▼  |  全表示71   | <<    前    | 次100 >> |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【寒い日SS】氷下の誓い

 ▼ 1 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:41:10 ID:ObQtkIfg [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
冷たい激流の中で、僕は「何か」を必死に抱きしめていた。

守ろうとしていた、だなんておこがましいことは言えない。

肌を突き刺すような冷たさと恐ろしい程の重さに圧倒され、僕はまともに身じろぎすることさえ出来なかったのだ。


ただ、離れたくないという思いだけがあった。

逃れられない恐怖の中で、まるで母親にすがりつく幼子のように、僕はその「何か」にしがみついていた。それだけだった。



――しかし、目が覚めたとき、僕の記憶は失われていた。
 ▼ 2 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:43:16 ID:ObQtkIfg [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
視界が赤い。
瞼越しの光の眩しさに目を開けると、一面の雪景色が陽の光を反射してキラキラと輝いていた。


(ここは……)

視線を彷徨わすと、見慣れない光景が広がっていた。
高い氷壁が四方を取り囲み、存在する色は雪の白と、日に照らされて輝く氷の青色だけ。


(……ここは、どこだ?)

状況が掴めず、僕は体を動かそうともがいた。
だが、それがまずかった。


ザーーーーーーーーーーーーッ!!


「うわああああああ!」

日差しによって溶けて脆くなっていた雪の塊が崩れ、僕の体は更に深い谷へと落ちていった。
 ▼ 3 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:44:12 ID:ObQtkIfg [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
覆いかぶさった雪を必死で払いのけて顔を出す。
ぷは、と息を吐き呼吸ができることに安堵するも、辺りの様子を見て僕は絶望した。


(……クレバスだ)

クレバス。雪山に潜む恐ろしい罠。
うず高くそびえる氷の壁は、高さにすれば二階建ての建物程度の高さだが、狭い亀裂の穴からは僅かに光が漏れる程度で、見上げた僕の閉塞感を煽った。


(でも、どうして。どうして僕はこんな場所に居るんだ?)

雪の中から這い出し、僕は呻いた。





「僕は……誰だ?」
 ▼ 4 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:45:37 ID:ObQtkIfg [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
背負っていたリュックを開け、中の物を全て出してみた。

物資を確かめる為でもあったが、どちらかと言えば、自身の素性を知るための手掛かりになる物があるか知りたい、という気持ちの方が大きかった。


(……これは、どういうことなんだ)

しかし、小さなリュックサックの中からは、そのどちらの望みも裏切る物しか出てこなかった。



古ぼけた白いラジカセ。

ウイスキーの酒瓶。

時間の止まった懐中時計。


それだけだった。
腹を満たすことも出来ない、暖を取ることも出来ない、なんの見覚えもないただのガラクタだけだった。
 ▼ 5 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:46:54 ID:ObQtkIfg [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
リュックのポケットを一つ一つ探って他に何も出てこないのを確かめると、僕は諦めてその役に立たないガラクタ達をよく調べてみることにした。


まずはラジカセだ。
これはかなり古い携帯式のもので、動力は乾電池だ。

試しにアンテナを目一杯伸ばしてみるも、ラジオの電波は入らなかった。

中にセットされていたカセットテープを再生してみると、安っぽいラブソングが流れ出す。


『会いたい』『どんな時も』『誰よりも』『愛してる』『生まれ変わっても』……

次々と流れてくる、月並みな言葉の数々に眉をひそめる。
どうやら、記憶を失う前の自分とはあまりセンスが合わないみたいだ。


『永遠に一緒』

世界中のラブソングに使い古されたそのフレーズが、今の自分には、酷く憂鬱に聴こえた。
 ▼ 6 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:47:53 ID:ObQtkIfg [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
懐中時計は8時を差したままの状態で止まっていた。

細やかな装飾が施されており、骨董品の知識がない今の僕にも、なんとなく高価だろうと思わせる代物だったが、この厳しい自然の中では動かない時計に価値など無い。


そして残ったのは、ウイスキーのボトルが1瓶。
結局、これが唯一の役立つ物資となった。



(これから、どうすれば良いのだろう)

