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【SS】ザシアンvsザマゼンタ!愛を懸けた決闘!!

 ▼ 1 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:15:29 ID:x.hMDEjw [1/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
荒涼たる地に、伝説のポケモン2体が相対していた。
かつてガラル地方を守るために戦った「剣」と「盾」は、今は主人たる少年たちの思いに応えんと――片や主の臨む変化をもたらすため――片や主の求める安寧を守るため――互いに口端から牙を覗かせている。

ザシアン『……まどろみの森以来だな。我らが対峙するのは』

ザマゼンタ『全く。よもやこのような形で姉上に見えるとは思いませんでした』

目の前の「敵」にしか通じぬ言葉で姉弟は語り合う。
冬空の下でも、相手の瞳に燃える闘志は1秒ごとにその熱を増しているかのようだ。
視線を交錯させる2体の耳に、高らかな号令が鳴り響いた。



「行きなさい、ザシアン!」



「行け、ザマゼンタ!」



勝負の幕が、今、上がった。
地面の塵を浚っていく一陣の風に合わせて、彼らは相手へ目がけて駆け出していた。
 ▼ 2 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:16:40 ID:x.hMDEjw [2/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
事の発端は「とある町」のカフェにあった。



ビート「そういえば、あなた達……バレンタインに誰を誘うのですか?」



ピンク一色の服に身を包んだ少年――アラベスクタウンのジムリーダー・ビートがそんな声を発した。

話題を向けた相手は、ジムチャレンジの同期であり、自他共に認めるライバルでもあるガラルチャンピオン・マサルとポケモン研究員の卵・ホップである。

ホップ「全然考えてなかったぞ!」 

ビート「よろしくないですね。考えた上で何もしないならまだしも、僕たちは責任ある立場になってしまったのですから……」

ビートはため息を吐きながら「……儀礼をきちんとしなければ、失望する人が出てくるかもしれませんよ」と続けた。
 ▼ 3 カシャモ@もののけプレート 20/02/07 22:17:28 ID:Sh6crgrg NGネーム登録 NGID登録 報告
ザマゼンタ負けそう
 ▼ 4 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:19:58 ID:x.hMDEjw [3/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「責任ある立場に『なってしまった』」とビートは語った。
まだまだ子供のマサルやホップには、その言葉に現れたビートの複雑な感情は読み取れない。

とびっきりの挫折を味わっていたところに、思わずポプラに見出された彼の苦難は一言では言い表せないものがあった。
そういうわけでビートの言葉には本人も意図しない複雑な思いが込められたのだが……。
とにかく、彼がジムリーダーとして色々考えているのだということはマサルたちにも何となく伝わってくるのだった。

ビート「で、アナタがたのバレンタインはどんな見通しで?」

「とある町」のカフェテーブルで、ビート・マサル・ホップのポケモン少年三人組はバレンタインに向けて話し始めたのであった。
 ▼ 5 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:21:51 ID:x.hMDEjw [4/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ガラル地方では2月14日のバレンタインデーに合わせて男性が女性へ菓子や花を贈ったり、お洒落な食事へ誘ったり……あるいは想いをしたためたカードを贈ったり、というのが一般的だ。
有名人ともなればファンの女性へ向けたメッセージをSNSにアップすることもあるし、後になって、当日はどう過ごしたかと色々な人から訊ねられもする。
ビートが言った『よろしくない』には、ジムチャレンジで有名になった2人に対する忠告が多分に含まれていたのだった。

そんなことは全く分かっていないホップとマサルだったが、根が素直であるから友達の忠告へすぐに応じていく。

ホップ「決めた! オレ、ソニアに色々世話になってるからお返しのプレゼント贈ることにする!」

「プレゼント選び手伝ってくれよな」と念を押すホップへ、ビートは「しょうがないですねぇ」と答える。気心知れた同期として……よきライバルであり、あるいは友達でもある少年たちの心温まるやりとりである。

ビート「で、アナタは?」

今度はマサルにビートの矛先が向かう。さて、どう返そうかと彼が二択で返事の内容を迷っている間に、ホップがさも知った風に答えるのだった。

ホップ「え? マサルはマリィに声かけるんだろ?」

彼の言葉は、いかにも聞き捨てならない内容だった。

 ▼ 6 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:24:20 ID:x.hMDEjw [5/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
なぜそこでマリィの名前が出てくるのか?
脈絡のない言葉で困惑しているところに、ビートの追撃が飛ぶ。

ビート「ああ、だから今日は”ここ”で会おうと提案してきたわけですか」

誤解である。
今日は『とある町』で集まろうと――そう、他でもないスパイクタウンのカフェで飲み食いしながら適当に話そうと――提案したのは確かにマサルだった。
しかしそれはカフェが提供しているカレーライスがボリューミーかつジューシーな絶品であるのを知っているからである。であるからして、断じてマリィとの地縁は関係ないはず――。

ホップ「この店だって、マリィに教えてもらったって言ってたもんな」

断じ、いや、あまり関係ないのだ。
気が向いたときにスパイクタウンでマリィとバトルをして、たまたま教えてもらって知った店だから、たまたまこの場所を教えてくれたのがマリィであったと説明する他ない。

マサルがどう弁明するか考えている間にも、二人の声は容赦なく耳に飛び込んできた。
 ▼ 7 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:27:25 ID:x.hMDEjw [6/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホップ「マサルさ、あいつと時々この店でメシ食ってるんだろ? ネズさんが『デートしてるみたいで微笑ましい』って言ってたぞ!」

誤解である。
一人で来店したとき、たまたまマリィが居て、せっかく会ったのに話さないのも悪いから……と同席することがたまたま何度かあっただけの話だ。
悪タイプのポケモンの話を聞きたくてマリィがよく来る曜日や時間を狙ったり、その逆で、マリィの方からマサルと話がしたくて時間を合わせてみたと言われたりすることもあったが、決してデートではないのだ。

「からかわないでよ」とホップを止めている隙に、ビートがいつものふんぞり返ったしたり顔で言った。



ビート「おやおや……。どうやら、ぼくたちのチャンピオンは社交面のバトルもお強いようですねぇ……」



殺すぞ。

不意に脳裏へ浮かんだ言葉を打ち消して、マサルはビートと絶交することを一瞬だが真剣に考えるのであった。
 ▼ 8 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:28:22 ID:x.hMDEjw [7/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホップ「マサルとマリィが他の町でも会ってた、とか聞いてるしな。いずれにせよオレたちよりかはマリィと仲良しなんだろ?」

誤解である。
……と言いたいが、思い当たる節がないわけではない。
ガラル地方のポケモンリーグを除けば、お互いが住んでいる町以外でマリィと会うことは殆どなかった。ただ一件だけ強烈な出会いが――ホテルの一室でモルペコ相手に「笑顔の練習」をするマリィと遭遇した――記憶が未だにマサルの中に残っている。
ホップへの返事を兼ねた質問として、マサルには二つの選択肢があった。

マサル「  『どこで会ったって?』
     →『誰から聞いたの?』」

ホップ「ネズさんが言ってたぞ。マサルからマリィの恥ずかしい目撃談を聞いて、爆笑したって」

ビート「……あなたは彼女と何をしているんですか?」

ホップの屈託のない笑みと、ビートの訝しげな視線が同時にマサルへ突き刺さる。
後者に対して言い訳をしたいが、マリィの名誉に懸けて真相を明かすわけにはいかない。
またそれとは別に、マリィの兄であるネズだけに打ち明けた話がホップに伝わっていることが彼にとって地味にショックであった。

 ▼ 9 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:30:41 ID:x.hMDEjw [8/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ビート「話を戻しましょうか。マサルはマリィにバレンタインでどのような贈り物を?」

戻す以前に、自分の予期せぬ方向へ話が進んでいることにマサルは困惑していた。
マリィにそんな思いは抱いてないし、変に声をかけたら相手への迷惑じゃないかと懸命に言い訳をする。

ホップ「え、そこを気にする必要があるのか? オレは……ソニアのことは好きだけど、そんなの全然考えたことなかったぞ」

ビート「同じく。バレンタインに礼を込めるからといって、ぼくがあのバアさんや劇団の皆さんに恋心を持ってるだなんて誤解されては心外です」

ホップはきょとんとした顔で、ビートは難しげな表情でひとりでに頷いている。
ついさっきまでは、友達二人が悪意を持って自分をマリィにけしかけようとしているのかと疑っていたが、良識ある二人の返答にマサルは深く安堵した。

ホップ「とりあえず、マリィに予定を聞かなくっちゃな! 14日にマサルと会えるかどうかって!」

ビート「恥ずかしいなら、匿名のバレンタインカードを贈ればいいでしょう。乗り掛かった舟ですから協力しますよ」

安堵はすぐにため息へと変わった。
二人のことを誤解していた。
悪意ではなく、善意に則って彼らは自分を絶望のふちへ追い込もうとしていることにマサルはようやく気が付いたのであった。

 ▼ 10 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:32:56 ID:x.hMDEjw [9/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
早速スマホロトムを取り出したホップの手を、マサルは身を乗り出して捕まえる。
このままでは既成事実を作られてしまう。まして、勝手にマリィをバレンタインへ誘わされた上に断られたらメンタルが一撃必殺で砕けてしまうに違いない。

ホップとビートは他人事だから簡単に物事を進めようとするが、自分の問題なんだから放っておいてほしい、と切実な声で訴えるのだった。

ホップ「でも好きなんだろ?」

マサル「 →『嫌いじゃないけど…』」
      『断言はできない』」

ビート「じゃあ好きでもないんですね?」

マサル「 『言いにくいだけだよ』
    →『どうして極端なの?』」

2人の容赦ない双撃に、マサルは顔を真っ赤にしながら持ちこたえている。
本人にとってはイジメに等しい拷問だったが、未来溢れる少年たちの会話ゆえ……事情を知らぬ周囲にとっては「青春の一ページ」として見られてしまう微笑ましい光景でもあろう。
そのことを裏付けるように、ある一人の青年が、少年たちへ優しく声をかけるのだった。

 ▼ 11 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:34:18 ID:x.hMDEjw [10/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
??「ちょっといいかい?」

と話しかけてきた青年はピンクとブラックを基調としたパンクなファッションに身を包んでおり、マサルたちは彼を一瞥しただけでエール団の一員だと看破した。
「なにかご用が?」そう返事をしたビートに応じて青年は言葉を続けた。

エール団員「まずは話の邪魔をしてごめんよ。でも、どうしても気になってさ……」

痩せぎすな青年はファッションのせいで不気味な印象を与えたが、穏やかな声がその口から発されていた。

エール団員「君たち、リーグのファイナリストやジムリーダーの子だよね? ……もしかして、バレンタインでマリィちゃんに告白とか……しちゃう感じ?」

ビート「ええ。そこの彼が」

ホップ「まだ確定してるわけじゃないぞ! 本人にはナイショな!」

なに言ってんだコイツら。
マサルは目を見開いて友人たちの正気を確かめるのだった。
 ▼ 12 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:37:52 ID:x.hMDEjw [11/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
あまりにおかしな話運びに、てっきりホップもビートも催眠術にかかっているかと思ったが、二人とも真剣なまなざしでエール団の青年に返事をしている。

二人の頭がおかしくなっているわけではなく、それ故にタチが悪いと直感したマサルは、手持ちのポケモンでどうにか二人の記憶を飛ばすことができないかと考えを巡らせるのであった。

エール団員「そっか。告白するのか……」

どうやらこの青年も頭がおかし……ちょっとタチが悪いらしい。

エール団員「エール団の中にはマリィちゃんが好きすぎて……彼女の恋愛を話題にするのも嫌だってヤツもいるんだけどさ」

エール団員「ははっ、チャンピオンとなら安心だな。君たちの幸せがマリィちゃんに繋がるんなら、俺たちエール団は君の告白を応援するよ」

そこまで話すと、青年は爽やかな目でマサルを見つめて「がんばれよ」とつぶやき去っていった。
「エール団の邪魔がないなら安心だな!」と心底嬉しそうに話すホップの横面を、マサルは往復ビンタしてやりたくてしかたがなかった。
 ▼ 13 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:42:22 ID:x.hMDEjw [12/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
マサルとしては誤解を訂正するまで店内で腰を据えたかったものの、カフェでいつまでも粘るわけにはいかない。
話しながら口に運んでいた絶品カレー(680円。+50円でライス大盛り)とジュースをお腹に収めると、やがて三人は席を立つ。カフェを出た少年たちを出迎えたのは、思わぬ熱狂であった。



「こっくはくっ! こっくはくっ! こっくはくっ! こっくはくっ!」

「こっくはくっ! こっくはくっ! こっくはくっ! こっくはくっ!」

「こっくはくっ! こっくはくっ! こっくはくっ! こっくはくっ!」



意味不明の喝采を上げている青年たちはいずれも似たファッションをして――どう見てもエール団のそれだが――周囲にはマリィの恋愛成就に涙する声や、マサルの失敗を願う心無いつぶやきまで聞こえる。

「おい出てきたぞ! プラン通り例の空き地まで誘導するんだ!」
「おぉー!」

ホップ「なんだよコイツら!? なんか様子がヘンだぞ!」

ビート「ま、まったく理解不能です!」

三人は戸惑うまま、すぐにエール団たちに取り囲まれてしまうのだった。

 ▼ 14 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:43:50 ID:x.hMDEjw [13/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
彼らがどれだけ強いポケモントレーナーだろうが、所詮は10歳そこそこの少年たちに過ぎない。
やけに物腰が低く、妙にかしこまったエール団たちの異様な雰囲気に呑まれてしまった三人は、のこのこと町外れの広場へ誘導されてしまうのだった。

そんなわけで、マサルたちを中心にした一団が足を踏み入れたのは、スパイクタウンの出入り口付近にある広場である。
腕自慢のタタッコでさえ集団の放つ異様な気配に恐れを為し、ポケモンたちが立ち去った後の荒涼とした野原には、マサルたちとエール団だけが立っていた。

エール団員「あの! マサルさんがマリィちゃんに告白するって本当ですか!?」

ホップ「だから違うって! いや、近いうちにするかもしれないけどさ!」

相変わらず意味不明な親友の言葉に悩まされるマサルであったが、カフェで話したあの団員から話が広がったらしいというのは想像がついた。
であれば、今のうちに騒ぎを鎮火させなくてはならない。この際バレンタインにマリィを誘うかどうかはともかく、こんな話を彼女の耳に入れさせたくはない。

そういうわけで、傍にいたエール団員の一人にマサルはぼそぼそと真意を伝えるのだった。

 ▼ 15 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:45:50 ID:x.hMDEjw [14/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エール団員「み、みんな……っ! ここに来て……マサルさんから驚愕のお言葉が……っ!!」

全身を震わせ、わななきながら声を絞り出す団員の様子にマサルは呆れそうになる。
そもそもマサル自身は何も話していなかったのだ。『マサルがマリィへ告白する』という噂は予想以上にスピーディーに広まっていたらしく、まだ静止が効くタイミングで彼に打ち明けられことにホッとするのであった。

ホップ「そんな……。お前、マリィとあんなに仲いいじゃんか! なのにバレンタインに誘わないなんてウソだろ!?」

そう熱弁する友人の姿に、思わず縁を切りたくなる。
一方のビートは「まあ、あくまでも本人の自由ですからね」と冷静な様子だ。
殺すとか絶交とか一瞬でも考えちゃって申し訳ない、と思ったマサルにビートは語りかける。

ビート「こうなったら、ポケモンバトルで決めるしかありませんね。ぼくが勝ったら、自分に素直になってあの子をバレンタインへ誘うようにお願いしますよ!」

は??????

