▼  |  全表示34   | <<    前    | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【SS】サーナイト「私の大切な人は、いつも夢の中で泣いている」

 ▼ 1 BDngSAiSiw 18/12/17 23:25:48 ID:rJbwrcq6 [1/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
夢にみる風景は、冷たく寂しい雪の中。

彼はいつも蹲って泣いていました。

震える背中は小さく頼りなく、私は傍に行きたくてたまらないのに、体が冷たく強ばって身動ぎすることもできません。



「……――」



彼は嗚咽を漏らしながら、誰かを呼んでいました。

何度も何度も、まるで許しを乞うように






――サーナイト
 ▼ 2 BDngSAiSiw 18/12/17 23:26:45 ID:rJbwrcq6 [2/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




「おい、サーナイト!」


聞き慣れた声で眠りから覚めた私は目の前に佇む声の主に微笑みかけます。


「あ……ゲンガーさん。おはようございます」


寝惚けた私の顔がおかしかったのか、ゲンガーさんはニヤリと含み笑いをしました。


「ケケッ!おはようって時間じゃないけどな」


その言葉に空を見上げると、既に太陽は高い位置に登りきっていました。
状況を理解した途端頭の中を覆っていたモヤが晴れ、私は慌てて身を起こします。


「いけない!今日は救助隊のお仕事があるんですっ」


慌ただしく身支度をして駆け出した私を、ゲンガーさんはやはり笑いながら見送ってくれました。
 ▼ 3 BDngSAiSiw 18/12/17 23:27:39 ID:rJbwrcq6 [3/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



この日引き受けた依頼は、小さな森で迷子になったポケモンの救出。

町で一番の凄腕の救助隊に指南を頂いたおかげで、最近ではこの程度の依頼はさほど苦もなくこなせるようになっていていました。

襲いかかってくるポケモン達をあしらいながらダンジョンと化した森を進んでいくと、その最奥でしくしくと泣いていたスバメの子供を発見します。



その幼いポケモンの姿を見た私は、すっかり忘れていた今朝の夢を思い出しました。



――あの人も泣いていた。不安で、寂しくて、いつも誰かの名前を呼んでいた……



「サーナイト?」


心がギュッと締め付けられて思わず立ち止まってしまうと、共にダンジョンを降りてきた仲間のチコリータさんが心配そうな顔で私を見上げて言いました。


「ねえ、どうかしたの?」


今は感傷に浸っているべきではない、と我に返った私は慌てて首を横に振ります。


「はい……すみません、私は大丈夫です」


そう言ってにこりと微笑んでみせてから、私は泣いているスバメの元へと駆け寄りました。

私の姿を見つけたスバメの子供はぱっと表情を明るくさせ、勢いよく飛びついてきました。どうやら怪我はないようです。


「おねえちゃーん……怖かったよう」

「よしよし、もう大丈夫ですからね」


安堵の涙を流すスバメの背中を撫でながら、私は心の内にある葛藤が表に出ないように必死に堪えました。
 ▼ 4 BDngSAiSiw 18/12/17 23:28:59 ID:rJbwrcq6 [4/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



「よし、ずらかるぞ。サーナイト、テレポートだ」



彼はそう言って私の肩を小突きました。

その手にはお店の商品が沢山抱えられています。



泥棒だ、捕まえろ、と遠くから大人達の叫ぶ声。



「おい!早くしろよ!」


戸惑って立ちすくむ私を、彼は苛立った声で急き立てました。

悪いことをしてはいけない。

私は彼を止めたくて必死に訴えかけますが、私の口から発せられる言葉は何一つ彼に届くことはありませんでした。


「オレの言うことがきけないのか!」


叫び、彼は私に拳を振り上げます。


強い感情が私の胸に広がりました。

苛立ち。怒り。そして……



その衝撃が降りかかる前に私の意識は現実へと引き戻されました。
 ▼ 5 BDngSAiSiw 18/12/17 23:29:59 ID:rJbwrcq6 [5/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




