【ホワイトデーSS】サーナイト「オスですけどいいんですか?」:ポケモンBBS(掲示板) 【ホワイトデーSS】サーナイト「オスですけどいいんですか?」:ポケモンBBS

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【ホワイトデーSS】サーナイト「オスですけどいいんですか?」

 ▼ 1 B.UfTYuANw 18/03/14 20:49:05 ID:VEMAbmJY [1/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
僕が今までこの子にしてあげたことってなんだろう。



きっと何も無い。

愛情なんて欠片も見せなかった。

毎朝覗き込んでくる顔から目を背け、甲斐甲斐しく世話を焼く手を振り払い、時折すれ違いざまに悪態をついた。



それでもこの子は僕を慕い続けた。

見返りがなくとも、主と決めた一人の相手を守り従い続ける。それがサーナイトの哀れな習性だ。



だから、

そんなこの子にとって、僕が差し出したこのお菓子は初めて受け取る贈り物になる。






サーナイトは満面の笑みを浮かべて受け取った。



……それに何が込められているかも知らずに。
 ▼ 2 B.UfTYuANw 18/03/14 20:49:58 ID:VEMAbmJY [2/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
二月十四日。

少年少女達が沸き立つこの日にも、エーミールという少年は至って平静のままだった。

彼は容姿端麗で成績も良く、ともすれば少女達がチョコレートを渡す相手として引っ張りだこになりそうなものだったが、実際彼に近寄るクラスメイトは殆どいなかった。



エーミールが二階の自室から階下へと降りると、テレビのニュースがとある悲劇的な事故を報道していた。
火災で取り残された少女が亡くなり、母親が嘆き悲しんでいる様子が映し出されている。


「お、おはよう」

「おはよう、父さん」


父親はエーミールの姿を見るなり慌ててテレビのチャンネルを変えたが、当の本人は顔色一つ変えずに食卓に着いた。





エーミール少年は、死が悼めない。

それこそが、品行方正な彼が周囲に避けられている唯一の理由だった。
 ▼ 3 B.UfTYuANw 18/03/14 20:50:46 ID:VEMAbmJY [3/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
きっかけはスクールで飼っていたコダックが死んでしまったときだった。



とぼけた顔で愛嬌のあるそのポケモンを皆可愛がっており、もうすぐ産まれてくる子供を心待ちにしていた。

しかしある日、柵を壊して侵入してきたニューラの群れに襲われ、一晩の間につがいとその卵が無残な姿になってしまったのだ。

残された死骸を前に、当然、生徒たちはショックで泣き暮れる。

普段は絶対に涙を見せない男子生徒も声を上げて泣き、教師達も冷静に宥めつつも目に涙を浮かべていた。

その中で、エーミールだけが泣けなかった。



エーミールがそのコダックに愛着がなかったわけではない。
むしろ率先して飼育に携わっていたし、大切にしようとする気持ちだって確かにあった。

それなのに、血に染まった無残な飼育スペースや中身の啜られた卵を見ても、彼の心はまるで凍りついてしまったように動かなかったのだ。



授業を取り止めて行なった追悼式の中でも、エーミールだけが無表情のまま一人浮いていた。

彼は必死にコダック達の愛らしい仕草や世話をして可愛がっていた日々を思い出し、なんとか悲哀の気持ちを引き出そうと努力するのだったが、どうにもそれが叶わない。

やがてそんな姿を見とがめたクラスメートに掴みかかられ、取り囲まれて冷酷な人間だと罵られても、エーミールは一滴の涙も零せなかった。



以来、彼に近寄る人間は殆どいなくなってしまったのである。
 ▼ 4 B.UfTYuANw 18/03/14 20:51:37 ID:VEMAbmJY [4/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
「さーなっ!」


