【SS】微笑みの怪盗:ポケモンBBS(掲示板) 【SS】微笑みの怪盗:ポケモンBBS

  ▼  |  全表示133   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【SS】微笑みの怪盗

 ▼ 1 ェード◆nfYyot98RE 18/09/14 21:50:18 ID:DPc.hpuQ NGネーム登録 NGID登録 報告
遠くでサイレンの音が聞こえる。

……事故か何かだろうか?
この街にしてはやけに騒がしい。

男はぼんやりと思考を巡らせつつ、店内の紳士淑女に営業スマイルを向ける。

まばゆい光を放つ宝石類。
思わず目が止まる程の細かな装飾が施されたジュエリー達は、ショーウィンドウからも十分にその価値を見せつけていた。

「お客様、そちらのパールをお買い求めですか?」

「……」

近くにいた背広の男はこちらに目もくれずにショーウィンドウを見続けている。
 ▼ 94 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:15:59 ID:R1CkMNkA [1/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
ブツリ、と通信が途切れる。
通信機を持つ警備員は……笑顔だった。

ニタニタとしたいやらしい笑顔の横、身ぐるみを剥がれた同程度の背丈の男が眠っていた。

さいみんじゅつにかけられ、強制的な眠りに落ちているのだった。
犯人は警備員の肩で翼を広げゆったりと通信を聞いていた。

「さて……こちらも動こうとしようか」

ドンカラスを肩に乗せ、通信機からロトムに出るよう命じた警備員……に扮した怪盗が二体をボールへと戻し、新たに出てきたフーディンが身ぐるみ剥いだ男をサイコキネシスで浮遊させる。

目先の距離にある『名もなき異本』から去る。
 ▼ 95 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:18:00 ID:R1CkMNkA [2/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「あった……!」

肩で息をする助手が見る先、その遠くには……先程まで怪盗が近くにいたであろう『名もなき異本』とそれを覆う分厚いガラスケースがあった。

助手は深呼吸をし、黒く光るボールからポケモンを出した。

「ギルガルド、ゴーストダイブです」

ギルガルドは影となり大理石の床へと潜り込む。
『名もなき異本』を展示するガラスケースの周りには目には見えない赤外線センサーが張り巡らされていたが、それらは怪盗らも承知していた。

完成に影と一体化したギルガルドはセンサーを潜り抜け……ガラスケースの目の前に出現した。
 ▼ 96 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:19:33 ID:R1CkMNkA [3/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
ガラスケースに先程と同じ要領で手を潜らせる。
しかし、ギルガルドの手は弾かれた。

するとギルガルドは目の前の『異本』よりも助手を注視した。

その助手が右手を高く上げ……そして振り下ろした。

合図を受け、その自身の切っ先を振り下ろした。
ガラスの甲高く割れて砕ける音がすると、『異本』を持ち助手の元へと急ぐ。

ガラスケースを破壊したことで耳を劈くサイレン音が鳴り響いていた。

「サーナイト……!」

ボールから出て待機していたサーナイトがテレポートでギルガルド共々その場から消えた。
 ▼ 97 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:22:30 ID:R1CkMNkA [4/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「サイレン……ガラスが割られたのか」

白髪混じりの刑事が呟く。
後ろでは小太りの中年の刑事が通信機片手に冷や汗をかいていた。

「セキュリティシステムが復旧しましたぞ……GPSはどうですかな?」

橙色の背中上で危なげなバランスの中パソコンで『異本』のGPS座標を確認した。
彼らはそらをとぶで移動している最中だった。

「問題なく作動している、奴らのテレポート先は……」

「屋上、空を飛ぶつもりか……急ぐぞリザードン!」

「グォーッ!」

「もしもし、ハンサムさん? こちらハウンド03、一部がいる屋上へ向かいますぞ!」

彼ら二人組を乗せたリザードンが勢いを増して屋上へと羽ばたく。
吹き飛ばされないよう二人の男が必死にしがみついた。

 ▼ 98 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:24:19 ID:R1CkMNkA [5/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ガラスが割られた……現場へ急げ!」

