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【ファイナルラストSS】バイオロジカルデスマスの廃墟村ぶっ壊し大作戦

 ▼ 1 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:48:40 ID:UaAEe6O6 [1/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
◆◆◆◆◆◆


女『キミ、旅の人かしら?』

男「うわあああああっ!!」


男は恐怖した。腰を抜かした。
恐怖するには、十分なシチュエーションだった。

そこはとある山道。時刻は昼間であるはずだが、薄暗く霧が覆うそこは灰色に薄暗い。男は1人で山を登っていたはずだが、道すがらの放棄されたバス停に女の姿があって、それがいきなり声を掛けてくる。しかも人間の声ではない──スマートフォンからのものであろう、読み上げソフトの音声。男は既に腰を抜かして、山道に尻餅をついている。登山用の重装備でなければ、きっと腰を痛めていた。


女『そんなに驚くことないでしょう、ただの雑談よ』


男はなおもずりずりと後ずさりながら、女を観察する。……普通の女の姿に見えた。白い上着に、青いジーンズ。身軽そうだが、とても山登りをする格好とは思えない。麓のコンビニまで歩いても、ここからなら1時間かかるだろうに。尚更不気味だ。


女『雑談、嫌い?』

男「……雑談を振られる覚えがないんですよ」

男「……それも、スマホの読み上げソフトなんて」


だが、少なくとも。女に敵意はなさそうだ。男は少し考えた後、ゆっくりと立ち上がる。女はそれを見てくすりと笑って、ぽん、と廃バス停のベンチを叩く。座れ、ということだろうか。


女『持病で喉が潰れているのよ』

男「それは……申し訳ありません」

女『慣れているわ』


促されるまま、男はベンチに腰掛けた。きしり、天板が軋んで、このまま割れやしないかと悪寒が走る。だがそんなことはなく、女は男を見つめている。


女『それで? 雑談をしていいかしら?』

男「…………どうぞ?」

女『キミは何故この山に登ってるの?』

女『ただの旅の人ではないんでしょう? きっと理由がある』


そう問われて、男は考えた。どこからどこまで話すべきか。そう迷うのは真横の女が不気味な存在だから、というわけではなく、何時誰に聞かれたとしても、同様に悩み込む癖がついていた。
だがここ数年は、彼が出す結論は常に同じ。


男「世界を滅ぼす、悪の組織があったとして。死なないためには、どうすればいいと思いますか?」

女『さあ、難しいわ』

男「……滅ぼす側に回れば、多分死なない。昔の俺はそう思いました」

男「フレア団にいたんです、俺は」
 ▼ 2 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:50:32 ID:UaAEe6O6 [2/9] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
フレア団。一時期カロス地方にて活動していたテロリスト集団の名称である。目的は、カロス地方に存在する最終兵器を使用しての人類、およびポケモンの削減。
要は大量殺戮である。


男「別に俺は、誰かを殺したかったわけじゃない。でもフレア団でいられなければ、生きていけないんだと思った」

男「フレア団でいるために、死なないために……たくさんのポケモンを、殺すことを選んだ」


最終兵器は、多くのポケモンの命を搾り取って駆動する物。フレア団員としての彼の役割は、最終兵器のための犠牲として、ポケモンを大量捕獲することであった。
何十、何百と、ポケモンを殺した。直接手を下したわけではないが、殺されると知りながらポケモンを捕獲したのだから、それは彼が殺したことと変わりない。彼はそれが罪悪であると自覚して、自覚して尚、そうするしかなかった。
 

男「死にたくなかった」


男は臆病だった。

しかし。既に知られている通り、フレア団の結末は呆気ないものだった。青年カルムの活躍により組織は壊滅。男があれだけ恐れたフレア団は──社会の水面下に未だ残る残党を数えないのであれば、勇気ある若者の手で、倒されたのだ。
悪は滅びた。指導者フラダリも姿を消した。そして男は1人、取り残された。

取り残されて、罪を背負って、まだ生きている。


男「噂を聞いたんです」

男「この山の、上にある村。そこで……死者蘇生の技術が、開発されたって」

女『死者蘇生?』

男「はい。理論上、どんな存在でも──人間でも、ポケモンでも、蘇生が可能だって、聞きました」


どこで聞いた噂だったか。街中のゴシップだった気もするし、怪しげなネットニュースだった気もする。とりとめもない噂話。
しかし、男はそれを本気にした。確かめてみようと思い立った。彼は昔から、マヤ文明の滅亡予言やら、UFOによるキャトルミューティレーションやら、全部真に受けて生きてきた男だ。彼自身それを悪癖だと理解しているが、それでも止めずに生きている。


男「俺は、たくさんのポケモンを殺しました。そうしなければ自分が死ぬんだと思って、死にたくなくて、自分の意思でポケモンを殺した」

男「間違ったことをしました」

男「だから、俺は知るべきなんです。もしも、死者蘇生が本当なら──俺は、俺が殺したポケモン達を。蘇らせるべきだ」

女『それが、山を登る理由。なるほどね』
 ▼ 3 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:51:59 ID:UaAEe6O6 [3/9] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
この過去を話す度に、男は常に引け腰になる。誰かの怒りを買って、不意に殺されてしまわないかと恐れているのだ。しかし下手に伏せて話しても、後でこの過去が発覚したときにより酷い不興を買うのではないかと恐ろしくて、隠すこともできない。
補足するが、彼は決して逃亡者の類ではない。脛に傷持つ身ではあるが、フレア団での悪事はきっちりと裁かれ、刑務所に服役し、既に模範囚として釈放されている。最早追われることはない身だ。
だがそんなことは、彼にとっては関係がない。彼はかつて罪を犯し、命を奪い、取り返しのつかないことをした。その罪悪の自覚は、決して取り除きようがない。恐怖は抜けない。

男の内心を察したのだろう。女はわざとらしく、その場でうんと伸びをする。それからまたスマホに文字を打ち込んで、


女『わかったわ、話を変えましょう。キミの名前は?』

女『ワタシはバレンタイン。そう名乗ってるわ』

男「……まるで本名じゃないみたいな言い方ですね」

バレンタイン『オンナノコには秘密があるもの、なんでしょう?』


バレンタインと名乗った女の、その口振り──読み上げられた文面に、どこか男は不公平感を覚えた。自分ばかり情報を話して、損をした気分はなくもない。しかしそれを指摘するのも恐ろしいので、閉口する。
それに何より、男も似たようなものであった。昔の名前は名乗れない。……名乗れない理由も、本来はないのだが。それでも、あの頃の名前など、口にするのも恐ろしくて。だから。


男「……俺は、今は、こう名乗ることにしています」

男「シンダー。……俺は、シンダーです」


バレンタインはその名前を聞き届けて、スマートフォンを少し触って、それから納得したように小さく頷く。


バレンタイン『そう。燃えカス(Cinder)なんだ、キミ』

シンダー「……はい。いつまでも、燻っている」


《Side Cinder 余燼未だ潰えず》


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 4 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:53:03 ID:UaAEe6O6 [4/9] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
□□□□□□


コラッタ「社長ー?」

ピチュー「社長ー!! どーこですかー?」


とある、花畑にて。
声を張り上げて、コラッタとピチューが歩いていた。呼び掛ける声は高らかで、しかし返す者はない。
別の方向からアゲハントが飛んできて、問う。


アゲハント「社長いたか?」

コラッタ「ううん、どこにも」

アゲハント「やっぱりか……」


肩を落とすアゲハント。
そこに草花を踏み分ける足音がして、また2匹のポケモンが歩いてくる。


テールナー「戻ったわ」

ピチュー「社長いましたか?」

マッスグマ「いいや、いないや」


テールナーとマッスグマ。やはり、目当ては見つかっていない様子。
そこにもう1人、歩み寄ってくる足音。アゲハントは振り向いて、何でもないように問う。


アゲハント「どうだった? タクヤ」

タクヤ「いいや、いなかった」


聞かれた男は首を振り、アゲハントも溜息をついた。
 ▼ 5 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:53:52 ID:UaAEe6O6 [5/9] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
タクヤ「どこに行ったんだろうな」


男の名前はヤマギ タクヤという。彼は人間で、ポケモンと会話をしているわけだが、それは彼が特別な能力を持っているとか、そういう話ではない。こちらでは誰もがそうなのである。


ピチュー「じゃあ……次はどうしましょう?」

マッスグマ「どこか遠くに行ったと思うな、僕は」

テールナー「でも社長が私達に無言で出ていくはずはないし」

アゲハント「なら……やっぱり、何かがあったってことなんだろ」

コラッタ「攫われたってこと? じゃあやっぱり探しに行くしかないですよ、ね、タクヤさん」

タクヤ「そうだな」


頷くタクヤ。……頷きながら、無意識に腹を擦っていた。
時々、彼はそうすることがある。もう痛むことはありはしないのだが、なんとなくそうしたくなる。そこに穴がないことを、確かめていることがある。

ヤマギ タクヤ。彼の死因は、敵対者に腹を抉り抜かれたことによる失血死だった。
 ▼ 6 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:54:43 ID:UaAEe6O6 [6/9] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
アゲハント「次はどこを探す? 遠くと言っても、色々ある」


話を進めるアゲハント。
彼の死因は、工事現場警備員のポケモンに擦り潰されての圧死。


ピチュー「どうしましょう……」

コラッタ「……聞き込みをしながら、アタリをつけていくしか」


ピチューとコラッタ。
2匹の死因は、清掃業者のポケモンに切り裂かれての失血死。


テールナー「それしかないわよね」

マッスグマ「じゃあ、話を聞ける人から探さなきゃ」


テールナーとマッスグマ。
2匹の死因は、とあるポケモンの放電に巻き込まれての感電死。

そして彼らが探している社長──バチュルの死因は、友であったはずのポケモンに両断されてのショック死だった。


タクヤ「まあ、そこまで焦らなくてもいいだろう」

タクヤ「時間は無限にある」


ここにいる者は、皆死んでいる。

ここはあの世の花畑。死者たちが手慰みに始めた、株式会社があった場所。
仕事場は役目を終えれど、社員が消えるはずはなし。それが消えたのだから、これは事件だ。

バチュル社長は、どこにいる?


《Side Company 株式会社の長休み》


□□□□□□
 ▼ 7 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:56:03 ID:UaAEe6O6 [7/9] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
▼▼▼▼▼▼


マイナン の かみなりパンチ!!

マイナン「はあっ!!」


紫電を纏った拳が奔る。
……その一撃で、1棟の家屋が倒壊した。
家屋といっても、古い木造の廃墟であったが、しかし、マイナンのたった一撃で、砂煙を立てて崩落したのだ。


マイナン「……おっと」


マイナンはその崩落した家屋の瓦礫の中に、1匹のポケモンを見つけて、引っ張り出した。


マイナン「大丈夫?」

デスマス「(TдT)」


砂埃を払ってやる。自らの仮面に身を埋めていたそれは、ただのデスマスのように見えた。酷く怯えて、縮こまっている。きっと廃墟に隠れていたのだろう。
 ▼ 8 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:56:57 ID:UaAEe6O6 [8/9] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
マイナン「もしかして、この村のポケモンか? 案内を頼みたいんだ」

デスマス「(~_~メ)」

マイナン「頼むよ。……君、何か痛い目を見たんだろ? 見れば分かる。代わりにやり返してやるよ、これでも強いんだ」

デスマス「(・_・;)」

マイナン「渋るなぁ。……俺はこの村のウワサについて、調べに来たんだ」


言いながら、マイナンは瓦礫の上に脚をかけ、周囲を見回す。放棄された家ばかり、人の灯りは気配もない、ここはそんな廃墟の村。
そうでありながらも。


マイナン「死んだ奴を蘇らせる研究所があって、その入り口がこの村のどこかに隠されている」

マイナン「君、何か知らないか?」

デスマス「(._.)」

マイナン「知ってる反応だ」
 ▼ 9 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/04 20:58:11 ID:UaAEe6O6 [9/9] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
マイナンは生まれたときから、否、生まれる前から普通ではなかった。

彼はタマゴの中にいた時点で、とある研究者により『はかいのいでんし』を組み込まれている。
その影響だろう、彼は遺伝子に異常を抱えた色違いの個体として生まれ、遺伝子由来の破壊衝動に呑まれてトレーナーへの強盗、及び近隣ポケモンへの略奪殺害を繰り返した過去を持つ。
一度その記憶を喪失し、親切なポケモン集団の中で生きたこともあったが……記憶の回復と共に、その集団も殺害した。
マイナンは恐れたのだ。己の過去を知られること、それに失望されることを。愛した集団から疎外されることが恐ろしくて、愛を持ちながらも殺すしかなかった。

