魂の煉獄 〜探偵ツタージャちゃんの活動記録〜:ポケモンBBS(掲示板) 魂の煉獄 〜探偵ツタージャちゃんの活動記録〜:ポケモンBBS

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魂の煉獄 〜探偵ツタージャちゃんの活動記録〜

 ▼ 1 hbetfG4FMU 19/05/17 22:49:11 ID:0bS2E646 NGネーム登録 NGID登録 報告
「はぁ、はぁ、はぁ……」

「ねえねえ、待ってよぉ〜。逃げてばっかりいないで、俺とイイコトしようぜ〜?」

「はぁ、はぁ、っ、く、はぁ、はぁ……」

「ねえってばぁ。たく、逃げても無駄だっつーのに……よっ!」

「きゃっ!!」

「へへ……つーかまーえた」

「は、離して……」

「嫌に決まってんだろそんなもん。むしろこれから、めちゃくちゃ密着するんだよ」

「いや、いやっ!」

「嫌じゃねぇよクソ♀が!! てめぇはおとなしく俺のやる事を受け入れてりゃいいんだよ!」

「うっ、ううっ……」

「へっ、抵抗を止めたか。思ったよりあっさりだったな……さて、と!」

「っ!!??」

「お、おおお、すげぇ、この具合、初モノかぁ……やべ、もうでちまいそうだ……! の前に、動くぞ!」

「っ、っ、く、うっ、んんっ」

「しっかり喘ぎ声出せや!!」

「ひぐっ……う、ううっ、うあ、あっ、あっ、ああっ」

「へへへ、それでいいんだよ。その声が聞きたかったんだ。あと、泣くんじゃない。これはお前のために、やって

やってるんだぜ」

「…………」

「声!」

「ひっ! あ、ああ、あっ、あんっ、ああっ!」
 ▼ 76 hbetfG4FMU 19/05/18 23:24:46 ID:vs5s3FtA [1/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




-♀キュウコン宅前-

ツタージャ「ちょっといいかしら」

♀キュウコンの家の前には、リザードンをはじめこの町の警察官がほとんど集まっていた。中には、あの参事官サマの姿もある。

リザードン「来たか。これからスリーパーを探す。やつは自宅にいなかった。俺たちの動きに気づいて、逃亡を図った可能性がある」

ツタージャ「少し待ってほしいの。私の話を聞いてくれないかしら」

リザードン「話? 悪いが、今は急いで……」

リザードンが言葉を紡ごうとするのを、うしろにいたポケモンが片手で制する。例の参事官サマ、フラージェスだ。

フラージェス「部外者の探偵さん。私達はこれから、犯人逮捕に向けて動かなければなりません。お遊びだったら家でやって頂戴」

ツタージャ「遊びじゃありません。真面目な話です」

フラージェス「状況をわかっていないようですね。容疑者が確定した今、我々は一刻も彼の早く居所をつきとめ、逮捕しなければならない。醜悪な殺害犯のスリーパーをね」

ツタージャ「そのスリーパーは犯人じゃないって言ってんのよ」

エモンガ「え!?」

リザードン「なんだと!?」

どよめく周囲。なによりぼくもこれにはびっくり。

フラージェス「何を言い出すかと思えば……証拠も全て揃っています。疑う余地などありません」

ツタージャ「でしょうね。そうなるように、彼自身が仕組んだのだから」

フラージェス「彼とは、スリーパーのことですか?」

ツタージャ「そうです」

フラージェス「バカらしい。呆れて物も言えませんね。やはりお遊びの探偵ですか」

めっちゃ言ってんじゃん、って言葉をぼくは呑み込んだ。
 ▼ 77 hbetfG4FMU 19/05/18 23:25:16 ID:vs5s3FtA [2/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ツタージャ「このままでは冤罪を生んでしまうわ」

フラージェス「話になりません。各員、行きますよ」

ツタージャ「彼は勿論追いかけることになる。だけどこのやり方では、取り返しがつかないことになる」

フラージェス「いい加減になさい。これは捜査妨害ですよ。これ以上しつこくするのであれば、あなたを逮捕することになります」

フラージェスは厳しい視線をツタージャちゃんに送る。

ツタージャ「もし私の言う事が間違っていれば、私を逮捕すればいい。ただしそれは、スリーパーを無事確保できてからにして」

でも、ツタージャちゃんも負けてない。小さな身体で、自分よりも大きなフラージェス相手に強烈な『蛇睨み』をお見舞いしている。

リザードン「まぁまぁ、どちらも落ち着いてください。ツタージャ、俺たちには時間が無い。話すなら、手短に頼む」

ツタージャ「私としてもまずスリーパーの確保……ううん、保護を優先したいんだけど、私の推理が正しければ、たとえ間に合ったとしても、このまま大勢で押しかけるとまずいことになるのよ」

リザードン「どういうことだ?」

フラージェス「リザードン!」

リザードン「すみません。少しだけ、少しだけでいいので、時間をくれませんか」

フラージェス「なりません」

ツタージャ「では、リザードンに乗りながら話させてください。それなら、探しながら話ができるはずです」
 ▼ 78 hbetfG4FMU 19/05/18 23:25:42 ID:vs5s3FtA [3/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
フラージェス「この小娘が……」

リザードン「参事官! 頼みます、こいつの言う事はいつも正確です、決して無益な話ではないはずです。それに探しながらなら、時間も無駄にはなりません」

リザードンが必死にフラージェスに訴えかけてくれている。彼だって自分の立場があるだろうに、そこまでしてツタージャちゃんの話を聞こうとしてくれてるのか……

なんか、ちょっと悔しいな。

フラージェス「……わかりました。では、彼の背中で話を聞くとしましょう」

ツタージャ「ありがとうございます」

フラージェス「ただし」

ぴっ、とフラージェスはツタージャちゃんを鋭く指差す。

フラージェス「あなたの話と全く異なる話が事実として展開された場合、捜査妨害として少なくともあなたを留置所へ送ります」

リザードン「参事官!」

フラージェス「いいですね?」

フラージェスはこれまで以上に厳しい視線をツタージャちゃんに投げかける。でも……

ツタージャ「かまいません。推理が間違ってるということは、私とて探偵の名を穢すことになりますから」

フラージェス「では決まりです。参りましょう」

フラージェスはリザードンを屈ませ、ひらりと彼の背に乗る。本来彼の背中にはあまり多くのポケモンを乗せることはできないが、ぼくたちは小さい、三匹乗ってもダイジョーブ、だった。
 ▼ 79 hbetfG4FMU 19/05/18 23:26:11 ID:vs5s3FtA [4/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
リザードンの背に乗り、空を舞う。目的はスリーパーを見つけることなのでそう高いところを飛んでいるというわけではないが、地に落ちてしまえば骨折では済まないだろう。

フラージェス「それで、あなたはスリーパーが犯人ではないといいましたね。どういう事ですか?」

思いなおしてくれたのだろうか、意外にもフラージェスは真剣に話を聞く姿勢を作ってくれた。見れば、彼女の目は先ほどまでツタージャちゃんと言い争っていたときのような厳しいものではなくなっていた。

彼女とて事件解決を目指してるわけで、決して悪いポケモンというわけじゃないんだ。

ツタージャ「結論は、真犯人は別にいるということです。でも、これを話すには、時間をだいぶさかのぼる必要があります」

フラージェス「というと?」

ツタージャ「……彼、スリーパーがまだスリープだった頃、彼には想いを寄せるポケモンがいたんです」

リザードン「その話か。キュウコンだろう?」

ツタージャ「うん。当時ロコンだった、♀キュウコン。彼女は、ある集落ではマドンナのように皆から慕われている存在で、スリープはそれを遠くから眺めているだけのポケモンだった」

フラージェス「それは……いえ、一度最後まで聞きましょうか」

ツタージャ「ありがとうございます」

ツタージャちゃんは一度目を閉じる。

ツタージャ「あれは……そう、彼らが別の集落にいた頃のこと。嫌われ者のスリープと、大人気マドンナのロコン。彼らの、物語」
 ▼ 80 hbetfG4FMU 19/05/18 23:26:38 ID:vs5s3FtA [5/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


