトシは蒼白顔で叫んだ。

サトシ「ラティアス――!」

ラティアス「くぅうううううううん!!」

来るな! そう聞こえた。

威嚇のような響きに衝き動かされたように、

サトシは反対側に目を転じると、息を詰めた。

まさか"影"の本体と鉢合わせるとは……

邪悪な"影"は殺意を迸りながら、

今にもその口元から悪の奔流を吐き出すつもりだ。
 ▼ 180 15/10/01 19:38:38 ID:eFh2u2/M [6/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「ピカチュウ――ッ!」

ねずみ「ぴーかーちゅうううううううう!」

瞬息で指示をかけると同時に、ピカチュウは黄色い閃光を撃つ。

≪悪の波導≫と≪10万ボルト≫が一直線に衝突し、

火花を飛散させながらお互いの威力を相殺した。

互角か?

だが体力面ではどちらが上なのかは明確ではない。

短い間に情報を頭のなかに集めるなか、

今度はラティオスが腕を畳み、"影"に目掛けて直進する。

≪しねんのずつき≫だ。

"影"の気を引いて、サトシたちをこの場から退避させるつもりだ。

だがラティオスの攻撃が相手を捉えるそのとき、

赤い双眸が鋭い光を放った。

ラティオス「――っ!?」
 ▼ 181 15/10/01 19:40:42 ID:eFh2u2/M [7/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
ラティオスの渾身の一撃が当たるその直前で、

"影"の姿が濃い闇へと溶けていったのだ。

まるで瞬間移動のように。

だがおかしい。

"影"は"戒め"の制約を受けている今、

空間と空間を自由に渡ることはできないはず。

――なにがどうなっている!?

混乱に飲み込まれた瞬間、あの黄金の光輪がサトシの目前に出現する。

否、サトシの目の前だけではない。

サトシ「これは……!」

周囲六方、リングは円を描くようにサトシたちを包囲したのだ。

その矢先に光輪は邪悪な輝きを帯びると同時に、

サトシの身体のなかで警報が鳴り響く。
 ▼ 182 15/10/01 19:42:55 ID:eFh2u2/M [8/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
それから無我夢中だった。

6つの黄金のリングから"影"の腕が飛び出すその寸前に、

サトシはフーパを胸に抱き寄せ、衝撃に備えるために身体を硬直させた。

サトシ「ぐは……っ」

目の前がまっしろになった。

一泊置いて途方もない打撃がサトシの全身に与えた。

"影"はサトシに目掛けて拳を飛ばし、

その身体は勢いのまま地面の上にころがった。

何度かバウンドし、ビルの壁に当たってようやく動きが止まる。

飛ばされた距離は約15メートルだろうか。

焼けるような痛みにたまらず苦悶の声を上げる。

炎症だ。

背中を強打したのか、つうと血がその上を走る。

身を苛むような激痛から解放されそうにない。
 ▼ 183 15/10/01 19:45:51 ID:eFh2u2/M [9/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴぃいいいいッ!!」

ピカチュウは絶叫しながらその身に電気を溜めこみ、

一瞬で全方位に≪10万ボルト≫を解放、

6つのリングは消滅する。

ここから違う場所に現れた"影"とラティオスが交錯するなか、

ピカチュウは真っ先に主人のもとへと駆け寄った。

ねずみ「ぴかぴ! ぴかぴ!」

フーパ「サートン!」

薄れゆく意識を研ぎ澄まそうと、

相棒とフーパの声に重たい瞼を持ち上げる。

ラティオスとラティアスが反撃に身を躍らせている姿を

目の端で捉えながら、サトシは言葉を紡いだ。

サトシ「へへ……っ心配、すんな……って……」
 ▼ 184 15/10/01 19:48:01 ID:eFh2u2/M [10/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「サートン……」

虚勢を張るその姿を目の当たりにして、

フーパは凍りついた表情で翠の瞳を泳がせた。

サトシは苦笑する。

だいぶ動揺させてしまったらしい。

トレーナーとしては失格だと場違いなことを考える。

さて、いい加減に体勢を立て直さなければ、そう筋肉に力を込めるも、

すぐには身体が思い通りに言うことを聞かず、焦りと苛立ちばかりが増した。

無意識に歯斬りする。

休んでいる暇はない。

無理にでも気丈に振る舞わなければ一気に不安が伝染する。

パニックに陥れば勝負が一瞬で着いてしまうだろう。

大きく息を吸い込み、立ち上がろうとした瞬間――

サトシ「フーパ?」

守らなければならないその小さな身体がサトシの腕から離れ、

ふわりと宙に浮いた。
 ▼ 185 ールル@ポケトレ 15/10/01 19:53:27 ID:eFh2u2/M [11/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
決して大きくはない背中をサトシは見つめる。

なぜ?

単独で行動したら危険だというのに、

どうして自分の元から離れるのか、サトシの右腕が必死にそのあと追う。

激痛に苛まれながら上半身を起こすと、

不意に、フーパが勇気を奮い立たせるように高々と叫んだ。

フーパ「フーパ、サートン守る!」

サトシ「!?」

琥珀色の瞳が驚きに丸くなる。

それほど大きくはない背中から覚束ない印象が消え去っていた。

フーパは背筋を伸ばし、耳元にある2つのリングを持ち上げる。

まるで祈るように懇願するかのように、強い想いをリングに乗せた。

翠の瞳が射抜くように"影"を捉える。

フーパ「お〜で〜ま〜し〜!!」

フーパの声に呼応するかのように、黄金の光輪が大きく大きく広がった。
 ▼ 186 15/10/01 20:21:09 ID:eFh2u2/M [12/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
瞬間、その内側から力に満ち溢れた輝きが夜空を照らした。

一方は風の渦があふれ、

もう一方には渦を巻く海流が放出する。

烈風が街路地を激浪のごとく吹き荒らした。

緊張感が漂う。

とても立っていられない。

吹き飛ばされないように地に這いつくばるだけで精一杯だった。

その刹那、風が止む。

何が起きたのかを確認しようと瞼を押し上げると、

サトシは驚きに呼吸を止めた。

闇をより深く彩るような黒い閃光が、

どくろを巻きながら雄叫びをあげていた。

洋龍のような外見。

独特な文様が金色に輝かせては周囲の空気を圧している。

間違いない。

色違いの天空ポケモン・レックウザだった。
 ▼ 187 15/10/01 20:28:03 ID:eFh2u2/M [13/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
だがそれよりも、目を奪われる光景がサトシの視界に広がっていた。

巫女の笛のような海の声が鳴りわたる。

まさか。

サトシは背中の痛みを忘れ、誘われるように立ち上がった。

渦潮が宙で四散するとともに現れた、夜の世界に映える、白銀の翼竜。

水に適応するために丸みを帯び、全身が羽に覆われた姿。

ダイヤモンドを散りばめたような海の水飛沫が、

白い翼をより一層と美しく際立たせている。

深層海流を象徴する『海の神』と呼ばれしポケモン。

その神々しさに見惚れてしまった。

サトシ「ルギア……」

思わず漏れたその声に、あのルギアが反応する。

力強いの眼差しにサトシはわずかに肩を震わせ、後ずさった。

まるで人間の価値を値踏みするような、試しているような、

凛としたあの声が脳の深いところまで浸透していく。

ルギア『優れたる操り人……』
 ▼ 188 Urちゃん◆/fS/i20Qno 15/10/01 20:38:02 ID:PA.cu0PE NGネーム登録 NGID登録 m 報告
久々に見たらけっこう進んでた
 ▼ 189 (誤字) 15/10/01 21:34:44 ID:eFh2u2/M [14/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>186
×洋龍のような外見。

◎東洋龍のような外見。
 ▼ 190 15/10/03 20:03:10 ID:EyCajNT2 [1/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
息を呑む。

サトシは不安げに問い掛けた。

サトシ「ルギアなのか?」

確信ある響きで名前を呼んでくれたのが嬉しかったのだろう、

ルギアは瞳をやわらかくして頷いた。

そして、サトシの傍にいる小さなポケモンに優しく語りかけた。

ルギア『私に助けを呼んだのはきみだね?』

フーパ「ふぱ?」

翼竜の存在感に圧倒されたフーパは、

ただ唇を震わせるだけで声にはならない。

その代わりにサトシが言葉を返した。

サトシ「いいのかルギア?」

ルギアはかれらに暖かな眼差しを注いでから身を翻し、

黒いレックウザとアイコンタクトを取りながら"影"と対峙する。

羽を奮わせて攻撃態勢に入った。

ルギア『大歓迎だ!』
 ▼ 191 15/10/03 20:06:07 ID:EyCajNT2 [2/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
雄叫びをあげて弾丸のごとく飛び出した。

ルギア「おまえたちは下がってなさい!」

その号令にラティオスたちは"影"から引き下がり、

ルギアとレックウザの進路を開けた。

ルギアが≪ドラゴンダイブ≫で速攻するその姿を視界の端で捉えながら、

ラティオスはサトシの頭上を滞空し、高度を下げる。

重症の身では機敏に動けないと見て取れたのだろう、

ラティオスはサトシとフーパを、

ラティアスはピカチュウを自分の背に乗せて、再び浮上した。

その合間にも黒いレックウザの≪竜の波導≫が"影"の肩に直撃する。

サトシ「すごい」

ねずみ「ぴーかぁ」

必然と感嘆が漏れる。

だが影もやられっぱなしではない。
 ▼ 192 15/10/03 20:08:46 ID:EyCajNT2 [3/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
"影"は6つのリングをルギアとレックウザの周囲に飛ばし、

その内側から大量の砂をばら撒いた。

それらを≪サイコキネシス≫で操り、ルギアたちを砂嵐の中に閉じ込めた。

『牽制』の役割があるのだろう。

吹き荒れる風と砂塵の勢いを増し、

その視界を閉ざし、口と鼻もふさぎ、呼吸さえも奪う。

だがルギアは負けじと身を震わせて≪サイコキネシス≫を発動、

砂塵をすべて吹き飛ばした。

海の神はいともたやすくこの窮地を撃破したのだ。

それだけに止まらずに白銀の翼を広げると、瞬時に"影"と距離を狭める。

影フーパ『!?』

ゼロ距離だ。

ルギアは顎門を開き≪エアロブラスト≫を発動させた。

螺旋状の風が"影"を拘束し、かまいたちとなってその身を蹂躙する。

そのまま轟音を立てて"影"をアスファルトの上に叩きつけた。
 ▼ 193 15/10/03 20:11:35 ID:EyCajNT2 [4/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
地が裂け、"影"は激痛に叫喚する。

そして怯んだその隙を、黒いレックウザは見逃さない。

レックウザ「きゅりゅららららぁああああ!」

影フーパ『――――ッ!』

上空で待機していたレックウザはすでに、

積乱雲を成熟させていたのだ。

刹那、重く垂れこめた空から稲妻が光条となって"影"を貫いた。

派手な爆発音とともに黒煙が膨れ上がり、

衝撃波が周辺の窓ガラスを粉砕した。

電気タイプのなかで屈指の威力を誇る技だが、次元がまったく違う。

海の神と成層圏の主が共演した『疾風迅雷』に、サトシは胆が冷えるのを感じた。

敵に回せば脅威になるが、味方になるとこうも頼もしいとは――

ルギアと黒いレックウザはそこから距離を取って、サトシたちの方へと移動した。

黒煙のなかを固唾を呑んでじっと見守る。

次の瞬間だった。
 ▼ 194 15/10/03 20:13:14 ID:EyCajNT2 [5/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
"影"が爆煙と砂塵を連れて急上昇するその姿がサトシたちの目に映った。

あれほどの連携技を耐えきるとは、サトシの額から汗が流れる。

状態異常は引き起こしていないようだ。

"影"は憤怒と怨恨を重ねて咆哮をあげると、

リングが6つ、影の周りを囲むように展開した。

……瞬間、空気に重みが増した。

どこからか電流が大気中に流れているのか、肌がビリビリと痛み、

身体が否が応でも硬直する。

その空気が肺の奥まで侵入し、

身体の内側から息苦しい圧迫感を引き起こした。

未知の恐怖を覚える――いや、違う。

この気配を、サトシは知っている。
 ▼ 195 15/10/03 20:14:56 ID:EyCajNT2 [6/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
その心臓が悲鳴をあげるなか、

小さな変化でさえ見逃すまいと両目に意識を集中させる。

耳を澄まし、早鐘のような鼓動を鎮めると、

6本のリングが一斉に燦爛たる光線を発した。

サトシ「!!?」

リングがこことは異なる空間へと繋ぎ、

その内側から、滅多に見ることのできない生き物が出現した。

時間を司る神:ディアルガ。

空間を司る神:パルキア。

反転世界の王:ギラティナ。

海の化身:カイオーガ。

陸の化身:グラードン。

氷の化身:キュレム。

伝説と謳われしポケモンがデセルシティに集結した。

サトシは戦慄する。

"影"は苦し紛れにフーパの真似をしたのだ。
 ▼ 196 15/10/03 20:17:03 ID:EyCajNT2 [7/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
時空・反転・海・陸・氷山など、

その大自然に絶大な影響力を及ぼす物恐ろしいエネルギーが、

乱れては反発し、デセルシティ全貌に重圧を掛けている。

だがさらに驚くべきことがあった。

各々の双眸に染まった、あの獰猛な赤い色。

シンオウ伝説、ホウエン伝説、イッシュ伝説、

どれも邪悪な気配に操られている証拠だった。

サトシ「≪サイコキネス≫で操っているのか――!」

全身の血が凍った。

神と崇められしポケモンの能力はケタ違いだ。

云わば数の暴力。

無論、ルギアたちを信頼している。

けれど端的に言って、4vs6という構成はあまりにも形勢不利だ。

一歩間違えれば"死"に繋がるだろう。
 ▼ 197 15/10/03 20:17:49 ID:EyCajNT2 [8/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
大粒の汗が額から顎の輪郭を伝って滴り落ちる。

