【SS】ユクシー「記憶なんて曖昧なもの」:ポケモンBBS(掲示板) 【SS】ユクシー「記憶なんて曖昧なもの」:ポケモンBBS

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【SS】ユクシー「記憶なんて曖昧なもの」

 ▼ 1 目のワニノコ◆WaitStCgv. 16/07/01 16:32:00 ID:X.eAkX.. [1/24] NGネーム登録 NGID登録 報告


ユクシー「…」

少年「…」


ある日、住処に帰ると一人の人間の少年が眠っていた。

いや、倒れていたと言った方が正しいのかもしれない。

少年は傷だらけの身体を横にして死んだように眠っていた。


ユクシー「…」

少年「…」

ユクシー「…」

 ▼ 2 WaitStCgv. 16/07/01 16:32:59 ID:X.eAkX.. [2/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ユクシー「…」スッ

少年「う…」

ユクシー「…!」

少年「ううう…」


私が起こそうと手を差し伸べると、少年は眠ったまま唸った。

きっと悪夢でも見ているのだろう。

簡単に起きてくれそうにもないので、仕方なく私はその場で眠りについた。


 ▼ 3 WaitStCgv. 16/07/01 16:34:05 ID:X.eAkX.. [3/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


次の日。

私はゆっくりと目を覚ました。


ユクシー「…」

少年「…」スゥ…スゥ…


…少年はまだ眠っていた。

昨日と打って変わって静かな寝息を立てている少年を、私は起こすことなく見守った。


ユクシー「…」

少年「…」

ユクシー「……」
 ▼ 4 WaitStCgv. 16/07/01 16:34:43 ID:X.eAkX.. [4/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


しばらくして、少年は目覚めた。


少年「…」

ユクシー「…ようやく目覚めましたか。」

少年「…?」


眠たげに目をこすった少年は、不思議そうな顔をして辺りを見回した。

そして、ここはどこだと言わんばかりの表情で私を見つめてきた。


ユクシー「…そんな顔で見つめられても困ります。」

少年「…!」

ユクシー「…なんですか?」

少年「ポケモンが喋った…」

ユクシー「何か不満でも?」


少年はますます不思議そうに私を見つめてきた。
 ▼ 5 WaitStCgv. 16/07/01 16:36:06 ID:X.eAkX.. [5/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


ユクシー「…私は頭が良いので人間の言葉くらい理解できます。」

少年「そうなんだ…」

ユクシー「それよりも、何故私の住処で寝ているのですか。」

少年「えっ?」


少年はやはり不思議そうな顔で考え込んだ。

しかし、一向に答える気配はない。

あまつさえ、「憶えていない」とまで言い出したので、見かねた私は言った。


ユクシー「…全く。何故憶えていないのですか。」

少年「何故って言われても…」


少年は困ったように俯いた。

しかし、ここに来た記憶がないというのもおかしい話だ。

多分、記憶を司る私の影響もあるのだろう。


 ▼ 6 WaitStCgv. 16/07/01 16:37:45 ID:X.eAkX.. [6/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



私は少年に問いた。


ユクシー「自分の家はわかりますか?」

少年「……うん」

ユクシー「…帰り道は?」

少年「…それは…」


少年は首を横に振った。

帰り道がわからないとは厄介だ。

どうしたものかと、しばらく考えてみたが打開策は見つからなかった。


少年「…」


不安げに辺りを見回す少年が哀れでならない。

このまま追い出すというのも酷な話だろう。

私は少年に力を貸すことにした。
 ▼ 7 WaitStCgv. 16/07/01 16:39:52 ID:X.eAkX.. [7/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



まずは少年と共に近辺を散歩した。

もしかしたら少年の知っている道に出るかも知れなかったからだ。

しかし、私は少し珍しいポケモンなので、なるべく人目につかない道を歩いた。


少年「…名前、なんていうの?」


散歩中、唐突に名前を聞かれた。

名を明かしても大丈夫だろうか、と思ったが、別れ際に記憶を消してしまえば問題ないだろう。


ユクシー「…私の名はユクシー。」

少年「ユクシー。初めて聞く名前だなぁ」


当然だ。

私と対峙した者は、私に関する一切の記憶を消し去ってきた。

過去に記憶を消し損ねた者に広められ、存在こそ認知されるようにはなったが、それでも認知度は低い方だろう。
 ▼ 8 WaitStCgv. 16/07/01 16:41:35 ID:X.eAkX.. [8/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


