▼  |  全表示159   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【バレンタインSS】命が惜しくば手段は一つ。バレンタインで金を獲れ!!

 ▼ 1 qKIfe0Ovo. 23/02/14 22:11:42 ID:ZU96OCuE [1/41] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
この世界に、カフェは何件あるだろう。
味に拘るもの。安さを突き詰めるもの。自然派に執着するもの。話題性を追い求めるもの。会社の数で言ったとしても、ゆうに万には及ぶだろう。
しかしその頂点が誰かと聞けば、恐らく答えは一致する。ガラル地方に本拠地を置き、全世界的にカフェ経営事業を営むグローバル企業。ヨシダコーヒーである。
通称はヨシコ。
総店舗数は3万5千。総従業員数は15万人。あまねく人々にフラペチーノと、Wifiと、SNS映えを提供を提供する、世界最大のカフェチェーン。

しかし、3万5千の全ての店舗が全て上手く行っているのかといえば、全くそんなことはない。企業間競争、流行の変動、周囲の環境、最近の気候。多くの要素が絡み合って、経営が苦しくなる。そういうこともある。
いくら技術があろうとも。いくら評判が良かろうと。それが金になるのかといえば、直結はしないのが商売だ。どれだけスタッフが集おうと。どれだけ待遇が良かろうと。それで従業員が統率できるのかといえば、簡単に纏まるわけがないのが人間だ。
上手くいかない店は上手くいかない。そして決まってそういう店の底には、どんよりとした空気が溜まっているものである。

つまるところ、この店舗もそうなのだ。
山の中腹、山道を30分程登ったところにぽつんと佇むヨシダコーヒー。店に至る方法は、1本の整備された公道以外には2、3本の険しい山道しかない店。とりあえず店の立地は最悪。
一応内部は掃除が行き届いていて清潔だし、商品の作成や受け渡しも比較的早い。Wifiとコンセントがちゃんとある点も評価できる。当然ちゃんとヨシコの味もする。
しかし何を差し置いてもまず、店に活気がないのだ。立地の都合店に人がいないのは仕方ないが、BGMすらろくに流さず、季節感の一つもなく、家具だって古い。おまけに店の奥の方で死んだ目の店員がパソコン仕事をしているのが丸見えなのだ。
実にどんよりとした店である。星2.0と言わざるを得ない。
星2.0』

うっわぁ。
メールフォームに届いた大長文を読み終えて、彼女は顔を手で覆った。何様だコイツは。
……お客様である。

彼女はいつメールが届いたかを確認した。5分前だ。奥まった仕事場から首を伸ばして、外の空間──店舗の中を確認する。
広くはないし、薄暗い店舗。どれだけ拭いてもそこはかとなく黒ずみの残るソファと机。自然光を取り入れるべく採用されたガラス貼りの壁越しには、木々の間に遊ぶ二十数匹のマメパトが見える程度。大長文の書く通り、確かに活気のない店だ。
そしてその店のど真ん中で、男が1人パソコンを立ち上げて、何やら作業に打ち込んでいた。間違いなく、彼があのクソみたいな大長文の送り主である。……見つめていたら目が合った。全力で口角を吊り上げて、満面の笑みを偽造してやる。

『星2.3』

うるさい。メールフォームを閉じた。
ついでにパソコンの電源も落とせば、暗転した画面に自分の顔が写り込む。
伸ばしっぱなしの金髪、隈の浮かんだ目元。そこそこには整った顔立ちの印象を塗り潰すほどに全面に疲れを浮かべた、そんな面構え。
思わずため息が漏れた。

彼女が、この店舗の店長だった。
名前をリアという。
 ▼ 120 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:37:07 ID:ZU96OCuE [2/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
マメパトの写真。どういうわけだか、胸元には看板がかかっている。文面は、

『マメパトヨシコでまた会おう』

とだけ。それからQRコード。
読んでみれば地図アプリに直結して、ちょうどリア達の店舗が表示されるようになっている。
そんな写真が。
何枚も。
何枚も。
何枚も。
1匹だけじゃない。電線に3匹並んでいる写真。噴水に10匹並んでいる写真。広場を埋め尽くす何百匹もの写真。その全員が、同じように、看板を提げている。

「何これぇっ!?」

最早気持ち悪いの域だ。悪質なコラージュ画像にも似ている。
何がどうしてそんなことに?
 ▼ 121 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:37:37 ID:ZU96OCuE [3/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
いや。
意味はわからないが、誰がやったかはわかりきっていた。あの、自称Webライターだの自称広告クリエイターだの適当に言っていた、あいつだ。間違いない。

『お疲れ様。テレビで見ていたが、流石だね。顔がいい。星4.4』

おお、いつになく高評価。
いや、そういう話ではなく。

『あれどうなってるんですか!? マメパトの画像がポケスタグラムに!!』
『プロモーションが上手くいったようで何よりだよ。顔が見られないのが残念だ』

やっぱりこいつの仕業だった。底の知れない不審者である。しかし、それも今は頼もしい。吹っ切れたら、こうも不審者が怖くなるなるモノなのか。

『今日から集計開始だよね? お互い頑張ろう』

最後に送られてきたのはそんな文。ふと気になってカレンダーを見る。
2月1日。

「……そっか」

そうだった。今日は2月1日。今日こそが2月1日。今日までも色々あったが、今日からが本番だ。
背後に人の気配を感じた。振り向けば、慣れ親しんだ部下が1人。

「お疲れ様です、店長」
「気合い入れていこう、これからもね!!」
 ▼ 122 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:38:01 ID:ZU96OCuE [4/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
───

それから数日。
今になって知ったことだが、『マメパトヨシコでまた会おう』とロントが打ち出したキャッチコピーは、あっという間に拡散されていた。だって、そのへんに飛んでいるマメパトのほぼ全員がそれを装着しているのだから、目に入らないわけがない。
勝手に広がる画像達、勝手に広がる話題性。最初は小さな波紋でも、次第に次第に膨れ上がるもの。その上でテレビまで宣伝に使ったのだから、集客は目に見えて増え始めた。

「やばい、こんなにお客様がいらっしゃるの初めて!! 私泣きそうです!!」
「まだ泣いちゃだめ!! まだ泣いちゃだめ!!」

注文を取りながら右往左往し、そうしながらアリスなどは鼻水を啜っている。奇跡が起きている。流れが来ている。そんな確信が間違いなくあった。
そんな営業の最中。

「お疲れ様です、リアさん」
「ドトウくん!!」

先日アーマーガアと共に墜落して大怪我を負ったドトウが、店の中にやってきた。腕には包帯を巻いているが、後遺症はなさそうだ。

「コーヒー1つお願いします」
「怪我は大丈夫? それに、アーマーガアも……」
 ▼ 123 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:38:21 ID:ZU96OCuE [5/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
聞いてみれば、彼はぐるぐると両肩を回してにへらと笑う。全快したというアピールだろうか。アーマーガアも回復したようで、店の外でマメパトと戯れている。

