【SS】夢亡き里の変わり者:ポケモンBBS(掲示板) 【SS】夢亡き里の変わり者:ポケモンBBS

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【SS】夢亡き里の変わり者

 ▼ 1 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 17:04:29 ID:PPD.tvug [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「オラッ! 夢の煙を出せ!」

 黒い影が蠢いて、執拗に打撃を食らわせてきた。痛覚は麻痺しているのか、痛みはさほどではないが、体にまるで力が入らない。
 息ができない。吸うことも吐くことも、当たり前のことができない。口と肺だけを残してその途中が跡形もなく消え失せてしまったかのようだった。
 内から外から、苦悶が肉体の至るところを苛む。掠れた喘ぎを発する乾ききった喉から、生命力が流れ出ていくような感覚。

 一体、どれほど続いていたのだろう。

 どこか、暗い場所だった。影の主の輪郭は判然とせず、何匹いるのかも窺い知れない。

「こいつはもうダメか。これ以上搾り取れそうにねえ」

「なら処分するか!」
「次を探そう!」

 低く暗い声と、2つの高いキーキー声。

「もう手の施しようもない……仕方ないか。長いことお疲れ様でした、ってな。せめて苦しまず死にな」
 
 低い声が答えた。次いで、息を吸い込むような音。そして。

 暗闇の中で不思議なほど鮮やかに浮かび上がった、黒い閃光。
 眼前に迫り来る。
 気力も体力も尽きたこの身では、とても避けられない。
 これは。

 ――あくのはどう
 ▼ 19 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:28:40 ID:PPD.tvug [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「おおん!? いい度胸だぜてめえ!」

 蒸気を吹き出しながら怒りを露にするヒヒダルマ。そういえば、彼は熱烈なサーナイトファンだった。

「すみません、ブレーキが間に合わなくて。この度は、たいへん申し訳ございませんでした!」

 投げられた先で何かに激突することもなく、どうにかこうにか無事静止。
 ひとまず、真摯な謝罪の姿勢を見せておく。それはもう深々と、一生の不覚を詫びるが如く。
 その甲斐があったかは分からないが、ヒヒダルマに深く追及する気はなさそうだった。

「なんだムンナか! てっきりゾーオの連中かと思ったぞ! どうしたのだ!?」

「ええと、サーナイトさんに少しお話があって」

「なんだと! 抜け駆けは許さないぞ! どうしてもと言うなら俺を倒してからいけ!」
 
 エスパータイプだらけの里にあって、ゴリゴリの肉体派である彼のノリはかなり独特で、変わり者扱いされている。
 控えめに言って暑苦しく、どうにもやりづらい印象があった。
 返答に詰まってしまう。
 ▼ 20 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:34:45 ID:PPD.tvug [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「私に御用があるのですね」

 つかつかと歩み寄るサーナイトに道を開けるように、サッと割れるポケモンたち。

 強力なサイコパワーとフェアリー技を使いこなし、悪タイプにも遅れを取らない実力。何よりその美貌と、そこからくるカリスマ性。
 精鋭たちを率いる彼女の存在感は、まさに女神。
 助け船を出してくれたこともあって、一層神々しく見えた。

「は、はい! 実は、夢を見て……ゾーオが襲ってくるかもしれないんです!」
 ▼ 21 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:35:17 ID:PPD.tvug [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「夢? でもムンナは予知夢をみれないはずだぞ! 見れるのはムシャーナさんだけだったぞ!」

 けして悪意があるわけではない、と思うのだが、ヒヒダルマのこうした遠慮のなさは苦手だった。
 周りのポケモンたちがざわつきだすが、サーナイトに動じる様子はない。

「それは……正直、よく分からないんです。でも、とても嫌な感じの夢で、もし急に見れるようになったんだったらって思ったら――」

「――ふむ。つまり?」

「だから、えっと。その、お気をつけてください!」

「気をつけて。なるほど」

 考え込む素振り。こんな顔もお美しいなあ。
 ▼ 22 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:40:00 ID:PPD.tvug [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「貴方の見たものが予知夢なのか、ただの夢なのか。あなた自身が確信を持てない以上、特別の警戒措置をとる、というわけにもいきません」

 ですが、と彼女は続ける。

「まったく無意味なこととも思えませんから、そう、『気をつけて』行ってくることとします」

「心配いらないよ、俺たちがやられたりなんてしないさ」

 軽い調子で口を挟んできたのはエルレイド。

 サーナイト団長の弟にして副団長でもある彼は、草木や岩石、果てはポケモンの技をも切り裂く斬撃を使いこなすという。
 自慢の肘の刃を軽く伸縮させながら、彼はニヤリと笑う。

「マカフの最高戦力は伊達じゃない。俺たちが真っ先に当たれるなら、被害が出る前に潰すことができる。むしろラッキーだ」

 気楽そうな口調とは裏腹に、彼の表情は真剣そのもので。僕の言葉を小馬鹿にせず受け取ってくれるのが、嬉しかった。
 ▼ 23 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:44:47 ID:PPD.tvug [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「まったく、馬鹿な弟を持ったものね。――聞いたわね!? 総員、けして油断することなく、細心の注意を持って任務にあたること!」

 サーナイトの号令に吠える遠征兵団。そして彼女はこちらに向き直って。

「里の方は、メタグロスさんやチャーレムもいるしね。大丈夫、いつも通りっていうのは、常日頃からの備えがちゃんと機能するってことだもの」

 知らせてくれた礼に僕の好物のクラボの実を多く採ってくると約束してくれて、それから僕の背を数度軽く撫でさすってから。

 サーナイトさんたち遠征兵団は今度こそ出発した。
 ▼ 24 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:49:49 ID:PPD.tvug [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「いやいやムンナくん、積極的に攻めましたねー」

 こうしてバネブーにからかわれるのは想定内だった。想定内ではあったが、実際にされてみると気恥ずかしさがあるものだった。
 いやもちろん、邪な目的や下心なんてこれっぽっちも、そう、露ほどにもあるわけがなくてあくまで純粋に、知らせておくべきことだと思って、だけどね、それはそれとしてだよ。

 また、どうやらあの一件で僕はサーナイトさんの熱心なファンとして認定されたらしく、そこらから冷やかしの声やら先輩ファンのありがたいお言葉やらを浴びていた。
 そんな僕の様子をバネブーは完全に面白がっている。
 ▼ 25 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:52:26 ID:PPD.tvug [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 だけども。

「予知夢も見れないくせに出しゃばるなよな」
「いい加減なこと言って、サーナイト団長たちを邪魔しようとしたんだ」
「俺たちを飢えさせようとしてる。ホントはゾーオのスパイじゃないのか」
「ただの夢の話するとかさあ。そろそろ夢と現実の区別ぐらいつけるべき歳でしょ」

 そうだ。これが普通だ。

 僕は夢を見れない役立たずだから。
 たしかに僕によくしてくれるポケモンもいる。いるけれど、これが世間一般の声というやつだ。
 それに、彼らにしたって、内心では僕を疎ましがっているのかもしれなかった。
 ▼ 26 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/22 18:55:17 ID:PPD.tvug [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 やっぱり、僕は変わりたい。そう思った。

 遠征兵団に入って、みんなの役に立てば。きっと僕を認めてくれる。
 そのために、強くなろう。
 強くなるにはどうするか。強いポケモンに会いに行こう。
 
 里の実力者は粗方が出払ってしまっているが、残った強者もいる。肝心の里の守りを疎かにはできないからだ。
 残ったメンバーで強いポケモン、といえば真っ先に思い当たる名があった。

