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【SS】オーキド「サトシに何かがあったのかもしれん」 ケンジ「サ、サトシに!!? なぜ……、!!」

 ▼ 1 クロズマ@よせだまのもと 23/09/06 22:48:23 ID:LcZM6F2k NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
※pixivで連載してた完結済みシリーズをちょっとこっちに持ってきてみました
※初出・シリーズ全体の構想の確定がXY放送中の頃だったため、S&M以降は存在しないXY一年後の世界が舞台です


 ある日、ある時、ある場所で、厳かに顔を合わせる三人の男がいた。一人は紅いスーツを纏い、一人は蒼い海賊衣装、そしてもう一人は神官のような衣服を身に着けていて。各々が手元の紙に視線を向けながらも決して警戒を怠らない彼らの間で緊張感が高まっている。恐らく誰か一人でも腰のボールに手をかけることがあれば、一瞬でこの膠着状態は崩壊するだろう。

「計画は以上でいいな」
「えぇ、異議はありません」
「くれぐれも、変な気は起こさないでくれよ」

 誰かがそう言うも、返事は返らない。代わりに互いに向ける眼差しが物語っている。それは声を発した張本人も全く同じで牽制はただの言葉遊びだったことは語らずとも伝わってくる。

 ――隙を見せれば、潰す
 ▼ 141 NIV2AxL4Mg 23/10/06 16:12:57 ID:WGqIbvPE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「私ね、今が大好き。戦ってる今とかじゃなくて、今の関係が。サトシとハイタッチしたり、時々ケンゴと文句を言い合ったり、後ろから現れるコウヘイにちょっとびっくりしたり、そんな関係が好き」

 ケンゴの気持ちに気付いた以上、いつかは動く必要があるとは分かっている。けれど、現状の関係に満足してしまっているからか、なおさら心が決まらないのだ。

「僕も人のことは言えませんし、お互い答えが出るまではこれは内緒ですね」
「そうだね、内緒話」

ふわりと笑った二人の傍で、気絶した敵が目覚めないか監視していたポッチャマとヤドキングが、待機していたジュンサーを呼びに行っていたパチリスを迎えていた。

――ダークライは、姿も影も現さなかった。
 ▼ 142 NIV2AxL4Mg 23/10/06 16:14:25 ID:WGqIbvPE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一区切りのタイミングなので今回の更新はここまで
 ▼ 143 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:06:46 ID:vYG.gzp. [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ごめんねヒカリィイイ!!」
「もう大丈夫だからぁーっ!!」

 倒した敵をジュンサーに引き渡した後、ヒカリとコウヘイがハルカとアイリス達のもとへ合流した直後のことだった。少し擦り傷はあれども元気そうな様子でハルカとアイリスがヒカリに突撃して抱き着いて来たのだ。

「よかったぁ……!」

 ヒカリは一瞬驚いたが、無事に仲直りできた様子に嬉しそうに笑った。
 きゃいきゃいとはしゃぐ完全に関係が修復できた女子達の姿を見て、コウヘイはアリスに挨拶をしてからノゾミとシュウに声をかける。

「無事に解決したみたいですね」
「あぁ、フードの女のことについてはやっぱりお互い譲れないけど、それはそれこれはこれってことで落ち着いたよ」
「まあその過程で一瞬危ないことにもなったからアリスさんには申し訳ないけどね」
「それは構わないわ。私だってうまくいってよかったって思うもの」
 ▼ 144 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:07:26 ID:vYG.gzp. [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アリスも加わって微笑ましく見守る中で、コウヘイは合流途中でヒカリから聞いたことを言うべきか否か少し迷った。だが情報は適切に共有するべきだろうと判断し口を開く。

「……ヒカリさん自身も感覚的なもので、確証があるわけではないとのことなんですが」

 少し思案顔で告げる言葉を待つ面々。三人のテンションも落ち着いてきて、ハグの巻き添えを食らう前にとヒカリの腕の中から脱出していたポッチャマも彼の足元で少し珍しく神妙な顔で見上げている。

「ダークライは――いないそうです」

 目を瞠るノゾミとシュウ、アリス。だが、ハルカとアイリスは逆に納得した表情だった。

「それはちょっと分かるかも」
「伝説系のポケモンがいるって感じしないもんね」
「君達も分かるのかい?」

 ノゾミの問いかけに対して、ハルカとアイリスは顔を見合わせてうーんと微妙な表情で考える。自分達でもどう言ったらいいのか分からないのだ。

「サトシやマサトならもっとはっきり分かると思うんだけど……伝説系のポケモンがいる場所って、何だろう、こう、なんとなく凄く強い存在がいるなーって感じがするの」
「うん、マサトはどうかは分からないけど、私やサトシが限定的な条件で記憶を読み取ったりする力や体質が発動してるのとは違って……」
「多分だけど、サトシと旅をしたことある人はみんな分かる感覚だと思うから……タケシかデント、あとシトロンも頭いいって聞いたから戻ってから聞いて……私達じゃだいじょばない……」

 そう、アイリスは頭を使うことはとことん向いていないし、ハルカとヒカリも彼女ほどではないもののあまり理論的に考えるのは得意ではないのだ。
 ▼ 145 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:08:33 ID:vYG.gzp. [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「えぇ、そうします。とはいえ言いたいことは大体掴めましたが」

 とはいえここにいるのは頭脳戦に特化していると言えるほどに頭のいいコウヘイと、彼ほどではないものの考えることが苦手ではないシュウとノゾミ。そして一度とはいえ神々の戦いに巻き込まれた経験からなんとなく彼女達の感覚に覚えがあったアリスだ。解説を求めなくても大方把握できた。

「熟練のトレーナーは自分のポケモンの本能的な反応に頼らなくても、試合が始まる前の相対しただけの時点で相手との力量差を自分自身の感覚で分かるといいます。恐らくそれと似たようなものかと」
「要は経験からくる感覚ってことだろうね」

 アリスは言おうかどうか迷っていた。彼女もダークライがいない、と感じたことがあった。でも一度大いなる力を目の当たりにしたとはいえ、彼女達ほど経験豊富ではないため気のせいだと思ってしまった些細な違和感だった。