「無事でよかった」
「午後から復帰するんです。職場に」
「大丈夫なの?」
「アーマーガアが……俺はもう飛べる、って言ってくれた……気がしたんです。まだ働きたいって」

そう彼は言って、それから少し首を傾げて。

「いえ、違いますね……俺が働きたいんです」

そう訂正した。
誰かに言われるからではなく。自分の意思でここにいるのだと。
 ▼ 124 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:38:43 ID:ZU96OCuE [6/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「そういえば、これ。ハッピーバレンタインです」

どさり。
大袋が1つ、カウンターに置かれる。両腕で抱えられそうなサイズだ。

「まだバレンタインには早くない?」
「本社からハートスイーツ手当てが出たんですが、リアさん達のおかげで、とくに必要なかったんで。お返しします」

中身を見れば、確かにハートスイーツだ。それも業務用の未加工のもの。そういえば会社の福利厚生欄に、ハートスイーツ手当てとかあった気がしないでもない。

「ありがとう!!」
「今はたくさん必要ですもんね。チョコ、俺も買いに行きますよ。半休とって!!」
「予約ってことだね!! わかったわ!!」
 ▼ 125 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:39:18 ID:ZU96OCuE [7/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
じゃあ俺はこれで、と彼はコーヒー片手に店を出て、アーマーガアに飛び乗った。きっとこのまま、ヨシダコーヒーの倉庫に向かうのだろう。そうすれば、彼はまた職場の仲間だ。

「ああ、そうだ」

飛び立つ瞬間、彼はリアに振り向いて。目が合った。

「眼鏡、似合ってますね!!」
「ゴガアアアー!!」



「うーん、露骨」

飛び去る様を眺めながら、いつの間にか店先まで出てきていたアリスが、横でうんうんと腕組みをしている。
リアにはよくわからなかった。

「そうなの……?」
「そうなの……」
 ▼ 126 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:39:50 ID:ZU96OCuE [8/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
───



それから数日、ほぼほぼ毎日徹夜する羽目になった。何しろテレビでチョコ売りますと宣言してしまったので、最早売らないわけにはいかないのだ。
コンセプトは、ポケモンに感謝を伝えるチョコレート。リアがインタビューの中で思いつきで捻り出したコンセプトだったが、

『そもそもバレンタインにチョコを送ること自体、どっかの会社の思いつきだからね!! 思いつき万歳!!』

なんてメッセージも届いている。

「形どうしましょう?」
「ここまできたらマメパトしかありませんよ!! 今私達、世界一マメパトのことが好きな女子ですよ!!」
「女子って歳ではなくない?」
「女子って言えば女子になるんです!!」

そんなことを言いながら、チョコを試作し、自分で味見。チョコを試作し、自分で味見。ポケモンも人間も美味しく食べられるチョコでなければ、コンセプトにそぐわない。

「今年入ってから4kg太りました!!」
「私も!!」
「これ終わったらダイエットですね!!」

それでも試作を重ねに重ね。
2月13日の真夜中に、目標在庫数に到達した。
あとは明日、売るだけだ。
 ▼ 127 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:41:04 ID:ZU96OCuE [9/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
───



そして、2月14日。

──誰も来ない。
誰も、店にやってこない。

リアはまた時計を確認した。10時30分。変わらない。既に開店時間を30分過ぎているのに、誰も来ない。

「リア店長──」
「……」

隣に立つアリスも不安げだ。そわそわと、指を弄っている。
背後には、積み上げられたチョコレートの山。100人客が同時に来ても対応できるように、予め料理の用意だってしてある。
だが誰も来ない。
今までなら、この沈黙が普通だったが。しかし今は違う。違うはずなのである。なのに……
何か、トラブルが起こったのだろうか。

がらがら、がらん。
勢いよくドアの開く音が、ようやく一つ。

「いらっしゃ──
「大変大変!! 大変です!!」
──ドトウくん!?」

頬に汗を浮かべたドトウが、転がり込んできた音だった。

「大変です!! 公道がっ、崩れてます!! くずっ、崩されてます!!」
 ▼ 128 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:41:38 ID:ZU96OCuE [10/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



「これは──」

ドトウの報告の通り、確かに公道は使えなくなっていた。

「……酷い」

状況を確認しに来たリアとアリスが見たもの。山の上から転がり落ちてきた岩、砂、泥、そしてたくさんの木々。即ち土砂崩れ。
それらが道を埋めつくし、うず高く積み上がっている。土砂の向こうは見えず、向こうに誰かがいるのかまではわからない。
これでは、人が通れるわけがない。
しかしその前には、1人男が立っている。土砂崩れを押し止めようと思案するように──あるいは、リアを通すまいと立ち塞がるように。

「……貴方は」
「あはぁ、来たんですねぇ、店長さん」

ヨコシマ開発のクニエ。何度も店にやってきた、あの男。それがリアを見て、にやりと笑う。

「いやぁー、申し訳ありませぇん!! 工事の一環で、既に許可の降りた場所の地均し作業を行っていたんですがぁ、『うっかり道を崩してしまいましたぁ』!!」
 ▼ 129 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:42:00 ID:ZU96OCuE [11/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
嘘だ。明らかに、意図して道を塞いでいる。リアの素人目にも、それは直感的に理解できた。

「馬鹿言わないで!! 私達の邪魔したいんでしょ!! 最悪!!」
「……私達としても、こうするしかないんですよぉ。業務の一環ってものです」

アリスが目を剥けば、クニエもますます口角を吊り上げた。リアと交渉してきた今までよりも一段と、獣染みた笑みであった。

「何しろ、私達だって仕事ですからねぇ!! ここの土地を確保できないと、クライアントの要望に答えられない!!」
「だからって──」
「困るんですよぉ!! 今さら繁盛されるとぉ!!」

彼はそう声を張り、右腕を振り上げる。
どうやらそれは合図らしかった。土砂崩れのてっぺんがもごもごと揺れ、中からポケモンが一匹這い出してくる。
ズッシリとした図体、巨大な拳。ケケンカニだ。
 ▼ 130 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:42:23 ID:ZU96OCuE [12/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「 ケ ケ エ ン …… 」

土砂を押し退け、這い出す大蟹。体幹がしっかりしているからだろうか、声も重く響いている。それだけで、ポケモンバトルに疎いリアとしては身が縮む心持ちだ。

「ボチ、お願い」
「アリスちゃん……」

横のアリスの手からモンスターボールが転がり落ちて、ボチがその身を震わせる。戦うつもり、なのだろうか。
だが、明らかにレベルが違う。誰の目にも明らかだった。

「……ボフゥ……」
「ほう、ポケモン!! ポケモンを出したってことは、バトルをしようってことで、良いんですね? 私はいつでもやれますとも。そうでしょう、ケケンカニ」

土砂の真中に居座るケケンカニが、応とばかりに地面を殴れば、それだけでボチは怯んで立ち尽くす。敵わない。

「っ……」
「さあケケンカニ!! アイスハンマー!!」
「 ケ ケ ェ ン !! 」
「ボチ!! 一旦守っ──」

ずどん。
 ▼ 131 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:42:44 ID:ZU96OCuE [13/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
拳を振り下ろす、縦の一閃。
ボチへの指示すら間に合わないくらいの瞬く間に、ケケンカニは拳を振るい終えていた。
気づけば地面にはクレーターが刻まれていて、ボチはその中心で倒れ伏している。

