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SS

【寒い日SS】Warm Winter

 ▼ 1 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 21:53:37 ID:GSjXbq2Q [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
真っ暗な冬空の下、私は走っていた。

今は午前3時半。冬じゃなくても真っ暗な時間。

冬休みになってやることがないから毎日家でゴロゴロしていると、最近では真夜中に目が覚めるようになってしまった。

こんな時間でも、ずっと寝ていたせいで体力が有り余っている。

その為、この時間にジョギングをするのは最早日課になりつつあった。

今日も、いるのかな。

心の中でそう呟いて、何かに急かされるように走り続ける。

田舎の道は上ったり下りたり。昼間の私ならとっくに息切れしている所だけど、この時間は自然と疲れない。

坂の一番上、コンビニが見えてくる。

登りきったところ、今走っている道の、コンビニとは反対側。

下に降りる長い階段があって、冷たい金属の柵が置かれている。

その柵に寄りかかり、コンビニから漏れた光に薄く照らされている、見慣れた人影。
 ▼ 3 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 21:57:10 ID:GSjXbq2Q [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「シロナさん」

「あぁ、ヒカリ」

振り向いて、暖かい声で答えてくれるくれるシロナさんがいた。

「こんな時間にお酒なんて飲んで」

ビールを飲みながら返事をしたシロナさんに、少し説教臭いことを言ってみる。

「あら、お酒は体を温めてくれるものだよ?」

もうすぐ朝なのにって意味で言ったんだけど。ていうか。

「ビールの原料は麦ですよ。体を冷やすじゃないですか」

麦が原料のお酒は体を冷やす。見分け方はそれだけじゃないけど、コンビニにも日本酒やブランデーは売っているだろうに。

まぁ、こんな時間に倒れてしまっても誰にも見つけてもらえないかもしれないし、お勧めはしないけど。ここでお酒を飲むことを。

「そういう貴女も結構薄着じゃない?」

「私は走ってますから。むしろ熱いくらいですよ」

シロナさんの隣に寄りかかって、そう答える。

「あ、ほんとだあったかい」

「うわ!手、冷たっ!」

私に触れるシロナさんの手は、氷のように冷たい。温度だけで言うなら今寄りかかっている鉄の柵と然程変わらない。
 ▼ 4 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 22:03:31 ID:GSjXbq2Q [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「でもダメ。汗を冷やしたらどうするの?若いからって風邪をひかないわけじゃないよ?」

それもそうだけど、正論だけど、真夜中にこんなところでお酒を飲んでいる人には言われたくない。

「ほら、マフラー。綺麗だから」

そしてシロナさんは、巻いているマフラーをはずして私に巻き付ける。

「気にしませんよそんなの」

そう言いつつ、バレない程度にマフラーを顔に押し付けて、匂いをかいでみる。

綺麗だと言ってた割に、マフラーはお酒臭かった。

少し、残念かな、なんて。

お酒の匂いが人の香りをかき消しているから、なんて。

しばらく顔にマフラーを押し付けてた。

「……飲んでみる?」

何を勘違いしたのか、微笑みながらお酒を私に勧めてくる。冷やすのはダメでお酒はいいのか…。

「飲みません。未成年ですし」

「3年ぐらいフライングしても大丈夫じゃない?」
 ▼ 5 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 22:11:01 ID:GSjXbq2Q [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「警察のお世話になるのはシロナさんですよ?」

