【ホワイトデーSS】貴女に涙色のチョコを:ポケモンBBS(掲示板) 【ホワイトデーSS】貴女に涙色のチョコを:ポケモンBBS

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【ホワイトデーSS】貴女に涙色のチョコを

 ▼ 1 6ngK9o9r.. 18/02/17 19:18:20 ID:EZQgiT9Y NGネーム登録 NGID登録 報告


2月17日


ニンフィア「はい、これ」

ヨーテリー「……何?」

ニンフィア「ハートスイーツっていうチョコレート。バレンタインだったからって、お姉さんがくれたの」

ヨーテリー「バレンタイン?」

ニンフィア「うん……その、お世話になってるコに、お礼をあげるんだって」


……晴れた日だった。
草むらの中で、ニンフィアとヨーテリーが向かい合って座っていた。ニンフィアの方が、器用にもヨーテリーにチョコレートを差し出していた。彼女の頬が微妙に染まっていることには、ヨーテリーは気づいていなかった。
ニンフィアの体は綺麗で汚れはなかったが、ヨーテリーの方はそれなりに薄汚れていた。
 ▼ 134 ッチャマ@だっしゅつボタン 18/03/13 19:47:48 ID:RuDhj67Y NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 135 6ngK9o9r.. 18/03/13 19:54:04 ID:XFVgB6LY [1/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
───

イワンコ「……こうしていると、あの日を思い出しますね」

ヨーテリー「……そうだね」

イワンコ「あの時は、私は、ずっと泣いてて……本当にすみませんでした」

ヨーテリー「悪いのはボクだ」


二匹は会話する。草むらを分けながら。短い時間を、少しでも長く感じられるように。死への行進を、少しでも楽しいものに出来るように。


イワンコ「でも、でも……ヨーテリーさんとの生活は、とてもとても楽しかったですよ?」

ヨーテリー「本当に?」

イワンコ「ええ!! これ以上無いくらいに」

ヨーテリー「……そうかい」


長く、永く。そう思っても、運命は二匹を逃がさない。ヨーテリーが歩くスピードは速かったが、その心臓はもっと早鐘を打っていた。
ヨーテリーは、もうすぐ彼女が死ぬと悟っていた。人間の足音が近づいてくる。
 ▼ 136 6ngK9o9r.. 18/03/13 19:54:45 ID:XFVgB6LY [2/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
イワンコ「辛いことも沢山だったけど、楽しいことも、あったんです」

ヨーテリー「……」

イワンコ「毎日が、かけがえのない宝物だったんです」



人間『いたぞ!! ポケモンだ!!』

人間『よーしよしよし、行ってこいゴルバット、エアカッター!!』

人間『行けブイゼル、ハイドロポンプ!!』



ヨーテリー「……」

イワンコ「……そろそろですね」

ヨーテリー「……」

イワンコ「もう、大丈夫です。行ってください……最期まで、楽しかったですよ」


イワンコも、人間に気づいたようだった。見回せば、空にも大地にも二匹を、正確には運ばれていた目立つそりを狙うポケモンがいた。

ヨーテリーは、紐を外した。そして、そりからチョコを回収した。
イワンコはどこか悔しげにも見えたが、笑っていた。
 ▼ 137 6ngK9o9r.. 18/03/13 19:57:07 ID:XFVgB6LY [3/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
イワンコ「今日まで、こんな私と一緒にいてくれてありがとうございました」

ヨーテリー「……うん」


ヨーテリーの目に、涙が浮かんでいた。丁度、彼女とどこか似たポケモンがかつてヨーテリーの目の前で死んだあの日のように。
悲しくない筈はない。

それでも、ヨーテリーはこの後、行かなくてはならない場所があるから。


イワンコ「ああ、最期になりますから」

ヨーテリー「……」


唐突に、イワンコは切り出した。もう、死は彼女を捉えていた。ヨーテリーは、彼女のすぐ横まで高圧の水流が迫っているのを確認していた。


イワンコ「私も、好きだったんですよ? 貴方のこと」


……そこで、彼女は横からの攻撃で弾けとんだ。

遠くで人間の歓声が聞こえる。ヨーテリーの足元に、血が滴り落ちた。

……遺された一匹が行く先は、もう一つしかない。
 ▼ 138 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:00:25 ID:XFVgB6LY [4/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
───





