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【SS】ひと夏のレンジャースクール

 ▼ 1 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/19 00:53:58 ID:qb7EOz/Y NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

アルミア地方、ビエンタウン郊外。

ポケモンレンジャー養成学校、レンジャースクール。


 リーフ 「行くよチーちゃん! あなたに決めた!」

 チコリータ 「ちこー!」


緑と青の制服に身を包んだ彼女の名前はリーフ。

レンジャースクールの生徒で、パートナーポケモンはチコリータ。

ポケモンと気持ちを通わせるためにポケモンレンジャーが使用する道具――、キャプチャ・スタイラーを構え、彼女は動く。


チコリータのアシストを受けながら、野生のダグトリオをスタイラーでグルグル囲み……、キャプチャ――、ポケモンと気持ちを通わせることに成功した。


 ヒトミ 「凄いよリーフ! スピード記録更新したんじゃないの!?」

 リーフ 「えへへっ」

 ミナミ 「まったく。あんなに大人しかったリーフが、こんな立派になるなんてねー」

 ヒトミ 「うんうん。私もクラスメートとして嬉しいよ」

 リーフ 「大袈裟だよ2人とも」

 ハジメ 「いや、野生のダグトリオ相手に、今のキャプチャは凄いと思うよ」

 ナツヤ 「無駄がない動きだったぜ。オレも もっと特訓しないとな!」

 リーフ 「ふふっ。ありがとう」
 ▼ 143 レシー@きんのたま 21/08/30 08:53:24 ID:4hsE9EbE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 144 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:13:02 ID:4GHwb6G. [1/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ヒトミ 「お疲れさま。リーフ、チーちゃん」

 ミナミ 「あなたたち凄いわよ、ホント」

 リーフ 「そうかな……」

 ナツヤ 「凄いに決まってんだろ。ハッサムとメタグロスを突破できたんだぜ!」

 ハジメ 「リーフとチコリータの覚悟、しっかり実を結んだね」

 リーフ 「うん。チーちゃん、本当に よく頑張ってくれたよ」

 ヒトミ 「ふふっ。しっかりサトシのサポートできたわねっ」

 ミナミ 「そうね。こんな大役、リーフにしか務まらないわよ?」

 ナツヤ 「サトシとリーフ、なかなか良いコンビだな!」

 リーフ 「うん……///」

 ミナミ 「ほら、始まるわよ。最後のバトル」





 ホクト 「とうとう最後、僕の出番ですね。行きますよボスゴドラ!」

 ボスゴドラ 「グオォォォォォ!」


 サトシ 「頼むぜピカチュウ! これがラストだ!」

 ピカチュウ 「ぴかぁ!」


 実況 『決勝戦、ついに両者ラスト1体! これで勝負が決まります!』


 ホクト 「君のピカチュウの強さは認めましょう。けど僕のボスゴドラには届かない! “ボディパージ”!」

 バンギラス 「ゴアァァ!」 キュィィィン


ついに、最後のバトルが始まった。

残りは1体ずつ。泣いても笑っても、これが最後。勝った方が優勝だ。
 ▼ 145 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:13:46 ID:4GHwb6G. [2/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ヒトミ 「“ボディパージ”って、素早さがグーンと上がるワザだよね?」

 ハジメ 「うん。プラス、自分の体重が軽くなるワザだ」

 ナツヤ 「プエル学園の奴ら、“こうそくいどう”といい“ボディパージ”といい、素早さを上げる戦法を貫いてるな」

 ハジメ 「厄介だね。メタグロスにボスゴドラ。ただでさえ強敵なのに、素早さまで上げられたら……」

 リーフ 「大丈夫。サトシ君ならきっと――絶対、勝てるよ!」

 ヒトミ 「そうだよね。サトシとピカチュウなら……!」



 ホクト 「さぁ行きますよ! “すてみタックル”!」

 ボスゴドラ 「ドァァァァ!」


 サトシ 「“でんこうせっか”で避けろ!」

 ピカチュウ 「ぴかっ!」



 ハジメ 「でも実際問題、ピカチュウは不利だよ」

 ナツヤ 「あぁ。今までのバトルで、かなり消耗してる。対してボスゴドラは、まだ無傷」

 ヒトミ 「誰もサトシ君とピカチュウをサポートできないのも……悔しいよね」

 ミナミ 「せめてフィールドが味方してくれればね。“あまごい”の水、ほとんど捌けちゃったし」

 ナツヤ 「そうか。ボスゴドラは岩タイプも入ってるし、フィールドに水が残ってれば、少しは有利になったかもしれないのか……」

 リーフ 「私たちが考えても仕方ないよ。今はサトシ君を信じよう」

 ヒトミ 「そうだね。それしかないよね!」


もう手出しできない私たちは、サトシ君を信じて見守るしかない。

大丈夫、サトシ君なら、絶対に勝ってくれるはずだ。



とは言ったものの――。



 ▼ 146 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:14:41 ID:4GHwb6G. [3/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ホクト 「“ストーンエッジ”!」

 ボスゴドラ 「ドァァァァァ!」 ザシュッ!

 ピカチュウ 「ぴかぁっ……」

 サトシ 「ピカチュウ!?」


 実況 『ボスゴドラ強いぞ! ピカチュウ疲れがでてきたか!? ボスゴドラに押されっぱなしだぁ!』


考えてみると、ピカチュウは ほぼ最初からバトルに参加している。

それなりにダメージも受けていて、疲れが出ない訳が無い。


 ピカチュウ 「ぴっ……、ぴかっ、ぴかっ……」

 サトシ 「クッ……! どうする? ボスゴドラのスピードに ついていけない……!」


 ホクト 「“アイアンヘッド”!」

 ボスゴドラ 「グォォォ!」 ダッ!

 サトシ 「“アイアンテール”で向かい打て!」

 ピカチュウ 「ちゅぴっかぁ!」


迫りくるボスゴドラの巨体。

ピカチュウは鋼の尻尾をボスゴドラの頭に叩きつけるけど……。


 ボスゴドラ 「ドォォァァァ!」

  ― バキャッ!

 ピカチュウ 「びがっ……」


 実況 『“アイアンヘッド”が炸裂ぅ! ピカチュウ、“アイアンテール”で勝負に出るも敵いません!』


ピカチュウは、ボスゴドラに押し負けてしまう。

もう体力は ほとんど残っていない。相打ちすらできない、厳しい状況だ。
 ▼ 147 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:15:56 ID:4GHwb6G. [4/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ヒトミ 「頑張ってー! サトシー! ピカチュウー!」

 ハジメ 「行けサトシ! まだ負けた訳じゃない!」

 ナツヤ 「最後まで諦めるなよー!」



 サトシ 「ピカチュウ……、まだ行けるか?」

 ピカチュウ 「ぴっか……!」


 ホクト 「まだ立つか。やはり君は、少しは違うようですね」

 サトシ 「オレたちは絶対に最後まで諦めない!」

 ピカチュウ 「ちゅぴぃ!」

 ホクト 「ほぉ。他のザコたちとは大違いですね」

 サトシ 「ザコ……だと?」

 ホクト 「振り返ってみたらどうです? なにも出来ずに散ったブイゼルとゴンベ。サンドパン、カメール、チコリータも、結局はピカチュウのサポートだけで、満足に戦ったと言えますか?」

 サトシ 「ふざけるな! オレとピカチュウは! みんなのサポートを受けたからここまで戦えたんだ! みんなを馬鹿にするのは許さないぞ!」

 ホクト 「ザコをザコと言って何が悪いんですか。所詮はレンジャースクール、ポケモンと仲良く遊んでるのが お似合いですよ」

 サトシ 「仮にザコだったとしたら! ここまで勝ち進んできたことは どう説明するんだよ!」

 ホクト 「たまたま弱い学校と当たったんでしょうね。僕たちから見て! お前たちレンジャースクールはザコだって言ってるんですよ!」

 サトシ 「こいつ……!」



酷いよ、あんなこと言うなんて。

みんな頑張って……、チーちゃん、あんなに頑張って、場を繋げたって言うのに!


 ミナミ 「サトシー! そんな奴っ……、ぶっ潰してやって!」

 ナツヤ 「オレたちは……、サトシの特訓のお陰でここまで来れたんだ!」


 リーフ 「頑張ってサトシ君! ピカチュウ! 私たちの想いっ……、私たちの絆っ! 届いてぇ!」


 ▼ 148 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:16:55 ID:4GHwb6G. [5/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「………」


サトシ君は、無言のまま、フィールドを見つめている。

震える握り拳は、怒りなのか、悔しさなのか、それとも両方なのか、私たちには分からない。


6対6のバトルを行ってきたフィールドは、改めて見ると、かなり荒れていた。

最初の“だいばくはつ”から始まり、サンドパンの掘った穴や、電撃で焦げた跡、抉られた跡、チーちゃんが放った葉っぱが散乱している。

これがポケモンリーグなら、途中でフィールドチェンジが行われるらしいけど、こういう特設フィールドの大会では、そこまでは出来ないらしい。


その無残なフィールドは、まるで、馬鹿にされた私たちの心を表しているかのようで……。



 サトシ 「“私たちの想い”――か。へへっ!」



えっ?


サトシ君……笑った?



 サトシ 「届いたぜリーフ! みんなの想い!」 グッ!

 リーフ 「あっ……」 ドキッ


サトシ君はチラッと私の方を振り向くと、そう言って、ガッツポーズを見せた。

届いた、って……?

サトシ君、この状況をひっくり返す方法を、思いついたってこと……?


 ナツヤ 「サトシ、まだ何か手があるって言うのか?」

 ヒトミ 「そんなことより! 今のサトシのアピール! リーフに向けたアピールっ!」

 ミナミ 「これ案外、サトシもリーフのこと意識してるんじゃないの〜?」

 リーフ 「えっ!? そっ、そんなことはっ……!」

 ハジメ 「ほら! サトシが動くぞ!」
 ▼ 149 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:17:50 ID:4GHwb6G. [6/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「ピカチュウ“でんこうせっか”だ! フィールドを走りまくれ!」

 ピカチュウ 「ぴか? ちゅぴぃ!」 ダッ!

 ホクト 「なにかと思えば……素早さで翻弄する気ですか? 無駄です! もう一度“ボディパージ”!」

 ボスゴドラ 「ドラァ!」 キュィィィン



なにをする気なの、サトシ君?


ピカチュウが“でんこうせっか”でフィールドを駆けまわる。

舞い上がる砂埃。舞い上がる葉っぱ。でも、ボスゴドラに攻撃する訳では無く、駆けまわるだけ。


 ホクト 「“すてみタックル”です!」

 ボスゴドラ 「ドァァァァァァ!」

 サトシ 「かわせ!」

 ピカチュウ 「ぴっか……!」

 ホクト 「猪口才な! 連続で“すてみタックル”!」

 ボスゴドラ 「ダァァァァァ!」

 サトシ 「飛べピカチュウ! 右だ!」

 ピカチュウ 「ぴっ!」

 サトシ 「下がって……左っ!」

 ピカチュウ 「ぴかぁ!」


 実況 『身軽になって素早く打ち出されるボスゴドラの“すてみタックル”! ピカチュウ、避けるしか ありません!』



 ナツヤ 「どうするんだサトシ!?」

 ミナミ 「避けてばっかりじゃ、そのうちピカチュウも限界が……!」


確かに、避けてばっかりだ。

でも、避けるだけなら、あんなに具体的に方向を指示するかな?

なんだか、ボスゴドラを誘導しているような……?
 ▼ 150 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:19:41 ID:4GHwb6G. [7/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「よし! “でんこうせっか”だ! あの緑の広告の所へ回り込め!」

 ピカチュウ 「ちゅぴぃ!」


また、具体的な指示が出た。

フィールドのまわりを囲む、スポンサーの広告。その一つを指定して、サトシ君はピカチュウを動かす。


 ホクト 「“ストーンエッジ”です!」

 ボスゴドラ 「ドラァァァァァ!」 バシュッ!


発射される、無数の尖った岩。

ピカチュウは“でんこうせっか”の勢いを利用して、器用に避けて行くけど……。


 ― ザシュッ!


 ピカチュウ 「ぴっ……!」


何発かが、ピカチュウを かすめる。

鋭利に尖った岩、例え かすっただけでも、深い傷を追ってしまう。


 ― ズザザッ! ブワッ!


 ピカチュウ 「ぴかっ!?」

 サトシ 「あっ!」


 実況 『おぉっと! 地面に ぶつかった岩が砂埃を巻き上げ! ピカチュウの目にぃ!』


 ヒトミ 「うそっ!?」

 ハジメ 「なんで今!? この状況で視力まで奪われたら……!」
 ▼ 151 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:21:17 ID:4GHwb6G. [8/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

荒れたフィールドが、こんな形で不利な状況を作り出すなんて。


巻き上がった砂埃は、運悪くピカチュウの顔に、ピカチュウの目に降りかかる。

痛そうに目を擦るピカチュウだけど、水で洗わないと、目を開くことなんて……!



 ホクト 「残念でしたね。トドメですボスゴドラ! “すてみタックル”!」

 ボスゴドラ 「ドアァァァァァァァァ!」 ダッ!



 ヒトミ 「危ないピカチュウ!」

 ミナミ 「避けてっ! あんなの喰らったら!」

 リーフ 「ピカチュウ……、頑張ってピカチュウ!」










 サトシ 「……ニヤリ」










  ― ズボッ!



 ボスゴドラ 「ダッ!?」

 ホクト 「なんだ!?」


 ▼ 152 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:22:43 ID:4GHwb6G. [9/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


みんなが諦めかけた、その時。奇妙なことが起きた。

ボスゴドラの右足が、ガクンと、地面に吸い込まれたのだ。


 サトシ 「ピカチュウ! お前の正面だ! その穴に尻尾を!」

 ピカチュウ 「ぴっ!」



ボスゴドラは、突然のことに焦っているようだ。


穴に……落ちたの? 右足だけ? ピンポイントで?


突然のこと過ぎて、バランスを崩した体勢の立て直しに戸惑っている。



 サトシ 「行くぜ……“10まんボルト”!」

 ピカチュウ 「びぃぃぃぃがぁぁぁぁぁぁ! ぢゅううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


  ― ゴゴゴゴゴッ……バリバリバチバチバチバチッ!


 ボスゴドラ 「ボッ……ダァアアッァァァァァッァァァ!?」

 ホクト 「なっ……なんだ!? なにが起きたって言うんです!?」



本当に……何が起きてるの!?


