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【クリスマスSS】聖夜の探検隊スノードロップ

 ▼ 1 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:22:03 ID:LF71DT9U [1/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

12月24日、クリスマスイヴの夜。

僕はただ一人空を見上げていた。



街は賑やかだ。あちこちでイルミネーションが光り、底抜けに明るいクリスマスソングが鳴り響く。

だけど、この路地裏には人気も明かりもなく、酷くうら寂しい。



僕の座り込んだ場所には、沢山のゴミが無造作に積み重なっていた。

クリスマスケーキの空箱、ビリビリに破かれた包装紙、新しい玩具の入っていたパッケージ――用済みになった物達。

用済みになったゴミ……そう、僕も同じだ。


僕は今宵、捨てられたのだ。










雪が降り積もり、体が重たくなっていく。

薄れていく意識の中で、僕はあの子の事を想った。



大好きだったあの子。

僕を愛してくれたあの子。



薄れていく意識の最中、たくさんの思い出が走馬灯のように流れていく。

だけど今は、そんな思い出が苦しい。

あの子の顔を思い浮かべる度に、僕の中で恐ろしい感情が渦を巻くのだ。



――許さない


それは、「憎しみ」だった。
 ▼ 4 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:26:17 ID:LF71DT9U [2/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

目を覚ました僕の視界に映っていたのは、薄緑の髪をした女の子だった。

その子は飴細工のように透き通った赤い瞳を輝かせ、身を乗り出して僕の顔覗き込んだ。


キルリア「よかった、気がついたのね!」

ジュペッタ「……君は?」


君は誰? もしかして僕を呼んでいたのは君なの?

そう問いかけようとした僕を他所に、彼女は部屋のドアへと駆け寄ってしまった。


キルリア「みんなー!ジュペッタが目を覚ましたよー!」


彼女がそう叫ぶと、少しの間を置いてぞろぞろと沢山の生き物達が入ってきた。


ムチュール「おはよー♪」

ユキメノコ「あら、よかった。気がついたのね」

グレイシア「キルリア、病み上がりのポケモンの前であまり騒ぐものじゃないよ」


そのうちの1匹には見覚えがあり、キルリアという名前にも聞き覚えがあった。

ポケモン。

そうだ。少女のような姿をしたこの子も含め、きっと彼らは全員ポケモンなのだ。



……だけど、「病み上がりのポケモン」って一体どういう意味なんだろう?
 ▼ 5 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:27:59 ID:LF71DT9U [3/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「あのね!私たちはポケモン探検隊『チーム フレイヤ』! 森で倒れていたあなたを助けたの」


キルリアはえへんと背を反らし、誇らしげに言った。

ポケモン探検隊、森で倒れていた……新たな疑問点が増えていき、僕は更に困惑していく。


キルリア「ジュペッタはどうしてあんな場所で倒れていたの? 探検隊の私たちでさえ行くだけで1日かかるような森の奥なのに……あ、ひょっとしてあなたも探検隊なの?」

ジュペッタ「ちょっと待って! わけがわからないよ!」


どんどん話を進めてしまうキルリアを遮って叫ぶ。口元で何かがじゃらりと音を立てて揺れた。


ジュペッタ「探検隊って何? 森で倒れてたって言うけどここはどこ?」

キルリア「えっと、あのねジュペッタ……」

ジュペッタ「あと、『ジュペッタ』って何のこと?」

キルリア「……え?」


僕の一言でキルリアの顔が一瞬にして驚きに染まり、そして強ばっていった。


ユキメノコ「どうやら、記憶を無くしてしまったようね」


冷静な声で言われたその言葉が、僕の心に重くのしかかる。
 ▼ 6 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:28:45 ID:LF71DT9U [4/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

……僕には、記憶が無い。

名前も、年も、どこから来たのかも分からないし、自分の種族さえも知らなかった。

着物を着たようなポケモンが渡してくれた手鏡を見た瞬間、僕はそこに映ったものに戦慄した。


ジュペッタ「……これが、これが僕なの」


薄汚れた色をした布の体。口元に縫い付けられたファスナー。

そして、こちらを憎々しげに見つめる、血のように赤い二つの瞳。

おぞましく醜悪な姿に僕は怯えた。


ユキメノコ「大丈夫よ、少しお休みなさい。心を落ち着かせれば何か思い出せるかもしれないわ」


震える僕の肩を、そのポケモンは優しく抱いて慰めてくれた。
 ▼ 7 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:29:31 ID:LF71DT9U [5/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから、僕はそのポケモン……ユキメノコに色々な話を聞いた。

ここは森に囲まれた小さな町「スノードロップ」。


森は「不思議なダンジョン」と呼ばれる場所の一つで、罠や凶暴化したポケモン達が襲いかかってくる危険な場所。

だけど、ダンジョンでは自然界では手に入らない物が拾えるらしく、一年中雪に覆われたこの町にとってはダンジョンで拾える木の実やアイテムが暮らしに欠かせないものになっているらしい。


そこでユキメノコ達は探検隊のギルドを作り、森で物資を集めたり、困っているポケモンを助けたりしているそうだ。


何故か僕はその森の奥にある廃墟で倒れていて、探検隊の彼女達に助けられた。

このギルドで目を覚ましたのはそんな経緯があったからなのだ。



……彼女の口から丁寧に説明された話を要約するとこんな感じだった。
 ▼ 8 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:30:32 ID:LF71DT9U [6/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

グレイシア「それでどうします、ギルド長。彼をしばらく預かるにしても物資にあまり余裕はありませんが」


氷の前髪が印象的なポケモン、グレイシアがユキメノコにそっと耳打ちする。

彼女はギルド長の右腕といった立ち位置だろうか。


ユキメノコ「そう言うものではないわ。……気にしないでゆっくり休んで頂戴」


ユキメノコは僕に気を使ってそう言ってくれたものの、雪に覆われていて決して豊かには見えないこの土地で無償の施しを受けるとなると、やはり気が引ける。



しばらくベッドで休んでいると、温かいスープを持ってきてくれた。

だけど、僕は慣れない体のせいか上手くスープを口に運ぶ事すらままならなかった。

なにせ口元に付いているのはファスナーだ。
口に入れても隙間からダラダラと零れてしまい、その度にユキメノコが拭ってくれた。

結局、まるで赤ん坊のように彼女から甲斐甲斐しく世話を焼かれる羽目になってしまい、そんな僕を見たムチュールという小さなポケモンが笑っていて、非常にいたたまれなかった。
 ▼ 9 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:31:08 ID:LF71DT9U [7/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

スープを飲み終わると、寝支度をし、部屋の灯りを落とした。

部屋に備え付けられている小さな暖炉だけが光源となって、僕の前に立ったポケモンを赤く照らし出す。


キルリア「……ねえ、ジュペッタ」


キルリアはおずおずと切り出す。

先刻、目を覚ました僕に質問攻めしたときとは随分態度が違う。


キルリア「一緒に寝てもいいかな?」

ジュペッタ「え?」


その申し出に戸惑ってしまうと、キルリアは慌てて理由を付け足す


キルリア「あのね、このギルドって私以外は氷タイプのポケモンしかいないの。この部屋は私が使ってるんだけど、他の部屋には暖炉がないから……」


なるほど。そういうことか。
 ▼ 10 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:31:49 ID:LF71DT9U [8/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

元々部屋の持ち主が彼女ならば、僕に断る権利はないと思う。

了承すると、キルリアはほっとしたように表情を緩めて僕の隣のスペースに潜り込んだ。


キルリア「ありがとう。凍え死んじゃうかと思った」


至近距離でじっと見つめられながらそう言われると、なんだか非常に居心地が悪い。

僕は恐らくオスでこの子はメス、戸惑いの理由はそれなのだろうか。

ポケモンにとって性差というのはどのくらい意識するものなのか、それすらもわからない僕には判断しかねる。


ジュペッタ「元々君の部屋なんでしょ? だったらむしろこっちが寝床を奪ってしまったんじゃ……」


僕がそう問いかけると、キルリアは頭を振った。


キルリア「ううん、気にしないで。ひとりで寝るの、少し寂しかったから……」
 ▼ 11 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:32:30 ID:LF71DT9U [9/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「私ね、お兄ちゃんが居たんだ」


居たんだ、という過去形の言葉だけで僕は彼女の境遇を察した。


キルリア「私とお兄ちゃん、森で迷ってた所をこのギルドに拾って貰って、それからずっと一緒に探検隊やってたの」

キルリア「だけどね、ある日から……お兄ちゃんは居なくなっちゃったの。それから、私はずっと一人部屋」

キルリア「だから、誰かと一緒に寝るって久しぶりなの。ギルドの皆は優しいけど……ほら、氷タイプでしょ? 一緒に寝たら凍死しちゃうもん」


くすくすと笑うキルリアに、僕はどう返答したらよいかわからなくて曖昧に頷く。


キルリア「ジュペッタもこのギルドに入ってくれたらいいのにな……」

ジュペッタ「……」

キルリア「……なんてね。おやすみ」

ジュペッタ「……おやすみなさい」
 ▼ 12 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:33:14 ID:LF71DT9U [10/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

しばらくして小さな寝息を立てて眠ったキルリアの横顔を見ながら、僕は彼女に言われた言葉を何度も反芻した。



……ギルド、か。

探検隊って、どんな風に働くのかな。

キルリアの言う通り、ギルドの皆……特にユキメノコは優しそうなポケモンだった。

自分も、キルリアみたいに探検隊の一員にして貰えるだろうか……



記憶が無く、行き場のない僕にとって、それは魅力的な空想だった。







――――――

――――

――
 ▼ 13 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:33:59 ID:LF71DT9U [11/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

『ジュペッタ』


暗闇に落ちた後、また誰かに呼びかけられる。

今度はその名前をハッキリと聞き取れた。


『ジュペッタ、貴方には――』


だけど、続く言葉は風の音に飲まれ、僕に届く前に消えてしまう。


『――、――――』


あなたは誰? 僕に何を伝えたいの?

意識を研ぎ澄まし、何とかその言葉を聞き取ろうとする。

すると、断片的にいつくかの言葉が頭に流れてきた。





キュウコン……シメイ……アカイイシ……



――――――

――――

――
 ▼ 14 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:34:30 ID:LF71DT9U [12/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

目覚めた後も、夢は鮮明な形で覚えていた。

初めて見たときの夢と酷似したその夢は、もしかしたら忘れてしまった過去の記憶にまつわるものかもしれない。

忘れないように何度もその光景を思い出していると、すっかり目が覚めてしまった。


キルリア「……むにゃ」


横を見ると、キルリアはまだ健やかな顔で眠っていた。

僕は彼女を起こさないようにそっと寝床を抜け出した。
 ▼ 15 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:35:56 ID:LF71DT9U [13/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ドアを開けると、かぐわしい香りが鼻をついた。

少し青っぽくて酸味のある香り。初めて嗅ぐはずなのに食欲が刺激され、みるみると口の中に唾液が溜まっていく。

匂いの元を辿ると、ユキメノコが何かを作っていた。


ユキメノコ「あら、おはよう。よく眠れたかしら」

ジュペッタ「はい……おはようございます」


挨拶を返し、近寄って鍋の中身を見てみると、中で赤い液体がふつふつと泡を立てて煮えていた。

ユキメノコはくすりと笑い、作っている朝食について教えてくれた。

マトマの実を裏ごししたものにナナシの実で酸味を加えたスープらしい。……と言われても、木の実の味を知らない僕にとってはいずれにせよ未知の味だ。


ユキメノコ「ところで、これからどうするか決めた?」


ユキメノコに問われ、僕はハッとした。
 ▼ 16 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:36:31 ID:LF71DT9U [14/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

どうするか。いつまでもここで世話になるわけにはいかないだろう。

こうして料理を作って貰って、温かい寝床を用意して貰って、ただそれを享受するだけだなんて出来るわけがない。

食料や燃料は有限だし、向こうにそんなボランティアをする義理はない。

だから、速やかにここを出ていくか、それともその「対価」を払うか……


ジュペッタ「ええと、その……」

ユキメノコ「無理に決めなくていいのよ。今すぐどうこうしろとは言わないわ」


ユキメノコは優しかった。悩む僕に対し、選択を迫らなかった。

そんな彼女を見た僕は決心して切り出す。


ジュペッタ「もし、よかったら。僕をギルドに入れてくれませんか?」


一瞬の沈黙。

その後に、ユキメノコはゆっくりと表情を変えた。
 ▼ 17 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:37:03 ID:LF71DT9U [15/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「歓迎するわ」