「ボチ!!」

アリスが駆け寄って、ボチを抱き上げる。既に戦闘不能。身体が潰れていた。

「ああっ!! くそぅっ!! ちゃんとスクール、通えばよかったですかねぇ!?」
「深呼吸してアリスちゃん。空気が胸に入ってきて、出ていくのを意識するの。リラックス」
「すぅぅぅぅぅっ!!」

彼女が激昂するのも最もだ。ボチというポケモンがゴーストタイプで、不定形の魂を本質とする生き物だからよかったものの、そうでなければ死んでいた。やりすぎだ。
いや、やりすぎといえば、この状況自体。

「大体これは、仕事以前に!! 違法行為じゃないですか!?」
 ▼ 132 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:43:07 ID:ZU96OCuE [14/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
リアが思い至るのと同時に、アリスがそう糾弾していた。その通りだ。道路を破壊したのだから、普通に犯罪だ。疑いの余地はなく、言い逃れなどしようがない。
するとクニエの方は、むしろその質問を待っていたとばかりに、ますます愉しげに両腕を広げて。

「ああ、そうだ。ちょっと面白い話があるんです」

絶対面白くない。

「ウチの会社は、賠償金が経費で落ちるんですよ」
「……なんて?」

賠償金が? 経費で?
つまり何が言いたい?
まさか……何をやっても補填されるので、何でもやります、と?

次の瞬間。
山の頂上で、炸裂音が響いた。
 ▼ 133 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:43:37 ID:ZU96OCuE [15/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ダァン。
炸裂音。とんでもない音量だ。空気がびりりと震えた気がした。

「あ、あれ──」

指差すアリスの、その先では。
岩と、土と、木々と……何もかもが、転がり落ちていた。その全てが、こちらに向かって。
轟音を立て。
山肌を巻き込み。
大きくなりながら。
転がり。転がり。転がり落ちる。

「また、くる──」

恐怖で脚が硬直して、それでも頭はどこか冷静で。そういうことか、と得心がいった。土地開発が仕事なのだから、発破をかけて土砂崩れを起こすなんて、簡単なんだ。
だからこうして。
土砂崩れで人間を押し流すことだって。

迫ってくる。
迫ってくる。
迫ってくる。
山が、山が、2人を殺す──



「突っ込めェッ!!!! アーマーガアッ!!!!」
「ゴガガガガガガガガガッッァアッ!!!!」
 ▼ 134 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:44:10 ID:ZU96OCuE [16/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
銀の輝きが、山を刺した。
アーマーガアだ。
両翼を広げててっぺきを展開したアーマーガアが、土砂崩れを押さえ込んでいる。背中に乗せたトレーナー諸共に、破壊を押さえ込んでいる。

「頑張れぇぁあああああ!!!!」
「ガガガガガガガガガガガガッ!!!!」

翼から漏れた石が幾つか、からからと道まで転がり落ちた。それに紛れて、ヨシダコーヒーのコンテナも1つ。

「あれってやっぱり!!」
「ドトウくん──!!」

轟音はまだ響く。ぐらぐらと山は揺れている。
しかし確かに彼らによって、土砂崩れの勢いは削れていく。
減衰していく。
押さえ込まれる。
だが。

「たった一度を止めたとてぇ、大した問題じゃあない!! まだまだぁ仕込みはしてあります!!」

直後、また爆発音。
ばん、ばん、ばん、ばん。
もう一度、くる。
 ▼ 135 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:44:46 ID:ZU96OCuE [17/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「さあ、第3波ですよぉ!!」
「っまた!! 店長、逃げないと!!」
「でもドトウくんが……」

再び山の真上を仰ぎ見れば──上空で、炎が弾けている。まるで花火だ。

土砂崩れは、起こらない。

「……あれ?」
「爆発、もうしましたよね?」

想定外の、何かが起こっていた。

「……おいマキド、どうした。手筈と違うぞ。なんで、爆薬を打ち上げた? マキド?」
『ザ──ザ──クニエさんっ──ザたすけザザ──』
「マキド!? 何があった!?」
『ザ──ポケモザザ──襲──』

何かが起こった。横でクニエが握るトランシーバーでの会話内容は、あまり聞こえなかったが。何かが起きたことは理解できる。
誰かが、土砂崩れを妨害したのだ。それが誰なのかはわからないが、とにかく、このクニエという男の仕事を妨害したのだ。
そのクニエは首をごきりと鳴らして、ふはぁと大きく息を吐いて。

「……ケケンカニ」
「 ケ ェ ン ? 」
「人間を殴ったことはありますか?」
 ▼ 136 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:45:10 ID:ZU96OCuE [18/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ケケンカニは、目を見開いて首を振った。

「ない。でしょうねぇ、私はそんなことさせませんでしたから。これが、一回目ですねぇ」
「 ケ ッ …… 」

明らかにケケンカニも困惑している。しかし、命令されれば従うだろう。首を振りながらではあるが、ケケンカニは既に拳を握っている。何よりクニエが、既にリアに狙いを定めている。
息を飲んだ。一瞬で、あの拳はこちらを押し潰す──

「ケケンカニィ!! アイスハンマーッ!!」

来る。



身構えて、衝撃を覚悟して──10秒が経った。
まだ、衝撃は来ない。
リアはゆっくりと、顔を上げて。

「──え?」

眼を疑った。
道の真ん中に、影が1つ。
ケケンカニではない。人間だ。男の姿。眼を疑わずにはいられない。男だ。あの男だ。Webライターのロントだ。
訳が分からないが、何が起こったのかはわかる。彼は即座にリアの前に割り込んで、ケケンカニの顔面に、クロスカウンターを捩じ込んだのだ。
 ▼ 137 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:45:45 ID:ZU96OCuE [19/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
吹き飛んだケケンカニは、既に土砂にめり込んでいた。ドサドサと岩が転がり落ちる。一撃で気絶だ。
驚異的な腕力。イカサマ染みた強さだった。

「ケケンカニ……はっ、はああっ……!?」

訳がわからない。そう表現するしかない。クニエとしてもそうだったし、リア達だってそうだった。

「あれって、あれってロントさんですか、店長?」
「そうにしか、見えないけど……ええ?」

そして2人に挟まれて、男は手をふりふりと払っていた。

「……」

相変わらず何も言わず、今はスマホすら弄りはせず。ただ、ケケンカニを吹き飛ばした方向を見つめて。
その姿が、徐々にぼやけていく。ぶれていく。歪んでいく。滲んでいく。

正体が、明らかになる。

黒い肢体。赤いたてがみ。翡翠の瞳。
それは、人間の特徴ではなく。

「……ゾロアークだ」

イカサマ染みた強さ、ではない。
そもそも『イカサマ』だ。
 ▼ 138 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:46:12 ID:ZU96OCuE [20/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「ゾロアーク……? えっ、ゾロアーク!?」
「わあっ、私ゾロアーク初めて見ました店長!! あれですよね、なんか化けるやつ!!」