―――――――――――――――――

「おい見ろよ。またコイツ、ロコンちゃんのこと見てるぜ」

「うわっ、キモ! まさかお前、彼女に手出そうとしてるんじゃねぇだろうな。まさかレイプ魔なのか〜!?」

「ド底辺の癖にロコンちゃんのこと見てるんじゃねーよ。お前とじゃ釣り合わないどころか、視界に入れることさえおこがましいわ!」

スリープ「っ、ぐ、うぁ……」

数多の暴力が、スリープを襲う。

残酷な言葉の雨、殴る蹴るの物理的干渉、全てを否定する精神攻撃。

周囲からの残忍な言動が、日々彼の心と身体を痛めつけ蝕んでいた。

「いこーぜ。こんなのにかまってても仕方ねぇ」

「そうだな。時間の無駄だ」

「おい、二度と彼女のこと見るんじゃねぇぞ。わかったか?」

スリープ「…………」

「わかったかっつってんだろ!」

スリープ「ぐえっ……」

強烈な蹴りがスリープの腹部にヒットする。何の抵抗もできない彼はそのまま一メートル程吹っ飛び、ぐうぐう唸るばかりで動かなくなった。
 ▼ 81 hbetfG4FMU 19/05/18 23:27:10 ID:vs5s3FtA [6/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
彼は物静かな性格で、他人と関わりを持とうとするポケモンではなかった。明るい性格でもなければ、何か秀でたものがあったわけでもない。彼は周りのポケモンから「陰険」と罵られ、いつも片隅に追いやられていた。

彼は悪いポケモンではない。誰かに危害を加えることはしなかったし、誰かのことを悪く言う事もなかった。たとえそれが、自分をいじめる相手であっても。

だが彼はいじめられ続けた。「辛気臭いから」という理不尽な理由で、雰囲気や空気が嫌だからという勝手な理由で、彼はつまはじきにされ、周囲から嫌なものを見る目で見られ続けた。

スリープ「僕って、なんで生まれてきたんだろう……」

彼には両親がいない。幼い頃に他界してしまい、彼は一匹で生きてきた。

だが、成長しても彼は一匹だった。誰かと話に花を咲かせることなく、楽しい時間を共有することなく、これまでひっそり生きてきた。

せめて放っておいてくれたなら、まだ幸せだったかもしれない。好きの反対は無関心とはよく言うが、無関心でいてもらうほうがいくらもありがたいなんて事は往々にしてある。

スリープ「いてて……今日は、暫く起き上がれそうにないなぁ……」

蹴り上げられた腹部が痛む。もしかしたら、骨の一本くらい折れているかもしれない。

だが、この集落では、彼に暴力を振るう者達を見て咎める者など誰もいない。町によっては人間たちのそれのように厳しく統制された場所もあるみたいだが、この集落ではそういった文明は取り入れられていなかった。

悔しい。でも、何もできない。それもまた、悔しい。

彼とて、好き好んでこの状況の中にいるわけじゃない。かといって、集落を飛び出して死と隣り合わせの中で生活する勇気も彼には無い。

唯一の癒しといえば、遠目に見るマドンナロコンの姿。彼女こそが、彼の心の支え。彼も他の♂たちと同様に、密かにロコンに想いを寄せていた。

無論、それは届かぬ想い。たとえ彼をいじめる者達がいなくとも、きっと伝わることのない切ない恋。

そう、彼は思っていた。
 ▼ 82 hbetfG4FMU 19/05/18 23:27:31 ID:vs5s3FtA [7/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ロコン「大丈夫?」

スリープ「え……?」

ついに幻聴が聞こえたのかと思った。いよいよ傷が修復できず、死後の世界へ旅立ったのかと思った。

しかし、顔を上げるとそこには……

ロコン「あ、気がついた。良かったぁ」

天使が舞い降りたのだろうか。実際にそんなはずはないのに、彼女の周りには淡い光が降り注いでいるように見える。マドンナと言われているのは伊達じゃない。

ロコン「どこか、痛いの?」

スリープ「あ、うん……」

ロコン「ほんと? 大変、手当てしないと……」

スリープ「あ!」

ロコン「えっ、なに?」

スリープ「あ、いや、その……僕は大丈夫、だから」

ロコン「そうなの? ならいいけど」

臆病風に吹かれたのではない。この状況、誰かに見られてしまったら、噂程度にでも流されてしまったら、次自分がどんな目に遭うか……それを考えたのだ。

スリープ「えっと、その、ごめん」

ロコン「え、どうして謝るの?」

スリープ「え? あ、いや……」
 ▼ 83 hbetfG4FMU 19/05/18 23:27:57 ID:vs5s3FtA [8/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
それが、彼と彼女の出会いだった。

どういうわけかそれからロコンは彼に興味を示し、誰もいないときを見計らっては彼に話し掛けた。

皆のマドンナ的存在が、自分の懸想する相手が、こんなにも優しく接してくれる。これじゃあ勘違いしてしまっても仕方ない。次第に、彼は自惚れとわかりつつも、そう思うようになっていた。

「陰険小僧、さっさと消えろ」

「今日もサンドバッグになってくれんのかぁ? そら!」

相変わらず、彼はいじめられる。

だけど、彼はそれも平気になっていった。これに耐えれば、また彼女と話すことができるから……そう思って、どんないじめも耐え抜いた。

もしかしたら、遊ばれてるのかも? 誰かに言われて自分を貶めるために近づいてきたのかも? そんな事も脳裏を過ぎったが、話に花を咲かせられるようになっても、仲が良いと客観的に見て言えるくらい距離が近づいても、ロコンは彼を裏切るような素振りを一切見せなかった。

それは、単なる彼女の気まぐれだったのだろうか、それとも何か思う所があってのことだったのだろうか。彼がその答えを知るのは、随分先の話。
 ▼ 84 hbetfG4FMU 19/05/18 23:28:35 ID:vs5s3FtA [9/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

スリープ「え、ここを出る?」

ロコン「うん。ずっと遠くにね、ここよりもっと温かくて広くて、素敵な町があるんだって。私、そこで暮らしたい」

スリープ「で、でも、君の妹はまだ小さいし、それに両親だって……」

ロコン「うちのお父さんもお母さんも、お仕事ばっかりでずっと家に帰ってこないもん。それに、好きなところで暮らしていいよって言われてるから大丈夫よ」

スリープ「そ、そうなんだ……でも、外は危険がいっぱいだよ……」

いくら居心地が良かろうとも悪かろうとも、彼らが住む地は外敵から身を守れるよう考えられて作られた集落。ここから外に出るということは、数秒先には命を失っているかもしれないような、そんな危険を常に感じて過ごしていかなければならないということ。

彼女の言う町へうまく辿り着く事ができればいいが、それがどこにあるかもわからない、どれくらいかかるのかもわからない、そんな状態で外に出るなんて、彼には考えられなかった。

ロコン「でも、そこでなら、あなたもいじめられずに済むでしょう? それに、私だって……」

スリープ「え……」

彼女は、彼が陰でいじめを受けていると知っていた。そして、その原因の一つが自分の存在にあることもわかっていた。だからこそ、彼女はここを出たいと提案したのだ。

ロコン「私達のこと誰も知らないところに行けば、そういう事で悩まなくてすむわ。だから……」

スリープ「ロコンちゃん……」

ロコン「大丈夫、ヤトウモリも一緒に来てくれる。彼女、喧嘩強いから」

スリープ「あはは……」

ヤトウモリはロコンの親友であり、ボディーガードみたいなものだった。度の過ぎたナンパをロコンに仕掛けた♂をコテンパンにしていたことを思い出す。

ロコン「だからね、一緒にここを出ましょ?」

―――――――――――――――――
 ▼ 85 hbetfG4FMU 19/05/18 23:29:21 ID:vs5s3FtA [10/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
フラージェス「ちょっと待って。それって、なに? つまり……キュウコンとスリーパーは、そもそも仲が良かったということですか?」