にっこりと微笑んで彼女は言った。


ジュペッタ「あ…ありがとうございます!」

ユキメノコ「『自分の食い扶持は自分で稼ぐ』良い心がけね」


二つ返事で承諾されたことに驚き、そして歓喜する。

探検隊の仕事やギルドの仕組みなど、何も知らない僕はこれから教わらなければいけないことが山のようにあるだろう。

だけど、今の僕にあるのは大いなる期待感だ。


キルリア「ふぁ……おはよう。ジュペッタ、早起きなんだね……」

ユキメノコ「あなたがお寝坊さんなのよ。さあ、朝食にしましょう」


キルリアが調理場にやってきたところで、僕達は朝食を取ることにした。
 ▼ 18 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:38:00 ID:LF71DT9U [16/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「え〜〜〜っ!! ジュペッタがギルドに!? 本当に!ほんとにほんとにほんとなのっ! 」

ジュペッタ「本当だよ……ちょっと落ち着いて…」


僕がギルドに入ることを伝えると、キルリアは食卓の向かい側から身を乗り出して僕に迫ってきた。

この勢い、僕が目を覚ましたときと同じだ。

どうやら昨晩は記憶を失くした僕に気をつかっていただけであって、こちらが彼女の素のようだ。

ユキメノコは少し呆れたように笑って見ている。


キルリア「きゃーっ! 嬉しいっ! 私、なんとなくそうなるんじゃないかと思ってたの! やったーやったー!」


キルリアは食卓から離れてくるくるとバレリーナのように回って踊り出した。

あまりの喜びように僕は面食らってしまう。が、そこまで全身全霊で僕を歓迎してくれる彼女に悪い気はしなかった。


ユキメノコ「こら、お行儀が悪いわよ。お座りなさい」


流石にユキメノコがたしなめる。

再びキルリアが座り直したのを確かめると、僕達は朝食を食べ始めた。
 ▼ 19 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:38:24 ID:LF71DT9U [17/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

朝食後、僕はさっそくギルドについて教わることになった。

まずはギルドのメンバー紹介ということになり、ギルドの広間にたくさんのポケモン達が集められた。


キルリア「えっーと、まずは改めて私たちのチームから紹介するね。私たちは『チーム フレイヤ』。リーダーはギルド長でもあるユキメノコさんで、副リーダーは私の先輩グレイシアさん。そしてもうひとりが私ね!」


説明役を買って出たキルリアが自分とふたりを指しながら嬉しそうに語り出す。


キルリア「このギルドはね、さんにんでチームを作るのが基本なんだ」

グレイシア「スリーマンセル」

キルリア「そ、そうそう。すりーまんせる、なの。だから大抵はさんにんで組むんだけど、ふたりだけのチームもあるし、ひとりで行動する場合もあるんだよ」

グレイシア「基本的にはひとりが欠落してもカバー出来るようスリーマンセルが推奨されるが、索敵や情報伝達などは身軽に動けた方が捗るのでその限りではない、ということだ」

キルリア「もー! 私の説明盗らないで!」

グレイシア「だったらもう少し頑張ることだね」


しかし、どうやら彼女の説明は完璧とは言えないようだ。
 ▼ 20 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:40:55 ID:LF71DT9U [18/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「えーっと、こほん!次のチームを紹介するね」


邪魔をしないで自分に説明させてくれと懇願してグレイシアを黙らせてから、キルリアは再び僕に向き直った。


キルリア「リーダーのツンベアーさん、副リーダーは決めてないから特に何でもないオニゴーリさんとユキノオーさん、さんにん合わせて『チーム コワイカオ』!」


オニゴーリ「誰が怖い顔だテメー!」

ユキノオー「『特に何でもない』とはなんだこの小娘が!」

キルリア「きゃー」

ジュペッタ「あわわ……」


見るからに強面な三者を指しとても失礼な紹介をしたキルリアは、即座にそのうちのふたりに迫られる。

隣にいた僕もついでにその鋭い眼光に睨まれ、思わず小さくなった。


ツンベアー「ま、確かに怖い顔には違いないが。本当のチーム名は『チーム トール』だ。間違えるなよ」


リーダーと紹介された彼は落ち着いた性格らしく、気を荒らげることなくチーム名を訂正した。
 ▼ 21 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:41:54 ID:LF71DT9U [19/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「じゃあ今度は真面目にいくね!」

グレイシア「最初からそうしなよ」

キルリア「ユーモアも大事でしょ。ほら、きっと今のでジュペッタも親しみも湧いただろうし…」

ジュペッタ「いや、別に」

キルリア「……」

ジュペッタ「湧いた湧いた! すっごく湧いたから次もよろしく!」

キルリア「うん!」


落ち込み出したキルリアをフォローして続きを促す。

面倒くさくないと言えば嘘になるが、これ以上後続のポケモンたちを待たせるのは良くないと思ったのだ。

現に、次に紹介されると思われる彼らは見るからにウンザリした様子だった。


キルリア「マニューラさんとサンドパンさん、ふたり合わせて『チーム トリックスター』だよ!」


マニューラ「……ふぁー」

Aサンドパン「……」


キルリアに紹介されたそのふたりは何を返答するでもなく素知らぬ顔をしていた。

代わりにグレイシアが、彼らは素早い動きを武器に主に偵察や連絡役などを行っているチームだと説明してくれた。

だが、キルリアは彼らの態度に納得がいかないらしい。
 ▼ 22 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:43:05 ID:LF71DT9U [20/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ちょっとふたりとも!真面目に自己紹介してよー!」

マニューラ「なーにが自己紹介だよチビッ子。オレらはその新米なんかに関わる予定はないんだよ」

キルリア「私とほとんど大きさ変わらないくせに」

マニューラ「フニャーーーッ!!」

Aサンドパン「落ち着け……」


激昂して飛びかかろうとするマニューラをサンドパンが押さえ込む。


グレイシア「まったく……全然紹介になってないじゃかいか」


グレイシアはすっかり呆れてしまったようで、鬼ごっこを始めたキルリア達を冷めた目で追っていた。

だけど、かえって細やかな説明をされるよりも良かったかもしれない。

グレイシアは几帳面で世話焼き。オニゴーリとユキノオーはちょっと怖そう。ツンベアーとサンドパンは落ち着いていて、マニューラは一番気が短い。

キルリアのおかげで彼らの性格が大体掴めた気がするのだ。
 ▼ 23 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:44:40 ID:LF71DT9U [21/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ギルドメンバーの紹介が終わった後、僕は次にギルドの仕組みや不思議のダンジョンについて説明を受けた。

途中で休憩を挟みながら日暮れまでかかってようやく基本的な知識を詰め込み終わった。

だが、僕が実際に誰かとチームを組んで探検をするのはまだ少し先になるらしい。


ユキメノコ「明日から戦闘の訓練をしましょう。幸い私もゴーストタイプだから基本的な技は教えられると思うわ」

ジュペッタ「お願いします」

キルリア「なんだ、まだ暫く修行なんだね。私のときも長かったなぁ……」

ユキメノコ「それはあなたが遊んでばかりだったからじゃない。この子は真面目だからそんなにかからないわよ。それに……」


ユキメノコが何かを言いかけたが、丁度そのタイミングで夕食の用意が終わったようで、僕らを呼びに来た食事当番に遮られて聞きそびれてしまった。

夕食はネコブのスープとクラボの実を炒めたもの、それと凍らせてから砕いたヤチェの実のシャーベットだった。

食べ終わる頃にはもう瞼がくっつきそうなほど眠くなっていて、その日はすぐに寝床についた。







――――――

――――

――
 ▼ 24 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:45:57 ID:LF71DT9U [22/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

この日の夢はこれまでと一転したものだった

視界は白く、凍てつく風が辺りに吹き荒れていた。


声は聞こえない。

代わりに何かが見えた。



乱れ飛ぶ氷雪の中、長い尾を揺らめかせている白い狐。

その美しい青い瞳は何かをじっと見据えていた。



白狐へ向けて、吹雪の向こう側から黒い光が迫ってくる。

危ない、と声が出そうになったところで、逆だった尾が輝き白銀の光を纏った。


???「――!」


声なき嘶きと共に放たれた光が相対する。


刹那、無音の世界に爆裂音が鳴り響いた。







――――――

――――

――
 ▼ 25 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:47:03 ID:LF71DT9U [23/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

チュドーーーーン!!


ジュペッタ「うわあああああっ!?」


大声を出して飛び起きてしまった僕は、すぐに横のキルリアを確認する。

だが、起こしてしまっただろうかという心配をよそに、寝床は空っぽだった。


……あれ? キルリア、もう起きてるのかな。お寝坊って言われてたのに。

不思議に思いつつ寝室を出ると、僕は初めて異常事態に気がつく。



ジュペッタ「げほっ!ごほっ!」


部屋には黒い煙が充満していた。

何かを焦がしたような酷い臭いだ。


ジュペッタ「キルリア! 大丈夫? そこにいるの!?」

キルリア「……ジュペッタぁ……」


むせながら叫ぶと、蚊の鳴くような声が返ってきた。
 ▼ 26 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:47:51 ID:LF71DT9U [24/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

煙の沸き立つ調理場へと向かうが、あまりの煙で目も見えず何が起きているのかわからない。


ジュペッタ「けほっ…! なにが、あったの、キルリア!」

キルリア「あのね…ジュペッタ……ふぁ、へっくしゅん!」


おまけに咳とくしゃみでまともに意思疎通も出来なかった。



暫くふたりでむせていると、突如激しく扉の開く音がした。


グレイシア「キルリア、またやったのか! 凍える風っ!」


ビュゥゥゥゥゥゥ


キルリア「ごめんなさぁーい!」

ジュペッタ「さっ、寒い!こごえるぅぅぅ!」


グレイシアの放った凍える風が部屋の煙を相殺する。


ジュペッタ「こ、これは……」


煙が晴れた調理場の様子を見て、僕は唖然とした。
 ▼ 27 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:48:32 ID:LF71DT9U [25/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

煤で真っ黒になったキルリア。床に散らばる謎の残骸。

そして、未だに黒い煙を放つ歪んだ大鍋……


キルリア「……あのね、今朝はユキメノコさんがお仕事だから、私が代わりに朝ご飯を作ろうと思って……」


キルリアは後ろ手に鍋を隠してもじもじしながら白状する。その姿はとてもいじらしいものだったが、グレイシアには通用しなかった。


グレイシア「何をやったらこんな酷い有り様になるんだ!」

キルリア「隠し味に爆裂の種を……」

グレイシア「バカーーーッ!!」


グレイシアがクールな表情を崩して絶叫する。

その声はギルド中に響き渡り、先程の爆発音といい勝負だった。
 ▼ 28 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:49:26 ID:LF71DT9U [26/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「……それで、あなたが作り直してくれたのね、ジュペッタ。凄いじゃない」


ユキメノコは目の前に広がる惨状には触れず、にこにこを微笑んで僕の功績を称えた。

大体の氷タイプは炎が弱点であり、グレイシアもそのご多分に漏れず火を使うのが苦手だったので、僕がやるしか選択肢がなかっただけだ。

ただ見よう見まねで木の実を焼いたり切ったりしただけだったが、そもそも木の実は生でも食せるものだから特に不味いものは出来上がらなかった。


キルリア「ごめんなさい……マトマのスープには爆裂の種が隠し味だって聞いたから……」

ユキメノコ「よく覚えてたわね。偉い偉い。でも、隠し味というのはもう少し控えめに入れなくてはダメよ」


流石と言うべきか、鍋や大量の木の実を真っ黒に焦がしたにも関わらず、ユキメノコはキルリアを叱り飛ばしたりしなかった。

爆裂の種は衝撃を与えると爆発してしまうから砕かず水出しするのだと懇切丁寧に教えるユキメノコを見て、僕は彼女が気を荒らげることなんて絶対にないんじゃないかと思った。


しかし、そんな僕の考えは数時間後に裏切られることになる。
 ▼ 29 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:50:36 ID:LF71DT9U [27/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