シロナさんは残ったお酒を全部飲み干して、何故か私に抱き着く。

「それは勘弁ねぇ。私もあなたも結構有名だし、ニュースになりそう」

シロナさんはビールの缶をコンビニのゴミ箱に捨てに行く。なぜか私は捕まったまま。

「次の買ってくる」

「ダメ」

まだお酒を飲むつもりのシロナさんを止めて、腕を引いてさっきの場所に戻る。

「飲むならせめてあったかいものにしてください」

真冬のシンオウ地方でさらに体を冷やそうだなんて、そのまま死ねそうだ。

握っているシロナさんの手はまだ冷たいままで、私の身体も徐々に冷めてきている。

空いている方の手で携帯を開き、時間を確認する。

「あ、まだガラケーなんだ。買い替えないの?」

「まだ使えるので」

ほんとは買い替えたいんだけど、お金が足りなくて。

母親に相談したら、『バイトするなりして自分で買いなさい』と言われた。時間は余ってるけど何かなぁ……。
 ▼ 6 ガルデ@ミックスオレ 17/07/03 22:12:23 ID:MhFvICrE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
なんだ最高かよ支援
 ▼ 7 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 22:18:18 ID:GSjXbq2Q [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
時間を確認して、もう少しここに居れそうなので携帯を閉じて空を見上げる。

こんなに星がきれいなのは、田舎の数少ない利点の一つだ。

今が夏ならもう東の空が白んできていてもいいころかもしれないけど、夜明けはまだ先。

特に理由はないけど、夜明け前に帰ることにしているから。

「綺麗ですね」

「そうねぇ」

夜が明けるまでは、できるだけ一緒に居たかった。
 ▼ 8 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 22:19:49 ID:GSjXbq2Q [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「そろそろ帰りますね」

「あ、もう?」

「もう5時近いですから」

「なら仕方ないね。じゃぁ、また」

軽く手を振ってシロナさんと別れる。

帰りは何故が足が重い。行きが軽すぎるだけか。

古びたアパートの扉を開けて、すぐに脱衣所に向かう。

「あ、マフラー…」

シロナさんが巻いてくれたマフラーを、まだ巻いたままだ。

「明日、返そ…」

そう呟いて、マフラーを仕舞っておこうと思ったけどどうやって仕舞えばいいのか解らなかった。

とりあえずハンガーに掛けてみる。落ちそうだけど他にどうすればいいのか解らないのでそのままにして、服を脱いで風呂場に向かう。

走った後なら冷水シャワーが気持ちよかっただろうけど、とっくに体は冷めているし、真冬にそんな馬鹿なことはしない。

暖かいシャワーを軽く浴びて着替えた後、髪も乾く前にベッドに倒れこむ。

「…おやすみ」

──シロナさん。なんて、心の中で続けてみたりした。
 ▼ 9 ムナイト@ヤミラミナイト 17/07/03 22:20:58 ID:OouUsqdE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 10 ロンダ@ヒレのカセキ 17/07/03 22:23:27 ID:w2M6kL1A NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
し、支援
 ▼ 11 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 22:25:53 ID:GSjXbq2Q [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「んむ……」

瞼を貫いて、私の頭の中を光が埋める。

「んぁ、朝…」

昼。

時計を見ると12時半。7時間くらい寝たから丁度いいくらいなのか。

時計の横、日めくりカレンダーを見ると、26日の月曜日。

今日は確か金曜日だったはずだから、正しくなるよう数日分まとめてめくる。

「30日か……」

今年も今日を入れてあと2日。何か思い出してみようと思ったけど、思い出せるのは最近のことばかり。

主にシロナさんの事。今年の私の日常には、それくらいしか変化がなかった。

「大掃除くらいは、してみるかな…」

2日もかかるかはわからないけど、することもないし。

周囲を見渡せば、飾り気のない部屋。

片づけるのが面倒くさいから余り物を持っている訳じゃないけど、ゴミくらいはたまっているかもしれない。

まぁ、たまってなくても掃除機くらいはかけておこう。

そう決めて、まずは昼食の用意にかかるのだった。
 ▼ 12 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/03 22:32:31 ID:GSjXbq2Q [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
本当に掃除機掛けるだけだった…。

後はこたつ布団を整えたり、クッションの位置を直したりした程度。

雑巾で床とかを拭いてみても、4時にはすべて終わってしまった。

普段から綺麗なのはいいことだよね。

自分にそう言い聞かせて、結局またベッドに向かう。

何せ今夜は用事がある。

シロナさんにマフラーを返さなきゃいけない。

だから、確実に起きられる程度には早く寝ておいていいだろう。

携帯の目覚ましをセットして布団をかぶる。

夕食とかのことは、覚えてはいたけど割とどうでもよかった。

シロナさんに会うことしか、考えていなかったから。
 ▼ 13 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:41:52 ID:XmZxO1oM [1/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目が覚めた。

