【ss】不死鳥ネイティオのお話:ポケモンBBS(掲示板) 【ss】不死鳥ネイティオのお話:ポケモンBBS

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【ss】不死鳥ネイティオのお話

 ▼ 1 匹の羊◆QsVrxuaWuk 17/09/22 21:18:20 ID:ZOJHO2zM NGネーム登録 NGID登録 報告
死を有さないというのは

得てしてとっても退屈で

すごく寂しいものなのですよ

でもあなたがそばにいてくれるのなら

私も生きながらえたいと思うのかもしれませんね



――――

男「ふー、この辺りかな」

男「やれやれ、山道ってのは何度歩いても慣れないもんだ」

男「さて、と……」

──とある深い山の奥に

一人佇む男の姿があった

男「ここいららしいが……」

男は何かを探すように視線を巡らせ

ふと立ち止まって目を上げた
 ▼ 75 ース@パワーレンズ 17/12/30 16:42:49 ID:L4i7ne3g NGネーム登録 NGID登録 m 報告
支援
 ▼ 76 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/01/13 02:02:57 ID:ID3RoMAI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
ネイティオ『はい』


なんだか嬉しかった

嬉しいと自分は感じているなと、ネイティオは思った


なぜだか潤みそうになった目を細め

笑顔を新しい主人に向ける

しかし当の主人は、どこかぎこちなさげな顔をしていた


男「しかしそうなると大変だな……」

男「俺は、ポケモンを捕まえたことがない。今までずっと一人で旅をしていた」

男「こんなこと初めてだからな……」

そんなことを呟きながら首をひねっている


やっぱり私はお邪魔でしょうか……。なんてことを尋ねようとして

男の顔を見て

それがなんとも楽しげな表情にだったから

それもやっぱり杞憂だと思ってネイティオは


ネイティオ『大丈夫ですよ』

とだけ言った


男「大丈夫って?」

男が聞き返してくる


ネイティオ『私は食べ物も水も必要とはしませんし、どんな無茶をしたって死ぬことだけはありませんから』

言ってる間に可笑しくなって、ネイティオは思わず笑いだしそうだった


男「そうか……? 便利なもんだな……」

ネイティオ『はい。旅をするって結構大変なんでしょう?」


ネイティオがたずねると、そうだなぁと言って男は歩き出した
 ▼ 77 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/01/13 02:27:01 ID:ID3RoMAI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――


男「どっこいせ」

木製のベッドが軋んだ

男「久々のベッドだなぁ」

一本足の円卓

こぢんまりとしたクローゼット

部屋には簡素な装飾が施されている


ネイティオと男は、丘を少し先へ行った町の、小さな宿屋にいた

二階建ての南の窓からは、もう日の沈んだ海が見える


ネイティオ『それで、その七十人の海賊に囲まれた後、その後どうなったんですか?』

目を輝かせてネイティオが訪ねてきた

天井の傘の着いた照明ランプは、その顔をややオレンジに染めている

男「ふふふ、そこから先はお楽しみだ」

ベッドに腰を下ろし、男は人差し指を口にあてた

ネイティオ『ええー! なんでですか! 気になりますよ!』


この宿にたどりつくまで、男はネイティオといろいろな話をしていた

これまでの話もしたし、今の思いも話し合った

これからのことも、少し話した


男「なぜならば、まだ構想を練っている途中だからだ!」

ネイティオ『ええ!? 作り話だったんですか!?』

男「そりゃそうだろう。このご時世どこへ行っても平和なものだからな」

ネイティオ『えー……。私てっきり本当にあったことだとばかり……。続き気になりますよ……』

男「はいはい。宿に着いたら、これからのことを話すって言ったろ?」

ネイティオ『そうですね……。はい。そっちの話も気になります』


少し窓を開けると、潮風が吹き、照明ランプが揺れ始めたので

また窓を閉じて、男は話し始めた


男「いろいろ考えたけどな、俺はこれから帰ろうと思う」
 ▼ 78 QsVrxuaWuk 18/01/27 21:39:29 ID:CwsNet3Y [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ネイティオ『帰るって……、あなたのおうちにですか?』