ツタージャ「おそらくは。推測の域は出ませんが」

フラージェス「おそらくって、あなた……」

リザードン「別にありえないって話じゃねぇが……だが、たとえ仲が良かったとしても、何らかの形で仲違いして、それからストーカーになったって事も考えられる」

ツタージャ「そうね。でも、私が見て聞いた情報を総合すると、そういう話にはならないのよ」

エモンガ「でも、その話でいくと、エンニュートはキュウコンとスリーパーが仲良いのを知ってたことにならない?」

ツタージャ「たぶん、エンニュートからは彼もボディーガードの一員みたいに考えられてたんじゃないかしら。妹のこともあったし」

エモンガ「でも、それこそ他の誰かでもよかったわけでしょ? 敢えて彼を選んだ理由とか、気になると思うけどなぁ」

ツタージャ「実際どうだったのかは、訊いてみないとわからないわね。疑問に思い続けてたからこそ、彼女は今日『相手がスリープみたいな根暗なやつでなくてよかった』なんて言ったのかもしれないわ。ただ、『なーんで彼も連れてきたんだか』って言ってたし、キュウコンの独断だったことは確かよ」

エモンガ「あ、そっか。疑問に思いつつも親友の決めた事だから黙って頷いていた……それなら納得かも」

それに、何より辻褄があう。普通、ボディーガードだからって嫌いな相手を危険な旅のお供に選ぶなんて事はしない。となると、彼らは仲がよかったと考えるのが自然だ。リザードンの言うようにその後何かがあったのかもしれないけど、仲の良い相手をストーキングする理由は無い。普通に会いに行けばいいのだから。

リザードン「んで、それからどうなったんだ? ここからが肝心なんだろ?」

ツタージャ「そうね……」
 ▼ 86 hbetfG4FMU 19/05/18 23:29:59 ID:vs5s3FtA [11/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


―――――――――――――――――


見知らぬ町を探す旅は、困難を極めた。時には死の危機に直面し、時には災害に苦しんだ。

勿論悪い事ばかりでもなかった。今まで食べたことのないとびきり美味しい木の実を見つける事ができたし、川辺で談笑しながら水浴びをしたり、森林浴を楽しんだりもした。

そうやって彼らは諦めず歩き続け、ようやくその地を訪れることに成功する。それが、彼らが今住む、この町だった。

これは後から聞いた話だが、ロコンは大人たちからは酷い扱いを受けていたのだという。力の差があるのをいいことに、性的暴力も振るわれていたらしい。

スリープや近しい年頃の♂たちから見れば彼女は高嶺の花なマドンナでも、大人の♂たちから見れば、彼女は性処理道具のようのなものだった。

憤るスリープ。しかし、全ては過去の話。新しい町に逃げてこれたことで、そういった悲しい過去にも別れを告げる事ができる。

彼女達の冒険は、自分たちの輝かしい未来を掴むための旅だったのだ。


新しい町で暮らすようになってからは、これまでの生活がまるで嘘や幻であったかのように、色んな事が上手くいった。

スリープは自分の仕事を見つけ一生懸命に働き、ロコンは生きがいを見つけ誠心誠意取り組んだ。

そうしているうちに、それぞれ進化を果たす。身も心も大人になった彼ら。当然のように、お互いのことを強く意識し始める。

もとより、ロコンは昔からスリープに恋心を抱いていた。そのため、二匹がそういう仲になるにそう時間はかからなかった。彼は自分を地獄のような日々から連れ出してくれたお礼にと大きなモモンの木の下でネックレスのプレゼントを渡し、彼女は熱い口付けでお礼にお礼を重ねた。

親友のエンニュートにも内緒の恋愛。彼らは想いを伝え合い、密かに、本当に密かに、付き合いだした。もう自分たちに酷いことをする連中はいないというのに、お互い表立って会う事にどこか怯えていた。

それでも、彼らは幸せだった。数日に一度しか会えなくとも、そのときをめいっぱい楽しんだ。とても優しい愛の形だった。
 ▼ 87 hbetfG4FMU 19/05/18 23:30:33 ID:vs5s3FtA [12/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


しかし、そんな関係も長くは続かなかった。

住んでいる場所が変われど、キュウコンが美人であることに変わりは無い。以前のような扱いこそ受けることはなくとも、彼女に声をかける♂ポケモンは相変わらず多く、うまくかわすのに結構苦労しているようだった。

そんなある日……彼女の元に、あるポケモンがやってくる。

彼女と同じ金色の毛並……♂のキュウコンだった。

町でも好青年と評判の良いキュウコン。彼はひょんなことから彼女の存在を知り、深く惚れ込んだ。彼はなんとか彼女を自分のものにしようと、彼女に対して猛烈にアピールし始めた。一度や二度ならず、何度も何度も、あるときは彼女の仕事が終わるのを待ち、あるときは町中で偶然を装って接触してきた。

だが、彼女にはスリーパーという恋人がいる。いい加減しつこいと思った彼女は、その事実を♂キュウコンに伝えることにした。

もう恋人がいるから、あなたとは付き合えない……そう彼女が言ったその瞬間……

彼は、表情を変えた。

一瞬の出来事。彼はゴミを見るような目をして彼女に襲いかかり、力の限り押さえつけた。

…………そして彼女は、穢された。

集落の大人たちに、いいように身体を玩ばれた彼女。新しい生活を始め、そんな過去とは決別したはずだった。だが彼女は、被害者としての呪縛から解かれることはなかった。

数日後、キュウコンは泣きながらそのことをスリーパーに打ち明けた。当然、彼は憤る。だが、相手は町で評判の好青年。歯向かおうものなら、世間的に袋叩きにされてしまう。

誰からも評判の良いポケモンがそんなことをするはずがないと言われるだろう。スリーパーのような特に何かがあるわけでもないポケモンが抗議したところで、僻んでいるだけと言われるに違いない。

たとえそれを♀キュウコン本人の口から言おうとも、♂キュウコンの地位や名声を貶めるために言っているに違いないと批難されてしまうかもしれない。そうなると、彼女はこの町にもいられなくなってしまう。

彼女達は、泣き寝入りを余儀なくされた。
 ▼ 88 hbetfG4FMU 19/05/18 23:30:57 ID:vs5s3FtA [13/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



それからも、♂キュウコンによる性的乱暴は続く。

彼はとても狡猾で、自分の犯行が絶対に周囲には漏れないよう徹底していた。また、たとえ出るところに出られたとしても、万全の体制で彼女を迎撃できるだけの準備もしていたようだ。

♂キュウコン「あぁ〜……今日も出した出した。相変わらず、具合はめちゃくちゃ良いのな」

♀キュウコン「……っ、ぐす……ぐす」

♂キュウコン「泣くな泣くな。これも全てお前のため、そのスリーパーってのがどんなやつかは知らんが、俺と一緒になるほうが幸せってもんだぜ?」

♀キュウコン「っ、く、誰が……あんたなんかと……」

♂キュウコン「ちっ……まだ足りねぇか……ん?」

ロコン「!」

♂キュウコン「へぇ……お前、妹がいたんだな」

♀キュウコン「!? ロコン、出てきちゃだめって言ったでしょ!!」

ロコン「だ、だって、お姉ちゃん、なんだか、苦しそうで……」

♂キュウコン「ほほぉ、俺すげぇイイコト思いついちゃったわ。うん、そうだな、これでいこう。なぁロコンちゃん、ちょっとお兄さんとお話しない?」

ロコン「ひっ」

♀キュウコン「妹にだけは手を出さないで!!」

♂キュウコン「てめぇはちょっとどいてろよ。俺はロコンと話してんだよ」

♀キュウコン「あぐっ……」
 ▼ 89 hbetfG4FMU 19/05/18 23:31:23 ID:vs5s3FtA [14/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
♀キュウコン「ロコン、逃げて! はやく!!」