ヨーテリー「……待たせたね」


そして彼は、そこに辿り着いた。日は傾きかけていた。ずっと待っていたのであろう少女は、傷だらけのヨーテリーをすぐに発見する。そして、その姿に呆然とした。


ニンフィア「……その、血は……」

ヨーテリー「ああ、気にしないで」

ニンフィア「無理だよ……!!」


ニンフィアはそう言いながら、自分のリボンを患部に巻き付ける。それでも傷を癒すことは出来ず、ただ彼女も血に濡れるだけだった。
 ▼ 139 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:01:15 ID:XFVgB6LY [5/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヨーテリー「……これ、一日、早いけどさ」

ニンフィア「……」


ヨーテリーは、そうするニンフィアに構わず彼女にハートスイーツを差し出した。ニンフィアはそれにやはり一瞬だけ呆然としたが、すぐに受けとる。


ヨーテリー「返すのが、ルールなんでしょ?」

ニンフィア「こんな、私は別に、良かったのに……」

ヨーテリー「食べて」

ニンフィア「──」

ヨーテリー「今、食べて。……大丈夫、安全だよ」


ニンフィアは暫くヨーテリーの目を見ていたが、弾かれたように箱を開けて食べ尽くした。チョコは笑えるほど小さくて、彼女はすぐに食べきってしまっていた。
二匹からは、互いに涙が溢れ落ちていた。
 ▼ 140 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:02:23 ID:XFVgB6LY [6/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニンフィア「……美味しい。美味しいよ……美味しい……!!」

ヨーテリー「……そう。ああ、良かった」

ニンフィア「あの、ね? 私ね? その……」


ニンフィアはまだ患部を包んでいた。痛くないように気遣いながら。……そして、ずっと言いたかったことを言おうとする。
しかしそれは、死にかけのヨーテリーによって妨げられて。


ニンフィア「その──」

ヨーテリー「ボクはさ。キミのことは、好きだよ」

ニンフィア「──」

ヨーテリー「けど、キミだけじゃない。キミの家族だって同じように好きだったし、ボクの家族だってまた同じように好きだった。そうやって生きてきた」


そしてヨーテリーの方は、本心を語り始めていた。
 ▼ 141 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:05:17 ID:XFVgB6LY [7/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヨーテリー「選ばなかったんだ。誰かが取り分けて好き……なんて決めたら、そのポケモンが死んだときに、ボクは今度こそどうしようもなくなるから」

ニンフィア「……」

ヨーテリー「だから耐えられた。兄さんが死んでも、キミが居なくなっても。ボクはボクが一番大切で、それ以外が皆同じだと決めたから、今日までやってきた」


ヨーテリーはそこまで言って、夕暮れの空を見る。今日の空は、彼には滲んで見えた。


ヨーテリー「……でもさ。もう、誰も居なくなっちゃった」


そう言う彼は寂しげで。ニンフィアは、これが最後のチャンスだと確信して、これまでずっと溜め込んできた物を放出する。


ニンフィア「……私は!!」

ヨーテリー「……」

ニンフィア「私は……貴方が、好きだよ。優しくて、一緒にいてくれた貴方が、好き」

ヨーテリー「……知ってるよ」


それを、彼は無抵抗に受け入れた。
 ▼ 142 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:19:14 ID:XFVgB6LY [8/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヨーテリー「うん。好きだよ、キミのこと。ボクもね……少なくともボクが、この世界で一番好きなのは君だ」

ニンフィア「他が、居なくなったから?」

ヨーテリー「うん。……ごめんね、こんな言い方で、こんな身なりでさ」

ニンフィア「仕方ないよ……」


ニンフィアはまだヨーテリーを掴んでいた。離したくなかった。離れたら、そのまま透けて消えそうだった。それほど、彼は弱々しかった。


ニンフィア「……ねぇ。やっぱり、私の家に来ない?」


……その問いには、ヨーテリーは黙って首を振る。どうしても、その線では彼は折れてくれない。


ニンフィア「……どうしても、嫌?」

ヨーテリー「ボクは好きなのが誰かは決められなかったけれど、嫌いなのが何かはすぐに決められるんだ」

ニンフィア「そんなに……?」

ヨーテリー「うん。そんなに」
 ▼ 143 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:29:07 ID:XFVgB6LY [9/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニンフィアは俯いて逡巡した。
……彼女は飼い主を嫌ってはいなかったが、それ以上にヨーテリーの方が大切だった。