眼前のポケモンに凍りつくリアの耳に、ざりざりとした音が飛び込んでくる。
山の上からだ。目を向ければ何人か、山を駆け降りてきているのが見えた。恐らくクニエの部下だろう。額に汗を滲ませたそれらは、道の真ん中のゾロアークを見て、瞬時に顔を引きつらせる。

「あいつッ!! この前、俺のデカヌチャンのハンマーに落書きしやがったクソ狐です!! おかげでアイツ、全然仕事しなくなっちまってよお!!」
「今だって!! あいつがなんか沢山ポケモン引き連れてきて、爆破作業をめちゃくちゃに!! 重機も壊されて!!」
「へぇぇ……私達の仕事を……あれがぁ……」

リアは、まだ状況を飲み込めない。
ゾロアーク? つまりそれは、ポケモンだ。そんなことが本当にあるのか?
だって、あの男に、おかしなところはあっただろうか。

あのクソみたいなレビューに始まり。
2階に不法侵入したり。
音もなく事務所に現れたり。
常にホワイトボードやメールで会話したり。
異様な速度で店を修繕したり。
妙に手際よくアーマーガアを治療したり。
何故かマメパトに対して唸っていたり。
どうやったのかマメパトに店を大規模に宣伝させたり。
そして今は、ポケモンを大量に引き連れて、爆破を妨害していたと。

「おかしなところしかなかったッ──!!」
 ▼ 139 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:46:37 ID:ZU96OCuE [21/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「ギガイアス。仕事の時間です。ロックブラストの用意」
「 ギ 、チ 、チ 」

そんなクニエの声と共に、モンスターボールが弾ける音がした。彼の2匹目なのであろう、ギガイアスが静かに唸りを上げる。

「我々はぁ、仕事でやっているんだ。山の狐には、人間様の労働は理解できないだろうがねぇ」

やはりこちらも見るからに練度が高い。並のポケモンなら一撃だろう。ギチギチと、岩が絞り上げられる音がする。ロックブラストが、既に準備されている。

「発生した損失は、その命で償っていただこう。仕事は、命より重い」



『奇遇だね。僕も仕事でやってるんだよ』

そんな声が、それに答えた。
 ▼ 140 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:46:58 ID:ZU96OCuE [22/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
特徴的な声だった。テキストを読み上げる、機械音声だ。道の中央──ゾロアークの手元から、発生している。
以前アリスがロントに、文章読み上げアプリの使い方を教えていたことを思い出した。覚えたのか。

「ほう、仕事? 獣に?」
『工場開発を止めろって、この山の住民から依頼を受けていてね』
「へぇ……私はこの業界でもう何年もやってますが、そんな話は初耳だぁ。証拠とか、あるんですかぁ?」

まだ、ギガイアスは構えたままだ。いつでも撃てると。殺してやろうと。即ちそれが、クニエの意思でもある。
それを前にしてもなお、ゾロアークは狼狽えることはなく。

『証明しよう』

次の瞬間。
彼は、高らかに吠えた。
 ▼ 141 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:47:19 ID:ZU96OCuE [23/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「っ──」

とおぼえ、いや、バークアウトだろうか。顔をしかめずにはいられない程の音量だ。大声が広がり、山に響いていく。響いていく。響いていく。
そして──その声は、1つではないのである。
声に声が重なる。声が増えていく。声が呼応する。ゾロアークを起点として、増えていく。増えていく。増えていく。

「遠吠えが……」
「凄い、山全体から、いっぱい聞こえる……!!」

こだまする。こだまする。山を揺るがす声の群れ。確かにそれは証明だった。抵抗の意思の証明だった。
クニエはそれらの、全てを聞いて。

「……やれやれ、私も運がない。久々に、愉快で有意義な建設事業がやれるかと、楽しみにしていたのですがぁ……」

ゆっくりと頭を振り。

「──撤退!!」
 ▼ 142 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:47:42 ID:ZU96OCuE [24/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
撤退。
クニエはそう叫ぶのと同時に、一瞬で身支度を整えた。ギガイアスをボールに戻し、部下と連携を取り、山道を滑り落ちて、リアの視界から消えた。

「撤退!! 聞こえますかぁ、撤退します!! 全員下山し、入山ポイント1号に集合すること!! 設備は放棄!! 即刻下山です!! 報告は私がします!! 撤退!! 撤退で──」

そんな声が、滑り落ちて聞こえなくなるまで、およそ40秒。同様に山の上からも、いくらか何かが滑り落ちる音がして、やはり消えた。

危機は去った。

「い……いなくなりました」
「……皆、切り替えが早いのねぇ……」
 ▼ 143 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:48:15 ID:ZU96OCuE [25/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



クニエらが去って。道にはリアと、アリスと、ゾロアークと。それから道を塞ぐ大量の土砂が残された。

「ポ、ケ、モン……ですよね?」
『まあね』

文を読み上げさせながら、ゾロアークはスマホを見せつける。ここ暫くで見慣れた端末。間違いなくロントの使っていたものだ。
まさか、今日までずっと化かされていたとは。

『ビックリした?』
「もちろん!! っていうか酷くないですか? 1ヶ月一緒に働いてたのに!! ねえ店長」
「まあ明らかにおかしかったものね、色々と……」

逆に生身の人間が、あれだけの異常行動をやれることの方がおかしいのだ。もちろん驚いてはいるのだが、リアは案外納得していた。

がらがら、がら。
山の方で、また音がした。岩がゆっくりと崩れる音だ。砂ぼこりが微かに上がって、それが晴れれば。

「はぁ、はぁ……お疲れ様です」

ドトウが1人で立っていた。さっきアーマーガアと共に土砂崩れに激突し、その勢いを殺しきったのだ。

「ドトウくん大丈夫!?」
「俺は平気です……アーマーガアは、キツかったみたいですけど」

そう言いながら、彼は手の内のモンスターボールを見せる。彼同様に、ボールも大分砂埃を被ってしまっている。きっと暫くは、飛ぶこともできないだろう。

「後で始末書書くの手伝ってください」

そう冗談めかして言ってはいるが、彼の服にはまた血が滲んでいた。足元もふらついている。病院通いになることだろう。
それでも笑っている。今度は、ちゃんと笑い返せた。
 ▼ 144 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:48:36 ID:ZU96OCuE [26/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
『ナイスアシストだったねドトウくん。星4.8』
「えっ!? なに!? だれ!? どなたさま!?」
『おっと、失礼』

ゾロアークは自分のたてがみに手を突っ込んで、写真を1枚引き抜いた。男の写真だ。獣はその写真を見つめて、男の姿にさらりと化ける。リアにとっても見慣れた姿、自称Webライターにして自称広告クリエイター、ロントの姿だ。

