「何事も挑戦だと思います」:ポケモンBBS(掲示板) 「何事も挑戦だと思います」:ポケモンBBS

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「何事も挑戦だと思います」

 ▼ 1 TOg35azcXc 18/09/20 21:54:37 ID:ZgpI3Q7U [1/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
今まで経験したことのないことに触れるということ。

それは何であれ少し怖くて尻込みしてしまうものです。

変に思われてしまうのではないか、と。

特に、あたしみたいな臆病な性質の人間はそう強く思ってしまうのです。

しかし、それじゃ駄目なんだって。

そう、臆病風を吹かせる自分の心を叱咤して自分のポケモンに向き直りました。

「ネールさん! そこで、泥遊びです! ええっと、高く跳ね上げるように!」

あたしの指示を受け、ネールさんは覚え直したばかりの技を使ってくれます。

その巨体を使って泥を跳ね上げる様子はとてもダイナミックなのですが……

「イメージと、違います…… どうすればいいのでしょう……」

何がいけないのでしょう。

自分は何を間違っているのでしょうか。

いえ、まだ始めたばかり。

手探りでも前に進んでみましょう。

「跳ね上げたら、迫力あり過ぎですね…… 可愛らしさってどう表現するのでしょう?
 ネールさん、今度は少し控えめに。泥を飛び散らせる程度で、泥遊び、です。」

あたしが言った通りに、先程とは違ってあまり派手さが出ないように動いてくれますが……

しかしそうなると華やかさに欠けているような気がして。

あたしの言葉を忠実に行動に起こすネールさんは優秀なポケモンさんです。

やはり足りないのはあたしの指示能力。それを実感してしまいました。

「ごめんなさい、ネールさん。もうちょっと試行錯誤に付き合ってください。
 ……泥遊びの選出自体は間違ってないと思うんですよ。直感ですけど。」

ネールさんを次のコンテストで魅せることを考えたとき、泥遊びを使うことを思いつきました。

ただ何となく思いついただけなのですけれど……

今のあたしにとってはそんな思い付きも必要だと。そう感じたのです。

泥遊びを中心として、技構成も考え直して。

演技の構成を考えているところなのだが……

どうも上手くいかなくて、自分にほとほと呆れてしまいました。
 ▼ 3 TOg35azcXc 18/09/20 21:57:39 ID:ZgpI3Q7U [2/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「精が出るな。何やってんだ?」

「――ひあっ!?」

唐突に声を掛けられて驚いてしまいます。

声のした方を見上げると、金髪の青年が眠たげな様子で鉄橋の手すりに凭れて、こちらを見下ろしています。

「デ、デンジさん…… いつからそこに……?」

「今さっき」

淡々とした口調。

気だるげな彼は何を考えているのか判り辛く、時々困ってしまうのです。

それでも、何故か気が付くと近くにいるから不思議ですね。

「コンテストの練習です。次こそ勝てるように。」

「ふーん。 まあ、だろうとは思ったけど。
 それで? なんで泥遊び? ……前は覚えてなかったじゃん」

見ていたのですか…… 別に見られて困るわけではないですけど、何か恥ずかしいですね。

「あたしのネールさん、前回上手く目立たせることが出来なかったから……
 いっそアピール方法を変えてみることを考えているんです」

挑戦とは、そのことです。

あたしの力不足が祟って、コンテストは連敗。

特に前回は他の出場者に力の差をありありと見せつけられ、自信喪失中。

だからいつもの演技を一旦仕舞って、何ができるかと新規開拓するのもいいと思ったのでした。

「でも、全然イメージ通りにできなくて……
 どう指示するのが適切なのかと悩んでいます」

「……どんなのイメージしてんの」

欠伸を噛み殺しながら興味なさげに尋ねてきました。

「ハガネールと言えば、格好いい、もしくは逞しいイメージがあるでしょう?
 あたしも、そう思っていて、ネールさんを格好良く見せる演技を考えてきました。
 でも、あたしより巧く魅せるひとはいっぱいいます。今の方針では、その高い壁を越えられない気がして……」

あたしはそこで一旦一呼吸置きました。

「そこで!
 泥遊びを中心とした可愛らしい技を演技に盛り込んで、一味違うネールさんを演出しようと考えています。」

「迷走してんな。ま、いいんじゃね? それも面白そうだ。 どれ」

彼は鉄橋の方へとネールさんを呼ぶと、手すりを乗り越えネールさんの頭に着地。

そしてあたしの近くへと降りて来ました。
 ▼ 4 TOg35azcXc 18/09/20 21:59:09 ID:ZgpI3Q7U [3/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ハガネール、泥遊び。体を地面にこすりつけるように。
 笑顔を忘れるな。ああ、あと力まないように。」

彼の出した指示にネールさんは一瞬戸惑ったようでしたが、すぐに言う通りに動きます。

するとどうでしょう。

先程のようなダイナミックさはなくなり、まるで大きな大人が童心に帰って児戯に興じるかのような可愛らしさのある動きになりました。

「……こんなもんか。 ……? 何だその顔?」

「……納得いきません。なんであたしより的確に指示できるんですか」

彼はバトル専門で、本人曰く強い奴とのバトルが生きがいということで。

コンテストについては門外漢だったはずでした。

だというのにこうもあっさりと数段上手な指示が出来ている。

しかもあたしのポケモンであるネールさんに、です。

理不尽に思うのも仕方ないと思うのですがいかがでしょうか。

「……まいったな。こんなんで腐られても困る……」

あたしから目を逸らし何事か呟きました。そして手元のポケッチに目を向けます。

「……ジムに挑戦者が来たらしい。俺はもう戻る。頑張れよ」

それだけ言って彼は踵を返していきます。

あたしはなんとも言えない気持ちでその背中を見送りました。

彼はこのナギサシティでジムを預かっている実力者なのでした。

ポケモンの扱いが上手いのも当然のこと、と言い切るのはあたしにとって納得がいくわけはありません。

なぜなら、あたしもまた(今は代理に引き継いでいますけども)海の向こうで一つのジムを預かっている実力者なのですから。
 ▼ 5 TOg35azcXc 18/09/20 22:00:52 ID:ZgpI3Q7U [4/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
あたしは、海の向こうにあるジョウト地方の人間。