ねずみ「ぴかぴ」

サトシ「…………」

相棒の声でハッとする。

考えるのは止そう。

精神を水のなかに静め、全神経を研ぎ澄ませながら、

語り継がれる神々たちを緘黙と睨み据える。

トレーナーの俺が揺らいだら、勝てるものも勝てなくなる。

心の奥底に潜んだ恐怖をすべて焼き尽くそうと、憤然と闘志を燃やした。

サトシ「相手にとって不足はないぜ!」

ねずみ「ぴかちゅう!」

誰が相手であろうと、"いましめのツボ"が完成するまで耐え抜いてやる――


 ▼ 198 15/10/03 20:19:09 ID:EyCajNT2 [9/13] NGネーム登録 NGID登録 報告


*+*+*+*+*


夜空の下で、パトカーのサイレンが赤く尖ったような音をあげていた。

その赤色灯が照らすのは、

人間が恐怖に顔を歪ませて逃げ惑うその姿だった。

また爆発音が聞こえ、黒煙が鼻を刺激する。

それが混乱状態に拍車を掛けた。

ジュンサーの指示を掻き消すほどの無数の叫び声が

さらに人々の心をおびやかし、交通もすでに麻痺状態となっていた。

デセルシティに棲みつく野生のポケモンたちは、

この場から離れるために、広大な砂漠へと大移動を開始していた。

まるで本能に従うかのように……

 ▼ 199 15/10/03 20:19:48 ID:EyCajNT2 [10/13] NGネーム登録 NGID登録 報告


*+*+*+*+*



デセルシティ上空で伝説と伝説が空中戦を展開するなか、

"影"が突然、咆哮をあげた。

それに従うように邪悪な伝説たちが攻撃態勢に入る。

その身体の内から高エネルギーが迸り、

波紋のように広がっては収縮する。

竜・鋼・闇・水・地・火・氷・悪・超のエネルギーが空気を集積させ、

螺旋状の風が影を中心に吹き込ませていく。

遠く離れた場所から対峙するサトシも、

エネルギーの密度が上昇しているのが肌で分かった。
 ▼ 200 15/10/03 20:21:09 ID:EyCajNT2 [11/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
勢いは止まることを知らず、周囲を轟かせ、

目に見えぬ牙となって摩天楼の壁や窓ガラスを噛み砕いた。

サトシ「来る――ッ」

"影"の雄叫びが合図だった。

≪時の咆哮≫や≪亜空切断≫などの高威力の技が一斉掃射され、

渦を描きながら絡み合い、それは猛スピードで闇を切り裂いていく。

サトシたちを容赦なく排除する気だ。

しかし、思い通りにはさせない。

サトシ「迎え撃つ!」

サトシもあの圧倒的なエネルギーに負けじと大声で叫ぶ。

サトシ「ラティアスたちは≪竜の波導≫! ルギアは≪エアロブラスト≫! ピカチュウは≪10万ボルト≫!!」

全身全霊をかけて、ピカチュウは雷を身に纏い、

ラティオスたちも胸を膨らまして波導の塊や風の渦を発射する。
 ▼ 201 15/10/03 20:21:50 ID:EyCajNT2 [12/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
刹那――

互いの高エネルギーが激突した。

そのまま凄まじい音を立てて炸裂し、

爆発と熱風、そして衝撃がサトシたちを飲み込んでいった。

視界が灼熱し、全身が打ちのめされた。

一瞬遅れて巨大な爆発音が鼓膜を揺さぶり、

海面には大きな荒波を生み出し、水飛沫が散る。

黒煙が雲のように膨れ上がり、風が暴れ、砂塵は荒れ狂う。

地を揺るがす轟音が鳴り響き、

高層ビルも衝撃に耐えきれず崩れ始めた。

あまりの爆風に身動きが取れず、ピカチュウたちが悲鳴をあげるなか、

サトシは急き込む。

この状況では体勢を立て直すどころではない。

相手にとっては恰好の的。

"影"たちは今にでも肉薄し、無防備なサトシたちを蹴散らすだろう。

どうすればいい、頭脳をありったけ回転させたそのとき――
 ▼ 202 15/10/03 20:23:21 ID:EyCajNT2 [13/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴぃ!!」

サトシ「なんだ!?」

胸元を飾るちいさな宝珠が輝き始めた。

その光は一瞬で大きくなり、サトシたちを優しく抱きしめる。

あまりの眩しさに目が眩んだ。

……あたたかい。

空気が柔らかくなり、

衝撃波を喰らった身体から徐々に痛みがひいていく。

宝珠からさらにパワーが開放され、

鮮やかな七色の輝きが調和を生み出し、

ラティアス達にどんどん吸収されていく。

サトシも身体の内側から力が満ち溢れてくるのが分かった。

身に覚えがある――進化を超えた進化――これは……

サトシ「――――っ」

次の瞬間、七色の輝きが周りの黒煙を吹き飛ばした。
 ▼ 203 15/10/06 17:15:07 ID:ihn9OdU. [1/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴ、ぴかあ!?」

ルギア『メガシンカか!』

ルギアの言葉を聞いてサトシは心の底から驚き、

すぐに胸元の首飾りを凝視する。

まさかキーストーンだったとは……

ラティアスとラティオスの腕が巨大化し、

背中にあった翼はその巨大化した腕の部分に移動した。

ジェット機に近い姿はスピードに特化しているのだろうか。

夢幻ポケモンの体色は赤から鮮やかな薄紫に変化した。

レックウザも新たな姿に変貌し、

全身の皮膚は宝石のような質感で、輝きと滑らかな光沢を放っている。

大きさも10メートルまで成長した。

顎が刃状になり大きく前に突き出している。

元の黄色い模様が抜けたような長い髭が、

燃えるような輝きを生んで、生き物のように、顎から後ろに流れていく。
 ▼ 204 15/10/06 17:19:02 ID:ihn9OdU. [2/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
それらの圧倒的なパワーに、"影"は驚きを禁じ得ない。

一際けわしい表情を浮かべるが、凄まじいほどに動揺していた。

メガレックウザ『きゅりゅららららぁあああ!』

黒いメガレックウザを先頭に、メガラティオス、メガラティアス、

ルギアたちは残像を散らしながら"影"と伝説たちの頭上を通過する。

メガシンカしたことで強化されたそのスピードに、

"影"たちを圧倒させ、空気を裂いた。

耳をつんざくような高音が耳を襲い、重低音があとからついてきた。

その凄まじさが強い刺激となる。

"影"の双眸が獰猛な光を放ち、キュレムを動かした。

キュレムは"影"の意のままにブラックキュレムにフォルムチェンジすると、

稲妻のごとく飛び出し、≪フリーズボルト≫を発動させた。

電気をまとった氷塊がサトシたちに向かって、弾丸のごとく肉薄する。

サトシは息を詰める。

直撃したら麻痺情他になる可能性が高いからだ。

サトシ「かわせ!!」
 ▼ 205 15/10/06 17:27:37 ID:ihn9OdU. [3/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシの叫びに、メガラティオスたちはアクロバットな動きで回避する。

急浮上、急降下、右に旋回したかと思えば、宙返りと、

次々と打ち込まれる相手の追撃に対応する。

その機動力の高さは、一歩間違えれば、サトシとフーパは振り回すほどで、

最後の一発も難なく躱した。

影フーパ『……っ!』

撃ち損じてしまったことに"影"は牙を鳴らし、

ディアルガ・パルキア・ギラティナを一斉に飛翔させた。

その姿を確認してサトシはほくそ笑む。

かれらをデセルシティから遥か上空に引き離すことに成功したのだ。

サトシはさらに、一直線に並んで追いかけてくる伝説たちに指を差す。

そのまま黒いメガレックウザに向かって、あの技を叫んだ。

それはポケモン図鑑に載っていた、いままで聞いたことがない技だった。

サトシ「≪ガリョウテンセイ≫!」
 ▼ 206 15/10/06 17:29:11 ID:ihn9OdU. [4/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
その指示に呼応するかのように、メガレックウザは喊声を発した。

エメラルド色の光の粒子が、その身体の内側から大量に溢れ、

その輝きが瞬く間に強くなっていく。

そのまま刃状の顎を突き出し、

ディアルガたちに向かって猛スピードで突っ込んだ。

それはまるで流星のごとく闇を切り裂く。

刹那、凄まじい激突音が鼓膜を殴った。

強烈な破壊力を伴った物理攻撃は、

シンオウ三龍を砂漠の彼方まで弾き飛ばすのに十分だった。

しかしその次の瞬間、地上からの攻撃がサトシたちを捉えようとしていた。

陸の化身だ。

ゲンシグラードンの≪火炎放射≫が、夜空に向かって撃ち上げられた。

火炎旋風のごとく立ち昇る灼熱の炎が、サトシたちに向かって急速に迫る。

フーパ「サートン!」

サトシ「かわせラティオス!!」
 ▼ 207 15/10/06 17:32:32 ID:ihn9OdU. [5/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
逃げに転じるべく飛び退いた。

吹き荒れる熱風が肌を撫で、舞い散った火の粉が腕を擦ってくる。

サトシは痛みに顔を歪めた。

回避行動に専念することによって、

体勢を崩したサトシに照準を絞り、虎視耽々とする者がいた。

カイオーガだった。

大きな顎門が開かれ、青白い光が球状に収束されていく。

水タイプのエネルギーが限界まで膨れ上がった瞬間、

それは大量の矢となって、直線を描きながら発射された。

全体攻撃だ。

その圧倒的なスピードと威力に、

サトシは息を忘れて全員に警報を鳴らす。

機敏に回避しても、≪根源の波導≫がサトシたちの退路を次々と奪い、

その範囲を狭めていく。

そしてついに一本の矢が、メガラティオスの片翼に命中してしまった。
 ▼ 208 15/10/06 17:34:47 ID:ihn9OdU. [6/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
メガラティオスが苦痛の声をあげるのと、

その衝撃でサトシがその背中から滑り落ちるのはほぼ同時だった。

サトシ「うわぁああああ――――ッ!!」

フーパ「サートン!」

ねずみ「ぴかぴぃいいい!」

回転しながら真っ逆さまに落ちていく。

風が全身を強く叩き、青いシャツがばたばたとはためいた。

サトシは右手を空しく伸ばして、もがく。

この高さだ。このままでは確実にぺしゃんこになる。

そう絶望に染まったそのとき、

フーパが彼に向かってリングを投げた。

リングがサトシの落下速度を追い越し、

その下に回り込んで、大きく輪を広げた。
 ▼ 209 15/10/06 17:35:48 ID:ihn9OdU. [7/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシの身体は落とし穴のように、リングの内側に吸い込まれた。

かと思えば、リングがラティオスの頭上に瞬間移動する。

その内側からサトシが現れ、

まるで何事もなかったように、ラティオスの背中に戻ってきた。

その一部始終を見届けたフーパは安堵の笑みを零す。

フーパ「サートン良かった!」

サトシ「ありがとう、助かったぜ!」

そう感謝を述べると、どこかで落雷の音が聞こえた。

相棒のピカチュウがゲンシカイオーガに≪10万ボルト≫を浴びさせていたのだ。

主人の危機が迫ったことに腹を立てたのだろう。全開パワーだ。

それが功を成して、≪根源の波導≫が完全に止んだ。

サトシは自慢の相棒に親指を立て、長い呼気を吐く。

さあ、追いかけっこの続きだ。

そう表情を引き締めたそのとき、サトシは突然、異変を感じ取った。

"影"が動きを止め、なにかを探るように赤い目を凝らしているその姿が、

サトシの視界に飛び込んできたからだ。
 ▼ 210 (誤字) 15/10/06 17:37:33 ID:ihn9OdU. [8/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>209
× 主人の危機が迫ったことに腹を立てたのだろう。
◎ 主人に危機が迫ったことに腹を立てたのだろう。
 ▼ 211 15/10/06 17:38:05 ID:ihn9OdU. [9/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
まるで気配を辿るように。

……嫌な汗が流れた。

サトシは"影"の視線を追い掛ける。

まさか!

そう思った瞬間、"影"がデセルタワーに向かって飛び出した。

琥珀色の瞳が揺らぐ。

"影"はついに、壺の再生を感知してしまったのだ。

サトシ「ラティオス――!」

ラティオス「ふぉおおおおおおおお!」

一瞬遅れて"影"の後を追う。

ルギアたちもそれに気づき、追随する。

"影"の飛行速度をものの見事に凌駕し、デセルタワーを背にして、

サトシたちは"影"の前に立ちはだかった。

"影"も怒りの咆哮を上げて、伝説たちを呼び寄せた。

視線と視線が激しくぶつかり合い、スパークする。
 ▼ 212 15/10/06 17:42:32 ID:ihn9OdU. [10/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「ここには指一本触れさせない!」

壺の再生を妨害されるわけにはいかない。

それに、仲間を危険な目に遭わせるわけにもいかないのだ。

≪エアロブラスト≫、≪竜の波導≫、≪10万ボルト≫で、

豪雨のように襲ってくる敵の攻撃を掻き消す。

その度に爆発音が鳴り渡った。

敵の数が多い分、完全に防ぎ切るのは困難を極める。

だがそれを乗り越えなければ、

そう間髪入れずに迎撃するも、

ギラティナの≪シャドーボール≫がサトシたちを飛び越えて、

デセルタワーの上部を破壊してしまった。

刹那、爆発音が鼓膜を揺らし、爆煙が巻き上がる。

サトシ「しまった……ッ」

真っ黒に焦げた瓦礫が次々と崩れ落ち、

凄まじい音とともに、広場のうえで木端微塵になった。
 ▼ 213 15/10/06 17:45:29 ID:ihn9OdU. [11/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
呼吸が止まる。サトシは血の気が引くのを感じた。

もし、あの軌道がずれていたらどうなっていたのか、

嫌な想像が脳裏をかすめた。

それが焦燥感を掻き立てる――

どうする! どうすればいいんだ!

