【非スワップSS】テールナー少年の憂鬱:ポケモンBBS(掲示板) 【非スワップSS】テールナー少年の憂鬱:ポケモンBBS

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【非スワップSS】テールナー少年の憂鬱

 ▼ 1 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 20:34:54 ID:FbsIRgCU [1/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
凄い。
頭いい。
天才。

どれもこれも、僕に付きまとって来た評価。

幼い頃から、勉強がよくできた僕に、母さんはもっともっとと勉強を押し付けて来た。

父さん曰く、姉ちゃんには普通だったというから、やっぱりこれは、僕が悪いのだろう。

僕が、よくできたから。だから母さんは、変わった。

だけど、本当は苦痛だった。勉強なんて、もう嫌だ。そう叫んでしまえれば、どんなに楽だっただろう。

結局、僕にそんな勇気はなかった。姉ちゃんが1匹立ちし、父さんが死んじゃって、家には僕と母さんだけ。

そんな中で、そんなことを言えるとは、到底思えなかった。

代わりに、僕を救ってくれたのは、姉ちゃんがもう着なくなった、服の数々だった。

僕、姉ちゃんになりたい。姉ちゃんなら、純粋に、頭とか抜きで愛してもらえるのに。

そんな風に心にへばりつく囁き声が、僕をそそのかした。

服に袖を通すと、すっと気が楽になった。姉ちゃんになれた、気がした。


誰にも言えない、僕の趣味。女装、すること。


溜まりに溜まった憂鬱の発露は、そんな不自然な形で起こったのだった。


これは、そんな僕、テールナーを照らしてくれた、淡く優しい光の物語。
 ▼ 38 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:00:57 ID:FbsIRgCU [2/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
6

眠い目をこすりながら学校へ向かう。

昨日のあの出来事のせいで、よく眠れなかった。母さんから大丈夫と訊かれたけれど、それだけ。

あくびをかみ殺しながら教室で待機していると、ルークが声を掛けて来た。


「よ、テール」

「おはよ、ルーク」

「どうした、3時間しか寝てないみたいな顔して」

「いや、なんか眠れなくってさ。今はしばらく寝よっかなってとこ」

「おう、じゃ、ほっとくぞ」

「サンキュ」


そう言って、ルークは別の友達の輪に入って行った。俺は、そのまま机に突っ伏し、睡眠時間を確保した。
 ▼ 39 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:01:32 ID:FbsIRgCU [3/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
ローネの方が、気になる。

授業中も、チラチラ視線を向けていた気がする。

彼女は、普段となんら変わることのない態度で授業を受けていた。

僕のことを誰かに言いふらすつもりは、毛頭ないらしい。

もっとも、疑っていた訳ではない。彼女は、そんなところで嘘を吐くタイプには見えなかった。

授業が、少しだけ、上滑りする。眠りが足りないのか、雑念のせいか。
 ▼ 40 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:02:14 ID:FbsIRgCU [4/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
そういえば、ダイキが声を掛けて来ない。

それに気が付いたのは、昼休みに弁当を頬張っている時だった。

今日一日、あいつと会話していない。その違和感が、ふっと、頭をもたげた。

何も変わったことは起こっていないし、あいつも他の面では異常なしだ。

ただ、なぜか話していない。

何かしただろうか。悶々と悩んでもどうしようもない気がして、僕は、ダイキに話し掛ける。


「おーっす、どうしたダイキ」

「あ、て、テール」


わかりやすく、動揺している。どうしたんだろうか。


「何? 僕の顔になんか付いてる?」

「い、いやそういう訳じゃねぇけど……ごめん、ちょっと今日呼び出し食らってて。それじゃ」


そう言って、立ち去った。見え見えだ。

ショックではあるが、受け入れざるを得ないらしい。

なぜか、ダイキに避けられている。
 ▼ 41 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:02:45 ID:FbsIRgCU [5/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
見ていたルークが、声を掛けてくる。


