【ホワイトデーSS】私の名前は───:ポケモンBBS(掲示板) 【ホワイトデーSS】私の名前は───:ポケモンBBS

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【ホワイトデーSS】私の名前は───

 ▼ 1 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:00:50 ID:lp2Gfh3. [1/30] NGネーム登録 NGID登録 報告
「先輩、明後日はホワイトデーですね」

「そうね」

「例の彼から、貰えそうですか?」

「さあね」

「………そっけないですねー」

 はあ、と作業をしながら最初に声をかけた女が溜息を吐いた。机に突っ伏し、手元の端末を弄っている。先輩と呼ばれた女は声をかけてきた後輩の方を見ることもなく淡々と答え、手に持ったメモにチェックを入れていく。

 彼女らはアローラ地方に新設されたポケモンリーグのスタッフだ。トレーナーとしての経験を持ち、且つこういった事務仕事を得意とする者が採用される。これでも一定数の大会優勝経験者のエリートトレーナーであり、収入が不安定で、名誉はあれど職業とはカウントされない一般的なポケモントレーナーと違う、トレーナーとしてなく、職としてのエリートでもあるのだ。
 ▼ 2 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:01:20 ID:lp2Gfh3. [2/30] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そもそも、ホワイトデー云々の前に仕事があるでしょう。ポケモンリーグ本戦が終わって、優勝者と四天王達───そしてチャンピオンのバトル。明日で仕事から解放されるんだから、そんなことを気にする暇があるなら仕事をしなさい」

 そう、明日はポケモンリーグの頂上決戦とでも言うべきバトルがあるのだ。ここ数か月は勝ち続け、何度もチャンピオンに挑み、僅差で敗北して………それを繰り返しているチャレンジャーが、再び挑戦をする日。

 アローラ地方にポケモンリーグという風習を根付かせる為に、設立されてから一か月ペースでリーグが開催されている。ポケモンとしてもトレーナーとしても無茶なペースではあるのだが、こういったスタッフやブリーダーがサポートに専念することで何とか維持している、というのが現状である。本来ならばこのようなことはないはずなのだが、如何せんアローラ地方にリーグが設立されてからまだ一年も経っていない。もっと深く定着させ、協会側とのつながりも強固にしなければならないのだ。
 
 作業を終え、軽く息を吐く。『彼』は大丈夫だろうか………そう考え、まあ自分が気にすることではないだろうと思考を中断しようとして、

「『彼』のこと考えている顔ですねー、先輩」

 思わず顔を顰めた。

 妙なところで鋭いのだ、この後輩は。普段はミスの目立つ駄目な後輩───それこそ、何故この仕事に就けたのかわからなくなる程度にはポンコツなのだが。
 ▼ 3 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:01:55 ID:lp2Gfh3. [3/30] NGネーム登録 NGID登録 報告
「先月はバレンタインチョコ渡したんでしょう? しかも手作り」

「バレンタインデー自体に興味はないわ。日付が被っただけだし、結局はチョコレート会社の策謀でしかないもの。手作りなのは売り上げに貢献したくないから。………で、まだ何かある?」

「随分卑屈ですねー。励ましてバトルもしたそうじゃないですか」

「そもそも、激励するのに市販品の物だなんて失礼じゃないかしら。有望なトレーナーを導くのは私達の仕事の一環でもあるし、私は仕事を───」

「先輩って嘘を吐く時、声のトーンが一つ下がるんですよね。あと口が少しへの字になる」

 嘘、と口に指先で触れる。無論への字にはなっていないし、それ以前に声のトーンが下がっていたような記憶もない。じろりと後輩に目を向けるが、どこ吹く風で目を逸らされた。しばいてやろうか。
 ▼ 4 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:02:29 ID:lp2Gfh3. [4/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「成る程成る程、クールぶってる先輩の無自覚な恋ってやつですかねぇ。いやでも、年齢的には結構差があるわけですし、ショタコンクーデレとか中々に業が───」

「シャワーズ、ハイドロポンプ」

「すみません私が悪かったですというか仮にもトレーナーがダイレクトアタックは駄目でしょぉぉぉぉぉぉ!? 私は先輩とは違ってマサラ人みたいな人間やめ人間じゃないんですから!!」