テレビCMの音だけがむなしく響く食卓に、弾んだ声が現れた。

人間の母親のようにエプロンをつけたポケモンが、両手に二人分の朝食を持ってきた。



このポケモンは、エーミールのすさんだ心を癒すために『ポケモン・セラピー』から連れてきたサーナイト。

『ポケモン・セラピー』は心に傷を抱えた人をポケモンとの触れ合いによって癒すのが目的の施設で、特に上手く言葉のやり取りができない幼い子供に対して大きな効果がある。

エーミールの父は息子の現状を心配し、この施設から「人間の感情を深く感じとれるポケモン」であるサーナイトを連れてきたのだ。



「ありがとう、サーナイト」

「さな〜♪」


エーミールの父親がトーストの乗った皿を受け取り微笑むと、サーナイトは嬉しそうに声を上げた。


「……」


だが、エーミールはサーナイトを冷たく一瞥するだけだった。


「エーミール、少しは優しくしてあげろよ」

「さな…」


流石に父親がたしなめたが、エーミールは素知らぬ顔でトーストに噛り付く。

ろくに味わうでもなく機械的に食べ進め、カップに注いだミルクで一気に口の中の物を飲み下すと、エーミールは勢いよく椅子を引いて立ち上がった。



「僕は母親の代わりが欲しいなんて言った事はない。ましてやポケモンにそれをやらせるなんて、悪趣味だよ」


そう吐き捨てると、エーミールはサーナイトを振り払って食器を片付けに行った。
 ▼ 5 B.UfTYuANw 18/03/14 20:52:26 ID:VEMAbmJY [5/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
エーミールの記憶に残る母親の最期の記憶は、燃え盛る炎の中だった。

じりじりと肌を焼く痛み。肺の中まで焼き尽くさんとばかりに雪崩込む黒煙。

その中で、おぼろげに残っている優しい感触。力強くも優しい母の抱擁だ。



小高い丘の上に墓があるらしいが、エーミールは一度もそこを訪れたことはない。





「さな!」

「なんだよ、しつこいな」


家を出ようとするエーミールをサーナイトが引き留める。

不機嫌なままに振り返ると、なにやら小さな包みを渡された。


「なにこれ?」

「今日が何の日か忘れたのか? 寂しい生活してるなあお前」


怪訝な顔をしたエーミールの肩を叩き、父親が笑いながら茶化す。

そう、これはバレンタインチョコだった。


「ふーん、行ってきます」

「さーなー♪」


父親の手前突き返すわけにもいかず、エーミールはその包みを鞄に入れてそそくさと家を出た。
 ▼ 6 B.UfTYuANw 18/03/14 20:53:01 ID:VEMAbmJY [6/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
あの事件以来、冷酷だのサイコパスだのと揶揄されるようになったエーミールには、友達と呼べるような相手はかろうじて一人しかいなかった。


「よう、エーミール。チョコレート貰ったか?」


背後から走り寄って来た少年が、エーミールの背負ったリュックサックを乱暴に引っ張った。

彼は先月越してきた転校生のフランツ。
粗暴な性格でクラスに馴染めず、必然的にあぶれ者同士で行動するようになったのだ。


「一応ね」

「えっ!? 誰からだよ!」


フランツは素っ頓狂な声を上げ、無遠慮にもリュックの中を勝手に漁り出した。

大仰なリアクションを返されたことに少々憤慨しつつ、エーミールは彼の手を振り払って答える。


「家で飼ってるサーナイト」

「うげぇ、ポケモンから貰ってやんの」

「人真似するんだよ。気持ち悪いけど捨てたら父親がうるさいからさ……」

「でも普通に店で売ってるやつじゃん。いらないなら貰ってやるよ」


フランツの手には既にチョコレートの包みが握られており、にやにやとした意地の悪い笑みを浮かべていた。
まさにいじめっ子そのものの行為だが、要らない物を盗られたのだから何も問題はない。

エーミールは気のない返事で了承した。
 ▼ 7 B.UfTYuANw 18/03/14 20:53:50 ID:VEMAbmJY [7/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
エーミールとフランツはわざと遅れて教室に入る。