以降、何匹か道連れを作りながら、彼は復讐請負をして暮らしてきた。力なきポケモンの嘆きを聞き届け、その復讐を代行する。人間から略奪し、家屋は破壊し、敵対者は殺戮する。そういう生活だ。
当然、命の危険が伴い続けた。仲間を作り、仲間を失い。マイナン1匹は壮健なれども、彼以外は皆死んだ。最も古い道連れだったアローラペルシアンが死んだ時点で、彼はまた、孤独な復讐者に逆戻り。
今でも、フリーで復讐活動を続けている。彼はそれしか生き方を知らない。

しかし、あるウワサを耳にした時点で、彼のターゲットは変更された。
『死者を蘇らせる研究がある』
それはマイナンにとっては、存在してはならない技術であった。
蘇ったマイナンの被害者の逆襲など、マイナンは恐れない。誰が襲ってきても、返り討ちにする自信がある。だが、しかし。……かつて大好きで、だから殺すしかなかった、あの頃の優しい友達が、蘇るのだとしたら。
知られてしまう。失望されてしまう。美しく終わらせたはずの物語が、続いてしまう。そんなことは、決して認めてはならない。


マイナン「まあ、俺はそもそも、あんまり信じてもいないけどね、蘇りなんて」

マイナン「どんなインチキか、この目で見てやるよ」

デスマス「(;^ω^)」


《Side Shunned 不本意なれども忌み子健在》


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 ▼ 10 ターミー@ユキノオナイト 25/09/06 12:09:41 ID:fr8UyTr6 NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
期待
支援
 ▼ 11 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 22:12:59 ID:FCu.XWN6 NGネーム登録 NGID登録 報告
◆◆◆◆◆◆


シンダー「へえ、ここが──ヨモヒラ村か」


山道を登りきって、ふと目についた家屋を見て。シンダーの口から、そうため息が漏れた。視線の先には幾つかの民家が並び、放棄された耕作地らしき空間があり。……それだけだ。
手前の方に、傾き錆びついた看板を見つける。


シンダー「天国に一番近い村、か」

バレンタイン『でも廃村なんでしょう? じゃあもう天国の村ね』


シンダーの後ろから、そう読み上げ音声。シンダーは少し背後に目を向けて、バレンタインが着いてきていることを確認して、歩みを進める。結局、一緒に村まで来てしまった。

ヨモヒラ村。過疎化の結果として、十数年前に廃村とされた村だ。廃村なのだから、当然人は住んでいない。
2人は荒れた道を進む。地面は平らだが、そこここから草が生えていた。雨が降ったのだろう、地面は湿気っていて、ぬかるみもある。なんとも嫌な感じがした。
村の中央へと歩みを進めるが、人の姿はどこにもない。並ぶ民家は全て廃虚で、ポケモンの気配もありはしない。


バレンタイン『本当にここなの?』

シンダー「そのはずです」


それでも。噂では確かに、ここにあるのだと聞いていた。
死者蘇生の研究が。

2人は尚も、廃墟村を訪ね歩く。


???「動かないで」


──唐突に、そんな声が聞こえた。

何かが、側頭部に触れた感覚を、シンダーは覚えた。
廃墟と廃墟の隙間から、何か棒が伸びている。
棒は鉄製。いや、棒ではない、これは筒だ。

──銃口だ。
 ▼ 12 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:21:38 ID:XTDoiuwc [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
シンダー「うわあああああっ!?」


シンダーの行動は早かった。仰け反るように倒れ込み、頭を抱えて蹲る。彼の登山着は防弾仕様だ。急所を守りながら横転、即座に銃口から距離を取る。
バタバタとした動きは、結構みっともないものだと、彼自身でも思う。


バレンタイン『不思議なこともあるものね。ここのお巡りさんはライフルを持っているの?』


バレンタインが、シンダーを庇うようにその前に立った。相変わらずの読み上げ音声で、銃口へ問う。
銃口はバレンタインを前にしても揺らがなかったが、数秒後、カチャリと上を向いた。
廃墟の隙間から、1人の青年が歩み出る。


???「失礼しました。貴方達は、違いそうだ」


長身、細身の青年。まだ年若いように見えるが、しかし目元には深いシワが刻まれている。


シンダー「それっ、それ……銃かっ!?」

???「対戦車ライフルです」

シンダー「どうして!!」

???「……昔、猟友会に入っていまして。扱えるんです」


そういうことじゃない、と、シンダーは言いかけて。流石に言い過ぎかと口を噤む。青年はコキリと首を回して、それから名乗った。


ホタル「僕はホタルと言います」

ホタル「貴方達、復活の技術について興味が?」

シンダー「……どうしてそれを?」

ホタル「それ以外に無いでしょう、ここに来る理由は」
 ▼ 13 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:22:47 ID:XTDoiuwc [2/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
バレンタイン『じゃあもしかして、キミは死者蘇生の関係者? 手伝いに来たの』


バレンタインの操作するスマホから、そんな読み上げ音声。ホタルは訝しげにバレンタインのスマホを一瞥して、しかし指摘はせずに首肯する。


ホタル「はい、僕は人に頼まれて、研究所を守っているものです。……でも残念ながら、今は研究所には入れません」

ホタル「研究所を閉めているんです。今は物騒で」

シンダー「物騒?」

ホタル「村を荒らす奴がいるんです。何が狙いかはわかりませんが」


なるほど、だから武装しているのか。シンダーは一先ず納得する。……だからといって、その手段が対戦車ライフルであることには疑問が残るが。
村を荒らす何者か、それを解決しないことには、きっとこの話は前に進まないのだろう。シンダーは何か言うべきかと口を開いて、

その瞬間。
轟音と共に、視界の片隅で家屋が砕けた。


シンダー「は──?」


崩落する屋根。シンダーの思考が、一瞬凍る。
なにしろ廃墟とはいえ、さっきまではマトモに形を保っていたはずの建造物が、瞬く間にパーツ単位で弾け飛んだのだ。音を聞いただけで、心臓がが縮む。

瓦礫の向こう、崩落する家屋の隙間に、ポケモンの姿を見る。緑色──色違いの、マイナンの姿。
まさか、あれが?


ホタル「奴を排除します。本当に、手伝いに来たのなら。僕に協力してください」

シンダー「……わかった」


カシャリと、金属の擦れる音。真横に目を向ければ、ホタルがライフルを構えている。バレンタインの方を見れば、肩を竦めて数歩下がった。
では、シンダーは。
己の腰、たった1つだけのモンスターボールを、指でなぞって。


シンダー「相棒、出番だ」

ヒノヤコマ「ヒャコッ!!」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 14 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:23:33 ID:XTDoiuwc [3/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
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マイナン の かみなりパンチ!!

マイナン「っと、ここもハズレか」

デスマス「(;・∀・)」


また1棟、廃墟を吹き飛ばした。
マイナンの拳は壁を砕き、屋根を剥ぎ、床板を焼く。衝撃と電撃は一切の容赦なく、廃棄されたとはいえ家屋だったものを、瓦礫の山へと変えてしまって。
……ふと、マイナンは悪寒を覚えて、その場を飛び退く。

ズダン、と、銃声。

マイナンがいた足元が、砕けた。


ホタル『──外した!!』


人間の声がする。

マイナンが視線を向ければ、人間の姿が3つ。オスっぽい姿2つと、メスっぽい姿が1つ。それからその脇にヒノヤコマ。多分あの人間達のポケモンだ。


マイナン「へえ、出てきたね、人間」

デスマス「(@_@;)」

マイナン「隠れてな。俺がぶちのめしてくる」


マイナンは助走をつけて、大きく空へと飛び跳ねた。そのまま空中で姿勢を変えて、空を蹴る。一気に接近、その拳を振り上げて。


ホタル『っ、疾い!!』

シンダー『ヒノヤコマ、ニトロチャージだ!!』

ヒノヤコマ「いっくぞー!!」


炎を纏って割り込んでくるヒノヤコマ。
まずはコイツからだ。


マイナン「はっ!!」

マイナン の ばくれつパンチ!!
 ▼ 15 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:25:06 ID:XTDoiuwc [4/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
拳を、炎へ向けて振り下ろした。
グシャ、と軽い音を聞く。今拳に触れたのは、きっとヒノヤコマの内臓の感触だ。踏ん張りの効かない空中だ、圧壊、とまではいかないが。


ヒノヤコマ「え、あ──

ヒノヤコマ は たおれた!!


気絶に持って行くには、十分だ。


シンダー『なんだコイツっ……!?』

ホタル『バケモノめ!!』


銃声。マイナンは空中で身を捩り、銃弾を躱す。
墜落していくヒノヤコマの身体を蹴って、更に空中へ。拳を握れば紫電が奔る。バチリ、空気が震える音。
人間の顔を見る。オス2人は随分と怯えて、なんだか愉快だ。蹴り潰してやれば、もっと愉快に違いない。

両足に力を込める。彼に組み込まれた、はかいのいでんしを以てすれば、それだけで大気が凝固する。空気を歪ませ、踏みつけて。

跳ねる。
勢いをつけ、身を捩り、脚を突き出し紫電を纏い。


マイナン の メガトンキ──


痛みが走った。


マイナン「────はっ?」


痛みが走った。鳩尾だ。

マイナンは、目を見張る。
信じられないと瞳孔を開く。

だが無理もない。人間のオスへ蹴り込もうとしたその瞬間、彼の目の前にいたのは、さっきまでは後方に隠れていたはずの人間のメス。それも、マイナンの攻撃の隙間を掻い潜り──クロスカウンターを、マイナンの腹に捩じ込んでいる。
女の姿は、愕然とするマイナンに目を向けて。視線が交差した、その一瞬で。


バレンタイン「……今は引いて。後でまた話そう」

マイナン「──お前、どうして、こっち側の言葉を?」


人間が喋るはずのない、ポケモンの言葉。

次の瞬間には。
もう既に、マイナンは空を飛んでいた。飛ばされていた。撃ち込まれた拳のパワーで、強く、強く、跳ね飛ばされて。
人間達が遠ざかる。見えなくなる。マイナンの視界も薄くぼやけ始めて、それに彼は舌打ちをした。

ああ、この威力は。──イカサマを使われたのか。


▼▼▼▼▼▼
 ▼ 16 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:26:10 ID:XTDoiuwc [5/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
◆◆◆◆◆◆


シンダー「────はぁ?」

ホタル「何が…………」


信じられないものを見た。あり得ないものを見た。
シンダーはフレア団にいた時分にも、最終兵器やら何やら、異常な存在に近い場所にはいたはずだが。しかし、こうも意味不明な事象に直面するのは初めてだった。

先ほどまで共にいたはずの、人間の女性が。
その拳一発で、あの強烈凶暴なマイナンを、殴り飛ばしてしまった。


バレンタイン?「……」


白い上着に、青いジーンズ。当然のように人間だと思っていた、その姿が。徐々にぼやけていく。ぶれていく。歪んでいく。滲んでいく。
正体が、明らかになる。

黒い肢体。赤いたてがみ。翡翠の瞳。
それは、人間の特徴ではなく。


シンダー「な、あ──


その姿は、姿が変わったことなど気にも介さず、真っ赤な爪でスマホを弄る。
読み上げ音声。


ゾロアーク『ゴメンね、僕はゾロアークで、ついでにオスだ』

シンダー「ゾロアーク──!!」
 ▼ 17 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:27:02 ID:XTDoiuwc [6/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ゾロアーク。そのポケモンは知っている。
ばけぎつねポケモン。特性イリュージョンを駆使し、あらゆる姿に変身すると。カロス地方にだって生息していたはずだ。
しかし、まさかこんな。スマートフォンを器用に使って、人間のフリをしているだなんて。

どう声をかけたものか。シンダーは思案する。
──しかし声を発する、その前に。
カシャリと、また音。


ホタル「どうしてここに来た」


目線を向けて、シンダーの心臓はまた縮み上がった。
ホタルがゾロアークへ、銃口を向けている。その目は大きく見開かれ、食いしばった歯が顔を覗かせる。額に汗が滲んでいた。


ホタル「目的は何だ!!」

シンダー「待って、どうして銃を向けるんだ、敵じゃないだろ!!」

ホタル「信用できるか、だって僕らを騙してたんだ!!」


銃口の先、ゾロアークは。スマートフォンをどこだかに仕舞い込み、空の両手をすいと挙げる。戦う気はないと、そういうジェスチャーだ。
しかしホタルは、焦燥の色を滲ませたまま。


シンダー「近寄るなっ、ポケモン!! 僕らを邪魔しようなんて、させない!!」


ライフルの引き金に、指を掛ける。


ゾロアーク「……」


ホタルの目を見て、ゾロアークは飄々と肩を竦めた。それから数歩後ずさり──ふい、とその姿が見えなくなる。
標的を無くした銃口は、数秒沈黙してからまた首を上げた。


ホタル「逃げましたか。……これで懲りれば良いですが」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 18 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:28:27 ID:XTDoiuwc [7/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
□□□□□□