 ひぃ、と奇妙な声を漏らしながら後輩が机の下に潜る。 備品を壊すつもりはないし、確かにシャワーズは出したが冗談のつもりだったのだが。そこまで無慈悲な人間に見えるのだろうかと少し顎に手を当てて考え込むが、

「………まあ仕方ないわね。これ以上変な追及をされても困るし、何があったか教えてあげるわ」

 無駄だろうと結論付けて、顔だけ出してきた彼女を冷徹な目で見下ろしながら、女は一か月前の記憶に意識を傾けた。
 ▼ 5 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:03:07 ID:lp2Gfh3. [5/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 ───『彼』はラナキラマウンテン山頂の一角、夕焼けのよく見える場所に腰を掛けていた。太陽の沈みかけはまるで『彼』の心情を表しているようで………何よりも、既視感を覚えるその光景に不快感を募らせ、歩いたのだと思う。

「悩み事かしら、チャレンジャーさん。珍しいこともあるものね」

 隣に腰を下ろし、ハンカチを差し出す。日に焼けた健康的な肌を持った『彼』は───島キングの孫であるハウは、軽く一礼してから受け取った。

「本当のゼンリョクの前には勝ちも負けもないのかもしれないけど………でも、やっぱりおれ、悔しいよ」

 濡れた目をハンカチで抑えて、ハウが呟く。普段は笑顔を絶やさない彼であるため、その光景は珍しく、それだけ悔しい思いをしたのであろうことが伝わってくる。

 昔は似たような想いを抱えていた者として、その気持ちはよくわかる。だが、その根幹にあるのは全くの別物だ。自分にあったのは諦念にも近い、割り切った感情。彼にあるのは、何よりもポケモン達のことを理解し、幼いながらもしっかり向き合っているが故の苦しみなのだ。
 ▼ 6 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:03:33 ID:lp2Gfh3. [6/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 自分とは全く別、正反対とも呼べるだろう。女は自分のことしか見れていなかったのだから。自分しか見ず、向き合わず、苦しい思いを押し付けたまま───しまいにはトレーナーとしての研鑽を、ポケモンリーグの頂上に立つという夢を諦め、腐ってしまった愚物でしかない。比べるのも烏滸がましい、そんな愚か者。



「───悔しいのなら努力をなさい」



 それでも出来ることがある。そう信じて、彼女は口を開いた。
 ▼ 7 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:04:13 ID:lp2Gfh3. [7/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 腰に着けてあるベルトから一つ、モンスターボールを手に取る。

 それは幼い頃からの、カントーで旅をしていた頃からの相棒。初めて貰ったポケモンはあのにっくき緑虫と同じく、もう託してしまったが───もう一匹、最初に捕まえたポケモン。

「貴方は自分のことだけでなく、自分のポケモンを見て悔しいと思えているわ。その年齢で、大したものね。………私は無理だった。過去は変わらないし、過去を否定することはその上に積み上げてきた今を否定することだから、後悔をしようとも思わない。だからこそ、今を大事に───負け続けても、悔しく思えている貴方なら、きっと出来るわ」

 だって───どれだけ日が沈もうとも、どれだけ夜が長くとも、夜明けは必ず訪れるのだから。

 横を向いて微笑む。涙の跡を指先で擽り、額を突く。
 ▼ 8 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:04:35 ID:lp2Gfh3. [8/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 リーグのスタッフなんてしていれば、敗北に苦しむトレーナーの顔は何度も目にする。いや、昔トレーナーとして活動していた頃はその顔を作っている側だった。勝負である以上、手を抜くつもりも、同情するつもりもないが………かつての自分と同じ轍を踏ませたくはなかった、一種の親心とでも言うべきもの。そして、仕事の一環、メンタルケア。そう自分に言い聞かせて、懐から袋を取り出す。

「ハッピーバレンタイン、チャレンジャーさん。貴方に、太陽と大地の導きがありますように」

 中身は………言うまでもないだろう。

 努力を続ける人には、それに見合った報酬を。それなりに生きてきた人間として、先輩としての責務だ。

「うん………ありがとねー、お姉さん」

 声は小さかったし、まだ少し震えていたけれど。

 それでも───チャレンジャーは、勇気ある少年は、漸く笑った。
 ▼ 9 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:05:07 ID:lp2Gfh3. [9/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「………先輩って、たまによくわからないこと言いますよね。何ですか、それ。新しいポエムですか?」