「サーナイト!」

「ひゃっ!?」


大声と共に揺さぶり起こされた私は、しばらく何が起こったのか分からず呆けてしまいました。

ゲンガーさんはそんな私を見て、心配そうな顔をしていました。



「……お前、随分とうなされてたぞ。一体どんな夢を見ていたんだ?」


優しく尋ねられ、私はようやく自分が夢を見ていたことに気がつきました。


「ゲンガーさん……ありがとうございます……えっと、私……」


うなされていた自分を起こしてくれたことに礼を言い、私は見ていた夢を説明しようと思い返すのですが。


「あれ……?思い出せない……?」


何故か、全く思い出せなくなっていました。

先程見ていた映像に霧がかかったようにぼやけていて、ぼんやりと悲しく辛い夢であったことしか思い出せないのです。



「ま、悪夢なら思い出せなくてもいいんじゃねーか?」


ゲンガーさんはそう言って笑い飛ばしました。確かに彼の言う通りなのですが、私は釈然としないのでした。
 ▼ 6 BDngSAiSiw 18/12/17 23:31:21 ID:rJbwrcq6 [6/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



「ねぇ、サーナイトって最近ゲンガーと仲良いよね」


森のダンジョンを降りながら、チコリータさんはそんな話題を投げかけてきました。

思わず胸の鼓動が早まって、顔が熱くなるのを感じました。


「そうでしょうか……? 確かに近頃よく会いに来てくれることが増えましたけど……」


なるべく声色を変えずに答えたつもりですが、チコリータさんは私を見上げて何やら意味深な笑みを浮かべていました。

あぁ、やはり隠せていないのですね……



「へぇ〜、あのゲンガーがねぇ。ふーん、そっかぁ。ふふっ」

「な、何なんですか?その笑みは……」

「好きなんだろうなぁーって思ったの」

「ふえっ!?」


あまりにストレートなことを言われ、私は上擦った声を上げてしまいました。


私は闇の洞窟で助けられて以来、ゲンガーさんに憧れの気持ちを抱いていました。

私が救助隊に志願したのも、彼のように誰かを助けられるひとになりたいと思ったからなのです。
 ▼ 7 BDngSAiSiw 18/12/17 23:32:28 ID:rJbwrcq6 [7/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「だってさ、あの天邪鬼で捻くれ者のアイツが素直に顔を見せに来るようになっただなんて、きっとそうに違いないよ」

「捻くれ者だなんて……ゲンガーさんは優しい方ですよ?」


私はチコリータさんの言葉に反論しました。

ゲンガーは誤解されやすい性格らしく、よく色んな方に悪く評されてしまうことが多いのです。

キュウコンの祟りに囚われた私を救う為に危険なダンジョンの最奥まで助けに来てくれるような方が、優しくない筈がないのに……


「うふっ。なんとか盲目ってやつかなぁー?」


チコリータさんは目をキラキラと輝かせ、依然と追求を辞める気配がありません。

こうなってしまった彼女を相手するのは非常に大変ですが、止める方法は意外に簡単です。


「チコリータさん、あなたこそピカチュウさんと……」


私はいつも彼女に『似たような』質問を仕返して黙らせるのですが……




「ドロボーだ!ドロボーだ!皆捕まえてくれ〜!」



突然聞こえた叫び声に私達の会話は中断されました。
 ▼ 8 BDngSAiSiw 18/12/17 23:34:06 ID:rJbwrcq6 [8/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「泥棒……?」


私はその単語が聞こえた瞬間、心臓が握り潰されたような感覚に陥りました。

まるで、私自身が弾糾されて追い詰められているかのように――



「カクレオンのお店から盗もうだなんて、命知らずなポケモンもいるのね。絶対捕まるのに」

「……」

「サーナイト? どうしたの?」



私の意識は既に彼女の声が届かない所にありました。



夢の中。

今朝確かに見たあの光景が、再び鮮明に脳裏に蘇ったのです。



「……ごめんなさい……私は……」

「サーナイト!? 大丈夫?」


私はその場にガクリと膝をつき、チコリータさんは驚きの声を上げながらも倒れそうになった私の半身を支えてくれました。



恐怖感と罪悪感。

初めて感じた恐ろしい感情に、私は動けなくなってしまいました。
 ▼ 9 BDngSAiSiw 18/12/17 23:34:52 ID:rJbwrcq6 [9/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