「どうしたんですか、アリスさん?」

 ヒカリに問われて、迷ったが隠す理由もなかったため応えることにした。

「気のせいって思ってたんだけど――一年と少し前からなの、ダークライがいないように感じるのは」
「!?」
「そんなに前から!?」

 アリスが言うには、元々彼女とダークライとはあまり交流があったわけではなかった。彼と親しかったのは祖母のアリシアであり、アリスではない。
 それでもディアルガとパルキアの戦いに巻き込まれた件をきっかけに時々接するようにはなったが、その期間はダークライがいないように感じ、姿も見せなくなるまでの数か月程度のものだった。
 ▼ 146 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:09:32 ID:vYG.gzp. [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「関わっているうちに私と祖母は見た目が少し似てるだけの別人だって思って、今まで通りの距離に戻っただけなのかもって思ってあまり気にしていなかったんだけど……」
「――去年のいつ頃ですか?」
「え?」

 アリスの話を聞いて、コウヘイは引っかかることがあった。一年と少し前、それはつまり、

「――月――日よ。ちょうど友達の誕生日だったから覚えてる」
「それっ、サトシがいなくなった前の日よ!?」
「――!?」

 驚愕に声を上げたヒカリの言葉にみんな目を瞠った。サトシの失踪と同時にサトシのポケモン達が研究所から姿を消していて、その中にいるブイゼルは嘗てはヒカリのポケモンだったこともあり、彼女には当日に連絡が入っていたのだ。

「一年と少し前、という共通点が少し引っかかったのでもしも近い時期だったら何かの手がかりになるかもしれない、と思ったのは確かですが……まさかほぼ同時だったとは……」

 相変わらずサトシについての手がかりがないことに変わりはない。けれど、一つ繋がった。
 ▼ 147 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:10:25 ID:vYG.gzp. [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 アリスと別れ、拠点に戻って行った報告は非常に濃いものとなった。ハルカとアイリスの仲直りとアリスの無事、ダークライが随分前からいなかったことと姿を消した日にちがサトシの失踪の前日だったこと。そして、アイリスとハルカが少しとはいえ怪我をしていた理由――、

「私達が最初ぎくしゃくしちゃってたのも原因ではあるんだけど……」

 ハルカが少し言いにくそうにアイリスをちらりと見る。アイリスも少し気まずそうに唸っていて。彼女の様子を見てピンときた者が数名。

「氷タイプ」
「うっ、正解……」
「あんたまだ氷タイプ克服してないの?」
「それでよくドラゴンタイプのジムリーダーやれてるわね……」

 デントの言葉に頷いた直後、ラングレーとカベルネから容赦のない追撃に項垂れる。

「デーネ?」
「ひっ!?」

 そんなとき、ユリーカのポシェットからデデンネが飛び出してアイリスに近付いて行った。この子なりに宥めようとしたようだが、顔を青褪めさせるアイリス。

「デデネ〜ッ」
「わわっ、よしよしデデンネ、大丈夫だよー!」
「わーっ!? ごめんねデデンネー!?」

 泣きながらユリーカにくっついてしまったデデンネにアイリスは慌てて謝るが、それでもあまり近付いていくことはできないみたいで。その様子を見たシューティーは困惑顔で電気とフェアリーのタイプを持つデデンネを見る。
 ▼ 148 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:11:11 ID:vYG.gzp. [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「確かに初めて会ったとき氷タイプはドラゴンタイプの弱点だから苦手って言ってたけど……もしかして寒いのが苦手っていうのを誤魔化すためとかじゃなくて本当にドラゴンタイプの弱点だから……?」
「そうだって最初から言ってるじゃない……」

 落ち込んだ様子のアイリスを見て少し苦笑しながらシロナは口を開く。

「できれば理由を聞かせてもらえないかしら?」

 苦手というのは人それぞれだ。頭ごなしに否定していいものではない。けれど理由も分からずタイプだけで遠ざけられるのも、そのタイプのポケモンやパートナーであるトレーナーからすればいい気持ちになれないのも確かだ。好きなポケモンの弱点であると言っているが、それがなぜ苦手に繋がるのか本質的な理由をきちんと共有できれば衝突の回避にもできるし、内容によっては克服に協力できるかもしれない。

「――能力が、原因なんです」
「龍の里に伝わっていて、今は君を含む三人だけが持っているっていう、あの?」

 デントの確認に頷いたアイリスは続ける。アイリスが言うには、彼女が生まれ持つドラゴンポケモンと心を通わせる力というのは、通常は記憶を読むことができるほどの強力な力ではないらしい。

「私も最近になって聞いたんだけど、オババ様もシャガさんも経験則をちょっと補強するぐらいの力しかないんだって」
 ▼ 149 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:12:12 ID:vYG.gzp. [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 だがアイリスは、持って生まれた力が強すぎた。ほんの少しだけでも相手が教えてもいいと思ってくれたら記憶すら受け取れる、とてもとても強い力。それは彼女の肉体的性質をドラゴンタイプに近付けてしまうほどの。

「体質はドラゴンタイプに近いのに、身体の丈夫さとかは普通に人間なの。だから――ドラゴンタイプの弱点になるタイプの技って、少しかすめただけでも命にかかわる大怪我になる」

 実際に幼少期に一度、生死の境を彷徨った経験もあったとまで聞けば、納得するしかなかった。彼女の氷タイプとフェアリータイプに対する拒絶反応は決して過剰ではない。生き物として生存本能が正常に働いているだけなのだ。

「ジム戦のときは大丈夫なんです。小さい頃から一緒で危なかったときのことも知ってるドリュウズが護衛してくれるから。でもそういった準備がないときにいきなり来ると、どうしても……」

 話を聞いてみんな納得できた。デデンネも泣き止んでいて、寧ろ少し申し訳なさそうにチラチラと様子を伺っているぐらいだ。
 けれど克服について考えることは不可能と判明させてしまったために、アイリスは少し俯いていて。

