【ss】花火:ポケモンBBS(掲示板) 【ss】花火:ポケモンBBS

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【ss】花火

 ▼ 1 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 17:56:01 ID:lo3.0kMU [1/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告


「そういえばサナ、聞きましたか? カルムとセレナのこと」
「え? 二人がどうかしたの?」
「あの二人、結婚するらしいですよ」
「…………へぇ」

 へぇ。ふーん、そっか。そうなんだ。あの二人、とうとう結婚しちゃうのか。

 ▼ 2 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 17:56:39 ID:lo3.0kMU [2/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 ミアレシティのカフェの中。対面の席で「ようやくか、って感じですよね」と屈託なく笑うトロバに「そうだね」と首肯すると、あたしは二人について思いを馳せた。
 カルム。カロスリーグのポケモンチャンピオンにして、世界を救った英雄。
 セレナ。同じく世界を救った英雄にして、現状のカロス地方で唯一カルムと渡り合えるとされている凄腕トレーナー。
 二人とも、あたしの大切な友人だ。一緒にカロス地方を周り、時にはポケモンを戦わせたり、またある時はフレア団に協力して立ち向かったりして。カルムが殿堂入りした後、皆がそれぞれの道に進み始めても、会う機会がだんだん少なくなっていっても、あたし達は変わらぬ友人であり続けた。あたしは、あたし達は、カルムとセレナが大好きなんだ。
 だから、あたしは二人を祝福しなければならないんだ。
 ▼ 3 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 17:57:16 ID:lo3.0kMU [3/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告

 ○

 まだカルムが殿堂入りする前の頃、あたしは彼と二人っきりで花火を見たことがあった。その経緯を手短に説明すると、道を塞いで寝こけているカビゴンを起こすため、ポケモンのふえを借りにパルファム宮殿に行ったんだけれど、持ち主のオーナーが飼ってたトリミアンが逃げ出していてそれどころじゃなかった。そんなわけで(オーナーが可哀想だったし)、たまたま一緒にいたカルムとともに紆余曲折の末トリミアンを捕まえたんだけど、そのお礼としてオーナーが打ち上げ花火を上げてくれた、んだっけ? 何年も前の話なのでだいぶ曖昧になっているけど、大体こんな感じだった筈。もっとももし違っていたとして、確かめる方法なんて私にはないんだけどね。
 ▼ 4 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 17:57:40 ID:lo3.0kMU [4/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 だけど、カルムと一緒の打ち上げ花火はよく覚えている。ぼんやりとしか覚えていない経緯に対して、こちらはよほど鮮明に。あのときの光景を一秒ずつシャッターに切って心のアルバムにしまい込んでいたみたいに、はっきりと、自分の放った台詞も含めて覚えていた。それくらい、あたしはあのときの出来事を大切にしていたんだ。
 ▼ 5 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:00:00 ID:lo3.0kMU [5/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告

 花火が打ち上がる直前、あたし達は宮殿のテラスに立っていた。さっきトリミアンを追いかけて走り回った庭が一望できるそのテラスは、ひどく静かだった。もとい、静かだと思った。もちろん実際はそんなことなかったし、っていうか周囲の喧騒も準備に慌てる使用人さんたちも何故か高鳴る鼓動の音も全部ちゃんと聞こえてはいたんだけど、それでもあたしは静かだって感じてた。緊張、わくわくといった感情に相殺されていたのか、単に当時のあたしが図太いだけだったのかは分からないけど。……いや、図太いはないかな。心臓うるさかったし。何にせよ、あたしは雑多に鳴ってた筈のいろんな音を全部遠くに感じていたんだ。
 ▼ 6 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:00:37 ID:lo3.0kMU [6/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 そんなふうになったのはそのときが初めてだったから、あたしは面白くて、何だかほわりとした感覚だった。今ならそれが同い年の男の子と二人っきりの花火っていう事実のせいだと言えるんだけど、当時のあたしはそんなことは分からなかった。ただバクバクの心臓をきゅっと抑えて、未体験のほわほわに浸って喜んでいるだけだった。
 ▼ 7 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:01:45 ID:lo3.0kMU [7/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 一方のカルムはというと、何というか、所在なさげだった。たかが飼い犬を見つけたくらいで花火を打ち上げるだなんて大規模すぎて、引いていたんだと思う。お金持ちってすごいなーって感じでさ。ポケモンリーグチャンピオンとなった今でこそ彼は冷静沈着の代名詞みたいな存在だけど、このときのカルムはまだバッチ一個。フレア団と戦う前のまごうことなき新米トレーナーだったから、彼が動揺を見せているのも仕方のないことだった(というか、多分あたしの前で彼が露骨に動揺していたのってこのときしかない気がする。ますますこの思い出を忘れるわけにはいかなくなったなあ)。
 ▼ 8 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:03:08 ID:lo3.0kMU [8/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 そんな彼に、熱に浮かされていたあたしは言葉を投げた。庭の方に目を向けたまま、カルムの顔を見ることなく。

