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【1レス目企画】荒野の迅雷リバイバル

 ▼ 1 まぐれな救い主◆m3DNSoFAFg 19/03/08 18:07:09 ID:N7TsxXfE [1/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


──ここはどこだろうか?

肌寒い感覚が意識を浮上させる

抉れた地面、無造作に投げ捨てられたもう使えないであろうモンスターボール……

どれも全て、見覚えがない

──自分は誰なのか?どうしてここにいる?

必死に思い出そうとしたが、何も思い出せない

記憶の糸はどこかで途切れてしまっていた……


ふと、何かの気配がした

荒れ果てた景色の中で存在感を示す、蕾をつけた桜の木

そのそばに、誰かが倒れているのだ──
 ▼ 2 まぐれな救い主◆m3DNSoFAFg 19/03/08 18:08:12 ID:N7TsxXfE [2/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このSSはBBS五周年を祝う一レス目企画(http://pokemonbbs.com/sp/poke/read.cgi?no=949147)のSSです
 ▼ 3 まぐれな救い主◆m3DNSoFAFg 19/03/08 18:10:17 ID:N7TsxXfE [3/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 よろよろと身を起こす。
 足がふらつくし、頭はガンガン鳴って酷い気分だが、痛みはない。
 
 俺は思案する。倒れてるあいつを、助け起こしにいくべきか?
 善良な一般市民としてはそうすべき、だろうが。
 躊躇せざるをえない事情もある。

 まず第一に、むしろ俺の方こそ助けて欲しいぐらいだ、ということ。

 見渡せばあたりは一面の平原、俺が倒れていた抉れた部分を除けば、目につくのはあの桜の木だけ。
 風が吹けば赤茶けた砂埃が舞い、細く背の低い草がまばらに点在するのみ。 

 だだっ広く何もない、荒野のど真ん中。
 記憶がない俺には、もちろん、ここがどこなのか、どっちにいけば人里があるのか、見当もつかない。
 ▼ 4 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:13:41 ID:N7TsxXfE [4/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 持ち物は、といえば──。
 身につけていたリュックの中身は、ペットボトルの水、ブロックタイプの栄養食。丸められたタオルが一枚に、財布と空っぽのモンスターボールが数個(このボールは未使用なようだった)。
 雑に押し込んだような散らかり具合で、俺という人間の大雑把さが伺える。

 まあ、とにかく、手持ちのポケモンもおらず、食料も心もとないわけで。自分の身を守れるかも怪しいのに人助けをする余裕は、正直あんまりない。
 これが1つめ。

 そして2つめだが──。
 記憶を失い、抉れた地面に倒れ伏していた俺。近くにいるのは、桜の木の下のあいつだけ。
 何がどうなってこんな状況になったのか、皆目分からんが……。

 しかし俺の視点からすれば、あいつは立派な容疑者なわけだ。

 ▼ 5 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:16:36 ID:N7TsxXfE [5/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 

 さて、どうしたものか。

 助けになんていこうものなら、油断して近寄ったところに今度こそ止めを刺されても、おかしくはない。
 なにしろ、何もかもがわけわからん状況だ、ありえないなんてことはありえない。

 だが──いやしかし、ここは覚悟を決めるべきだろう。その時はその時だ。
 どのみち、闇雲に歩き回ったって、野垂れ死ぬ可能性はけして低くないのだ。
 あいつが善良な一般市民で、ここらの土地に詳しい、ということを祈るしかないだろう。

 どうやら俺の頭は、この程度の判断もできないほどおめでたくできては、いないらしい。
 両親に感謝しないとな、顔も覚えてないが。

 ▼ 6 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:19:57 ID:N7TsxXfE [6/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 歩き出そうとして──俺はふと、前に出しかけた足を止める。

 ──そうだ!
 こいつがあった。

 屈みこんで、『それ』を拾い上げる。

 壊れたモンスターボール。
 記憶喪失で倒れていた俺の傍らに転がっていた、あのボール。

 ボールは開きっぱなしの状態だった。
 ボタン部分が破損しているせいか、閉めようとしてもすぐにパカリと開いてきてしまう。
 欠けてひび割れ、内部の機構が飛び出ていて、どこからどう見ても、ぶっ壊れている。