外は真っ暗。時計の針は2時を指している。

いつもより少し早いけど、着替えて、軽く化粧をして外に出る。もちろんマフラーは忘れない。

ジョギングに行くのに化粧が必要なのかはわからないけど、今日はそれだけじゃないし。

そんな言い訳みたいなことを考えて、苦笑しながらマフラーの匂いを嗅いでみる。

お酒の匂いが、少し残っていた。

軽く屈伸してみて、つま先を1回トン、と。

走り始めると、いつも以上に体が軽い。

なんでかな。解らないけどマフラーに手を添えてみる。

いつもの道を駆け抜けて、コンビニに続く坂を上る。

辺りの民家はもう明かりを消しているから、明るいコンビニはとても目立つ。

コンビニの明かりが見えてきて、少しだけ加速する。

いつもの所、何時ごろからいるんだろう。

今日もシロナさんはそこにいた。
 ▼ 14 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:43:39 ID:XmZxO1oM [2/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ、おはよーヒカリぃ」

「まだ夜ですよ」

「朝じゃなくても使ったりするじゃない?」

「目上の人とかにですね。まぁ、それなら意味はあってますか。おはようございます」

お早いお越しにうんたら、みたいな感じだったと思う。

まぁ、私の方が年下だし、正しい訳ではないと思うけど。

「あ、マフラーありがとうございました」

「別に今返さなくてもいいのよ?」

「うわ、酒臭い」

抱き着いてくるシロナさんの手には700mlくらいの瓶。琥珀色の液体が半分くらい残っている。

コンビニの明かりに照らされた彼女の顔は少し紅くなっていて、言葉は割と自然でも酔っているのがわかる。

「てかこれ40度」

確かにビールはダメと言ったけど、こんなに強いのをこんなに。

「あったまるよ?でもヒカリの方があったかいわぁ」

シロナさんが私を抱きしめる力に力を込める。
 ▼ 15 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:45:00 ID:XmZxO1oM [3/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「…シロナさんが酔ってるなんて初めてですね」

「そうだねぇ。結構頭痛いし、あ、吐くものとかはないかな」

「もしかして晩御飯食べてないと?」

「まーねぇ」

とっくに潰れててももおかしくなさそう。

私を解放して、あ、また飲んでる。ストレートで。

「何時頃からいたんですか」

「んー?30分くらい前かなぁ」

30分でそんなに。普通がどのくらいなのかは知らないけど。

それにシロナさんは温まってきたと言っていたけど手は冷たいままだし。

「何か買ってきます」

「あ、私アイス」

場違いなものを要求するシロナさんは無視してコンビニに向かう。

店内を物色してもあまりいいものが見つからなかったので、レジに向かっておでんをいくつか。

「お待たせしました」

「今きたとこー」

冗談を言いながらおでんを受け取るシロナさん。

「あ、いくらだった?」

「奢ります。このくらいなら」

「ダメ。お金を適当にするのは」

「…320円です」

酔ってるくせにちゃんとしてるな。と、少し感心した。
 ▼ 16 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:46:04 ID:XmZxO1oM [4/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シロナさんからお金を受け取って、私もおでんに手を付ける。

おいしい。こんなにおいしく感じるのは寒いからかな。

それとも、独りじゃないから?

シロナさんと一緒だから?

なんて、あり得なくもなさそうだなって思った。

苦笑して、ちょっと顔をそらして、おでんをほおばる。

「ん、ごちそうさま」

酔いが回るのが遅かったのか、私より先に食べ終わったシロナさんはさっきより少し顔が紅い。

「あ、食べにくいですよぅ」

シロナさんが私に抱き着く。

「気にせず、ね?」

物理的な問題なんだけど。まぁ、嫌じゃないし。

少しだけど、嬉しいし。
 ▼ 17 ジョン@ノメルのみ 17/07/04 21:46:21 ID:pHjLShXQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
トヨタ支援タ
 ▼ 18 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:47:28 ID:XmZxO1oM [5/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
空を見上げる。今日の天気は曇り。