少年「…手、繋ごう?」

ユクシー「…手?」


不意に少年は手を差し伸べてきた。

何故に手を繋ぐ必要があるのか。

私ははたはた疑問に思ったが、拒む理由もないので手を差し出した。


少年「えへへ。ユクシーの手、温かいなぁ…」

ユクシー「…」


少年の手は冷たかった。

冷え性なのだろうか。

まだ少し寒いのもあるが、それでも不自然なほどにその手は冷えきっていた。
 ▼ 9 WaitStCgv. 16/07/01 16:42:33 ID:X.eAkX.. [9/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



それからしばらく散歩を続けた。

…が、少年の知る道に出ることはなく、帰る手段は見つからなかった。


少年「…帰れなかったね。」

ユクシー「…」

少年「…ごめんね、ユクシー。せっかく一緒に探してもらったのに…」


帰り道に少年はそう言って謝った。

謝る必要があるのか気になったが、『素直に謝る事ができるのはいいことだよ』とエムリットが言っていたのを思い出した。

つまるところ、この少年は素直で善良な男の子という事か。


ユクシー「…そうですね。」

少年「…」


少年はもうすぐ山に隠れてしまう夕陽を眺めていた。

夕陽に照らされた少年の顔が空と同じオレンジ色になっている。
 ▼ 10 WaitStCgv. 16/07/01 16:44:07 ID:X.eAkX.. [10/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ユクシー「…帰るところが見つかるまで、私の住処で生活することを許可します。」

少年「えっ…?」


突拍子もない私の言葉に不意をつかれたようで、少年は目を点にして私の方を振り返っていた。

あまり好き好んで人間と共同生活なんてしない私だが、今回は特別だ。


ユクシー「… この辺りは夜になると凶悪なポケモンがさまよっています。」

ユクシー「… 野宿は危険でしょう。」

少年「ユクシー…」


まぶたごしに、少年が私を見つめているのがわかる。

その瞳が純粋そのものであることも。
 ▼ 11 WaitStCgv. 16/07/01 16:45:26 ID:X.eAkX.. [11/24] NGネーム登録 NGID登録 報告



ユクシー「…帰りましょう。日が暮れてしまいます」

少年「… うん…!」


私達は歩いてきた道を戻った。

もちろん、戻り道に迷うことなどない。

私は記憶力に関しては誰にも負けない自信がある。


ユクシー「…」スッ

少年「…!」

ユクシー「…。」

少年「…。」


私達は手を繋いで帰った。

私達を照らす夕陽がやけに暖かい気がした。
 ▼ 12 ロリーム@メカニカルメール 16/07/01 16:48:24 ID:wb8Obpek NGネーム登録 NGID登録 報告
こういうss良いな支援
 ▼ 13 SharpKiss◆cuXkGrSILw 16/07/01 16:49:43 ID:tzlduXkU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援ネ
 ▼ 14 WaitStCgv. 16/07/01 16:51:09 ID:X.eAkX.. [12/24] NGネーム登録 NGID登録 報告



次の日。



ユクシー「…起きてください。」

少年「…うぅん…」

ユクシー「…起きなさい。」

少年「あと5分…むにゃ…」

ユクシー「…」


居候を許可した1日目にして、既に少年は我が家のようにくつろいでいた。


ユクシー「…居候は許しましたが、あくまでも私に支障をきたさないという条件付きです。」

少年「……むにゅ?」

ユクシー「……」

少年「………キミは誰?」

ユクシー「……?」
 ▼ 15 WaitStCgv. 16/07/01 16:52:09 ID:X.eAkX.. [13/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


