▼  |  全表示60   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |   ▼   
                  スレ一覧                  
SS

【SS】 カノンちゃんって子から手紙が届いてるわよ

 ▼ 1 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:50:48 ID:r9lcqlcc [1/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「カノンから?」

 ピカチュウ 「ぴぃか?」



母、ハナコからの呼びかけに、サトシとピカチュウは同時に声を上げた。


ワールドチャンピオンシップス決勝戦でダンデに勝利し、世界一の称号を手に入れたサトシ。

タケシ、カスミとの旅を終え、今は実家を拠点に、しばしの休息期間。

近くの森や海に足を運び、野生ポケモン達と触れ合う日々。初めてマサラタウンを旅立った時を思いだし、初心に返ったつもりで探検し、実家でゆっくり休む日々。

一方で、世界一になった自分は、果たしてポケモンマスターに近づけたのか、自分はこれか何をすべきなのか――。

ポケモントレーナーとして一つの区切りを迎えたサトシは、自分自身の今後についても、真剣に考えていた。


 ハナコ 「まったく。今までの旅で何人の女の子と仲良くなったのかしらね〜」

 サトシ 「いや、でも、カノンとは あのとき会ったっきりだし、手紙をくれるなんて、何かあったのかな?」

 ピカチュウ 「ぴかぁ」

 ハナコ 「きっと お祝いのメッセージよ。きちんと お返事だすのよ」


ハナコはサトシに手紙を渡すと、彼の部屋から出て行った。


 ▼ 2 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:51:52 ID:r9lcqlcc [2/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「カノンには、オレも連絡したかったんだよな。この前のラティアスとラティオスのことで」

 ピカチュウ 「ぴかちゅぅ」 コクッ


先日までの旅の途中、サトシは怪我したラティアスを助けた。

それっきりだと思っていたが、そのラティアスに頼られ、ポケモンハンターに襲われたラティオスを助けたものの……、ラティオスは完全にはサトシに心を開かず、ラティアスと一緒に、空の彼方へと去って行った。

タケシ曰く、「誰も知らない安住の地」に向かったのだろう、と言うことだが――。



封筒を開けると、アルトマーレの街並みが描かれた綺麗な便箋が3枚。

流石、絵描きのカノン。そこに綴られた文字は丁寧で美しく、時間をかけて書いてくれたものなのだと、サトシは実感した。



 サトシ 「……うん。……うん。……そっか、良かった」

 ピカチュウ 「ぴぃか〜?」


一人で納得したように読み進めるサトシに、ピカチュウは「何が書いてあるの?」と尋ねる。

けれどサトシは、相棒の呼びかけに応えること無く、とうとうカノンからの手紙を最後まで読み終えた。そして。



 サトシ 「ピカチュウ。行こうぜ、アルトマーレ!」

 ピカチュウ 「……ぴっか!」



   【 * 】





話は、サトシが手紙を受け取る、3日前に遡る――。



 ▼ 3 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:52:31 ID:r9lcqlcc [3/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



水の都アルトマーレ、秘密の庭――。





   【 * 】



 ボンゴレ 「どうしたんじゃ、こんなに傷を負って!? カノンおるか!? カノン!」


おじいさんの只事じゃない呼びかけに、私は慌てて秘密の庭に向かう。


そこに居たのは、酷い傷を負ったラティオスと、心配そうに寄り添っているラティアスだった。



 カノン 「大変っ……、ラティアス、救急キットをお願い!」

 ラティアス 「くぅ!」

 ボンゴレ 「……ポケモンハンターの仕業か?」


おじいさんの問いかけに、ラティオスは静かに頷いた。


 カノン 「ポケモンハンターに……」

 ボンゴレ 「ラティオスとラティアスは珍しいポケモンじゃ。残念じゃが、宿命とも言える……」


ここ、アルトマーレの秘密の庭は、野生のラティアスとラティオスの休息の地。

渡り鳥のように世界中を飛び回るラティアスたちが立ち寄って、旅の疲れを癒やしている。

私たち一族は、先祖代々、秘密の庭を護り、訪れるラティアスたちのお世話をする役割を担っている。今回のように、怪我をした子たちの回復も、大事な役目の一つだ。
 ▼ 4 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:53:05 ID:r9lcqlcc [4/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ラティアス 「くぅん」

 カノン 「ありがとうラティアス」

 ボンゴレ 「ラティオス。少しの間、我慢するんじゃぞ」

 ラティオス 「くぉぉ……」

 カノン 「貴方は大丈夫?」

 ラティアス 「ひゅぅ」

 カノン 「そっか、良かった」


怪我をしているのは、ラティオスだけのようだ。

もしかしたらラティオス、連れのラティアスを庇ってあげたのかもしれない。

今は“こころのしずく”となって見守ってくれている、あのラティオスのように……。



 ボンゴレ 「……む?」



ラティオスの手当をしていた おじいさんが、手を止める。


 カノン 「どうしたの?」

 ボンゴレ 「この傷……、手当てした痕跡があってのぉ」

 カノン 「えっ?」


手当ての痕跡……。

誰か優しい人が、ラティオスを助けてくれたってこと?

それは有り難いことだけど、警戒心が強いラティオスが、人間の手当てを素直に受けるとは思えない。ハンターに襲われていたのなら、なおさら。
 ▼ 5 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:54:06 ID:r9lcqlcc [5/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ボンゴレ 「ラティオス。ワシらに心を委ねなさい。何があったのか、聞かせてくれないか」

 カノン 「ラティアスもお願い。どんなことがあったの?」


 ラティオス 「くぉぉ……」

 ラティアス 「ひゅぁ……」



私と おじいさんは、目を瞑る。ラティアスとラティオスに心を委ねる。



私たち一族は、こうやって、ラティアスたちの心の声を聞くことが出来る。テレパシーのようなものだ。

でもこれは、私たち一族に特殊な能力がある訳ではなくて、ラティアスたちが、私たち一族に心を開いてくれているからだと思っている。


とあるポケモン博士は、「全てのポケモンがテレパシーを使えるのではないか」と考え、研究を続けている。

1000匹を超えるポケモンたちには、当然、1000種類を超える言語がある。にも関わらず、ポケモンたちが互いにコミュニケーションを取れるのは、テレパシーによる力ではないか――という研究らしい。


この説には私も賛成だ。

現に、私たちは こうやって、ラティアスたちとコミュニケーションを取れているのだから。



 ボンゴレ 「む……」

 カノン 「やっぱりハンターが……」



ラティアスとラティオスから伝わってくるイメージ。

サザンドラを使うポケモンハンターに襲われ、ラティアスは逃げたものの、ラティオスは廃墟のような場所に捕まってしまう。

なんとか脱出したラティオスは、ハンターの追撃にダメージを負ってしまい、洞窟の中の泉で傷を癒やしていると……。
 ▼ 6 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:54:55 ID:r9lcqlcc [6/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「えっ……えっ? サトシ君たち!?」

 ラティアス 「くぅ! くぅん!!!」


イメージの中に突然現れたのは、以前、怪盗姉妹の事件で力を貸してくれた、サトシ君たち。

途端に興奮するラティアス。

そうだよね、ラティアス、サトシ君のこと すっごく気に入ってたもんね。


 ボンゴレ 「なんと……!」


ラティオスの手当ての跡は、サトシ君たちによるものだった。

かなり不利な状況になったものの、サトシ君がラティオスを使ってハンターとバトルして勝利。ハンターはジュンサーさんに逮捕されたようだ。



 カノン 「そっか……。サトシ君が助けてくれたんだ……」

 ラティアス 「くぅん! くぅ〜!」


サトシ君は、私たちの、アルトマーレの、命の恩人だ。


あの日――、怪盗姉妹が攻め込んできたとき、私とラティオス、おじいさんは捕まってしまって、何も出来なかった。

そんな私たちを、サトシ君は、ラティアスと一緒に助けに来てくれた。そして、命を賭けてラティオスが……。


サトシ君が居なかったら、今の平和なアルトマーレは存在していない。

私たち一族にとって、サトシ君は、感謝してもしきれない、大切な人なのだ。



 カノン 「ねぇ、ラティアス、ラティオス。貴方たちを助けてくれた彼――サトシ君はね、このアルトマーレを救ってくれたヒーローなの」

 ラティオス 「………」


ラティオスの反応は今ひとつ。

多分、ラティアスを助け、ハンターに対抗するために、一時的に協力した程度なんだと思う。


 カノン 「人間を安易に信用できないのは当然だと思う。でも、サトシ君は違うの。とっても良い人なの」

 ラティアス 「くぅん♪」
 ▼ 7 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:55:23 ID:r9lcqlcc [7/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「すぐに信頼してとは言わないわ。でも、サトシ君がアルトマーレの恩人だってこと、少しでも感じてくれたら嬉しいかな」