星が見えないのは少し寂しい。特に星が好きなわけではないけど。

階段の方を見降ろす。

真っ暗、ではない。僅かに明かりが残ってはいる。

民家の明かりと曇り空、どっちも見ていて楽しくはない。

明日は、晴れるのかな。

そう思って携帯を開く。

ガラケーでも天気予報ぐらいは見れる。

「あ、明日は朝から雪ですよ」

「んー、寒くなりそう」

「あ、重いです」

シロナさんが私に寄りかかってくる。

「それは失礼じゃない?」

正直、余り重くはなかった。反射的に言ってしまっただけで。

流石に全体重を掛けられたら重いだろうけど。
 ▼ 19 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:48:34 ID:XmZxO1oM [6/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まぁ、いいですよ」

嫌じゃないですし。と続けようかと思ってやめた。

「ありがと」

そうして2人で曇り空を見上げる。

「お、雪」

「朝からじゃなかったの?」

「夜はまだ昨日ってことじゃないですか?」

「なのかな」

雪って結構不思議だ。

空は曇っているけど、雪があるだけでとても綺麗に見える。

星空の下で雪が降っていたら、やっぱり綺麗なのかな。

でも星の光って白っぽいから、雪と混ざって、ごちゃごちゃして、わけが分からなくなりそう。

横に目をやるとシロナさんは無表情で、じっと空を見上げている。

ブロンドと雪って結構映えるな。とか思ってみたり。

まぁ、美人だし。雪じゃなくても映えそうだけど。

私も空に視線を戻す。
 ▼ 20 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:49:11 ID:XmZxO1oM [7/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「積もるかな」

「積もってほしいんですか?」

「嫌なの?」

「嫌じゃないですけど」

シロナさんにそういうイメージがなかっただけで。

「積もれば、いいですね」

「うん」

軽く言葉を交わしながら、空を見上げる。

身体は冷えてきてるのに、なんだか少し暖かかった。
 ▼ 21 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:50:32 ID:XmZxO1oM [8/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ふと、体に重みがかかる。

結構重い。本気で寄りかかってきているのか。

「シロナさん?」

返事はない。

「起きてますか」

振り向いてみると、シロナさんがまぶたを閉じている。

寝息が聞こえてきそうなほど安らかな顔をしているけど、こんなところで寝るのは良くない。

「起きてくださいっ!」

「ぅん?」

掛かっていた重みが軽くなって、シロナさんが寝ぼけたような声を出す。

「あ、ヒカリぃ」

私を見つけてすぐさま抱き着く。シロナさんに抱き着かれるのは、もう慣れてしまった。

「寝てましたよ?大丈夫ですか?」

「んー、だいじょーぶ」

大丈夫じゃなさそう。顔紅いし。

どうしようか、なんて考えていたらまた体重がかかる。
 ▼ 22 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:51:24 ID:XmZxO1oM [9/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「こら、寝ない」

「寝てないよー。あ、雪ぃ」

ダメそう。

ここに放置したら死んでしまうかもしれない。同じ話を繰り返すのはかなり酔っている証拠らしい。

「シロナさん、家、来ますか?」

時間を見ながら、そんなことを言ってみる。酔ってるなら来てくれるかも。とか、考えてなくもない。

もちろん1番は、シロナさんを放っておけないからだけど。

「あ、行くー」

軽い調子で、嬉しそうにそう言われた。

「じゃ、行きましょう」

「うん」

呂律は回っているし言ってることも割と普通だけど、足取りはおぼつかない様子。

「転ばないでくださいね」

「ヒカリが支えてくれるからだいじょーぶ」

抱き着いたような体制のまま歩き始めるシロナさん。

そんなにくっつかれると歩きにくい。

でも今日は、帰りなのに、なんだか体が軽かった。
 ▼ 23 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:52:15 ID:XmZxO1oM [10/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「着きました」