そこのアサギシティという街でジムリーダーを任されています。

協会公認でリーグ出場権たるバッチの一つを守る関門の役割を担っているのです。

そこであたしはバトルの日々に明け暮れていました。

相手が所持しているバッチの数に合わせたレベルのポケモンを扱わなければならないという制約の元、毎日毎日何人もとの真剣勝負。

エキスパートタイプの看板を背負っているため、こちらの苦手な相性が向かってくるなど日常茶飯事。

自由に戦うことが出来ない苦しみは、あたしの中に溜まっていって。

かといって、忙しい業務の中、リフレッシュの機会などそうそうないから。

あたしはいつの間にか忙殺されて疲れてしまっていました。

ジムトレーナーの皆に勧められて、夏休みという名目で長めの休暇を取らせてもらいました。

もう学生の身分ではないというのに、ありがたいことです。

あたしは折角休暇を取ったのだからと、ポケモンコンテストへの挑戦に思いを馳せて、ここシンオウへとやって来ました。

コンテストに出ることに、小さなころから憧れていたのです。

しかしこうして意気込んできたものの、敗退続きで本当にふがいなく感じていて。

それでもなお、諦めたくはありませんでした。

どれだけ無様でも、どれだけ時間をかけようとも、優勝するまでは帰らないと決めて。

だって、コンテストの優勝は、ネールさんと共に見た夢なのですから。
 ▼ 6 TOg35azcXc 18/09/20 22:02:49 ID:ZgpI3Q7U [5/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
とはいうものの、あたしに力量が足りてないのも事実。

デンジさんがコンテストにおいてもあたしより上手なのも事実。

ここは夢へと近づくために恥を忍んで彼にコーチを頼むべきでしょう。

そう結論づけてあたしは、彼に会うためナギサジムへ足を向けます。

「おーーーっす!! 未来のチャンピオン!!! ここは――」

入ってすぐ大きな声で呼び止められました。

アサギジムにもいましたよね、こういう人……。

「あ、あの…… あたし、挑戦者じゃありません。
 デンジさんに用があって来たというか、観戦に来たというか……」

「ん? ああ、あんたがミカンさんだね? デンジさんから聞いてるよ。
 リーダーの所へ直通の通路はこっちだよ。どうぞ」

あたしがなんと言っていいか困ってしまうと、思いの外あっさりと話が通ります。

彼があたしのことを他人に話しているのがちょっと意外で驚いてしまいました。

そういうの、面倒臭がりそうなのに……。

あたしはその言葉に甘えて、専用通路を通り抜けました。

オースのひとが何やらにやにやしていたのは気のせいでしょうか?

「さあ! これが僕の切り札だ! 行け! イシツブテ!!」

バトルフィールドは、挑戦者とジムリーダーの決戦の真っ最中でした。

あたしは観戦席へと昇り、決着がつくまで見守ることにします。

「イシツブテ! マグニチュードだ!」

「耐えろ、ラクライ! ……無理か。 お疲れ様。ゆっくり休め」

挑戦者のポケモンはイシツブテ。

電気のジムに挑むにあたってちゃんと対策を取って来たということですね。

対してデンジさんはラクライ。

相手はまだあまりジムバッチを持っていないようです。

制限された手持ち。

不利な相性。

そんな中彼はジムリーダーとしてどう戦うのでしょうか。

あたしは自分のジム戦ではないのに、つい手を握りしめ見詰めてしまいます。
 ▼ 7 TOg35azcXc 18/09/20 22:05:07 ID:ZgpI3Q7U [6/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
不意に、彼が観客席の方向に視線を向けました。

一瞬でしたが目が合ったような気がしました。

彼はいつもの調子はどこへやら、楽し気で無邪気な笑みを浮かべます。

「このジムに地面タイプは確かに重い。相性は致命的だ。
 だが、だからこそ不利な相手にも負けない対策ってのがバトルにおいては重要なんだよ。

……これが俺のラス1。行け、ピカチュウ!」

「ピカチュウ? そんなの、僕のイシツブテの攻撃で一発だ!」

「確かにな。ピカチュウは防御が弱いから、一撃も耐えられないだろう。

――先に攻撃されればな。ピカチュウ、草結び!」

「ええ……!? は、速い!!? 一撃でやられちゃった…… ま、参りました!」

圧巻、と言っていいでしょう。

ジムリーダーとして挑戦者に戦い方を示しつつ、鮮やかな手並みで勝ってしまいました。

強者のシンボルとして、また、超えるべき壁として見事なあり方でした。お見事です。

「いい勝負だった。
 事前情報があるなら対策を立てる。立派な戦術だよ。
 もし君のイシツブテが頑丈だったら、勝負は判らなかったかもしれない。」

「え!? 僕のイシツブテ頑丈じゃないの!? こんなに固いのに?」

「ポケモンには特性があって、個体によって――」

初心者のトレーナーにポケモンの知識を教授することも、ジムリーダーの仕事の内です。

彼の非常にわかりやすい説明に、既に知っている筈のあたしでさえなるほどと頷いてしまいました。

「――じゃあ、またの挑戦を待っている。
 他のバッチを手に入れてから来るのもありだぞ」

「対戦、ありがとうございました! また来ます!!」

挑戦者の少年は笑顔で去って行きます。

勝敗に関係なく。

言うほど簡単なことではありません。

負けたら悔しいのは当然でしょう。それでなくともしこりは残りそうなものですのに。

 ▼ 8 TOg35azcXc 18/09/20 22:06:49 ID:ZgpI3Q7U [7/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……はあ。バッチ少ないチャレンジャーの相手は緊張するな。お前もそうだろ?」

あんなに堂々としていたのに緊張していたのかと驚き。

あたしに対する問いかけになっていることに気付いて、再度驚いてしまいました。

「え、ええっと…… そ、そうですね。
 あたしも、どう戦ったものか悩んでしまいます」

あたしがジムリーダーだなんて話、初めて会った時に一度話したきりで。

その後も気にする素振りなんてなかったから忘れてるとばかり思っていたのに。

「……それで? 別に試合を見に来た訳じゃないんだろ」

彼は何でもないことのように言いました。

どうやらお見通しのようですね。

「えと、はい。先程のようなコンテストテクをもっと見せてもらいたいと思いまして」

「……テク? それは俺が門外漢だって判って言ってんのか」

「門外漢だというのにあたしのネールさんに的確な指示を出して見せた天才だと判って言ってます」

あたしの言葉を聞き、彼は片手で顔を覆い呆れたような溜め息を吐きました。

「判った。真似できるならしてみろ。
 ちょっと考えてみるさ。ところでハガネールの技構成は?」

「泥遊び、体当たり、眠る、寝言の4つです。
 あの、宜しくお願いします」

「全部可愛い判定の技だな。 ……どう演技に持ってくるか」

腕を組み考え込む彼の目にはいつにない理知的な雰囲気が宿っていて。

あたしは息を呑んで見守ります。
 ▼ 9 TOg35azcXc 18/09/20 22:08:45 ID:ZgpI3Q7U [8/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
しばらく時間をおいて、考えがまとまったのか彼は口を開きました。

