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【バレンタインSS】ニンフィア「チョコレート・ジョーク」

 ▼ 1 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/26 23:30:37 ID:q69IZzaY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




とある街の片隅、とある高校……



眩しい朝日に照らされた教室。

誰もいない筈の教室の隅、小さな影が一つ……



ニンフィア「……」



その首から伸びたリボン。それに握られていたのは、可愛らしくラッピングされた小箱。


ニンフィアは暫くそれを見つめていたが、やがて深く息を吸い……そして、吐き出す。


高鳴る鼓動をなんとか抑えると、ゆっくりと一歩踏み出した……




ニンフィア「大丈夫……大丈夫だよね」




他に誰の姿も見られない、ある朝の教室……

 ▼ 74 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:04:09 ID:XAmEsdkA NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


そう言いながら、振り返る……前走者のウインディが全速力で駆けてきた。



ウインディ「サンダース!! 後は任せた!!」



タスキを受け取ると、サンダースは強くグラウンドを蹴り……



サンダース「じゃ、お先っ!」



その言葉だけを残し、駆け出した。



最後の走者であるサンダースが駆け出すと、皆が盛り上がる……



「サンダース!! いけぇ!!」



「チョコがかかってるんだから、負けるなよ!!」



その声を背に受けながら、カーブに差し掛かった頃……



昼ルガン「ブラッキー! 頼むぞ!」



ブラッキー「うん!」



ブラッキーもタスキを咥え、サンダースの後を追いかけ始めた。

 ▼ 75 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:05:40 ID:AWtM/K9M [1/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


1匹100メートル……アンカーだけは200メートルの長距離を走るルールは、持久力に乏しいサンダースには不利なルール。


それは、サンダース自身が初めから知っていた。



サンダース「(俺は、このままさりげなく負ける……勝って盛り上がって、その流れであいつとブラッキーの急接近を狙う……)」



チラと振り返れば、ブラッキーがじわじわと追い上げてくるのが見える。



サンダース「(作戦通り……流石俺!)」



……と、その時……応援の声の中から一際大きな怒号が……



ガブリアス「おい!! サンダース!! 負けたらどうなるかわかってんだろうな!!」


見れば、明らかに不機嫌そうなガブリアスの顔……


サンダース「ひっ!?」



クラス1の暴君……負けたらどうなるか、考えたくもない。

作戦では負ける筈だったが、サンダースの臆病な心はすぐさま折れた。



サンダース「(ニンフィア悪い! やっぱ流石に負けられねぇ!!)」


 ▼ 76 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:06:05 ID:kCWgDJ8A [1/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


サンダースは追い上げるブラッキーを振り切る様に、全速力で最終カーブに差し掛かった。




皆の声がワッと……


もう振り返る余裕すらないが、このまま逃げ切る自信はあった。


勝利を確信し、同時に心の中でニンフィアに謝った……



その時……



サンダース「(……っ!!)」




激しく後ろ脚に痛みが走って、その顔を歪ませた。


あの日、サッカーで痛めた脚……あれ以来、久しぶりに本気で走った事で、感じたことの無い痛みが……



サンダース「ぐっ!!」



痛みに気を取られて脚がもつれ……サンダースは勢いのまま前のめりに転けた。


その瞬間、ブラッキーが風の様に追い抜き……そのままゴールテープを……



最後のまさかの逆転に、皆が盛り上がった。



「ブラッキーすげぇ!!」


「ナイスファイト!」


「っしゃ! チョコゲットぉ!!」



 ▼ 77 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:07:04 ID:jIsINq4Y [1/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


白組の皆は、ブラッキーをワッと囲んで盛り上がる……が、負けた赤組が同じく盛り上がる筈も無く……



「あー……負けちゃったか……」


「まぁ、仕方ないよね……」



そんながっかりした声が……



サンダース「っぐ……ちくしょう……」



よろよろと、なんとか痛みを堪えて立ち上がったサンダース……後ろ脚は大きく擦りむけて、血が流れていた。



そこに、ガブリアスが……



ガブリアス「おい。せっかく勝ってたのに、お前が転けたせいで負けたじゃねぇか」


サンダース「わ、悪い……最後に気を抜いて……」


 ▼ 78 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:07:25 ID:15fwOLrQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


その言い訳に、ガブリアスは眉間に皺を寄せ……その腕を振り上げた。



ガブリアス「ふざけんなよ! お前のせ……」



パシッ!