すると既に朝のホームルームが終わっていて、生徒達の冷ややかな視線と一部からの野次、教師からは半ば諦めかけたような叱責の言葉が二人に一斉に向けられた。

エーミールは素早く机に荷物を置くと、必要な教材だけを持って再び廊下に出る。
少し遅れてフランツが、筆記用具すら持たず手ぶらの状態で後を追ってきた。

彼らはポケモンを持つ許可をまだ貰えていない為、授業は別室で行われていた。



このスクールでは教師に認められた生徒しかポケモンを所持することが出来ない。

平均程度の成績さえあればよく、エーミールの学年になると全員がポケモンを所持しているのが普通だった。



「五学年の二人、遅いですよ!」


教室に入るなり、構内一厳しいと称される女教師の怒号が二人を待ち受ける。

フランツは悪態をついて乱暴に席に座る。

エーミールは内心うんざりしつつも涼しい顔のまま静かにその横に座った。
 ▼ 8 B.UfTYuANw 18/03/14 20:54:20 ID:VEMAbmJY [8/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
教室にはエーミール達より一学年も二学年も下の生徒達しかいない。

図体の大きいエーミールとフランツはここでも邪魔者のように教室の隅に追いやられていた。



「フランツ、貴方の成績は三学年の生徒の平均点より下回っているのですよ。少しは真面目に取り組みなさい」

「けっ、毎日ガミガミ怒鳴りやがって。だからまだ結婚できねーんだよ、クソババア!」

「h〇△*:▲☆!!?!!」

「馬鹿……」


フランツが暴言を吐いて教師と取っ組み合いを始める横で、エーミールは深々と溜息をつく。


フランツは素行も成績も申し分ない程に悪いが、エーミールは成績だけなら同学年の誰にも引けを取らないレベルだった。
だが、例によって倫理観を疑われているが故に劣等生の立場に甘んじるしかないだけなのだ。



授業のレベルが合わないエーミールも教師から持て余されており、いつも彼だけ相応レベルのプリントが一枚だけ配られる。

それを自力で解くだけなので、エーミールは学校に来る意味を見い出せなかった。
 ▼ 9 B.UfTYuANw 18/03/14 20:55:05 ID:VEMAbmJY [9/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
プリントを埋め終えて退屈になったエーミールがふと視線を横にずらすと、珍しくフランツが大人しくペンを握っていた(このペンは勿論エーミールの物である)。

だがその手がノートに文字を記す筈もなく、縦横無尽にある物を描いていた。


ふさふさとした毛並み。つぶらな眼。
それはポケモンのヨーテリーだった。


フランツは家の近くの空き地にこっそり野良犬のヨーテリーを飼っている。

不良が捨てられた動物に優しい、というイメージはあながちフィクションの中だけのものではないらしく、粗暴な悪童のフランツもその野良ヨーテリーには愛情を注いでいた。

あの姿を見せたら教師達もフランツへの評価を改めるかもしれないな、とエーミールがぼんやりと考えていたら、脛に強い衝撃が走った。


「痛っ!」

「何見てんだよ」


フランツが落書きのページをを腕の中に隠してエーミールを睨みつける。

そんな顔をしたって何も怖くない。

だが、その隙間から隠し漏れた絵の一部を見たエーミールは、例の心が凍るような感覚に襲われた。


「何か」を咥えて喜ぶヨーテリー。


その絵を見た瞬間、エーミールの頭の中で即座に最悪のプロセスが組み立てられた。
 ▼ 10 B.UfTYuANw 18/03/14 20:57:46 ID:VEMAbmJY [10/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
ポケモンは人に近い種族もいれば動物に近い種族もいる。

後者の場合は、人間の食物が毒になることも少なくない。

例えば犬猫にとって毒である玉ねぎを、体の仕組みが近いポケモンであるガーディやニャルマーに与えれば同じように中毒を起こす。


つまり、それをチョコレートとヨーテリーに置き換えた場合も同じだ。恐らくチョコレートを食べたヨーテリーは危険な状態に陥るだろう。

元が優等生のエーミールはすぐにそれに気がつき、放課後になったらフランツが野良ヨーテリーにチョコレートをあげに行ってしまうことまで予想がついた。


しかし、エーミールは彼に何も告げなかった。





エーミールは死を悼めないが、決して冷酷な少年ではない。

クラスメイト達からは根も葉もない噂を沢山流されているが、ポケモンや小動物を虐めて楽しむような趣味もなく、むしろ愛好家と言ってもいいくらいに世話をするのが好きだった。