「ここなんだぁ。お母さんは?」

「いないですよ。私一人暮らしですから」

自分の家に人が来るなんてどのくらい振りか。2年前に親が来た時以来かな。

「座っててください。水か何か持ってきますから」

「ありがと。こたつつけるね?」

「そのまま寝ないでくださいよ?」

と、注意はしたけど難しいと思うから急いで水を用意する。

水切り籠の中でひっくり返っているコップを軽くすすいで、最後に水を4分の3くらい。たくさん入れると飲みにくいし。

「水、持ってきましたよ。起きてください」

予想通り、シロナさんは眠っている。

予想と違うのは横になっているんじゃなくて突っ伏して寝ていることくらいかな。後で腰痛くなりそう。

揺すると寝言みたいな声は出すけど、起きる気配はない。

仕方ないから後ろから抱えて無理やり体を起こさせると、少し目を開けて、すぐに閉じて私に寄りかかってしまう。

「せめて水、飲んでください」

「んむ、ありがと」

押し付けるように水を渡すと気だるげに瞼を持ち上げて、私に寄りかかったままコップの中身を飲み干す。

心なしか、顔の紅が引いてきた気がした。
 ▼ 24 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:54:44 ID:XmZxO1oM [11/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あ、ちょっとすっきりしたかも」

「よかったです。じゃ、ベッド行きましょう」

とりあえず起き上がらせて、ベッドまで連れていく。

「寝ててください」

「あなたは?」

「私はリビングで寝ますよ」

無論こたつじゃなくてソファで。

お客さんだし、具合が悪いならベッドで寝てもらおうと。

「え?一緒に寝ないの?」

「え、そのつもりだったんですか?」

「ダメなの?」

「いや、まぁ、ダメじゃないですけど」

なんで、ダメじゃないなんて、言えたんだろう。

お酒のせいとはわかっているけど、紅くなった顔で、潤んだ瞳でそんなこと言うのは、ちょっとずるい。
 ▼ 25 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 21:59:27 ID:XmZxO1oM [12/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「でも、狭いですよ?」

「私はそのくらいが丁度いいの」

なんでかな。

「あなたは嫌じゃないの?」

「私は、嫌じゃないです」

なんて、思ってしまうのは、なんでかな。

やっぱりずるい。なんて、シロナさんに言うのは理不尽かな。

「沢山飲んだんですから、トイレ行った方がいいんじゃないですか?」

「そうしよっか」

頭の中では色々考えているけど、言葉は自然と紡ぎ出される。

するべきことを終えて、私の部屋に。

「片付いてるね」

「もう大掃除終わらせたんですよ」

「あ、もう年末か」

「忘れてたんですか?」

シロナさんはベッドに座って、物色するように辺りを見回している。

掃除をする前だったら、シロナさんに部屋の中を見られるのも嫌だったのかな。

他の人に見られるのを、気にしたことはないけれど。
 ▼ 26 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:00:16 ID:XmZxO1oM [13/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ほら、もう寝ましょう」

「うん。おいで」

ベッドの奥に体をずらして、私の方に手を差し出す。

「私は犬じゃないですよ」

とか言いながらも、ベッドに上がるときに、差し出されたシロナさんの手を取ってみたりした。

「おやすみ」

シロナさんが私を抱きしめて、おやすみって言う。

「はい。おやすみ。……シロナさん」

私も答えて、おやすみっていう。大分砕けた言い方だけど。

『おやすみ』って敬語だと、どんな感じになるんだろう。

どうでもいいし、もう使う機会もないかもしれないし。

それは、ちょっと寂しいな。

沈んでいく意識の中で、そんなことを考えていた。
 ▼ 27 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:01:07 ID:XmZxO1oM [14/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
朝、シロナさんより早く起きて、朝食の用意をする。