「ねえ、カルム」

 カルムがこっちを見る気配がする。しかしそれでも、あたしは変わらず庭を眺め続けた。

 庭の中央に位置するでっかい噴水がわしゃわしゃと忙しなく水を吹き出し続ける。あたしは平坦な口調になるよう努めて事実を述べた。

「あのね、あたしね……男の子と二人っきりで花火なんて初めてなんだよ」

 目を見開く気配。息を呑む音。それらを無視して私は続ける。

「これから見る花火……カルムと一緒だから、ね」

 カルムの方に振り向いて、一言。

「あたし、一生の思い出にする!」

 そのときのあたしがどんな表情を浮かべていたか、客観的に見ることは叶わないけれど。多分、満面の笑みというやつだったのだろう。
 ▼ 9 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:04:18 ID:lo3.0kMU [9/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 そんなあたしにあてられたのだろうか、カルムもクスリと笑って頷いた。

「……ああ。僕もそうするよ」

 その言葉に、あたしは無性に嬉しくなって。

「僕も、女の子と二人っきりで花火は初めてなんだ」

 そして、とっても恥ずかしくなって。

「だから――」

 そこで、花火が打ち上がった。

 ヒュルヒュルと登る光の蕾がカルムの声を掻き消した。あたしもカルムも瞬時に会話を打ち切り、空を仰ぐ。

 薄暗いオレンジの空に鮮やかな青が咲いて、それを皮切りに様々な色の花火が打ち上げられた。赤、黄色、ピンク、橙……。あっという間に、空は一面の花畑となってしまった。

 何というか、すっごい綺麗だった。この世界のどんな宝石も、あのときの花火には叶わないんじゃないかってくらい。……まあ、これはあの花火が凄いっていうよりは、カルムと一緒に見たからっていうのが大きいのかもしれないけど。
 ▼ 10 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:04:52 ID:lo3.0kMU [10/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告

 でも、その花火より綺麗だったのがカルムだ。

 打ち上がる花火の数々に興奮していたあたしはふと、どんな顔をしているか気になってカルムの顔をちらと見た。

 宝石よりも、花火よりも輝く瞳がそこにはあった。

 言うまでもないことだけど、カルムは顔がいい。でも、彼はあんまり表情を変える人じゃない。クールといえば聞こえはいいけど、実際は無愛想なだけだ。それでも顔はいいから普通にしてても格好いいんだけど、やっぱり笑った方がずっといい。……まあ、あんまり笑ってくれないんだけど。

 でも、そのときのカルムは笑ってた。打ち上がる綺麗な(綺麗って連呼せざるを得ない貧困な語彙力でごめんね)花火に見とれて、ワクワクしてた。純粋に、楽しそうに、笑っていたんだ。
 ▼ 11 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:05:27 ID:lo3.0kMU [11/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
火が空気を打ち鳴らしていた筈なのに、遥か遠くのことのように思えた。ただただ、あたしの目はカルムの笑顔を追っていた。花火の光に当てられて、彼の顔はやたらと輝いていた。

 思うに、あたしがカルムの笑顔を初めて見たのはそのときだった。普段は無愛想な彼の、心の底からワクワクしているときに出る眩しい笑顔。宝石よりも花火よりも美しい笑顔。

 心臓が跳ねた。凄いと思った。……格好いいなって思った。その瞬間、私はカルムに惚れたんだ。
 ▼ 12 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:05:59 ID:lo3.0kMU [12/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
「サナ?」

 カルムが首を動かす。あたしの視線に気付いたんだ。そう思った瞬間、あたしは勢いよく庭の方に首を向け、これでは花火が見られないと気づいてまた勢いよく空を見上げる。言うまでもなく、ずっと花火を鑑賞していた人間としては不自然すぎる行動だ。カルムから怪訝な視線が送られているのを感じる。その表情を確認するのが怖くて、私は振り向かないで「何でもないよ」とだけ言った。

 多分、打ち鳴らされた花火の音にかき消されて届いていなかった。それならそれで、もう一度嘘をつく気にはなれなかったし、別にいいや、と思った。
 ▼ 13 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:06:18 ID:lo3.0kMU [13/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 花火の打ち上がるペースが緩やかになっている。もう終わりが近いんだろう。

 あたしはこっそりカルムに近寄った。二人きりのこの瞬間が、もうすぐ終わってしまうなら。これくらいしても罰は当たらないだろうと思ったからだ。

 蕾が打ち上がる。ヒュルヒュルと登り、勢いよく開いて空気を揺らす。ひときわ大きな花が数秒だけ宙に浮かんで、すぐに滲んで消えていく。煙の匂いと残響音だけがその名残だった。

 それが、あたしの初恋だった。

 ▼ 14 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:06:56 ID:lo3.0kMU [14/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告