「はぁーっ」
「っ」

 ラングレーの溜息に、アイリスは身を固くする。戦いでは力になりたい。けれど相手によっては足手纏いになる身体である自覚もあるのだ。
――自覚があるから、言い出せなかったのだ。
 ▼ 150 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:12:57 ID:vYG.gzp. [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そういうことはもっと早く言いなさいよ! 知らなきゃフォローもできないじゃない!!」
「そうよそうよ! アンタは戦力の要の一人なのよ! 途中で倒れたら全員危なくなるんだから対策しなきゃいけないのよ!?」

 声を荒げるラングレーに続いてカベルネも怒鳴りつける。アイリスは顔を上げ、目を瞬く。彼女達以外の面々も異論はないようで、アイリスが戦いに出るときのための案をさっそくとばかりに話し合っていた。

「アイリスさんが最前線なのを動かすのは難しいしそれにやっぱり基本方針が細かいところは現場まかせなのも適切なのよね……」
「えぇ、分析型のトレーナーならともかく、作戦を固め過ぎるのも裏目に出る可能性が高いですし」

 カルネとシトロンが話し合っているように、事前に決める作戦は大まかなものだけにし、細かい点については実際に戦っている者達に任せている。その時々で失敗や反省点もあったが、それでもこれ以上のベターな形がないのも事実。

「セレナとのタッグを基本方針にしたらいいんじゃないかい?」
「私?」

 そこで声を上げたのはシューティーだった。現場での臨機応変な判断には向かないが、指導や作戦の基本方針の立案には非常に適していたのだ。

「君の身体能力ならアイリス以上に前に出ることもできるだろう?」

 そう、ポケモンパフォーマーはポケモンと一緒に演技をするという競技の性質上、人間の安全面に配慮したポケモンの技の鍛え方をする。だが唯一無二の例外として、ポケモンと共に高火力の技に囲まれて演技する彼女には相応の身体能力が備わっているのだ。実際、セレナ自身も確かに、と頷いて。

「――アイリス、あらためてこれからよろしく!」
 ▼ 151 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:14:18 ID:vYG.gzp. [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今回の突っ込まれる前にしておく補足

アイリスの氷苦手の原因と、それに伴ってフェアリーも苦手設定は私の独自解釈によるものです
 ▼ 152 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:15:21 ID:vYG.gzp. [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 自警団ソラの中核を担うのは、サトシの関係者であることは誰もが知ることだ。そもそもが実力も実績も豊富だけれど、現在は行方不明の一般トレーナーである彼をダシにして人員を集めたのだから当然のことだろう。
 そういった経緯のため、どうしても年齢故に非力な者が二人いることも致し方ないのだ。

「んーっ、やっぱりケンジについてきてよかった」
「ラルッ」
「マサトには特に窮屈な思いさせてるからね、少しぐらいなら寄り道にも付き合うよ?」
「ほんと!? やった!」

 ユリーカは立場としてはマサトと同じではあるものの、デデンネだけでなくプニちゃんという名のジガルデが護衛もできるため比較的外出もしやすい方だ。だがマサトの場合は共にいるポケモンは、トレーナーになったら迎えに行くという約束を少しばかり前倒しにして隣にいるラルトスのみ。不用意に外出して敵の標的になるリスクを抱えるわけにはいかなかった。

「じゃあ僕、あそこのケーキ屋さん行きたい!」
「ラルルッ!」

 ケンジの買い物に同行させてもらう形でおでかけが叶ったマサトとラルトスは、嬉しそうにある一つの店を指差した。彼にしては少し意外なチョイスに思えるが、その店はただのケーキ屋ではない。最近トレーナーやコーディネーターに人気と評判の、ポケモンと一緒にケーキのデコレーションの一部をやらせてもらえるという店だ。
 ▼ 153 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:16:02 ID:vYG.gzp. [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あそこでいいのかい?」
「本当は野生のポケモンの観察とかに行きたいけど全部終わって安全になってから! お店の中なら襲われる危険も少ないもん」

 ケンジが確認した通り、妥協点であるのは確かだった。それでもラルトスを必要以上の危険な目に合わせないために、ケンジに負担をかけすぎないために、現状の中で楽しめる範囲の息抜きを彼なりに考えての選択だった。

「オッケー、ちなみにお小遣いは大丈夫?」
「もちろん! それにちゃんとサイトで値段も確認したからね!」
「ラルッ!」

 そういうところは今ならばともかく、旅に出る前は姉よりもしっかりしていたぐらいだ。ニッと笑って答えたマサトとラルトスに、ケンジも今度はしっかり頷いていざお店に、というときだった。

「待って」

 ふいにかけられた声。振り向くとそこには見覚えのない少女が立っていた。少しぼんやりとした意思の薄そうな瞳で、ホワイトカラーの髪とトップスの可愛らしい顔立ちの少女。

「え?」
「公園のベンチにあった忘れ物」

 そう言って差し出されたのは一冊のスケッチブック。中身を見ると間違いなくそれはケンジのものだった。途中で休憩に立ち寄った公園でうっかり置き忘れていたのだろう。
 ▼ 154 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:16:47 ID:vYG.gzp. [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「それじゃあ」
「ちょっと待って」
「……?」

 今度はケンジが呼び止めた。引っかかったのだ。ハルカのような発育のいい体型は、彼女以外に直近の見覚えがあった。それ以外にもウォッチャーとしての感覚から似ていると感じるものがある。それらに関しては感覚的なもののため、根拠としては薄いけれど、確実に言えるものが一つある。

「どうしてこれが僕のものだって分かったんだい」

 質問しているようで断定的な言葉だ。ケンジはサトシと嘗て旅をした面々の中で、最も知名度が低い人間だ。彼は、彼だけは、ジムリーダーでもジムリーダーの関係者でも、コーディネーターやパフォーマーでもない。ウォッチャーで、研究者の助手である彼の高い能力は、けれども表舞台で輝く面々とは発揮されるフィールドが大いに異なる。
 彼の絵と、彼の容姿。その二つの情報を結び付けられるのは仲間内か、もしくは嘗てのギンガ団のように相手の情報を全て手中に入れることすら可能な組織かの二択だった。