 まるで力任せに無理矢理こじ開けたような、そんな壊れ方だった。

 ▼ 7 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:24:18 ID:N7TsxXfE [7/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 しかし、手の中で転がしながらしげしげと眺めてみれば、表面には無数の細かいキズ。ところどころ、赤い塗装もハゲてしまっている。

 激しい損傷は瞬間的に強い力が加わってできたものだろうが、この細かいキズは、違う。昨日今日でできたものじゃなく、長い時間をかけて、少しずつ付いたような。

 どうやら、相当年季の入ったモンスターボールらしい。
 さしずめ、俺の思い出の品ってところだろうか。
 
 中のポケモンはどうなった?
 どこかへ逃げ出したのか? 元から何も入ってなかったのか?
 俄然、このボールに対して興味が湧いてきている俺がいた。
 
 何しろ、リュックの中に俺の身元を示すような品はなかった。
 なら、このモンスターボールこそが、俺の記憶を探る手掛かりになるんじゃないか。

 ▼ 8 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:31:23 ID:N7TsxXfE [8/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「んー?」

 何かが目に入った。
 ボールの、白い方の半球。その底の部分に何かが記されている。
 ペンで書かれたらしき黒文字はだいぶ掠れてしまっているが……かろうじて、判読はできた。

「W、Y……?」

 書かれていたのはこの2文字だけ。
 何かの頭文字だろうか。さっぱり分からない。
 しかし、へったくそな字だ。線がぷるぷるしてるし、バランスも酷い。

 ……まあ、特に役に立たなかったとしてもだ。
 このボールが俺にとって大事なものなら、捨てるわけにはいかない。記憶を取り戻したとき、なくなってたら落ち込んでしまうだろう。

 ▼ 9 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:32:55 ID:N7TsxXfE [9/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「大事に持っておかないとな」

 ひとり呟き、リュックに仕舞いこんでから、今度こそ桜の木へ足を向ける。
 
 ──そうだ。
 俺は記憶を取り戻すんだ。

 まずは木の下で寝てるあいつから、情報を聞き出す。
 たとえ小さな手掛かりでも。

 あてどない荒野から抜け出すために。
 これが、最初の一歩だ。


 ▼ 10 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:39:12 ID:N7TsxXfE [10/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

 桜の木、といっても花は咲いていない。

 黒々とした幹はずんぐりと太く、かなり樹齢が長いのだろう。しかしその割りに背丈が低い。枝は少なく、葉も落ちきっている。
 この肌寒さからして既に冬だと思うのだが、蕾は数えるほどしかなく、その蕾にも生気がない。

 年老いて弱っているのか。

 しかし、ここは荒れ果てた土地。周囲にも他の木はまったく生えていない。そう考えると、これでも驚異的な生命力を持っている方、だろうか。

 ▼ 11 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:45:04 ID:N7TsxXfE [11/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 桜の木に近づくにつれ、横たわっている人物の姿が少しずつ明瞭になってゆく。

 さっきは距離があって分からなかったが──どうも、思ったよりずいぶん小柄なようだ。
 いや、待て。

 小柄、どころじゃない。
 それどころか、かなり幼い、子供だ。

 纏っている服は、服というよりボロボロの布といった様子で、土に汚れて元の色も分からないぐらいだ。
 うつ伏せなので顔は見えないが──。

 こんなところに、一人ぼっちで横たわる、ボロ着の子供。

 ▼ 12 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:50:53 ID:N7TsxXfE [12/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ──おいおい、勘弁してくれよ。

 不穏なものを感じ、足取りが速くなる。
 最初に出会う相手が……なんて、幸先が悪いにもほどがある。

「おい! 生きてるか!」

 心臓が早鐘を打つ。
 駆け寄って、息を切らしながら、ゆっさゆっさと揺り起こす。
 驚くほど軽い身体にドキリとする。
 細く、弱々しく……けれど、暖かかった。

 良かった。
 生きてる。

 安堵感が身体を巡る。
 そこら中に冷や汗をかいていたことに、今になって気がつく。
 ▼ 13 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 18:56:08 ID:N7TsxXfE [13/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「まったく……」