ピカチュウが、傍にあった穴に尻尾を入れたかと思うと、そこで“10万ボルト”を放って。

それが、遙か先で穴に嵌っているボスゴドラに、直撃したのだ。
 ▼ 153 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:24:44 ID:4GHwb6G. [10/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「ホクト……って言ったっけ。オレたちの絆を馬鹿にして貰っちゃ困るぜ?」

 ホクト 「なっ……」

 サトシ 「この穴、なんだと思う? サンドパンが掘った穴だ」



ボスゴドラがハマったのは、ナツヤ君のサンドパンが掘った穴――。

ゲンガーとメタグロスを相手した時に掘った穴が、こんな形で役に立つなんて。

サトシ君は、この穴にボスゴドラを誘導していたんだ。



 ホクト 「っ……! だが! 単なる穴がなぜ電気を!?」

 サトシ 「このフィールド、仮設の割に、水捌けが良いとは思わないか?」

 ホクト 「水捌け? 何を言って……」

 サトシ 「オレ気付いたんだよ。カメールの“あまごい”で降らせた雨水、全部この穴に流れ込んでるってな!」

 ホクト 「っぐぅ!?」



そうか……、水捌けの良さは、そういうことだったんだ。

サンドパンが掘った穴に、ミナミちゃんのカメールが呼び寄せた“あまごい”の水が流れ込む。穴の中は水で満たされる。

そこに右足を突っ込んだボスゴドラ。

“10まんボルト”は、穴の中の水を伝って、ボスゴドラに直撃したってことだ。



 サトシ 「普通に“10まんボルト”打っても避けられちまうからな。穴の位置さえ分かれば、目を瞑ってても攻撃は可能さ」



サトシ君がピカチュウに細かい指示を出していたのは、ボスゴドラの攻撃の軌跡を穴の位置に合わせるため。

そして、ピカチュウ自身を、反対の穴の位置に、正確に導くため。確実に攻撃を決めるため――!
 ▼ 154 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:25:40 ID:4GHwb6G. [11/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ホクト 「なんで穴を避けなかったんだボスゴドラ!?」

 サトシ 「見えなかったから――、だろ」

 ホクト 「なにっ?」

 サトシ 「まさかオレが、ただ逃げるためだけに“でんこうせっか”を指示したと思ったのか?」

 ホクト 「どういうことだ……!?」

 サトシ 「巻き上げたんだよ。チーちゃんが“はっぱカッター”で出した、たくさんの葉っぱを」

 ホクト 「巻き上げた……まさか!?」

 サトシ 「葉っぱで穴を隠したのさ! 落とし穴みたいにな!」

 ホクト 「こんの野郎っ……!」



サトシ君は、チーちゃんの“バトルした証”も、しっかり活用してくれた。

迫りくるメタグロスに放ち続けた、大量の“はっぱカッター”。

結果的にチーちゃんは押し負けちゃったけど、その葉っぱをも、サトシ君はバトルに役立ててくれたのだ。





サトシ君は“みんなの想い”を、しっかり受け取ってくれて――。





 サトシ 「これが! オレたちレンジャースクールの! 絆の結晶だ! ピカチュウ! 最大パワー!!!」

 ピカチュウ 「びぃぁびかびかびかぁぁぁぁ……ぢゅびいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


  ― バリバリバチバチバチッ……ピシッ、ピシャッ、バチバチッ……ドゴオオオオオォォォォォォォォン!!!


 ▼ 155 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:26:52 ID:4GHwb6G. [12/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



地面が、割れた。


ピカチュウ渾身の“10まんボルト”は、穴の水を伝ってボスゴドラを捉え続け――。


最大パワーに達した電撃は、穴を内部から破壊し、地割れの如く、フィールドを真っ二つにした。


電撃の黄色い閃光が、割れた地面から拡散し、耳が痛くなるほどの轟音とともに、ボスゴドラを呑みこんだ。



 ハジメ 「うわっ!?」

 ミナミ 「ちょっ……!?」

 ヒトミ 「きゃぁぁぁぁっ!?」

 ナツヤ 「っ……! 捕まれっ!」

 リーフ 「んっ……!?」



爆風と、爆煙が巻き起こる。


仮設テントは崩れ、広告看板は飛び、放送装置はハウリングを起こした後に電源が落ち、中継用の大型モニタは粉々に割れ――。


これが……“10まんボルト”なの?


サトシ君のピカチュウは、こんなにも凄まじい力を秘めていたの?


私たちは、こんなに凄い人から特訓を受けて、一緒に大会に出場していたの?





もう、全てが驚きだった。





 ▼ 156 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:27:35 ID:4GHwb6G. [13/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 『ガガッ……ザッ、ビィィ……あっ! あーあー、マイクテスト、マイクテスト』





爆煙が晴れる。


ボロボロだったフィールドは、もう原型を留めていない。


フィールドの四方八方が、まるで竜巻でも通ったんじゃないかってほど、荒れ果てていた。


そんな無残な景色の中で、ひときわ華やかに輝く、黄色い姿。


赤いホッペとギザギザ模様は傷だらけだけど、堂々と、しっかりと、そこに立っていた。



 実況 『凄い……凄いぞピカチュウ! 凄いぞレンジャースクール! プエル学園のボスゴドラを倒し! ピカチュウの勝利! 優勝は! レンジャースクールです!』



 サトシ 「ぃよっしゃあああぁぁぁぁぁ!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁぁぁ!」



ウオオオオオオォォォォォ!

――と、耳が痛くなるほど大きな歓声が上がる。



勝ったんだ。

サトシ君とピカチュウ、勝ったんだ!


 ▼ 157 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:28:26 ID:4GHwb6G. [14/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 実況 『12年ぶり出場のレンジャースクール! 悲願の初優勝を飾りました! 強豪プエル学園を制すなど、誰が予想したでしょうか!? アルミア学校選抜バトル大会の歴史に名を残す勝利です!』



 ハジメ 「っしゃあああぁぁぁぁぁ!!!」

 ナツヤ 「やりやがった……! やりやがったよサトシ!」

 ヒトミ 「凄いよ凄いよ! 優勝だよ! 私たちのレンジャースクールがっ……優勝っ!」

 ミナミ 「ホントにもぉ……やるじゃんサトシ! ぁやばっ、涙っ……グスッ」

 リーフ 「凄すぎるよ、サトシ君も、ピカチュウも。私たちの想い、きっちり受け取ってくれてっ……!」

 ナツヤ 「行こうぜみんな!」



みんなで、思わず走り出す。

この激闘を制した、サトシ君とピカチュウの元へ。



 サトシ 「お疲れさん、ピカチュウ。よく頑張ってくれたな」 ナデナデ

 ピカチュウ 「ぴかちゃぁ〜」 グッタリ

 サトシ 「ははっ! 疲れちまったよな、さすがに」


 ▼ 158 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:29:41 ID:4GHwb6G. [15/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ナツヤ 「サトシー!」

 ハジメ 「ありがとう! 本当にありがとう!」

 ミナミ 「やったわねサトシ! アンタ本当に凄いわよ!」 ダキッ

 サトシ 「ちょっ……」

 ヒトミ 「ほらミナミちゃん! 抱き付かないの!」

 ミナミ 「ふふっ。まったく、ハラハラさせてくれるじゃない。ホント凄いわよ、サトシ!」

 ナツヤ 「感動したよオレ! あんな戦法、どうやったら思いつくんだよ!?」

 ハジメ 「穴を活用したのは分かるよ。でも、葉っぱを巻き上げて穴を隠す――、そんな落とし穴みたいなこと、あんな極限状態で思いつくものなの?」

 サトシ 「へへっ。まぁ強いて言うなら、今まで何度も落とし穴には落ちてきたからな」

 ハジメ 「えっ?」

 ヒトミ 「旅の経験、ってことだよね。バトルの強さも、サトシの戦略も!」

 サトシ 「そういうこと、だな!」

 ピカチュウ 「ぴっか!」


みんな、興奮してサトシ君を囲み、祝福する。

嬉しいもん。12年ぶりに出場したレンジャースクールが、初優勝を飾れて。

今まで私たちを馬鹿にしてきたプエル学園の人たちに、決勝という舞台で勝つことができて。


 ヒトミ 「ほーら、リーフも」 グイッ

 リーフ 「あっ……」

 サトシ 「リーフ。ありがとな。勝利の流れを作ってくれたのは、間違いなく、リーフとチーちゃんだぜ?」

 リーフ 「……ふふっ。ありがとうサトシ君。凄かったよ。本当に、本っ当に凄かった! 格好良かった!」

 サトシ 「へへっ。リーフの声、しっかり聞こえたぜ。“みんなの想い”!」

 リーフ 「うんっ! 私たちの頑張り、しっかり繋いでくれて……、本当に嬉しいっ」

 ヒトミ 「あーらら、とっても良い笑顔ね、リーフ」

 ナツヤ 「ミナミみたいに抱き付いちゃえよ」

 リーフ 「ふぇっ!? わっ、私は無理だよそんなのっ……///」

 ミナミ 「あははっ。リーフ、バトルは凄い気合いと覚悟だったのに、こっちはダメね〜」

 リーフ 「もぉっ……///」

 ヒトミ 「ふふっ。とにかく優勝だよ! 優勝!」
 ▼ 159 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:30:54 ID:4GHwb6G. [16/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

バトル大会で優勝――。


私たちに全く縁の無かったことが、今こうして、現実になった。

皆で掴んだ優勝。サトシ君が導いてくれた優勝。ポケモンたちが頑張って実現させてくれた優勝。


こんなに嬉しくて、楽しくて、刺激的で、泣きたくて、叫びたくて、とっても気持ち良い気分、生まれて初めてだな。





 記者1 「レンジャースクールの皆さん、初優勝おめでとうございます! 集合写真良いですか?」

 記者2 「あー、こっち向いて下さい! そう自然な笑顔で!」

 記者3 「強豪のプエル学園を破った感想とか、みなさん全員から貰いたいですね」

 記者4 「出来ればポケモンたちにも出て貰って。バトルの振り返りとかも」



喜びも束の間、私たちは、記者の人たちに囲まれた。

強豪校を破って初優勝、それも、12年ぶりの出場で、ポケモンバトルに縁のないレンジャースクールとなれば、注目度は高いに決まっている。


あーあ、しばらく動けないかもね、この様子だと。ふふふっ。





 実況 『レンジャースクール、おめでとう! 本当におめでとう! 皆様、いまいちど、大きな拍手と歓声を!!!』


  ― ウオオオオオオオオォォォォォォォ!!!



 実況 『さてこの後は、第2フィールドにて、3位決定戦を行います。スタッフは、所定の位置へと―――』










 ▼ 160 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/08/31 00:31:41 ID:4GHwb6G. [17/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



   *   *   *



大会会場の外れ、倉庫街――。


 カムイ 「畜生! レンジャースクールの奴ら、良い気になりやがって!」

 エルム 「マジムカつく! 3位決定戦のメンバーから外されるし! 恥ずかしいったらありゃしない!」

 ゲンガー 「ゲン……」

 マリルリ 「ルリ……」

 カムイ 「だいたいゲンガー! お前っ、もうちょっと耐えろよ! ザコに負けてんじゃねーぞ!」

 ゲンガー 「ンガァ!?」

 エルム 「ちょっと。ポケモンに当たるのはトレーナー失格よ」

 カムイ 「……チッ! お前は二軍だ。一から鍛え直しやがれ」

 ゲンガー 「ゲンッ!」 キュィィィン

 カムイ 「なに“シャドーボール”打とうとしてんだよ!? 不貞腐れてんのか!?」

 エルム 「やめなってカムイ!」

 カムイ 「あーあ! つまんねぇな!」

 ゲンガー 「……ゲン!」 バシュッ!

 エルム 「こらゲンガー。気持ちは分かるけど、空に“シャドーボール”打つのは――」



  ― バキッ!

 「ふりゃあぁぁぁぁっ!?」



 カムイ 「んっ!?」

 エルム 「ちょっ……ほらぁ!」

 カムイ 「ヤベェ。戻れゲンガー! こんなトラブル起こしたのバレたら、それこそプエル学園の恥だ」

 エルム 「戻ってマリルリ。行くわよ。私たち、なんにも見てないんだから!」



   *   *   *



 ▼ 161 ンガー@シルバースプレー 21/09/01 18:11:48 ID:Sw5gJNUE NGネーム登録 NGID登録 報告
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バトルがアニポケっぽくて好き
 ▼ 162 イコウ@ボイスチェッカー 21/09/04 00:18:43 ID:2BJ./yO2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
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 ▼ 163 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/06 01:27:01 ID:sYKI8RII [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ミナミ 「はぁ〜ぁ。インタビューってこんなに疲れるものなのね〜」

 ナツヤ 「嬉しいことだけどな」

 サトシ 「ははっ。やっぱ疲れるよな、こういうインタビューって」


控室で記者に囲まれていた私たち。

ようやくインタビューが終わって、一息つくことが出来た。


 ハジメ 「けど……、実感湧かないね、正直」

 ヒトミ 「うん。優勝かぁ……私たちが」

 リーフ 「サトシ君のお陰だよ」

 サトシ 「いや、これはみんなで掴んだ優勝だぜ。みんなのバトルが無かったら、最後のボスゴドラは倒せなかったと思うしな」

 リーフ 「そうかもしれないけど、みんなをここまで成長させてくれたのは、やっぱりサトシ君の お陰だよ。本当にありがとう、サトシ君」

 ハジメ 「そうだよ。優勝に導いてくれたサトシには、本当に感謝してる」

 ナツヤ 「あぁ。サンキューな、サトシ」

 サトシ 「へへっ」

 ミナミ 「あとリーフ。あなたとチーちゃんの活躍も凄かったわよ」

 ヒトミ 「そうそう! あんな判断、なかなか出来ないわよ」

 リーフ 「うん。……本当は、普通のバトルでチーちゃんを勝たせてあげたかったけどね」

 ナツヤ 「悔しいけど、サトシくらいのレベルがなきゃ、僕たちにプエル学園の奴らを倒すのは無理だったよ。そう考えれば、リーフとチコリータの捨て身の作戦は、最適解だった思うぞ」

 サトシ 「リーフとチーちゃんの覚悟が、バトルの流れを変えてくれたんだ。あの状況で あんな作戦思いつくの、ホントに凄いことだぜ?」

 リーフ 「ふふっ。サトシ君との特訓の成果、かなっ」

 ▼ 164 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/06 01:28:54 ID:sYKI8RII [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ヒトミ 「あっ、ねぇねぇ! 閉会式まで時間あるからさ、サトシとリーフ、ちょっと遊んでくれば?」

 ミナミ 「あー良いわね! 大活躍の2人で楽しんで来なさいよ。ピカチュウたちの回復は私たちに任せてさ!」

 リーフ 「えっ!?」


ねぇ待ってミナミちゃんヒトミちゃん。なんてこと言いだすの!?


 サトシ 「いや、そんな悪いよ。みんなが活躍した訳だし、遊び行くんならみんなで……」

 ナツヤ 「サトシ、行って来い。リーフも行きたがってるぞ」

 リーフ 「ぇっ、あのっ、私はっ……///」


ナツヤ君まで!