追い詰められたかのように、頭を回転させた。

逸る呼吸を抑え、たえず状況に目を配り、どんな情報でも頭に叩き込む。

しかし冷静に考えたくても、焦りがどんどん蓄積されていく。

防戦一方ではいずれ突破されてしまう。

猛攻撃を完璧に防ぐような壁さえあれば――

そこで身体がふっと軽くなった気がした。

サトシ「壁?」

琥珀色の瞳が揺らぐ。

そうだ。探すんじゃない、作るんだ!
 ▼ 214 15/10/06 17:47:21 ID:ihn9OdU. [12/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシは腕を踊るように揺らして、高らかに叫んだ。

サトシ「レックウザ、空を操れ! ≪竜巻≫を起こすんだ!」

指差したその場所はデセルタワーのはるか上空だった。

黒いメガレックウザはそこに向かって舞い昇り、即座に旋回し始めた。

メガレックウザに邪魔が入らないように

サトシたちが"影"たちと激闘するなか、

上昇気流が急激に強まってはその回転運動は加速され、

積乱雲が呼び寄せられる。

"影"がばら撒いた砂塵も巻き上げられ、雲が渦を巻き、

稲妻が轟音を立てて荒れ狂う。

巨大な≪竜巻≫が完成する。

≪竜巻≫は味方ごとデセルタワーをすっぽりと包み隠した。

触るだけで火花が散るだろう。

その自然エネルギーの猛威は"影"たちを怯ませ、後方へと追い立てる。

これが自然現象を操りし者のチカラなのだ。
 ▼ 215 15/10/06 17:51:30 ID:ihn9OdU. [13/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
が、これだけでは終わらない。

サトシは間髪入れずに指示を飛ばした。

サトシ「ルギア、ラティアス、ラティオス、バックアップだ! ≪サイコキネシス≫!」

ルギアたちの瞳が青白く光り、

エスパータイプの力が竜巻に加えられ、防御壁が強化された。
 ▼ 216 15/10/06 17:52:08 ID:ihn9OdU. [14/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
ゲンシグラードンが≪ソーラービーム≫を撃ち、

ゲンシカイオーガが≪根源の波導≫を一点集中に放っても、

防御壁はその攻撃の貫通を許さない。

短時間でこの策を思い付いたサトシに、フーパは興奮する。

フーパ「サートンやるー!」

サトシ「みんなのおかげだ……ッ」

自分が思ったより低い声が出た。汗が風で散る。

こちら側はすでに全体力を消耗しているに等しい。

次々と相手の攻撃が叩き込まれるなか、

いつまで現状維持できるか、正直に言って見当も付かない。

だがこれ以上の策が思い浮かばないのも事実だった。

サトシは祈るように拳を握りしめた……
 ▼ 217 トベター@いのちのたま 15/10/08 18:34:50 ID:DSb.jUjQ [1/20] NGネーム登録 NGID登録 報告




*+*+*+*


"いましめのツボ"の再生が"影"に知られたことは、

大聖堂にも伝わっってくるとてつもない振動で知らされた。

すこしの沈黙。空気を揺り動かす振動音。

天井や壁に裂け目が発生し、ぱらぱらと何かが落ちて来る。

そして再び足元が揺らぎ、セレナたちは恐怖に打ちのめされる。

バルザとメアリも同じだった。

だがその恐怖に打ち勝ち、壺の再生に専念しなければ、
 ▼ 218 15/10/08 18:37:55 ID:DSb.jUjQ [2/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
そう両手に意識を集中させようとしても、

バルザ「くっ……!」

メアリ「兄さま!」

度重なる振動がバルザたちの心を強く揺さぶってくる。

不安が怒涛のように押し寄せてくるのだ。

バルザ「……っ」

自分たちの能力は曽祖父グリスより劣っている。

もしかしたら間に合わないのではないか。

それが重石のごとく胸のなかに沈んできて、息が苦しくなる。

だがそのとき、それを断ち切る者がいた。

ゲコガシラ「ゲコガシラァ!!」

ヒノヤコマ「きゃ〜ま〜!」

サトシのポケモンたちが雄叫びが、バルザたちの意識をかき集める。

それと同時に、赤と青のまばゆい輝きが強くなり、

大聖堂の全体をより明るく照らした。
 ▼ 219 15/10/08 18:40:37 ID:DSb.jUjQ [3/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
シトロンのホルビーもそれに続いて、

≪マッドショット≫に送り込むエネルギーを強化させた。

それぞれの色彩が調和されていく。

火・土・水、それらの自然エネルギーが生み出すチカラが、

風の奔流となって、バルザやセレナたちの髪を揺さぶった。

まるで元気付けてくれているようで、口唇がわなわなと震える。

そしてバルザは大きく息を吸い込み、メアリに向かって力強く叫んだ。

バルザ「追い込みをかけるぞ……!」

メアリ「ええ!!」

必ず成し遂げなければ、視線を交わして意思を固める。

兄妹の掛け声に呼応するかのように、金色の光が一層強くなった。

白熱する光のなかで、それぞれの想いが、

アルセウスのペンダントに届いた気がした。
 ▼ 220 15/10/08 18:42:12 ID:DSb.jUjQ [4/20] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*+*+*

長く険しい攻防戦が繰り広げられるなか、

火花が飛び散っては絶え間ない爆発音が鳴り響き、閃光が夜空を照らした。

"影"と伝説たちは時折、射線を変えてはその攻撃の手を緩めない。

おかげでサトシたちの息がすっかり上がっていた。

攻撃をすべて殺すのは簡単ではない。

殺せば殺すほど、体力が消耗し、加えて精神さえも削り取られていく。

さらにその余波がルギアたちに追い撃ちを掛け、視界が揺らいだ。

それでも死にもの狂いで気力を振り絞る。
 ▼ 221 15/10/08 18:43:51 ID:DSb.jUjQ [5/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
だが次の瞬間だった。

≪悪の波導≫が竜巻を大きく揺らしたことによって、

その影響はサトシたちにまで及んだ。

息を詰めた。均衡が崩れようとしている。

竜巻のバリアに入ったその亀裂の一点を、赤い双眸が見逃さない。

このときを待っていたと言わんばかりに、

"影"の神経が伝説のポケモンたちに働きかけた。

ディアルガたちはその身を震わせて攻撃態勢に入る。

ねずみ「ぴかぴ!」

サトシ「来るぞ!!」

≪時の咆哮≫や≪亜空切断≫など高威力の技の数々が、

亀裂の一点に注ぎ込まれる。同時攻撃だった。

その刹那、とてつもない衝撃が竜巻の内部に襲い掛かった。
 ▼ 222 15/10/08 18:47:04 ID:DSb.jUjQ [6/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「ぐぁあああああ――ッ」

ルギア『〜〜〜〜〜〜ッ!!』

あまりにも強いその衝撃に耐えきれず、集中の糸が切れ、

メガラティオスたちの瞳から青白い光が消えた。

ついに均衡が崩れる。

幾重にも為される攻撃の猛威を殺したのを最後に、防御壁が消滅した。

激しい気流は弱まり、砂塵は支えを失くしてデセルタワー周辺に落下した。

一番のダメージを喰らったのは黒いメガレックウザだ。

まるで撃ち落された鳥のように、

苦悶の声が漏らしながら、海に向かって墜落する。

サトシ「レックウザ―――ッ!」

水柱が噴き上がるのと、サトシが悲痛に叫んだのはほぼ同時だった。

だがその呼び声に応えるのは、海面のうえで弾ける気泡だけで、

上がってくる気配は微塵も感じない。

そのことに体内温度が下がった気がした。
 ▼ 223 15/10/08 18:49:23 ID:DSb.jUjQ [7/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
ルギア『優れたる操り人――!!』

サトシ「!?」

ルギアが注意を喚起したおかげで、

ラティオスは敏速な反応で敵の奇襲を回避した。

間一髪だった。サトシはすぐに冷静さを取り戻す。

今にも伝説のポケモンたちと"影"が迫撃してくるのだ。

鋭い呼気とともに指示を飛ばす。

サトシ「ラティオス、≪竜の波導≫!」

メガラティオスは胸を膨らませて、その口許から衝撃波を巻き起こす。

その攻撃はものの見事に、ギラティナの≪波導弾≫を飲み込んだ。

しかし、別の方角から新たなる攻撃が次々と撃ち込まれる。

サトシは歯噛みしては疲弊した気力をかき集め、

長年の勘と的確な指示で、攻撃をやりすごす。

しかし、陣形を崩されてしまったこの状況では、守備を固めるのは容易ではない。

また度重なる疲労がサトシたちの足を引っ張っているため、

かれらの動きや反応が強制的に鈍ってしまう。もうボロボロなのだ。
 ▼ 224 15/10/08 18:52:48 ID:DSb.jUjQ [8/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
それでもデセルタワーを守り切らなければ、声を振り絞って叫ぶ。

そのときだった。

一瞬だけ、集中力が切れてしまった。

サトシの中で警鐘が鳴り響く。

サトシ「!?」

フーパ「サートン!」

すべてを凍らせる激しい冷気が、カチカチと音を立てて、

メガラティオスの周囲を包み込もうとしていた。

腹の底から恐怖が湧き上がった。

ホワイトキュレムを先頭に、ディアルガ、パルキアが

残像さえ残るスピードで夜空を駆け抜け、

サトシたちの目の前に迫ってきたからだ。
 ▼ 225 15/10/08 18:54:22 ID:DSb.jUjQ [9/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
燃え盛るまぶしいオーラが、サトシたちの視界を埋め尽くす。

冷気が肌の上を撫でた。額から流れた汗が凍りつく。

――ホワイトキュレムの≪コールドフレア≫!

それだけではない。

その右側にはディアルガの≪時の咆哮≫、

反対側にはパルキアの≪亜空切断≫が今にも発動しようとしている。

琥珀色の瞳が見開く。

収束されるエネルギーが濃くなれば濃くなるほど、

時間がゆっくりと流れていくような錯覚に陥った。

サトシは頭のなかでなにかを悟った。もう、間に合わない。

サトシ「フーパ!」

サトシは咄嗟にフーパを胸に抱き寄せ、

背中を丸めて硬直したそのときだった。
 ▼ 226 15/10/08 18:58:55 ID:DSb.jUjQ [10/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ!」

サトシは咄嗟にフーパを胸に抱き寄せ、

背中を丸めて硬直したそのときだった。

盛大な水飛沫とともになにかが湖面を割って這い上がり、

目にも留まらぬ速さで、キュレムたちを蹴散らしたのだ。

それは突進型の先制攻撃、≪神速≫だった。

思わず歓声の声をあげる。

サトシ「レックウザ……!!」

黒いメガレックウザは咆哮をあげて返してきた。

力を振り絞ってサトシたちの危機を救ってくれたことに、

感謝で胸がいっぱいになる。

それが油断に繋がった。

サトシ「な――ッ!」

"影"のリングが、メガラティオスの目前に突如現れた。

その内側から禍々しい光とともに、屈強な腕が襲い掛かってくる。
 ▼ 227 15/10/08 19:02:29 ID:DSb.jUjQ [11/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
ラティオス「〜〜〜〜ッ!」

正面からまともにダメージを喰らい、その重心がぐらつく。

メガラティオスは誤ってサトシとフーパを振り落としてしまった。

フーパ「ふぱぁあああああああ!?」

サトシ「捕まってろ……!」

咄嗟にフーパを胸に抱き寄せ、これからの衝撃に備える。

そのままデセルタワーの正面に落下した。

左肩を強打してしまい、サトシの顔が苦痛に歪む。

ねずみ「ぴかぴぃいいいいい――ッ!」

すぐに主人の元へ駆け付けなければ、

メガラティアスとともに急降下を試みるも、

ギラティナが邪魔をしてしまって思い通りに動けない。

それを嘲笑うかのように、"影"がサトシたちに牙を向く。

サトシ「!?」

激痛に堪えて、地を蹴りだす。
 ▼ 228 スカーン最高◆pGt6/pVDLk 15/10/08 19:06:51 ID:.rVhHIBE NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみwwwwwwwww

レジギガスが出てない・・・・
 ▼ 229 ソハチ@メガストーン 15/10/08 21:08:19 ID:0C0ClhvU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 230 15/10/08 23:12:34 ID:DSb.jUjQ [12/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
今の"影"にフーパを渡すわけにはいかない、そう腕に力を込めた。

だが全力を振り絞っても、"影"のリングが行く手を阻んでしまい、

逃げ場が消え失せる。

サトシ「――!」

サトシは覚悟を決めた。

"影"の拳からフーパを守るために背を丸めて硬直する――

そのとき、がくん、と見えない壁にぶつかったようにその拳が停止した。

サトシ「……?」

フーパ「サートン! "影"が!」

未だに訪れない衝撃に違和感を持つ。

何が起きたのか、フーパの声に顔を上げると、

影が呻き声をあげるその姿が視界に飛び込んできた。

それだけではない。

もがき苦しむ"影"から何かしらの影響を受けているのか、

伝説たちもまた、電池が切れたかのようにその動きを止めた。
 ▼ 231 15/10/08 23:15:34 ID:DSb.jUjQ [13/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
影フーパ『ぐああああああぁ……ッ!』

"影"が空に向かって絶叫する。

その身体からあの邪悪な闇があふれ出し、

どこかに向かって波のように引き寄せられていく。

数時間前の記憶がよみがえる。

まさか!

この既視感に衝き動かされるように背後に振り向く。

デセルシティの入り口付近で、

バルザが"いましめのツボ"を空高く掲げるその姿が、

サトシとフーパの視界に飛び込んできた。

壺は空気を吸引するように、

あふれ出る邪悪な闇を封印している最中だった。

知らず気持ちが向上する。

"いましめのツボ"が遂に完成したのだ。

青年の隣にはメアリが、そしてその後ろにはシトロンたちも立っていた。

かれらもまた、緊張した面持ちでその光景を見守っている。
 ▼ 232 15/10/08 23:16:48 ID:DSb.jUjQ [14/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
その間にも、闇よりも深い邪悪なオーラが、

激しい気流とともに吸い込まれていく。

だが取り込めば取り込むほど、バルザの身に凄まじい圧力が掛かり、

その足元が地面に食い込んでいった。

バルザ「!!?」

突然、心拍数が跳ね上がった。

黒ずんだ闇が皮膚のなかに侵入し、神経を通して痛覚を刺激してくる。

痺れるような痛みにバルザは顔を歪めて呻いた。

それでも抑え込まなければ、そう全神経を注ぎ続けるも、

荒ぶる壺がバルザの手から逃れ、大きな弧を描いて弾け飛んでしまった。

全員が息を呑んで身体を強張らせる。

――まずい!