ロコン「う、うう……」

♂キュウコン「あーあ、怯えちゃって。可愛いね。でも、怖がる必要なんてないからね。お兄ちゃん、お話したいだけだから」

ロコン「う、うう、いや……」

♂キュウコン「……てめぇも俺を拒絶すんのか。姉妹揃ってよぉ、薄汚いくせして、何様のつもりだ、あ?」

ロコン「ひっ、ううっ……」

♀キュウコン「お願い、お願いだからロコンには手を出さないで。私なら、何してくれてもいいから、なんでもするから、だから、お願い」

♂キュウコン「へぇ、なんでもねぇ……そんならとりあえず、俺のために一晩中啼いてくんねぇかな? お前が動いて、俺を満足させろ」

♀キュウコン「わかったわ、やるから、だから」

♂キュウコン「だったらさっさとやれよ」

♀キュウコン「あうっ」

ロコン「お姉ちゃんを殴らないで! 殴らないで!」

♂キュウコン「ガキは黙ってろ! てめぇも犯されてぇか!」

♀キュウコン「やりますから、今すぐやりますから、だから、お願いします、お願いします!」

―――――――――――――――――
 ▼ 90 hbetfG4FMU 19/05/18 23:32:04 ID:vs5s3FtA [15/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



ツタージャ「きっと彼女は、妹を守るのに必死だったんでしょうね。そうすると、いよいよもって彼の言いなりになることしかできなくなっていった」

リザードン「ちょっと待てよおい……そんな無茶苦茶な話があるか? あいつは、♂キュウコンは、俺でも知ってるくらいの真面目な好青年なんだぜ?」

ツタージャ「だからこそ、よ。表でそういう振る舞いをしているからこそ、裏で悪い事してても疑われずにすむ。きっと彼の、唯一の下種な部分だったんでしょうね。たぶん、スリーパーの家で見つかった写真は♂キュウコンが撮影したものだと思うわ。調べればわかることよ」

フラージェス「にわかには信じ難い話ですが……」

エモンガ「そんなことってあるの……」

ツタージャ「相当苦しかったでしょうね。逃げ出す事もできない、本当の事も言えない。与えられた運命を受け入れて、いかに気持ちを楽にするかしか、彼女にはなかったと思う」

リザードン「でもよ……その話でいくなら、♂キュウコンを殺したのは……」

ツタージャ「……事実は、時に残酷でしかないわ」

エモンガ「じゃあ犯人は、♀のキュウコン……でも彼女は、ずっと家にいたんでしょ?」

フラージェス「そうですね。後で聞いた話によると、近所に住むポケモンから裏が取れています。彼女に犯行は不可能です」

ツタージャ「ええ、そうよ。彼女には犯行は不可能、というかそもそも、彼女は彼を殺してない」

エモンガ「えっ? じゃあ一体どういう……」

リザードン「グラエナから連絡だ……見つかったか! おう、おう……何? 死に掛けてるだと!?」

ツタージャ「スリーパー見つかったの!?」

リザードン「ああ。森の中の、モモンの木の近くで発見されたらしい。発見したときにはもう、息も絶え絶えだったそうだ。服毒したと思われる」

ツタージャ「モモンの木……」

それって、この前ぼくたちが依頼のために行った場所……?

ツタージャ「そっか……それでなのね、だから、だから……」

ツタージャちゃんは泣いていた。その理由は、ぼくたちにはまだわからない。いったい彼に、この事件の真相に、どんな真実が隠されているんだろう。

ぼくたちは方向を180度転換し、町の病院へ急ぐことにした。
 ▼ 91 hbetfG4FMU 19/05/18 23:32:32 ID:vs5s3FtA [16/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



―――――――――――――――――

ダルマッカ「相変わらずお前は真面目くさいなぁ、たまには遊ぶのもいいもんだぜ?」

♂キュウコン「そうなぁ。まぁ、そのうち考えるさ。そのうちな」

ダルマッカ「それ、一生こねぇパターンじゃね?」

♂キュウコン「かもしれん」

ダルマッカ「俺は心底お前が心配だぞぉ……ん、まぁ、今日は楽しかった。急につき合わせて悪かったな」

♂キュウコン「かまわんさ。こうして楽しめるのも、縁があってこそだ」

ダルマッカ「相変わらずの聖人ぶりだこって。んじゃ、またな!」

♂キュウコン「おう、またよろしく!」

♂キュウコン「さて……ちょいと飲み足らんな。さっき買った酒でも飲んで、その辺ぶらぶらするか……ん?」

ロコン「!」

♂キュウコン「なんだお前、こんな所うろついてどうした」

ロコン「わ、わたしは……」

♂キュウコン「俺なぁ、さっきダルマッカと飲んでたんで気分がいいんだ。ほれ、何か買ってやるから来いよ」

ロコン「やだ……やだっ」

♂キュウコン「あ〜? なんだ、逃げやがるのか? おいおい、どこへ行くんだ。そっちは変電所、ひとけの無いところに自分から行ってくれるってのかぁ?」

♂キュウコン「遊び、ねぇ……この頃あいつも飽きてきたし、あれくらいのガキとヤるのも意外といいかもしれんな。クククッ」
 ▼ 92 hbetfG4FMU 19/05/18 23:33:00 ID:vs5s3FtA [17/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ロコン「はぁ、はぁ、はぁ……」

♂キュウコン「ねえねえ、待ってよぉ〜。逃げてばっかりいないで、俺とイイコトしようぜ〜?」

ロコン「はぁ、はぁ、っ、く、はぁ、はぁ……」

♂キュウコン「ねえってばぁ。たく、逃げても無駄だっつーのに……よっ!」

ロコン「きゃっ!!」

♂キュウコン「へへ……つーかまーえた」

ロコン「は、離して……」

♂キュウコン「嫌に決まってんだろそんなもん。むしろこれから、めちゃくちゃ密着するんだよ」

ロコン「いや、いやっ!」

♂キュウコン「嫌じゃねぇよクソ♀が!! てめぇはおとなしく俺のやる事を受け入れてりゃいいんだよ!」

ロコン「うっ、ううっ……」

♂キュウコン「へっ、抵抗を止めたか。思ったよりあっさりだったな……さて、と!」

ロコン「っ!!??」

♂キュウコン「お、おおお、すげぇ、この具合、初モノかぁ……やべ、もうでちまいそうだ……! の前に、動くぞ!」

ロコン「っ、っ、く、うっ、んんっ」

♂キュウコン「しっかり喘ぎ声出せや!!」

ロコン「ひぐっ……う、ううっ、うあ、あっ、あっ、ああっ」

♂キュウコン「へへへ、それでいいんだよ。その声が聞きたかったんだ。あと、泣くんじゃない。これはお前のために、やってやってるんだぜ」

ロコン「…………」

♂キュウコン「声!」

ロコン「ひっ! あ、ああ、あっ、あんっ、ああっ!」

♂キュウコン「うっ……ふぅ、へへ、出した出した。これからはこいつも一緒に可愛がって……」

ロコン「っっっ!!!!」

♂キュウコン「なっ、なんだてめぇ何しやがる! お、おい、なんっ、だっ、っ、あ、ああああああああっ!!」

ドサッ
 ▼ 93 hbetfG4FMU 19/05/18 23:33:42 ID:vs5s3FtA [18/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告


