【バレンタインSS】努力家と、マイペースと、目立ちたがり屋

　「もしかしてお前ら、俺のセンスに勝てると思ってるのか？」　
　

　「好きな物は僕が一番分かってるつもりだよ。とびっきりに喜ばせてみせる」


　「ボクだって、喜びそうな物なら自信があるよ〜」



　　努力家と、マイペースと、目立ちたがり屋

◇

　「ふぁぁ……ねむ……」

　学校のグラウンドの木の下、昼寝には最適な場所だな。ここは日当たりが良く、今の時間なら殆ど来るやつはいない。俺のパートナーが授業を受けてる時の暇つぶしには最適だ。授業なんざ俺にはこれっぽっちも必要ねぇし、付き合うだけ面倒だ。

　だが……

　「マスカーニャ、見つけたよ」

　やっぱり今日も来やがった。面倒だし寝たふりでもするか。

　「起きないのなら仕方ないな」

　よしよしいいぞ、そのままかえ……冷てぇ！

　「チッ、何だお前は。そんなに俺に構ってほしいのか？」

　「ああ、そうだよ！今日も僕に付き合ってくれ！」

　「うるせぇ、耳元で喋るな……」

　はぁ……俺の安眠はどこへやら。

　「んで、今日も特訓か？飽きねぇな、自分だけでやってろ」

　「何故だい？君は暇そうにしてるじゃないか。それに実戦感覚の特訓は僕だけでは出来ないからね」

　ウェーニバルは俺と同じくアオイってやつのパートナーだ。自分を鍛える事が好きで、いつも俺を探しては特訓に誘ってきやがる。なんでも丁度よい相手らしい。俺は寝るのに忙しいんだがなぁ。鳥野郎め……

　「そんなに誰かと戦いたいなら、俺以外のヤツとしろよ。他にもいるだろ？」

　アオイは俺とコイツ以外にも後5体普段の生活で連れ歩いている。本来ならばトレーナーが一度に連れ歩けるポケモンは6体だがな。

　「そうは言うが、他の子達は今の時間は部屋にいるか、ボールに入ってるかのどっちかで君しか空いてないんじゃないのかい？」

　「それなら、授業が終わるまで待ってから他のヤツでも誘え。俺は寝たいんだよ」

　「まあそういうだろうとは思ってたよ。仕方ない、今は自己鍛錬でもしていよう。だがみんな来たら君も相手してもらうよ」

　「はいはい、考えとく」

　「そういえば知ってるかい？次の休みの日はサンクスデイなる催しがあるそうだよ」

　「興味ねぇな」

　「まだ話しは終わってないよ。サンクスデイは日頃の感謝の気持ちを込めて物を贈り合う行事らしい。この地方特有の催しだそうで、毎年この時期になると各地で盛り上がるそうだよ」

　そういえば最近、周りの連中が浮ついていたな。きっとサンクスデイ関連だろうな。

　贈り物ねぇ……こいつに？ないない。絶対ない。

　「んで、サンクスデイとやらがどうしたんだ？」

　「折角だしアオイに何か、みんなで贈り物をしないかい？アオイにはみんな感謝してると思うし、いい機会だと思うんだ」

　確かにアオイには感謝している。こうやってある程度自由が与えられてる訳だしな。それに群れからはぐれてしまった俺を拾ってくれた恩もある。

　「そうだな……みんなでって所には疑問だが、贈り物自体は悪くねぇ。俺も世話にはなってるからな」

　「おや、意外にも乗り気だね。話が早くて助かるよ」

　「それで？何を贈るんだ。お前はもう決めてあるのか？」

　「いや、まだ考えている途中だよ。それを決める為に君に相談してるのだけれど、何かみんなで贈れそうな物はあるかな？」

　「みんなで、ねぇ……。こういうのはそれぞれが違うものを贈りあった方が、良いんじゃないか？」

　「僕はそう思わないが、こればっかりは他の子達にも聞くしかないかな」

　「ああ、そうしてくれ」

　これでやっと寝れるな、あぁ、無駄な時間だったぜ。
　しかし、贈り物ねぇ……何かしら考えておくか……。

　その日の夜。鳥野郎は他の奴らにサンクスデイの事を説明していた。

　「とっっても楽しそうな日だね〜！ボクも何かプレゼントしたいな〜」

　と言うはラウドボーン。マイペースな奴で、俺ほどではないが良く寝ている。いや、俺より寝ているか？コイツは食べる、寝る、歌うの3つで頭の中が埋め尽くされているような気がする。
　ただ、バトルになると強い。何回毛が焦げるかと思ったことやら。あとはアイツがまだホゲータだった頃はよく齧られてたな……。成長するにつれ収まっていったが、もし今でも噛み癖が残ってたらと考えると……ゾッとする。