『僕だよ、僕僕』
「あっ、ああ!! ロントさん!! この前はお世話になりました!!」

ドトウもその姿を見るや否や姿勢を正して、綺麗に一礼してみせた。
リアに言わせれば、その姿は誰をパクったんだとか、戸籍どうなってるんだとか、突っ込みどころだらけのような気がするのだが。
若い子は適応力が高い。
 ▼ 145 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:49:15 ID:ZU96OCuE [27/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「っていうか、今はそれどころじゃないんだった!! 店長!!」

確かにそうだ。それどころではない。
アリスに言われて我に返る。あくまで元凶が去っただけ、問題は据え置きだ。
再び道に目を向ける。土砂崩れがあると、お客様が通れない。

「ドトウくん、もうお客様いらっしゃってた?」
「道の向こうにですね? さっき見たときは何人かいらっしゃいました。土砂崩れで、立ち往生はしてましたけど」
「やっぱり……」

やっぱり、お客様は来てくれていた。通れなかっただけだ。今もこの向こうで、誰かがチョコを待っている。


「ロントさん、さっきみたいなポケモンパワーで、何とかなりませんか? こう、はかいこうせん!! とか……」
『この土砂崩れは、僕にもどうにもできない。重機、残しておけばよかったね』

音声はそう答える。スマホを持つ本人も、目を閉じ首を振っていた。

『ごめん。これを全部どかせるポケモンは、ここにはいない。残念だけど諦めよう』
「そんな……」

土砂崩れを排除する手段はない。道を復活させる手段はない。向こうにいる人に届かない。
もう手の打ちようがない。

リアはきっと、そう言っていただろう。──今までのリアなら、だ。

「駄目です」

今は違う。
今は違う。
今のリアには覚悟がある。好きなように働くという覚悟がある。

「この土砂崩れの向こうには、私達のお店を待っている、お客さんがいるんです」

土砂の上を這いつくばってでも。道なき斜面をよじ登ってでも。この仕事は達成しなければ。お客様に応えなければ。

「だったら今日だけでも、行かなくちゃ!!」
「リア店長──!!」

だって今日は、バレンタインデーだ。
 ▼ 146 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:49:49 ID:ZU96OCuE [28/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
次の瞬間、がさり、と茂みが揺れる音がした。気づけば既に、ロントがいない。代わりに地面に、ホワイトボードが転がっている。

『わかった』

とだけ書かれていた。
拾い上げて、読み上げて、またその直後。
再び茂みが大きく揺れて、男の姿が戻ってくる。

「ロントさん!!」
『思ったよりも近くにいたよ』

そして続いて、がさがさ、がさり。
まだ茂みは揺れている。まだ誰かがやってきている。それも1匹じゃない。何匹もだ。
茶色いボディ。筋肉を象るピンクのライン。つやつやとした鼻。何より、ずしりと担いだ巨大な丸太。
この山における、一番の大工。

「ドッコラー……!!」


『彼らと話をつけてきた、今から30分で橋を立てる。不安定な足場に作るから、安全の都合上今日だけしか使えないけど。それでも、出来合いの商品くらいなら売れるはずだ』

そんなメッセージが、スマホに入った。確かにドッコラー達は既にやる気満々のようで、巨大な丸太を各々に何本も担いでいる。
ならば。橋がかかる。出来合いの商品が売れる。それならば、今リアに出来ることは何がある。

「っ、チョコ!!」

そう、チョコを売ることだ。だってあんなにあるのだから。テイクアウトができるように、ちゃんと包装しているのだから。

「持ってきます!! アリスちゃん!!」
「はい!! 行きます!!」

店舗に戻れば在庫がある。リアカーもある。チョコレートを積み込めば、土砂崩れを越えてチョコを売れる。必要な人に手渡せる。
まだ間に合う。まだ足掻ける。

「そうだリアさん!! これ!!」

駆け出した背中に、何かが当たった。それからかろん、と軽い音。

「俺ので良ければ、使ってください!!」

黄色い筒。本来はアーマーガアの着陸や、上空でのコミュニケーションに用いる道具。
メガホンだ。
 ▼ 147 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:50:43 ID:ZU96OCuE [29/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
走る。走る。
走る。走る。

店舗にとんぼ返りし、リアカーにチョコを積む。レジスターを積む。CLOSEの立て看板に紙を張り付け、『最後尾』と書き付けてやはり積み込む。
スカーフを巻き直し、帽子を被り直し。ポニーテールを整えて、メガホンを小脇に抱える。

「準備完了、アリスちゃんは!?」
「完璧です!! 行けます!!」

走る。走る。
走る。走る。

土砂崩れまでボルトチェンジ。リアカーをガタガタ揺らし、砂利を撥ね飛ばして走る。ライドポケモン用の重包装なら、この程度の振動はわけもない。
突如スマホがビリリと揺れる。

「どうしましたかぁ!!」
『やあリア君、CHROのミツマルだ。突然だが朗報だよ、以前話した本社異動の件だが、空席が最近増えていてね。今すぐにこちらに──』
「今良いところなんですっ!! お話はお断りします!! 失礼します!!」

叩き切った。そんな話どうでもいい、将来なんてどうでもいい。だって、将来を考えても楽しくない!!


走る。走る。
走る。走る。

土砂崩れが見える。ドッコラー達が見える。土砂崩れには丸太が積まれ、板が敷かれ、確かにそこに道がある。

「突っ込むよ!!」
「はい!!」

勢いをそのままに、即席の橋を駆け上がる。足元がぐらつく、泥が跳ねる、しかし足元に迷いはない。橋の向こうには太陽が見える。
全身を襲う疲労が心地よい。頬を撫でる風が心地よい。仕事をしているという実感が心地よい。生きているという実感が心地よい。

今なら胸を張って言えよう。
人生って最高に楽しい!!

「ハッピーバレンタインーっ!! お待たせしましたぁぁあーっ!!」
 ▼ 148 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:51:20 ID:ZU96OCuE [30/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



午後8時。撤収完了。
リアカーを片付け終えて、リアは大きく伸びをした。チョコはほぼほぼ売り終えて、残った分は帰り道に皆で食べた。想定外の販売形態になってしまったが、期待以上の売り上げも出た。

「良かった、良かった」

そう言いながら、もう一度伸び。
事務所を出て、店を見回す。アリスは椅子に座り込んでいるし、ゾロアークは壁にもたれていた。ドトウは既に病院だ。

「じゃあ、帰ろうか」

そうリアは呟いて、玄関の方を片付けに向かって。そこで、思い出した。

「……そうだったね」

店の外に、泥だらけのドッコラーが並んでいる。行儀がいいので、思わずくすりと笑みが漏れた。ああ、そういう約束だった。


「ドッコラー!! ドッコラーがたくさん来てますね店長!! うわっ、揃って戦士の顔つき!! イケメン!!」
『橋を作ってくれた皆だよ。実はこの店の改造にも協力してもらった。おいしいパンケーキを出してほしい』