スリーパー「ロコンちゃん……?」

ロコン「!……うう、うううっ!! スリーパーさぁん……!」

スリーパー「どうしたの、大丈夫? 何かあったのか?」

ロコン「うう、ううううっ」

スリーパー「向こう? あっちに、何かあるのか?」

ロコン「ぐすっぐすっ、ひぐっ、ぐすん」

スリーパー「わかった。ちょっと、見てくるね」

ロコンが尾を立てた方、スリーパーは盛り上がった雪の辺りまで歩き、周囲を見回した。そして、彼は発見した。

崖の下で息絶える、憎きキュウコンの姿を。

殺したいほど憎んでいたやつが、ついに息絶えた。だが、その代償はあまりに大きい。その業を、最も無垢で穢れのないロコンに背負わせてしまった。

スリーパー「これは……」

ロコン「ぐすっ、うわああああん!」

スリーパー「泣かないで。大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて」

ロコン「うう、うううっ」

スリーパー「大丈夫。僕が何とかするから。ロコンちゃんは安心していいから。僕に任せて」

ロコン「っぐ、ひっく、どうずるの……」

スリーパー「ここは、普段から誰も通らない場所だ。今だって、僕たち以外に誰の姿もない。この様子だと、彼は足を滑らせて落ちたって事にもできるはずだ」

ロコン「でも、でもっ……」

スリーパー「そうなるように、少しだけ工作をするけどね。ちょっと、待ってな」
 ▼ 94 hbetfG4FMU 19/05/18 23:34:01 ID:vs5s3FtA [19/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告

スリーパー「ロコンちゃん、もう大丈夫だ」

ロコン「ぐすっ、あいづは……?」

スリーパー「もう死んでる……あの高さじゃ、仕方ないよ」

ロコン「うううっ、うあああああ」

スリーパー「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて、よく聞くんだ」

ロコン「ううううっううっ!!」

スリーパー「聞くんだ! 頼む、聞いてくれ。いいか、いいな?」

ロコン「ううっ、ひぐっ、うん」

スリーパー「俺たちはここを通らなかった。だからこのことについては全く知らない。いいね?」

ロコン「うん……」

スリーパー「それとな…………いや、とりあえず帰ろう。帰って、キュウコンにもこの事を伝えよう」

ロコン「うん……そう、する……」

スリーパー「泣くな泣くな。ロコンちゃんは何も悪くない。悪くなんて、ないんだ」

スリーパー「……このときが来てしまったか……腹、括らなきゃな……」

ロコン「……?」

スリーパー「なんでもないよ。さ、家に急ごう」
 ▼ 95 hbetfG4FMU 19/05/18 23:34:38 ID:vs5s3FtA [20/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



キュウコン「そ、んな……待って、そんなこと、私は嫌よ」

スリーパー「でも、それしかないんだ。他に手なんてない。そうすることでしか、状況を誤魔化すことはできない」

キュウコン「でも……」

スリーパー「少しでも早いうちからやっておかないと信憑性や整合性がなくなってしまう。だから、もう始めるしかないんだ」

キュウコン「そんな……」

スリーパー「いいかい? 君たちは、僕のことをとても嫌っている。僕はロコンちゃんを付け狙うストーカーだ。今日も、僕はロコンちゃんを追いかけて町外れを走ってた。いいね?」

ロコン「ぐすっ、スリーパーさん、そんなことしないよ……」

スリーパー「いや、するんだ。僕は君のことを付け狙うストーカー。だから、あいつが死んだ時間、僕は君を追いかけ、君は僕に追い回されてる。嫌ってるやつがまさに犯罪を犯してる話をする事が偽装工作だなんて、誰も思わないよ」

キュウコン「だけど……」

スリーパー「キュウコン、君は家にいたよな。誰かに見られたりは?」

キュウコン「庭先に出たりしてたから、その時に見られてるかもしれないわ……」

スリーパー「よし。なら、疑われる事があっても大丈夫だろう。冤罪も起きない」

キュウコン「ね、ねえ、私たちは……あなたを、嫌わなきゃ、だめ、なの? 本当にもう、それしかないの?」

スリーパー「……本当なら、僕があいつを殺すはずだったんだ。もしそうなったときどうしたらいいかを、僕なりに考えてた」

スリーパー「命を奪うんだ……この統制された地域の中じゃ、本当なら、こんなことじゃ全く足りないくらいのはずだよ」

キュウコン「そうだけど、でも、でも、今まで、苦しくても、ずっと一緒に、やってきたのに……」

スリーパー「僕だって嫌だよ! なんでまた君たちが苦しまなきゃいけないんだ。幼い頃からずっとずっと苦しんで、それでようやく落ち着いて生活できるようになってきたはずなのに、なのに、どうしてまた……」
 ▼ 96 hbetfG4FMU 19/05/18 23:35:24 ID:vs5s3FtA [21/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
スリーパー「僕は、君たちの平穏だけは取り戻したい。こんなにも苦しんできたんだ、それ以上の幸せを謳歌する権利だって、あるはずなんだ……」

キュウコン「あなたは、どうするの?」

スリーパー「……僕はこれから、君たちの敵になる。良いのか悪いのか、僕は町でも空気みたいな存在だ。だから、実は君たちに嫌われてる悪者だって話が出ても、違和感は無いはずだよ」

ロコン「そんなの、やだよ……」

スリーパー「大丈夫。心はいつも繋がってるから。だから、ね?」

キュウコン「事故ってことになる、のよね? ほとぼりが冷めたら、また一緒に笑い合えるのよね?」

スリーパー「…………勿論さ」

キュウコン「わかったわ。それなら、暫くは……仕方ないのね」

スリーパー「とりあえず……この家にあるものは、処分してしまおう。特に僕がいた形跡があるものは、僅かなものでも全部捨てるほうがいい」

キュウコン「全部……?」

スリーパー「ああ、全部だ。思い出は、また作ればいい」

キュウコン「そう、よね……うん、わかった。でも……これだけは、あなたがくれたこのネックレスだけは……持っていたい」

スリーパー「だけど」

キュウコン「ネックレスくらい誰でも持ってるものでしょう? 私は踊子だし……だから、だから……」

スリーパー「……ありがとう」

ロコン「今度は、いつ会えるの……?」

スリーパー「いつになるかな……そう遠くないと、いいけどね」
 ▼ 97 hbetfG4FMU 19/05/18 23:35:51 ID:vs5s3FtA [22/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



それからスリーパーは、彼女の家から出ていった。キュウコンとロコンはその背中をいつまでも見送り、涙した。

キュウコンは家にあるものをほとんど処分し、彼への想いに整理をつけた。ロコンも、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、強く自分を納得させた。

スリーパーは、町の片隅で働く陰の薄いポケモン。町で見かける可愛いロコンに目をつけて、醜い衝動に突き動かされて彼女のあとをストーキングする気持ちの悪いポケモン。

キュウコンは、町の一角で踊子をしている美人で人気のポケモン。貧乏な生活をしているが、妹のロコンや、密かに付き合っている♂のキュウコンと仲良く暮らしている幸せなポケモン。

たった一日で、数時間で出来上がった新しい関係。臆病にも自分たちの関係を表に出せなかった事が幸いし、彼らが作った新しい関係はすんなり周囲に受け入れられることとなった。


―――――――――――――――――
 ▼ 98 hbetfG4FMU 19/05/18 23:36:45 ID:vs5s3FtA [23/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告



リザードン「そんなまさか……犯人は、ロコンだってのか……」

フラージェス「あの幼い仔が……」

エモンガ「で、でもキュウコンはかなしばりに遭ってたんでしょ? ロコンがそんなの使えるわけ……」

ツタージャ「彼女達の両親、キュウコンとゴルダックなんでしょ? かなしばりはゴルダックからの遺伝、いわゆるタマゴ技よ」

エモンガ「そうなんだ……」

フラージェス「ですが、状況はどう説明するのですか。スリーパーは服毒により昏睡状態。逃げられないと踏んで自殺を試みたとも考えられます」

ツタージャ「確かに彼は自殺を試みたのでしょう。でも、その理由はきっと違う……彼は、ロコンを犯罪者にしないために、もうひとつ考えていたんです」

エモンガ「もうひとつ?」

ツタージャ「うん。あのまま事故として処理されてしまえば彼らにとって最善だけど、警察は事件性があると判断して捜査をするかもしれない。そうなると、ロコンやキュウコンにも疑いの目が及ぶかもしれない」