「頭がおかしくなったの?」と直接的に訊ねるのがためらわれたので、マサルは混乱する思考を必死におさえながらビートに真意を問うた。
 ▼ 16 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:48:39 ID:x.hMDEjw [15/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ビート「恋愛において、当事者たちは本心と裏腹な行動をとってしまうことも多いといいます。マサル、あなたは理屈ではなく、バトルで白黒をはっきりさせて迷うことなく好きな人へ想いを打ち明けるべきなのです!」

エール団員「さすがジムリーダー!」
エール団員「なんという冷静で的確な判断力なんだ!」
エール団員「あふれる知性!」

ビートの提案はマサルにとっては一方的で勘違いも甚だしかったが「この際一発勝負でケリを付けよう」という提案は好ましく聞こえた。
状況が状況なだけに、調子のいい彼の言葉にカチンとくるものはあるのだが……。

ホップ「なんだよ。ビートのやつ、本当はお前とバトルしたいだけなんじゃないか?」

へへへ、と笑うホップが向けた視線の先には、瞳をきらきら輝かせているビートの得意顔。
何度も見てきた二人の表情に、マサルはなぜだかとてつもない安心感を覚えた。
いや、それは慣れ親しんだ二人の表情だけではないのだろう。とりあえず、彼とのバトルを終わらせれば決着がつくという展開に心が安堵したことを彼は自覚するのだった。

 ▼ 17 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:51:36 ID:x.hMDEjw [16/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ビート「さあ、早くやりましょう!」

バトル開始を今か今かと待ちわびるビートは、手段と目的が早くも逆転してしまったようだ。
そんな彼の態度に笑みを浮かべながら、マサルは返事をする。
そう。「ビートさえ倒せば」全てが平穏に終わるのだ。



コイツサエタオセバ――。



ホップ「なあマサル、アイツは使うのか? もしそうなら、オレのザシアンをビートに貸してやりたいくらいだけどな……へへ」

彼の問いにマサルは何も言わなかった。
ビートの手持ちを完膚なきまでに叩き潰して一刻も早くこの騒動を終わらせる。そのためにザマゼンタを使う可能性は多分にあった。



――だが、ホップを刺激してザシアンに乱入されては困るのだ。



あれは非常に攻撃力が高く、何より素早いポケモンである。逆に言えば、ザシアンさえ出てこなければビートに完勝する算段がとても立てやすかった。

 ▼ 18 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:53:09 ID:x.hMDEjw [17/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
マサル「 →『ルールはどうするの?』」
      『早く終わらせようよ』」

「シングルバトルの3vs3」でいかがですかとビートが質問を返すと、納得した二人は空き地の中心地から互いに外を向いて歩き出す。
ホップだけが真ん中に立ち、エール団員が周囲を取り囲む中でマサルとビートが向かい合った。
二人の、真剣勝負の始まりである。



ホップ「それじゃあバトルを始めるぞ! 使えるポケモンは3体ずつ! 道具や持ち物の使用あり、どちらかの手持ちが全員ひんしになったらバトル終了だ!」



荒涼たる地に――町外れの荒れた原っぱに過ぎないが――マサルとビートが対峙する。
かつて同じ目標のために戦った「チャンピオン」と「ジムリーダー」は、今は自分自身の思いに応えんと――片やライバルの本心を糺すため――片や自身の安寧を守るため――互いの手にモンスターボールを握らせた。
 ▼ 19 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:54:57 ID:x.hMDEjw [18/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホップ「ぼくが勝ったら、マリィへバレンタインの言葉を贈ってやるんですよ! いいですね!」

マサル「 『どうでもいいよ』
    →『ビートの言う通りでいいよ』」

目の前の「敵」に語りかけるビートの言葉は、果たしてマサルに通じていたのかどうか。
リベンジに燃えるビートの瞳は、その輝きが純粋なゆえにマサルの真意を見据えることはできなかったのだ。

相手のことは、もう、どうでもよかった。どうせ1体で終わらせてしまうから。
急速に冷えていく自分の心情を自覚しないまま、マサルはモンスターボールを投げた。
 ▼ 20 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:57:58 ID:x.hMDEjw [19/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ジムリーダーのビートはマホイップを繰り出してきた!

マサル「いけっ! インテレオン!」

二人が繰り出した強力なポケモンの放つオーラに、エール団員たちは無意識に緊張を強めていた。
また、中間地点に立ったホップの背筋に彼らとは異なる種類の緊張が走った。

マサルは最古参の強豪であるインテレオンを繰り出し、一方のビートはこれまで公式戦で使ったことのないポケモンを繰り出したのだ。
バレンタインにかこつけて新顔の経験値を積むつもりか、それともコイツがマサル対策の切り札なのか……ホップの視線は自然とマホイップへと注がれていた。

ビート「インテレオンは特殊攻撃を得意とするポケモン……マホイップ! 心を空にしなさい!」

指示を受けたマホイップは視線を虚空に浮かせ、口は半開きに。
ヌオーのようにとぼけた表情を完成させたマホイップの「ドわすれ」具合は、それはもう、実に見事なものであった。

そういえばコイツ、自己再生が得意なポケモンだったよなとホップは思い至る。
ただでさえ特殊技への防御力が高いマホイップが「ドわすれ」で更に力を増したのだ。マサルのインテレオンがどれだけ強くても、可愛らしいホイップクリーム状の生命体が要塞にすら見えてくる――。



「はず」だった。
 ▼ 21 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 22:59:10 ID:x.hMDEjw [20/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ぼそっ、と小さな声がした。ごく短い、ささやくような声だった。
一点突破を義務付けられて、たった一つの技を放つ。それこそが彼の役目だった。
そのポケモンにとって、戦闘の指示はそれだけで十分に過ぎたのである。



ビート「マホイップ! ギガドレインで体力を奪い取りなさい!」


マホイップ「ホ〜〜!」



こちらへ攻めかからんとする敵の姿がよく見える。
あちらへ向けるものはたった二つで良い。
片目を閉じて焦点合わせ。指先一つを目標へ。



マホイップ「フゥゥゥゥゥ〜!」



敵の動きは鈍重だ。
焦らず構えて引きつける。一の動きで、全てが終わる。
心の中の、引き金をひく。

 ▼ 22 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 23:01:49 ID:x.hMDEjw [21/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ぱちゅっ! と。

水泡が弾けたか。
あるいは、大きな水粒が高い場所から地に落っこちて砕けたような音がして。
表皮に水滴をにじませたポケモンが、空き地に倒れ伏していた。

ホップ「マホイップ、戦闘不能!!」

目にも止まらぬ早撃ちが勝負を動かした現実に、取り巻きのエール団員は一拍遅れてどよめき盛り上がった。

素早い動きで知られるインテレオンが、トレーナーの指示を耳元で受けただけで一歩も動かず……しかし敵の攻撃を目前にして一撃で片を付けたのだ。
鮮烈な技を目の当たりにした彼らは、インテレオンとマサルのコンビに喝采せずにはいられない。

バトルの得意な団員もそうでない団員も、みな一様に大きなエールを送るのだった。
 ▼ 23 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 23:03:03 ID:x.hMDEjw [22/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ビート(……しまった!)

悠長な選択だった。
一瞬だが強力な水流の放出はインテレオンの「ねらいうち」に相違ない。自分がマホイップへ防御を命じている間にマサルは道具を使ったか、あるいは補助技を使わせるかしてインテレオンの集中力を高めたのだ。
ビートは瞬時に頭へ血を巡らせて更なる思考を掘り下げていく。

急所に当たったとしても鍛えたマホイップがインテレオンの水技一撃で倒れるとは考えにくい。
であれば、あのポケモンは「こだわりメガネ」や「しんぴのしずく」といった技の威力を強める道具を持っているか――これが最も確率高く、かつ絶望的な答えだが――インテレオンとマホイップの間に、埋めがたいレベルの開きがあったのだろう。

こうなればどんな要塞だろうと関係ない。マサルのインテレオンは、僅かな隙間から見える急所を見逃さずに狙い撃ってくる。
一度勢いに乗り、元の動きも素早いあのポケモンに対してビートの残りの手持ちが抵抗するすべは――。

 ▼ 24 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 23:05:35 ID:x.hMDEjw [23/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホップ「ビート、2体目を出すんだぞ!」

審判役の彼の声が耳障りに思えた。
「取った/取られた」のゲームが得意な自分たちだ。実力が拮抗している場合、ほんの一瞬でも隙を見せ、形勢が傾けば挽回するのは非常に難しい。
ましてや相手は拮抗どころか――断じて認めたくはないが、自分よりも強い――チャンピオンなのだ。

絶望と逃避願望がのしかかってくる中、ビートは必死で最善手を模索する。

ホップ「なぁビート。2体目を……」

ビート「分かっています!」

2体目はニンフィア。
ダイマックスが使えない今、本来ならば切り札のブリムオンに代えて起用するはずのエースだった。
 ▼ 25 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 23:06:17 ID:x.hMDEjw [24/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
……一発だけなら、耐えられるだろう。



マサル「ねらいうち」



ビート「ハイパーボイスで反撃です!」



だが、急所へ必ず当ててくるあの敵を一撃で倒さなければ――。



インテレオン「っ……」

マサル「がんばれ! インテレオン!」

インテレオン「……!」 



ああ――もっと威力の高い「はかいこうせん」を覚えさせていれば――。
ビートは後悔に歯を食いしばり、ニンフィアが倒れる様を眺めることとなった。

 ▼ 26 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 23:10:43 ID:x.hMDEjw [25/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
手持ちの中で最も特殊防御が得意なマホイップと、最も技の威力に優れるニンフィアが倒された。
スパイクタウンの傍という地理の特性上、「ねがいぼし」の力を利用したダイマックスは使えない。
今の手持ちでは、次に何を出してもインテレオンに大ダメージを食うだろう。あれを倒しても、マサルの2体目3体目を突破しなければ自分の勝ちはない。ましてや、相手は伝説のポケモンを持っているトレーナーなのだ。

ビートは「詰み」だった。
この状況を打開にするには、少なくともインテレオンよりは素早く、伝説のポケモン並みに力強い1体が必要だ。
だが、そんな理想的なポケモンが急に目の前に現れたとて、使うわけにはいかないだろう。

あの頃――目的のために強引な手段を用いたことでかつてない挫折に陥った頃の――自分ではないのだ。
今のぼくは、アラベスクタウンのジムリーダー・フェアリータイプを操るエキスパートなのだから。
これが野試合だからといって、ただ強いだけのポケモンを使うわけにはいかないのだ。

意地とプライドに現実逃避を邪魔される現状に、ビートは泣きたい気持ちにすらなっていた。
 ▼ 27 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 23:11:25 ID:x.hMDEjw [26/27] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ああ……こんなときに――。

インテレオンより素早くて。
伝説のポケモン並みに強くて。
フェアリータイプを持っている。

そんな夢のように理想的なポケモンさえいたのなら――。



ホップ「――なあビート。3体目のポケモンを……」

ビート「あっ」



そのとき、ビートの脳内を電光が駆け巡った。

 ▼ 28 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/07 23:14:55 ID:x.hMDEjw [27/27] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえずここまで

ビートくんすき(小並)
 ▼ 29 ャローダ@おいしいみず 20/02/08 00:34:45 ID:iCX6kYnU NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援(マサルにエール)
 ▼ 30 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 11:57:26 ID:WjYMBiSE [1/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「悪い、ビートがトラブったからちょっとタイムな! すぐ解決するから待ってて欲しいぞ!」

マサル「 『わかったよ』
    →『インテレオン、大丈夫?』」

インテレオン「ッシュ!」

マサルは余裕しゃくしゃくといった心地だ。
相手先発のマホイップに隙を晒してまで、インテレオンにクリティカットを使用した甲斐があったというものだ。
ビートの手持ちは概ね把握している。マホイップを使ってくるとは思わなかったが、特に驚くほどの隠し玉でもなかった。



ビキッ! バキバキ! ……ジュゥゥッ!



ビートとホップがこそこそと話す傍で、何やら異音がする。
なにかが壊れて焼けるような音だ。どんなトラブルが起きたか知らないけれど、どうでもいいことだと思った。

 ▼ 31 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 11:58:48 ID:WjYMBiSE [2/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
やがて、ホップとビートが小走りで広場の隅から戻ってきた。
だがここまで来て、特に気にすることもないだろう。

自分は勝ったのだ。
これでマリィに告白しなくても許される!
さあ、早く終わらせよう。

ビート「お待たせして申し訳ありませんでした」

ホップ「さ、続きやるぞ!」

マサルは何も言わずに彼らを迎え、ビートが最後に繰り出そうとする3体目を待った。
どんなポケモンが出てきても関係ないのだ。
そう、それがインテレオンより素早くて控えにいるザマゼンタを負かせるほど強くてビートが使いこなすフェアリータイプのポケモンでもない限りは――。
 ▼ 32 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 11:59:36 ID:WjYMBiSE [3/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ビート「頼みましたよ、ザシアン!」

ザシアン「イヌヌヌワン!」



インテレオン「」

マサル「」



 ▼ 33 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:01:40 ID:WjYMBiSE [4/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
少年は親友へと詰め寄った。

マサル「 『どういうことだよ!!』
    →『なんでビートがザシアンを!?』」

ホップ「いやぁ〜それがビートのボールに……トラブルが……」

歯切れの悪いホップを締め上げようとすると、ビートが例の得意顔で事情を説明してくれた。

ビート「いえ、実は恥ずかしいことなのですがね? 3体目を繰り出そうとしたところ、なんとぼくの持ってきたポケモンたちが……」

「こんな有り様でして……」と言いながら差し出されたビートのスーパーボールには、フェアリータイプのポケモンたちが入っている。
だがしかし、ボールの開閉スイッチは見るも無残に変形していて彼らをボールから出すのはとても適わないという有り様だった。
 ▼ 34 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:04:22 ID:WjYMBiSE [5/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ビートが持っているボールの開閉スイッチ。
そこは「高熱の何かで溶かされてしまった」かのようにドロドロに変容していて、中に入っているポケモンたちも心なしか怯えているようだ。

ビート「バトルに夢中でイタズラされていたことに気が付けなかったんですよ」

ホップ「ま、まったく! こんなヒドイことするなんて許せないぞ!」

エースバーン「エバッ!」

マサル「 『ホップ、聞きたいことがある』
    →『インテレオン、エースバーンにねらいうち』」

インテレオン「メソォ〜??」

哀れにも、インテレオンはマサルの指示した意図がよくわからない。
彼はすっかり混乱しながら、真顔で怒ったようなマサルと、焦った様子のエースバーンを交互に見比べることしかできなかった。
 ▼ 35 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:06:23 ID:WjYMBiSE [6/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ビート「ホップが”たまたま”フェアリータイプのポケモンを持っていて助かりました。相談したところ、快く貸し出してくれたので、3体目はこの子で戦おうというわけです」

ザシアン「ンワヌヌイ!」

ホップ「ほら……お前は伝説のザマゼンタを持っているわけだしさ……。久しぶりにこいつらを思い切り戦わせてみたいし……な? いいだろ?」



よくねえに決まってるだろ。

そう言ってやりたいのは山々だけれど、バトルの当事者は自分たちだけではない。
この場に居合わせたエール団たちの反応をマサルがうかがうと……。



エール団員「半端ねぇっす! 超やべーっす! マジぱねぇっす!」
エール団員「伝説のポケモンを直で見れるなんてラッキー!」
エール団員「マサルさんのインテレオンか〜ビートくんのザシアンか〜。一人1000円から承るよ〜」
エール団員「ビートに2000円!」 エール団員「ビートに1000円!」 エール団員「ばか、マサルさんは3体いるんだぜ! オレは10000円だ!」 エール団員「出た大口!」 エール団員「盛り上がってきたね!」



……完全にザシアンvsザマゼンタ(マサルの手持ち)が期待されていた。
それどころか、盛り上がりすぎて賭けまで成立してしまっていた……。
 ▼ 36 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:08:18 ID:WjYMBiSE [7/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ビート「どうかしました?」

ザシアン「イヌワヌンヌ!」



どうしたもクソもないだろう。
チェスの最中に、盤の外から大駒を持ってくるような卑怯な手を……!