 メタグロス。
 彼こそがナンバーワン。マカフの里にて最強と称されるポケモンだ。
 ▼ 27 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:02:13 ID:wN6ADqUo [1/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「悪いが教えられることハ、なイ」

 メタグロスの返事は素っ気なかった。
 部屋には通してくれたし、頼みもちゃんと聞いてはくれた。うんうん、と頷く素振りまで見せていたのだが。

「メタグロスというのはそもそもが強い種族ダ。日々多少のトレーニングを積んではいるガ、特別強さを求めていたわけではないシ、取り立てて努力して強くなったわけではなイ」

 曰く。メタグロス自身の強さの理由は種族とレベル。
 種族については今更どうしようもないし、進化するのが精々だ。つまり僕が手っ取り早く強くなるにはレベルを上げろ、ということらしい。

 メタグロス自身も言うように、はっきり言って参考にならない。そんぐらい知っとるわって話だ。
 ▼ 28 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:03:23 ID:wN6ADqUo [2/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「強くなる道を知りたいのなラ、チャーレムを頼った方がいイ。奴なら色々な工夫をしているはずダ」

 メタグロスが挙げたのは、里のはずれでひたすらヨガ修行を続けるポケモンの名だった。

 隠れた強者と言われるチャーレムだが、遠征兵団の食料調達には不参加を貫いていた。
 彼は修行の一環としてほとんど物を食べないのだが、その生活スタイルを他の住民にも広めようと目論んでいるらしい。
 今のところ、その布教の成功例は一件もないが。

 そんな変わり者ではあるが、実力はたしかだし、何よりメタグロスの勧めなら訪ねない手はなかった。
 ▼ 29 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:15:48 ID:wN6ADqUo [3/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「他に何か、聞きたいことはあるカ?」

 他に。そんなことは考えてもいなかったから、特に思いつくことはなかった。そう伝えようとしたところで。

「それじゃ、1ついいでしょうか」

 バネブーが口を開いた。敬語を使っているのはなんだか新鮮だ。
 メタグロスを訪ねると話したところ、バネブーも行きたいというものだから、連れだって訪問していた。

「ずっと引っ掛かってたことがあるんです。ゾーオのポケモンたちはどうしてマカフの里を襲うんでしょうか」
 ▼ 30 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:17:37 ID:wN6ADqUo [4/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 僕には思い付きもしなかった疑問だった。
 物心ついた時からそうだったから、そういうものなのだ、と考えることすらしなかった。

「食べ物を横取りするため、ではないですよね。自分たちでも手に入れられるはずだし、抵抗を考えると労力に見合わないし。それから、拐われたポケモンがいるって話も聞きません」

「ああ、そして侵略の為でもないだろウ。それにしては襲撃が散発的で計画性が見られなイ。」

「でも、なんの意味もなく攻撃してくるとは思えません。そして数年前から攻撃がないことにもきっと意味がある……メタグロスさん、どう思いますか」
 ▼ 31 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:20:18 ID:wN6ADqUo [5/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……攻撃の目的が見えないのなら、襲うこと自体が目的なのだろウ」

「それはつまり、復讐? それともただの八つ当たりとかかなぁ……でしょうか?」

「襲ってきたポケモンたち、見かけたのはワルビアルやスカタンク、それにジヘッドなどだガ……。あの様子はどう見ても普通ではなかっタ、正気とは思えヌ」

 一度言葉を切ってから続ける。

「何かしらの理由で凶暴化したポケモンたちガ、その捌け口を求めて襲ってきていタ、そう考えていル」
 ▼ 32 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:27:04 ID:wN6ADqUo [6/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 ゾーオのポケモンたちは凶暴化している? 
 ならば、マカフへの襲撃は彼らの本意ではない、ということなのか? はるか前から、ずっと。

「なら、今、襲ってこないのは? 凶暴化の原因が取り除かれたってこと? もう襲われる心配はないのかな」

「楽観視はせぬことダ」

 話し込む二匹との間に見えない薄い膜が張られ隔絶されているような、そんな気分だった。
 なんでそんな冷静にいられるんだ。 

 凶暴化してるからってなんだよ。
 ふざけるな。
 治ったならせめて頭を下げにこいよ。
 お前たちのせいで、どれだけのポケモンが苦しんだ?
 ▼ 33 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:28:56 ID:wN6ADqUo [7/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 予知夢を見て目覚める度、辛そうにしていた母さんの姿を思い出す。
 夢で危険を察知できるのなら、夢の中ではきっと恐ろしい場面を何度も見ていたはずだ。

 僕が見た『あれ』が予知夢だったのかは分からないけれど、もしあんなのが続いたら。きっと精神が参ってしまう。

 お前らさえいなければ。
 母さんはことあるごとに夢で苛まれることもなく。
 もしかしたら、病気もあんなに酷くならずに。ひょっとしたら、今もまだ生きていたのかもしれない。

 そして。
 お前らさえいなきゃ、僕がこんな劣等感にまみれることもなかったろう。

 結局そんな考えに至る自分の小ささが嫌になる。
 なんで僕は、母さんと同じ苦しみを知ることすらできないんだ。
 ▼ 34 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:44:11 ID:wN6ADqUo [8/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ところでメタグロスさん、あの宝石は?」

 バネブーが新しい話題を出したようで、ドロドロとした感情の渦から引き戻される。

 壁際には、赤青白緑など色とりどりの宝石や鉱物を収めたケースが並んでいて、バネブーはずっとそれを気にしているようだった。

 実を言うと僕も少し気になってはいて、夜空のように黒い不思議な石へと、時折視線が吸い込まれていた。
 バネブーの視線の先はまた違う石のようで、うっすら桃色がかった、真ん丸い宝玉だ。
 バネブーがいつも頭に乗せている真珠とよく似ていた。
 ▼ 35 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:50:14 ID:wN6ADqUo [9/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ああ、それは『しらたま』といウ。伝説のポケモンに所縁のある品らしイ」
 
 心なしか上機嫌そうな返答だった。

「このコレクションは、メタグロスさんがご自分で集められたんですか?」

「あア。石には、少し興味があってナ」

「それにしても本当に凄いコレクションですね」

「そんなに誉めてモ、お前に譲ったりはできないガ」

「!? いや、そんなつもりでは!」
 ▼ 36 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:52:31 ID:wN6ADqUo [10/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ああ、それト。
 そろそろ暇を告げようというところで呼び止められた。

「ムンナ、お前の父親が何を研究していたかハ、知っているのカ?」

「えっ?」

 まったく予想していない質問だったので面食らう。それがなんだというんだろう。

「いいえ。父のことなんか――ああ、でも夢の煙で何かやってたんだと思います。集めてましたし」

 放出した煙を瓶か何かに詰めていたのを思い出す。
 だが正直、父のことは思い出したくもない。口調が刺っぽくなるのは抑えられなかった。
 ▼ 37 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 07:53:10 ID:wN6ADqUo [11/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「たしかに奴は夢の煙の用途を研究していタ。実は何度か相談されてもいル」

 そのことは初耳だった。
 考えてみれば、メタグロスは強いだけでなく、並外れた頭脳の持ち主でもある。そういった相談相手としてはうってつけのはずだ。

 ――なんだよ、自分の研究のことすら他者任せなのか。
 ▼ 38 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 08:05:16 ID:wN6ADqUo [12/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「夢の煙は吸ったものに夢見心地にするが、そこにある毒素を混ぜることで効能が変わる。気分をハイにしたり、落ち着けたリ。そういう研究だっタ」

