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ss》 テオ「俺、生きてる…?」

 ▼ 1 ノガッサ@マーマレード 25/08/27 19:41:52 ID:B1EYB6FU [1/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テオ「何でだ?」

ここは多分病院だ。
確か俺は、デデンネを助けようとして道路に飛び込んで、車にーー

???「テオさん!起きたの!?」

テオ「あ…あなたは?」

???「テオさん…やっぱり起きてるわ!どうして?でも…
    良かった…!!」ギュッ

その人は、テオの肩を強く握った。

テオは、心があたたかくなった。自分にとっては見知らぬ人だが、この人は見たところ看護婦だ。きっと意識の戻らない自分を、ずっと看病してくれていたのだろう。

テオ「俺…起きてますよ。それにしても、何があったんですか?」

看護婦「分からないけれど…私がここに来たら、貴方が光っていたのよ」

テオ「俺が…?」

看護婦「私は、上の人にこのことを伝えてくるわね。少し待っててもらえるかしら」

待っててもらえるかしら、と言われても、俺に断る権利はないんだろう。テオはそう思い、頷いた。

看護婦「じゃあね…」スタスタ

テオ「……」

にしても、光っていたってどういう……

テオがそう思った途端、ベッドの横にある窓の外が、突然光りだした。
 ▼ 2 ラエッテ@ふっかつそう 25/08/27 19:42:43 ID:Qtuwt8Dk NGネーム登録 NGID登録 報告
誰だよ
 ▼ 3 ジュマル@きパプリカスライス 25/08/27 19:43:11 ID:IcSAT.zI NGネーム登録 NGID登録 報告
>>2
応援されてる人
 ▼ 4 ミズズ@ゼロの秘宝 25/08/27 19:46:09 ID:B1EYB6FU [2/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
•オリキャラが主人公です
•もう1人の重要キャラもオリジナルです
•というか原作の人間キャラは出てきません
•小説を書くのはまだ修行中です、ミスがあればすみません
 ▼ 5 X夕虹X 25/08/27 20:07:57 ID:B1EYB6FU [3/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テオ「うっうわあ!」

窓の外に、木のようなシルエットが突然現れたのだ。

テオ「……出てこい、アブソル!」

ポンッ!

アブソル「アルウゥゥ!」

?????『待ってください』

突然木のシルエットが喋り出した。

テオ「アブソル…」

アブソル「アル!」

?????『だから少し待ってください』

それを聞いて、テオはようやく気づいた。
これは…頭に響いてくるような声だ。

テオ「テレパシー…?」

?????『そう、これは貴方に直接話しかけているのです。
     私はゼルネアス。命を与えるもの』

テオ「命を…」

アブソル「アヴ…?」

アブソルには届いていないようで、首を傾げていた。だが、主人がこのよく分からない生き物と話しているので、取り敢えず何もしていない。

テオ(ゼルネアスに、命という言葉…
  間違いない、知ってるぞ。このポケモンは…)

テオ「X…!」
 ▼ 6 X夕虹X 25/08/27 20:47:26 ID:B1EYB6FU [4/4] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ゼルネアス『X…?私が?』

テオ「そうだ。ゼルネアス、君はXと呼ばれている。その身体の形からな」

ゼルネアス『そうなのですか…ああ、テオ、貴方にこのことを伝えなければならないのでした』

テオはゼルネアスのその言葉にピンとくるものがなかった。だが、聞かなければいけないこと、というのは自然と伝わった。

テオ「…なんだ?」

ゼルネアス『貴方の命はーー私が与えたものです』


テオ「……え?」


アブソル「アヴヴ?」

ゼルネアス『それでは、私はーー』

ゼルネアスはそう言い残して、一瞬で姿を消した。
テオはといえば、体に衝撃が走ったまま動けなくなっていた。

アブソル「アヴ…」

テオ「…アブソル。今の俺の命は……ゼルネアスにもらったもの、らしいぜ」
 ▼ 7 X夕虹X 25/08/28 20:07:15 ID:3QEUAG8A [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
それから3年後。

テオはとっくに退院し、とある村でアブソルと共に暮らしていた。

そう、彼には両親はいないーー昔、事故で亡くしてしまったのだ。

おかげで彼は13歳だというのに一人暮らしだ。もちろんアブソルも入れれば、1人と1匹暮らしである。こちらの方が正しいだろう。

テオ「ふあぁ…アブソル、俺、朝早く起きすぎたかなぁ」

アブソル「アブゥ!」

そんなことないよ、とアブソルは伝えているようだ。しかし、それは根拠がない、ただの慰めだろうと思いテオは本気にしなかった。

テオ「そうだな、早起きは三文の徳って言うし……」

そう言いながら、テオは突然止まった。彼は、地面にひっそりと生えている雑草を見ていた。

アブソル「…アヴ?」

テオ「……こいつの親は、もうこの世界にいないのかな…」

アブソル「…アヴヴ…」

アブソルは、テオの両親がこの世にはいないということを思い出して俯いた。
そんなアブソルの横で、テオは歩き出した。慌ててアブソルもそれを追いかけていくーー。


◆•◆•◆


「あのー、ゼルネアスって知ってますか?」

突然この村にやってきた見知らぬ人に、村人は朗らかに接した。

村人「ゼルネアスかぁ…知らないな、聞いたこともないし…」

????「そうですか…ありがとうございますっ!」

村人(見たところテオと同い年くらいだな…何をしに来たんだろうか?)

彼は村人にお礼をして、フラベベと共に去っていった。
 ▼ 8 X夕虹X 25/08/28 20:52:53 ID:3QEUAG8A [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
一方でテオは、アブソルと朝の散歩を楽しんでいた。

テオ「朝の空気は、やっぱり好きだな」

アブソル「アブー!」

アブソルはテオの言葉に同調した。やはりポケモンはトレーナーに似るのかもしれない。

そんな彼らの元に、見知らぬ少年がやってきた。

????「あのう、ゼルネアスって、知ってますか…?」

恐る恐るといった感じでテオに問いかける少年は、ここにくるまでに一度も予想通りの答えが返ってこなかったのだろう。

膝に手をついて息を整える少年に、テオはぶっきらぼうに言った。

テオ「知ってるが、それがどうしたっていうんだ?」

????「ーー! 知ってる…の?」

テオ「ああ、もちろん。というか…君の名前は?」

テオに聞かれて、少年はハッとした表情を見せた。

「僕はーーエメリク! こっちにいるのはフラベベ。君の名前は…?」

「俺は…、テオだ。こっちはアブソル」

フラベベ「ラベー!」

アブソル「アヴッ!」
 ▼ 9 X夕虹X 25/08/29 20:39:10 ID:u3vQ/zjc [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリクと名乗った少年はフラベベと共に、テオとアブソルの散歩についていった。

エメリク「テオはゼルネアスを知っているんだね!」

テオ「ああ。というか…会ったことがあるんだ、誰にも言ったことはなかったけどな」

エメリク「会ったことが…どうして?」

エメリクは、隣にいる人が伝説ポケモンに会ったことがあるというのに、やけに冷静である。

テオ「……いろいろあってな」

一方テオは言葉を濁した。会ったばかりの人に、そこまで詳しく話したくないのだろう。

アブソル「…アブ」

フラベベ「ラベ?」

フラベベはアブソルに近寄って挨拶をしようとするが、アブソルはそっぽを向いて相手にしてくれない。

フラベベ「ラベ…」

エメリク「まあ、そこまで無理に聞く気はないよ」

彼は一呼吸置いてから、少し呟いた。

エメリク「…僕は、ゼルネアスから命をもらったんだ」

テオ「!?」

当然テオは驚き、立ち止まった。ゼルネアスに命を与えられた人など、自分だけだと思っていたからだ。

アブソルはそんなテオの右隣で立ち止まり、テオを見上げた。

アブソル「…アヴ」

その高い声は、彼になら言っても良いんじゃないかーーと問いかけているようだった。

テオは頷いた。

テオ「実は、俺もーーゼルネアスに命を与えられたんだ」

エメリク「そ…そうなの!」

フラベベ「ラベッ!」

テオはバツが悪くて俯いた。

エメリクは少し言葉を失っていたが、やがて口を開いた。

エメリク「そうじゃないかな、とは…思ってたよ」
 ▼ 10 X夕虹X 25/08/29 20:54:55 ID:u3vQ/zjc [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「僕が君に会おうと思ったのは、夢を見たからなんだ」

テオ「…夢?」

テオとアブソルは、彼の話を聞く姿勢のようだ。

少し安心しながら、エメリクは続けた。

エメリク「うん…夢。ゼルネアスがいたんだ…ゼルネアスが、僕を見てるだけだった」

テオは驚いた。それだけで、なぜ自分のところまでたどり着いたのかーー。

エメリク「夢から覚めて、僕は思い出したんだ。僕には夢があった…ゼルネアスにもう一度会うっていう夢が。それでふと思い浮かんだんだ」

エメリク「ゼルネアスを知っている人と旅に出ようってね!」

テオ「……そのゼルネアスを知っている人っていうのが、俺なのか。俺と旅に出るっていうのか」

エメリク「…うん。僕は…ここに来なきゃって思ってここに来たんだ。誰か分からなかったけど…あの人に会わなきゃって」

アブソル「アブゥ…」

フラベベ「ラベェ…」

テオは驚いて動けなかった。そんな運命的なことが…本当にあるのか、信じられなかったのだ。

そしてポケモンたちは、ただ2人を見守っていた。

テオ「ーー俺は、お前と一緒に旅はできない」

だが、テオはエメリクの誘いを拒んだ。

彼は、ずっとアブソル以外の生き物と関わってこなかった。だからかもしれない。

テオはエメリクとフラベベを置いて去ってしまった。

しかし、エメリクはテオとアブソルを追いかけはしなかった。

フラベベ「ラベ…?」

エメリク「また明日だ…明日、2人に会おうーー」
 ▼ 11 ッカグヤ@クラボのみ 25/08/29 21:00:34 ID:DhtQHXSs NGネーム登録 NGID登録 報告
テオくん頑張ってるな
 ▼ 12 マガル@テラキオンのおやつ 25/08/29 21:11:06 ID:3BBsEMoE NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援
 ▼ 13 リゴンZ@ヨーギラスのツメ 25/08/29 21:12:34 ID:cuFwfZr2 NGネーム登録 NGID登録 報告
テオくん!頑張れ!
 ▼ 14 X夕虹X 25/08/30 08:42:57 ID:eRHEaoTA [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
◆•◆•◆

その日の夜のことだった。


ある木は一晩で枯れた。

ある鳥ポケモンは木から落ちた。

比喩ではない。

一夜にして、その森は姿を変えた。


村人「おい、あれ見ろよ」

真夜中、森に異常がないかを確かめていた村人は、もう1人に囁くようにして言った。

彼が指差した先には、黒い翼の影が見えていた。


彼らは村の広場に戻ったが、あの黒い翼のシルエットが頭から離れなかった。

村人B「あれはーー、あの翼は………」




村人「イベルタルがーー目覚めたのかもしれない」
 ▼ 15 X夕虹X 25/08/30 09:04:43 ID:eRHEaoTA [2/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
◆•◆•◆

テオ「ふわあ…おはよう、アブソル」

テオの朝は早かった。

アブソルは、そんなトレーナーに合わせて活動している。

1人と1匹は、朝の散歩を始めようとして、ある花畑の角を曲がろうとした。すると、誰かと鉢合わせした。

その誰かとはーー

エメリク「あっ、テオ!おはよう!」

エメリクだった。

正直なところ、テオは今まで友達という友達がいなかったので、彼とどのように接していいのか分からなかった。

なので、彼は軽く会釈してから、早足でそこを去ろうとした。

エメリク「っ待って!」

フラベベ「ラベべ!」

アブソルは立ち止まり、テオの服の裾を噛んで、主人を引き止めようとする。

テオは止まるしかなかった。

エメリク「アブソルは、災いを呼ぶポケモンだって言われて、怖がられてるんだよね」


エメリクは、つい先ほど村人にテオの話をしたら、「アブソルは災いを呼ぶポケモンなんだ、あまり近寄るなよ」と言われたことを話した。

一方テオは、その話を聞きたくなかった。なんたって自分のポケモンだ、悪く言われたくないと思うのは当然だろう。

そう思って逃げようとする彼だが、アブソルにまだ服を噛まれているので動けず、話を最後まで聞く羽目になった。

だが、テオが思うよりもエメリクは優しかった。


エメリク「こんな話をしてごめん。でも、僕はアブソルのこともテオのことも怖がってないんだって、それを知ってもらいたかったんだ!」

フラベベも、「ラベ!」とエメリクに同調した。

テオ「ーー!」

テオの目が大きく見開かれるのを見て、アブソルはようやく服から口を離した。

アブソルは、自身のトレーナーであるテオよりも、少しだけ人を信じやすいらしい。だから話を最後まで聞かせようとしたのだろう。

エメリク「僕は…テオと旅がしたいんじゃない。しなきゃいけないような気がするんだ……だから、テオが嫌なら一緒に旅をするのは諦めようと思ったよ。」

エメリクは少し躊躇って、でも言葉を続けた。

エメリク「でもねーー今のテオの眼が、人生を楽しんでるような眼に見えないんだ!!」
 ▼ 16 X夕虹X 25/08/30 09:22:16 ID:eRHEaoTA [3/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テオ「なんで…お前、俺と同い年だろ! なんでそんなに上から目線なんだよ…!」

テオは見かけは怒っていたが、内心エメリクの言葉は図星だった。

両親を失って、なにをすれば良いのかわからなくなっていた彼は、ただこの村の自然を身体で感じとることしかすることがなかった。

そんな毎日に飽きていたのに、何も変えることができない自分がいたーー分かっているけど、見ないふりをしてきたことが、この少年に言われるなんて…テオは、エメリクに負けたような気がしていた。

なのに、距離感がわからなくて、気づいたら自分でもよく分からない感情を目の前の彼にぶつけていたのだ。

一方のエメリクは、頷いてからテオに背中を向けて、去っていってしまった。


◆•◆•◆


テオは後悔していた。

あの時、どうして強がって、旅がしたいという本音が言えなかったのだろう。

エメリクはこの村を出ていったかもしれないーー

そんな考えが浮かんで、今の今までずっと後悔していた。

アブソルは、そんなトレーナーを慰めることしかできなかった。


そして、今ーー夜である。

テオは外に出る気になれなかったが、アブソルがどうしても外に出たいと言うので(テオの感覚)、1人と1匹は家の外に出た。

アブソルはそわそわとしていて、もしかしたら災いが起こるのかーーとテオは直感した。

すると、花畑のそばに人影が見えた。

そして声がしたーー

エメリク「テオ! なんか様子がおかしいよ!」

人影は、エメリクだった。隣にフラベベもいる。

テオ「なんだ、いたのか…」

テオはなんだか泣きそうだった。
 ▼ 17 X夕虹X 25/08/30 12:09:32 ID:eRHEaoTA [4/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
だが、エメリクの切羽詰まった表情を見て、すぐに我に返った。

テオ「なんの様子がおかしいんだ?」

エメリク「なんか…ぞっとするんだ。命が削れていっているような……」

すると花畑の花が色を失っていき、石化してしまった。

エメリク「……!」

テオ「っ…!」

フラベベ「ラベ?ラァべ…」

フラベベは花を復活させようとするが、どんなにエネルギーを送っても元に戻りそうにない。

フラベベ「ラベェ…ラァべッ……」

フラベベは泣き出してしまった。

悲しいだけでなく、怖いのだ。花がさっきまで命を宿していたのに、一瞬で命が消えたーー。

アブソルはフラベベの側に寄り添った。


テオとエメリクは、黒く冷たい風が吹いてきていることに気がついた。その風は山の上から吹いている。

その風が山に触れて、木は白くなり、生気を失ってしまった。

風の吹く元には黒い翼が見えた。

それを目の当たりにして、テオは呟いた。



テオ「Y……」



エメリク「…Y…?」

エメリクが問いかけると、テオは小さく、でもエメリクには届くくらいの声で言った。

テオ「イベルタルだ…寿命が尽きる時にあらゆる生き物の命を吸い尽くし、繭の姿に戻ると言われる……伝説のポケモン…」
 ▼ 18 X夕虹X 25/08/30 19:39:21 ID:eRHEaoTA [5/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「あれが、イベルタル…!?」

フラベベ「ラベ…」

エメリクとフラベベは絶句した。

その間に、イベルタルは冷たい風と共に姿を消した。

テオ「……」

テオは思っていた。

あの山には、誰も行っていないはずだ。何故ならあそこには、イベルタルが眠っていると村人全員が知っているから。

エメリクは知らなかったかもしれないが、まさかあの山にフラベベ1匹を連れて行くはずがない。少なくともテオは、そう思った。

では、誰かが起こしたのではない…イベルタルは起きてしまったのだ。

なぜだ?