 ○



 ぐらりと身体が揺れて、あたしは回想の沼から帰還する。

「サナ! 大丈夫ですか?」

 目の前には心配そうに顔を覗き込むトロバ。……っていうか、

「近くない?」

 あたしが言うと、トロバは慌てて離れた。いや、別に離れてって言ったわけじゃないんだけど……。

 何となく、ジトっとした目線を向ける。彼はばつの悪そうに、

「サナ、上の空で顔色も悪かったから、どうしたんでしょうと思って」

 ……ああ、それは確かに、あたしが悪いや。

「ごめんね、気を遣わせちゃって」

「いえ、そんな、」

「……でも、ごめん。気分が悪いから、今日はもう帰るね」
 ▼ 15 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:07:24 ID:lo3.0kMU [15/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
「えっ」

 トロバは驚いたように一瞬動きを止めたが、すぐに忙しなく、

「でしたら、送っていきますよ!」

「ありがとう。でも、いいよ。ごめんね」

 柔らかくて優しい、けれど明確な拒絶。

「あっ……」

 棒立ちになったトロバに、珈琲台を渡すと、あたしはゆっくりと手を振って、「ごめんね、ほんとに」と言う。

「トロバが迷惑じゃなければ、また呼んでね」

「い、いえ、迷惑だなんてそんな」

「それじゃ、さよなら」

 いたたまれなくて、あたしは足早にその場を後にした。「あっ! サナ!」との声が聞こえてきたが、聞こえないふりをして歩き出す。

 ……駄目だなあ、あたし。全く、本当に、トロバは何も悪くないのに、迷惑だけかけて。今日だって研究で忙しい中、わざわざ時間を開けてくれたっていうのにね。あたしも、もういい加減大人にならないといけないのにな。
 ▼ 16 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:08:04 ID:lo3.0kMU [16/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告

 いつまでも終わった恋に囚われていないで、あたしも次に目を向けなきゃいけないのに。カルムとセレナはあたしの友人で、あたしは二人が大好きで、だからあたしは二人を祝福しなくちゃならない。

 ……祝福しなくちゃならないのになあ。

 とぼとぼと街を歩いていると、突然。

 薄暗いオレンジの空に、鮮やかな青が咲いた。

 いきなりのことに呆然としているあたしを他所に、様々な色の花火がミアレシティの空に次々と咲き誇る。赤、黄色、ピンク、橙……。

 どういうこと? 突然、何が始まったんだろうと硬直していると、何やら聞き覚えのある声のアナウンスが街中に響き渡った。

「速報! ポケモンリーグチャンピオンカルム、結婚! ポケモンリーグチャンピオンカルム、結婚! おめでとうございます!!」

 ……ああ、なるほど。あたしはプリズムタワーの方を向く。
 ▼ 17 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:08:28 ID:lo3.0kMU [17/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 シトロンさんめ、やってくれたね。カロス地方の英雄二人が結婚、しかも片方はチャンピオン。おまけにカロスポケモントレーナー不動のツートップともなれば、芸術の都ミアレの上空で花火を打ち上げるだけの喜報ではあるんだろうけどさ。でも、なんというか。こういうのは、あたしがいないときにやってほしかったかなあ。……やってくれたなあ、シトロンさん。あたしは溜め息をついた。

 まあ、綺麗な花火ではあるんだけどさ。でもこれは違うよ。ただ綺麗なだけというか、"あのとき"ほど綺麗じゃない。あれと比べたら雲泥の差だ。最悪な花火だよ、これは。これは最悪な花火だ。
 ▼ 18 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:09:35 ID:lo3.0kMU [18/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
 あたしは周りを見回す。皆は突然始まった打ち上げ花火にはしゃいでいたり目を奪われたり、突如入ってきた衝撃的なニュースに驚いたり祝福したりしていて、何であれこの花火を楽しんでいる。あたしみたいな心持ちの人間はここにはいないようだし、ましてやカルムの姿なんてあるわけもなく。ただ、私の初恋が完全に終わったんだって事実だけがそこにあって。

「……やっぱり、最悪だよ。この花火は最悪だ」

 声に出す。当然のように反応はなく、花火が止まる気配は全くなかった。
 ▼ 19 ープルフレイム◆mL2ZRk1cK. 18/10/12 18:10:52 ID:lo3.0kMU [19/19] NGネーム登録 NGID登録 m 報告
これで終わりです。最初の方改行ミスりました。ごめんなさい。
 ▼ 20 ガラティオス@オーキドのてがみ 18/10/12 18:44:44 ID:GKx6WSlg NGネーム登録 NGID登録 報告
乙カレー(甘口派)
めちゃくちゃ切ないなぁ……
 ▼ 21 ガフーディン@ブレイズカセット 18/10/12 18:52:33 ID:lkOI3b/c NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
お疲れさまです
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