行きたくない――って言ったら嘘になるけど、そんな2人きりだなんて。


 ヒトミ 「おいでピカチュウ。わーフサフサー、可愛いー!」 ギューッ

 ピカチュウ 「ぴかぁ♪」

 ミナミ 「ね、サトシ、リーフ。私たちを優勝に導いてくれた2人に お礼したいのよ。楽しんで来てよ」

 サトシ 「そうか? どうするリーフ?」

 リーフ 「あっ、えっと、サトシ君さえ良ければ……うん」

 ナツヤ 「そうこなくっちゃな!」

 ヒトミ 「ふふっ。いってらっしゃい」



もぉ、みんなして、私とサトシ君を2人きりにさせようとするんだから……。

しかも、チーちゃんもピカチュウも居ない、完全な2人きり。

私はそのっ、全然良いんだけど、サトシ君はどうなんだろう。女の子と2人きり――私と2人きりで出かけること、どう思ってるんだろう。


あぁどうしよう、緊張しちゃうよぉ……。


 ▼ 165 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/06 01:31:57 ID:sYKI8RII [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「決勝戦前にピカチュウと回ったけどさ、けっこう色んな屋台が出てたぜ。ホントお祭りなんだな」

 リーフ 「あっ、うん。アルミア地方ってポケモンリーグとか無いから、このバトル大会が一番のバトルの祭典なの」

 サトシ 「へぇ〜。お、アイス食おうぜ!」

 リーフ 「ふふっ、うん!」



私とサトシ君は、屋台街の散策を楽しんだ。

アイスを食べながら、射的をやったり、金魚すくいをしたり、ストラックアウトに挑戦したり。


  『お、レンジャースクールさん! 優勝おめでとう!』

  『凄かったよ! チコリータとピカチュウ!』

  『可愛いのに強くて感動しちゃった! 私もチコリータ育ててみる!』


巡る先々で、祝福の言葉をかけられる。

地元、プエル学園を破っての優勝というのは、それだけ偉大なことなんだと、改めて実感した。


 サトシ 「綿飴も いってみるか?」

 リーフ 「うん。綿飴なんて、食べるの何年ぶりだろう?」


始めは緊張していた、サトシ君と2人きりの時間。でもそんな緊張は、すぐに消えていた。

思いっきり楽しんでいるサトシ君を見ていると、私も笑顔になって、私も心から楽しい気分になって。


信じられないな。

男の子と話すことも苦手だった私が、サトシ君と2人きりで、自然体で楽しむことができるなんて。

傍から見ればデートみたいな、2人だけの時間。それを、緊張せずに、こんなに楽しむことができるなんて。


サトシ君の強さと、優しさと、格好良さ。それに、ポケモンを想う純粋な心。

そんなサトシ君の全てに、私は惹かれていった。日を追うごとに、惹かれていった。


これは、きっと――。





  「ふりゃああぁぁぁぁぁ!」 バサッ!


 ▼ 166 イリュー@ホズのみ 21/09/06 12:18:44 ID:FXqsO3I. NGネーム登録 NGID登録 報告
青春やな
支援
 ▼ 167 タシラガ@くさのジュエル 21/09/08 07:55:27 ID:MX1ElleI NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
続き期待ンネ
 ▼ 168 ットロトム@イーブイZ 21/09/10 16:15:45 ID:IwDMgOk2 NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 169 モー@ピンクのリボン 21/09/17 00:06:44 ID:ecIwtcFw NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 170 ルビー@どくどくだま 21/09/24 10:33:16 ID:rJdk/qwg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 171 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/29 23:47:37 ID:6IH6KQ4M [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 リーフ 「えっ!?」

 サトシ 「なんだ今の鳴き声!?」


それは、突然のことだった。


小さな広場でサトシ君と綿飴を食べている時。

サトシ君と2人きりで居ることを心地良く感じていた、まさにその時。

尋常じゃないような、ポケモンの叫び声が聞こえたのだ。


 サトシ 「向こうからだ!」

 リーフ 「あっ、待ってサトシ君!」


走り出したサトシ君。私も彼に ついて行く。


この大会の会場は、物流・海運の倉庫街に、夏休み限定で作られたもので、特設フィールドや屋台で賑わっているのは、一部の区画のみ。

そんな区画の外に出ると、人気のない、静まり返った物流倉庫が立ち並んでいる。



そんな静寂を、打ち破るかのように。



 フライゴン 「ふりゃぁぁ! ふりゃあ!」 バキッ! バキッ!



 サトシ 「あいつだ!」

 リーフ 「すごい興奮してる……!」


そこに居たのは、興奮して木箱や塀を破壊している、1匹のフライゴンだった。おそらく野生。

これだけ激しく暴れているのに、逃げ惑う人も居なければ、通報された雰囲気も無い。


 サトシ 「かなり暴れてるな。怪我してる人とかは……!」

 リーフ 「たぶん居ないと思うよ。この倉庫街も夏休みのはずだから」


物流作業が止まる、倉庫街の夏休み。

倉庫街の夏休みに合わせて大会が開催されるくらいだから、人は居ないはずだ。
 ▼ 172 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/29 23:51:32 ID:6IH6KQ4M [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 フライゴン 「りゃああぁあ! ふりゃっ!」 バキャッ!


 サトシ 「落ち着けフライゴン! なにがあったんだ!?」

 リーフ 「……あ、サトシ君あそこ! 左の翼の付け根!」

 サトシ 「付け根……あ、怪我してるのか!」


フライゴンは、左の翼の付け根を怪我していた。

フライゴンほどの大きなポケモンが、別のポケモンに襲われたとは考えにくい。

同格ポケモン同士のバトルをしたのか――、誰かがゲットしようとして失敗した、って可能性もある。


 フライゴン 「ふぎゃあああぁぁぁぁぁ!」 ゴォォォッ!


 サトシ 「伏せろっ!」 グイッ!

 リーフ 「きゃっ!?」 ドサッ!


サトシ君に手を引っ張られ、2人して地面に転がった。

そんな私たちの上を、鈍い音を立てながら突風が吹き抜ける。その先にあったブロック塀が、木端微塵に崩れ落ちた。


 サトシ 「大丈夫か!?」

 リーフ 「ぁっ、ありがとう、サトシ君……」

 サトシ 「“むしのさざめき”だ。フライゴン、かなり気が立ってるぞ!」

 リーフ 「早く落ち着かせてあげないと! もし会場の方に行ったら大変だよ!」

 サトシ 「ピカチュウ居ないし、キャプチャするしかないな!」

 リーフ 「うん!」


時は一刻を争う。

もしフライゴンが人々で賑わう会場で暴れたら、とんでもない被害が出てしまう。

私たちがキャプチャするしかない。私たちが大人しくさせるしかない!
 ▼ 173 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/29 23:52:15 ID:6IH6KQ4M [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「キャプチャ・オン!」

 リーフ 「キャプチャ・オン!」


私たちは、キャプチャ・スタイラーを取り出す。


ちなみに私たちが使うのは“スクール・スタイラー”と言う、いわゆる教習用のもの。

現役のポケモンレンジャーが使うスタイラーとは、キャプチャの性能に差は無いけど、ボイスメールなどの一部の機能が搭載されていない。

本来、レンジャースクールの敷地外で使うのは禁止されてるけど、この緊急事態、そんなこと気にしている場合じゃない。


 サトシ 「オレのディスクを囮にする! 頼んだぜリーフ!」

 リーフ 「うん。やってみる!」


 サトシ 「ほらフライゴン! これ見えるかー!」 シュッ

 フライゴン 「ふりゃっ!」


サトシ君はディスクを発射し、フライゴンの目線の先、少し上で細かに動かす。

そうすることで、フライゴンの目線は上向きになり――。


 リーフ 「ゆっくり……、確実に……!」


その隙に、私は慎重にディスクを操作する。

フライゴンの下半身のまわり、出来るだけフライゴンの目線に入らない位置を狙って、ゆっくりとフライゴンを囲んで行く――が。



 フライゴン 「ふぎゃぁ!」 バキッ!


 サトシ 「あっ……と!?」

 リーフ 「っ……!?」


フライゴンが私のディスクに気付いて、“ドラゴンクロー”を繰り出した。


間一髪のところでディスクを回避させたけど、フライゴンの爪は地面を大きく抉っていた。

あんなのが直撃したら、スタイラーのエネルギーは すぐに底を尽きてしまう。
 ▼ 174 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/29 23:53:04 ID:6IH6KQ4M [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 フライゴン 「ふぎゃああぁぁぁぁぁ!」 ゴォォォォ!


 サトシ 「マズい隠れろ!」

 リーフ 「うん……!」


再びフライゴンが繰り出した“むしのさざめき”。

我を忘れているのか、苦しみのあまりなのか、その威力は相当なもので、轟音とともに物流倉庫に大きな穴をあけた。


 サトシ 「あんな暴れ方されたら、本当にマズいことになるぞ」

 リーフ 「あの感じだと、ゆっくり慎重にキャプチャするより、素早くキャプチャする方が良いかもしれない」

 サトシ 「けど、フライゴンの攻撃を避けながらだと難しいぞ」


ポケモンをキャプチャするには、そのポケモンをディスクで囲み続ける必要がある。

けど、攻撃を避ける時などは、どうしても“囲む動作”を中断しなくては ならない。

そうすると、それまで囲んだ分――私たちは気持ちゲージって呼んでるけど――、それが徐々に減ってしまい、振り出しに戻ってしまう。


 リーフ 「どうしよう……」


あれだけ暴れているフライゴン。


キャプチャと中断を ひたすら繰り返せば、いずれキャプチャ出来るだろうけど、とてもじゃないけど集中力が持たない。

それに、それまでフライゴンが、この人気のない場所に留まっていてくれるとも思えない。


 サトシ 「なにか……、サッとキャプチャ出来る方法があれば……」

 リーフ 「そんな都合の良い方法なんて――」



そんな都合の良い方法なんて無いよ――、そう言おうとして、私は思い出す。



教科書の最後の方に載っていた項目。

スクールでも教わるのは まだまだ先、当然この講習でも扱わない、上級者向けのキャプチャの方法。



 リーフ 「協力キャプチャ……」

 サトシ 「えっ?」
 ▼ 175 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/09/29 23:54:39 ID:6IH6KQ4M [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「2つのディスクで、1匹のポケモンをキャプチャするの。応用編みたいな方法で、カリキュラムの ずっと後に習うことなんだけど……」

 サトシ 「ってことは、難しいのか?」

 リーフ 「うん。2人の息がピッタリ合わないと、協力キャプチャは出来ないって」

 サトシ 「そうだよな。別々にディスクを操る訳だし」

 リーフ 「でもね、成功すれば、一気にポケモンに気持ちを伝えることが出来るの!」

 サトシ 「一気にか……。まさに今、うってつけの方法だな」

 リーフ 「成功するかは分からないよ。まだ習ってないことだし……」

 サトシ 「オレだって初めて聞いたよ。けど……、やるしかないよな、リーフ!」

 リーフ 「うん!」



協力キャプチャは、簡単なことでは無い。


1人なら、自分の感覚やタイミングでディスクを操作できるけど、2人だと、相方のディスクの動きを読んで、自分のディスクを操作しなくてはならない。

2人の息をピッタリ合わせて、2人の心を一つにして、相方の気持ちになって、ディスクを操作しなくてはならない。

トップレンジャーでも難しいと言われるキャプチャ方法――。



 サトシ 「よし。次にフライゴンが背中を向けたら」

 リーフ 「うん。一気に決めちゃおう!」



でも、なんでだろうね。


サトシ君となら、何故だか成功するような気がするんだ。


サトシ君となら、息をピッタリ合わせられるような気がするんだ。


サトシ君となら、どんな困難でも、乗り越えられるような気がするんだ。





 フライゴン 「ふりゃぁっ……」 クルッ



 サトシ 「行くぞ!」

 リーフ 「うん!」
 ▼ 176 ルケニオン@ひかりのこな 21/09/30 06:18:14 ID:HGrsy352 NGネーム登録 NGID登録 報告
待ってた
支援
 ▼ 177 モネギ@ブレイズカセット 21/09/30 07:22:04 ID:K13su.WA NGネーム登録 NGID登録 報告
通信協力プレイも拾ってくれるのか
支援
 ▼ 178 ニリュウ@ヤゴのみ 21/10/02 20:51:16 ID:d4LI3ojI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
良SSシエンネ
 ▼ 179 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/05 23:43:25 ID:f31Alr2. [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

私とサトシ君は、同時にディスクを発射した。


右手に構えたスタイラーを操作して、ディスクをフライゴンの元へ。

2つのディスクの軌跡を合わせて、2人で1つの軌跡を描く、協力キャプチャ。


 サトシ 「オレは右から行く。リーフは左を頼む!」

 リーフ 「左ね!」


興奮して攻撃を繰り出すフライゴンをキャプチャするには、スピード重視で行くしかない。

フライゴンに気付かれること前提で、私たちはディスクを素早く走らせる。


  ― カツン!


 リーフ 「あっ……!」


と、2つのディスクが ぶつかり合い、軌跡が途切れてしまった。


 サトシ 「失敗上等! もう1回だ!」

 リーフ 「うん!」


上級者向けのキャプチャ方法と言われるだけあって、やっぱり簡単には行かない。

2つのディスクを衝突させることなく、軌跡だけを交差させて、暴れるフライゴンをキャプチャする。


 フライゴン 「ふりゃぁ!」 シュッ!


 リーフ 「避けて!」

 サトシ 「っ!」
 ▼ 180 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/05 23:44:09 ID:f31Alr2. [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

フライゴンが攻撃を繰り出すたびに、キャプチャは中断させられるけど――。


 サトシ 「動いたら左から頼む!」

 リーフ 「サトシ君は背中を追う感じで!」


だんだんコツを掴めてきた。


幸い――って言ったらダメだけど、フライゴンは翼の付け根を怪我しているせいで、空を飛ぶ動きは鈍っている。

攻撃にさえ気を付ければ、フライゴンの動きを、ある程度なら予測出来るようになった。



 サトシ 「次に飛び上がる瞬間が勝負だ!」

 リーフ 「うん! 絶対に成功させるよ!」


攻撃による中断は多いけど、もう何回も、ディスクはフライゴンを囲み続けている。

フライゴンに私たちの気持ちは、少しずつ、確実に届いているはずだ。


あとは一気に――、フライゴンが飛び立つタイミングで、一気に決める――!



 フライゴン 「ふりゃああぁぁぁっ!」 ゴォォォッ!