そこまで考えて、テオは今までずっと引け目を感じていたことを思い出した。



俺はーー生きていてはいけない存在なのだ。

本当は、今生きているはずがなかったんだ。



だからーー

エメリク「どうしたの?」

アブソル「アブ?」

フラベベ「ラベ?」

テオ(俺の命は………返さなきゃいけないのかもしれない)
 ▼ 19 X夕虹X 25/08/30 19:49:25 ID:eRHEaoTA [6/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「…テオ?」

テオ「ああ……悪い。あのさ…エメリク」

テオは、そこで初めてエメリクの名前を呼んだ。驚くエメリクに、テオははっきりと告げた。

テオ「俺は、これからイベルタルが暴れるのを黙って見てられない。
  ーー追うよ、イベルタルを」

アブソルは満足したように頷いた。

一方エメリクは、フラベベと共に口をあんぐりと開けていたが、ふと我に返って大きく首を縦に振った。

エメリク「旅するってことだね! 僕たちも一緒に行くよ。これ以上命が奪われていくのを、見ないふりできない!!」

フラベベ「ラァべ!」
 ▼ 20 X夕虹X 25/08/30 20:09:50 ID:eRHEaoTA [7/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テオ「アブソル……ついてきてくれるか?」

アブソルは、勿論だと言う風に「アヴ!」と鳴いた。

テオは安心して微笑んだ。

エメリク「さーて、そうと決まれば明日出発だね!」

フラベベ「ラベべー!」



◆•◆•◆



エメリク「おはよーう!」

相変わらずテオの朝は早く、エメリクも寝坊することなくテオの家の前にスタンバイしていた。

テオ「…はよ」

相変わらず距離感が分からないテオは、俯いて小さく答えた。

エメリクはニッと笑って、フラベベと目を合わせた。

アブソルはテオの少し前に行き、「行こうよ」というようにテオの目を見た。

テオは頷いた。



◆•◆•◆



エメリク「そういえば、その……テオって、どうしてゼルネアスから命をもらったの?」

エメリクはそう聞いてから、はっとして続けた。

エメリク「あっ、人に聞く時は自分から、だったね。ごめんごめん」

フラベベは「ラベッ」と黄色い花に掴まりながら言った。

エメリク「僕は、なんでゼルネアスに命をもらったかっていうとね……」
 ▼ 21 X夕虹X 25/08/30 20:29:57 ID:eRHEaoTA [8/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
▼=▼=▼


それは、6年前のことだった。

エメリク「ママー! あそこにシキジカがいるよー!!」

エメリクの母「そうね。あのね、エメリク、シキジカって季節によって見た目が変わるのよ」

エメリク「えっ、そうなの!? じゃあ、しんかけーのメブキジカは?」

エメリクの父「もちろん、メブキジカもだぞ」

彼ら3人は、ある丘にピクニックに来ていた。

フラベベ「ラベー?」

エメリク「ほかには?」

エメリクの父「そうだなあ…あっ、天気で見た目が変わるポケモンがいるよな」

エメリクの母「ポワルンね。晴れてたり、雨が降ってたり、雪が降ってたりで見た目が変わるわ」

エメリク「そーなんだ!」


エメリクは、こんな風にポケモンのいろいろなことを教えてくれる両親が大好きだった。

エメリク「フラベベは? みため、かわる?」

フラベベ「ラベ?」

エメリクの母「変わるというよりは、そのフラベベによって持っている花の色が違うのよ」

エメリクの父「このフラベベは、黄色の花が好きだったのかな? だから黄色い花を持ってるんだ」

エメリク「へええ…」

フラベベ「ラベー!」



だが。

悲劇は起こった。



ーードオオォン!
 ▼ 22 X夕虹X 25/08/30 20:40:47 ID:eRHEaoTA [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そんな爆音が聞こえたと思ったら、エメリクの身体は一瞬で熱くなった。

あつい。
あついよ。

でも、言葉にできなかった。

エメリクは、なぜか真っ赤に染まった視界の中で、両親を探した。

そして2つ人影を見つけた。

すぐ近くにいた。

エメリクは触れようとする。だが、手が動かない。それに、なんだかーーその人影たちは黒いように見えた。

エメリクは、幼いながら少し状況を理解した。


体が熱いこと。

視界が真っ赤で、端の方で赤いものが揺らめいていること。

そしてーー人が真っ黒なこと。


いやだ。


いやだよ。


エメリクは、永遠の別れを察した。


フラベベはといえば、少し彼らから離れていたので、エメリクよりも状況を理解できた。

3人ーーと呼べるかは怪しいが、とにかく3人ーーの近くには、燃えている車が倒れていたのだ。


エメリクは、言葉にはできなかったがとにかく祈った。

まだ、しにたくない。

ママとパパのことを忘れたくない。

だれかーーたすけて!!!


その時、エメリクの目の前に光り輝く木のシルエットが見えた。
 ▼ 23 X夕虹X 25/08/31 08:09:57 ID:jvmsH3Tk NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
?????『あなた…今 命をなくすとは可哀想な方です……』

エメリクはなにがなんだか分からなかったが、兎に角言い返した。

エメリク「僕は……まだ……しなない」

そこで、自身が喋れることに気がついた。

?????『その強い思い……気に入りました。なので、あなたに命を授けますーー』

エメリク「うそだ、人のいのちは、だれかが、あやつれるものじゃ、ないよ」

エメリクは言葉が喋れることを生かして、かつて両親に教えてもらったことを伝えた。

木のシルエットは、そうだ、という風に頷いた。

?????「ですが……私には出来るのです」



「だれか、ではなく、私はゼルネアスーー忘れないでください、今日のことを」




エメリク「ゼルネアス……」

そう呟くと視界が眩しくなり、エメリクは目を閉じた。



▲=▲=▲



そして今。

エメリク「……という、訳なんだ」

エメリクは寂しそうな顔をしていた。

テオはなんと言えばいいのか分からなかった。

自分も両親をなくしはしたがーー自分がそれで負ったダメージよりも、エメリクの傷の方がかなり深い気がしたからだ。
 ▼ 24 X夕虹X 25/09/01 18:28:24 ID:ihE6xOfg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テオ「じゃ、俺も言うよ」

エメリク「えっ、別に無理しなくていいのに」

テオ「…お前だけ自分の辛いことを話すなんて、不平等だろ」

テオはそれも本心だったが、他にもう一つ理由があった。

それは、今のエメリクを少しでも元の調子に戻すには、エメリクが気になっていたことを伝えた方がいいと思ったから、ということだ。

テオ「俺は……デデンネを助けたから。それだけだ。なのに……気づいたら死にかけでさ」

テオは はは、と笑いながらそう告げた。

エメリクは むっとして言い返した。

エメリク「デデンネを助けたのはすごいよ。でもさ…折角ゼルネアスからもらった命なんだ! もっと自分で大切に思わなきゃ!」

テオ「……」

テオは驚いて少し言葉を失った。それと同時に、彼は自分と考え方が違うーーそう感じた。

アブソル「…」

一方アブソルは、自分でも思ってはいたのに言えなかった、そのことを言ってみせたエメリクに驚いていた。

エメリク「ねっ? だから、自分の命を大切にしてね!」

テオ「ああ」

と、テオは頷いたが、内心ではそうもできそうにないな…と思っていた。
 ▼ 25 X夕虹X 25/09/02 20:28:43 ID:aQBUtLr. NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
2人と2匹は、それから黙々と歩いていた。しかし、ある光景を見て彼らは顔色を変えた。

ズルッグ「ズ…ズル……」

エメリク「ズルッグ! どうしたの!?」

フラベベ「ラベべ!?」

ズルッグが、道端で体を引きずりながら歩いていたのだ。

ズルッグの身体はボロボロだった。

ズルッグ「ズル…」

エメリク「とにかく、手当てしなきゃ!」

テオ「ダメだろ」


ズルッグの怪我の具合を見て、エメリクが彼を手当てしようとする。だが、テオは冷たい視線を向けながらそう言い放った。

テオ「自然の摂理に、人間が関わっちゃいけないんだ。これは野生の掟なんだよ」

エメリク「ーー! でも、テオだってデデンネを助けたって…」

テオ「だけど……あの時は幼かったから」

アブソル「アヴ…」

少し言葉を詰まらせる彼に、エメリクはキズぐすりをバックから出しながら言い返した。

エメリク「幼かったって大人になったって、テオはポケモンを助けたいって! 目の前で傷ついているポケモンを、助けたいって思ってる筈だよ!!」

テオ「……」

図星だったのもあり、テオは黙ってエメリクの手当てを見守ることにしたようだ。
 ▼ 26 X夕虹X 25/09/05 14:35:04 ID:ddHEqNQY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、エメリクの手当てとフラベベの癒しパワーが功をなして、ズルッグはすっかり元気を取り戻した。

ズルッグ「ズルルー!」

エメリク「良かったぁ…」フゥ

フラベベ「ラベー♪」

テオ「……」

テオは、最後まで動けずにいた。アブソルは彼らを手伝ったのにも関わらず、だ。

だが、彼がそうするのにも意味があるのだーー。


エメリク「ズルッグ、もう大丈夫かい?」

ズルッグ「ズルゥ!」

ズルッグはエメリクに笑いかけ、それからテオの方を振り返った。

テオ「……!」

一瞬だったが、ズルッグのほんの少し寂しそうな表情が、テオの脳裏に焼き付いた。

それからズルッグはフラベベとアブソルにもお礼を言った。

エメリク(テオだけ仲間はずれだ…)


テオは考えていた。アブソルがあの性格なら、きっとトレーナーであるテオも優しい人なのだ、と。

だから、今テオがなにも行動を起こさなかったのには、きっと理由があるんだーー
 ▼ 27 X夕虹X 25/09/05 19:55:15 ID:ddHEqNQY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>26
あっミスってます
下から5行目の文頭、「テオは」ではなく「エメリクは」ですね。。恥ずかしい…
 ▼ 28 X夕虹X 25/09/07 14:07:43 ID:ENOo0AWw NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そして、エメリクはズルッグにあることを聞いた。

エメリク「ズルッグ、どうしてそんな酷いケガをしていたんだい?」

簡単なことである。ズルッグがどうしてボロボロだったのか、それだけだ。

するとズルッグは体をブルルと震わせ、一気に捲し立てた。

ズルッグ「ズル! ズルルズル、ズルルゥ!」

フラベベ「ラベ!?」

アブソル「アブ…!」

2匹はそれぞれ顔を曇らせ、自分のパートナーにその内容を伝えた。

フラベベ「ラベべラベ、ラベ! ラベェ!」

アブソル「アブ…アヴヴアヴ! アブゥ!」

その途端、エメリクとテオは自分たちの前にある山を見て、悔しげに顔を歪めた。

もちろん、2人には分かるのだ。

パートナーの言葉がーー思いが。

テオ「…いつのまに、あっちまで行ってるとはな」

エメリク「うん…テオも言葉が分かったんだね」

テオ「当たり前だろ」

テオは一息ついて言葉を続けた。

テオ「山に…イベルタルが居るーーそう言ってたよ」

エメリク「……フラベベもなんだ」

ズルッグ「ズルルル…」

テオ「そいつに攻撃されたのか?」

ズルッグ「…! ズル!」

エメリク「当たりみたいだね」

テオ「ああ。ズルッグ…」

テオは、言葉が伝わって単純に嬉しそうなズルッグを更に元気付けられるように、少しの間言葉を探した。

そしてーー

テオ「大丈夫だ。俺たちがイベルタルを大人しくさせる。絶対にな」

エメリク「僕たちが、もう二度とズルッグたちを傷つけさせないよ!」

微笑むテオの横で、エメリクも自身の決意を口にした。
 ▼ 29 X夕虹X 25/09/08 19:41:59 ID:Z6.M/pao [1/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「じゃあ…お別れだね」

フラベベ「ラベ…」

少し寂しそうなフラベベをズルッグが元気づける。

ズルッグ「ズルルー! ズッル!」

フラベベ「ラベべ! ラァべ!」

そして、ズルッグはエメリクとフラベベ、アブソルに手を振った。

ズルッグ「ズルッグー!」

エメリク「またねー!」

フラベベ「ラァベー!」

アブソル「アヴヴ!」

テオ「……元気で」

テオは、自分に興味を示されていないことに気づきつつも、ズルッグに一言送った。

ズルッグにその声が届いたのかは分からない。

だが、ズルッグはしっかりと前を向いて走りーー

突然振り向き、一言添えた。

ズルッグ「ズルルズル! ズルー!!」

アクセント的に、彼が告げているのはアイツのことだろうと2人は分かった。

それからズルッグは森の中に姿を消した。


テオは、ズルッグが、野生ポケモンが自分たちのことをそこまで気にしてくれていることに驚いていた。

エメリク「ねえ、イベルタルに気をつけろよ……って言ってたよね」

テオ「…ああ」

エメリク「……僕たちが助けたから、ズルッグはまた生きていける。
    助けられて良かったね」

エメリクは、テオをチラリと見てからアブソルとフラベベにそう言った。
 ▼ 30 X夕虹X 25/09/08 20:04:14 ID:Z6.M/pao [2/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「じゃあ、テオ。次は…あの山に行ってみようか」

テオ「ああ。どうにかしてアイツを止めなきゃな」

フラベベ「ラベべ!」

アブソル「アブゥ」

そして一行は、イベルタルが居るらしい山へと向かい始めた。



◆•◆•◆



それから時間は経ち、夜になった。

2人と2匹は野宿の準備をとっくに進め、今は夕食にありついていた。

エメリク「テオの料理うまっ!! 2つの意味で!」

フラベベ「ラベべ〜!」

アブソル「アヴッ」ドヤ

トレーナーを褒められて嬉しそうなアブソルである。

一方テオは、そんなことは両親以外に言われたことがなかったので、少し照れていた。

テオ「はは…別に…そんなこと」

エメリクは、そんなテオが新鮮だったので少し遊んでみようかと思った。

思っただけだったが。


エメリク「ふぅ…おかわりー!」

テオ「自分で入れろよー…」

相変わらずテオは、褒められているというのになかなか素直になれていない。

エメリク「はぁい」

エメリクは(ツンデレか…)と思いながら立ち上がった。
 ▼ 31 X夕虹X 25/09/08 20:18:05 ID:Z6.M/pao [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「テオ、あれ見てよ」