「…………」

 何も答えない彼女の意図は、なぜだかとても見えにくい。けれど意思が薄そうでいても、洗脳されているというにはきちんと意思はある様子なのだ。
 引っかかるものがあるのはケンジだけではない。
 ▼ 155 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:17:29 ID:vYG.gzp. [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ねえ、あなたの髪飾り、僕すっごく気になるんだけど」
「ラル……」

 マサトとラルトスは、万一に備えてケンジの後ろに隠れつつも警戒しきれない不思議な感覚に戸惑っていた。
 恐らくはケンジのスケッチにあったフードの女なのだろう。けれど、メロエッタを洗脳して使役しているというには、非常に強い違和感があるのだ。
 彼女の白い髪に留められている透き通った蒼い石の髪飾りは、一般的にはとても似合うと感じるものだろう。けれどマサトとラルトスは、その石から何かを感じた。何かは分からないけど、でも何かあると感じてしまい無性に気になるのだ。

「……………………テレポート」
「ピジョッ!? ピジョーッ!」

 ボールから出されるや否やの指示にピジョットはぎょっとするも、彼女の肩をガシッと掴み一瞬で飛び去って行った。制止する間もない離脱にマサトとラルトス、ケンジは唖然とするも、次の瞬間少しばかり微妙な表情で顔を見合わせて。

「テレポートって言ったね」
「うん、テレポートって言ってた」
「ラル、ラルル、ル」

 多分、テンパってたんだろうなあ、と声に出さずとも見解は一致した。とりあえず、ケンジはスケッチブックの最新のページに彼女の容姿をさらりと一瞬でスケッチした。
 ▼ 156 NIV2AxL4Mg 23/10/10 16:21:04 ID:vYG.gzp. [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今日の更新はここまで
pixiv連載してたときは残り3話だったところまでいけました
 ▼ 157 NIV2AxL4Mg 23/10/12 16:58:56 ID:J.ZsGOLw [1/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ボンジュール、ポケモンをこよなく愛する世界中の皆さま、乙女の祭典トライポカロンエキシビションクラス、アルトマーレ大会が優雅に華麗に始まります!」

 ピエールによる恒例の開幕の一声と同時に会場は拍手と歓声に包まれた。ここはジョウト地方にある水の都、アルトマーレ。本来はカロス地方で行われているトライポカロンの公式大会や、ホウエン地方などの各地で開催されているポケモンコンテストの公式大会は、フューチャー団による社会不安等の情勢を鑑みて開催が見合されている。だが、少しでも人々の不安を和らげるための慈善活動として、エキシビション大会が世界各地で行われているのだ。
 なおコーディネーターはトップクラスの実力者達は自警団ソラに大半が所属したため、ある一名を除き戦うことはできないパフォーマーによるトライポカロンがメインだ。

「ニャオニクス、サイコキネシス!」
「ナーオッ!」「ニャオッ!」

 トップバッターはブランシェとニャオニクス達。サイコキネシスによる空中浮遊を得意とした彼女達のパフォーマンスだが、今回はいつもと少し違う。

「水も一緒に巻き上げて!」
「ニャアッ!」「ニャッ!」

 パートナーの姿勢をしっかりと安定させた上で、ニャオニクスは水の都の名にふさわしく会場に張り巡らされた水路の水を操り、霧雨を降らせて晴天の下に虹をかける。最初からクライマックスと言っても過言ではないパフォーマンスだ。
 ▼ 158 NIV2AxL4Mg 23/10/12 16:59:48 ID:J.ZsGOLw [2/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ポケモンパフォーマーの演技は、人間がポケモンの隣で一緒に演技を行うという性質上、ポケモンの技の選択や鍛え方は人間への安全に最大限気を使ったものになる。そのためポケモンとの身体的な連携においてはトレーナーやコーディネーターと比べてずば抜けているが、どうしても彼らと比較すると単純な技の威力の面で劣るのだ。
 故に彼女達は戦場に立つことはできない。だが、だからこそ彼女達は人々の不安を、少しでも楽しい気持ちで誤魔化してあげることができるのだ。満員の会場は歓声に溢れ、リアルタイムで配信されているポケビジョンのコメント欄も大盛況だ。
 だからこそ、パフォーマーの中で唯一無二の自警団ソラに所属できる存在であるセレナは、ステージ衣装を身に纏いつつも、会場の死角に潜み慎重に目を凝らす。

「みんなは、私達が守らなきゃね」
「テナッ!」
「チャム!」
「フィア!」

 次のパフォーマーが呼ばれる。ミルフィとペロリーム、ニャオニクスによるコットンガードの綿を活用したパフォーマンスも嘗てより数段魅力が増していて、ライバルのパフォーマーとしてちょっぴりうずうずしてしまうが今は我慢。
 戦士として、彼女達を、彼女達のパフォーマンスを心待ちにして訪れた観客達を守り抜くのが、今の彼女達の役目なのだから。

「でもやっぱりちょっと出たかったぁー……」
「テー、ルナ……」
 ▼ 159 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:00:43 ID:J.ZsGOLw [3/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 Nからの情報とカスミ、タケシの経験談から、今回敵がターゲットにするのはアルトマーレの博物館にある大きな展示物であると確定した。その展示物の正体は、街を丸ごと護ることのできる防衛装置であると同時に、悪意で以て触れれば街を滅ぼすことになってしまう代物だ。だが、

「リザードン、かえんほうしゃ!」
「リザードン、かえんほうしゃです!」
「カメックス、こうそくスピンでおもいっきり翻弄しちゃって!」
「ジュカイン、討ち漏らしはリーフブレードでよろしく!」

 アランとトロバのメガリザードンXとYのかえんほうしゃでまずは一掃。打ち漏らしはティエルノのカメックスとショータのメガジュカインで狩り尽くしている。
 この調子だと間違いなく、万一装置が起動させられた場合に備えて技術者として参戦しているシトロンの出番はないだろう。そして、