フライゴンが“むしのさざめき”を繰り出した。

地面を抉り、フェンスを薙ぎ倒す、その強力な攻撃を終えたタイミングで……。


 フライゴン 「ふりゃっ」 バサッ


 サトシ 「ここだ!」

 リーフ 「うん!」

 ▼ 181 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/05 23:44:58 ID:f31Alr2. [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

予想通り、フライゴンが飛び立った。


すかさず私たちは、ディスクをフライゴンに向かわせる。

怪我した翼で、少し よろけながら羽ばたくフライゴンは、ゆっくりと上昇。



 サトシ 「フライゴン! もう大丈夫だからな!」

 リーフ 「私たちの想い、届いてっ!」



上昇するフライゴンを、私とサトシ君のディスクが包み込む。

2つの軌跡は、螺旋を描くように交ざり合い、暖かな光を放ちながら、フライゴンを包み込む。


難しいはずの協力キャプチャ。

気付けば私たちは、それを完璧に物にしていた。


フライゴンを助けたい一心で。

サトシ君も また、フライゴンを助けたい気持ちが大きかったんだと思う。


そうじゃなかったら、こんな短時間で協力キャプチャをマスターするなんて有り得ないもん。


サトシ君は体験入学の はずなのに、私に負けないくらい、キャプチャの腕が上達していた。

それはきっと、ポケモンが大好きで、ポケモンのことを第一に考えてるからだと思う。今この場のフライゴンも、あの時のチルットも。



ねぇフライゴン。


私たちの気持ち、通じたかな?


私もサトシ君も、貴方を助けたいだけなの。


だからお願い、もう暴れないで……!


 ▼ 182 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/05 23:45:52 ID:f31Alr2. [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 フライゴン 「ふりゃっ……」 ゴゴゴゴゴ……



 リーフ 「えっ……フライゴン?」

 サトシ 「……ダメだ。伏せろ!」



 フライゴン 「ふぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


  ― ゴゴゴゴゴオオオオオォォォォォォ!



 リーフ 「きゃっ!?」

 サトシ 「クッ……! “すなあらし”だ!」



フライゴンを中心に発生した、砂嵐。


当然キャプチャは中断。そして私たちも、慌てて地面に伏せる。

突風に混じる砂がパチパチと体に当たり、目も開けられない状況だ。


 サトシ 「クッ……! 落ち着いてくれフライゴン!」

 リーフ 「大丈夫だから! 私たち、貴方のこと助けるだけだから!」


けれど、砂嵐は収まる気配が無い。

まわりを高い倉庫に囲まれているせいで、砂嵐の威力が なかなか落ちないんだと思う。


目を開けられないし、砂嵐の轟音が響いているせいで、視覚と聴覚が奪われてしまっている。

つまり、今どんな状況なのか、全く分からないのだ。

 ▼ 183 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/05 23:46:32 ID:f31Alr2. [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「大丈夫かリーフ? そこに居るよな?」

 リーフ 「うんっ……、大丈夫。サトシ君は?」

 サトシ 「大丈夫だ。けど、これじゃフライゴンの様子が……!」

 リーフ 「あっ……でも! 少しずつ砂嵐が弱まってるよ」

 サトシ 「フライゴンの体力が限界なのか、オレたちのこと分かってくれたのか……、それとも」

 リーフ 「どこかへ逃げちゃった――か」

 サトシ 「そうじゃないことを祈るしかないな」

 リーフ 「うん……」





砂嵐は徐々に弱まっていき、砂が体を打ち付ける感覚も ほぼ無くなった。



私たちは、ゆっくり目を開ける。



起き上がり、周囲を見回す。





 サトシ 「クッ! やっぱり……!」

 リーフ 「フライゴン……」


そこに、フライゴンの姿は無かった。


 サトシ 「フライゴーン! 居たら返事してくれ! フライゴーン!」



静まり返った倉庫街に、サトシ君の声が響く。


フライゴンの攻撃で崩れた塀、抉れた地面、壁が破壊された倉庫、風に舞う大量の砂。


まるで廃墟に迷い込んだかのようにさえ思える。
 ▼ 184 リジオン@やさいパック 21/10/05 23:46:43 ID:S0iMNIwA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 185 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/05 23:47:26 ID:f31Alr2. [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「砂嵐が止むまで……、多分5分くらいかかったよね?」

 サトシ 「あぁ」

 リーフ 「もしフライゴンが、“すなあらし”を繰り出してすぐに移動してたら……」

 サトシ 「会場の方に行ってるかもしれない!」


最悪の事態を、嫌でも想像してしまう。


あのフライゴンは、我を忘れて暴走しているような状態。

そして、“むしのさざめき”や“すなあらし”の威力を見るに、そこそこレベルが高い個体だ。


 サトシ 「急がないと……!」

 リーフ 「でも、会場に行ったとは限らないよ。二手に分かれようよ!」

 サトシ 「いや、単独行動は危ない。ひとまず2人で会場の方に」

 リーフ 「ダメ。フライゴン、苦しんでるんだよ!? 少しでも早くキャプチャしてあげないと!」

 サトシ 「けどリーフを1人で行かせる訳には……!」

 リーフ 「大丈夫だよ。私もサトシ君も、同じ誇りあるレンジャースクール生でしょ!?」



そう、私もサトシ君も、ポケモンたちの平和を願う、レンジャースクールの生徒。

ポケモンのことを第一に考えて行動しなければならない。


もしサトシ君が、私のことを心配して単独行動を避けるのなら、それは間違いだ。

私もサトシ君も、立場・責任は同じなんだから――!

 ▼ 186 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/05 23:48:17 ID:f31Alr2. [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「……よし分かった! じゃあオレは会場の方に行く」

 リーフ 「私は倉庫街を探してみるね」

 サトシ 「頼んだぞ。会場にフライゴンが居なさそうだったら、すぐ戻って来るからな!」

 リーフ 「うん。私も、こっちにフライゴンが居なかったら会場に向かうね!」

 サトシ 「あぁ! じゃあ後でな!」



サトシ君は会場の方へと走って行った。


会場は人がたくさん居るから、フライゴンが向かったとしたら、今頃パニックになっているはず。

でも逆に考えると、会場は警備の人やポケモンレンジャーさん、それに強いトレーナーも居る訳だから、そこまで心配する必要は無いかもしれない。



 リーフ 「……よしっ!」



もしフライゴンが会場に行っていなかったら――。

私が探し出して、ここで足止めさせなければならない。

人が居ない、暴れても安全な この倉庫街に、フライゴンを留まらせなければならない。


不安は無い――って言ったら嘘になる。


でも、私はレンジャースクール生、ポケモンレンジャーの卵。

会場に集まるたくさんの人々の安全のために、苦しんでいるフライゴンを助けるために。


これは私に課せられた、重要なミッションだ――!


 ▼ 187 ンムー@オッカのみ 21/10/06 18:37:28 ID:i.psr0Og NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 188 ブリアス@こだいのせきぞう 21/10/14 13:23:16 ID:R3vIvBWc NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 189 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/19 00:36:16 ID:xLNEgO3E [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 リーフ 「はぁっ……、はぁっ……」



倉庫街を走り回って、10分くらい経ったかな。

なかなかフライゴンは見つからない。暴れているような音や気配も感じない。


こうなると、やっぱりフライゴンは会場の方へ行ってしまったのかもしれない。


けど、怪我をしているフライゴンは、私たちのキャプチャに抵抗して体力を消耗しているはず。

どこか人目の付かない場所で、息を潜めて休んでいるのかもしれない。


 リーフ (休んでるだけなら良いけど、もし――)


もし、怪我と体力の消耗で、倒れてしまっていたら――。

早く見つけて保護してあげないと、手遅れになってしまう可能性がある。

そう考えると、中途半端な捜索で、会場へ行ったサトシ君に合流する訳にはいかない。


 リーフ (こんなに広い倉庫街……、どこから探せばいいの……)



静まり返った倉庫街。

フライゴンが破壊した塀や看板、外壁が散乱していて、物悲しい雰囲気に包まれている。


それはまるで、災害や戦争が起こったかのようだ。



静かだ。



私の足音だけが、この誰も居ない空間に響き渡る。


私1人だけが、世界から取り残されたかのような――。

 ▼ 190 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/19 00:37:07 ID:xLNEgO3E [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ (……ダメだよ私。弱気になっちゃ)


さっきまで一緒だったサトシ君は、もう居ない。

頼れるサトシ君と別行動を提案したのは私なんだ。私が しっかりしなくちゃいけないんだ。



考えて、私。


フライゴンの気持ちになって。


フライゴンが今、何を思って、何をしているのか。


考えて、私。



 リーフ 「あっ……」



ふと、思いつく。


翼を怪我しているフライゴンは、上手く羽ばたくことが出来ない。さっきのキャプチャ中の様子を見ても明らかだった。


美しい翼を持った、ドラゴンタイプのフライゴン。


その幼体、ナックラーは、長らく砂の中で生活していて。

進化したビブラーバは羽が生えたものの、まだ未熟で、空を飛ぶより超音波発生に特化していて。

そうして辿り着いた、フライゴンという姿――。


 リーフ (空……)


大空への憧れ――。

いつだったか、ナックラーに関する、そんなレポートを読んだ記憶がある。

最終形態まで成長して、ついに手に入れた、大空を羽ばたく翼。



 リーフ 「空を目指してるかも!」


 ▼ 191 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/19 00:37:59 ID:xLNEgO3E [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

翼を怪我して羽ばたけないフライゴン。

そんなフライゴンが、空を目指して行動するのは十分に有り得る話だ。


 リーフ (地図……!)


首掛けの参加証の裏面が、地図になっていることを思いだす。

会場がメインだけど、一般的な地図を流用しているおかげで、プエルタウン東部の地理もバッチリ載っていた。


いま居るのが、会場から外れた北側の倉庫街。

その先は、海に張り出すような形の丘になっていて、先端には小さな灯台があるようだ。


 リーフ (空を目指すなら、丘の頂上!)





私は走る。自分の直感を信じて。





倉庫街の終端まで来ると、その先には、なだからな丘が続いている。

そこは柵が設置されていて、「これより灯台管理用地・立入禁止」との看板が。


けどその柵は、私でも簡単に乗り越えられる高さだ。

いくら翼を怪我しているとはいえ、きっとフライゴンも、難なく越えられたはずだ。



 リーフ 「よいしょっ……と!」



柵を乗り越えて、私は走る。



会場から どんどん離れていくけど、迷うつもりはない。

私の直感が、フライゴンは この先に居ると言っているから。


大空への憧れが実ったフライゴンは、きっと、この丘の頂上に――。




 ▼ 192 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/19 00:38:51 ID:xLNEgO3E [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





 リーフ 「はぁっ、はぁっ……、はぁっ……」



走って、走って、ようやく丘の頂上が近づいてきた。


ゴールとも言える白い灯台は、思ったより低く、小さなものだった。

丘に建っている分、高さを稼げているので、小さくても問題ないのだろう。この大きさであれば、恐らく無人だ。



 リーフ 「あっ!」



私は思わず声を上げる。

その灯台の足元に、緑色の影が佇んでいたから。



私の直感は、正しかった。



そこに居たのは、まさしく先ほどのフライゴン。

丘の頂上、灯台の足元で ぐったりと地に伏せている。

けれど目線は青い大空に向けられていて、時折り翼をピクピクと動かしては、顔をしかめていた。



 リーフ (飛びたいんだね、フライゴン……)



翼の怪我の痛みなのか、自由に羽ばたけない もどかしさなのかは分からない。

でもフライゴンは、悲しそうな顔をしていた。


ポケモンは人間と同じように、喜怒哀楽の表情を見せる。

トレーナーにゲットされたポケモンほど表情が豊かになると言われているけど、この野生のフライゴンは、どこからどう見ても、悲しんでいた。



 リーフ 「……ねぇ。フライゴン」



 ▼ 193 グラージ@オニゴーリナイト 21/10/19 10:10:40 ID:okhQ1xpo NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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 ▼ 194 ゲキ@サファリボール 21/10/19 16:48:47 ID:nwxwWtBU NGネーム登録 NGID登録 報告
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 ▼ 195 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:03:24 ID:bM2QY6uQ [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 フライゴン 「!? ふりゃぁぁぁ!」


少し離れた場所から声をかけると、フライゴンはビクッと反応する。そしてすぐに威嚇を始めた。

ただ、首を持ち上げて激しく吠えるだけで、逃げ出したり、ワザを出そうとする様子は無い。


 リーフ 「落ち着いてフライゴン。私、なにもしないから」


多分フライゴンは、かなり体力を消耗しているんだと思う。

怪我をしている野生ポケモンにとって、近付いてくる人間は脅威そのもの。にも関わらず抵抗の動きを見せないのが、その証拠だ。


 フライゴン 「ふりゃぁぁぁっ!」

 リーフ 「大丈夫だよ。怪我、辛いよね。もう大丈夫だから、落ち着いて」



私は優しく語り掛けながら、少しずつ、フライゴンに近付いて行く。


一歩一歩。目線をフライゴンに合わせ。姿勢を低くして。敵意が無いことをアピールしながら。


 フライゴン 「ふぎゃぁぁぁっ……!」

 リーフ 「貴方の怪我を、治してあげたいの。私は貴方の味方だよ。だから安心して?」



灯台の陰に隠れるように、フライゴンは ぐったりとしている。首を持ち上げて威嚇するだけでも辛いはずだ。


傷付いた野生ポケモンは、落ち着いて隠れられる場所に留まって、傷を回復させるという。


海を見渡せる小高い丘の頂上。

ここがフライゴンが選んだ場所。大空への憧れが実ったフライゴンが、本能的に辿り着いた場所――。
 ▼ 196 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:04:31 ID:bM2QY6uQ [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「良い所だね」

 フライゴン 「ふぎゃぁっ……!」


フライゴンまで あと10メートルくらいって所まで近付けた。

ここまで来ても、フライゴンは逃げない、攻撃を繰り出さない。けれど威嚇は止めない。


 リーフ 「私には翼が無いから分からないけど……、空を飛ぶって、やっぱり気持ち良いの?」

 フライゴン 「ふりゃぁぁ!」

 リーフ 「大丈夫だよ。私は何もしないから」

 フライゴン 「ふぎゅぅぅぅ!」

 リーフ 「ただ、私は貴方の怪我を治すことが出来るの。怪我が治れば、また空を飛べるようになるよ」

 フライゴン 「ふぎゃああぁぁ!」



……ダメだ。


フライゴンは威嚇を止めない。なかなか心を開いてくれない。

当然と言えば当然だ。怪我をしている状況、近付いてくる人間への警戒心は最高レベルのはず。



 リーフ (ここまで来れば、一気にキャプチャ出来るかも)



ふと、そんなことを思いつく。

これだけフライゴンと接近できていて、フライゴンは体力の消耗で攻撃を出せない。キャプチャするには最高の条件だ。
 ▼ 197 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:06:06 ID:bM2QY6uQ [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ (でも……)