その振り上げた腕に、リボンが巻き付く……



ガブリアス「っ! なんだ、ニンフィアか?」


ニンフィア「サンダースだって頑張ったのに、自分勝手言っていじめてるんじゃないわよ」



予想外な相手に正論を突きつけられ、ガブリアスは言葉に詰まる……


ニンフィアはガブリアスの左腕、先にガオガエンから貰ってきていたチョコを乗せた。



ニンフィア「チョコ欲しいなら、私の分あげるから。それで許してあげて」


 ▼ 79 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:07:44 ID:AWtM/K9M [2/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


確かにチョコは欲しかったが、こんな場面でもらってしまっては……メンツが丸潰れである。

ガブリアスは機嫌悪そうな顔のまま、校舎へと歩き出した。



ガブリアス「ふんっ……くだらねぇ」



ガブリアスがいなくなると、遅れて皆も心配そうな顔でサンダースの元へと……


ニンフィアはサンダースの方を支えるように、そっとリボンを巻きつけた。



サンダース「ん……」



ニンフィア「先生、私が保健室までサンダースを連れてきますね」


ガオガエン「おう。悪いが頼んだぞ!」



ニンフィア「ほら、行くわよ」


サンダース「……」




2匹はグラウンドを後に……校舎へと歩き出した。


 ▼ 80 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:08:03 ID:MHpswKlI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





ニンフィア「失礼しまーす……」



保健室の戸を開けて中を覗く……そこに広がる小綺麗な部屋の中には、誰の姿もなかった。



ニンフィア「あれ? 先生いないのかな」


サンダース「……ん。不在みたいだな」



サンダースの視線の先、保健室のドアにかかったホワイトボードには『席を外してます』と、クセのある字が残されていた。



ニンフィア「……仕方ないから私が手当したげる。ほら、そこ座って」



ニンフィアにグイグイ押されながら、無理矢理丸椅子に座らされたサンダースは少し不安そうな……



サンダース「お、お前にできるのか?」



ニンフィア「うるさい」

 ▼ 81 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:08:24 ID:EnPoBRDw NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


棚に置いてあった消毒液のスプレーを、ニンフィアはわざと勢いよく傷口に吹きかけた。



サンダース「い"っ!!!?」



込み上げた痛みを耐えようと歯を食いしばっているサンダースを見て、ニンフィアはため息をついた。



ニンフィア「……ほんとバカ」



サンダース「う、うるせぇよ……」



涙目のサンダースは、なんとか言い返す……が、次はニンフィアがガーゼをグイッと力強く押し付けてきた。



サンダース「ん"っ!!!?」



堪えられずに涙がポタリ。そして、サンダースはボソリと……



サンダース「……せっかくそっちのチーム勝ったのに、なんで俺なんかの事心配してんだよ」


ニンフィア「……うるさい」


サンダース「ブラッキーと一緒にチョコでも食って、良い雰囲気になるかな……とか思ってたのによ……1日彼女だからって、俺の方にそんな気遣い……」



ニンフィア「そんなの関係ない!!」


 ▼ 82 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:08:40 ID:Uy/.ixW. [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


サンダースはびくりと……



ニンフィア「だって、そんな怪我されたら心配するのが当たり前でしょ!? それに、もし昔みたいに骨が折れてたりしたらどうするのよ!!」


強く言われ、サンダースはぽかんと……



ニンフィア「それに……あんただって色んな事抱えてるのに、みんな何も知らずにあんたの事……」



昨日までの自分なら、きっと盛大にこけたサンダースを見て笑っていただろう……


だが、サンダースの内面を知ってしまった今、自分の事とは関係ないのに、サンダースが何も知らない皆に笑われ、バカにされている事が何故か悔しくて……


その不思議な気持ちの意味すら分からず、ニンフィアは息を荒げ……その目には、薄く涙が浮かんでいた。



サンダース「なんだよ。急に優しくなりや
がって」


ニンフィア「いつも優しいわよ!」

 ▼ 83 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:09:00 ID:kCWgDJ8A [2/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