警備員と刑事の集団が待機していた上の階から揃って下へ降りてくるところだった。

近づくにつれて耳を貫くサイレンがその音の刃を大きくしていく。

集団は目的の博物館、地下二階へと到着する。

「みんなご苦労! 私がハンサムだ……くそ、奴に情報を撹乱され遅くなってしまった」

後ろから声が投げかけられた。
この暑い時期に似合わぬダークブラウンのロングコートを着た男はぶつくさと怪盗への恨み言を言っていた。

後ろにいた隊員達がその言葉を聞き、敬礼する。

その男……国際警察機動捜査員のハンサムは一団を見やり、頭に装着したレンズ機器を弄り次にはこう言った。

「ほう……やはり紛れこんで来たな?」
 ▼ 99 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:25:06 ID:R1CkMNkA [6/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「どういうことです……!?」

一番後ろにいた警備員が尋ねる。

「……私から見て前から四番目、そいつだけ体温が異常に高い」

一団がどよめき、ハンサムの前……後ろから四番目の隊員に視線が集中する。

「……!」

集団から懐疑的な目を向けられたのにその男は何も言わなかった。

「……そいつがゾロアークだ! 捕まえろッ!」

ハンサムが叫ぶ。
後ろから四番目の隊員は目を見開き、ぎゅっと尖らせ自らの爪を噛んだ。
 ▼ 100 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:28:14 ID:R1CkMNkA [7/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「来た、屋上……!」

テレポートに成功した助手達。
残るボールに手を掛けたその瞬間だった。

「……行かせはしないぞッ!」

「グオォオーッアッ!」

空から現れた橙色のポケモンに炎の牽制を喰らう。
ギルガルドとサーナイトが挨拶代わりの攻撃をかわす。

「……リザードン」

「よう、お嬢ちゃん……いや元ご令嬢と言った方がいいな」

「よっととと、全く社長令嬢が怪盗の仲間とは……最初は人質を疑いましたぞ」

リザードンから降り立つ二人の男。……二人の刑事と助手は対峙していた。
 ▼ 101 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:30:19 ID:R1CkMNkA [8/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「おじさんから悲しい報せだ……そいつはダミーだ、そしてそいつが君の居場所を知らせてくれた訳だな」

二人組の白髪混じりの方がギルガルドの持つ『異本』を指さし、貫禄ある語りで助手達に迫る。

じりじりと後ずさる助手達。

「ええ、そうでしょうね……なんたって“元”お父様の所持品ですから」

「娘はかなりあっさりと棄てたようですがなァ?」

ギルガルドから『異本』のダミーを受け取り、空へと投げる。
パラパラと空白のページが風でめくれる。

「丁度いいので誤解を解いておきますが……私は「娘」でも「元ご令嬢」でもありませんよ……私は!」

息をのみ、瞬き、目を見張り……そして声高に言った。

「怪盗の助手です」

指を鳴らし出てきた最後のポケモン……ジヘッドが『異本』のダミーを燃やし、塵へと変えた。
 ▼ 102 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:32:09 ID:R1CkMNkA [9/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
『もしもし、ハンサムさん? こちらハウンド03、奴らの一部がいる屋上へ向かいますぞ!』

「了解した……応援を向かわせる」

小太りした刑事からの無線を聞き、ハンサムはその場にいた警備員達おおよそ半分に屋上へ向かうよう指示を出した。

降りてきたばかりの警備員が半数程度今度は登っていった。

残った隊員達とハンサムは現場、フェイクの『異本』があった場へと向かう。

「……おい、大丈夫か」

遠目に割られたガラスケースが見える。
そのスペースの真ん前に横たわる警備員の姿を確認した。腰元に通信機が見当たらない。恐らくは初めにここを警備していた者であるらしい。