 額の汗を拭いながら。焦らせやがって、と続けようとして、俺はそれ以上言うことができなかった。

 うつ伏せになっていた子供がむくりと起き上がり、こちらを見つめていた。

 幼い少女だった。
 土埃にまみれて金髪は乱れ、細かな擦り傷が目立つ顔。
 綺麗にしてれば可愛らしいんだろうな、という顔立ちだが、そんなことはどうでもよかった。

 俺が言葉を続けられなかったのは、彼女の目を見てしまったから。
 ▼ 14 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:03:42 ID:N7TsxXfE [14/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ガラス玉のように真ん丸く、綺麗なのに。
 何の光も映していないかのように、どんよりと澱んで。どこまでも暗い、暗い、吸い込まれてしまいそうな瞳。

 真っ暗な瞳。
 
 そしてその瞬間、俺は感じた。
 なぜなのかは分からないが、感じた。

 魂が打ち震えるような、張り裂けるほど狂おしい感情が涌き上がる。 
 特別で、運命的で、雷に撃ち抜かれるような、途方もなく衝動的で根元的な何かを。

 俺は感じた。

 ▼ 15 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:04:16 ID:N7TsxXfE [15/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そんな俺の様子をまるで意に介さないかのように。
 一切の光を宿さない双眸で、無表情のまま、少女が呟く。
 抑揚のない声で、ぼんやりと俺を見つめながら、呟いた。


「──なんだ、生きてるんだ」


 ▼ 16 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:12:16 ID:N7TsxXfE [16/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ドキリ、と心臓を鷲掴みにされるような感覚。

 いま、なんと言った?

 『なんだ、生きてるんだ』と。
 俺を見て、そう言った。

 子供と分かって、すっかり頭から吹き飛んでいたが──そうだ。
 状況を考えれば、この少女が俺の記憶喪失に関わっている可能性は、ある。
 
 この子が俺を半殺しの目に遭わせて、そのせいで記憶が、とか……?
 あるいは何かそういう特殊能力を宿しているとか?
 しかし、こんな子供が? 本当に?
 
 ▼ 17 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:21:46 ID:N7TsxXfE [17/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「お前……何か、知ってるのか? 何者だ?」

 思わず声が震え、上ずってしまう。
 少女は首をかしげて、何も言わず、こちらを見つめていた。
 表情からも、目からも、仕草からも。何を考えているのか、感情がまるで読み取れない。

 得体が、知れない。
 身体までもが、ぶるりと震えてしまって。

 ──何をやってるんだ、俺は。こんな子供に何を怯えている?
 頭をぶんぶんと振って、くだらない考えを振り払う。

 そうだ、その時はその時だと、覚悟を決めてこの木まで来たんじゃないか。
 びびってちゃ、始まらない。情報を聞き出さなければ。
 ▼ 18 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:31:37 ID:N7TsxXfE [18/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「えっと、この辺の子か? どこか、近くに町がないか、知らないか」

「……あっち」

 か細い声とともに、スッと左手をあげ、俺の背後を指差す少女。
 振り向くと、その先には小高い丘がそびえていて、遠くまで見通しがきいていない方向だった。
 あの丘の向こうか。

「ありがとう。ええと、ところで君はここで一人で何を?」

「……寝てた」

 少し時間差があってから、付け加える。

「……この木の守り神さまが、お願いかなえてくれないかなって」

 ▼ 19 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:36:28 ID:N7TsxXfE [19/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「守り神さま?」

「そう。今は眠ってるって、みんな言うけど、でも──ああ、どんなお願いかは秘密」 

「オーケイ。で、俺、あそこの抉れてるところに転がってたんだけど。何か知らない? いつああなったか、とか」

「……さあ。知らない。昨日まではなかったと思うけど」

「じゃあ、『WY』って聞いたことある? というか俺のこと、どこかで見かけたりとか、してない?」

「……わかんない」

 意外にも、というか。
 第一印象の衝撃は大きかったが、話してみると、案外普通の少女のようにも思えてくる。

 やっぱり、こんな子供が俺の記憶喪失に関係してるなんて、考えすぎなんだろうか。
 ▼ 20 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:44:51 ID:N7TsxXfE [20/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 しかしやはり、あの暗い瞳と『生きてるんだ』という抑揚のないフレーズが。フラッシュバックのように蘇る。
 どうしても、ただ者とは思えない。が、一方で、有力な情報を引き出せそうにないのも事実だった。