おじいさん「ほう、バチュルさんが迷子。それは大変じゃのう」

おばあさん「そうですねぇ……でも残念、私たちは見かけていなくて」


聞き込み調査、捗らず。これで多分5組目のインタビューになるが、バチュルの目撃者は見つからない。目の前の老夫婦も、かなり親身に話は聞いてくれたのだが、やはり心当たりはなさそうだ。
コラッタとピチューは顔を見合わせ、めいめいに首を振る。


ピチュー「まあ、社長も小さい身体ですし、仕方ないですよね……」

コラッタ「うん。……じゃあその、何か、最近おかしなことが起きたりはしていませんでしたか?」

おじいさん「ふむ……」

おじいさん「……最近は、あてもなく彷徨う人たちが増えた気がするのう」

コラッタ「彷徨う、人間ですか?」


曰く。

最近は人間が移動していくのをよく見かける。それも、最近死んだようではない、かなり古い時代を生きた人間達。
目的地は語らない、というか当人たちでも理解できていないようで、苦しげな顔でどこかへと歩き去ったり、また戻ってきたりするのだそうだ。

一通り話を聞いて、コラッタはすぐ後ろのアゲハントに向き直る。


コラッタ「だそうです」

アゲハント「関係あるのか、それ?」
 ▼ 19 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/07 23:29:47 ID:XTDoiuwc [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
コラッタ「いや、こっちの世界でおかしなことなんて、そうそう起こるものじゃありません」

ピチュー「不思議なことが2つも起こったのなら、そこに関係があるかもしれない。そういうことですね?」

アゲハント「じゃあそっちも調査だな」


3匹は顔を突き合わせ、頷いた。実際のところ、バチュルを探すのに人間の話が手掛かり足り得るのかは全く不明であるのだが、しかし一度気になったら忘れられないタチ。
折角ならば調べてみよう、とにかく時間ならあるのだから。


コラッタ「というわけで失礼します、ご協力ありがとうございました!!」

ピチュー「ありがとうございました!!」


そう一礼して、3匹は去る。遠くの方でやはり聞き込みをしているテールナー、マッスグマ、そしてタクヤの方向へ向かう。ひとまずは合流して、情報共有だ。

3匹が去っていくのを、おじいさんはにこやかに見送った。
並んで見送ったおばあさんが、どこか感慨深げに、おじいさんに話しかける。


おばあさん「しかし、死後の世界だからとはいえ」

おばあさん「ポケモンと喋ることができるというのは、いつまでたっても、少し不思議な気分になりますね」

おじいさん「そうかのう? 儂はもう慣れたが」

おばあさん「そりゃあおじいさんは、生きてる間もあのペラップが一緒でしたからねぇ」


□□□□□□
 ▼ 20 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/08 03:22:13 ID:pUIETq52 NGネーム登録 NGID登録 報告
シンダー「うわあああああっ!?」


シンダーの行動は早かった。仰け反るように倒れ込み、頭を抱えて蹲る。彼の登山着は防弾仕様だ。急所を守りながら横転、即座に銃口から距離を取る。
バタバタとした動きは、結構みっともないものだと、彼自身でも思う。


バレンタイン『不思議なこともあるものね。ここのお巡りさんはライフルを持っているの?』


バレンタインが、シンダーを庇うようにその前に立った。相変わらずの読み上げ音声で、銃口へ問う。
銃口はバレンタインを前にしても揺らがなかったが、数秒後、カチャリと上を向いた。
廃墟の隙間から、1人の青年が歩み出る。


???「失礼しました。貴方達は、違いそうだ」


長身、細身の青年。まだ年若いように見えるが、しかし目元には深いシワが刻まれている。


シンダー「それっ、それ……銃かっ!?」

???「対戦車ライフルです」

シンダー「どうして!!」

???「……昔、猟友会に入っていまして。扱えるんです」


そういうことじゃない、と、シンダーは言いかけて。流石に言い過ぎかと口を噤む。青年はコキリと首を回して、それから名乗った。


ホタル「僕はホタルと言います」

ホタル「貴方達、復活の技術について興味が?」

シンダー「……どうしてそれを?」

ホタル「それ以外に無いでしょう、ここに来る理由は」
 ▼ 21 マシュ@ヒポポタスのすな 25/09/08 07:25:28 ID:c1GYlGPQ NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
支援ネ
 ▼ 22 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/12 21:02:36 ID:ws2wsfK2 [1/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
◆◆◆◆◆◆


マイナン、ゾロアークとの一件を終え。ホタルの案内で、シンダーは何やら建物を訪れていた。
生活感はほぼなく、ところどころホコリ臭いそこではあるが、ホタルが戸棚を開けば大量の薬剤がストックされている。
必要だろう、とホタルはポケモン用の治療薬を差し出した。シンダーは受け取り、先ほど気絶したヒノヤコマを治療する。


ホタル「……治りましたか、ヒノヤコマは」
 
シンダー「ひとまずは。……また後で、診て貰わないと」

ヒノヤコマ「ヒャコ……」


不安げに俯くヒノヤコマの、腹の辺りを軽く擦ってやる。ひとまずは事なきを得たようだが、しかし内実はわからない──そして実際、シンダーは気づいていないが、ヒノヤコマの内臓損傷は治療しきれていない。
この山を降りたら、その脚でポケモンセンターへ向かおう。シンダーは考える。きっちりと刑務所を経由したおかげで堂々とポケモンセンターを利用できるようになった、その現状に少しばかり感謝した。

しかし、すぐにそうする訳にはいくまい。
シンダーが再び周囲を見回せば、ホタルがまた別の戸棚を漁っているところだった。その背中に問い掛ける。


シンダー「ここは?」

ホタル「元は公民館だったそうですが、僕らは倉庫として使っています」

ホタル「備蓄の食料も、ちゃんとあります」


そう言いながら、戸棚の中を見せる。……そこはどうやら、冷凍庫のようだった。
 ▼ 23 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/12 21:03:20 ID:ws2wsfK2 [2/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
十数分後。
シンダーとホタル、2人は部屋の片隅のテーブルを挟んで、もそもそと冷凍食品のパスタを咀嚼していた。確かに規定時間温めたはずだが、まれにじゃり、と氷を齧る。
シンダーの皿の隣ではヒノヤコマが、やはり解凍したオボンのみをついばんでいた。

シンダーは既に、己の来歴をざらりと話している。フレア団にいたこと、死者蘇生を求めていること。話しながら、対戦車ライフルが目に入る度に、縮み上がったが。それでも話した。
ホタルは全て聞いた上で、大した驚きも見せずに冷凍パスタを温め始めたので、多分殺されずには済むだろうとシンダーは考えている。……あるいは、ホタルにも同様の負い目があるのか。
恐る恐る、問い掛ける。


シンダー「君は、ポケモンはいないのか?」

ホタル「……今更持てませんよ、ポケモンなんて」


ホタルはそう言いながら、またフォークを口に運んだ。咀嚼し、飲み下して、続けて。


ホタル「僕は猟友会の人間でした」


そんなことを言う。


シンダー「猟友会」

ホタル「ポケモンを殺すことが仕事でした」

ホタル「森を切り開くからと言われて、それに抗うポケモンを殺した。保護したポケモンが増えすぎたと言われて、溢れかえったポケモンを殺した」


猟友会。もちろん、その存在はシンダーも知っている。野生のポケモンに関連するトラブル発生時に、ポケモン駆除のために駆り出される集団だ。
察するに──ホタルはあの対戦車ライフルで、野生のポケモンを殺してきた。


ホタル「自然には自然のバランスがあって、普通はそれは崩れない。バランスが崩れるのは、人間が介入したときです」

ホタル「僕らは、人間が犯す過ちの、尻拭いをしてきました」
 ▼ 24 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/12 21:04:13 ID:ws2wsfK2 [3/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル「必要悪だった……なんて、加害者に言う権利はありません。何百匹、何千匹。僕が殺した」

ホタル「殺した。殺しすぎて……嫌になりました」


そう言いながら。ホタルは半ば投げやりにフォークを置いた。既に皿の上の冷凍パスタは平らげられていて、具材の一欠けも残っていない。
シンダーはそれを見て、慌てて自分の皿の残りを口に運ぶ。


ホタル「貴方と僕は同じだ」


そしてその言葉に弾かれて、顔を上げた。
視線が交差した。ホタルの双眸は、真っ直ぐにシンダーを見つめている。


シンダー「……そうかな」

ホタル「そうだと、僕は思います」


そう言われれば、否定することは出来なかった。


ホタル「改めて、貴方に銃を向けたことを謝ります。貴方は、僕らの仲間になるべきだ」

シンダー「……俺は、最初からそのつもりだった」


数秒の沈黙があった。シンダーは、握手でもしようかと右手を浮かせて、しかしそれを差し出す勇気を持てなかった。浮いた右腕のすぐ横では、未だにヒノヤコマがオボンのみを突いている。


ホタル「そのためにも、あのバケモノのマイナンを、倒すことからです」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 25 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/12 21:05:03 ID:ws2wsfK2 [4/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
▼▼▼▼▼▼


ヨモヒラ村から少し離れた、荒れた山道。
マイナンの上半身は、低木の茂みに突き刺さっていた。


デスマス「(。ŏ﹏ŏ)」


後から追いついてきたデスマスがそれを見つけて、マイナンを引っこ抜く。マイナンはぐったりと動かない。
デスマスは少し考えて、思い切ってマイナンの両頬を引っ叩いた。
パチン。パチン。パチン。


マイナン「…………ああ、君か。ありがとね」


パチン。パ


マイナン「もういいんだよ」

デスマス「Σ(゚Д゚)」


勢い余って打ち込まれる5発目のビンタを、マイナンは掴み、止めた。それからのそりと起き上がって、身体に付着した泥粒を払い落とす。
振り向けば、やや遠くに倒壊させた家屋が見える。どうやらあの場所からここまで、一撃で殴り飛ばされたらしい。


マイナン「しかし、これは派手にやられたな……久々だ」


先の瞬間、撃ち込まれた拳を思い返す。
先ほどの攻撃、即ち『イカサマ』は、相手の攻撃力を逆用して行うテクニカルな物理攻撃。殴る蹴るを普段から常用し、かつはかいのいでんしに由来する圧倒的な破壊力を持ち合わせるマイナンであるからこそ、ここまで吹っ飛ばされたわけだ。

まあそれはいい。とりあえず生きているのだから、次の対策を考えよう。
そう思い至ったところで、ガザ、と。草を踏み分ける音。


ゾロアーク「やあ、ちょっといいかい」

マイナン「……もしかして、さっきの?」

デスマス「(/・ω・)/」
 ▼ 26 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/12 21:05:46 ID:ws2wsfK2 [5/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
やってきたゾロアークの、その一声を聞くだけで。マイナンは、そのゾロアークがさっき己を殴り飛ばした者であることを看破した。
ここまでのことをされたのだ、その声を忘れるはずはない。


マイナン「ゾロアークだったんだね、どうりで」

ゾロアーク「まあね」


そう言いながらゾロアークは、近くの岩場に腰掛ける。マイナンはそれを少し眺めて、それから隣に腰を下ろした。デスマスもその後を追って、更にマイナンの隣に身体を降ろす。
……どうやら、ゾロアークに戦うつもりはないようだ。まあそうであろうということは、戦闘中に交わした言葉で既に察していた。


ゾロアーク「さっきは殴ってゴメンね」

マイナン「いいや」

マイナン「……君はてっきり、人間の仲間かと思ったんだけど」

ゾロアーク「最初はそうするつもりだったんだけどね……追い出されたよ。彼ら、よほど嫌なことがあったんだろう」


ゾロアークはそう言いながら肩を竦めた。続けて、


ゾロアーク「僕は仕事を請け負っていてね。どうやら、ここにある死者蘇生の研究を調べなくちゃいけないみたいだ」

マイナン「ああ、それね。まさか君、信じてるのかい?」

ゾロアーク「目で見て決めるよ。正直それについては、あってもなくてもどっちでもいい」


その返答に、どこかマイナンは安堵する。別にゾロアークが蘇りを信じていようが、いまいが、関係はないのだが。
 ▼ 27 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/12 21:06:17 ID:ws2wsfK2 [6/7] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ゾロアーク「君はどうしてこの山に?」