警備員は眠っているようで、強めに揺さぶるが起きる気配がない。

「催眠か……やはり別れたらしいな」
 ▼ 103 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:33:08 ID:R1CkMNkA [10/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ハンサムさん……我々はどこに向かうべきでしょう」

一同が立ち尽くしていると警備員の中から目立つスーツの男……若い刑事が尋ねた。

「奴らの中核……「怪盗ファントム」がどこかにいるはずだ、ゾロアークを使い呼び出すか……?」

ハンサムが難しい顔つきをさらに難しいものにする。

「あの、例の本は無事で……?」

一人の警備員が唐突に尋ねる。

「ああ……大丈夫だ私の手元にある、奴らの犯行時刻と日を読んでの危険な賭けだったがな……今屋上にあるのはダミーだ」

そう言ってハンサムはポケットの四角い影に触れる。
おおっ、と場が賞賛に湧いた。
 ▼ 104 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:34:43 ID:R1CkMNkA [11/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「うっ……」

周りが湧く中眠っていた警備員が起き上がった。周囲が驚く中、申し訳なさそうに謝り倒した。

「すみません……してやられました」

大丈夫か、と周りの警備員から支えられながら彼は語る。

「ですがハンサムさん、奴らの通話を薄らと聞きました……三階で妨害工作してそらをとぶで逃げるつもりです」

「なるほど、第三派がいたか……では第四部隊は三階に至急……」

指示を言いかけたハンサムがハッとした顔で硬直する。三階へと向かい始めようとしていた隊員達がその顔を見て動きを止めた。
その難しい顔つきにさらに青筋を立てていた。

「貴様……なぜ最初に私を“警部”と呼んだくせに今は“ハンサムさん”なんて呼ぶ?」
 ▼ 105 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:35:35 ID:R1CkMNkA [12/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「何故だ? あれ程強く眠っていて今のやり取りを聞いていた……なんて事はあるまい、答えてみろ!」

「それは……」

「それは?」

周囲がどよめきハンサムはその警備員に睨みを利かす。

緊張し強ばった警備員の口元が歪む。

ハンサムの目に映るそれは……笑顔だった。
卑しくも憎々しくもある、だがしかしそれは微笑みであった。

「この僕こそが怪盗だからさ……“ハンサムさん”」

警備員の服を脱ぎ捨て、ゾロアークに目と口元がよく似た男が現れた。

ハンサムが反射的にその男から飛び退く。
 ▼ 106 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:36:24 ID:R1CkMNkA [13/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「貴様……! やはり現れたな!」

ハンサムが目の前に現れた怪盗に睨みを効かせる。
周りの警備員と刑事がモンスターボールに手をかけているのが見えた。

「フン……犯行時刻まで読まれていたのは予想外だったがオールオッケーだ! 僕は『異本』の在り処が知りたかった、ありがとうよハンサムさん」

「例え知られたとしても……ゾロアークのいない貴様には何も出来まい!」

「さて……それはどうだろうか」

手袋を付けた指で器用にも音を鳴らした。

「ゾロアーク、どろぼうだ」
 ▼ 107 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:37:16 ID:R1CkMNkA [14/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
ざわめく集団をかき分け、一際素早い挙動で……その黒い影はひらりと現れた。

「なっ……何だと!?」

「ゾロアーク……!? 何故!?」

「あの予備動作……! クソッ、みがわりと幻影を見せる能力だな……!?」

ハンサムが推測を言い放つと、辛酸を舐めた顔つきでぎりりと怪盗を睨む。

「ほほう……やるじゃないかハンサムさん、流石は国際警察と言ったところか」

そして黒い影……ゾロアークが華麗な身のこなしでハンサムのポケット内を狙い、電光石火の勢いで駆け抜ける。

勢い余って怪盗からは少し離れてしまったが……その手には確かにあの『異本』があった。
ゾロアークがしたり顔で掲げる。

「おい……ッ! このクソッ! アイツを押さえ込め……!」
 ▼ 108 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:38:04 ID:R1CkMNkA [15/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
ゾロアークの手元にある書を見て怪盗は笑みを強めた。