「どうした? あいつ、なんか変だけど」

「さあ……ルークもわかんないの?」

「うん」


少なくとも、土曜の文化祭の時点では何もおかしくはなかった。

昨日一日、あいつとは会っていない。

だけど、朝来た時には既に、ダイキに避けられていた。

……どういうことだろう。

誰にも指摘されない以上、バレた訳ではないと思う。現に、ルークはこうやって話し掛けて来る。

だとすると、本気で原因がわからない。

何があったのだろう。
 ▼ 42 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:03:32 ID:FbsIRgCU [6/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
結局その原因はわからないまま、今日の学校は終わりを迎えた。

部活にも出たが、ダイキも僕も、何も話さなかった。初めは間を取り持とうとしていたルークも、徐々に諦めモードに入っていた。


「なんなんだよあいつ」


次第にルークのニュアンスは、怒りに近いものになっていく。

けれど僕は、怒る気には、なれない。悪意というより、ダイキの顔にある感情が、戸惑いに近いものだったから。

だからきっと、何か理由があるんだと思う。例えば……あの夜、見付けていたのはローネだけじゃなかった、とか。

バラすのも忍びないが、上手く会話もできないとか、そんなんだろうか。

それならまあ、筋は通る。

ただ、本当にそうなのだろうか。

そんな考えを持て余したまま、僕は家路に就いた。
 ▼ 43 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:04:04 ID:FbsIRgCU [7/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「それはないと思うよ」


公園で、ローネがそう言った。

行かないという選択肢は、弱みを握られている僕に、初めから残されていない。

だから、指示された通り、夜の公園へ向かう。

街灯が薄く辺りを照らしている。それを暗いと感じた僕は、尻尾の枝を取り出して灯りをともした。

そして、問うたのだ。「ダイキが見ていなかったか」、と。

彼女は少しだけ離れて、すぐに戻って来たと思ったら、開口一番そう言った。


「なんで?」

「ボディーガードの気違いがそう言ってた。あたしに近付いた奴は、全員記憶してるけど、いなかったって。

そもそも、ダイキってこの辺に住んでるんじゃないでしょ? 遠くから、電車」

「ああ、まあそれはそう」


そういえば、そうだった。この学校には、そこそこ遠くからもポケモンやニンゲンが集まって来る。

ダイキも、その御多分に漏れず、だ。引っ越しまでして来た僕や、寮に入っているローネの方が圧倒的少数派。

だからこそ、僕はほかならぬ彼女に見付かったのだけれど。

というか、何その「気違い」さんは。シンプルに怖いんだけど。

聞いてもどうせはぐらかされるような気がして、僕は黙り込んだ。


「でも、気になるな、その謎も。ダイキ、ニンゲンだよね」

「ああ」

「ニンゲンの論理に立って、考えてみないといけないのかもね」
 ▼ 44 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:04:23 ID:FbsIRgCU [8/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「会ってない間に何かが変わるって、ニンゲンならあるのかよ」

「わかんない。だけど、あたしは知ってる。ニンゲンとポケモンは、これでもかって程、違う。まあ、これでもかって程、同じでもあるんだけど」

「ふうん」


ニンゲンインパクトの当事者に言われてしまうと、反論のしようがない。

彼女は、考え込むように手を顎に当てていた。


僕も僕で、思考をニンゲンに併せようと努力した。

けれど、駄目だった。僕は、ポケモン。ポケモンの論理からは、いくら天才だったとしても、離れられない。

それができるのは、僕の周りでは恐らく、彼女ぐらいなものだろう。

けれど彼女は、ふうっと息を吐き出すと、僕に向かって申し訳なさそうな視線を向けた。


「ごめん、これ、あたしにもわかんないや」

「いいよ、別に。答えが返って来ると思ってた訳でもないし」


それで、今日のところはこの話は立ち消えになり、そして、彼女はそのまま帰って行った。

また明日、ここでと言い残して。
 ▼ 45 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:04:48 ID:FbsIRgCU [9/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌朝以降も、結局ダイキとの不和は治らないままだし、ローネはローネで見事なまでにいつも通り。