ビート「ほら、皆さんが待っているじゃないですか」

ザシアン「ワンワンオ!」



ザシアンもザシアンでなんであんな糞やろ……腹が立つヤツに懐いているのか。
フェアリータイプだからっていいのか? こんなことのために自分の愛用ボールを焼くなんてビートはバカじゃないのか? いやバカだろうそうに違いない。ローズさんのダイオウドウに踏み潰されておけばよかったのに。
そんな疑問がマサルの脳裏に次々と浮かんでは消えていった。

 ▼ 37 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:09:40 ID:WjYMBiSE [8/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ビート「……早くやりましょうよぉ」

ザシアン「ワンワワンワンワワンワワンワン! ワワンワンワンワンワワンワン!」



ビートの態度とザシアンの声が無駄にうるさくて異様にうっとうしい。
なんだか無性に怒りのボルテージが上がっていくのを感じる。



ビート「はやくぅ」

ザシアン「ニンフィア、メッチャシコ!」



ああうるさい、うるさい。「なあ、マサル……」なんだようるさい。ホップの声がマサルの耳にまとわりついてきて、これまたうっとうしく感じられる……。

 ▼ 38 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:12:55 ID:WjYMBiSE [9/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「……もしかして、負けるのが怖かったりするのか?」



は?????



ホップ「『オレのザシアン』に……」



は? 怖いことなんて全然ないが??
「ザマゼンタ」+「インテレオン」+「まだ決めてないなんか1体」のトリオはあんな剣犬(ツルギーヌ)に負けるわけないんだが???

いいじゃないか。その挑発に乗ってやろう。
煽ってくるあのメス犬にチャンピオンの力をわからせてやる。
静かな怒りを込めてバトルの再開を求めると、マサルは先ほどの持ち場に戻った。



そして、再びバトルの幕が開けた。
 ▼ 39 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:18:05 ID:WjYMBiSE [10/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マサル「ねらいうち!」

ビート「じゃれつく!」

勝負とは残酷なものである。それは力量の近い者同士の戦いであるほど、より如実に結果として現れてくる。

マサル「……ストリンダー、君に決めた!」

ビート「電気技を撃たせてはいけません! 肉弾戦から「サイコファング」!」

マサル「……っ!」

ホップめ、いつのまにそんな技を覚えさせていたんだ。



こんなときにムゲンダイナを連れていれば、
ウオノラゴン(持ち物:こだわりハチマキ)がいれば、
ニャース(キョダイマックス個体)かニャイキング(特性:はがねのせいしん)が、
せめてジジーロン(得意技:さわぐ)がいたのなら……!

ワイルドエリアやポケモンリーグに随行させていた心強い仲間たちを、パソコンに預けたまま。
そんな無防備な状態で戦い始めてしまった自分を、マサルは呪うのであった。


 ▼ 40 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:26:10 ID:WjYMBiSE [11/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
見るからに強そうなマサルの手持ちが早々に倒されたのを見て、騒音がトレードマークといえるようなエール団のメンバーですら、みな一様に言葉を語らず黙している。
期せずして生まれた静寂の中でビートは独りつぶやいた。

ビート「……これが伝説の力……」

ザシアンの繰り出す技は想像以上に速く、鋭かった。
ホップと共闘する様子を何度も見てきてその度に仮想戦闘を試みたビートだったが、自分が使う立場になると改めてザシアンの強さ、恐ろしさが身に染みてきて……。
彼女が傍にいるだけで、どんなバトルにも後れを取ることはないと思えるのだった。

だが、伝説のポケモンを擁しているのは目の前の彼も同じだ。



マサル「いけっ! ザマゼンタ!」

ザマゼンタ「アンアン、キャンッ!」



チャンピオンの代名詞と化した……キョダイマックスニャース……に次ぐくらいには、ガラル地方の人々にも知られたポケモンである。

スパイクタウンの町はずれ。
なんでもないただの空き地に、とうとう伝説のポケモンたちが並び立ったのであった。

 ▼ 41 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:28:30 ID:WjYMBiSE [12/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
荒涼たる地に――町はずれの荒れた広場に過ぎないが――伝説のポケモン2体が相対していた。
かつてガラル地方を守るために戦った「剣」と「盾」は、今は主人たる少年たちの思いに応えんと――片や主の臨む変化をもたらすため――片や主の求むる安寧を守るため――互いに口端から牙を覗かせている。

ザシアン『……まどろみの森以来だな。我らが対峙するのは』

ザマゼンタ『全く。よもやこのような形で姉上に見えるとは思いませんでした』

冬空の下でも、相手の瞳に燃える闘志は1秒ごとにその熱を増しているかのようだ。
視線を交錯させる2体の耳に、主人たちの高らかな号令が鳴り響く。



ザシアン「ゥルォォーーーゥ!!!」



ザマゼンタ「ルァゥーーード!!」



2体と2人の中心で、審判のホップはまばたきさえ惜しみながら戦況を見つめていた。

 ▼ 42 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 12:31:20 ID:WjYMBiSE [13/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえずここまで

『はじめの一歩』の腕相撲シーンをポケモンでやってみようと思ったのがきっかけでした
 ▼ 43 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 22:48:22 ID:WjYMBiSE [14/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「くちたたて」を咥えたザマゼンタのたてがみは重厚なる金属のように硬質化し、量感を増していた。
横に広く、逆三角形のように雄々しく変じた毛先は寸も動かずザシアンの振るう剣を受け止める。ギィン! と、鋭い衝突音が響いた。

ザシアン『……相変わらず、よく鍛えているな』

ザマゼンタ『同じ言葉で返させていただきます』

ザマゼンタが、剣を受け止めたその脚で踏ん張り押し返すと、ザシアンはその力を受け流すように距離を取る。
一撃のやりとりを終えて再び両者はにらみ合った。

時間にして一秒も満たない、たった一合の攻防。
それだけのことで2体を中心とした空間には疾風と衝撃音が巻き起こり、周囲の観衆は目の前の光景に色を失っていた。

 ▼ 44 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 22:50:42 ID:WjYMBiSE [15/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一撃交えるだけで穏やかならぬ衝撃が舞う中、ビートはひとり笑っていた。

ビート(この力、生かすも殺すもぼく次第。……実におもしろい!)

「戯れてやりなさい!」、その声が飛ぶとザシアンはザマゼンタへ「じゃれつく」攻撃を仕掛け、「かみくだく」攻撃で応戦したザマゼンタと再び取っ組み合う形となる。

ザシアン「グァルルッウルルゥ!」

ザマゼンタ「ゥグルルァゥ……ッ!」

スピードと突貫力はザシアンに分があるものの、受ける技術はザマゼンタの方が上だとビートは直感した。
この見立てが正しければ、両者の受け攻めを決定づける駆け引きが重要になる。
ザシアン―ザマゼンタの力量を比べるのではなく、自分とマサルの思考で優劣が付きそうだと予測して、ビートは不敵な笑みを浮かべるのだった。
 ▼ 45 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 22:56:14 ID:WjYMBiSE [16/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
イヌ科の動物は、自分と他者との力関係に敏感である。
彼らが相手の上からのしかかったり、強引な力で引っ張ったりする行動は、自分の優位を示そうとする意思の表現だとも言われている。

ザシアンとザマゼンタの間の格付けは、共に同格である。それ故――たった一瞬でも相手に有利な体勢をとられることは非常に耐えがたく――2体のせめぎ合いが鬼気迫る気配を帯び始めたのも、自然な成り行きであった。



ザシアン「グァッ、ガァゥル!」



ザマゼンタ「……ゥゥゥウ!!」



唸り声を上げる2体の口からは牙が覗き、ザシアンたちの有する攻撃性を物語っている。
想像以上に暴力的……あるいは破壊的な剥き出しの闘志に観衆の大多数は息を呑んでいた。
しかし、この戦いに身を投じるのはこの2体だけではない。



マサル「ザマゼンタ!」



ザマゼンタ「ォン!」



名前を呼ばれたとたん、ザマゼンタは瞬時に脱力する。
ザシアンとの押し合いで踏ん張っていた四つ脚は「くの字」を反転させたかのように折れ曲がった。

 ▼ 46 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:01:29 ID:WjYMBiSE [17/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
脱力したザマゼンタは、ザシアンとの距離を保ったまま、わずかに側面へ移動する。
たったそれだけのことで……ザシアンは抵抗力を失って体勢を崩してしまった。
目線だけを必死にズラすと、返す刀で「きょじゅうだん」の体勢をとるザマゼンタの姿が見えた。



マズい。前方につんのめって不安定なザシアンは自らの危機を悟る。



そこに、新たなパートナーの声が聞こえた。



ビート「そのまま転べ!!! 敵の軌道から逸れろぉ!!」



指示通りに、突っ張った足から力を抜いてその場に横に転びかけるザシアン。
巨大な弾丸と化したザマゼンタ。その突撃軌道はあまりにも真っ直ぐで――側面へと逃れた目標を補足しきれず――脇をかすめるだけで通り過ぎてしまい、すぐさま急制動をかけた、

一連の攻防を見て、マサルは下唇をきゅっと噛んだ。
コンビネーションにかけては、一日の長がある自分たちが有利だと思っていた。
しかし、たった今、勝負手をビートの的確な指示でかわされてしまったのである。

即席コンビといっても侮るわけにはいかない。ライバルたちの強さを実感したマサルは気を引き締め、戦況の変化を注視していた。
 ▼ 47 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:03:29 ID:WjYMBiSE [18/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
早くも勝負が決まりかねないほどの攻防があったが、そこでひと息つくというわけにもいかない。

マサル「ザマゼンタ!!」

ビート「ザシアン!!」

続けざまの二人の声に呼応した2体は、咆哮と共に互いとぶつかり合う。
ぎぃん、がぎん、と金属が打ち合うような音が広場に響き、生みだされる衝撃の強さがバトルの見物人たちを圧倒する。
かつ離れ、かつ打ち合い、2体は通常のポケモンを遥かに上回るスピードで剣戟を繰り広げていた。

ホップ(二人とも技を指示する感じではないぞ……。純粋な力比べ……でもない、位置取りの勝負ってことか?)

審判として冷静を保とうとは思うものの、実はホップこそが最も強い驚きをもってこのバトルを観戦していた。

 ▼ 48 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:06:44 ID:WjYMBiSE [19/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
まず驚かされたのは、ビートの技量である。



ビート「右へ右へと回り込め!!」



ザシアン「ワゥッ!」



突発的なコンビなのに、彼はザシアンを上手くフォローしてガラル地方最強と目されるマサル・ザマゼンタのコンビと互角に戦っているのだ。
先ほどの指示にしても、敬語を使わずに必死な彼の声を聞くのは久しぶりである。

日頃は気取った話し方をしていても、ここぞの勝負で一瞬・一秒の間合いへ執着する彼の集中力は凄いものだとホップは実感した。

ビートの指揮を受けて颯爽と動くザシアンを見て、彼は心からの感心と同時に少しだけ嫉妬のような感情を覚えるのだった。
 ▼ 49 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:14:27 ID:WjYMBiSE [20/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
次に、マサルとザマゼンタだ。

マサル「……!」

ザマゼンタ「ゥルルッァゥ……ッ」

受けが得意なザマゼンタだが、他のポケモンを遥かに上回る攻撃力やスピードも同時に発揮させることで決して守勢に回らないよう心がけているのが分かる。
以心伝心というやつだろうか。マサルの指示はビートよりも早く、ムダがなく、ザマゼンタより素早いはずのザシアンと同等の動きを見せているようだった。

ここは、普段彼らが戦うような整地されたスタジアムではない。
周りではエール団たちが見物していて、石ころや野生ポケモンの痕跡だって転がっているのだ。
それなのに、この場において彼らの動きはなんて綺麗で精密なのだろう!

 ▼ 50 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:16:38 ID:WjYMBiSE [21/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップは、ザシアンたちと出会った頃に思いをはせる。
思い返せば、彼らが住んでいたのは天然の障害物が当たり前のように存在している森の中だった。
だとすると、今この姿にこそザシアンやザマゼンタの本当の力量が表れているのかもしれない。



ホップ(……ちぇっ。オレがマサルと戦ってればよかったぞ!)