止血用のガーゼを抑えながら、包帯でぐるぐると……テープで留め終えると、リボンで強く叩いた。


サンダース「ヴっ!?」


激痛から漏れる鈍い声……だが、その後サンダースは……



サンダース「……でも、ありがとな」



そう言うと、サンダースは丸椅子から飛び降りて廊下に向かう……


サンダース「じゃ、授業に戻るか」


ニンフィア「あ、待ってよ!」



サンダース「……あ? なんだよ」



2匹だけの保健室。サンダースに見つめられ、ニンフィアは視線を逸らした。



ニンフィア「もう少し、時間潰してかない?」


サンダース「え?」



ニンフィア「適当に言い訳つけて、残りはサボり……たまには良く無い?」



その提案に、サンダースはニッと笑った。



サンダース「だな! まぁ、俺のサボりはいつもの事だけど!」


 ▼ 84 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:09:19 ID:pv3QRb7E [1/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


何をするでもなく、数分が過ぎた。


時計を見れば、体育の授業も残り五分と言ったところか……? 

廊下に響く学生の声からも、今日という1日が終わろうとしていることがわかる。




サンダース「……そろそろ終わりだな。授業も……俺達の関係も」



どこか寂しそうにも見えたその顔……ニンフィアは、その背をリボンで叩いた。



ニンフィア「何寂しそうにしてるのよ。柄にも無い」



それでも、サンダースはその表情を変えなかった。



ニンフィア「……」



その目……一体どこを見つめているのか、遠く遠くを……


数日前の自分なら、また何も考えずにボーッとしてるんだろうと思っていただろうが、今の自分にはサンダースの考えている事がわからなかった。



ニンフィア「ねぇ、何考えてるの?」


サンダース「え? ぼーっとしてただけだけど」



ニンフィアは、少し考え過ぎだった自分に呆れた。

 ▼ 85 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:09:35 ID:rLEc76EU [1/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


サンダース「それじゃ、流石にそろそろ教室戻ろうぜ。ブラッキーにチョコを渡さなきゃだろ?」


そう言いながら、保健室の戸に前脚をかけた……その手をニンフィアは呼び止めた。



ニンフィア「ねぇ。最後に聞きたいことがあるんだけど……」


サンダース「……ん? なんだ?」



ニンフィア「その……なんで、私を一日彼女にしようとしたの? そもそも、彼女っぽい事も何もしてないし……それに、こんな事してまで私とブラッキー君結びつけても、あんたには何も……」



その問いに、サンダースは何か思うように微かに笑っていた。



サンダース「そりゃ……あれだよ。お前がさっき話した元カノにそっくりだったから」



ニンフィア「え……?」



サンダース「同じクラスになった時からずっと思ってたんだけど、改めて今日一日そばで見てると、雰囲気がそっくりだなって。あいつは優しいから、お前みたいに暴力は振るわないけど」


ニンフィア「うっ、うるさい!」


サンダース「俺さ、朝からそんなお前からチョコもらえたと思って、これでも嬉しかったんだぜ? けど、それもただの事故だったんだけどな」



ニンフィアは今朝を思い出して、申し訳なく視線を落とした。



サンダース「ああ、俺の元には来てくれなかったのかって……なんか悔しくてさ。せめて1日だけでも理由つけて、お前をそばで見ていたくなった……あと1日だけでもあいつのそばにいれば、これであいつの事も忘れる事もできるかなって……ただ、そんだけだ」


 ▼ 86 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:09:58 ID:mUXwmjCI NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



ニンフィア「……」



サンダース「まぁ、なんだ。今日一日ありがとな。俺の自己満足に付き合ってもらって……お前はあいつと違う所も多いけど、それはそれで楽しかったぜ」



ニンフィア「……私だって、この関係……そんなに悪くは無かったよ」



サンダースは歩み寄ると、その前脚でニンフィアの背中をポンと叩いた。



サンダース「結局、あんまり手助けも上手くできなかったけど……あとはお前次第ってとこだな。頑張れよ」



その背に重なった前脚に勇気がもらえた気がした。

そうだ。もう今日と言う特別な時間は終わりつつある。


ニンフィアはそっと頷き返すと、窓の外の廊下を見た。


帰宅準備を早々に済ませたであろうポケモン達がカバン片手に走って行った。



サンダース「そんな事より早く行くぞ! あいつが帰っちまう前に!」



保健室の戸を開けて、飛び出したサンダース……



ニンフィア「あっ、待ってよ!」



ニンフィアも、その後を追って駆け出した。


 ▼ 87 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:10:14 ID:15fwOLrQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