ルークは、僕とダイキの間に入ることは諦めても、それぞれに交流はしているらしい。


「俺がやめたら、なんか本格的に、俺らがマズイことになりそうな気がしてさ」


そう言って笑い、快活に2匹の間を渡り歩く彼には、本当に感謝の念しか起こらない。

けれど、ダイキはそれでも、僕に話し掛けては来なかった。

僕から話し掛けてもどうにもならないし、諦めて彼を待つ。

女装がバレた訳ではないから、とりあえずは待つだけだ。

特に僕に落ち度があるという訳でないのは、ルークが確認してくれた。完全に、向こうの問題らしい。

そこから先は、教えてもらえなかったという。


「サンキューな、ルーク」

「いいってことよ。なんだかんだ言って、俺ら部活メイトな訳じゃん。お前らが仲悪いと、俺もやり辛いしな」

「……マジ、ありがと」

「おいなんだよ! 照れんだろやめろ!」
 ▼ 46 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:05:18 ID:FbsIRgCU [10/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
それからしばらくは、そんな日常が続いた。ローネとの深夜の会話も、ダイキにまつわる愚痴が多かった。

彼女は、それを聞いて満足しているらしい。

本当に、彼女の狙いがわからない。

ただ、間違いなくいい変化がひとつある。

母さんは変わらないし、僕の暮らしも変わらない。

それでも僕には今、女装にかかずらっている暇はなかった。

ローネとの出会いから、僕の女装癖は、止まったのだ。無理矢理、止めさせられたというべきか。


異変が訪れたのは、数週間経ってからだった。
 ▼ 47 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:06:11 ID:FbsIRgCU [11/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
7

夜。

ローネと共に、僕の炎で照らされながら、話をする。

間違いなく、ここ最近は、これを楽しみにしている。

夜こっそり出歩くという背徳もそうだし、純粋に、彼女とこうやって交流を持つのが楽しかった。


「ねえローネ。だけどさ」

「うん?」

「なんで、こうやって毎晩、僕と会ってくれるの?」

「……あんたなら、教えてくれると思ったから。あの子の心境を。

それに……あなたの抱えてる問題は、あたしにも、関係あるから。

だから、最後まで見届けたいの。決着が、どう付くのか。あなたなら、見せてくれると思ったから」

「……どういうこと?」

「なんでもない」


思わせぶりな言い方は、もう慣れた。

恐らく、彼女はもう、気付いているのだ。だけど、なぜか言いたくない。

僕にはわからないニンゲンの論理を、ローネは見事に解きほぐしたのだ。

けれど、それは、ポケモンには恐らく、受け入れがたいものなのだろう。

そんな風に考えていると。

ローネの頬を、すっと、一筋、涙が横ぎった。煌めく炎に照らされて、それは紅く、輝きを纏った。


「……ごめん、なんでもない」

「……そっか」

「ありがと、ほっといてくれて」
 ▼ 48 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:06:33 ID:FbsIRgCU [12/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
これが、前兆だったのかもしれない。彼女は、実はこの時既に、ダイキに働きかけていた。

そして、彼がようやく決意したのが、この時だったのだろう。

それを知って、答えを突き付けられるのが怖くて、彼女は泣いたのだ。

けれど、それに気付けたのは、もっと後のことになる。
 ▼ 49 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:06:53 ID:FbsIRgCU [13/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「なあ、放課後、いいか」


久しぶりの声に僕は振り向いた。


「ダイキ」

「……お願いだ、来てくれ」

「俺は?」


ルークが横やりを入れる。


「好きにしてくれ。お前なら、いてもいい。

ドン引き、すると思うけど」

「何言ってんだよ」


ルークが笑った。僕も、釣られて笑う。けれど、ダイキの目は真剣だった。

それで、僕は笑いを打ち消した。


「まあ、わかった。部活は出んの?」

「……出る。言い訳担当いなくなるしな」

「了解」


僕とルークの声が重なった。
 ▼ 50 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:07:34 ID:FbsIRgCU [14/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
そして、部活を終えて、3人でコンビニに寄ってアイスを買い、それから僕たちは、例の公園に向かう。