「じゃあ、俺は教えてくれた町に向かうけど──君はどうする? 町まで送っていこうか」

「いい。帰りたくないし」

 桜の木の幹に寄りかかり、気だるげに少女は言う。

 しかし、ボロボロの服で、薄汚れた格好の幼い子供である。
 さっきまでこの少女に恐怖していた俺だが、こうなってくるとなんだか心配に思えてきてしまう。
 ここに置いていくのは、どうにも気が引ける。
 ▼ 21 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:49:52 ID:N7TsxXfE [21/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 うーむ。そうだ。

「実は、俺、記憶喪失で。自分が誰なのか、なんでここにいるのか、何も覚えてなくて、心細いんだ。だからさ、町まで俺を案内してくれないかな」

「ふーん」

 抑揚のない返事。
 何を言うのもこの調子だから、興味があるのかないのか分からないぞちくしょう。

 ええい、この際だ。
 ガキめ、大人の演技力というものを見せてくれる。
 ▼ 22 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:53:47 ID:N7TsxXfE [22/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「ぐわあ持病の風邪が! 早く病院にいかないと5秒で死ぬ! どうか、人助けと思って、町まで一緒に行きましょうお願いします!」

「えぇ……」

「持ち物もほとんどなくて、手持ちポケモンもいないみたいだし! 悪いやつとか野生ポケモンに襲われたらひとたまりもないのよ! 頼む、俺をここで見捨てる、それだけはしないでくれ!」

 必死に頼み込んでいる中で──。
 少女の瞳が、わずかに揺れ動いたような気がした。
 俺の言葉のどこかに、たしかに反応した。

 ▼ 23 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:55:29 ID:N7TsxXfE [23/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「──それ、本当?」

 微かに、何かの色を帯びた問いかけ。
 チャンスだ。何に反応したのかわからんが、興味を持ってくれてる!

「ホントホント! あ、持病の風邪で死ぬのは嘘だけど、他は全部本当です!」

「ふーん……」

 こめかみの辺りで、指にくるくると髪を巻き付けながら、考え込む素振り。

 ▼ 24 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 19:58:46 ID:N7TsxXfE [24/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そして。

「わかった、いいよ」

 ほっそりとした両足で、少女が歩き出す。

「お、おお! 本当か、ありがたい!」

 これで旅の道連れができて頼もしい──じゃなくて、ちゃんとこの子を町まで送り届けなければ。
 頼りなさげな小さな背中を追って、俺も足を進める。

 ▼ 25 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 20:02:23 ID:N7TsxXfE [25/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「あ、それと」

 少女がこちらを振り返り、それから、にんまりと、笑みを浮かべた。
 初めて目にした彼女の笑顔は、こびりついた土や擦り傷もまるで気にならないぐらい、可憐で。

 ぎゅっと胸を締め付けられるような痛みが走る。

 なんだ、笑えるんじゃないか。
 疑った俺がバカだった。こんな子が、俺の記憶喪失の原因だ、なんて。

 この子は、普通の子なんだ。
 ▼ 26 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 20:07:23 ID:N7TsxXfE [26/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 絶対に、町まで無事に。
 俺が決心を新たにしたところで、彼女が続ける。

「あなたが記憶を思い出すのも、手伝ってあげるね」

「えっ? え?」

「わたし、ユスラ」

「うん? うん、ユスラね……うん?」

「あなたは──覚えてないんだよね。じゃあ、桜の木で会ったから、サクラ! よろしくね」

 なんだか急に機嫌をよくしたのか、足取り軽く、ユスラが歩を進める。
 俺の方は当惑してしまって調子が狂う。
 ▼ 27 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/08 20:10:46 ID:N7TsxXfE [27/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 しかし、おい。
 俺の呼び名がサクラ?
 冗談じゃないぞ、らしくないにもほどがある。