ゾロアーク「僕の予想では、君も死者蘇生の研究について調べに来た。違うかい」

マイナン「そうかもしれないけど、頷きたくないね」

マイナン「俺は蘇りなんか信じてない。信じてないけど、存在しないことを確かめに来た」


そうマイナンが返答すれば、ゾロアークはいかにも釈然としない顔で首を傾げた。


ゾロアーク「信じてないのに、ここまで来たんだ?」

マイナン「事情があるんだよ。とにかく、俺も君も、死者蘇生について知りたいってことは同じ。それでいい?」


マイナンがそう確認すれば、ゾロアークは頷き、マイナンもまた頷き返す。ひとまずは協力出来そうだ。
しかしゾロアークは、会話に挿し込むように不意に指を立てて。


ゾロアーク「でも生憎研究所は閉鎖されてるらしいんだ」

ゾロアーク「あっちで聞いたけれど、どうも君が暴れてるせいらしい。おかげで研究所の場所がわからない」

マイナン「おっと。本当?」

ゾロアーク「相当ビビってるよ、彼らは」


言われて、マイナンは考える。
家々を壊し、ポケモンを一撃で殴り潰し──確かに、少し脅かしすぎたかもしれない。
マイナンだって楽をしたい。ゾロアークが研究所を突き止められるなら、それが良かったと当然思う。楽だし、家々をシラミ潰しに破壊するより確実だ。
ここは、ゾロアークの策に乗りたい。


ゾロアーク「家屋をぶっ壊す化け物マイナン、それが倒されないことには、話が動かない。僕らにとってもだ」

ゾロアーク「だからまずは、あの2人を納得させなきゃね。いい?」

デスマス「(≧∇≦)b」


▼▼▼▼▼▼
 ▼ 28 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/12 21:07:08 ID:ws2wsfK2 [7/7] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
□□□□□□


新たに得た情報──苦しみながら彷徨い歩く人間のウワサ。バチュルの手掛かりになるかは解らないが、しかしひとまず調べようと思い立ち、再びコラッタ達は聞き込み調査を行なっている。


チョロネコ「人間? 嫌ね、見たくもないわ。……だから、ここにはいないわよ。見てないわ」


カイロス「にんげんさん? えーっと……あっちにいたかな?」


アローラベトベトン「彷徨う人間? あぁ……確かにいたな、変な動きする人間。さっき見た。あれ何だったんだ?」


クルマユ「あ…………そこに…………いるよ…………」


ポケモン伝いに、聞いて、聞いて、聞いて。
一行は、とある岩場に辿り着いた。
軽く見回す限りでは、そこはすり鉢状の窪地になっているようで。なだらかな岩場に囲まれて、一段凹んだ低地があり。

その、低地のスペースの中で。 

何十人もの人間が、蹲ってバタバタと転がっている。幾つものうめき声が折り重なって、まるで地鳴りだ。認識した瞬間に、彼らは思わず顔をしかめる。


マッスグマ「うわっ、絶対これだ」

コラッタ「でもこれ、彷徨うっていうより……」

アゲハント「身悶え、って感じだな」

テールナー「ねえ!! 貴方達!! 大丈夫!?」


□□□□□□
 ▼ 29 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/14 00:56:35 ID:FG9YVNuI [1/2] NGネーム登録 NGID登録 報告
▼▼▼▼▼▼


ゾロアーク「まあ、要は騙せれば良いわけだよ」


ゾロアークは歩きながらそう言った。マイナンはそれに頷いて、そしてデスマスもマイナンの後を追う。
彼らは現在山道を降りて、再びヨモヒラ村へと向かう道中にあった。放棄された耕作地を踏み分け、廃虚の群れへと接近する。


ゾロアーク「彼らに、マイナンを倒したと認識させる。そうすれば彼らは警戒を解いて研究所に入るし、それを追えば僕らも研究所を見つけられる」


その言葉に、マイナンはまた頷いた。


ゾロアーク「彼らに見つかって、撃たれよう」

ゾロアーク「……本当に撃たれる必要はないよ。撃たれたフリを、僕がする」

マイナン「その後は? 多分、死体を確認しに来ると思うけど」


問い返せば、ゾロアークはマイナンの後方、デスマスに視線をやって。


ゾロアーク「隠蔽は……君が出来るんだろう?」

デスマス「(σ・∀・)σ」

ゾロアーク「良い感じに頼むよ」


そこで、ゾロアークは立ち止まった。
すぐそこには一軒家──これもやはり廃墟だが、それなりに大きな家がある。これを崩せば、確かに、結構な音が鳴ることだろう。ゾロアークはぽんぽんと壁面を叩く。


ゾロアーク「派手にやればやるほど良い。一番うるさいやり方で、とりあえず1軒ぶっ飛ばそう」

デスマス「(*^^*)」


そこまで話して。不意に、ゾロアークの姿がブレる。
──そして、次の瞬間には。
マイナンの目の前には、マイナンがいた。

なるほど、これがイリュージョン。


マイナン?「じゃ、先生、遠慮なくどうぞ」

マイナン「その言い方ムカつくね。まあいいや、そぉれっ!!」

マイナン の ばくれつパンチ!!


▼▼▼▼▼▼
 ▼ 30 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/14 00:58:20 ID:FG9YVNuI [2/2] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
◆◆◆◆◆◆


唐突に、轟音が鳴り響いた。


シンダー「はあああああっ!?」


ヒノヤコマの様子を確認していたシンダーは、その轟音を認識するのと全く同時に、ヒノヤコマを抱えて机の下に潜る。
……それから10秒。何も音がしなかったのを確かめて、そこから這い出た。

顔を上げれば、ホタルが対戦車ライフルに弾を込めているところだった。


ホタル「出やがった、バケモノです」


その一声だけ残して、ホタルは公民館だった施設を飛び出していく。シンダーは一瞬脚が竦んだが、しかしホタルを追って駆け出した。
数歩、数歩、建物の合間を縫って、広い道へ。

緑色の姿、色違いのマイナンが、そこにいる。

既に、どう攻略するかは、打ち合わせていた。


シンダー「ヒノヤコマ!!」

ヒノヤコマ「ヒャコッ!!」

シンダー「ニトロチャージ!!」
 ▼ 31 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/14 00:59:54 ID:U23EzlvY [1/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
大声で、指示を出す。
ヒノヤコマはその声に応じて炎を纏い、空を駆けた。中空に炎の揺らめきが跡を引く。

だが──ヒノヤコマは、空を駆けるも、攻撃はしない。加速しつつも、上空を舞い続けるだけ。
マイナンもヒノヤコマを認識し、視線を向けているが、空中では攻めあぐねるのか動かない。

その、マイナンへ。



銃声。



──直後。マイナンの肉体が、四散した。


ホタル「よしっ!!」


シンダーのすぐ横、対戦車ライフルを構えていたホタルが、小さく拳を握るのが見える。
あえてヒノヤコマに視線を向けさせて、そちらに視線が向いた瞬間に、対戦車ライフルで一撃で仕留める。ホタルの立案した作戦が、成功したのである。
さしものマイナンでも耐久力は並だったらしい。対戦車ライフルの威力を前に、その肉体は木っ端微塵。


ホタル「陽動、ありがとうございました」

シンダー「……ああ」


そう、殺してしまった。
こちらを殺そうとする、危険な個体だったとはいえ、何とも気分が良くない話だ。シンダーは今更ながら、他に手はなかったものかと後悔した。
シンダーの横ではホタルが、倒したマイナンを見に行こうかと数歩踏み出し──しかし、その脚を止める。


ホタル「……霧が出てきましたね」


そう言った。確かに、辺りに薄くモヤがかかるように、霧が立ち込め始めている。元々霧がかかっている土地だが、更に濃くなってきているようだ。


シンダー「山だから、天気が変わりやすい?」

ホタル「はい。……それに、何だか寒い。屋内に戻りましょう」

ホタル「目的は達成しました、研究所へご案内します。着いてきてください」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 32 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/14 01:00:48 ID:U23EzlvY [2/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
□□□□□□


彷徨う人間のウワサ。それを追い掛けて、一行はとある岩場に辿り着く。
元はなんてことはない、ただの岩場だったはずだ。しかし今そこでは、何十人もの人間が、蹲り、バタバタとのたうち、うめき、喉を掻き毟り、底面の岩に頬を擦り付けている。
異様。気色の悪い光景だ。


人間?「ぐわあああああっ!!」

人間?「ぐわあああああっ!!」

人間?「ぐわあああああっ!!」

ピチュー「あっ、あわわっ、あわわわわっ」

コラッタ「ちょっ、あのっ、ちょっ、ちょっと落ち着いて」


これでは話を聞くも何も無い。ひとまず誰か宥められないかと、ピチューとコラッタが歩み寄る。しかし人間達は聞く耳を持たず、ひたすらにのたうつのみ。
その様に身を竦ませる2匹を、タクヤが後ろからつまみ上げる。


タクヤ「無闇に近づくな。人間とはいえ、ああも暴れてるんだ。巻き込まれたら怪我するぞ」

ピチュー「あっ、ありがとうございます」

コラッタ「まあ怪我も何もないんですけどね、死んでるので」
 ▼ 33 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/14 01:01:49 ID:U23EzlvY [3/4] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
アゲハント「何か解らないか、タクヤ。同じ人間だろう」


タクヤの後ろから、アゲハントがそう声を投げ掛けた。タクヤはそれに首を振り、苦笑する。


タクヤ「勘弁してくれ。俺は学がないぞ」

タクヤ「……しかし、確かにまあ、格好は古そうだ。あのじいさん、嘘は言ってない」


改めて、のたうつ人間を観察する。
タクヤにはそこまでの知識は無いが、眼前の人間達が纏っているのは貫頭衣だ。それは古い時代のイッシュ地方にて着用されたものであり、のたうつ人間は例外なくそれを着用している。つまり、特定の時代の人間だけがここにいる。


タクヤ「しかし、こうも暴れていたら話の聞きようがないな」

アゲハント「こいつら、やたらと地面に頭を擦り付けてるな」

テールナー「そういえばここ自体も凹んだ土地よね。何か理由があるのかしら」


口々に推理する、その最中。
背後から足音。振り向けばまた1人、貫頭衣の人間が彷徨っている──彼らへ向けて、歩いてくる。
背中を丸め、足取りはおぼつかない。口からはブツブツと何か言葉を発している。


コラッタ「あの人間、まだ暴れてません。もしかしたら、何か聞けるかも」
 ▼ 34 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/14 01:03:21 ID:U23EzlvY [4/4] NGネーム登録 NGID登録 報告
人間?「行くべきところがあるのに、行けないんだ」


意外にも、人間は聞き込みに応じた。
だが言っていることは抽象的で、要領を得ない。頭をぐらぐらと揺らしながら、うわ言のようにこう答える。


人間?「そこは既に埋まっていて、息が苦しい──違うのに、違うのに。違う、そこはっ、俺のものなのに!!」

テールナー「ああ、落ち着きなさい!! 何、恋心の話か何か?」

マッスグマ「僕が先に好きだったのに?」

アゲハント「恋心で物理的なダメージは負わんだろ。それは明らかに痛みを覚えてる奴の悶え方だ」

アゲハント「……いや、今の俺たちは、身体も魂も違いがないのか。恋心かはともかくとして、心痛が本物の痛みにもなりうる」


そう言う間にも、人間は岩場をフラフラと降り、窪地の底に膝をついた。ガンガンと手を突き、頭を突き、うめき声を上げ始める。この人間もじき、他の人間同様の挙動をするようになるのだろう。


マッスグマ「まあ、何も聞けなかったよりはマシかな」

コラッタ「行くべき場所があって、でもそこに行けない。それが痛くて苦しくて、だから悶えている」

ピチュー「じゃあ、何故行きたい場所に行けないのか。そこが次の問題ですね」


視線を交わす。得られる情報は、これ以上にはなさそうだ。


テールナー「ねえ、最後にいい? 結局貴方、どこに行きたいの?」

人間?「俺っ、俺っ、俺、俺達は」

人間?「選ばれたのに──現世に!! だから、行かなくっちゃあならないのに──」


□□□□□□
 ▼ 35 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:43:37 ID:bwMg8mt6 [1/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
◆◆◆◆◆◆


まさか、冷凍庫の扉の1つが、地下への階段と繋がっているだなんて思いもしなかった。シンダーは対戦車ライフルを背負ったホタルに連れられて、薄暗く、狭い階段を降りる。

何段降りただろうか、不意に、開けた空間に出て。
そこに、誰かが立っている。


???『おかえりホタル』


その姿を見て、シンダーは思わず1歩後ずさった。
何しろ不気味だ。大きめの背格好をした存在が、白いローブで全身を覆って立っている。顔すらも深く被ったフードで見えず──しかも、また、機械音声で喋っている。
しかしシンダーの隣のホタルは、全く何でもない様子でその存在へ歩み寄った。存在は続けて、


ネンドウ『私はネンドウ』

ネンドウ『君のことはホタルから聞いている。歓迎しよう』

ホタル「着いてきてください」

シンダー「……わかった」
 ▼ 36 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:44:31 ID:bwMg8mt6 [2/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ホタル、そしてネンドウという男──機械音声で喋られているため、男なのかどうかは口振りでしか判断しようがないのだが、とにかくネンドウという存在。2人に連れられて、シンダーはある部屋に通された。

