【ホラーSS】右回りのギギアル【短編集】:ポケモン掲示板(ポケモンBBS)

【ホラーSS】右回りのギギアル【短編集】

1 : ll.0NoLX/s 18/07/12 18:57:51 ID:BqlklSDY 報告
そのギギアルは、実験施設で生まれた。

何の実験をしているかは知らない。
ただ、薬品の香りと生臭さの漂う施設だった。

彼は、施設内の狭い一室に設置されていた。
扉が開けられることは、ない。

彼は、24時間ずっと、監視カメラにより観察されていた。
61 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:05:48 ID:4MZk7MS2 [1/8] 報告
ふと、若者の腕が止まる。

「外に……何かいる」

外を照らしてみても、何もいない。

ざわざわと、草の揺れる音だけがする。

「おかしい、確かに物音がしたのだが……」
62 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:07:20 ID:4MZk7MS2 [2/8] 報告

「……うわっ!!」

なんとなく足元を照らしてみて、若者は驚いた。

赤く光る目が、こちらを見ていたからだ。

「……な、なんだ、おまえかあ」

よくよく見るとそれは、ナゾノクサであった。

「そうか、夜行性だものな」

本来、今がナゾノクサの活動する時間なのだろう。

邪魔すると悪い……そう思ってテントを閉めた。

しかし、

若者は違和感に気付く。

赤い目が、一つではなかったことに。
63 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:11:07 ID:4MZk7MS2 [3/8] 報告
思わず、再び顔を出し、辺りを照らす。

赤い目は、地面いっぱいに広がっていた。

つまり、
それは、全てこちらを向いているということ。

突然、地面がゆれる。
テントがゆがんでいる。

草原全体が、不気味に揺れ動いている。
64 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:15:24 ID:4MZk7MS2 [4/8] 報告
若者は転ぶ。

テントの底から、草が突き破って出てきた。

持ってきた木の実が、絡め取られ、干からびてゆく。

「干からびる……まさか」

若者は、ようやく理解した。

自分の調べていた、謎のポケモンの正体は、ナゾノクサの群れだ。

そして、ここは草原などではなく、

数万ものナゾノクサの群れ、その中心。

しかし、理解したところで、もう手遅れだった。
65 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:16:06 ID:4MZk7MS2 [5/8] 報告
真下から、無数の草が襲ってくる。

ライトが折られた。

直後、暗闇に浮かぶのは、

「目、目が、赤い目が」

若者は飲み込まれた。
66 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:23:06 ID:4MZk7MS2 [6/8] 報告


夜が明けたとき、残っていたのは、残骸のみ。

干からびた死体。

――やがて、骨まで土の養分になるだろう。

折れたテントの骨組み。

――やがて、ここを訪れた人間への警告になるだろう。

若者の残したメモ。

――これは、ぼろくずになってしまったようで、もう読むことはできないだろう。

草原は、何事もなかったように揺れていた。
67 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:23:56 ID:4MZk7MS2 [7/8] 報告
自然には、驚くべき力がある。