 やっぱり言わなければ良かった。心の中で呟き、女は溜息を吐いた。

 別にポエムを読んだわけではないのだが。あくまで思ったことを包み隠さず、励ましになるように言っただけだというのに、何故そうなるのだろうか。額に手を当て、手元のクリアファイルを閉じる。今日やるべき仕事は終わった───明日一日は暇になり、リーグが終了してから再び忙しくなるだろう。

「まあ、貴女に何を言われようとも過ぎたことだから気にはしないけど。でも、その癖は治した方が良いわよ? 相手に関わらず、発言に遠慮というものがない。不快な想いをさせることもあると理解しておきなさい」

「先輩に言われたくないですね、はい。遠慮がないのは同じじゃないですか。しかも相手の心情を理解した上で心を抉る言葉も平気で使うからタチが悪いですし」

「シャワーズ───」

「調子に乗ってすみませんでした」

 よろしい。満足気にボールを撫でる。妙な印象を持たれているのならそれを利用して脅す………中々に愉快である。次に都合の悪くなった時はこうするとしようと女は心に刻んだ。
 ▼ 10 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:05:41 ID:lp2Gfh3. [10/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「………そういえば、いつも着けてるペンダントどうしたんですか? ほら、エメラルドグリーンのあれ」

「さあ、どうしたのかしらね」

 首を傾げて尋ねる後輩に、微笑んで返す。秘密は秘密だからこそ───などと言うつもりはないが、これは秘密のままの方が良いだろう。………とは言っても、秘密のままで終わるかはわからないが。

「もしかしたら………かもしれないわよ?」

 頭上に疑問符を浮かべている後輩を尻目にそう呟き───目を閉じた。今日はここに泊まるとしよう。今から個室に戻るのは少々面倒だし、スタッフルームの方が客席には近い。良く見える場所を確保しておきたいという気持ちもある。

 女は笑う。

「さて、見せてもらおうじゃない───貴方の努力の成果を、ね」

 笑い、椅子に深く座り直す。楽し気な心を隠そうとせず、腕を組み、最終チェックに精を出しているであろうハウの姿を想像し───その意識を、闇に落とした。
 ▼ 11 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:06:25 ID:lp2Gfh3. [11/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
『ブースター、戦闘不能! これでハウ選手の残るポケモンは二匹、どう巻き返すぅ!?』

 申し訳なさそうな顔をして、ブースターがボールの中に戻っていくのが見えた。実況の通り、残りのポケモンはあと二匹。それに対し、チャンピオンの少年───ヨウのポケモンは残り三匹。状況は劣勢と言えるだろう。

 今回のリーグでヨウの手持ちとして登録されているポケモンはジュナイパー、アシレーヌ、ガオガエン、ジャラランガ、ミミッキュ、ジバコイル。この内今倒れたブースターの奮闘もあり、ジュナイパーとミミッキュ、ジバコイルが瀕死に追い込まれている。

 対するハウが登録しているのはアシレーヌ、アローラライチュウ、ケケンカニ、オンバーン、ケンタロス、ブースター………そして控えの二匹。ポケモンリーグでは予選・本戦で一匹、四天王戦からは加えて二匹目の控えの登録が許可される。傷の治療は可能でも、バトルによる根本的な疲労や精神的ダメージは対処が困難であること、そしてチャレンジャーであるが故の特権だ。現在、控えは一匹だけ───ワルビアルのみが明らかになっていて、選出されているポケモンは既に瀕死になっているアローラライチュウ、ケケンカニ、ケンタロス、ブースターの四匹と、ダメージこそあるが倒れてはいないアシレーヌまでが確定している。
 ▼ 12 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:06:44 ID:lp2Gfh3. [12/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 あと一匹───その一匹で、勝負が決まると言っても過言ではない。まだ見せていないカード。既に公開した手札か、逆境を覆せる、まだ見せていない切札か。ブラフか、それとも消耗を抑える為にギリギリまで出していないのか。チャンピオンが、観客が、実況が。殆どの者が固唾を呑んで見守っている。

 だが………苦境だというのに、ハウは笑っていた。その手に握られたモンスターボールはどこか年季の入ったもののように見受けられ、ところどころ色が剥げている。どう見ても、今の世代の少年が使うものではない。