ゾロアークに言われるまでもなく、彼らを店に招き入れた。功労者には報酬が必要だ、とゾロアークは言う。

「ああっ、ハーデリアとか、ミルホッグとか、いっぱい来ました!! でも皆傷だらけで……」
『山のてっぺんで作業員と殴り合ってくれた皆だよ。応急手当はしてあるから、今は栄養補給が必要だ。カラフルなパンケーキをお願い』

ゾロアークがそう言うので、彼らを店に招き入れた。功労者には報酬が必要だ、と彼は言う。

「マメパト!! マメパトがいっぱい戻ってきました!! すごい数!! 今までどこ行ってたの!?」
『広告塔をやってもらっていた皆だね。完璧な仕事だった。山ほどのパンケーキをついばんでもらおう』

ゾロアークがそう言うので、彼らを店に招き入れた。功労者には報酬が必要だ、と彼は言う。

「功労者いっぱいですね!?」
『いっぱいなんだよ、本当に』
 ▼ 149 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:51:53 ID:ZU96OCuE [31/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
全員に料理を出し終えたリアは、マメパトの1羽から譲り受けた広告を読んでいた。
マメパトカフェでまた会おう。
どうしてポケモンに広告塔なんてやらせられるのか疑問だったが。なるほどマメパトと会話が出来るのだから、こんな広告も打てるだろう。謎が1つ解けた。

「ズルくありません?」
『僕を雇った君の勝ちってことだよ』

席の向かいに座っているゾロアークは、満足げにパンケーキを齧っている。

「ロントさんは、」
『それ偽名』
「……ゾロアークは、何が目的でここに来てたんですか? そりゃあ、私からお給料は払うわけですが、それ以外にも何か、あるんでしょう?」
『まあね』

スマホを片手で弄りながら、彼は今度は紅茶を飲んだ。カタチは人間とは違うが、所作は全く人間のそれだ。きっと長いこと、人間をやっているのだろう。


『最初に、この山を守れって依頼を住民達から受けたんだ。でも今回は、化学工場を作りたい大企業が絡んでる。ただ現場の作業員を追い出しても終わらない』
「確かに、そうです。また次の作業員が雇われてくる」
『だから、開発計画そのものを頓挫させる必要があった。それに丁度良かったのが、この店で
ね』

コン、とゾロアークは机を叩く。青い瞳は愉しげで、なんともいたずらっぽい印象だ。

『化学工場が造りたければ、この店の土地を手に入れなくちゃいけない。逆に言えば、この店が立ち直れば、開発計画はご破算だ』
「だから、この店を立て直すために、ここに?」
『そういうこと。……まあ、当初の計画のようにはいかなかったけどね。でも多分、開発計画は潰せたと思うよ。あれだけ派手にやったからね。任務完了だ』

まあ、確かに。あのクリエの逃げる様を思い出せば、もう戻ってはこなさそうだ。リアは頷いて、しかし引っ掛かりも覚えて。
 ▼ 150 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:52:20 ID:ZU96OCuE [32/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「でもゾロアーク」
『なに?』
「その計画だと、この店は残ることになるけど、それは良いんですか? 人間の建物、全部無い方が、野生のポケモンには嬉しいんじゃ?」

山の中腹にこんな店があって、人間がいっぱい訪ねてくるのは、それは大丈夫なのか、と。
そう聞いてみれば、ゾロアークはフンと鼻を鳴らして、にやりと笑って。

『今のお店見てみなよ』

そう両手を広げるのだった。
リアは促されるまま立ち上がり、店をぐるりと見回して。
ドッコラーが両脚を伸ばして寛いでいる。
ハーデリアがうとうとと目を閉じている。
マメパトが整列してパンケーキに顔を埋めている。
人間と変わらない賑わいが、ここにあった。

『こういうところは、あっても良いんだ。僕らも都合が良い生き物だからね。人間と同じだ』
 ▼ 151 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:52:59 ID:ZU96OCuE [33/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ドッコラー。ハーデリア。マメパト。たくさんのポケモンに食事を振る舞うのは、中々楽しい時間だった。今までポケモンを相棒にしたことがないリアでさえ、ふと寂しさを覚えたほどだ。
しかしそんな時間であろうと、片付けまで全部終えてしまえばおしまいだ。そうなればようやく一息つけて──一息つけば、現実が目の前にある。

「あーあ……終わっちゃいましたねぇ、バレンタイン……」

楽しい仕事は、終わってしまった。

ドッコラー製の橋は、15日を待つまでもなく、日暮れ頃には自然と崩れてしまった。むしろ開業中は耐えたことが偉業なのである。それ程に酷い土砂崩れだった。
行政の発表によると、公道の復旧まで1ヶ月はかかる見通しらしい。いくら他の林道や、鳥ポケモンといった来訪手段があるとはいえども、これでは新規客は期待しようがない。

つまりは、ゲームオーバーだ。

「そうねえ。終わっちゃったね、バレンタイン」
「はい……」

きっとアリスはまだ、まだ諦めていないと言えるのだろう。しかし現実問題、今まで練り上げてきたプランは、ほぼほぼ台無しになってしまった。
リアもアリスも、それは痛いほど解っている。

「外の掃除、してきますね」

だから、アリスがそう言って席を立つのを止めなかった。祭りのような喧騒が過ぎ、既に真っ暗な庭先は、掃除も何もないような暗さなのだが。それでも、1人の時間も大切だ。

『あの娘が不安かい』

手元のスマホに、そんな文字が浮かぶ。リアは小さく頷いた。

『でもよくよく見たら、君も泣きそうじゃないか。可愛い子の泣き顔は絵になるね。星4.0』
「人間性どこかに落としたんですか?」
『元から持ってないよ、ポケモンだもの』

そうやって、軽口は叩いているが。
実際リアも驚いていた。人材育成業務で何度か泣き落としを試みたことはあったが、まさか本当に、涙を流せる機能が生きていたとは。最後に泣いたのはいつのことだっただろう。
そうか。私は、まだ泣けるんだ。

一陣の風が吹き込んだ。きっとアリスも夜のどこかで、1人静かに泣いている。

「店長ぉーッ!!」
「あら、まだ元気」

そんなことはなかった。
 ▼ 152 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:53:36 ID:ZU96OCuE [34/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「なんかっ、なんかいっぱい来ました!!」