僕は途方に暮れた。
崖を登る為のピッケルも無ければ、暖を取るためのシェルフも、食料も無い。
自分が何者で、何故こんな場所にいるのかも分からないのだ。


寒さと不安を紛らわせる為にウイスキーをひと口含む。
安酒だが、味は悪くない。

……どうやら、酒の好みだけは変わらなかったみたいだ。
 ▼ 7 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:48:59 ID:ObQtkIfg [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
寒さでジッとしていられない僕は、クレバスの中をうろうろと歩き回った。

しかし、どこを向いても雪の壁しか存在しない。

場所を変え、何度も壁に向かって爪を立ててみるが、ザリザリと表面が削れてしまってとてもじゃないが登れそうになかった。




歩きながら、自分の素性についても考えた。

こんな危険な雪山にやって来た理由は何か。
もし、同行者がいるのならば助けを呼んでくれるかもしれない。
初めはそんな希望も僅かにあった。

だが、異様に少ない荷物とその中に酒が入っていたことから、僕の考えは最悪の結論に至った。
 ▼ 8 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:50:19 ID:ObQtkIfg [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
(僕は、死ぬ為にここに来たのかもしれない)


登山ならばそれなりの装備を携えている筈だ。

それに、この度の強いウイスキー。
冬場に酒を煽って凍死する事件は少なくない。

つまり、記憶を失う前の僕は、酔いの力を借りて自殺するべくここへやって来たのではないか。そう悟ってしまったのだ。




疲れきった僕は足を止めた。
僕が歩くのをやめると、途端にクレバスの中は静まり返る。

ここに、僕以外の生き物は居ない。

改めて孤独を噛み締めた。
 ▼ 9 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:52:16 ID:ObQtkIfg [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
(……このまま死ぬしかないのか)

次第に、諦めの気持ちが心を支配していった。

日は傾き、うっすらと青く輝いていたクレバスの中は、海の底のような深い青に染まっていく。

僕は、雪の壁に背を預けて座り込む。
冷たい。防寒着越しに伝わってくる冷気で背筋が震える。




温もりが恋しい。
残酷にも、僕の失われた記憶は自らの素性に関する部分のみであり、出来立てのスープの温かさや柔らかな毛布の温もりはしっかりと覚えていた。

いっそ、何もかも忘れてこのクレバスの中に投棄されたほうがよかったのに。


何故、こんなことを。

記憶を失う前の自分が恨めしい。
 ▼ 10 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:54:02 ID:ObQtkIfg [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
(寒い、寒い、寒い寒い寒い寒い……)

クレバスの中は、深い青から完全な黒へと変わっていく。


僕は必死に身を縮こませ、震える手でウイスキーの瓶を傾けた。
だが、もはやアルコールを上手く口に運ぶことすら出来なくなっており、ダラダラと零れてしまう。


目の前にはどこまでも深い闇が広がっている。

記憶を失くした僕には、大切な人の顔や懐かしい故郷の幻を浮かべることすら出来ない。



どうして、僕は、こんなところで、
考えても、わからなかった。
 ▼ 11 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:55:08 ID:ObQtkIfg [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



寒い、さむくて全身がいたい。





ひどく、ネムい。
でも、ネむるのはコワい。シにたくない。








くらくて さむくて もう なにもわからない……


 ▼ 12 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:55:51 ID:ObQtkIfg [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



……ぅぅ


こえがきこえる

おんなのひとのこえ

なぜか どこか なつかしい


 ▼ 13 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:56:35 ID:ObQtkIfg [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



……ひゅうぅ


こえ ちかづいてくる

ないてるみたいだ

おばけ かもしれない


 ▼ 14 ◆Co36dbu5ck 17/08/06 23:57:46 ID:ObQtkIfg [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



……の…ぅ


なにかいってる

すぐ ちかく



きみは


だれ?