〜ギルドの演習場〜


ジュペッタ「はぁぁ……! シャドーボール!」


僕の両手の間に生み出された黒い塊が宙へと放たれる。

しかし、それはすぐに空中で霧散し消えてしまった。


ユキメノコ「ダメよ! もっと集中なさい!」

ジュペッタ「は、はいぃ!」


鋭く冷たい叱咤の声が飛び、僕は再び手のひらに意識を集中させた。

ユキメノコは器が大きく優しいポケモンだが、意外にも訓練はかなりのスパルタ式だった。


ムチュール「きゃはは♪ 食べ方だけじゃなくて、技も赤ちゃんなのね〜」


ムチュールの無邪気な笑いに僕は恥ずかしくなった。

演習場には将来のギルドを背負う幼いポケモン達が沢山いて、進化系のポケモンである僕だけがひとり浮いていたのだ。
 ▼ 30 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:51:27 ID:LF71DT9U [28/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「ムチュール、誰かを笑う暇があったら真面目に訓練なさい。ジュペッタはあなたと違って記憶を無くしているのよ。戦い方だって忘れてしまったのだから、基本から教わるのは当たり前でしょう?」

ムチュール「……ごめんなしゃい」


ユキメノコに叱られムチュールは謝って口を閉ざした。

しかし、これで集中出来るかと思いきや……


キルリア「フレーッ!フレーッ!がんばれジュペッタ!」

ユキメノコ「キルリア、あなたも少し静かにね」

キルリア「えー」


もっと騒がしい観客かいるのだった。
 ▼ 31 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:52:34 ID:LF71DT9U [29/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

――それから、僕は数週間に渡って訓練を受けた。

騙し討ちのような物理攻撃や、初歩的なゴースト技のナイトヘッドはすぐに使いこなせるようになった。

けれど、闇のエネルギーを球状にして発射する技、シャドーボールはなかなか上手くいかなかった。

ユキメノコ曰くバトルに置いて間合いは非常に重要で、なるべくなら高威力の遠距離技をマスターしてからダンジョンに挑んで欲しいそう。


僕は毎日夢を見るのも忘れて訓練に励んだ。




そして、ある日の事……
 ▼ 32 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:53:00 ID:LF71DT9U [30/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「いい?ゴーストタイプの力の源は『負の感情』よ」

ジュペッタ「負の感情?」

ユキメノコ「恨みとか、妬みとか、心に湧く黒い感情のことよ。それを引き出して上手くコントロールすることが、ゴーストタイプの技を操ることには必要なの」

ジュペッタ「でも、僕には恨む相手がいないです」


以前の記憶を全て無くしてしまった僕にとって、あるのはこのギルドで出会ったポケモン達との記憶だけだ。

でも、このギルド内で僕が恨みを抱くほど憎んでいるポケモンはいない。

恨みや妬みの感情を抱こうにも何もイメージが浮かばないのだ。


ユキメノコ「……だれか特定の相手を恨まなくてもいいの。例えばあなたが普段感じている不安や憤り……それも負の感情の一つよ」


不安、憤り……それは常日頃感じていた。

自分が何者なのかわからない不安。

思い出したいのに、それが出来ないもどかしさ。


そして……
 ▼ 33 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:54:01 ID:LF71DT9U [31/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「………………」


僕は初めてギルドで目を覚ました日の記憶を辿った。

そこで目を覚ます前、誰かに呼びかけられる夢を見る前、僕はどこにいたのか。何を思っていたのか。


微かながらその記憶はあるのだ。

無くしたんじゃない、忘れているだけなんだ。


降り積もる雪。寂しい場所。無念の想い。

そのときから僕の胸中にはずっと同じ炎が燻っていた。



ジュペッタ「はぁぁぁぁぁあ……!」


深い瞑想の中で、見慣れない景色が次々と流れていく。

次第に手の中のエネルギーが高まっていくのを感じた。



『――!』


追憶の中、懐かしい声で呼ばれ、その声の主を追う。

真新しい人形を抱いて眠る幼い女の子の横顔が見えた瞬間、僕の中で何かが激しく燃え上がった。


あの子は。あの女の子は……





「ジュペッタ!しっかりして!」
 ▼ 34 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:55:00 ID:LF71DT9U [32/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ジュペッタ!」


気がつくと、僕はキルリアに揺すり起こされていた。

目を開けた途端、キルリアは大丈夫なのかとしきりに問いかけてきて、僕が頷くと小さくため息を吐いて胸をなで下ろした。


キルリア「びっくりしたんだよ。最初は上手くいってると思ったのに、段々黒い影に飲まれていっちゃって、私が何度も呼んだのに届いてないみたいだったし……」

ジュペッタ「そっか、ごめん……」

キルリア「ユキメノコさんが止めてくれなかったら大変なことになるところだったんだよ」

ジュペッタ「……えっ、ユキメノコさんが!?」


僕は慌てて辺りを見渡す。

演習場に降り積もっていた一面の雪は、僕の倒れている場所から半径5メートルの範囲で吹き飛んでおり、黒い土の地面が露出していた。

その円陣の外側には、元々ここにいた幼いポケモン達だけではなくギルド中にいるポケモン達までもが野次馬となって遠巻きにこちらを見ている。

僕はその中に介抱されているユキメノコを見つけて飛んでいった。
 ▼ 35 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:55:50 ID:LF71DT9U [33/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「ユキメノコさん! ごめんなさい、大丈夫ですか?」

ユキメノコ「平気よ。シャドーボールを相殺させようと私が別の技をぶつけたの。そしたら少し飛ばされて転んでしまったけど、大した怪我じゃないわ」


僕が駆け寄ると、ユキメノコさんは僕を心配させないようにそう言ってくれた。だけど、その酷く消耗した顔を見ているとそれが優しい嘘であるということがすぐに分かった。


ユキメノコ「ともあれ、ジュペッタ、あなたは合格よ」

ジュペッタ「え?」


突然告げられたその言葉が飲み込めなくてぽかんと口を開けてしまう。すると、ユキメノコを介抱していたグレイシアが代わりに付け加えた。


グレイシア「ギルド長は君をギルドの正式なメンバーとして受け入れると言っているんだ」


本当に? 僕が、ギルドのメンバーに……?

嬉しさと困惑が入り乱れて言葉に詰まっていると、背後から急に誰かに抱きすくめられる。


ジュペッタ「うわっ!?」

キルリア「やったねジュペッタ!おめでとー!」


キルリアはまるで自分のことのように喜んではしゃいでいた。


だけど、僕にはまだ不安が残っている。
 ▼ 36 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:56:27 ID:LF71DT9U [34/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「でも、僕はまだ自分の力をコントロール出来ていないし……」


今だって力を暴発させてユキメノコを傷つけてしまった。

このままダンジョンに潜っても味方に迷惑をかけてしまうんじゃないか、そんな心配ばかり浮かんでしまうのだ。


ユキメノコ「大丈夫よ。あなたはこれまで一生懸命やってきたんだもの。きっとうまくやれるわ」


ユキメノコは優しく見守るような眼差しで僕を見つめて言った。


ユキメノコ「それに、探検はひとりで行うものじゃないの。あなたにはギルドの仲間がついてる」


その言葉に僕は思わず辺りを見渡した。


グレイシア「しばらく君の動きを観察させて貰ったが、初心者にしては動きも状況判断も優れていると思う。保証するよ」

オニゴーリ「この爆発、本当にオメーがやったのか……恐ろしいやつだぜ」

Aサンドパン「……やるな」

マニューラ「言っとくけど、オレはお前と馴れ合うつもりはないからな!」


ユキメノコはくすくすと笑ったあと、僕の背後に立つポケモンを促すように見つめた。
 ▼ 37 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:57:33 ID:LF71DT9U [35/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「……ジュペッタ。私も初めてこのギルドに来たとき、すごく不安だったんだ。私は森の外からやって来たポケモンだし、みんなとタイプも違う。暮らし方も違う。戦いだってまだあんまり上手くない」

キルリア「でもね、みんなは私を受け入れてくれた。仲間だって言ってくれたの」


仲間。

その言葉は僕の胸の中で熱を孕み、じんわりと広がっていった。

僕が常に感じていたものは、記憶を失ったことによる不安だけではない。

孤独感だったのだ。


キルリア「よろしく、ジュペッタ。一緒に頑張っていこうね!」

ジュペッタ「……うん!」


キルリアが細く白い腕をこちらに差し伸べ、僕は力強くその腕をとった。

瞬間、


ジュペッタ「わっ」

キルリア「どうしたの?」


キルリアの頭の両端にある赤い触角がほんのりと光ったような気がした。
 ▼ 38 ◆XSB9B4V/6I 17/12/20 23:58:31 ID:LF71DT9U [36/36] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「さあ、今夜はお祝いに美味しいご馳走を作らなくちゃね」


ユキメノコの台詞に、キルリアは目を輝かせた。


キルリア「私も手伝う!」

グレイシア「やめときなよ。それじゃあ祝いが呪いになっちゃうから」

キルリア「もーっ! それどういう意味なの!」


皆の喧騒に囲まれて、僕は不思議な充足感に包まれていた。





……これから待ち受けている使命と、隠された真実。このときはまだ何も予期していなかったのだ。
 ▼ 39 ルビー@ルームキー 17/12/21 06:33:25 ID:/sHQep2I NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 40 ジスチル@エレベータのキー 17/12/21 08:18:07 ID:tWYtsDg2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
わくわくシテキマッシャー!
頑張ってね!支援
 ▼ 41 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:31:29 ID:vD764DRg [1/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







chapter2 初仕事






 ▼ 42 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:32:10 ID:vD764DRg [2/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

この日の夜は皆が僕のギルド正式加入を祝ってくれた。

……と言っても、いつもの夕食にいつものメンバー。それにいつもより手の込んだデザートが一品と、グレイシアが加わっただけなんだけど。


グレイシア「そういえば。ジュペッタの所属チームはどうするつもりなのですか?」


凍らせた木の実をガリガリと噛み砕きながら、グレイシアはユキメノコに問う。

その食事風景はとても寒々しく見ているだけで背筋が冷たくなる。いつも僕とキルリアだけ寝食が分けられている理由が改めてわかった気がした。


キルリア「あ、それ私も思った。今空きのあるチームって『トリックスター』くらいじゃない? でもあのふたり……っていうかマニューラさんはイジワルだからおすすめしないなぁ」


イジワルって、いつもからかって怒らせているのはキルリアの方だと思うんだけど……と思わずこぼしてしまいそうになってチャックを閉めた。

彼のことは悪いポケモンだとは思わないが友好的な態度とも言えないので、もし一緒に組むとなると少し気が引ける。

それにあまり身軽ではない僕が加わったら、彼らの足を引っ張ってしまいそうだ。


このギルドには既にスリーマンセルで組まれたチームが殆どであり、前述の『トリックスター』を除くと、あとは単独で情報伝達をこなしているデリバードくらいだ。

一体僕は誰とチームを組むんだろう。改めて考えると選択肢が見えない。
 ▼ 43 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:32:48 ID:vD764DRg [3/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「私はね、キルリアと組んでもらおうと考えてるの」

ジュペッタ・キルリア「ふえっ!?」


僕たちはふたり揃って素っ頓狂な声を上げた。


グレイシア「キルリアはまだ未熟ですし、初心者だけで組ませるのは……」

キルリア「初心者じゃないもん!」

ユキメノコ「だ、そうよ。私はこのふたりがピッタリだと思うわ。どうかしらジュペッタ?」


僕はキルリアを見た。キルリアもこちらを向いていて、彼女の澄み切った赤い瞳に僕の姿が映っていた。


ジュペッタ「……僕は、キルリアがいいのなら」

キルリア「もちろんだよ!」


僕が言い終わると同時にキルリアが飛びついてくる。


キルリア「わぁーい! 一緒に頑張ろーね!」

ジュペッタ「いたた…引っ張らないでよー」


僕の腕を掴んだままぐるぐると回転し出したキルリアに激しく振り回されて目が回った。
 ▼ 44 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:33:30 ID:vD764DRg [4/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「でも、私がジュペッタと組んだら『フレイヤ』はどうなっちゃうの?」