「サクラは嫌だ! 別の案を要求する」

「えー、かわいいじゃん」

「それが嫌なんだって」

「なら、早く本当の名前思い出したら。サクラちゃん?」

「ちくしょう、バカにしやがって」

 ああ、もう。翻弄されっぱなしだ。
 町まで送るだけのはずが、このユスラという少女との付き合い、思いのほか長いものになりそうだった。


 ▼ 28 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:10:37 ID:zi0kf9ag [1/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○


「わたしは9歳。サクラは?」

「いや、それも覚えてないな。……何歳に見える?」

「なんかそういうの、めんどくさい女みたいだね」

「自分がどんな見た目なのかも、まだ見てないんだって。仕方ないだろ」

「んー。20は越えてそう。30までは行ってないと思う」

「ほう、そうかそうか。だったら、若者のつもりでいてよさそうだな」 

 ▼ 29 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:15:48 ID:zi0kf9ag [2/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 町まで案内してもらう道中。
 小高い丘を越えるべく、えっちらおっちら上り坂をゆく。その間の俺とユスラの会話は、親睦を深めるためと、情報を得るためと、2つの目的があった。
 
 しかし、サクラという呼び名には、なかなか慣れられそうにない。
 そんな名前は、もっとこう、可愛らしくて、いかにも女の子って人間のための名前だろう。なんなら、俺よりユスラが名乗った方がよほど『らしい』んじゃないか。

 だいたい、桜の木の下で会ったからサクラだなんて、いくらなんでも安直すぎるネーミングであってだな……。
 ▼ 30 ッチャラ◆kjCx/BzBlg 19/03/09 10:18:40 ID:WdD2DiK. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 31 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:20:19 ID:zi0kf9ag [3/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 などと思考していたところ、突然ユスラがぴたりと足を止めた。
 こちらへ振り向き、じっと見つめてくる。

 あの、暗い瞳だ。

 出会った最初のあの時に比べれば、いくぶんかやわらいだようでもある。だがやはり、飲み込まれてしまいそうな、深い暗さに染まった瞳だった。
 そして、心なしか鋭い調子で、口を開く。

「ハナカゼタウン。いま、向かってる町」

「ん? ああ、そうか、ありがとう……?」

 記憶がないのだから当然だが、聞き覚えのない名前だ。

 ▼ 32 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:26:18 ID:zi0kf9ag [4/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「このあたりは、イカズチ荒野。夕方になると、雷がたくさん、すごくたくさん落ちるの、毎晩」

「毎日? そりゃ大変だ。迂闊に出歩けやしない」

「町の方にいれば落ちてこないんだけど──でも、昔はこうじゃなかったの。昔は大きな森があって、雷もこんなになかったって」

「森?」

 ユスラの言葉に思わず辺りを見回してしまう。
 からっからの土地。わずかにしか生えていない草。
 ひとっこひとりおらず、野生ポケモンの姿も見当たらない。

 そして、だいぶ離れたらところに小さく見える、桜の木。
 付近に他の樹木は一本もなく、ここに森が繁っていただなんて、想像もつかなかった。
 ▼ 33 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:30:29 ID:zi0kf9ag [5/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「桜の木の、守り神さまが眠っちゃってからだって。森がどんどん枯れて、あの桜だけになって、土地も荒れ放題で」

「どうしてそんなことに?」

「守り神さまがいなくなって、土地の生命力が枯れちゃったんじゃないかって、町のおじさんは言ってた」

「じゃあ、守り神が目覚めれば、土地も蘇る?」

「かもしれないって。だからわたし、時々、あの桜にお水あげてるの」

「ははあ。じゃあ、今日も水やりのためにあそこに?」

「んー、それは──」

 ▼ 34 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:35:15 ID:zi0kf9ag [6/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 言いかけたところで、ユスラは口をつぐんでしまう。
 ハッとなったような顔で、まくしたてる。

「ううん、そんなことより、ねえ、ここまで聞いて、思い出さない? 何か、少しでも覚えがあることとか」

 そういうことか。
 ユスラの方も、俺の記憶を思い出させるきっかけにならないかと考えて、色々と話してくれていたわけだ。

 しかし残念ながら、俺に思い当たるところはなく、首を横に振るしかない。

 ▼ 35 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:40:17 ID:zi0kf9ag [7/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「いや、そもそも、このあたりの出身かも分からないし」