室内を見回す。これまで通ってきた廊下もそうだったが、地面に掘られた空間にしてはしっかりと舗装されているものの、壁も床もどこか古臭く、錆びついている。きっと元からあった施設を転用したものなのだろう、とシンダーは推察する。
しかし通された部屋の、ある壁面は。全く新品の白さを誇っていた。
よくよく見ると、ただの壁ではない。ところどころに取っ手が付いている。これは棚だ。


ネンドウ『改めて、シンダー。協力者になってくれると聞いている。歓迎しよう』

シンダー「……先に聞きたい。死者蘇生の技術が本当にあるのか、どうか」


シンダーの問いに、ネンドウは頷く。……頷く様すらもフードに隠れてよく見えないので、多分頷いたのだろう、程度の推測ではあるが。


ネンドウ『そうだな、本当ならば君の知り合いなど蘇らせてプレゼンしたいところだが、諸事情により今は出来なくてね』

ネンドウ『これを見てもらおう』


ネンドウはそう言いながら、何やら棚の一番下を引っ張り出した。否、それは棚にしてはかなり長細く、筒のようだ。
シンダーはそれを覗き込んで──後方へ飛び退いた。

青白く、冷え切った──死体がそこにあった。
 ▼ 37 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:46:51 ID:bwMg8mt6 [3/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
シンダー「はっ、はは、は、し、した、なっ、え、な、」


言葉にならない。ただそれは明確に、一目で解るほどに、人間の死体であった。
どうやらこれは棚ではなく──棺だったらしい。


ネンドウ『これは私の生前の身体だ』

シンダー「…………え?」


ネンドウが促し、シンダーはおずおずと棺に近寄る。覗き込む。死体は確かに成人男性のそれだ。


ネンドウ『ほら、こめかみ。弾痕があるだろう。これは私が自殺したときのものだ』

シンダー「はあ…………?」

ネンドウ『直接触ってもらっても構わない。プレゼン用に冷凍保存している肉体だが、君になら許可しよう』


そう言うや否や。棺のガラス蓋が開き、冷気が中から溢れ出る。触ってみろ、とネンドウがジェスチャーした。
無理無理無理無理。シンダーは凍りついて動けない。

ただ、それでも。これは聞かなければと思って、絞り出す。


シンダー「これが死体なのは解る。貴方の死体だというのも、信じる」

シンダー「なら、どうやっているのか。死者蘇生はどういうものなのか。それを知りたい」


絞り出された、その問いに。
何故か、ネンドウの脇に控えていたホタルが小さくため息をついた。


ネンドウ『ホタル。これは、君と彼とで話す方が良い』

ホタル「解っています」


そう小さく返しながら、ホタルは再びシンダーに声を掛ける。


ホタル「着いてきてください。工場をお見せします」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 38 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:48:02 ID:bwMg8mt6 [4/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
□□□□□□


彷徨い、悶え苦しむ人間達。それを目の当たりにし、しかし一行は何もできなかった。
別に人間に対して然程思い入れのない──というか、生前はほぼ良い思い出がなかったコラッタ達ではあるが。しかし罪のない人間の苦しみを捨て置けるようなメンタルはしていない。

とりあえず、人間達が悶えている原因を突き止める。そこまでは、彼らの中でも話が纏っていた。
とはいえ、どう突き止めるかがまた問題だ。


アゲハント「しかし、これからどうするか」


5匹と1人は花畑の外れで、額を突き合わせて考える。
岩場の底で苦しむ人間。人間達は行くべき場所に行くことが出来ない。人間達が行くべき場所は現世である。


コラッタ「あ、もしかしてですけど」

コラッタ「あの人間達が地面に執着してるのって、地下に何かがあるってことじゃないですか?」


コラッタが思いついて、そんなことを言う。


タクヤ「……なるほど、地下に引きつけられているのなら、低地に溜まっていたのにも納得がいく。他の所よりは地下に近いわけだからな」

ピチュー「でも、地面の中に何かが埋まっているんですか? それを探すのは大変ですね……」

アゲハント「埋まっている、とも限らない。何しろこの事案は最近発生したんだからな」

アゲハント「誰か──悪意を持った誰かが、地下に何かを作って、それがこの事件を引き起こした」
 ▼ 39 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:48:46 ID:bwMg8mt6 [5/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
アゲハントの提唱した説には、なるほど説得力がある。
誰か、第三者による介入が原因で、一連の事態が起こっている可能性。そして恐らくは、その介入の現場は地下。


マッスグマ「でも、地下空間か。どうやって探すの?」

テールナー「真っ直ぐ地面を掘るのは無理よ、私達」

タクヤ「闇雲に掘るのも得策じゃない。地下にあるだろうと推測はしたが、座標は判ってないからな」

アゲハント「いいや、誰かが新しく作った空間なら、無闇に掘る必要はない。入り口がどこかにあるはずだ」

コラッタ「でもそれならそれで、入り口を探さないと」


口々に、また考えを話して。しかし彼らは解っていた。今の自分たちでは、地中を探索する能力も、入り口を探索する手だても無いのだと。

だが、しかし。
今は休業中ではあるが、彼らはかつてこの場所で、株式会社を運営していた身。
適切なスタッフが不足しているのなら、どうすれば良いのか。もう、その答えを知っている。


ピチュー「じゃあ……誰かを、追加で雇いますか?」
 ▼ 40 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:50:03 ID:bwMg8mt6 [6/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
そうと決まれば、と言わんばかりに。アゲハントは羽根をぱたつかせた。


アゲハント「なら、候補を探すところからだな。これも随分久々だ」

コラッタ「そういえばアゲハントさんでしたね、いつもスタッフの候補リストアップしてくるの」

アゲハント「まあな。ちょっとその辺飛んで、良さげなのに声を掛けてくる」


そう言って、飛び立ちかけて。


???「まあちょっと待ってよ」


──不意に、意識外から声を掛けられて、動きを止める。
振り向けば、そこにはヨーテリーが1匹。いや、その後ろにも3匹ほどいる。ニンフィア、イワンコ、イーブイ。


アゲハント「おっと、どちら様?」

ヨーテリー「うーん、そうだな」

ヨーテリー「あそこの岩場、元々ボクらが使ってたんだ。今は人間が溜まってるから困っててね、手伝わせてよ」
 ▼ 41 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:51:38 ID:bwMg8mt6 [7/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
数分後。


コラッタ「それでは面接を始めます」

ピチュー「よろしくお願いします」

ヨーテリー「よろしくお願いします」


花畑の土を盛って作った即席の面接場で、コラッタとピチューはヨーテリーと向かい合っていた。
普段からこんなことをしている訳ではないのだが、今回はなんかノリでやっていた。久々の採用活動ともなると、ちょっと要らない気合が入ってしまうものである。


ニンフィア「頑張れー!!」

イワンコ「頑張ってくださーい!!」


面接場の脇から、ヨーテリーに着いてきたポケモン達の黄色い声援。2匹の横ではイーブイが大あくび。


テールナー「オーディエンス!! 静粛に!!」

テールナー「……ねえ、これ勘でやってるけど、実際人間の面接試験ってオーディエンスいるの?」

タクヤ「聞くな。俺も知らない」
 ▼ 42 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:52:55 ID:bwMg8mt6 [8/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
コラッタ「それでは、まず自己紹介をして下さい」

ヨーテリー「ヨーテリーです」

ヨーテリー「……えーと、えー……野生のポケモンでした。人間の大規模駆除のターゲットになって……色々あって死にました」

ピチュー「あの、言いたくないことは言わなくても大丈夫ですよ……? えー、黙秘権!! そう、黙秘権です!! 多分!!」


うっかりデリケートな情報まで引き出してしまって慌てるピチュー。コラッタもピチューもこちらの生活が長いので忘れがちだが、ここは死後の世界なので、自己紹介は死因開示に直結する。生半可な覚悟では聞けないのだ。


コラッタ「じゃあ、うん、自己PRをしてください!! サクサク行きましょうね、サクサクと!!」

ピチュー「無理しなくても良いですからね!!」

ヨーテリー「えーと、身のこなしが軽いです。……違うな、そう、鼻が利く!! 鼻が利きます」

ヨーテリー「こっちの世界であれば、魂にだって臭いがあります。だから、あそこの人間の臭いを辿って、さっき言ってた地下空間とやら、ボクが見つけます」


ぐだぐだとした弁論ながらも、そこだけは強く言い切るヨーテリー。少なくとも嘘をついてはいないはずだ。コラッタとピチューは顔を見合わせる。


コラッタ「採用でいいよね? 大丈夫でしょ」

ピチュー「そうしましょう、そうしましょう」


即採用。


□□□□□□
 ▼ 43 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:53:51 ID:bwMg8mt6 [9/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
◆◆◆◆◆◆

工場、とホタルは言った。シンダーはホタルに着いて歩きながら、その言葉の意味を考えていた。死者蘇生を実現する、機械か、あるいは薬剤などの工場だろうか。しかし施設はこの古さだ、とても精密機械なぞ作れそうもない。
考える間に、部屋の入り口まで来てしまう。やはり錆びついた、鉄製の扉。


ホタル「こちらへ」

シンダー「……」


ホタルがドアノブを捻って、その扉を開く。彼は室内へ入っていき、シンダーはそれを追い。

部屋を見回し。


シンダー「…………は?」


絶句した。

ここに来てから、シンダーは絶句することばかりだが。しかし、今回の絶句が、最も愕然としていた。空間に広がる光景を視界に捉えて、しかし理解が全く及ばない。

それなりに広い空間だ。その床一面に、アクリル製の箱が並んで。
その箱の全てに。

動かないデスマスが、収納されている。

デスマス。ポケモンだ。それが、丁度デスマス1匹が収まるサイズの正方形のアクリルの箱に、1匹ずつ収納されている。
どのデスマスも動かない。眠っているのか、死んでいるのか。


ホタル「デスマスというポケモンを知っていますか」

シンダー「知ってるも何も、ここにいる」


返答するシンダーの声は震えていた。頬が無意識に引きつるのを感じる。しかしホタルは、構わず続けた。
 ▼ 44 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:55:17 ID:bwMg8mt6 [10/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ホタル「デスマスには、古代人の魂が入っていると言われています」

ホタル「それを示す行動を取るデータもある。彼らは古代人だった頃の記憶を持っているんです」


ホタルの語るそれは、ポケモン図鑑にも記載されている情報だ。ある学説においては、デスマスは埋葬された古代人の魂が変化したポケモンだとされている。彼らが持つ仮面は、かつて人間だった頃の顔──デスマスクだとも。


ホタル「しかし、そうだとすれば、不思議な点があります」

ホタル「……デスマスは、タマゴを作れるポケモンです。タマゴで増えたデスマスも、やはり、古代人の魂を持っている」

ホタル「なら、新しく生まれるデスマスの魂は、どこから来るのか?」


それは問い掛けだ。シンダーは回らない頭を捻って、回答を絞り出す。


シンダー「……その前提が誤りなんじゃないか。古代人云々は証明の出来ないゴシップだ、普通のポケモンとして、新しくデスマスは生まれてくる」

ホタル「確かに、そう考えるのが自然です。でも僕らは別の可能性を考えた」

ホタル「──デスマスは、個体発生時に、あの世から魂を呼び戻す」

ホタル「なら。その呼び戻す魂を、こちらで選定できたなら、どうでしょうか?」


そこまで言われて、ようやっと。
シンダーは、デスマス達の用途を理解した。


シンダー「それが、死者蘇生の正体か」
 ▼ 45 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:57:12 ID:bwMg8mt6 [11/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ホタル「ネンドウさんは、デスマスの魂の流れをせき止めるシステムを開発しました」

ホタル「……開発の過程で、ネンドウさんも向こうに行く必要があったので、自殺をしたわけですが」

ホタル「おかげで特定のデスマスが発生する際に、呼び戻される古代人の魂の代わりに、任意の死者の魂をデスマスの身体に宿らせることが可能になりました」

ホタル「死者蘇生、と銘打って噂を流したのは、少し優良誤認でしたね。身体の形が変わる以上、蘇生とは言えない」

ホタル「しかし、間違いなく、死者の復活を成し遂げた」


ホタルが滔々と語るそれを、シンダーが理解し切れていたかは、当人でも怪しいと思っている。
しかしそれでも──ホタルの言う死者蘇生は、本来発生するデスマスというポケモンを、破壊することによって成しうる技術だと、そう理解した。


シンダー「…………なら、これは」

ホタル「デスマスの量産工場です。今はラインをストップしていますが」

シンダー「全員生きたポケモンなのか?」

ホタル「第一世代は生きたデスマスを連れてきましたが、それ以降は生きているとは言えないでしょう。だって、魂が入っていない」

ホタル「生物学的にデスマスである、それだけの物体です。いわば……バイオロジカルデスマス。ポケモンじゃありません」
 ▼ 46 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:57:46 ID:bwMg8mt6 [12/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
そこまで話して、言葉を止めて。ホタルは数秒、シンダーを見た。反応を見た。