「この頃、いつも同じ夢を見るんです」


流石にこれ以上黙っていてはいけないと思った私は、依頼を終えた後、救助隊のお二人に悩みを打ち明けました。


「同じ夢?」

「はい、はっきりとは覚えていないのですが……毎回夢の中で会う人がいて、その人のことが気になって仕方がないんです」


私の言葉にチコリータさんは何故か驚いたような顔をして、パートナーのピカチュウさんに目配せをしました。


「……サーナイト。それはもしかして、『人間』なの?」


ピカチュウさんにそう問われ、私は静かに頷きました。


「はい……恐らくは……」



私には記憶がありません。

暗いダンジョンの最奥で救助隊のお二人とゲンガーさんに助けて頂いたときの記憶が一番古いもので、それ以前にあったことは何一つ覚えていません。

それ故人間という種族の存在は噂でしか聞いたことがなく、実際に見たことがないのでその姿形も知らないはずでした。



なのに私は人間という言葉を聞いた瞬間、腑に落ちた、と言いましょうか、強い確信のようなものを感じました。
 ▼ 10 BDngSAiSiw 18/12/17 23:36:33 ID:rJbwrcq6 [10/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あの、何か知ってるのですか?」


顔を見合せてどうすべきか迷っている様子の二人に向かって、私は問いかけます。

この救助隊のリーダーであるピカチュウさんは元人間だそうで。彼ならば人間のことをよく知っているかもしれないと思ったのです。

ですが、ピカチュウさんはしばらく沈黙し、チコリータさんはそんな彼と私に交互に視線を送っては困った表情を浮かべていました。



「うん、知ってる。説明するのは簡単だよ。でも……これはぼくらの口から言うべきことではないんだ」

「……? それは、どういう意味ですか」


勿体ぶった言い回しをする彼にもどかしさを感じた私は更に問いを重ねました。





「君は、『キュウコン伝説』を知らないよね?」


……長い間を置いて切り出されたその話は、私に大きな衝撃を与えるものでした。
 ▼ 11 BDngSAiSiw 18/12/17 23:37:29 ID:rJbwrcq6 [11/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




あの人と私が住んでいたのは、酷く寒くて薄汚れた場所でした。

そこには何人かの少年達が寄り集まっていて、彼らも私達と似たような境遇だったことが想像できます。

大人達から見放されていて、悪いことして生活の糧を得て暮らしている者達。

そんな彼らでも、あの人の支えになるのなら、私は構わないと思っていました。


……


でも……ある日、私達は路地裏を追われました。

あの人は、彼らを出し抜いて盗み先から逃げ出したのです。

……酷い目に合わされました。

少年達はあの人を取り囲んで……

…………私は……


守るために……



……力を…………




…………
 ▼ 12 BDngSAiSiw 18/12/17 23:38:32 ID:rJbwrcq6 [12/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



「サーナイト」


揺り起こされて目を開けると、そこにはゲンガーさんの赤い瞳があって、私は何故か強い安堵感に包まれました。


……悪い夢をみていたのでしょうか。



「朝、ではないですよね……」


見渡す限りの草原には既に夕日の赤色が落ちていて、私は眠りこけてしまった時間の長さに呆然としました。


「ああ。昼寝でもしてたんだろうが、それにしたって最近のお前はちょっとおかしいみたいだ。いつ来たって寝ているんだぜ?」


そう言ってゲンガーさんは心配そうな視線を私に向けました。


「疲れてるんだろ、きっと。あんま無理すんなよ」
 ▼ 13 BDngSAiSiw 18/12/17 23:39:09 ID:rJbwrcq6 [13/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



最近、夢を見る頻度が減ってきました。

……いえ、いつも見ていた感覚だけはうっすらと残っているのですが、その詳細がわからなくなってしまったのです。

夢の中に出てくるあの人がどんな姿をしていたのかも、今では殆ど思い出さなくなっていました。


それでも良いのかもしれません。

あの人の夢は辛いものばかりだったのだから。





……でも、どうしてこんなにも悲しいのでしょう。
 ▼ 14 BDngSAiSiw 18/12/17 23:39:50 ID:rJbwrcq6 [14/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



「サーナイト、無理しちゃダメだよ」


救助隊の基地へと赴いた私は、彼女に会うなりそう言われてしまいました。


「最近キミはすごくやつれてる。……焦る気持ちは分かるけど、少し体を休めた方がいいと思うよ。まだ、病み上がりみたいな状態なんだし」


救助隊のリーダーであるピカチュウさんにもそう止められてしまっては反対することも出来ません。


私はしばらく救助隊をお休みすることになりました。
 ▼ 15 BDngSAiSiw 18/12/17 23:41:20 ID:rJbwrcq6 [15/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




………………冷たい、


…………


あなたは……どこで泣いているのですか?