示し合わせた訳でもないが、なぜか、ローネと話をする公園の、そのベンチに座った。

そして、ダイキは、僕に向けて、爆弾をぶつけて来た。


「……俺、さ。あの、文化祭の時、お前の女装見て、さ」

「うん?」

「……そん時は普通だったんだけど、寝る前、なんか、お前のあれ思い出してさ」

「……うん?」

「無理矢理寝て、さ」


まさか、と思った。まさか、こいつは。


「夢精、してた。お前で」


やっぱり。なんとなく、話の流れで、予想が付いた。


「はぁ?」


ルークが、驚いた声をあげる。




「だって、お前、ニンゲンだし、そもそもお前、♂だし……」

「ルーク」


僕は、彼を止めた。

ルークは、こちらを見やる。僕は、彼に言った。


「ニンゲンは、ポケモンの性別を見分けられないんだ。恰好と、喋り方だけ。

それがなくなったら、わからないんだ」

「……ずっと、言ってたもんな。お前、かわいいって、ニンゲンは」


ルークが、腑に落ちた、というように呟いた。
 ▼ 51 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:08:09 ID:FbsIRgCU [15/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
ダイキが頷いて、そして言った。


「次の日1日、考えてた。どうしたんだよ俺って。それで、気付いたんだよ。

俺、お前のことが、好きになったんだって。だから、避けた。こんなこと言われても、お前、困るだろ」

「……まあ、な」

「だけど、ずっと避けてもいられない。だけど、もう、元にも戻れそうにもないから。だから、突っ切ることにした。

ごめんな、気持ち悪くて」

「少し……考えさせてくれ」

「え?」


僕の発言に、2匹の言葉がシンクロする。


「後ろ向きに、検討しとく。だけど、まあ、断っても、何も気にしないよ。

それが、ニンゲンの論理。僕たちポケモンとは、これでもかって程、違うんだから」

「ああ。ニンゲンにゃ、わからねぇもんな、しゃーない」

「……ありがとう」


ダイキが、うつむきながら、笑った。
 ▼ 52 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:08:30 ID:FbsIRgCU [16/39] NGネーム登録 NGID登録 報告







その日の夜、ローネは公園に来なかった。






 ▼ 53 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:09:08 ID:FbsIRgCU [17/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日は、何事もなかったかのように、全て文化祭の前に戻ったかのように、僕たちは仲良くなった。

それでも、心のどこかでは、考えている。

こいつは、僕で夢精した。

気にならないと言ったら嘘になってしまう。

それが、言動に滲んでしまうことも、なかったとは言い切れない。

ただ、ダイキはいつも通りで、それが僕を安心させていた。

できるなら、このままなかったことにしたい。

そんな淡い願望が、僕を包んでいた。

決断は、来週。そうやって、取り決めた。

逃げられるとは思っていない。

――答えは決まっている。NOだ。

それでも、そんなことを、僕はあいつに、伝えたくない。

僕は、気付けばローネを探し求めていた。

相談したい。このことを。

どうやって答えを出せばいいのか。

それを相談できる相手は、もうローネしか思いつかない。
 ▼ 54 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:10:14 ID:FbsIRgCU [18/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……そっか、断るんだ」

「うん。僕だって、できれば伝えたくないよ。あいつは、大事な友達だ。だけど。

だけど、やっぱり、嫌だった。付き合うとか、そういうのは、ない。

異種族だし、そもそも♂同士だし。僕は、やっぱり、無理だよ」

「そっか、無理、か」


そういう彼女の顔が、一瞬歪んだ。

すぐにそれは掻き消えて、いつもの、あの微笑になった。

素ではない、表情に。


「どうしたの」

「……ごめん、だけど」


声が、かすれている。体が、細かく震えているようだった。

穏やかな、微笑み。
 ▼ 55 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:11:57 ID:FbsIRgCU [19/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「だけど、あたし、あなたには、受け入れて欲しかった。ダイキを、受け入れて……」

