【SS】「タイムゲート・トラベラー」小説版　建て直し

前スレ
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前スレの分もコピペはしますが一応

スピアーが飛び去るのを、キョウヘイはしばらく眺めていた。

この世界で見付けた優しさ。

彼は、一生それを忘れる事はないだろう。

よし、と呟いてキョウヘイも振り返る。

そして、海岸を目指して1歩を踏み出した。

4章　パスト・アンド・フューチャー　完

レディアンは、イライラと待っていた。


レディアン「全く……こんな時間に呼び出したのは誰よ」


打ち寄せる波の音。

昇り行く朝日の光。

それに照らされた、時間転送機。


レディアン「まあ、でも、これであいつは黙り込む。

　　　　　　　過去へ未来へ自由自在。

　　　　　　　それは全部、私の功績」


レディアンには、この時間転送機が、どんな宝石よりも輝いて見えていた。

と、砂を踏む足音が聞こえた。

そちらを振り向こうとして、気付く。

足音を立てるのは、空を飛べないポケモンとニンゲンのみ。

そして、スピアーは空を飛べる。

つまり、これはスピアーではないと言う事だ。

しかし、それならそれで問題だ。

一体誰がこんな所に……、と振り返る。

レディアンの視界に映ったのは、いつぞやのニンゲンだった。

キョウヘイ「お久しぶり」

レディアン「こんな所まで、生きて……。

　　　　　　　あ」


そこでレディアンは気付く。

全てがスピアーの策略なのだ、と。

キョウヘイは、決意をその表情に浮かべていた。


レディアン「気に入らないわね……。まんまとハメられたって訳？」


そう言って不満気に飛び上がろうとするレディアンに、キョウヘイは語り掛ける。


キョウヘイ「逃げるのか？」

その発言は、レディアンを怒らせるには効果抜群だった。

瞬時に沸点まで達した怒りは、しかし冷静に発露する。


レディアン「ふん……。私が逃げるですって？　こんな下等生物に？

　　　　　　　失礼にも程があるわ！

　　　　　　　いいわ……。あなたのその安い挑発、乗ってあげる。

　　　　　　　口封じにもなるしね。

　　　　　　　行けっ！　カラテオー！」


キョウヘイは、ニヤリと微笑む。

狙い通り、レディアンを戦う気にさせる事に成功した喜びがそこに現れていた。

キョウヘイ「ユニラン、ダブラン！　頼んだぞ！」


気心の知れた2匹。

バトルがそこまで強いとは言えないが、それでもキョウヘイの大事な相棒だった。

一方のレディアンは、慈悲などないままカラテオーに指示を出す。


レディアン「マッハパンチ！」

キョウヘイ「ユニラン！　空手王さんを止めろ！」

ユニラン「ゆにっ！」


飛びかかる空手王。それを、念の力で受け止めるユニラン。

力は釣り合っている。

危うい均衡を保ったまま、空手王は宙に浮かぶ。


キョウヘイ「時間転送機は……それだな！

　　　　　　　ダブラン！　こっちに引きずり出せ！」

ダブラン「だーぶっ！」

ダブランのエスパーが、機械を持ち上げる。

レディアンはそれを咄嗟に引き上げようとしたが、己の腕力不足を露呈させる結果に終わった。

結局、機械は引きずり出される。


レディアン「貴様っ！　転送機を返せっ！」

キョウヘイ「返すも何も、これは元々僕が作った物だっ！」

レディアン「仕方ないわね……カラテオー！　転送機を取り返すのよ！」


しかし、空手王は身動きを取れないでいる。

ユニランの力で、動きを封じ込められたままの彼に、機械を取り返すなど、不可能だった。

レディアン「ちっ……。

　　　　　　　カラテオー、貴様、機械を取り返すみたいな命令すら聞けない、ダメニンゲンなの？

　　　　　　　無能は罪、まとめて駆除するわよ？」


その言葉に、動けないはずの空手王の体が震え出す。

見かねたキョウヘイは、叫んだ。


キョウヘイ「何言ってるんだ！　確かに今、空手王さんは何も出来ていない。