いつもの教室に駆け込むと、教室には既にほとんどポケモンがいなかった。

どうやら皆、授業が終わるなり帰ってしまったらしい。



ニンフィア「ブラッキー君、帰っちゃったのかな……」



やや不安そうに見回すが、それらしき影は見えない。


……と、そこにエーフィがやってきた。



エーフィ「あ、サンダース……怪我大丈夫?」


サンダース「ん? ああ、怪我ならニンフィアが処置してくれたし大丈夫」



その答えにホッとしたようにニコッと……



エーフィ「流石、2匹は……」


ニンフィア「違うっ! って、それよりエーフィちゃん、ブラッキー君見てない?」


エーフィ「ブラッキー君? ああ、ついさっき荷物まとめて帰っちゃったわよ?」


サンダース「やっべ! 急ぐぞニンフィア!」


ニンフィア「わ、わかってるわよ!!」



2匹はカバンを咥えて走り出した。



エーフィ「……? 何かあるのかしら」


 ▼ 88 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:10:30 ID:mhMM0//w [1/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


階段を駆け下り、校舎を後に……


既に夕陽に染まりつつある空の下、2匹は校門を飛び出した。



サンダース「あいつの家は……こっちだ!」


ニンフィア「あ、待ってよ!」



上級生下級生、まばらに下校するポケモン達を避けて走るサンダース……ニンフィアも、そのあとを追う。


隣になんとか追いついて、ニンフィアはその横顔に投げかけた。



ニンフィア「……なんであんたがそんな必死になってるの? 脚だって怪我したところだし、もう激しい運動をしたらダメなんでしょ?」



サンダース「そんな事言われたって、彼女泣かせるオスがどこにいるってんだよ!」


ニンフィア「!」


サンダース「たとえ今日だけでも彼女なら……それに、手助けするって約束したしな! そんぐらいするっての!」


 ▼ 89 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:10:45 ID:jIsINq4Y [2/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



そう言った直後、サンダースはその場に立ち止まった……



サンダース「あぐっ……」



ニンフィア「ど、どうしたの!?」



サンダース「いってて……さっきの怪我が……」


激しく動き、傷口が開いたのだろう……ガーゼにジンワリと血液のシミが見えていた。


ニンフィア「だ、大丈夫……?」



心配そうなニンフィアに、サンダースはニッと笑って返した。



サンダース「大丈夫。それに……ほら」



サンダースが指した先……黒いポケモンが1匹歩いていた。



ニンフィア「ブラッキー君……」


サンダース「追いつけてよかった……それじゃ、俺ができるのはここまでだな」


 ▼ 90 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:11:00 ID:mMmcfAW2 [1/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


サンダースは、住宅地の横道へと歩き出した。



サンダース「後はお前次第だぜ。頑張ってチョコ渡せよ」



ニンフィア「……」



心配そうにカバンの奥を……そこに、結局ラッピングしなおせなかったチョコがあった。



サンダース「自信持てよ! そんな顔したら振られちまうぞ!」


ニンフィア「でも……」


サンダース「大丈夫だって言ってんだろ! お前は……お前はその、キレなかったら可愛いんだから」


ニンフィア「!」

 ▼ 91 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:11:17 ID:RM3U/JP6 NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

サンダース「俺が自信持ってお前の事勧めてるんだから大丈夫だ! それに、もしあいつがお前を振ったら俺がブラッキーの奴をぶん殴ってやるから!」



そう言ってケラケラ……いつものサンダースに、ニンフィアの緊張も自然とほどけていた。



ニンフィア「あんたの推薦ってのが、逆に不安なんだけど!」


サンダース「なっ!? そりゃひでぇよ……」



言い合い、お互いを見つめ……プッと吹き出す。



サンダース「それじゃ、また明日な!」


ニンフィア「うん。また明日!」



サンダースは住宅地を1匹、振り返らずに歩いて行った……



ニンフィア「……」



その背を見送ると、ニンフィアは再びブラッキーの背を……



遠ざかるその背を追いかけ、歩き出した。


 ▼ 92 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:11:34 ID:9xUQdg/M [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