愛情がないわけではない。死を目前にすると頭の中が真っ白になってしまうだけなのだ。

コダックが死んでしまったときだって、ただ涙が流せなかっただけだった。



では何故、黙っていたのか。

それは彼自身にもよくわからなかった。



心の奥底で大きな誘惑が――「試したい」という気持ちがあり、それが良心に勝ってしまったのかもしれない。
 ▼ 11 B.UfTYuANw 18/03/14 20:58:41 ID:VEMAbmJY [11/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。

エーミールは校舎の前で殴られた。

目元を赤くしたフランツは、チョコレートを食べたヨーテリーが亡くなってしまったことを告げ、その責任の所在をエーミールに突きつけた。


「お前、分かってたんだろ。頭良いんだもんな。あいつが死ぬのが見たくて渡したんだ、このサイコパスめ!」


胸倉を掴まれたエーミールは一瞬だけ、またあの寒々しい感触が胸に広がるのを感じたが、冷静な口調で弁解をした。


「君があのチョコレートをヨーテリーにあげるなんて思わなかった」

「見てただろ!あの絵!」

「知らないよ。第一、チョコレートを勝手に盗ったのは君じゃないか」

「……うるせえ!!」


エーミールの筋の通った嘘も、頭に血が上ったフランツを止めることは出来なかった。

暫く取っ組み合っていると、やがて呼ばれた教師たちに引き剥がされたが、彼らは問題児同士の喧嘩の内容などには耳を傾ける気もないようで、すみやかに教室へと押し込められてしまった。
 ▼ 12 ッキング@フォーカスレンズ 18/03/14 20:59:24 ID:UEJmmqQ2 [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 13 スボー@カシブのみ 18/03/14 20:59:31 ID:L5PEYv8A NGネーム登録 NGID登録 m 報告
少年の…いや何でもない
支援
 ▼ 14 B.UfTYuANw 18/03/14 20:59:43 ID:VEMAbmJY [12/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
エーミールが試したかったのは、自らがもたらした死への反応だった。

彼はフランツの飼っていたヨーテリーと何度か会ったことがあり、少なからず愛着を感じていた。

そんな身近なポケモンが間接的であれ自分が要因で亡くなってしまったら、もしかしたらこの胸にも悲しみという感情が湧いてくるかもしれない、もしかしたら涙が零せるかもしれない、そんな微かな希望があったのだ。

だが、彼の胸に残ったのは罪悪感だけだった。


人懐っこくじゃれてくるヨーテリーの姿を思い浮かべても、乱暴気味に世話をするフランツを諌めた思い出やヨーテリーを連れた散歩に付き合った思い出を回想しても、彼の心には悲しみの一つも浮かんでこない。

冬の朝に窓を覆いつくす霜のような、何かに無理矢理塗りつぶされたような真っ白な何かがエーミールの感情を邪魔しているかのようだった。



一日中フランツの恨みがましい視線と数え切れない程の罵倒を聞くうちに、やがてエーミールは自暴自棄になっていった。

やはり自分は冷徹なサイコパスで、何かが死んでも何も感じない異常者なのではないか。

そんな結論が下されようとしていたとき、フランツからとある提案を出された。



「お前の家にいるサーナイトも殺せ」



ひやりとしたものが胸の中を流れ、エーミールは思わず彼の顔を見る。するとフランツは憎々しげに睨み返してきた。

その瞳には赤々とした復讐の炎が燃えていた。
 ▼ 15 ウカザル@ひこうのジュエル 18/03/14 21:00:35 ID:UEJmmqQ2 [2/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
てか早いな
 ▼ 16 B.UfTYuANw 18/03/14 21:00:43 ID:VEMAbmJY [13/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
エーミールは父親が連れてきたサーナイトを疎ましく思っていた。