たとえ、どんなにちっぽけで、弱く見えようとも。

人間が知るのは、そのたった一部なのだろう。


―――終―――
68 : ll.0NoLX/s 18/07/19 23:32:34 ID:4MZk7MS2 [8/8] 報告
〈二人で〉


私の今日までの人生は、サーナイトと共にあった。

いくじのない私を、彼女は優しく、時に凛々しく、支えてくれた。

それはもう、ラルトスの頃から。

そして今日、私は結婚する。

いやもちろん、人間の女性と。

妻となる女性は……清らかで、繊細で、美しい。

それはもう、私には不釣り合いなくらい。

こんな幸せを手に入れられたのも、サーナイトが支えてくれたから。

ありがとう、サーナイト。

そして妻よ。

これからは、共に歩んでいこう。
69 : ll.0NoLX/s 18/07/20 06:22:55 ID:Z5vwZ6Hw [1/6] 報告

「小さい頃は、サーナイトに恋をしかけたこともあったなぁ」

「え、サーナイトに?」

小さな我が家で二人、食卓を囲み、懐かしい話をする。

サーナイトもキッチンから顔を出す。
皿洗いをしてくれている途中だ。

「なまじ人間に近いと、大変なんだよ」

「でも、ポケモンと人間は結婚できないでしょ」

「まあ、そうだよな……あれ、もしかして怒ってる?」

「しらない」

そう言いながら、妻は黙々とスープをすくう。

思わず、笑みがこぼれた。

この、"嫉妬"というかわいらしい感情も、人間特有のものだろう。

「悪かったよ。お前が一番だ」

「ふふ」

私たちは笑いあった。
70 : ll.0NoLX/s 18/07/20 06:25:08 ID:Z5vwZ6Hw [2/6] 報告
「う……」

突然、妻は頭をおさえる。

「大丈夫か、また頭痛か」

「うん、平気……」

妻の顔は青ざめていた。

「さなぁ」

キッチンから、サーナイトが駆け寄ってきた。

「まって、せめて、全部食べてから」

妻の言葉に、サーナイトは静かに首をふる。

「……いつもごめんね、サーナイト」

妻はサーナイトに支えられて、寝室へ行ってしまった。

一人になったテーブル。

「信用できたもんじゃないよ、医者なんて」

思わず、一人言が口をついた。
71 : ll.0NoLX/s 18/07/20 06:28:53 ID:Z5vwZ6Hw [3/6] 報告
結婚してから、妻は体調が良くない。

ひどい時は1日中、寝たきりになってしまうこともあった。

それなのに、医者は口をそろえて"病気ではない"と言う。

看病も、家事の代わりも、やってれたのはサーナイトだった。

私は、医者などよりも、サーナイトを信頼している。

そして、妻を誰よりも愛している。

どんなに苦しくても、一緒なら乗り越えられる……私はそう信じている。

だから……頼む、早く治ってくれ。
72 : ll.0NoLX/s 18/07/20 06:38:24 ID:Z5vwZ6Hw [4/6] 報告
………………。

もう妻は、3日も寝たきりになっていた。

その、3日目の夜。

妻の容態が急変した。

サーナイトの看病も、私の呼びかけもむなしく、妻はどんどん弱ってゆく。

妻が、私の手を握った。

「愛してる」

「やめてくれ。私もだ、愛してる。……だから」

私は、妻の手を握り返した。
どうか離れてしまわないように、目を閉じて祈った。

……祈りは、とどかなかった。
73 : ll.0NoLX/s 18/07/20 06:41:49 ID:Z5vwZ6Hw [5/6] 報告
目を開いたとき、妻は息をひきとっていた。

手のひらがこぼれおちた。

妻は、亡くなっていた。

私は呆然としてしまった。

私の、最愛の妻。

目の前の出来事を信じたくなかった。

また、二人で……

「さな」

サーナイトに優しく抱きしめられて、私は初めて泣いた。
74 : ll.0NoLX/s 18/07/20 06:46:43 ID:Z5vwZ6Hw [6/6] 報告


……あれから、半年。

空っぽの椅子は、まだ残してあるまま。

しかし、私はようやく、元気を取り戻しつつある。
サーナイトのおかげだ。

妻のためにも、いつまでも悲しんでいるわけにはいかない。
もちろん、サーナイトのためにも。

今日もサーナイトは献身的に尽くしてくれる。

美味いスープだ。

妻よ、これからも私の心にいてくれるか。
また、共に歩みだそう。
75 : ll.0NoLX/s 18/07/20 07:18:58 ID:BKPQ05bI [1/5] m 報告
ある日、掃除をしていると、妻の日記を見つけた。

それはなぜか、戸棚の奥に放られていた。

私は奇妙に思い、中身を開いた。

…………。

日記は、びりびりに破かれていた。

特に、私たちが出会った日と結婚した日のページは、念入りにねじ切られている。

私は日記を閉じた。

背筋が凍っている。

何か、見てはいけないものを見てしまったような気分だった。
76 : ll.0NoLX/s 18/07/20 07:28:11 ID:BKPQ05bI [2/5] m 報告
当然、考えざるをえない。