リザードン「現に、それも視野には入ってたな」

ツタージャ「だから彼は、考えていたの……キュウコンとロコンが、自分の愛した者達が、確実にこれからも平穏に暮らしていけるように……」

ドサッ

エモンガ「……?」

キュウコン「スリーパーは……大丈夫、なんですよね?」

リザードン「あなた達は……」

そこには、つい先ほど病院に到着したらしい、キュウコンとロコンの姿があった。

彼女達の目には大粒の涙……ツタージャちゃんの推理は、当たっていたみたいだ。
 ▼ 99 hbetfG4FMU 19/05/18 23:37:26 ID:vs5s3FtA [24/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




―――――――――――――――――


スリーパー「これで、よしと……準備は全部済んだ。あとは……飲むだけだ」

町外れの森の奥、大きなモモンの木の下で彼は小瓶を片手に座っていた。

ここは、彼がキュウコンにネックレスを渡し、初めてのキスをした場所。彼らにとって、思い出深い場所。

スリーパー「……今頃警察は、僕のことを探してるかな。うちにガサ入れしてたのは見たし、もう時間の問題か」

スリーパー「キュウコン、ロコンちゃん……ちゃんと手紙に書いた通りに話すかな? ロコンちゃんはちょっと心配だけど、たぶん、大丈夫だよね……」

彼は、今後の予定を全て手紙に書き、彼女達のもとへ届けていた。

捜査の手が伸びてきたら、ロコンには「ストーカーの事実は無かった。脅されてそう言えと言われていた」と発言してもらうように頼んでおいた。そうすることで犯人としてスリーパーが捕まるが、ほとんど事故に近い状況、出所もすぐだと、説得する内容も載せておいた。

仮に事件として扱われても、身代わりにはなれる。もみ合いの末事故的に相手が死亡してしまったというところに落ち着かせれば、刑期は短く済むと彼女達に手紙で話したのだ。

しかし、それが危うい賭けであることをスリーパーはわかっていた。自分が捕まればみっちり取調べを受けることになる。そうなると、いくら自分といえども矛盾した発言などをしてしまわないとも限らない。それを拾われて、犯人は別にいると考えられてしまうかもしれない。そうでなくとも、自分がキュウコンと懇意にしていたことなどが知られ、別な線での捜査が行われるかもしれない。

彼としては、絶対にそれだけは避けたかった。

辛い過去を経験してきたキュウコンとロコン。スリーパーにとって、何よりも大切な存在。彼女達を守るためなら、彼は何だって厭わない。例えそれが、自らの命を捧げるものだとしても。

スリーパー「被疑者死亡で送検されれば……真実は闇の中だ。再捜査もされない……」

余計な事を喋ってしまわないように。真実が少しでも明るみに出てしまわないように。

気持ち悪いストーカー野郎が、勝手に想いを寄せていた相手の恋人をカッとなって殺害し、逃げ切れないと思って自害した。よくある話、だからこそ疑う余地も無い話。

この数日間、彼はそうなるように生きてきた。彼女たちへの想いを心の奥深くに閉じ込め、怪しい言動を心がけ、ポケモン達の忌み嫌うような気持ちの悪い存在に自分をよせていった。

全ては、愛する者たちがこれからもこの町で静かに暮らしていくために。恐怖に怯える事無く過ごしていけるために。

スリーパー「懐かしい……あれから、けっこう経ったけど……まるで、昨日のことみたいだ……」

ゆっくりと、小瓶の中身が咽喉を通って体の中へ入り込んでいく。次第に瞼が重くなり、意識も少しずつ混濁していく。
 ▼ 100 hbetfG4FMU 19/05/18 23:38:10 ID:vs5s3FtA [25/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
スリーパー「僕の人生なんて本当につまらなくて、くだらなくて、しょうもないものだったけど……僕は、彼女達の役に立てる、それだけで幸せだよ……」

辛い事ばかりではありませんでした。

彼女と出会い、密かな逢瀬を楽しみ、想いを寄せ合い、僅かな時間でも幸せを共有しました。

これは、彼女達の幸せを守るための、僕にできる最大の御礼です。

ほんの少しでもあなたたちの支えになれること、心から光栄に思います。

こんな僕に、幸せの欠片を与えてくれてありがとう。

またすぐ会えるなんて、嘘ついてごめん。でもいつか、彼女達が天寿をまっとうしたときにでも……会えたら嬉しいな。

スリーパー「…………」


―――――――――――――――――
 ▼ 101 hbetfG4FMU 19/05/18 23:38:39 ID:vs5s3FtA [26/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告




キュウコン「っ、ああ……そんな……こんな、ことって……」

ツタージャ「……これはあくまで私の推測です。でも、こういうことなら、全ての辻褄が合いますから……」

キュウコン「っ……そういうことだった、のね……だから、だから……ううう、うああああ……死ぬつもりだったなんて……そんな……」

ツタージャ「大丈夫。絶対に死なせない」

キュウコン「え……?」

リザードン「事の顛末はとりあえずとしてもだ。彼は今、猛毒に身体を冒されてる。特効薬でもあれば別らしいが、助かる可能性は低いと聞いた」

フラージェス「この町の病院は、そう大きくはありません。常備されている薬にも限界があるでしょう……」

ツタージャ「そうね。でも、大丈夫。私にはその自信がある」

リザードン「何故そう言い切れる?」

ツタージャ「だって私、名探偵だもの。犯人を推理で追い詰めてみすみす自殺させちまう探偵は殺人者と変わらないって、どこかの眼鏡少年も言ってるでしょ」

色々ツッコミどころはあるけど、今はそこに反応してる場合じゃない。

エモンガ「ツタージャちゃんは薬の知識がすごいんだ。警察に入る前は、薬剤師や調合師として活躍してた時代もあったんだよ」

フラージェス「そうなのですか……しかし、彼が何の毒を飲んだかさえはっきりわかっていないようですよ。即効性のあるものなら、急がないと間に合わないのでは……」

ツタージャ「それなら問題ないわ。薬はもう渡してある。あとは、本人の回復を待つだけよ」

リザードン「いつの間に……」

エモンガ「だけどツタージャちゃん、材料はいつどこで? 毒の特定ができてないうちから集めてたってこと?」

ツタージャちゃんが日ごろから材料を確保しているはずはない。そういう事をきちんとしているのなら、ぼくたちはこんなに貧乏な生活してないはずだ。
 ▼ 102 hbetfG4FMU 19/05/18 23:39:08 ID:vs5s3FtA [27/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ツタージャ「個人が簡単に入手できて即効性の高い毒といえば、おおよそ種類は限られるわ。特殊な入手経路を彼が知っていたなら話は別だけど、突発的に実行せざるを得なかった計画よ、手近にあるもので作ったとしか考えられない」

リザードン「それは何なんだ?」

ツタージャ「毒タイプが生成する猛毒、それにコレを混ぜ合わせるの」

ツタージャちゃんは袋に入った植物を皆に見せる。

リザードン「なんだそりゃ。何かの実か?」

フラージェス「ドクウツギ、ですね」

ツタージャ「そうです。ラクトン化合物のコリアミルチンを多く含むドクウツギの実は」

エモンガ「ツタージャちゃん、その辺言われてもわかんないから」

ツタージャ「……この実はヨプの実と似てて、間違えて食べられる事があるのよ。食べると痙攣を起こして死ぬ。速効性があるからかなり危険な植物なのよ」

リザードン「でも大丈夫ってことは、解毒薬を用意したってことだよな?」

ツタージャ「もちろん。私にぬかりはないわ」

フラージェス「でも、ポケモンの毒も混ぜてあると言いましたね」

ツタージャ「コリアミルチンはガンマアミノ酪酸拮抗物質」

エモンガ「ツタージャちゃん」

ツタージャ「……簡単に言うと、本来働くべき抑制作用がきかなくなるの。一部のポケモンの毒に伝達抑止阻害の効果を持つものがあるんだけど、複合させたんでしょうね」

リザードン「あいつ、そんな知識があったのか」

ツタージャ「いや、偶然だと思うけど」

リザードン「ぐ、偶然なのか?」

ツタージャ「おそらくね」
 ▼ 103 hbetfG4FMU 19/05/18 23:39:41 ID:vs5s3FtA [28/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ツタージャ「それでいつ私が解毒薬を調合したかって話だけど、実はそもそも私達彼が服毒した場所に一度行ってるのよ」