「母が苦しんでる横で、そんなどうでもいい研究をしてたわけですか」

 そんな話がなんだというんだ。
 失礼千万なのは分かっていたが、礼や挨拶もなしにその場を後にした。バネブーの呼び止める声が聞こえたが、僕は振り向かなかった。

 興奮して足早に立ち去った僕は、どこへ向かうとも考えず。勢いのまま、気づけば里の中心からだいぶ外れたエリアに来ていた。
 
 好都合かもしれない。
 ここからはチャーレムの修行場が近い。この足で訪ねてしまおう。
 ▼ 39 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 10:59:37 ID:wN6ADqUo [13/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 切り立った峰のような形状の、鋭く尖った岩。
 その頂上にチャーレムはいた。座禅を組み、瞑想しているようだ。両目を閉じ、かなり集中しているように見える。

 邪魔になるだろうか。声をかけるのを躊躇っていると、目を閉じたままでぐるりとこちらに首を回した。

「ムンナよ、我に何か用か」

「気づいてたんですか!?」

 ギョッとして思わず大声になる。

「うむ。ヨガの道を極めればこれしきは容易いこと。ヨガはよいぞ。お主も志してみるか」

 まずは1ヶ月をきのみ1個で耐えることからだ、との勧誘は遠慮させて頂いて、本題に移る。 
 ▼ 40 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 11:02:52 ID:wN6ADqUo [14/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「強くなる方法を教えて欲しいんです。その、絶食法以外で」

「ふむ。よかろう」 

 音もなく岩から飛び降りる。
 両手を頭上で合わせた状態で片足を折り曲げ、もう片足でバランスを保つ姿勢をとるチャーレム。後で知ったが立ち木のポーズというらしい。

「ヨガに生きヨガを極め、ヨガで得たものを戦いに生かし、比類なき破壊力を得る。それが我らチャーレムだ」

 しかし、と続ける。

「我にはそれができなかった。厳しい修練を積もうと、体術の威力は明らかに弱い。ヨガの真髄を引き出せてはいなかったのだ」
 ▼ 41 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 11:03:36 ID:wN6ADqUo [15/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「そこで編み出したのが」

 淀みない動きで構えをとる。
 その掌に拳大のエネルギーが瞬時に集約され。

 軽く放るように動いたかと思うと、打ち出されたその弾は木々をなぎ倒し。地響きめいた音とともに森の奥へと突き進んでいった。
 ▼ 42 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 11:06:22 ID:wN6ADqUo [16/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「……は?」

「今のは『きあいだま』だ。出力を抑え、スピードと取り回しをよくしている」

 間抜けな声とともに開いた口が塞がらなかった。この破壊力だけでも驚きだというのに、力をセーブした上でこれだというのだ。

「これほどの威力になるのには、もちろん仕掛けがある」
 ▼ 43 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 11:11:46 ID:wN6ADqUo [17/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「我は平時より常に瞑想をし、能力を高めている。ただの瞑想ではなく、技の『めいそう』だ。これにより、いついかなる時も万全を越えた最高のステータスで戦いに臨める」

 そんなのありか。そんなことが可能なのか。
 しかしもちろん、誰にでもできることではない、という。

「常に気を緩めず敵に備え、僅かな途切れもなく臨戦態勢をとるのだ。強靭な精神力と、極限まで無駄を削ぎ落とすことが求められる」

「そんなの、僕なんかにできるわけが」

 変わり者の役立たず。出来損ない。臆病者の息子。父親譲りのろくでなし。
 そんな言葉の数々が思い出された。
 バネブーに言わせれば気にしすぎ、なのだが。
 ▼ 44 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 11:13:48 ID:wN6ADqUo [18/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 我ながら無気力感溢れる声だった。しかしチャーレムは軽く笑みを浮かべ。

「実を言えばな、我もお主と同じなのだ。お主や、お主の父と。変わり者、というやつだ」

「それは、どういう」

「変わり者というのは、必ずしも悪い意味の言葉ではない。お主が負の側面を強く感じるのは無理からぬことだが、存外、悪くないものだ」
 ▼ 45 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 11:16:06 ID:wN6ADqUo [19/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 再び岩の頂上によじ登ると、目を閉じ瞑想に入る。どうやら、話はこれで終わりということらしい。

 僕が背を向けようとしたところ、最後にもう一言だけ付け加えた。

「我が述べたのはあくまで1つの手段だ。だが、常に勝つ為だけに備え、より多くを捧げ、投げ打ち、常識を外れた手を使ってでも。地力で劣るのなら、そうしなければ勝てない」

 何をどうすればいいのかなんて、具体的なことはまだ分からない。

 だけど微かに。
 うっすらとだけど、道筋が見えたような気がした。
 ▼ 46 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 17:55:35 ID:wN6ADqUo [20/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「おーい!」

 チャーレムの修行場からの帰り道、里の中心部にだいぶ近くなった辺りでバネブーと合流した。
 聞けば、あの後はヤレユータン長老のところを訪ねていたらしい。

「チャーレムさんのところに行ってたんだよね? いい話は聞けた?」

「なんとなく、分かったような分からないような……そっちは?」

「キミが怒って出てっちゃったからビックリしたんだけどさ、少し気になることがあって」

「悪かったよ……気になることっていうのは?」

「うん、まずはゾーオの襲撃が始まった時期について」
 ▼ 47 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 17:56:49 ID:wN6ADqUo [21/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 長老によれば、始まりは40年ほど前だという。

 それまでは、気性の荒いところこそあれど、訳もなく襲ってくることなどなく。里の間でいくらかの交流もあったというのだ。

「原因についてはよく分からないみたいだけど……そんなに長く続いているのに、なぜ逃げなかったのか。どうして、里をどこか遠くに移してしまわなかったのか。それが、ずっと気になっていたんだ」
 ▼ 48 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:01:21 ID:wN6ADqUo [22/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 長老が告げた答えは、僕にとって衝撃的なものだった。

 逃げ場はどこにもない。
 海に囲まれて閉じ込められているのだ、と。

「つまり、今まさにいるここは。狭い島だったんだ」
 ▼ 49 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:04:38 ID:wN6ADqUo [23/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「『こっち側』が海に面してるのは知ってたけど、ゾーオのある向こう側には寄り付けないから……」

 秘匿されていた、というわけではないらしい。

 長い間、触れられることもない、必要のない情報だったから。わざわざ伝えもせず、そんな当たり前の情報すら次第に薄れて。
 僕たちは、知らずにいた。

「じゃあ、あいつらのせいで。僕たちは満足に里から出ることもできない、外のことも無知のままだ。あいつらに自由を奪われたから!」

「怒鳴らないでってば。それでね、これでもう1つの疑問も分かったんだ。どうしてマカフばかり襲われるのか。簡単なことだった、そもそも他に襲う相手がいないんだから」
 ▼ 50 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:09:47 ID:wN6ADqUo [24/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 なんで、こんなことに。

 難破した小舟のような閉鎖空間に、血に飢えた天敵と同乗させられ。
 まるで牢獄じゃないか。
 僕たちは、奴等に殺されるためにいるとでも? 冗談じゃない――

 ――ん? 

 あれ?

 何かが引っかかった。記憶の中の何かが、刺激されている。
 重大な何かを目と鼻の先でちらつかされている。そんな感覚だ。なのに、あとわずかで答えに届かない。
 
 だとしたら、あれは、どういう……?
 ▼ 51 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:15:41 ID:wN6ADqUo [25/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ドォーッッ! 