「でも、こんな荒れ地にいたんだよ。荷物のサイズも、旅人って感じじゃないし。やっぱり、この近くに住んでたんじゃない?」

「たしかにそうかもしれないけどなあ」

「それにね、きっと完全にぜんぶ忘れちゃったわけじゃないと思うの」

「どういうことだ?」

「『俺』って。自分のこと、そう呼んでるでしょ。元々そうだったのを体が覚えてる、みたいな。違う?」

 ▼ 36 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:45:52 ID:zi0kf9ag [8/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 なるほど。
 目から鱗が落ちる気分だ。

 俺は、自分の一人称が『俺』であることは覚えていたわけだ。
 ……いや、本当にそうか?
 本来の一人称は『私』だけど、それを忘れてるだけ、とかそんなこともあるのではなかろうか。

「だとしたら、『俺』以外もいろいろ試すんじゃない? 最初からずっと『俺』としか言ってないのは、やっぱりそれが馴染んでるからだと思うな」

 疑問を口にすると、あらかじめ用意していたかのようにすぐに返事がある。

 ▼ 37 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:49:27 ID:zi0kf9ag [9/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 体の動かしかたや、動かす時の重み。
 背の高さの感覚に、自分の性別。
 もしそれすらも忘れていたら、きっともっと違和感があったはずだ。
 
 それから、最初に木を見てそれが桜の木であると分かったのも、桜の木というものを知っていたからだ。
 
 あまりに当たり前のことだったから、意識していなかっただけで。
 俺はすべての記憶を無くしたものだとばかり思っていたが、そうではなかった。

 『最低限の土台』のような、俺という人間に染み付いた大前提の知識は残されているのだ。

 ▼ 38 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:54:18 ID:zi0kf9ag [10/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ユスラが続ける。
 
「覚えてることもあるなら、見たり聞いたりして、どこかに引っ掛かってピンと来るようなこと、きっとあると思うの」 

「そうだな──その通りだ」

 自分の気持ちが上向きになってゆくのを感じた。
 記憶喪失がそう簡単に解決するものだとは思わないが、それでも、光はある。
 くよくよしてたって始まらない。

 小さくて断片的なものだって構わない。少しずつでも、思いだそう。
 その記憶の欠片を辿って、俺は必ず、取り戻す。

 ▼ 39 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 10:59:31 ID:zi0kf9ag [11/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「なんか、ちょっと元気が出たよ。ありがとな」

「ううん、それより」

 突如、ユスラの表情が翳りだす。
 何かを思い詰めたような。
 
「ねえ、サクラ、早く思い出してね。なるべく早く」

「そりゃ俺だって早く思い出すに越したことはないが……。何か、事情でもあるのか」

「うん。なんとか今月中にお願い」

 そう言うなり、ユスラはくるりと背を向け、再び歩き始める。

 ▼ 40 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 11:05:06 ID:zi0kf9ag [12/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「うわ、締め切りつきかよ──ちなみに、今って何月何日だ?」

「1月29日」

「あさってまでじゃねえか! 大家さん、もうちょっと待ってくれませんか」

 努めて明るく、茶化すように言ったつもりだが、どうだろうか。
 追いかけ追いつき、横目にちらりとユスラの表情を伺うと、浮かない表情が目に入る。
 
 どうやら、効果はいまひとつのようだ。


 ▼ 41 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:35:49 ID:zi0kf9ag [13/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

 俺は打ち震えた。
 恐怖でも歓喜でもなく、雷の直撃を受けたような激震に、脳が揺さぶられる。

 地に膝をついていた。

 息が詰まる。ぜえぜえと、喘ぎが漏れる。

 ▼ 42 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:39:00 ID:zi0kf9ag [14/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ぐらつく視界の中に、少女がひょっこりと顔を覗かす。

「サクラ、どうしたの?」

「いや……大丈夫だ」

 気遣わしげに寄ってくるのを右手で制し、よろけながら立ち上がる。
 左手で頭を抑えながら、ゆっくりと周囲を見回す。今しがた得たものを、1つ1つ確かめる。

「ねえ、もしかして──」

「──ああ。俺は、この町を『知っている』」

 早くも、というべきか。
 俺は、失った記憶の断片を思い出していた。

 ▼ 43 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:44:52 ID:zi0kf9ag [15/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
 