男「うちというか、いわゆる拠点、だな。そこを目指す」

「帰る」という男にネイティオは聞いた

ネイティオ『じゃあ、あなたの旅はここで終わりということですか?』

男は頷く

男「まあそうだな。もともと長い散歩みたいなつもりだったし、とくに目的があったわけでもないしな」

ネイティオ『そうですか……』

残念そうにするネイティオに対して、男はなにを残念がるんだという調子だった

男「帰るって言っても、帰り道が冒険にならないわけじゃないからな?」

ネイティオ『あ』

ネイティオはハッとした

ネイティオ『たしかに……。そうでしたね』

それもそうだ、帰ると言っても道はたくさんあるはずだ

だいたい、ネイティオにとって「初めての外出」は、「旅」に相違ないのだから


男「べつにそれでいいだろ? お前にとっちゃ"旅"になるだろうし」

ネイティオ『ほんとですね』

男にもそう言われて、ネイティオら少し恥ずかしげにおどけてみせた

男「それとも"そらをとぶ"で帰るか?」

ネイティオ『え、それは……』

男「冗談だよ。明日から、また歩いて帰る。それで決まりだ」

ネイティオ『……はい!』


呪いの鳥の山を出て、この人と旅をする

今から楽しみで、ネイティオは心踊らせるのだった
 ▼ 79 QsVrxuaWuk 18/01/27 21:55:34 ID:CwsNet3Y [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
水面に浮かぶ月が窓から見えたころ、男は懐かしそうにベッドに潜り

男「じゃ、おやすみ」

と言って寝てしまった

もう寝息が聞こえている


眠る必要もあまりないのだが、ネイティオは胸がわくわくしてなかなか寝付けなかった



翌朝

まだ霧のかかる街の中

男とネイティオは宿を発ち

西へ向かって歩いていった

東の空から、太陽が登ってくる

朝露が煌めき、靄が晴れて、やがて北風が吹き始めると

草花がまるで海のように、さざ波を立てて揺らいでいった


ネイティオ『それで、これからどこへ向かうんでしたっけ?』

男「どこへででもいいぞ? 追手ももう、いないだろうしな」


ネイティオは、なんだかとっても楽しい気持ちで

男の隣を歩いて行く


これからどんな

どんな素晴らしいことが待っているのだろう

そんな思いを馳せながら
 ▼ 80 ロベルト@トレジャーメール 18/01/27 22:29:43 ID:WSYkB5Ms NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 81 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:27:00 ID:kLjLdL2. [1/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
それから

男とネイティオは、いろんな場所を見て回った


知らなかった景色

知らなかった音色

知らなかった味

知らなかった文化に触れて


毎日が、本当に夢のようで

楽しくて

明るくて

とっても綺麗だった


ネイティオの過ごす悠久の時の中で

その短い瞬間は、瞬きするほど光っていたから


ずっとこの時間が続いてほしいと

隣を歩く男を見て、ネイティオはそう思うようになっていた
 ▼ 82 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:27:30 ID:kLjLdL2. [2/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
たくさんの人々に会って

たくさんのポケモンを知った

太古の遺跡や大きな宮城も見た

素晴らしい発見も、驚くような未知も、奇跡のような出会いも

何もかもに出会って

そして触れ合った


やがて陸の終わりまで来ると

男と一緒に海を渡った

世界はまだまだ広がっていた



男「でもなネイティオ、旅ってのはいつか終わるものなんだぜ」


ふと、男がそんなことを口にした


のんびり退屈な船旅を終えて

もう目的の場所に着く頃だった
 ▼ 83 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:28:41 ID:kLjLdL2. [3/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ネイティオには、どうもその言葉は、素直に飲み込めなかった


ネイティオ『そんなっ。終わってしまうのですか? こんなに楽しいのに』

男「お、楽しかったか? そりゃ良かった。でもそう、すまないがここで一度旅は終わりだ」

ネイティオ『そうですか……。あ、でも、「一度」ということは、もう一度があるということですねっ』

男「おう。当たり前だろ? 旅なんてまた行きたい時に行けばいい」


それはそうだ

始まれば終わらない旅はないし

終わればまた始めても良い


男「馬鹿みたいにずっと旅なんてしてたら、いつか金も底を尽きるし、何より体がもたない」

男「こんな歳になれば尚更な」

ネイティオ『じゃあこれからは貯蓄の期間ということですね!』

男「……まあそうだな」

ネイティオ『よぅし! 働いて働いて、貯めに貯めて、次の旅はもっと素晴らしいものにしましょう!』

男「……」

一人で浮かれるネイティオを、ちょっぴり呆れたような目で見つめて

男は少し口を噤んでから

男「そうだな」

とだけ笑って言った
 ▼ 84 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:29:32 ID:kLjLdL2. [4/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
男「お前、元気だよな」