　　　　　　　だけど、それはお前がっ！　お前がこいつを縛り付け過ぎているからだっ！」

レディアン「何バカな事言ってるのよ。

　　　　　　　ニンゲンなんてね、あたしたち虫ポケモンに利用されて初めて輝く生き物よ。

　　　　　　　1匹では何も出来ない未熟な生命体なのよ」

キョウヘイ「確かにそうだ。人間は1人では何も出来ないよ。

　　　　　　　だけど……」


様々な光景が現れては消えて行く。

試作品が爆発し、共に髪型をアフロにしたストレンジ。

今目の前で頑張るユニランとダブラン。

心細い中で、それでも前向きさを思い出させてくれたオカルトマニア。

そして、最後までキョウヘイを手伝ってくれた、スピアー。


キョウヘイ「人間は、その分助け合って生きている。

　　　　　　　1人では足りない物を補い合い、支え合う。

　　　　　　　僕は、そんな人間が、いや、そんなヒトが素晴らしいと思う」

レディアン「黙れ……」

キョウヘイ「人間の底力、見せてやる」

レディアン「……仕方ないわね。

　　　　　　　カラテオー！　なんとかしなさい！」


エスパーの力に足止めされた空手王は、しかし恐怖のあまり、火事場の馬鹿力を発揮した。

ユニランの念力を振り切ると、転送機に躍りかかる。


キョウヘイ「ダブランっ！　空手王さんを止めろっ！」

ダブラン「だぶっ！」


キョウヘイは、空手王の事を2匹に任せ、自分は転送機の方に向き直った。

レディアンはあくまでも動かない。

勝機があるとすれば、そこだ。

2対1のこの状況が、勝利の鍵を握っている。

転送機はと言うと、エネルギーを溜めなければ仕様は出来ない状態だ。

未来から過去へ帰るには、その逆よりも莫大なエネルギーが必要になる。

それこそ、雷が落ちる程の。


キョウヘイ「と言う事はつまり……雷を落とせば、過去へ帰れる！」


幸いな事に、未来でエネルギー切れを起こすと言う事は、計算の範囲内だ。

だから、ダブランには雷を覚えさせている。

そして、オーバーヒートを起こしても冷ませるように、雨乞いをユニランには覚えさせていた。

キョウヘイの脳内で、作戦が組み立てられて行く。

それを阻害するように、レディアンの声が響いた

支援

レディアン「自分の意志で勝手に未来に来ておいて、都合が悪くなったらはいさようなら。

　　　　　　　この時代の物を漁るだけ漁っておきながら、身勝手にも程があるわ！」


この発言は、キョウヘイを貫く槍となる。

キョウヘイにも、その自覚はあった。

レディアンは、それを見て、詮索するように続けた。


レディアン「それとも何？

　　　　　　　未来はもっと、ニンゲンが住みやすい世界になっている。

　　　　　　　だから帰りたいとか、そんな事を思う必要もないみたいに思ってた訳？

　　　　　　　貴様らニンゲンが好き勝手してくれたお陰よ、今のこの未来は。

　　　　　　　全く能天気な事ね……。だからダメなのよ、ニンゲンは」

キョウヘイは、うわごとのように呟いた。

違う、違う。


レディアン「まあ、虫ポケモンとしては感謝するわ、ご先祖様。

　　　　　　　あなたたちのお陰で、今があるのだから」


違う、違う。


レディアン「何が違うって言うの？

　　　　　　　もしかして、科学は世界をよくしていくって、無邪気に信じていた訳？

　　　　　　　でも、貴様の研究が、何を変えられるの？

　　　　　　　温暖化を止められた？　食糧不足は止められてないわ。

　　　　　　　結局、科学の進歩がヒトを幸せにするなんて、まやかしなのよ」


キョウヘイは、力の限りに叫んだ。ほとんど勝手に出て来た言葉。


キョウヘイ「……違うっ！」

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>>98
なにこれ

キョウヘイ「確かに科学は、豊かさを保証する代わりに、何かを犠牲にして来たっ！

　　　　　　　けれど、それでもっ！