「メノゥ……」
 ▼ 15 タマロ@でかいきんのたま 17/08/06 23:59:03 ID:Z4ijzq02 NGネーム登録 NGID登録 報告
グレイシア期待したのにユキメノコだったか−
残念
 ▼ 16 レイドル@こうかくレンズ 17/08/07 00:56:11 ID:rm47Gzzk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
させてもらおう
 ▼ 17 ◆Co36dbu5ck 17/08/07 22:41:55 ID:Hs.9Ag5c [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
(……どうしたんだろう。急に、体が楽になった)


気がつくと、突き刺さるような寒さが無くなっていた。

死んでしまったのだろうかとも思ったが、目を開けた僕の視界に「何か」が佇んでいた。


「メノ」


「何か」はそう鳴いた。

白い仮面を付けたような顔。
振袖のような出で立ち。でも、その腕は仮面の横から伸びており、明らかに人間ではない。

幽霊。妖怪。死神。
その異形の存在を表す言葉を探す。

だが、そのどれでもないようだった。
 ▼ 18 ◆Co36dbu5ck 17/08/07 22:42:43 ID:Hs.9Ag5c [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「メノ……」

その「何か」は僕に木の実を差し出した。
梨によく似た小さな実、確か、これはポケモンが好む木の実の一種だ。

……ポケモン。その定義に合点がいく。

この不思議な生き物は、きっとポケモンなのだ。


人間の捨て子が狼ポケモンに育てられたり、遭難者が鳥ポケモンに食料を分けて貰って助かった逸話があるように、僕も運良く心優しいポケモンに出会えたんだ。

胸に温かいものが流れる。
それは、希望だ。


(僕は死にたくない。少なくとも、今の僕は生きたいんだ!)


僕は、目の前に差し出された希望の果実に、思いきり齧り付いた。
 ▼ 19 ◆Co36dbu5ck 17/08/07 22:43:56 ID:Hs.9Ag5c [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「か、かたい……」

だが、寒さに晒されて麻痺してしまった顎では、硬い皮に覆われた木の実を噛み砕くことが出来ない。

はぁはぁと息を吐いてもう一度齧り付こうとすると、ポケモンは木の実を自分の口元に持っていってしまった。

ガリガリと咀嚼音が聞こえる。
仮面の下で、小さな口が上下して木の実を噛み砕いていた。


(……もしかして)

ポケモンは木の実の向きを変えながら何度も齧り付く。

そして、その咀嚼した面を向けて再び僕に差し出した。


(食べやすいように皮を除いてくれたんだ)

その甲斐甲斐しさに思わず涙が滲んだ。
 ▼ 20 ◆Co36dbu5ck 17/08/07 22:45:28 ID:Hs.9Ag5c [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
木の実の表面についたその小さな歯形に、僕は自分の歯を合わせる。

シャク。

中の白い果肉はみずみずしく、一瞬にして口いっぱいに強烈な酸味が広がった。


「う、ゲホッ……ゴホッ!」


酸っぱい!
あまりの味に咳き込み、頬が引きつる。

ポケモンが好む木の実は、人間が食べるには少し味が強過ぎるものが多い。
だから、梨の味を想像して齧った僕は予想外の刺激に面食らってしまった。


でも、その刺激は弱っていた体への気付け薬にもなったらしい。
寒さで動けなかった体が自由に動かせるようになった。
 ▼ 21 ◆Co36dbu5ck 17/08/07 22:48:10 ID:Hs.9Ag5c [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「クスクスクス」

「!」

ポケモンが口に手を当てて笑っている。
どうやら、僕は相当面白い顔をしていたらしい。


(……こうして見ると、結構可愛いな)

第一印象は無機質で幽霊のようなポケモンだったが、そうやって笑う姿は無邪気な少女のようで、仮面の下の顔も案外愛らしかった。


(なんていうポケモンなんだろう)

僕が忘れてしまったのは自身に纏わる記憶だけで、一般的な常識や知識の類は残っている。
検討もつかないということは、元々僕はポケモンに詳しくなかったということなのだろうか。


「メノメノー」

とりあえず、鳴き声から取って「メノ」と呼ぶことにする。
 ▼ 22 ◆Co36dbu5ck 17/08/07 22:49:30 ID:Hs.9Ag5c [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ありがとう、メノ」