「ねむねごが邪魔だな」

……一言で済ませないでください。

さっきあんなに分かり易く説明していたのは何だったのですか。

「でも、それはコンボアピールになっていて、印象をよくするのにとても有効で」

「……そのコンボをどう演技に組み込むつもりだ?
 明確なビジョンがないなら宝の持ち腐れ。……技スぺの浪費だろうが」

一刀両断。

バッサリです。

これに関してはぐうの音も出せないあたしにも問題があるのかもしれませんが。

ヒドいです。ヒド過ぎます。

「……デンジさんだったら、何を入れるんですか」

つい拗ねた口調になってしまいました。

教えてもらおうというのにこんなんではいけないとは思いますけれど。

でも、頭でわかるからといって心までは偽れませんで。

それに、そこまで言うのだったら、よりいい案を出してくれるのだろうという天邪鬼な期待感もあったのでした。

「泥掛けと、メロメロ。
 ハートの鱗と技マシンでどっちもすぐ覚えられるだろ」

「そ、そうですね。それなら」

「泥掛けは泥遊びとの組み合わせがさっき言ってたコンボだろ。
メロメロは…… まあ、単純に見た目が派手で汎用性が高い」

言われてみれば。

なんで初めから思いつかなかったのかというくらい、一気にイメージが膨らみます。

目から鱗が落ちたようとは、このような心境を言うのだなと実感しました。

 ▼ 10 TOg35azcXc 18/09/20 22:10:07 ID:ZgpI3Q7U [9/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「顔が変わったな。これ以上の話は無粋か」

「へっ? そこまで言って投げっぱなしですか?」

「お前何か思いついたんだろ。
 ならそれをやるのがいいだろ。コンテストに出るのはお前だろ?

 俺の言う通り丸パクリは駄目だろ」

彼の言うことはぐうの音も出ない程に正論でした。

いくら負け癖が付いているからといって、全部外に頼った戦法では、何のために『あたしたち』がコンテストに出るのか判りません。

けれど。それでも、せめて。

「ちゃんと見栄えよくできるか、観ていてくれませんか?」

一緒に考えて欲しい、とまでは言えませんでしたが。

彼が見ていてくれれば、安心できる気がしました。

駄目なところも、どう駄目であるか指摘してくれるでしょう。

余りバッサリいかれてしまうと、心折られかねないのですけどね。

「そのぐらいだったら」

彼は言葉少なに快諾してくれました。

よし、頑張りましょう。
 ▼ 11 TOg35azcXc 18/09/20 22:12:19 ID:ZgpI3Q7U [10/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
それから数週間のこと、ネールさんとの息がもっと合うようにと、そして演技の幅が広がるようにと練習に明け暮れました。

彼はやはりジムの業務で忙しいのか、居たり居なかったり忙しなかったけれど、それでも毎日ちゃんと練習の様子を見てくれました。

あたしとネールさんには少々キツイ指摘もいくつか飛んできたりもしました。

それも自分たちが向上するためだと思い、耐えきることが出来ました。

……この言い方だとあたかも難癖付けられたようになってしまいますが、勿論彼の指摘は合理的で、ちゃんとあたしたちの糧になってくれています。

コンテストを明後日に控えた今日、辛口の彼からお墨付きを頂戴したのだから自分たちも大したものではないでしょうか。

「ところで、お前、服どうすんの?」

練習を終えた夕方、彼が唐突に尋ねてきた。

どうするといわれましても……

「いつもの衣装ですが……?」

「いつものって、あれか。水色のワンピースに白カーディガン」

「はい。お気に入りなんです」

「変えた方が良いんじゃね」

「え? ……え?」

その言葉があたしにはとても意外で。

思わず彼を二度見してしまいました。

まさか男性が服装について触れてくるとは。

しかも、彼のような無頓着そうな人物が。

「……演技を一新するんなら、合わせた方が良いんじゃねえか。
 それに、ハガネールの演技があれだろう。……いつもの服は綺麗系だろ。
 それも悪かねえが、イメージ変えてみろよ」

今度こそ耳を疑います。

やけに具体的にアドバイスをくれるものでした。

どさくさに紛れていつものあたしに対しての誉め言葉が挟まれてしまっていることに彼は気付いているのでしょうか。

つい顔が火照ってしまいます。

彼の顔がまともに見れません。
 ▼ 12 TOg35azcXc 18/09/20 22:13:15 ID:ZgpI3Q7U [11/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「明日トバリ行くから」

「あ、はい ……へ?」

また唐突な発言ですね。

「い、行ってらっしゃい?」

「何他人事みたいな顔してんだよ。
 ……お前の服だぞ。お前も来なくちゃ意味ないだろ」

「……ふぇ?」

今日は一体どういう風の吹き回しなのでしょうか。

夢でも見ているのですかね。

明日は槍が降るに違いありません。

そんな失礼なことを想ってしまうほど、彼のキャラクタに合わない気がします。

「デンジさん? 今日は本当にどうしたんですか?」

「……明後日はコンテストだろ」

彼はそれきり黙ってしまいます。

……前祝いのつもり、ということでしょうか。

有難いことです。失礼なことを考えてしまって申し訳なかったですかね。

「また明日」

「は、はい。また、明日……」

明日の約束をして、立ち去っていく彼を見送ります。

どうしてでしょう。

鼓動の速度が緩まってくれません。

風邪でも引いたのでしょうか?

……明日に響かないよう今日は早く寝なくては。
 ▼ 13 TOg35azcXc 18/09/20 22:14:21 ID:ZgpI3Q7U [12/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日、彼は朝の早くからムクホークを伴って、あたしが止まっている民宿に迎えに来ました。

「行くぞ」

「……! その、あ、あたし、自分のムドーちゃんで行きます! だから、その……」

「ん。判った。後ろついて来いよ」

何故でしょう。

ムクホークは大きな鳥ポケモンで、二人乗りでも余裕を持ってくれるはずなのに。

今日はそんな乗り方をすることに気後れを感じてしまいます。

彼の顔を見た途端、昨日感じた不調もぶり返してきますし、あたしどうしちゃったのかな。

彼が気にした様子もなく先に悠々と飛び上がった様を見て、そこはかとなく残念なような、安心したような、不思議な感覚に陥りました。

これは、本当になんなのでしょうか。

自分のことなのによく判らず、少し考え込んでしまいました。

「いけない! 出てきて、ムドーちゃん!
 デンジさんに置いて行かれないように、追いかけて下さい」

急いでムドーちゃんに乗ったけれど、そこまで慌てるようなこともなかったようでした。

彼とムクホークは、まだあまり速度を出さず、ゆるゆると飛んでいます。

あたしが後ろに来たことを確認して、やっと暫時的に加速を始めました。

ゆったりとした空の旅。

トバリは距離もそんなに離れていないし、これでいいのかもしれません。
 ▼ 14 TOg35azcXc 18/09/20 22:16:00 ID:ZgpI3Q7U [13/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
トバリに着くと、早速彼はあたしを連れてデパートの被服コーナーへと入ります。