 逞しいまでの轟音。
 耳をつんざく破壊音。
 ただごとではない。何を考えていたのかなど、霧散してしまう。

 僕も、バネブーも、近くにいた他のポケモンたちも。音のした方向をただ見つめ、呆然としていた。

「これは、いったい」

 音は門の方からだった。

 急げ。
 立ち尽くすポケモンたちの間を抜け、そこへ。
 背後からは飛び跳ねる音が聞こえる。振り向かずとも、バネブーも来てくれているのが分かった。
 ▼ 52 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:19:02 ID:wN6ADqUo [26/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 鼓動が高まって治まらない。
 嫌な予感が止まない。

 あんなに、予知夢を見れないことを負い目にしていたのに。
 今の僕は、どうかあれが予知夢でないようにと、そう願っていた。

 もし現実になってしまったら。
 僕が夢を見たせいで起こったんだって、自分を責めずにはいられないから。それが、怖かったから。

 お願いだ、どうか――。

 ▼ 53 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:22:16 ID:wN6ADqUo [27/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 ――ああ。

 目に飛び込んできたのは。
 跡形もなく破壊された門と、全滅した遠征兵団の姿だった。

 サーナイト。エルレイド。ヒヒダルマ。他のみんなも。ぼろぼろの姿で倒れ伏していた。

 まだ息はあるのか?

 分からない。何もかも分からない。
 ▼ 54 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:27:06 ID:wN6ADqUo [28/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 誰が、こんな。

 心の内の問いに答えるかのように、門の向こう側から姿を現す黒い影。
 3対の翼と3つの頭を持つ、あのポケモンは。

「ゾーオのサザンドラってもんだ。あんたらへの要求は1つ、ムンナを寄越しな」

 それは、聞き覚えのある、低く暗い声だった。
 ▼ 55 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:38:32 ID:wN6ADqUo [29/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「今回は誰も死なせてないし、親切に送り届けてやったが、次はこうはいかないぞ!」
「ムンナさえ渡すなら、あんたらを襲わずに済むぞ!」

 腕の2つの頭が発したのは、高いキーキー声。

 記憶が掻き立てられて、頭の中をかきむしられてるみたいだった。うんざりするほど、同じだ。
 間違いなかった。あの夢に出てきたのは、こいつだ。

 なら、あの夢は。やっぱり、本物の予知夢だったっていうのか?

「生憎時間がない、これが最初で最後のチャンスだ。あんたらは勝てない」

 強者から弱者への、宣告。
 ▼ 56 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:47:36 ID:wN6ADqUo [30/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 奴は、凄まじい威圧感を放っていた。
 レベルが違いすぎる。ただその場にいるだけでも、体力を消耗しているようにすら思えた。

 周囲を見回していた右腕の頭が僕を捉えた。
 ぎょろり、と3つすべての首が僕を見る。

「そこにいるじゃないか。どうだ、あんたが私と共に来るなら、里のみんなは無事で済むぞ? みんなを守れるんだ、悪い話じゃないだろう」
 ▼ 57 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:48:17 ID:wN6ADqUo [31/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 寄り集まっていたポケモンたちの視線が集中する。
 恐れと、困惑と、そして期待。

 サザンドラの提案は、正直言って、僕の心に響くものがあった。
 もしこいつが約束を守ってくれるのなら、きっと、僕はみんなの役に立てるのだろう。

 それを魅力的だと思う気持ちは、確実にあった。
 ▼ 58 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 18:57:48 ID:wN6ADqUo [32/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 でも。

「ふざけるな!!」
 
 一度口を衝いた激情は、自分では止めようもなかった。

「誰がお前らの話になんか乗るか! さんざん奪っておいて、今更なんだ!? まず謝れよ! 母さんに謝れ! 自由を返せ!」

 荒い息を整える。
 終わりじゃないさ。まだいくらでも言ってやる。こんなもんじゃない。
 ▼ 59 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 19:01:50 ID:wN6ADqUo [33/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「死ね! 消えろよ! お前らが! お前らがなあ!!」

 最後の方には喉が枯れ語彙力も尽き、もはや掠れた叫び声だった。
 すべてを吐き出して、僕はへたりこむ。

 黙っていたサザンドラが、つまらなそうに口を開く。

「仕方がない、力ずくだ。父親に似ず、聞き分けの悪いやつだな」

 あろうことか、僕が、あの父親以下だというのか!?

 新たな怒りに、微かに力が湧いたような気がした。
 気がしただけだ。
 立ち向かうには僕はあまりにひ弱で、ただ睨むことぐらいしかできなかった。
 ▼ 60 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 19:10:26 ID:wN6ADqUo [34/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サザンドラの口元に黒いエネルギーが集い、膨れ上がってゆく。夢で見たのと同じだ。
 あくのはどう。

 あれで僕の気を失わせようというのだろう。
 気力も体力も尽きたこの身では、とても避けられない。
 
 夢の煙が目当てなら殺されはしない、だろうが。
 このままでいいのか。
 こいつに拐われ、夢の煙を搾り取られ、自由なんてもちろんないだろう。

 いいわけないよな。
 僕なんかにだって、意地はある。ゾーオの奴等の言いなりになんて、なるものか――!

「――伏せていロ!」
 ▼ 61 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 19:13:16 ID:wN6ADqUo [35/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ――え?

 彗星の如く突き進む、青い輝き。
 一瞬にして肉薄。
 万物を穿つかのような一撃、その名は。

「コメット……ッ! パンち!」

 マカフが誇る最強の戦士、外敵を討つべくそのベールを脱ぐ。
 ▼ 62 プ・コケコ@トポのみ 18/11/23 20:28:06 ID:wN6ADqUo [36/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 その頭脳での精密計算に基づく一撃は、狙い違わず、サザンドラの急所を捉えていた。
 
 錐揉み回転しながら吹き飛び、地面に激突――しようかというところで飛行の制御を取り戻し、体勢を立て直す。
 舌打ちし、されど焦ったようでもない様子で呟いた。

「メタグロスか。相変わらず、強い」

 あの完璧な一撃ですらも、サザンドラを倒しきるには至らなかった。さすがに軽くないダメージを負ったはずだが、どれほどの余力があるのか、底が見えない。

「お前は、あの時のジヘッドカ。強くなったものダ」

「お陰さまでな、必死で修行したのさ。そしてあんたの頭脳なら、もう分かっているはずだ。あんたは勝てない」
 ▼ 63 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 20:34:57 ID:wN6ADqUo [37/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そんなのは嘘だ。はったりに決まってる。

 メタグロスはマカフの最後の砦だ。メタグロスが勝てないのなら誰も勝てない。
 そんなことがあるわけがない。お前らみたいな悪は滅びるんだ。
 今に、お前を倒すための答えを、その頭脳で導いてくれる。

「なるほド」

 機械的なその声からは、なんの感情も読み取れなかった。
 どっちだ。
 どっちなんだ。
 ▼ 64 ソクムシャ@エレベータのカギ 18/11/23 20:35:57 ID:xH4Izl6w NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 65 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 20:44:00 ID:wN6ADqUo [38/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「降参しよウ」

「あああああアアァァッ!!」

 絶叫。

 ありえない。
 こんなことがあってはならない。
 正義は勝つ、はずなのに。
 ▼ 66 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 20:44:52 ID:wN6ADqUo [39/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 喚く僕をよそに、話は続く。