少年が初対面の者と接するような態度をとったのを私はおかしく思ったが、原因はすぐに解明することができた。




私が消したのだ。


……それも、無意識に。



ユクシー「憶えてないのですか……?」

少年「…ポケモンが喋った…」

ユクシー「……………」


「私は知能が高いのです。」


少年「………」

ユクシー「…私はユクシー。この洞窟に住まう者…」



ユクシー「……貴方の帰る場所を共に探す者です。」
 ▼ 16 WaitStCgv. 16/07/01 16:52:49 ID:X.eAkX.. [14/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告











その日から、私と少年の散歩の日々が始まった。











 ▼ 17 WaitStCgv. 16/07/01 16:53:13 ID:X.eAkX.. [15/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告






毎日、毎日、記憶をなくして初対面となる少年。





私は毎朝、名を名乗り、共に帰り道を探した。






幾つものルートを歩き、会話を交えて………





ただ、ひたすらに探した……。



 ▼ 18 イティオ@マグマのしるし 16/07/01 16:53:33 ID:xOilppm2 NGネーム登録 NGID登録 報告
ここまですごい好き
 ▼ 19 ェークル@じしゃく 16/07/01 16:53:57 ID:anEbNWJg NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 20 WaitStCgv. 16/07/01 16:55:51 ID:X.eAkX.. [16/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

そして二週間弱の時が流れた。


ユクシー「…」

少年「…」zzz...

ユクシー「…」


少年の傷はいつの間にか癒えていて、本当の初対面の時のように唸ることはなくなった。

しかし、10日を過ぎても毎日記憶の消去が繰り返されている。

身体の時間は進んでいても、記憶の時間は止まっているのだ。

このままでは、植物状態のような経験をすることになる。


もうそろそろ本気で捜索しないといけないだろう。


ユクシー「……プライバシーに触れることを許してください。」


私は少年の額に手を当て、記憶を探った。

 ▼ 21 WaitStCgv. 16/07/01 16:58:05 ID:X.eAkX.. [17/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ユクシー「…」


少年の回想が見える。

学校の校庭のような場所に、少年と他の子供たち…

白と黒のサッカーボールを持って…


「ほら、サッカーしようぜ!」

少年「…や、やめてよ!」

「なんだよ、ちゃんとトラップしろよな!」

少年「僕はそんなに上手くな…うわあっ!」

「はは、転んだぞ!」

「だっせー! 」

「「はははははは!!」」


白と黒のサッカーボールを持って、少年をいじめる姿。

それはそれは、痛々しい記憶だった。
 ▼ 22 WaitStCgv. 16/07/01 17:02:24 ID:X.eAkX.. [18/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


転んで擦りむいた膝小僧の傷が、初めて少年と出会った時の傷と同じ箇所であることから、それほど遠い過去ではない事が伺える。

この記憶は心に刻まれた深い記憶として、これからも少年の中に生き続けるのだろう。


果たして、この少年は元通りの生活に戻って幸せなのだろうか。

消してしまおうか、こんな記憶。

少年がまた元の日常に帰り、またいじめられる生活に戻るくらいなら………


ユクシー「……」

少年「…」スヤスヤ

ユクシー「…」



私にはどうすることも出来なかった。

どんな記憶でも経験となる。いかなる記憶も消してしまえば経験値は0になってしまう。

それに、部外者の私が干渉するべきことではないことくらい、少し考えればわかることだ。

きっと少年の家族も心配していることだろう。

私は諦めて少年の家に繋がる記憶を探した。
 ▼ 23 WaitStCgv. 16/07/01 17:04:01 ID:X.eAkX.. [19/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



やがて、少年の迷い込む道のりの記憶を見つけることができた。

どうやらいじめの現実逃避に家を飛び出たらしい。

そしてわけも分からず走った結果、私の住処にたどり着いた…と。


家出とまではいかないとしても、これではきっと大騒ぎだ。


ユクシー「……もうすぐ帰れますよ…」

少年「…」zzz...