高鳴る鼓動。それが反映されるかのように、段々とその脚も早足になる。



ニンフィア「(ブラッキー君……)」



ずっと片想いしていたその答えが、あと少しで決まろうとしていた。



ずっとずっと、まともに話す事すら叶わなかった、憧れの……




……




ニンフィア「……」




しかしその早足が、だんだんと……そして、立ち止まった。




ニンフィア「あれ……なんでだろ……」




立ち止まると、また黒い背が遠ざかる……胸がギュッと苦しくなる……



不思議な気持ちを胸に、ニンフィアは……その背をジッと見つめていたが……




ニンフィア「っ……」




何かを思い、強く地を蹴り駆け出した。




 ▼ 93 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:11:52 ID:MHpswKlI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




──



────





そうだ。




私はずっと、間違ってたんだ。



ずっと、知らなかったんだ。勘違いしてたんだ。




でも、今わかった。





これが、私の知らなかった、本当の……







────



──



 ▼ 94 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:12:11 ID:rLEc76EU [2/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



学校の側の河川敷……



夕闇空の下、サンダースが一匹で歩いていた。




サンダース「……」




空を見上げると、満足そうに微笑む……


ニンフィアの事を思い出す……きっと、うまく行っただろうと思うと少し寂しくて……でも、何故か嬉しかった。



サンダース「(大丈夫。お前ならうまくやれるっての)」



河川敷を歩く……冷たい風が吹き抜けると、サンダースは身を縮こませた。



サンダース「寒っ……ま、俺のダジャレより寒くねぇ……か」



呟いた直後、何処からか返事が返ってきた。




「そう? どっちもどっちだと思うけど」


 ▼ 95 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:12:27 ID:kCWgDJ8A [3/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




サンダース「!」



振り返る、そこにいるはずの無いニンフィアがいた。



ニンフィア「バレンタインにオスがこんな所で1匹……ぷっ、寂しい奴」



バカにしたように煽るニンフィア……サンダースは驚きを隠せない。



サンダース「えっ!? ま、まさか渡せなかったのか!? あんなに手伝ってやったのに……あっ……」



サンダースは前足をポンと叩く。



サンダース「もしかして、フラれ……」



バシィっ!!



言い切る前に、ニンフィアのリボンがサンダースを叩いた。

 ▼ 96 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:12:50 ID:mhMM0//w [2/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


サンダース「な、なんだよぉ……違うのかぁ? じゃあ、なんでお前こんな所に……」



叩かれて涙目、頬をさするサンダースの前に、ニンフィアは黙ってある物を差し出した。



サンダース「へ? これ……」



それは、包み紙をビリビリに乱暴に破られた、あのチョコレート……



サンダース「ちょっ、これどうした!? あいつに渡……」


ニンフィア「ばーか。勘違いしないでよね」



そうは言う物の、チョコと一緒に宛名の無い、直筆の愛のメッセージもいれたまま……



サンダース「でも」


ニンフィア「でもじゃない! さっさと食べてよ! 私が契約破棄したら、あんたがこれを食べる約束だったでしょっ!?」


そう言ってソッポを向いたニンフィアの頬は、少し赤く見えた。


 ▼ 97 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:13:05 ID:pv3QRb7E [2/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


サンダースはそれでも少しの間戸惑っていたが……やがて、チョコを箱から取り出して、それを齧った。



サンダース「……契約破棄ってなんだよ」



ニンフィアはチョコを頬張るサンダースの隣でポツリと……夕闇空を見上げながら呟いた。



ニンフィア「ブラッキー君の事、諦めてきたんだ」


サンダース「っ! なんで……」


ニンフィア「なんて言うか……私がブラッキー君を好きな理由がわかんなくなっちゃってさ」


サンダース「理由?」


ニンフィア「だって私、ブラッキー君とまともに喋った事も殆どないし、ブラッキー君の趣味とか性格とか何にも知らないし……私、ずっと見た目がカッコいいってだけで、好きでいた気がしてただけだったって今更気づいたの」

 ▼ 98 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:13:21 ID:mMmcfAW2 [2/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告