フライゴンに目をやる。

激しく威嚇しているけど、体は地面に横たわったまま。

その表情もどこか辛そうで、最後の力を振り絞って精一杯威嚇しているようにも見える。


 フライゴン 「ふりゃぁぁっ……!」


こんな状態で、スタイラーを操作したら。ディスクを発射したら――。


最悪、フライゴンはパニックに陥りかねない。


さっきのサトシ君との協力キャプチャを“すなあらし”で逃れたフライゴン。多分、ディスクを敵と認識しているはずだ。

怪我して動けないなか、敵が近付き、自分のまわりをグルグルと取り囲まれるなんて、恐怖でしかない。

逃れようと無理してワザを出してしまう可能性もある。



 リーフ (……そんなのダメよ。きちんとフライゴンと向き合わないと)



ポケモンと心を通わす方法は、キャプチャだけではない。

レンジャースクール生にとって基本を覆されるようなことだけど、キャプチャが全てでは無い。


サトシ君が教えてくれたんだ。

キャプチャに頼らず、丸腰でチルットを助け出したサトシ君が、私たちに教えてくれたんだ。
 ▼ 198 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:06:59 ID:bM2QY6uQ [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「ねぇフライゴン。私ね、貴方を助けたいの。翼の付け根の……その怪我、痛いでしょ?」

 フライゴン 「ふぎゃぁっ……」

 リーフ 「私ね、レンジャースクールって言う、ポケモンレンジャーになるための学校に通ってるの。ポケモンレンジャーって分かる?」

 フライゴン 「ふりゃぁぁ!」

 リーフ 「ポケモンレンジャーはね、地域のパトロールや、自然の保護活動、困ってる人やポケモンを助けるのが仕事なの」

 フライゴン 「ふぎぃゃぁぁぁ!」

 リーフ 「勿論、貴方みたいな、怪我してる野生ポケモンを助けるのも、大切な仕事なんだ」

 フライゴン 「ふりゃぁぁ……」

 リーフ 「フライゴン。私を信じて貰えないかな……?」

 フライゴン 「ふりゃ……」

 リーフ 「貴方の怪我、しっかり治してあげる。約束する。だから……」

 フライゴン 「………」



フライゴンは、威嚇を止めてくれた。



私の想い、通じたんだ。


フライゴン、私を信じてくれたんだ。



 リーフ 「ありがとう、フライゴン。じゃあ、ちょっとの間だけ、キャプチャするね」



私はスタイラーを起動する。

フライゴンをポケモンセンターに連れていくために、一時的にキャプチャは必要だ。

モンスターボールを使った方が楽だけど、ポケモンレンジャーはゲットはしない。あくまで一時的に一緒に行動するだけ。


 リーフ 「じゃあ、行くね」



大人しくしていてくれれば、キャプチャは一瞬で終わる。


ディスクを発射して、フライゴンを囲もうとした、その時――。


 ▼ 199 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:08:07 ID:bM2QY6uQ [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 フライゴン 「ふりゃっ……!?」 バサッ!


 リーフ 「あっ!?」



ディスクを目にしたフライゴンが、飛び立ったのだ。

翼を動かせないはずなのに。体力は消耗しきっているはずなのに。



 リーフ 「ダメだよフライゴン!」



あぁ……、ダメだな私。浅はか過ぎるよ。


心を開いたのは私に対してで、ディスクへの抵抗が無くなった訳じゃないのに。


そもそも、威嚇を止めた=心を開いてくれた、とは限らないのに。



ディスクから逃げるように飛び立ったフライゴン。

きっと、かなり強引に翼を動かしたんだと思う。

少しだけ上空を舞ったフライゴンだけど、体力の消耗と怪我のせいで、当然、上手く羽ばたくことが出来ない。



 フライゴン 「ふりゃっ……!」 グラッ


 リーフ 「あぁぁっ……!?」



本当に、私は愚かだったと思う。


フライゴンがディスクから逃げるように飛び立った先は――崖。

海が見渡せる丘の頂上、灯台の先にあるのは、断崖絶壁。下は海。


私は、最悪な位置でディスクを発射してしまい、最悪の方向へと、フライゴンを導いてしまったのだ。

 ▼ 200 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:09:49 ID:bM2QY6uQ [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 フライゴン 「りゃっ……」


 リーフ 「フライゴン羽ばたいてっ!」



咄嗟に叫んだけど、それは無理な話だ。



怪我で羽ばたけないフライゴンは、重力に従って、落ちていく。



崖の下で荒波を上げる青い海に、落ちていく。



成す術なく、落ちていく。







私のせいで。



私の勘違いのせいで。



私の浅はかさのせいで。



私の勝手な行動が、フライゴンを、危険な目に……。



 ▼ 201 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:10:40 ID:bM2QY6uQ [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 リーフ 「フライゴンっ!」 ダッ!



走る。


丘の先端、崖に向かって走る。



 リーフ 「フライゴーーーーン!」 バッ!



飛ぶ。


走った勢いのまま柵に飛び乗って、思いきり蹴り出して、海に向かって飛ぶ。



 リーフ 「っ……届いた!」 ガシッ



捕まえる。


上手くタイミングを合わせられた。落ちていくフライゴンの首を、しっかりと捕まえる。



 フライゴン 「ふりゃぁ……」

 リーフ 「大丈夫っ……、私も一緒だからっ……!」 ギュッ



抱きしめる。


フライゴンの頬に、私の額をピッタリと当てて。不安にならないように、ギュッと抱きしめる。



 リーフ 「……ごめんね」

 フライゴン 「………」



落ちていく。


フライゴンと一緒に、崖下の海へと真っ逆さま。私たちは成す術なく、落ちていく。

 ▼ 202 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/10/29 02:12:32 ID:bM2QY6uQ [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 リーフ 「ごめんね。私のせいで……」

 フライゴン 「りゃぁ……」

 リーフ 「ずっと一緒にっ、居てあげるからっ……!」 ギュッ



フライゴンを強く抱きしめ、私は自然と目を瞑った。



あと数秒で、私とフライゴンは、海面に叩きつけられる。


荒波の立つ深い海。

足は付かない、掴まる物も無い、恐ろしいほど広い広い海。



海に落ちたら、どうやってフライゴンを岸まで連れて行こう。

そもそも岸って どっちなんだろう。

でもその前に、海に叩きつけられて……、無事なのかな。意識、保っていられるかな。



 リーフ 「ごめんね、フライゴン……」







 フライゴン 「ふりゃっ……りゃぁぁぁっ!」 バサッ!


  ― バッシャァァァァァン!





     【 * 】



 ▼ 203 ガハッサム@はっきんだま 21/10/30 20:55:16 ID:XtpUO4xg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 204 アームド@カセキのサカナ 21/11/01 19:32:54 ID:dHkg5c0k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 205 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 01:47:48 ID:MmnkGbAE [1/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




     【 * 】





 サトシ 「はぁっ……! はぁっ……!」



リーフと別れたサトシは、会場に向かって全力で走っていた。


怪我をして興奮しているフライゴン。ワザの威力を見る限りレベルの高い個体だ。

そんなフライゴンが会場で暴れたら、大惨事になってしまう。


フライゴンが会場に来ていなければ一安心だが、そうするとリーフが心配だ。


リーフは、レンジャースクール生の使命感からか、サトシに対して単独行動を提案。

安全を考えれば2人でフライゴンを探すべきだが、フライゴンのことを第一に考えた彼女の行動に、サトシも賛成した。



それが吉と出るか、凶と出るか……。





 ピカチュウ 「ぴかぴー!」

 ナツヤ 「あっ! おいサトシ!」

 ミナミ 「ちょっと何してんのよ!」



 サトシ 「ピカチュウ! みんな!」
 ▼ 206 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 01:49:44 ID:MmnkGbAE [2/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ピカチュウが、サトシの元に駆け寄ってきた。

少し遅れてナツヤとミナミ、さらに遅れてハジメとヒトミも。

みんなポケモンたちを出している。リーフのチコリータも一緒だ。


 サトシ 「ピカチュウ! 回復はバッチリだな!」

 ピカチュウ 「ぴっか!」

 ナツヤ 「探したぞサトシ!」

 ハジメ 「サトシ! スクールの外でスタイラーの使用は厳禁って習っただろ!?」

 サトシ 「えっ? なんで分かるんだ?」

 ヒトミ 「スクールスタイラーにはね、スクールの外で起動したら、先生に連絡が行くようになってるの」

 ナツヤ 「サトシとリーフがスタイラーを使ったって、先生から電話があったんだ」

 ミナミ 「驚いたわよ。サトシもそうだけど、真面目なリーフまで校則を破るなんて。何があったの?」

 ヒトミ 「って言うか、リーフは一緒じゃないの?」

 チコリータ 「ちこぉ?」

 サトシ 「それなんだけど! こっちに暴れてるフライゴン来てないか!?」

 ナツヤ 「フライゴン? 暴れてる?」

 ミナミ 「見てないわよね?」

 ハジメ 「うん。もし来てるなら、いまごろ会場はパニックだよ」

 ヒトミ 「……もしかしてサトシ!」

 サトシ 「あぁ。オレとリーフ、暴れてるフライゴンを見つけて! なんとかキャプチャしようとしてたんだ!」
 ▼ 207 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 01:51:12 ID:MmnkGbAE [3/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


サトシは皆に、これまでのことを話す。



翼を怪我したフライゴンを、この先の倉庫街で見つけたこと。

怪我した理由は不明だが、ひどく興奮して暴れており、もし会場へ行ったら危険ということ。

ピカチュウを連れていなかったため、キャプチャして大人しくさせるしか方法がなかったこと。

あと一歩のところで逃げられてしまったこと。

リーフと手分けして探していること。



 ナツヤ 「そんなことが……!」

 ヒトミ 「ねぇ待って! フライゴンが こっちに来てないってことは……!」

 サトシ 「あぁ! リーフが1人でフライゴンを相手してるかもしれない!」

 チコリータ 「ちこり!?」

 ミナミ 「マズいわよ! いくらキャプチャの基本をおさえてるからって、リーフ1人じゃ!」

 ヒトミ 「しかもフライゴン暴れてるんでしょ!? 早くリーフを探さないと!」
 
 チコリータ 「ちこ! ちこちこぉ!」

 サトシ 「大丈夫だチーちゃん。リーフなら上手くやってるはずだ」

 ナツヤ 「とにかく急ごう!」

 ハジメ 「サトシ、案内してくれ!」

 サトシ 「あぁ!」



サトシとピカチュウを先導に、皆は走り出す。

リーフのチコリータが不安そうな顔で、ピカチュウの後に続く。


ナツヤも、ハジメも、ミナミも、ヒトミも。サンドパン、ブイゼル、カメール、ゴンベも。

1人で戦っているかもしれないリーフのことを心配し、表情は険しくなる。
 ▼ 208 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 01:53:14 ID:MmnkGbAE [4/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「大丈夫。リーフなら絶対に大丈夫だ。フライゴンのこと、すっごい気遣ってたからな!」

 チコリータ 「ちこぉ……」

 サトシ 「チーちゃんも知ってるだろ、リーフの優しさ。きっとフライゴンも、リーフに心を開いてくれるはずさ!」

 ナツヤ 「確かにリーフの優しさはオレ達も知ってる。けど……楽観視は出来ない!」

 ミナミ 「そうね。リーフのことは信頼してるけど、怪我した野生ポケモン――しかもフライゴンでしょ。そんなの……」

 ヒトミ 「レンジャーさんだって手こずる相手だよ! もしリーフになにかあったら……」

 サトシ 「変なこと考えるな! オレはリーフを信じてる!」

 チコリータ 「ちこぉ!」



一行は、フライゴンが暴れていた倉庫街まで やってきた。

夏休みで非稼働状態の倉庫街は、外壁やフェンスが崩れ、破壊された木箱やコンテナが転がり、地面は抉れ、砂埃が舞い上がる。


不気味なほど静まりかえっている倉庫街に、ナツヤたちは思わず言葉を失う。



 サトシ 「リーフ……、どっちに行ったんだよ」

 ナツヤ 「……ひでぇ」

 ハジメ 「無人なのが、不幸中の幸いだね」

 ミナミ 「ちょっとした災害レベルよコレ……」

 ヒトミ 「サトシとリーフは……、こんな状態で、フライゴンを相手してたの?」

 サトシ 「あぁ。2人でキャプチャしようとしたけど……無理だった。フライゴン、あんなに苦しんでたのにっ」


サトシは悔しそうに握り拳を震わせながら、あたりを見回す。耳を澄ます。

けれど、近くにフライゴンの気配は無いし、暴れているような音も聞こえない。


 サトシ 「どこなんだよリーフ! フライゴンっ……!」

 ピカチュウ 「ぴかぴ……」

 チコリータ 「ちぃこぉ……」
 ▼ 209 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 01:54:36 ID:MmnkGbAE [5/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ミナミ 「あっそうだ! みんな! 名札の裏!」

 ナツヤ 「名札……あぁ、参加証か」

 ミナミ 「そう! この裏、地図になってるでしょ」

 ヒトミ 「うん。プエルの郊外まで載ってる……」

 ミナミ 「今が……ここ。この会場の北の倉庫街。で、フライゴンは会場に来てないんだから……」

 ハジメ 「ここが こんなに静かってことは、さらに北に行った可能性が高い、ってことか」

 ヒトミ 「うん。ここに居ないなら、この先の……、海に突き出してる……これ丘?」

 ナツヤ 「灯台があるってことは、丘だろうな」


皆で地図を確認し、一つの仮説が生まれた。


 サトシ 「そう言えばフライゴン、怪我で上手く羽ばたけてなかった」

 ミナミ 「そんなに酷い怪我なの?」

 ナツヤ 「痛みで暴れるほどの怪我……ってことか」

 サトシ 「普段は空を飛べるポケモンが、飛べなくなったら……!」

 ヒトミ 「そうだよ! 空に近い場所に行くかもしれない!」

 ハジメ 「なら丘の上の可能性は高いね!」

 サトシ 「あぁ! そこにリーフとフライゴンが居る!」


仮説は、確信に変わる。

サトシたちレンジャースクール生の答えは、ポケモンの習性を理解しているからこそ導き出せたものだった。


 サトシ 「行くぞ!」

 ピカチュウ 「ぴか!」

 チコリータ 「ちこぉ!」


 ▼ 210 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 01:56:41 ID:MmnkGbAE [6/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



皆は走る。

倉庫街を突っ切って、地図で確認した丘へ。



 ナツヤ 「“これより灯台管理用地・立入禁止”か」

 ミナミ 「この先にも誰も居ないってことね」


倉庫街の終端に辿り着いた一行は、そんな柵に足止めされる。

柵の向こうに続くのは、なだらかな丘。


 ヒトミ 「見て! ここ……足をかけた跡がある!」

 ハジメ 「泥の付き方からして、まだ新しい。リーフで間違いないね!」


柵に付いていた跡は、どう見ても柵を乗り越える際に付いたもの。

リーフは、この柵を乗り越えて丘の頂上に向かったに違いない。


 サトシ 「もう少しだ!」 バッ!