テオ「ん?」

ご飯をよそいに来たエメリクは、テオにそう話しかけた。

テオはエメリクの指さす方を見て、少しだけ目を見開いた。



フラベベ「ラベ〜♪」

アブソル「アヴヴ」ドヤ

フラベベ「ラベべ?」

アブソル「アヴ、アヴゥー」

フラベベ「フラァッ!」ニコニコ

アブソル「アブゥ…」ニコリ



エメリク「僕たちも、ああいう風になれたら良いな」

思わずエメリクが本音を漏らすと、テオも本音で言葉を返した。

テオ「俺もそう思う…」

エメリク「え…?」

エメリクがきょとんとしていると、フラベベの悲鳴が聞こえた。

フラベベ「ラベー!!」


エメリク「っどうしたのフラベベ……ああっ、テオの特製ポケモンフーズがぁっ!」

テオ「……こぼしちゃったんだな」

エメリク「ごめんねテオ…ほら、謝って!」

フラベベ「ラベェ…」

テオ「いや良いよそんくらい。ほら、その…美味しそうに食べてくれれば嬉しいんだよ、俺は」

エメリク「おおっテオのデレ、頂きました!」

テオ「うるさい」

アブソル「アブゥ、アヴ!」フーズニアゴクイッ

エメリク「そうだね、まだおかわりもあるし。新しいの入れよっか」
 ▼ 32 X夕虹X 25/09/10 20:48:54 ID:9zlwVAMM [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
そしてみんなの夕食は終わりーー



◆•◆•◆



次の日、朝。

エメリク「おはよー!」

テオが目覚めると、テントの外にはすでにエメリクが居た。

テオ「朝、早いんだな」

エメリク「へへっ、昔からなんだ」

エメリク「あの時も、ピクニックが楽しみで…朝早く起きてたんだ」

エメリクの顔が陰ったのを見て、テオは直感した。

あの時とはーーエメリクがゼルネアスと会った時のことだと。

テオ「……フラベベは?」

テオが話を変えると、エメリクはわずかに顔を明るくさせて言った。

エメリク「フラベベは朝が苦手でね…散歩に行く時しか早起きしないんだよ」

テオ「そうか。アブソルは、特に朝は苦手じゃあないんだが…昨日疲れたのかな、まだ寝てるな」

テオは切り株を枕にして眠りについているアブソルを見ながら呟いた。
 ▼ 33 X夕虹X 25/09/10 20:56:59 ID:9zlwVAMM [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「確かに、昨日はすごい歩いたよね。今日も歩くと思うけど、平気かな?」

山の方を見ながらそう言ったエメリクに、テオは微笑んで返した。

テオ「こいつなら平気だ」



エメリク「フラベベー、おはよーう」

エメリクはテントの入り口をがばっと開けて叫んだ。

対するフラベベは、エメリクが叫んだ5秒後に飛び上がって起きた。

テオ「……」

フラベベ「らべべっ…」

エメリク「5秒だからセーフ! 朝ごはんの時間だよ〜」

テオ(フラベベすごいな…朝が苦手だって聞いたけど、ホントにそうなのか?)

テオがこっそりそう思っていると、フラベベはテントから少し離れた場所にいたテオの横を通り、アブソルに声をかけた。

フラベベ「ラァべ!」

アブソル「アヴヴ……アヴ?」

テオ「起きたな、アブソル。おはよう」

アブソル「アブゥ!」

エメリク「おはよー。じゃあ、今日もみんなでテオのご飯を頂こう!」

アブソル「アブブー!」

フラベベ「ラァべ♪」

テオ(なんかそういう反応されるとやっぱり照れるな……)
 ▼ 34 X夕虹X 25/09/11 20:52:34 ID:90HIYUpM NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「ごちそうさまぁ!」

フラベベ「ラァべ!」

アブソル「アヴッ!」

テオ「ごちそうさま」

そして2人と2匹は朝食を済ませた。

エメリク「おいしかった〜」



◆•◆•◆



ここはとある村。

村人は、愚痴を漏らしていた。

村人「あーあ、またひんしのポケモンが落ちてるよ」

村人2「ポケモンセンターに連れてかなきゃな」

村人3「可哀想なポッポ…どうすればこんなこと収まるんだよ?」

そんな3人とポッポの元に、2つの人影が姿を見せた。

エメリク「あのー、どうかしたんですか?」

村人(見たところ10歳を少し過ぎたくらいか…)

村人たちは少しだけ警戒しながら、ポッポを見て状況を説明した。

村人3「実は、僕たちがここに来たらポッポがここで倒れていたんだ」

村人「多分木の上から落ちたんだ。最近こんなことが多くてね……」

村人2「次は自分のポケモンじゃないかと、気が気じゃないんだよ」

ポッポを心配に思ったフラベベは、近づいてポッポを撫でた。

エメリク「そうなんですか…」

エメリクは頷き、真剣な表情で山の頂上を見上げた。

アブソルもエメリクと同じく山の上を見ている。

テオ「貴方たちは、どこに住んでいるんですか?」

村人「この上の村だ。若干空気が薄いんだけどね、平和で良い村だよ」

テオが問うと、村人は朗らかにそう答えてくれた。
 ▼ 35 X夕虹X 25/09/12 07:28:35 ID:HpgsnDbs [1/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
テオ「行くぞ、エメリク」

エメリク「はぁい。2匹とも、ほら」

アブソル「アヴ」

フラベベ「ラア〜」

テオは3人に軽く会釈をして、山の上を目指し歩いていった。

アブソルは、そんな主人の様子を見てため息をつき、後を追う。

一方エメリクは村人にお礼をした。

エメリク「ありがとうございます! では、僕たちはこれで」

フラベベ「ラベ〜!」

村人•2•3「「「ああ、元気でな」」」



◆•◆•◆



テオ「はぁ、ここか…?」

エメリク「みた、い、だね」

村らしきところにたどり着いた2人は疲れ切っている。なぜなら、そう、空気が薄いからだ。

アブソル「アヴ…」

フラベベ「ラベべ?」

2匹は疲れてはいるが、人間ほどではないようだ。

そんな一行の元に、1人の老人が近づいてきた。

老人「お前さんたち、なにをしておるんじゃ。ここは子どもが来る場所ではない」

エメリク「っ、どうしてですか?」

エメリクが聞くと、老人は伸びた髭を弄りながら答えた。

老人「なぜって、分かるじゃろう? ここは空気が薄いからじゃ。少しでも走ろうものなら、酸素が足りなくなってしまうぞい」
 ▼ 36 ズマオウ@リゾチウム 25/09/12 07:53:34 ID:iQzAHvrI NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
神スレ
 ▼ 37 X夕虹X 25/09/12 20:45:56 ID:HpgsnDbs [2/2] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
老人「迷っただけでなく、理由があって来たのなら、止める気はないのじゃが」

エメリク「理由っ…勿論あります」

エメリクは迷うことなくそれを口にした。

エメリク「イベルタルに会いに来たんです!!」

老人「…!」

その言葉を聞き、老人ははっとした。

それから2人に背中を向け、一言呟いた。

老人「イベルタルのことが知りたいのならーー儂についてこい」

テオ「…っ」

テオは、その老人の背中から、今までイベルタルに苦しめられてきたのだろうと感じた。

アブソル「アルー…」

フラベベ「ラベ…」

2匹も、老人からただごとではないという雰囲気を感じとっていた。
 ▼ 38 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/15 15:53:06 ID:alO2uN6I [1/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
老人「失礼するぞ、クレーにルヴォン」

テオたちが老人の後をついていくと、老人はある家のドアを叩いた。

老人「入れてはくれんかね?」

「ああ、その声はゼェルか?」

すると中から声がして、カチッとその扉のロックが解除される音がした。

そして扉を開けて姿を現した老人に、テオたちと共にいた老人は笑いかけた。

老人「ルヴォン、この2人にちと話をしてやって欲しいんじゃが……」

ルヴォンと呼ばれた老人は、それを聞いて「珍しいな」と言った。



◆•◆•◆



テオとアブソル、エメリクとフラベベはルヴォンの家に入れてもらった。

テオ「はぁ、お邪魔します」

アブソル「アルル」

エメリク「お邪魔、しまぁす」

フラベベ「ラァべ」

ルヴォンの後を追うと3人と2匹は和室に出た。

そこには既に1人お婆さんがいた。

お婆さん「あら、その子たちは?」

問われて彼らが答えようとすると、それをルヴォンが遮った。

ルヴォン「まあまあ、クレー。取り敢えず彼らを座らせてあげようではないか。この村に慣れていないのじゃろう、息切れしておるからの」

クレーと呼ばれたお婆さんは、「あら、本当だわ」と言った。
 ▼ 39 ース@あいいろのたま 25/09/15 15:57:08 ID:63X.YrPQ NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
どう道に迷ったら酸素が薄くなるほど標高の高い山の頂上に辿り着くんだよ爺さん
 ▼ 40 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/15 16:14:34 ID:alO2uN6I [2/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クレー「ごめんなさいね」

エメリク「あ、いえ…」

ルヴォン「兎に角そこに座りなさい。座布団ですまないが」

テオ「いや、全然……失礼します」

老人「礼儀正しいんじゃな」

老人が、ふ、と笑ったのを見てフラベベの顔がほころんだ。

その隣で、テオとアブソルとエメリクは座布団の上に座らせてもらった。

それから2人はそれぞれ自己紹介をした。

テオ「俺はテオです。こいつは、相棒のアブソルです」

アブソル「アヴ」

エメリク「僕はエメリクです、はぁ、こっちはパートナーのフラベベ、です…」

フラベベ「ラベッ♪」

3人の老人は2人と2匹の話を聞き、どちらかというとアブソルが気になるようだった。

クレー「アブソルね、珍しいポケモンを連れているのね」

ルヴォン「そうだなぁ、そういえばこの村にもおるのぉ、野生のアブソルが」

テオは少し焦ったように言った。

テオ「あの、俺のアブソルは、悪い奴じゃなくって…」

しかし老人はテオに諭すように言った。

老人「分かっとるよ、そのアブソルはーーいや、アブソルというポケモンは災いを呼んでいる訳ではないとな」

老人「ほれ、そのアブソルの毛並み。綺麗じゃの。ストレスが無い証拠じゃ、即ちトレーナーと本音で向き合えているということじゃな」

テオ「…!」

確かにアブソルの毛並みは、テオがいつも整えている訳ではないのに艶々としていた。

クレー「そうですよ、アブソルのことを気にする必要はないのじゃよ。私の名前はクレー」

ルヴォン「オレはルヴォンじゃ。それより、君たちはなんの用があってここに来たんだ?」

ルヴォンが話を戻すと、老人は険しい顔をした。

老人「……イベルタルのことが知りたいそうなんだ」
 ▼ 41 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/15 16:32:25 ID:alO2uN6I [3/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
クレー「…イベルタル?」

ルヴォン「…イベルタルか…」

2人は一瞬真剣な顔をし、しかしすぐに笑い飛ばした。

クレー「ああなんだ、アイツのことかい」

ルヴォン「あっはっは、アイツのことならなんでも聞いていいぞ」

老人「……」

それなら、とエメリクはクレーとルヴォンに聞いた。

エメリク「この村に、イベルタルがいると、聞いたんですけど…」

ルヴォン「アイツはのぉ、よくこの村に来るのじゃ。そんなに珍しいことでもないぞ」

クレー「よくここに来るから、いつも森が枯れちゃうんだけどね。木はすぐに伸びるし大したことないのよ」

フラベベはぞっとした。森が枯れるなんて、あまり見たいと思う光景ではないからだ。

その時、話している彼らの窓越しに鳥ポケモンが飛んできた。

ヤヤコマだ。

アブソルはヤヤコマを顎で示し、それを見てテオは尋ねた。

テオ「鳥ポケモンとか、森に住んでいるポケモンは大丈夫なんですか?」

クレー「ああ、それねぇ。森が枯れた時はバッタバッタと木から落ちてるわよ、確かに」

ルヴォン「だがのう、この村のポケモンセンターに連れていけばみんな回復するからの」

はっはっはと笑う2人の横で、老人は「軽く考えすぎなんじゃよ」と呟く。しかしルヴォンは「そっちこそ重く考えすぎじゃ」と笑いながら言い返した。


3人の穏やかな雰囲気に、思わずエメリクは微笑んだ。

テオは真剣な表情で窓越しにヤヤコマを眺めていた。

フラベベは悲しそうな表情で黄色の花を見ていた。

そしてアブソルはそわそわと落ち着かなさそうに家の中を見回していた。家の中ではなく、その外にある空かもしれないがーー
 ▼ 42 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/15 17:24:12 ID:alO2uN6I [4/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
◆•◆•◆



結局そのあとは雑談タイムと化した。

クレー「最近は本当に暑いのぅ」

エメリク「え、そうですかね?」

クレー「ええ。貴方達はここが涼しいと思うかもしれないけど、昔に比べれば暑くなってるのよ」

ルヴォン「全くじゃ、早く涼しくならんかのう」


しかし老人は黙ったきりであった。

テオはその表情をこっそりと観察した。

微笑んではいるのだが……無理して口角を上げているように見える。

テオ(やっぱり、この村に起きていることは笑って済ませられるほどヤワな事じゃない……イベルタルを止めなきゃ)

だが、テオは少し引っかかることがあり、それを3人に尋ねた。

テオ「話が戻るんですけど、イベルタルがこの村によく来ているのって…いつからですか?」

クレー「えっ、そうじゃの……」

ルヴォン「…9ヶ月くらい前からだ」

思い出すことができて安堵しているクレーをよそに、テオは思っていた。

テオ(……今年からだ)

と。
 ▼ 43 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/15 17:52:21 ID:alO2uN6I [5/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
◆•◆•◆



やがて昼になった。

昼食をご馳走して貰ってから、テオとエメリクはこの山を下りることにした。

ルヴォン「まだいてもええのにのぉ」

エメリク「でも、そんなに居させてもらっちゃ悪いですよ」

フラベベ「ラァ!」

テオ「それに、俺たちにはやらなきゃいけないことが沢山あるんです」

アブソル「アルゥ」

クレー「また来るんじゃぞ、ここに」

クレーがにこりと微笑み、ルヴォンとエメリクと老人も笑みを漏らした。しかしテオの笑みだけは悲しげだった。

テオ(俺はーーその時にはもうイベルタルに命を返してるよな……)


テオたちが森の中に姿を消すまで、老人たちは彼らを見守っていた。

しかし姿が見えなくなると、ルヴォンが老人に2つ質問をした。

ルヴォン「ゼェル、あの少年たちは何故イベルタルのことを聞きに来たんだ?
    そしてお前はその願いを聞いてオレたちのところに彼らを連れてきた。なんで自分で話そうと思わなかったんだ?」

老人はーーゼェルは、後者の質問にのみ答えた。

ゼェル「彼らの為じゃよ」

だが、ゼェルには前者の答えも分かっていた。


《エメリク「イベルタルに会いに来たんです!!」》


ゼェル(あの切羽詰まった声……そして真っ直ぐな眼。きっとイベルタルを止める為に来たのじゃろう。
   だがあのテオといった少年とアブソル……何故だろうな、彼らには二度と会えないような気がするんじゃ……)
 ▼ 44 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/15 18:03:55 ID:alO2uN6I [6/6] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
止めた方が良かったのだろうか。

昔からゼェルの予感はよく当たる。

テオとアブソルにはもう会えないという予感は当たっているような自覚もあった。

だから、止めた方がーー

しかしゼェルはそれ以上考えるのをやめた。

ゼェル(覚悟はしているようじゃったし……自分の生き方を決めるのは自分自身じゃ)



◆•◆•◆



エメリク「良い人たちだったねー! って、やっぱり息苦しい…」

フラベベ「ラァべ?」

心配するフラベベに大丈夫だよ、と告げるエメリクを見ながら、テオは思った。

確かに、あの人たちに会えて良かったーー



◆•◆•◆



老人たちのことを話しながら山を下り始めて3時間。

一行は山をようやく通り越せた。

エメリク「だけど、これからどこに行こうか?」

エメリクがそう問うが、テオにも答えは出せなかった。

するとアブソルが山を振り返った。それを見て、テオは少し考えてから言葉を口にした。

テオ「まだこの山の近くにいた方が良いかもしれない」
 ▼ 45 ツノカイナ@たいりょくのハネ 25/09/15 18:14:34 ID:pY3IAru. NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
エメリク(笑)が命貰ったのが6年前でテオ(笑)が命貰ったのが3年前