 ラティオス 「……くぉぉ」

 ラティアス 「ひゅぅ!」


こっちのラティアスは、サトシ君のこと、ちゃんと信頼してるみたい。

凄いなサトシ君。ラティアスたちは警戒心が強いから、人間に対して簡単には心を開かないのに。


でもきっと、ほんの少しだけでも、ラティオスにも伝わってるはずだよね。

こうやってサトシ君のことを、私たちに教えてくれたんだから。



 カノン 「この秘密の庭は、貴方たちのための お庭よ。ここでゆっくり休んで、早く元気になってね」

 ラティアス 「くぅ♪」



ラティアスとラティオスは静かに頭を下げると、姿を消した。



ここは木の実もあるし、綺麗な水もある。

世界中を飛び回るラティアスたちの安息の地。

ここで元気を取り戻して、また大空へ羽ばたいていってね。


 ▼ 8 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:56:07 ID:r9lcqlcc [8/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 ボンゴレ 「サトシ君には、感謝してもしきれんのぉ」

 カノン 「うん。2回もラティアスたちを助けてくれるなんて、偶然とは思えないな」

 ボンゴレ 「なにかの縁を感じるのぉ。ラティアスがサトシ君のことを気に入ったこと含めてな」

 ラティアス 「くぅん! くぅぅぅ!」


と、ラティアスが何かを必死に せがむ。

もしかしなくても、彼女の言いたいことはハッキリと分かる。
 

 カノン 「会いたいんだよね、サトシ君に」

 ラティアス 「くぅぅん♪」

 カノン 「ふふっ。ラティアス、このまえテレビでサトシ君を見てから、ずっと会いたがってたもんねー」

 ラティアス 「くぅ〜」



サトシ君がWCSと言うポケモンバトルの世界大会に優勝したことは、テレビで大々的に報道された。


無敗記録を持つダンデさんという人に打ち勝ったのは、本当に凄いことらしい。

決勝戦の様子はダイジェストだけどテレビで何度も放送されて、バトル初心者の私も思わず息をのむ。

サトシ君の相棒ピカチュウが、世界王者のリザードンと一騎打ち。凄まじい気迫と迫力は、画面越しでも伝わってきた。


 カノン 「凄いよね、サトシ君って」

 ラティアス 「くぅ♪」
 ▼ 9 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:56:35 ID:r9lcqlcc [9/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「ラティアスたちを助けてくれたお礼したいし、優勝のお祝いもしたいけど……、忙しいかなぁ」

 ボンゴレ 「なら、手紙をだしてみたらどうじゃ?」

 カノン 「手紙……うん。それなら迷惑にならないよね」

 ボンゴレ 「どうじゃカノン、ラティアス。ダメ元で、アルトマーレに招待してみるのは」

 ラティアス 「きゅ!? くぅ! きゅぅ〜!」

 カノン 「えっ、でも……」

 ボンゴレ 「招待状を出すくらいなら大丈夫じゃろう。忙しいのなら、それはそれで仕方ない」

 カノン 「う〜ん……」

 ラティアス 「くぅ! くぅん! くぅぅうう〜!」

 ボンゴレ 「ほれ。ラティアスもサトシ君に会いたがっておるぞ」

 カノン 「もぉ。まだサトシ君が来るって決まった訳じゃないんだよ?」

 ラティアス 「くうぅぅ〜!」

 カノン 「……じゃあ、出してみよっか、招待状」

 ラティアス 「くぅん! くぅぅ〜♪」



ラティアスは、サトシ君のことが大好きだ。

多分、怪盗姉妹に追われていたのを助けて貰ったのがキッカケだと思うけど、秘密の庭に招き入れるほどとは、よっぽどサトシ君のことを気に入ったんだなと思う。
 ▼ 10 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:57:12 ID:r9lcqlcc [10/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

そんなラティアスは、サトシ君とお別れの日――、彼にキスしたらしい。


後で聞いた話なんだけど、私の姿で、勝手に。


あのとき私は、ちょっと画材店に出かけていて、サトシ君たちの出発を見送れなかった。

サトシ君へのお礼に描いた絵は、ラティアスが渡してくれたみたいで、そこは感謝したけど、当然私は文句も言った。

だって、サトシ君にキスをしたのはラティアスであっても、それは私の姿。サトシ君にとってみれば、私からキスされたと思われてもおかしくない。


サトシ君にキスする光景を、私は想像してしまう。

アルトマーレを救ってくれたヒーローに、キスだなんて。同年代の男の子に、キスだなんて……。



彼は――サトシ君は、私(の姿をしたラティアス)からのキスを、どう思ったんだろう。

迷惑だったかな。それとも、喜んでくれたかな。

男の子にとって、女の子からキスされるって、どんな気持ちなんだろうな。



考えれば考えるほど、私の頭の中は、サトシ君のことでいっぱいになって。

あの当時、しばらくはサトシ君のことが頭から離れなくて、夢に見るほどだった。私がサトシ君にキスする夢。


時間が経つにつれて薄れていったけど、先日テレビでサトシ君のことを見てからというもの、当時の記憶が鮮明に蘇ってきて。



また会いたいなって、思うようになって――。



 カノン 「なんて書こうかな……」

 ボンゴレ 「悩むことないじゃろう。素直な気持ちを書きなさい」

 ラティアス 「くぅん♪」
 ▼ 11 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/26 23:57:59 ID:r9lcqlcc [11/11] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サトシ君への感謝の気持ちを込めて描いた絵は、あのときラティアスが渡してくれたけど、お礼の言葉は、まだ きちんと伝えていない。


だから手紙には、あのときのお礼を綴った。そして、今回ラティアスとラティオスを助けてくれたことも。

さらに、WCSで優勝したことへの、お祝いの言葉。テレビ中継で見たサトシ君とポケモンたちの勇姿の感想を織り交ぜて。

最後に、アルトマーレへの招待。直接お礼を伝えたいし、ラティアスも会いたがってるから、と。


便箋3枚に綴った手紙を、封筒に入れて。

返信用の、切手を貼った封筒も一緒に入れた。

返事を急かしているようで申し訳ないけど、返事が欲しい内容なのにサトシ君に封筒類を用意させるのも申し訳ない。



 カノン 「サトシ君の返事、楽しみだね」

 ラティアス 「くぅ〜♪」

 カノン 「でも、取材とかで忙しいかもしれないし……、気長に待とうね」

 ラティアス 「くぅん」



すぐに返事が来ないことは分かっている。


それでもラティアスは、朝、真っ先にポストを確認している。よっぽど楽しみなんだね。

でもそれは、私も同じ。ラティアスと同じくらい、私もサトシ君から返事が来るのを楽しみにしている。

たとえそれが「来れない」という返事でも、サトシ君とコミュニケーションを取れること自体、私にとっては嬉しいことだから。



     ◆


 ▼ 12 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/27 23:36:47 ID:fpYsIZIg [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



     ◆



サトシ君に手紙を出して、1週間――。


 ボンゴレ 「サトシ君の乗った船、もう港に着いた頃じゃな」

 カノン 「うん」


サトシ君は、すぐに返事をくれた。

私からの手紙を受け取ったその日に、返事を書いてくれたんじゃないかってくらい。


サトシ君は自宅で休息期間中だったらしく、すぐにアルトマーレに行くと答えてくれた。

連絡船の切符の手配などの準備を考えても、まさか1週間で会いに来てくれるなんて思ってもみなかったな。



 ボンゴレ 「ラティアス、喜んでおるじゃろうなぁ」

 カノン 「喜びすぎて変なことしてなければいいけど……」


そしてまさに今、ラティアスがサトシ君のお迎えに行っている。

早くサトシ君に会いたいって せがむ から任せたけど、変なこと――またキスなんて してないか心配だ。


 カノン (傍から見たら、私が男の子と仲良くしてる光景だからなぁ……)

 ▼ 13 ッポウオ@ウルトラネクロZ 23/08/27 23:37:23 ID:Ygg69qwM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ししし支援
 ▼ 14 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/27 23:37:31 ID:fpYsIZIg [2/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

もうすぐ私たちは、サトシ君に再会する。

アルトマーレを救ってくれたヒーローが、再び この地に やってくる。



でも、どんな顔して出迎えればいいんだろう。

サトシ君は、あのときの別れ際、私にキスされたと思っているはず。

もしかしたらラティアスだと気付いてるかも知れないけど、あの絵を渡したことを考えると、私が“ラティアスのフリをした”と思われてる可能性もある。

逆にサトシ君も、ちょっと気まずいんじゃないかなぁ……。





   「ほらラティアス、そんなに引っ張るなって〜」

   「ぴかぴっか〜」

   「くぅん!」



と、入口のほうから賑やかな声が。

私の心臓がドキッと反応する。待ちに待った再会の時、だけど心の準備は不十分。



 サトシ 「お邪魔します」

 ピカチュウ 「ぴかぴっかー」

 ▼ 15 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/27 23:38:37 ID:fpYsIZIg [3/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 ボンゴレ 「いらっしゃいサトシ君。よく来たね」