「えっ」


意外な気がした。彼女が、そんなことを言うようには、思えなかったのに。


「あたし、ダイキと、重ね合わせてた。あたしと、ダイキを。

……テール、やっぱり、嫌なんだよね?」

「え、まあ、カップルは、うん」

「……ありがとう」


微笑は浮かべたまま、彼女は泣きじゃくった。

涙も、泣き声もないけれど、それは、間違いなく、号泣だった。

そして、茫然と気付く。彼女の抱える、問題に。
 ▼ 56 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:12:12 ID:FbsIRgCU [20/39] NGネーム登録 NGID登録 報告







きっと、そうだ。ニンゲンインパクトは、彼女の心に、深い、深い影響を与えていたのだ。






 ▼ 57 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:12:43 ID:FbsIRgCU [21/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
そして、僕は彼女を連れて、家に帰った。

放っておけなくて、僕には、そうするしかできなかった。

家には母さんも寝ているはずだけれど、それどころじゃなかった。

ローネはただ、静かについて来る。

僕の部屋に彼女を連れ込んで、座らせる。


「僕、気にしないよ。君が、誰を好きだったとしても」


それが、僕ではないのだから。それに、僕のことを彼女が好きなら、それはただただ嬉しい事案なのだ。

タマゴグループも一致している。性別は異なる。ついでにたぶん、気持ちも一致している。


「ありがとう。……もう、泣くね」


もう、充分過ぎる程泣いている、と思ったが口には出さなかった。彼女はその瞼から、際限なく、涙をこぼし始める。

布団に顔を押し付け、声が漏れないように。僕はそれを、拒まなかった。ただ、そっと、彼女の肩に手を回す。


「うあああああああああ……」
 ▼ 58 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:13:15 ID:FbsIRgCU [22/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
ずっと、そうしていただろうか。

不意に、彼女は僕を向き直り、それからそっと抱きしめた。

僕も、それを抱き返す。彼女の僕と比べて遥かに冷たい体温が、伝わって来る。

2匹、ひとつになって、溶けあうようだった。

そして、曖昧に溶け合った境界線が、僕らを、少しだけ、大胆にした。
 ▼ 59 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:13:56 ID:FbsIRgCU [23/39] NGネーム登録 NGID登録 報告





けれど、結局、何事も起きなかった。

起こせ、なかった。




 ▼ 60 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:14:35 ID:FbsIRgCU [24/39] NGネーム登録 NGID登録 報告





僕は、絶望的に悟る。





どうやら僕は、チャンスを逃したらしい、ということと、





僕の女装癖は、気付かぬうちに、心にまで浸食していたのだということを。




 ▼ 61 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:15:10 ID:FbsIRgCU [25/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ったく、あたしたちって、ほんっと狂ってる。よくも、悪くも」

「……だな」


2匹、添い寝しながら、そう言って、笑う。

疲れた、笑みだった。


「それでもあんたは、嫌なの、ダイキが」

「ああ。♀が無理だったとしても、♂は嫌だ」

「……そっか。あたしも、吹っ切れた。ずっと、あたしだけ、止まってたみたいなもんだからさ。

だから、あたしを動かし出す。ありがとね、教えてくれて」


僕はただ、そろそろ帰らないとマズイぞ、とだけ言った。

反応に困るのだ。そんなことを言われても。
 ▼ 62 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:15:36 ID:FbsIRgCU [26/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
不意に、ただいま、と声が聞こえた。

え、と僕は驚いて、飛び上がる。

母さんの、声だった。


「家に、いるんじゃなかったの?」

「と、とにかく隠れて」

「どこに?」

「クローゼットの中! 僕、寝たふりするから」


足音が、近付いて来る。

気配を、殺した。

だけど、臭いは、隠しきれない。ポケモンの敏感な嗅覚をごまかすことができるような時間は、なかった。

それでも、仕方ない。たぶん、ここを見ることは、しないはず。
 ▼ 63 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:15:58 ID:FbsIRgCU [27/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
しかし、扉は開かれた。