ネイティオ『ふふふ。まあ生命力なら誰にも負けませんよ!』

えっへん。と言いたそうな顔をネイティオがすると

なんだ、もうあまり心配することもないなと男は歩き出す


向かうは男が暮らす家

これからは男と自分の家になるのだ

ネイティオは、それもすごく楽しみだった
 ▼ 85 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:30:00 ID:kLjLdL2. [5/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
数日後

男とネイティオは、ある一軒家の前にいた


ネイティオ『ここが旅人さんの家ですか!』

男「うんまあ。長く開けるから大したもんは置いてないし。たぶんホコリが酷いと思うけど……」


一人で住んでいたにしては、若干大きすぎるような立派な家だった

きつね色になった丸太と茶褐色の三角屋根とでできた簡素な見た目で

庭なのか草原なのか分からないが、広大な敷地に、周りに他の家もない中で、ぽつんと建っている


ネイティオ『大きなおうちですね!』

だが、目にはしていても初めて訪れる民家というものに

ネイティオはそういった感想しか抱けなかった

男「まあな」

男は軽く生返事だけして

それからこれも木でできた扉の鍵を開けた


ギィと木の軋む音がして、家が真っ黒な口を開けた
 ▼ 86 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:30:32 ID:kLjLdL2. [6/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
男「荒らされた様子はないみたいだな。良かった」

ネイティオ『おおっ。これがおうちの中ですか!』

ネイティオは中に入るなり目をきらきらさせている

ネイティオ『私、ちょっと探検してもいいですか!』

男「好奇心旺盛なのはいいけど、あんまりはしゃぐなよ。……やっぱりホコリがすごいから」

ネイティオ『分かりました!』

そう言って駆け出してしまった


男「さてと……。休みたいけどまずは掃除だな。とりあえずキッチンと寝る部屋だけでいいか……」


ホコリをかぶった物置から、ほうきを取って

フローリングを掃き出し

ホコリをかぶった雑巾を水に浸して

テーブルを拭き取り

ホコリまみれのベッドをはたき

それを天日干しにする


うっすらと白くなったネイティオが

止まらない咳とクシャミを訴えながら帰って来た頃には

ようやくくつろげるくらいに、部屋が綺麗になっていた
 ▼ 87 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:30:55 ID:kLjLdL2. [7/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
男「ずいぶん長いこと探検してたな」

ネイティオ『と、途中で……ックシュ! 迷っちゃいまして……ヘックシュン!』

男「……。そうだな。風呂、入るか」


大急ぎで風呂場を洗い、お湯を沸かした

この家の風呂場は離れにある

数年前に男が自分で作ったものだ


ネイティオ『おお! ここがお風呂場ですか!』

男「はいはい、洗ってやるから、お湯に浸かるのはそれからだ」

ネイティオ『本当にこんなお風呂を一人で造ったんですか?』

男「ま、な。昔は大工もやってたし。ほら、体洗うぞ」


旅をしている間に、温泉などにも入っていたので

ネイティオにとって風呂に入るのは初めてのことではなかったが

今日入るこのお風呂は、なんだか別格のように思えた
 ▼ 88 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:31:33 ID:kLjLdL2. [8/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ネイティオ『ふぁぁ……。いいお湯ですねえ……』