色採り々りで種類も豊富な洋服に囲まれて、乙女心を擽られてしまいました。

「すみません。明日のコンテスト出場に備えてこの娘の服を見繕って欲しいのですが」

「ようこそいらっしゃいませ〜。
 コンテスト用の衣装でございますね〜。
 少々お待ち下さいませ〜」

彼は近くにいた店員さんを呼びました。

何か作業をしているようで、すぐにはこっちに来ませんでした。

そこであたしは彼に小声で質問をします。

「ちょちょ、店員さんに頼るんですか?
 デンジさんが選んでくれるんじゃ……」

「なんだ。プロより俺のセンスの方がよかったか?
 それとも、俺に選んで欲しかったか?」

言われた言葉の意味を飲み込んで、大いに慌ててしまいました。

彼に選んでもらえると勝手に勘違いしていたのも恥ずかしいですが、今の言い方だと、まるでそれ以上の関係みたいな、あう。

「えぇっ!?
 そ、そんなんじゃ…… あの、嫌だって訳じゃないんですが……」

「お待たせしました〜。衣装をお求めなのはこちらの方ですか〜?
 あら、可愛いお嬢さん。彼女さんですか〜? 羨ましいですね〜」

「まあ、想像にお任せします」

「あらあら、うふふ」

「えぇっ!?
 そ、そんなんじゃ…… あの、嫌だって訳じゃないんですが……」

店員さんのからかいに顔が真っ赤になってしまいます。

デンジさんももっとちゃんと否定してくれたらいいですのに……
 ▼ 15 TOg35azcXc 18/09/20 22:17:36 ID:ZgpI3Q7U [14/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「じゃ、好きに選んどいて」

「え! ちょっと!? デンジさん!? 行っちゃうんですか!?」

「うふふ、男のひとには難しいのかしらね。
 こういうのなんていいんじゃないかしら〜。お似合いですよ〜」

残されたあたしは、店員さんのおすすめを聞いては相槌を打つだけの首振り人形になってしまいました。

勧められる服はどれも素敵なのですけれど、あたしにはどれが一番いいかなんて決められなくて。

「決まったか? なんか良さげなの見つけてきた。
 まだ一つに決めてないなら試してみるか?」

困っていたところに、彼がハンガーを一つ握って現れました。

彼が選んできたのは、おしゃれな見た目のノースリーブのドレスワンピース。

肩の辺りが一番濃く、スカートの裾に行くにつれ淡くなるグラデーションが可愛らしく。

ドロワーズを履くことを前提にデザインされたのであろう柔らかそうなシフォンスカートがふんわり広がってとても素敵。

バストの下辺りに帯のように細く撒かれた浅葱色のリボンは可愛らしいだけでなく、足長効果を与えてくれることも期待できますね。

予想以上にハイセンスで、驚いてしまいます。

「わあわあ、素敵です。お目が高い。
 よく見つけましたね。彼女さんに凄く似合うと思います。」

あたしも、そのワンピースに見とれてしまいました。

彼が選んだということも相まって、何故か胸がポカポカします。

いいな。着てみたいです。でも……

「ちょっと、ノースリーブは恥ずかしいかも、です……」

コンテストで着るとなると、それは当然衆目の前になります。

これを着る勇気はちょっと出しづらいかもしれませんね。

「……それだったら、上からなんか羽織ればいいんじゃないか?」

「はいはい。でしたらこちらのレースのストールなんていかがでしょう?
 彼女さんのお顔回りを飾るにはぴったりだと思いますよ。」

彼の提案を受けて、店員さんが試しにと緑のストールを巻いてくれました。

「あ、これなら、いいですね。素敵……」

「……可愛い」

「――え」

「――あ……」

い、今、なんて? 本当に、デンジさんがおっしゃったので?
 ▼ 16 TOg35azcXc 18/09/20 22:19:36 ID:ZgpI3Q7U [15/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「で・す・よ・ね〜。
 こんな可愛い彼女さん、二人といませんよ〜。お熱くて羨ましいわ〜。うふふ」

「か、彼女じゃないです! もう! 何言ってるんですか!!?」

「サイズ見て決まったら言ってくれ。会計する」

店員さんが勝手に盛り上がっていくのを見て、彼は一言だけ言って逃げていきます。

……彼が変なことを言ったおかげで、あたしの心臓はもうバクバク。

喉から今にも飛び出してきてしまいそうでした。顔も燃えそうに熱いです。

店員さんのにやにや笑いが居たたまれません。うー。

折角トバリに朝早く行ったというのに、衣装しか買わずナギサへトンボ返りすることになってしまいました。

彼との間には先程から妙に居たたまれない空気が挟まっているようで。気まずいです。

「お疲れ」

買った荷物を態々私のとある民宿に運んでくれた彼はぎこちなく言いました。

「いえ…… 今日は本当にありがとうございました。
 こんな素敵な服を選んでもらって。お金まで出して頂いて。」

あたしもまた、ぎこちなく返します。

……うう、恥ずかしくて顔がまともに見れません。

「明日はいよいよ、コンテスト開催日だな。ゼンリョクで。頑張れよ。」

「は、はい。
 デンジさんにあれだけアドバイスを貰ったんです。やり遂げて見せます!!」

不安がないと言ったら嘘になります。

でも、ここは強がって見せるべきだと思い、宣誓しました。

それを聞き届けた彼は何故か複雑そうな表情を浮かべて、
聞き取り辛い声で一言だけ呟き、帰っていきました。

「優勝だけはしてくれるなよ」

そう聞こえたのは一体どういうわけだったのでしょうか。

 ▼ 17 TOg35azcXc 18/09/20 22:20:35 ID:ZgpI3Q7U [16/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
夜が明けて。

とうとう運命の日がやって来ました。

「レディーーース!! エーーーン!! ジェントルメーーーン!!
 さあさあ、始まりました ポケモンコンテストナギサ大会!
 皆のもの、度肝を抜かれる準備は万端かーーー!?」

あたしもまたこの会場の中にいます。

ネールさんと共にエントリーを終え、昨日買ってもらったドレスワンピースに身を包んで。

一つ気がかりなのは、昨日の別れを最後に、彼とまだ会えていないということでしょうか。

この会場には、来てくれていないのでしょうか。

せっかく彼がくれたこの晴れ姿なのに、彼に見て貰えない可能性を考えると、胸がチクチクします。

彼の忙しさから考えて、その可能性が高いと思うと、余計に。

いけない、今はこの大会に集中しませんと。

「ネールさん…… 大丈夫、ですよね……?」

そんなこと言ってもこの子が困るだけだと解っているのに、つい呟いてしまいました。

弱気になっているあたしを励ますように、ボールの中のネールさんがこちらを力強く見つめてくれます。

そうですね。きっと、大丈夫。

彼だって見ててくれる筈。そう信じましょう。
 ▼ 18 TOg35azcXc 18/09/20 22:23:01 ID:ZgpI3Q7U [17/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「エントリーナンバー88.アサギシティのミカンさん。
 ステージにお願いいたします」