 カノン 「ぁっ、お久しぶり、サトシ君、ピカチュウ」



久々に会ったサトシ君は、あの時と比べて、少し背が伸びたように感じた。

でも、優しい表情、眩しい笑顔は そのままで、あの時の記憶が、まるで白黒のキャンバスに絵具が塗られていくように、鮮明に蘇ってくる。


変身を解いたラティアスに抱きつかれ、ちょっと困ったような、でも嬉しそうなサトシ君は、とっても格好良かった。



 サトシ 「カノン、ボンゴレさん! 今日は招待してくれて、ありがとうございます!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」

 ボンゴレ 「堅苦しい挨拶は いらん。今日はゆっくりしていきなさい」

 ラティアス 「くぅ〜ん!」 グイッ

 サトシ 「ちょっ、ラティアス〜」

 カノン 「ふふっ。ラティアスったら」



ラティアスは嬉しそうに、サトシ君を秘密の庭へと引っ張って行った。


ずーっと楽しみにしてたもんね、ラティアス。

ラティアスの姿――、本来の姿でサトシ君と触れ合うことが出来るのは、私たちの家と、秘密の庭の中だけ。

今日は思う存分、サトシ君と遊んでね。



 ボンゴレ 「ワシらも行こう」

 カノン 「うん」


 ▼ 16 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/27 23:39:48 ID:fpYsIZIg [4/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


私たちが秘密の庭に入ると、サトシ君とラティアスは、既にブランコで遊んでいた。

ラティアスが初めてサトシ君を秘密の庭に招き入れたときも、まず あのブランコで遊んでたもんね。



 ボンゴレ 「サトシ君。ちょっと良いかのぉ」

 カノン 「ラティアス。ちょっとだけ待っててね」


遊びたい気持ちも分かるけど、今回サトシ君を招待したのは、遊ぶためだけじゃない。

ラティアスも きちんと それを理解していて、大人しくブランコを中断した。


 サトシ 「……そうだ。出てこいワニノコ! ミジュマル!」

 ワニノコ 「わにゃぁ!」

 ミジュマル 「みじゅ!」


サトシ君のポケモン……!

ピカチュウ以外のサトシ君のポケモンを見るのは初めてだ。あのワニノコが、水上レースに出場した子なのかな。


 サトシ 「ピカチュウ、ワニノコ、ミジュマル。ラティアスと遊んでてくれよ」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」

 ワニノコ 「わにゃわにゃぁ!」

 ミジュマル 「みぃじゅ〜!」

 ラティアス 「くぅ♪」


ラティアスたちは、広い秘密の庭で遊び始めた。

水場も沢山あるから、ここが初めてのワニノコとミジュマルも楽しんでくれるといいな。

 ▼ 17 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/27 23:41:09 ID:fpYsIZIg [5/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



私たちは、秘密の庭を見渡せるベンチに腰掛けた。



 カノン 「サトシ君は、紅茶は苦手じゃない?」

 サトシ 「あぁ。大丈夫だよ」

 カノン 「じゃあ……はい、どうぞ。こっちのケーキはね、アルトマーレで一番人気のケーキ屋さんで買ってきたの」

 サトシ 「おっ、美味そう! わざわざありがとな」

 カノン 「ふふっ」


 ボンゴレ 「さて、サトシ君。まずは優勝おめでとう」

 サトシ 「はい。ありがとうございます!」

 カノン 「テレビで見てたけど、サトシ君とポケモンたち、本当に凄かったよ」

 サトシ 「へへっ。みんなが頑張ってくれたお陰さ」

 ボンゴレ 「取材なんかも大変だったじゃろう」

 サトシ 「……はい。優勝から2週間くらいは、かなり疲れました」

 ボンゴレ 「それだけの偉業を成し遂げたと言うことじゃ。流石、アルトマーレを護ってくれただけのことはあるのぉ」

 サトシ 「いえ。あの時は、ラティアスとラティオスのお陰ですよ」


そう言ってサトシ君は、“こころのしずく”の方に目をやった。

このアルトマーレを、命を賭けて津波から護ってくれたラティオスの新たな姿。今でもこうして、秘密の庭を、アルトマーレを、見守ってくれている。


 ボンゴレ 「サトシ君には、お礼を言わんといかんのぉ。ハンターに襲われたラティアスとラティオスを助けてくれたそうじゃな」

 サトシ 「はい。カノンからの手紙で、あの2匹がアルトマーレに来たって知りました」

 カノン 「ラティアスが――今回サトシ君が助けてくれた方のラティアスがね、教えてくれたの。とってもポケモン想いの男の子に、助けて貰ったんだって」

 ボンゴレ 「一族を代表してお礼させて貰おう。サトシ君、ラティアスとラティオスを救ってくれて、本当にありがとう」 ペコリ

 カノン 「ありがとうございました」 ペコリ

 サトシ 「そんなそんな! 頭を上げて下さいよ。オレは当然のことをしただけです」

 ボンゴレ 「その謙虚さも素晴らしいのぉ」

 サトシ 「オレ、ポケモンハンターって許せなくて。たまたま狙われてたのがラティアスとラティオスだっただけで、どんなポケモンでも、オレは同じように助けました」

 ▼ 18 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/27 23:42:34 ID:fpYsIZIg [6/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

凄いな、サトシ君。

真っ直ぐな眼差しは、ポケモンを護ろうという彼の信念を感じられる。

本当に凄いよ、サトシ君。ラティアスが気に入るのも当然だよね。



 サトシ 「そういえば、あのラティアスとラティオスは……」

 ボンゴレ 「ここに来た初日以降、姿を見せておらんのじゃ」

 サトシ 「えっ?」

 ボンゴレ 「ラティアスとラティオスは、警戒心が強い種族なんじゃ。ワシら一族を、100%信頼してくれるとは限らんのじゃよ」

 カノン 「特に、ハンターに襲われた子はね」

 サトシ 「そっか……」

 カノン 「でも、ここ秘密の庭が、ラティアスたちの休息の地であることは変わりないの。実際あのラティアスたちは、私たちを頼って来てくれたんだもん」

 ボンゴレ 「そうじゃな。姿を消しているだけで、まだどこかで休んでいるかもしれんし、もう何処かへ旅立ったかもしれん。どんな形であれ、ラティアスとラティオスの傷を癒やし、世話をすることが、我々一族の使命なんじゃ」

 サトシ 「……なんだかなぁ。せっかくカノンとボンゴレさんが、一生懸命やってくれてるのに、100%信頼して貰えないなんて」

 ボンゴレ 「構わん構わん。むしろ、それが本来の野生ポケモンの姿というものじゃ」

 カノン 「うん。心配しないでサトシ君。私たち一族は、そういうものだって理解してるから」

 サトシ 「………」


   カノン (……サトシ君?)


 ボンゴレ 「さぁサトシ君。固い話は終わりじゃ。みんなと遊んできなさい」

 サトシ 「……そうですね! よーし……ラティアース! みんなで缶蹴りしようぜー!」



一瞬、ほんの一瞬だけど、サトシ君の表情が曇ったように……見えた。


でもすぐに満面の笑みになって、ラティアスたちの元へ駆けて行く。

 ▼ 19 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/27 23:44:10 ID:fpYsIZIg [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「ほら! カノンも行こうぜ!」

 カノン 「ぁっ、うん!」



私を呼ぶサトシ君は、変わらず眩しい笑顔。

テレビで見た決勝戦のサトシ君は、気迫溢れる、とっても凜々しい表情をしていたのに。そのギャップに、私は思わず胸が高鳴る。



なんだろう。



サトシ君は、アルトマーレを護ってくれた、私たちのヒーロー。

感謝の気持ちでいっぱいで、彼の強さ、優しさに、私は憧れている。



でもこの気持ちは……、もしかして、“それ以上の”気持ちなのかな。



ラティアスがキスしたことで、サトシ君が去った後から、急にサトシ君のことを意識するようになって。

一旦落ち着いたはずのその気持ちは、テレビ中継をキッカケに、鮮明に蘇って。

そして今、私はサトシ君と再会して、会話して、触れ合って。



なんだろうな。


こんな気持ち、はじめて……。





     ◆


 ▼ 20 ンガポール航空◆.l3Q3ORut2 23/08/28 13:09:14 ID:kzHI.A5w NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 21 オスバメ@かたいいし 23/08/28 13:20:21 ID:YQg2eb5I NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 22 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:25:11 ID:ITVAnbfU [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