男「肩まで浸かれよ」

ネイティオ『もちろん浸かりますよ』


身も心も、癒され休まり清められる

至福のときだ


ネイティオ『ところで、昔は大工さんだったとおっしゃいましたよね?』

男「ん? ああ、まあいろいろやってたからな」

ネイティオ『今は何をしてお金を稼ぐんですか?』

男「絵を描いてそれを売るんだ。旅をして回った場所の」

ネイティオ『絵ですか。それは素敵ですね』

ネイティオはまた、目を輝かせている

男「この家も画廊を兼ねてやってる。作業部屋も掃除しないとだな」

ネイティオ『すごいですね! なんでもできるんですね!』

男「なんでもできたら苦労しないさ。絵もまあ、ぼちぼちだしな」


目を輝かせたまま、ネイティオの話は続く

ネイティオ『作業部屋ですか。お掃除、私もお手伝いしますよ!』

男「おう」

ネイティオ『それにしても、このおうちすっごく広いですよね!』

ネイティオ『鍵のかかってる部屋もありましたし、地下室もどこまであるのか分からないくらい続いてましたよ!』

男「怖いものなしだな、お前は」

ネイティオ『何もないって言ってましたけど、面白そうなものも見つけましたよ!』

男「そうだなあ。じゃあ次は案内してやるよ。これからしばらく住む家だしな」

ネイティオ『はい!』
 ▼ 89 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:35:01 ID:kLjLdL2. [9/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
他愛もない会話をして、その日も終わる時間が来る

そこで気がついた

ネイティオの寝床を用意するのを忘れていた

男は、ネイティオに、ボールへ入ってくれないかと言おうとする

でも、やっぱりベッドってふかふかですねとはしゃいでいる顔を見ると

なんとも申し訳ない気分になった

男はなぜかこのネイティオが、ただのポケモンではなく

まるで人間のように思えてしまうのだ

言葉を話すからだろうか


そんなことを思っていても仕方がないので、旅で使う寝袋に収まろうとしていると

やはりネイティオに、何をしているのかと尋ねられた

男「こっちの方が落ち着くんだよ」

そう言うと、怪訝な顔をされたが、納得してもらえたようだった



眠りに落ちる瞬間、これまでの旅はまるで夢のようだったとネイティオは思った
 ▼ 90 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:35:37 ID:kLjLdL2. [10/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
それからしばらく

ネイティオがこの家に来てから、ずいぶんと時間が経った

ネイティオはもう、この家の隅から隅まで知り尽くし

男は今は画家となり、日銭を稼いでいる

旅をして着想を得た作品は、それなりの顧客と、それなりの値がついた



さらにしばらく時間が経つと、また、旅をする為の資金が貯まる

まだ行ったことのない地へと赴いては、たくさんの思い出を作った

そうしてその度に、家はホコリを被って待ってくれているのだ

そんな暮らしを、ずっとずっと繰り返した
 ▼ 91 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:36:13 ID:kLjLdL2. [11/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
そのうちに

いつの間にか

男の顔にはシワが増え

髪が白くなっていく

西に行けば四年経ち

東に行けば五年経ち

ある日、男は言った

もう、旅は終わりだと
 ▼ 92 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:37:38 ID:kLjLdL2. [12/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ネイティオはもちろん嫌だった

なぜなのかと問いただしもした

でも、うすうす分かってはいた


男「ネイティオ。今までありがとうな」

男「お前はきっと、これからもずっと生き続けるんだろ?」

男「分かってたことだけど、やっぱり、このままお前のそばにいてやれないのが俺は残念だ」


ネイティオ『……本当にもう、旅はおしまいなんですか』

ネイティオは訴えるのだ

ネイティオ『私は……悲しいですよ。あなたかいなくなってしまったら』

ネイティオ『できることなら、こうしてあなたと旅をする時間が、ずっとずっと続いてほしいです』

ネイティオ『こうしてあなたと過ごす時間が、永遠になってほしいのです』


男は少しはにかんだ

男「そうか。悲しんでくれるか……。悲しませてしまう……よな。ごめんなネイティオ」

男「でも俺はな、まだ死ぬつもりなんてないぞ。少しでも長く生きて、少しでも長くお前といてやる」
 ▼ 93 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:38:09 ID:kLjLdL2. [13/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
男は、生涯を通して孤独だった

誰とも組まず、仲間を作ることもなく

妻を娶ることも、家族に会いに行くこともしなかった

ネイティオだけが、唯一の仲間で、家族。パートナーと呼べる存在だった


それからまた、しばらく時間が経った

ネイティオに寄り添われ、男は生きている


やがて、糸がプツプツと切れるように、男の足が動かなくなった

旅をしていた、逞しかった相棒が、ついに事切れたのだ

それから、筆を持って絵を描いていた腕も、力なく下がり

美しい景色を数多映してきた目も、程なくして光を失った
 ▼ 94 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:38:41 ID:kLjLdL2. [14/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
男「ネイティオ。俺の声はまだ聞こえるか?」