言われるままに懐中電灯で照らしてみれば、ヤナップだのバオップだのヒヤップだの、小柄なポケモンが群れなしてこちらを眺めている。

『特に何もやってないけど、この山に住んでいるポケモン達だね。多分、ドッコラー達から話を聞いたのかな』

スマホにはそんなメッセージ。
これだけ開放的なのだから、パンケーキの匂いが外に溢れるのも当然だ。これだけ美味しいのだから、ポケモンが寄ってくるのは当然だ。

「店長!! この子達、どうしましょうかっ!?」

ゾロアークと、目が合った。
星5つの笑顔を返してやった。

「入れてあげましょう!! まだまだ材料残ってるし、このまま取っておいてももったいないしね!!」

時計の短針が、また1周する。
あちらの客にパンケーキを出し、こちらの客にパンケーキを出し。出したところで、何ら利益は発生しない。一銭にもなりはしない。

「お待たせしました!! パンケーキ!! どうぞ!!」
「「ウキャア!!」」

それでも、この仕事は楽しいのだ。あまり他人に理解される趣味でもないが、楽しいものは楽しいのだ。

才能の有無ではない。

そんなことを考えながら、リアはまたパンケーキを焼き上げに向かう。

「ウキ」

その途中で、裾を引かれた。

「どうしましたか?」

振り向けばヤナップが、リアに向かって手を差しのべている。掌の上には、金色の何かが1つ。

「あれ、なにこれ?」

最初は硬貨かと思ったが、どうやら違うものらしい。拾い上げて観察すれば、金色の、丸っこい、木の実といった感じである。

「ゾロアーク、これ何かわかります?」
『ああ、これ綺麗だよね。どこかしらで拾える木の実らしいよ』
「木の実」
『金色が綺麗だから、好きな奴は集めてるんだ。お金の真似事のつもりかもしれない。良いセンスだね』
「可愛いですね、それは」

殻はツルリと滑らかに堅く、ポケモンが価値がありそうだと思うのも無理からぬ印象を受けた。
しかし、珍しかろうと綺麗だろうと、結局は木の実。これでは、採算などとても──

「ちょっと、わしにも見せてくれないか」
 ▼ 153 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:53:57 ID:ZU96OCuE [35/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「うわっ、コメタさん!!」

声に振り向けば、コメタが眠そうな眼を擦っていた。いつの間にここまで来た?というか、今さら来たのか? 午後9時も回ったのに?

「すまんのう、いつもの道も、さっきまで通行止めにされとったんじゃ。ようやく来れた。しかし──」

リアの思考を他所に、コメタは木の実をつまみ上げた。上から見たり下から見たり。虫眼鏡で細部を見たり、火で軽く炙ってみたり。
何をやっているのかはわからないが、老人の瞳孔が次第に開いていくのは見てとれた。怖い。

「コメタさん?」
「どうしたの、おじいちゃん?」
『何かあった?』
「──わしとしても、にわかには信じられんが。まさか、これは」

そう、彼は言葉を区切って。

「店長さん。収入が多ければ、コンテストには勝てるんですね?」
「……基本的には」

少年のように、いたずらっぽく笑って見せた。

「ならばこの勝負は、わしらの勝ちだ」
 ▼ 154 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:54:26 ID:ZU96OCuE [36/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
───



『ありがとうございました!! 最優秀賞はチーム・シルビィ!! シュートシティ店でした!! 皆様拍手を!!』

2月が明けて、3月半ば。
最優秀賞は、取れなかった。リア達は他のコンテスト参加者同様に本社ホールに召集され、舞台の上を眺めている。
ガラル。カントー。パルデア。アローラ。世界各地の名店舗が名前を連ね、表彰台に召し上げられて、惜しみなく拍手を注がれる。そして各々の願いを叶えられる権利を得る。
あるものはボーナスを望み、あるものは設備を望み、あるものは休暇を望み。その全てが果たされる。
リア達は、下からそれを見上げている。

最優秀賞は、取れなかった。


『そして最後に特別賞!! チーム・リア!! 壇上に上がってください!!』


今回の結果を受けて急遽増設された、特別賞に選出されたからだ。
 ▼ 155 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:54:42 ID:ZU96OCuE [37/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
全ては、あのバレンタインの真夜中に遡る。鍵となったのは、あの金色の木の実。

『ぼんぐり、というのは知っているかい』
『えーと……丸い木の実ですよね?』
『間違ってはいないのう。ぼんぐりは、モンスターボールの材料だ。そしてこれは──』

コメタ曰く。あの木の実はモンスターボールの材料、ぼんぐりの変種……どんぐり。多少変形こそあるが加工によってボールに使える丸さになり、しかもその金色を構成する成分ならば多種多様なモンスターボールを作成できるとのこと。

『つまりはこれは金の卵。いや──金のどんぐり!!』
『金の、どんぐり?』
『そう。これさえあれば、希少なボールの生産が容易に可能。どれ、1つ作ってみよう』
『……えっ、今、ここで?』
『妻の日記にもあったろう。わしの昔の仕事場──シルフカンパニーは、モンスターボール生産の最大手だ』

そんなことを言いながら、ムーンボールだの、スピードボールだのを造りまくる様には、そんなのアリ? と声が漏れたが。これだって、努力が手繰り寄せた奇跡だった。
 ▼ 156 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:55:21 ID:ZU96OCuE [38/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
『これまで人間の手では発見できなかった万能素材、金のどんぐりの発見。そしてその交易ルートの確立。お客様がほぼ来店できなくなる不運に見舞われながらも利益を上げたビジネスモデルは、まさしく異端!! 故に今回、特別賞が授与される運びとなりました!!』

紹介と共に、スポットライトがリアを照らした。周囲から拍手が沸き上がり、壇上へと促される。
リアは席を立ち、同時にアリスを引き上げた。2人で揃って、階段を登る。

『ミツマルCHROからトロフィーと、お言葉が進呈されます!!』

演台の前に立つ。今までは電話越しの存在だったミツマルが、トロフィーを持ってリアに笑いかけていた。

「君達のお陰で、新たにモンスターボール製造に携わる多くの企業とのコネクションが形成された。我々ヨシダコーヒーは単なる世界的カフェから、より広い規模に影響を与えられる企業に成長するだろう。心から、健闘を称えたい」

そんな言葉と共に、トロフィーが差し出されて。リアはそれを受け取って──脇にいるアリスに横流しした。

「あれ、リア君持たないの?」
「アリスちゃんのおかげの賞なので」
「そっかぁ……」

そして話は、次の段階に進む。最も重要な段階、賞品の話。特別賞を獲得したからには、願いを叶えられる権利がある。

「君達の希望を叶えよう!! もちろん昇進、昇給は当然だ。特にリア君。前にも言ったが、君はもっと上に行ける。店長程度ではもったいない!!」

ミツマルが再び語り始める。いつもの更に倍は饒舌な印象だ。身振り手振りまで視界に入るといよいようるさい。希望を聞き出し、それを叶える。神にも近い行為である。
ただ、リアは何を願うよりも先に1つ、やりたいことがあった。

「複数店舗を束ねるエリアマネージャー!! 地方レベルで纏め上げるエリア総責任者!! 君程の人材ならば、どこへだって!!」
「でも私はあのお店、楽しいですよ」

そう、彼の演説に口を挟んだ。トロフィーを受け取ると決まった日から、こうしようとリアは決めていたのだ。
彼の反応を、知りたかった。

「そうなの?」

彼はリアの言葉に暫くフリーズした後、小声でそんなことを言った。

「大変だったって聞いてるけど?」
「大変でしたけど、楽しかったですよ」
「うーん……」

互いに小声で言葉を交わす。マイクはオフだ。ホールに召集された参加者達も何かを不審に覚えたようで、少しずつざわつきが大きくなる。
そよそよ、ざわざわ、がやがやと。喧騒が段々大きくなる。