台所で卵を割っていると、扉の開く音が聞こえた。

「ヒカリ、いる?」

「いますよ。朝ごはん、もう少し待ってください。昼過ぎですけど」

「え、ヒカリ料理できるの?」

「2年近く独り暮らししていますから」

むしろシロナさんはできないのかな。とかは、聞かないほうがよさそう。

料理って言っても、目玉焼きを焼いた食パンの上に乗せただけのものだけど。

「部屋も片付いてるし、凄いね」

元々物がないから、散らかりようがないのだけど。

まぁ、褒められるのは、嬉しい。

トースターから食パンを取り出して、焼いた目玉焼きを乗せる。

「お待たせしました」

「ん、ありがと」

お皿に載せたトーストをもっていくと、シロナさんがこたつで暖まっている。

点けてからしばらくたっているので、こたつはとても暖かい。
 ▼ 28 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:01:49 ID:XmZxO1oM [15/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
寝ないようにするのが大変な程。

「いただきます」

「ん、いただきます」

2人で手を合わせて、食べ始める。

「おいしいよ」

「ありがとうございます」

誰が作っても変わらないと思うけど。

「そういえば外、積もってましたよ」

「ほんと?」

すごく嬉しそう。雪遊びとかはしないだろうけど。

朝食を終えて、食器を洗い場に置きに行く。

帰ってきて、何となく、シロナさんの隣に座る。

「やっぱりこっちのほうがあったかいね」

座ると、シロナさんが私を抱きしめる。狭いのに。

「ちょっと苦しいです」

私の言葉を無視して、抱きしめたまま。朝は抜け出すのに少し苦労した。

「このまま寝ちゃう?」

「身体に悪いですよ?」

「ダメ?」

シロナさんが、ねだるように私を見つめる。

「はぁ…、仕方ないですね」

この人は、やっぱりずるいと思う。
 ▼ 29 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:03:55 ID:XmZxO1oM [16/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ありがと。もう醒めた」

「よかったです」

「それじゃあね」

「ぁ……」

なんか、少し寂しいような、よくわからないけど。

「どうかした?」

原因はわかってる。と、思う。

シロナさんが帰るから。

でも、なんで寂しくなるのかな。

「あのっ」

解らないけど。

「明日、いつもの所、6時半頃……」

いつもと大分違う時間だけど、また会う約束を。

「ん、わかった」

勢いで言ってしまったから不安だったけど、承諾してくれて安心する。

「それじゃあね」

「はい。また」

軽く手を振って、シロナさんは帰っていく。

私は支度をしよう。

まだ、時間はあるけれど。

それでも、早いに越したことはない。
 ▼ 30 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:04:50 ID:XmZxO1oM [17/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「これで、いいのかな…?」

鏡を見ながらくるりと回ってみる。着物の裾がつられて舞う。

ネットで調べてやってみたけど、なんか違和感がある。

押入れに眠っていた、お母さんのお古の着物。

綺麗だけど、そもそもいきなり着物で行って、変に思われたりしないかな。

でも、シロナさんなら、そういうことは気にしなさそう。

苦笑して、扉を開ける。

外はまだ真っ暗。

草履なんてないから、靴は履き慣れたスニーカー。

でも、雪が積もっているし着物を着たままだと走りにくいから、少し早めに出る。

いつもの道。歩きながら携帯を見る。

いつも走っているから歩くとどれくらいなのかわからなくて、少し遅れそう。

歩調を速めながらも、携帯の画面を見つめる。

時間よりも、日付に目が行った。

1月の、1日だ。
 ▼ 31 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:06:58 ID:XmZxO1oM [18/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
いつもの坂。

着物の裾を捲り上げて、滑らないように注意しながら駆け上がる。

「シロナさん!」

「あ、来た」

シロナさんが私の方に歩み寄ろうとする前に、私が駆け寄って横に並ぶ。

「ヒカリ?」

「あっちです」

シロナさんは呼び出された理由とか、気になることはあると思うけど少し強引に、住宅街の向こうにある山を指さす。

「どうしたの?」

「あと少しです」

ちらりと携帯を確認して、すぐにしまう。

二人で並んで、山のてっぺんをじっと見る。

「ぁ」
 ▼ 32 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:08:15 ID:XmZxO1oM [19/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シロナさんが小さく声を漏らす。