     ◆



それから私たちは、夕方まで秘密の庭で遊んだ。


ラティアスは大はしゃぎで、サトシ君とピカチュウも楽しそうで。

ワニノコとミジュマルも、庭に住んでいる水ポケモンたちと仲良くなって。


途中から私は、遊んでいるみんなの絵を描いて、サトシ君たちは私の絵に喜んでくれて。





楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。





 カノン 「ラティアス。そろそろ時間よ」

 ラティアス 「くぅぅ〜」 フルフル

 サトシ 「また明日も来るからさ」

 ラティアス 「くぅぅ〜」 ウルウル


ラティアス、まだ遊び足りないみたい。

そうだよね。大好きなサトシ君と久々に会って、少しでも長い時間、一緒にいたいもんね。


 ボンゴレ 「サトシ君。良かったら、今日はウチに泊まって行きなさい」


えっ……おじいさん今なんて!?
 ▼ 23 タフリー@どくけしのみ 23/08/31 23:25:42 ID:9nV.AxD6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
レジシエン
 ▼ 24 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:25:51 ID:ITVAnbfU [2/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「良いんですか?」

 ボンゴレ 「ポケモンセンターのような良いベッドは無いが、サトシ君なら大歓迎じゃ。ラティアスと一緒に居てやってくれんかのぉ」

 サトシ 「勿論です! ありがとうございます!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」

 ラティアス 「くぅ〜ん♪」


サトシ君が、私の家に、泊まる……?

誰かを家に泊めたことなんて一度も無いのに、その初めてがサトシ君だなんて……、頭の中が追いつかない。

サトシ君と長く一緒に居られることは嬉しいけど、そんな急に言われたら、どんな反応すれば良いのか……。


 サトシ 「そうだ! せっかく泊まるなら、秘密の庭で寝ても良いですか?」

 ラティアス 「くぅ!?」

 ボンゴレ 「秘密の庭で? それは構わんが……良いのかい?」

 サトシ 「はい! ラティアス! 今日はずっと一緒に居られるぞ!」

 ラティアス 「くぅん! くぅぅ〜♪」

 ボンゴレ 「ほっほ。なら、レジャーシートとブランケットを用意しよう。夕飯も秘密の庭で食べるかい?」

 サトシ 「良いですね! キャンプみたいで!」

 ピカチュウ 「ぴぃか!」

 ラティアス 「くぅ〜♪」


私の反応を余所に、トントン拍子で話が進んでいく。

確かに、秘密の庭でキャンプなんて楽しそうだ。

ラティアスみたいに、私ももっと喜びを表すべきなのかもしれないけど……、なんて言うか、恥ずかしくて、私は平常心を装うことに集中した。


 ボンゴレ 「じゃあサトシ君、ラティアスの相手をよろしくな。 カノン、夕飯の準備じゃ」

 カノン 「ぁっ……、はい」


 ▼ 25 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:26:20 ID:ITVAnbfU [3/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



サトシ君たちを秘密の庭に残し、私と おじいさんは家の中へ。



私は夕食の下ごしらえ。おじいさんは、レジャーシートや食器類の準備。

私とサトシ君と おじいさん。ラティアスとピカチュウ、ワニノコ、ミジュマル。こんなに大人数で夕食を食べるのは、一族の集まりを除けば初めてだ。

大人数ならカレーが定番だけど、せっかくサトシ君をアルトマーレに招待したんだから、名物のパスタをご馳走してあげたい。

キャンプらしい料理も考慮して――“パスタ・エ・ファジョーリ”、いんげん豆を使ったトマト風味のスープパスタを作ってあげよう。



 ボンゴレ 「おぉ、良い香りじゃな」

 カノン 「あと少しで完成。サトシ君たち、たくさん食べるかな」

 ボンゴレ 「男の子じゃからな」

 カノン 「それにしても おじいさん。急にサトシ君に泊まって貰うなんて、ビックリするじゃない」

 ボンゴレ 「ほっほ。ラティアスのことを考えたら、つい――な」

 カノン 「その気持ちは分かるけど……」

 ボンゴレ 「カノン。お前さん、今日は楽しめたか?」

 カノン 「えっ? なに言ってるのおじいさん。楽しいよ、サトシ君に久々に会えて」

 ボンゴレ 「うむ。じゃがカノンは少し、真面目すぎじゃ」

 カノン 「真面目すぎ……? そう?」

 ボンゴレ 「これも……、小さい頃から お前さんに、一族の使命を教えすぎたせいかもしれんな」

 カノン 「そんなの気にしてないよ。私は、私の使命に誇りを持ってるわよ?」

 ボンゴレ 「じゃがそのせいで、お前さんには親しい友人が おらんじゃろ」

 カノン 「それは……」

 ボンゴレ 「ワシが言いたいのは、カノン、お前さんは まだ若い。しっかり遊んで、しっかり“今”を楽しみなさい」

 カノン 「今をって……」
 ▼ 26 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:26:59 ID:ITVAnbfU [4/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

私には、親しい友人がいない――。


私たち一族は、先祖代々、秘密の庭を護り、秘密の庭を訪れるラティアスとラティオスのお世話をするという使命がある。

おじいさんが言ったとおり、私は小さい頃から、一族の使命を教えられてきた。


そして、私自身の役目、一族の使命を理解するにつれて、あまり部外者と関わってはいけないのだと思うようになった。

万が一、ラティアスや秘密の庭のことについて、口を滑らせてしまったら、取り返しのつかないことになる。

そう考えると、誰かと仲良くすることには大きなリスクがある。……自然と人付き合いを、避けてきてしまったのだ。



 ボンゴレ 「サトシ君は良い子じゃ。ラティアスは懐いておるし、秘密の庭のことも知っておる」

 カノン 「うん」

 ボンゴレ 「サトシ君の前でなら、気兼ねなく過ごせるじゃろう。たまには使命のことは忘れて、若者同士で楽しみなさい」



気兼ねなく――か。



確かにサトシ君になら、一族の使命とか、秘密の庭の存在とか、アルトマーレの伝説とか、部外者に知られては いけないことを隠す必要は無い。

気兼ねなく会話できる唯一の存在と言える。



でも、そんなに簡単なことじゃないんだよ、おじいさん。



サトシ君は、私やラティアスの あれこれを知っている。理解してくれている。

アルトマーレを護ってくれた、命の恩人。私たちのヒーロー。

私にとってサトシ君は、眩しくて、尊くて、一緒に居ると心が温かくなって、ドキドキして――。


気兼ねなく過ごすのは、逆に無理かなぁ。


 ▼ 27 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:28:13 ID:ITVAnbfU [5/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 カノン 「……よし。良い仕上がりね」


パスタの茹で具合は完璧。スープの味もちょうど良い。

これならサトシ君たち、喜んでくれるはずだ。


 ボンゴレ 「美味そうじゃな。カノン、ワシの分だけ よそって おくれ」

 カノン 「えっ? おじいさん秘密の庭で食べないの?」

 ボンゴレ 「ワシはゴンドラ修理の仕事がある。カノンはサトシ君たちと楽しんできなさい」

 カノン 「うん……」



あぁ、多分おじいさん、私に気を遣ってくれてるんだろうな。


おじいさんが見ている前でサトシ君と話すのは なんだか恥ずかしいし……、せっかくだから、お言葉に甘えようかな。



 ▼ 28 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:28:49 ID:ITVAnbfU [6/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 カノン 「サトシ君! みんな! おまちどおさまっ」



 サトシ 「おぉ! 美味そうな匂い!」

 ピカチュウ 「ぴぃかぁ〜♪」

 ラティアス 「くぅ〜♪」

 カノン 「“パスタ・エ・ファジョーリ”。いんげん豆を使ったトマト風味のスープパスタよ」

 サトシ 「へぇ〜。じゃあ早速……ん? ボンゴレさんは?」

 カノン 「おじいさん、お仕事が残ってるから、私たちで食べなさいって」

 サトシ 「そっか。ゴンドラの修理工場だったよな」

 カノン 「うん」

 サトシ 「じゃあボンゴレさんには申し訳ないけど……」

 カノン 「気にしないで。たくさん作ったから、いっぱい食べてね」

 ▼ 29 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:30:31 ID:ITVAnbfU [7/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