元々キルリアはユキメノコとグレイシアのふたりとチームを組んでいた。

抜けてしまったキルリアの枠はどうするのか、それは僕も気になった。


ユキメノコ「実はね、もうひとり新メンバーがいるのよ。……入ってらっしゃい」

???「はぁーい♪」


ユキメノコの呼びかけと共に入って来たポケモンに一同は目を丸くする。


ルージュラ「『チーム フレイヤ』の新メンバー、ルージュラでーす! ゴーストのお兄ちゃんも今日から探検隊デビューなんだね。おめでとー☆」

ジュペッタ「えっ…その、君は?」


成熟した人間の女性に似た外見に反しまるで幼い女の子のような喋り方で接してきた彼女に僕は呆気にとられる。


キルリア「ムチュール、進化したんだ! おめでとうっ!」

グレイシア「そうか。君も探検隊入りするんだね」

ルージュラ「そうなの♪ 明日からよろしくお願いしまーす!」

ジュペッタ「……え?」


なんと、彼女はムチュールが進化した姿だった。

あまりにも急速な変貌ぶりに驚くが、僕以外の皆はなんの違和感も抱いていないらしい。
 ▼ 45 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:34:29 ID:vD764DRg [5/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そしてこの日、僕はもう一つの事実を知ることとなった。



ジュペッタ「それにしてもすごいね。女性だけで過酷な冒険に出るだなんて」

グレイシア「……」


宴もたけなわの中、何気ない僕の一言でグレイシアの表情が凍った。

もともとクールなすまし顔ではあったが、今は全てを見下すような侮蔑が前面に表れている。


キルリア「あ……ジュペッタ……」

ルージュラ「あちゃー」

ユキメノコ「あらあら」


皆はなぜか料理を手に持ったまま静かに遠ざかっていった。

:
グレイシア「僕は男だバカーーーッ!!」

ジュペッタ「わーっ! ごめんなさーい!」


怒声とともに凍える風が吹き叫び、僕は食べかけの木の実と一緒に吹き飛ばされた。

……ポケモンの性別は外見で判断してはいけないのだと、僕はこの日強く思い知ったのだった。
 ▼ 46 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:36:30 ID:vD764DRg [6/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

―その夜―


キルリア「今日はビックリしたなぁ。本当に私とジュペッタが一緒のチームになるなんて……」


寝床に潜った後もキルリアは全く寝つけないようで、瞳を爛々と輝かせて喋り続けていた。

でも、今夜ばかりは僕も同じだ。


キルリア「明日の初仕事、頑張ろうね」

ジュペッタ「うん。迷惑かけちゃうかもしれないけど……」

キルリア「そんなの心配してたら何も出来ないよ。大丈夫、絶対うまくいくから!」


今夜結成されたばかりの僕らのチームは、いきなり初任務を与えられたのだ。

しかも期日は明日。

期待や不安がいっぱいで、とてもじゃないけど眠れそうにない。
 ▼ 47 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:37:05 ID:vD764DRg [7/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリアがこれまで経験したダンジョンでの出来事や明日の任務の内容など、話題は多岐にわたって尽きることはなかったが、一番の話題はやはりチーム名についてだった。


キルリア「それで、どうしよっかチーム名。明日までに決めなくちゃいけないよね。ジュペッタは何かいい案ない?」

ジュペッタ「……特にないや」

キルリア「もー! ちゃんと考えてよー」


考えているフリはするものの、正直僕には検討もつかない。

記憶というこれまでの人生経験をリセットされてしまったのだから、どうしてもその分ボギャブラリーは不足してしまうのだ。


長い間、ふたりで語り合った。

と言ってもキルリアが次々に案を出して僕がそれに口を出すやり取りが殆どだったけど。


その末にやっと答えが出たときにはもう、意識も薄れて半分眠りの世界に誘われていた。
 ▼ 48 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:38:44 ID:vD764DRg [8/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「私ね、なんとなく思ってたんだ。……夢で見たの。私とジュペッタが一緒に森を探検する夢……」


眠りがけに、キルリアはそんなことを囁いた。


キルリア「私達、きっと良い探検隊になれるよね……」

ジュペッタ「うん……そうだね」

キルリア「……ずっと一緒にやっていけるよね……ジュペッタは、居なくなったり、しないよね……」


僕は重いまぶたを開いて彼女の顔を見る。

静かに目を閉じて眠る横顔は、どこか悲しげに見えた。







――――――

――――

――
 ▼ 49 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:39:33 ID:vD764DRg [9/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

この頃は訓練で疲れてぐっすりと眠り込むことが多かったせいか、夢を見たのは久しぶりだった。

いや、見ていたけれど忘れていただけかもしれない。

最近では記憶を思い出すことに頓着しなくなったから、あまり夢を意識しなくなっていたのだ。


久々の感覚に身を委ねていると、段々と周囲の輪郭がはっきりとしてくる。


???『……』


誰がそこに佇んでいた。


???『ジュペッタ。聞こえますか?』


意志の強そうな赤い瞳にしなやかな体躯を持つ彼は、聞き覚えのある声でそう問いかけてきた。


……あなたはもしかして、ずっと僕を呼んでいた?


その疑問を浮かべた瞬間、相手は正体を明かした。



エルレイド『私はエルレイド。森の精霊の使いです。貴方をここにお連れした意味を、貴方に課せられた使命を伝えにきたのです』
 ▼ 50 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:40:29 ID:vD764DRg [10/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

エルレイド。聞いたことのない名前だった。

森の精霊という言葉にも、全く既視感が無い。

夢が忘れていた記憶を思い出す手がかりになると思っていた僕は、期待が外れたことに落胆する。


エルレイド『ジュペッタ。貴方を連れてきたのはこの森を守る精霊……キュウコン様なのです。森を覆い尽くす邪悪な闇を払うために』


キュウコンという名前は知っていた。

一度は夢の中で微かに聞こえたときのもの。

もう一つは、キルリアやギルドの皆がしきりに話してくれた「神隠しの森に巣食う恐ろしい獣」の話で語られていたポケモンの名前だった。


エルレイド『貴方の記憶を奪ったのも、使命の為です……全てをこなした暁には必ず全てお返しすると約束します』

エルレイド『……この森は邪悪な呪いで覆われています。とあるポケモンによる深い深い怨みの念によって、森はダンジョンへと変わり、偽りの幻が迷い込んだ者を閉じ込めているのです……』

エルレイド『……この呪いを解くことが……たの使命で…………』


不意に、いつもの強い風が吹いてきて、エルレイドの声がかき消されてしまった。

待って! まだわからないことがあるんだ……!

白い吹雪に飲み込まれた彼の姿を追い、僕は必死に手を伸ばした。





エルレイド『私も……かつて……………………の…です……』

エルレイド『これだけは……知ってください…………貴方の今居る場所……そこもまた、偽りの………………』

エルレイド『…………を…どうか……………』







――――――

――――

――
 ▼ 51 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:41:32 ID:vD764DRg [11/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ジュペッタ、おっはよー!」

ジュペッタ「うぎゃっ」


夢の余韻を味わう暇もなく、僕はキルリアにのしかかられて無理矢理起こされた。


キルリア「はやくご飯食べて支度しよっ! はやくはやくぅー」

ジュペッタ「もう、わかったから少し落ち着いてってば……」


無邪気に跳ね回るキルリアを見ていると先程の夢が非現実のように思えてきて、これから向かう初任務に意識をやるとそのまま忘れてしまいそうだった。

だけど、今日ばかりは忘れられない内容だった。



……夢の中で僕を呼んでいた相手がわかったんだ。

エルレイド。彼は精霊キュウコンの使いだと名乗り、僕に森を救うように頼んできた。

僕の記憶を奪ったのもキュウコンで、取り戻すには使命を果たさなければならない。

そして、去り際に残した言葉。


ジュペッタ「偽りの……場所……」


考えれば考えるほど、どうしたらいいのかわからない。
 ▼ 52 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:42:15 ID:vD764DRg [12/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ジュペッタ! どうしたの? まだ眠いの?」


まだ寝床の上でぼんやりと考え込んでいると、再び部屋に入ってきたキルリアが僕を呼びに来た。


……悩んでいても仕方がないかもしれない。

期待で瞳を輝かせた、今にもここを飛び出してしまいそうな様子のキルリアを見て、僕はそう思った。


夢に現れたエルレイドの語る話は、まだ信じられない部分も多い。

何を信じるのか、そしてどうしたらいいのか、それはもう少し時間をかけて考えてからでも遅くはない筈だ。

とにかく今は、ギルドの初仕事に専念しよう。


ジュペッタ「待ってよ、今行くから!」


気持ちを切り替えた僕は、寝室を後にした。
 ▼ 53 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:43:17 ID:vD764DRg [13/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリアに引き摺られるようにして調理場に顔を出すと、僕らを見たユキメノコが「随分早いのね」と微笑んだ。

だが、あまりに早すぎたせいで朝食はまだ出来ておらず、その前に旅支度を先に始めることになった。



―預かり所―


キルリアに連れられ、僕はギルドの預かり所にやって来た。

普段はアイテムの引渡しをするポケモンで賑わっているが、今はまだ早朝なせいか眠そうな管理当番がひとり居るだけだった。


キルリア「ジュペッター! はやく支度やろーよ! 探検の荷物ってたくさんあって大変なんだよ。私が教えてあげる!」


キルリアの弾んだテンションは冬の早朝の静けさをも打ち破る。

あまりに元気過ぎる彼女に対し、僕は少しだけ皮肉めいた台詞を投げかけることにした。
 ▼ 54 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:43:54 ID:vD764DRg [14/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「キルリアってさ、クリスマスイヴの夜に楽しみでなかなか寝つけないのに、次の朝には一番乗りで早起きしてるタイプだよね」

キルリア「え? どういう意味?」


そうか。クリスマスを知らないんだ。

何気なく出た言葉だったが、よく考えればその文化がどこにでもある訳では無い。

ましてやポケモン達の間でそれが伝わっているとは更に考えにくかった。


ジュペッタ「えっと、次の日に楽しみなことがあると眠れないのに、いざ夜が明けるとすっきり目が覚めるよねって事だよ」

キルリア「そうそう! よくわかってるねジュペッタ!」


キルリアはそこに含まれた遠回しな意味合いには全く気づかず、にこにこと笑って同意してきた。


キルリア「ねぇ、クリスマスってなぁに?」


そして、僕の発したその言葉の意味を聞いてきた。
 ▼ 55 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:44:29 ID:vD764DRg [15/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「クリスマスって言うのは冬のお祭りでね。皆で美味しいものを食べたりプレゼントを貰ったり……」


プレゼント……

何故だか思い出そうとすると頭が痛くなってしまい、僕は口ごもってしまった。


キルリア「どうしたの?」

ジュペッタ「ううん、何でもないよ。……えっとそれで、クリスマスの日にはサンタクロースっていう子供にプレゼントを配るひとがいるんだ。朝になると枕元にプレゼントが置いてあるから、だから楽しみで眠れない子供がいるんだよ」

キルリア「サンタクロース…?」

ジュペッタ「赤い格好で白い髭があって、空飛ぶソリに乗ってたくさんの子供達にプレゼントを配るんだよ」

キルリア「えっ! ひとりで配ってるの?」

ジュペッタ「うーん、それはどうなんだろ……」


サンタクロースが個人なのか種族なのか、そこは覚えていないのではっきりと答えられなかった。

一人で配っているのなら、相当なお金持ちで子供好きなんだろう、きっと。


デリバード「それって無償か?」


突如僕達の会話に入ってきたポケモンがいて、僕は少し驚いて振り返った。
 ▼ 56 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:45:35 ID:vD764DRg [16/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

デリバード「なんかの雇われなら話はわかるけどよ、もしボランティアでやってるとしたら相当な馬鹿だなそいつは。仕事は報酬あってこそのもんだ。運び屋ってのも楽じゃないんだぜ」


彼はデリバード。主に単独で連絡役をこなしているポケモンだ。

それ故にあまり接したことはなく、何となく飄々としたイメージしかなかったが、以外にもかなりきっちりした性格らしい。

確かに子供の視点から見ると楽しいものだが配る側には相当な負担と苦労があるのかもしれない。


キルリア「私は素敵だと思うけどなぁ、クリスマス」


だけどキルリアはやはりというか、夢見る子供のような顔でうっとりとしていた。


デリバード「これだから子供は気楽で羨ましいぜ。俺はこれから仕事だ。お前らもしっかりやれよ」


これだからオトナはロマンがないの!と憤るキルリアの頭をポンと撫でると彼は空へと羽ばたいて行った。
 ▼ 57 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:46:39 ID:vD764DRg [17/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜


キルリア「それでね、トドクラーさんったら酷いの! せっかく私がジュペッタに持ち物の準備を教えようとしたのに、『アンタらみたいなひよっこ探検隊にに復活の種なんて勿体ないよ』って言ってくれなかったんだよ!」

ジュペッタ「流石に6個は多いと思うけどね……」


キルリアは頬を膨らませて憤慨し、ユキメノコに先程の出来事を吐露した。

アイテムを贅沢に選ぼうとした結果、預かり所のトドクラーにその殆どが却下されてしまったのだ。

しかし、貴重な物資を新米の探検隊に渡すのに抵抗があるのは仕方がないことだとは思う。


ユキメノコ「そう……後で私が頼んでおくわ」

キルリア「ほんと? ありがとう!」


キルリアが奔放なのはユキメノコが甘いからなんじゃないかと僕は少しばかり疑念を抱いた。


ユキメノコ「それで、あなたたちのチーム名は決まったの?」


ユキメノコは今度は僕に向き直って話題を振った。
 ▼ 58 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:47:04 ID:vD764DRg [18/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



食べかけのクラボの粒を飲み込み、僕は答えた。


ジュペッタ「はい。『スノードロップ』に決めました」


雪の下に咲く、春を告げる白い花。

様々な名前の中からようやく決めたのは、この町の名称と同じものだった。

ユキメノコはその名を聞いて少しだけ目を見開いたが、すぐにまたいつもの微笑を浮かべた。


ユキメノコ「素敵ね。『スノードロップ』……ジュペッタ、今日からあなたも探検隊の一員よ。パートナーのキルリアと力を合わせて頑張ってね」


僕は彼女の言葉に深く頷いた。
 ▼ 59 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:47:50 ID:vD764DRg [19/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

食事が終わると、広間にて任務の内容を改めて説明された。


ユキメノコ「今回の任務は交易品の輸送と護衛よ。南の街との取引は先にデリバードが行っているから、あなた達はその物資を無事にここまで持ち帰って頂戴」


雪に覆われたこの町では、主に森で採取したアイテムを生活の糧にしている。だが、それでも賄えない物は多い。

その為、森を南に抜けた場所にある大きな街と、時々物資を交易しているのだ。

今回の任務はそれを引き取りに行くのが目的だった。


キルリア「場所はいつもと同じなんだよね?」

ユキメノコ「ええ。南に五ブロック行った地点の広場よ。あなた達がつく頃にはもう交渉は終わってる筈だから、置いてある荷車をそのまま引いてくればいいわ」


南の街と取引を行っている場所までは、歩きで3時間程かかるそうだ。

荷車に積まれた物資は量が多く、非力な僕達では運ぶのが困難なので、代わりにもうひとり別のチームのポケモンが運搬を担当してくれることになった。
 ▼ 60 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:48:35 ID:vD764DRg [20/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ツンベアー「…ったく、何で俺がガキ共のお守役なんだ」


『トール』のリーダーであるツンベアーは、不服そうに僕らを見下ろして呟く。

力自慢で腕っ節も強く、一つのチームのリーダーも務める彼がこの任務に抜擢されたのだ。


ユキメノコ「大丈夫よ、あのひとはああ見えて面倒見が良いの」


ユキメノコは僕に気遣ってフォローしたが、言われずとも彼のひとと成りは数週間見てきた普段の様子から大体理解していた。

小さなポケモン達が多く学ぶ演習場にてそれは顕著であり、彼が顔を出せば幼子達が一斉に群がって探検の話や肩車をせがむ光景がよく見られた。


キルリア「いい加減子供扱いしないでよ、今回の任務は私達がツンベアーさんを守ってあげるんだからね!」

ツンベアー「ほんと口だけは一丁前だな」


僕はツンベアーによろしくお願いしますと告げ、ユキメノコから受け取ったトレジャーバッグを身につけた。





いよいよ、僕らの初任務が始まろうとしていた。
 ▼ 61 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:49:18 ID:vD764DRg [21/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜〜


キルリア「ジュペッタ! そっちに行ったよ!」


キルリアの叫び声に僕は振り返る。


イノムー「ムゥゥゥゥゥ!!」


大きな猪ポケモンが嘶きを上げてこちらに向かってくる。

僕は目の前にいた小さな猪にとどめを刺すと、すぐにそちらに対処すべく闇のエネルギーを溜めた。

距離はまだある。今から上手く溜めれば先制のとれるタイミングでシャドーボールを撃てる筈だ。


イノムー「ウウウウウゥゥゥ!」


巨体に反して動きは決して鈍重ではなく、確実にその距離は狭まっていく。

手の中のエネルギーはまだ完全ではない。

研ぎ澄ました精神に少しだけ焦りが混じる。

ジリジリと音を立て、安定を崩したエネルギーが揺らいだ。


迫り来る声に体制を立て直すべきかと思い直した瞬間、敵の猪とは比べ物にならない程の怒声が鳴り響く。


ツンベアー「ボサッとしてんじゃねぇ!!」
 ▼ 62 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:50:02 ID:vD764DRg [22/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

体に水を纏ったツンベアーは物凄い速さでイノムーに突進し、鋭い爪を思い切り振り下ろした。

叫び声と共に敵は倒れ伏す。それを確認すると、僕に向き直って大きな腕を振り上げた。


ジュペッタ「わっ!?」

ツンベアー「お前は馬鹿か! あの状況で悠長に技を溜めてる余裕はなかっただろ。すぐに撃てる技を使うか、距離を取るか、それかそのバッグの中に腐るほどある道具でも使いやがれ!」


僕は頭を鷲掴みにされて持ち上げられ、そして耳元で大声の説教をされる。

恐ろしくて縮こまってしまうが、言われている事は正論だ。

訓練を受けて自信をつけたと思っていたが、いざ本当の戦闘になると緊張してしまって思うように動けない。もっと冷静にならなくちゃ……


ツンベアー「キルリア、お前もだ! 」

キルリア「えっ?」

ツンベアー「お前は逆だ! エスパータイプの癖にわざわざ敵に向かって行くんじゃねぇ! だから撃ち漏らしてジュペッタに敵が向かっちまったんだろうが!」

キルリア「うぅ……私までお説教されるなんて……」


ツンベアーの戦闘指南はキルリアにまで及んだ。

彼女はサイコパワーで戦う種族にも関わらず炎のパンチが得意技で、敵と接近し過ぎることが度々あって危なっかしいのだ。



パートナーとしてはまだ頼りないキルリア。

記憶を無くし、戦い方を教わったばかりの僕。


いつか――僕達がふたりだけで任務をこなさなければならないそのときまでに、僕達は強くなれるのだろうか。
 ▼ 63 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:50:44 ID:vD764DRg [23/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ツンベアーの助言と援護を受けながら何度か戦闘をこなし、僕達は森を南下していく。

ダンジョンに現れる敵ポケモンは、姿形は理性を持った普通のポケモンと変わらない為、倒す事には躊躇があった。

戦闘を交える内に少しづつ感覚が掴めていったような気がする。

途中、周りに敵が居ないのを見計らって休憩もとった。



キルリア「はぁ……美味しい。寒いときにはやっぱりマトマのスープだね」


キルリアは瓶に入れたスープを飲み、ふわりと白い息を吐いた。

ユキメノコが持たせてくれたスープは、体を温めてくれるマトマの実がふんだんに使われていて、飲むと体の芯から熱が湧いてきた。

マトマの他に摩り下ろしたリンゴやナナシが入っており、辛い味が苦手なキルリアでも飲みやすくなっている。

僕はそのスープを仁王立ちで周囲の警戒をしているツンベアーにも差し出したが、俺は要らないと突っぱねられてしまった。


キルリア「ツンベアーさんって実はすっごい甘党なんだって!」


キルリアは僕にそっと耳打ちしてクスクスと笑った。
 ▼ 64 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:51:24 ID:vD764DRg [24/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
―神隠しの森 南の中間地―



休息を終えて小一時間進むと、ようやく目的の場所へ辿り着いた。

そこは周囲の木々が開けていて、石造りの広間と大きな墓標のような物が建築されていた。

ツンベアー曰く、あの大きな石の加工物は交易の目印にされているらしい。

その目印の前には、大量の木の実や道具が積まれた荷車がポツリと放置されていた。


ジュペッタ「あれを運べばいいんですよね?」


僕はその荷車に向かって行こうとしたが、またもやツンベアーに頭を掴まれてしまう。

何故、と問いかけようと振り向くと、ツンベアーは無言で首を振った。

そのまま後退して林の中へ戻り、荷車の裏側へと回り込む。


すると、何者かが荷車の前で座り込んでいるのが見えた。


ブロンドの髪に赤いドレスの後姿。女性のような姿をしたそのポケモンは、僕にも見覚えがあった。


ルージュラ「……」


彼女は荷車の前で膝をつき、祈りを捧げているようだった。
 ▼ 65 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:51:57 ID:vD764DRg [25/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「あのルージュラは……?」

ツンベアー「敵だ」


間髪入れず返されたその答えに僕は戸惑った。

ダンジョン内のポケモン達は言葉が一切通じず、容赦なくこちらに襲いかかってくるので、敵だと割り切って倒すことができた。

でも、あのポケモンは違うように見える。

もし、何かを祈る心を持っているのだとしたら、僕達と同じ側のポケモンなのではないだろうか……


ツンベアー「奴はエスパータイプ。お前のゴースト技が切り札だ。俺が引きつけてる間にデカいのをぶち込め。キルリア、お前は前に出るなよ。ジュペッタのサポートに徹しろ」


ツンベアーは僕達に戦いの指示を出した。


キルリア「ジュペッタ、私が守ってあげるから安心してね」


キルリアも戦う準備は出来ている。

……やるしかないのだろうか。
 ▼ 66 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:52:40 ID:vD764DRg [26/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

僕は気を集中させ、両手の間にシャドーボールを形成する。

その黒い光が充分に集まったところ、気配に気がついたのかルージュラがくるりとこちらを振り返った。


ルージュラ「…………」


黒い肌の顔の中で存在感を放つ白い目は、思いきり見開かれていてじっとこちらを凝視している。

その異常な様子に怖気づきそうになるものの、僕は心を奮い立たせて持ちこたえた。

ルージュラはフラフラとした足取りでゆっくりとこちらへ歩いてきた。

手を前に突き出し、何かを求めるようにさまよわせている。


ルージュラ「……ル」


わななく唇から何かが零れる。


ルージュラ「……ール、そこにいるの?」


明確な言葉が聞き取れた瞬間、僕の戦意が失われた。

しかし、
 ▼ 67 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:53:16 ID:vD764DRg [27/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ツンベアー「…来るぞっ!!」


ツンベアーがそう叫んだ瞬間、ルージュラは奇声を上げながら走り寄ってきた。


ルージュラ「ワタシノ!ワタシノ!」

ツンベアー「グッ!……う、うおおおぉぉぅっ!!」


僕の前に立ち塞がって相手を迎え撃とうとしたツンベアーが、何かの力によって飛ばされる。


キルリア「ツンベアーさん!」


木々がなぎ倒される音。やがてその終点にて鈍い音が響く。

ツンベアーは巨木に叩きつけられ、念力に抑えつけられているのか身動きがとれないようだ。


ルージュラ「ワタシノ……カワイイムチュール……」


ルージュラの攻撃の矛先は僕達に向けられる。

僕は身構えた。既にシャドーボールは形を失い消えていた。
 ▼ 68 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:53:43 ID:vD764DRg [28/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ちっ近寄らないでよ! 来たらやっつけちゃうんだから!」


キルリアは拳を作って構える。その小さくか弱い拳に炎が点った。


ルージュラ「ムチュール!ムチュール!ウアアアアアアア!!」

キルリア「喰らえ!炎のパンチ!」


両手を広げて襲いかかってくるルージュラに対し、キルリアは真正面から迎え撃とうとする。

だけど、リーチで負けている。

このままでは間違いなく、パンチを決める前にあの長い腕に捕まってしまうだろう。


ジュペッタ「危ない!」


僕は咄嗟にトレジャーバッグからゴローンの石を取り出し、投げた。

先刻ツンベアーに叱咤された内容が脳裏によぎったのだ。


ルージュラ「あグッ!?」

キルリア「やあああっ!」


一瞬怯んだルージュラの無防備になった腹部に、キルリアが炎を纏わせた拳を叩き込む。

氷タイプに炎の攻撃。効果は抜群だ。


ルージュラ「……グ……グッ……ムチュール……」


だが、ルージュラは再び身を起こした。
 ▼ 69 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:54:40 ID:vD764DRg [29/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリアは再び拳に炎を宿す。僕もシャドーボールを溜め始めた。


ルージュラ「アアアアアァァッ!!」


ルージュラが標的に捉えたのは僕だった。

動きはこれまで遭遇した森のポケモン達の比ではない。


手の中のシャドーボールはまだ完全ではなかった。

駄目だ、間に合わない!