そして誰よりも先に、サトシが動き出していた。
 ▼ 233 15/10/08 23:18:56 ID:DSb.jUjQ [15/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
あの高さだ。打ちどころが悪ければ砕け散ってしまう。

沈み込んだ体勢から一気に地を蹴りあげた。

瞬きせず、壺に向かって右腕を伸ばし、手のひらを力の限り開く。

あと3m。2m。1m。10cm。

指が壺の首に触れる。

サトシは無事に落下による打撃から壺を守ったのだ。

その代わりに右腕に擦り傷が生じる。

それでも彼は壺を落とすことをしなかった。

しかし、その次の瞬間、

サトシ「ぐっ!!」

壺から強烈な"怒り"がその指に伝って、全身に流れ込んできた。

邪悪な闇がゆらりと音もなくたぎっていき、

そのままサトシの全身を覆いかぶさった。
 ▼ 234 15/10/08 23:20:52 ID:DSb.jUjQ [16/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「ぐぅっ……あああああああぁぁ――ッ!」

一瞬だった。

鋭い痛みが全身を貫き、我慢できずに声にならない声をあげた。

脂汗が滲む。呼吸さえも満足にできない。

ねずみ「ぴかぴ!!」

フーパ「サートン!!」

ピカチュウもメガラティアスから飛び降り、主人の元に駆けつける。

だがその鳴き声さも届いていないのか、

サトシは黒髪を乱し、荒い息を吐き出してうずくまる。

思わず視線を外したくなった。

壺も猛り狂うかのように、サトシを攻撃する。

思わず全体重が持ってかれそうにもなった。

サトシ「大丈夫だ"影"! 落ち着け!」

だが壺はその言葉に反して、いっそう激しく暴れ回る。
 ▼ 235 15/10/08 23:22:35 ID:DSb.jUjQ [17/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
全身が焼けるように熱い。筋肉が痙攣して悲鳴を上げる。

意識が暗闇の底まで落ちていきそうだ。

それでもサトシは意固地になってまで耐え抜こうと、もがいた。

サトシ「ぜったいに……離す、もんか……ッ」

そうだ。絶対にこの手を離してはいけない。

そう自分自身を叱咤して奥歯を噛み締める。

だが壺はその抵抗を止めない。

サトシの全身をひっかくかのように、必死に抵抗を続けた。

サトシ「うおぉおおおああああああ――ッ」

両眼を限界まで見開き、空に向かってその喉から絶叫が絞り出された。

それからだった。

壊れたオモチャのように力尽きたのか、サトシの膝が折れ、

ぐったりとその場に座り込んでしまった。
 ▼ 236 15/10/08 23:32:15 ID:DSb.jUjQ [18/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
気を失ったのか、頭が垂れる。

そして"いましめのツボ"も同じようにその身動きを止めた。

数秒の沈黙が続いた。

張りつめた緊張が空気を伝って、徐々に広がっていく。

ねずみ「ぴ、ぴかぴ?」

フーパ「サートン?」

なんの反応を示さないサトシに、

ピカチュウとフーパは恐る恐る話しかけた。
 ▼ 237 15/10/08 23:32:39 ID:DSb.jUjQ [19/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
それでも言葉が返ってこなかった。

2匹は意を決して足を動かした。

サトシに向かって、一歩ずつ慎重に距離を詰めていく。

もうすこしで下から顔を覗き込める、そう思った瞬間だった。

サトシ『消、え、ろ』

なにか常軌を逸した威圧感を感じて、

ピカチュウとフーパの表情が凍った。

柔らかい黒髪が逆立ち、クイッとサトシの顔が上がる。

食いしばった歯の間から、言葉が絞り出された。

サトシ『消えろ……貴様は消えろ……ッ!』
 ▼ 238 (加筆修正) 15/10/08 23:45:29 ID:DSb.jUjQ [20/20] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>219
セレナのテールナーも、

少しでもヒノヤコマの力になればと限界を超えて、

その枝に全神経を送り込んで≪火炎放射≫の威力を底上げさせた。
 ▼ 239 ガラティオス@ダートじてんしゃ 15/10/09 07:43:59 ID:LxTX0imo NGネーム登録 NGID登録 m 報告
つまんな
 ▼ 240 15/10/10 20:13:13 ID:7Fp6E3WI [1/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
見開かれたその双眸から、殺意を孕んだ鋭い視線が放たれた。

息を呑む。その瞳から、琥珀色の輝きが消え失せていた。

染まっていたのは"影"と同じ、黒ずんだ赤い色。

ピカチュウはこのとき、もう分かっていた。

サトシじゃない。

サトシがどこにもいない。

脳がその事実を拒絶する。認められないのだ。

あまりのショックで足が竦んでいるところを、

どこからか、ゲコガシラとヒノヤコマが疾風のごとく現れる。

2匹をサトシの傍から引き離すためだ。

ピカチュウはそこではっきりと意識を取り戻した。

そして黄色い背中から、こちらに駆けつけてくる複数の靴音と、

主人の名前を呼ぶ仲間の声が聞こえてきた。

メアリ「サトシくん!?」

バルザ「"影"に取り憑かれたのか――!」
 ▼ 241 15/10/10 20:30:39 ID:7Fp6E3WI [2/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
そう問いかけてくる声に、サトシの赤い瞳が敵意の光を帯びた。

その身に纏わりつく、抑えがたい激情に孕んだ邪気に威圧されたように、

バルザたちの足が止まる。シトロンたちは驚きと恐怖に唇を震わせた。

それはまさしく、アルケーの一族に向けられた"憎しみ"そのものだった。

サトシは朝焼けを背にして、壺を抱えたまま、ゆらりと立ち上がる。

今にも喰い付きそうな唸り声はまるで、バルザたちを牽制するかのようだ。

バルザは瞬時に、片手をサトシに向けてまっすぐ持ち上げる。

バルザ「サトシくん……」

今、目の前の少年がどのような状態に陥っているのか、

それを把握するために気を高める、その矢先だった。

バルザの心臓がやけに大きく脈打った。

知らず息を吸い込む。

青年のその反応を間近で見て、セレナはなぜか胸騒ぎを覚えた。

それは瞬く間に大きくざわめいていく。

セレナ「サトシは、サトシは大丈夫なんですよね……!」

甲高い、縋るような響きだった。
 ▼ 242 ガギャラドス@しらたま 15/10/10 20:33:30 ID:SNd2AJEM NGネーム登録 NGID登録 報告
いいね!
なんとなく小説と映画をたして割ったようなシーンがあるけど1は小説版も読んでるのかな?


 ▼ 243 15/10/10 20:49:54 ID:7Fp6E3WI [3/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
その問いかけに対して、バルザの瞳が動揺に揺れていく。

バルザ「このままでは彼の人格が崩壊してしまう!」

セレナは絶句した。

ユリーカは両手で口許を覆い、

シトロンはなにか解決策はないのかと大声を荒げて訴えた。

バルザ「……ッ!」

バルザは言い知れぬ不安感を覚える。

こめかみから汗が流れ落ちた。下唇を血が滲むまで噛む。

考え込んでいる場合ではない。

一刻でも早く、サトシの身体から"影"を引き剥がさなければ、

バルザはそうメアリに目配せして、

彼の元に近寄ろうとしたその次の瞬間だった。

サトシが突然、威嚇の咆哮をあげる。

何かを感じ取ったのだろう、

その身に宿る"影"が、"いましめのツボ"を頭の上に持ちあげた。
 ▼ 244 15/10/10 21:07:30 ID:7Fp6E3WI [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザは目を疑った。まさか、叩きつけるつもりなのか!

弾かれたように身体が動き出した。

バルザとメアリは同じタイミングで地面を蹴り出す。

そのとき――

サトシ『!?』

サトシの喉から短く喘ぐような悲鳴があがった。

金縛りにあったかのようにその身体が硬直する。

その直後に、サトシは崩れるようにその膝を地面に着けた。

サトシは眉を寄せ、なにかに抗うように頭を激しく振り続けた。

その拍子に帽子が落ちる。

そのまま右手で黒髪をむしった。ギリッと食い縛られた歯が鳴る。

サトシ『うる……さい……ッ』

地を這いつくばるような呻き声が耳に届いて、バルザが瞠目した。

メアリも声をあげる。
 ▼ 245 (242へ) 15/10/12 22:53:21 ID:RdvC1ueQ [1/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>242
9月の頭に買ったよ
1ヶ月以上の月日が経つと、記憶にボヤがかかってな。すげー助かってるわ
 ▼ 246 15/10/12 22:54:22 ID:RdvC1ueQ [2/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
メアリ「兄さま!」

バルザ「ああ、まだ完全に取り憑かれたわけじゃない!!」

確信のある兄妹の声に、ピカチュウの瞳に希望の光が灯った。

バルザに振り仰ぎ、嗚咽を漏らしながら、必死に思いの丈を声に乗せる。

ねずみ「ぴかぴ、ぴかぴかちゅう!」

その漆黒の瞳はすこしずつ、涙の膜に覆われていく。

いまにも零れ落ちそうだった。

ゲコガシラとヒノヤコマもそのあとを続いて、助けを求めるかのように鳴いた。

その力強い視線に、バルザはすぐさま吸い込まれる。

おねがい。サトシを助けて。

ポケモンの鳴き声だというのに、

悲痛な想いが込められたその言葉が、直接、彼の脳に伝わってくるのだ。

バルザはかれらに顔を合わせて、ゆっくりと頷いた。

バルザ「……必ずだ!」

かれらの願いをこの胸に受け止め、誓いを立てる。

そうだ。サトシくんを、心の優しい少年の存在を、掻き消されるわけにはいかない。
 ▼ 247 15/10/12 22:58:26 ID:RdvC1ueQ [3/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
"影"が苦しみに気を取られているうちに、

バルザとメアリはその間を挟むような配置に立った。

全精神を研ぎ澄ませる。

ふらつく両足を大地に踏み締め、黄金の首飾りに意志力を注ぎ込む。

刹那、首飾りの輝きがサトシを中心に、その周囲を包み込んでいく。

だがその輝きは弱っていた。

壺を再生する時と比べても、その強さが衰弱しているのは明らかだった。

そして体力が底をつく感覚が、バルザたちの身に襲い掛かる。

大量の汗が顔の輪郭を沿って、滴り落ちた。

それでも一定の効力を発揮しているのか、

"影"がその輝きに追い詰められているのが見て取れた。

つまり、どちらも疲弊しているのだ。体力勝負といっても過言でもない。

バルザとメアリは鋭い呼気を吐く。

厳しい顔を浮かべながら、意識を底上げさせた。
 ▼ 248 15/10/12 23:01:28 ID:RdvC1ueQ [4/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
それがさらに"影"を苦しめていく。

こめかみの奥で鋭い痛みが生じた。

サトシは歯を唇を固く結び、右手を地面に着けて、爪を立てる。

それでも"影"は"いましめのツボ"を手放そうとはしなかった。
 
左腕でそれを胸に抱き寄せ、奪われないように、ただ必死に。

反抗的な鋭さを目のなかに抱き続け、

髪を振り乱しながら、狂ったように吠え続ける。

それが、フーパの全身を震わせた。

ただ、サトシの姿を凝視する。

半ばパニックに近かったかもしれない。

自分は今どうするべきなのだろうか、頭が思うように働かない。

そのときだった。
 ▼ 249 15/10/12 23:04:20 ID:RdvC1ueQ [5/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
一瞬だけ、獰猛な赤い視線と自分の視線が、一直線に交わったような気がした。

気道が絞めつけられる。

翠の瞳には涙の膜が張られていく。

フーパは己の身を守るように、ちいさな両手で自分自身を抱きしめた。

熱い。呼吸が乱される。

そして、とても細い針が一本、心臓に刺したようなその感覚が全身を縛りあげた。

フーパ「ふぱ……」

その本数は瞬く間に増えていき、その心臓が痛みに絶叫する。

それに共鳴するかのように、"影"が宿っているサトシも、苦痛に咆哮をあげた。

フーパ「!!」

そのとき、フーパの身体が硬直した。

渦巻いていた思考があちこちに飛散した。

なぜか、翠の瞳が揺れが、徐々に治まっていく。

そして決然とした光が宿り始めた。

息差しも、それに同調するように落ち着いていった。
 ▼ 250 15/10/12 23:07:33 ID:RdvC1ueQ [6/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパは両手を握り締める。

行かなければ。その漠然とした強い想いが、不意に、フーパの胸に沸きあがる。

それがその小さな背中を強く押し出した。

その勢いのまま、フーパは金色の輝きのなかに飛び込んでいく。

バルザ「……!」

フーパの前触れのない行動に、

バルザとメアリが頬を打たれたように愕然とする。

バルザ「危険だフーパ!」

メアリ「近寄っちゃだめ……!」

だがその動きは止まることはなかった。

声が必然と大きくなる。

まるで兄弟の言葉がなにかに遮られているようだった。
 ▼ 251 15/10/12 23:10:19 ID:RdvC1ueQ [7/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ『……!』

こちらに近寄ってくるフーパの気配を感知したのだろう、

黒ずんだ赤い双眸がぎらついた。

サトシは顔を前にあげると、

その眼前に佇んでいる獲物の姿が、視界に入り込んできた。

カッと両目が見開く。この機を逃がすものかと、

サトシは拳を振りあげて、フーパに殴り掛かろうと動き出した。

誰かが、フーパに注意を喚起するその声が響く。

それでもフーパは、降りかかるその拳に怖気ながらも、

その場から逃げようとはしなかった。

ただじっと、"影"の暴挙を見ていただけだった。

メアリ「フーパ……!!」

メアリたちが悲鳴をあげる、その刹那だった。
 ▼ 252 15/10/12 23:14:44 ID:RdvC1ueQ [8/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ『……ッ』

がくんと、サトシの身動きが停止した。

まるで誰かが、サトシの右拳を前から受け止めたように見えた。

握り込まれたそれが、わなわなと震える。

その手で頭を鷲掴んで、苦々しく吐き捨てた。

サトシ『……邪魔、するなァ……』

サトシは忌々しそうに黒髪を掻きむしり、荒い息を立てる。

フーパはその姿に向かって、ゆっくりと語りかけた。

まっすぐな響きだった。

フーパ「サートン、言ってた。"影"も助けたいって」

サトシ『――!』

赤い双眸が、不意を突かれたかのように見開く。

サトシはその焦点をフーパに向けた。
 ▼ 253 15/10/12 23:16:20 ID:RdvC1ueQ [9/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ『消えろ!』