だから。


ニンフィア「じゃあさ……私も一緒に、連れてってよ」


そうなるのは必然だったかもしれない。
ニンフィアはいつの間にか、ヨーテリーにまた近づいていた。

しかしヨーテリーは彼女を遠ざける。ニンフィアはもう、人間側のポケモンだ。


ヨーテリー「それは……無理だよ。君はもう、モンスターボールに捕らわれてる。出られないんだ」

ニンフィア「……」



『ニンフィアー? ニンフィアー、どこー?』



ヨーテリー「っ……!!」

ニンフィア「あ、お姉さん……」

ヨーテリー「……行きなよ」

ニンフィア「……」
 ▼ 144 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:36:15 ID:XFVgB6LY [10/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
互いに互いに集中していたから気づかなかったが、もうニンフィアの飼い主が辺りを探しているようだった。ここから彼女の家は遠くない。
周囲のポケモンの駆除を行っている日なのだから、飼い主の不安もひとしおだろう。


ヨーテリー「……もう、時間切れだ」

ニンフィア「嫌だ、嫌だよ……私だけ、置いて逝かないでよ……」


ヨーテリーは、ニンフィアのリボンを振り払った。
彼女の泣き顔が焼き付いた。

人間が近づいてくる。


飼い主『ニンフィア? そこにいるの?』


ニンフィア「……待って、待って……」

ヨーテリー「……」


焦った彼は、何も言わずに逃走した。
満足のいくさようならは、言えなかった。
 ▼ 145 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:37:03 ID:XFVgB6LY [11/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
───





ヨーテリー「……」


ヨーテリーはまたよろよろと歩いて、街の路地裏のずっと深いところに入っていた。近くのビルからの排気が生暖かい。それだけで、寒い中死ぬのだけは避けられそうだった。
どちらにしろ、失血死は免れないが。

そこで、また人間の足音を聞いた。こちらに向かってくる。

ヨーテリーは己の死期を悟った。辛く長かったが、まあまあマシな終わりに思えた。自分の大切な誰かを残して逝く、ということは……一匹を除いて、全くないのだから。
でも、後悔が無いわけではない。ニンフィアがこの後どうなるのかは、確かに気にかかる。

人間の足音は、自分の目の前で止まった。

本音を言うなら、ニンフィアの幸せも見届けたかったが。それだけは、諦めよう。ここまでずっと誰かの死を見てきたんだから、その酬いだ。ヨーテリーはそう断じて、静かに強く目を閉じた。
 ▼ 146 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:37:50 ID:XFVgB6LY [12/13] NGネーム登録 NGID登録 報告





   ポン

ゾロア「……やあ。随分な終の棲家だね」


……その人間は、いつの間にかゾロアの姿になっていた。


ヨーテリー「……まだ居たんだ」

ゾロア「僕は急ぐ必要もないからさ」


ゾロアはそう言いながら、持ってきていた人間の薬をヨーテリーに吹き掛ける。


   プシュ

ゾロア「君」

ヨーテリー「……」

ゾロア「……君は本当に、ここで終わって良いのかい?」


ヨーテリーの体は、それだけでかなり回復した。体が軽い。傷が塞がっていくのを感じる。起き上がっても、痛みはなかった。
 ▼ 147 6ngK9o9r.. 18/03/13 20:38:35 ID:XFVgB6LY [13/13] NGネーム登録 NGID登録 報告
ゾロア「君のことを好きだと言ってくれた彼女を、置いていくのかい?」

ヨーテリー「……聞いてたの?」

ゾロア「まあね……僕は全部把握した。あの子を置いて逝ったら、きっと彼女は苦しむ。方法は……それはきっと、人間様らしく善意の真綿で首を締め上げるんだろうよ」

ヨーテリー「じゃあ、どうしようって言うのさ」


そう言われると、自分が何かとんでもない間違いを犯していたような気分にさせられた。嫌な気持ちだ。さっきまでの満足感が薄れていく。
でも、目の前のポケモンはそうなることを期待しているようだった。