ニンフィア「きっと、見た目さえブラッキー君なら、どんなポケモンにも私は惚れていた。たとえ中身があんただろうと」



サンダース「……なんか失礼な言い方だな」



ニンフィア「外見に惚れただけ。一番大切な中身も知らずに……バカみたいでしょ?」



サンダース「……」




ニンフィア「どれだけ綺麗なチョコでも、不味かったなら最後まで食べられない。けど、どれだけ見た目がカッコ悪いぐちゃぐちゃのチョコでも……美味しかったら……」



ニンフィアがサンダースをチラと……



ニンフィア「ねぇ、私のチョコは……どっちだった?」



サンダースは、少し頬を染めながらポソっと……



サンダース「バカ舌の俺だから保証はできねぇけど、今日食った中で最高のチョコだ」



視線を合わせず遠くを見つめているその瞳に安心すると、ニンフィアは胸を撫で下ろした。


 ▼ 99 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:13:40 ID:mMmcfAW2 [3/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



サンダースはチョコを食べ終えると口を拭い、鞄をかけ直す。


そして、いつもの様に馬鹿げた笑い……で、無く……落ち着いた、おとなびたような静かな微笑みを返した。



サンダース「まぁとにかく、今日はありがとな。あいつとまた一緒にいたみたいで、嬉しかった」



そう言いながら、サンダースは薄暗い道を1匹歩き出す……



サンダース「じゃあな! 今日は楽しかったぜ! 俺の元カノ!」



数歩歩く……ニンフィアがすぐに呼び止めた。



ニンフィア「ちょっと待ってよ!」


 ▼ 100 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:13:56 ID:mMmcfAW2 [4/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


サンダースは、なんだよと言った顔で振り返る……



サンダース「あ? 何だ?」


ニンフィア「その……チョコ……」



見つめられ、すぐに目を逸らす……ニンフィアはいつもの強い口調が消えていた。



サンダース「え? これ義理なんだろ?」


ニンフィア「ち、違うの!」


サンダース「え? ま、まさか本命……?」


ニンフィア「そんなわけないでしょ!!!」


サンダース「なっ……じゃあなんだよ! これ!」



顔が熱い……パンク寸前のその頭。ぐちゃぐちゃにされたその頭で、ニンフィアは……




ニンフィア「とっ……友チョコだよ!!」



 ▼ 101 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:14:16 ID:GorEd3/E NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



サンダース「へ?」



突然のワードに、サンダースは首を傾げる……



ニンフィア「そ、その……あれ。えっと……友達から始めてみないって言ってるの!」



みるみる赤くなるニンフィアに、サンダースは何かを察して吹き出した。



サンダース「ぶっ! 何だそれ! 惚れたなら、素直に惚れたって言えよ!」



素早くリボンが鞭のようにサンダースの頬を叩いた。


バシィ!!



ニンフィア「はぁ!? 勘違いもいい加減にしなさいよ!? だーれがあんたみたいなバカに惚れると思ってるのよ!! あんたに惚れるのはアホかバカくらいよ!!」



サンダース「ほーん、じゃ、お前は相当アホでバカなんだな」

 ▼ 102 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:14:33 ID:jIsINq4Y [3/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


ニンフィア「ちっ、違う!!バカはあんた1匹で十分よ!!」



また、リボンがサンダースを襲う……



バシィ!!



サンダース「いてっ! じゃ、じゃあ俺がバカでお前がアホで……」



また、素早くリボンが……



ベシィっ!!



サンダース「いって! さっきから痛いって! それやめろ!」



そう言いながらも何処か嬉しそうなサンダース……


そして……


ニンフィア「やめるわけないでしょ! あんたが喧嘩売ってんだから!」


ニンフィアも、何処か楽しそうな……



 ▼ 103 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:14:52 ID:mhMM0//w [3/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



サンダース「っ!」



ハッと気づいた。今日一番輝いていた、ニンフィアの笑顔を見たサンダースの目に涙が薄く……





「(やっぱ、そっくりだ……俺の大好きだった、あいつの笑顔と)」
  




その涙をバレないように拭うと、ニンフィアに言い返す……ニンフィアも、負けじと言い返す。




言い合う声は夕闇空……星々の輝く空に響きわたっていた。




 ▼ 104 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:15:11 ID:pv3QRb7E [3/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


──



────



──────





これが、あの日のバレンタインデーの思い出。



とんでもない一日……あの日の事を忘れた事なんて、一度もない。


……


あの日、間違わずにちゃんとブラッキー君の机にチョコを入れていたらどうなったんだろう……



ふと、そう思う時がある。



けど、それでもあいつの隣にいる事に、不思議と満足してる私がいるのも確か。



あの日以前の私に、この事を伝えたらどんな顔をするだろう……




きっと、ありえないと……そうキツく言われてしまうだろうな……






──────



────



──
 ▼ 105 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:15:32 ID:mhMM0//w [4/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告