ただでさえ自分より強い親友たちが、まだまだ力を増しているのだと実感してホップの中には嫉妬と羨望の炎が熱を持ち始めた。
けれども、憧れを噛みしめてばかりではきっと彼らに追いつけはしないだろう。

この手で戦うことのできない、この時間もしっかりと自分の経験値とすべく。
彼は、誰よりも真剣にこの勝負を見守るのであった。
 ▼ 51 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:19:21 ID:WjYMBiSE [22/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ザシアンが、跳んだ。

ザシアン「ウァァァゥルル!!」

空中で横に捻った体を大回転させ、口に咥える大剣を正面へと振り下ろす。

ザマゼンタ「グァァァァ!!」

頑健なる大盾が、剛剣の一撃を受け止める。
ザマゼンタは四肢を強張らせながら衝撃に耐え、奥歯を噛み締めた。
防御姿勢をとってなお、ザシアンの一撃はダメージを残す。正面から受けた衝撃は、ザマゼンタの体を痛めつけた。

ザマゼンタ「……ルゥゥゥゥ!」

が、高すぎる攻撃力のためにザシアンの体も反動で揺らぐ。
ザマゼンタは瞬時に彼女の居場所を補足し――爪を立てて毛先を捕まえ、強引に引き寄せると――相手の喉笛を目がけて牙を伸ばす。



瞬間、ザシアンは体を大きく揺さぶってザマゼンタを引き剥がした。



手痛い反撃は避けられたものの、渾身の一撃を振るった直後に激しい動きを強いられて――ザシアンもまた、体力を確実に消耗していた。
 ▼ 52 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:23:26 ID:WjYMBiSE [23/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ザシアン『……ははは。窮屈な場での仕合も存外に滾るものだな』

ザマゼンタ『姉上はよろしいのですか? 我々が、このような理由で戦うなど!』

並々ならぬ強圧を意に介さず、ザシアンは跳躍して敵の突進を華麗に回避する。
背後から追撃しようとした彼女へザマゼンタが向き直り、またもや2体は組み合った。

ザマゼンタ『わが主の望まざる告白! それを敢えて強いる者に従う姉上! 抗う私と、姉上のどちらに正義がありましょうや!?』

ザシアン『愚問に返す答えなど無い。弟よ、敗北を以て己が傲慢を知るがいい!』

毛先が触れ合うほどの至近距離で2体は語り合う。
いや、「語る」という穏当なものではないかもしれない。



もう、この勝負は2体にとって「ただのバトル」ではなくなっている。
愛だの恋だのを懸けて始まったこの戦いも、いつのまにやら互いの正義を証明し合う闘争のような性格を帯び始めていた。
 ▼ 53 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:31:17 ID:WjYMBiSE [24/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ザシアン『思えばお前は頑固者だったな。この場で私自ら指南を授けるのも悪くなかろうよ』

ザマゼンタ『傲慢とはどちらのことですか! 如何なる弁句で飾り立てようと我が主に告白を強いること、断じて許せぬ!』

ザマゼンタが、ぐいと上から圧し掛かるように相手へ覆い被さろうとする。素早さでは劣る分、単純な力と重みの勝負ではこちらに分があるのだ。

のしかかられる体勢に本能的な嫌悪感を覚えるが、ザシアンは踏ん張ったまま動こうとしない。
ただ、倒されることがないように最低限の力で踏ん張り続けるだけである。
自慢の剣を用いて押し返すことも、爪や牙で抵抗することなどは考えてすらいなかった。

 ▼ 54 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:31:50 ID:WjYMBiSE [25/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ザマゼンタ「グゥゥゥゥゥ……!」

ザシアン「…………ッ」



いくら押し込められてもザシアンは動かない。ひたすらに”機会”が来るのを窺っている。
何度もぶつかり、消耗しても闘気みなぎる彼女の体を激しく動かすものは、たった一つである。



ビート「今だザシアン! インファイト!!」



仕える者の命令。剣を取った主の声が、ザシアンの体を強く突き動かす!
それが主人たるホップに言われて仕えた少年でも、なんら変わることはなく!

ザシアン『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!』

不自由な姿勢ではあるが、間合いとしてはこれ以上なく好都合。
必殺の一撃を放とうとするザシアンに対し、ザマゼンタもまた――。
 ▼ 55 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:37:52 ID:WjYMBiSE [26/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



マサル「インファイト!!」



技を撃つ間合いが好都合なのは敵と同じ。
しからば、速さで劣っていようが、体勢に分のあるザマゼンタが有利ではないか!

ザマゼンタ『おぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!』

防御を捨てた2体は絡み合うように互いの肌を衝突させる。
ゼロ距離の間合いで試されるは力と技、そして執念が相手を上回るか否かである。

爪刺し込まれれば牙で食む。牙突き立てられれば爪で裂く。
毛先の一寸でさえも相手を討つために総動員させ、闘志に包まれた全身を一塊にして敵にぶち当たる。
伝説に謳われた最強の剣と最硬の盾は、ただ一個の兵器として眼前の1体を倒すためだけに動いていた。
 ▼ 56 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:41:46 ID:WjYMBiSE [27/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ザシアン『武とは、戈(ほこ)を止(すす)むものなり! 常に敵へと先んじ進む闘気こそ、戦いの本質である!』



ザマゼンタ『否、武とは戈を止めるものなり! 常に敵に後れて迎え撃つ闘技こそ、戦いの本質である!』



ひと際大きな音と風が空間全体を揺らした。
その中心地で、ザシアンもザマゼンタも四つに組み合ったまま動かない。
相討ちを疑ったホップが注意深く観察すると……小さく、しかし確かな声が彼の耳を震わせるのだった。



ザシアン『……いいだろうわが弟よ。……その盾、貴様のたてがみごと全て斬り捨ててくれるわ!!!』



ザマゼンタ『……わが姉よ。……その剣、あなたの牙ごとへし折れるまで付き合わせていただく!!!』



血と泥に身体を汚して。
疲労でこみ上げる唾液を、だらだらと垂れ流すのすら構わず。

甚大なダメージを受けて、なお立ち続ける2体の伝説は敵から決して視線を外さず次の攻防に備えていた。

 ▼ 57 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/08 23:46:49 ID:WjYMBiSE [28/28] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえずここまで

肉弾戦とか白兵戦って燃える…燃えない?
 ▼ 58 イゼル@ボブのかんづめ 20/02/09 02:40:15 ID:192Ugm7c NGネーム登録 NGID登録 報告
>>42
鷹村さんの理不尽に巻き込まれた後藤くんに心の底から同情したわ
 ▼ 59 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:26:54 ID:R2dwXlIg [1/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>58
一歩の描写も相まって最高に笑える絶望感が出ていましたね


投稿していきます
 ▼ 60 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:28:31 ID:R2dwXlIg [2/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「マジかよ……!?」

未だ戦おうとする2体の姿に、ホップは思わず叫んでいた。

ザマゼンタの分類は鋼・格闘タイプである。
それなのに効果抜群の格闘技を……それも、ザシアンのとびっきり鮮烈な一撃を受けたというのに耐えているのだ!

一方のザシアンにとって、格闘技は効果抜群ではない。
けれども……格闘タイプの技に長けたザマゼンタの一撃を、それも「インファイト」で防御姿勢を全くとっていなかったのになお立っている!

続いてホップがトレーナー側の表情を伺うと、マサルもビートも目を見開いて困惑しているように見えた。

指示を出した側さえ驚いているくらいだから、間違いない。2体はかつてないほど限界を超えて戦っているのだ。
くだらないきっかけで始まった小競り合いには勿体ないほどの好勝負に、ホップは夢中になっていた。



彼を呼ぶ者が現れたのは、そんなときだった。
 ▼ 61 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:29:53 ID:R2dwXlIg [3/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
尻ポケットから、スマホロトムの起動音がした。

ホップ(くそっ! こんなときに誰だってんだよ?)

無視したくてたまらないバイブレーションだが、生真面目な性格のホップである。
手早くスマホロトムを起動させると、画面にメッセージアプリの通知をみとめた。



『電話出て。スパイクタウンで騒動起きたとネットで見たよ!』



ホップ「げっ、こんなときにマリィから……」



これでますますスマホを無視するわけにはいかなくなった。
目の前のバトルから視線を逸らさないように気を付けながら、ホップは仕方なくアプリを起動する。
通話ボタンをタップすると、1秒も経たず相手からの返答が届いた。

 ▼ 62 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:32:01 ID:R2dwXlIg [4/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ『もしもし』

ホップ『おう! どうした?』

マリィ『SNSでスパイクタウンですごい音してる動画が広まってたけど、何か知らん? 3人でそこにいるんでしょ?』

ホップ「ああ! マサルとビートがバトルしてるんだぞ!」

一刻も早く通話を終えて、バトルに集中したかった。
そのためには要件をさっさと聞いて満足してもらうのがいいだろう。

ホップ「聞きたいことがあるなら言ってくれよな。今いいところなんだ!」

マリィ『え? なに、二人はそんなに盛り上がってんの?』

ホップ「あーそうだよ盛り上がってる! 悪いけど審判中なんだ、早く済ませてほしいぞ!」

マリィ『……なにさ、ぶっきらぼうに……』

声を聞くだけで、拗ねてるマリィの表情がホップの頭に思い浮かんだ。

 ▼ 63 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:36:27 ID:R2dwXlIg [5/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ(早く切ってくれ〜〜〜……!)

今のホップには、彼女に気を遣う余裕なんてなかった。
なにせ、じっと立ちすくんでいた2体が再び足を動かし始めたところなのだ。これからクライマックスの幕が開けると思うと「電話なんかしてる場合じゃねえ!」という心持ちである。

マリィ『まあいいや。ただのバトルがなんでそこまで盛り上がってるのか教えてくれない? あたしジムリーダーだし、一応知っておかな』

ホップ「マサルとビートがとにかく凄いんだって! これでいいだろ!?」

マリィ『なっ……!』

焦燥が表れたのか、ホップはこれまでになくぞんざいな声で対応してしまう。
電話口から、悪い意味で呆気にとられたマリィの声が漏れた。
 ▼ 64 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:38:17 ID:R2dwXlIg [6/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ『ふざけないでよ! 3人にとっちゃ他人の町だからいいだろうけど、あたしには……!』

ホップ「ゴメンって! でも、マジで電話してらんない状況なんだ!」

ああ、ザシアンとザマゼンタの素早い動きを追いきれない!
2体とも消耗しているはずなのに……残った力を振り絞っているのだろう。
彼らのために全神経を傾けたいのにそれが叶わず、そわそわしながら電話を続ける。

ホップ「とにかく、マリィもスパイクタウンに来てくれ! そこで話すよ!」

マリィ『そりゃ後で行こうと思ってたけどさ……なんで今教えてくれないの? 本当に電話で話せないくらい時間ないわけ?』

いちいち面倒くさいな、マリィのやつ!
そもそもどうしてコイツが出てくるんだっけ、とホップは考える。
今戦っている場所がスパイクタウンだから……というだけではなく……そうだ!



「あの用事」がマリィにあったのだ。

直で会わなきゃ事情説明も難しいし、アレを建て前にしてここに呼べばいいんだ!

焦るホップは、ただの思い付きを名案のように勘違いして実行に移してしまうのであった。

 ▼ 65 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:38:53 ID:R2dwXlIg [7/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「バレンタインのことで、マサルがお前と話したいってさ! だからスパイクタウンにすぐ来てくれよ、な!」

マリィ『はぁ!? ホップそれどういう……』

ホップ「時間ないから続きは後で頼む! じゃあな!」

有無を言わさず電話を打ち切り、ホップはスマホをポケットにしまった。
赤と青。濃淡の異なる2つの生命体がぶつかり散らす火花を前に心は大きく高揚していた。



ビート「行きますよザシアン……」

ザシアン「ゥゥゥ……!」

マサル「とどめだ、ザマゼンタ!」

ザマゼンタ「ゥルゥゥゥ……ド!」



間違いなく、これが最後の攻防になる。
ホップも、周囲のエール団たちも、みな固唾を飲んで決着の瞬間を予期していた。

 ▼ 66 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:41:38 ID:R2dwXlIg [8/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方その頃――。
ガラル地方の西部、ラテラルタウンの隅っこで。



マリィ「もう! ホップんやつ、一方的に電話ば切りゆう!」 



スマホを恨めしげに見つめながら、マリィが口を尖らせていた。



マリィ「何をそがんにのぼせとるんかいちいちおらぶぅてあたしのゆうこと聞いてくれんけん、どがんしとんのか説明くらいせぇよっ」



ぷりぷり怒るマリィの口調は、ホップと電話していたときのそれからかけ離れている。
それは普段なら他人にほとんど見せることのない態度であった。
かんしゃくを起こす彼女の肩を、そばにいる男が優しく叩いた。



ネズ「しゃーしぃマリィ。多分ホップにゃホップの事情があっけん、あんまこかんでやかましゅうゆうたらいかんよ」



彼もまた、方言を隠すことのない口調でマリィをたしなめる。
同じ町に生まれ育った兄妹同士、気を遣わずに済む間柄のため交わせる会話だった。
 ▼ 67 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:43:41 ID:R2dwXlIg [9/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「ばってん、兄貴!」

ネズ「マサルもビートも電話出やんけん、向こうから切られたら話の続きもしまえとうが」



兄の言葉は正論である。町のことは心配だが、相手側が応じてくれなければいくら怒っても話は進展しない。



マリィ「……そげなこと、分かっとぅ……」



マリィとネズ。
この兄妹は、ラテラルタウンでオニオン・サイトウの面々とバトルの特訓をしていたところだったのだ。

悪タイプ×2人に、ゴーストタイプ+格闘タイプのエキスパートたち。
相性の複雑さを楽しめる組み合わせで、良いバトル練習ができていたのに――休憩中、スパイクタウンの異音や衝撃を伝える動画がSNSで拡散されていると聞かされ――しかたなく特訓を打ち切って外まで出てきたのだ。

ネズの言葉に落ち着きを取り戻したマリィだったが、せっかくの特訓を邪魔したホップたちへの憤りは隠せなかった。

 ▼ 68 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:46:23 ID:R2dwXlIg [10/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「まーまー。そがんぶすくれんと、向こうが話したことば兄貴にも教えてくれんね? 男子のことやったらなんぼか助けになるかもしれんよ」



こちらをなだめるようなネズの言葉に、マリィも素直に電話したことを伝えるのだった。



マリィ「ホップに町のこと聞いたんやけどね。アイツば言うにゃ、マサルのバトルがばり盛り上がっとるとか」

ネズ「相手は?」

マリィ「ビートらしいよ」

ネズ「……しょんなら、町のもんがばげたりせなぁよかばいね」



自分たちの故郷で騒動が起きるのはごめんだが、建物を壊したり周りに迷惑をかけたりしなければ良いだろうとネズは思う。
ネットで話題が広まったのは気になるが、バトルで盛り上がる分には大いに結構な話だ。
後で、町の人に事情を聞けば済む話だろう。彼はそんな風に考えていた。



マリィ「ばってん、ホップはあたしにスパイクタウンば来ぃゆうてるんよ」

ネズ「すぐじゃなきゃダメなんか。時間置いたら悪かごとでもあっとや?」

マリィ「あたしも同じゅう聞いたんよ。ほいたら……」

 ▼ 69 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:48:14 ID:R2dwXlIg [11/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



マリィ「『マサルがバレンタインのことであたしと話したかっとう』て言うったい……」



ネズ「!」





ネズ「!!」







ネズ「!!!!!」


 ▼ 70 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:50:10 ID:R2dwXlIg [12/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここで補足すると、ネズは決してマリィの声に上の空であったわけではない。

ただ妹本人から聞いたバレンタイン云々の言葉に衝撃を受けて。
マサルが、自分やマリィと過ごしてきた記憶を追想し――。

――まさか! いや、ついにこんな日が来てしまったかと! 
動揺しながら、兄として伝えるべき言葉を必死で考えていたのである。



ネズ「マリィ。お前、今までバレンタインに家族以外と過ごしたことばあっとや?」

マリィ「なんね急に……」



「去年、エール団のみんなと兄貴のライブで盛り上がったばかりじゃないか」と。
日頃と変わらぬ無表情で答える妹に、ネズはため息を吐いた。
 ▼ 71 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:51:41 ID:R2dwXlIg [13/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「お前はなんっっっっも分かっとらん!」

マリィ「なんばこきようとや!?」



スパイクタウン、激しいバトル、電話口で叫ぶホップ、マサルとマリィ、そして、バレンタイン。
妹を想うネズの中で、断片的だった点と点が線で繋がっていき――単なる推測に過ぎないものの、真実からそうかけ離れているわけでもないような何だかそれっぽい推理が閃いたのであった。