そう思ったその時、キルリアが叫んだ。


キルリア「ジュペッタ! かわして殴って!」


僕は考えるよりも先に相手の伸ばした両腕をかいくぐり、懐に潜り込んで不完全な球体を宿したまま思いきり殴りつけた。


ルージュラ「キエエエエエエェェアアアアアア!!」


ルージュラは甲高い断末魔を上げて倒れた。豊かな金糸が雪の上に広がる。


キルリア「『シャドーパンチ』、成功ね!」


駆け寄ってきたキルリアがハイタッチで讃えてくれた。


充足感に包まれた傍らで、先ほど飛ばされたツンベアーの事が気にかかった。

彼は無事だろうか……

 ▼ 70 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:56:27 ID:vD764DRg [30/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

僕とキルリアはなぎ倒された木々を辿ってツンベアーを探した。

しかし、彼が叩きつけられた巨木のある場所まで行っても、彼の姿はどこにもなかった。


キルリア「ツンベアーさん? どこにいったの……?」


キルリアは巨木の周りをぐるぐると周り、倒壊した細い木の下まで覗いてツンベアーの姿を探した。

僕も上空まで飛んで上から辺りを探してみたけれど、彼らしき影はどこにも見当たらなかった。


ジュペッタ「キルリア、おかしいよ。足跡一つ残っていないんだ」


この森は厚い雪が降り積もっており、歩いた場所には足跡が残る。

宙に浮けないポケモンが全く足跡を残さず歩いて立ち去るのは普通なら不可能であり、ツンベアーはその場で消えたということになる。

僕の言葉にキルリアはさっと顔を青くした。


キルリア「……ジュペッタ、どうしよう……」


僕が着ている防寒具の裾を掴み、彼女はうなだれた。


キルリア「キュウコンだよ。きっと、キュウコンがツンベアーさんを連れて行っちゃったんだ……」
 ▼ 71 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:56:50 ID:vD764DRg [31/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キュウコン。僕は夢の中のエルレイドに言われた台詞を思い出した。

森を守る精霊。

彼はそう言っていたが、ギルドのポケモン達の間で伝わっている話は彼の語るものとは大きく異なる。


「森に迷い込んだ者を連れ去る悪い獣」「恐ろしい呪いの力を持ち、一度祟られると千年続く」「拐ったポケモンを生贄にしている」


そんな悪い言い伝えと忠告を沢山聞かされた。

ギルドの皆とエルレイド。一体どちらの話が正しいのか、今の僕にはわからない。



キルリア「……グスッ…」


泣きべそをかき始めたキルリアを宥めようと肩を抱く。

どうしたらよいかわからないのは僕も一緒だった。
 ▼ 72 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:57:25 ID:vD764DRg [32/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ビュウウウウウウゥゥゥ……


ちっぽけで頼りない僕らに冷たい風が吹きつける。

ガサガサと木々の葉が音を立て、更なる不安を掻き立てた。


キルリアがハッと顔を上げる。

そして、遠くの木々を食い入るように見つめだした。


キルリア「あ……」

ジュペッタ「どうしたの?」

キルリア「近づいてくる……こっちに……」


僕は彼女の視線の先を辿る。そこには、「何か」が佇んでいた。

長い尾。白銀の毛並み。

そしてこちらを見据えるのは透き通った青い水晶のような瞳……


あれは、いつの日か夢で見た者と同じだ。



キルリア「キュウコン…だ……」


キルリアは震えた声でその名を口にした。
 ▼ 73 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:58:02 ID:vD764DRg [33/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「待って! ジュペッタ!」


僕はキルリアの制止を振り切って駆け出した。

僕は確かめたかった。

僕の記憶を奪ったこと、森を救う使命のこと、そして何が偽りなのかということ。


近寄れば近寄る程、キュウコンは美しく見えた。

触れると消えてしまいそうな儚さ。

だけど、その美貌は決して冷たいものではなかった。間近で見た薄青色の瞳には、優しげな光がともっていた。


ジュペッタ「キュウコン! お願い教えて! 本当のことを……」


僕が叫ぶと、キュウコンは無言のまま九つの尾を逆立たせた。



――不思議な光が僕を包む。







――――――

――――

――
 ▼ 74 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 19:58:31 ID:vD764DRg [34/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

吹雪の中、女の子の泣き声が聞こえる。

僕はその声の主を探して視線を彷徨わせた。


だけど、そこにいたのはエルレイドだった。

彼はぼろぼろの体で膝をつき、それでも何かを必死に守るように両腕の刃を相手にかざしていた。


彼の傍ではキュウコンが倒れていた。

目を閉じていてピクリとも動かず、その体にはもう雪が積もっていた。


やがて黒い影がゆっくりとエルレイドに這い寄り、その身体を包み込んでいく。





「やめて!!」







――――――

――――

――

 ▼ 75 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 20:00:02 ID:vD764DRg [35/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

気がつくと、僕たちは森の入り口に座り込んでいた。

キルリアは僕の体にしがみついて泣いている。

ゴトリ、と音を立ててキルリアの手から光を失った玉が転がり落ちた。

どうやら穴抜けの玉を使ったらしい。



デリバード「おい、お前らどうした!」

グレイシア「……ツンベアーは一緒じゃないのかい」


騒ぎを聞きつけたギルドの皆が集まってきて、口々に何があったのかを問う。


キルリア「……グスッ……ツンベアーが、いなくなっちゃったの……」


キルリアの言葉に、更に追及が激しくなる。


ジュペッタ「キュウコンに会ったんだ」


そして、僕の答えに皆が息を飲んだ。
 ▼ 76 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 20:01:24 ID:vD764DRg [36/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜


ユキメノコ「……そう。キュウコンが出たのね」


ユキメノコは腕を組んで静かに考え込む。

ギルドのポケモン達が広間に集まり、僕らは今日あったことを全て話した。


マニューラ「ハァ……だからオレは言ったんだよ、こんな新米どもに探検は無理だって」

オニゴーリ「ツンベアーがいなくなっちまって、俺らのチームはどうなるんだ!」


僕達を気遣ってくれる者やこれからすべき行動を冷静に考える者もいれば、中には心無い台詞を言う者もいた。


キルリア「ごめんなさい……私が、置いて逃げちゃったから……」


キルリアは未だに泣き続けており、ユキメノコとルージュラがそれを慰めていた。


……だけど、悪いのはキルリアじゃない。

あの時戦いを躊躇してしまったのは僕だ。



ジュペッタ「違うよ。僕が足を引っ張ったんだ」


僕の一言で皆の批判は一気に僕に集中する。

元々僕は、このギルドにおいて余所者だ。最も信頼のない僕が悪者になるのが自然の流れと言えるだろう。
 ▼ 77 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 20:04:16 ID:vD764DRg [37/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ユキメノコ「おやめなさい!」


ユキメノコが叫び、ぴしゃりと場が静まった。


ユキメノコ「ギルドは皆が助け合うのが基本でしょう? 誰かひとりが悪いなんてことはないの。ジュペッタだけを責めるのはやめなさい!」


彼女は僕を安心させるように続けた。


ユキメノコ「……ツンベアーの捜索とこれからの対策は明日話し合いを設けます。ともかく今はふたりを休ませてあげましょう」

ユキメノコの支持でこの場は収められ、僕達は休むことになった。

キルリアはグレイシアと話があるらしく、僕は先に寝床に潜った。







――――――

――――

――
 ▼ 78 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 20:05:10 ID:vD764DRg [38/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

疲れた体と頭で眠りにつくと、僕は再び同じ夢を見た。

……いや、少しだけ違う。


戦っているのはキュウコン。その傍らで共に戦っているのは見たことのない青い鳥ポケモンだ。

彼らは共に氷雪の向こう側にいる者に立ち向かっている。

燃えるような赤い瞳と透き通った氷の瞳。

その二対が見つめる先にいるのは……





吹雪の中から伸びた無数の黒い影がふたりへと襲いかかる。

翼を貫かれた鳥は地面に叩きつけられ、キュウコンは黒い影の腕に絞められて激しくもがく。

苦しむふたりを見たそいつは、クスクスと愛らしい声を上げて冷笑した。





僕は、舞い散る雪の中で微笑むそのポケモンの顔を見た。







――――――

――――

――
 ▼ 79 ◆XSB9B4V/6I 17/12/24 20:06:15 ID:vD764DRg [39/39] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「ヒッ!」


僕は引きつった悲鳴を上げてはね起きた。

心臓が早鐘を打って苦しい。

震える息を吐くと、いつの間にか横で寝ていたキルリアが目を開けた。


キルリア「……どうしたの、ジュペッタ……? 怖い夢見たの?」


キルリアはそう囁いてぎゅっと僕を抱きしめる。

温かい。

ふと、酷く懐かしい感覚に襲われ、僕の目にじんわりと涙が滲んだ。





……だけど、僕はもう信じられなくなってしまった。





夢の中でキュウコン達と対峙してきたポケモン。



それはユキメノコだった。
 ▼ 80 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:11:32 ID:eHjTkv8. [1/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告







chapter3 真実を求めて






 ▼ 81 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:12:07 ID:eHjTkv8. [2/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

―次の日―


ユキメノコ「これまで、私はキュウコンの危険性を知っていながらも、直接の対処はしてきませんでした」

ユキメノコ「……しかし、今回の件を機に決意します。皆でキュウコンを倒しましょう」


翌朝、ギルドに所属する全てのチームが広間に集められて話し合いが行われた。

ギルド長の決意の言葉に皆は勇ましい歓声を上げる。

僕だけがそれに取り残されて虚ろな気持ちでそこにいた。


ユキメノコ「部隊を捜索隊と討伐隊に分けます。捜索隊は居なくなったツンベアーの捜索と町の警護を。討伐隊はキュウコンがいると言われている北の廃墟へ探索に行ってもらいます」


討伐。その単語に僕は更なる確信を抱いてしまう。

やっぱり、彼女はキュウコンを……


ユキメノコ「ジュペッタ、キルリア。あなた達も討伐隊に加わってもらうわ」


僕の肩がびくりと跳ねる。


キルリア「……はい!」


キルリアは堅く決意した瞳で力強く返答した。

だけど、僕はそれに答えられずにいた。
 ▼ 82 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:12:30 ID:eHjTkv8. [3/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「ジュペッタ、聞いて頂戴」


僕が迷っている理由を勘違いしたのか、ユキメノコは僕を後押しすべくこんな話をした。


ユキメノコ「ジュペッタだけではないわ。ギルドの皆にも知って欲しいの。彼の正体を」

ジュペッタ「え……?」


ユキメノコ「この子は森の奥にある廃墟……キュウコンの根城と呼ばれているあの場所で見つかった。そのことで彼を疑う者が多いのでしょうけど、決してキュウコンの手先だということはないわ」

ユキメノコ「何故なら彼は、『人間』で、この森に伝わる『救世主』だからよ」


彼女の言葉に一同が息を飲み、そしてざわついた。


ユキメノコ「記憶をなくした元人間のポケモンが世界を救った話はいくつもあるでしょう? 隕石の衝突を止めた者、時の停止を食い止めて未来を守った者……それと同じように、この子もこの森に巣くう悪しきものを倒すために遣わされた。私はそう考えているの」


ユキメノコの語る話に僕は呆気にとられた。

この世界には、人間の世界からやってきてポケモンとなり危機を救った存在がいくつも伝承として残っているらしい。



「元人間」という単語にも、僕は思い当たる節があった。
 ▼ 83 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:13:21 ID:eHjTkv8. [4/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコ「この子は初め何もかもを忘れていた。自分の種族や、ポケモンとして生きる上で必ず学ぶべき事柄も、全て。それは、元々この子が人間だった証なのよ」