恐る恐る手を伸ばして、その頭を撫でてみた。
固く、感触は石膏に似ていた。


「……痛っ!」

頭の両脇に生えた氷の角に触れるとあまりにも冷たくて、手袋越しなのにドライアイスに触れたのと同じような痛みが走る。

手袋を外すと、指先が火傷で真っ赤になっていた。


「メノゥ」

メノは、両腕で僕の手を包み込んだ。

すると、驚くべきことに、指先の火傷がみるみると消えていく。


(そうか。きっと僕が目を覚ましたのもこの子のおかげだったんだ)
 ▼ 23 ◆Co36dbu5ck 17/08/07 22:51:23 ID:Hs.9Ag5c [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……くぁ」

メノはあくびをして僕の膝の上に横たわった。
頭の角に触れてしまいそうで少し怖いが、僕も眠ることにした。

決して暖かくはないが、あの凍てつくような寒さはもう感じない。
このポケモンには、周りの寒さをやわらげてくれる力があるらしい。


……この子が現れてくれてよかった。


僕は安堵感に包まれて眠りに落ちる。




……だけど、一体どうして、僕の所に来てくれたんだろう……
 ▼ 24 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:03:32 ID:ce3gIfHo [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

目を覚ますと、僕の膝の上で眠っていたメノが居なくなっていた。


「……ハックシュン!」

あの子の加護を失くしたせいで、僕は再び厳しい寒さに晒されてしまう。
鼻をすすり、視線を彷徨わせるが、そこにあるのは殺風景な氷の壁だけだ。


(どうしよう。あの子は、メノは、どこに行ったんだろう)

僕は不安に苛まれて立ち上がった。
あの子の姿を探し、辺りをぐるぐると歩き回る。

「おーい、メノ!」

呼んでみるが、返事は帰ってこない。
再び胸に絶望感が渦巻く。

元々、野生のポケモンが行きずりの人間に尽くす義理なんてないのだから、あの子が僕に施してくれたのはただの気まぐれであり、立ち去ることもまた気まぐれなのだろう。

僕はあの子のトレーナーではないので、それを引き留める権利もない。

けれども僕は、こんな場所で急に1人きりにされることなんて、とてもじゃないが耐えられなかった。

僕は、あの子の力がなければ生き延びることが出来ない。
 ▼ 25 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:04:30 ID:ce3gIfHo [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「メノ!どこに行ったんだ!助けてくれよ!」

僕は半狂乱になって叫ぶ。
まるで親とはぐれた幼子のようで哀れな姿だが、またあの恐ろしく寒い孤独な夜がやって来るかと思うと、とてもじゃないが正気でいられない。


(嫌だ。もう死にたくない。助けてくれ。誰か)

ここを出られないまま、再びあの寒さと飢えで苦しむのなら、いっそ昨晩のうちに眠りこんでしまえばよかったのに……

絶望と後悔が入り交じり、僕はへたり込んで涙を流す。


すると、


「クスクスクス」

笑い声が上空から降ってきた。
見上げると、メノが口元に手を当てて笑っている。
その片方の腕には、昨晩僕にくれた木の実が抱えられていた。


(僕は見捨てられたわけじゃなかったんだ。よかった!)

喜びのあまり抱きつくと、メノは迷惑そうに目を細めた。
 ▼ 26 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:05:10 ID:ce3gIfHo [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
二度目に食べる木の実は、味を知っているお陰でそこまで顔をしかめずに済んだ。
爽やかな酸味の果汁が喉を潤してくれて心地よい。


「……」

メノは、僕が木の実を食べるのをジッと見つめている。

親が子を見守るような、そんな気持ちなのだろうか。

仮面の下の表情は無表情のままで、イマイチその意図が組み取れない。


「……なあ、君はさっき飛んでたよな」

「メノ?」

何となく、この木の実を食べ終えたのを見届けたら、メノはまたどこかへ消えてしまうのではないかと思った。

だから、僕は木の実を食べる手を止めて、彼女(多分メスだと思うけど本当のところは分からない)に話しかけてみた。
 ▼ 27 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:06:21 ID:ce3gIfHo [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「僕はここから出たいんだ。ここから……そう、あの上に行きたいんだよ」