それは、怒りと憎悪に塗り潰された面差しだった。

サトシ『俺がフーパだ。貴様じゃない……残るのは、この俺だ……ッ!』

その身に取り憑いた"影"はそう言い放ち、

壺の蓋を取り外そうと息を詰めて、その右手に力を入れようとした。

が、サトシの精神がそれを阻むのか、"影"の意のままに操れなかった。

煩わしそうに目を眇める。サトシの面持ちが鬼のような形相に変わった。

フーパはそれを見て息を呑む。

その夥しい凄みが、その心を脅かしたからだ。

そのまま脊髄反射のように、サトシから退行しそうにもなった。

でも、それは駄目だ。

フーパは一呼吸置いて、サトシと正面から向き直った。

フーパ「違う。"影"もフーパ!」

サトシ『!?』

サトシの瞳孔が強張る。
 ▼ 254 15/10/12 23:17:53 ID:RdvC1ueQ [10/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
予想してもみなかったであろうその言葉が鼓膜を揺さぶり、

鋭い眼つきからすこしだけ、角が取れた気がした。

だが、それは一瞬だった。

見開かれたその瞳に、サトシが殺意を上乗せする。

サトシ『消えろ!』

フーパ「フーパ消えない! "影"も、消えない!」

まっすぐ向けられた翠の視線に、邪悪な闇が揺らいだ。

サトシの身体が硬直する。

しかし一際強まった怒りと憎しみが、その静寂を切り裂いた。

サトシ『違う! 消えろ! 貴様が消えろ……!』

フーパ「嫌だ! フーパ消えない! "影"とずっと一緒にいる!」
 ▼ 255 15/10/12 23:22:11 ID:RdvC1ueQ [11/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
空気が打ち震えた。

"影"に負けないぐらいに、それ以上に、フーパは大声を張り上げたからだ。

黒ずんだ赤い瞳が揺れる。

サトシは今度こそ声を失った。

しばしの無言。それから、フーパは言葉を続けた。

フーパ「フーパも、"影"を助けたい」

それは、心から願ったことだった。

この胸に抱いたばかりだったけど、心の底から願ったものだった。

その強い想いに呼応するかのように、東の空から太陽が昇り始めた。

水平線から差し込んでくる、あの白い光が、湖面を銀色に輝かせながら、

フーパの小さな姿に向かって注ぎ込まれていく。

眩しかった。フーパの翠の瞳が、反射的に細まる。

けれども、絶対に閉じようとはしなかった。

眼前にいる自分自身の姿を、しっかりとこの目で捉えていたかったから。
 ▼ 256 15/10/12 23:25:07 ID:RdvC1ueQ [12/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ『…………』

"影"は無言のまま、まっすぐ向けられるその翠の視線と対峙する。

壺を抱き寄せているその腕に、力を込めた。

うまく力が入らないからか、小刻みに震えている。

そのときだった。

フーパは突然、サトシの右手を掴んだのだ。

まるで握手を交わすかのように。

フーパ「だからフーパ、"影"と仲直りする!」

サトシ『……!』

サトシの肩がびくりと跳ねる。

"影"は咄嗟に、フーパの手を振り解こうと抵抗した。

それでもフーパは逃がさないとばかりに、サトシの手をぎゅーっと繋ぎ止めた。

絶対に、この手を離さないように。
 ▼ 257 15/10/12 23:30:19 ID:RdvC1ueQ [13/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「"影"、もう怖くない!」

その相好が、無邪気にほころんだ。あどけなかった。

フーパ「もう、怖くない」

優しい響きだった。

フーパのちいさな手がサトシの手を繋ぎ止めている部分を、朝陽が照らす。

その薄明を空が吸収して、雄大な青空へと変わっていった。

雲海も白い色彩を放ち、どこか遠くに向かって流れていく。

その澄み切った朝の光が、そよかぜとともに、

フーパと"影"をやさしく包み込んでいるような気がした。

風がサトシの黒髪をそっと揺らすと、

突然、あの邪悪な闇がちいさな粒子となって、

ふわりと散っては、音もなく蒸発していく。

それに合わせるように、闇の色素も徐々に抜け落ちていった。

そのまま指先から指先へと伝って、フーパの元に帰っていく。
 ▼ 258 15/10/12 23:34:22 ID:RdvC1ueQ [14/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
不思議な感覚だった。

フーパはその瞬間を噛みしめるように、ただ優しく、"影"の手を握りしめる。

……あたたかい。

とても、あたたかった。

邪悪な闇が朝焼けに溶けていくその光景を見て、バルザとメアリは瞠目する。

メアリ「兄さま、これは?」

バルザ「邪悪な意思が……消えていく……」

そう呟くと、静かな衝撃がバルザの胸を震わせた。

それに誘われるかのように、首飾りの輝きも弱まっていった。

そのあいだにも、邪悪な闇が四散していくなか、

不意に、サトシの赤い目から、きらりとしたものが滴り落ちた。

それは朝日の光を浴びながら、地面のうえで弾ける。

それを最後に、残りの闇もサトシの身体からこぼれていき、

フーパのなかに溶け込み、ひとつになっていく。

その刹那、サトシの右手がすべり落ちた。
 ▼ 259 15/10/13 00:40:37 ID:QCzGozvA [1/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
まるで糸が切れた人形のように、その頭が力なく垂れる。

黒い前髪が、サトシの顔を隠した。

再び、張りつめた空気が流れる。

その静寂を最初に破ったのは、サトシの相棒だった。

ねずみ「ぴかぴ!」

我慢できないといわんばかりに、ピカチュウは主人の元に向かって飛び出した。

一気に、サトシとの距離を狭める。

そして恐る恐るといった様子で、フーパとともに、一歩ずつ近寄っていった。

ねずみ「ぴかぴ?」

フーパ「サートン?」

彼は無事だろうか、そう不安に苛まれながら、

ピカチュウとフーパはもう一度、下からその表情を覗き込もうとする。

その矢先だった。
 ▼ 260 15/10/13 00:41:43 ID:QCzGozvA [2/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ……ピカチュウ……」

その口許が柔らかな弧を描いた。

サトシは顔をくいっと前に持ちあげて、目を細める。

その少年らしい笑みを見て、ピカチュウの両耳がピーンと立った。

ねずみ「ぴかぴ!」

フーパ「サートン!」

肩の力が抜ける。あの琥珀色の輝きが、その瞳に戻ってきたのだ。

そのことに、バルザもメアリも、そしてシトロンたちも懸念と緊張から解放された。

身体が楽になり、知らず安堵の息が漏れる。

それから、サトシは足元に落ちてしまった赤い帽子を拾い上げ、被り直した。

サトシ「フーパ……」

大きく深呼吸して、フーパと向かい合う。
 ▼ 261 15/10/13 00:49:28 ID:QCzGozvA [3/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「仲直り、できたな!」

フーパ「うん! フーパできた!」

すっきりした顔だった。

大切な一部が、長い時を超えて、その身に帰ってきたのだ。

それに心休まると、フーパは笑いが込み上げてきた。

サトシとピカチュウもそれに誘われるように笑い声を立てると、

不意に、巫女の笛に似たあの海の声が、サトシたちの頭上に降ってきた。

ルギア『優れたる操り人……』

上空で様子を見守っていたルギアを筆頭に、

伝説たちがサトシたちの近くで滞空する。

サトシは足に力を入れて、ゆっくりと立ち上がった。

サトシ「ありがとう、ルギア、ラティアス、ラティオス、レックウザ」

ねずみ「ぴかちゅう」

琥珀色の視線とかれらの視線が絡み合う。

それを合図に、メガシンカした3匹はその力を解除した。
 ▼ 262 15/10/13 00:51:33 ID:QCzGozvA [4/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
かれらの間に、穏やかな時間が流れ始めていく。

そのとき、フーパが目線を落としてしまった。

かと思えば、サトシより前に飛び出して、

ディアルガたちに向かって、低く頭を下げた。

フーパ「ごめんなさい……」

消えるような声だった。

伝説たちの目が、きょとんと、丸くなった気がした。

けれど、それもほんの一瞬で、かれらは落ち着いた咆哮をあげる。

きっと、許してくれるのだろう。

そして琥珀色の視線が、フーパのその行動に止まった。

刹那、サトシは緩ませた表情に笑みを沿える。

黒い髪がそよ風にあおられて、ふわりと、その肌のうえを撫でていく。
 ▼ 263 ェークル@ガルーラナイト 15/10/13 00:53:25 ID:QCzGozvA [5/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
そのくすぐったさに指で頬をかいて、

サトシはそのまま青空をふり仰いで、ふーっと深いため息を吐いた。

……やっと、終わったのだ。

やわらかな風がそう告げると、

デセルタワーのなかに避難してた人々が、怖ず怖ずと、外に出てきた。

危険が去ったのだと、肌で分かったからだ。

険しい眉を解いて、朝の空気を肺の底まで吸い込んでいる。

避難した人々が、安心感を抱き始めたその矢先だった。
 ▼ 264 15/10/13 00:54:32 ID:QCzGozvA [6/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ルギア『……!』

突然、ルギアのなかで妙な違和感が芽生えた。

なぜ、野生のポケモンが、一匹もいないのか……?

頭のなかが急速に冷えていく。

その原因はなんなのか、それを探るために、

ルギアは疲弊した精神を統一させて、空に向かって上昇する。

それが呼び水となったのか、

ほかの伝説たちも気を張り詰めて、なにかに警戒し始めた。

沈黙が徐々に広がる。

ピカチュウも、例外ではなかった。

ねずみ「ぴかぴ……」

サトシ「どうしたんだ……?」

みんなの様子を目にして、サトシは焦りに身構えるそのときだった。

ルギア『優れたる操り人――ッ!』
 ▼ 265 レイシア 15/10/13 21:14:05 ID:lYGt3VPw [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヤベ〜読んでみると何か実際本編よりストーリー濃いしすげ〜まとめられてるから面白い!マジでこれくらいの展開でやってほしかったな〜!
ルギア何か途中でリングに追い出されて出番終わったんだよな・・・・
ラティ達と最後まで戦ってほしかった・・・
普通にこのスレを映画にしてもらいたい!てかあなたが脚本担当してもいいくらい!

 ▼ 266 レイシア 15/10/13 21:17:17 ID:lYGt3VPw [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
書き忘れけど実際の映画もルギアが当時と同個体だったら胸熱だったな〜ちょうど山ちゃんもいるし〜
 ▼ 267 15/10/14 22:32:31 ID:KiWiNgOw [1/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
ルギアが危機迫った表情で絶叫する。

だがそれを掻き消すほどの不協和音が、上空からあたり一面まで鳴り響いた。

空気が振動した。鼓膜を破るほどだった。

異常だ。それが全員の警戒心を刺激する。

その、刹那だった。

視認できるほどの衝撃波が、見えない壁となって、

サトシたちと伝説たちの間に流れ込んできたのだ。

一瞬だった。

衝撃波はそのまま、ルギアをデセルタワーから後方に追い払い、

雲海までもを蹴散らしていった。

まるでサトシたちから引き離すかのように。

しかしルギアは負けじと咆哮をあげる。

その白銀の翼を張って、サトシの傍に近づこうとしたその矢先だった。
 ▼ 268 ィアルガ@せいれいプレート 15/10/14 22:39:01 ID:KiWiNgOw [2/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
ルギア『……!』

パルキア「……!」

突然、ガラスが割れるような音が轟くとともに、

稲妻のような裂け目が、空間を切り裂いた。

その裂け目は目で追い切れないほどのスピードで、周りに広がっていく。

亀裂はさらに枝分かれを繰り返し、

瞬く間に、デセルタワーの周辺を覆い尽くした。

しかし、それだけでは止まらない。

その亀裂のすき間から、黒ずんだ液体のようなものが、どろり漏れ出してきたのだ。

それは"影"が抱いた「怒り」とは正反対の、無機質な闇だった。

その色素は濃くなるにつれて、闇がその空間を飲み込んでいく。

伝説たちはこの怪奇現象を目の当たりにして、戸惑いを隠せなかった。

そこに存在していた空間が、

どこか異なる次元に飛ばされたような感覚を覚えたからだ。
 ▼ 269  誤字 15/10/14 22:44:31 ID:KiWiNgOw [3/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
>>267
× 衝撃波はそのまま、ルギアをデセルタワーから後方に追い払い、

◎ 衝撃波はそのまま、ルギアたちをデセルタワーから後方に追い払い、
 ▼ 270  誤字 15/10/14 22:45:39 ID:KiWiNgOw [4/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
……いや、違う。

あの空間がいま、息絶えたかのように消滅しようとしているのだ。

焦燥感が高まる。色を失い、戦慄が心に波打った。

あたりの空気が鉛のように重苦しくなっていく、そのときだった。

パルキア「ガギャギャアアアア――!」

空間を司る神・パルキアが悲鳴に似た、おおきな雄叫びをあげた。

その内側に満ちているエネルギーを開放し、あの空間に向かって飛び込んでいく。

その身に包んだエネルギーを空間に流し込んで、消滅を阻止するためだ。

その効果はすぐに表れたかのように見えた。
 ▼ 271   15/10/14 22:47:37 ID:KiWiNgOw [5/5] NGネーム登録 NGID登録 報告
が、途方もない衝撃が空間から生み出されてしまい、

不気味な輝きを放ちながら、パルキアを弾き飛ばした。

そのまま湖中に没するその寸前で、

ルギアの≪サイコキネシス≫がその身を守った。

パルキアが無事であることを確認してから、すぐに空間の奥を凝視する。

ルギア『……ッ』

先刻の激闘の影響が、伝説たちの身を蝕んでいるのだろう。

あまりのタイミングの悪さに、ルギアは思わず牙を鳴らしそうになった。

だが、諦めるわけにはいかない。

ディアルガは時間を操る能力で、消滅の進行を遅らせようと動き出した。

パルキアとギラティナも残りの体力で、ディアルガの補強をする。

ラティアスとラティオス、ルギア、レックウザ、

グラードン、カイオーガ、キュレムたちも、それぞれの能力を発動して、

今起きている空間の歪みを中和させようと、全神経を注いでいった。
 ▼ 272 スカーン最高◆pGt6/pVDLk 15/10/14 22:48:03 ID:32aY.1R6 NGネーム登録 NGID登録 報告
いつもねずみに吹くwwwwwwww
 ▼ 273 15/10/15 22:21:34 ID:rayYXC7E [1/7] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*+*