……


……声が……聞きたい……



………………






――――サーナイトよ。



その声は、不鮮明な意識の中ではっきりと響き渡りました。
 ▼ 16 BDngSAiSiw 18/12/17 23:41:51 ID:rJbwrcq6 [16/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
あの人とはまた違った、けれど何故だか懐かしい声。

威厳に満ち溢れたその者は、白く混濁した私の夢の中をたちまちに晴らし、己の姿を顕にしました。

美しい長い尾に、神秘的な赤い瞳。



――真実が知りたければ、氷雪の霊峰に来るがよい。



その一言だけを残すと、再び白い霧の中に消えてゆきました。
 ▼ 17 BDngSAiSiw 18/12/17 23:42:24 ID:rJbwrcq6 [17/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



氷雪の霊峰。それは私たちの住む場所から遠く離れた地にある、厳しい気候の雪山。

神秘を感じる白き峰の頂には、不思議な力を持つポケモンが住まうと言われています。


……昨夜の夢に現れたのは、私に祟りをかけたポケモン――キュウコンでした。



街の住人達から情報を聞き出した私は、誰にも相談せず氷雪の霊峰を目指して旅立ちました。

ピカチュウさんやチコリータさんに話せば止められてしまうのは目に見えていますし、ゲンガーさんには心配をかけたくなかったからです。





凶暴なポケモン達が住まう洞窟や険しい火山のダンジョンをなんとか通り抜け、私は数日かけて霊峰へと辿り着きました。
 ▼ 18 BDngSAiSiw 18/12/17 23:42:51 ID:rJbwrcq6 [18/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




ゆらゆらと九本の尻尾を逆立てて吠えるキュウコンの身体から、黒い煙が飛び出し、あの人へ向けて襲いかかります。

私は、迷わず彼のもとへと駆け寄り、ヘたり込んで震えている彼の体に覆いかぶさりました。



――サーナイト!



私の腕の中で、彼が泣きながら私の名前を呼ぶのが聞こえました。

……だけど、すぐにその温もりは消えてしまい、声も聞こえなくなってしまいました。
 ▼ 19 BDngSAiSiw 18/12/17 23:43:23 ID:rJbwrcq6 [19/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




『愚かで卑怯な人間め……私の罰を受けよ!』



真っ暗になってしまった視界。キュウコンの恐ろしい呪詛の言葉だけが聞こえます。



……貴方は、どこへ行ってしまったのですか?



私は、薄れていく意識の中で、あの人の温もりを探します。


でも、そこにあるのは冷たい地面の感触だけ。




……だけど私は、悲しくなんてありません。


だって私はサーナイト。トレーナーを守ることが使命なのですから……
 ▼ 20 BDngSAiSiw 18/12/17 23:43:55 ID:rJbwrcq6 [20/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




――。



誰かが、私を、呼んでいる……。



――!



懐かしい声。私の、大好きな……






「サーナイト!!」
 ▼ 21 BDngSAiSiw 18/12/17 23:45:12 ID:rJbwrcq6 [21/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
――――――



「おい!起きろ!サーナイト!!」



耳元で叫ぶその声が、夢の中の人物と同じであることを確かめた私は、ゆっくりと目を開くと同時にその名前を呼びました。



「――さん」



そこには、呆然とした顔のゲンガーさんがいました。





「……」

「ゲンガーさん、貴方だったのですね」


私の問いかけに、彼はただ無言で体を震わせるだけでした。

その顔に浮かぶのは、夢で見たあの人と同じ、絶望の色。





「私の夢を……過去の記憶の断章を『ゆめくい』で奪っていた……違いますか?」

「ああ……そうだ」


私が更に問いかけると、彼は今にも泣きだしそうな顔で頷いて肯定しました。
 ▼ 22 BDngSAiSiw 18/12/17 23:46:04 ID:rJbwrcq6 [22/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……全部、思い出しちまったのか」