 ミナミ 「ちょっとサトシ早い!」

 ナツヤ 「立ち入り禁止……、緊急事態だから仕方ないよな……っと!」 バッ



柵を乗り越え、丘の頂上へと走る。


管理用地と書かれていただけあって、丘の頂上、灯台への道は、程よく整備されている。

高い木は伐採され、見通しが悪くならない程度に間引かれた低木が立ち並ぶ。


しばらく進めば、そんな低木も無くなり、一面に緑の絨毯を敷き詰めたかのような草原に。白い灯台も確認できる。



その灯台の近くに、2つの影が見えた。


 ▼ 211 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 01:58:45 ID:MmnkGbAE [7/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「居た! リーフとフライゴンだ!」

 チコリータ 「ちこりっ!」

 ハジメ 「大丈夫そうか!?」

 ヒトミ 「ここからじゃまだ……」

 ミナミ 「けど、フライゴン暴れてないわよ?」


まだ距離はあるが、フライゴンが暴れている様子は無い。そして、リーフが焦っている様子も無い。


 ナツヤ 「リーフのやつ……、キャプチャ成功させたのか?」

 サトシ 「流石リーフだぜ!」

 ヒトミ 「とにかく、早く合流して……あっ!?」

 ミナミ 「あれっ……ちょっと様子が……?」



リーフが動いたかと思うと、フライゴンが空に飛び立った。

怪我をして上手く羽ばたけないはずのフライゴンが、まるでリーフから遠ざかるように、空に……。



 ナツヤ 「おいバランス!?」

 ハジメ 「えっ!? 向こう側って崖だろ!?」



皆の心配通り、フライゴンはバランスを崩す。

そして、丘の頂上のさらに奥、すなわち、崖下へと落ちて行ったのだ。



そして、リーフは――。



 サトシ 「おいリーフ!?」

 ピカチュウ 「ぴかぁ!?」

 チコリータ 「ちこぉぉぉぉ!?」



フライゴンの後を追って、崖下に飛び込んだのだ。



 ▼ 212 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 21:17:13 ID:MmnkGbAE [8/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ミナミ 「ちょっと何してんのよリーフ!?」

 ヒトミ 「いやあぁぁぁぁぁっ!」

 サトシ 「くそぉっ!」

 ナツヤ 「この高さっ……いくらなんでも無茶だぞリーフ!」

 ハジメ 「フライゴンを助けるため……だとしても! だとしても!」


灯台まで、頂上まで、まだ50メートルはあるだろうか。

どう頑張っても、どんなに頭を使っても、飛び込んだリーフを止めることは不可能だった。



 サトシ 「カメール! 頂上に着いたら! “こうそくスピン”を使って海に向かってくれ!」

 ミナミ 「っ……! お願いカメール! リーフを助けに行って!」

 カメール 「かめぇ!」

 サトシ 「それとハジメ! ブイゼル貸してくれ!」 ガシッ

 ブイゼル 「ぶい?」

 ハジメ 「えっ……、サトシなにする気だ?」


サトシはブイゼルを抱え、走り続ける。


ようやく到達した、丘の頂上。

この場に争った形跡が無いことから、恐らくリーフは平和的にフライゴンと接していたはずだ。



そんな状況を読み取る間もなく――。



 サトシ 「行くぞブイゼル! 飛べカメール!」

 ブイゼル 「ぶい!? ぶぃぶぃぶぃぃぃぃ!?」

 カメール 「かぁぁめぇぇぇぇ!」 シュババッ!



サトシは、崖から飛び降りた。

ブイゼルを抱えて。カメールを引き連れて。
 ▼ 213 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 21:18:26 ID:MmnkGbAE [9/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



  ミナミ 「ちょっ……嘘!?」

  ナツヤ 「ぅえええっ!? あいつなに考えて!?」

  ヒトミ 「ダメだよサトシ!?」

  ハジメ 「無茶だ! この高さ……ってかブイゼル!」





そんな彼らの声は届くこともなく。サトシは崖下の海へと落ちていく。

そして――、海面に浮かぶフライゴンの姿を、リーフの姿を、発見した。


 サトシ 「居た! ブイゼル! 海に向かって“みずてっぽう”! 思いっきり頼む!」

 ブイゼル 「ぶぃっ……ぶいいいいいぃぃぃぃぃ!」 シュゴォォォォォォォ!


サトシに抱えられたブイゼルは、海面に向かって“みずてっぽう”を放つ。

それは あたかも逆噴射のような役割を果たし、落下するサトシとブイゼルのスピードを抑え、そして、ゆっくりと海に着水した。

少し遅れて、螺旋のような円を描きながら、“こうそくスピン”で飛び込んだカメールも着水した。





  ナツヤ 「サトシ……、やっぱ無茶苦茶過ぎるぞアイツ……」

  ハジメ 「ブイゼルの“みずてっぽう”を、あんな使い方するなんて」

  ミナミ 「感心してる場合じゃないでしょ! 私たちも海へ……って海に下りる道は無さそうね」

  ヒトミ 「助けを呼ばないと! ポケモンレンジャーさんと! あと先生たちにも!」

  ナツヤ 「分かってる!」



 ▼ 214 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/02 21:19:40 ID:MmnkGbAE [10/10] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 サトシ 「ぷはっ! カメールとブイゼルは、フライゴンを助けてくれ!」

 カメール 「めぃる!」

 ブイゼル 「ぶぃ!」


着水したサトシは、まず2匹にフライゴンの救助を指示。

緑色の巨体、先ほどまで必死にキャプチャしようとしていたフライゴンは、力なく海面を漂っていた。

幸いなことに、広がった翼が ある程度 浮力を稼いでいるのか、沈む心配は無さそうだ。



 サトシ 「リーフっ!」 バシャバシャ


リーフの救助へはサトシ自らが向かった。

フライゴンを追うように飛び込んだリーフ。

灯台のある崖上からは、かなりの高さがる。30メートルは あるだろうか。この高さから飛び込んで、海面に打ち付けられたとしたら……。



 サトシ 「リーフ! しっかりしろリーフ!」

 リーフ 「………」


波に揉まれるリーフを抱き寄せ、彼女の名を呼びかける。



 サトシ 「リーフ! 大丈夫かリーフ! 返事してくれリーフ!」

 リーフ 「………」


体を揺すり、必至に呼びかけるサトシ。



 サトシ 「リーフ! 起きろ! 起きてくれリーフ! リーフ!」


 リーフ 「んっ……」





     【 * 】



 ▼ 215 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 02:30:08 ID:j9DMEmhQ [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




     【 * 】





 『リーフ! しっかりしろリーフ!』



誰かの声が聞こえる。



 『リーフ! 大丈夫かリーフ! 返事してくれリーフ!』



冷たい……。

全身が冷たい。水の中?

でも、誰かが私のことを支えてくれている――と思ったけど、激しく揺すられている。



 『リーフ! 起きろ! 起きてくれリーフ! リーフ!』



この声……、サトシ君、だよね?

そうだ、私、フライゴンと一緒に海に飛び込んで……。



 リーフ 「んっ……」

 サトシ 「リーフっ!」
 ▼ 216 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 02:31:41 ID:j9DMEmhQ [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 リーフ 「けほっ! けほっ! んっく……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 サトシ 「良かった……。怪我は無いか!?」

 リーフ 「サトシ君……ぁっ ///」


気が付くと、予想外の近さに、サトシ君の顔があった。

顔が――と言うより、私はサトシ君に、しっかりと抱き留められていたのだ。


 サトシ 「どっか痛んだりしないか?」

 リーフ 「ぁっ……うん。そうだそれより! フライゴンは!?」

 サトシ 「カメールとブイゼルが支えてくれてるよ」

 カメール 「かめっ!」

 ブイゼル 「ぶい!」

 リーフ 「そっか……。良かった……」

 サトシ 「リーフ、本当に怪我とか大丈夫か? こんな高さから落ちたのに」

 リーフ 「うん。フライゴンが、助けてくれたんだ」

 サトシ 「フライゴンが……?」


私は あの時、フライゴンを抱きしめて、フライゴンと一緒に落ちて行った。

海面に叩きつけられることを覚悟して目を瞑ったけど、そのあと一瞬だけ訪れた浮遊感。

あれはきっと、フライゴンが羽ばたいてくれたんだと思う。

翼を怪我しているのに、私の重みも加わっているのに、フライゴンは、海面に叩きつけられる その瞬間、羽ばたいてくれた。

飛び続けることは出来なかったけど、その羽ばたきのお陰で落下速度は ある程度 抑えることが出来て、結果、私とフライゴンは無事で済んだのだ。


 サトシ 「そっか。フライゴン、頑張ったんだな」


サトシ君は、チラリとフライゴンに目をやる。

カメールとブイゼルに支えられているフライゴンは、波に揉まれながらも、しっかりと浮いている。

翼の他に怪我は無さそうだ。
 ▼ 217 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 02:33:17 ID:j9DMEmhQ [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「それにしてもさ」

 リーフ 「ぁっ……」


サトシ君は、私を抱き留めていた手を離す。

私は無事で、ちゃんと1人で浮いていられるって分かったんだから、当然と言えば当然だけど。



 サトシ 「凄いぜリーフ! フライゴンに、ちゃんと気持ちが通じたんだな!」 ガシッ

 リーフ 「わっ!? サトシ君っ……///」


その直後、サトシ君は私に向き合って、私の両肩を、しっかりと掴んだ。

そして、眩しい笑顔で会話を続ける。


 サトシ 「フライゴン、あんなに暴れてたのに。キャプチャした……訳じゃないんだろ?」

 リーフ 「……ふふっ。サトシ君のお陰、かなっ」

 サトシ 「オレの?」

 リーフ 「私ね、最初はキャプチャしようとしたの。フライゴン、かなり体力を消耗してて、抵抗されなさそうだったから」

 サトシ 「そうなのか」

 リーフ 「でも、ディスクを怖がると思ったから……語り掛けたんだ、フライゴンに。あの時チルットを助けた、サトシ君みたいに」

 サトシ 「そっか。でも、チルットとフライゴンじゃレベルが違いすぎるぞ。成長してる分、素直に人間の言うこと聞くとは限らないし」

 リーフ 「でも私は、フライゴンを信じたんだ」

 サトシ 「リーフがフライゴンを信じたから、フライゴンもリーフを信じてくれた、ってことか」

 リーフ 「でも、ミスしちゃった。フライゴン大人しくなってくれたのに、念のためキャプチャしようとしたら……」

 サトシ 「あぁ、なるほど。それでフライゴン、驚いて崖の方に飛んじまったのか」

 リーフ 「うん。私の判断ミスで、フライゴンを危険な目に遭わせちゃって……。それで、気付いたら私も、飛び込んでて」

 サトシ 「いや、そういう場面なら、キャプチャすると思うぜ。リーフは悪くないよ。タイミングが悪かっただけさ」

 リーフ 「でも……」
 ▼ 218 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 02:35:53 ID:j9DMEmhQ [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

結果的に、フライゴンも私も無事だった。

けど、もしフライゴンが羽ばたけなかったら――。もし私がフライゴンに届かなかったら――。

状況はガラッと変わっていたと思う。


 サトシ 「……前にさ、リーフ、自分にも勇気が欲しいって言ってただろ?」

 リーフ 「えっ? あ……うん」


大会前、サトシ君と2人きりで特訓した時に、そんな話をしたっけ。

サトシ君、そんな何気ない会話、覚えててくれたんだ。


 サトシ 「リーフ、すげぇ勇気あるじゃん!」

 リーフ 「ううん。そんなこと……」

 サトシ 「いや、勇気あるよ。フライゴンを助けるために崖から飛び降りるなんて、普通じゃ出来っこないぜ?」

 リーフ 「それは、咄嗟に体が動いたからで……。それに、サトシ君だってチルットを助けるために飛び降りて……」

 サトシ 「ならリーフは、オレと同じくらい、勇気があるってことさ!」

 リーフ 「あっ……」

 サトシ 「オレさ、ポケモンのこと考えると周りが見えなくなっちまって、けっこう無茶なことしてきたんだ。そのたびにピカチュウや仲間に怒られてさ」

 リーフ 「そうなんだ」

 サトシ 「それを“勇気がある”って言えるかは微妙だけど、ポケモンが好きだから、いつもオレ、無茶なことしちまうんだ」

 リーフ 「うん。なんだか分かるかも」

 サトシ 「リーフは、オレと似てるのかもな」

 リーフ 「サトシ君と……?」

 サトシ 「フライゴンを助けるために崖から飛び降りる――、普通じゃ出来ないよ。……まぁ、オレなら飛び込むけどな!」

 リーフ 「……ふふっ」

 サトシ 「チルットを助けたオレを、みんな凄いって言ってくれたけど、それと同じことをリーフは やったんだ。凄いに決まってる。勇気があるに決まってるよ」

 リーフ 「そっか。私、サトシ君と同じこと……」

 サトシ 「ポケモンのために行動できるって、ホントに凄いと思うんだ。そういう人、オレは好きだぜ」 ニカッ


 リーフ 「っ……///」 ドキッ

 ▼ 219 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 02:37:21 ID:j9DMEmhQ [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



サトシ君の笑顔に、私の体を衝撃が突き抜けた――ような気がした。



私が ずっと欲しかった“勇気”。

私は それを、いつの間にか手に入れていた。


それは間違いなく、サトシ君のお陰。

サトシ君と出会って、話して、触れ合って。私は間違いなく、サトシ君から良い影響を受け取って。

だからこそ手に入れることが出来た勇気。


優しくて、ポケモン想いで、みんなの心を一つにする力を持っていて、バトルが強くて格好良い、サトシ君。

尊敬する彼と同じ勇気を、私は手に入れることが出来た。



 サトシ 「……ん、どうした?」

 リーフ 「ぁっ、ううん、そのっ……///」 ドキドキ



そんなサトシ君が、私のことを、褒めてくれた。私みたいな人を、好きだと言ってくれた。


……勿論分かってる。

その“好き”は、“ポケモンのために行動できること”を指してるってことくらい。



 リーフ 「……ふふっ。ありがとう ///」



でも、嬉しい。


すっごく嬉しい。


サトシ君から“好き”という言葉を聞けて、本当に、本当に嬉しい。


なんでこんなに嬉しいんだろうな……ふふっ。


 ▼ 220 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 19:52:25 ID:j9DMEmhQ [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