　　　　　　　ヒトは、前に進まなければいけないんだっ！

　　　　　　　真実を追求し、理解する！　そして、それを暮らしに還元する！

　　　　　　　それが、科学者の理想だっ！

　　　　　　　だから僕は……」


キョウヘイ「未来を変える！」

張り裂けんばかりのキョウヘイの理想。

その圧倒的な勢いに、必死でレディアンは言葉を繋いだ。


レディアン「そんな事無理に決まってる……。

　　　　　　　いや、だが……。

　　　　　　　虫ポケモンですら作れなかったタイムマシンを作った貴様なら……」


その時、不意に、時間転送機が熱を持った。

それを見て、キョウヘイはユニランに雨乞いを指示する。


キョウヘイ「このぐらい計算済みだっ！　ボディの耐熱性能、雨乞いによる気化熱！

　　　　　　　大丈夫、耐えきれるっ！」

レディアン「ケンキューインの修正ね、科学技術の話となると声が大きくなるのは」

キョウヘイ「このタイミングで雷を打ち込めば……」


恐ろしい程の集中力で、キョウヘイの脳は思考を始める。

周囲の状況を一切見ないままに。

今、キョウヘイの脳は、時間転送機だけで占められていた。

そして、それはもちろん、レディアンたちに対する警戒が弱まっていると言う事も示している。

レディアンは、その隙を突いて、空手王に指示を飛ばす。


レディアン「カラテオー！　今よっ！　機械を奪い返して！」


しかし、空手王の体は、動くどころかより一層固定されていた。

もちろん、ユニランとダブランの所為である。


レディアン「なっ！　指示も出していないのに……」


ユニランとダブラン。キョウヘイの大切な相棒。

その間にある絆が、キョウヘイの指示を言葉に乗せないままに伝えていた。


キョウヘイ「よしっ！　大丈夫だっ！」


キョウヘイの中で計算が終わる。

それは、レディアンにとっては、死刑宣告にも等しい物だった。

キョウヘイ「ダブランっ！　雷だっ！」


その指示が終わるか終わらないかの内に、ダブランは転送機めがけて雷を落とす。

先程の雨乞いの恩恵か、過たず雷はそれに命中した。


レディアン「クソッ！　ニンゲンに……ニンゲンごときに……ッ！」

キョウヘイ「もう1発だっ！」

ダブラン「だーぶーっ！」


再び発生した雷。

それは、同じ所に収束する。


キョウヘイ「よしっ……。エネルギー、チャージ完了。

　　　　　　　これで……過去に帰れる！」

支援

レディアンは、うつむいて、何も言わずにいた。

そこに、キョウヘイが話しかける。


キョウヘイ「確かに、僕の行動は身勝手が過ぎた。

　　　　　　　この世界で僕が取った物、返すよ」


レディアンは、それをそこに置けとだけ言って、もう昇った朝日を見詰めた。

しかし、視界の端に映ったそのガラクタの中に、信じられない物が入っているのを見付け、目を見張った。


レディアン「……貴様、命拾いしたな。

　　　　　　　まさか、超進化の石を過去に持って行こうとしていただなんて」

キョウヘイ「なっ……」


しかし、キョウヘイは、今の発言だけで全てを理解した。

この石を持って帰らなければ、虫ポケモンの異常な進化は、引き起こされないのだ。

しかし、それは同時に。

スピアーもまた、生まれないと言う事なのだ。

キョウヘイは一瞬の躊躇を見せる。

しかし。


ダブラン「だーぶ」

ユニラン「ゆにっ！」


この2匹を見て、決意した。

やはり自分には、元いた世界を犠牲にする事など出来ない。

レディアンは、まだ朝日を見詰めている。

キョウヘイは、2匹をボールに戻すと、機械に乗り込んだ。


キョウヘイ「時間転送機、発進！」

時間転送機の発明が、良い事なのか否か、それは、誰にもわからない。

結果としてキョウヘイは未来を変えた。

しかし、変わる前の未来、その中にある幸せを奪ったのも確かだ。

けれど、1つだけ、信じている事がある。

何があっても、人類は前へ進む事を止めないだろう。

だからこそ、一度立ち止まって、考えなければならないのだ。