私は眠る少年に語りかけた。

この少年との別れも近いだろう。


ユクシー「…」


私は少年の手を握った。

少年の手は、やはり冷たかった。
 ▼ 24 WaitStCgv. 16/07/01 17:06:15 ID:X.eAkX.. [20/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



次の日。


少年はいつものように記憶を失くし、いつものように私の事を不思議な様子で見つめた。


その不思議そうに見つめる目が、とても純粋で、とても愛おしい。

いつの間にか、私はこの少年の事が気に入っていたらしい。

今では手放すのが惜しいとさえ思ってしまう。


そんな少年に、私はいつものように自己紹介をし、いつものように手を握った。


私が人間なら良かったのに。


私が人間ならば。私に記憶を消す能力がなければ、こんな異色な『いつも』にはならないのに。

自分の能力をここまで恨めしく思う事になるとは思わなかった。
 ▼ 25 WaitStCgv. 16/07/01 17:07:51 ID:X.eAkX.. [21/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

でも、もうお別れの時間だ。


私が自己紹介をするのもこれで最後。


こうやって、手を繋ぐのも最後。


喋るのも、笑うのも、全部最後。



もう、終わりなのだ。






………少年の記憶を辿った私が、少年を迷い込む前の道まで案内することは容易かった。

 ▼ 26 WaitStCgv. 16/07/01 17:10:23 ID:X.eAkX.. [22/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ユクシー「…この道を真っ直ぐ進みなさい。」

少年「……」


少年にとって私は初対面のはずなのだが、疑いもせずに頷いた。

そんな少年を見た私は、『素直過ぎるところは少し直しておいたいいかもしれない…』なんて、親のような感情を芽生えさせてしまう。


少年「…ユクシーは?」

ユクシー「…」


私は首を横に振った。

少年の心配そうな表情が、私の心を抉る。

本当は私だって一緒にいたい。

でも………
 ▼ 27 WaitStCgv. 16/07/01 17:12:50 ID:X.eAkX.. [23/24] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



少年「……」ギュッ

ユクシー「!」


少年が私の手を握った。

冷たくて、細い手。

ひ弱な少年の手から伝わる力。


少年「…また会おうね、ユクシー!」


少年はそう言って走っていった。

これが最後の別れになるとも知らずに…


 ▼ 28 WaitStCgv. 16/07/01 17:14:22 ID:X.eAkX.. [24/24] NGネーム登録 NGID登録 報告




ユクシー「…」


少年の冷ややかな手に込められた温もりを未だに感じている。

きっと、もう会うことはないだろう。

仮に会えたとしても、その時はまた……



ユクシー「…」



私は少年の走っていった道をしばらく眺めてから、住処へと帰った。


独りぼっちの帰り道は、長く、遠く感じた。



〜完〜
 ▼ 29 ゼリア@レベルボール 16/07/01 17:18:08 ID:ODrVZgn2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 30 クロッグ@シーヤのみ 16/07/01 17:18:36 ID:ODrVZgn2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
……間違えた
乙だ
 ▼ 31 ォッコ@エレベータのカギ 16/07/01 17:18:48 ID:NmDl1BWo NGネーム登録 NGID登録 報告
乙です
 ▼ 32 前欄◆RrLUFtJMHE 16/07/01 17:19:21 ID:OXsHrz9Y NGネーム登録 NGID登録 m 報告
お疲れ様

いいSSをありがとう
 ▼ 33 テッコツ@こだいのせきぞう 16/07/01 17:27:34 ID:04ZNBMNo NGネーム登録 NGID登録 m 報告
良かったで
 ▼ 34 ジスチル@ポロックケース 16/07/01 18:02:50 ID:7VbUCcvQ NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 35 クシオ@ポロックケース 16/07/01 18:17:27 ID:0FHCi5ZE NGネーム登録 NGID登録 報告

良かった
 ▼ 36 ガリザードンY@きれいなぬけがら 16/07/02 00:23:57 ID:xMNh63Wo NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!!
続編も待ってるよ
 ▼ 37 ルキア@たつじんのおび 16/07/02 01:08:26 ID:cCkrNr0Y NGネーム登録 NGID登録 報告
続編を強く期待!
 ▼ 38 ムナイト@ひきかえけん 16/07/02 05:32:16 ID:JR8J8JQU NGネーム登録 NGID登録 m 報告
乙面白かった
 ▼ 40 プリン@ノーマルジュエル 16/07/04 12:29:03 ID:zJ.NkAus NGネーム登録 NGID登録 報告
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