彼は心からポケモンを愛し可愛がっている。それが虫や小動物に近いような知能の低いものであっても、逆に知能の高い高等なものであっても変わらない。


彼が家のサーナイトを気に入らないのは、そのポケモンが自分の母親を演じようとしているからだった。


『ポケモン・セラピー』で訓練を受けたポケモンは対象を癒すために様々な努力をする。

多くのポケモンは優しく寄り添ったりするくらいのものだが、高知能を持ちセラピーの中では最上位のポケモンであるサーナイトはその癒し方もまた非常に高度で人間味のあるものだった。

簡単な料理を作ったり、寝る前に歌を歌ったり。まるで人間の母親が子供にするようなサーナイトの日々の行為は、全てエーミールの心を癒すためのものに他ならない訳だが、彼はそれらの行為を施される度に激しい嫌悪感を感じていた。






「いいよ。それで君の気が少しでも晴れるのなら」


エーミールの口から出た言葉は、酷く色あせて冷たかった。


「……殺したからってお前を許したりはしない。一生恨んでやる。ただ、同じ目に合わせてやりたいんだよ」


フランツは憎々しげに言い放つ。エーミールと対照的に、今にも爆発しそうな煮えたぎる激情を秘めていた。
 ▼ 17 B.UfTYuANw 18/03/14 21:01:43 ID:VEMAbmJY [14/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
フランツとの諍いは流石に両者の親に報告されていたらしい。

父親は珍しく早くに帰宅しており、エーミールが帰ってくるなり彼を連れてフランツの家へと謝罪に出かけた。


フランツの家は本人のみすぼらしい身なりとは対照的に大きく立派な建物だった。

エーミールの父は色々と言葉を用意していたようだったが、出てきたフランツの母はこちら側の謝罪をまともに聞かずに平謝りをして問題を片付けてしまった。


追い出されるようにして帰路を歩き始めた親子に、気まずい沈黙が流れる。

父親はそれをなんとか破ろうとして、そっと口を開く。


「あの子の家も可哀想だな」

「そうだね」


その言葉にエーミールも相槌を打ったが、父親が本当に言いたいことはそれではない。

再び長い沈黙を挟み、父親は恐る恐るといった様子で切り出す。


「……なあ、エーミール。命は粗末にしちゃいけないんだ。それだけは、わかってくれるよな?」

「……」


恐々とした、探るようなその問いかけにエーミールは辟易した。

父親もまた、エーミールを冷徹な子供だと恐れているのだろう。
 ▼ 18 B.UfTYuANw 18/03/14 21:02:28 ID:VEMAbmJY [15/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
家に帰ると、いつもは元気に迎えてくれるサーナイトが姿を見せなかった。


「サーナイト、どうしたんだ。隠れたりして」

「さーなー……」


父親は暗い居間の片隅で座り込んでいたサーナイトを見つけると、手を引いて立ち上がらせた。


「お前は何も悪い事しちゃいないよ。エーミールもフランツも、誰も悪くない。不幸な事故だ」

「さな……」


それは自分自身に言い聞かせているかのようだった。

サーナイトはゆっくりとエーミールの方を見やる。その目に浮かんでいたのは、エーミールの大嫌いな哀れみの色だった。





サーナイトは何か負い目を感じているのか、この日以来あまりエーミールにしつこく構わなくなった。

相変わらず世話を焼いてくるのは変わらなかったが、その動作一つ一つに遠慮がちな雰囲気をにじませてきた。

まるで母親が扱いにくい息子を持て余しているときのように。
 ▼ 19 B.UfTYuANw 18/03/14 21:03:37 ID:VEMAbmJY [16/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
二月が過ぎ、春の兆しが見えてくる三月へ。

フランツとエーミールの計画は静かに進行していった。



「あいつはチョコレートを食べたって死なないんだろ? だったら毒を混ぜろ。一晩中ゲロを吐いて苦しんで死ぬような、強力なやつだ」


エーミールはフランツに言われた条件に合う成分で、なおかつ自分たちでも手に入るものを調べた。
それをポケモン用のお菓子であるポフレに混ぜればいいだろう。

淡々と準備をしている間も、エーミールの心は冷え切っていた。



サーナイトは疎ましい。

だけど、今度は自分自身の手で殺すことになる。エーミールにとって最も身近なポケモンをだ。

もしそれでも何も感じなかったら。





そのときは、自ら命を絶とう。

エーミールは決心していた。
 ▼ 20 B.UfTYuANw 18/03/14 21:05:08 ID:VEMAbmJY [17/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
三月十四日。