それに気づいて、しかしシンダーも黙っている。何も言えずにいる。
ホタルはその沈黙を、続きの催促だと理解した。


ホタル「さて、これについても話さなくてはいけません」

ホタル「僕らは協力者を求めていました。そして貴方が来てくれた。だから、協力してもらいたい内容をお話しします」


そう話しながら。
ゴトリ、と。ホタルは何かを取り出して、手近な配電盤の上に置いた。シンダーもそれを見る。

拳銃だった。


シンダー「な──

ホタル「貴方か、あるいは僕でもいい」

ホタル「どちらかが、ここで死ぬ必要があります」
 ▼ 47 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 09:59:19 ID:bwMg8mt6 [13/14] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
シンダー「──どうして?」

ホタル「今、ネンドウさんの開発したデスマス接続装置は故障状態にあります」

ホタル「ポケモンの復活をテストしたタイミングで、連れてきたポケモンが放った電撃により、ロックの解除機能が故障してしまったんです」

ホタル「今はネンドウさんでも、自分で自分のロックを外せない。誰かが……死んで、向こう側に行って、ネンドウさんのロックを外す必要がある」

ホタル「でないと、他の人の復活に移れない」


また、沈黙。今度は明確に、シンダーの答えを待っていた。

思案する。乗るべきか、どうか。なるほど、確かに死者の復活は実現しているようだ。
だが。
シンダーは既に、心を決めていた。


シンダー「……流石に、この案には乗れない」

ホタル「死ぬのが怖いから?」

シンダー「……犠牲になってるポケモンが、増えてるだろ、これじゃ」


それ以上は語らなかった。命の尊さどうこうを語る資格はシンダーにはない。ホタルもそうだ。しかし語れずとも思想はあり、意思があり、それが食い違ったからには、話は終わりだ。

ホタルが、背中に──背中に背負い続けていた、対戦車ライフルに、手を伸ばすのを、認識する。
カシャリと、金属の擦れる音を聞く。
ヒノヤコマのモンスターボールを、咄嗟に掴む。


ホタル「残念です」


銃声。
 ▼ 48 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/15 10:01:09 ID:bwMg8mt6 [14/14] NGネーム登録 NGID登録 報告
シンダーは、身を縮めこそすれ、目は閉じなかった。
そして、痛みも感じていない。

目の前のホタルは確かに引き金を引いたが、ライフルの弾道はシンダーから外れていた。威嚇射撃だ。
後方で鳴った着弾音から、シンダーはその弾道を推測する。

そして、その意味を理解した。
ライフルの弾道は、恐らくは──モンスターボールから飛び出たポケモンが、現れるであろう場所を、的確に貫いていた。
それに気づいてしまったからには。


シンダー「っ──」


シンダーはモンスターボールを握り込む。もう、ポケモンを出す訳にはいかなくなった。
そしてそれは即ち、抵抗手段の消失を意味する。

ガタリ、と。すぐ後方で音がした。追って、何かがシンダーの肩を掴む。──ネンドウだ、触れられるだけで解る。というのも、その指があまりに硬かったからだ。硬くて、強い。
掴まれ、引き寄せられて、シンダーは後方を振り仰いだ。ネンドウの、フードに隠れたその顔を。

その顔は、いや、顔があるべき部分には。
デスマスの仮面が、据えられていた。

理解する。
これは、デスマスを頭頂部に据えた、人型の機械だ。人型の機械に、パイロットとして死者蘇生の依代となったデスマスを据えることで、死者は人の形を取り戻す。


ネンドウ『話は済んだみたいだね。残念だ』

シンダー「俺を、俺をっ、殺すのか……?」

ホタル「……まさか」

ホタル「この計画を知った以上。絶対に、死なれるわけにはいきません」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 49 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:03:06 ID:ISMsUVdw [1/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
□□□□□□


ヨーテリー「うーん……」


地面を齧りつくようにして嗅ぎながら、ヨーテリーは唸っている。臭いを探っているのである。目的は、あの人間達と同じ臭い。


コラッタ「調子はどうですか?」

ピチュー「休憩しますか?」

ヨーテリー「大丈夫大丈夫、結構臭いが濃くなってきた気がする」


死後の世界において、世界の法則は現世のそれとは若干異なる。例えば、魂だけの状態とも言える彼らは、その魂自体に臭いがついている。そして、その魂と引きつけ合うような性質の存在があれば、やはりそこからも似た臭いがする。存在の在り方そのものが臭いを発するために、類似する存在からは類似した臭いが出るのである。

要約すると。彷徨う人間と同じ臭いを探し当てれば、そこに原因があるはずだ、という話。


ヨーテリー「多分こっち、多分ね」

ピチュー「はーい」


ヨーテリーは既に、あの人間達の臭いを記憶している。
そして同じ臭いに、確かに近づきつつあった。
 ▼ 50 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:04:13 ID:ISMsUVdw [2/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ヨーテリーの尻を追うようにして、一同は花畑を征く。
多少の起伏はあれども、どこまで行っても花畑。ヨーテリーが大地を嗅ぎながらも先陣を切り、ピチューとコラッタが続き、タクヤが続く。アゲハントは別のトラブルに備えると言って、既に新しいスタッフを見繕いに向かっていた。

そして──ヨーテリーらの遥か後方で、テールナーとマッスグマ、あとヨーテリーの連れの3匹が、のそのそ駄弁りながら歩いている。


テールナー「で? 貴方達はどういう関係なの?」

ニンフィア「私ヨーテリーくんの彼女!!」

イワンコ「違います。私がヨーテリーさんの彼女です」

2匹「「ぐぬぬぬぬぬぬ」」

ニンフィア「違うよぉ!! 私一緒に入水自殺したんだよ!? 心中だよ心中!!」

イワンコ「それなら私同棲してましたし!! 看取られましたし!! 心のキズですよ心のキズ」

2匹「「ぐぬぬぬぬぬぬ」」

テールナー「ごめんやっぱ止めて、キャイキャイと死後トークしないで、眩しいから」


下手なことを聞いてしまった。テールナーは後悔した。
 ▼ 51 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:05:10 ID:ISMsUVdw [3/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
目の前で痴情がもつれ出し、頭を抱えるテールナーを横目に。マッスグマとイーブイは、少し距離を取って傍観していた。


イーブイ「あっはははは!!」

マッスグマ「随分楽しそうだね」

イーブイ「いや、悪い、悪い。……そう、そうだよ。こういうの、ずっと見たかったんだ」


イーブイはそこまで言って、少し黙って、それから感慨深げに、


イーブイ「本当に、こっちは良い。皆がいる」

イーブイ「生きてた頃は、皆クソみたいな思いをして、生きることに耐えてたんだ。姉さん──ニンフィアも、イワンコも。耐えて、耐えて、報われなくて、それでも生きた」

イーブイ「こんなことなら、早く死んどけば良かったな?」


そんなことを呟く。早く死んでおけばよかった、なんて。マッスグマは少しばかり引っ掛かって、何か言い返さなければと思って、しかし言葉にならなかった。


イーブイ「お前も、若いうちに死んだ感じだろ? よほど苦労して死んだのが、雰囲気で分かる」

イーブイ「こっちは楽しいな」

マッスグマ「……」


そう言われると、少し思うところがある。
きっと目の前のイーブイには、未練なんて何一つありはしないのだろうが、マッスグマには、1つだけある。

大好きだった友達を、1匹、残してきてしまった。
 ▼ 52 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:05:56 ID:ISMsUVdw [4/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
打って変わって先頭集団。ひたすら臭いを追いかけていたヨーテリーが、不意に足を止めた。


ヨーテリー「……ここだ」


気づけば彼らは、地面がずり落ち地層が露出した、とある断崖までやって来ていた。ぽんぽんと崖を下りてみれば、崖下もやはり花畑。しかし崖の側面へ振り向けば、目を見張る。
1枚、扉があった。

おずおずと歩み寄る。鈍く風景を反射する、金属製の扉。コラッタやピチューにとっては大きい──丁度、人間が使うサイズのものだ。


タクヤ「何だこれは、扉か」

コラッタ「ですね」

ヨーテリー「ここ、臭いが濃いよ。ここというか、この向こうから、似た臭いがする」


ヨーテリーが、扉の底辺に鼻を突きつけながら呟く。この向こうに、何かがある。
扉の周辺を探ってみれば、1つ、ドアノブの横にディスプレイがあった。タクヤが軽く触ってみれば、ディスプレイにキーボードが表示される。パスワード入力画面だろうか。


ピチュー「もしかして、これって」

タクヤ「ああ、セキュリティだ。人間製のロックが掛かっている。……こっちの世界で、こんなものを見るのは初めてだ」

タクヤ「いよいよきな臭くなってきたな」


□□□□□□
 ▼ 53 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:06:39 ID:ISMsUVdw [5/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
▼▼▼▼▼▼


マイナン「……狭いな」

マイナン「狭いし、暗いし、埃臭いし」

マイナン「それに周り全部錆びた鉄だから、なんか触ると痛いんだよ」

マイナン「なあ」

マイナン「やっぱり正面から突入した方が早かったんじゃないか?」

デスマス「Σ(・∀・;)」

デスマス?「気が短いなあ、下手に消耗するべきじゃない、君も解ってるだろ?」

マイナン「だけどさ」

マイナン「こんな通気口の中を通るなんて、普通にキツい」

マイナン「そうだろ?」

デスマス?「でも我慢だよ。ここで暴れたら、それこそ台無しだ」

デスマス?「人のいないエリアを探して、そこで出よう」

デスマス「┌(_Д_┌ )┐」

デスマス?「しかし、マイナンに比べて君は随分落ち着いてるね」

デスマス?「もしかして慣れてる? ダクト這いずり」

デスマス「(≧▽≦)」
 ▼ 54 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:07:36 ID:ISMsUVdw [6/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
もごもご、もごと、喋りながら。
マイナンと、デスマスと、デスマスの姿をしたゾロアークは。
錆びついた通気口の中を這いずっていた。
どこの通気口かといえば、それは当然、ホタルとシンダーが入っていった、研究所の通気口だ。

ゾロアークがマイナンに化けて、銃声に応じて爆発四散する様を捏造し。デスマスが黒い霧を発生させて、マイナンの死体の不在を誤魔化し──まんまとそれに騙された人間達を追いかけて、ここまで来ていた。
今も、彼らの裏をかくために、こうして這いずっている。


マイナン「しかし、俺も人間の研究所は初めてじゃないけどさ」

マイナン「ここは流石に古すぎだよ」


マイナンが先陣を切って、ごくごく小サイズの紫電で通気口の先を照らし。残りの2匹がそれに続く。今はひたすらに、出口を探していた。


デスマス?「使い回しの建物だろうね。よっぽど人目を避けたかったんだ」

マイナン「うわ、ちょっとこの先狭い」

デスマス?「あ、本当だ。戻る?」

マイナン「それもめんどくさいな。俺が無理やり壁押し広げて進むとかじゃダメ?」

デスマス?「それ下手したら天井崩落して生き埋めだよ僕ら」

デスマス「(ヾノ・∀・`)」


▼▼▼▼▼▼
 ▼ 55 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:08:16 ID:ISMsUVdw [7/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
◆◆◆◆◆◆


ネンドウに捕らえられて、しばらく。シンダーは何もない部屋に放り込まれていた。本当に、何もない部屋だ。天井には最低限の排気口があるばかり、窓も、ベッドも、トイレもない。……トイレすらないのは、後々が怖いが。

ここまで連れてこられる間に、気づいたことが幾つかあった。
まず、ネンドウの身体──金属製のボディについて。少し藻掻いて確かめてみたが、やはりシンダーの推察通り、ネンドウは首のない人型ロボットに、上からデスマスが乗り込むことで動いているようだ。どこだかで見た古いロボットアニメみたいだ、と思う。
だが特筆すべきは、このデスマスが乗り込む想定の、首のない金属製のボディが。何体か、単体で歩いていたことだろう。部屋まで連れて来られる途中で、シンダーはその何体かとすれ違った。
恐らく、それら首無しの用途は防衛システムだ。実際ネンドウは首無しロボットのことを、ガーディアンと呼称していた。侵入者に対しては、このガーディアンが対応に当たると思われる。きっと、脱走者も同様だ。


シンダー「…………」


要は、逃げられなさそう、ということだ。

ヒノヤコマのボールは、なんとまだシンダーが持っている。特に取り上げられず、細工もされなかった。シンダーが望めば、ヒノヤコマに指示をして戦うことも出来るだろう。
だが、その事実が。……ヒノヤコマ1匹ではどうにもならない、格差の存在を裏付けていた。いてもいなくてもどちらでも良い──どうでも良いから、捨て置けるのだ。

ガーディアンとの戦闘。ホタルやネンドウとの戦闘。どうやっても、勝てる気はしない。


シンダー「…………」


言葉は出ない。シンダー1人なのだから、出す必要もなかった。何もない壁に背をつけて、座る。
頭に過ぎるのは、ホタルの一言。


シンダー「死なれるわけにはいかない、なんて」
 ▼ 56 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:08:51 ID:ISMsUVdw [8/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタルがそう言った意図は、理解できる。邪魔者の介入を恐れているのだろう。仮にホタルらの計画を止めようと思うのであれば、あの世へ向かい、向こう側にあるシステムとやらを破壊するのが早い。ネンドウが動けない以上、それを邪魔する者もいないだろう。
だが、そうするためには死ぬ必要がある。

シンダーが勇敢で、殊勝な人間であったなら。あるいはここで、そうしようとしていたのかもしれない。


シンダー「…………」


ずっと、死ぬのが怖いと思ってきた。

怖い。痛いことや寒いことが怖い。
怖い。感覚を失うことが怖い。
怖い。今いる自分が自分でなくなることが怖い。
怖い。人に忘れ去られることが怖い。
怖い。自分がいなくなっても、世界が続くことが怖い。

それはきっと、死後の世界があったとしても、相変わらず怖いことだ。

考えている内に、身体が少しずつ震えを帯びる。この村に来てから、怖いことばかりだ。銃口が怖い。電撃が怖い。死ぬのが怖い。天井を仰ぐ。
その恐怖は、死後の世界が証明されて尚、残り続ける本能だアッ、天井が抜けたッ!!