「今のままがいいの?」
「本社勤務は気乗りしません」
「えー……待って待って……」

考えている。考えている。リアの言葉に、ミツマルは考えている。
喧騒は大きくなる。大きくなる。大きくなる。

それを鎮めるように。

「 君 に は !! 相 応 し い 仕 事 場 が あ る !! 」

ミツマルは叫んだ。

「本社には既に!! 君の席がある!! 私の席の隣に!! この会社にも私にも!! 君のような人材が必要なんだ!! 私と共に、世界中のスタッフを鍛え直そう!!」

なるほど。
 ▼ 157 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:55:51 ID:ZU96OCuE [39/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
服の裾に、引っ張られる感覚があった。横のアリスと視線を交わす。小さく頷きあった。左手と右手で、誰にも見えないように手を繋いだ。

「もちろん今回実績を上げた君達の店にも、一流の管理職を転属させよう。これで憂いなく──」

いよいよ覚悟は決まった。リアは胸元に手を差し込み、隠し持っていた封筒をさっと引き抜き。
演台の上に、叩きつけた。

「退職します!!!!!!!!」

退職届だ。

「リア君!?」
「私は退職します!! パソコン業務なんてもう二度とやりません!! スーツも着ません!! 本社ももうたくさんです!!」

宣言する。高らかに宣言する。目の前のミツマルに対してではなく、マイクに向かって──ヨシダコーヒーに向かって宣言する。会社に向けて宣言する。

「し、しかし折角これだけの実績を」
「私達のお店はアリスちゃんに譲ります!! アリスちゃんを正社員待遇にした上で、店長と店員の兼任扱いにしてください!!」
「しかしそんな雇用形態は規定には」
「作ってください!! 今ここで!! その権利が、今の私達にはある!!」

喧騒は止んではいない。がやがやと、がやがやと、いつまでもこだまし続ける。
だが性質は変わる。無意味無秩序だった空間に、1つの意志が確かに生まれる。だってここにいる人間の半分は、リアと同じ店長だ。同質の苦痛を知っているのだ。
故に。

「作ってください。私達には、働き方を選ぶ権利がある」

喧騒が期待の色を帯びる。喜びの色を帯びる。ただそこに居続ける苦痛から、有意義な仕事に切り替わる。かつてやりたかった仕事を取り戻せる。
がやがやと、がやがやと、がやがやと。その全てが、今は味方だ。

「叶えてください、CHRO。今は何よりも、それが必要です」
「──わかった。叶えよう、叶えるとも」

これで。
勝ちだ。
 ▼ 158 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:56:30 ID:ZU96OCuE [40/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



「いやぁー、派手にやりました!!」

本社ビルを出れば、夕日が煌々とリアを照らした。まあ、出た、というよりは叩き出された、に近いのだが。
表彰式の終了後にそのまま社長室まで引きずり出されて、状況整理終了と共に追放されたのである。しかしもう、彼女の目的は達成された。
リアが周囲を見回せば、こちらに手を振る人影が2つ。ゾロアーク──の化けた人間の姿と、バウッツェルとワンパチを抱き上げたコメタだ。

「お待たせしました!!」
『ちゃんと退職できたかい?』
「もちろんです!! 二度と面見せるな、とCHROからお言葉をいただきました!!」
「それで、要求の方は? ちゃんと通ったのかい?」
「もちろん!! あれだけの人の前で頷かせましたからね、取り消しなんてできませんよ」

今後もアリスちゃんのお店をご贔屓にしてあげてくださいね、とリアは笑う。
それから鞄に手を差し入れて、封筒を2つ取り出した。ゾロアークとコメタにそれぞれ手渡す。今回の臨時雇用の給料だ。

「2ヶ月間、ありがとうございました」
『こちらこそ、協力ありがとうございました。お疲れ様だね』
「うむ。孫に聞かせる武勇伝が増えたわい」

互いに軽く一礼する。これで、臨時雇用契約は終了だ。

『それで、これからはどうするの? 資金集めから始めるなら、働き口のアテはあるよ』
「それもありがたいですけど……昔の友達が、空き家を1つ見繕ってくれたんです。そこにお店を開こうかな、と。絵本みたいな可愛いお店を」
『おっと。手が早いね』
「お店、開いたらちゃんと連絡しますから。来てくださいね」

最後に、ヨシダコーヒーの本社ビルを仰ぎ見た。今日のことも、いい思い出になる気がする。いい会社だったかはともかくとして、いい店との縁があった。いい人との縁があった。
だからきっと、前へ進める。

「では、失礼します!!」

思い出に1つ、深々と例をした。ぐるりと踵を返して、彼女は前へと歩き始める。
歩く。歩く。
鞄の中にはコックコート。レシピ。メガホン。それから希望。風が吹いて、背中を押した。それだけでもつい笑みがこぼれた。

次のお店は、どうなるだろう。どんな人と出会い、どんなポケモンと出会い、何が私に出来るだろう。
何だって出来るとも。
スマホが、高らかに振動する。

『良い商売を!!』
 ▼ 159 qKIfe0Ovo. 23/02/14 23:57:10 ID:ZU96OCuE [41/41] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
───

Pokemon Cafe レビュー

この世界に、カフェは何件あるだろう。
味に拘るもの。安さを突き詰めるもの。自然派に執着するもの。話題性を追い求めるもの。会社の数で言ったとしても、軽く万には及ぶだろう。
しかしその頂点が誰かと聞かれれば、僕の答えはただ一つ。山海近き郊外に、どさりと構えた一軒家。ごく数人で運営される、規模で言うならとるにたらない店。名前はシンプルに『ポケモンカフェ』だ。
イーブイの看板が目印。

でも、ごく数人で運営している、というのは店の内実にはそぐわない。脚を1歩踏み入れれば、イーブイ、ピカチュウ、ヒトカゲ、モクロー。たくさんのポケモンが出迎えてくれる。そういう店だ。
そして驚嘆すべきことだが、その全員が、カフェに勤めるプロフェッショナルだ。誰もが薫り華やぐ珈琲を淹れ、誰もが軽やかにクリームに角を立て、誰もが彩り豊かなサラダを盛り付け、誰もが迷いなくピザを焼き上げる。
そこにはプロが集っている。そこには確かに本物がいる。誰もが好きでそこにいて、誰もが必要とされている。いきいきとしたワーカーによって、そこでは活気が渦を巻く。

生きるというのは、中々疲れる。やりたいこと、やりたくないこと、結局全部やらされる。1個体分の活力では、人生全部を走るには、中々足りないこともある。
だから、貴方が元気を枯らしているなら、一度はそこに行くと良い。貴方の世界が凝り固まったなら、一度はそこに行くと良い。
とりあえず真っ先に、赤い眼鏡の似合う店員が、出迎えてくれることだろう。

「ようこそ!! ポケモンカフェへ!!」

【バレンタインSS】命が惜しくば手段は一つ。バレンタインで金を獲れ!! 星5.0
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=1890384
  ▲  |  全表示159   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!

(消えた画像の復旧依頼は、お問い合わせからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