  「おーい! お前たち大丈夫かー!?」





 サトシ 「おっ?」

 リーフ 「フローゼル……に乗ったバロウさんだ」



遠くからフローゼルが物凄い勢いで近付いて来たかと思えば、フローゼルの背中にバロウさんが乗っていた。

彼らの後ろからは、モーターボートも近づいてくる。


 サトシ 「バロウさんって確か……」

 リーフ 「ビエンタウンのリーダーレンジャーだよ」

 サトシ 「そうそう! あのチルットを預けた時に会った人!」

 リーフ 「リーダーのバロウさんが来てくれるなんて」



そんな会話をしていれば、あっという間にバロウさんは私たちの前に到着した。

やっぱりフローゼルの泳ぐスピードは凄い。



 バロウ 「お前たち、よく頑張ったな! ほら、救命胴衣だ」

 サトシ 「ありがとうございます!」

 リーフ 「ありがとうございます。あと、フライゴンを!」

 バロウ 「分かってるさ。 おーいクラム! ボートゆっくりな!」

 クラム 「了解! やぁ未来のレンジャー。大活躍だねっ」


ボートを操縦していたのは、ビエンタウンのポケモンレンジャー、クラムさん。

レンジャースクールを卒業した、私たちの先輩だ。
 ▼ 221 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 19:53:33 ID:j9DMEmhQ [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 バロウ 「よーしマクノシタ。フライゴンをボートに引き上げるぞ。優しくな」

 マクノシタ 「もい!」

 バロウ 「カメールとブイゼルもご苦労さん。ボートに上がって休んでくれ」

 カメール 「かめぇ」

 ブイゼル 「ぶいっ」


バロウさんとマクノシタが、フライゴンをボートに引き上げた。

フライゴンは抵抗せず、目を閉じたまま、身を任せているようだった。


 バロウ 「ほら、最後は お前たちだ」

 サトシ 「上がれよリーフ」

 リーフ 「うん」

 クラム 「レディーファースト。きみ、出来る男だねぇ」

 サトシ 「いやぁ、当然ですよ」

 クラム 「ははっ。 これで海に落ちたのは全員だね?」

 サトシ 「はい!」

 バロウ 「よし。プエルに帰還だ。頼むぞクラム」

 クラム 「了解! クラスメートたちも心配して待ってるよ」



これで……一安心、だよね。


よく頑張ったね、フライゴン。

すぐポケモンセンターに連れて行ってあげるから、もう少しの辛抱だよ。


 ▼ 222 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/06 19:55:16 ID:j9DMEmhQ [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 バロウ 「それにしてもお前たち、本当に よく頑張ったな。連絡受けて驚いたぞ。フライゴンを助けるために、2人が海に飛び込んだーなんて」

 サトシ 「オレは、ブイゼルの“みずてっぽう”を使ったので、飛び込んだ訳じゃないんです。本当に凄いのはリーフですよ」

 バロウ 「そうなのか」

 リーフ 「あっ……いえ。咄嗟に体が動いてしまって……。それに、サトシ君が助けに来てくれなかったら、今頃どうなっていたか……」

 サトシ 「自信持てよリーフ! フライゴンを助けられたのは、リーフの気持ちがフライゴンに通じたからだぜ?」

 リーフ 「……うん! フライゴンが、心を開いてくれたんです。だから私たち、みんな無事で!」

 サトシ 「カメールとブイゼルも頑張ってくれたしな!」

 カメール 「かめぇ!」

 ブイゼル 「ぶいぶい!」


 バロウ 「サトシとリーフか。はははっ! 大した奴らだ、まったく!」

 クラム 「フライゴンと心を通じ合うなんて――しかも、キャプチャしてないんだろ? 本当に凄いことだよ」

 バロウ 「傷付いたフライゴンを救出する……。サトシ! リーフ! ミッションクリアだ!」

 サトシ 「ミッション……」

 リーフ 「クリア……?」

 クラム 「……バロウ。2人は まだスクール生」

 バロウ 「はははっ! そうだったな。いやぁけど、卒業が楽しみだな。ビエンタウンに配属されるよう祈ってるぜ!」

 クラム 「僕も同感。君たちみたいな勇気ある後輩、是非とも欲しいよ、うん」


 サトシ 「へへっ」

 リーフ 「ふふっ」



私とサトシ君は、顔を見合わせて、笑った。


現役のレンジャーさんに こんなに褒めて貰えるなんて、ちょっとくすぐったい感じだ。


フライゴンを助けることが出来て、私とサトシ君も無事で。


私たち、本当に凄いことを成し遂げたんだね。




 ▼ 223 ナバァ@タンガのみ 21/11/07 11:40:07 ID:FnZkv2BU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 224 クシー@はかせのふくめん 21/11/17 13:59:37 ID:6.C.gXpU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
それよりプエル学園の奴らの名前が北海道の特急列車で草
 ▼ 225 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/20 23:21:53 ID:9v.w8xm2 [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ボートはプエルタウンの水路を進み、ポケモンセンターの すぐ近くに着岸した。

そこには――。

 
 ハジメ 「サトシ! リーフ!」

 ヒトミ 「良かった……」

 ナツヤ 「心配かけやがって」

 ミナミ 「ホントよ。でも凄かったわ、2人とも」

 ピカチュウ 「ぴかぴ!」

 チコリータ 「ちこちこぉぉぉ!」


 サトシ 「おっと。へへっ、心配かけたなピカチュウ!」

 ピカチュウ 「ちゃぁ〜」

 リーフ 「ごめんねチーちゃん。心配かけちゃって」

 チコリータ 「ちこっ……グスッ、ぢこりぃ……」


チーちゃんが、みんなが、出迎えてくれた。

特にチーちゃんには心配かけちゃったね。こんなに泣いて……、可愛い顔が台無しだよ?


 バロウ 「マクノシタ。フライゴンを頼む」

 マクノシタ 「もい!」

 バロウ 「みんな ご苦労だったな。後のことは こっちに任せておけ」

 クラム 「スクールスタイラーの学外使用とか、僕らでスクールに説明しておくよ」

 サトシ 「ありがとうございます」

 リーフ 「お願いします」


 バロウ 「サトシ、リーフ。お前たち、良いコンビだな!」

 リーフ 「えっ?」

 バロウ 「今後の活躍に期待してるぜ! あばよ!」

 クラム 「たまにはレンジャーベースに遊びにおいでよ。じゃあね未来のレンジャーたち!」
 ▼ 226 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/20 23:23:42 ID:9v.w8xm2 [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


フライゴンをジョーイさんに引き継いだバロウさんとクラムさんは、ボートに乗って去って行った。

大会イベント中だから、警備とかで忙しいんだと思う。そんななか私たちを助けに来てくれて、感謝しかないな。


 ミナミ 「良いコンビ――、確かにバロウさんの言う通りね〜」

 ヒトミ 「うん。サトシもリーフも、ポケモンのためにあんなに体を張れるんだもん。本当に良いコンビだよ」

 リーフ 「そっ、そうかなぁ……」

 ナツヤ 「普通じゃ出来ないことしたんだよ、サトシとリーフは」

 ハジメ 「そうそう。少なくとも僕たちじゃ無理だよね。ポケモンを助けるために、崖から飛び降りるなんて」

 ヒトミ 「うん。助けたい気持ちは当然あるけど、飛び降りる勇気、私には無いかな」

 ミナミ 「見直したわ。リーフの勇気!」


 リーフ 「みんな……」


 サトシ 「言っただろ。リーフは勇気あるって」

 リーフ 「サトシ君……」

 サトシ 「みんなも認めてくれてるんだ。自信持ってさ。もっと誇って良いんだぜ!」


そう言って、サトシ君はニカッと笑った。


自信――か。


普段の私は、ミナミちゃんやヒトミちゃんの影に隠れてしまっている。みんなを頼ってしまっている。

それは、自信が無いから。弱い自分に、自信が無いから……。

積極的に行動する勇気が無かったから……。
 ▼ 227 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/20 23:25:16 ID:9v.w8xm2 [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 リーフ 「私……、大丈夫なのかな?」

 サトシ 「ん?」

 リーフ 「大人しくて、人見知りで、いっつも皆を頼ってばっかりで……。こんな私が、自信を持って、良いのかな……?」

 サトシ 「良いに決まってるだろ!」 ポンッ!

 リーフ 「ぁっ……?」 ドキッ

 サトシ 「オレが保証する。リーフは強いし勇気もある!」

 ミナミ 「フライゴンのために崖から飛び降りといて、自信が無いなんて矛盾してるわよ〜?」

 ナツヤ 「あぁ。リーフは、オレたちに出来ないことを したんだ。自信持って良いに決まってるだろ!」

 ヒトミ 「それに、さっきの決勝戦も。ちゃんとサトシのサポートしてたじゃん。チーちゃんと一緒に!」

 ハジメ 「リーフもチコリータも、僕たちから見れば すっごく強くて勇気あるんだよ。羨ましいくらいにね!」

 チコリータ 「ちっこりぃ♪」

 リーフ 「みんな……。チーちゃん……」


あぁ……、嬉しいな、本当に。

みんなが、私のことを褒めてくれた。認めてくれた。


私、自分自信に全く自信が無かったのに。

大人しくて、人見知りで、こんな性格でポケモンレンジャーに向いてるかどうかも心配だったのに。



 リーフ 「ありがとう……」



こんな私でも、みんなは認めてくれた。

自信や勇気とは無縁だと思っていた私のことを、みんなは、認めてくれた……!



 リーフ 「本当にありがとう、みんなっ!」 ニコッ

 ▼ 228 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/20 23:27:08 ID:9v.w8xm2 [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「良い笑顔じゃん、リーフ」

 リーフ 「えっ……ぁっ、ふふっ……///」


 ミナミ 「あらあら、良い雰囲気だとこ〜」

 ヒトミ 「ホントにね〜」

 リーフ 「ちょっ……そんなんじゃ!」

 ナツヤ 「まぁでも、リーフが自信を持てたのは、間違いなくサトシの お陰だね」

 ミナミ 「そうね。リーフが崖から飛び降りたの、サトシがチルットを助けた姿を見たからでしょ?」

 リーフ 「ぁっ、えっと……うん。体が勝手に動いたんだけど、あの時のサトシ君を見てなかったら、あんなこと、出来なかったと思う」

 ヒトミ 「そういう意味でもさ。サトシとリーフは良いコンビだよね」

 ハジメ 「だね。ポケモン想いなコンビ、良いと思うよ」

 ミナミ 「サトシとリーフって、性格的には反対なのに、こう……なんて言うか、芯の強さが似てるんじゃないの?」

 ナツヤ 「あぁ。だからこそ良いコンビ……。お似合いだと思うぜ?」

 リーフ 「お似合いってそんな……///」


 サトシ 「良かったな。リーフの勇気と強さ、みんな認めてくれてるんだぜ」

 リーフ 「うんっ!」


 ミナミ 「いやサトシ、そういうことじゃ……」

 サトシ 「ん?」

 ピカチュウ 「ぴぃか?」


サトシ君と良いコンビ、お似合いだって言われて、私は嬉しくて恥ずかしい。

一方サトシ君は、顔色一つ変えていない。

鈍感なのか、恋愛ごとに興味が無いのか、私をただの友達と見ているのか――、それは私には分からない。


でも、いいの。


サトシ君と良いコンビだって思われるほど、私には勇気があるみたい。

そのことを こうして分かっただけで、私は満足……かなっ。

 ▼ 229 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/20 23:29:47 ID:9v.w8xm2 [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「あ、そう言えば閉会式は大丈夫なのか?」

 リーフ 「えっ……あ、ホントだ。とっくに始まっちゃってる」

 ハジメ 「大丈夫。モブオたちに任せたよ」

 ヒトミ 「全員参加って決まりがある訳じゃないから、問題ないって」

 サトシ 「そっか。良かった」

 ナツヤ 「オレたちとしては、優勝に導いてくれたサトシとリーフに、表彰台に上って欲しかったけどな」

 サトシ 「いや。みんなで掴んだ優勝だよ。表彰台に上るんなら全員揃って、だろ?」

 リーフ 「あっ……ごめんねみんな。私たちを探しに来てくれたばっかりに……」

 ナツヤ 「いやいや、そういう意味じゃないから安心して!」

 ミナミ 「そうよ。それに……、サトシとリーフの行動は、表彰台に上るより価値があったんじゃないかしら?」

 ハジメ 「そうだね。レンジャースクールの生徒が、暴れるフライゴンから会場を守った――、凄いことだよ」

 ヒトミ 「うん。チームメートとして嬉しいよ!」

 サトシ 「へへっ。ありがとな、みんな!」

 ピカチュウ 「ぴっか!」

 リーフ 「ふふっ」


私とサトシ君が良いコンビであるように、サトシ君とみんなもまた、良いチームだ。

それは やっぱり、サトシ君の強さ、優しさ、ポケモン想いの心が、そうさせたんだと思う。


サトシ君が来た初日は、これからどうしようって心配になるくらい険悪なムードだったのにね。

本当に凄いよ、サトシ君。本当に尊敬しちゃうな、サトシ君……。

 ▼ 230 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/20 23:31:29 ID:9v.w8xm2 [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ジョーイ 「リーフさん、いるかしら?」

 リーフ 「あっ、はい」

 サトシ 「あ、ジョーイさん! フライゴンは大丈夫ですか?」

 ジョーイ 「えぇ。みんなの救助のお陰よ。すぐに元気になるわ」

 サトシ 「良かった。ありがとうございます、ジョーイさん」

 リーフ 「よろしくお願いします。それと、私がリーフですけど……」

 ジョーイ 「貴方がリーフさんね。バロウさんから聞いたわ。フライゴンを助けるために、崖から飛び降りたんでしょ?」

 リーフ 「はい。でも、フライゴンが頑張ってくれたお陰で、怪我とかは何にも……」

 ジョーイ 「けど、念のため検査させてね。あんまり無茶しちゃダメよ」

 リーフ 「分かりました」


 ミナミ 「リーフ。私たち、ここで待ってるわね」

 ヒトミ 「頑張ってね〜」

 リーフ 「うん。ごめんねみんな」


 ナツヤ 「そろそろ閉会式終わる頃だけど……、モブオたちには先に帰っててもらうか」

 ハジメ 「そうだね。トロフィーと優勝旗は早くスクールに届けたいし、優勝校が あんまりウロウロしてると、またマスコミに捕まりかねないしね」

 サトシ 「なら、フライゴンの回復まで待ってようぜ。野生に帰るまで見守ってやりたいし」

 ナツヤ 「そうだな」

 ハジメ 「じゃあ、モブオたちと先生に連絡しておくよ」





みんなに見送られて、私は検査へと向かった。


でも、ジョーイさんに説明した通り、フライゴンが頑張ってくれたお陰で、海に飛び込んだ衝撃は ほとんど無かった訳で。


1時間ちょっとで無事に検査は終了した。




 ▼ 231 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/23 01:15:52 ID:/F1ksX0w [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 リーフ 「お待たせ みんな」