で、イベルタルが別に二人のゆかりの地なわけでもない山に現れたのが9か月前

この時間のズレとこの流れで「自分の命を回収しに来た」とテオ(笑)が思った理由。その両方が違和感なく回収されたら一気に神SSやな
 ▼ 46 テボース@アマカジのあせ 25/09/15 22:22:07 ID:L3q21IzQ [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>45
名前にXとかつけちゃうキッズが頑張って書いてるんだからほっといてやれ
 ▼ 47 ンリュウ@おしゃれカードあお 25/09/15 22:34:02 ID:L3q21IzQ [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
キッズssにしてはよくできてると思うからイッチは自信持っていいよ
 ▼ 48 ョボマキ@キュウショウロ 25/09/15 22:41:33 ID:ZK.AiG3w NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
>>46
正直途中までは「展開おっそいしオリキャラ(笑)痛いけど、内容は割と気になるんだよなぁ」と思いながら読んでた

流れぶった切ってツンデレがどうの臭いノリ始めたシーンと「僕達の村は空気薄いよ」→「はぁはぁ……空気薄いなぁ」→「ここは子供が来るところじゃない。空気が薄いからな!」で諦めた
 ▼ 49 テラ@フォトアルバム 25/09/16 03:15:36 ID:J.fQlNJE NGネーム登録 NGID登録 報告
このSSが上に来る度に誰が読んでるんだろって思ってたけどちゃんと読んでる人いたんだ
 ▼ 50 ガジュカイン@ピカピカだんご 25/09/19 20:41:01 ID:aNYAhkWI NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「はー、今日も疲れたぁ」

エメリクはんーっと伸びをした。

フラベベも同情している。

フラベベ「ラベべ」

テオ「そろそろ寝ろよ」

アブソル「アヴ」

エメリク「はぁい」

エメリクはテントに向かう。しかし途中で立ち止まり、テオの方を振り返って「でもテオも僕と同い年でしょ? 寝ないの?」と聞いた。

だがテオは首を横に振った。

テオ「俺はちょっと考えたいことがある」

エメリク「ふーん……早く寝なよ」

言われなくても、と呟くテオを見て、エメリクは安心したように微笑んだ。

エメリク「おやすみ」

フラベベ「ラベェ」

アブソル「アル」

テオ「…おう」

エメリクとフラベベがテントの中に入るのを自分の目で確認してから、テオは地面に座り込んだ。

アブソル「アヴ…?」

ズボンが汚れるよと言いたげなアブソルに、テオは「大丈夫だよ」と言い放った。

それよりもテオには気になっていることがあった。

テオ(なんで今年からなんだ…?)

そう、イベルタルがあの村に初めて来たのは今年からだということが分かったからテオは頭を悩ませていた。

テオ(そもそもイベルタルが起きたのは、俺が住んでた村じゃないのか? 俺があそこでイベルタルを見たのは9ヶ月前なんかじゃない)

テオ(だったらなんで態々俺のところに来たんだ? 偶然なのか?)


アブソル「アルゥ…」

アブソルには主人が考えていることが分からなかったが、ただ彼の横に擦り寄った。
 ▼ 51 ルッグ@カムラのみ 25/09/20 09:25:01 ID:tX9MyGTc [1/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオは、そんなアブソルの毛並みを左腕に感じてフッと笑うが、同時にフラベベのことも思い出してまた考えに耽った。

テオ(エメリク……あいつも命を貰ったんだ。6年前にーーじゃあ、まさかイベルタルはエメリクの命も狙ってるのか?)

テオ(それは………)


《「ゼルネアスを知っている人と旅に出ようってね!」

 「おはよー!」

 「幼かったって大人になったって、テオはポケモンを助けたいって! 目の前で傷ついているポケモンを、助けたいって思ってる筈だよ!!」

 「ありがとうございます!」

 「おやすみ」》


テオ(それだけはーーやめてくれ……)

自分ではない誰かに、テオがそう思ったのは初めてだった。

だから自分でも驚いた。

まさか俺が、誰かに死んで欲しくないと、思うなんてな……


アブソル「アヴゥ…」

気づくとアブソルはもう寝ていた。

テオはアブソルに毛布をかけて、自分もエメリクと同じテントに入った。
 ▼ 52 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/20 09:44:45 ID:tX9MyGTc [2/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
名前を入力し忘れてました、すみません



そして何事もなく夜も更けていくのかと思われたが……

エメリク「……オ! ……テオ、起きて!!」

テオ「ん……?」

テオが深い眠りについていると、突如体を揺さぶられ声をかけられた。

テオ「なんだよ?」

彼自身も認めるほど寝起きに強いテオに、エメリクは外を指差してみせた。

エメリク「外が!!」



急いで外に出てみると、そこには信じられない光景が待っていた。

寝る前までは緑が盛んだった森が、みんな白に染まっていた。

テオ「そ、そんな……」

アブソルはとっくに起きていて、フラベベはそんなアブソルにしがみついていた。

エメリク「僕も寝てたんだけど、急にフラベベに起こされたんだ。フラベベは寝てる間でも、こんなことになってるって気づいたらしくて……」

エメリク「フラベベに誘われて外を見たら、びっくりしたよ」

アブソルはその時にはもう起きてたよ、と言うエメリクの言葉で、テオはハッとした。

アブソルはあくタイプで、イベルタルも同じあくタイプだーー

しかし直ぐに首を振った。アブソルは外で寝ていたから、この異変に気づいただけだ。タイプは関係がない筈…

エメリク「あっテオ! あれ見て」

その言葉でテオは我に返った。
 ▼ 53 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/20 20:18:33 ID:tX9MyGTc [3/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そして、エメリクの視線の先を見て驚いた。

テオ「あれは、イベルタル!?」

そう、そこにいたのはイベルタルだった。

テオ「なんでだよ……!」

テオは頭を掻きむしった。

なんで、なんでまたイベルタルと会うんだ。

テオ(なんであの日からいろんなことが起こり出すんだよ?)


その隣でエメリクはしっかりとイベルタルのことを見ていた。

エメリク「イベルタル……」

その途端、イベルタルはエメリクの方を睨んだ。しかしその視線はテオに突き刺さるように向けられているのに気が付く。

エメリク「なんで? なんでテオなの!?」

エメリクがそう叫ぶが、ふいと背中を向けてイベルタルは口から光線を発射した。それが当たった木はどんどん白に染まっていく。

エメリク「やめろ!! 奪わないで!」

その悲痛な叫びはイベルタルの行動を止めることはない。

だが叫び続けるエメリクを見て、アブソルとフラベベも鳴き出した。

アブソル「アヴゥゥゥ!」

フラベベ「ラベェェェ!!」

最初は気にせずに森から命を奪っていくのみだったが、やがてイベルタルは、もう耐えられないとばかりにこちらに狙いを定めた。

イベルタル「イガァッ」

テオ「ッ! おい逃げろ!!」

思わずテオがエメリクに飛びつくと、彼らの頭上をイベルタルのドス黒い光線が通り過ぎた。

テオはエメリクを押し倒した格好のまま、イベルタルにこう叫んだ。

テオ「頼む、俺以外の人から何も奪わないでくれ…!」
 ▼ 54 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/21 19:39:32 ID:no3Uygcw NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イベルタルはそれを聞くと、振り返って何故か山の奥に飛び去ってしまった。

それを見届けると、テオはエメリクから離れて、安堵のため息を漏らした。

テオ「何するんだよ、エメリク。相手はイベルタルだぞ?」

エメリク「でも……」

エメリクは反論しようとして、だがブンブンッと首を横に振った。

エメリク「テオ、ありがとう。僕のことを助けてくれて」

テオ「……ん」

テオは照れたように俯く。しかし、今のエメリクにはそれをツンデレだと囃し立てる余裕は無かった。

その代わりにと言うべきか、んーっと伸びをしてから、フラベベに「寝よう、明日も歩くからね!」と話しかける。

フラベベ「ラベー!」

それを見てテオは首を少しだけ傾げ、「どこに行くのか決まってるのか?」と質問する。

エメリクは、当然だと言うふうに笑った。

エメリク「勿論、イベルタルが行った方向だよ。アイツを追おう、それしか手はないでしょ?」


テオ「だな」

テオは微笑むが、その後に鋭い目つきでイベルタルの飛んで行った方向を見た。

テオ(飛び去る前ーー確かに俺のことを睨んだ。
  イベルタル、俺は、逃げないからな。俺は立ち向かわなきゃいけないことがあるって、分かってる)

一方のエメリクは、不安げな表情をしながらテオと同じくイベルタルが飛び去っていった方向を見つめた。

エメリク(でもイベルタル、一体どこに行く気なんだろ……)
 ▼ 55 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/22 18:13:23 ID:WS.AARjI [1/5] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
次の日の朝。

エメリク「テオ! おはよう」

テオが外に出ると、エメリクは既に起きていた。

テオ「ん……おはよ」

アブソル「アルゥ!」

ふぁ、と欠伸するテオに、アブソルがそう挨拶した。

テオがそれに返そうとするとフラベベにも挨拶されたので、テオは同時に挨拶を返した。

テオ「お早う、アブソル、フラベベ」

テオ「…ん?」

ふとテオは香ってくる匂いに気が付く。

つい鼻をひくひくさせるテオに、エメリクはどこか楽しそうに告げた。

エメリク「へへ、今日は僕が朝ごはん作ったんだ!」

フラベベが、「自分も手伝ったんだよ」と言う風にこう鳴いた。

フラベベ「ラベべ〜♪」

エメリク「兎に角こっちこっち!」

テオは、エメリクはいつもテンションが高いな、と今更ながら思った。
 ▼ 56 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/22 18:39:53 ID:WS.AARjI [2/5] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「おぉ…」

目の前にある料理を見て、テオは正直驚いた。

テオ「エメリクが作ったのか?」

それ以外あり得ないのに、テオは思わずそう呟いた。

エメリクはそんなことには突っ込まず、「うん」と頷いた。

テオ(クオリティが高いな……確かに自分で料理が出来なきゃ困るだろうが、ここまで上手いなんて…)

テオは密かにそう思った。

エメリク「ほらほら、食べてみてよ!」

エメリクは目を輝かせている。よっぽど自分の料理の腕に自信があるのだろうか。

その視線の先で、アブソルに袖を引かれながらテオはレジャーシートの上に座った。

テオは唾を飲む。

彼の前に存在するのはフレンチトースト。

テオ(美味そう…)

テオ「頂きます」

そしてフレンチトーストを口に放り込む。

…………

テオ「うまっ!」


その叫びが思わず口をついて出た。

エメリク「本当? やったぁ!」

エメリクが無邪気に喜び、テオはもう一口頬張る。

テオ(なんでこんなふわふわしてんだ…?)

それを見てアブソルは「アルー!」と一口をせがむ。

テオがアブソルの口に同じように放り込むと、アブソルは笑顔になった。

エメリク「僕の料理を誰かに喜んでもらえると、嬉しいんだよね」

テオ「…分かるよ」

微笑みながらそう呟いたエメリクに、テオは同調した。
 ▼ 57 クケイル@テラピースゴースト 25/09/22 20:02:49 ID:2RVoOZcg NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>エメリク「僕は…テオと旅がしたいんじゃない。しなきゃいけないような気がするんだ……だから、テオが嫌なら一緒に旅をするのは諦めようと思ったよ。」

>エメリク「でもねーー今のテオの眼が、人生を楽しんでるような眼に見えないんだ!!」

ここどういうこと?
 ▼ 58 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/22 20:23:57 ID:WS.AARjI [3/5] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
>>57
一応「今、自分(エメリク)が何かしなければテオはずっと人生を楽しめないままかもしれない」というエメリクの思いから来たセリフです
自分と旅をしなくてもいいけれど、せめてこれだけは言わせてという表現がすっぽ抜けてるので訳わかんなくなってます、国語力少なくてすみません
 ▼ 59 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/22 20:26:52 ID:WS.AARjI [4/5] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
今更なんですけどこの企画に参加してます
このssより遥かにレベルの高いssが集まってるので是非覗いてみてください

【SS企画】ポケモンBBS ファイナルラストSS企画 【9/27〆切】

https://pokemonbbs.com/post/read.cgi?no=2381088
 ▼ 60 ワルン@ドーミラーのかけら 25/09/22 20:29:42 ID:f5pU6XV6 NGネーム登録 NGID登録 報告
>>58
『したい』じゃなく『しなきゃいけない(使命感)』なんだったら断られても食い下がらなきゃおかしくね?
 ▼ 61 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/22 20:58:22 ID:WS.AARjI [5/5] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
>>60
彼は諦めきれなかったという設定で…あのホントに国語力なくてすみません
次から気をつけます

個人的なお願いなんですけど、もし読んでくださってる方がいれば批判でもなんでも書いて頂きたいです
 ▼ 62 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/24 20:27:08 ID:DhskWblY [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
◆•◆•◆



テオ(美味かった……)

アブソル「アル」

テオ「ご馳走様でした」

エメリク「僕もご馳走様〜」

フラベベ「ラァべ」

やがてそれぞれフレンチトーストやポケモンフーズを食べ切り、片付けを始める。

そして一行はテントを仕舞い、荷物をまとめて出発した。

エメリク「さあ行こう!」



◆•◆•◆



「そういえばさ、なんでアブソルっていつも外で寝てるの?」

そう話を切り出したのはエメリクだった。

エメリク「テントの中で寝ないのかなーって」

テオ「え、ああ」

テオは正直迷った。しかしエメリクの純粋な視線に誘われ、取り敢えず少しだけ訳を口にした。

テオ「こいつにもトラウマがあるんだよ……」

エメリク「っ……」

エメリクは視線を泳がせてから、歩く足を止めてアブソルに目を合わせた。

エメリク「ごめん……変なこと聞いちゃった」

アブソル「アヴ…」

テオ「気にしてないから、大丈夫だ」

アブソル「アル」

エメリク「ん…」

テオが歩き出してエメリクもその後を追うが、暗くなった空気は消えない。

そこでフラベベはある花を見つけ、落ち込んでいるパートナーに指差してみせた。
 ▼ 63 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/24 20:46:52 ID:DhskWblY [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「ん…? あっ、綺麗な花だね」

エメリクは顔を綻ばせた。フラベベは喜んでくるっとターンした。

エメリク「ふふ……」

フラベベ「ラベ♪」

2人が見ている花は、真ん中に位置するめしべとおしべの集まりの周りから、縦長の赤に染まった花弁が何枚も顔を見せていた。

それを見てテオはその花を見せたフラベベの真意を知り、少し微笑んでからエメリクに声をかけた。

テオ「ほら、行くぞ?」

エメリク「あっ、うん。ありがとう、フラベベ」

フラベベは頷いた。



◆•◆•◆



テオ「ん?」

テオは目の前の道を見て少し迷った。

テオ(3つに分かれてるな……どこに行けば良いんだ?)