「おとなしくそのムンナを引き渡してくれる、ということでいいか」

「違ウ。里の皆で話し合うのダ。それがまとまるまでは、絶対に渡さヌ」

「こっちも時間がない。無理矢理でも連れていくが?」

「ならば徹底抗戦あるのミ。里が滅び最後の1匹になってでも、戦ウ。敵わないまでも、お前に深手を負わすぐらいはできよウ。それはお前たちとしても本意ではあるまイ」

「……いいだろう。だが、明日の昼までだ。それまでにゾーオの里に連れてこい。それがデッドラインだ」

 言い捨て、飛翔。
 見る見る小さくなっていく。やがて山の陰に消えた。

 サザンドラは、去った。
 だけど里は、恐怖と絶望と打ちのめされた敗北感に包まれたままだった。
 ▼ 67 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 20:51:53 ID:wN6ADqUo [40/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ごめんなさい。私が、もっとしっかりしていれば」

「お前に罪はなイ、仕方のないことダ」

 聞き取りのため真っ先に治療を受けたサーナイトは、ひどく憔悴していた。

 全滅した遠征兵団。
 幸いにも、サザンドラの言った通り、命に別状のあるものはおらず。
 彼らは里の中に運び込まれ、手厚い治療を受けていた。
 ▼ 68 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 20:54:37 ID:wN6ADqUo [41/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それで、襲ってきたのはサザンドラ1匹だけだったのカ」

「ええ。あまりにもレベルが違う。あれだけの人数で、歯が立たなかった。私ならタイプ相性もよかったのに、情けない限りよ。……せっかく、知らせてくれたのに。ムンナ、ごめんなさい」

 こんなのおかしい。

 たった1匹。
 たった1匹の敵の前に遠征兵団は壊滅し、メタグロスは戦わずして負けを認めた。
 たった1匹に、マカフは敗れたのだ。
 ▼ 69 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:00:50 ID:wN6ADqUo [42/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「メタグロスさん、なんで、なんで降参なんてしたんですか」

「あれとは、鍛え方が違ウ。地力で負けているシ、相性も不利ダ。あの場で勝ち目はなク、戦うだけ無駄だと判断しタ」

 クソッ。
 苛立ち。メタグロスにじゃない、メタグロスを責めようとする自分に。

 僕が弱かったから、僕は何もできなかった。
 自分の身を守ることもできないから、他者に頼るしかなかった。
 最後の最後まで僕を守るために戦ってくれるのは、僕でしかありえないのに。
 ▼ 70 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:04:41 ID:wN6ADqUo [43/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ねえ、ゾーオに行こうとか考えちゃダメだからね」
 
 バネブーが心配そうに呼び掛けてきた。

「当たり前だ。あんな奴等に、誰が」

「でも実際のところよー、お前さえ渡せば俺たちは無事で済むんだろ?」
 
 音もなく寄ってきていたらしい、背後から声がした。
 こんな時に。こんな時までお前は、嫌な奴なのか。
 ▼ 71 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:10:50 ID:wN6ADqUo [44/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「リグレー、キミ、ムンナを売ろうって言うの!? さいてーだよ!」

「あのなあ!? 俺だって、別に、ムンナがいない方がいいってわけじゃないぜ。そこまで嫌っちゃいないさ。でもな、守るために命張れって言ってんだぞ? そこまではできねえよ」

「あいつらを信用できるか!? 僕を売ろうが売るまいが、いつかはやられるんだ。徹底的に戦って、やられる前にあいつらを滅ぼすしかないんだ!」

 そうだ、根絶やしにしてやれ、という声がちらほらと上がった。
 ▼ 72 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:15:12 ID:wN6ADqUo [45/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「勝てると思うか!? あんな強い奴がいて、他にもたくさんいる。俺たちは勝てない! 信用できなくてもなんでも、なんとか生かして貰えるよう這いつくばってお願いするしかねえんだよ!」

 リグレーは涙まじりに叫んでいた。頭部を悔しさに震わせ、3色の指は激しく明滅を繰り返し。
 仕方ねえよな、という諦めの声がそこかしこから聞こえる。
 
 そうか。
 これが、普通の、世間一般の声なのか。
 ▼ 73 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:22:31 ID:wN6ADqUo [46/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「そいつ1匹でみんなを救える! 英雄になれるんだろ!? せめてもの救いはあるじゃないか!」

「そんなの生け贄じゃないか! 絶対ダメだ!」

 もう、僕たちとリグレーだけの話ではなくなっていた。

 徹底抗戦か、降伏か。
 里の意見は割れ、分断された彼らの口論は、もはやただの罵りあいの様相を呈していた。

「この腰抜け! 戦え臆病者! 誇りはないのか!」

「命あっての物種だろう! そんなのは蛮勇だ! 俺たちまで巻き込むな!」
 ▼ 74 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:28:39 ID:wN6ADqUo [47/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そんな中で、大勢は降伏派に傾いているようだった。

 これが末路か。役立たずと蔑まれ、最後には捨てられるんだ。
 僕を捨てるのが、この里の選択なんだ。
 僕は、生まれ育ったこの里に殺されるんだ。

 だけど、きっと、誰も悪くない。
 仕方がない。それぞれに理由があるのは理解できることだった。
 全部、あいつらが悪い。
 あいつらさえいなければ、こんな選択を迫られることもなかった。
 ▼ 75 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:34:27 ID:wN6ADqUo [48/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そうだ。
 おとなしく連れていかれるフリをして、ゾーオに着いたら暴れてやろう。
 僕ができることなんて、たかがしれてるけれど。子供でもなんでも、1匹でも道連れにしてやる。
 最後まで、絶対に、あいつらなんかに従わない。

 バネブーはなおも、叫んでいた。僕を守るために必死になって。
 もういい。
 そう言おうとした時だった。
 ▼ 76 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:39:17 ID:wN6ADqUo [49/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「静まるがよい!!」

 その一声は、喧騒のなかでもはっきりと、一直線に耳に届いた。
 突き抜けるように響くその声には、自然と相手を従わせる何かがあった。ざわつきが鎮静化していく。

「はい、ちゅうもぉく!」

 声を放った何者かが両手でアピールし、皆の視線が引き付けられる。

「ゾーオの攻撃を待たずして内紛で滅びるつもりか? 皆の衆、落ち着こうではないか」

 ヤレユータン。誰よりも長く生き多くを知る、この里の長老だった。
 ▼ 77 モンガ@ファイヤーメモリ 18/11/23 21:39:33 ID:6AmwdF7A NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 78 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:44:14 ID:wN6ADqUo [50/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「抗うか、屈するか。皆の意見が割れるのはよく分かる。しかし、今は誰もが混乱しておろう。そこでじゃが」

 一旦口を閉じ、ぐるりと見回してから続ける。

「決めるのは明日の朝でどうじゃ? ギリギリまで待って、よーく考えてから決
「抗うか、屈するか。皆の意見が割れるのはよく分かる。しかし、今は誰もが混乱しておろう。そこでじゃが」

 一旦口を閉じ、ぐるりと見回してから続ける。

「決めるのは明日の朝でどうじゃめても遅くはあるまい?」

 ヤレユータンの采配に、否の声は出なかった。 
 ▼ 79 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:45:21 ID:wN6ADqUo [51/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>78
なんかやらかしたので再投下します