シンダー「はあああああああっ!?」
 ▼ 57 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:09:40 ID:ISMsUVdw [9/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ガラン、と、轟音。

シンダーの心臓は縮み上がった。彼は即座に部屋の隅に張り付く。勢いよく、ビッチリと背を壁に沿わせて、叩きつけた勢いに顔をしかめた。背と壁の間を冷や汗が走る。


シンダー「は、は、えっ──


え、何? 本当に何? 首まで壁に張り付けたまま、視線だけで室内を確認する。

──天井が落ちた、と思ったが。そこまでのことではなかった。轟音の正体は、ただ天井にあった排気口の、金属の蓋が落ちただけのもの。
だが、落ちてきたのはそれだけではない。

ポケモンが、3匹。
デスマスと、デスマス──から姿が変わったゾロアーク、それから色違いのマイナン。


シンダー「生きてるうううううっ!!」

シンダー「うわあああああああっ!!」

シンダー「なんでええええええっ!!」
 ▼ 58 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:10:40 ID:ISMsUVdw [10/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
数分後。


ゾロアーク『落ち着いた?』

シンダー「はい」


シンダーは正座して、向かいに胡座をかくゾロアークに軽く頭を下げた。ゾロアークは、バレンタインの姿をしていた頃同様にポチポチとスマートフォンを弄り、音声を読ませている。


ゾロアーク『ヒトの顔見て悲鳴を上げるのは失礼にあたるんでしょ、人間って?』

シンダー「……そうですね」


しかし、あれだけ叫んでも誰もここに来なかったことは幸運だった。監視が薄いのかもね、とゾロアークは言ったが。確かにここは何もない部屋だ──監視カメラもない。古い建物を使い回しているから、電気工事がままならない箇所もあったのだろう。
シンダーは情報を共有する。死者蘇生の正体。ホタルらの目的。この建物の警備。シンダーが何故、ここに投げ込まれたのかも。


ゾロアーク『じゃあ、君もこの施設を潰す側ってことだ。嬉しいね』

シンダー「いや……潰すなんて、ほどじゃない」

シンダー「ただ、おかしいと思った。見過ごすことは、いけないことだと思った。俺が今更言うのも、おかしな話だけど」

ゾロアーク『まあ、昔のことは気にしなくていいよ。今はね。過去に負い目があったとしても、これからする善行には、胸を張っていい』
 ▼ 59 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:11:40 ID:ISMsUVdw [11/12] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
シンダーにとっては意外な話──というよりは、想像だにしなかった話だが。どうやら目の前のポケモン達は、揃ってこの研究所を潰しに来たらしい。シンダーの話を聞いて、協力してここを壊そうと打診してきた。野生のポケモンがそこまでの目的意識を持っているだなんて、これまで生きてきて、考えもしなかった。
……スマートフォンで話すゾロアークがいる時点で、今更だろうか。


ゾロアーク『じゃあ、話をまとめよう』

ゾロアーク『この研究所で動いている計画──仮に、バイオロジカルデスマス計画とするけれど、これを止めるためには3つの障壁がある』

ゾロアーク『ホタル、ネンドウという人間の敵。大量の首無しロボット、つまりガーディアン。それから、量産されたデスマスそのもの』

ゾロアーク『折角これだけ面子がいるんだ、3手に分かれて対処しないかい』


相変わらずの読み上げ音声。シンダーはその内容には異議を唱えないが、しかし引っ掛かる。


シンダー「それ以前の問題だと思う」

シンダー「……俺達は閉じ込められている」

ゾロアーク『ああ、そうだったっけ』


そう、ここは牢獄だ。中には何もないし、天井の通気口はシンダーには狭すぎる。そして唯一のドアは、幾つかの南京錠で鍵をされているらしいことも、聞こえた音で理解している。


シンダー「どうする?」

ゾロアーク『顔認証なら楽だったんだけどね。ゾロアーク対策が出来ている』


ゾロアークがそう肩を竦めて。──それから、あ、と口を開く。何に気がついた? その視線を追って、シンダーも目を見開いた。

さっきまで部屋の隅に、デスマスと共に所在なさげに立っていたマイナンが。いつの間にか、ドアの前に立っている。ドアの前に立って、拳を握って。


マイナン の ばくれつパンチ!!

シンダー「うわああああああっ!!」
 ▼ 60 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/17 23:12:39 ID:ISMsUVdw [12/12] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
轟音。それが止んだときには、もう扉はそこにはない。──5、6ほどの金属片になって、廊下の向かい側に突き刺さっている。
直後、鳴り響くサイレン。遠くからガシャガシャと金属音。廊下では赤くランプが点灯し、雰囲気だけで息が詰まる。


ゾロアーク『ああ、もう、脳筋なんだから!!』 


ゾロアークが、真っ先に廊下へ転げ出る。追って、マイナン、デスマスも。もうこうなったら、今すぐ行動に移るしかない。シンダーも廊下へ飛び出した。


ゾロアーク『キミはあの猟銃の子を抑えてくれ!! ガーディアンはマイナンが全部壊す、僕はデスマス工場を何とかする、それでいいね!?』

シンダー「それが終わったら?」

ゾロアーク『各自解散!! 生きて目的を達成できたならね』

ゾロアーク『じゃ、お互いに良い成果を!!』


ゾロアークはスマートフォンをどこかにしまい込んで、既に走り出してしまった。マイナンは廊下の反対方向、ガーディアンが迫ってくる方向へ飛び出していく。デスマスもマイナンの後を追った。

もう、最後まで走り切るしかない。

ホタルを、探さなければ。


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 61 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:52:23 ID:cCLYGIpg [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
□□□□□□


崖に作られている謎の扉、その前に一同は揃って頭を抱えている。多分この扉の向こうに、真相があるのだが。
一応コラッタ達が手で押してもみたが、扉は頑丈な造りをしているようで、彼らの膂力ではビクともしない。


アゲハント「まあ、そんな所だろうと思ってた」


後から追いついてきたアゲハントは事情を聞いて、訳知り顔でそんなことを言った。


アゲハント「人間が悪いことしてるんなら、そういうロックを施すに決まってる」

アゲハント「どうせまた、ろくでもないことを考えた人間の仕業だろうと思ったが……本当にそうだったな」

タクヤ「それで? 連れてきてくれたんだろう、誰かを」


聞かれれば、アゲハントは頷き。どこかわざとらしく、崖の上を見上げる。


アゲハント「凄いぞ。プロフェッショナルを連れてきた」
 ▼ 62 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:53:08 ID:cCLYGIpg [2/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ツヅミ「お仕事ご依頼いただきありがとうございます、ツヅミです。こっちはパートナーのPolygon」

Polygon「よろしくね」


崖から降りてきたのは、白衣を纏う研究員めいた人間と──何やらよくわからない、半透明のポリゴンだった。半透明のポリゴンだ。普通のポリゴンの形をしているが、後ろが透けて見えている。幽霊みたいだ──この表現は良くないな、と、タクヤはぼんやり思う。


タクヤ「プロフェッショナル?」
 
アゲハント「そうだが」

ツヅミ「失礼ね」


ツヅミと名乗った研究員は、既に何やら仕事道具を広げている。どこから出したやら、ケーブル、マウス、それにモニター。それらを、扉の横のディスプレイ──ではなく、Polygonの半透明のボディにガチャガチャと取り付けながら。


ツヅミ「これでもシルフカンパニーの研究員だったのよ」

Polygon「そして私はシルフの元マザーコンピューターよ」

タクヤ「なんて?」
 ▼ 63 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:54:38 ID:cCLYGIpg [3/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
それから、ほんの瞬くうちに。


タクヤ「……へえ、凄いな」

ツヅミ「でしょう?」


自称・シルフカンパニーのマザーコンピューターの登場には面食らったが、しかしその働きぶりはテキパキとしたものだった。
Polygonというものが、やたらと凄い。半透明の姿の頭を、扉の横のディスプレイに直接突っ込んだのである。頭部分だけデジタル化して直接セキュリティをハッキングしている、とツヅミに説明されたが、タクヤにしてみれば何が何やら。
とにかく、彼女らはPolygon越しに、扉のセキュリティに易々とアクセス。ツヅミがサクサクと、諸々を入力していく。


ツヅミ「でも、かなり厳重なセキュリティね」


既に2、3ほどのパスワードを解読しながらも、ツヅミはそう言った。今現在は4つ目のパスワードを解読中──たった今解読し終えて、5つ目に入ったところだ。


タクヤ「全部の解除は難しいか?」

ツヅミ「いいえ、ここの突破はしてみせるわ。仕事だもの。……というか、このコードちょっと見覚えがあるわ。これ作ったの、シルフの人間かも」

ツヅミ「ま、それはどうでもいいわね。とにかくここは突破する。でも問題はその後」

ツヅミ「これだけ厳重な扉があるもの、その向こうにセキュリティがないわけがない。この先も扉なら開けてあげられるけど、それ以外なら無理よ」


作業をしながら、彼女はそう懸念を述べる。
それを聞き届けて、タクヤは小さく肩を竦めた。


タクヤ「まあ、それならそれだ。もし敵が出てきたりしたら、逃げてもらって構わない」

タクヤ「その時は、俺の仕事だ」


□□□□□□
 ▼ 64 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:55:09 ID:cCLYGIpg [4/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
◆◆◆◆◆◆


サイレンの鳴り響く廊下を駆けながら、シンダーは手当たり次第に扉を開く。扉を開き、中を確認し、次の扉へ。
そして9枚目の扉を開いた時──その室内に、ホタルはいた。

シンダーは一瞬で室内を確認する。結構広い部屋だ。若干黒ずんだ壁面だが、家具などはまだ新しい。ホタルはその部屋の端の方で、対戦車ライフルに弾を込めているところだった。反対側にはネンドウもいる。ここは彼らの自室らしい。
当然、彼らにも、シンダーは見えている。扉の前に立つ姿を、認識している。


ホタル「出てきたんですね、貴方。例のバケモノがまた出た、らしいのですが……騒ぎに乗じて?」

シンダー「……そんなところかな」

ホタル「……あのバケモノのマイナンが、今度はここに侵入してきて、ガーディアンを破壊しています。止めに向かわなければならないのですが」

ホタル「そこを通してもらっても?」

シンダー「……駄目だ」


扉の前に、シンダーは立っている。両足を少し開いて、真っ直ぐに。仁王立ちの体勢。

シンダーは己の役割を理解していた。彼らの計画を止めるために、ここで、足止めをする。
 ▼ 65 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:55:49 ID:cCLYGIpg [5/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル「どうしてですか?」


ホタルは、その場から動かなかった。立っていたポジションから一歩も動かず、その手の対戦車ライフルも保持したままだ。
ホタルは動かず、ネンドウも、そしてシンダーも同様。それぞれの動きを注視している。
注視しながらも、ホタルはシンダーへ問い掛ける。


ホタル「貴方は僕と同じはずだ。罪を抱えて、悔いている」


そのように、問い掛ける。
シンダーの行動は、ホタルにとっては全く理解が及ばないものだった。かつて大量のポケモンを殺害した者同士。過去の罪を悔いる者同士。同輩の類。であるならば、同じ結論に至るはず。