エメリクはそんな彼の表情を見て、元気づけるように呟いた。

エメリク「きっとどこに行っても素敵な出会いがあるよ」

彼はそれから苦笑いした。

エメリク「でもどの道にしよっか」

フラベベ「ラァべ〜」

テオはふぅとため息を吐いて、アブソルに助けを求めた。

テオ「どこが良いと思う?」

聞かれたアブソルは何故かそわそわとしだした。

テオ(なんか予感するのかな? こいつはそういうとこあるからな……)

テオ「1番良さそうな道にしてくれよ」

アブソルは3つの道をそれぞれ見つめてから、真ん中の道に一歩踏み出した。

アブソル「アヴー…」

テオ「そっちか。まあ、分かれ道くらい天の神様の言う通りで決めても良いんだけどな……たまにはやっぱりお前の意見も聞いた方が良いだろ」

テオは謎に誰にともなく言い訳を口にして、真ん中に伸びた道を歩き出す。

エメリクとフラベベとアブソルも、彼の後を追って進んで行った。
 ▼ 64 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/25 20:35:43 ID:1bws.igw [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「ふぅ、ちょっと疲れたな…」

テオは本音を漏らした。

それから足を止めて、頬の汗を手で拭った。

エメリクはそんな彼の様子を見て、「休もっか」と言った。

しかしテオのプライドが邪魔して、思わず心にない言葉を吐いてしまう。

テオ「いや、こんくらい大丈夫だ」

アブソル「アルー?」

アブソルは「ホントに?」といったような表情でテオに声をかけた。

エメリク「そうだよ、無理しなくてもーー」

彼がテオのことを心配してそう言うが、テオは「平気だって」と無理して笑った。

エメリク「もう……」

エメリク(どうにかしてテオを休ませなきゃ…)

エメリクはフラベベと目を合わせる。するとフラベベは何かに気づき、前方を指差した。

フラベベ「ラベ!」

エメリク「え、あぁっ、村だ」

エメリクの表情が明るくなった。

これを使えば、強引な手を使わずに休憩できるーー

エメリク「あの村に少し寄っていかない? 楽しそうな村だよ!」
 ▼ 65 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/25 20:51:50 ID:1bws.igw [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



テオとエメリクがその村に近づくと、1人の子供がピィを連れながら駆け寄って来た。

子供「ねぇねぇ、おにーさんたち! ぼくとあそぼー!」

彼はとても幼いようで、その小さな腕にピィを抱えている。背丈はテオとエメリクの太ももにたどり着く辺りの高さだ。

子供「あそぼーよ! あそぼーよ!」

エメリクが子供に手を引かれ、彼は身長差によりふらつきながらも子供の後を追った。

フラベベも慌ててエメリクたちについていく。

テオは、広場に座り込む縫いぐるみのもとへと手を引かれるエメリクを見て口角を上げる。

アブソルはパートナーの表情と子供たちの表情を見比べてから、テオに擦り寄った。

テオは哀しげな笑みを見せていた。


テオの視線の先では、子供がニンフィアの縫いぐるみを手に持ち、エメリクが持つサザンドラの縫いぐるみにそれをぶつけた。

それからサザンドラの縫いぐるみをエメリクが横に倒し、ニンフィアを子供が誇らしげに上に掲げる。

テオ(あの童話を真似してるのか……でも、あれはガラル地方に伝わってる話だけどな……?)

と頭を悩ますテオ。

いつの間にか彼の元に、ピィを抱えた子供がてくてくと近寄ってきていた。

テオ「…ん?」

子供「おにーさんもあそぼーよ! おにーさんはオノノクスね!」

テオ「……! ああ…分かった」

テオがその返事を言い終わるよりも先に、子供はテオの手を引く。

アブソルは微笑み、「アルゥ!」と鳴きながら子供とテオの後ろを歩いた。
 ▼ 66 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 16:40:37 ID:MtKMJjS2 [1/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
子供「オノノクスはわるいこでねー、たくさんのいえをこわしちゃうの」

テオはそんなことは一概には言えない、と思うが、幼い子供の考えることだ。正義があれば悪もある。たまたまオノノクスが悪役なのだろう。

そう考えながらエメリクをちらりと見やると、エメリクはにこにこと微笑んでいた。

自分が楽しんでいることを「おにーさん」にも楽しそうにしてもらえて、さぞ嬉しいんだろうな、とテオは思った。

その間にも彼の説明は続く。

子供「でもね、ニンフィアがこまってるひとたちをたすけるの!」

子供「ふぃあ〜!」

エメリク「おお、すごぉい!」

エメリクがそう子供に笑いかけると、子供は顔を輝かせた。

子供「でしょお!」

なるほど、そうすれば喜んでもらえるのか……と、テオはまた一つ学んだ。

子供はルンルンとご機嫌に続けた。

子供「ニンフィアのムーンフォース!」

子供「どぉーん」

子供がテオの持つオノノクスに向けてそう効果音を出したので、テオは慌てて話を合わせた。

テオ「うわぁ、やられたー」

それを聞いてエメリクが吹き出した。

エメリク「ははははっ…」

テオ「なんだよ」

テオがむっとしながらそう問うと、エメリクは笑いながら説明した。

エメリク「だってさ……テオのキャラに、合わなすぎて」

テオ「……」ムッ

彼はしかめ面をするが、子供が喜びながら「つぎはサザンドラのでばんだよ! サザンドラがなかまをたすけにきたのー」と言ったのでエメリクは笑うのをやめた。

エメリク「はーい。えっと…あれ? テオ、サザンドラの鳴き声って何だっけ?」

テオ「知らない……ガオーとかで良いんじゃないか?」

エメリク「確かに。がおー!」

そう言ってエメリクが縫いぐるみを揺らすと、子供はニンフィアの縫いぐるみを前に出した。

子供「ムーンフォース! ふぃあ〜」

エメリク「うわーやられたっ…」

テオは声を出して笑った。

彼は心からこの遊びを楽しんでいたーー
 ▼ 67 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 16:57:11 ID:MtKMJjS2 [2/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アブソル「アヴ…」

アブソルは穏やかに笑っていた。

パートナーがあんなに楽しそうにしているのを、久しぶりに見たからだ。

フラベベもアブソルに擦り寄った。

気付かない内にピィが子供の腕からすり抜け、アブソルとフラベベの側に来ていた。

ピィ「ぴー!」


しかし何故彼はこんなに楽しめたのだろうか。

簡単なことだ、きっと癒しが足りなかったのだろう。それを子供が持つ純粋さでテオを満たしてくれたのだ。



そして昼になる。



一行は子供が「おなかすいたからごはんたべよう!」と言ったので別れようとした。

しかし子供は近くにいたエメリクの手を握って引っ張った。

子供「ごはんいっしょにたべたい!」

子供「ピィ、いくよ!」

エメリクは思わずテオと目を合わせるが、小さな手で引っ張られたので子供にされるがままに動いた。



子供「ただいまー!」

子供はそう言ってドンドンと戸を叩き、家の扉を開けてもらおうとしている。

そこに、扉の向こう側から声がした。

「開いてるわよ〜」

声が高い…まだ若いのだろう。俺が言えることじゃないかもだけど。テオがそう思っていると、子供は扉を引いた。

子供「ほんとだー、ドアさんごめんね」

ドアを撫でる子供に、またドアの向こうから声がしたーー

「ドアさんは怒ってないよ、だって。中に入っていいよ〜」
 ▼ 68 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 17:10:28 ID:MtKMJjS2 [3/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
子供「わかった!」

そう返事をして子供は家の中に入る。

子供に手を離されたエメリクはテオを見やった。

彼はオノノクスとサザンドラとニンフィアを抱えていた。

エメリク「あっ、ごめん」

エメリクは謝る。

エメリク「返そうと思って置いてたら忘れてた」

テオ「いいよ、別に」

彼はアブソルーーの上に乗ったポケモンを見て続けた。

テオ「ピィ、君は中に入んなくていいのか?」

だがピィが答えるより先に家の中から会話が聞こえた。

子供「あのねー、ぼくね、おにーさんたちとね、あそんだんだ」

「あら、よかったね」

子供「いっしょにごはんたべたい!」

「え、連れて来たの?」

子供「うん、そこにいるよ」

途端ドタバタとした足音が聞こえ、ドアの向こうから女性が姿を現した。

「あっ、貴方たちね? ありがとう、息子と遊んでくれて」


とりあえず彼らは中に入れてもらった。

テオ「失礼します」

エメリク「失礼します…」

アブソル「アルゥ」

フラベベ「ラベ〜」

リビングへと入れてもらうと、その家の中はとても整っていた。

何がと言えば、その家の壁と一部の家具が白で統一されていたのだ。

そしてグレーの棚、ソファー、温かみを感じる木で作られたダイニングテーブルもあった。

エメリク「綺麗な家……」

エメリクは思わずそう呟いた。
 ▼ 69 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 18:07:21 ID:MtKMJjS2 [4/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
「ふふ、ありがとう」

子供の母親と思われるその人は微笑んだ。

テオ(ていうか綺麗な人だな……)

子供の母親「じゃあ、ご飯を用意してくるから」

子供の母親がキッチンに行こうとして、エメリクが言った。

エメリク「やった……いや、あの良いですよ、お構いなく」

テオも若干呆れながら言った。

テオ「全然俺らのことは気にしなくて良いですよ」

子供の母親「良いのいいの。あんなに喜ばせてもらっちゃって……」

彼女はそう呟くようにして言い、ピィを抱きしめる子供を見た。

子供の母親「とにかく料理を振る舞わないと気が済まないの。ねっ?」

テオ「……それなら…お願いします」

テオが頷くと、エメリクは喜びを露わにした。

エメリク「やったぁ!!」


子供の母親「はい、出来たわよ」

彼女は机にドンッと皿を置いた。

瞬間エメリクは顔をこれ以上ないくらい輝かせた。

エメリク「おいしそう……」

フラベベ「らべー…!」

子供の母親「食べて良いよ。この箸使って」

テオ「っ、良いですよ。割り箸持ってます…」

子供の母親「いいのよ。ね?」

彼女は子供にウインクする。子供はそれを見てから視線をテオたちの方に戻し、「つかっていいよ!」と言った。

テオ「なら…」

テオがちらっとエメリクを見ると、エメリクは既に箸を掴んでいた。

エメリク「ありがたく使わせてもらいますっ、いただきまーす」

エメリクがラーメンを啜りだしたので、テオも箸を握った。

テオ「…頂きます!」
 ▼ 70 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 18:27:50 ID:MtKMJjS2 [5/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「アブソルはこっちな」

テオは、口に食べ物を含んだまま立つのは行儀が悪いのを承知で立ち上がった。

それからリュックの中を漁り、ポケモンフーズの袋とそれ用の皿を2枚取り出し、そこにフーズを出した。

彼は「もう一個…」と呟きながら、もう片方の皿にもポケモンフーズを出す。

テオ(ピィは棒形にフーズが固まったやつを齧ってるから…良いのかな?)

そして袋を閉じ、リュックに仕舞った。

テオ(さて、続きを楽しませてもらおう……)

テオが麺を再度啜り、美味しそうに頬張る。

その隣ではエメリクが感激しながらラーメンを食べ進めていた。

エメリク「うっうまい…! 味付けはご自分で?」

子供の母親「いや、そんなことはないわ」

エメリク「だとしてもおいしー、時間調節が完璧ですよ」

彼女はそれを聞いて照れた。

子供は少なめによそわれたラーメンを食べていた。

子供「おいしいねー、ピィ」

ピィ「ぴぃ!」

アブソルとフラベベも微笑み合っていた。


エメリクが早めに食べ終わり、テオも最後の麺を食べ切った。

そしてスープを啜ってから、ラーメンの器を机に置いた。

テオ「ご馳走様でした……本当に美味しかったです」

子供はニコニコとしながら母親に笑いかけた。

子供「よかったね、ママ」

子供の母親「ええ。ありがとう」


そして彼らは机の上をしっかりと片付けた。


テオ「じゃあ俺たちは、失礼します」

エメリク「本当の本当にありがとうございましたっ」

子供の母親「良いのよ。それより、夜はどうするの?」

それはごもっともな質問だ。テオとエメリクはお互いに目を合わせた。
 ▼ 71 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 18:42:05 ID:MtKMJjS2 [6/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「広場の空いてるところで野宿しますよ」

子供の母親「あらまあ、そんなことを……出来れば私の家に泊めてあげたいけど」

そんなことを呟く彼女に、テオとエメリクは本気で慌てた。

テオ「あっあっそんな! 大丈夫ですって全然」

エメリク「平気です! 平気です!」

アブソル「アッアルー!」

フラベベ「ラベ!? ラベーッ」

2人のパートナーたちも驚き慌てる。

それを見た子供は「かわいいね」と呟いた。

子供の母親「でも、出来ないのよね」

テオ「お気持ちは有り難かったです」

エメリク「僕たちには気持ちだけで大丈夫です、まだまだ子供なので」

続いた子供の母親の言葉に、テオとエメリクは少し安心した。

今日初めて会った人の家に泊めてもらうなんて、とても申し訳なくて出来ないからだーー

そんな2人に、彼女は続けて大事な情報を伝えてくれた。

子供の母親「だけどね、安心して。この村にはホテルがあるのよ」


テオとエメリク、アブソルとフラベベは、子供の母親に別れを告げた。

テオ「ありがとうございました!」

エメリク「また来ます、絶対」

隣のエメリクの言葉を聞いて、テオはひっそりと思った、

テオ(また会うなんて、俺には出来ないんだろうな……)

アブソル「アルウー!」

フラベベ「ラアベー!」

子供の母親「ええ、また来てね!」


料理をご馳走してもらった恩人に背中を向けて彼らは歩き出す。

そんな一行に子供とピィがついていく。

子供「こんどはちがうポケモンもってきたからね!」

ピィ「ぴぴ!」
 ▼ 72 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:05:35 ID:MtKMJjS2 [7/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そうして午後もポケモンなりきりで過ぎていくのだった。

テオ「ムゲンダイナだぞ、がおー」

子供「いくよザマゼンタ! うるぉーーど!」

ピィ「ぴぴぴーい」

エメリク「あっ、うん、ザシアン! えと……」

子供「うるぅーーど、だよ」

エメリク「うるぅーど? うるぅーーどっ!」

フラベベ「ラベェーラ!」

テオ(まただ…なんかこの子、ガラル地方に詳しいな……気のせいか?)

テオ(ていうか何で俺は悪役なんだよー!)