「クッソォ! だがお前ら! トライポカロンの会場がどうなってもいいのか!」
「どうぞお好きに! できるものなら、ですがね」

 ニッとシトロンは笑う。彼らが人質作戦をとれないようにするために、セレナが会場で待機しているのだから。
 ▼ 160 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:01:33 ID:J.ZsGOLw [4/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 今大会でのラストを飾るパフォーマーとして、カロスクイーンの座を今でも譲らないエルが、マフォクシーとビビヨン、フレフワンと共に会場を盛り上げる。ビビヨンに翅になってもらったエルはフレフワンと共に会場をふわりふわりと飛び回り、マフォクシーは最大限威力を抑えた決して熱さを感じさせない炎で、会場中をふんわりと色づける。そうして全ての演技が終了した、そのときだった。
 ステージの近くと観客席の付近に、マグマ班の人間達が一斉に現れボールを投げ……突風に巻き上げられたのは。

「え……」

 怯える暇もなく大半が一掃されたその様に、エルも、投票のために控室から出てステージに集まろうとしていたパフォーマー達も、観客達も呆気にとられた。

「くそっ、なんなんだよ……!」
「どういうことだ……!」

 倒れた人間達と、大なり小なりダメージを負ったポケモン達を見てマグマ班――態度からしてフューチャー団に染まった面々だろう、彼らは動揺する。
 残った人間達が悪態をつきつつも、代わりに倒された人間達の分もポケモン達に指示を出す。放たれたストーンエッジはパフォーマー達を閉じ込めようと展開され――、

「いくよみんな! まずはストーンエッジ!」
「チャムッ!」

 突如現れたヤンチャムのストーンエッジに巻き込まれ、セレナとテールナーの足場にされた。
 ▼ 161 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:02:32 ID:J.ZsGOLw [5/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「なにっ!?」
「うそだろ!?」

 そうして動揺している間に、ニンフィアのようせいのかぜでテールナーが急接近して近距離で火炎放射をくらわせ、反撃を食らいそうになると、

「テールナ!」
「まかせて!」

 テールナーがエネルギーを込めた枝をセレナに投げ渡し、ヤンチャムのストーンエッジで離脱し今度はセレナが込められた炎エネルギーが溢れる枝を棒術のように振り、敵を沈めていく。
 戦いでありながらまるで演武のような、殺陣のような彼女達の姿に、みんな安堵すると同時に今日一番の歓声が轟く。
 ポケモンとの身体的連携が優れたパフォーマーであり、サイホーンレーサーの娘として受けた英才教育により根幹がアスリート気質、そしてサトシとの旅で得た自衛の術としての火力は、ただ戦場で活躍できる能力というだけでなく、人間であるセレナも交えた変則的な戦闘スタイルを生み出していた。
 彼女達の無双が終わり、敵のポケモンが全員倒されたあとは、最初の一撃で倒れなかった人間達は撤退したが彼女達は追わなかった。なぜなら、

「みんなー! 今日は巻き込んでごめんなさい!」

 観客達の無事と心のケアが何よりの最優先事項。だから彼女は声を上げる。安心させるように、笑顔を意識して。

「でも安心して! この街で今起こってるメインの戦いもすぐに決着つくから!」

 その笑顔の種類が、戦士としての勇ましいものだったことに気付いていないのはセレナ本人だけだったが、安心させる目的としては寧ろ効果覿面。
 ▼ 162 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:03:18 ID:J.ZsGOLw [6/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「さあみんな、あとは投票だけ! セレナに投票するのももちろんありだよー!」
「エルさん!?」

 パンッと仕切り直すように手を鳴らしたエルのウインクに、セレナは驚くがピエールも他のスタッフもすぐさま対応して彼女の投票枠を作り出す。

「カロスクイーン・エルの言う通り。なぜなら此度の大会はエキシビション。戦士(ヴァルキュリア)・セレナのパフォーマンスをラストステージといたしましょう!」

 セレナが衣装の内側に作ったポケットに入れた端末の通知音が、歓声に紛れて消えた。

FROM:シトロン
こちらも無事に制圧完了です!
 ▼ 163 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:04:27 ID:J.ZsGOLw [7/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 前線は有志の者達に任せて本職である国際警察やポケモンGメン、そして裏の勢力であるロケット団本部は適度に連携を行いつつもそれぞれでフードを被っていた謎の女について調査を行っていた。だが現在確認できる組織立った動きは、フューチャー団とロケット団を除くと小さなものならばそれなりにあるが、どこを調べても彼女の存在にも、ポケモンを洗脳できるほどの技術力を持つ組織にも行き着かなかった。
 ならば他者を洗脳できるレベルの強力なエスパーポケモンとピジョットが手持ちにいる個人である可能性を視野にいれたがこれも空振り。ケンジのスケッチを参考に調査した結果、フードを外した白い少女は様々な場所を転々としていることが分かった。時々ではあるものの普通に買い物をすることすらあるみたいだ。だが、

「どこの誰か、については一切分からないか……」
「えぇ、今はカントーにいるっていうのはこっちも掴んでるんだけどねー」

 ハンサムとワタルがそれぞれの機関からの情報を持ち寄った定期報告会に、ロケット団の人員として顔を出しているのはドミノだった。

「なあ、ちょっといいか?」

 そしてその部屋にひょこっと顔を覗かせたのはコジロウ。ワタルとドミノはそれぞれ別の意味で少し反応は芳しくないが、ハンサムは頷いた。

「なによ下っ端」
「一応今回の会議に君は関係ないはずなんだがな」
「まぁまぁ、とりあえず用件を」

 コジロウは、喧嘩っ早いムサシに報告を押し付けられて正解だったと内心ほっと溜息を吐きつつも、本題に入る。
 ▼ 164 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:05:09 ID:J.ZsGOLw [8/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「一応俺達もさ、ちょっと独自に調べてみたんだ。で、基本的にはそっちと同じなんだけど……変装めちゃくちゃする俺達から見たら、あれめっちゃ変装なんだよ」

 ワタルもハンサムも、ドミノも固まった。彼らはそれぞれ捜査や工作で大なり小なり変装や演技をすることもあるが、あれが変装だとは感じなかった。だが、ほぼ毎日ありとあらゆる変装をしていた時期もあったというコジロウ達の感覚は無視できない。