「は、はい……!!」

待合室で待っていますと、あたしの番が来て、呼ばれました。

程良い緊張感の中、あたしは観衆の前、コンテストフィールドに立ちます。

集中しているのが自分でも分かりました。

いつもはこの視線に怖じ気付いてしまい、上手く話せなくなるのですが、今日はそれがありません。

口からすらすらと、言葉が出てきました。

「自己紹介を、します。あたしはアサギシティのミカン。
 使うポケモンは…… シャキーン!! は……鋼タイプです。
 さあ、出てきてください! ネールさん!! 魅せてあげましょう!!」

あたしがボールを投げると、巨大な煙が立ち込めて、ネールさんのシルエットだけが姿を現します。

何が出たのかと観客の視線を集めたところで、ネールさんは尻尾で煙を振り払い、キラキラとした星のエフェクトと共に姿を現しました。

会場から、歓声と熱気が沸き立ちました。

これはボールカプセルとシールによる効果で、コンテストの一次審査で重宝される機能。

これのお蔭で、真っ先に見せ場を作れ、演技の幅を広げることもできます。

「ネールさん! 泥遊びです! 練習の成果を、魅せて下さい!」

「煙の中から威風堂々たる巨体が現れたと思えば、とても楽しそうに泥をかき回し始めるとは。
 これはギャップ効果もあり可愛らしい」

「ええ、ハガネールのイメージを覆すようなこの演技。素晴らしいです」

「いや〜。好きですね〜」

実況席の審査員たちにはおおむね高評価で。観客席の声援も大きく響きます。

でも、これだけじゃ終わらせません。もっと引き付けて、魅せてあげましょう。

「ネールさん! そのまま、泥掛けです!」

「おお! 自分で作った泥を大きく巻き上げ、粉々に、千々に分けるとは! 太陽光がキラキラと視認できて美しい!!」

「それに、先程の泥遊びから繋がったコンビネーションは評価の対象となります。 よく考えられてますね」

「いや〜。好きですね〜」

最後に、立ち上がったネールさんがあたしの回りにとぐろを巻いて、ポーズ。

これでフィニッシュです。

あたしは、観客の皆さんに深くお辞儀をしました。

拍手が鳴り響きます。
 ▼ 19 TOg35azcXc 18/09/20 22:24:32 ID:ZgpI3Q7U [18/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「素晴らしい演技だったよ。新たな可能性を見せられた気がする」

「ミカンさんとハガネールのコンビネーション。凄く良かったです」

「いや〜。好きですね〜」

「ありがとうございました」

演技終了後、あたしは選手控室に駆け込み、大きく深呼吸をします。

演技中はあまり感じてなかった気がしたものですが、終わってから緊張していたということが解ってしまいました。

ステージにもう一度立つのが、今更怖くなります。

やっぱりあたしにはコンテストスターなんて無理な夢だったのかな。

あたしは勝手な想像を膨らませてネガティブを加速させてしまって止まりません。

「皆様大変長らくお待たせしました。一次審査の結果発表をしたいと思います。
 モニターにご注目下さい。
 栄えある第二審査にコマを進めたのは、この八人だ!!」

この大会の出場人数は正確には判らないけど、その中でたった八名だけが決勝トーナメントに進めるというのは、やはり狭き門なのでしょう。

あたしは運良く勝ち進んだ参加者を確認するべくモニターに目を向けて。

息を呑みました。



あたしの写真。

あたしの名前。

トーナメント端っこに、確かにそれがあって。

何度も見間違いではないことを確認して、泣いてしまいそうになるのを堪えました。
 ▼ 20 TOg35azcXc 18/09/20 22:25:49 ID:ZgpI3Q7U [19/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
狭き門を超えたといっても、まだまだ道半ば。

安心している余裕なんてありませんよね。

深呼吸して、緩んだ緒をぎゅっと締め直します。



さて、コンテストバトル決勝トーナメントの初戦はバトルになりませんでした。

これはあたしたちが頑張ったというよりも、相手のくじ運が悪かったということで。

相手の手持ちは何とピカチュウ。

デンジさんとは違って電気技以外の技を覚えさせていませんでした。

地面タイプのネールさんが現れただけで顔面蒼白にし、全く勝負にならないままに終わりました。

ちょっと悪いことしてしまいましたね。



準決勝たる第二回戦、あたしがコンテストフィールドに立つとオカルトマニアの女の人が対面に待ち構えていました。

「ふふん。
 さっきの試合? 見たよ。何とも運のいいお嬢ちゃんじゃないか。妬ましいね。
 でも、運がいいだけじゃ勝ち進めないってことを思い知らせてやろうじゃないかえ」

「ええっと、はい。お手柔らかにお願いいたします。」

「行け! ゲンガー! ここで立ち止まってなんかいらんないよ」

「シャキーン! ネールさん、お願いします!」

相手がボールを投げると、おどろおどろしいエフェクトからずんぐりむっくりしたポケモンが現れます。

一方ネールさんのボールカプセルは煙が出ないものに変えてあり、星のエフェクトがネールさんの肌に反射して綺麗です。
 ▼ 21 TOg35azcXc 18/09/20 22:28:42 ID:ZgpI3Q7U [20/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ええっと、ゲンガーさんは浮遊がなくなっている筈なので……
 ネールさん! 泥掛けです!」

「ふうん。勉強熱心だね。
 でも残念。お前の攻撃は無駄に終わる。陰に隠れな!」

「ゲンガーは影があればその中に入れる性質を持っています。
 隠れたゲンガーに攻撃を当てるのは至難の業でしょうね」

「むむ、相性的にはハガネールが有利でも、戦局的にはゲンガーが有利か!?」

「いや〜。好きですね〜」

「ゲンガー! 後ろからシャドーパンチ!」

「ネールさん! 大丈夫ですか!?」

ネールさんは不意の一撃を受けて驚いた様子ではあるものの、余りダメージは入っていないようで平気そうな顔をしています。

流石鋼タイプ。硬くて強いんです。

本当ですよ?

「雨だれ石を穿つって言葉知ってるかい?
 それにこれは体力だけのバトルじゃない。ポイントも大事さね」

「確かに。上手く反撃できないでいいようにやられている状態だとコンテストポイントはどんどん減っていってしまうぞ!
 どうする? ハガネール、ミカン選手?」

「ふん、さっさとポイントアウトしな! シャドークロー!!」

この状況は余りよろしくありません。

少しずつではありますがポイントは順調に減っています。

相手は影を使ったヒット&アウェイ作戦。

狙いは定まらず、反撃の糸口も――

出たり入ったり?