ゾロア「……もう、元気になったよね?」

ヨーテリー「……」

ゾロア「明日だ。明日、彼女に本当のお返しをあげようじゃないか」

ヨーテリー「本当の、お返し……」

ゾロア「彼女と君に、僕が天国へのペアチケットを進呈しよう」


……何時しか、ヨーテリーは乗り気にさせられていた。


ああ、貴女にチョコはもうあげたけれど。


最期に、もう一度。
 ▼ 148 6ngK9o9r.. 18/03/14 12:39:00 ID:0IXj7BFM [1/24] NGネーム登録 NGID登録 報告


3月14日


ゾロア「目、覚ましたかい?」

ヨーテリー「……うん」


ヨーテリーは温もりの中で目を開けた。例の排気孔のすぐ側で、彼は眠っていたようだった。そしてゾロアはその隣で、一睡もせずに待っていたらしかった。


ゾロア「いい夢は見れた?」

ヨーテリー「まさか……そう言うキミは、眠らなかったのかい?」

ゾロア「んー……まあ、僕は全部終わったらゆっくり寝るさ」


ヨーテリーは立ち上がった。首を振るわせる。気づいたときにはついていた癖だったが……そうできるのも、あと何回か。
二匹は、どちらともなく歩き始めた。
 ▼ 149 6ngK9o9r.. 18/03/14 12:40:04 ID:0IXj7BFM [2/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヨーテリー「……にしてもさ。どうしてキミは、ボクにこんなに良くしてくれるの?」

ゾロア「ふむ……そうだね、簡単な話さ」


人間の世界とポケモンの世界の境目を歩きながら、二匹はのんびりと歩く。まだ街はうとうとしているようで、人通りは少なかった。
空は冷たく、透き通っていた。青に満ちたそれを見上げれば、ヨーテリーは何故だかくしゃみをしたくなった。


ゾロア「僕は君のことは割と気に入ってるんだ。君みたいなポケモンって、何というか、いかにも主人公って感じがする」

ヨーテリー「……主人公ねぇ」

ゾロア「うん……で、僕はその近くのサポート役だ。そんな気、しない?」

ヨーテリー「いや、全く」


ゾロアの持論には、ヨーテリーは首を傾げた。彼の言葉には何故だか実感が沸かなくて。……何より、こんな悲しい話の主人公なんてまっぴらごめんだ。

そう思っているうちに、昨日ニンフィアと話したあの場所に至っていた。そこを突き抜ければ、きっと彼女が絶望しているのであろう人間の家に辿り着く。
 ▼ 150 6ngK9o9r.. 18/03/14 12:41:18 ID:0IXj7BFM [3/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ゾロア「そこだろう? ニンフィアの家」

ヨーテリー「……そうだね」


所謂、アパートと呼ばれる集合住宅だ。夏涼しくて冬暖かい、人間の家。……今となっては、ヨーテリーには何の感慨も浮かばない。

ゾロアは何気無くその廊下に入り込み、部屋の番号を把握して戻ってくる。


ゾロア「うんうん、大して値の張らない安アパートだ。番号は……919号室だね。一階なのに随分と大きいこと」

ヨーテリー「……何で部屋知ってるの?」

ゾロア「別に大したことじゃない。前にこっちに来たときに、そこの窓から彼女を見ただけさ……寂しい目をしてたよ」


そこまで言って、ゾロアは大きく伸びをした。
 ▼ 151 6ngK9o9r.. 18/03/14 12:41:58 ID:0IXj7BFM [4/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ゾロア「それじゃ、作戦を確認しよう。僕が人間の姿で彼女の家のチャイムを鳴らす。居留守されても、開けるまで押し続ける」

ヨーテリー「……で?」

ゾロア「出てきたら、君が家に突撃する。そして家のなかを掻き回してくれ。そうしてくれたら、僕が騒ぎに乗じてニンフィアのボールとトレーナーカードを盗み出す。楽しそうだろ?」

ヨーテリー「……そうだね」

ゾロア「きっとスカッとすること請け合いだ。楽しんでいこう」


最期に人間に一泡吹かせるなら、それはとても面白いだろう。ヨーテリーは努めてそう考える。それだけで、何となく笑えてきた。心の中はまだ空っぽだが、ちょっとばかり愉快だった。


ゾロア「……じゃあ、スタートだ」

   ポン

ヨーテリー「……行くよ」


そしてゾロアは、丁度人間の郵便配達員のような格好に変身した。
 ▼ 152 6ngK9o9r.. 18/03/14 16:44:51 ID:0IXj7BFM [5/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
───