「抗うか、屈するか。皆の意見が割れるのはよく分かる。しかし、今は誰もが混乱しておろう。そこでじゃが」

 一旦口を閉じ、ぐるりと見回してから続ける。

「決めるのは明日の朝でどうじゃ? ギリギリまで待って、よーく考えてから決めても遅くはあるまい?」

 ヤレユータンの采配に、否の声は出なかった。
 ▼ 80 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:51:24 ID:wN6ADqUo [52/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「うむ、反対意見がないようでよかったわい。ではムンナ二等兵の処遇は保留、手出しは禁止、よいな! 軍規違反は処刑! 解散!」

 長老には、こういうエキセントリックなところがあった。
 もちろんこの里には軍規も二等兵なんて階級もないし、処刑された者もいない。
 しかしそれでも厚く慕われているのが長老で、指示通り三々五々と散り始めていった。

「長老、早まった行動を起こすものがいないよウ、今夜は私がムンナを預かろうと思うのですガ?」

「ん? おお、それはよいな。頼んだぞメタグロス――ああ、それと! 此度の遠征失敗につき、食べ物は大事にすること、よいな! 軍規違反は処刑!」
 ▼ 81 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 21:58:03 ID:wN6ADqUo [53/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ムンナ、大丈夫?」

 気遣わしげな声のバネブー。

「うん、バネブーこそ大丈夫? あんな激しい言い合いになって」

「キミの苦しみに比べれば全然大したことないさ。……ひとまず、キミを渡さずに済んでよかった」

「でも、ただの時間稼ぎだ。明日の昼には、プレゼントボックスにでも突っ込まれて僕はゾーオ送りだ」
 ▼ 82 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 22:04:35 ID:wN6ADqUo [54/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「明日までにどこかへ逃げるっていうのは、やっぱりダメかな」

「どこへ逃げるっていうんだ。両方から狙われることになるし、里が襲われるのは変わらない。それに」

 近くの宙に浮かぶメタグロスを見やる。

「メタグロスさんが保護を買って出たのは、きっと僕に対しての監視でもあるんだ」

 僕の身を狙うにしろ逃がすにしろ、メタグロスがいては手の出しようがない。

 もしかしたら。
 あの時、戦わずして降参したのは、ここまで見越してのことなのかもしれない。消耗を避け、最強の番人となるために。
 ▼ 83 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/23 22:11:36 ID:wN6ADqUo [55/55] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ありがとうバネブー。でも、もういいよ」

「ムンナ、そんな――!」

「でも諦めたわけじゃない。最後まで足掻いて、あの悪魔どもに少しでも嫌がらせしてやるんだ」

「――そっか。分かった。でもあたしも、朝までに少しでもみんなを説得してみせる」

「うん。ありがとう」

「まあ明日ね! 明日も、あさっても! ずっと!」

「じゃあね」

 背を向けて、進む。
 バネブーの跳ねる音は不規則で落ち着きがなく。そこに混じって、幽かに、すすり泣く声が聞こえた気がした。
 ▼ 84 ガタブンネ@バクーダナイト 18/11/23 22:48:20 ID:/Pjgn1GQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 85 ーリキー@いかりまんじゅう 18/11/23 22:58:15 ID:HKdQvvqY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援!
 ▼ 86 ガチャーレム@ラティアスナイト 18/11/24 07:22:22 ID:LDoEmdQ6 NGネーム登録 NGID登録 報告
シエンネ
 ▼ 87 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 16:36:34 ID:7HwoIsMM [1/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 なかなか眠れなかった。
 眠ったら、またあんな夢を見てしまうんじゃないかと怖かった。これ以上、嫌な未来は見たくなかった。
 
 だけど疲れきっていたのも事実で、いつの間にか睡魔に呑まれていたらしい。
 僕は物音で目を覚ました。

「メタグロスさん?」

 目をしょぼつかせながら、名を呼ぶ。まだ薄暗い、どころではなく暗闇と言っていい夜更けだった。
 ▼ 88 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 16:42:32 ID:7HwoIsMM [2/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「起きたカ。少し、話があル」

「こんな時間に何を……? もしかして、ゾーオに夜襲を仕掛けるとかですか?」

「まあ、そんなところダ」

 半分冗談で言ったようなものだったから、その答えは意外だった。

「ほ、本当に!? やっぱり、諦めてなかったんですね!」

 サザンドラは脅威だが、奇襲でどうにか暗殺することができれば。
 戦況は一気に良くなるはずだった。

「その前に話ダ。少し長くなル。夜の散歩といこウ、里を軽く一回りしながら話ス」
 ▼ 89 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 16:47:29 ID:7HwoIsMM [3/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ところでメタグロスさん、その宝石は?」

 顔のバッテンの上の窪み、額の辺りに綺麗な白い宝石が嵌め込まれていた。コレクションの中にあったものの1つのように思う。

「ああ……私もオシャレをしたくなることぐらいあル」

 相変わらず機械的な声で、冗談のつもりかはよくわからなかった。僕の気分を解そうとしてくれた、のだろうか。
 ▼ 90 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 16:55:00 ID:7HwoIsMM [4/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「さて、お前の父親の研究だガ」

 メタグロスが出した話題に、昼の来訪のことが思い起こされた。

「あっ、あの、昼間は突然押し掛けて突然飛び出して、すみませんでした」

「よイ。……奴の研究の目的は、ゾーオのポケモンの狂暴化を解くことにあっタ。妻を予知夢の苦しみから解放シ、息子を危険に晒さぬためニ」

「えっ? 父が、何を?」

「語ろウ。お前の父の、本当の姿ヲ」
 ▼ 91 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:03:03 ID:7HwoIsMM [5/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 僕の父はかつて、遠征兵団に所属していたという。

 ある日の遠征で、本隊からはぐれた父はゾーオの里近くにまで迷い込んでしまった。そこで目撃したものは。

「どす黒い霧に覆われたゾーオの里だっタ」

 その異様な光景に、父は狂暴化の原因がこの霧であることを悟る。少量を持ち帰り、危険地帯から離脱した。
 そして、遠征兵団を辞し、その研究に打ち込むようになったというのだ。

「研究で突き止めたのは、悪タイプのポケモンの気性を荒くし、攻撃的にする性質があるこト。そして――」

 ――わずかながら、夢の煙で中和することができる、ということ。
 ▼ 92 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:09:44 ID:7HwoIsMM [6/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 夢の煙の夢見心地にする効能が、心を和らげる作用をするらしい。しかし、里を覆うほどの量を打ち消すのは、到底現実的ではなく。
 やっと見つけた希望を掴むため、研究は続いていた。

 そんな中、僕の母が病に倒れた。

 苦しみながらも予知夢で里を守る姿を見て、研究を急ぐ。狂暴化を解き、襲われることがなくなれば、恐ろしい予知夢は見ずに済む、と。

 そして、夢の煙にある毒素を加えることで、心を落ち着ける効果が飛躍的に高まることが判明したのだ。
 そこで目をつけたのが。

「当時よく襲ってきていたメンバーの1匹、スカタンクだっタ」

 スカタンクならば、毒素と夢の煙を体内で効率よく混ぜた上で、放出することができる。
 実験のことでよく相談されていたメタグロスは、それを聞くとスカタンクの捕縛を決行した。
 ▼ 93 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:14:43 ID:7HwoIsMM [7/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「いつもは隊全体を守らねばならぬ故、追い払うのでやっとだったガ。形振り構わなければ、案外なんとかなるものダ」