「多分だけど、オタクが同類を見分けるのがめちゃくちゃ得意っていうのと同じ感覚だろうな」

 その言葉を聞いて部屋の中は溜息三重奏。自分達が変装であるということすら見抜けないレベルの高度な変装をした相手の、素性を更に調べるなど、恐らく不可能だろう。

「メロエッタは洗脳されているし、ルギアも捕らえられている以上放置はできないが……」
「先回りはほぼ不可能ね……」
「…………現行犯確保しか、ないなあ……」
 ▼ 165 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:06:03 ID:J.ZsGOLw [9/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 マサトと比べてユリーカは、デデンネだけでなくプニちゃんという名のジガルデがついているため外出におけるハードルはかなり低い。最初はマサトに遠慮して息抜きに外に出ることは控えていたユリーカだったが、当のマサトに雑談のネタ収集を求められた結果、彼女は割と頻繁に外出していた。

「プニちゃん、今日は公園行こう!」
「デネネッ!」
「グルルッ」

 犬系ポケモンの姿にフォルムチェンジして、ユリーカを背に乗せ歩くプニちゃん。ユリーカの外出についてはいくつか条件がある。
 ひとつは兄であるシトロンが作った発信機を所持しておくこと。危険は少ないだろうがゼロではないのだから、万一のときに駆けつけられるように。
 もう一つはプニちゃんが戦える姿でついていること。ジガルデの存在を誇示しておいた方が、万一偶然敵に遭遇することがあっても、下っ端ならば黙ってUターンすることも期待できる上、もし反対に襲われてもフォルムチェンジへのタイムラグがない状態の方が迎撃しやすいためだ。

「あら、ユリーカちゃんお出かけ?」
 ▼ 166 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:06:49 ID:J.ZsGOLw [10/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 通りすがりに声をかけてきたのはジョーイ。どこのジョーイかはユリーカには分からない。

「こんにちは! お出かけだけど……」

 首を傾げつつ聞いていいかどうか困ってしまう。名前を知っているということは恐らく面識があるジョーイなのだろう。だが、会ったことのある人に、誰かと聞いていいものか。

「あぁ、ごめんなさい。情報共有されてるから私は知ってるけど、初対面よ。初めまして、トキワシティのジョーイです」
「そっか! 初めまして!」
「それとアドバイス! 私達ジョーイとジュンサーさん達なら、会ったことあっても誰か聞いていいのよ。だって私達だってお互いの見分けつかないもの」
「そーなの!?」
「デネネッ!?」
「グルル……」

 恐らく用事がある方向が同じなのだろう、隣を歩きながらクスクスと笑うジョーイにユリーカとデデンネは驚き、プニちゃんも少し微妙な気持ちというような反応を示す。

「えぇ、タケシ君に見分け方教えてほしいぐらい」

 ジョーイ曰く、ジョーイとジュンサー一人一人の区別が一目でつくのは恐らく彼だけだろうとのことだ。そしてはぁ、と溜息を吐きながら、
 ▼ 167 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:07:52 ID:J.ZsGOLw [11/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「次のドクターとジョーイ達が集まる大きな会議の進行役兼書記は絶対タケシ君一択ね。ドクターはまだしもジョーイが多く集まると誰が何を言ったのかを誰も把握できないもの」
「うわぁ、大変そう……」
「デネェ……」
「グルゥ……」

 ポケモンは同じ種族だと一部の例外を除き基本みんな同じ見た目だが、そもそも会議の場で誰が何を言ったかをきちんと整理する、という機会がない。だが人間と共に生きるポケモンは、人間社会のこともある程度は分かる。人間社会でみんな同じ顔であるがために起こる弊害を想像すると、物凄く大変そうだと、デデンネもプニちゃんもしみじみと思うのだった。
 そうして時に微妙な心地に、時には和やかに談笑しつつ、一つの路地でユリーカ達とジョーイは別れて数刻。

「狭い路地の前を通るときは要注意…………あ」
「あ」

 自衛の一つとして、ユリーカ達は大通りを必ず通るようにしていた。その上で狭い路地が面している箇所では、敵が密かに蠢いている可能性を考慮し、細心の注意を払っていた。注意の過程で敵の一員と思いっきり目があってしまうのは流石に予想外だったが。

「チッ、いけ、バンギラス!」
「ゴルバット、いけ!」
「プニちゃんはグランドフォース、デデンネはほっぺすりすり!」

 マグマ団の制服だが、すぐさま攻撃をしかけてきたということはフューチャー団のマグマ班に染まった者達と見て間違いない。集まった情報の整理などの雑用をこなす過程できちんと敵のポケモンの情報も把握しているユリーカ達なら、プニちゃんの力も相まって下っ端程度の相手であれば十分戦える。
 ▼ 168 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:08:23 ID:J.ZsGOLw [12/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「くっそぉ、マルマイン、だいばくはつ!!」
「……!」

 悪足掻きの一発だったのだろう。マルマインの捨て身の一撃はユリーカ達にとって予想外で、回避したプニちゃんの背中から風圧で吹き飛ばされる。

「ユリーカ!!」

 プニちゃんがテレパシーで叫ぶ。土煙が晴れるとその先では。

「っふー、あぶないあぶない」

 兄とは似ない優れた運動神経でもってきちんと着地していたユリーカの姿。無事な彼女の様子と、上手くプニちゃんの足にしがみついて難を逃れていたデデンネの姿も確認してほっとしたその一瞬の隙。

「メロエッタ、サイコキネシス」
「――」

 逃げようとした敵の者達だったが、突如現れたフードを外した白い少女がメロエッタを使役し一斉に拘束した。

「あ、あなたは……」
「大丈夫、下がって」
 ▼ 169 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:09:01 ID:J.ZsGOLw [13/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ケンジのスケッチ通りの容姿に意思の薄い瞳と、聞いていた通りの洗脳されたメロエッタ。けれどユリーカは、彼女を悪人とは思えなかった。だって、確かに意思は薄いように感じるが、それでも、

(――どうして、こんなに暖かい人が……)

 彼女が発した大丈夫にはとても安心感があった。それにメロエッタによりしっかりと敵は拘束され、敵のポケモン達もサイコキネシスで強制的にボールに戻されてまでいるのに、ユリーカをしっかりと庇える位置をキープしているのだ。