アブソル「アル……」


やがて空が暗くなってきた。

子供「くらいね、ぼく、かえらなきゃ…」

エメリク「うん…ここまでにする?」

子供「うん……」

この遊びをやめる流れになり、子供は悲しそうな顔をした。

子供「いやだな……まだあそびたかったな」

ピィ「ぴー…」

暗い顔をする子供とエメリクを見てテオまで気分が暗くなり、なんとかこの空気を変えられないかと思いこう発言した。

テオ「でもさ、また明日会えるから。な? 明日遊ぼうぜ」

子供「…!」

彼はにこーっと笑った。

子供「うん! また明日ね!」
 ▼ 73 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:17:56 ID:MtKMJjS2 [8/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「頼むよ、テオ……僕お金は持ってないんだ」

テオ「ギリギリの状態で生活してたのは、俺もだよ…今度ポケモンバトル吹っかけてみっか」

エメリク「だね。稼がなきゃ」

13歳の2人は、あるホテルでそんな会話を交わした。

テオ「…はい」

受付のお姉さん「確かに丁度、お預かりしました。では良い夢を〜」

エメリク「じゃ、行こっか。その56号室に」

フラベベ「ラベ!」

テオ「ああ」

フラベベとテオとアブソルはそう返事した。


そして56号室。

エメリク「ああー!! 良いベッド!」

フラベベ「らべ〜」

エメリク「こんな風にベッドにダイビングするの、憧れだったんだよねぇ!」

テオ「ふふ、そうか」

アブソル「アルッ!」

エメリクはベッドに寝そべってこう呟いた。

エメリク「あーもう寝ちゃいそう……」

テオが「歯磨きはしたんだろうな?」と聞くと、「もちろん」と返ってきたので彼は安心した。

テオ「じゃあ、ゆっくり寝ろよ。俺はまだ少し起きてるよ、準備終わってないから」

エメリク「じゃー遠慮なく…」

そう言ってそのまま眠りにつこうとするエメリクだが、「ねえ、テオ」と続けて呟いた。

エメリク「明日……絶対あの子に会ってまた遊ぼうね」

テオ「……」

テオはエメリクが寝る直前まで彼のことを考えていると知って微笑んだ。

それから一言だけ告げた。

テオ「勿論だよ」
 ▼ 74 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:19:54 ID:MtKMJjS2 [9/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
なんでだろうな……

テオは朦朧とした意識の中でそう思った。

なんでアイツの夢を見るんだ…………



エメリク「おはよー!」ガッ

テオ「うわっ」
 ▼ 75 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:38:46 ID:MtKMJjS2 [10/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
送信ミスです

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なんでだろうな……

テオは朦朧とした意識の中でそう思った。

なんでアイツの夢を見るんだ…………



エメリク「おはよー!」ガッ

テオ「うわっ」

テオは驚いた。無理もない、ゆっくりと眠っていたのに突然窓のカーテンを開けられたのだから…。

テオはそれにすぐさま気づき、文句を垂れた。

テオ「なにすんだよ、人が寝てるのに」

そう言いながらも彼はんーっと伸びをする。二度寝する気は無いようだ。

一方のエメリクは、「えへへ」と笑った。

エメリク「こんな感じで起こしたらテオってどうなんのかなーと思って」

テオ「どうもこうもないだろ…?」

そう呟きながらテオが隣を見ると、アブソルがお腹を出して寝ていた。

魔が差して、テオはアブソルの腹をちょいっとくすぐった。

途端にアブソルは飛び上がって起きた。

アブソル「アゥっ!」

フラベベはそれを見てふふっと笑った。

フラベベ「ラベべ♪」

アブソル「アヴ…」


エメリク「さて! 朝ごはん食べて、あの子に会いに行こう!!」

フラベベ「ラベー!」

テオ「値段は高かったけど、朝ごはんが付いてるのは良いよなぁ」

アブソル「アヴ!」
 ▼ 76 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/26 20:51:49 ID:MtKMJjS2 [11/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
そして一行は朝ごはんを済ませて、ホテルを出た。

テオ「良いホテルだったな」

エメリク「うん!」

だが、行く先に人だかりを見つけたので彼らは近づいてみることにする。

エメリク「なんだろ…?」

そう呟くエメリクの隣でフラベベが震えているが、誰も気づきはしない。

テオ「あのー、なにかあったんですか…?」

テオはそっと人だかりに近づき、1人の村人らしき人に尋ねた。

その村人はちらっとテオを見た。

テオ(なんだ…? 血の気が失せてる)

テオがそれに気づくと同時に、その村人は衝撃の事実を口にした。

村人「人が………死んでる」

テオ•エメリク「「!?」」

アブソル「アル!?」

フラベベ「ラァ…!」

だが、死んでいると言われると見てみたくなってしまうものだ。

後悔するのは分かっていても、2人の視線は人だかりの真ん中へと移る。

そしてーー目に入る。


子供の死体が。


テオ「…………っ」

エメリク「…………!!」


アブソルは「それ」を目にはしなかったが、主人の反応。そして、足元に落ちていたオノノクスの縫いぐるみ。

それだけで察した。


一方テオの体は震えている。

テオ(嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ。なんでだよ? こんなの、悪夢かよ)

この現実が夢であってほしいと、テオが本気で願ったのはこれが2回目だった。
 ▼ 77 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:08:33 ID:ANKcQSsY [1/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
隣にいるエメリクも唖然としていた。

エメリク(な、なんで…? だって、き、昨日まで……)

エメリクはそれが本当のことなのかを確かめるために一歩前に出た。

彼は女性を軽く押し除けながらもあの子に近づいていく。

テオ「お、おい、エメリク……」

絞り出すようなテオの声がエメリクにも届くが、エメリクは足を止めない。

そしてしゃがみ込みその子供に触れた。

エメリク(冷たい………)


エメリク「な……なんで!」

彼はこれが現実なのを嫌でも知らされた。

エメリク「ねえ、起きてよ……僕たち、会いに来たよ…?」

エメリクはとうとう死体に話しかけ始めた。

テオは見ていられなくて俯いた。

テオ「ばか……やめろよ………」

エメリク「ねえ、また遊ぼうよ?」

彼が子供にかける言葉に、集まっていた人たちは涙腺を刺激されたようだった。

エメリク「なんで……? 約束したのに………あんなに楽しみにしてくれてたのに!!」

エメリクは叫んだ。


その途端、彼のその声よりも遥かに大きい声がその場を覆った。




テオ「もう戻ってこないんだよ!!!」




エメリクは歯を食いしばった。

分かってるけど……でも!

その周りに立つ村人たちはただ涙を流している。

村人「まだ、未来があったのに」


そんな彼らのもとに、2つの人影が近づいてきた。
 ▼ 78 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:25:55 ID:ANKcQSsY [2/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
女性「あ、れ……よ」

子供の母親「っ………メットン……」

その内の一つは子供の母親のものであった。

もう一つは、彼女と肩を組んで彼女を支えている女性のものだった。

テオとエメリクは、子供の母親のことを見て目を逸らした。

そしてエメリクが立ち上がり子供から少し遠ざかると、彼女は自身を支えてくれていた女性から離れて我が子の側に駆け寄った。

子供の母親「どうして…? メットン……そんな、嘘でしょ」

彼女は目を見開いた。

口頭で知らされていても、実際に見るまでは納得できないだろう。しかし今、変わり果てた彼の姿を見てしまった。

納得するしか無かったーー。

子供の母親「メットン…メットン!」

彼女は子供に覆い被さり、泣き出した。

フラベベも声を上げて泣いた。

フラベベ「ラベェェェッ…ラァベッ!」

エメリクもテオも泣きそうだったが、2人ともパートナーに泣いている姿を見られたくなかったので泣くことは無かった。


1人が、おずおずと前に進み出た。

男性「あの、僕たちが………1番最初に見つけました」

子供の母親は、涙を流しながらも必死で言葉を続けた。

子供の母親「うっ……メットンは、昨日夕食を、食べ……終わった時、に、オノノクスの縫いぐるみをっ…忘れたって言って。それで、取りに行って………」

子供の母親「帰ってくるのを、ま、待ちながら、ソファーに横に、なったら、ぐっすり、眠ってしまって………! ついさっき、目覚めたの………っ」

テオはそれを聞いてはっとした。

テオ(俺が………確かに、置いた)


隣でアブソルが、俯きながらオノノクスの縫いぐるみを咥えている。


テオ(じゃあ……)




俺のせい、なのか
 ▼ 79 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:38:42 ID:ANKcQSsY [3/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告


ふとフラベベが空を見上げた。

つられてエメリクも、悲しみで歪んだ顔で空を見上げる。

そこには、

エメリク「あっ、Y…!!」


その声で、周りの人も次々と上を見る。


テオとアブソルも見た。

そこには、

確かにアイツがいた。


テオ「くそッ!」

早合点かもしれないが、テオとエメリクはこう解釈したーー

《イベルタルが彼の命を奪ったのだ》と。

エメリクが「待てよ!」と叫ぶが、イベルタルはテオと目を合わせた。

テオ(あの目……なんでだろう、早く来いよ…って伝えてるような気がする)

テオ「分かったから! もうこれ以上奪うな……!!」

村人たちも、テオの言葉につられてイベルタルが彼の生命を消したのだと理解した。

彼らは、イベルタルに話しかけるテオを変だとは思わなかった。

何故なら、イベルタルのしたことに気を取られ、それほどまで心の余裕が無かったからだ。


テオは飛び去るイベルタルを睨みながら、リュックを背負い直した。

テオ「行くぞ」

アブソル「アル」

呟くテオに素早く返事する。それから、アブソルは悲しみの涙を流す子供の母親に《忘れもの》を届けた。

子供の母親「これはっ、オノノクスの…!?」

アブソル「アル…」

大事にしてあげてね…

そう言ったように、彼女には聞こえた。
 ▼ 80 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 08:50:15 ID:ANKcQSsY [4/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリクも「うん」と頷いた。

エメリク「もう許さない…絶対にっ!」

許さないからといって奴をどんな目に遭わせるのかを考えるエメリクでは無かったが、ただ「許せない」。その気持ちが誰よりも強かった。

フラベベ「ラベ…!」

フラベベも怒っていた。

未来があったのに、命を消されるのが、彼には許せないことのだ。

アブソルは静かにイベルタルを睨んでいた。

主人がそうしていたからかもしれないが、それ以外の理由をテオは知っていた。

昔からだが、アブソルは正義感が強い。

旅の仲間が、村人たちが、子供の母親が、悲しんでいるから。だから彼は、奴のせいでまた誰かが悲しむことが無いように、動くのだ。

テオは仲間たちの思いを仕草で感じ取り、それぞれの思いの強さを知った。

テオ(こいつらなら、きっと、立ち止まることはないだろうな)

そう感じながら、テオは歩き出した。

テオ「俺たちはーーアイツをまた繭に戻す」

アブソルとエメリクとフラベベも後をついていく。

その後ろで、村人たちはただ祈っていた。

ただーーイベルタルの強さに、彼らが呑まれないように。望まずに志半ばでその命が途切れることが無いようにとーー。
 ▼ 81 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 13:49:40 ID:ANKcQSsY [5/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「…………」

エメリク「…………」

しかし、勿論のこと暗い空気が変わるわけでもない。

アブソルとフラベベは思わず目を見合わせた。



それから3時間。太陽が彼らの真上から日差しを降り注がせる。

相変わらず一行は無言だ。

ずっとこのままにしておく訳にもいかないので、アブソルが手を打った。

フラベベ「…ラベ?」

アブソルは2人の前に出る。

フラベベは首を可愛らしく傾げた。

そしてアブソルは、頭の突起に力を溜め……

アブソル「アヴッ!」

ーー振り切った。

前の草むらは[ザザザッ]と音を立てて切れた。

アブソルはふふんと誇らしげにするが、エメリクが「うわぁすごい…」と言っただけで人間たちの反応は終わった。

…………

アブソル「アルッ!?」

フラベベ「ラベベッ!」




ここで、一生懸命フラベベがアブソルを宥めている前を歩くテオの心情を覗いてみよう。

テオ(あの子が、なんで……)

テオ(俺の、せいだ……俺さえ居なけりゃ……)

テオ(俺なんかよりも、あの子が生きてた方が良かったのに…!!)

…彼は、どうしようもない自己嫌悪に駆られていた。

テオ(今こんなことを考えたって仕方がないのは分かってる。でも……)
 ▼ 82 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 13:59:32 ID:ANKcQSsY [6/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告





一方のエメリクはといえば……

エメリク(テオ、ずっと悩んでるな……)

エメリク(僕にはどうもできないのかなぁ? そもそもアブソルの活躍にすら目もくれないぐらいだし……)

エメリク(僕、テオの為になにも出来ないのかな……テオにこんな思いさせるくらいなら、旅に誘わなきゃ良かった)

友達のことで悩んでいた。




フラベベ「ラベー…」

アブソル「アル…」

アブソル「アルッ!」

落ち込んでいたアブソルだったが、いつまでもそうしている場合でもないので気持ちを切り替えた。まあ、フラベベまでも落ち込ませたくはないと思ったのかもしれないが。

アブソル「アウ…」

だけど、彼らのために何をしたら良いのだろう?

フラベベ「フラ…」


一方、テオの考えは別の方に進んでいた。

テオ(大体エメリクは何でゼルネアスの夢を見たんだ?)

テオ(6年経ってるらしいし、エメリクの命は特に気にされてなさそうだけどな)

テオ(にしても……

  3年……

  6年……

  9ヶ月……

  なんかあったような気がするんだよな、この日付…………)


突然、アブソルがはっとした。

アブソル「アル! アルル!」

テオ「っ、なんだよー?」

テオが思うに、彼は昼食の時間にしたがっているようだった。
 ▼ 83 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 14:14:04 ID:ANKcQSsY [7/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「……はい。料理の準備も出来たし、あとは料理するだけか…」

でも、この心境で料理でもしたら焦がしそうだな、とテオが思っているとアブソルが彼を押し除けた。

アブソル「…アルッ!」

テオ「料理すんなって言いたいのかよ?」

アブソル「…アウ!」

フラベベ「ラァべー!」

エメリク「フラベベ、君まで…」

2人はポケモンたちの思いを汲み取り、2匹に任せてみることにした。

彼らはもともとポケモンたちの意思を尊重してくれるトレーナーなのだ――。


アブソルは、主人のリュックから勝手に材料を持ってきた。

アブソル「アルル」

フラベベ「ラベ♪」

そして具材をフライパンの上に広げる。

因みに若干信じ難いが、この時のアブソルは二足で立っていた。

それから火を点ける――

フラベベ「ラベ!? ラベベェッ!」

アブソル「アル……ルヴ、アルッ」

どうやら油を入れるのを忘れていたらしい。

後から油を入れ、今度こそ火を点けた。

そうして2匹は楽しそうに2人で料理を続けた。



昼ごはん。

テオ「っ!? これ……作ったのかよ?」

アブソルはテオを料理台の方に呼んで、完成した料理を見せた。

テオ「す、スパゲッティだよな……えぇ、嘘だろ」

アブソルはふふんと誇らしげにする。今度は、テオがアブソルの頭をなでた。

テオ「すげぇよ、アブソル」

アブソル「アルー♪」

その横でフラベベが、1匹でその皿を持ち上げようと努力していた。
 ▼ 84 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:01:59 ID:ANKcQSsY [8/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
というわけで一行は、少し穏やかになった空気の中で朝食を頂いた。

テオ「……美味いな」

エメリク「うん! 美味しい」

アブソル「アルー!」
 ▼ 85 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:24:12 ID:ANKcQSsY [9/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
送信ミスです

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というわけで一行は、少し穏やかになった空気の中で朝食を頂いた。

テオ「……美味いな」

エメリク「うん! 美味しい」

アブソル「アルー!」

フラベベ「ラベ♪」


しかし、そのムードが消えてしまうと元に戻れないものだ。

2人はまた黙ってしまった。

アブソルとフラベベは思わずため息を吐いた。



そして次の日。

結局人間たちは昨日の夜もろくに話さずに就寝し、今は朝。

テオ「…ん」 

テオがピザトーストが乗った皿をエメリクに差し出す。エメリクも「…うん」と言って受け取った。


そして全員朝食を終えた。

アブソルは伸びをした。

また、今日も静かな旅になってしまうのか――



なってしまった。



次の朝、今度こそ。



ダメだ、今日もだ。




今日は、絶対に―――空気を変えてみせる。
 ▼ 86 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:42:51 ID:ANKcQSsY [10/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
この3日間で、テオには変化があった。

それは、精神の問題であった。

テオ(あー、もう……くそっ!)



そう、彼は確実にこの3日で精神的に追い詰められていた。



テオ(早く着けよ……なんでまだ山頂に着かないんだ! くっ……)

ただ前に足を動かしている。


それはエメリクも一緒である。

しかし彼は、精神的に余裕があった。

エメリク(どうしよう、この空気のままイベルタルに会っても、チームワーク悪くないかな?)