「……よかった、今日も、女装してないのね」


そんな言葉と共に。
 ▼ 64 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:16:36 ID:FbsIRgCU [28/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
心臓が、早鐘を打つ。

今日“も”、“女装してない”。

今日じゃない日に、女装していた。

この間は、女装していた。

女装して眠った日なんて、一日しかない。

その日も、見ていたのだ。

母さんは、見ていたのだ。

どうして。

世界が、グルグル回り始める。

バレていた。全部、バレていた。


「なんでだよ」

「え」

「なんで、気付いてんのに、黙ってんだよ」

「テール、起きて……」

「なんでだって訊いてんだよ!」
 ▼ 65 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:17:04 ID:FbsIRgCU [29/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
バレていた。それも衝撃だった。

けれど、それを知って、何も言ってこなかった。そっちの方が、なお衝撃的だった。


「……だって、私、わからなかったの。何か、深い理由があるんだろうって。そう思ったら、言えなかった」

「なんなんだよ今更っ! なんで、見るんだよ、ほっといてくれよ、頼むから……」

「毎日、あなたの寝顔を見てた」

「え」

「そうでもしなきゃ、疲れちゃうから。だから」

「……今更いい親ぶるなよ、僕の、俺の頭にしか興味ない癖に!」

「そんな訳ないでしょう?! あなたのこと、私はずっと、考えてる!」

「じゃあ、なんだよ。もっと、俺を見てくれよ。俺そのものを、考えてくれよ……」
 ▼ 66 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:17:22 ID:FbsIRgCU [30/39] NGネーム登録 NGID登録 報告







「たぶん、必死で考えてたんだと思うよ」






 ▼ 67 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:17:45 ID:FbsIRgCU [31/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
クローゼットから、声が響いた。

母さんと僕が、同時に振り向く。

中からローネが出て来た。


「ごめん、だけど、黙って聞いてられないよこんなの。

ねえテール、どうしてあなたの母親が、こんなに遅くまで外にいたのか、わかってるの?」

「え?」

「……あなた、父親いないでしょう。遺産でなんとかやって行くには、うちの学校は、高すぎると思う。

その上、塾だよ? 稼ぎがないと、潰れるよ」

「何が、言いたい」

「こんな遅くまで、仕事してるってこと」


あ、と言われて気付く。

そうだ。怒ったはいいけれど、僕は、気付けなかった。母親が、いないということに。

しかも、たぶんそれは、ずっと。
 ▼ 68 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:19:42 ID:FbsIRgCU [32/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「一旦は家にいるんでしょ? だったら夜出かける必要のある……風俗、違いますか?」


彼女の声は、半ば祈るようだった。これ以上酷い何かでありませんように。

母さんは、首肯した。

僕は、愕然として、母さんを見詰めた。


「あなたのために、あなたのママは、こんなに頑張ってる。これが愛じゃなくて、なんなの?

ホントに……聖母だよ、こんなの。

ママさん、あなたも。大事なことの順番、間違えてるんじゃないですか?

テールと、もっと一緒にいてあげてください」


母さんも、僕を見つめる。


「身を犠牲にして働き過ぎ。テール、ずっと気にしてた。鬱憤晴らしだよ、女装は」


全てが、明らかにされた。僕と母さんは、震える体で、互いに歩み寄り、それから、抱き合った。

ごめん、こっちこそ。そんなやりとりが、零れた。

窓から、光が差し込む。僕ら3匹を包み込んだ、淡く、優しい光。
 ▼ 69 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:20:04 ID:FbsIRgCU [33/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
8

あれから僕は、塾をやめた。

母さんも、夜の仕事をやめたらしい。その代わり、昼の仕事時間は増えた。

その分の家事を僕が負担するようになった。今までの暮らしに比べたら、さして問題でもない負担だ。

あれ以来、完全に女装をやめた。

もう、不要だったから。

これが、僕の家庭に起こった事件の結末だ。
 ▼ 70 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:21:28 ID:FbsIRgCU [34/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
ダイキにまつわる事件の決着も、付けないといけないだろう。