キルリア「あ……そういえば…」

グレイシア「そう考えるのが妥当かもしれないな」


僕自身、以前から薄々思っていたことと同じだった。

僕はみんなと違って一目見ただけでポケモンの雌雄の区別がつかないし、ポケモンであればこれまで食べて生きてきたはずの木の実の味も知らなかった。

それに、薄っすらと記憶の片隅に残っている景色……あれは、人間たちの暮らす街だった。



ユキメノコ「キルリア、あなたも知っているでしょう? この森に伝わる古い歌を」

キルリア「えっと、……『森が邪悪に包まれしそのとき 赤き真実の石きらめき 救世主降り立つ』」

ユキメノコ「そう、この歌の救世主というのは、『伝説の救助隊』や『伝説の探検隊』に出てくる、世界の危機を救うために記憶を捨ててやってきた彼らの存在と同じなのよ。だから、私はジュペッタがこの森を救う救世主だと確信しているの」


ユキメノコは、真摯な眼差しで僕をじっと見つめた。


ユキメノコ「あなたがあの場所で目覚めたのは、あなたがキュウコンの仲間だからではないの。あなたはキュウコンを倒すべくやってきた戦士。だからあの場所に降り立ったのよ」

ユキメノコ「私はあなたを信じているわ。あなたならきっとこの森を救ってくれる。どうか一緒に戦って頂戴」


僕は、操られた人形のようにこくりと頷くと、わっと歓声が上がった。
 ▼ 84 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:13:55 ID:eHjTkv8. [5/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ユキメノコの演説によって、これまで不穏だったギルドの空気が一転して明るいものへと変わった。

皆は僕を救世主だと信じ、結成された討伐隊の中でも切り札のような存在として扱われた。



捜索隊は今朝からずっと行動を始めていたが、討伐隊は作戦を練る作業で一日が終わった。

僕が目覚めた地、キュウコンがいると言われている森の廃墟。

そこへは定期的に足を運んでいたそうだが今までキュウコンに遭遇したことはなかったらしく、倒れている僕を見つけたときは大層驚いたらしい。

またその廃墟に行っても無駄足になってしまう可能性は高く、長い距離の探検は貴重な物資を浪費してしまうのでやみくもに動くことはできない。


しかし話が平行線になる中、僕の存在が皆の意思を動かした。

このままじっとしていても状況は打破できない。もう一度廃墟へと足を運び出来る限り調べてみるべきだ、という結論になった。





―その夜―


夕食をとった後、演習場の裏手にある大樹の傍で僕は思い悩んでいた。

キュウコンとユキメノコ、はたしてどちらにつくべきなのかを。

……いや、僕にはわかっているんだ。

キュウコンの慈愛に満ちた瞳を見た瞬間、そのときから僕はあのポケモンが悪とは思えなかった。



ただ、心残りがあるだけなんだ。



キルリア「ジュペッタ、ここに居たんだ」
 ▼ 85 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:15:14 ID:eHjTkv8. [6/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリアが僕の肩を叩き、隣に腰を下ろした。

遮る物のない空には満天の星が輝き、僕達は大樹に背を預けて座り込んでそれを眺めた。


キルリア「スノードロップの花って見たことある? 白くて可憐でとっても奇麗なんだ」

キルリア「それにね、雪の中で咲いているのを見ていると、なんだかとっても励まされる気がするの」


キルリアはとりとめもない話をし、僕も曖昧に相槌を打つ。それから少しの沈黙の後、本題に入った。


キルリア「ツンベアーさんのこと、絶対助けようね」

キルリア「私、臆病だから。……だから、いつもみんなに頼ってばかりでいつまでも一人前になれないんだ」


彼女の大きな瞳に涙が溜まる。


キルリア「お兄ちゃんがいなくなったときのこと……ちゃんと覚えてないんだけど、でも、私がいけなかったからだって思ってるの。私とふたりでチーム組んでたから……」

キルリア「私、お兄ちゃんに甘えてばかりだった……だからいなくなっちゃったんだ。今回の、ツンベアーさんのことも」


その涙がこぼれそうになった瞬間、僕は思わず手を伸ばしかけたが、キルリアは勢いよく首を振って堪えた。


キルリア「でも、私、もう泣かない。今度は絶対助けるの。だから、私、頑張るから……よろしくね、ジュペッタ」



彼女の決意に満ちた笑顔を見た僕は、胸を掴まされて苦しくなる。

言えなかった。

僕は、自らの決意をキルリアに告げることができなかった。
 ▼ 86 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:15:56 ID:eHjTkv8. [7/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

〜〜〜〜〜


夜更け。僕は静まり返ったギルドの中で荷造りをする。

ひたむきなキルリアを前にして、僕は何も言うことができなかった。

彼女はギルドの皆を、ユキメノコを心から信頼していて、そして貢献しようと奮起しているのだ。


そんな彼女に、ユキメノコが悪かもしれないなどと、どうして言えるだろう。


僕は、何も告げずにここを出ることにした。



防寒着を重ね、トレジャーバッグを背負い、僕は外への扉をそっと開く。

少し歩いたところで、僕はその気配に気がついた。


キルリア「ジュペッタ……どこに行くの……?」


このまま走り去りたい衝動に駆られた。


キルリア「どこかに行っちゃうの? どうして……何があったの?」


でも、そんなことをすればキルリアはきっとどこまでも着いてきてしまうだろう。

僕が押し黙っていると、キルリアは僕に寄り添って言った。


キルリア「何かあるのなら、私に全部話して。私たち、パートナーなんだよ!」
 ▼ 87 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:16:30 ID:eHjTkv8. [8/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

その瞳に込められた意思に気圧されて、僕は自分の見たものを話した。

夢で告げられた使命のこと。

キュウコンが森を守る精霊であること。

だけど、キュウコンと対峙していた場面のユキメノコのことは話せなかった。


キルリア「……そんな……」


キルリアは僕の語る話に目を見開き、言葉を失っていた。

無理もないだろう。今まで信じてきた、まるで母親のように慕っていたユキメノコを疑うだなんて、そう簡単に出来るはずがない。





ジュペッタ「僕は、確かめに行きたいんだ。何が正しいのか、その真実を知るまではキュウコンを傷つける任務なんてできない。だからここを出るんだ」


僕は振り返らずにギルドを後にした。
 ▼ 88 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:17:06 ID:eHjTkv8. [9/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜


夜の森は暗く冷たい。

そして、恐ろしい程静かだった。


敵ポケモンが出ないのは幸いでもあったが、あまりの静けさに恐怖心を煽られる。


しばらくの間、静寂が続いた。





ザク…ザク…ザク…ザク…


それを打ち破ったのは、何かの足音だった。





僕は宙に浮いているから、足音がするのならば、それが誰か別の者であるのは間違いない。

そして、この森に潜むものに味方がいるとは考えにくいだろう。

僕は振り返らずに一心に歩を進めた。


ザク…ザク…ザク…ザク…


足音もそれに続くように鳴り止まない。


やがて、足音だけではなく何か別の声も聞こえた。



「ぉーぃ……ジュペッター……」
 ▼ 89 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:17:39 ID:eHjTkv8. [10/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そのか細い叫び声に、僕は驚いて振り返った。


キルリア「待って……お願い……ジュペッタ……」

ジュペッタ「キルリア!」


その声の主がキルリアであることに気がついた僕は、慌てて彼女へと駆け寄る。


ジュペッタ「キルリア、どうして……」


顔を赤くし、肩で息をするキルリアを前にして僕は呆然と立ち尽くす。


キルリア「……黙って行っちゃうなんてひどいよ。私、君のパートナーなんだよ」


キルリアは弱々しく微笑んだ。


キルリア「ジュペッタの話……私もよくわからない。全部信じたわけじゃないよ。でも……私、もう、なくしたくないの」

キルリア「お兄ちゃんのこと、ツンベアーさんのこと、そして、ジュペッタのことも! もう誰にもいなくなって欲しくないの!」

キルリア「だから……だから、私のこと頼って。お願いだから、信じて……」


言葉と共に強く抱きしめられ、僕は戸惑う。

キルリアは僕を信じてここまで追って来てくれた。

そのことが嬉しくて、喉元まで熱いものが上がってくる。目の前が歪んで、彼女の輪郭がぼやけていった。


ジュペッタ「ありがとう……」


僕が抱きしめ返すと、キルリアの頭の触角がまた微かに赤く光った気がした。
 ▼ 90 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:18:13 ID:eHjTkv8. [11/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

僕達が目指す北の廃墟は、丸一日歩いてようやく辿り着く場所にあるらしい。

キルリアの話でその道中が険しいことを知り、改めて気を引き締めた。



ふたりで身を寄せ合いながら、夜通し森を歩いて進んだ。

夜は森のポケモン達も寝静まっているのか、未だに敵襲に遭うことはなかった。





途中で折れた木の幹に腰かけて休息をとる。


キルリア「……寒いね」

ジュペッタ「うん……」


星空を見上げ、所在なさげに呟く。

見上げていると、吐いた白い息が空に吸い込まれて溶けていくようだった。


ふと、ユキメノコに作って貰った温かいマトマのスープが懐かしくなり、僕は慌てて思考を変えた。

今は僕達を守ってくれたツンベアーもいないし、ユキメノコが汗を流して作ってくれた温かいスープもない。


これからは僕自身が立ち向かわなければならないのだと、横で寒さに震えているキルリアを見て僕は心を決めた。
 ▼ 91 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:18:49 ID:eHjTkv8. [12/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
〜〜〜〜〜


どのくらい歩いただろうか。

暗闇に閉ざされた冬の森は、僅かな月の光がなければ何も見えない。

北の廃墟まであとどのくらいの距離があるのか、見当もつかなかった。

夜空の星だけを頼りに方角を決めて歩いていると、段々と不安が勝ってくる。



キルリア「ジュペッタ……あのね」

ジュペッタ「なに?」


途中、キルリアが立ち止って何かを言いかけた。

だが、それの続きを促そうとしたそのとき、背後から奇襲を受けた。



ニューラ「キシャーッ!!」

ジュペッタ「わああっ!?」

キルリア「ジュペッタ!」


背中に鉤爪の攻撃を受け、防寒着が引き裂かれる音がした。
 ▼ 92 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:19:12 ID:eHjTkv8. [13/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ジュペッタ! 大丈夫!?」


泣きそうなキルリアの声に対し、僕は平気だと返す。

鳥ポケモンの羽と羊ポケモンの毛で作られたその服は、分厚くて少し動きにくいが攻撃を軽減してくれる効果もあるようだ。

すぐに体制を立て直し、反撃の体制に移る。


ジュペッタ「鬼火!」


相手は闇に紛れていて居場所がはっきりしない。その状態で闇雲に攻撃しても効果は薄いし体力を無駄に消耗してしまう。

僕は唯一の炎技を繰り出し、まずはその存在を確かめた。


ニューラ「ギニャアッ!?」


どろどろと宙で燃え盛る恨みの炎が、どうやら運よく敵に命中したらしい。

呻き声のした方向でニューラが顔の右側を押さえて悶えていた。


キルリア「炎のパンチ!」


すかさずキルリアが相手を叩く。

敵はその一撃で呆気なく倒れた。
 ▼ 93 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:19:41 ID:eHjTkv8. [14/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

その後も、僕らは何度もニューラに遭遇し襲われた。



キルリア「マジカルリーフ!」


キルリアの放った魔力の葉が見えない敵を切り裂いた。

僕は声を頼りに居場所を割り出してシャドークローで追い打ちする。

敵が全て倒れたことを確認すると、僕達はバッグを開いて回復アイテムを取り出した。


進むにつれて敵と遭遇する頻度が格段に上がってきており、手持ちのアイテムは底をつきかけていた。


キルリア「おかしいよ……こんなに襲いかかってくるポケモンがいるなんて。前に通ったときはここまでじゃなかったのに……もしかして知らない間にモンスターハウスに入ってたのかな…」


キルリアの言うモンスターハウスというのは、ダンジョン内の一定の区域に大量の敵が待ち構えている場所を指す。

だが、それはある程度の区域で区切られているので、僕達のように絶えず歩き続けていたらいずれ抜けられる筈だ。


疑問に思った僕は思考した末、トレジャーバッグからとあるアイテムを取り出した。
 ▼ 94 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:20:08 ID:eHjTkv8. [15/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ジュペッタ、それ……」