   ピンポーン

   ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン

   ピピピピピピピンポーン

   ピンポーンピンポーンピンポンピンポンピピピ

   ピンポンピンポンピンポーンピンポンピンポン


チャイムが鳴り響く。ゾロアは楽しげに919号室のチャイムを連打する。中からは暫くは何も聞こえなかったが、ずっとゾロアがチャイムを鳴らしていれば漸く怒ったような足音が聞こえてきた。


飼い主『ああもううるっさいわねぇ……!!』

ヨーテリー「……来たね」


ドタドタと足音が響いてきた。ゾロアはそれを確認して即座にポケモンの姿に戻り、ニヤリと笑った。最後の作戦は、もう始まっている。
 ▼ 153 6ngK9o9r.. 18/03/14 16:46:26 ID:0IXj7BFM [6/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
   ポン

ゾロア「……開けたら突入だ。良いね?」

ヨーテリー「うん。1、2、3!!」

   ギィ


ドアノブが軋んだ。靴を突っ掛けたような軽い音が聞こえる。

永いような短いような、そんな一瞬の空白のすぐ後に、扉に、隙間が出来た。

そして二匹は、その間から強引に侵入した。


ゾロア「ダイナミック失礼します!!」グイグイ

ヨーテリー「……っ!!」グイグイ

飼い主『え、え、え、えぇっ!?』

ゾロア「やっほー!! お邪魔しまーす!!」

飼い主『え、ポケモン!? ポケモン!?』


ゾロアは楽しげに、飼い主の足元をぐるぐると回っていた。人間は突然のことに驚いているのだろう、奥の方に走っていくヨーテリーを止めることが出来ない。





そして部屋の最新部に辿り着いたヨーテリーは、ポケモン用のベッドに踞っていたニンフィアと対面した。
ニンフィアの方は初めは虚ろな目でヨーテリーをぼんやりと見ていたが、唐突にこれが現実だと認識したのか立ち上がる。


ヨーテリー「……やあ」

ニンフィア「え? え、ええ、え、えぇ!?」

ヨーテリー「……」

ニンフィア「……その……また、来てくれたの?」

ヨーテリー「うん、駄目だった?」

ニンフィア「……ううん、別に……」
 ▼ 154 6ngK9o9r.. 18/03/14 16:48:53 ID:0IXj7BFM [7/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
そのやり取りは、かつてしたような覚えがある懐かしい物で。ニンフィアの目頭にはもう涙が浮かんでいた。
足音が近づいてくる。ゾロアは遅れてヨーテリーの元に滑り込んできて、すぐに、近くに放置してあった人間の鞄に頭を突っ込んだ。


ニンフィア「……どうして?」

ヨーテリー「何が?」

ニンフィア「どうして、また、来てくれたの?」


ニンフィアはまだぼんやりとしていた。彼女はこの一晩、ずっと泣き晴らして疲れきっていた。
ヨーテリーはそれを感じ取って、なるべく昔の時のように取り繕いながら小さく笑う。


ヨーテリー「……ボクのためだよ」

ニンフィア「──」

ヨーテリー「さあ、今日が最後だ。……一緒に行こう」


……その刹那、飼い主がニンフィアを視認した。同時に、可愛いペットの前にいる汚い野生ポケモンの姿も見た。
 ▼ 155 6ngK9o9r.. 18/03/14 17:10:08 ID:0IXj7BFM [8/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
飼い主『ニンフィアッ!! ニンフィア大丈夫!?』

ニンフィア「お姉さん!!」

飼い主『たいあたり!! たいあたりだよニンフィア!!』


そして飼い主はそう指示した。ニンフィアはその言葉でヨーテリーに攻撃するが、ヨーテリーはもう右側に飛び退いていたから当たらなかった。


ニンフィア「あっ、ごめん……体が勝手に」

ヨーテリー「知ってるよ。……キミも鈍ったね。前より動きが遅い」

ニンフィア「なっ、失礼な、私は太ってないよ?」

ヨーテリー「……冗談だよ」


ヨーテリーはほんの少し笑っていた。昔を思い出した。
言いつけに逆らえないニンフィアと暫くじゃれあう。トレーナーの叫びは、もう聞く必要はなかった。

そうして、一分か三分か、そのくらいの時間が経って。
 ▼ 156 6ngK9o9r.. 18/03/14 17:10:56 ID:0IXj7BFM [9/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ゾロア「よっし!! モンスターボール回収!! トレーナーカードもだ!!」