ネイティオ『聞こえますよ』

テレパシーで応じる

耳が聞こえなくなることと、声が喉を通らなくなることだけは、障害にならなかった



ネイティオ『今日のご飯は久々にお肉ですよ』

男「ああ、お前の飯はいつも美味いな」

ネイティオ『何言ってるんですか。あなたが教えてくれたことですよ』

時が流れていく



男「そう言えば、お前も声が出ないんだっけか。こんな感じだったのか?」

ネイティオ『こんな感じってどんな感じですか。……いいんですよ、声が出なくたって』

止まる気配はない



男「もう何も見えないけどさ、やっぱりお前は、昔のまんまなんだよな」

ネイティオ『そりゃあ私、これでも不死ですから』

男「今となっちゃ羨ましいよ。不老不死か……」

ネイティオ『そんな素晴らしい力ではありませんよ。やっぱり、呪いの力です。私にかけられた、戒めの呪い……』

ネイティオ『死ねないということは、ずっと別れを繰り返すということです。誰かの死を、傍観し続けなければならないんです』

ネイティオ『不老不死は、永遠に孤独になる呪いです。悲しいんですもん……』


男「……。ごめんな。もう嫌な思いはさせないって誓ったのにな」

ネイティオ『でもっ。私は、あなたといられてとっても楽しかった。あなたが好きだったから、一緒にいられて幸せだったんですよ』

男「幸せだったか……」

男「ネイティオ、俺が死んだら、俺のことなんて忘れてくれ。お前の永い人生だ。過去にとらわれるのが一番ダメだっていうからな」

男「悲しいことは忘れて、幸せだけを探すんだ。そうしてくれ」

ネイティオ『馬鹿なこと言わないでください。あなたと一緒にいられたことは、私にとって今までで一番の幸せです』

ネイティオ『きっと忘れたりなんかしませんよ』

永遠に生きるネイティオにとっても

時間はやはり残酷だった
 ▼ 95 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:39:10 ID:kLjLdL2. [15/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


季節は春

新芽の緑があたたかい風に揺れている

茶色い丸太の大きな家で、長い長い時間が経った

男は、もうテレパシーにも応じなくなった







早咲きの黄色い花が咲いていた






……
 ▼ 96 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:39:40 ID:kLjLdL2. [16/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





──アイツも死んだな


なにか聞こえますね


──しぶといと思ってたんだけどな


声……? でしょうか


──意外とあっさりだったね


なんだか嫌な思い出がある声ですね……


──それに引き換え呪いの鳥よ


呪いの鳥……? そんな言い方されるのは久しぶりです


──お前は何年経っても変わらないな


なんだか引っかかる物言いですね……


──やはり素晴らしいものだ。不死の力……


ん? 待ってください、今なんて言いました?


──さあ急がなければ。やっと、やっと見つけたのだから


あなたは、もしかして…………





 ▼ 97 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:40:19 ID:kLjLdL2. [17/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





ネイティオ『はっ』


簡素な木の墓標の前に、黄色い花が手向けられている

ネイティオ『ああ……。居眠りしてしまったみたいですね』

場所は、男とネイティオが暮らした家のすぐ裏

日当たりの良い草原の一間

ネイティオ『旅人さん、私もうそろそろ帰りますね。嫌な夢を見た気がします……。しっかり戸締りしなくては……』




ネイティオは、まだこの家で暮らしている

主人を失った人間の家に、いつまでいられるかは分からないが

ただ一日中ぼーっとしたり、たまにお風呂を沸かしてみたり

あの山に住んでいた頃と、あまり変わらない生活をしていた


腹が空いたり、眠くなったりすることもないが

この家は居心地がよかった
 ▼ 98 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:40:38 ID:kLjLdL2. [18/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
その夜、ネイティオはなんだか寂しかった

寂しくて寂しくて、叫び出してしまいそうな夜

久々に、ゆっくりベッドで眠ろうか


そう思って、ふかふかの掛け布団に潜り込んだ

懐かしい匂いがした

旅をしていた頃は、いつもこの香りが近くにあった


昼間の居眠りのせいだろうか

なかなか寝付けない


カタリ

何か音がする


それでもやがて、頭にもやがかかるみたいに

ゆっくり眠りに包まれた
 ▼ 99 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:41:40 ID:kLjLdL2. [19/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




──惨めな最後だったな

──歩けなくなり、書けなくなり

──やがて感じなくなった


ネイティオ『旅人さんのことですか?』

ネイティオ『なんであなたがそんなことを知っているんですか』

誰だっただろう


──知っているさ

──どれだけ長い時間が経ったと思っている?