ブランコのある木の根元に、大きめのレジャーシートを敷いて。

パスタの入った鍋は、適当な石で作った土台の上に。枯れ枝と落ち葉を集めたところに、ピカチュウの電撃で火をおこせば、簡単なコンロの出来上がり。

サトシ君の旅の経験は、こういう場面でも活かされるんだなと感心した。



 サトシ 「美味〜い!」

 ピカチュウ 「ちゃぁ〜♪」

 ワニノコ 「わんにゃぁ♪」

 ミジュマル 「みじゅみぃ♪」

 カノン 「ふふっ、良かった。ラティアスも、お味はどう?」

 ラティアス 「くぅぅ〜ん♪」


 サトシ 「本当に美味しいよ。パスタの茹で具合とかちょうど良いし、トマトのスープが めっちゃ合うし、カノン、料理上手なんだな!」

 カノン 「ありがとう。私、絵と料理は小さい頃から好きで、いろいろ試してるの」

 サトシ 「へぇ〜。凄いなカノン」

 カノン 「サトシ君の方が凄いよ。さっきの火起こしとか、旅の知識でしょ?」

 サトシ 「あぁ。炎タイプのポケモンを連れてない時とかは、ピカチュウに頼んでたんだ」

 ピカチュウ 「ぴか」

 カノン 「凄いなぁ。私、アルトマーレの外に出たこと無いのに。旅なんて、夢のまた夢、って感じかな」

 サトシ 「でもカノンは、ラティアスたちと秘密の庭を護るって使命があるだろ? 旅なんかより、ずっと大事なことじゃん」

 カノン 「そうかな……」


サトシ君は優しいな。私たち一族の使命を、“大事なこと”だって、認めてくれて。


でも、私は……、その使命を果たせているとは、思えない。


怪盗姉妹が攻め込んできた事件の時、私は何も出来なかった。ただ怯えていただけで。

サトシ君が助けに来てくれなかったら――。ラティアスとラティオスが津波を止めてくれなかったら――。



私がアルトマーレを護らなければならない立場なのに、サトシ君の方が、ずっと――。


 ▼ 30 州街道◆Np5ysP3gOE 23/08/31 23:30:59 ID:ITVAnbfU [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「……カノン?」


 カノン 「……ねぇサトシ君。サトシ君の旅の話、聞いてみたいな」

 サトシ 「旅の話?」

 カノン 「うん。ラティアスも興味あるよね?」

 ラティアス 「くぅ! くぅん!」

 サトシ 「そっか。良いぜ。どこから話そっかなぁ」



サトシ君の旅の話は、外の世界を知らない私とラティアスにとって、すごく新鮮で、刺激的で、面白かった。

ポケモンたちとの出会いや別れ、悪い人との対決、ジム戦やポケモンリーグ。

驚いたことにサトシ君、たびたび伝説のポケモンと遭遇しているらしい。ラティアスが惹かれるのも当然かもしれないね。



楽しい楽しい夕食の時間は、あっという間に過ぎていった。





     ◆


 ▼ 31 ローラサンド@こだいのおまもり 23/09/02 17:40:15 ID:9agkdlTE NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
 ▼ 32 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/08 00:04:19 ID:5cG.UpDE [1/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



     ◆



そういえば、私は家の外で寝るのは初めてだ。

旅で野宿をしていたサトシ君の気持ちを味わえると思うと、ちょっとだけワクワクする。

(秘密の庭の敷地内だから、厳密には野宿とは言えないかもしれないけど)



サトシ君と交代で、家のシャワーを浴びて。

パジャマ――だと恥ずかしいから、通気性の良いTシャツとショートパンツという、ちょっと運動する時の服装に着替えて、秘密の庭へと戻った。





 サトシ 「お、カノン。おかえり。着替えたんだな」

 カノン 「うん。変じゃないかな……?」

 サトシ 「全然。涼しそうだし、似合ってるよ」

 カノン 「そうかな……ふふっ。ありがとう」


なんともない会話かもしれないけど、そんな会話に、私は心躍る。

似合ってる――深い意味なんて無いことは分かってるけど、サトシ君に服装を褒めて貰えたことが、たまらなく嬉しい。
 ▼ 33 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/08 00:04:50 ID:5cG.UpDE [2/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「ラティアスたち、もう寝ちまったよ」

 カノン 「えっ?」


見ると、ラティアスとピカチュウ、ワニノコ、ミジュマルは、レジャーシートの上で静かに寝息を立てていた。

ラティアス、てっきりサトシ君に くっついて眠ると思ってたけど。


 サトシ 「たくさん遊んだから、疲れちまったのかな」

 カノン 「うん。ラティアス大はしゃぎだったもんね。サトシ君と会えるの、ずっと楽しみにしてたんだから」

 サトシ 「そっか。オレも久々にラティアスと遊べて、すげぇ楽しかったよ。ピカチュウたちも楽しかったと思うぜ」

 カノン 「みんな仲良く遊んでたもんね」

 サトシ 「どうする? まだ早いけど、オレたちも もう横になるか?」

 カノン 「ぁっ、えっと……」


考えてみると、ラティアスたちが居るとは言え、私は これから、サトシ君と一緒に眠る……。

レジャーシートの右側でラティアスたちが眠っているから、必然的に、空いている左側のスペースで、私とサトシ君が眠ることに。

シートは そこまで大きくない。2人並んで横になれば、きっと、恐らく、間違いなく、肩と肩が触れ合う距離感になってしまう。


私は当然、男の子と一緒に寝たことなんて無い。

その初めての時が、こんな形で、訪れるなんて。

その初めての相手がサトシ君だというのは、私にとって最高のシチュエーションだけれども……。



これっ、意識した途端、急に恥ずかしさが……。



 ▼ 34 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/08 00:05:27 ID:5cG.UpDE [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「……どうした?」

 カノン 「ぁっ、ううん! なんでもないの」


そんな私を余所に、サトシ君は平然としている。

サトシ君にとって、女の子と一緒に寝るって、特別なことじゃないのかな。ドキドキしたりしないのかな。


そういえばサトシ君、あのとき、タケシさんとカスミさんと一緒に旅してたっけ。

女の子の旅仲間が居るサトシ君にとって、女の子と一緒に寝ることは、普通のことなのかもしれない。


じゃあ、旅をしたことの無い私は……。

サトシ君の旅仲間の女の子とは、比較対象にならないような、ちっぽけな存在なんじゃ……。



 サトシ 「それか、まだ早いし……、もう少し話さないか?」

 カノン 「ぇっ……、良いの?」

 サトシ 「当然だろ? オレ、ラティアスもそうだけど、カノンと会うのも、けっこう楽しみにしてたんだぜ?」



数秒前の私を叱りたい。


サトシ君は、こんな私に会うのを楽しみにしてくれていた。

私はサトシ君にとって、ちっぽけな存在なんかじゃない。サトシ君は きっと、誰に対しても分け隔てなく接してくれるんだ。

さっきの私の想像は、そんなサトシ君に対して、あまりにも失礼なことだった。



 カノン 「ぁのっ、私のほうも、サトシ君と会えるの、手紙を出してから、ずっと楽しみにしてたよ……///」

 サトシ 「サンキュー。カノンからの手紙、すっごく丁寧で、心を込めて書いてくれたんだなって。オレ、嬉しかったよ」

 カノン 「ふふっ。そう言って貰えると、私も嬉しい」

 サトシ 「あ、場所、変えるか? みんなを起こしちゃ可哀相だし」

 カノン 「そうね。じゃあ……噴水の方で、どうかな?」

 サトシ 「あぁ」
 ▼ 35 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/08 00:06:44 ID:5cG.UpDE [4/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


ラティアスたちを起こさないように、私とサトシ君は、こっそりと噴水の前に移動した。



 サトシ 「“こころのしずく”――ラティオス。温かい光だな」

 カノン 「うん。あれからずっと、ここでラティオスは、アルトマーレを見守ってくれている……」

 サトシ 「そうだな……」


噴水の中心で温かな光を放っているのは、ラティオスの化身、こころのしずく。

蒼く美しく輝く珠。綺麗な水を生み出し、噴水からアルトマーレの運河へと流れ、海へと注がれる。

こうしてラティオスは、今もアルトマーレに生きていると、私は信じている。


 カノン 「サトシ君、ありがとう」

 サトシ 「ん?」

 カノン 「ラティアスとラティオスを、ハンターから守ってくれて」

 サトシ 「あぁ、気にすんなって。当然のことしたまでさ」

 カノン 「凄いよ、サトシ君って。サトシ君は きっと、ラティアスたちと縁があるのよ」

 サトシ 「縁……か」

 カノン 「伝説って呼ばれるポケモンから好かれるのは、サトシ君が純粋で素敵な人だから。本当に凄いと思う」

 サトシ 「それは……どうだろうな」


 カノン 「それにサトシ君は、アルトマーレを救ってくれたヒーローだもん。私たち、サトシ君に、助けて貰ってばかり……」


 サトシ 「……カノン?」

 カノン 「本当は、私が もっと しっかりしなきゃダメなのに……」

 ▼ 36 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/08 00:08:39 ID:5cG.UpDE [5/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