そう。攻撃するためには表に出る必要があります。

「ネールさん、泥遊び! とにかくたくさん泥遊びです!!」

「やけっぱちかい……
 もういいよ。終わりなよ。ゲンガー! シャドーパンチ!」

このタイミング。この一瞬ならば、ゲンガーにだって技が当たるでしょう。

勿論、的外れな方に撃っては意味がありませんけれども……

「ネールさん! たくさん作った泥を、全方向に思い切り泥掛けです!!」

点の攻撃を確実に命中させるのは至難の業。であれば面の攻撃を撃てばいいのでした。

絨毯爆撃であれば、避ける方が難しいということです。
 ▼ 22 TOg35azcXc 18/09/20 22:29:48 ID:ZgpI3Q7U [21/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ゲンガー、バトルオフ! よってミカン選手の勝ち!!」

「な…… やられた……?」

「泥掛けならぬ泥雪崩。これはこれは面白いものが見られました」

「泥遊びで大量に作った泥を、避けられないタイミングでぶつける。見事な作戦でした」

「いや〜 好きですね〜」

「やった……?
 ……やりました! ネールさん!!
 これで決勝進出、もうひと踏ん張りですね!」

「おめでとうございます」



そして遂に辿り着いた、ポケモンコンテストの決勝戦。

優勝リボンを勝ち取ることを夢見て、ここシンオウにやって来ました。

そしてネールさんとデンジさんの力を目いっぱい借りてここまで。

ここまで来たからには、最後まで、あたしはあたしにできる目一杯をやるだけです。
 ▼ 23 TOg35azcXc 18/09/20 22:31:38 ID:ZgpI3Q7U [22/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
アナウンスに呼ばれてフィールドまで出ると、相手もまた対面に上がってきている最中でした。

深く息を吸い込み、気圧されてしまわないように対峙します。

「ミカンさんでしたよね! あたし、キャルって言います!
 正々堂々宜しくお願いしまっす!」

「これはご丁寧にどうも、キャルさん
 あたしはミカンです 宜しくお願いします」

「選手同士の挨拶。いや〜。好きですね〜」

「では、お互い出場ポケモンのボールを持って…… 始め!」

「レッツゴー! いっくよー! ズルッグ!」

「シャキーン! ネールさん! お願いします!」

今度のネールさんは星だけでなくハートのエフェクトも散らしながら現れました。

対して相手のポケモンはラインが走るエフェクトがシンプルで心地のいいもの。

その中から現れたのは、黄色い恐竜のような見たことのない種類でした。

多分シンオウやジョウトには棲みついていない種類。ズルッグと言いましか。

事前情報なしでのバトルは、非常に危険ですね。何タイプなのでしょうか? どんな技を持っていますか?

慎重に見極めていかなくては、バトルは不利に進むばかりです。

「ハガネール…… どう見たって硬くて重そう。
なら、行け、ズルッグ! けたぐり!」

「嘘!? 格闘タイプ!?
 これは、どうも後手に回りますね……」

「おおっと、これは双方、先程の試合とは有利不利が逆転していますね」

「ええ しかしお互い相性だけを頼りにした戦い方ではないので、楽しみです」

「いや〜。好きですね〜」

相手は決勝まで進んできた猛者。

そのうえでタイプ相性も悪いとなると、難しいものです。

ここは兎に角、攻めなくては。

「ネールさん! 体当たり!」

「踊って! ズルッグ!」

「何と! あのズルッグ、ハガネールの動きを呼んで最小限の動きで回避した!?」

「いや〜。好きですね〜」

「ふふ! いくら硬くても、相性が良ければこっちのもんだよ! いっけー!」
 ▼ 24 TOg35azcXc 18/09/20 22:33:42 ID:ZgpI3Q7U [23/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
そんな……

ここで負けてしまうのでしょうか。

本当に頑張って来たのに。いっぱい助けて貰ったのに。

しかし、打開策は何も思いつかずじり貧。

バトルポイントもどんどんと削れていってしまいます。

ごめんね、ネールさん。

あたしは諦めて勝負の行く末から目を逸らし――

「諦めんな!!」

彼の声が響きました。

あたしにとって特別な、彼の声が。

それだけであたしは、心の中の消えかかった灯火が再燃していくのが解りました。

しかし状況は未だ変わっていません。こちらに不利な状況のまま。

どうするべきなのか。考えて、考えて。一つだけ思いつきます。

相性不利な相手への対策。それが出来るからポケモンバトルは楽しい。

ネールさんにできることの中で、一髪逆転の手段は、この賭けだけですね。

「キャルさん。貴方のズルッグって、♂ですか?」

「うぇ? そうだけど、それが…… ま、まさか!?」

不利なバトルの最中なのに、あたしはつい口元が緩んでしまいました。

賭けには勝ち、ですね。では、遠慮なく勝たせてもらいます。

「それなら、これが出来ますね。ネールさん! メロメロです!」

「おおっと、メロメロが決まった! あのハガネール、♀なんですね!」

「大きなハートのエフェクトが眩しくて綺麗です。これは得点高いですよ」

「いや〜。好きですね〜」

ここにきて、今まで出さないでいた最後の技が役に立ちました。

この技を覚えさせることを提案してくれたのは彼でしたね。

「ズルッグ! 気をしっかり持って! まだバトルの途中よ!? ああ、決勝戦なのに…… そんなぁ……」

「キャルさん。対戦ありがとうございました。あたし、あなたと戦えてよかったです。」

「……ぐすん。あたしも。負けちゃったけど楽しかったよ。ありがとう。」

「ズルッグ、ポイントアウト! よって勝者ミカン選手!
 ポケモンコンテストナギサ大会、優勝者はアサギシティのミカン選手だーーー!!」
 ▼ 25 TOg35azcXc 18/09/20 22:35:05 ID:ZgpI3Q7U [24/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
その後表彰式が行われ、あたしは大勢の前で優勝リボンを受け取りました。

しかしその姿を見て欲しいと思っていた彼は、群衆の中のどこにもいなくて。

あの時聞こえた声は幻聴なんかじゃありません。その筈だというのに。

大勢の人の中でも、あたしは何故か一人ぼっちの気分になってしまいました。

お開きになった会場を後にし、あたしは駆け出しました。

彼の姿を探して。人ごみの中を。

まだ遠くにはいっていない筈。

走って、走って。探し回って。

いつの間にか自分がどこにいるのかさえも判らなくなっていました。

「あらあら、コンテスト優勝者のミカンさんじゃないですかぁ。
こんなとこで会えるなんてラッキー♪」

「てか、マジマブくね? チョベリグっすか?」

「ここどこだか解ってんの? マジやべえ奴いっぱいいるよ?
 俺等安全なとこ知ってっからついて来いよ。なあ!?」

な、なんですか、この人たち。

「け、結構です。あたしは、自分で帰ります」

「なんだよつれないなぁ。
 ミカンちゃん、俺君の大ファンなんだよ。ちょっとくらいファンサービスいいでしょ?」

「てかマジパなくね? ザギンでシースーっすか?」

「ほら、こっち来いよ。大人しくしてたら悪いようにはしねえって」

「い、痛…… ちょっと腕引っ張んないで……! ひ……」

駄目…… 力じゃ勝てません……

ポケモンも、今はコンテスト後で疲れ果てたネールさんしか連れていませんでした。

誰か…… 誰か助けて……!