「はい。貴方と離れてからここに辿り着くまでの数日間、私は過去の夢を見続けました」

「そうか……」



私が最近見た夢を忘れてしまい、また、体の調子が悪くなってしまっていたのは、彼の使った『ゆめくい』の技によるもの。

彼と物理的に離れたことによって、私は鮮明な過去の夢を見ることができたのです。

それによって、私は全ての過去を思い出しました。
 ▼ 23 BDngSAiSiw 18/12/17 23:46:51 ID:rJbwrcq6 [23/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「本当にオレのことを全部忘れちまったのかって……気になって、時々こっそり夢を覗いていたんだ」



沈黙の後、ゲンガーさんは独白を始めました。



「そしたら、ある日の夢にオレがいたんだ。人間だった頃のオレが……」

「初めは嬉しかった。お前が、オレの事を覚えていてくれたんだって。……でも、段々と怖くなった。だって、オレはお前に酷いことばっかりしてきたんだ。お前は前に『恨んでない』って言ってたけど……でも、また過去のオレを知ったら、オレのことを嫌いになるんじゃないかって……思ったんだ」

「オレは、失望されなくなかった。もしそうなるくらいなら、昔の自分なんて忘れられたままでいい……だから、オレは……」



「ゲンガーさん」



悲痛に歪んでいく顔に耐えきれなくなった私は、彼の言葉を無理矢理遮りました。



「ゲンガーさん……いえ、――さん。聞いてくださいますか?」


「私、貴方のパートナーだった頃、ずっと同じ夢を見ていました。貴方と対等なお友達になる、という夢です」



彼の目が、大きく開かれました。
 ▼ 24 BDngSAiSiw 18/12/17 23:47:46 ID:rJbwrcq6 [24/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「私が貴方に尽くし続ける理由は、サーナイトだから。トレーナーとポケモンだから。貴方に酷いことをされても傍に居続けるのは、一度パートナーとなった相手は裏切れない……そんなサーナイトの習性があるから。私はそう思っていました」

「ですが、傍に居ることはできても、貴方の孤独を癒すことだけはできませんでした。それは、本当に対等な関係でなければ埋められないものだからです。私は所詮ポケモンで、貴方との間にあるのは主従関係。私はいつも貴方の寂しげな横顔を見る度に、自分の無力さを悔いていました」


「……」


「私が貴方を祟りから庇ったとき。死の間際に何を思っていたか分かりますか?」

「……いや」



私の問いに、彼は消え入りそうな声で答えました。




「使命を果たした充足感に満たされていた一方で、心の片隅では悲しみが生まれていました。貴方と離れてしまうこと。貴方が一人ぼっちで残されてしまうこと。そして、私は最期に強く願いました。」



「人間に生まれ変わって貴方のお友達になりたい、と」
 ▼ 25 BDngSAiSiw 18/12/17 23:48:22 ID:rJbwrcq6 [25/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「……ゲンガーさん」


「……」


「私達はやっと同じ立場になれた。私はただ嬉しいんです。ずっと待ち望んでいたことなのですから」



震える彼の体をそっと抱きすくめると、やがてたどたどしい手付きで私の背中にも腕が回ってきました。










「ふむ。折角私が直々に呼び出したというのに、全く出る幕が無かったではないか」


突如聞こえてきた冷静な声に、私達はビクリと跳ね上がってそちらに視線を送りました。
 ▼ 26 BDngSAiSiw 18/12/17 23:50:05 ID:rJbwrcq6 [26/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そこには実に堂々とした立ち姿のキュウコンがいて、私たちをじっと見据えていました。