ネズ「妹よ、よー聞いとき」

マリィ「……なに?」



ネズはマリィの目を見据える。
これから口にすることはとても残酷な言葉になるのかもしれない。
だが、覚悟を決めた彼にそれ以上のためらう理由はなかった。
 ▼ 72 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:53:01 ID:R2dwXlIg [14/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



ネズ「マサルば、お前んこと好いとうかもしれんぞ……!」



マリィ「え」



妹の表情が固まった。



普段から真顔なので分かりにくいが、ネズにとっては近ごろ見たことがないほどの動揺であった。


 ▼ 73 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:54:44 ID:R2dwXlIg [15/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「あ、マサル……ぇ? バレンタィ……ぅぅ!」



少女は見る見るうちに頬を赤らめていく。
動揺しすぎて声が言葉にならず、それでもなんとか話をしようと四苦八苦しているようだ。



マリィ「だだ、だってバレンタィ……やからて、そがなこと…………きっ、決まっとらんやろぅ…………?」



自分の深読みならそれでいいのだ。
けれども、男の側がいざ告白したというときに女の子の反応が鈍かったらかわいそうじゃないか。



「マサルがマリィに好意を持っている……"かもしれない"」という前段階の時点で。
茹でダコのように真っ赤になった妹を目の当たりにして、彼女の鈍感さを指摘してよかったとネズは心底思うのだった。
 ▼ 74 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:56:35 ID:R2dwXlIg [16/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「お前は子供ん頃から周りにあいらしやらしい言われてきたばってん、早か時期からファンがついてたけん。恋愛に免疫がなかとは当然やき、気にせんとき」

マリィ「気にゃっ……気になんか、しゅとらんけん!」



無垢な妹は、狼狽するあまりに舌っ足らずな話し声だ。
絵に描いたような慌てっぷりに、思わず笑みがこぼれそうになるネズだったが、ここは真剣な表情を保って言葉を継いだ。



ネズ「よう落ち着け。単に友達同士で遊びん誘うだけとか、ひょっとすると……マリィば好いとーかどげんかと、マサル本人だって分からんめぇもん」

マリィ「そ、そぎゃんことゆわれたって。どがんしゆぅ……?」

ネズ「なんかなし、今からいぼったように考えこむんばせんときんしゃい。落ち着け、落ち着け」

マリィ「……ばってん……無理ぃ……!」



混乱を続ける妹の瞳は潤んで、ややもすると泣き出しそうな雰囲気を醸し出していた。
昔はこんなこともよくあったなぁ、などとネズは振り返る。
別に妹を慌てさせることが目的ではないので、彼はなるべく穏やかな口調で妹を諭そうと考えた。

 ▼ 75 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 11:58:51 ID:R2dwXlIg [17/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼は努めて平静を装った声で、妹に優しく語り掛けていく。



ネズ「安心しときんしゃい。しろしいことばぁ、な〜んもなかけん」



マリィ「……」



ネズ「いつもより、少しだけつやつけたマサルと話をする……かもしれんってだけや。おちょくられたり、しけとうことば言われたらその場で帰ったってよかたい」



マリィ「……」



ネズ「友達から遊びに誘わるっとき、びったれみたいやったらいかんめえもん? 要するにオレが言いたいんばぁ……ほんのちょびっとで構わんき、マサルと話しばすっなら、しかしかしときんしゃいゆうことや」



「友達と話すときは、最低限恥ずかしくない格好をしなさい」と。
恋愛事からあえて切り離した物言いに、マリィも幾分落ち着くことができたのだろうか。
表情が和らいでいく妹に、ネズは肩の荷を下ろすような安堵感を覚えた。
 ▼ 76 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:01:07 ID:R2dwXlIg [18/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ネズ「じゃ、マリィ。こいは出世払いばい」

マリィ「あ? 兄貴、こん金ば何と……?」

マリィが全てを言い終わる前に、ネズは何枚かの紙幣を強引に握らせた。

ネズ「……身だしなみ。ここ(ラテラルタウン)、砂ぼこりが多か町やけん。マサルんとこ行く前にしゃんとしときや」

マリィ「ぁ……〜〜!」

「うるさいバカ兄貴!」と顔を赤くする妹を尻目に、ネズはスマホロトムを手に取った。

 ▼ 77 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:04:06 ID:R2dwXlIg [19/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ほどなくして、ラテラルタウンの空に飛行するアーマーガアの姿が見えてきた。
「そらとぶタクシー」のポケモンがやってきたのだ。ネズは持ち物をあらためながら、マリィに言いつける。

ネズ「じゃ、アニキは事前調査的なことしてくるけん。適当に準備ば終えた後で来んしゃいや」

マリィ「わかっとぅ!」

男兄弟から好きだの恋だの説教された上にファッションにまで気を遣われて、妹としてはあまり良い気分ではない。
しかし、それはそれとして兄の心遣いには……「ありがたい」とは言いたくないけれど、ほんの少しだけ……後でお礼を言ってもいいかな、とマリィは思っていた。

そんな二人の傍に、雄大な羽音を響かせアーマーガアが舞い降りる。
カーゴのドアを開け、ネズが乗り込もうとする。

 ▼ 78 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:06:12 ID:R2dwXlIg [20/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「行ってくるばい」



マリィ「おう、はよ行きんしゃい」



ネズ「――なあマリィ? 正直な話――」



マリィ「うん?」





ネズ「マサルんこと、好いとぉか?」





マリィ「――っ!!」




 ▼ 79 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:09:26 ID:R2dwXlIg [21/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「とっとと消えぇ! こん大バカもん!!」



「こりゃいかん」とばかりにタクシーへ乗り込んだネズが飛び去った後も、幾度かの悪態をついて……マリィはやっと一呼吸をした。



マリィ「っとになんなんあいつ! 余計なお世話ったい」



何もないから安心しろだの、友達と遊ぶだけだから気にするなだのと吐いていたのはどの口か。
ちょびっとだけ……ほんのちょびっとだけ、恋愛でも頼れるアニキだと思ったのに、最後で台無しにされてマリィはやっぱりいい気分でない。



マリィ「大体、マサルのこと言われたって……す、好いとか、そんな……」



右手をそわそわさせ、左手を熱くなった頬に当てながらマリィは考える。
彼の名前を、自分でつぶやいただけなのに。たったそれだけでも、彼との思い出が頭の中に沢山、たくさん浮かんでくるみたいだった。
 ▼ 80 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:11:21 ID:R2dwXlIg [22/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ジムチャレンジで出会ったこと、
沢山バトルしたこと、
エール団に邪魔されていたのを助けてやったこと……。

トーナメントで戦ったときの高揚感、
ローズタワーでいっぱい声を出して応援したときのこと、
伝説のポケモンをゲットしてきた彼への嫉妬と羨望、チャンピオンになったときの祝賀会……。



ホテルの部屋で笑顔の練習をしていたところを彼に見られて、恥ずかしさのあまりモルペコを置き去りに逃げ出してしまったこと。



チャンピオンになった後も「胸を貸してやる」とうそぶく自分といつも笑顔でバトルしてくれた。

一緒にカレーを食べたり、ホップたちとみんなで買い物をして遊んだり……そんなマサルが、自分のことを好き……かもしれない、なんて。

 ▼ 81 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:13:37 ID:R2dwXlIg [23/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



マリィ「……別に、好かんわけやないけんね…………?」



誰に言うでもなく、マリィはひとりつぶやいていた。
2月の風は冷たいというのに、頬と胸の辺りが無性に熱く感じられるのが不思議だった。



 ▼ 82 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:18:47 ID:R2dwXlIg [24/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
今回分終わり

マリィとネズが他人に見られる家族と話すときだけ方言バーリバーリバリ〜〜〜〜!!wwwだったらいいよね…という脳内妄想


ネットで検索しながら書いたガバガバ方言なのはごめ〜んちゃいっ
 ▼ 83 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 12:19:17 ID:R2dwXlIg [25/42] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
×他人と見られる


〇他人から見られないで>>82
 ▼ 84 レディア@ヤミラミナイト 20/02/10 22:03:10 ID:R2dwXlIg [26/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
兄妹たちの苦悩を男子たちが知るはずもなく、スパイクタウンの広場は静かな熱狂が渦を巻いていた。

途中まではひとことも口にしなかったエール団たちが、今はざわざわと勝敗の行方を口の端に上らせている。この凄まじい勝負の決着が見えてきたので、いよいよ何か話したり体を動かしたりしないではいられなくなったのだ。

ザシアン「グァァァァゥ!!」

ザマゼンタ「ルォォォーーーーーゥ!」

ザシアンの咥える剣も、ザマゼンタの体表を覆う盾も未だ健在ながら本体はどちらもボロボロである。
けれども2体は決して弱音を見せることもない。
ずたぼろになりながら、気高さを保って戦う姿にホップは感動を覚えていた。

ホップ「くそっ! お前ら、トーナメントのときより凄いバトルしやがって……どっちもがんばるんだぞ!!」

涙ぐむホップの視界。その端っこには、パートナーの勝利を信じる2人のトレーナーが映っていた。
 ▼ 85 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:04:00 ID:R2dwXlIg [27/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ビート「じゃれつく!」

マサル「でんこうせっか!」



マサル「インファイト!」

ビート「サイコファングで牽制!」



マサル「かみくだくでトドメ!」

ビート「インファイトで押し返せ!」



ザシアンとザマゼンタは疲れ切っているが、信頼するトレーナーの指示は決して聞き逃さない。
どれが決着の一撃になってもおかしくないほど強烈な攻撃を交わし合い、避け続けていく。



互いに残された技は、1つだけだった。

 ▼ 86 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:05:16 ID:R2dwXlIg [28/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
広場中に響くほどの絶叫が空気を震わせた。

ビート「ザシアン!!! いけぇぇぇぇぇえええっ!!」

ライバルであり友でもあるマサルたちが初めて聞くほど大きなビートの声に彼女が応える。



ザシアン「ゥワォォーーーーーーゥ!!」



広場の中心で大きく飛び跳ねたザシアンは、高く、より高く空へ駆けていく。
落下に乗じた一撃を食らわせる気か。
真剣勝負のさなかに「にげる」の選択肢をとることはできない。

マサル「ザマゼンタぁぁぁあ!!!」

誰よりも信頼する相棒の声に、彼も即応した。



ザマゼンタ「ウルゥーーーーーーーード!!」



そのポケモンは高らかに雄たけびを上げ、空へ飛び出した大敵への迎撃姿勢をとった。

 ▼ 87 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:07:12 ID:R2dwXlIg [29/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ザマゼンタの赤いたてがみ。顔の側部を覆っていた金属質の装甲が巨大化、変形していく。
一帖の大きな盾と化した獣は、弾丸のようなスピードで目標へと飛び出した。
そびえる山をも穿つといわれたエネルギー、その全てをたった1体の標的へぶつけるのである。



マサル「きょじゅうだん!」



決まっても決まらなくても、これが最後の技だ!
乾坤一擲の指示を受けてザマゼンタは飛んでいるザシアンへと狙いを定める。



ザマゼンタ『ウォォォォォォォォォォォォオ!!!』



「ザシアン!!」と叫ぶビートの声が空に響く。
ザマゼンタの体と、ザシアンの影が、空中で一つに重なった。

 ▼ 88 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:08:20 ID:R2dwXlIg [30/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
彼女は思考する。
じきに、自分は重力に引かれて地へ落下することになる。
その勢いに乗せて技を撃つべきか、直線落下の一撃を避けられればどうすべきか。
彼女はひたすらにパートナーの指示を待っていた。



ザマゼンタ『ウォォォォォォォォォォォォオ!!!』



凄まじい勢いで巨獣の弾丸が迫り来る。
避けるべきか、迎え撃つべきか。



ビート「ザシアン!!」



地上から聞こえたその声が、彼女の思考を決定づけた。
自分が最後の技を撃つべきは――”ここではない”。
彼女は技を出すこともなく、飛んできた巨獣弾に体を跳ね上げさせた。

 ▼ 89 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:09:29 ID:R2dwXlIg [31/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

彼の目は、空中でザシアンに技を食らわせるザマゼンタの姿を捉えていた。



ホップ「決まったのか……!?」



いや違う。そんなはずがない。
だって、オレのザシアンはまだ最後の技を撃ってないじゃないか。
あいつなら大丈夫に決まってるんだ。オレの最強の相棒なんだから。

そうさ。アイツの目は――、



ザシアン「……ルァァァゥルゥ!」



ザマゼンタ「グァガッ……!?」



きっとまだ、生きている!

 ▼ 90 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:13:09 ID:R2dwXlIg [32/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ザマゼンタ『バカな!! ありえない、なぜ――!』



最後の一撃を食らわせたはずだのに、ザマゼンタは驚愕に目を見開いていた。
なぜならザシアンが――常に相手へ攻めかかることを是としていたあの姉が――”わざと”自分の技を食らったのだから。



ザマゼンタ『! 姉上、もしやあなたは……!!?』



瞬時に閃いた思考だったが、ザマゼンタは自らの思い付きに確信を持つ。



自分は、ザシアンが迎え撃ってくるのを前提に「きょじゅうだん」を放った。

対してザシアンは、こちらの一撃へ同じく渾身の「きょじゅうざん」で応じようとはせず。

ダメージを最小限に抑える姿勢で「きょじゅうだん」を待ち構え……。
細身ながらも屈強なる四つ足で、ザマゼンタの突進を吸収して更に高く跳び上がったのであった。
 ▼ 91 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:13:58 ID:R2dwXlIg [33/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ザシアン『ガハッ……!』



ダメージを抑えたといっても、空へ跳ね上げられたザシアンの被害は深刻である。
けれども、もう、残された体力を気にする必要はなかった。

力を込めるために踏ん張る必要もない。
目標を定めるために、五感を研ぎ澄ませる必要もない。

直線上に重なった弟へ、重力に任せて追いすがり……一振りの武を振るえば、この戦いの全てが完成するのである。

 ▼ 92 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:15:56 ID:R2dwXlIg [34/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
地上から飛んできたために半ば仰向けのザマゼンタと違い……ザシアンは体全体をタテ一文字のごとく垂直にしている。
空気抵抗を少なくした体勢のお陰で、空中を落下するザシアンは自分より重いザマゼンタへと少しずつ近付いていく。



ザマゼンタ『なぜだ!! なぜあなたは……あの場面で反撃せずに待っていられたのです!?』



ザシアン『……言えん。その問いに答える余力は持ち合わせておらぬでな』



彼女の背毛を翼のように形作っていた、「くちたけん」の金属部分が見る見るうちに縮小していく。
代わりに、彼女の咥える剣が更に巨大化してより太く、強く、剣先に触れるものを斬り砕くために変化していった。

 ▼ 93 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:19:43 ID:R2dwXlIg [35/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「きょじゅうざん」、と命じる声が聞こえたような気がした。


本来ならば主人の指示を聞き逃すなんてあってはならない。
だが、この身に残った力は剣を一度振るうことのみに使うべきもの……。

この技を使用するのが自らの独断であれば、それは、一振りの剣として許されることではないだろう。
とはいえ現在の自分に、先ほどの声が気のせいだったのかどうかを考える余裕はない。
ならば結果で報いねばならぬ。自らの罪をすすぐためには、敵の首級を挙げる他にないではないか。