エーミールは普段通りに登校し、フランツを連れて家に帰った。


「さなー♪」


ドアを開けるなり、サーナイトが笑顔で出迎える。

見計らったかのようなタイミングに少々面食らうが、フランツ小突かれてエーミールはリュックから例の物を取り出す。


「さな?」


小首を傾げるサーナイト。
今までエーミールに尽くすことはあっても、自分が何かを貰う経験がなかったために、差し出された意味が分からなかったらしい。


「あげるよ」


エーミールは目を逸らしてそう告げた。

包装された菓子を突き出す。

何の変哲もないビニール袋に入れられた不格好なポフレだ。



だけど、それはサーナイトにとって何よりも至高の贈り物に見えたらしい。



「さなーっ!」

「!!」


ルビー色の瞳を喜びで輝かせ、サーナイトは力いっぱいエーミールを抱擁した。





その瞬間、エーミールの中でとある記憶が蘇った。
 ▼ 21 ばちゃんねる◆4Uwy0xcD9E 18/03/14 21:06:21 ID:zOlc90AU [1/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
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 ▼ 22 B.UfTYuANw 18/03/14 21:06:25 ID:VEMAbmJY [18/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
――あの夜。


自宅が炎に包まれたあのとき、二階に取り残されたエーミールは誰かに抱きしめられていた。

それはずっと自分の亡くなった母親だと思っていた。



しかし、エーミールの母は彼が幼い頃に家族を捨てて出て行ったのだ。

彼女は今でも生きている。エーミールの知らない街で、エーミールの知らない男と共に暮らしている。



では、死んだのは誰か。



エーミールは細い腕に抱きしめられていた。

白くて力の無い華奢な腕。

だけどそれは力いっぱいエーミールを守るように抱いていて、同じように細く頼りない胴体からは不思議な光が放たれていた。





「サーナイト!」



エーミールはそのポケモンの名前を叫んだ。
 ▼ 23 B.UfTYuANw 18/03/14 21:07:13 ID:VEMAbmJY [19/28] NGネーム登録 NGID登録 報告

――――――

――――

――



私は施設で生まれ育ち、人間の傷付いた心を癒すための訓練を受けてきました。

傷付いた人を癒しては、また別の人の元へ向かう日々。

本来一人の主に付き従うサーナイトにとって、それは少し寂しいことでした。


そんな私に、とある家庭から依頼が届きました。


『母親に捨てられて心を閉ざした少年が、母親代わりに慕っていたサーナイトを火事で亡くしてしまった。そのポケモンと同じサーナイトに、再び寄り添って心を癒してあげて欲しい』


家族の一員にしてもらえるのはとても嬉しく光栄でしたが、同時に自分の手に負えるか心配でもありました。


本当に、いいんでしょうか。

何でもそのサーナイトは自らの命を犠牲にして少年を助けたそうですし、なにより私は彼女と違ってオスです。

少年の母親代わりになれるのか、私には自信がありませんでした。
 ▼ 24 B.UfTYuANw 18/03/14 21:07:59 ID:VEMAbmJY [20/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
凄惨な事故は、エーミール少年に大きな傷を残しておりました。


初めて彼に会ってその手にそっと触れた瞬間、私はその凍りついた心に酷く狼狽したものです。


事故に遭うまでのエーミールは、元気で感情豊かな男の子だったそうですが、今では心が霜で覆われたように冷たく変容してしまっていました。



私にできるのは、その冷たく凍ったを少しづつ溶かしていくことだけでした。
 ▼ 25 B.UfTYuANw 18/03/14 21:08:41 ID:VEMAbmJY [21/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
私は、精一杯エーミールに尽くしました。