目に溜まった涙が頬を伝って地に落ちました。

知らない暗い道は怪物のお腹の中のようで不安を煽ってきます。

引っ張られる腕が痛い。

あたしはこれから、どうなってしまうのですか……?
 ▼ 26 TOg35azcXc 18/09/20 22:35:53 ID:ZgpI3Q7U [25/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「おいお前ら何してんだ。 ……その子嫌がってるだろ」

何処からか、突然声が響いて来ました。

その声はあたしに絡む不良たちに向けて放たれています。

「何だ! どこにいる! 一体何者だぁ!」

「てかマジバブくね? マジモエルーワすか?」

「ヒーロー気取りかよ! 何様のつもりだ!」

「……うるせえな。喚くなよ。
 ……ヒーローとかそんなつもりじゃねえよ。俺は――」

欠伸を噛み殺すように気だるげな様子を見せる彼は、こちらに近づきながら一瞬溜めて。

「――ジムリーダー様だ」

尊大に言いました。
 ▼ 27 TOg35azcXc 18/09/20 22:37:24 ID:ZgpI3Q7U [26/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「ジムリーダーだぁ? はは! そりゃいい!
 知ってるぜ? ジムリーダーって雑魚しか持てねえんだよな?
 お前のラクライ、俺ボッコボコにしたことあるもんよ?」

「てかマジアレくね? ザコチャーウっすか?」

「いや、お前さっきから何言ってんの?」

「なんだなんだ。ビビッて損したぜ。
 こいつに負ける位の雑魚なんか恐るるに足らん!」

「あ? なんだ? 俺をディスってんのか?」

不良たちは彼を無視して勝手に喧嘩を始めそうな勢いです。

それでもあたしの腕は強くつかまれたままで。

痛いし、動けません。助けて下さい。

「おい、お前ら。
 その子を放して大人しく引き下がるって言うなら、今回は見逃してやる。
 ……十数えるうちに決めろ。」

「おいおい、雑魚が俺様になんて口きいてやがる?
 まあいい、黙らせりゃ問題ないだろ。
 スカタンク!! キッツいのお見舞いしてやれ!!」

不良は自分のモンスターボールを投げると、スカタンクを彼に仕向けます。

出てきた当初は余裕の笑みを浮かべていたポケモンさんでしたが、彼が近づくにつれ表情が引き攣って震えだしました。

「おい?
 スカタンク、どうした!? 何足を止めてやがる!!
 おい! お前らもポケモン出せ!! スカタンクが使えねえ!!」

「………ブニャット」

「何やってんだよ!?
 お前メンテしねえからスカタンクぶっ壊れてんじゃねえかよ!!
 尻拭いさせられる方になってみろ! 行け! フワライド!!」

他の不良たちも意気揚々と自分のポケモンを出しました。

でもそのポケモンさんたちもスカタンクと同じように、震えだし、行動することが出来ていません。

この不良たちは、自分のポケモンさん達の気持ちがまるで分っていないようでした。

ポケモンが好きなら気付いてしかるべきでしょう。

彼らの表情を。この異常事態を。
 ▼ 28 TOg35azcXc 18/09/20 22:38:44 ID:ZgpI3Q7U [27/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……九。………………十。
 さて、充分待ったが、それが答えとみていいのか?」

「は! お前に何ができるっつうんだよ! 何かできるならやってみろよおい!!」

どれだけ煽られようと、彼の表情は変わりません。だって、変える理由がないのですから。

あたしはこんな目に遭った後だというのに、不良たちの数秒後を心配してしまいます。

「……暴れろ、エレキブル。彼女は傷つけるな」

彼が投げたボールから、暴君が放たれます。

その迫力を持って、事ここに至ってようやく不良たちに危機感を覚えさせたことでしょう。

……遅きに失した感は否めませんが。

もはやあたしになんて目もくれず、不良たちは一目散に逃げだし…… 遠くの方で悲鳴が上がり、消えました。

「って、やり過ぎです! 相手は人間ですよ!! 何してるんですか!!」

「……殺しちゃいねえよ。無力化しただけだ。
 ちゃんと補導する。治療も受けさせる。」

「ほ、本当ですか!? 大丈夫ですよね!? あの人たち……」

「あのな。これでも俺は協会公認の人間だぞ。
 殺人なんざできねえよ。したくもねえしな。」

 ▼ 29 TOg35azcXc 18/09/20 22:40:34 ID:ZgpI3Q7U [28/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
彼の言葉を聞いて、心配ないと解ると落ち着きまして。

落ち着くと同時に、先程感じた恐怖が今更ぶり返してきました。

たぶん、張り詰めていた糸が切れてしまったということなのでしょうね。

震え出す身体を、自身の手で掻き抱くように抱きしめます。

怖かった。何をされるのか全く分からず。襲われてしまうのではないかと。

そうして震えるあたしをデンジさんはそっと抱きしめ、頭を撫でてくれました。

あたしはその優しさに、彼の胸に全てを預けて。

そのまま、幼子のように大声を上げて泣いてしまいます。

「……う、うああぁぁぁあん!! こぁ、かったよぅ!!
 あたし、ぁたし…… なぃ、されぅのかって…… うぅ……!」

「……よしよし。お前が無事で本当によかった。
 とりあえず一杯泣いて、そんで笑ってくれ。
 胸くらい、貸してやるから。」

どれくらい泣いていたことでしょう。

気付いたら、彼のエレキブルが伸びた不良たちを担いで近くに立っていました。

確かに黒焦げではいますが、生きてる証の呼吸はしっかりあるよう。

「それにしても、やはりやり過ぎではないですか? 何でこんなになるまで?」

「………………」

彼は何かもの言いたげな目でこちらをじっと見つめてきました。
 ▼ 30 TOg35azcXc 18/09/20 22:42:55 ID:ZgpI3Q7U [29/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
……え? ……あたし?