山のてっぺんから、白い光が漏れ出していて、すぐに太陽が顔を出した。

1年で、一番最初の日の出。

わざわざ見に来るなんて、何年ぶりだろう。

家族以外の誰かと一緒に見るのは、今日が初めてだ。

「シロナさん」

「うん」

「あけまして、おめでとうございます」

今年の一番最初の挨拶を、シロナさんに伝えたい。

「うん。おめでとう」

「今年もよろしくお願いします。で、その…」

「よろしくね。それで?」

「えっと…、初詣、行きませんか?」

それで、一緒に、行きたくて。わざわざ着物まで着て来た。

「うん。行こう」

その返事を聞けて、少し、安心した。

断られるとか、ないとは思っていたけど、考えてなくはなかった。
 ▼ 33 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:10:03 ID:XmZxO1oM [20/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「じゃ、着物直してあげるよ」

「あ、お願いします」

最後に走ったからか、大分乱れていたみたい。

シロナさんは後ろに回り込んで、着物を整えてくれる。

それだけなのに、なぜかとても満たされているように感じる。

「あ、帯の結び方間違ってるよ」

「え?」

「難しいもんね。直しとく」

帯を半分くらいほどいて、そのまま結び直してもらった。

「できたよ」

「できたならなんでくっつくんですか」

後ろから寄りかかるようにして抱き着かれる。

文句は言うけど、ひきはがしはしない。

嫌じゃないから。

「これじゃ歩けませんよ」

「そうだね。うん。我慢する」

我慢する、っていうことは、抱き着くのが好きなのかな。何となく予想はついてたけど。

誰にでもとかは、やめてほしいかな。

「行きましょう」

「うん」
 ▼ 34 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:11:34 ID:XmZxO1oM [21/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「すごい人」

「そうだねぇ」

「寒いのによく来るものですね」

「私たちが言うことじゃないよ」

でも、空気は冷たいけど、私はなんだか暖かく感じる。

理由は、多分、知ってると思う。

参拝者の列は、意外にサクサク進み、私たちの番が来る。

コロンと、五円玉を投げ入れて、手を合わせる。

お願いすること、何かあったかな。

健康とか、学業とか、その他には。

今年も、シロナさんと、とか。

……そうだといいなって、思う。

「何お願いしたの?」

「……シロナさんは?」

「秘密」

「なら、私も秘密です」

こんなことを、続けられたらなって。
 ▼ 35 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:12:36 ID:XmZxO1oM [22/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ヒカリ」

ふと、声がかかる。

「なんですか?」

「あっち、おみくじあるよ。行かない?」

「あ、行きたいです」

シロナさんと一緒なら。

「手、繋ご?」

シロナさんがそんな、嬉しい提案をする。

「はい。人が多いですから」

わざわざ口に出して、はぐれないようにって。

とっさの照れ隠しのつもり、なのかな。そんな心配は全くしてなかったのに。
 ▼ 36 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:13:36 ID:XmZxO1oM [23/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
自分でもよくわからないけど、手はつなぎたいから手を差し出して。

私の伸ばした手を、シロナさんが取って。

「そうだね」

そうして、指を絡ませて、手をつながれる。

はぐれないためにするつなぎ方じゃなくて。

少し、頬が緩んだ気がして、慌てて引き締める。

「シロナさん、これ、恋人がやるやつです」

とか、言ってみたりはしたけれど。

その手を強く、握り返してみた。






──Fin
 ▼ 37 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:15:20 ID:XmZxO1oM [24/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
短いですが完結です。感想など頂けると嬉しいです。
企画スレ↓
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=623911
 ▼ 38 ィグダ@ディアンシナイト 17/07/04 22:37:53 ID:uRomxIYI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙!
 ▼ 39 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/04 22:45:00 ID:XmZxO1oM [25/25] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>38
乙ありです
 ▼ 40 フーライ@あかいビードロ 17/07/07 06:03:35 ID:jue89U6Q NGネーム登録 NGID登録 報告
書籍化して永久保存したいレベル
 ▼ 41 邪鬼◆31uy.ZcnQw 17/07/07 21:10:43 ID:otvt1RXg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>40
ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです!
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=627163
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