だけど、母親の真似をする度に、彼の心には静かな怒りと失望が生まれていくばかりでした。


母親代わりになれなくても、彼が好きだったサーナイトの代わりになれなくても、私は彼を癒す存在になりたい。

私は種族の本能から、心から彼を慕うようになりました。





バレンタインデーという行事があることを知った私は、ある日、彼のためにお菓子を買ってプレゼントしました。

学校でお友達もあまりできずに寂しい思いをしている彼に、せめて何かしてあげたかったのです。


だけどそれは、最悪の結果をもたらしてしまいました。

エーミールは唯一のお友達と喧嘩をしてしまい、噂が広がったせいで余計に皆から避けられるようになってしまいました。





ああ、やはり私では駄目だったのです。
 ▼ 26 B.UfTYuANw 18/03/14 21:09:42 ID:VEMAbmJY [22/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
エーミールが私を殺そうとしていることはすぐに気がつきました。


だけど、もしそれでお友達の気が済むのなら、私は死んでも構いません。

せめて、死して主を守り切った、かつてのこの家のサーナイトのように。私もこの命を以て彼に報いたいのです。





『あげるよ』


エーミールはぶっきらぼうに言い放ってお菓子を差し出しました。

簡素な包装に包まれた、あまり上手とは言えない見た目のポフレ。

なんでもそつなくこなす彼らしくない粗が見えて、私はその可愛らしさに思わず笑みがこぼれました。

勿論、これが私を殺すために作られた物なのは知っています。



だけど、本当に愛しかった。



ずっと尽くしてくた相手から初めて貰ったプレゼントなのです。

それが冥土への手土産ならば、充分素晴らしいものでしょう。



――――――

――――

――
 ▼ 27 B.UfTYuANw 18/03/14 21:10:28 ID:VEMAbmJY [23/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
サーナイトは大切な者を守るとき、命がけで小さなブラックホールを作ることがある。

あの獄炎の中からエーミールが無事に出られたのは、サーナイトのおかげだったのだ。





エーミールは記憶が混濁して頭を抱えた。

死んだはずのサーナイトが何故またここに存在しているのか。


だが、すぐに真実を思い出す。





父親は母に捨てられて心を閉ざした息子のために、自身の手持ちであるサーナイトを母親代わりにあてがった。

幼いエーミールはその心優しいポケモンに懐き、やがて本当の母親のように慕っていった。

だが、そのサーナイトは火事で亡くなってしまったのだ。



今、この家で暮らしているのは、その後にセラピー施設から連れて来られたサーナイトだ。

エーミールのこれまでの葛藤は、母親を演じられたことだけではなく、まるで代わり玉のように同じポケモンを連れて来られた怒りが無意識にあったのだ。





では、エーミールが今殺そうとしているサーナイト。

この子はどうなっても構わない存在なのだろうか。
 ▼ 28 B.UfTYuANw 18/03/14 21:11:56 ID:VEMAbmJY [24/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
いや、違う。

その時エーミールの中では、沢山の記憶が氾濫していた。


この健気なサーナイトが家に来てから今までのこと。

エーミールがいくら無視したり毒吐いたりしても、このサーナイトは柔らかな微笑を絶やさず寄り添ってきた。

おっかなびっくりトーストを焼いてみたり、庭の花の手入れをして花が咲く度にエーミールと父親に自慢してきたり、人間の言葉が話せないのにエーミールに絵本を読み聞かせようとしてみたり。

拙くて少し不器用なサーナイトは、それでも精一杯家族の一員になろうと様々なことをしていた。

そんな日常の風景が次々と湧いて溢れだしたのだ。



エーミールは自分の心の中で何かが融解して動き出したのを感じた。

今や、幼き日にみたあの燃え盛る炎のように、激しい感情が彼の心を支配していた。





「やめろ!」


エーミールは声の限り叫んだ。
 ▼ 29 B.UfTYuANw 18/03/14 21:12:29 ID:VEMAbmJY [25/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
「やめろ!食べるな!吐き出せサーナイト!」