アブソルは、主人の精神状態が日に日に悪くなっていっていることに気がついていた。

アブソル「アゥ…」


フラベベは、近づいている決戦の時を感じて、このままで良いのかと焦っていた。

フラベベ「ラベ…」



そして、日没の時間が訪れる――

訪れてしまう。




テオ「…ちそうさまでした」

ぼそっと呟き、テオは立ち上がった。

彼らは今日は早めにご飯を食べ、明日の朝早くから後少しの山頂への道を進もうと計画していたからだ。

エメリクに関してはもう食べ終わっており、切り株に座って俯いている。

テオも、することがないので切り株に座る。丁度、焚き火を跨いで反対側にエメリクとフラベベが見えた。

することが無い時に彼の頭の中を巡るのは――

変わっていることはなかった。前と同じ、子供のことだ。

テオ(俺は、あの子の命を消したも同然なんだ。俺さえ居なけりゃ、アイツに狙われることなんて無かったはずなのに)

テオは俯く――
 ▼ 87 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/27 20:54:42 ID:ANKcQSsY [11/11] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告



エメリク「っ……いい加減にしてよ!!!」

突然、エメリクは叫んだ。


テオは正直驚いた。ポケモンたちは悲しげに俯いている。


エメリク「テオがあの子のこと後悔してるのは分かってる! でも、いつまでもそんな――」

テオ「だけど! あの子には未来があったんだぞ!!! それを、俺が奪ったんだっ!!」

テオは思わず反論した。ずっと引け目を感じていたことを正直に叫んだ。

テオ「俺さえ、居なかったら――」

エメリク「だけど!!!」

しかし一線を超えた言葉を吐きそうになるテオに被せてエメリクは伝えた。


エメリク「今、アブソルもフラベベも僕も、テオも生きてるよ!! でもあの子はもう、奪われてしまったんだから…仕方ないんだよ……!!」


テオ「仕方ないって、そんなの冷た………」

ふと、テオは言葉を止めた。

思わず、そこで起こっていた現象に目が引きつけられた。

そこでは、






アブソルが涙を流していた。
 ▼ 88 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 17:53:31 ID:4Yt6C6mA [1/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アブソル「ウッ……アウ……」

エメリクもそれに気づき、一行の時間は止まったように思えた。

フラベベは、ただアブソルに寄り添い、彼の身体を撫でた。

アブソル「アゥゥ……」


そしてテオはようやく気づいた。


テオ(俺……ずっと迷惑かけてたんだ)

日は沈んでゆく。

空が黒みを増した。

テオ(俺……なんで、そんなことに気づかなくて……アブソルを………)

エメリク(アブソルも、ずっと辛かったよね……僕、なんも動こうとしてなくて、ごめん………)


フラベベはただ彼を撫でる。


テオもそこに近づき、アブソルを撫でた。

テオ「ごめん……アブソル……! 俺、こんなトレーナーで、ほんと……」

一瞬彼の目から雫が垂れたように、エメリクには見えた。

そしてエメリクも彼の側に行き、彼の背中を撫でた。

テオ「…?」

エメリク「……あのさ。テオ、絶対一緒にゼルネアスに会おうね」

テオ「な、なんでだ?」

だってさ、と言ってエメリクは続けた。

エメリク「僕たちを繋いでくれたんだ。だからさ」

テオ「! …おう」

テオは誰かとそんな約束はしたことが無かったので少し戸惑う。しかし直ぐに返事をした。


テオ(だけど…ああ、ゼルネアスで思い出した。3年前と6年前と9ヶ月前って、《あれ》が共通してるじゃないか)

彼はずっと思い出せなかったことを記憶の中から取り出せて、少し安堵した。




――その頭上で空は黒に染まっていく。



 ▼ 89 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 18:07:02 ID:4Yt6C6mA [2/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
突然、空を切り裂くような鳴き声が響いた。


「キィィィィィ――」


エメリク「な、何!?」

フラベベは怯え、アブソルは周囲をキョロキョロと見回した。

そのポケモンたちの様子を見て、テオは思う。

テオ「この様子……もしかしてアイツか」

エメリクはそれを聞いてびくっとした。

エメリク「えっ……じゃあ僕たちは、前もそうだったから山頂に向かおうとしてたのに、今度はアイツは山頂以外の場所にいるってこと!?」

テオ「ちょっと待て、山頂以外の場所以外の所にいるとは限んない。これは……」

テオ「俺たちがこの山にいることを感じて、山頂に呼び出そうとしてるのかもしれない」

エメリク「えっ…」

フラベベ「ラベッ?」

彼らは仲良く同時に同じ反応をして、お互いに目を合わせながら呟いた。

エメリク「なんで僕らを…?」

フラベベ「ラベ?」

テオは一瞬迷ってから、その言葉を彼らに口にする。

テオ「奴の狙いは俺だ……多分」

エメリク•フラベベ「「ッ!!?」」

アブソル「アヴ……」

テオは続けて、「俺は……アイツを怒らせちまったんだ、きっと」と告白した。

エメリクとフラベベは驚いてばかりだったが、少ししてエメリクは俯きながら呟くようにして問う。

エメリク「なんでそう思うのか……教えてくれない?」

テオ「でも、今多分アイツに呼ばれてるぞ。無視したら……」

エメリク「っだけど! そのことを知らなきゃ、納得できない」

納得出来なかったら――
 ▼ 90 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 18:28:58 ID:4Yt6C6mA [3/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「なにをするにも、集中できないから」

テオ「そうか……」

テオは少し考えて、「分かった」と決断した。

テオ「なるべく簡単に纏めるから、黙って聞いてるんだ」

エメリク「うん」

エメリクはこれから始まるテオの話になんとなく緊張し、ごくりと唾を呑んだ。



▼=▼=▼



今から6年前。俺は村で行われている祭りに参加していたんだ――

テオ(6)「あけましておめでとー」

その日は年明け3日目だった。

村人「おお、テオ来たか! あけおめことよろ〜」

テオ(6)「略すんなよ!」

村人「へへっ、悪い悪い」

村人「あけましておめでとうございます。今年も宜しくな」

テオ(6)「おう!」

【そうだ、俺の口調は昔から悪かったんだよ……って何言わせんだ!】

村人b「テオ君、あけましておめでとう!」

テオ(6)「おう、あけましておめでとうございます」

村人「ちぇっ女性には敬語でさー」

村人b「まあまあ……というか、少し来る時間がギリギリだったわね。ほら、そろそろ始まるよ」

テオ(6)「えっ、マジ?」

俺は驚いた。まあ母さんも父さんもいねーし、そもそも俺は時間を守るのって苦手だからな……朝起きんのも遅いし。

その時俺の後ろから声がした。

アブソル「アルー!」

テオ(6)「ん? あ、アブソル」

アブソル「アルーッ! アルゥッ」

テオ(6)「わ、悪かったよ……まだお前がいる生活に慣れなくってさ」

こいつはアブソル。俺の一人暮らしを心配した村長サンが、わざわざ手持ちの1匹を俺にくれたんだ! ……それが一週間前の話だ。
 ▼ 91 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 19:34:11 ID:4Yt6C6mA [4/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
だからまだ慣れない。当たり前だろ。

アブソルを手で撫でて宥めながら、俺はこの村の全員が視線を向けている方に目を向けた。

テオ(6)「あっ、ホントだ。火ぃつけてるな」

村人b「ええ」

俺らの視線の先で、村長サンが緑の盛んな植物の束にマッチをつけている。

何故かって? それはだな、Y――イベルタルに関係があるんだぜ!


――イベルタルは一度目覚めるとあらゆる命を吸い取り、やがてまた繭の姿に戻って眠ると言われている。俺はまだ本物は見たこと無いけどな。

そう、あらゆる命を吸い取る――そんな奴が、なんとこの村の直ぐ隣にある山に眠っているんだ。

だから、そいつが目覚めても機嫌を損ねてこの村に来ないように、この若々しい植物の《生命》を燃やしてるって訳だ。

命をアイツに渡しとけば、起きても割と直ぐ繭の姿に戻ってくれるみたいなんだ。だからこの植物の命を犠牲にしてるんだ……でもこれは千年も前から続いてる風習みたいだから、今更やめられねーんだな。


村人b「あの草、この村に生えてるのをみんなでむしったのよ。今日の朝の話なんだけどね」

テオ(6)「えっ、でも俺はそんなことしてないっすよ…」

村人b「ああ、良いのよ気にしなくて。テオ君はまだ小さいからね、もう少し大きくなってからかな」

村人「そうだ、無理して怪我しちゃいけないからな。育ち盛りなんだから」

テオ(6)「おう…」

[ボオッ!]

村人「あ、燃えたぞ」

テオ(6)「……」

テオ(6)(去年も見たけど、何回見ても、綺麗だな……命が消えるって、そんなに綺麗なことなのかよ?)

俺は疑問を持つが、少ししてはっとした。

テオ(6)「あっあれ、俺がずっと育ててた花だ…!」

アブソル「アウ!」

村人「えっ!?」

村人b「あれって、燃えそうになってる奴!?」

テオ(6)「ああ」

俺は、それに気づいた途端に体が動いたんだ。

絶対にあの花とまだ別れたく無い…!!

村人「おい! どこ行くんだよ!」

村人b「テオ君、その柵は超えちゃだめっ!」

アブソル「アルー!?」
 ▼ 92 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 20:29:57 ID:4Yt6C6mA [5/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
俺はみんなの声を無視して柵を越えた。

俺の目の前には炎が広がっている。


――でもまだあの花は燃えてねぇ!!


テオ(6)「くっ!」

テオ(6)(よし、掴めた! あとは戻るだけ――)

テオ(6)(っ!? 炎が、思ったより近くに……!)


アブソル「――アルッ!!」


テオ(6)(あっ…)

アブソルは柵を越えて、俺の側に来てくれていた。

俺はアブソルの体に丁度乗っかり、アブソルはそのまま走って柵を飛び越える。

アブソルはそこで俺を降ろした。

テオ(6)「あ……」

テオ(6)「た、助かった」

アブソル「アル!」

村人b「たーすーかーったじゃーなーいーでーしょー!」

テオ(6)「げっ…」

村人「嫌がってるのが露骨に分かるぞ」

村人b「もーう、無茶するんだから! 罰として……」

村人「お、おい?」

テオ(6)「ウッ……」

村人b「その花を! ちゃんと育てて、子供を増やすこと!!」

村人「……え」

アブソル「…アゥ」

テオ(6)「あー良かった……」



▲=▲=▲



テオ「という訳で6年前の話はこれで終わりだ」
 ▼ 93 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 20:44:01 ID:4Yt6C6mA [6/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「あ、うん…」

エメリク(花の命を大切にするなんて、やっぱり良い人なんだね!)

テオ「だが、その3年後、今から3年前にまた事件が起こるんだ」



▼=▼=▼



そして今から3年前の、年明けから3日後。

テオ(9)「あけましておめでとうございます」

アブソル「アルゥ!」

村人「オレにも敬語を使ってくれて嬉しいよ…」

テオ(9)「これからもよろしくな」

村人「…まあ、昔からの仲だからな。全部敬語でとは言わないよ…」

村人b「テオ君、あけおめ〜」

テオ(9)「はい! あけおめです」

アブソル「アウ!」

村人b「ことよろ!」

村人「段々テオも考えが柔軟になってきたみたいだな。あけおめ」

テオ(9)「おう」

村人b「…あ、今年もいよいよ始まるみたいね!」

彼女の言う通り、今年もまた村長はマッチを持って植物の束に近付いていた。

テオ(9)「だな」

村人「おう、楽しみだ」

俺たちはまた今年もその儀式を何事もなく見届ける。


はずだったのだが。


テオ(9)「喉乾いたな…水飲むか」

村人b「あ、水筒持ってきてたのね」

テオ(9)「ん。ゴク……」

村人「あっタツロウー!」

テオ(9)「ブフッ」

村人「あ、ごめんぶつかった…」
 ▼ 94 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/28 20:53:53 ID:4Yt6C6mA [7/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
だがもう時すでに遅し。

俺の水筒から水があふれ、今燃え広がろうとした炎にぶっかかった。

村長「…………」

村人「…………」

テオ(9)「…………」

アブソル「………」

村人b「…………」



▼=▼=▼



エメリク「え……今のが事件?」

テオ「そうだ」

エメリク「でも……そんなことで怒るかな?」

テオ「だけど、今までに俺みたいに儀式の邪魔をしてきた奴なんて居ないんだよ! だから……」

エメリク「うーん……」

フラベベ「……ラベ」

アブソル「アル…」

みんなで言葉を無くしているが、俺は続けた。

テオ「あともう一つある。今年の年明けの時の話なんだが………」



▼=▼=▼



今から9ヶ月前。

テオ(12)「明けましておめでとうございます」

村人「おう。今年も宜しくな」

テオ(12)「はい…お願いします」

村人(いやはや成長したものだ…ついに俺に敬語を使ったよ…でもなんか寂しいな。)

村人b「テオくーん! あけましておめでとう! 今年も宜しく」

テオ(12)「はい! 明けましておめでとうございます。今年もお願いします」

村人b「…そろそろ始まるわね」

村人「ああ。儀式がな」
 ▼ 95 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/29 20:31:48 ID:LWL6ap5w [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
俺たちは、またいつものように始まろうとする儀式を見守る。

だが、俺は重要なことに気がついた。

テオ(12)「しまった! アブソルのこと忘れてた…」

村人b「そうみたいね…一体あの子はどこにいるのよ?」

テオ(12)「うーん……実は、朝散歩に行った時にアブソルが薬草探しに行くって言ってさ。それっきり帰ってこないから、ここに来るついでに迎えに行こうと思ってたのに」

村人「えっ、じゃあ助けに行かなきゃ……て、もう儀式始まるぞ」

テオ(12)「ううん、俺、行くよ。あいつが入っていった森、イベルタルがいる山辺だから…!」

俺は途端に走り出す。

村人b「あっ、待って!」

テオ(12)「来るな! 危ないから……」



テオ(12)「はぁ、はぁ…おぉい、アブソルー? いるかー」


テオ(12)「ふっ…はぁ、アブソルー!! どこだよー?」

俺は彼の名を呼びながら、段々と山を登っていく。


テオ(12)「結構来ちゃったな……戻るか?」

俺はそう思い来た道を引き帰ろうとするが、ふいに目の前が赤く光った。

テオ(12)「ん…? 赤……」

テオ(12)「イベルタルが…居る、山……おい、まさか!」

はっとする俺。俺は、最悪の可能性を考えてしまい、思わず叫んだ。

テオ(12)「イベルタルの………

    ばかあぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」


その時、だった。



アブソル「アルー!」



横からアブソルが俺に飛び付いてきた。

テオ(12)「あ、アブソル、その草ゲット出来たんだな。これであの花も復活するはず……」




テオ(12)「って生きてたのかーー! 良かったぜーーー!!」
 ▼ 96 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/29 20:54:31 ID:LWL6ap5w [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
▼=▼=▼



テオ「そんで俺たちが下に戻ろうとした時、背中側が赤く光ったんだが……取り敢えず無視した」

エメリク「ああ……」

テオ「以上が、俺がイベルタルに怒られてると思っている所以だ」

エメリク「それは……確かに不味いよ」

テオは「だろ?」と言って、それから視線を山頂に向けた。

テオ「さてと、もう気になることは分かってもらえただろうし、最後の戦い……行くぞ、エメリク」

それを聞いて、エメリクは寂しそうな顔を一瞬見せたが、直ぐに顔をきりっとさせた。

エメリク「うん……行こう。イベルタルを止めるために」

そして一行は駆け出した。

テオ(俺は、命を懸けてでもお前を止めるからな……待ってろよ)

しかし、そろそろこの旅も終わるのであろうと思うと、何故かテオは少し寂しさを覚えた。



彼らがイベルタルの声がする方に向かうと、そこではイベルタルが地面に止まっていた。

しかしテオと目を合わせると、空に飛び上がった。

イベルタル「イガレッカ!!」

テオ「来たぞ……イベルタル!」

アブソル「アヴ…ッ!」

フラベベ「ラベ……!」

エメリク「……っ、イベルタル…」

それぞれは自分の闘志を高めながら、イベルタルを睨んだ。

当のイベルタルは、真っ暗な空に一声鳴いた。

イベルタル「キィィィィィ!!!」




それを見て、テオはにやっと笑った。

テオ「アブソル! ふいうち!!」

アブソル「アウッ!」ザッ

イベルタル「イガッ!?」
 ▼ 97 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/30 20:42:08 ID:4wJs8Zwc [1/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イベルタル「キィ…!!」