「そう、それで良いのよ。力が足りないのなら、まずはどこからでも───力を持って来て、扱えるようにすれば良い。トレーナーにとって、『使う』のは最も重要な技術の一つ。恥じることなんて何もないし、恐れる必要もない」

 余計な恐れなど無用。女はトレーニングに付き合った際に語った言葉を反芻させ、まずは勝ちたいと願った少年の雄姿を見据える。
 ▼ 13 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:07:33 ID:lp2Gfh3. [13/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


 揺れる。



 揺れる。



 揺れる───澄んだ翡翠の光を纏ったペンダントが揺れる。


 ▼ 14 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:08:10 ID:lp2Gfh3. [14/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「………おれ、負けたくないんだ。君に負けたくない! だから───力を貸してー!」

 光を纏い、ポケモンが現れる。

 丸みを帯びた、しかし限界まで鍛えられており凛々しい容姿。黄と紅のトサカは雄々しく逆立ち、強靭な翼は羽搏くだけで暴風を生む。

 そして───その体躯とペンダントから放たれた一際強い光が周囲を満たし、その姿が変わっていく。

 トサカは中央が紅に染まり、短くなった他の部分とは対照的に長く。翼や尾羽の先端は蒼に………即ち、
 ▼ 15 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:08:45 ID:lp2Gfh3. [15/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



「メガ、ピジョット………!?」



 たった二人を除いて───今それを繰り出した張本人であるハウと女以外がその表情を困惑と驚愕に変える。

 今まで、彼がメガシンカはおろか、ピジョットを使用したデータは存在しない。それどころか、ピジョットの生息地であるカントーに行ったという情報も確認されておらず、彼の友人であり、一時期カントーでの武者修行に出掛けていたグラジオが譲渡したという記録もない。

 それは正しく、未知の恐怖。『絶対にありえない』という無意識下の先入観を逆手に取った、初見殺しの刃。

 想いを乗せたハウの、一人の男としての咆哮に応えるように、メガピジョットが舞う。先手を取り、保有するノーガードの効果で必中となった暴風がアシレーヌの肉体を叩く。軽々と吹き飛ばされ、負傷していたとはいえ一撃で瀕死にまで追い込まれた。

 ただの個体ではないことは明確だった。歴戦の───エリートトレーナーよりも更に上の、四天王級のブリーダーによって育成が施されている。経験も豊富で、ハウが正式に所有しているポケモンではないだろう。誰の目から見ても、年季が違う。
 ▼ 16 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:09:10 ID:lp2Gfh3. [16/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 だが、ヨウは怯むことなく、寧ろ笑って見せた。

「負けたくない………ああ、そうだ。僕も同じだ───君に負けたくない! ずっと競い合ってきたライバルだからこそ、負けたくないんだ!」

 友情を戦意へと変え、出したのはジャラランガ。メガピジョットにもアシレーヌにも弱いが故に、残すのではなく削る駒として先に出したのだろう。だが、そんな考えで目的を果たせる程、このピジョットは───



「舐められたものね。まあ、良いわ。見せてやりなさい───相棒」



 ───女のパートナーは、甘くない。
 ▼ 17 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:09:37 ID:lp2Gfh3. [17/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 彼女が彼をハウに預けた理由は、単純。人は一勝することで、一回の成功で漸く自信を持てる。だが、自信を失いかけている者に取り戻させるのは中々に難しい。なればこそ、大きな『力』を扱わせ、それを裏打ちする実績としてしまえば良いのだ。

 高速で飛翔し、撹乱する。ノーガードによって攻撃を喰らいやすくこそなっており………それを補う為の回避技術。無防備だとしても位置取りにさえ気を付ければ攻撃は当たらず、そもそも超高速で舞うメガピジョットに狙いをつけること自体が困難だ。スケイルノイズで無理矢理にでも攻撃を行うジャラランガだが、それは却って攻撃のチャンスを呼び、オウム返しによる反撃のスケイルノイズが響く。

 確かに、島キングやキャプテン達を差し置いてアローラ初のチャンピオンになっただけの実力はある。だが、技量が同格ならば、どうしても時間の差が浮き彫りになってしまうのだ。鍛えられてはいても、他の地方のチャンピオンと比べて練度が低く、肉体も絞り切れていない。ギリギリオウム返しのカウンターは耐えられたようだが、蜻蛉返りで沈み───最後の一匹。
 ▼ 18 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:10:15 ID:lp2Gfh3. [18/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