エモンガ「そうそう、モモンの実を採りに行ったとき……ってツタージャちゃんまさか、その時からこの毒のこと考えてたの!?」

ツタージャ「だってこの辺でドクウツギなんて珍しいと思ったから……」

そういやモモンの実を採る前、ツタージャちゃんなんかゴソゴソやってたな……

ツタージャ「あの時あの場所には、キャンプをしたような跡があったわよね。けどあの様子からして、自然を楽しみにきたというよりは、何かを作りに来た感じだった。実をすり潰した受け皿や棒もあったし」

えっ、そんなのあったのか。ぼく全く知らなかった、というか見てなかったぞ……

リザードン「しかし、ポケモンの毒の方が何かわからないことには……」

ツタージャ「系統が同じなら対処も同じ。ただ反対に、ポケモンの毒だからこそ、特効薬にできるものがあるのよ」

フラージェス「ラムやモモンですか」

エモンガ「えっ」

ツタージャ「そうです。で、いつ用意したのかという答えは、私達がその場所へ初めて訪れたとき、という事になります」

エモンガ「ええええええ」

ってことは、なんだ。あの日、あの木にモモンの実が10個しかなかったのってもしかして……

ツタージャ「薬師たるもの、思いついた時に調合しないとね!」

エモンガ「今は探偵だろうがあああああ!!!」

んなアホな……ツタージャちゃん、依頼より、興味を優先してたってことなのか……結果としてスリーパーの命を救えるかもしれない神展開ではあるけど……んなアホな……やっぱりツタージャちゃんはポンコツで天才だぁ!!
 ▼ 104 hbetfG4FMU 19/05/18 23:40:15 ID:vs5s3FtA [29/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ツタージャ「……では、本当のこと、話していただけますね?」

キュウコン「…………」

ロコン「……お姉ちゃん」

キュウコン「うん……わかってる」

ツタージャちゃんの活躍?により、事件はひと段落。状況を見てこれ以上黙ってはいられなくなったみたいで、キュウコンはゆっくりと、事件の真相について話し始めてくれた。

キュウコン「私と彼は……幼い頃からの知り合いだったんです」

その内容は、まさしくツタージャちゃんが推理した通りだった。

スリープの頃から彼を知っていて、慕っていたこと。共に集落を飛び出し、この町で生活するようになったこと。

恋仲になるも、新たな脅威のために苦しみ続けてきたこと。そして、その末に、近づいてきた♂キュウコンをロコンが殺害してしまったこと。

スリーパーの動向も、やはりツタージャちゃんが睨んだとおりだった。姉妹は彼に、いざとなれば自分が犯人になるように発言してくれと頼まれていた。そして、出所したら三匹で静かに暮らそうと……姉妹に疑いを向けないための最終手段として自害する事は、ふせたまま。

彼女は彼からの手紙を大事に持っていた。読んだらすぐに燃やせと言われていたようだが、どうしてもできなかったそうだ。

全てを話し終えたキュウコンとロコンは……どこか落ち着いた表情を浮かべていた。

たとえどんな理由があったって、真実を隠し続けるというのは辛い事だ。それは、不幸でしかない。結局彼らは、不幸の上に不幸を積み重ねてしまった。

フラージェス「……では、私は外で待っていますので」

リザードン「えっ?」

フラージェス「リザードン、行きますよ」

フラージェスはツタージャちゃんの方をちらりと一瞥だけして、行ってしまった。

ツタージャちゃんが自信をもって作った薬を使ったのなら、スリーパーはもうすぐ目を覚ますはず。フラージェスなりの配慮だろう、冷血冷血言われてるみたいだけど、本当はそんな事もないんじゃないかなって思う。
 ▼ 105 hbetfG4FMU 19/05/18 23:40:48 ID:vs5s3FtA [30/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告





こうして、はじめは事故と思われていた殺害事件の幕が下りた。

ロコンは、明確な殺意があったわけではないこと、状況的に考えて正当防衛の見込みがあることなどから、情状酌量の余地があると判断された。♂キュウコンの知人は驚き疑問に思うだろうが、押収した写真やロコンの体内から♂キュウコンのDNAが検出された事などが決め手となった事などから、その声も収束していくと思う。

同じ牢というわけにはいかないみたいだけど、キュウコンもロコン同様服役することになった。共謀して隠蔽工作を行ったんだ、仕方が無い。きちんと罪を償って、それから今後のことを考えていけばいいと思う。

スリーパーは一命をとりとめ、完治するまで病院で過ごす事になった。勿論、監視つきで。ここには警察病院なんてものはないから、仕方ない。でも……たぶん、もう自殺なんてしようとしないだろう。しっかり罪を償って、今度こそ三匹で静かに暮らしていってほしい。

でも……今回も、なんだか遣る瀬無い事件だった。被害を受け続けて苦しんできたポケモン達。勿論犯罪を犯すことは悪い事だし処罰されるべきだけど……

じゃあ彼らは、死ぬまでずっと苦しんで生きればよかったというの? 他に方法がなんて人々は簡単に口にするけど、そんな方法が本当にあるの?

わからない。でも……

ツタージャ『……わからなくなったのよ。何が正義で、何が正しいことなのか』

……ぼくにできることは、ツタージャちゃんの手助け。彼女が信じることを、ぼくも全力で信じようと思う。

ツタージャ「はぁ……フランス料理かぁ」

エモンガ「また何言って……うわっ、それフレンチの雑誌? いったいどこから調達してきたのさ……」

ツタージャ「あぁこれ? エンニュートからもらったのよ。よかったらどうぞ〜って」

エンニュートめ、余計なことをしてくれる……っていうか、いつの間にそんな仲良くなってるんだ。あのとき話を聞きに行ったきりじゃなかったのか。

ツタージャ「ねぇ、この前の依頼料も入ったし今晩はフレンチにでも」

エモンガ「うどんにしよう」

ツタージャ「は?」

エモンガ「え?」
 ▼ 106 hbetfG4FMU 19/05/18 23:41:14 ID:vs5s3FtA [31/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ツタージャ「依頼料入ったんでしょ? バカなの?」

エモンガ「あのねツタージャちゃん。いただいたお金は、事務所の賃貸料と、光熱費や諸々の維持費に使われるの。次の依頼の予定があるならまだ考える余地あるけど、何か来てたの?」

ツタージャ「……ない」

エモンガ「だよね。悲しいけど、そうだよね」

今日の朝も嬉しそうに投函された広告を眺めているツタージャちゃんを見てるから、何のお仕事も舞い込んできてないのは知ってる。

残念なことだけど、おそらくうちは木の実集めくらいにしか評判なんて無い。警察に依頼されて捜査を行ったりすることは、基本的に市民の皆さんには情報として開示されないんだ。ぼくたちも、基本的に口外しないよう口止めされてる。

ツタージャ「で、でもたまには贅沢も」

エモンガ「わかった」

ツタージャ「ほんと!?」

エモンガ「今日のうどんにはネギをつけよう。それでいいね?」

ツタージャ「…………」

またジト目。むっちゃ可愛いしその目で見られるのも正直快感だけど、だからって今晩の献立が変わることは無い。ぼくだって贅沢はしたいけど、破滅する気はないんだ。

エモンガ「……それよりさ、ちょっと気になってたんだけど」

ツタージャ「……なに」

エモンガ「この前の事件、どうしてツタージャちゃんはスリーパーが犯人じゃないってわかったの? 何が引っかかって、何にひらめいたのかぼくにはさっぱりだよ」

ツタージャ「それ答えたら今晩はフレンチになる?」

エモンガ「じゃあいいや」

ツタージャ「…………」
 ▼ 107 hbetfG4FMU 19/05/18 23:41:41 ID:vs5s3FtA [32/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ツタージャ「……最初に引っかかったのは、現場かな」