傲慢ではないか、身勝手ではないか。

人間本位の考え方をしていないか。

それさえあれば。

科学が、人類を間違った道に連れて行く事はないはずだ、と。

――――――――

支援！

「レディアン」

「……何よ。無様な敗者をあざ笑いに来たって訳？」


目の前で笑うスピアーに、レディアンは答える。

しかし、スピアーは飄々とそれに応じた。


スピアー「いいや、違う。俺はお前と、仲直りをしに来ただけだ」


レディアンは、顔をあげる。

そして、スピアーの顔をじっと見詰めた。


スピアー「やめろよ、そんな見るな恥ずかしい」

そのおどけた口調に、レディアンは思わず吹き出した。

もう間もなく、自分たちは消えると言うのに。

その笑顔が、なぜか笑えた。


スピアー「ちょっ、おまっ、まだ笑えたんだ……」

レディアン「私を何者だと思ってたのよ」

スピアー「氷の彫像」

レディアン「カラテオー」

スピアー「すまんすまん。

　　　　　　それにしても、これ、超進化の石だよな」

真面目な口調で問いかけるスピアー。

レディアンも、真剣その物の口調で答える。


レディアン「ええそうよ。あなたが余計な事したばっかりに、私たちはもうすぐ消えるわ」

スピアー「へぇ。なら、最後ぐらいオカルトマニアも自由にさせてやらないと。

　　　　　　オカルトマニア、出て来い」

オカルトマニア「はいはーい。何ですか？」

スピアー「ここから離れてくれ。あのカラテオーと一緒に。

　　　　　　俺たちだけで話がしたいんだ」

オカルトマニア「りょーかい！」

スピアー「あー、オカルトマニア」


スピアーは、優しく話しかける。

ニンゲンに対しても。


スピアー「ありがとな」

オカルトマニア「……はい」


ボールの中で、言葉は聞いていたはずだ。

それを知ってなお、スピアーとの関係性を崩さない。

レディアンと空手王の関係とは、大違いだった。

支援

レディアン「スピアー。私とあなたは、何が違ったんだと思う？」

スピアー「さあ……な。強いて言うなら、他の物を認める心、かな」


体が重くなるのを感じている。

朝日が、2匹の顔を照らし続ける。


レディアン「……私、間違ってたのかな。

　　　　　　　あのケンキューインと一緒にいたポケモン、指示もないのにそいつのために戦ってた。

　　　　　　　心が通じ合ってるみたいだった。

　　　　　　　結局、私はその関係性に負けたの」

スピアー「さあな。そんな事、俺にはわかんねぇ。

　　　　　　ただ、もう少しやり方はあったかもな。

　　　　　　でも、どっちが正しいかを決めるのは、俺たちじゃない。

　　　　　　俺たちの行動を見た、未来のヒトだ」

その発言を聞き、レディアンは、高らかに笑い声をあげた。

スピアーが先程、キョウヘイに見せた物よりも、さらに激しい大笑いだった。


レディアン「何バカな事言ってるの……。

　　　　　　　私たちにはもう、未来なんてないのよ」

スピアー「ああ、そうだな……」


唐突に笑いが止まり、レディアンは叫んだ。


レディアン「ふざけないでよっ！

　　　　　　　私、消えたくないよ……」

スピアー「……そんなの、俺だってそうだ。誰だって……」

スピアー「だけどさ」


そう言って、スピアーは、ニッと笑った。


スピアー「お前と一緒に、こんなきれいな景色を眺めながら消えるなら、それもまた、乙かなって」

レディアン「……バカ」


そこには、もう今までの氷のレディアンはいなかった。

暖かな日の光に溶かされて、そこから滴り落ちた水は目からこぼれ落ちる。

少しずつ薄れゆく相手の姿を見ながら、どちらからともなく唇を重ね合わせた。

5章　ロスト・アンド・リゲイン　完

当SSはこれにて完結です
お読み下さり、ありがとうございました

質問等ございましたらお気軽にどうぞ

面白かったです！お疲れ様でした！

くぅ〜面白かったー
お疲れさまでした

お疲れ様でした〜
面白かったです