「あ! あたしが捕まってたからですか!? 心配かけてしまって申し訳ありません。そして、本当にありがとうございます。」

「……気を付けろ。……あともうちょい休んでろ」

彼は懐からボールを出し、レントラーを開放。

そしてその背にあたしは押しやられ、座らされて。

少し乱暴な乗り方になってしまいましが、レントラーは紳士的にあたしを運んでくれます。

行先はナギサシティ。彼の街だ。

あたしはそれに甘えて凭れかかり、懐にあったリボンに手が掛かって、その存在を思い出します。

長いこと夢見てきたコンテストの優勝リボン。

得たばかりのそれを、一瞬でも忘れるなんて、あたしどうかしてるでしょうか。

そうだ。コンテストと言えば。

「デンジさん…… 声援、ありがとうございました。
 あたし、あれのお蔭で……」

「………… ……なんのことやら」

決勝戦。

相性の不利に諦めかけていたその時に観客席から響いた声。

あたしはそれで諦めること諦められて、勝つことが出来ました。本当に感謝しています。

あれ? でも……

「応援してくれて嬉しかったですけど。前の日、言ってらっしゃいましたよね?
 『優勝だけはしてくれるな』って。あれ、なんだったんですか?」

「……やっぱ聞こえちまってたか。……あれはもう気にすんな。
 夢を掴めたんだ。いい試合だったよ。こっちも熱くなれた。」

誤魔化すように彼は言いました。

しかしあたしは優勝するなと言っておきながら背中を押してくれた矛盾が気になってしまって。

つい、食い下がってしまいます。

「……あのバトル見て応援しねえ方がどうかしてる。
 本音は優勝なんてして欲しくなかったよ。」

「何故、ですか……?」

「お前最初に言ってたろ。……優勝するまでは帰らないって」

……つまり。それは。

「……優勝したら、お前、ここにいる理由ねえだろ」

 ▼ 31 TOg35azcXc 18/09/20 22:44:50 ID:ZgpI3Q7U [30/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
それを言うということは、そういうこと、ですよね。

彼もまた、あたしといることを心地よく思ってくれているということ。

そしてその時間が無くなることを惜しんでくれている、ということ。


……そうだったのですね。

あたしはそれを聞いてとても暖かいものを胸に感じました。

「ずっとモヤモヤしていたが…… やっと自分の中で得心が行った。
 ……俺はお前のことが好きだ。……ずっと俺の傍にいてくれ」

嬉しい。

この思いがあたしの一方的なものではないことを知れて。

そう言ってもらえるなら、あたしは。

「ありがとうございます。嬉しいです。
 ……ただ、そのお願いは聞くことが出来ません。すみません」

心置きなくアサギに帰ることが出来そうです。

 ▼ 32 TOg35azcXc 18/09/20 22:46:54 ID:ZgpI3Q7U [31/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
「……やっぱりそうなるか」

「はい。
 あ……お断りするという意味ではありませんよ! 断じて!!
 寧ろ気持ち自体は私もそうなんです!
 ……ただ、あたしは。あたしも、ジムリーダーですから。」

いつまでも自分の都合だけで空けているわけにもいきません。

ジムトレーナーたちも待っていますから。

「それにあたし、今度はジムリーダーとしての高みにも挑戦したいんです!
 デンジさんのように、勝っても負けても笑い合えて、今後の糧となれるような素敵な勝負をできるように。
 そして有事の際には誰にも負けないような強さを備えたり。
 デンジさんは、私の憧れです。」

あたしは多分、まだまだ。

でもいつか彼に届くように、色々なことに挑戦していきたい。

そう強く思ったのです。

「……マジか。……お前の前で格好付けたのは失敗だったか。
 ……帰りたい気持ちに拍車をかけることになるとはな」

彼は後悔したように言います。

そんな顔をしないでください。

「……俺、言うほど凄い奴じゃねえよ。……大人でもない。
 ……お前がいなくなることにこんな動揺してて――」

それ以上彼が格好悪いことを言わないように、あたしは少し背伸びして、彼の口を、塞ぎます。

唖然とした彼の表情を近くで見て、愛おしく思いました。

「……あたし、頑張りますから。応援しててくださいね。」

 ▼ 33 TOg35azcXc 18/09/20 22:48:20 ID:ZgpI3Q7U [32/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
翌日。あたしは善は急げとばかりにシンオウ、ジョウト間の船のチケットを手に入れました。

彼はいつものジムリーダー業務に忙しくしています。

ちゃんとお別れを言いたかったけど、仕方ない、ですね。

乗船時間になり、あたしは船の上へ。

甲板から暫くの間過ごしたナギサシティを眺めます。

色々ありました。コンテスト出場を目指して、シンオウに来て。

デンジさんに会って……

あれ? 何でしょう…… 目頭が熱くなってきました。

ここに心残りはもうないと思ってたのに。

出航時間が近づきます。

ここは揺れるらしいので、船室に戻りましょう。

踵を返し、甲板扉を向いたとき――

「おーい! ミカン!! ……間に合った、ぜ」

彼が、船の下までやって来ました。

「デンジ、さん……」

「手紙! ……書くから。
 なんか困ったことあったらなんでも言え。……相談に乗るしかできねえかもだけど」

「は、はい! 勿論です! デンジさんが相談に乗ってくれたら百人力です!」

「ああ……」

言いたいことはいっぱいあった筈なのに、いざとなると言葉が出てこなくて。

そのうちに警笛が鳴り、船が動き出して。

……遠ざかっていく彼に、これだけは伝えなくちゃと、大きな声を挙げました。

「大好きです!!! デンジさん!!」

彼は一瞬驚いた顔をし、しかしすぐに笑顔になって手を大きく振ってくれました。

 ▼ 34 TOg35azcXc 18/09/20 22:49:51 ID:ZgpI3Q7U [33/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
ジョウトに戻ったあたしは、すぐにジムリーダーに復帰させてもらい、精力的に日々の業務をこなしました。

楽し気に仕事をする姿は、回りからはとても好意的にみられるらしく。

沢山心配かけたジムトレーナーたちも安心したように笑ってくれました。

定期的に続くデンジさんとの文通も楽しくて。

お互いの近況報告みたいになってはいるけれどあたしたちはそれでいいのだと思います。

でも、次に会う時は、きっともっと魅力的な女の子になっていられますように。



……そうだ、料理にも挑戦してみましょう。美味しく作れるといいな。



                                    ――fin
 ▼ 35 TOg35azcXc 18/09/20 22:52:08 ID:ZgpI3Q7U [34/34] NGネーム登録 NGID登録 報告
https://pokemonbbs.com/poke/read.cgi?no=860029&l=1-

こちらの企画に参加します
 ▼ 36 ママ@ダークボール 18/09/20 23:17:38 ID:HrOsPmJY NGネーム登録 NGID登録 報告
乙でした
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