　「贈り物で感謝の気持ちを伝える……スカーくんも素敵な事だと思わない？」
　
　そんな事を言ってくるはクエスパトラだ。なぜだか知らんがやけに俺に絡んでくるし、あだ名で呼びやがる。あだ名で呼ばれてるのは他の奴も一緒だが。
　正直うるさいとは思うが、そんな事を言うとつつかれるので黙っておく。まぁヤツのとくせいは『特別な』おみとおしだからすぐにバレるけどな。

　…………いてぇ。

　「でも、何を贈れば良いのか悩むなぁ……何か作るとかだったらあたしは力になれるか分からないよ〜」

　コイツはパーモット。バトルの腕は確かだが、どうやら細かい作業が苦手で力加減が上手く出来ないらしい。
　多分だが、パモットだった頃が短かったのが原因であるとかなんとか言ってた気がする。最近は鳥野郎が協力してるらしい。同じかくとうタイプだし、通じる物でもあるのだろうか。　
　俺としてはアイツの特訓相手になって欲しいとこらだがな。

　「シャリも、おにーちゃん達に『おくりもの』したい！」

　シャリタツは、アオイが初めて孵したポケモンで、何でもタマゴをヌシから譲り受けたそうだ。姿はそったすがた。
　コイツは俺達の中で一番幼く、シャリタツ種特有の知能もまだ発達していない。ラウドボーンの事をおにーちゃんと、アオイの事をおねーちゃんと呼び、アイツの炎の鳥とも仲良くしている。ラウドボーン自身も満更でもないようだ。

　その後、なんだかんだあーだこーだと話すのを聞いていたが、一向に考えが纏まる気配がない。いつまで話してるんだこいつ達は。俺もさっさと寝たいが、話し声がデカくて寝られる気がしない。
　仕方ない、早く寝る為にも会議に混ざってやるか。

　「このまま話を続けられたら俺が眠れねぇ。いいかよく聞け。お前らはみんなで一つの物を贈るか、それともそれぞれで贈るか。どっちがいいんだ？」

　「もちろん僕はみんなで贈り物を選びたいよ」

　「ボクも！」
　「シャリも！」

　「あたしはどっちでもいいけど、何かを作るとかの流れになりそうなら悩むなぁ……」

　「私もどっちでもいいけど、大勢で行動するのは疲れるわぁ。それにみんないなくなったらアオちゃんが驚きそうねぇ……」

　……纏まんねぇな。

　「確かにみんなで選びたいし、僕だってそうしたい。しかし、みんなで行動するとアオイに迷惑をかけるか。そうなると、ペアで組んで交代しつつ贈り物を探しに行くのが一番いいかな？」

　「まあペア行動なら動きやすいだろうし、周りにも目立ちにくいだろうな」

　俺が目立ちにくいって言うのは少し変だが、まあいいだろう。

　「そうなると、ペアはどうしようか」

　「まあラウドボーンとシャリタツは確定だろ」

　「そうだね、そしたら僕はパーモットと一緒に行くよ」

　「そうなると……私はスカーくんと一緒ね。ヨロシクね」

　「はいはい、よろしく」

　なんとなくだが、道中でつつかれそうな未来がすでに見えるな……。

　「そういえば、まだ何を贈るか決まってないな。とりあえず俺はある程度の目星は付いてるが、お前らはどうだ？」

　「ボクは決まっているよ〜」

　「僕もあれから少しは考えているよ。……となるともしかしてみんな贈りたい物はバラバラって事かな？」

　「各ペアに別れた者同士が決まってるんならそれでいいんじゃないか？」

　「そうだけど……いいのかい？」

　「なにがだ？」


　「1番アオイの心を掴む贈り物をするのは僕らだよ？」

　……言ってくれるじゃねぇか。