私は、こころのしずくに目を落とす。

温かい光は、まるで私を慰めてくれているよう。

ダメだな、私。いつも守って貰ってばっかりで。


 カノン 「今までは、ラティオスが護ってくれてたの。アルトマーレも、私たちのことも」

 サトシ 「うん」

 カノン 「でも私はっ……、ラティオスのことを、護ってあげられなかった……。怪盗姉妹に捕まって、なんにも出来ないでっ……、ただ怯えて、グスッ、見てただけでっ……」

 サトシ 「カノン……」

 カノン 「サトシ君が来てくれなかったら……、アルトマーレはっ、本当にっ、消えて無くなってたの。私たち一族が護ってきたものが、跡形も無く……」

 サトシ 「………」

 カノン 「私っ……、怖いの」

 サトシ 「怖い?」

 カノン 「今は平和だけど、もしまた悪い人が、襲ってきたら……。ラティオスが居ないいまっ、どうやって、アルトマーレを護るのかって……」


ラティアスも頑張ってくれているけど、戦力で考えれば、ラティオスが一番だった。

もしまた悪い人がアルトマーレを攻めてきたら、どうなってしまうんだろう。

私とラティアスだけで、この美しい水の都を護りきれるのか。それが、たまらなく不安で――。



 サトシ 「なぁカノン。外に行かないか?」

 カノン 「えっ?」

 サトシ 「夜のアルトマーレ、見てみたいんだ」



     ◆


 ▼ 37 ラーチ@げんきのかたまり 23/09/08 00:36:08 ID:WbIEDZlU NGネーム登録 NGID登録 報告
支援
全力支援
 ▼ 38 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 22:47:26 ID:HsCMq//E [1/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


     ◆



静まりかえった夜の街。

ライトアップも消され、観光地特有の雑踏もなく、聞こえるのは運河を流れる水の音くらい。


 サトシ 「昼とは全然雰囲気違うんだな〜」

 カノン 「うん。こんな時間に外に出たの、私も久しぶりだな」

 サトシ 「カノン。どっかカノンのお勧めの場所ってあるか?」

 カノン 「お勧めの?」

 サトシ 「あぁ。大聖堂とか有名な所じゃなくて、地元の人だけが知ってる、穴場みたいな」

 カノン 「うーん……、じゃあ、あそこに行ってみようかな」



細い路地を抜け、橋を渡り、階段を上り、また細い路地を進み。

迷路のように入り組んでいるアルトマーレの街は、地元の人でも知らない道があるほどだ。


 サトシ 「こんな路地、普通に来たら迷っちまうな」

 カノン 「うん。私も道を覚えるのには苦労したんだから」


たとえ地図があったとしても、不慣れな観光客の人は、自分の位置を見失ってしまう。

混んでいない夜に観光しようって人が迂闊に来れないような、メジャーな観光施設から離れていく路地を、さらに奥へ奥へ。


 サトシ 「……ん? 波の音?」

 カノン 「ふふっ。港とは逆方向に進んできたのに、不思議でしょ?」



路地を挟む石造りの建物は、だんだんと朽ちてきて。

茂った蔦、地面の苔、割れた石畳。街灯なんてもう疎らで、隣を歩くサトシ君の表情すら、確認できない。


そんな路地の先から、ぼんやりと光が漏れている。そして、波の音も――。

 ▼ 39 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 22:48:05 ID:HsCMq//E [2/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「到着よ、サトシ君」

 サトシ 「おぉっ……すげぇ良い所じゃん!」


ここは、港とは正反対の場所にある、小さな入り江。

アルトマーレでは珍しく、少しだけ砂浜があるけれど、海水浴場という訳では無いので、泳ぐのは禁止されている。

廃墟同然の朽ちた建物に囲まれた、今では誰も足を踏み入れない、静かな寂しい入り江。


 サトシ 「賑やかなアルトマーレにも、こんな場所があるんだな」

 カノン 「うん。観光で発展したアルトマーレはね、やっぱり港や大聖堂のエリアが栄えてて、そこから遠い この辺は、だんだん寂れていったの」

 サトシ 「そっか。それでこんな廃墟が……」

 カノン 「観光マップにも載っていないから、観光客が来ることは、まず無いかな」

 サトシ 「へぇ〜」

 カノン 「アルトマーレの数少ない砂浜だから、地元の子供たちは内緒で遊びに来るみたいだけどね」

 サトシ 「まぁ、こんな廃墟に囲まれてたら、なんか危ないもんな」

 カノン 「私、たまに ここで絵を描いてるの。静かで落ち着けるし、誰とも会わなくて済むし……」

 サトシ 「えっ?」

 カノン 「……ぁっ」

 サトシ 「誰とも会わなくて済む……?」

 カノン 「えっと……ほら、絵を描くのに集中したいから」



 サトシ 「なぁ、カノン」



サトシ君は、真剣な眼差しで私を見つめる。

月明かりに照らされた凜々しい表情、海風が彼の髪を揺らし、波の音が一際大きく響く。
 ▼ 40 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 22:48:45 ID:HsCMq//E [3/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「詳しいことは聞かないよ。でも……、カノンは、1人で抱え込みすぎじゃないか?」

 カノン 「えっ……?」



それは、あまりにも想定外な問いかけだった――。



 サトシ 「先祖代々受け継いできた使命、大切なのは分かる。カノンがラティアスやラティオス、それにアルトマーレを護りたいって気持ちも分かる。けど、それがカノンの足枷になってないか?」



だって、さっき おじいさんにも、似たようなことを言われたから。

それはつまり、サトシ君は おじいさんと同じくらい、私のことを、見てくれていたってことで――。



 サトシ 「カノンはさ、自分が何も出来なかったって言うけど、そんなの仕方ないじゃん。ポケモンを持ってないのに、怪盗姉妹にポケモンで襲われて。オレだってポケモンを持ってなかったら、手も足も出なかったと思う」

 カノン 「仕方ないじゃ……済まされないよ。そのせいで、ラティオスは……」

 サトシ 「だから“怖い”のか」

 カノン 「今度はラティアスが――って考えると、本当に私っ、怖くて……。しっかりしなきゃって、いつも、思ってるのに……」



心の中に渦巻いていた、不安な思い。


今まで誰にも言わなかった、言えなかった思い。


それを全て、打ち明けてしまった。

心の中に しまっておくつもりだったのに……、サトシ君の優しさに触れて、打ち明けてしまった。

 ▼ 41 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 22:49:36 ID:HsCMq//E [4/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「……グスッ、ごめんなさい。こんなこと聞かされて、困っちゃうよね」

 サトシ 「そんなことないよ。誰かに話した方が楽になれるし、オレで良ければ、いくらでも聞くぜ」

 カノン 「ありがとう……。本当に、優しいね、サトシ君」

 サトシ 「カノンは凄いよ。それに偉い」

 カノン 「そんなこと……」

 サトシ 「一族の使命とか、オレが軽々しく言える立場じゃ無いけどさ。でもカノンは、その使命を大切にしてるから、こんなに悩んで、考えて、抱え込んじまったんだろ?」

 カノン 「ぁっ……」

 サトシ 「それって、凄いことだと思う。こんな若いときから、自分の使命と ちゃんと向き合って。本当に偉いと思う!」

 カノン 「サトシ君……」

 サトシ 「だからこそ、誰かに相談しようぜ。ボンゴレさんに話すのが一番だと思うけど、言いにくいんなら、オレがいつでも相手になる」

 カノン 「そんなっ……、それじゃサトシ君に迷惑だよ」

 サトシ 「そんなの全然。オレもアルトマーレは好きだし、ラティアスやラティオスとも仲良くなりたいし、カノンのこと応援したい!」


あぁ、やっぱり素敵だな、サトシ君。

こんなに真っ直ぐな眼で、私のこと、心配してくれる。私のこと、応援してくれる。



押しつぶされそうだった不安が、少しずつ和らいでいくのを感じる。心が温かくなっていくのを感じる。



それはきっと、サトシ君が、隣に居るから――。



 カノン 「……ふふっ。ありがとう。でもサトシ君は もう、ラティアスとラティオスと仲良しでしょ?」

 サトシ 「いや……、違うんだ」

 カノン 「えっ?」

 サトシ 「カノンはオレのこと凄いって言ってくれるけど、違うんだ。オレ、そんな完璧な人間じゃないんだ」

 ▼ 42 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 22:50:33 ID:HsCMq//E [5/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