「ユリーカ、デデンネ、プニちゃん! 大丈夫!?」
「ウォオンッ」
「お兄ちゃん、レントラー……!」
「デネェ……!」
「無事ではある、が……」

 そこに駆けつけたのはレントラーの背に乗ったシトロン。プニちゃんがテレパシーで示す、ユリーカを庇う位置にいる白い少女にシトロンは目を瞠る。

「……! まずは、ユリーカを庇ってくれてありがとうございます」

 洗脳されているメロエッタについて、言いたいことはあった。だが、妹を庇ってくれていたのも確かな事実だと判断できたから。
 ▼ 170 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:09:23 ID:J.ZsGOLw [14/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ひとまずレントラー、エレキフィールドで彼らを痺れさせてください」
「ウオンッ」
「ギャッ!?」
「くぅっ!」

 敵が痺れて動けなくなったことを確認した少女はメロエッタに命じてサイコキネシスを解かせる。そうして横槍の可能性を完全に潰した上で、シトロンは尋ねる。

「それで――貴女はなぜ、メロエッタに洗脳を?」

 その瞳は妹に向ける兄の顔でも、妹の恩人に対するものでもない。一人のジムリーダーとして、厳正な対応を責務とする者としてのものだった。

「…………」

 彼女が口を開きかけた、そのとき。

「ピジョオォオッ!」

 上空で待機していたのだろう。ピジョットが彼女を息もつかせぬ素早さで連れ去ってしまった。

「っ、逃げられましたか……」
 ▼ 171 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:10:42 ID:J.ZsGOLw [15/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 自警団ソラから見た戦況はとても順調だった。ミチーナではウララとハーリーが姑息に罠を張りどちらが悪か分からないような高笑いをして、参戦していたフードを外した白い少女が反応薄くも地味にドン引きしていたり。白い少女は現れなかったが、シゲルとシューティー、そして再起したシンジがハテノの森で無双したり。フューチャー団の最終的な目的が判明しなくとも、彼らが伝説系統のポケモン達を狙い失敗し続けている以上、優勢は明らか。

「N、これまでご苦労でした」
「ゲーチス……?」

 ニヤリと笑みを浮かべるゲーチスは全く追い込まれているように見えない。それに彼は今、まるでNを切り捨てるかのような言葉を放っていた。

「人の世に絶望して戻ってきた、などという戯言をこの私が本気で信じていたとでも?」
「――ならば、なぜ?」

 Nは一瞬で警戒を身に纏う。彼の智略の厄介さは自らの人生そのもので証明されている。ならばもしかしたら、自分がスパイとして潜り込んでいることだけでなく、彼らの劣勢すら彼の策の内なのでは、

「貴方は実によく向こうに情報を流してくれていました。――おかげで方針転換後の計画は非常に順調でしたよ」

 あちらに戻って伝えなさい。――まずは世界への見せしめとして、世界中に中継しながら堂々と決闘をしかけてあげます、と。
 ▼ 172 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:11:31 ID:J.ZsGOLw [16/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 そもそもフューチャー団は伝説のポケモン達の捕縛と洗脳を狙ってはいたが、自警団ソラの結成やフードの女などの存在や、現れない伝説のポケモンなどの様々な状況を鑑みて早急に方針転換を行っていたらしい。

「方針転換後のフューチャー団の目的は、命が、心があるポケモンではなく、反逆されるリスクのない機械兵器での支配だそうだ」

 そしてそのためのエネルギー自体は最初の博物館の襲撃で得ていたこんごうだまとしらたまで充分補える。それでもなお、失敗する戦力差で、否、成功しても大した意味のない伝説にまつわる地への襲撃を繰り返していたかというと。

「君たちの戦闘データを集め、利用すること。それが彼らの襲撃の本当の目的だったんだ」

 Nの報告に、臨時の所属先である国際警察の者は頭を抱えたそうだ。
 だが実際に戦闘を担う若きトレーナー達は違う。正々堂々ではないだろうが、見せしめという目的なら力勝負の戦闘が主となるだろう。それは寧ろ、

「ハッ、好都合でしかないな」

 シンジが鼻で嘲笑う。

「同感だね、真っ向から叩き潰すのは寧ろこっち側の得意分野だ」

 シゲルがニヤリと脚を組む。

「見せしめという目的上、敵にとって正面突破は必須事項だ。闇討ちができないやり方を選んだのは彼らのミスだね」

 シューティーがクスリと優位を示す。

 決戦はもうすぐ。場所は、セキエイ高原だ。
 ▼ 173 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:12:22 ID:J.ZsGOLw [17/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 決戦の日、セキエイ高原のフィールドにて。自警団ソラの面々とフューチャー団の者達が向かい合う中、彼女もまた戦場に降り立った。

「来たわね、元フード女」

 ハーリーの苦々しい呟きにも動じず、白い少女は相変わらず意思の薄い瞳で洗脳状態のメロエッタを従えている。

「さあ、とっとと始めようか! 蹴散らせ機械共!」
「貴方達には我々の礎となっていただきます」

 アオギリの獰猛な笑みと、ゲーチスの酷薄な笑みが揃う。足並み揃えたように見せかけて、冷たく笑ったマツブサは――、

「では我々も手筈通りに、裏切らせてもらいます」
「全員、一斉にまもる!」

 ホムラの指示で下っ端達により繰り出されたポケモン達が、一斉に張った防御で初撃は防いだ。

「なに!?」
「貴様ら、何を……!」
「残念だが、彼らは元よりこちら側だ」

 動揺する敵に、ワタルは無情に告げる。厳密には初めから協力していたわけではなく、途中から協力的な意思を把握したのだが、フューチャー団としては些細な違いだろう。そして、
 ▼ 174 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:13:04 ID:J.ZsGOLw [18/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「バシャーモ、ブレイズキック!」
「ポッチャマ、バブルこうせん!」
「ラルトス、ねんりき!」

 熱して、冷やして、壊す。

「ギャラドス、かえんほうしゃ!」
「ヌマクロー、みずでっぽう!」
「ストライク、きりさく!」

 熱して、冷やして、壊す。

 嘗てロケット団のさんにんぐみに日参ペースで襲撃され撃退していた面々にとって、それぞれの技専用に特化した対策もないただ強力なだけの機械など大したものではなかった。
 そしてそれは機械を壊し慣れている面々だけではない。