──人間は成長するんだ


ネイティオ『また私から力を奪い取りに来たのですか?』

ネイティオ『不老不死は呪いだと言ったでしょう』

また? 言った? 誰でしたっけ?


──やっと追いついたんだ

──譲ってくれてもいいだろう?


ネイティオ『嫌です! あなたには渡せません!』

ああ、ああ

思い出しました

この声

この嫌な声はたしか……

 ▼ 100 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:42:06 ID:kLjLdL2. [20/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




「ヨマワル、"のろい"」


嫌な汗が吹き出てきた

目は開く

でも体が動かない


ああなんで、こんな……こんな



呪術師「ひさし……いな……。待ちわびたぞ……この時を」

たどたどしい口調だった

あの日聞いたあの冷たい声は

さらにおぞましさを増していた


呪術師「こっちが……見えるか……?」

ネイティオ『ずいぶん、久々のご登場ですね……』

頭だけそちらへ向ける


やはりこの男にも同じ時が流れていたのだろう

あのときの面影を少し残して、年老いた顔があった

杖をついている

枯れ木のような細い体

骨と皮ばかりでしわしわの顔

風が吹いたら倒れそうで

もうぼろぼろになっていた
 ▼ 101 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:42:36 ID:kLjLdL2. [21/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



呪術師「醜い姿だろう……。お前には分かるまいがな……」

ネイティオ『……』

呪術師「長かった。有限の時間だがそれでも長かった……」

呪術師「お前らに飛んで逃げられてからというもの……ぅゴホッ、ゴホッ……」

咳き込んでいる

ヒュウヒュウという息切れも聞こえる

呪術師「いや……、与太話はやめよう……。もう時間がない……」

ネイティオ『私を……どうするつもりですか』

呪術師「これから……お前を呪い殺す」

ネイティオ『殺す? なぜです?』

呪術師「不死の呪いの奪い方は、至って簡単で難しかった……」

呪術師「それは……、被呪者を殺すこと……。ハァ……そうすれば、殺したものに呪いが移る……」

ネイティオ『そんなことができるのですか?』

呪術師「できるとも……。ボクは力をつけた……」

ネイティオ『今にも死んでしまいそうなその体で……?』

呪術師「黙れ……! お前もあいつと同じように死ぬ……! 自由を奪い、光と音を奪って、あの男のもとへ送ってやる……!」

ネイティオ『旅人さんのもとへ……』


ネイティオはふと思った

あの人のところへ行けるのなら

それもいいかもしれない

そうだ、もしこの男が私を殺してくれるなら

それはそれで……


 ▼ 102 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:43:09 ID:kLjLdL2. [22/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



呪術師「ヨマワル……また"のろい"だ」

小柄な死神は、黒いオーラのようなものを放った

身体の拘束が強まる

あの日大空を飛んだ翼は、ピクリとも動かない


呪術師「もう一度……次は目だ」


大きな瞳から、光が失われていく

視界が、徐々に徐々に曇る

最後に見たのは、暗い天井だった


呪術師「次は耳だ……。それから声……。いや、声はもう出ないのか……」

音が消える

完全に真っ暗だ


あの人は、ずっとこんな風だったのだろうか

だとしたら、私がテレパシーを使えて本当によかった……


呪術師「ヨマワル、もういい……。最後は……ボクがやらなければ……」

呪術師「不死者の殺し方は知ってる……。全身を封じ込め……、その後で心臓を……ぅ、ゴホッ……ゲホッ」


ネイティオ『そんなに、不死の力がほしいのですか?』

呪術師「っ……テレパシーか……。それは封じられない……」

ネイティオ『そこまでして、なぜあなたは不死になりたいのですか?』

呪術師「五月蝿い……。必要なんだ、その力が……」
 ▼ 103 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:44:39 ID:kLjLdL2. [23/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ネイティオは、知りたかった