そうして、幾度のバレンタインデーが過ぎ去った。










 ▼ 106 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:15:50 ID:AWtM/K9M [3/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



いつかの時代、どこかの場所……



ある家のリビング、ソファに寝転がるのは……ニンフィア……



ニンフィア「……」



リビングのテレビに映るのは、バレンタインデー特集の番組……


色とりどり、大小様々な美味しそうなチョコを扱う番組を眺めながら、ニンフィアはあの日の事を思い出していた……



ニンフィア「本当、あの頃は……」



あの日の事……あのバレンタインデーの事を思い出す度に、何故か笑えてしまう……


悲しい思い出も、恥ずかしい思い出も……どんな思い出だって、きっとみんなそんな物だ。

 ▼ 107 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:16:06 ID:Uy/.ixW. [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



その時、リビングの扉が勢いよく開いた。



サンダース「たっだいまー! 今帰ったぜっ!」



ニンフィアは変わらないサンダースに、あの日の自分が上手く返せなかった笑顔を返した。



ニンフィア「おかえり!」



サンダースはニンフィアの隣に座ると、首に下げたカバンをあさり始める……



サンダース「そうそう! 今日バレンタインデーじゃん? お土産あるんだけど……ほい、プレゼント」
 


そう言ってサンダースがニンフィアのリボンに握らせたのは……チロルチョコ(コンビニサイズのコーヒーヌガー)



ニンフィア「は? チョコちっさ!」



サンダース「そう! チョコだけにちょこっとだけ! なんつって! ぎゃはは!」


 ▼ 108 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:16:29 ID:jIsINq4Y [4/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告




ニンフィア「……」




放心状態のニンフィア……しんと無言が続き、サンダースは少し焦る。




サンダース「……え、あれ? 怒ってる? そ、そんなつもりじゃ……ごめ」




ニンフィア「……ぷっ」



あまりのくだらなさに、後から笑いがこみ上げてきた。



ニンフィア「なにそれ!? しょうもな!」



ニンフィアはゲラゲラ笑いながら、サンダースの背中を叩く……



サンダース「いてっ! やめろって! ちゃんとしたチョコも別で買ってきてあるから! それ食おうぜっ!」


ニンフィア「うん!」


 ▼ 109 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:16:48 ID:rLEc76EU [3/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


──



────




こんな幸せを掴めたなら、あの日間違って良かったと心から思える。



あんなチョコレート1つで始まった、ジョークの様な関係……





それが、ジョークじゃない本当の関係になるなんて、誰も想像しなかっただろうな……






────



──

 ▼ 110 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:17:08 ID:9xUQdg/M [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


ニンフィア「おいしいね! このチョコ!」


サンダース「だろ? 仕事帰りに結構お高い店で並んで買って来たからな!」



そう言って、サンダースはあの日と同じ様に笑う……



ニンフィア「……」



その大好きな笑顔を前にニンフィアは、可愛らしくデコレーションされた小さな箱を、少し残念そうに……そっと……




あの日から変わらない、小さな背中に隠した。



 ▼ 111 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:17:26 ID:kCWgDJ8A [4/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


──



────




あなたは素直な気持ちを伝えてくれるのに、私はあの日からずっと……自分の気持ちを口にはできていない。


今年こそはと思ったけれど、やっぱり今更恥ずかしくて、今年も渡せそうに無いや……






ねぇ。あの日からずっと渡せてない、私からの本命のチョコ……







いつになったら、大好きなあなたに渡せるのかな。









おしまい。



 ▼ 112 ルバット越前◆85V6eM0Xe6 23/01/27 00:18:24 ID:IH2kqLa2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

企画用SSおわりおわりぃ。

最後まで読んでくれた人サンクスっすわぁ!!
バレンタインも、SS企画もどっちも楽しめぇ!!


乙乙乙ぅ! またどっかで!



おまけの落書きぇ!↓
 ▼ 113 ヤシガメ@イトケのみ 23/02/25 08:27:03 ID:PqkshqBk NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
いまさら読んだけどめちゃ面白かった!
メンバーなんとなく誰かわかったけど笑
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