「貰った……確かに本物を!」

「全員ポケモンを繰り出せ……! 何としてもゾロアークを捕らえろ!」

ハンサムの必死な叫びが轟く。

「クロバット、くろいまなざしだ!」

「ニョロボン……あの黒いやつにじごぐぐるまだ」

「出てこいッオーベム!」

「バリヤード、マジックルーム!」

ハンサムの言葉を聞いて、警備員達のモンスターボールから次々とポケモンが現れる。

「出てこいお前達、帰還作戦決行だ」

怪盗が一気に三つのボールを空へと投げる。ボールからポケモン達が降ってきた。
 ▼ 109 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:39:27 ID:R1CkMNkA [16/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「サーナイト、ムーンフォース……ギルガルドはゴーストダイブ! ジヘッド、あくのはどうです!」

助手が続けざまに周りの三体へと指示を出す。
ギルガルドは影と化し屋上に溶け込んだ。サーナイト、ジヘッドがリザードンに向かい攻撃をした。

「ほう……やり合う気か、いいだろう行けレントラーッ!」

「頼みましたぞドサイドン!」

白髪混じりの刑事から新たにレントラーが、小太りした刑事の手持ちからはドサイドンがそれぞれ場に出る。

リザードンを庇うように飛び出たドサイドンがムーンフォースとあくのはどうを腕で受け止め、膝を着く。
がしかし、倒れずにその堅牢さを助手達に見せつけた。

「ならばこちらも本気でいくまで……サーナイト!」

助手が取り出したのは大きな水晶の着いたペンダント。そしてサーナイトの腕輪に着いたサーナイトナイト。
二つが共鳴し合い眩い光を帯びた。

サーナイトが激しい光に包まれる。
球体状にサーナイトを包んだ光はやがて放射線に散り、姿を変貌させた……メガサーナイトがその美しくも凛々しい姿を見せた。
 ▼ 110 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:40:18 ID:R1CkMNkA [17/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ほうメガシンカか……相手にとって不足なしッ! 」

白髪混じりの刑事が高らかに言い放つ。

「リザードンかえんほうしゃ、レントラーワイルドボルトだ……サーナイトを狙え! テレポートなんてされたら厄介だからな」

「ですな……ドサイドン、アイアンヘッドでサーナイトを狙いますぞ」

リザードンが飛び立ち、レントラーが自身に激しく電撃音を響かせる電光を纏う。ドサイドンが重い足取りでメガサーナイトへと近づく。

「メガサーナイト……まずはドサイドンを集中砲火です、ジヘッドはかえんほうしゃを打ち消しましょう」

メガサーナイトは頷き、先程と同じく月の光を帯びたサイコパワーを相手へ浴びせる。
アイアンヘッドを撃ち込むために接近してきたドサイドンへど真ん中、先ほどよりも威力の上がったムーンフォースが命中する。ドサイドンが崩れてアイアンヘッドを外した。

上空からひらりとリザードンが現れる。
口から灼熱の放射を噴出しメガサーナイトを狙ったが、ジヘッドのあくのはどうにこれを阻止された。
 ▼ 111 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:41:19 ID:R1CkMNkA [18/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「上手く凌いだようだが……これは避けられまい!」

レントラーが電光石火の速さで激しい雷光と共に無防備となったメガサーナイトに突っ込む。

「サナ……!」

レントラーもろとも吹っ飛ばされたメガサーナイトが小さく呻き声を上げた。
メガサーナイトの背後、攻撃を終えたレントラーが反動で姿勢を崩した。

「ギルガルド!」

助手が声を上げた。

ジヘッドと対峙していたリザードンに影の塊が迫る。
影から具現したギルガルドが鋭利なる一閃でリザードンを地に落とす。

リザードンは再び羽ばたこうと身体を上げたが、叶わず意識を手放した。

「チィッ……!」

白髪混じりの刑事がリザードンをボールに戻しながら舌打ちをした。
 ▼ 112 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:43:40 ID:R1CkMNkA [19/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「もう一度ワイルドボルトだ……!」