『いったい、誰が?』

そもそも、日記を見る機会があるのは、妻と、私と……

「……サーナイト?」

ふと、恐ろしい想像がよぎった。

妻の看病をしていたのは、ずっとサーナイトだった。
私は、その方法について詳しく知らない。

『信頼』

もし、超能力をつかえば妻の脳に細工することも……

しかし、そんなことをしても、

『ポケモンと人間は結ばれない』

……聞いたことがある。
サーナイトたちは心が読めると。

『なまじ、人間に近いから』

私の心は、彼女にどう映ったのだろうか。

『嫉妬』

『人間』

頭が痛い。

吐き気がする。

『二人で』

私は、妻は……
77 : ll.0NoLX/s 18/07/20 07:31:31 ID:BKPQ05bI [3/5] m 報告

「さなぁ」

思考が、止まった。

サーナイトが私を、後ろから抱きしめていた。

温もり……そして、どこか冷たさ。

私は、彼女を突き放すことすら出来ず、

日記は、手のひらからこぼれおちた。
78 : ll.0NoLX/s 18/07/20 07:34:03 ID:BKPQ05bI [4/5] m 報告

「さな」

「そうか、そろそろ夕食の時間だったな」

私たちはリビングへ降りた。

全て、見なかったことにして。

……今さらどうしろというのだろう?

長い時間が過ぎた。

証拠など何もない。

そして、サーナイトは私にとって、"なくてはならない存在"だ。

昔も、今も。

そう、私の全ては、サーナイトのおかげだった。

今さら、思い出も、家族も、傷つけたくない。

なら、いっそ、すべての疑問は、うやむやのまま……

テーブルには、すでに夕食が並んでいた。
79 : ll.0NoLX/s 18/07/20 07:35:38 ID:BKPQ05bI [5/5] m 報告
「いつもありがとう。……いただきます」

いつもの笑顔を前に、スープを飲み込む。

今日も、気持ちが悪いくらいに、美味い。

私はこれからも歩んでゆくのだろう。

サーナイトと、二人で。


―――終―――
80 : ーフのいしサワムラー 18/07/20 14:30:21 ID:gHsgxYK. 報告
ふぅ...
81 : ガルカリオ@ズリのみ 18/07/20 15:51:33 ID:e/8IwFJw 報告
毎回安定して強すぎ
素晴らしい
82 : グマラシ@グラウンドメモリ 18/07/20 16:10:09 ID:gP3Yayio m 報告
本当に好き
支援
83 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:01:41 ID:1pmAWj0w [1/11] 報告
真夏のある日。

都会に、一匹のマグマッグが現れた。

彼は、歩道を這いずり、住宅街を這いずり、公園を這いずり……
たまに引火して、ボヤ騒ぎを起こした。

自然のない都会にとって、あまりにも珍事件である。
84 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:02:43 ID:1pmAWj0w [2/11] 報告
しかも彼は、毎日現れた。
いつも日中に、這いずり回るのが目撃された。

どこから来たかも分からない。
どこへ消えるのかもわからない。

追跡装置も、炎の体にはつけられない。

謎のポケモンの話題は、街を大いに盛り上げた。

……良くも悪くも。
85 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:08:46 ID:1pmAWj0w [3/11] 報告
街の住人の意見は、

「害をおよぼすポケモンだ! すぐにでも駆除すべきだ!」

「それはひどい! 保護すべきだ! あんなに愛らしいじゃないか……」

真っ向から、二つに分かれていた。
86 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:16:51 ID:1pmAWj0w [4/11] 報告
そんなある日、テレビにて学者がある一説を唱えた。

「マグマッグの発生には、都市の"熱帯化"の影響が考えられます」

マグマッグは、熱い場所に"自然発生"のような形で現れるポケモン。

学者は、そもそもの原因が都市にある、という"可能性"を述べた。
87 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:18:15 ID:1pmAWj0w [5/11] 報告
この"可能性"とやらは、街の人々の間にあっという間に広まった。

「街にやってきたのではなく、街から出現したんだって?」

「ありえるぞ。だって日中にだけ現れるんだ」

「原因は政府だ!! 無駄な開発を続けたせいだ!!」

「じゃあ、都市の地下には、無数のマグマッグがいるの?」

「街はいずれ、沢山のマグマッグに飲み込まれてしまうのでは……」

うわさは、尾ひれを付けて広がる。

「そういえば、地球自体が段々暑くなっているらしいぞ」

「……それって」

「どこにも逃げ場はない、ってこと?」

「地球は、いったいどうなってしまうんだ?」
88 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:19:24 ID:1pmAWj0w [6/11] 報告
これは、ただのうわさ話。
しかし、街はあっという間にパニックになった。