結論から言うと――元通りだ。

その顛末を、ここに記して行こうと思う。
 ▼ 71 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:22:02 ID:FbsIRgCU [35/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
「なあダイキ、今日、放課後」

「……わかった」


そう言って、僕たち3匹は、またあの公園に向かった。

今日は、コンビニにも寄らなかった。


「お前、僕のこと、好きだって言ったよな」

「ああ。それで、どうだって?」

「……お願いだ。これからも、僕たち3匹、ずっと、親友でいてくれるか?」

「……そうか」

「断る定型表現だと思わないでくれよ。ずっと、親友でいたい。これは、マジだ」

「それは、俺がニンゲンだから?」

「それもあるし、お前が♂だから。

そのぐらいしか、文句の付け所ねえもん。お前、いい奴だからさ」

「だよな、テール。ダイキ、サンキュな。俺らのこと、信じてくれて。こうやって、打ち明けてくれて」

「……いいよ、別に。俺も、諦める。諦めて、真っ当に、人間の女子を好きになる。別に、俺ホモって訳でもケモナーって訳でもないしな。

ただ、お前がかわい過ぎた。それだけ」


僕は、思わず吹き出した。


「なんだよそれ」

「ただの事実」


二っと、ダイキは笑った。
 ▼ 72 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:22:31 ID:FbsIRgCU [36/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
だから、元通り。

何事もなかったかのように、親友同士に、戻る。

時折夢精の件は脳裏をよぎるけれど、それも仕方ない。

だって、僕は女装していた。♀に見られるよう、努力していたのだ。

だから、当たり前。♂が興奮して、当たり前。

言葉にすると、それだけのことだ。

僕の女装が上手すぎた、それだけ。
 ▼ 73 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:22:57 ID:FbsIRgCU [37/39] NGネーム登録 NGID登録 報告
最後に、ローネと僕の関係について記して、この話は終わりにしよう。

彼女と僕は――付き合い始めた。

どんな会話があったのか、とか、そういうことを詳しく話す気は、さっぱりない。

ただ、似た者同士、矯正し合えるはず。そんな風な意見の合致があった。

あの夜の、彼女の激情にも理由はあるのだろう。

けれど、彼女はそれを話してはくれない。ニンゲンインパクトに由来するものなのはほぼ間違いないと思うのだけれど、それは、わからない。

だって、話してくれないから。

だけど。

ニンゲンの♀が好きになってしまった少女。

女装して、その挙句に♀に興奮できなくなってしまった少年。

これが似た者同士でなくてなんなのだ。

だから、付き合う。きっと、治せる。

たぶん、僕たち2匹なら。


「よろしくね、ローネ」

「うん、テール」


そう言って2匹、お茶をすすりながら、ニコリと笑った。
 ▼ 74 1◆J44kAZeDOM 17/11/27 21:23:22 ID:FbsIRgCU [38/39] NGネーム登録 NGID登録 報告







【非スワップSS】テールナー少年の憂鬱 完






 ▼ 75 ュプトル@こだいのうでわ 17/11/27 21:23:43 ID:FbsIRgCU [39/39] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
当SSはこれにて完結です
お読み下さりありがとうございました
ニンゲンインパクトに関しては、こちらのSSにその全貌が載っております
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=295723
併せてお読みください
 ▼ 76 ピアー@でんきのジュエル 17/11/27 21:23:45 ID:e6R1ELZA NGネーム登録 NGID登録 報告
支援た
 ▼ 77 ガドーン@トライパス 17/11/27 22:08:48 ID:xNkdNIQI NGネーム登録 NGID登録 m 報告
>>76
完結していたのに気付かず、申し訳ない!
夢中になって読んでしまうほど、話のテンポがよくて面白かった。
乙です!
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