ザシアン『はぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!』



捉えた敵を確実に斬り伏せる。ザシアンの体を動かすものはその一心であった。

 ▼ 94 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:21:09 ID:R2dwXlIg [36/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
戦う理由に疑念を持たなかった。
自分と相手のどちらが正義かなどと考えることすらなかった。
ただ純粋に、目の前の敵を打ち倒す。
一個の武器たる自負を保った生命体が、最後の一撃を振るおうとする。



ザマゼンタ『うおおおおおおおおおおおお!!』



斬るというより、相手の喉元へ押しつけるようにザシアンは剣を突き当てる。
既に渾身の技を放ったザマゼンタに、抗う力は残っていない。
彼の体に食い付いた剣先を、死んでも離すまいと……ザシアンは一層の力を込めた。
 ▼ 95 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:22:10 ID:R2dwXlIg [37/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
蒼紅二色の塊が、一つの軌跡に合わさり流星のように落下する。
敵の首元へ突きつけられた巨大な刃は、”伝説”の名に恥じぬ威容を持って地上へと舞い降りた。



がぎぃぃぃいん、と。



重厚な金属同士が激しくぶつかり合う、重苦しい音と共に。



ザシアン「……」



ザマゼンタ「……」



激闘を繰り広げた2体が地上へと帰還した。
 ▼ 96 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:23:05 ID:R2dwXlIg [38/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2つの生き物を重ねてできた流星が落下した場所。
戦い続けた2人の視線が交錯している地に。



マサル「……!」



ビート「……!」



伝説の剣が、倒れ伏す盾へと振り下ろされていた。

 ▼ 97 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:26:39 ID:R2dwXlIg [39/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「ザマゼンタ、戦闘不能!!! よってこの勝負、ビートの勝ち!」



審判役の彼が高らかに宣言すると、周囲の者は一斉にため息をついて体中の力を抜いた。
マサルもビートも、戦い疲れたザシアンも頬を緩めてほっとした様子である。
ただ1体、ザマゼンタだけが倒れたままでむせぶのであった。



ザマゼンタ『正義が、負けた……!!』



自慢の盾には傷ひとつ見えないが、神威の断頭台に処された彼は指一本とて動かせる状態ではなかった。
悔しさと無力感に打ちひしがれようとした彼の額を、少年の手がそっと撫であげた。



マサル「ザマゼンタ。……おつかれさま」



耳に届いたその声に……彼は憑き物が落ちたように安らかな表情で意識を手放していく。
目を閉じたザマゼンタを、マサルは静かにボールの中へ収めるのだった。
 ▼ 98 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:27:37 ID:R2dwXlIg [40/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「やっぱりお前はすごいな〜〜! オレも負けてられないぞ〜!」

ザシアン「キャインキャイン! キュゥ〜ン…………ッワンワン!」

エール団に囲まれながらザシアンを褒めまくっているホップを尻目に、ビートがマサルへ声をかけていた。



ビート「……よきバトルをありがとうございました」



マサル「 →『こっちこそありがとう』」
      『うまくやられたよ』



バトル中の駆け引きに関して、二言三言の感想戦を交わす。
「次は完全に自分の力であなたに勝ちます!」と宣言するビートへ、マサルは無言でうなずくのであった。
 ▼ 99 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:29:27 ID:R2dwXlIg [41/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「お前ら最高だー!」「さっすがチャンピオンとジムリーダー!」「金返せ!」「ポケモンバトルサイコー!」「ザマゼンタかっこよかった!」「オレの5000円が……」「ザシアン強すぎぃー!」



喝采を送るエール団たちの声が、マサルたちにはとても気持ちよく聞こえる。
ロケーションからプロセスまでイレギュラーだらけの野試合だったが、トーナメントで戦ったとき以上のボルテージで盛り上がるバトルだった。

熱い余韻に浸りつつ、マサルはホップへ握手しようと右手を差し出す。



マサル「  『審判おつかれさま』
     →『ホップも今度バトルしようよ』」

ホップ「おう! さっきより強いザシアンを見せてやるからな!」

ザシアン「ワンパンマン! レンゾクフツウノパンチ!」



「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」マサルは苦笑しながらつぶやいた。
観衆のエール団員へ手を振りつつ、全力疾走で立ち去っていくマサル。その肌に光る汗は、悔しさとは無縁のものだった……。

 ▼ 100 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/10 22:32:05 ID:R2dwXlIg [42/42] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
翌日、ベンチで冷たくなっている>>1が発見され、書き溜め分の原稿は病院内で静かに息を引き取った


(「とりあえずここまで。明日中にがんばって書かなくちゃ…」の意)
 ▼ 101 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 18:41:58 ID:uMqEhA3Y [1/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「おっと、どこへ行こうってんだ?」

ビート「まだ本題が済んでませんよ」

二人が何を言っているのかまったくわからない。

ビート「とぼけないでください!」

ホップ「あ、マリィはオレがさっき呼んどいたぞ」

おっ、待って待って今なんて言った?



マリィが???? ここに?????



ていうかいつのまにそんなことしてんの?

 ▼ 102 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 18:43:07 ID:uMqEhA3Y [2/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「いや、最後の技を撃ち合う少し前にさ。アイツから電話が来て……」

ホップ「さっきのバトルのことで色々訊かれたけど、めんどくさいからお前のバレンタインを口実に『すぐ来い』って言っといた!」

マサル「  『バカなの?』」
     →『アホなの?』



ビート「まあまあいいじゃないですか! 彼もあなたの敗北を願ったわけじゃないんです」

ビート「いずれ彼女には愛を打ち明けていたのでしょう? それが遅くなるか早くなるかの違いにすぎませんよ」

マサル「 『はいそこうるさい』 
    →『黙れゴミ屑』」
 ▼ 103 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 18:44:45 ID:uMqEhA3Y [3/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マサルはなんとか逃げ出そうとするが、余計なお世話を焼こうとする輩を2人も同時に振り払うのは難しい。
おまけに、マリィの名前を出したせいなのか。
周囲のエール団たちにも、バトルのときとは全く別種のざわめきが波及している。

面倒なことになった。
改めてそう感じたとき、一陣の黒風が広場の中心で砂塵を舞い上げた。



ネズ「おやぁ? オマエら、ずいぶんご機嫌じゃないですか」



ホップ「そっちの方が来たかぁ〜!」



どうしてネズがこの場所に現れたのか?
一同が疑問を浮かべている間に、彼は迷いなき足取りで少年たちへ詰め寄るのだった。
 ▼ 104 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 18:56:37 ID:uMqEhA3Y [4/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「全員いますね。ホップとマリィの電話は聞いてたけど、3人ともちょっと事情をお聞かせ願いますよ」

ホップ「あ、うん……」

なにやら難しい顔をして近づいてくる年長者に少年たちはタジタジである。
彼の渋い表情は、妹の行く末を思うゆえのものであったがマサルたちにそれを知る由はない。

ネズ「おっと。忘れてました」

そうしてはた、と気付いたようにふるまうネズは背を伸ばして周囲を見回した。
静かな広場を囲んでいたエール団が、今度はネズたち4人を見つめている。
「はぁ〜」と分かりやすく息を吐いたのち、ネズは彼らへ向かって言う。。



ネズ「ショータイムは終わりだよ! お前ら、早く帰りな!」



抑制が効いているが、遠くへはっきり伝わる明瞭とした声色だった。
 ▼ 105 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 19:05:52 ID:uMqEhA3Y [5/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「さて聞かせてもらいましょうか。どんなバトルをしていたのか、いつからバトルを始めようと思ったのか……色々ね」

大人数に言うことを聞かせた当の本人からこのように迫られて、拒絶できる子供というのは多くない。

彼に促されるまま、3人は順々に事の次第を説明していった。









ネズ「…………どいつもこいつも……しょうがねえなあ」



いかにも「仕方ない」といったようすで『しょうがねえ』と漏らしたネズに、マサルたちは返す言葉が思い付かなかった。
 ▼ 106 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 19:15:01 ID:uMqEhA3Y [6/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「とりま、ビートとホップは後でオレの小言に付き合ってもらいますよ」

ホップ「…………」

ビート「すみません……」



2人がしょんぼりしている顔を見ていると、罪のない自分まで申し訳なくなってくるとマサルは思った。

でもまあ……殺すとか絶交とか頭おかしいとかゴミ屑とか思った相手だし別にいいかな。

そう切り替えて「そらとぶタクシー」を呼ぼうとするマサルの肩を、ネズが捕まえる。



マサル「  『離してください!』
     →『この人チカンです!』」



ネズ「大丈夫だから! 怒んないからちょっとオレの話を聞いてください、な?」



彼の表情が、難しめのそれからほんのり穏やかになったのを見てマサルはネズに応じるのだった。
 ▼ 107 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 19:21:52 ID:uMqEhA3Y [7/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップたちの面倒をタチフサグマ(得意技:ブロッキング)に任せたネズは、彼らからやや離れた場所でマサルと話していた。



ネズ「オレ、説教とかできる人間じゃないし……。本気でバカ騒ぎできるキミたちがマジで羨ましいって思ったけど、まあ、あれです」



「妹が関わっちゃったからね」と、彼はしんみりとした表情でつぶやいた。



ネズ「今何してんのか、ちょっと聞いてみますけど……うわっ通知来てる」



スマホの画面を見つめたネズは「あいつ、もうじきここに着くみたいですよ」と言った。
 ▼ 108 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 19:37:35 ID:uMqEhA3Y [8/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「実はオレ、逃げるのって結構好きでさ。あんま良くねえなって自分で分かってても、ついつい大事なことから目を背けて『あー、オレいつか後悔すんのかな』みたいに思うのがいうほど嫌いじゃなかったりするんだけど……」

「ちょっと違うかな……」ネズは色々つぶやきながら、マサルに何かを伝えようとする。

要領を得ない言葉に首をかしげながらも、彼はネズの話すことを動かずに待つ。
視線をあちこち逸らしはしても、自分の方をしっかり向いてくれている彼の行動に報いようと思ったからであった。

ネズ「要はさ。オレみたいなヤツは誰が何しようと『好きにやってんだったらいいじゃん』って思えるわけです。ロックミュージックだって、愛だの大人がクソだの歌ってるのより逃げたい消えたいって叫んでる曲の方がウケたりしてますからね」

そこまで言うと、ネズはひと呼吸して間を置く。
そして、マサルに告げた。
 ▼ 109 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 19:49:26 ID:uMqEhA3Y [9/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「もう帰っていいですよ」



マサル「!」



ネズ「妹にはホップたちから説明させるし、エール団のやつらは初めから気にすることありませんから」



マサル「…………」



降ってわいたチャンス、なのだろうか。
マリィを巻き込んで始まってしまった騒動が、マリィと最も近しい人によって収束しようとしている。

ザマゼンタまで持ち出したさっきのバトルはこういう瞬間をゲットするためのものだったはずなのに……違和感が自分の中に残っているのを感じる。
 ▼ 110 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 20:02:47 ID:uMqEhA3Y [10/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マサル「…………」



結論を催促してこないネズに安心しつつ、マサルは考えた。
大事な点は「マリィがもうすぐここまで来る」……ということだと思った。



別に、勘違いしたマリィに会わないのが申し訳ない……わけではない。
自分の口からはっきり事の経緯を話してやりたい……とは思わない。
特別な日(バレンタイン)を控えたこのタイミングで特別なことを話す必要が……あるという気もしない。



不意に、スパイクタウンのカフェでマリィと会ったときのことを思い出していた。
 ▼ 111 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 20:12:19 ID:uMqEhA3Y [11/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
元はといえば、マリィに教えてもらった店である。
特に話を合わせたわけでもない全くの偶然でも、近いタイミングで来店するというのも考えられないことではなかった。



マリィ「……」


あのとき、彼女はテーブルでファッション雑誌を読んでいたと記憶している。
食べかけのカレー。飲みかけのジュース。少しだけ笑って、『都会の……』……ナントカって見出しのついた雑誌をめくって楽しげだった。



そのとき、マサルからマリィに声をかけることはなかった。
女の子向けのファッションなんてよく知らなかったし、出入り口から遠めの席だったから。
それに……何の用もないのに、女の子と2人で話すなんて少し恥ずかしかったから。



だから、マサルは店員にだけ声をかけていつものカレーとドリンクを頼んだのだった。
 ▼ 112 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 20:20:09 ID:uMqEhA3Y [12/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
育ち盛りの男子が一人で食べるものだから、当然食べ終わるのも早い。
もう少しで完食! ……というところで、遠くの席に座っていたマリィが立ち上がったのが見えた。


ワンピースのようなピンク色に黒のジャケットを合わせた見慣れた色。
目立ちやすいパンクな服装がこちらへ近付いてくるのが分かったから、ドキドキするのを隠したくてカレーに夢中なふりをした。
今さら話をするのも変な気持ちになるから、彼女がこっちへ歩いてくるのに気付かないふりをしていたのだ。



マリィ「……ね、マサルっ」



頭の上から降ってくる声に、振り向かないわけにはいかなかった。
 ▼ 113 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 20:25:14 ID:uMqEhA3Y [13/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「おぉ。気付いてくれたね」

彼女は少し嬉しそうな声で言っていた。
表情が全然動いていなかったから、単に自分の気のせいだったのかもしれないけれど。

ともかく、マリィは続けて自分に言ってくれたのだ。



マリィ「せっかく会えたのに、全然しゃべらんなんて勿体なか。今度ここで会ったら、いっしょに座って話、しよ?」



話しかけてくるマリィの提案にうなずかない理由はなかった。
その日から、同じカフェで。
……ときどき、たまたま会ったマリィと同じ席に座って、二人で話すようになったのだった。
 ▼ 114 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 20:38:44 ID:uMqEhA3Y [14/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
追憶を終えて目を開くと、そこにはネズがいた。



ネズ「……で、マサルはどうするんですか?」



マサル「 →『マリィと話してみる』
      『もう大丈夫!』」



マサルの表情を確かめると、ネズはうなずいた。満足げな表情であった。
 ▼ 115 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 22:05:41 ID:uMqEhA3Y [15/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「ここに飛んでくるそらとぶタクシーが見えたら、手を振ってやってください。……マリィが降りてきますから」

ネズはマサルの肩をぽんぽんと叩き、ホップたちの方へ歩いていく。



ネズ「さ、お前たちには話したいことがあるのでこっちへ来てもらいますよ」

ホップ「わかった……。なるべく早く済ませてくれよな……」

ビート「一体どうして……。ただ、純粋な気持ちで彼の助けになってやろうと……」

ネズ「安心しな。説教するつもりはないですよ」



彼らは、警察に連行される容疑者のようにうなだれながらネズについていく。

ひとり取り残されたマサルは手持ち無沙汰で、スマホをいじったりシューズの汚れを機にしたりしながら彼女の到着を待つのだった。
 ▼ 116 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 22:21:54 ID:uMqEhA3Y [16/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
しかし、マサルを置いてきぼりにした3人は早足でどこかへ消えたわけではなかった。



ネズ「……むむむ。思ったよりリラックスしてるようですね」

ビート「そう装っているだけでは? いざ目標が現れれば緊張するかもしれませんよ」

ホップ「…………」



先ほどまで、ネズは自分とビートの行いに小言を言っていたのにこれはどういうことだろうか。
困惑したホップはネズに素直な疑問をぶつけた。

 ▼ 117 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 22:27:02 ID:uMqEhA3Y [17/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「のぞき見って、アイツらに失礼じゃないか?」