これまでから一転して、サトシ君の表情が曇る。

そういえばサトシ君、秘密の庭でも、一瞬だけ表情を曇らせる場面があった。


 カノン 「そこは自信を持って良いと思うよ? WCSに優勝ってだけでも凄いんだから」

 サトシ 「それは、ピカチュウたちが頑張ってくれたお陰さ」

 カノン 「でも私にとって、アルトマーレを救ってくれたサトシ君は、ヒーローみたいな存在なの。ラティアスやラティオスにも信頼されて、本当に――」

 サトシ 「いや、違うんだ」

 カノン 「サトシ君……?」

 サトシ 「こんなことカノンに話したら、困らせちまうかもしれないけど……」

 カノン 「ううん、大丈夫。今度は私が聞く番だよ?」

 サトシ 「サンキュー、カノン」



そう言うと、サトシ君は海の方を見つめる。


私が今まで見てきたサトシ君の中で、今が一番、弱々しい表情だった。



 サトシ 「オレさ、今まで旅してきて、いろんなポケモンと出会って……。さっきも話したけど、伝説のポケモンにも会って」

 カノン 「うん。きっと伝説のポケモンも、サトシ君の優しさに惹かれるんだね」

 サトシ 「サンキュー。それでオレ、そんなポケモンたちみんなと仲良くなってさ。はじめは警戒されたりもしたけど、最後には、みんなオレに心を開いてくれた」

 カノン 「ふふっ。サトシ君の純粋さの証明だね」

 サトシ 「……けど、ラティオスだけは、違ったんだ」

 カノン 「それって……、サトシ君がハンターから助けた、ラティオスのこと?」

 サトシ 「あぁ」

 カノン 「そっか……」

 ▼ 43 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:41:49 ID:HsCMq//E [6/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

あのラティオスとラティアスがアルトマーレに来たときに、私たちに見せてくれたイメージ。

その中には確かにサトシ君が居て、サトシ君と協力して、ハンターに打ち勝っていた。

ラティアスはサトシ君のことを全面的に信頼しているみたいだったけど、ラティオスの反応は、今ひとつだった。


 サトシ 「一緒にハンターと戦って。オレ、ラティオスと仲良くなれたつもりでいたんだ。でも別れ際、オレ、ラティオスに、手を振り払われちまった……」

 カノン 「うん……」

 サトシ 「ポケモンと分かり合えなかったの、オレ、それが初めてだったんだ……」

 カノン 「でも、ラティアスとラティオスは、警戒心が強いポケモンなの。姿を消したり変えたりできるのが、その証拠よ」

 サトシ 「そうかもしれないけど、正直オレ、ちょっとショックだった」

 カノン 「サトシ君……」

 サトシ 「なんて言うかさ……、ラティオスを助けたのは当然のことで、仲良くなりたいとか、信頼されたいとか、そういう気持ちは確かにあったけど、一番の目的は、ハンターからラティオスを守ることだった」

 カノン 「うん。サトシ君らしいよ」

 サトシ 「カノンはオレのこと、すげぇ褒めてくれるけど……、オレなんて、まだまだ未熟だよ」

 カノン 「そんなこと無いよ。サトシ君が未熟なら、私なんて」


 サトシ 「オレの夢、ポケモンマスター」


 カノン 「ポケモンマスター?」

 サトシ 「“世界中の全てのポケモンと友達になること”だって、オレは思ってる」

 カノン 「素敵な夢ね」

 サトシ 「ラティオスに手を振り払われて、そう思ったんだ。全てのポケモンに信頼されて、友達みたいに付き合えるトレーナーが、ポケモンマスターなんだって」

 カノン 「サトシ君なら、きっとなれるよ。あのラティオスだって、サトシ君を拒絶してる訳じゃないんだから」

 サトシ 「そうかな……」

 カノン 「初めて会ったのに、ラティオスに指示して、ハンターとバトルで勝ったんだよ? 警戒心の強いラティオスが、サトシ君と戦ってくれたんだよ? 拒絶されてたら、そんなこと絶対に出来ないもん」

 サトシ 「そう言って貰えると、ちょっと救われるかな。……ありがとう、カノン」

 ▼ 44 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:42:26 ID:HsCMq//E [7/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

サトシ君は海を見つめたまま、静かに微笑んだ。

月に照らされた彼の横顔は、柔らかで、穏やかで、とっても格好良くて。

私との会話でサトシ君の不安が少しでも取り除けたのなら、こんなに嬉しいことは無い。私はサトシ君に、返しきれないくらいの恩があるんだから。



 カノン 「ラティオスの反応がサトシ君を傷つけちゃったのなら……、ごめんなさい」

 サトシ 「そんな。カノンが謝ることじゃないだろ?」

 カノン 「私たち一族は、ラティアスとラティオスをお世話することも使命なの。トレーナーって訳じゃないけど……保護者、みたいな立ち位置かな? だから、その……」

 サトシ 「真面目だな、カノンは」

 カノン 「一族の私ですら、あのラティオスは、完全には心を開いてくれなかったの。だからサトシ君、ラティオスのこと、引きずらないで欲しいな」

 サトシ 「でもあのラティオスは、カノンたちを頼って、秘密の庭に来てくれたんだよな」

 カノン 「うーん……、私たちをって言うよりかは、安住の地に来た、って感じかな」

 サトシ 「けど、警戒してる人間の元には来ないだろ? オレ、最初すげぇ警戒されてたんだぜ。ラティオスだけじゃなくて、ラティアスにも」

 カノン 「そうなんだ。でも、警戒してたラティアスの心を開いたのは、本当に凄いことだよ。サトシ君にしか出来ないことだと思うな」

 サトシ 「……へへっ。ラティアスがどんなポケモンかは、知ってるつもりだったからさ」

 カノン 「ふふっ。流石サトシ君ね」



気付けば私たちは、笑い合っていた。


正直、不安が完全に消え去ったわけでは無い。

サトシ君だって、ラティオスが心を開いてくれなかった悲しさは、完全に消えていないはずだ。


でも私たちは、笑い合った。笑い合えた。


 ▼ 45 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:42:57 ID:HsCMq//E [8/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 サトシ 「なんだか情けないところ見せちまったな」

 カノン 「そんなことないよ。私の方こそ、一族のことサトシ君に聞いて貰っちゃって……」

 サトシ 「カノンから貰った手紙、オレ、本当に嬉しかったんだ」

 カノン 「ぇっ……?」

 サトシ 「ラティオスのこと……、誰かに聞いて貰いたくて。あのとき一緒に居たタケシとカスミに話すのは なんか違うし、誰にでも話せるような内容じゃないし」

 カノン 「うん」

 サトシ 「カノンに話せて、心の中のモヤモヤ、晴れた気がする。ありがとな、カノン」

 カノン 「ふふっ。お役に立てて光栄だな。私の方こそ、ありがとう」

 サトシ 「あぁ」

 カノン 「私だって、誰にも言えない悩み、サトシ君に聞いて貰って。なんだか心が軽くなった気がするな」


 サトシ 「オレたち、同じ悩みを持ってたんだな」

 カノン 「うん。そうだったみたい」



同じ悩み――か。


その大きさは、私とサトシ君では全然違うかもしれないけれど――。

それでも、サトシ君と共感できて、お互いに励まし合うことが出来たのは、私にとって、特別な、特別な思い出になった。



 サトシ 「会えて良かったよ、カノン」

 カノン 「うん、私も。サトシ君に会えて、嬉しかった」



 ▼ 46 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:43:48 ID:HsCMq//E [9/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


誰も居ない、小さな入り江。



月明かりと、優しい海風と、穏やかな波の音。



そんなロマンチックな光景の中、私とサトシ君は、2人きりで。





もしも私に、ラティアスと同じくらいの、勇気があったら――。





私もサトシ君に、“ ラティアスと同じこと ”を、していたかもしれないな。





 ▼ 47 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:44:28 ID:HsCMq//E [10/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


 サトシ 「そろそろ帰ろうぜ。ピカチュウたちが起きてたら、きっと心配してるだろうし」

 カノン 「そうね。それに、こんな夜中に抜け出して、おじいさんに怒られちゃうかも」





秘密の庭に帰ろうと、2人で海に背を向けた、その時だった。





 カノン 「……!」

 サトシ 「……カノンも、感じるか?」

 カノン 「うん。後ろに……」



突然、本当に突然、背後に気配が。


でも、敵意は無い。

むしろ、穏やかで、私たちを見守るような。



 カノン 「ぁっ……!」

 サトシ 「ラティオス! ラティアス!」

 ▼ 48 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:45:40 ID:HsCMq//E [11/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

振り返ると そこには、あのラティオスとラティアスの姿が。

月夜をバックに、2匹仲良く、私たちのことを見つめていた。



 ラティオス 「………」

 ラティアス 「ひゅぁん♪」


 サトシ 「ラティオス……、怪我は! 怪我はもう、大丈夫なのか!?」

 ラティオス 「くぉぅ」 コクッ

 サトシ 「そっか、良かった。……まったく、カノンたちが手当てしてくれたから、こんな元気になれたんだぞ」

 カノン 「サトシ君……、そんな恩着せがましいこと言わなくていいよぉ……」


 ラティアス 「ひゅぅん♪」 クスクス

 ラティオス 「くぉぉぅ」 ニコッ


  ― スーッ



 サトシ 「ぁっ……!」

 カノン 「……うん」



ラティオスが、ほんの一瞬だけ、笑ってくれた。

それと同時に、ラティアスとラティオスは、姿を消した。夜空に溶け込むように。



 サトシ 「あっ……ありがとなーラティアス! ラティオス! 元気な姿、見せてくれて! また一緒にバトルしようなー!」

 カノン 「元気でねラティアス! ラティオス! またいつでも遊びに来てねー!」



 ▼ 49 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:47:46 ID:HsCMq//E [12/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