でも、結局話してくれるみたい。流石に可哀想だから、鶏肉ひとつくらいつけてあげようか。

エモンガ「そういえば、最初現場行った時何か気にしてたね」

ツタージャ「いや、あの時はまだ何も知らない状態だったっていうのもあって言わなかったんだけど、事故にしたって現場が綺麗過ぎると思ったのよ」

エモンガ「その時点から事件性視野に入れてたのか」

ツタージャ「勿論ただ何となくそう思っただけだけどね」

エモンガ「まぁ事実それは当たってたしね」

ツタージャ「次はキュウコンの家に行った時ね。あまりに物が無かった事と、あの閑散とした中に何故か場違いなネックレスがあったことが気になったかな」

エモンガ「ネックレス気づいてたんだ」

ツタージャ「貧乏で節約してるのに、いわゆる贅沢品を隠しもしないで置いてあるなんて不思議に思ったのよ。今にして思えば、せめてもの証として隠さずにしておきたかったんでしょうね」

ぼくは辺りを見回してる時に見つけたけど……そんな風には考えなかったな。っていうかそういう経済観念があるなら、もうちょっと自分の暮らしについても考えてほしいんだけど。

ツタージャ「あとでエンニュートに聞いてわかったことだけど、彼女は整理が苦手で物が増える一方だっていうのに物が無いのには余程の理由があるとも思ったしね」

エモンガ「あっ、確かにそうか。それも繋がってたのか」

ツタージャ「他にも色々あるけど……一番違和感だったのは、ゴルダックについてリザードンが報告してくれた内容よ」

エモンガ「水竜会は関係がないってやつ?」

ツタージャ「そう。でもそこじゃない」
 ▼ 108 hbetfG4FMU 19/05/18 23:42:27 ID:vs5s3FtA [33/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ツタージャ「あの時ゴルダックは、ロコンが一匹で森へ出かけた時に接触しようとしていたらしいの」

エモンガ「そんな感じの事言ってたね」

ツタージャ「でも、おかしくない? だってロコンはスリーパーのストーカー行為に怯えてるわけでしょ? スリーパーは厳重注意で釈放されてる。いつまた同じようなことをされるかって思ったら、普通外を出歩くなんて、ましてや一匹でひとけの無い森を歩くなんて考えられる?」

エモンガ「確かに。スリーパーはストーカーではないからこそ、本当に彼女達を襲っていたやつはもうこの世にいないからこそ、気にする事もなく彼女は一匹で出かける事ができた……」

それは、キュウコンにしても同じ事が言えるかもしれない。仕事に穴を空ける事ができないかもしれないとはいえ、ストーカー被害に遭った妹を一匹残して行くだろうか。それこそ親友のエンニュートやどこかの施設にでも預けたりできたはず。彼女達が話す状況を考えれば、あまりに無用心すぎる。

ツタージャ「だから、ロコンの告白は余計に違和感だったの。でも、実際♂キュウコンに乱暴はされていたから、彼女が表ににじませていた恐怖は本物にしか見えなかった。でも、そいつはもういないから、今もストーカーの影に怯えてるって風ではなかったようにも思えた。だから、自分が目の当たりにしてる話や流れが違和感で仕方なかったの」

エモンガ「なるほど……でも、事件の時は一匹で出歩いてたんだよね?」

ツタージャ「おそらくそれまでは、声をかけられることこそありはしたけど、♂キュウコンの狙いはあくまで♀キュウコン、幼いロコンには興味なかったんでしょうね。ただ、事件当夜は違った……もしかしたら、♂キュウコンが初めて酒に溺れた瞬間だったのかも。わかんないけどね」

エモンガ「そうだったのか……」

ぼくなんて、何の疑いを持つ事もなくスリーパーが犯人で決まりだと思ってた。ツタージャちゃんの言っていた通り、敷かれたレールの上をまんまと走ろうとしてたわけだ。

ツタージャ「あとは、そうね……キュウコンの態度や雰囲気が、愛する者を失った風にはあんまり見えなかったから……まぁ、これはただの勘でしかないけどね。ま、考えればキリないけど、とにかく私には違和感を覚えることだらけだったのよ」

エモンガ「そっかぁ……ツタージャちゃんすごいや」

ツタージャ「な……ふ、ふん、それほどでもあるわよ。ただ……」

エモンガ「ただ?」

ツタージャ「キュウコンの過去については、私の推測というか想像の部分が大きかった。本当ならあそこまで話すべきじゃないんだけど、状況が状況だったからね」

それは……うん。ツタージャちゃんは何も自分の推理が正しい事を誇示したかったわけじゃない。状況から考えて最善策は自分の推理を話す事だったというだけだ。
 ▼ 109 hbetfG4FMU 19/05/18 23:43:19 ID:vs5s3FtA [34/35] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
エモンガ「そっかぁ……あ、でもひとつだけわからない事があるんだけど」

ツタージャ「どうして♂キュウコンが彼女達に乱暴してたとわかったか、でしょ?」

エモンガ「うん」

ツタージャ「褒められたものではないけど、正直確たる証拠があったわけじゃない。私の推理で辻褄を合わせるなら、そうだったってこと。亡くなったキュウコンや現場からロコンの毛なんかが出てくるかもしれないし、もしかしたらロコンの中に彼のDNAが残ってるかもしれない……全部、推論の後から見つかる証拠よ」

エモンガ「でも、捜査なんてそういうもんじゃん。ああじゃないか、こうじゃないかって考えて、そこから進める。ツタージャちゃんは何も当てずっぽうで推理してるわけじゃないんだし」

ましてや、ツタージャちゃんは自分の推理にある程度の確信が持てない限りは誰かに話す事もしない。こうは言うけど、ツタージャちゃんの中ではもっと確信めいたものがあったに違いない。

エモンガ「ん、そういえば手紙は結局誰が出したんだろ?」

ツタージャ「ロコンでしょうね。彼女、本当は私達に真相を見抜いてほしかったのかも……なんてね」

止めてほしかった、ってやつか……もしそうだとしたら、ぼくたちは間に合ったのだろうか。彼女の願いを、叶える事ができたのだろうか。

ツタージャ「さ! 話したことだし、フレンチフレンチ〜♪」

エモンガ「は!? いや、うどんだからね! 食べになんて行かないからね! もー!!」

小さな町の小さな探偵事務所、そこで暮らすぼくとツタージャちゃん。

依頼がないと稼げないけど事件は起きない方がいいっていう複雑な心境に苦笑いを浮かべながら、明日も元気に看板を掲げます。
 ▼ 110 hbetfG4FMU 19/05/18 23:46:10 ID:vs5s3FtA [35/35] NGネーム登録 NGID登録 報告




以上になります。
以前書いていた自作の話をポケモンに当てはめたので、だいぶ無理のある所もあったかもしれません。その辺は脳内補完や随分と都合良い展開ということで、ひとつ。

お読みくださった方おられましたら、ありがとうございました。
 ▼ 111 ョボマキ@スピーダー 19/05/20 00:48:31 ID:wV.6pLj2 NGネーム登録 NGID登録 m 報告
乙!
超面白かった!
 ▼ 112 ダイトス@じめじめこやし 19/05/20 06:36:53 ID:6822B/ww NGネーム登録 NGID登録 m 報告
乙乙の実
 ▼ 113 ーゴヨン@いんせき 19/05/21 23:08:07 ID:HuP2BLxQ NGネーム登録 NGID登録 報告
おつ
面白かった
 ▼ 114 ガジュペッタ@ゴツゴツメット 19/05/24 19:30:29 ID:rMa2j3rI NGネーム登録 NGID登録 報告
とても面白かったです。乙です。
 ▼ 115 スモウム@とつげきチョッキ 19/05/29 13:31:40 ID:Xi5gjkZE NGネーム登録 NGID登録 m 報告
お疲れ様。
良かったよ。
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