 丘を越えた後は、町は案外すぐ近くにあって、さほど疲弊することもなく辿り着けていた。出発してから一時間前後といったところか。
 そしてそれは、町に入った瞬間に起こった。

 町の外観を見たときから、何か引っ掛かるようなものは感じていたのだ。しかし、その正体が分からなかった。
 そして、一歩足を踏み入れた時。
 頭のてっぺんから突き抜けるような、あの雷みたいな衝撃に襲われた。

 走馬灯めいた、凄まじい勢いで脳裏をかけめぐる映像。
 この町に関する記憶の断片が、無秩序に一斉に飛び込んで来て、くらくらしてしまう。

 ▼ 44 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:46:00 ID:zi0kf9ag [16/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 ──ハナカゼタウン。
 そうだ。そういう名前だった。
 
 乾いた大地に立ち並ぶ家々。寂れた町並み、古ぼけた標識。
 西部劇なんかに出てきそうなこの田舎町を。

 俺はここを知っている。

 俺は、このハナカゼタウンに来たことがある。

 ▼ 45 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:52:24 ID:zi0kf9ag [17/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 
「俺自身のことは、分からないままなんだ。でも、たしかにこの町に見覚えがある」

「じゃあ、やっぱりここに住んでるのかな」

 こてんと首を傾げるユスラ。

「単に旅で寄っただけ、かもしれないけど──でも、方針は立った」

「そっか、きっと町の誰かがサクラを知ってるもんね」

「ああ。少なくとも、俺が住民ならすぐ分かるだろう。問題はここにいた期間が短かったら、だけど」

「よその人なら珍しいから、たぶん印象に残ってるんじゃないかな。ほら、ド田舎だし」

「なら、決まりだ」

 とにかく聞き込みをして、俺のことを知ってる人間を探す。

 ▼ 46 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 17:59:05 ID:zi0kf9ag [18/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ○

 ハナカゼタウンは大きく2つのエリアに分かれている。
 北側と南側だ。

 まず南側の、イカズチ荒野に面したエリア。

 土地は乾き、砂埃が酷い。その上、夕方以降はイカズチ荒野に落ちる雷でうるさく、はっきり言って土地柄はよくない。

 そのため住民も柄の悪い者がやや多い。北側に比べると治安が悪く、閑散としていた。
 一方で酒場や賭場などは南部に集中しており、時間帯によっては賑わいを見せる。

 ▼ 47 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:04:50 ID:zi0kf9ag [19/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 そんな南側から北へ進めば、徐々に様相が変わってゆく。次第に草木が増え、ちらほらと畑や溜め池も見られるように。

 それもそのはずで、町から北には緑に満ちた広大な山脈が広がっているのだ。
 荒野から離れるにつれ、目に見えて土地の豊かさは増していき。
 山から町の近郊を通る川もあり、裾野には、同じ町の中とは思えないぐらいのどかな風景が広がる。

 南部に比べれば人の活気があり、役所や学校など、町の主要な施設の多くはこの北側のエリアにあった。
 
 ▼ 48 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:11:25 ID:zi0kf9ag [20/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ──とまあ、俺が思い出した記憶によればこんなところだ。 

 さて、俺を知る人を探すのに、北と南、どちらから当たるべきか。
 やはり、人の多い北か……?
 と、考えていたとき。
 

「──あっ!」
 
 突然、小さく声をあげたと思うと、弾かれたようにユスラが動く。

 俺の背後に回り込むと、ぴったりとくっつく。顔を俯かせ、動きを止めて。息を潜め、気配を押し殺すかのように。

 明らかに、何かに怯えている。

 ▼ 49 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:17:09 ID:zi0kf9ag [21/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 これは、一体?
 答えを求めて辺りを探れば、それらしきものはすぐに見つかった。
 