「メノメノ?」


クレバスの裂け目に向かって指を差す。
メノは釣られて上を見た。
雲一つない殺風景な青空が雪の隙間から覗いている。

正直、ポケモンに人の言葉が通じるのか、トレーナーとしての記憶が無い僕には半信半疑だ。

ましてや、メノは野生のポケモンだ。素直に言うことを聞いてくれる保証なんてない。


「僕が君に掴まってるから、さっきみたいに飛んでくれないか?」

「メノー」


メノはゆっくりと首を傾げた。
表情は変わらず、無機質な瞳が僕の目をジッと見ている。


(……どうしよう。通じていないのか)

焦りと不安がこみ上げる。
 ▼ 28 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:07:17 ID:ce3gIfHo [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……メノ」


僕の希望もむなしく、メノはこちらに背を向けてしまった。
ふよふよと宙を漂い、僕から離れていく。


「待ってくれよ!」

「メノッ!」

「痛っ」


慌てて捕まえようとすると、袖のような腕に叩かれる。


「ヒュウウゥ……」


メノは、女性の泣き声のような不気味な声を出し、こちらを冷たい目で睨んでいた。
その姿に、ぞくりと背筋が震える。

優しいポケモンだと思っていたが、どうやら気難しい種族のようだ。

下手に動くのは危険だと判断した僕は、その場で様子を伺うことにする。
 ▼ 29 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:07:58 ID:ce3gIfHo [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
メノはしばらくの間その場に漂っていたが、やがて一際甲高い悲鳴を上げた。


「ヒュゥゥゥゥゥゥ!!」


その悲鳴とともに、クレバスの中に氷雪が吹き叫んだ。


「うわあああっ!」

凄まじい吹雪に僕はたまらず声を上げた。
強い風と乱れ散る雪に息も出来ない。

吹き飛ばされそうになる体を必死に堪え、地面にしがみつく。


真っ白な視界の中で目を凝らすと、吹雪の中で舞い踊るメノの姿があった。


気まぐれで、時に優しく、時に苛烈。
そんな移り気な性質はまさに雪山の精霊のようだった。


(僕は、ポケモンではなく、もっと恐ろしいものに出会ったのだろうか……)
 ▼ 30 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:08:40 ID:ce3gIfHo [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「メノ!」

気がつくと吹雪は収まっていて、半分雪に埋もれかけていた僕をメノが掘り起こした。


「何するんだよ、もう……」

悪態をついて起き上がった僕は、目の前に広がる光景に息を飲んだ。


断崖絶壁だった雪の壁に、人間が登れそうな氷の段差が出来ていたのだ。


「こ、これは、もしかして……メノ、僕のために……」

「メノゥ」

驚いてメノの方を見ると、彼女は相変わらず感情の読めない瞳で僕を見つめていた。
 ▼ 31 ◆Co36dbu5ck 17/08/12 11:09:18 ID:ce3gIfHo [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
段差の一つに手をかけ、よじ登る。

雪を氷で固めて作られたそれは、しっかりとしていて崩れる心配はなさそうだ。
滑り落ちないように気をつければ問題ないだろう。

ゆっくりと、一段づつ慎重に踏みしめて登っていく。


徐々に外の世界が見えてきた。
光に照らされた氷がキラキラと眩しく輝く。


側ではメノが音も無く宙を舞いながら着いてくる。
もし滑落したら助けてくれるつもりなのだろうか。


「……っと、」

最後の足場に手をかける。
そして這い上がり、かじかむ指先を光の方へ差し伸ばし、地上へと躍り出た!



ギラッ


僕の体にとっては久しぶりの――記憶を失った僕にとっては初めてとなる太陽の日差しが視界を貫いた。
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=649077
  ▲  |  全表示71   | <<    前    | 次100 >> |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!

(消えた画像の復旧依頼は、お問い合わせからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