地面がぐらぐらと揺れる。

ビリリと振動するその不快な音が耳に響いてくるなか、

眼前に広がる異常な光景に、サトシは言葉を失っていた。

まるで異次元のような裂け目から滲み出てきたあの黒い液体が、

デセルタワーの周辺を囲い込むように、広がってきた。

おかげで外の様子が窺えない。

そしてそれは、デセルタワーに向かって、怒涛のように押し寄せてくるのだ。

どろりとした黒い液体が、アスファルトや瓦礫・ガラスの破片などに接触すると、

それらは音を立てながら、剥がれては切り取られてしまい、宙に浮上していく。

そのまま粉々に分解されていき、無に帰っていくのだ。
 ▼ 274 15/10/15 22:23:25 ID:rayYXC7E [2/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
そう。運命に逆らわず、受け入れるかのように。

心臓が激しい鼓動を打った。

今更のように膝が震えてきた。

これじゃ……まるで……

あの記憶が、サトシの視界とリンクするそのときだった。

バルザ「戻れ! 全員、デセルタワーに戻れ――ッ!!」

バルザの鋭い叫び声が、凍りついていく空間を切り裂いた。

我に返る。

その途端、人々は弾かれたように踵を返して、

追い詰められた小動物のごとく一目散に駆けこんだ。

ものすごい悲鳴がこの空間にどよめいた。

それが引き金となり、未知の恐怖がまたたく間に伝染する。

それで思考が停止したせいか、人が人を突き飛ばす事態を招いてしまい、

それがパニックに拍車を掛けていく。
 ▼ 275 15/10/15 22:25:55 ID:rayYXC7E [3/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
そんな彼らを落ち着かせるために、ジュンサーが警笛を鳴らすなか、

サトシとピカチュウは人混みを縫うように進みながら、

青年バルザの元に駆けつけた。

サトシ「バルザさん、これは……!」

ねずみ「ぴかちゅう!」

バルザの表情と声が強張った。

その様子を目にしたサトシは、半ば確信に近いものを抱き始める。

バルザ「空間が歪んでいるんだ……!」

琥珀色の瞳が揺らいだ。

サトシ「どうして、そんなことが!?」
 ▼ 276 15/10/15 22:29:05 ID:rayYXC7E [4/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザ「空間と空間の均衡が崩れてしまったからだ……!」

サトシ「――!」

無慈悲にも黒ずんだあの液体が、デセルタワーの中心に向かって、

じわじわと差し迫ってくるなか、バルザはこの状況を説明した。

彼曰く、この地球の空間は、

見えない壁で仕切られた部屋が密集した構造となっているそうだ。

いわば、生物でいう『細胞』にあてはまる。

それぞれの空間がお互いを干渉せずに、安定させる方法。

それは"火""水""土""風"などの自然エネルギーを共有することだ。

仮にもし、その自然エネルギーが一か所に偏ってしまったとしても、

すぐにそれを調整するチカラが備わっている。

つまり、周囲に拡散させるのだ。

よって空間と空間の均衡は、常に、保たれてきた。
 ▼ 277 15/10/15 22:31:59 ID:rayYXC7E [5/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
しかし自然エネルギーを調整するそのチカラには、限界がある。

伝説たちがここデセルシティに一気に集結し、

デセルタワーを巡って激闘を繰り広げた。

そのときに放出された大量の自然エネルギーが、

この空間を維持するチカラを壊してしまったのだ。

そこで一旦、バルザは説明を止めて、デセルタワー内部を見渡した。

その拳をぐっと握られる。

バルザ「だから、野生のポケモンたちが、一匹もいないんだ……」

かれらは自然エネルギーの代名詞と言ってもいい。

その本能が漠然と予知したのだろう、デセルシティから即刻に立ち去れと。

それを聞いたサトシは、戸惑ったような声で訊ねた。

サトシ「この空間はどうなるん……ですか……」

バルザは唇を噛みしめてぐっと押し黙った。

そして思い詰めたような面持ちで、その口を震わせた。
 ▼ 278 15/10/15 22:37:24 ID:rayYXC7E [6/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザ「消滅する……おれたち、共々……」

しん、と静まり返った。全員が無表情だった。

いや、反応する余裕がどこにもなかったからだ。

感情が今どのように働いたのか、

そしてこの感情をどこにぶつければいいのか、見当もつかなかった。

その数十秒の静寂のあとで、誰かが喚いた。壮絶な表情だった。

それが波紋のように、静寂からどよめきへと変えていく。

セレナ「わたしたちも……」

セレナは膝を突いて、自分自身を抱きしめた。

ユリーカは身が竦み、シトロンにその身を寄せて固まった。

ユリーカ「お兄ちゃん!!」

シトロン「……ッ」
 ▼ 279 15/10/15 22:40:21 ID:rayYXC7E [7/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
小さな悲鳴が痛々しかった。その紺碧の瞳から涙が零れそうだった。

シトロンは妹を抱きしめ、その涙を指で払い、

落ち着かせようと必死だったが、自分自身も平常心を失っていた。

ねずみ「ぴ……か……」

サトシ「くっ……」

シトロンたちや周りの様子を目の当たりにして、

サトシは地に足がついていない感覚を覚えた。

絶え間ない振動のせいか、耳鳴りがした。

全身に芽生えた恐怖と焦りが、濁流のように頭のなかに流れ込んでくる。

脈拍が上昇した。呼吸困難に陥った。

思わずその場にうずくまりそうにもなった。

でも、ダメだ。サトシはすぐに頭を振る。

考えなければ。考えるんだ。どうする。なにか脱出する方法は。

震えあがる手足を抑え込み、両の目を硬く閉ざしたそのときだった。

フーパ「サートン!」
 ▼ 280 15/10/17 11:57:54 ID:kkoNRNWk [1/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
突然、自分の名前を呼ばれた。

サトシはハッと顔を持ち上げると、

目の前には、フーパが宙に佇んでいる姿があった。

……瞬きできなかった。

決然とした光を湛えたその翠の瞳に、

今までの思考と意識が奪われていくのを、サトシはただ感じていた。

二人の視線が絡まると、フーパはある一か所に大きく指差した。

静かな声音だった。

フーパ「サートン! 開けて!」

サトシ「え……?」

指された方向を目で追いかけると、息を止める。
 ▼ 281 15/10/17 12:04:00 ID:kkoNRNWk [2/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシが肌身離さずに抱いていた"いましめのツボ"を、目にしたからだ。

反射的に視線を戻して、無言のまま、フーパを凝視する。

わずかに頬骨が震えていく。

先程とは違う痛みが、サトシの胸中に滲み始めたそのとき、

バルザが表情を引き締めてこちらに進み出てきた。

バルザ「フーパ。リングを使って、みんなを助けたいんだな?」

フーパ「うん!」

琥珀色の瞳が揺らぐ。たしかに名案だ。

"いましめのツボ"を開放すれば、リングが使える数が増える。

限られた時間のなかで、これほどの人数を円滑に脱出させるためにも、

たしかに大きくなった方がいい……

そこで一度、サトシは思考を止めた。
 ▼ 282 15/10/17 12:08:35 ID:kkoNRNWk [3/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ……」

鼓動が徐々に規則正しく打ち始めているのを感じながら、

"いましめのツボ"をぎゅっと胸に抱えた。

眉を寄せ、唇を噛み締める。

フーパ「サートン」

琥珀色と翠の瞳が、お互いの姿を映しだす。

フーパが見つめてくるその眼差しは、あたたかく、底深いものだった。

その翠の光が注ぎ込まれると、不思議と、サトシの心が静まっていく。

肩の力を抜いた。ふーっと呼気を吐き出し、表情を改める。

そして、壺のフタに手を置いた。

サトシ「分かった!」

サトシはフタを握り締め、くいっと力を込めて引き抜いた。

途端、壺の内側からまばゆい輝きがあふれ出し、

瞬く間にフーパの身を包んでいく。
 ▼ 283 15/10/17 12:17:00 ID:kkoNRNWk [4/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「本当のフーパ! お〜で〜ま〜し〜!」

まばゆい輝きが薄れていくと、おおきな魔人ポケモンが視界に飛び込んできた。

小さな手は巨大化を遂げ、たくましい腕になる。

これがまさしく、フーパの真の姿だ。

とは言え、幼い言動はそのままだった。

大きくなってから初めて浮かべたその無邪気な笑顔に、サトシは目を細める。

が、元の姿に戻ったフーパの登場に、大聖堂の内部はどよめきはじめた。

眼と口を開けたまま見上げる者や、

身動きひとつできない人々など、さまざまな反応が見られた。

また、ジュンサーも警戒心が先立つのも無理はなかった。

サトシはそれを手で制した。もう、大丈夫だと。
 ▼ 284 15/10/17 12:19:59 ID:kkoNRNWk [5/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
それでもジュンサーや周囲の人間は納得がいっていないのか、

未だにいぶかしげな視線を送ってくるばかりだ。

だから、サトシは胸を張って笑った。

サトシ「フーパは俺の友達ですから……な?」

そのままくるりと目を転じた。

フーパの茶色の瞳を見据えて、その右拳を突きあげる。

それはまるで、ポケモンバトルに勝利を収めたような表情だった。

フーパも歯を見せた。そのたくましい拳を、サトシの拳にコツンとぶつける。

サトシ「フーパ、頼むぜ!」

フーパ「うん!」

六つのリングをたくましい腕で器用に操ると、

すべてを大きく広げて、地面のうえに並べられた。

その内側には、光り輝く渦が出現する。

これで準備は整った。リングを潜れば、

デセルタワーから離れた安全な場所に出られるはずだ。
 ▼ 285 15/10/17 12:31:59 ID:kkoNRNWk [6/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「シトロン、セレナ、ユリーカ! 手本を見せてやってくれ!」

サトシの意図を把握できたのだろう、シトロンは全員に声掛けをし始めた。

セレナとユリーカは躊躇いなく光の渦へと飛び込んでいく。

絶妙な連携力だ。

人々は固唾を呑んで見守っているその数秒後に、2人が顔を出したのを見て、

それは安全だと頭のなかで理解していったようだ。かれらの緊張が解れている。

この空間から人々を外に脱出させる作業が開始するなか、

不意に、ピカチュウが主人の足元に駆け寄ってきた。

ねずみ「ぴかぴ、ぴかぴかっちゅう!」

サトシ「?」

サトシが視線を寄こすと、ピカチュウは赤い頬に電気を溜めこんだ。

そのまま黒ずんだ液体に向かって、閃光の束を撃ち込んだ。

すると、じわじわと進行してくるあの黒ずんだ破壊の波が、

ぴたりと止まったのだ。
 ▼ 286 15/10/17 12:36:10 ID:kkoNRNWk [7/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴ、ぴっかっちゅう!」

サトシ「そういうことか!」

サトシは目を輝かせる。

ポケモンの技が発動しているあいだは、

一時的とはいえ、空間の歪みを阻止することが可能らしい。

これを使わない手はない。

サトシは再び、シトロンたちに召集をかける。

ピカチュウが見せたその行動を説明すると、みんなは力強く頷いた。

シトロン「分かりました。レントラー、ハリマロン、お願いします!」

セレナ「ヤンチャム、力を貸して!」

ユリーカ「ユリーカもデデンネもお手伝いする〜!」

デデンネ「でねで〜ね!」

たくさんのモンスターボールが宙に舞った。
 ▼ 287 15/10/17 12:44:18 ID:kkoNRNWk [8/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
これで一秒でも多くの時間を稼ぐんだ、そう意気込んだその刹那、

かれらの背後から、若い男性の声が聞こえてきた。迷ったような響きだった。

モブ@「ポ、ポケモンの技なら、あれを食い止められるのか!?」

サトシ「……!」

サトシはシトロンたちとお互いに顔を見合わせ、

すこしの間を置いてから、答えた。

サトシ「接触技でなければ……」

若い男性の瞳がおおきく見開かれる。
 ▼ 288 15/10/17 12:49:18 ID:kkoNRNWk [9/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
モブ@「オレもポケモントレーナーなんだ! ぜひ、協力させてくれ!」

モブA「わ、わたしも!」

モブB「僕も!」

十数人ほどの大人子どもが、次々と名乗りをあげてきた。

いや、まだまだ協力してくれるトレーナーが続出しそうな勢いだった。

モブ@「えっと……君は……?」

サトシ「サトシです。みなさん、≪10万ボルト≫や≪火炎放射≫≪冷凍ビーム≫

などが有効だと思います!」

モブ@「分かったよ!」

若い男性が大きく頷き返した。

モブ@「みんな! 全員でここから脱出するぞ――!」

傲然とした地響きに負けないぐらいに、みんなが拳をあげ、大声を張り上げた。

どわんと空気が弾け返る。とても、心強かった。


 ▼ 289 15/10/17 22:42:57 ID:kkoNRNWk [10/13] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*+*


ゆっくりと、だが確実に迫りくる消滅の危機に焦りと恐怖を味わいながらも、

見通しよりも早く、避難作業が進んでいた。

サトシたちや、協力を申請してくれたトレーナーたちのおかげだ。

言うまでもなく、この流れに乱れが生じるときもあった。

黒ずんだあの液体が進出してくるにつれて、

どんな影響なのか、大きく広げたリングも徐々に縮み始めた。
 ▼ 290 15/10/17 22:46:33 ID:kkoNRNWk [11/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
それが人々に不安の種を植え付けるのだ。

なかには、我先にと脱出しようとする者まで現れた。

けれど、サトシのルチャブルとオンバットの活躍で、

騒動はそこまで大きくならなかった。

そしてこの空間に残っている人間は、

サトシたちとバルザ、メアリ、そしてフーパだけとなった。

フーパは直ちにリングを回収し、

サトシたちも手持ちをモンスターボールに戻した。
 ▼ 291 15/10/17 22:47:21 ID:kkoNRNWk [12/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
またどこかで、瓦礫が轟音を立てて蒸発していく。