 数軒先の酒場の扉が開き、中から男が出てくるところだった。

 背が高く色黒で、目付きはねっとりとし、柄が悪い。
 まだ真っ昼間だというのに顔を赤らめていて、既にずいぶんと飲んだ後らしい。
 葉巻をくゆらせながら、ふらふらと歩き出し──目があった。
 ▼ 50 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:23:31 ID:zi0kf9ag [22/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 町に入ったと言っても、まだ人通りの少ない南部の端っこあたり。
 だから俺にとって、彼は初めて遭遇するこの町の住人だった。もちろんユスラ以外では、だが。

 なんだか緊張して、息を呑む。

 ユスラは、この男に怯えているのか?
 ならば、あまり関わらない方がいいのだろうか。
 だが、この男が俺の記憶の手掛かりになる可能性だって、ある。


 考えあぐねる俺をよそに、男は興味なさげに、俺と反対方向へ足を向ける。ユスラの存在に気がついた様子もない。

 なんだかよく分からんが、ひとまず面倒ごとは回避できそうだ。

 ▼ 51 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:33:07 ID:zi0kf9ag [23/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



「わたし、あの人のこと嫌い」

 酒場から出てきた男が角を曲がり、姿が見えなくなったところで、ユスラが口を開く。
 表情筋は強ばり、唇を固く結んで。何かを押し殺すようにしていた。

「誰なんだ? ヤクザとかか」

 あれだけ怯える相手ということは、と当たりをつけてみたが、ユスラは首を横に振る。

「ううん。もっと小物。酒とタバコとギャンブルやってるだけの、ダメな男」

「じゃあ、いったい」 

 そう尋ねると、ユスラの瞳はいっそう暗く沈んだ色に染まった。
 
「わたしのママが、結婚した人。わたし、あの男と同じ家に棲んでるの」

 抑揚のない、暗澹たる声。
 月も星も町明かりも何一つない夜でさえ、これほどではないだろうというぐらい、暗かった。

 ▼ 52 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:39:58 ID:zi0kf9ag [24/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

「それは──お父さんとうまくいってないってことか?」

「違う」

 ユスラの語気が強まる。

「わたしのパパは、何年も前に行方不明になったの。あの男は最近うちに来たけど、仕事もしてないし、ママやわたしを殴るし、最低」
 
「な!? ユスラに、虐待を?」

 ユスラがゆっくりと無言で頷く。

 思わず、まじまじとユスラを見つめる。
 全身が汚れや土埃まみれだから分からなかったが──言われると、細かな擦り傷とは別に、腕や足に痣のようなものが浮かび上がって見える気がした。 

 ▼ 53 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:45:47 ID:zi0kf9ag [25/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 声を荒らげる。

「そんな──そんなこと、許されてたまるか。そんなやつ、どうにかできないのか」

「どこがいいのかわかんないけど、ママは好きみたいだし。お役所もいい加減だし。わたしには、なにもできない」

 ユスラの瞳の、あれほどまでの暗さの理由、その一端が見えたように感じた。
 この、無力感にうちひしがれているのだ。


 心が痛み──そして、ズキリ、と頭に痛みが走る。


 ▼ 54 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:53:10 ID:zi0kf9ag [26/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 なんだ、これは?
 何に反応した?

 俺の記憶が、『引っ掛かり』を感じている。どこに?
 
 これは──これは、無力感の記憶だ。

 どこからともなく流れ込んでくる、濁った感情。
 全身の力が抜け落ちていくような、徒労感と絶望感。

 
 どうにもできない。何をしても何も変わらない。
 頑張っても報われない。
 なんで、頑張らなきゃいけないの──。


 知っている。
 俺は、この感情を知っている。

 ▼ 55 まぐれな救い主◆lX0nF9ikQo 19/03/09 18:59:11 ID:zi0kf9ag [27/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 もしかしたら。
 俺はユスラと似た境遇だったのかもしれない。

 ならば、ユスラに出会ったときに感じた運命的なものは、あれは、仲間意識のようなものか。
 ユスラの力にならなければならないと、本能的な部分で感じ取ったのか。
 それが、俺のやるべきことなのか。

「なあ、ユスラ。もし家に帰りたくなかったら、俺と一緒に宿に泊まるか?」

 はじめて会ったとき、『帰りたくないし』と口にしていたのを思い出す。時間稼ぎにしかならないかもしれないが、一旦避難するのも手だ。
 そう思っての提案だった。

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