   ポン

ヨーテリー「逃げるよニンフィア!!」

ニンフィア「……うん!!」


とうとう必要なものを回収したゾロアは、今度は目の前の人間そっくりの姿に化けていた。それと共に彼は部屋を飛び出していく。
ヨーテリーとニンフィアも、それに続いた。もう、人間の制止の声は届かない。


飼い主『あァッ!! ちょっ、待って、待ちなさい!!』
 ▼ 157 6ngK9o9r.. 18/03/14 18:19:02 ID:0IXj7BFM [10/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
───





ヨーテリー「あと少しだ!! ポケモンセンターで君を逃がす手続きを行えば、全部終わりに出来るから!!」

ニンフィア「うん!!」


三匹は走っていた。ゾロアは慣れないハイヒールで走っていたからかかなりよろけていたが、それでも視界の先にポケモンセンターを捉えていた。
あと50メートル。

……そこで、今日もまた、会いたくないポケモンを見てしまった。


ヨーテリー「──」

ニンフィア「……あ」


立ち竦む。
まだ、敵からは逃げ切れない。最後の難関が、苛立たしげにヨーテリーを睨んでいて。


ヨーテリー「……ボクはとことん運がないね」

ウィンディ「……ハハ、まだ、生きてたのかよ」

ヨーテリー「……進化したのかい。このタイミングで?」

ウィンディ「皮肉だよなァ」
 ▼ 158 6ngK9o9r.. 18/03/14 18:21:37 ID:0IXj7BFM [11/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
例のガーディが、進化して立ち塞がっていた。その口からは微妙に炎が漏れていて、それが彼が臨戦態勢だと示していた。ヨーテリーは姿勢を低くして身構える。


ヨーテリー「……先に行って」

ニンフィア「でも……」

ヨーテリー「行くんだ!!」


そしてそう言った。ゾロアはそれを認識して、嫌がるニンフィアを無理矢理ポケモンセンターにつれていく。

そして、道の真ん中に二匹のポケモンが残された。


ウィンディ「気取ってるなぁ……チッ。ムカつく奴だ」

ヨーテリー「そう見えるかい?」

ウィンディ「……ああもううざったい……うざったいンだよ!! 全部!! 全部!!」


ウィンディは吠えた。

彼は今朝進化したばかりだった。もう安全だから、と。怪我に耐えたご褒美だと。……彼が望んだのはそれではない。安寧を望んでいた訳ではない。その点で彼は、絶望的なまでに飼われることに向いていなかった。人間と噛み合っていなかった。
……だから彼が野生のポケモンに対して抱く憎しみは、羨望の裏返しでもあった。
 ▼ 159 6ngK9o9r.. 18/03/14 18:22:38 ID:0IXj7BFM [12/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ウィンディ「でも良いやァ……今の俺には、漸く力が手に入った。今度こそ俺が殺す。直接殺してやる!!」

ヨーテリー「……その、人間様から与えられた力で?」

ウィンディ「そうだよ!! もう何でもいいんだ、お前が憎くて堪らない!!」


ウィンディがヨーテリーに噛み付く。ヨーテリーは前回のようにそれから飛び退いたが、今度は逃げ切れず左足に一撃を食らった。
今の敵は大きくなっていた。技のレンジは広がり、威力も倍増していた。


   ザクッ

ヨーテリー「っ……ほのおのキバかい」

ウィンディ「そうだ!! 俺が、殺すんだ!! お前を!! 全部!!」


左足が熱い。ヨーテリーはそれを一度舐め、痛みに顔をしかめる。そして、首を振った。


ヨーテリー「……やってみなよ。ボクの、魂、出来るもんなら砕いてみなよ!!」

ウィンディ「煩いんだよ!!」


相手を煽る。冷静さを削り取っていく。最終的には、彼は時間さえ稼げれば構わないのだから。そうするぐらいしか、ヨーテリー側に勝算は無さそうで。
攻撃が、彼に襲い掛かった。
 ▼ 160 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:01:01 ID:0IXj7BFM [13/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
───