「アイアンヘッド、サーナイトへ」

レントラーが身体に再び電光を溜め始め、ドサイドンがその巨体で頭突きの予備動作を取りだした。

「キングシールド!」

メガサーナイトを庇う形でギルガルドが素早く盾を自身に装填し、二体の攻撃を弾いた。
キングシールドの効果で接近した二体の攻撃をガクッと下げる。

「くそうッ!」

「やりますなァ……!」

刑事二人組から苦い言葉がこぼれる。
 ▼ 113 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:44:30 ID:R1CkMNkA [20/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「こごえるかぜ……そしてあくのはどう!」

メガサーナイトが冷たい冷気の全体攻撃を発した。
ドサイドンはこれまでのダメージの蓄積、そしてこの攻撃が急所に当たり、その堅牢さは砕けた。

辛うじて立っていたレントラーだが、ワイルドボルトを撃ち損じ、こごえるかぜで敏捷の下がった隙をジヘッドに回くぐられた。
あくのはどうが無防備なみぞおちへと命中し……そして動かなくなった。

「さぁ……もう終わりですか? そんな訳ないでしょう?」

助手が余裕ある冷淡な口調で言ってのける。

「くっ……言っていろ……こちらハウンド01、至急応援を要請する! 繰り返す、至急応援を要請する!」

白髪混じりの刑事が自分のポケモンをボールを戻しつつ、通信機に応援を繰り返し唱えた。
初めの貫禄と余裕はとうに失せていた。
 ▼ 114 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:45:59 ID:R1CkMNkA [21/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「遅れました!」

通信機への必死の連絡から間もなくだった。
十数人の警備員達が屋上へなだれ込む。

「来ましたね……追加オーダー」

助手と一間置いたジヘッド達が扉から現れた警備隊に向き直る。
助手に緊張の汗が滴った。

「あいつが助手だそうだ……総員かかれ! 一体ずつ確実に排除しろ!」

「「「はっ!」」」

警備隊のポケモン達がとめどなく屋上の入口付近を支配した。

「ジヘッド、サーナイト、ギルガルド……! ここが正念場です!」

助手が強ばる声で言う。
ジヘッド、サーナイト、ギルガルド……皆助手を見て無言で頷いた。

「あの人の元へは……行かせません……!」
 ▼ 115 ンガー@もうどくプレート 18/09/16 21:46:31 ID:1OOgfwb2 NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
2つ○をー♪つーけーてー♪
 ▼ 116 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:47:09 ID:R1CkMNkA [22/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「くろいまなざしなんてさせるかよォ!フーディン、サイコキネシスだ!」

「ロトムは10まんボルト……ドンカラスはねっぷう!……ゾロアーク、お前は暴れて戻って来い」

「逃がしはしない……! オーベム、フーディンにふういん!」

フーディンとクロバットの素早さ勝負は僅かにフーディンが勝った。クロバットがわざを繰り出す前に、サイコキネシスでぶん投げて見事戦闘不能にした。
が、その隙に警備隊の手持ちの一体、オーベムに自身の技を封じられた。

「チッ……今度はふういんか、テレポート対策だな……」

怪盗は毒づいてはいたが……依然として笑顔であった。

ゾロアークがバークアウトで遠距離攻撃に応戦する。そしてそのゾロアークを守るように周りに電撃が迸った。電撃の跡からぶすぶすと黒い煙が上がる。

続いて大きく羽ばたくドンカラス。
警備員一同はねっぷうによる全体攻撃を警戒し、身構えた。

結果、それは空振りした。
 ▼ 117 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:48:09 ID:R1CkMNkA [23/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「何……くろいきりだと!?」