ネズ「ええ。だからバレないようにやるんです」

ビート「ホップ……"罪"とはどういう時に発生するものだと思いますか? 二択で答えてください」



A:その行為を行ったとき
    
B:その行為が発覚したとき



ホップ「どっちでもいいよそんなの!」



と、批判しつつもホップはネズのすぐ後ろに位置取った。



ホップ「オレは……気になるから見る! マサルにはめちゃくちゃ悪いと思うけど、しかたないよな!」

ビート「仕方ないということはないんじゃないですかねぇ」

ネズ「ま、各々の好きにすればよろしいですよ」



少年たちは物陰で身体を密着させながらマサルの立つ一点を見つめ続けている。
その光景の異様さに野生のポケモンたちは恐れをなし、町はずれの空き地には依然静寂が保たれることとなった。
 ▼ 118 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 22:53:07 ID:uMqEhA3Y [18/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
独りになってから5分もすると、カーゴと共に飛んでくるアーマーガアが見えた。

マサル「……!」

あれにマリィが乗っているのだろうか。
ぐんぐんと近づいてくる相手を必死で確認して、時々手を振ってみる。



アーマーガア「ガァァッ!」



高らかに鳴いたと思えば、アーマーガアは見るからにマサルを向いて飛んでくるではないか。
アーマーガアは、すぐに彼の傍へ着地する。やがてカーゴのドアが開き、1人の少女が姿を現した。
 ▼ 119 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 22:55:43 ID:uMqEhA3Y [19/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「……ぁ、マサル……」



マサル「……!」



マリィ「ぇ、……っと…………」



マサル「…………っ」



マリィ「…………」



マサル「…………」
 ▼ 120 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 23:03:09 ID:uMqEhA3Y [20/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おかしい、とマサルは思った。
ホップたちが乗せた通りの告白なんてする気はなくて、ただ……。

……そう。マリィと会って話せるのは楽しいから。

彼女と直接話すのが楽しみだったから、ネズの問いかけに自信を持って返事をしたはずなのに。



マリィ「…………」



いつも通りの髪型。
いつも通りの恰好。
なのに、今日のマリィはいつもより……。



マリィ「……あ、あのね、マサル?」




マサル「  『うん!?』
     →『はい!?』」



こんがらがった思考をまとめるより先に、マリィがひとこと声をかけてきただけでマサルは心臓が飛び上がるほど驚いてしまうのだった。
 ▼ 121 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 23:16:21 ID:uMqEhA3Y [21/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「あの、あたし、急かさないから。……マサルが落ち着いて話してくれるの…………待ってるっ」



マサル「……!」



目の前の彼女は、服の裾をぎゅっとつかんで、こちらから見ても分かるくらいに朱く染まった頬を隠そうともせずに、言った。



マリィ「……」



すごくすごく緊張して、たくさんの勇気をふりしぼって言ってくれたのだろうか。
もどかしげにそわそわ動く指やつま先が目に入り、マサルの方までどぎまぎしてしまう。



マリィ「……あ、ごめん! あたし今……その、キョドってるだけやから……気、気にせんといてねっ!」



彼女はそう言って、一瞬だけ作り笑いの表情を見せると……すぐに真横へ振り向いた。
表情は隠れても耳まで真っ赤になっている横顔までは隠せない。

マリィの様子を間近で見ているマサルは今まで味わったことない困惑と興奮で顔から火が出そうな思いだった。
 ▼ 122 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 23:23:11 ID:uMqEhA3Y [22/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ネズ「がんばれマリィ! アニキのエールを受け取ってください〜〜〜〜!」

ホップ「くそっ、マサルは固まったまま何してんだよ!」

ビート「全く、ぼくが代わってやりたいくらいですよ……」

ネズ「クッ、抑えられない! ホップ、ビート、オレがここから飛び出しそうになったら2人がかりで速攻捕まえるのですよ」

ビート「……仕方ないですね」



いかにも「やれやれ」といった身振りをして、ビートは手持ちのカバンを漁った。



ビート「ブリムオン、ネズさんを見てあげなさ……」

ホップ「いや、お前ボール壊れてるだろ」

ビート「……あっ」



ネズは、いかにも「やれやれ」といった身振りをして、マサルとマリィを見守るのであった。
 ▼ 123 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/11 23:27:02 ID:uMqEhA3Y [23/23] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
キリがいいので書き溜めなしの投下一旦やめてまた書き溜めます…


ビートが可愛くてたまらない…礼儀をわきまえつつも程よく畜生なクソガキでい続けてほしい……うぅっ
 ▼ 124 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:34:38 ID:3vxgfdRg [1/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
『他人は自分を映す鏡』という格言がある。
その本来の趣旨とは別として、緊張しているマリィを目の前にマサルの気持ちも千々に乱れているのである。

マサルが想像していたのは、いつも通りの無表情で「バレンタインの話ってなに?」とたずねてくるマリィの姿だった。
普段ポケモンバトルをしようと持ち掛けるときと同じように。なんでもないことのように話題を出そうと、思っていたのに。



マリィ「……〜〜……っ」



あからさまに両手の指をもじもじさせては、こちらの様子をちらちらとうかがうマリィ。



マリィ「! ぁ……にゃ、…………なんでも、なか」



なにか言おうとしただけで慌てて、普段がウソのように噛み噛みなマリィ。



こんな……こんなマリィは見たことがない!
今すぐここから逃げ出したいと思いながらも、今のマリィを心ゆくまで眺め続けていたいとも思う。マサルはそんな矛盾する感情に襲われていた。
 ▼ 125 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:35:55 ID:3vxgfdRg [2/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィの姿をよく観察してみると、見た目は普段と変わらないのに肌がどことなくしっとりしているように見えて、言葉にしづらい妙な気持ちになってくる。
それに――せわしなく遊ぶ彼女の指先を見ていると、上手く言い表せない違和感が――。



マリィ「……あっ! その、あたしの……指、気になる?」



自分を向いた視線に気付いたのか。
彼女のことをしげしげと眺めていたのが恥ずかしくて、ごまかそうと思ったけれど……マサルはマリィの問いかけについて首をタテに振った。



マサル「ネイルね。あたしいつもはブラックにしとーけど……今日は気分ば変えてみた。……ちょびっとだけ、オトナっぽい色がいいかな……って」



言うと、マリィは手の甲をマサルへ向けて指を広げる。
華奢な指先に艶めいているワインレッドが強く印象に残った。

 ▼ 126 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:37:00 ID:3vxgfdRg [3/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マリィ「……ど、どうやろ……か?」



どう、とは!?
相手が訊ねていることの意味は流石のマサルでも理解できたが、それに対してすぐ返事ができるかというのはまた別の話である。
別の話、であるが……。

自分の爪を見つめるマリィの表情が不安げに見えて、マサルはすぐにその言葉を口にした。



マサル「  『似合ってる!』」
     →『かわいいよ!』



マリィ「……〜っ」



緊張にひっくり返った声でマサルが言うと、マリィは「そ、そうっ!」とだけ返してそっぽを向いてしまう。

こんなにマジメな場面で異性に「かわいい」と言ったのは初めてだった。
その言葉を口にしただけでマサルは恥ずかしくてたまらず、ふき出る汗が背中を湿らせていく感触にいやらしいものを覚える。


 ▼ 127 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:38:59 ID:3vxgfdRg [4/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ホップ「――マサルのやつ、見るからに青ざめてる! なにがあったんだ!?」

ネズ「――マリィ、心なしか喜んでいますね! 何を言われた!?」

ビート「え? そんなにハッキリ2人の表情見えますかね……?」

心の目で見るのですよ、とネズが講釈してきたがビートは釈然としない。
鋭い目を持たないとな、と得意顔のホップにも少し腹が立った。

ビート「……位置、変えてみましょうよ。同じ所から見てばかりだとマンネリでしょうに」

ホップ「おい待て押すなってば……!」

ネズ「転ぶんじゃないですよ。音がしたり身を乗り出したりしたら向こうにバレますからね」

寒空の下だが、おしくらまんじゅうしている3人は寒さをちっとも感じることはなかったのである。

 ▼ 128 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:40:08 ID:3vxgfdRg [5/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そっぽを向いたマリィが、目を逸らしたまま何も言ってくれないのが、気になって仕方なかった。
『オトナっぽい』と言っていたネイルを『かわいい』と褒めたのが失敗だったのだろうか?
彼女が機嫌を損ねていないか、そのことばかりが気にかかってマサルは背中に流れた汗が急速に冷えていくのを感じるのであった。

自分の言葉がマズかったのかが気になるものの、本人相手にそう簡単に確かめるのも図々しい気がしてならない。
そう思ってひたすら固まるマサルを――マリィはちらりと見やって――。



マリィ「……ぷっ、ふふふ……」



――小さく笑ったので、マサルも思わず気が抜けた。



マリィ「だっておかしいんだもん……っ。あたしは何もしとらんのに、マサルったら急にあわあわしてさ……」



笑いをこらえる彼女の表情は、口惜しくも本人の手によって隠されている。
わざわざ「笑顔の練習」なんてしていたマリィが、今、どんな顔をしているのかを見てみたかったけれど……とにかくマサルはホッとする心地だった。

 ▼ 129 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:41:33 ID:3vxgfdRg [6/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィがくすくすと笑う。
それだけで、2人の間にわだかまっていた空気が見る見るうちに弛緩していった。



マサル「 →『マリィは怒ってないの?』
      『変なことでも言ったかと……』」



マリィ「怒る? どうして?」



「ホメてくれて嬉しかったよ」と続けた彼女の言葉にマサルも頬を緩める。
自分で言っておきながら、マリィは「かわいい」と言われたことを思い出して再び彼から目を背けるのだった。

 ▼ 130 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:45:06 ID:3vxgfdRg [7/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
向こうを向いて口を開かない彼女を見て、マサルはまたこの繰り返しか……と一瞬だけ思った。



マリィ「…………」



……けれども、似たようなやりとりを続けたからか……今は自分にもマリィの気持ちが伝わってくる気がした。

どうも、そっぽを向くのは彼女なりの照れ隠しらしい。

そのことが分かった彼に、もう恐れるものは何もなかった。



マサル「 『あのね、マリィ』
    →『言いたいことがあるんだ』」



マリィ「……うん」



「14日に、いっしょにどこかに出かけてみない?」と。
頬をかきながら提案してきた少年の声に、少女は小さく「うん」とうなずき返すのだった。

 ▼ 131 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:47:07 ID:3vxgfdRg [8/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
町はずれの広場で少年と少女が2人向かい合っていた。
ぎくしゃくしていた彼らの雰囲気もすっかり和らいで、今は談笑中である。

マリィ「え、どこ行くかって全然決めてないの?」

マサル「 『ごめんごめん』
    →『急に思い立ったからつい』」

マリィ「しょんなかやねぇ。あたしといっしょに考えるばい」

やがて、2人は肩を並べるように歩き出した。

これからバレンタインの予定を決める必要があるのだ。
わざわざ、殺風景な広場で話すこともないだろう…………。



マリィ「……?」



横で歩いていたマリィが、唐突に目を細めた。
遅れて、彼女の見つめる先に動く"何か"を発見して、マサルは途端に背筋が凍る気持ちを味わうのであった。
 ▼ 132 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:50:00 ID:3vxgfdRg [9/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ほんの些細な変化に、大きく揺れ動くような。
まさに思春期まっただ中といった様子のマサルたちのやりとりを、夢中で観察していたのが彼らの仇になった。



マリィ「……………………」



彼女の目は、オーロンゲの豊かな触毛に捕まえられている男たちを眺めていた。

そのポケモンの体毛は自在に動き、筋肉のようにも働くという。
マリィに鍛えられたオーロンゲの髪に体ごと捉えられた3人はマリィの目を見つめ返すのが精一杯である。

宙に持ち上げられて動けない3人を見る彼女の瞳は、路傍に転がるゴミでも見るかのように無造作で冷たいものだった。



マリィ「……言い訳はあとで聞くよ」



肚の底まで凍らせるような彼女の声に、マサルは女子の怖さを思い知った気がした。

 ▼ 133 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:52:46 ID:3vxgfdRg [10/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ビート「ネズさんが悪いんですよ! そんな目立つ髪型でのぞき見なんてするから……っ」

ホップ「見苦しいぞ……」



ロン毛に捕まって宙に浮いている2人を尻目に、ネズはマリィをきっと見据える。



ネズ「妹よ……よく聞いておきなさい」

マリィ「…………」

ネズ「確かに、事の発端はガキの悪戯かもしれません。ですがお前とバレンタインを過ごしたいと感じた彼の想いはニセモノなんかではあ痛ててててててててて……っ」



無言・真顔で容赦なく兄の頬をつねるマリィにマサルは心底恐怖した。

 ▼ 134 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 11:56:02 ID:3vxgfdRg [11/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「こいは特別な特訓やからね。ちゃんと言いつけば守るんよ?」

頭上で嘆く少年たちに目もくれず、オーロンゲは主人の言葉にしっかと耳を傾けている。



マリィ「3人捕まえたまんまでスパイクタウンを一周してこい! レッツ、ゴー!」



トレーナーの指示を確かに受け取ったオーロンゲはドスドスと音を立てて走り始める。
「しゃべるな、舌をかむぞ!」と叫ぶ友の声がマサルの耳に儚く響いた。

 ▼ 135 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 12:00:18 ID:3vxgfdRg [12/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「……マサル? どうしたの?」

3人の顔を再び見るまで忘れかけていたことだが、マサル自身も件の騒動の当事者である。

裁判にかけられた被告のような気持ちで許しを乞うと、マリィは鼻を鳴らして答えた。

マリィ「はぁ。……今になっちゃ、きっかけなんて何でもよか。あたしと話そうとしてたアンタの目ば見てたら……ほんなごつくらい、分かったもんね」

マサル「 『ほんなごつって、なに?』
    →『なにが分かったって?』」

マリィ「!! ……恥ずかしかっ!」

うつむいたまま肩をぺしぺし叩いてくるマリィの姿が愛らしくて、マサルは笑みをこぼす。
揺れ動く拍子にボールが開いたのだろうか。
マリィの足元には、いつのまにかモルペコが立っているのだった。



モルペコ「うらら♪」



マリィ「…………」



マサル「…………」



何も知らず、とぼけた表情で種をかじり始めた相棒を見てマリィは真顔で吹き出してしまう。
そうして2人は顔を見合わせ、くつくつと笑い合うのであった。
 ▼ 136 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 12:02:37 ID:3vxgfdRg [13/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「それじゃあ、いっしょに考えるばい! バレンタインの過ごし方っ♪」

マサル「  『うん!』
     →『楽しみ!』」



2人は自然と手を取り合って歩き出す。
これから先を話し合う楽しみに、彼らの足取りも喜びに溢れていた。





翌日、から風に吹かれて冷たくなっているネズたち3人が発見され、新たな話題の出現に彼と彼女の決闘も人々の記憶から静かに消えていった。
 ▼ 137 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/13 12:07:23 ID:3vxgfdRg [14/14] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
とりあえずここまで〜!