 俺は一時の『力』に過ぎない。これはお前達の戦いなのだから、本当の手持ちで決めてみせろ。


 ▼ 19 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:10:31 ID:lp2Gfh3. [19/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 まるでそう言うかのように帰ってきたピジョットに、ハウと………その真意を理解した女が苦笑する。確かにその通りだ。武器に頼った終わり方では示しがつかないし、今回のバトルに参加出来なかったメンバーにも悪い。

「………うん、決めてくるよ───行けー、アシレーヌ!」

  最後に相対するのは、ガオガエンとアシレーヌ。ハウのアシレーヌは最初に貰ったポケモンであり、彼にとっての相棒と呼べるだろう。

 ヨウが敗北を悟ったような顔で帽子を下げ、申し訳なさそうに───しかし最後までやり切らなければならないチャンピオンとしての責務を果たす為に、ガオガエンに指示を出す。
 ▼ 20 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:10:48 ID:lp2Gfh3. [20/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 ハウが装着したZパワーリングから、眩い光が放たれる。ポーズをとり、大量の水が集まっていく。アシレーヌのみが使える奥義───わだつみのシンフォニア。

 ガオガエンの拳が届く前に、その肉体が水の奔流に呑まれて地に伏す。無理もない、相性は最悪と呼べるものであったし、アシレーヌは特殊アタッカーとしてかなり優秀なポケモンであるのだ。タフだから耐えられるなど、そんな都合の良い夢はないのだ。

 歓声が響く。新たなるチャンピオンの誕生を祝福する声だ。それが、たとえ借り物の『力』があったからなのだとしても、自分は勝ったのだとハウに認識させる。

 これで良い。そう小さく呟いて、女は客席を後にした。
 ▼ 21 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:11:20 ID:lp2Gfh3. [21/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 ───深夜、先月と同じ場所に二人。穏やかな風が吹き、身体を冷やす。だが、それは苦痛にはならない。寧ろ熱を持った身体には冷えるくらいだ。

「優勝おめでとう、チャンピオンさん。他でもない、貴方の勝利よ」

 微笑んで女が告げれば、ハウは頬を掻きながら笑った。逞しい褐色の指が触れた部分は、女が涙の跡を擽った場所。偶然か、或いは必然か………無意識がそうさせたのかはわからないし、そもそもそれがそうだと二人は気付いていない。

「素直に喜んで良いのかわからないけどー………でも、うん。ありがとう、お姉さん」

「喜びなさい。貴方にはその権利と義務があるわ。勝者には、勝者だからこそしなければならないことがあるの。どんな勝ち方だろうとも、自分では納得出来なくとも、まずは勝利を誇りなさい」

 先輩としての助言。何か言いたげではあったが、ハウは何も口に出さず頷く。暫く静寂が続き、



「昔話をしてあげる。今の『伝説』、その黎明期の話よ」



 不意に、女が口を開いた。
 ▼ 22 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:11:41 ID:lp2Gfh3. [22/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「少女は劣等感に苛まれていた。周りからすれば飛びぬけて優秀だったけれど、それすらも霞むような二人の少年がいたの。

 夜明けを求めて足掻く度に、格の違いを見せつけられた。酷い話ね、努力すれば努力する程さが広がっていくなんて。

 そしてとうとう、少女は足掻くことをしなくなった。諦め、割り切り、凄腕のトレーナーで止まり、腐る道を選んだ。

 少女は黄昏の中で眠りについたわ。その原因だった二人───それらは、貴方も知っているでしょうね」
 ▼ 23 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:12:35 ID:lp2Gfh3. [23/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
 懐かしむように目を遠くに向けるのは、最早手を伸ばせぬ過去を求める空虚な願望か。だが、その声と表情に苦しみはない。寧ろすっきりしているようにも見えるだろう。

 当然だ。女は心の中で笑う。彼女の語るのは既に区切りを付けた過去であり、そして何よりも───

「彼女に黎明は訪れなかった。でも、貴方は違うわ」

 東の方に顔を向ける。

 薄暗い影の中、それは確かに輝いていた。
 ▼ 24 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:13:25 ID:lp2Gfh3. [24/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