   ザクッ グシャッ

ヨーテリー「……痛いなぁ、もう」

ウィンディ「ぜぇ……はぁ……」


何分経っただろう。体感では一時間のようにも感じるし、まだ数回しか攻撃されていないような気もする。
ウィンディは口から炎と雷を漏らしていて、ヨーテリーの左足はとうとう動かなくなっていた。


ウィンディ「舐めるな……!!」

   グシャッ

ヨーテリー「っ……」


また噛まれた。今度はかみなりのキバのようだった。幸いもうヨーテリーは左足の痛みをあまり感じなくなっていたため、それを身代わりに差し出すことでダメージを誤魔化すことが出来た。
また距離を取る。……周囲の人間は、数人だけが愉快そうに二匹を観察し、残りは鬱陶しそうに無視して去っていっていた。
 ▼ 161 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:01:31 ID:0IXj7BFM [14/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ウィンディ「お前だけは……お前だけは、殺さないと、気が済まないンだよ!!」

ヨーテリー「そんなのボクが知るか!!」


叫ぶ。叫ぶ。相手の注意を引き付ける。
ウィンディは怒りのままに襲い掛かる。

ヨーテリーはそれをまた避けようとして──


   ビリビリッ

ヨーテリー「──」

   グシャッ


……麻痺を起こしていた。
ここまでに食らったかみなりのキバが原因だろう。動けなかったヨーテリーは勢いよく突き飛ばされ、地面に打ち付けられる。
顔を上げれば、ウィンディの口に焔が並々と溜まっていて。
 ▼ 162 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:03:32 ID:0IXj7BFM [15/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ウィンディ「これで、終わりだッ──!!」





『ああ、ウィンディ!! 何してるんだ!! 止まれ!! 危ないから、離れなさい!!』

ウィンディ「──っ、来やがったかジジィ!!」


騒ぎを聞き付けて現れたのだろう、随分と憎まれているウィンディの飼い主が、ウィンディを思って彼を制止していた。その言葉で、ウィンディの攻撃は中断される。その顔には、憎悪が確かに見てとれた。

そのタイミングで、見慣れない鞄を咥えたゾロアがニンフィアと共にポケモンセンターから現れた。


ヨーテリー「……出来た、かい?」

ゾロア「完璧だ。そら、勝ち逃げするよ!!」

ヨーテリー「……ありがとう」

ゾロア「どうも。これから走るよ、掴まって!!」

   ポン


そしてゾロアは怒りで動けないウィンディの姿を真似て、背中にニンフィアとヨーテリーを乗せる。そして、駆け出した。
 ▼ 163 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:12:47 ID:0IXj7BFM [16/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
───





   ポン

ゾロア「よーし、漸く逃げきった。落とし物はない? 二匹ともいる?」

ニンフィア「……うん」

ヨーテリー「何とかね」

ゾロア「ならよし」


三匹は、もう誰の気配もしなくなった草むらに戻ってきていた。
遠くの方に、かつてのイーブイの、ニンフィアの巣だった物が見えた。……無惨に潰れていた。人間の足跡が見える──悉く壊されていた。微妙に血の臭いがした。
 ▼ 164 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:13:20 ID:0IXj7BFM [17/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ゾロア「さっき僕は、君が主人公だって、言ったよね?」

ヨーテリー「……そうだね」


ゾロアは、その方向に目が釘付けになっているヨーテリーに話しかける。また、寂しげな目をしていた。


ゾロア「だからさ。終わるなら、なるべく幸せにね。それが君達に出来る最高の抵抗だ。……僕はハッピーエンドが好きなんだよ」

ヨーテリー「……もう、行くのかい?」

ゾロア「まあね。今回、あの人間から財布も道具も盗んできた。……いっそ、人間の中に紛れてみようかな」

ヨーテリー「……好きにしなよ」

ゾロア「好きにするさ」
 ▼ 165 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:14:31 ID:0IXj7BFM [18/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
そしてゾロアは、二匹から離れ始めた。もう後は追わない。見送りもしない。ただ、二度と会わないだけ。礼を言うだけ。


ゾロア「……じゃあ、今度こそさよならだ。何、お代はいらないさ」

ヨーテリー「……ありがとう」

ゾロア「……良い旅を」


そしてヨーテリーは、ニンフィアと向き合った。ニンフィアはリボンでヨーテリーの足を撫でていた。
ヨーテリーの足のそれはもうすぐ命を奪う致命傷であって、彼女の気遣いは痛いだけだったが、ヨーテリーは笑っていた。