「ブラッキー、サイコキネシス」
「エレキブル、かみなりだ」
「ジャローダ、ソーラービーム」

 純粋に強いトレーナー達にとって、この程度の敵など強力な一手でごり押しするだけで充分だった。
 機械仕掛けの敵の数も多かったが、多くのトレーナー達が、コーディネーター達がここには集まっている。数は多少自警団ソラの方が少ないが、スタミナ切れになるほどの差ではない。戦力の質で充分な程度の数の差しかなかった。

「メロエッタ、ハイパーボイス」

 そうして最後の敵の機械が崩れ落ちた。
 
 長引いた社会不安や多くの襲撃の割に、決着はあっけないものだった。
 ▼ 175 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:13:41 ID:J.ZsGOLw [19/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 フューチャー団の者達が逮捕され、あとは謎の白い少女のことだけだとなったそのときだった。突然力を失ったかのように崩れ落ちた者が、一人いた。

「シゲル!?」
「大丈夫? どこか怪我でも……!」

 崩れ落ちた彼、シゲルは無双していたように見えたが、もしかして途中で何かあったのだろうかと駆け寄る面々。だが彼はゆるりと手を振って。

「いや、大丈夫。ただ……笑いを堪えるのってすっごいしんどいねえ……」
「はあ……?」
「笑い……?」

 一体どこに笑うような状況があったのか、誰もが疑問符を浮かべている中。シゲルだけはもう堪える必要のないとばかりにクスクスと笑いを零しながら白い少女に向かって歩いて行って。
 そうして彼女の前に立って、笑い疲れなど感じさせまいと少し嫌味に笑う。

「まったく、状況が状況だったから堪えていたけどね、明日は顔面筋肉痛確実だよ。どうしてくれるんだい?」

 ――サートシくん?
 ▼ 176 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:14:30 ID:J.ZsGOLw [20/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「――――!?」
「うそ……!?」
「サトシ……!?」

 彼女――否、彼は黙ったまま一つのボールを手に取りポンと放る。出てきたのは、ノーマルとひこうのタイプである――、

「フォルルル」

――強力なエスパー能力を持つ、ヨルノズク。

 彼の目が青く輝いた直後、彼の意思の薄い瞳は輝きを取り戻しメロエッタの洗脳状態も解除された。
そうして豊かなバストと思われていた所がもぞもぞと動き、襟元から黄色い頭がぴょこり。

「チャァー」
「久しぶり、みんな!」
「ロメッ!」

 聴きたいことはたくさんあった。なぜメロエッタを洗脳していたのか、そもそもなぜ行方をくらませていたのか、だがそれよりも――、

「ピカチュウの!! 隠し方!!」

 まさかのまさか過ぎて唖然騒然だった。
 ▼ 177 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:15:40 ID:J.ZsGOLw [21/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 そもそもの話、サトシは一年前の時点であるポケモンを通じて自分と自分に縁ある伝説のポケモン達が狙われていることは知っていたのだ。そうして姿を隠しつつ保護してまわっていたところで自警団ソラの発足を街中の街頭テレビで知り、サポートするべく姿を現していたらしい。

「メロエッタの洗脳は、サトシだってバレないためのカモフラージュとしてメロエッタが考えた作戦でしゅ。メロエッタほんにんがいいって言ったんだからとやかく言われる筋合いはないでしゅ」

 マサトが気にしていた青い髪飾りは、反転世界へ通じる出入口として渡されたものだそうだ。そこから現れたシェイミが生意気な話しぶりで一蹴する。

「確かに、サトシの女装が凄いって知ってる俺達も洗脳してるってことでサトシである可能性が頭からなくなってたな……」

 タケシの言葉に、カスミとハルカとアイリスが頷いた。そしてサトシにも軽く暗示がかかっていたのは本人がボロを出すことを防ぐための、落ち着きやすくする程度のものらしい。

「私がボールに収まったのも、暗示ではなく単に彼が名乗ったため、信じて任せただけさ」

 そうルギアが微笑んだ。だがシュウはひとつ、納得できないことがあった。

「じゃあなんで君はラルースシティで機械の電源いきなり落とすなんて暴挙働いたんだい?」
「え!? あれ駄目だったのか!?」
「駄目に決まってるだろう!?」

 だがこれに関してはサトシと旅をした面々については納得している。あの暴挙は単純に機械音痴ゆえの所業だったのだ。
 そしてケンジのスケッチブックを、絵を見ただけで本人に迷いなく届けられたことも。情報を全て集められていたのではなく、元々知っている仲間内の人間だったためのことだった。

 終わってみれば結局、大したことなかったのだ。
 ▼ 178 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:16:28 ID:J.ZsGOLw [22/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 答え合わせが終わって、ワイワイと賑やかな面々から一歩離れたところでサトシとピカチュウはそっと呟く。

「ありがとう、ダークライ」
「ピカチュ」
「…………」

 彼らの陰が揺らめき、一年前――サトシが姿を消す前日に彼の元に知らせに来てくれたダークライが姿を現した。

「…………いいのか」

 僅かに気遣うような空気を感じて、けれどためらいなく頷く。

「これは、さんにんだけの秘密でいい」

 ダークライは一年前、悪夢を通じて教えてくれた。自分の無事を信じて戦っていたみんなの、最後の決戦のとき。とっくのとうに物言わぬ骸になっていた自分とピカチュウの躰が放り投げられ、失意の中で蹂躙されてゆく仲間達の姿。それが、サトシが徹底的に姿を隠していた理由。

「だってあれは、もう絶対にこない未来だから」
「ピッカ!」

 だから決して訪れることのない最悪のイフは、さんにんだけの内緒話。

 サトシとピカチュウは一年前と変わらぬ笑顔で、仲間達のもとに戻っていった。
 ▼ 179 NIV2AxL4Mg 23/10/12 17:16:54 ID:J.ZsGOLw [23/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
よし、終わりです!
 ▼ 180 ンプク@はつでんしょキー 23/10/12 17:53:02 ID:K2RY4lZ. NGネーム登録 NGID登録 報告

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