「ほら………夜明けよ」



 とびきりの笑顔。為したのは自分ではなくとも、助言を与えた後輩が夢を叶えたと言うならば………それは確かに誇らしく、喜ばしいものだ。

 ハウもつられて笑う。笑い合う。今何かがあったわけではないが、二人で楽しそうに笑い合う。
 ▼ 25 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:13:51 ID:lp2Gfh3. [25/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「そういえばねー、おれが勝ちたかったのは、もう一つ理由があるんだー」

「へえ? まだ何かあったのね」

 ふとハウが呟けば、女は興味を寄せる。微笑みを浮かべて彼の顔を見据え、話を切り出したその理由が明かされるのを待つ。

「本当はおれも手作りしたかったんだけどー………やっぱり、時間がなくて。さっき買ったものになっちゃったー」

 そして、察した。少し恥ずかし気に身体を動かすその姿は、さながら初々しい乙女と言ったところか。少年なのに。見ている方が恥ずかしくなってしまいそうな可愛らしい姿が、仄かな羞恥と困惑が混ざり合って女の逃亡を禁止する。
 ▼ 26 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:14:17 ID:lp2Gfh3. [26/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「勝ってから渡したかったんだ。ハッピーホワイトデー、お姉さん。おれの為にいろいろしてくれて、ありがとねー」

 彼が取り出した袋の中に入っていたのはマラサダ。どうやらホワイトデー限定のものらしく、商品名は『優しいニガサダ・WDスペシャルバージョン』となっている。………そういえば、以前ハウオリシティを訪れた際に特別なマラサダを発売中だとか書いてあった気がする。キャッチコピーは『白く輝く未知なるマラサダ!? ホワイトデーのお返しはこれ! 全種類対応中!』だったか。

 ………それはつまり、白いカラサダもあるということなのだろうか………?

 ゲテモノの予感しかしないものを想像し、思わず口に手を当てて呻く。そんなものを作って喜ぶか、変態め! 叫びたくなったが、隣にいるのはマラサダが好物で有名な新しいチャンピオン。心の中で留めておこうと女は努力する。
 ▼ 27 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:14:37 ID:lp2Gfh3. [27/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
「………うん、こっちは美味しい。大丈夫」

 手袋に包まれた両手で包み紙を持ち、齧る。ほんのりとした甘みに、ニガサダ特有の苦みがマッチしていた。中はホワイトチョコチップが入っており、これが甘みを齎しているようだ。

「良かったー。どれにしようか迷ったんだけど、お姉さんはこういうのが好きかなって思ったんだ」

「まともな味がするものならなんでも大丈夫よ」

「俺はマラサダならどれもいけるかなー」

 再び笑い合う。そういうことなら、先月渡したものはチョコマラサダにした方が良かったかもしれないと少し後頭部を掻く。

 暫く沈黙。風が止んだことで、マラサダを咀嚼する音だけが微かに聞こえる。そして、ハウが口を開いた。

「結局聞いてなかったけど、お姉さんの名前ってなんて言うのー?」

 言われて気付いた。そういえば、確かに名乗ってはいなかったような気がする。………ということは、リーグスタッフのお姉さん程度の認識だったのだろうか? 女は若干頬を赤く染め、目を逸らしながら、
 ▼ 28 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:15:00 ID:lp2Gfh3. [28/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




「私の名前は───」



 ▼ 29 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:17:54 ID:lp2Gfh3. [29/30] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
http://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=768396

ホワイトデーSS企画に参加しています、というかこれからします。

https://www.evernote.com/shard/s469/sh/6bd93030-d9bd-4c16-8a8b-bd61540416f5/a54542d359271597eceac7b006e00794

こちらは後語りとなっています。それでは、お疲れ様でした。
 ▼ 30 ょめちゃん◆/hP2q7ixBU 18/03/14 21:19:46 ID:lp2Gfh3. [30/30] NGネーム登録 NGID登録 報告
ミスした! 恥ずかしい!
上のURLはレスの区切りのない方ですね。

https://www.evernote.com/shard/s469/sh/20ab7ea5-efe8-4ff4-ba66-ab068f75ceb6/4f348c8c2c2a403b5c73d4e84ee29180

こっちが後語りです。それではもう一度、お疲れ様でした。
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