そこにはもう、2匹の気配は無い。


不思議と今まで聞こえなかった波の音が、また、小さな入り江に奏で始める。





 サトシ 「ずっと……、見ててくれたのかな」

 カノン 「うん、きっと」

 サトシ 「笑って……くれたよな?」

 カノン 「ふふっ。サトシ君にも私にも、ラティオス、心を開いてくれてたんだね」

 サトシ 「そうだよな。やっぱりそうだよな!」

 カノン 「ラティオスの笑顔を見れる人、滅多に居ないんだから!」

 サトシ 「ははっ……はははっ! ラティオース! ラティアース! 元気でなーーー!!!」



サトシ君は夜空に向かって、大きく手を振り続けた。

すっごく素敵な笑顔で、とっても嬉しそうに。



私も嬉しい。


ラティオスは、ちゃんと心を開いてくれていた。

警戒心からなのか、それともちょっと不器用な性格からなのか――、一瞬笑顔を見せてくれた だけ だけど、それは私たちにとって、最高のメッセージだ。


 ▼ 50 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:48:20 ID:HsCMq//E [13/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 サトシ 「……さ、帰ろうぜ、カノン」

 カノン 「うん。急がないとねっ」





私たちは、小さな入り江を後にした。





しっとりとした夜のアルトマーレの街並みは、やっぱり美しい。


私たち一族が護る、私の大好きな街並み。



そんな素敵な舞台を、私とサトシ君は、一緒に歩く。



こんなに心軽やかに、心晴れ渡り、心躍る時間は、本当に、本当に、久しぶりだった。





     ◆


 ▼ 51 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:49:31 ID:HsCMq//E [14/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


     ◆





それから3日間、サトシ君は、アルトマーレに滞在してくれた。





秘密の庭でラティアスたちと、心ゆくまで一緒に遊んで。



アルトマーレの街並みを、一緒に散策して。

1人じゃ入りづらい、お洒落なカフェやレストランに、サトシ君と2人で行ってみたり。



同年代の子に見られちゃったけど、そんなの気にしない。


私は、ラティアスと同じくらい、サトシ君との時間を楽しんだ。





そしてその楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。





     ◆


 ▼ 52 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:50:27 ID:HsCMq//E [15/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告


     ◆



とうとう迎えた、お別れの日――。



 『連絡船、間もなく出航時刻となります。ご乗船手続き お済みでない方、お急ぎ願いまーす』



初日、サトシ君の“お迎え”はラティアスに任せたから、今日の“お見送り”は私の番。

ラティアスは私の姿に変身するから、こういう時、2人一緒に行動できないのが ちょっとネックだ。



 サトシ 「カノン、見送りありがとう」

 カノン 「ふふっ。楽しかったな。サトシ君とピカチュウに会えて、本当に良かった」

 サトシ 「あぁ、オレも!」

 ピカチュウ 「ぴっかぁ!」


連絡船は、もう間もなく出航する。

私は桟橋で、サトシ君とピカチュウの お見送り。名残惜しいけど、これで お別れだ。


 カノン 「また、いつでも遊びに来てね。私もラティアスも大歓迎よ」

 サトシ 「あぁ! 絶対また行くからな」

 カノン 「ふふっ。美味しい料理を作って待ってるから」

 ピカチュウ 「ぴぃか♪」



桟橋を、心地良い風が吹き抜ける。



今日も良い天気だ。

空も、海も、運河も、より一層美しく映える。

 ▼ 53 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:51:23 ID:HsCMq//E [16/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告

 カノン 「見て、サトシ君。アルトマーレの青い海、青い運河、青い空――」

 サトシ 「あぁ。綺麗な街だよな、アルトマーレ」

 カノン 「私の大好きな街……。こんな美しい街を、サトシ君は、救ってくれた……」

 サトシ 「オレだけの力じゃないよ。ラティアスとラティオスの おかげ、だろ?」

 カノン 「ふふっ。それでもサトシ君には、感謝しきれないよ。ありがとう、本当に……」



私はサトシ君に、勇気を貰った。


あの月夜、ラティアスとラティオスにも、勇気を貰った。


私には親しい友人が居ないけど――、それでも私は、大切な皆から、支えられている。



 サトシ 「カノン、頑張れよ。辛いことがあっても、抱え込まないようにな」

 カノン 「うん。サトシ君もこれから、チャンピオン、頑張ってね」



次にサトシ君と会えるのは、いつになるだろう。

WCS優勝という偉業を成し遂げたサトシ君。きっとこれから忙しくなると思う。


忙しくなったら、当分の間、会うのは難しくなってしまうかもしれない――。


 ▼ 54 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:52:17 ID:HsCMq//E [17/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



 『お待たせしました。間もなく離岸作業を開始しまーす。ご乗船になってお待ちくださーい』



 サトシ 「おっ……、乗らないと。じゃあなカノン。また――」

 カノン 「……そうだ。ねぇサトシ君、最後に ちょっとだけ、目を瞑ってくれない?」

 サトシ 「ん? こうか?」 ギュッ



不思議そうに目を瞑るサトシ君。


貴方から貰った勇気、ちゃんと発揮しないとね。





 ― chu ♡





 サトシ 「……えっ、ぁ、カノン……?」

 ピカチュウ 「ぴかぁ」



 カノン 「……ふふっ。今度は私から、だよっ ///」





 ▼ 55 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:52:50 ID:HsCMq//E [18/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告




サトシ君を乗せた船は、やがて水平線の向こうに見えなくなった。



別れ際のキスなんて、ちょっと迷惑だったかもしれない。


でも、それが私の本心。私のサトシ君に対する気持ち。


自分でも、柄にもないことをしたとは思うけど、後悔はしていない……かな。





私は空を見上げる。





強くならないと。


自信を持たないと。


サトシ君に貰った勇気、しっかり心に留めて。



 ▼ 56 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/09 23:53:46 ID:HsCMq//E [19/19] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告





この大空の何処かを、今日もラティアスとラティオスたちが羽ばたいている。





私たち一族の使命は、そんな彼ら彼女らを、人知れず お世話すること。

彼ら彼女らの休息の地として、疲れを癒やしてあげること。



辛いこともあるけれど、私はそれを、誇りに思っている。サトシ君にも認めて貰えたもんね。





アルトマーレの青い空は、今日は一際、美しい。





   ――― 完 ―――


 ▼ 57 州街道◆Np5ysP3gOE 23/09/10 00:01:27 ID:Zrv.fYbg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



アニポケ新無印、めざせポケモンマスター編。

サトシとラティアス、ラティオスの関係を描く特別編は、サトシの物語を締めくくる、考え抜かれたストーリーでしたね。


そして、ラストにアルトマーレが登場したのは驚きでした。


このSSは、「あの後こんな物語が続いてたらな……」という思いで書いた、“ifストーリー”でした。

なお、作者は映画の例のキスシーンはカノン派ですが、このSSのみ、ラティアスの設定です。


 ▼ 58 シツブテ@カチャのみ 23/09/10 13:52:47 ID:C7/6PQek NGネーム登録 NGID登録 報告
乙!
 ▼ 59 イラッシャ@むげんのチケット 23/09/11 14:32:18 ID:UbIAusNY NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
素晴らしかった…!
私も密かにカノン派なので素敵なssが読めて嬉しいです
作者さんありがとう
 ▼ 60 スイウォーグル@ホイップポップ 23/09/12 07:36:29 ID:6iLokmFI NGネーム登録 NGID登録 報告
なんて神作なんだ...
  ▲  |  全表示60   | << 前100 | 次  |  履歴   |   スレを履歴ページに追加  | 個人設定 |  ▲      
                  スレ一覧                  
荒らしや削除されたレスには反応しないでください。
書込エラーが毎回起きる方はこちらからID発行申請をお願いします。(リンク先は初回訪問云々ありますがこの部分は無視して下さい)

. 書き込み前に、利用規約を確認して下さい。
レス番のリンクをクリックで返信が出来ます。
その他にも色々な機能があるので詳しくは、掲示板の機能を確認して下さい。
荒らしや煽りはスルーして下さい。荒らしに反応している人も荒らし同様対処します。




面白いスレはネタ投稿お願いします!
(消えた画像の復旧依頼は、問い合わせフォームからお願いします。)
スレ名とURLをコピー(クリックした時点でコピーされます。)
新着レス▼