明日の投下でこのSSを完結させます 他のバンアレン帯SSも日付合わせて完結させてくる人がいそうで楽しみでごんす
 ▼ 138 ビィ@ロックカプセル 20/02/14 18:25:53 ID:jsHkXs7c [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
おもしろくて一気に読んできました
支援!
 ▼ 139 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 19:58:08 ID:aWSk8RTc [1/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
その日はついにやってきた。
バレンタインを楽しみにしていた女の子も、そうでない男の子も。

心のどこかでワクワク、そわそわ。



家族で愛を確かめ合う者もいれば……

メロン「ほらほら、照れてんじゃないの。あんたがなんだかんだで家族思いなのは分かってるんだからさっ」

マクワ「離しなさい! これはファンのためのチョコです……っ」



友情を深める者、

ヤロー「ええと、これがルリナさんにサイトウさん。こっちはポプラさんで、メロンさんのが1サイズ大きい……マリィちゃんに贈るのは初めてだけど、気に入ってくれるかなぁ」

ウールー「めぇぇ」

ヤロー「……うん。お前たちのお陰でできた編み物だもの、大丈夫さ!」



秘めた想いを告げる者や……、

ミニスカートA「サイトウ先輩! 何も言わずに受け取ってください!」
ミニスカートB「こ、これ本命チョコ! 同じクラスになったときから……ずっと気になってて……!」
ミニスカートC「ああああの……、か、か、か、カード……書いてきた、ので……。お、お家に帰ってから、読んでくださいぃ……!」

サイトウ(……なんでわたしは女子ばかりから貰う……?)



果てはバレンタインを気にしてすらいなかった者も、

キバナ「あっ、今日だったか! ……映えるのってやっぱ花束かデカい菓子だよな……。なぁ、どんな写真あげたらみんなにウケると思う?」

スマホロトム「ビビビビッ! ケンサクチュウ、ケンサクチュウ……」



思い思いに楽しむ中で、彼らも彼らのバレンタインを楽しもうとしていた。
 ▼ 140 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:01:50 ID:aWSk8RTc [2/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ソニア「ねえホップ! こっちに置いてた講演の原稿知らない?」

ホップ「知らない。原稿ならPCにあるし、コピーで出せばよくないか?」

ソニア「手書きで赤(ペン)入れちゃったからさ〜……。一から見直ししたら二度手間だよぉ」



ポケモン研究所はバレンタインでも大忙し。
研究者として有名になり始めたソニアと、まだまだ勉強中のホップ。
2人で一緒に一日中がてんやわんやの毎日である。



ホップ「やれやれ。夜までこんな調子じゃバレンタインも何もないな……」

ソニア「本当それなんだよね! 毎年お菓子をくれるダンデくんもやけに遅いし、いっそホップがわたしにバレンタインしてよ」



苦笑しているソニアがこちらを見ていないのを確かめて、ホップはこそりこそりと移動する。



時間も遅いし、子どもの自分はもうすぐ帰らなくてはいけないのだ。

この機を逃すと次はない……緊張に胸を騒がせつつ、持参しているバッグの中へ慎重に手を伸ばしていく。

そのプレゼントは、研究所へやってくる直前、密かに購入していたものである。
握り締めた一輪の花は、店頭で見かけたときから変わらず美しい花弁を誇っていた。

 ▼ 141 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:03:06 ID:aWSk8RTc [3/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
花を後ろ手に持って背中の後ろに隠す。
バレないように少しずつ彼女に近づいて、後は……。

ソニア「あっ見てよホップー! わたしったら、原稿ひっくり返して裏にメモ書きしてた……」



ホップ「――ソニア! これ、オレからのバレンタイン!」



頭の中で思い描いてきたように、相手の目の前に花を持った手を突き出す。


ソニアとホップの間に、一輪の白バラが顔をのぞかせた。
 ▼ 142 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:05:51 ID:aWSk8RTc [4/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ダンデ「――ようソニア! ご両親からまだ研究所だって伺ったよ、遅れてすまな――」





ソニア「あんたってやつはなんて良いコなの〜〜〜〜〜!! マジで泣きそう〜ってか泣いてるしぃ〜!」

ホップ「やめろよソニア! その……苦しいってば!」

ソニア「いいからちょっとジッとしてて。お返しのキスができないじゃん」



ダンデ「……あっはっは! 邪魔してスマン、バレンタインを済ませたら声かけてくれよな!」



ホップ「アニキ!? 頼むからソニアになんか言ってやってよ、オレ……」

ダンデ「そんなに顔を赤くするなよ。大事な人からの愛情は素直に受け取るもんだぜ?」

ホップ「違……そ、ソニアがくっついてきて暑いだけだって! 照れてるわけじゃ……」

ソニア「……わたし……アンタが研究所に来てくれて……良かった……っ!」

ホップ「〜〜! なぁアニキ、助けてくれよぉ〜……」



研究所に朗らかな声が響く一方、彼の過ごす町でも……。
 ▼ 143 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:07:19 ID:aWSk8RTc [5/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ここは、アラベスクタウンのとある食堂。
テーブルに用意された豪奢な食事を前に、パーティーへ招かれた関係者たちが和気藹々とトークを重ねていた。



ビート「……まったく。このぼくがディナーを提供するというのに、あの人は何をしているんですかね」



ゲストの不在に苛立ちを隠せないこの少年こそ、食事会の主催である。

日頃から世話になっている女性陣……ジムの関係者であり”彼女”が主宰の劇団員らに協力してもらって開いた、皆で楽しむバレンタインのパーティーなのに。



会を始める刻限のギリギリになって、彼女はようやく姿を現したのであった。
 ▼ 144 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:08:38 ID:aWSk8RTc [6/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ビート「遅いですよポプラさん!」 

彼は弾むように席を立ち言葉を投げかける。



ビート「パーティーの主催たる! このぼくが!! 挨拶を始めるところだったじゃないですか!!!」

ポプラ「すまないね。せっかくの会だ……相応しい衣装を引っ張り出して、整えるのに手間がかかったのさ」



その言葉にビートは改めてポプラの姿を確かめる。
オフショルダーの無地、薄桃色のドレスに身を包む彼女がそこにいた。
シンプルなデザインが与える清潔感に加え、首に巻いたストールが肩口を隠して身に着ける者の気品を感じさせる。

普段の彼女と全く異なり、またビートの記憶とまるで重なるところのない衣装だった。



劇団員「あら懐かしい。そのIラインは確か……ジム就任の60周年パーティー以来でしたかね?」

ポプラ「さて、そんなに古かったかねぇ。あのときに着ていたものかそうでないか、当ててみるかい?」



彼女らの会話へ傾けていた耳に、隣席の女性がそっとささやきかけた。
 ▼ 145 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:12:40 ID:aWSk8RTc [7/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
「あれはポプラさんのお気に入りだよ。親しい関係者から招かれたときにだけ着るパーティードレスさ」



ビート「…………!」



そのとき感じた気持ちを、彼は決して「感動」とは呼ぼうとしないだろう。

けれども、家族とも師とも友とも敵とも味方とも言い難いけれど確かにつながりを持っている彼女から認められた――。

嬉しさと気恥ずかしさ、むずがゆさと誇らしさを同時に味わいながら彼は席を立つ。



ビート「皆さん! 今宵はぼくの開いたバレンタインパーティーにご出席いただき――本当に、ありがとうございました!」



一片の曇りもない瞳で口上を述べる彼は、堂々と主催の責任を果たそうとしていた。



そんな風に、アラベスクタウンに喜びを知る少年が居た一方で……。
 ▼ 146 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:22:19 ID:aWSk8RTc [8/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
『愛してーるのエールをあげーる!』

「「「愛してーるのエールをあげーる!!!」」」

『愛してーるのエールをあげーる!』

「「「愛してーるのエールをあげーる!!!」」」



ネズ「おまえらもっと"来い"よ!! 日付も場所も関係ないのが音楽ってもんでしょうが!!」



エール団員「「「おーーーーーーー!!!」」」



ネズ「愛しのお嬢は今日は来ねえぞ! わかってるバカは全員声出せ! わかってなかった大バカヤローはおれらの3倍大声出してけ!!」



エール団員「「「おぉーーーーーーー!!!」」」



『愛してーるのエールをあげーる!』

「「「愛してーるのエールをあげーる!!!」」」

『愛してーるのエールをあげーる!』

「「「愛してーるのエールをあげーる!!!」」」
 ▼ 147 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:37:03 ID:aWSk8RTc [9/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


マリィ「……町の人たち、みんな楽しんでるみたいやね……」



つぶやく彼女は、他人よりずっと高い視点に立っていた。

360°遮るものがないパノラマの景色。
夕食時でも賑わう市場。喜色満面に街道を歩く親子連れ。町の端っこ、トンネルを行き交う人々の反対側には夜闇に輝くスタジアムが見えた。



マリィ「ねえ、見て。あんなところまでライトアップされとうよ」



指差した先は、電飾によって派手な色に光を放つ船着き場だ。
端っこに見えるベンチに男女のカップルが座っている。

遠目に見える2人は、水面を眺めて穏やかな表情をしていた。
 ▼ 148 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:42:29 ID:aWSk8RTc [10/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「ありがとう。あたしだけじゃ、こんな素敵な場所でバレンタイン過ごすなんて思い付かんかったと」



彼女のお礼に対して、マサルは首を横に振る。
こんなに見晴らしがよく、ロマンチックな場所で――バウタウンの灯台のてっぺんで――景色を楽しめるなんて、自分だけでは考えたこともなかったから。



マリィ「そうだね。相談に乗ってくれて、町の人にも言ってくれたルリナさん……今度改めてお礼しないとね」



2人がバレンタインの過ごし方に頭を悩ませていたとき、何人かのジムリーダーが相談に乗ってくれた。
そのとき、このロケーションを提案してくれたのがルリナだったのだ。




ガラル地方指折りの港町であるバウタウン。

関係者以外立ち入り禁止の灯台も、今夜だけは彼と彼女のものなのだ。

 ▼ 149 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:47:49 ID:aWSk8RTc [11/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「でも、色んな人に知られちゃったね。あたしとマサルでバレンタインに出かけるって」



マサル「  『しょうがないよね』
     →『別に気にしないよ』」



マリィ「……うん。あたしも別に……気にせんったい」



「他人に知られても気にしない」その言葉にマリィが頬を染めるが、その真意はマサルには分からない。
むしろ、高い場所にいるせいで彼女の体が冷えたと勘違いして――灯台のすぐ下でイベントがあるからと――この場から移動することを勧めるのだった。



マリィ「ん? ああ……ミニライブ、すぐそこでやるんやっけ」



灯台のそばにある、1対のストリンダーたちの石像。
その脇に広がる芝生の上で、地方を代表するポケモンバンド・マキシマイザズがウォーミングアップに励んでいた。
 ▼ 150 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:51:35 ID:aWSk8RTc [12/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
センターを陣取るタチフサグマにハイandローのストリンダー、そしてドラムのゴリランダー。
4体が奏でるミュージックは非常に人気で、幾多のスタジアムを沸かせてきた。

そんな彼らがバレンタインに合わせたミニライブを開くことは町の間でも話題になっている。
調律している現段階で、既にちらほらと観衆が集まり始めていた。



マリィ「降りなくていいよ。せっかくの特等席じゃん」



けれども、ここに居続けて寒くないかと心配するマサルに、彼女は正直に「寒い」と返す。
その返事に慌てたマサルに、マリィは堂々と言い放った。

 ▼ 151 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 20:56:33 ID:aWSk8RTc [13/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マリィ「こんくらいの寒さ、別に我慢できるばい」



「それに……」と続けて、彼女は言葉を紡ぐ。



マリィ「下に、降りたらさ。……あんたと2人きりで見られないもんね」



ふ、とマリィが微笑む。

マサルは――彼女の言葉になにやら叫びだしたいような衝動を覚えたけれど――それをグッと我慢して、「そうだね」と返事をした。

 ▼ 152 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 21:03:54 ID:aWSk8RTc [14/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
荒涼たる地に――町はずれの荒れた広場で対峙した――伝説のポケモンたちの闘いを、誰が覚えているだろうか。



ダンデ「なになに? 白バラの花言葉は……『尊敬』『純潔・純粋』『私は貴方にふさわし』……」

ホップ「わあああああやめろよアニキ!! お店の人にススめられただけだって!」



かつてガラル地方を守るために戦った「剣」と「盾」。
少年たちの思いに応えんと矛を交えた彼らの決闘は、見た者、関わった者の心血を大いに沸騰させた。



ポプラ「こらっ。テーブルマナーは直々に仕込んでやったはずだよ」

ビート「こんな時くらいやめてくださいよ! ……ぼくが主催のパーティーなのに」



バレンタインの愛を懸けて戦った2人。
バレンタインの愛を懸けて闘った2体。



ネズ「はー……。つまんねえなぁ…………」



そこで決したものは、2月14日の運命だったか。
あるいは、もっと先の――更にその先の2人の行方か――。
 ▼ 153 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 21:11:44 ID:aWSk8RTc [15/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

マリィ「ねぇ……マサルさえよかったらさ、来年も……」



マリィが何かを言いかけた矢先、少しだけ強い風がバウタウンの空を薙いだ。

地上よりも高い場所で風を受けてよろめく彼女。

転びかけた相手を前に、反射的に助けようとした彼は身を乗り出して……必然2人の体が重なっていく。



マサル「…………っ!!」



マリィ「ぁ……っ」



灯台の上は2人きり。すぐ傍にいる人々はみな、演奏を控えたマキシマイザズの挙動に夢中だ。

だから、頭上の2人に何かが起きているなんて露ほども気に留めることはなかった。
 ▼ 154 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 21:14:50 ID:aWSk8RTc [16/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



彼と彼女が、その後にどんな会話を交わしたのか。



バレンタインの秘め事の行方は、二人の他の誰も知らない。






(おわり)

 ▼ 155 ハビリ中◆Bt64IWMOO2 20/02/14 21:27:31 ID:aWSk8RTc [17/17] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
剣盾で初めてSS書いたけどクソ楽しいっスね 忌憚のない感想ってやつっス

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました
バレンタインデーとかよく知らないので自分は味噌ラーメンを食べてきます





これは宣伝ですが、本SSは下記URL↓↓↓の企画に参加しているものです
https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=1140087&l=1-


後日、これに関して「最高!」「おもろ!」「死ね!」ってお気持ちと共に投票してくれたら>>1が喜ぶわよ! 以上!!!
 ▼ 156 ニーゴ@ひかりごけ 20/02/14 22:53:40 ID:jsHkXs7c [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ありがとう!
とても楽しませていただいた!
乙!
 ▼ 157 ニータ@ヤゴのみ 20/02/19 12:52:48 ID:MsE6heG. NGネーム登録 NGID登録 報告
おっつおつ〜ァ!!
 ▼ 158 プラス@ゴーストジュエル 20/02/22 21:14:08 ID:B0GQrRg2 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
このSSクソ良いぞ
 ▼ 159 ルマイン@にじいろのはね 20/02/23 12:39:12 ID:j2homZLo NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
面白くて一気読みしました
めっちゃよかったです!
乙!
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