ヨーテリー「……じゃあ、行こうか」

ニンフィア「……うん」
 ▼ 166 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:34:01 ID:0IXj7BFM [19/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
───





ニンフィア「……」

ヨーテリー「……」


二匹が見下ろす春の川は、かなり増水していた。雪解け水が流れ込み、川の途中の池は何時もよりずっと深いように見えた。
もう、回りには誰もいない。


ヨーテリー「辛いこと、沢山あったね」

ニンフィア「そうだね」

ヨーテリー「苦しいこと、沢山あったね」

ニンフィア「そうだね」

ヨーテリー「キミが居たときも、キミが居なくても、世界は何処までもボクらに残酷だった」

ニンフィア「……そうだね」
 ▼ 167 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:34:26 ID:0IXj7BFM [20/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
気がつけば、そんなことを話していた。今日まで沢山の死を見届けてきた筈なのに、自分がこれから死ぬとなるとイマイチ現実感が沸かない気がした。
昨日のように人間が近づいてくると思っているわけでもない以上、死はまだ数時間先で待っていてくれる物だった。……どちらにしろ、ヨーテリーはもう死ぬ。

足からは血がまだ溢れていた。ニンフィアはそれを試しに舐めてみて、変な顔をする。


ヨーテリー「……何やってるのさ」

ニンフィア「別に良いじゃん? 最期に、貴方を感じただけだよ」

ヨーテリー「……そうかい」


そう言うニンフィアも、死を決めていた。もうかつて共にいた大切な彼らはいなくて、これからは全部灰色に思えたから。
だから、ここで自分に決着をつける選択を彼女はした。
 ▼ 168 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:34:49 ID:0IXj7BFM [21/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ニンフィア「貴方は自分を褒めていいよ」

ヨーテリー「……?」

ニンフィア「……辛くても、今日まで、私達は生きたんだから。ね?」

ヨーテリー「……そう思うかい?」

ニンフィア「うん。……この血が、その証拠だよ」


そこまで言って、彼女は唐突に顔を突き出した。ヨーテリーに、彼の血がついた自分の舌を押し込む。
そして十秒ほど静止してから、彼女はゆっくり顔を離した。


ヨーテリー「──」

ニンフィア「……えへへ」

ヨーテリー「……しょっぱいね」

ニンフィア「そうだね」


ニンフィアは笑う。ヨーテリーもつられて笑った。
 ▼ 169 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:35:20 ID:0IXj7BFM [22/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
ヨーテリー「でも、この瞬間だけなら」


そして、思った。


ヨーテリー「多分、ボクは世界一幸せだよ」

ニンフィア「……私も」


空はもう赤に染まっていた。
二匹は顔を見合わせて、そして、深い水に一歩踏み出した。


   チャプン

ヨーテリー「……じゃあ、行こうか」

ニンフィア「……行こっか」
 ▼ 170 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:36:18 ID:0IXj7BFM [23/24] NGネーム登録 NGID登録 報告
冷たい。

でも、暖かい。


重い。

でも、軽い。


苦しい。

でも、楽しい。


一歩。一歩。いつの間にか二匹は、もう水の中にいて。


ヨーテリーは意識が途切れていくのを感じた。断絶する己の隙間の間に、とても懐かしい何かを見たような気がした。

あの世、だろうか。

……まあ、いいや。










ただの野生のポケモンが死んだだけの話。

ゆっくりと、ぐずぐずに溶けていく体は、まるでチョコのようだった。


【ホワイトデーSS】貴女に涙色のチョコを 完食
 ▼ 171 6ngK9o9r.. 18/03/14 19:37:51 ID:0IXj7BFM [24/24] NGネーム登録 NGID登録 報告





ホワイトデーという明るいイベントにこんなシリアスを捩じ込む非リアの鏡にして物書きの屑

作者はバレンタインには秋刀魚を貰いました
何を返せと言うのさ
 ▼ 172 プ・ブルル@ねばりのかぎづめ 18/03/14 20:53:22 ID:FpXi1P9U NGネーム登録 NGID登録 報告


やっぱあんたクイサレさんじゃねぇの
 ▼ 173 ーボック@いでんしのくさび 18/03/15 13:32:45 ID:BiacdN0I NGネーム登録 NGID登録 報告
oh……
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