ドンカラスは黒く、てかりある翼を広げると大きく旋風を巻き起こす……ようなことはなく、代わりに口から黒い霧を噴出した。

予想外の行動に警備隊とそのポケモン達は一瞬、硬直した。
その隙に一際素早い黒い影は群がるポケモン達を掻い潜る。

「誰か風を起こせ、視界を戻すんだ!」

「ケンホロウ……きりばらいだ!」

いきなり黒もやに雲隠れさせられたハンサム率いる警備員達。
ポケモン達が標的を失い混乱している最中、誰かが手持ちのポケモンへときりばらいを命令する声が聞こえる。

「そうらもっと騒げ!……フーディン!」

怪盗は混乱する警備隊を嘲笑う調子で高笑いした。
そして一転、冷静に命令する。

「テレポートだ」
 ▼ 118 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:49:25 ID:R1CkMNkA [24/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
フーディンは霧の中テレポートを試みた。
しかしそれはやはり失敗に終わる。

「馬鹿め……その手は封じた」

やがて、突風により黒い霧が晴れた。
そこには警備隊のポケモン達をくぐり抜け『異本』を怪盗に手渡すゾロアークと、テレポートが不発したフーディン……そして怪盗の近くで空を漂うロトムとドンカラスがいた。

「よくやった……しかとこの手に受け取ったぞ」

「くっ……小癪な、しかし逃走は封じたぞ……大人しくお縄にかかってもらおうか」

ハンサムが険しい面持ちに汗を滴らせて言う。

「それはフーディンのテレポートの事か? フッフッフッ……甘い、甘いな甘すぎて胃もたれしそうだ」

勿体ぶった言い回しで怪盗は高らかに笑う。

「何を……このまま戦い続ければ数のない貴様の敗北だ」

「僕は怪盗……戦いはしない、逃げるが勝ちなのさ」

指をパチンと弾き高らかに言う。

「まねっこッ!」

ゾロアークがフーディンの動きを真似て地に手を付きそして……怪盗の一派がその姿を消した。
 ▼ 119 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:50:31 ID:R1CkMNkA [25/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
一体どれくらいのポケモンをなぎ倒した頃だろうか。しかしそれほど時間は経っていないように助手には思えた。

「……サーナイト、ギルガルド!」

助手達の奮闘虚しく、警備隊達の数の力で押されていた。
初めにメガサーナイトが……そして複数を相手取り、攻撃をモロに浴びたギルガルドが倒れる。

「……お疲れ様です」

ボロボロになるまで戦ってくれた二体をボールへと戻す。
追い詰められたジヘッドが、ガクガクと震えて助手の方を見ていた。

「そろそろお終いか? ポケモン達を傷付ける前に大人しく投降したらどうだ?」

この言葉に助手は苦虫を噛んだような顔をした。
仲間の戦闘不能、多勢による攻撃で残るジヘッドも戦意を喪失していた。

「さて……あとはそのボロボロのジヘッド一体でこちらは十体弱、勝機はありませんなァ?」

「さぁ諦めろ!」

刑事達は強い口調で畳み掛ける。
 ▼ 120 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:51:17 ID:R1CkMNkA [26/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
刑事達を険ある冷徹の目で睨むも効果はない。

助手は屋上の風に吹かれ、二度、三度静かに瞬いた。
何か決意に満ちた……涼しげな顔をしていた。

そして一歩、後退する。
一歩、また一歩……後ずさった。

「私は……私は怪盗の助手です」

助手はじりじりと後ずさる。

「捕まる、訳には」

助手はじりじりと後ずさる。

「あの人の……足枷に、なる訳には……」

「おい! 何をしている」

助手はじりじりと……一歩一歩着実に後ずさる。
僅かな緊張と恐怖で口ごもっていた。

ここは高層ビルの屋上。
何をしようとしているかは明確であった。刑事達から制止の声が上がる。
 ▼ 121 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:52:11 ID:R1CkMNkA [27/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ジヘッド……今までありがとうございました」