 その頃は、メタグロスも正式に遠征兵団のメンバーだったらしい。知らずにいたことがどんどん出てくる。

 とにかく、そうして捕らえたスカタンクに夢の煙を吸わせたわけだ。
 研究通り、試みは成功した。スカタンクの狂暴化は解かれたのだ。

「スカタンクとは会話も通じタ。そこで初めて、ゾーオの実態が分かったのダ」 
 ▼ 94 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:20:19 ID:7HwoIsMM [8/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 始まりはおよそ40年前にさかのぼる。
 
 その日、1匹のワルビアルが地面に穴を掘っていた。
 悪友とバトルをしていたとも、温泉を探したとも言われているが理由ははっきりしない。

 とにかく、里の中央近くに掘られたその縦穴から、巨大な黒い宝石が現れたのだという。

 一条の光もない闇のような、漆黒のその宝石は、悪のジュエルによく似ていた。
 同じように技を強化する効果はあるようだが、使っても砕けたりせず、なくならない。
 そして何より、禍々しいオーラと、無尽蔵に放たれる黒い霧。

 その石は、憎悪のジュエルと名付けられた。
 ▼ 95 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:28:51 ID:7HwoIsMM [9/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 なぜそんなものがあるのか。
 なぜ都合よく里の地下に埋まっていたのか。
 誰かが作ったものなのか?

 そんなのは誰にも分からない。

 むしろ、こんなものが埋まっているからこそ、そこに悪ポケモンが引き寄せられるように集まり、里が形成されたのではないか。メタグロスはそんな風に推測していた。

「やがて、憎悪のジュエルから溢れ出す瘴気が里を飲み込んダ。ジュエルはどうやっても砕けず、その場から動かすこともできなかったという」
 ▼ 96 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:37:15 ID:7HwoIsMM [10/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ならば穴をまた埋めてしまってはどうか。元々地中にあった内は、狂暴化などなかったのだから。

 それも試したようだが、効果は見られなかったという。
 土砂をすり抜けるかのように、黒い煙はゾーオを汚染し続けた。

 埋まっていた間は休眠状態だったのが、掘り出されたことで目覚めてしまったのではないか、とメタグロスは言う。

 ――かくして、ゾーオは獰猛な悪ポケモンの巣窟となった。
 ▼ 97 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:45:18 ID:7HwoIsMM [11/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 スカタンクによれば、食事や子育てなど、日常生活は案外普通に送れていたらしい。
 気が立ち、怒りっぽくこそなっていたが、悪ポケモンだけで暮らしている分には、さほど問題にはならなかった。

 しかし、ある時。遠出をしたポケモンたちが、マカフのポケモンと出くわしてしまう。

 抗いようのない、爆発的な攻撃本能。
 襲っている時だけは、何もかもから解き放たれたような快感がある、らしい。

 お互い里の外に食糧を求める以上、遭遇は避けられない。
 そうする内、やがては積極的に攻撃対象を求めるようになり。
 
 ゾーオは天敵となった。
 マカフは狩られる獲物となった。
 ▼ 98 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:49:15 ID:7HwoIsMM [12/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「同じジュエルで狂暴化したゾーオのポケモンだけなら、暴走せずに済むというわけダ。我々の方こそが、邪魔な存在なのかもしれんナ」

「ゾンビか何かみたいだ。こんなの、馬鹿げてる」

「続けるゾ」

 正気に戻ったスカタンクは、しきりに謝り倒していた。
 
 狂暴化している間は罪悪感も薄れていたらしい。
 感覚としては長い悪夢のようなものだったと語る。もう、逆戻りしたくはない、とも。

 そのスカタンクの協力をとりつけ、父とメタグロスはゾーオに乗り込んだ。
 ▼ 99 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 17:56:24 ID:7HwoIsMM [13/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 父とスカタンクで夢の煙を放出し続け、里全体を覆う瘴気が次第に中和されていく。
 1匹、また1匹と正気に戻っていき。

「遂に全員の狂暴化を解いタ。だが、それで終わりではなイ」

 原因のジュエルを破壊できない以上、瘴気は放たれ続ける。
 だから。

「私は引き揚げたが、奴はゾーオに止まリ、夢の煙を放ち続けるマシンとなることを選んダ。すべては、妻と子を守るためニ」
 ▼ 100 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 18:04:20 ID:7HwoIsMM [14/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 そうだったんだ。

 納得がいくところも、あった。
 ここが狭い島だと知った時によぎった疑問。なら行方不明の父は、どこに消えたのか?

 ずっと、ゾーオにいたんだ。

 僕は何も知らず、愚かだった。

 知る由もなかった真実の質量と、その怒涛の強勢。それはさながら、押し寄せる奔流のようで。
 抱いてきた価値観や思想など、容易く押し流されてしまいそうだった。

 僕の父は変わり者だったかもしれないが、ろくでなしなんかじゃなかった。

 父さんが、里を、救った?
 ▼ 101 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 18:12:37 ID:7HwoIsMM [15/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 やっぱり、しっくり来ないものがあった。

 今の今までダメな父親と蔑んできて。
 真実を知った途端に掌を返したように褒め称えるのは、なんだか悔しいし、薄情で節操がない気もした。

 実際、父さんのせいで散々な評判だった部分はあるし。
 それに、そう、せめて。

「一言ぐらい、言って欲しかったな」

「私は口止めされていタ。心配させたくなかっただろうシ、何より、父親は頑張っている姿を知られたくないものダ」
 ▼ 102 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 18:19:08 ID:7HwoIsMM [16/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「それで、父さんが狂暴化を治したからこの数年は襲われなかった。それじゃ、あのサザンドラは? 狂暴化はしてないはず」

「ああ、奴は狂暴化はしていなイ。しかし兆候があっタ。長きに渡り撒き散らされた瘴気ハ、限りなく薄まったものが島全体に拡散しているのダ。そこまでは中和しきれなかっタ」

「それを吸ったってこと? だから遠征兵団を攻撃したり、荒っぽい手を」

「そう思ウ。そしてその影響の程が計り知れなかったかラ、『こちら側』へ遠出しないよう取り決めていタ」

 ひとつ合点がいった。
 正気に戻ったポケモンたちは罪悪感を持っていたはずなのに、謝罪の1つもなかったこと。謝罪のための訪問で、狂暴化して襲いかかってしまっては元も子もない。 
 ▼ 103 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 18:27:21 ID:7HwoIsMM [17/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ならその取り決めを破ったのは」

「もちろんお前を手に入れるためダ。正気を保ち続けるにはお前の夢の煙が必要ダ」

 そうか。
 当然僕だって夢の煙を出せる。ゾーオが僕の身を要求したのは、ジュエルの呪縛に抗うため。
 
 その要求を通すために、必死に修練を積み、強さを手にしたのがあのサザンドラなのだ。里のため、為すべきことを為すために。

「私も必死に強さを求めていれバ、と思わずにはいられン。己の怠惰が招いた事態、この手でけりをつけねバ」

 険しい表情のメタグロスは、どこか遠い場所を睨み付けているように見えた。
 ▼ 104 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 18:34:45 ID:7HwoIsMM [18/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 向こうにも事情があるのは分かった。でも。