エーミールは無我夢中でサーナイトの手から菓子をもぎ取ると、口に指を突っ込んで吐き出させた。

そのあまりの形相にフランツは呆然と立ち尽くし、大声を聞いて書斎から降りてきた父親もまた呆気にとられた。





「やめてくれ!死んじゃ駄目だ!死なないでくれよサーナイトッ!」


エーミールは叫びながらサーナイトを抱きしめた。

その目からはとめどなく大粒の涙が零れている。





サーナイトは弱々しく咳をすると、自分の顔に落ちてきた雫に気がつき、嬉しそうに笑った。
 ▼ 30 B.UfTYuANw 18/03/14 21:14:19 ID:VEMAbmJY [26/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
後日、エーミールは初めて丘の上にある墓に訪れた。


ここには人間に大切にされたポケモン達が眠っている墓地だ。



エーミールは両手に抱えた花を供えると、静かにそこに眠る相手に祈りを捧げた。



「さーなっ!」


不意に背後から肩を叩かれ、エーミールは振り返って微笑む。


「君も着いてきたんだね」

「さなっ♪」


サーナイトは嬉しそうに頷くと、エーミールが花を供えた墓に視線を送る。


「彼女は命懸けで僕を守ってくれた。勇敢な騎士だよ」


エーミールの言葉を聞くと、サーナイトもそこに眠る彼女に祈りを捧げた。

しばらくしてサーナイトが立ち上がると、エーミールは後ろ手に隠していた物を見せた。


「?」

「君にあげる。ホワイトデーはもうとっくに過ぎちゃったけどね」


エーミールは少し照れ臭そうに言うと、小さな花束をサーナイトに渡した。

サーナイトは少しだけ戸惑った様子を見せたが、すぐに飛びついて喜びを表した。
 ▼ 31 B.UfTYuANw 18/03/14 21:15:37 ID:VEMAbmJY [27/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
――――――

――――

――


あの時以来、エーミールは少しづつ優しい心を取り戻しています。

お父さんにも、お友達のフランツ君にも、クラスメイトにも、先生達にも、徐々に彼の誤解は解けていくはずです。


でも、少しだけ寂しい気がします。

エーミールは元々魅力のある少年です。きっと、来年のバレンタインデーには女の子からチョコレートを貰うでしょう。

……なんだか、嫉妬しているみたいですね。
もしかして、これが母性というものなのでしょうか?

なんて、我ながら恥ずかしいことを考えてしまいました。






『君にあげるよ』


だけど、エーミールはそんな私の気も知らず、花束を私に差し出しました。

その照れた表情に隠されているものが、おおよそ母親に対する照れではないという事に気がついてしまった私は、ほんの少し動揺してしまいました。





『オスですけど、いいんですか?』

私が腕の中でそっと囁いたその問いかけを、彼が知る由はないのでした。
 ▼ 32 B.UfTYuANw 18/03/14 21:19:40 ID:VEMAbmJY [28/28] NGネーム登録 NGID登録 報告
終わりです。
最期に図鑑説明を添えておきます



サーナイト
ほうようポケモン

サイコパワーで くうかんを ねじまげ
ちいさな ブラックホールを つくりだす ちからをもつ
いのちがけで トレーナーを まもる ポケモン

 ▼ 33 イタラン@シルクのスカーフ 18/03/14 21:20:53 ID:n3YKomAE [1/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
このSSきらい
きらいだけどすき
くやしい
 ▼ 34 ばちゃんねる◆4Uwy0xcD9E 18/03/14 21:20:54 ID:zOlc90AU [2/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
ありがとう
 ▼ 35 ママイコ@そうこのかぎ 18/03/14 21:21:47 ID:D6k4YPWw NGネーム登録 NGID登録 報告
サーナイト♂を育てたくなる
 ▼ 36 ーディン@ゴーゴーゴーグル 18/03/14 21:23:25 ID:n3YKomAE [2/2] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
おつ
 ▼ 37 リージオ@ダークメモリ 18/03/14 21:25:50 ID:62UVPULw NGネーム登録 NGID登録 報告
正直こういうSSすこ
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