「グギャアッ!?」

助手は満足そうだった。
唐突な言葉と行動にジヘッドは当惑していた。

「サーナイトもギルガルドも……本当によく働いてくれました……皆、そしてミスター、こんな無力な私をお許し下さい」

「……さようなら」

カツン、と靴底の乾いた音がした。
そして重力へとその身を任せ……助手は静かに落下運動を始めた。
 ▼ 122 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:52:45 ID:R1CkMNkA [28/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「グギャアッ……グギャゴルオオオォォォォオ……ッ!」

哀しみと怒りが綯い交ぜになった、嵐のような咆哮がジヘッドの双頭から発せられる。

その哀しみが、怒りが、臆病なジヘッドに飛び出す勇気を……内に秘めていた新たな力を呼び覚ます。

「……!?」

助手は落下の間際それを目端で目撃した。

眩い青い光に包まれると、二つの頭が三つに分かれ……そのシルエットはさらに禍々しいものへと変貌した。

そして今、すんでのところで助手の首元をくわえ持ち、不器用に羽ばたくそれは……今までのジヘッドとは違う誇り高さを感じさせた。

ジヘッドはサザンドラへと進化した。
 ▼ 123 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:53:47 ID:R1CkMNkA [29/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「サザン、ドラ」

「フシュルルルルル……」

「私のために……」

サザンドラは無言だった。
無言であったがその鋭い瞳には安心の色が浮かんでいるように見えた。

『おい助手!? 君……』

静かになった空間に通信機からの怪盗の声がよく聞こえる。
遠くなった刑事達を見るとこちらの状況から何をするでもなく、様子見しているらしかった。

「……ミスター?」

どこかでガラスの割れる小気味よい音が聞こえる。

「風……?」

真下から吹き付ける強風があった。
気づき目をやると、助手とサザンドラのいる上空に目にも止まらぬスピードで迫ってくる者がいた。

「なにやってんだああああああああああああああああ!!!」

「え」

男の……怪盗の叫び声は聞こえると同時にサザンドラから助手をさらった。
 ▼ 124 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:54:39 ID:R1CkMNkA [30/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「そんなに君は僕を怒らせたいのか? どうしてもこの僕の珍しく怒れる姿が見たいか、えぇ!?」

「……ミスター、何故ここに」

助手はただ尋ねることしか出来なかった。
あまりにサプライズの連続なのでまともに思考し、言葉をまとめる力が消えてしまっていた。

怪盗はそんなことは関係なしに自分自身を指さし、そして助手を見て叫んだ。

「……僕らは!」

「二人で怪盗……だろ?」

穏やかな、そして晴れやかな微笑みであった。

「……はい」

虚をつかれた助手であったが、その言葉を聞いて……口元を自然と歪ませた。

凍りは溶け、悠然で恭しくも美しい微笑みが……怪盗の視界いっぱいに映る。

「『異本』は手に入れた……帰るぞ、幽霊屋敷の掃除も日々の家事もしてもらわなきゃな」

「心得ております」
 ▼ 125 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:55:19 ID:R1CkMNkA [31/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……! まずい、逃がすな!」

白髪混じりの刑事が叫ぶ。
その声に応じて何体かポケモンが飛び立つ。

「グギャアァーッ!」

飛び立とうとしたポケモンをサザンドラ渾身のあくのはどうで撃ち落とした。

「サザンドラ……!」

サザンドラはもうあの臆病者のジヘッドではなかった。
新たな力を奮い、警備隊一同を攻撃する。

「おいボーマンダ! 分かってるだろうな? お前が言うことを聞かないと全員お陀仏なんだからな!」

助手をさらい怪盗を乗せたポケモン……メガボーマンダが不満気に低い唸り声を上げた。

「ハイパーボイス!」
 ▼ 126 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:56:03 ID:R1CkMNkA [32/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
メガボーマンダの地をも揺るがす唸り声が攻撃となって飛翔するポケモン達を襲いかかる。