「ここのムンナはもう僕だけだ。僕の後はどうなるんですか? 40年間、ジュエルは壊せていないんですよね?」

「あア。私もその方法を探しているが、まだ見つかっていなイ」

 あのコレクションは、もともとその研究の為に集めたものらしい。

 だかラ。
 メタグロスはぐっと顔を近づける。

「お前が死ぬまでにジュエルを砕く手立てを見つけ出ス、そこに賭けるか賭けないカ、これはそういう選択なのダ」

 いつの間にか里を一周し、元の場所に戻ってきていた。
 話はこれで終わりダ、メタグロスはそう言った。
 ▼ 105 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 18:40:37 ID:7HwoIsMM [19/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「これからゾーオに向かうんですよね。ジュエルを砕くのは諦めるってことですか」

「ああ、そうなル。……危険な戦いダ、おそらく私は生きて戻れないだろウ」

「そんな、弱気なこと言わないでくださいよ」

「お別れの前ニ、お前にぜひ挨拶しておきたかっタ」

「やめてください、お別れなんて――でも、今まで、本当にありがとうございました」

「……これで、お別れ、カ――」
 ▼ 106 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 20:59:58 ID:7HwoIsMM [20/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


「――それはどうかナ?」

「えっ!?」

「別れるのはまだ早い!」

 まさに神速だった。
 振るわれる前肢が迫り来る、と思えば。
 見る見る遠くなっていく地面。里が暗闇の中に消えていく。
 吹き荒ぶ風。その冷たさと激しい圧に縮み上がる。

 僕は硬く鋭い鋼の爪にガッチリと掴まれ、マカフの里から飛び去っていた。

「お前も――お前も一緒にくるんだッ!!」
 ▼ 107 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:02:57 ID:7HwoIsMM [21/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「メタグロスさん、なんで! なんでッ!」

「お前をゾーオに引き渡ス。見張りを買って出たのモ、誰にも邪魔されず連れ去るためダ」

「待ってよ、そんなことしても、ジュエルを壊せなきゃ未来はないんだ!」

「……私は、自分が生きたいだけダ。臆病者だからナ。言ったろう、元々強さを求めていたわけではないト」
 ▼ 108 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:09:20 ID:7HwoIsMM [22/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 わけが分からなかった。
 信じていた世界がひっくり返るような。
 僕を売るのか。なんで。
 味方だと、思ってたのに。

「このッ! 裏切り者ォォッ!!」

 いくら叫び、もがき、身をよじっても、爪の拘束はびくともせず。
 意に介した様子もなく、メタグロスは飛行を続けていた。 
 ▼ 109 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:24:49 ID:7HwoIsMM [23/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
 果てしなく続くかと思うような暗闇、その奥に奇妙なものが見えた。
 まだ明け方にもならないはずなのに。ぼんやりと浮かび上がる、桃色とも灰色ともつかないドーム状の何か。
 表面がゆらりとゆらめく掴み所のなさは不気味にも思えた。

「あれがゾーオの里ダ」

 あれが。
 そうか。なら、里を取り巻いているあれが、瘴気と夢の煙の混ざったもの。父さんの成し遂げたもの。

 メタグロスは徐々に高度を下げていき、里の手前の森へと進入。僕をひっ掴んだまま、低空を水平に滑るように飛ぶ。
 ▼ 110 マシュン@マゴのみ 18/11/24 21:26:10 ID:52OEKN1Y NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 111 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:29:41 ID:7HwoIsMM [24/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 里の入り口、ゾーオの門が見えてきたところで、おイ、とメタグロスが呼び掛ける。
 暗くて僕には見えていなかったが、門の脇にいた誰かが飛び起き、慌てた様子で駆け寄ってきた。

「マ、マカフのお客さん、ですか?」

 そこにいたのはモノズだった。かなり幼い。
 眠り込んでいたようで、眠気を払うように首をぶるぶると振っていた。
 ▼ 112 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:33:34 ID:7HwoIsMM [25/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「サザンドラを呼んでくれるカ」

「は、はい! お待ちくださいませ!」

 口元を緩め、てちてちと駆けていく。その背を見送って。

「ゾーオにとっては、さぞめでたいことなのだろウ。里総出で祝ったりも、するのかもしれなイ」

「そのメインディッシュに僕を搾り取るって? 冗談じゃない」

「だが、あのような幼いポケモンに罪がないのも事実ダ」
 ▼ 113 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:40:28 ID:7HwoIsMM [26/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 分かってる。ゾーオのポケモンだって、僕たちとそんなに違わないって、そんなことぐらい。
 でもやっぱり敵になるんだ。遅かれ早かれ、その時は必ず来る。なら、先手を打つしかないんじゃないのか。

 僕の内心がどうあれ、運命の時は迫っている。もうすぐ、サザンドラがここに来る。 
 そうなれば、希望は絶たれる。

 なんとか抜け出すんだ。
 もがき足掻きじたばたする僕を嘲笑うように、無情にもその時は来た。

「待たせたな。ようこそゾーオへ」

 その翼をはためかせ、サザンドラが現れた。
 ▼ 114 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:49:29 ID:7HwoIsMM [27/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「本当に、あんたには感謝してもしきれない。前回の解除にも一役買ってくれたし、今回もこうして約束を守ってくれた」

「本当にそう思ってるぜ!?」
「ありがとな!」

「そうカ。……済まないナ」

 モノズは一緒に戻ってきてはいないようだった。

 次第に距離が詰められ、いまやサザンドラの左腕の首が僕の目前に迫る。

 暗闇の中で不気味に蠢く。品定めするようにゆらめいて、何もない空中へ数度噛みつくような動作。
 吐息の熱さや湿り気すら伝わるほど近くに、その牙が待ち受けていた。
 ▼ 115 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 21:59:25 ID:7HwoIsMM [28/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 その時、その刹那、それは起きた。

 ――ぴしり。

 何の音だろう。
 僕もサザンドラも、一瞬の間、呆けていた。
 『それ』に気がついたのは、きっと僕の方が早かった。

 メタグロスの額の、あの白い宝石に亀裂が入り、砕けていた。

 ――ダメだ!

 その瞬間、全てが飲み込めた。
 ああ、お願いだ、やめてくれ。
 僕が弱いせいで。僕はまた、死なせてしまう。

「だいばくはツ!」
 ▼ 116 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 22:01:43 ID:7HwoIsMM [29/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 それは、凄まじい爆発だった。
 ゾーオの門は爆風で跡形もなく崩れている。
 一帯がクレーター状に抉れ消し飛ばされ、草も木も残らず、ただ大地が焼け焦げているのみだった。

 ――唯一、僕を除いては。

 誰もいない荒れ果てた窪みの中心に、僕だけが無傷で佇んでいた。 
 ▼ 117 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 22:02:33 ID:7HwoIsMM [30/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 テレパシー:味方の攻撃を読み取って受けない

 ――そうか。
 メタグロスは、最後まで僕の味方だったんだ。


 ▼ 118 観マーイーカ◆lX0nF9ikQo 18/11/24 22:12:10 ID:7HwoIsMM [31/31] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ノーマルジュエルで強化された大爆発。

 この捨て身の一撃を、至近距離から確実にサザンドラに叩き込むために。そのために、メタグロスは多くを捧げた。

 周囲への被害を考えれば、マカフの里の時には実行するわけにはいかず。
 油断させてギリギリまで距離を詰めるために、僕を引き渡す振りをして。

 ――地力で劣るのなら、そうしなければ勝てない。
 チャーレムの言葉が思い起こされた。

 そうして遂に、サザンドラを打倒することに成功した。ゾーオ側の最強の戦力と目される、目下の脅威サザンドラを。

 けれど、マカフはメタグロスを失った。
 最強の戦士メタグロスを。父さんの真実を語ってくれたメタグロスを。

 メタグロスなしで、どうするんだ。
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