イベルタルは顔を顰めた。痛むのでは無く、突然攻撃を仕掛けてきたテオに怒っているのだろう。

イベルタル「キィィィ!」

そして、強い風を起こした。

テオ「あれは……ぼうふう!?」

エメリク「ええっ! フラベベ、気をつけてっ」

フラベベ「ラベェェッ」


テオ「くっ……アブソル! 躱して距離を詰めるんだ!」

アブソル「アルッ!」

アブソルはイベルタルの技を躱し、一気にイベルタルに近づいた。

テオが続けて「つじぎりッ」と指示すると、アブソルは頭の突起に力を溜める。

アブソル「アウゥッ」

アブソル「ヴゥー!!」

そしてアブソルはイベルタルに近づき、溜めた力は奴に放たれる。

しかし当然と言うべきか、イベルタルはそれに当たることは無かった。

イベルタル「イガァァァ!!」

イベルタルはそう鳴き、再度アブソルに攻撃を仕掛けた。

イベルタル「イグァアアアッッ」

エメリクがフラベベを抱きながらこう問う。「あの技はなんだろ…っ?」

途端、彼らの頭上に突如岩が現れ、落下してきた。

テオ「あれはっ!」

その間にイベルタルは更に高く舞い上がる。先程攻撃されたので警戒しているようだ。

しかしテオはにやりと笑い、こう言った。

テオ「アブソル、いわなだれに乗れ!!」

エメリク「あっ、いわなだれかぁ」

フラベベ「らべぇ…」

その指示を受けたアブソルは落ちてくる岩に乗り継ぎ、イベルタルの側に寄る。

イベルタル「イガ…ッ、」

イベルタルは驚いているようでアブソルを見たまま動かない。そして――

テオ「いけぇ! きりさく!!」
 ▼ 98 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/09/30 20:59:31 ID:4wJs8Zwc [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イベルタル「イガッ……レッ………」

イベルタルは地面へと落下し、衝突した。

イベルタル「キィィ……」

エメリク「い、今だっ。フラベベッようせいのかぜ!!」

フラベベ「ラァべーー!!」

指示されてフラベベはようせいのかぜを放つ。

イベルタルは顔を顰める。これは多分痛みからの表情だろう。

エメリクはフラベベに「止めて」と言い、イベルタルの様子を見た。


エメリク「…イベルタル。僕、分かんないんだよ……」

エメリク「なんで君が、人の、植物の、ポケモンの…生き物の生命を奪うのか………」


イベルタル「イガ…」

イベルタルは、エメリクの疑問を聞いて目を閉じる。まるで、お前は何も分かってない――そう言うように。




ふいに、テオはまだ地面に伏せたまま動かないイベルタルに近づいた。

エメリク「あっ、テオ。危ないよ?」

だが、テオは歩む足を止めない。



テオ(今だ、今がチャンスだ)

テオ(そもそも俺が先手を仕掛けたのは、隙を見てイベルタルに近づくためだったんだ)



テオ(大丈夫だ……間違ってない。俺は合ってる)



エメリク「な、なに……? やめてよ…なんで何も言わないの?」

フラベベ「ラベ…?」

その中でアブソルだけはテオのしようとすることを察し、アブソルの横を一緒に歩いた。

テオ「…? なにすんだよ、アブソル。お前は生きるんだ」

エメリク(お前「は」生きる……?)

エメリク(そ、それってまさか!)


エメリクも、テオの言葉で察した。
 ▼ 99 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 19:33:56 ID:/TPQjqfA [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
エメリク「だめだよ、テオ! まだこの旅は終わらせちゃいけない!!」

テオ「でも……俺の命は、返さなきゃなんだよ」

テオは地面を見た。

アブソルはそれを聞いて、「なら自分も」と言うように一歩前に出た。

テオ「でも、お前は……」

アブソル「アヴッ!!」
 ▼ 100 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 19:42:04 ID:/TPQjqfA [2/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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エメリク「だめだよ、テオ! まだこの旅は終わらせちゃいけない!!」

テオ「でも……俺の命は、返さなきゃなんだよ」

テオは地面を見た。

アブソルはそれを聞いて、「なら自分も」と言うように一歩前に出た。

テオ「でも、お前は……」

アブソル「アヴッ!!」

アブソルはテオが続けようとする言葉を遮った。

テオ「い、」

良いのか?

そう聞こうとするテオだが、ずっと共に暮らしてきたパートナーのことだ、その思いの強さは分かっていた。

テオ「……」

テオ「…分かった」

アブソル「アル」

1人と1匹は再度歩き出し、イベルタルに近づいてゆく。


エメリクはテオに叫ぶ。

エメリク「待ってよ! だったら僕も――」

テオ「ダメだ!!」

しかしテオはその願いを断った。

テオ(折角俺が消えてほしくないと思った命なんだ)

テオ(大事にしろよ…これからも、な)

フラベベ「ラベッ!!」


そのままテオたちは歩みを止めることなく、イベルタルの前に立った。

イベルタル「キィ……ッ」

テオ「イベルタル………」

アブソル「…アウ」
 ▼ 101 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 19:52:55 ID:/TPQjqfA [3/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ「俺の、命……」

しかし、



お前にやるよ。

その言葉が詰まって、出てこない。

なんでだよ?

テオ(俺が返さなきゃ、イベルタルは止まらない。そりゃ、なんでそう確信するのかは説明出来ないけど……)

テオ(兎に角、だから俺はこの言葉を言わなきゃ)



そう思っても言葉が出てこないテオの視界に、ふと輝く木のシルエットが見えた。

テオ(っ、あれは…!?)

テオ(ゼルネ、アス……だ)

テオは驚き、思わずゼルネアスを凝視した。

すると、その木のシルエットは、頷いた――ように見えた。




テオ「だよな……」ボソ




テオは頷き、イベルタルと視線を合わせた。

イベルタルはもう動けるようだったが、動かずにただじっとテオを見ているだけであった。



テオ「俺の、俺たちの、命。お前にやるよ」

アブソル「アウ」



イベルタルは立ち上がり、首を傾げた。

「本当に良いのか」と聞いているようだ。あんなに容赦なく子供の命を奪っておいて、それはどうなのかとテオは思う。

しかしテオは首を縦に振った。

テオ「ああ。間違いない」


エメリク「っそんな。ダメ! やめてッ!」

フラベベ「ラァべッ!!!」
 ▼ 102 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:18:08 ID:/TPQjqfA [4/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
イベルタル「…イガ」

イベルタルは翼を広げた。そして力を溜める。


テオ(デスウイングか……)

テオ(まあ良い……)

アブソル「アル……」


エメリク「や、やめてよ!!」

エメリクは状況を受け入れられず、「イベルタルに嫌われたからってそんな!」と叫ぶ。

だがテオはその叫びになんの反応も示さなかった。

それを見て、本当にもう命を渡すつもりなのだとエメリクは嫌でも知った。

エメリク(そんなぁ……テオッ…)

フラベベ「フラァべ…」


そしてテオは、今までの旅を振り返っていた。


テオ(…エメリクとフラベベと出会った時……コイツを見たな。
  イベルタルはあの時目覚めたんだと思ってたのに、コイツは俺に自分の存在を思い出させるためだけに村に来たんじゃないか、と今なら思うよ)

テオ(ズルッグに会った…あの時のエメリクの言葉、ちゃんと覚えてるぜ。
  お前の言った通りだよ。気づいてはいたのに、判れてなかったんだ、俺は)

テオ(その次は…あのお爺さんたちに会ったな。あの人と、ルヴォンさんと、クレーさん…そういえばお爺さんの名前聞いてなかったな…もう、一生聞けないのか)

テオ(そして、あの子に……会ったんだ。メットンって、彼のお母さんは言ってた……本当に申し訳ないよ。会えて嬉しかった。でも――それ以上に辛かった。
  アブソルに道を選ばせた時にアブソルが迷ってたのは、それでだったんだな。俺は、未来を知ってたら……他の出会いと、彼との出会い。どっちを選んでただろう………)

テオ(その後エメリクと喧嘩したよな……正直あれを喧嘩って言うのか分かんないけど。でも…エメリクとあんなに気持ちをぶつけ合ったのは初めてだった。
  短い旅だったけど、俺、何度もエメリクとフラベベとアブソルに、助けられたよな……)


そんな彼の思い出が、一瞬の間に一気に甦る。

それほどこの旅は内容が濃かった。逆に言うと、この旅をしていなければ、テオは薄っぺらい人生を歩んでいたのかもしれない。

テオ(良かったよ……アブソルがいて。フラベベに癒してもらって。俺が人生を楽しめてないことに気づいたエメリクが、諦め悪くて)
 ▼ 103 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:30:33 ID:/TPQjqfA [5/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオ(……ん?)

ふとテオは昔から持っていた疑問を思い出した。

テオ(そういえば、「ありがとう」ってどういう時に使うんだ?)

アブソル「…アゥ」

テオはイベルタルが溜めているデスウイングを横目に見ながら、アブソルを撫でた。

そしてテオは気づく。

テオ(あぁ、そうか…)

テオ(これが、感謝の気持ちなんだな。良かったよ、じゃなくってさ。俺は言わなきゃいけないんだ)

テオはふっと哀しげに笑った。

こんなことが、なんで今まで分からなかったのだろう。

それから、テオは大事な仲間たちに向かって叫んだ。





テオ「エメリクッ! フラベベェ! アブソルも…


  ありがとうーーー!!!」

アブソル「アウゥゥ!!!」



エメリク「ッ!」

エメリクとフラベベがはっとする間にも、イベルタルの光線はついに放たれようとする。

エメリクはフラベベに攻撃の指示を出そうとするが、ふと先ほどのテオの迷いのない眼を思い出した。


テオは、この選択に後悔なんてしてないんだ――。



エメリクも、気づいたらこう叫んでいた。




エメリク「ありがとう!!!! 

    テオッ、アブソルー!!」

フラベベ「ラァベベーーー!!」
 ▼ 104 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:42:51 ID:/TPQjqfA [6/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
テオの耳に、その声は届いた。

しかし、返事などする間もなかった。

イベルタルのデスウイングが、テオとアブソルに降り注ぐ――

エメリクとフラベベは、眩しさに負けて目を覆った。







エメリクが手を下ろし、イベルタルを見ると、イベルタルは空に飛び上がっていた。

既に、その真下の地面には誰も存在していなかった。

エメリク「あっ……」

フラベベ「フラ……」

イベルタルはそんな彼らを見て、一声鳴いてから飛び去っていった。

イベルタル「イガレッカ!!」


エメリクは、飛んで行くイベルタルを見る視界が歪んでいくことに気づいた。

当たり前だ、大切な仲間ともう二度と会えなくなってしまったからだ。

エメリク「ひぐっ……うぅ……あ”あ”あ”あ”!!」

フラベベも、涙を堪えきれずに溢した。

フラベベ「らぁ……べっ。らぁべぇ…!」

エメリク「ゎあああ…うっ……うぅう……」



暫くして、フラベベが突然泣き止んで地面に近づいた。

エメリクもそれが気になり、一度悲しみに暮れる気持ちを抑えた。

エメリク「…どっ……どうしたの?」

フラベベ「ラベ」

フラベベは地面を指差す。

そこに在ったのは――






エメリク「芽……だ………」
 ▼ 105 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/01 20:56:23 ID:/TPQjqfA [7/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「ここ、さっき、テオたちが、いた場所…だよね」

フラベベ「ラベ…」

エメリク「じゃあ、テオたちの生まれ変わり……?」

エメリクは若干ぶっ飛んだ発想を口にした。

しかしフラベベは頷いた。

フラベベ「ラァ!」

きっとそうだよ、という風に。

エメリク「だよね!? さっきまでこの芽無かったよね!!」

フラベベ「ラベべ!」

エメリク「ハハッ、やったぁ!」

エメリクは笑った。

エメリク「この木、大事に育てようよ! 僕たちで!」

フラベベ「ラァべ〜♪」


彼らは、笑った。

お腹の底から笑った。


笑い声はずっと響いてゆく――









――そしてX年後。

エメリクとフラベベは、老人と化していた。フラベベに関してはフラージェスになったし、老ポケと言うかもしれないが。

老人になったエメリクは、家にやってきた孫に笑いかけた。

エメリク「昔の話だけどね、僕の友達は木になったんだ」

孫「…えっ?」

エメリク「ほっほっほ……世界を救うため、だったんじゃよ」

現に、エメリクはあの時イベルタルを見送って以来奴の姿は見ていないし、噂にも聞いたことが無かった。

エメリク「彼は良い人だったよ……ほんの少ししか共に旅をしていなかったけど……本当に、楽しかった」

エメリク「笑うような楽しさよりも、なんじゃろうな……思い出すだけで、楽しいんじゃ。ずっと一緒に居たかったな」

孫「へぇ……」
 ▼ 106 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/02 17:55:28 ID:bXGsPMAE [1/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
エメリク「ほら、あの木が見えるじゃろう?」

エメリクが指差す先には、地面から葉の青々しい木が姿を見せていた。

エメリク「あれが、僕の友達だよ」

孫「えぇー、嘘ぉ」

孫は笑った。しかし、祖父の真剣な顔を見て笑うのをやめた。

エメリク「違うかもしれない……でも、あれは僕の友達が生きていた証なんじゃ。それは、誰になんと言われようと変わらん。のう、フラージェス」

かつてフラベベだったフラージェスは、黄色の花を抱えながら「ラジェ」と頷いた。

孫「そっかぁ……」

彼は木を窓越しに見つめ、ぼうっとしながら何かを考えた。

そして、ぱっと顔を輝かせた。

孫「あのさ、ボク、絶対いつになってもあの木を大切にするよ!」

孫「じいじの友達……枯らしたくないから」

友達を枯らしたくないから、という文章は、側から見れば滑稽な表現の仕方だろう。

しかし、エメリクはしっかりと孫の伝えたいことを理解していた。

エメリク「…ああ。頼むよ、スュイット」

祖父はにっこりと微笑む。

その隣で、2匹のフラージェスがフラエッテと笑い合っていた。



――2匹。

そう、2匹である。



孫は、いやスュイットは、へへっと笑った。

その空間は、穏やかな雰囲気に包まれている。

その中で、エメリクは木を見ながらこう思った。


エメリク(この木は、テオとアブソルかもしれないしそうじゃないかもしれない。でも)

エメリク(この木を見ていると、テオたちが隣にいるような気がする……誰からも忘れられる訳にはいかない)

エメリク(ちゃんと、僕の続きに――スュイットに、繋いでいくよ)

エメリク(ところで、彼の父さんはこの世に居ない――僕たちと一緒だな……




    ね、テオ)
 ▼ 107 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/02 18:05:56 ID:bXGsPMAE [2/3] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告










「あのさぁ、この村に棲みついている《イベルタル》って知ってるか?」

「あー、知ってる知ってる。人の命を奪う、悪い奴だろ」

「居てほしくないよなー、ホントに」






――彼らは、イベルタルが居なければゼルネアスとのバランスが取れないということを知らない。

そして――



ある少年たちの命の《始まり》と《終わり》に、イベルタルが関わっていたということも――










今では大木に育った木が、風でそっと揺れた。
 ▼ 108 X夕虹X◆34j.QwNiVw 25/10/02 18:08:57 ID:bXGsPMAE [3/3] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
これにて完結します

諦めずに最後まで読んでくださった方、途中までしか読まずに諦めた方、一回開いて僕の名前を見て諦めた方、とにかく少しでも興味を持ってくださりありがとうございました!
 ▼ 109 ルスワン@どろだんご 25/10/04 20:06:16 ID:opLwQ/vs NGネーム登録 NGID登録 報告
6年前・3年前・9か月前を上手く繋げた気になってそうで草

6年前、儀式で燃えるはずだった花をテオが回収した→面識すらないエメリク(笑)がゼルネアスに命を与えられた

3年前、意図せず儀式を邪魔した→なんか知らんけど雑に命を奪われ特に理由もなく命を与えられた

9か月前、イベルタルのバカヤローと言った→なんの縁もない山にイベルタルが住み着いた


マジでこれで問題なく回収出来てる気になってるなら大分おめでたいぜ

結局エメリク(笑)は全くいる意味なかったし
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