ジュペッタ「探知の玉だよ」


その青い宝玉を上空にかざすと、蛍石のような鈍い光がともる。

宝玉を覗き見ると、森の木々の間でひしめき合う沢山のニューラ達の様子が映っていた。


キルリア「ひぃっ…! こ、これって一体どうなってるの……!?」

ジュペッタ「ちょっと静かにして…」


引きつった悲鳴を上げかけたキルリアを制し、僕は映像を凝視する。


ニューラ達は何故か木の幹をじっと見つめていた。

そして何かを確認すると勢いよく駆け出していく。


もしかして。

思い当たる仮説を確かめるべく僕は一つの木の傍に駆け寄った。


木の幹をよく調べると、鋭いもので削られたような跡があった。


ジュペッタ「これは……そうか、これを目印に僕達の場所に来ていたんだ」


あらかじめ先回りしていた者が僕たちの通る場所にこの印をつける。そしてその目印を見て森中のニューラ達が一斉に襲いかかってきた……そう考えると合点がいった。

だが、森のポケモン達にそこまで執念深くずる賢い戦略が出来るのだろうか? 疑問は残る。
 ▼ 95 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:20:36 ID:eHjTkv8. [16/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「……これ、見たことある」


僕の後ろで、キルリアが震えた声で言った。


キルリア「この印……『トリックスター』のマニューラさんが使ってた……」


その事実が、悪い仮説と結びついたとき、僕は背筋が凍った。


ジュペッタ「まずい! 道を変えよう!」


僕がキルリアの腕を引いて藪のある歩きにくい道へと身を隠そうとしたその時、物凄いスピードで何かがこちらに飛んできた。

そう、僕が気付いたときには、既に遅かったのだ。



キルリア「キャアアアアアッ!」

ジュペッタ「っぎゃぁ!」


悲鳴上げて僕から引き離されていくキルリアの気配と、僕にのしかかる何者かの重さを感じた。

それが誰なのかは、もうわかっていた。



マニューラ「さあ、そろそろ終わりにしようぜ。裏切り者のジュペッタ君」


彼は残酷な笑みを浮かべて僕の喉元に鉤爪を添えた。
 ▼ 96 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:21:05 ID:eHjTkv8. [17/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

キルリア「ジュペッタ!……むぐぐ!」

Aサンドパン「…静かにしろ」


向こうではキルリアがサンドパンに捕まっているようだ。


マニューラ「オレは最初っから怪しいと思ってた。ヤツの根城からやって来てギルドに忍び込んだオマエをずっと睨んでいた。で、案の定、その通りだったってわけだ」


月夜に照らされた鉤爪が鈍く光った。

押し当てられた冷たい感触にぞくりと身震いする。


キルリア「やめて! ジュペッタはただ…」

Aサンドパン「…静かにしろと言っている!」

キルリア「いやっ!」


マニューラ「キルリア、オマエは大人しくギルドに戻るなら許してやってもいい。でもな、ジュペッタ、オマエは生きて帰さねえ」


マニューラの冷酷な目が僕を見下ろす。

僕は、気力を振り絞って、エネルギーを集めた。
 ▼ 97 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:21:31 ID:eHjTkv8. [18/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マニューラ「オマエは何を見た? 何を知っている? まあ、何を答えようと結果は変わらないけどな」


僕は怨念を抱く。

目の前で残酷な冷笑を浮かべているマニューラを、向こうでキルリアを押さえつけているサンドパンを、胸を焼け焦がす程の恨みで呪う。


マニューラ「人間だか何だか知らないが、オマエは戦い方もなっちゃいないただのガキだ。オマエ如きに何かが変えられるものか! ……さあ、悔やんで死ねっ!」

キルリア「やめてええええええええ!」


プツッ……


キルリアの悲鳴が引き金となり、僕の中の闇のエネルギーが一気に混ぜかえって溢れだした。




マニューラ「なっ……!?コイツ……」


遠のく意識の中、マニューラの呻きが聞こえた気がしたが、すぐに闇に飲まれて閉ざされてしまった。






――――――

――――

――
 ▼ 98 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:21:54 ID:eHjTkv8. [19/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

あたたかい。

穏やかな夢の中で、僕は幸せな心地で目を開けた。

そこには白銀の美しい毛皮があって、僕はどうやら長い尾のようなもので幾重にも包まれているようだった。

柔らかい感触が気持ち良くて、僕はその尾に頬をすり寄せた。

すると、口元のチャックが強く擦れたのか、尾の持ち主が僕に話しかけてきた。


Aキュウコン『気がついたのですね……我が使命を与えし子よ』


優しく慈しみの込められた、だけど整然とした声が僕の脳裏に広がる。


あなたは……キュウコン?


僕が念じると、声の主は答えた。


Aキュウコン『そうです。我はキュウコン、精霊の森を守る一族の末裔にして……』


そこまで言った時点でキュウコンは何故か言い淀んだ。
 ▼ 99 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:22:29 ID:eHjTkv8. [20/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

Aキュウコン『……ああ、やっぱりあの方のようにはいきませんね。すみません、普通にお話してもいいでしょうか』


え、あ、はい。


何だか急に砕けた口調になったキュウコンに、僕は不思議に思いながらも肯定する。

すると、キュウコンは先程までの威厳はどこへやら、途端に饒舌に語りだした。


Aキュウコン『と、言ってもどこからお話したらよいのでしょうか。私に残された魔力も僅かですし、あまり横道に逸れる訳にも……あ、そうです。石の事ですね』


ブツブツと僕の脳内でダダ漏れの独り言を呟いた後、キュウコンは話を切り出す。


Aキュウコン『ジュペッタ、あなたに伝えた使命はこの森の闇を払うこと。それは具体的に言うと元凶であるユキメノコを倒すことです』


わかっていた筈なのに。キュウコンの口から出されたその事実に、僕は心が痛む。

キュウコンは僕に気遣ってか、ユキメノコに関する話を付け加えてくれた。


Aキュウコン『彼女は悲痛な運命に耐えられず、憎しみの心に支配されて暴走してしまった哀れな亡霊です……だけど、それは私に責任があります。あなたは彼女を倒すことに何も負い目を感じなくてもよいのです』


僕は詳しい経緯を聞きたかったが、キュウコンはそれを知ると刃が鈍ってしまうからと言って口を閉ざしてしまった。

かつて優しさによって手心を加えてしまったが故に、彼女に敗れてしまった者がいるのだとキュウコンは悲しげに語る。
 ▼ 100 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:23:19 ID:eHjTkv8. [21/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

Aキュウコン『……その為には、彼女の作り出す偽りの幻を打ち破らなければなりません。真実を映し出す赤き石の力を持ってして』


キュウコンはそう告げると、僕の手に何かを握らせた。


Aキュウコン『これは、私がこの世に姿を残す為の依り代。これを白銀の霊峰に住む伝説の氷鳥、フリーザーさんに見せてください。そしたら、彼はあなたに真実の石を授けてくれることでしょう』


キュウコンに渡されたのは、銀色の毛で出来たお守りのようなものだった。


Aキュウコン『霊峰はこの廃墟……かつての私の故郷であるアングレカムから更に北に歩いた場所にあります。……それでは、ご武運を祈っています』


待って! ツンベアーを消したのはどうしてなの?

僕は彼女の去り際にツンベアーのことを問いかけた。キュウコンが悪でないのなら、彼をさらった理由がわからなかったのだ。

しかし、キュウコンはただ首を横に振る。ツンベアーの件は彼女ではないらしい。



まだ聞きたいことはいくつもあった。

だけど、キュウコンはごめんなさいと一言残して消えてしまった。







――――――

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 ▼ 101 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:23:40 ID:eHjTkv8. [22/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

パチパチと焚火のはぜる音で目が覚めた。

僕は何か柔らかくて暖かいもので包まれていて、先ほどのキュウコンの尾の感触に似ていたから、夢がまだ続いているのかと錯覚した。

だけど、その尾の持ち主は僕が起きたことに気がつくと、明るい声を上げた。


ブースター「あ、気がついた!」


オレンジ色の毛並みにアーモンド形の瞳を持つそのポケモンは、目を覚ました僕にあれこれと質問を投げかけた。

なんだかデジャヴな光景だ。

僕はまだ起き掛けで頭がはっきりしていなかったからその問いかけを殆ど聞き流してしまったけれど、ある一つの質問に飛び起きる。


ブースター「一緒にいたキルリアは、同じ探検隊の仲間?」


ジュペッタ「キルリア!?」


僕は飛び起きて辺りを見回した。

ここは石で出来た建築物が建て並ぶ不思議な場所で、僕の居る場所も雨風の防げる所だった。

焚火を取り囲むように二匹のポケモンが座り込んでいて、彼らは僕の声に反応してこちらに向き直った。


リングマ「うおっ……なんだなんだ…」

キテルグマ「ぶー、その子、起きたのか」


そしてピンクの毛皮を持つ方の熊ポケモンが、キルリアを腕に抱いているのに気がついた。
 ▼ 102 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:24:01 ID:eHjTkv8. [23/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ジュペッタ「キルリア!大丈夫? 怪我してない……?」


僕は彼女のもとへ駆け寄ると、眠っている彼女を揺すり起こした。


キルリア「……うーん…むにゃ……じゅぺった?」

キテルグマ「だいじょぶだ、怪我はしてない」


キルリアは呑気にも心地よさそうな顔で眠っていて、僕は胸を撫で下ろした。


ブースター「ねえ、君たちは一体なにがあったの? こんな夜にこの森の奥深くで倒れているなんて」

ジュペッタ「ええっと、それは……」


見知らぬ相手、だけど僕らを助けてくれたと思われる彼らにどこまで事情を話して良いものか、僕は悩んでいた。


リングマ「おいっ! お前らどっからやって来た? 迷子か? それともまさか、キュウコンの奴の仲間なのか!?」

ジュペッタ「うわわわ」


茶色の毛並みを持つ方の熊ポケモンに頭をわしづかみにされて、大声で耳元で叫ばれる。なんだかこれもデジャヴだ。


ブースター「ちょっとやめなよリングマさん、怖がってるじゃない」


すると、オレンジのポケモンが間に入って来て仲裁してくれた。
 ▼ 103 ◆XSB9B4V/6I 17/12/26 13:24:20 ID:eHjTkv8. [24/24] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ブースター「あたしたちは探検隊『チーム もふもふ』よ。探索の途中であなたたちを見つけて、近くにあったこの廃墟に連れて来て介抱していたの」


ブースターと名乗った彼女は、僕たちの警戒を解くために素性を明かしてきた。

彼女たちは南の街ポインセチアの探検隊で、居なくなったポケモンの捜索をしているうちに奥深くに迷い込んでしまったのだと語った。


キルリア「そうなんだ、助けてくれてありがとう! 私たちは……むむーっ」


キルリアがなんの躊躇もなく全部話してしまいそうだったので、僕は慌てて彼女の口を塞いだ。


キルリア(どうして喋っちゃダメなの?)

ジュペッタ(まだ彼らが敵か味方かもわからないじゃないか)


僕達がひそひそと小声で話し合っていると、リングマがまた僕らを怪しんで詰問しようとしたが、他のふたりに止められた。


ブースター「まずはあたし達の話をしよっか」


ブースターは、自分たちが森にやって来た経緯を丁寧に語り出した。


彼女たちの住む街ではポケモンの失踪事件が問題になっていて、今回も森で行方不明になった幼いポケモンを探しに探検に入ったのだと言う。

手がかりもなくひたすらに森を進んでもう三日になるらしく、ようやく辿り着いたこの地で道端に倒れていた僕らを見つけたので、僕達が街の行方不明者のひとりではないか、あるいはこの森の失踪事件のことを何か知っているのかと気になっている、というわけだった。

僕はふと襲いかかってきたマニューラ達の事が気にかかったが、同じ気持ちだったキルリアがそれを問うた結果、彼女たちが通りかかった時には既に僕らの他にポケモンの気配はなかったらしい。


一通りの話を聞いた後、沈黙が僕らに圧力をかけた。

相手から事情を聞くためにまずは自分たちから先に打ち明ける……そんな策だとすれば上手な手腕だった。

しかし、もどかしそうにしているキルリアを押さえながら、僕は何も言えずに押し黙ったままだ。
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