どこかへ逃げ出す人々。
反政府活動を行う人々。
マグマッグを無理に駆除しようとする人々。

マグマッグは追い回され、人前に姿を見せなくなる。

それでも、目撃情報は絶えなかった。

「路地裏で見かけた」

「工業地帯に隠れてた」

「公園にいた」

「テレビ塔の頂上にいた」

騒ぎは留まることを知らない。

不安の中で、人々は粗暴になる。
暴徒になる。

暴動、犯罪……。

都市はもはや、この世の地獄。

このままでは、世界にすら影響を及ぼしかねない。

政府は、最後の手段に出た。
89 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:42:17 ID:1pmAWj0w [7/11] 報告


……1ヶ月ほど経っただろうか。

街は一面の焦土……。
すでに捨てられていた。

悲劇は、いったいどこまで広がったのだろう?

多くの人々が死んだ。
多くのポケモンが死んだ。

街の中心には、爆撃の跡。
放射能が、未だに街中を覆っている。

かつての都市の面影はもう、ない。
90 : ロマツ@グラスシード 18/07/23 21:45:46 ID:Att2jz8E 報告
ガチ天才
支援
91 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:50:26 ID:1pmAWj0w [8/11] 報告

……そんな廃墟にも、唯一、ポケモンがいる場所があった。
それは、街のはずれの工業地帯。

何十年も前から捨てられていた廃工場の隅に、一匹のマグマッグがいた。

彼女は、生まれつき体が弱く、熱源もないような場所を動き回ることは出来ない。

彼女は、息をひそめるように生きていた。
92 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:53:07 ID:1pmAWj0w [9/11] 報告
そこへ、もう一匹マグマッグがやってくる。
あの、街を騒がせたマグマッグだ。

彼はどうやら、彼女のために、エネルギーを体中にたっぷり含んできたらしい。

そのエネルギーの燃料は、紙くず、オイル、生ゴミ……
どれも、街から集めたもの。

彼は、彼女によりそい、自らのエネルギーを分けてやった。

彼女も、幸せそうに身をあずける。

エネルギーを与え終わっても、二匹はずっと寄り添っていた。
93 : ll.0NoLX/s 18/07/23 21:55:45 ID:1pmAWj0w [10/11] 報告

マグマッグがなぜ街に現れるようになったのか。

それを人間が知ることは、ないだろう。

ここは二匹だけの世界。

荒れ果てた空の下で、寄り添う二匹のもとに。

時間はゆっくりと流れていた。


〈都市の中のマグマッグ〉

――――――――――終――――――――――
94 : ll.0NoLX/s 18/07/23 22:03:28 ID:1pmAWj0w [11/11] 報告


――――突然だが、この話にて、語りを終えることとする。

恐怖とは何も、いわゆる『あの世』のような異世界にだけ潜むものではない。

日常の視点を"少し"変えれば、そこに恐怖は潜んでいる。
あなたのそばにも。

ふとした時に、さがしてみるのも良いかもしれない。

ただし、戻れなくならないようにだけは、気を付けろ。

それでは、よい人生を。



――――――――― ―――― ――― ―― ― ― ――― ―― ― ― ― ― ―


95 : タグロス@すごいつりざお 18/07/23 22:05:57 ID:V7SgqMRU 報告
それぞれの話がよく練られていて面白かったしぞっとした

乙 です
96 : ュウコン@ロックメモリ 18/07/23 22:14:42 ID:rpQExkF6 m 報告
終わったのか……またスレ立てて欲しい
97 : ツロイド@しゅんぱつのハネ 18/07/23 22:36:43 ID:ld6QHs6c 報告
星新一のポケモン版
乙でした
次回作も期待してます
98 : ツケラ@そうこのカギ 18/07/24 07:31:01 ID:TIFEmHOA 報告
お疲れ様です。
99 : スモウム@りゅうのキバ 18/08/09 16:13:42 ID:Gr4M7JP6 m 報告
乙!
100 : んせきほうイシズマイT 18/08/13 22:59:04 ID:9Llsz/fE m 報告
>>97
これ!
ありがとう!