そして。



「ちょっとキュウコンさん、いいとこなんだから邪魔しちゃダメでしょっ!」

「いや、いいからもう行こうよ……」

「ゲゲッ!? お、お、お前ら、なんでここに!!」


キュウコンの後ろからピカチュウさんとチコリータさんが転がり出てきて、ゲンガーさんはバッと私を跳ね除けて叫びました。





「サーナイトの記憶が戻りつつある。私にその最後の手伝いをして欲しいと頼まれたのだ。この二人にな」


気まずそうな一同のことなど全く気にもとめない様子で、彼は淡々とそう告げ、自分の後ろに隠れそうとする救助隊の二人をずいと私達の前へと押し出しました。



「……あはは。なんか、ごめんね。キミたち二人だけで上手くいくと思ってなくてさ……」

「でも良いものみちゃったなぁ〜、ふふふふっ」


照れくさそうに笑うピカチュウさんに、うっとりとした顔のチコリータさん。

二人の表情を見て、私達が見られると少しばかり恥ずかしいことをしていたのだと気付かされた私は、思わず顔を覆いました。



「ググググ!? お、お前らとっとと消えろ!見せもんじゃねぇーっ!」


ゲンガーさんは二人に向かってシャドーボールを投げて必死に追い払っていましたが、恐らくあの2人は明日からまた同じようにからかってくることでしょう。
 ▼ 27 BDngSAiSiw 18/12/17 23:50:51 ID:rJbwrcq6 [27/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「ゲホッ……クソっ……あいつらめ……」


息を切らしてへたり込む彼の元に近寄ると、私はそっと声をかけました。





「……ゲンガーさん」


「貴方が辛いのなら、私の記憶を消してしまっても構いません。それでも、私は貴方を恨んだことなど一度もない……それだけは忘れないくださいね」
 ▼ 28 BDngSAiSiw 18/12/17 23:51:20 ID:rJbwrcq6 [28/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




懐かしい風景の中で、やはりあの人は寂しげに佇んでいました。

いつも意地悪や嘘で他人を遠ざけてしまう天邪鬼で可哀想な子供。

私はそんな彼に元気よく駆け寄って腕に抱きつきます。

すると彼は顔をしかめてそっぽを向いてしまいました。



でも、彼は決して私の抱擁を振り払わなかった。

そしてじんわりと伝わってくる彼の感情は、とても温かった。



それを思い出した私は、幸せな気持ちに満たされてじわりと目が熱くなるのを感じました。
 ▼ 29 BDngSAiSiw 18/12/17 23:52:01 ID:rJbwrcq6 [29/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




「ケケッ!おそよう!」


私が目を開けると彼は嬉しそうに声を掛けてくれました。

未だ夢うつつの私はオウム返しのように言葉を返します。


「……おそようございます」


それがツボにハマったらしく、彼はケタケタと笑い出しました。


邪気も憂いもない笑顔。

それをみた私はすごく安心してしまって、目からポタリと雫が一つ零れ落ちました。



「どーしたんだよ? 怖い夢でも見たか?」


その問いに私は無言で首を横に振ります。

なおも押し黙っていると、彼は慣れない手付きで私の頭をポンポンとあやす様に軽く叩きました。

その動作が微笑まくて、私はくすくすと小さく笑いました。



「いいえ……懐かしい夢を見ました」





――さん。


思わず昔の名前を呼びかけてしまったのを、彼は聞いていたのでしょうか。
 ▼ 30 BDngSAiSiw 18/12/17 23:53:53 ID:rJbwrcq6 [30/30] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
終わり
 ▼ 31 ブライカ@とくせいカプセル 18/12/18 00:27:45 ID:4VhYJTzk NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
2人の関係よかったよ!
 ▼ 32 ムスター@ヘラクロスナイト 18/12/18 19:26:29 ID:2nmow9.w NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
乙。凄い良かった

こいつらって両方Lv5で仲間になるんだっけ?
サーナイト仲間にするときゲンガーが倒されまくった思い出
 ▼ 33 ェークル@つりざお 18/12/27 19:47:42 ID:6QmkQghk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おめでとうございます
 ▼ 34 マンボウ@ひかりのねんど 18/12/28 07:19:03 ID:3nR.KF2E NGネーム登録 NGID登録 報告
素晴らしい
このページは検索エンジン向けの機能制限版の旧ページです。
下URLから閲覧下さい。
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=924319
  ▲  |  全表示34   | <<    前    | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!

(消えた画像の復旧依頼は、お問い合わせからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