 ヒトミ 「あ、おかえりー」

 ミナミ 「検査結果は?」

 リーフ 「問題なしだよ。フライゴンのお陰でねっ」

 ヒトミ 「そっか。良かった」


 サトシ 「そのフライゴンも、回復終わってるよ」

 フライゴン 「ふりゃっ!」

 リーフ 「フライゴン!」


フライゴンは元気に鳴くと、私の元に寄って来てくれた。

暴れていた時の険しい表情が嘘のように、穏やかな、優しそうな笑顔だ。


 リーフ 「良かった……、フライゴン……」 ギュッ

 フライゴン 「ふりゃぁ」

 リーフ 「ありがとね、フライゴン。あの時、私を守ってくれて」

 フライゴン 「ふりゃぃ。りゃぁ!」

 ナツヤ 「フライゴンも お礼言ってるんじゃないか?」

 ミナミ 「そうね。リーフ、一緒に崖から飛び降りてくれたんだし」

 リーフ 「ううん。それは私の判断ミスのせいだもん。ごめんねフライゴン、怖い思いさせちゃって……」

 フライゴン 「ふりゃ」

 ハジメ 「怒ってないってさ」

 ヒトミ 「ふふっ。リーフ、キャプチャ無しで、完璧にフライゴンと心を通わせたね」

 サトシ 「やっぱり凄いよ、リーフは」


 ナツヤ 「じゃあ帰るか。レンジャースクールへ!」

 ミナミ 「早く全員で優勝報告したいもんね」

 ハジメ 「モブオたち、もう着いてるんじゃないか?」

 ヒトミ 「主役を差し置いて優勝報告なんて許さないよ。ねっ、サトシ! リーフ!」

 サトシ 「だからー、みんなで勝ち取った優勝だろ? みんなが主役だぜ!」

 リーフ 「ふふっ。そうだよね!」
 ▼ 232 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/23 01:16:36 ID:/F1ksX0w [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



私たちは、ポケモンセンターを後にした。


あたりは すっかり暗くなっていて、あれだけ盛り上がった大会の賑わいも、すっかり薄れていた。



 リーフ 「フライゴン。ひとまずビエンの森で良いかな?」

 フライゴン 「りゃい!」

 ハジメ 「このフライゴンの縄張りが何処かは分からないけど、ひとまずビエンの森なら確実だろうね」


レンジャースクールへの帰り道。

私たちは、フライゴンをビエンの森まで送ってあげることに。こんなプエルの街中で放す訳には いかないもんね。



 フライゴン 「ふりゃぁ♪」

 ヒトミ 「ふふっ。フライゴンご機嫌ね〜」

 ミナミ 「それに、リーフの傍ピッタリだし」

 サトシ 「リーフ、フライゴンに気に入られたんだな」

 リーフ 「そうなの? ありがとうフライゴン」

 フライゴン 「ふりゃ!」


フライゴンは、私の右隣を、私の目線の高さで、私の歩みに合わせて飛んでいる。

こんなに立派なドラゴンタイプのポケモンでも、こんなに可愛い仕草を見せてくれるんだね。


 ナツヤ 「ほら、もうすぐビエンの森の入口だ」

 ミナミ 「“みはらしとうげ”あたりまで連れて行ってあげる?」

 リーフ 「うん。眺めの良い場所なら、フライゴンも自分の住処が分かりやすいんじゃないかな」


フライゴンの怪我は もう治っている。

ビエンの森やプエルタウンを見通せる“みはらしとうげ”に行けば、フライゴンは自分の住処に飛んで行けるはずだ。


 ▼ 233 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/23 01:17:04 ID:/F1ksX0w [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





 「やっと来やがったな!」





 リーフ 「えっ!?」

 サトシ 「誰だ!?」

 ナツヤ 「この声……」



ビエンの森に入ってすぐ、不意に私たちは呼び止められる。


振り向くと、茂みの中から現れる、5人の影。


この状況、声の主は、おおかた想像がつく。



 ソウヤ 「待ちくたびれたぜまったく」

 ホクト 「閉会式にも参加せず、どこで油を売っていたんでしょうねぇ」


 ナツヤ 「お前ら……!」

 ハジメ 「何の用だ。僕たちはスクールに急いでるんだ。邪魔しないで貰えるか?」


 カムイ 「まぁ待てよ。ちょっと話そうぜ」

 エルム 「大会じゃ随分と調子乗ってたじゃない。何様かしら」

 スラン 「私たちプエル学園に泥を塗ってくれちゃって、タダで済むと思ってんの?」



プエル学園の生徒たち――、決勝戦という大舞台で戦った相手。

そのうちの5人が、私たちの行く手を阻んできたのだ。
 ▼ 234 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/24 22:37:59 ID:ZY0wcr.Y [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ミナミ 「泥を塗るって……、正々堂々バトルした結果でしょ!」

 ヒトミ 「そうよ!」

 ソウヤ 「黙れ! ザコの分際で優勝とか許されねーんだよ!」

 ナツヤ 「逆ギレもいいとこだなオイ」

 ハジメ 「情けないね」

 ソウヤ 「んだと!?」

 ソウヤ 「とにかく! 僕たちは納得できないんですよ。まぐれ で優勝して、それが記録に残ってしまうことが」

 エルム 「だから もう1回ここでバトルして、さっきの優勝が まぐれ だって証明させて貰うわ」


プエル学園の人たち、酷い言いがかりだ。

自分たちが負けたことを認めないで、もう1回バトルしろだなんて。

それに、私とチーちゃん、サトシ君、みんなの頑張りを、“まぐれ”だなんて……!


 ソウヤ 「お前らに拒否権はねーぜ」

 スラン 「言っとくけど、今度は手加減しないから覚悟して」

 ミナミ 「あら? 決勝戦は手加減してくれてたんだ」

 スラン 「黙りなさい!」

 エルム 「アンタたちが優勝なんて有り得ないのよ! どーせイカサマしたんでしょ」

 ホクト 「その通り。でなければ僕のボスゴドラが、貴様らみたいなザコに」





 リーフ 「ふざけないでよ!」





 ミナミ 「えっ?」

 ヒトミ 「リーフ……?」
 ▼ 235 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/24 22:39:59 ID:ZY0wcr.Y [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

気付けば、私は怒鳴っていた。

自分でもビックリするほど、大きな声で。


 リーフ 「まぐれとか、手加減とか、イカサマとか! 私たちの頑張りをバカにするのは許さないよ!」

 フライゴン 「ふりゃぁ!」


フライゴンも、私に加勢してくれた。

みんなで掴んだ優勝と言うカタチをイカサマだなんて、絶対に許せない。

私たちとポケモンたち みんなの頑張りを、活躍を、覚悟を、否定するなんて絶対に許せない!


 カムイ 「ん? そのフライゴン……」

 エルム 「……あら」

 リーフ 「なっ、なによ……!」

 フライゴン 「ふぎゃぁ!」

 カムイ 「へっ!」


 サトシ 「……まさか。フライゴンを怪我させたの、お前たちの仕業なのか!?」

 リーフ 「えっ!?」

 フライゴン 「りゃぁぁっ……!」

 エルム 「さぁ。なんのことかしらね」

 カムイ 「言い掛かりすんじゃねーよ」

 ソウヤ 「お喋りは終わりだ! さっさとポケモン出せよ!」

 ホクト 「仲良くボコボコしてやりますよ。優勝が まぐれ だと証明するためにね!」



プエル学園の人たちは、モンスターボールを構え、ジリジリと迫って来る。

私たちは茂みの方へと追いやられ、逃げ道を塞がれてしまった。
 ▼ 236 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/24 22:41:41 ID:ZY0wcr.Y [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ハジメ 「またバトルすんのかよ……!」

 ナツヤ 「あの時と――サトシをプエルに案内しようとした日と同じじゃねーか」

 ミナミ 「カメールたち回復は終わってるけど、今日は休ませてあげたいし……」


そうだ。ここでまたバトルするのは出来れば避けたい。

チーちゃんも、みんなのポケモンたちも、今日は初めての大会で疲れている。

こんな状況で再びプエル学園とバトルだなんて……。



 サトシ 「みんな。ここはオレに任せてくれ」

 ピカチュウ 「ぴかちゅぅ!」

 ナツヤ 「サトシ!?」

 ハジメ 「けど、ピカチュウだって疲れてるだろ?」

 サトシ 「大丈夫さ。……あの時は、みんなの意見を尊重して、オレは手出ししなかった。でも今は手出しする!」

 ミナミ 「サトシ……」

 サトシ 「みんなで掴んだ優勝を! まぐれとか! イカサマとか! みんなの想いを踏み躙るようなこと言われて! オレはお前らを許さない!」

 ピカチュウ 「びかびかぁ!」


 ホクト 「ふん。威勢だけは良いですね」

 エルム 「ウザっ」


 ヒトミ 「なら私たちも戦うよ!」

 ナツヤ 「そうだ! サトシにばっか頼る訳にはいかないからな!」

 サトシ 「いや。みんなのポケモンたちは慣れない大会で疲れてるだろ? オレとピカチュウに任せてくれ」

 ピカチュウ 「ぴっか!」

 ハジメ 「そんな訳には!」

 リーフ 「サトシ君……」


チーちゃんたちが疲れているのは事実。それはサトシ君にも分かっていた。

けど、だからってサトシ君とピカチュウに任せちゃうなんて……。


 ▼ 237 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/24 22:42:45 ID:ZY0wcr.Y [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 フライゴン 「ふりゃぁぁぁぁ!」



そんな時、フライゴンが雄叫びを上げた。


 サトシ 「おっ!」

 リーフ 「フライゴン……?」


 フライゴン 「ふりゃっ!」 キッ!


そしてフライゴンは、プエル学園の人たちをキッと睨みつける。



そっか。


一緒に戦ってくれるんだね、フライゴン。


疲れているチーちゃんたちの代わりに、フライゴン、貴方が……。



 リーフ 「サトシ君! 私とフライゴンも加勢するよ!」

 フライゴン 「りゃい!」

 サトシ 「よっしゃ! 頼むぜフライゴン! リーフに良いとこ見せてやれよ!」

 フライゴン 「ふりゃ!」
 ▼ 238 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/24 22:47:08 ID:ZY0wcr.Y [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カムイ 「野生のフライゴンに何が出来るって言うんだ?」

 エルム 「そうよ。私たちの育成に対抗できると思ってんの?」

 サトシ 「……なんでコイツが野生って分かるんだ?」

 リーフ 「ぁ、確かに」

 カムイ 「っ……黙ってろ!」


サトシ君の指摘で確信した。

フライゴンを傷付けたのは、この人たちだ。

理由は分からないけど、フライゴンを苦しめたのは、間違いなく この人たちだ。


 サトシ 「フライゴン! お前の力、あいつらに見せつけてやろうぜ!」

 ピカチュウ 「ぴかぴっか!」

 リーフ 「頑張ろうねフライゴン!」

 フライゴン 「ふりゃあ!」


けどサトシ君は、そのことを問い詰めようとはしない。

バトルでフライゴンの強さを証明することが、フライゴンにとっての最善だと考えたようだ。

こういう所でも、サトシ君の優しさやポケモン想いの心を感じられる。


 カムイ 「黙れザコの分際で!」

 ソウヤ 「男のクセにピカチュウなんて使ってよぉ!」

 サトシ 「オレのピカチュウに負けたくせに、その言い方は哀れだぞ」

 ホクト 「チッ! だいたい……貴様、これまで見かけなかった顔ですね。転校生ですか?」

 エルム 「そうよ! ぽっと出が調子乗ってんじゃないわよ!」

 スラン 「誰よアンタ。ホントにレンジャースクール生なの?」



 サトシ 「オレは――」



 ▼ 239 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/24 22:48:31 ID:ZY0wcr.Y [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サトシ君は、体験入学生。

厳密に言えば、レンジャースクール生ではないかもしれない――けど。



 ナツヤ 「サトシはレンジャースクールの一員だ!」


 ハジメ 「そうだ! 紛れもなくレンジャースクール生だ!」


 ミナミ 「私たちの大切な仲間よ!」


 ヒトミ 「キャプチャもマスターしてるし、バトルも強い、私たちの自慢の仲間!」


 リーフ 「優しくて、勇気があって、ポケモン想いで! 私たちの かけがえのない存在だよ!」



私たちは、叫んだ。

自信を持って、本気で叫んだ。



 サトシ 「みんな……」



今やサトシ君は、私たちレンジャースクール生の、大切な仲間であると!



 サトシ 「そうだ。オレはレンジャースクール生の一人! マサラタウンのサトシだ!」

 ピカチュウ 「ぴか! ぴかぴっかぁ!」



サトシ君とピカチュウも、そう叫んだ。

自信に満ちた、誇りを持った、とっても堂々とした叫びだった。


 ▼ 240 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/24 22:49:20 ID:ZY0wcr.Y [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ホクト 「マサラタウンの、サトシ――?」

 エルム 「なに調子乗っちゃってんの恥ずかしい」

 スラン 「ホント。ウザいんだけど」

 ソウヤ 「そのピカチュウとフライゴンでオレ達に勝てると思ってんのかよ」

 カムイ 「笑わせんじゃねーぞ!」


 サトシ 「オレたちは負ける気なんて無いぜ!」

 ピカチュウ 「ぴかぴかぁ!」

 リーフ 「あなたたちみたいな人に、絶対に負けないもん!」

 フライゴン 「ふぎゃあぁ!」


 カムイ 「せいぜい粋がってな! 行くぞゲンガー!」

 ソウヤ 「出ろリザードン!」

 エルム 「出番よロズレイド!」

 スラン 「やるわよメタグロス!」





 ホクト 「待て!」





 ▼ 241 ップリュー@しめったいわ 21/11/25 17:42:39 ID:AYQI.k5o NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
来てた
支援
 ▼ 242 州街道◆IVIG1YNTZ6 21/11/27 02:29:15 ID:xxdMnKSM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


これからバトルが始まる――、まさにそんなタイミングで、プエル学園側の1人が叫んだ。



 カムイ 「なんだよホクト?」

 ソウヤ 「お前も早くポケモン出して……」


 ホクト 「マサラタウンのサトシ、そう言いましたね」

 サトシ 「それがどうした」

 ホクト 「しかもピカチュウを連れている」

 ピカチュウ 「ぴか?」

 サトシ 「それがどうしたって言うんだよ?」

 ホクト 「なるほど。……気付くべきでしたね。僕のボスゴドラを倒した、奇抜な戦法を見たタイミングで」

 サトシ 「気付く?」


 エルム 「ちょっとどうしたのよホクト!?」

 スラン 「さっさとコイツらの相手!」

 ホクト 「マサラタウンのサトシ――、この人は、一時期ネットで話題になった、カロスリーグ準優勝者ですよ」

 カムイ 「は!?」

 ソウヤ 「……マジ? こいつが!?」


サトシ君が……カロスリーグ準優勝?


 ナツヤ 「リーグ準優勝……マジ!?」

 ミナミ 「それって……凄いことよね?」

 ハジメ 「当然だよ! 8つのジムバッジを集めたトレーナーの、その中の さらに2位ってことだからね」

 ヒトミ 「サトシ、そんなに凄い人だったんだ……」


みんなも驚きを隠せない様子。

当然だ。私たちにバトルを教えてくれたサトシ君は、実は とんでもない実力者だったんだから。
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