いつもそばにいて、なんでも教えてくれた男はもういない

ずっと近くにいたいと思っていたのに

死ねばそばに行けるのなら、そうしたいとすら思う


ネイティオ『そうですか……。私にはもう必要ないですけれどね……』

呪術師「だったら……はやくよこせ……!」

ネイティオ『ええ。どうぞとって行ってください。でも、本当に悲しいものですよ。こんな力』

呪術師「うるさい……!」

ネイティオ『私は……、あなたのこれからに同情しなくてはいけないのかもしれませんね……。生への執着は、醜いものですよ』

いつの間にか、そんな言葉を口にしていた

正確には、テレパシーで飛ばしたのだが

そんなことを言ったことに、ネイティオは自分でも少し驚いた

呪術師「うるさい五月蝿い、煩い!」

目の前の嗄れた男は、ひしゃげた声で激昂した

呪術師「必要なんだ! お前の力が! ボクは死なない! 死にたくない! 死なずに、生きて、生きて! いつか誰よりも生きて! いつか、いつか……神に……」



ネイティオに聞こえたのはそこまでだった

ネイティオが死んだわけではない

テレパシーが途切れた

というより、呪術師の声が途切れたのだ
 ▼ 104 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:45:13 ID:kLjLdL2. [24/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


何が起こったのかネイティオには分からなかったが

目の前にある、苦しむ感情だけは伝わってきていた



床に転がり、もがき、喘ぐ

苦しい、苦しい

息ができない

目の前が真っ白になる

息が、息が

死が

嫌だ嫌だ

死にたくない死にたくない死にたくない

死ぬのは




…………
 ▼ 105 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:45:34 ID:kLjLdL2. [25/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ヨマワルが、ボールから出てきた

何かを探るように、もう動かなくなった主人の周りを廻る

やがて、その探していた何かを見つけたかのような素振りを見せて

それを抱えるようにしたまま消えて行った
 ▼ 106 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:45:55 ID:kLjLdL2. [26/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


何も見えず、何も聞こえないまま、ネイティオはじっとしている

できるのは、考えることだけ

楽しかった記憶を、何度も何度も反芻することだけ

それだけだった

それ以外は、闇しかなかった
 ▼ 107 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:46:17 ID:kLjLdL2. [27/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ふかふかのベッドに磔になって

あたたかい朝の日差しを浴びる

風がそよいでいる

ふわふわの雲が動いていく


時が、また流れた

目を瞑ったまま、ふっくらしたベッドの上で

何も感じないまま

 ▼ 108 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:46:50 ID:kLjLdL2. [28/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


不思議なことに、その家には誰も訪れることがなかった

ただ、ただひっそりと、そして非常にゆったりと

ネイティオは生きていた


雨が降る

稲妻が走る

雪が積もる


もうどれほどの時間が経ったのでしょう

この家は、朽ちてしまったでしょうか

お墓は荒れていないでしょうか

あの人は、静かに眠っているのでしょうか

私は、いつまでこうして生き続けるのでしょうか


 ▼ 109 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:47:13 ID:kLjLdL2. [29/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
残留思念すら、朽ち果て。

無垢な記憶は、死に絶える。

こそばゆい光は、頬を撫でるだけ。

大きなガラクタみたいな、冷たい箱の中にある。

思い出と、枯れた音色と、枯れぬ身と。

見えず聞こえず知れぬ世界が。

繋ぎ留められ動けずに。
 ▼ 110 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:47:56 ID:kLjLdL2. [30/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ああ、ここに木が生えて

大きく育ち咲き誇り

私を空まで運んでくれたら

そうしたらどんなに素敵でしょう……

声よ、音よ、どうか、どうか

何もかもの永遠がどうか

私の中で、消えることのないように



そう願う








──不死鳥ネイティオのお話── 完





 ▼ 111 匹の羊◆QsVrxuaWuk 18/02/18 22:50:39 ID:kLjLdL2. [31/31] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
このお話はここで終わります
もし読んでくださったのなら、こんなお話にお付き合いいただき、どうもありがとうございました

こんなSSですみません
ネイティオとも、またお会いできたら
 ▼ 112 レセリア@かざんのおきいし 18/02/18 23:57:57 ID:aLdsgXZ6 NGネーム登録 NGID登録 報告
 ▼ 113 ラミドロ@ハーバーメール 18/02/20 12:58:38 ID:8wnJjnYM NGネーム登録 NGID登録 m 報告


男とネイティオに幸あれ
 ▼ 114 ニョニョ@ももいろはなびら 18/02/20 14:47:35 ID:qLm0rSYc NGネーム登録 NGID登録 m 報告


綺麗な話だった
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