バルザは念のために周囲を見渡してから、サトシに視線を寄こした。

バルザ「サトシくん……」

サトシは深く頷いた。シトロンたちに向かって号令をかける。

リングが縮小しているのだ。

率直に言って、人間がひとり潜れるかどうか怪しいほどだった。

時間がない。急がなければ。

シトロンは妹の手を握って、ここから脱出。

セレナも2人のあとに続いてリングを通ろうとするその直前で、

一度、足を止める。そのまま背後に振り返った。

セレナ「サトシも急いでね!」

一言そう伝えてから、こことは異なる空間へと駆けて行った。
 ▼ 292 15/10/17 22:49:31 ID:kkoNRNWk [13/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴ、ぴかちゅう」

サトシ「…………」

旅仲間の後ろ姿が見えなくなるのを確認してから、一呼吸置く。

サトシはその場から一歩も動かなかった。

体の向きを変えて、フーパを正面から見上げるばかりだ。

フーパ「サートン! はやく!」

痺れを切らしたのだろう、慌てた口調だった。

当たり前だ。あの黒ずんだ液体が目と鼻の先なのだから。

それにも関わらずに、サトシはその硬い面差しをフーパに向けている。

この狭い空間に、緊張感が漂っていく。

それから、そっと相好を崩した。

サトシ「一緒に行こうぜ……フーパ……」

フーパ「……!」
 ▼ 294 15/10/22 21:43:02 ID:HC7LVayg [1/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
紫色の視線がすぐに逸らされた。

精一杯に隠していたつもりだったのだろう、

その面持ちの影が一気に濃くなった。

バルザとメアリの顔もまた明らかに張り詰めている。

すこしの沈黙の後で、フーパは弱々しい声を震わせた。

フーパ「フーパ……"戒め"……」

100年も封じられた本来のチカラがその身に戻った。

とはいえ、旅人グリスがフーパに課した"戒め"が解けたことには繋がらない。

フーパ自身がその"戒め"を悟ったのかどうかは、まだ分からないままだ。

最悪の場合、フーパはこの空間と同じ運命を辿ることになるだろう。

それでもサトシは、その口許に微笑みを滲ませた。

サトシ「やってみないと、分からないじゃないか……」

その右手が壺のフタに伸びていく。

サトシ「大丈夫だ。俺はフーパを信じる」
 ▼ 295 15/10/22 21:49:22 ID:HC7LVayg [2/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
そう言い終わると同時に、ぽんと、壺の封が解かれた。

そして柔らかな気流とともに、淡い輝きを放ちながら、

フーパの本来のチカラがその壺のなかに吸い込まれていった。

フーパ「サートン」

再び小さな姿となったフーパ。

その翠の瞳を泳がせながら、サトシの前に降り立った。

彼もまた何も言わずに、その頭をそっと撫でつける。

そして身体の向きを変えて、メアリの元に歩み寄っていった。

"いましめのツボ"を彼らの元に返すために。

メアリ「サトシくん……」

長いまつ毛がかすかに震える。

また近くで、瓦礫が剥がれていく音が響いた。

サトシはそれに表情を変えず、しっかりと屹立している。
 ▼ 296 15/10/22 21:55:54 ID:HC7LVayg [3/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
その琥珀色の瞳に、言葉が喉の奥でひっかかってしまった。

メアリは耐えがたい胸の痛みを抑えつけると、

バルザが不意に、彼女の肩のうえに片手を置いた。

バルザ「メアリ、サトシくんの言うとおりだ。俺たちもフーパを信じよう」

その言葉に、メアリは黒い髪を揺らして顔を合わせた。

メアリ「兄さま……」

バルザの瞳に宿っている決意の色を見て、メアリは息を呑む。

そうだ。これは兄妹の望みでもある。

メアリはきゅっと唇を噛んで、強く頷き返した。
 ▼ 297 15/10/22 22:01:28 ID:HC7LVayg [4/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ぴかぴ」

サトシの足元で、ピカチュウがカーゴパンツの裾を指で引っ張った。

その顔を持ち上げて、じっと琥珀色の瞳を食い入るように見つめている。

その面差しに、サトシは笑みを沿えてゆっくりと片膝を突いた。

慣れた手つきで腰のボールホルダーを外し、相棒に手渡してから、

右手で赤い帽子を掴みあげて、ぽすんと、相棒の頭に被せた。

黄色い両耳が、自然と垂れていく。

サトシ「ピカチュウは先に行っててくれ……な?」

そう囁くと、指先で赤い頬をくすぐるように撫でる。

電気技の使いすぎで筋肉が凝っているのだと分かって、

小さな苦笑を漏らした。

ねずみ「ぴかぴ」

ピカチュウは口唇をぎゅっと結んだ。

瞳を閉じて、その温もりに何度か頬擦りをしてから、

なにかを断ち切るように踵を返していった。
 ▼ 298 15/10/22 22:07:32 ID:HC7LVayg [5/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
遠ざかっていくピカチュウの背中に、

サトシは胸に棘が刺さったような痛みを覚えた。

相棒がリングの内側に駆けていくその姿を、この目でしっかりと捉えてから、

腹の奥からせり上がってくる熱いものを飲み込んだ。

すると青年バルザも顔を引き締めて、妹に向かい合った。
 ▼ 299 15/10/22 22:11:55 ID:HC7LVayg [6/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザ「メアリも、先に行っててくれ……」

メアリ「兄さま!?」

メアリの全身がびくりと震えた。

胸元の首飾を握り、ふるふると首を振って拒もうとすると、

バルザはそっと息を吐きながら笑った。穏やかな声だった。

バルザ「向こう側で、フーパを迎えてほしいんだ」

メアリ「――ッ」

メアリは痛感する。

バルザはきっと、妹が体力的に限界であるのを見破ったのだろう。

視界が歪むなか、溢れる思いを押し止めて小さく頷いた。

メアリ「フーパ、兄さま、サトシくん……待ってるからね!」

精一杯の笑顔を浮かべて、メアリは駈け出した。
 ▼ 300 15/10/22 22:15:18 ID:HC7LVayg [7/7] NGネーム登録 NGID登録 報告
その直後に、リングがまたすこしだけ狭まっていく。

バルザは表情を固めて、両の手を胸の前に突き出した。

バルザ「サトシくん。おれは後ろからバックアップする!」

弱まっている精神力でも役に立つのであれば、

青年バルザはその身に残されているわずかな気を高めていく。

サトシ「お願いします!」

サトシも改めて心を決して、フーパを胸に抱き寄せる。

そして顔を曇らせるフーパに向かって、ニカッと笑った。

大丈夫だと、必ずできると、そう励ますようにぎゅっと腕に力を込める。

その思いが伝わったのだろう、フーパもリングに目を凝らした。

真剣な表情だった。

フーパ「うん! フーパ、行く!」

それを合図に、サトシは地面を蹴りあげた。

サトシ「行くぜ!」
 ▼ 301 15/10/23 22:30:48 ID:BoB4Oa8k [1/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
空間が歪みゆくなか、サトシはリングに向かって勢いよく走り出した。

しかしその次の瞬間、"戒め"の制約が透明な膜となって、

サトシとフーパを力強く跳ね返した。

その衝撃で地面のうえに転がってしまい、摩擦音が響いた。

サトシ「――ッ」

軽く後頭部を打つとともに、サトシの背中に鋭い痛みが走る。

さらに何かがつう、とそのうえを伝った。

サトシは両目を眇める。

どうやら乾いて固まった血の塊りが剥がれてしまったらしい。

フーパ「サートン!」

サトシ「へへ、俺は平気だ……」

サトシは片目を閉じて笑い、飛び上がるように立ち上がった。

サトシ「もう一度だ、フーパ!」
 ▼ 302 15/10/23 22:39:55 ID:BoB4Oa8k [2/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
あくまで落ち着いた口調だった。

すこしでも不安を抱いたら、目の前のことに集中できないからだ。

フーパ「うん!」

サトシ「よし、行くぜ!」

不快な音を立てるリングに向かって、サトシたちは飛び込んだ。

だが再び、あの透明な膜が出現し、フーパとサトシの身に衝撃が走った。

空気が重く唸る。

それでもサトシは踏み止まるためにその両足に力を込めると、

メアリの声が耳元に届いた。

メアリ「サトシくん……!」

サトシ「!」

メアリが伸ばしているその右腕を、サトシは掴もうと一心不乱になる。

しかしその指先と指先が触れた瞬間、

サトシとフーパはまた、押し戻されてしまった。
 ▼ 303 15/10/23 22:47:10 ID:BoB4Oa8k [3/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
そのまま地面に打ち付けられ、苦悶の声が漏れる。

サトシはすぐに右手を突き、呼吸を整えながら立ち上がった。

痛みに悶絶している場合ではない。

リングの縮小がさらに進行してしまい、

すこし宙に浮かんでいるような状態になっているのだから。

サトシ「負けるもんか!」

サトシは大きく息を吸い込んでから、鋭い呼気とともにリングを睨みつける。

三度目の正直だ。

気合の声をあげて、サトシは向こう側の空間に右足を踏み入れた。

そのまま大きく左腕を伸ばしていく。

メアリもその手を掴み、弾き飛ばされぬように力の限りに引いた。

すると先程よりもサトシとフーパの身体が、徐々にリングを通過し始めた。

それと同時に、透明な膜も伸びていく。
 ▼ 304 15/10/23 22:54:50 ID:BoB4Oa8k [4/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
だが決して気を緩めるな。

シトロンたちがリングを掴んで必死に抗うなか、

メアリはさらに手と腕に力を籠めた。

かれらを必ず脱出させてみせる。その強い思いを胸に抱き、

メアリは全力を振り絞ってその手を引っ張り上げようとする、その矢先だった。

サトシ「……!」

サトシの腕のなかにあったはずの重みが、消えた。

その身体は引張力に従ってその空間と空間を渡っていった。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

どくんと、心臓の音がサトシの全身に伝わっていく。

すぐさま上半身を起こした。そして、ハッと息を引き切った。

琥珀色の両目が限界まで見開いたまま、

その背筋に冷たいものが這い上がっていくの感じた。

その視界に映り込んだのは、空っぽになった手のひらだった。
 ▼ 305 15/10/23 22:59:52 ID:BoB4Oa8k [5/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
なにかもが遠ざかった。

ただあの小さな手の感触だけが、脳裏に焼きついて離れない。

けれど瞬く間に、馴染んできたそれがこの手から奪われていくのだ。

視界が霞む。口のなかが痙攣した。

サトシは消えゆくその感触をすこしでも繋ぎ止めるために、

その右拳を硬く握りしめる。

そして骨が軋むまで地面に叩きつけた。

サトシ「待ってろ――!」

背後からの聞こえてくる呼び声を振り切り、

その身に沸き立つ感情のまま、狭まっていくリングのなかに飛び込んでいった。


 ▼ 306 15/10/23 23:07:46 ID:BoB4Oa8k [6/9] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*+*


重々しい轟音が絶え間なく鳴り渡っているこの空間に降り立ったサトシは、

愕然とその周囲を見渡した。

空間の消滅はもう、間近だった。

リングとの助走距離も確保できるか怪しいほどで、

残されていたその足場も、あの黒ずんだ液体によって

次々と砕かれては蒸発している。

もう残り少ない時間が刻々と迫ってくるなか、

サトシはフーパとバルザの眼前でその片膝を突いた。
 ▼ 307 15/10/23 23:15:04 ID:BoB4Oa8k [7/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ……」

青年の腕に抱かれているフーパは、ぐったりとしていた。

3度の挑戦で、体力を消耗しているのだと容易に推測できた。

フーパ「サートン……バルザ……」

今にも泣き出しそうなのを無理に抑え込んでいるその声に、

サトシは右手を爪が食い込むまで握り込む。

サトシ「ごめん……手を、離して……」

フーパは力なく視線を落として、首を振った。

そして翠の瞳を潤ませながら、ぽつりと呟いた。
 ▼ 308 15/10/23 23:22:07 ID:BoB4Oa8k [8/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパ「もう……いい……」

嗚咽交じりのそれは、サトシの胸を深くえぐるのに十分な言葉だった。

フーパ「サートン、もう行って……バルザも……」

サトシは愕然とその喉をひきつらせ、バルザも厳しい顔で下唇を噛んだ。

手足の先が氷のように冷え切っていくのを感じる。

逆に、目頭が熱くなるのを感じた。

その琥珀色の視界に映り込むその悲痛な表情に、

サトシはわなわなと首を振る。

サトシ「嫌、だ」

耐えきれなくなった。

胸中からこみ上げてくる激情が、喉から迸っていく。

サトシ「俺は嫌だ! もう二度と、お前を、"影"を、ひとりにさせるもんか!」

フーパ「……!」
 ▼ 309 ルトロス@メンバーズカード 15/10/23 23:33:34 ID:BoB4Oa8k [9/9] NGネーム登録 NGID登録 報告
バルザが瞠目し、フーパもその言葉に身を震わせた。

サトシ「フーパ……」

サトシはたまらなくなって震えるその右手を伸ばし、

瞳に涙を湛えているフーパの頬に触れる。

その琥珀色の眼差しが、その心を大きく揺さぶったそのとき、

不意に、フーパの頭のなかで思い出が走馬灯のように駆け巡った。

旅人グリス。バルザとメアリ。アルケーの人々。かれらとの生活の日々。

そして、サトシたちとの出会い。

たくさんの思い出が蘇えれば蘇えるほど、フーパのまぶたが震えた。

なにかをすがるように頬にある温もりに手を重ねる。

フーパ「帰りたい……」

琥珀色と翠の視線が絡まる。

その全身にあふれてくる感情に任せて、フーパは声を絞り出した。

フーパ「フーパ、みんなのところに帰りたい……!」
 ▼ 310 15/10/24 14:41:45 ID:GzoKQJ7Q [1/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
涙混じりのフーパの叫びがこの歪んだ空間に反響した、そのときだった。

サトシ「……!」

バルザ「これは!」

バルザの胸元の首飾りが、突然、今引きの輝きを放ち始めたのだ。

青年の体力はほぼ底をついているのにも関わらずに、

その輝きがみるみるうちに濃くなっていく。

サトシは反射的に目を守った。

その刹那、膨れ上がったその金色の光が、

燦然と飛び散っては、この歪んだ空間を満たしていった。

するとあの黒ずんだ破壊の波が、その進行を止めたのだ。

まるで時間が停止したかのようだった。

そのおかげで、リングの縮小も制止する。
 ▼ 311  誤字 15/10/24 14:45:09 ID:GzoKQJ7Q [2/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
× バルザの胸元の首飾りが、突然、今引きの輝きを放ち始めたのだ。