「グギャアッ! オオオーッ!」

大半は戦闘不能となり、残党もサザンドラのかえんほうしゃによって焼き払われた。

「良し! このまま突っ走るぞ!」

「戻って下さいサザンドラ!」

翻り、メガボーマンダは逃走を始める。
助手が急いでサザンドラをボールへと戻した。

「くっ……待て怪盗共……!」

爆煙とかえんほうしゃの残り火に包まれた警備隊に為す術はなく。
白髪混じりの刑事の心底悔しそうな言葉だけがその場に残響となった。
 ▼ 127 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:56:54 ID:R1CkMNkA [33/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「撒いた……か……?」

メガボーマンダが二人を乗せてマッハの勢いでしばらくの間滑空していた。

「追っ手は来ていませんね」

特にヘリコプターなどは追ってきていないようだった。
怪盗は勝利を確信した。

「ふぅ……どうやら僕らの勝利らしいな、見たかバイモ社の奴ら!」

ガッツポーズをし、晴れ晴れとバイモ社への煽り文句を言った。

「本当に……盗んだんですか? あの人の本を?」

「ああ? 変わらない心配性だな……ほら、きちんとここに」

やや不安げな助手にスーツの内ポケットから勝ち盗った……本物の『名もなき異本』を見せる。
古めかしくそれでいて霊妙な体相をしたその本は確かにそこに存在していた。

「勝った、のですね……私達本当に勝利したのですね」

助手の声は震えていた。

「ああ、勝ったのさ……僕達二人と八体が」
 ▼ 128 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:57:41 ID:R1CkMNkA [34/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……サザンドラ、進化したんだな」

風に吹かれながら横顔で怪盗は助手に話しかける。

「ええ、私のために頑張ってくれました……帰ったらたくさんきのみをあげます」

「アイツの功労はデカい……是非ともそうしてやれ」

「ええ」

「あの暴れん坊で臆病者のモノズをそこまで育てた……君も実に見どころのある助手になったな」

「貴方が私を褒めるなんて……明日は槍が降りそうですね……ミスターこそ、この子はどうしたんですか」

おい、と助手を小突きつつ、どこか懐かしげに怪盗は語る。

「……コイツは僕が怪盗じゃない時代を唯一知るポケモンでね」

怪盗はボーマンダの背中をさする。
既にメガシンカは解いていた。怪盗に触られて嫌そうに低い唸り声を鳴らす。

「同時にただ一体、僕を見捨てなかったポケモンでもあるわけだが……いかんせん盗みには非協力的さ」

「そんなポケモンが……しかし本当に」

助手は神妙に言う。
 ▼ 129 ェード◆nfYyot98RE 18/09/16 21:58:23 ID:R1CkMNkA [35/35] NGネーム登録 NGID登録 報告
「良かった……」

噛み締めるように助手は言う。

「また帰って来れて……良かった」

その瞳は涙で潤んでいた。
安堵と祝福の微笑みが怪盗の目に留まる。

「同感だ」

「拠点で中を見るのが楽しみですね、ミスター」

「ああ、だがそれ以上に……」

「……?」

助手は不思議そうに微笑んだ。
その微笑みに応えるかのように優しさに溢れた微笑みで怪盗は答えた。

「一番欲しかったものはもう手に入ったよ」








【SS】微笑みの怪盗 ─完─
 ▼ 130 クティニ@イリマのノーマルZ 18/09/16 22:12:54 ID:P5R.X8DY NGネーム登録 NGID登録 m 報告
超支援!!
 ▼ 131 クシオ@ユキノオナイト 18/09/17 10:40:44 ID:dop6dbSI NGネーム登録 NGID登録 報告
終わったのか……技の使い方が上手くてすごいと思った。ほかに書いた作品があれば読んでみたいです。
 ▼ 132 ガイアス@ジュナイパーZ 18/09/19 17:10:30 ID:btt6f3r. NGネーム登録 NGID登録 [s] m 報告
乙!
 ▼ 133 ーシャドー@ニニクのみ 18/09/20 16:06:45 ID:zYbw0q36 NGネーム登録 NGID登録 m 報告
>>132
なんでサゲてんだよ
  ▲  |  全表示133   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!
スレの消えている画像復旧リクエスト
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