◎ バルザの胸元の首飾りが、突然、金色の輝きを放ち始めたのだ。
 ▼ 312 15/10/24 14:47:00 ID:GzoKQJ7Q [3/3] NGネーム登録 NGID登録 報告
その眩い光景に胸を突かれながらも、バルザはその黄金の首飾りを凝視した。

体の中央が熱い。心臓が興奮したかのように脈打っている。

けれど、苦しくなかった。

体温が上昇すればするほど、高鳴れば高鳴るほど、

その全身からチカラが漲ってくるのだ。

バルザは荒ぶる首飾りをぎゅっと握りしめ、深い吐息をこぼした。

バルザ「サトシくん、フーパのことを頼む……」

視界を埋め尽くすほどの光がバルザを中心に収束するなか、

フーパをサトシの腕のなかに預けてから、強く叫んだ。

バルザ「俺が必ず、フーパをアルケーの谷に連れて帰る!」

サトシ「バルザさん……」

きっと、これが最後のチャンスになる。

サトシはその腕のなかにある小さな存在をぎゅっと抱きしめてから、

大きく頷き返した。
 ▼ 313 15/10/25 16:33:30 ID:QZzQK9ok [1/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシ「フーパ、帰るぞ!」

フーパ「うん!」

血潮が体内で燃えるようにたぎるなか、地を蹴った。

サトシ「行っけぇえええええ――!」

少しの助走。そして沈み込んだ体勢から、

サトシはリングの向こう側へとその身を躍らせた。

すぐに左腕を伸ばし、メアリの手を掴んだその刹那、

大音響とともに凄まじい衝撃が、サトシとフーパの全身に叩き込んだ。

琥珀色の瞳が見開く。負けるわけにはいかない。

全身に駆け抜けるその衝撃を吹き飛ばそうと気合の声を張り上げ、

フーパを抱きしめるこの右腕に力を込める。

かれらのその背中を、バルザが奥歯を噛み締めながら後押ししていく。
 ▼ 314 15/10/25 16:40:44 ID:QZzQK9ok [2/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
全神経を研ぎ澄ませ、高ぶる感情のままに絶叫した。

それに呼応するかのように、首飾りの輝きが一際強まっていく。

シトロンも、セレナも、ユリーカも、メアリとともに、

サトシの腕を握り、引っ張り出そうと身体を後ろに反らした。

弾き飛ばされないように。押し戻されないように。

みんなの必死な想いが、透明な膜をゆっくりと引き伸ばしていく。

それをサトシは肌で感じ取り、

右手に全神経を、最後の集中力をかき集めるべく、大きな息を吸い込んだ。

サトシ「フーパ……"戒め"を、乗り越えろぉおおおおお――ッ!」

フーパ「フーパ、帰る! 絶対に帰る――!」

そうだ。みんなのところに帰るんだ。
 ▼ 315 15/10/25 20:28:11 ID:QZzQK9ok [3/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
サトシの叫びとフーパの心が絡み合い、満ち溢たそのときだった。

あの透明な膜が柔らかくなり、音を立てて破裂したのだ。

そのまま転がり落ちると、フーパはすかさず飛び上がって、

バルザに向かってその小さな手を伸ばした。

フーパ「バルザ!」

バルザ「……!」

手を掴み、力の限りにバルザの身体をこちらへ引っ張り出した。

一瞬だった。そして遂に、空間が消滅した。

それから地面に座り込んだまま、数十秒の沈黙が流れた。
 ▼ 316 15/10/25 20:36:16 ID:QZzQK9ok [4/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
荒い息を繰り返しながら、全身から力が抜け落ちるのをただ感じていると、

サトシの口許から何かが零れた。まるで音を刻むような響きだった。

サトシ「フーパ」

その呼び声に、フーパはぴくりと反応する。

ゆっくり振り返ると、琥珀色と翠の視線が交差した。

そこで、すべての感覚が鮮明になっていった。

空気の匂い。風の音。日射しの感触。視界に映り込む鮮やかな色彩。

そして、身体中からこみ上げてくる温かいもの。

サトシ「フーパ!」

気付いたときにはすでに、サトシはその小さな身体をこの胸に抱き寄せていた。

思いっ切り叫んでいた。

サトシ「よく頑張った! よく、頑張った!」

フーパ「サートン……」

感極まったその声音に、フーパは瞳を閉じてその胸に顔を埋める。
 ▼ 317 15/10/25 20:45:40 ID:QZzQK9ok [5/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴ」

不意に、その足元から鳴き声がやさしく聴覚を揺らした。

サトシはフーパを抱きしめがら振り向くと、相棒の姿があった。

赤い帽子が大きいからか、その頭から今にも落ちてしまいそうだ。

サトシ「ピカチュウ……」

ねずみ「ぴかぴ、ぴかちゅう……」

漆黒の瞳を見つめて、サトシはさらにその表情を綻ばせると、

頭上から柔らかく降りそそぐ一筋の光に気がついた。

琥珀色の瞳がすこしだけ開かれる。

アルケーの一族が身に着けているあの首飾りと同じ輝きだった。

サトシは一度目を閉ざし、すーっと息を吸い込んでから、

引き締めた表情で空を見上げた。
 ▼ 318 15/10/25 20:51:10 ID:QZzQK9ok [6/6] NGネーム登録 NGID登録 報告
その視界に飛び込んできたのは、

伝説たちよりも遥か上空で佇んでいる創造神・アルセウスだった。

その輝きを大空が吸収して、黄金色に輝いていた。

威風堂々たるその姿に、シトロンたちや周りの人々も声を呑むなか、

バルザとメアリは感謝の意を込めて深く深くお辞儀した。

バルザ「来てくださったのですね……感謝します……」

それに応じるかのように、胸元の首飾りが淡い光を放つ。

そしてアルセウスは雄大な空を駆けるように、雲海の彼方へと去ってしまった。

そのときに巻き起こった風が、サトシの黒髪を揺らして通り過ぎていく。

サトシ「ありがとう……アルセウス……」

ねずみ「ぴかちゅう……」

穏やかな笑みを浮かべて、サトシはそう呟いた。


 ▼ 319 15/10/26 12:56:53 ID:9jSHrfOo [1/12] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*


キャモメの群れが海鳴りに合わせて、

白い渦巻を描くかのように飛んでいるなか、

伝説のポケモンたちはそれぞれの住処へと帰っていった。

時間や空間、反転世界など、その帰路はさまざまだ。

その刹那、磯の香りがする風がふわりと吹かれると、

黒いレックウザはルギアに向かって鳴き声をあげた。別れの挨拶だ。

それからサトシたちの姿をその眼に収めながら、

何度か空中を旋回すると、成層圏へと舞い上がっていった。
 ▼ 320 15/10/26 13:08:00 ID:9jSHrfOo [2/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
ルギア『優れたる操り人……』

その名前を呼ばれて、サトシは靴音を鳴らしながら前へ出た。

しばしの間、お互いの姿を見つめ続ける。

銀色の羽に覆われたその麗しい姿に吐息を漏らしながら、

サトシは柔らかく首を横に振った。

サトシ「ルギア。俺はまた、お前と出会えることを願う」

静かな声音が風に乗っていく。

その琥珀色の瞳に、ルギアはその頬を緩ませた。

ゆっくりと白い翼をはためかせると、その身体がふわりと持ち上がる。

ルギア『私も、そう願おう……』

滞空飛行から一気に海中に飛び込んでいった。

壮大な水飛沫と、あの美しい海の声を残して。
 ▼ 321 15/10/26 15:01:10 ID:9jSHrfOo [3/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
水面に生じた波紋が波と交錯し、やがて消えていくその様子を、

サトシは潮風を肺にたっぷりと送りながら、いつまでもいつまでも眺めていた。

ふたたび静かに寄せてくる波に、琥珀色の瞳を閉ざして、

その口許に深い笑みを刻む。

それから爽やかな風とともに、サトシは背後に振り返った。

サトシ「ポケモンセンターに戻ろうぜ……」

しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
 ▼ 322 15/10/26 15:29:18 ID:9jSHrfOo [4/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
その目蓋が重たく閉じていく。足取りも不安定になり、

その身体が糸が切れたかのように崩れ落ちる。

ねずみ「ぴかぴ!」

ラティオス「ふぉおおおお!!」

ラティオスが咄嗟に≪サイコキネシス≫を発動し、

サトシの身体が地面に叩きつけられるその寸前で守った。

気を失ったらしい。手足が力なく投げ出されている。

ぐったりとしたその身体を支えようと、

ラティオスが腕を伸ばしたそのとき、紅色の双眸が驚愕の色を浮かべた。

それに弾かれたようにラティアスが傍に駆け寄り、

促されるまま、サトシの額に片手を乗せる。

熱かった。顔が火照っており、そのうえには脂汗が浮かんでいた。

息も荒く、悪寒を感じるのか全身が震えている。
 ▼ 323 15/10/26 15:37:29 ID:9jSHrfOo [5/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
ねずみ「ぴかぴ! ぴかぴ!」

フーパ「バルザ、サートンが!」

バルザもすかさず駆け込みその容態を確認する。

バルザ「……ッ」

右腕の皮膚の一部が紫色に膨れ上がっていた。

青いシャツが伝わってくる凝血の感触に、心臓が跳ねる。

それをめくると、黒シャツに付いた血が目に飛び込んできた。

背中には深い傷跡が走っており、

その肌のうえに流れ止んでいた血液がこびりついていた。
 ▼ 324 15/10/26 15:40:18 ID:9jSHrfOo [6/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
それらの傷口から細菌が入り込んだのだろう。

体温調節中枢が狂ってしまい、体全体が悲鳴を上げているのだ。

一種の生体防衛反応とはいえ、これはマズイ。

ねずみ「ぴかぴ、ぴかちゅう!」

バルザ「早くドクターに診せないと!」

両腕でサトシの身体を横抱きにすると、バルザはフーパに向かって大きく叫んだ。

バルザ「リングでポケモンセンターに繋いでくれ!」

フーパ「うん!」

言われるがままに、リングの能力を発動した。



 ▼ 325 15/10/26 22:54:29 ID:9jSHrfOo [7/12] NGネーム登録 NGID登録 報告



*+*+*


サトシがあのあとポケモンセンターに運ばれてから、

すぐに治療室へと移動させられた。

傷口の清浄、ステロイド剤・鎮痛剤の投与、点滴の処置などなど、

さまざまな治療のフルコースを施された。

だがサトシ本人はそれ自体記憶に残っていない。

それほどまでに意識が朦朧としていたのだ。
 ▼ 326 15/10/26 22:57:49 ID:9jSHrfOo [8/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
そして、ジョーイと医師は眉間に深いシワを寄せてこう告げた。

しばらくの間は絶対に安静だと。

体温計の数値が「41.8度」を示してしまったので、当然だった。

あとは自然治癒力が及ぼす身体の負担をいかに軽減させるか、だ。

氷枕がぬるくなったらその中身を入れ替え、適度に汗を拭い、

アルコールで湿した脱脂綿で傷口を消毒しては、また氷枕を取り換える。

ピカチュウとフーパは寝食を忘れてサトシの看病に没頭し続けた。

そしてその成果は、四日目の朝にあらわれる。

カーテンの隙間から射しこむ柔らかな朝日に、ピカチュウの意識が浮上すると、

頭のうえになにか暖かなものが触れてくるのに気づいた。

その心地好さにしっぽを揺らすも、すぐに離れてしまう。

ピカチュウは物寂しさを覚えてぱちりと目を開けると、

サトシがフーパの頭を撫でながら、こちらに視線を送っているその姿が視界に映った。

サトシ「おはよう、ピカチュウ……」

ねずみ「ぴかぴ」
 ▼ 327 15/10/26 23:02:00 ID:9jSHrfOo [9/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
その顔に憔悴の色が浮かんでいたが、サトシはニカッと白い歯を見せた。

その笑顔に、胸のつかえが取れていくのを感じる。

ああ、症状が軽くなったんだ。

溶けるような安堵感のなかに落ちていくなか、

ピカチュウは思わずその大きな胸に飛び込んだ。



まだ微熱が残っていたが、軽い会話ならできるまでにサトシの体力が回復していた。

スタッフが運んできた胃にやさしいポタージュを、

サトシはやけどしないように注意しながら口許に運んでいると、

不意に、フーパにこう問いかけた。

サトシ「フーパはアルケーの谷に帰るんだよな?」

フーパ「ふぱ……」

翠の視線が右へ左へと揺れ動いていた。

おや? とサトシは不思議そうに見つめる。

どうやらこれからのことをまだ考えてはいなかったらしい。
 ▼ 328 15/10/26 23:05:59 ID:9jSHrfOo [10/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーパは思案顔で手を抱え込んだその数秒後、

ふわりと宙に浮かんで、ベッド際の大きな窓に身を寄せた。

フーパ「ううん! フーパ、あれ直す!」

フーパが指差したところは、デセルタワーの跡地だった。

状況を調べてきたバルザが言うには、そこはすっかりと荒れ果ててしまい、

風が吹いてしまうと粉塵が巻きあがる有様だったらしい。

サトシ「ビルを立て直すのか?」

ねずみ「ぴ〜か?」

首を傾げてそう確認すると、フーパは元気よく頷いた。

気合充分だと言いたげにクルリと旋回するそのちいさな姿に、

サトシは口唇をほころばせた。

そして手を伸ばして、ぽんっとその頭のうえに置いた。

サトシ「そっか!」

そう遠くない別れが刻一刻と近付いているのだと感じながら、

サトシはピカチュウとともに、フーパと笑顔を交わしあった。
 ▼ 329 15/10/26 23:06:54 ID:9jSHrfOo [11/12] NGネーム登録 NGID登録 報告


〜Fin〜


フーパの成長を見届けていただき、ありがとうございました!
 ▼ 330 15/10/26 23:07:47 ID:9jSHrfOo [12/12] NGネーム登録 NGID登録 報告
わからない描写・解釈、また質問(疑問)などがありましたら遠慮せずに。
 ▼ 332 ュウコン@きれいなウロコ 15/10/28 20:01:40 ID:YyxvaNto NGネーム登録 NGID登録 報告
終わってたのか

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