ホタル「こちらにいるべきです、貴方は」

ホタル「死んだポケモンも、死んだ人も、皆蘇らせられる。これ以上ない償いです」

ホタル「僕らの贖罪は、終わらせられる」


ホタルの凝視を受けて、シンダーは。


シンダー「そもそもそこが違う」
 ▼ 66 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:56:49 ID:cCLYGIpg [6/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
ホタル「何が違いますか」

シンダー「俺は、許されようなんて思っていない」


ホタルの瞳孔が、開くのが見えた。いかにも、信じられない、と。シンダーは続ける。


シンダー「たとえ蘇ったとしても、俺が殺した生命達は、きっと俺を許さない」


彼は確かに、かつてフレア団として殺害したポケモン達を、蘇らせるために死者蘇生を求めた。かつての罪の償いを行うための行動だ。
しかし、端から。それによって許されようなどとは、考えてはいなかった。

シンダーの目的は、許されることではなく──償い続けて生きることだ。


シンダー「……償いは終わるものじゃない。終わらせられるものじゃない。終わらせることを願うものじゃない」

シンダー「俺たちは永遠に、罪を許されることはない」


そう、言い切って。それから。


シンダー「……許されないからこそ、生きられるのかも」


一言だけ、そう付け足した。
かつて犯した罪悪が。それを悔いて生きてきた人生が。現在の、彼という人間を律している。
だから今、逃げずにここに生きている。

カシャリ、金属の擦れる音。
対戦車ライフルの銃口が、シンダーを睨んだ。


ホタル「……度し難いですね、罪を償う機会を得ながら、それを手放すとは」

ホタル「そんなだから、罪を犯すんだ」
 ▼ 67 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:58:28 ID:cCLYGIpg [7/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
自分に向いた銃口に、身震いするのは止められない。あれに撃たれれば、上半身が消し飛んだっておかしくはない。頭の中が恐れに染め上げられそうで、しかし自分の舌を噛んで耐えた。恐怖を噛み潰す。

ヒノヤコマのモンスターボールは、既にシンダーの手の中にある。今度はヒノヤコマ出現の軌道を読ませないよう、ボールを握った手を背中に回していた。
真上にボールを跳ね上げて、そこからヒノヤコマを繰り出して、上空からニトロチャージを真っ直ぐ撃ち込む。その流れだって、既に指示している。
が、上手くいくかどうか。


ホタル「ボールを隠していますね」

シンダー「……解るのか」


また、静かに舌を噛んだ。少しばかり血の味がする。
焦ることじゃない、と、思おうと努める。そこを読まれることは想定内だ。ホタルとどう戦うか、流れは1つだけ考えている。

大切なのは、ここからだ。ここからどう動くのか。
首を動かさず、視線だけで部屋の中を再確認する。


ホタル「……何かを探している」

シンダー「……解るのか」

ホタル「余計なことは、させない」


ああ、不味い。ホタルがその気になってしまった。口の中は血の味でいっぱいだ。
対戦車ライフルの引き金に指が掛かり、そして、


 ▼ 68 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/18 21:59:38 ID:cCLYGIpg [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告



銃声。



金属の爆ぜる音。



シンダー「


シンダーは、その一瞬で何が起きたか、すぐには理解が追いつかなかった。

ホタルが対戦車ライフルを構え、引き金を引き。
そうして発射された弾丸に対して──急に脇から、ネンドウの姿が割り込んできたのである。

弾丸はそれが差し伸ばした機械の右腕、肘の辺りに命中。対戦車ライフルの威力のせいか、あるいは当たりどころの問題か、ガコ、と重い音を立てて、肘から先が千切れて落ちた。


ホタル「なっ──ネンドウさん?」


愕然とするホタルにも答えず、ネンドウの姿は今度は左腕を伸ばし。
ホタルの構えていた対戦車ライフルの銃身を掴み、握り──

──圧壊!!

ぐしゃりと、ライフルの銃身を、潰し、捻じ曲げ、全くダメにしてしまった。
流石におかしい、そう判断したのであろうホタルがネンドウの姿へ蹴りを入れ、突き飛ばす。が、その姿はさほどよろめきもせず。

機械音声が、こう告げる。


ネンドウ?『いいや、ネンドウじゃない。この身体は俺が奪った』

ホタル「まさか──あちら側に、侵入者が!?」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 69 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:27:26 ID:.neQRxW2 [1/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
□□□□□□


少し前


薄暗く、ヒヤリと湿った施設の中で。
とある腕が、何やら装置に埋まった人の頭の、その脳天を引っ掴んで。ミシリ、ミシリと音を立て、引き剥がした。
引き剥がされた頭の持ち主は、その事実に驚愕し、そして引き抜いた腕の主の顔を見上げて、声を上げずにいられない。


ネンドウ「なっ……誰だお前は!!」

タクヤ「俺は地獄から来た男」


引き抜いた方は、反射的にそう返して。
それから少し考えて、肩を竦めた。


タクヤ「……ここで言っても世話ないな」


タクヤはネンドウの後頭部を軽くシェイクして、近くの壁に放り投げる。ネンドウはそれなりの強さで壁に叩きつけられて、少し呻いてから、タクヤを睨んだ。


ネンドウ「ありえない、ここには何体もガーディアンを

タクヤ「全員殴り倒した。……これでも生前は改造人間でな、腕力は据え置きだ」


そう言うタクヤの姿を見て、ネンドウは観念したように脱力する。
少し遅れて、アゲハントがタクヤの肩越しに顔を覗かせた。


アゲハント「普通に俺達も手伝ったこと忘れてないか?」

マッスグマ「失礼しちゃうよねえ」

タクヤ「悪い悪い」
 ▼ 70 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:28:13 ID:.neQRxW2 [2/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
タクヤは苦笑して、改めて室内を見回す。
ここは地下に建設されたラボと見るのが良いだろう。かなり広いスペースが造られていて、その中に幾つかの装置が並んでいる。先ほどまで、ネンドウが顔を突っ込んでいたものだ。
そして、その横の装置には。バチュルの上半身が、埋もれるように刺さっていた。

タクヤが手を伸ばして、すぽん、とバチュルを引き抜く。


タクヤ「迎えに来たぞ、社長」

バチュル「(`;ω;´)」


バチュルは無事、五体満足、健康体。
……まあ既に死んでいるので、怪我など負いようがない世界なのだが。
タクヤはバチュルをとりあえず手近にいたテールナーに預け、再び装置に目を向ける。


テールナー「これは何?」

タクヤ「そこに紙があるだろ。多分設計図だ」

タクヤ「……なるほど、こいつはデスマスの……操縦席か。顔を突っ込めば良いらしい」

タクヤ「使ってみよう」


□□□□□□
 ▼ 71 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:29:09 ID:.neQRxW2 [3/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
◆◆◆◆◆◆


タクヤ『そういうわけで、助けに来てやったぜ、生きてる奴』

シンダー「あ……ありがとう」


漸く、シンダーの理解が追いつく。何があったかは知らないが、どうやらあちら側の人間が、手伝ってくれるらしい。
手伝い、というか、かなり強そうだ。背格好は先ほどまでのネンドウのそれと同じ筈なのだが、立ち姿だけで風格がある。歴戦の格闘家か、あるいは軍人の類なのだろうか。シンダーはそう推察する。

対面のホタルも状況を理解し、銃身のひしゃげた対戦車ライフルを床に落とした。しかし戦意は潰えていない。双眸がタクヤを睨む。


ホタル「貴方、貴方もきっと、死んだ人間でしょう。何故ですか、何故僕らの邪魔を

タクヤ『迷惑してる奴がたくさんいてな』


その怒りを断ち切って、タクヤも既に身構えていた。先の対戦車ライフルで破壊された右腕など気にもせず、左腕だけで臨戦態勢。


タクヤ『何が目的かは概ね理解した。だが、余計なお世話という奴だ』

ホタル「それは貴方の勝手な意見だ!!」


直後。ホタルは懐に手を突っ込み、引き抜き。その手には拳銃が握られていた。先ほどにもシンダーに見せた、あの拳銃。
銃が抜かれて、構えられて。
しかし、その引き金に指を添えるよりも早く、タクヤが動く。地面に落ちている機械の右腕を、ホタルへ向けて蹴り飛ばす。


タクヤ『おらぁっ!!』

ホタル「っ──!!」
 ▼ 72 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:29:55 ID:.neQRxW2 [4/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
蹴られて床を滑る機械の右腕。巻き込まれまいと飛び退くホタル。そしてそれを隙と見て迫るタクヤ。
機械で出来た左の拳がホタル目掛けて撃ち込まれ、ホタルはそれを寸前で躱し、タクヤの腹へ銃撃を一発。──当たりどころが悪い。放たれた弾丸は機械の腹をすり抜けて、あらぬ方向の壁に食い込む。


タクヤ『捕まえた!!』

ホタル「っ、動きが巧い」

タクヤ『観念しろ』


近距離の揉み合い。タクヤは機械の重みでホタルを押し倒そうと、左手でホタルの襟首を掴み、一歩踏み込み。


ホタル「──仕方ない!!」


機械の重みに抗いながら、ホタルは不意に──タクヤの腹に手を突っ込む。機械装置の腸に触れ、そして。

バチン、と、破裂音。


タクヤ『──ッ!!』


その音と共に。タクヤの動きが唐突に鈍る。ギチリと、先程までは聞こえなかった音。タクヤの身体、機械の身体に、動作不良が起きたのだ。
抑え込まれかけていたホタルは、力を振り絞って、動けないタクヤを押し退ける。突き飛ばされたタクヤは、辛うじて転倒は堪えるも──もう動けない。


タクヤ『ま■あるか、安全装■は』

タクヤ『悪いが助っ人■無しだ、生き■る奴。自力で生き延びてみせろ』

シンダー「……言われずとも」


フリーズした機械の身体は、また一度、バチンと破裂音を立てる。甲高い音を立てて、その首元から、デスマスの仮面が零れて落ちた。

シンダーは顔を上げる。ホタルが拳銃を構えている。銃口がシンダーを捉えている。口の中は相変わらず、血の味でいっぱいだ。しかし。

今、タクヤが稼いだ数分で、どう動くのかは決められた。
背中に隠したモンスターボールを、握り直す。


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 73 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:30:47 ID:.neQRxW2 [5/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
▼▼▼▼▼▼


マイナン の メガトンキック!!

マイナン「はあっ!!」


蹴りを一撃を食らわせれば。道を塞いでいた首無しロボット──ガーディアンは数メートルは吹っ飛び、限界を迎えたようで爆散した。
これで、19体。


マイナン「次!!」

マイナン の アイアンテール!!


更に現れるガーディアンへ、もう一撃。勢い強く尾を振れば、機械の胴は真っ二つ。
まだまだ余裕だ。人間製の機械にしては頑丈だが、マイナンにかかればなんてことはない。そう、ガーディアンを相手取るだけなら、全く問題はない。

しかし困った様子で、マイナンは己の手元を見た。
その左手は、動かなくなったデスマスの首根っこを引っ掴んでいる。デスマスも先ほどまでは逃げ惑っていたのだが、不意に動かなくなったのだ。寝ているわけではなく、まるで魂が抜けたように、生気がない。マイナンはその身体を捨て置くこともできず、こうして持ち歩いている。おかげで、下半身しか使えない。


マイナン「おーい、起きないのー?」


てしてしと、なるべく力を抜いて、デスマスを小突く。5回、6回。合間にガーディアンを消し飛ばしながら、軽く揺さぶり。
そうして、ようやく。デスマスはまた動き出す。

動き出して、マイナンを見上げて。


マイナン「やっと起き

デスマス「あら、久しぶりマイナン」


その口振りに、絶句する。脳が冷え切る。息が止まる。
だって、彼はそれを知っていた。


デスマス「こんな偶然もあるものね」

デスマス「貴方が殺したテールナーよ。化けて出てあげたわ」

マイナン「……………………」
 ▼ 74 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:31:57 ID:.neQRxW2 [6/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
マイナンの手を振り払って、デスマスは1つ伸びをする。先程までのデスマスとは、打って変わって落ち着いた身振り。
その口振りを、身振り手振りを、マイナンは知っていた。大切な記憶だった。

マイナンはかつてポケモンを殺した。
それはもう、たくさんのポケモンを殺してきたわけだが──かつて己に親切にしてくれた、大切なポケモン達も、同様に殺害している。

記憶を失った己を拾ってくれた、大好きなプラスル。
同じ学び舎で、友達として扱ってくれたチルット。
マイナンが親の仇と知って、それでも許すと言ってくれたマッスグマ。
そして、マイナンが好きだと言ってくれたテールナー。

マイナンは彼女らが大好きだった。大好きでいてくれた、とも、思っている。だが、己の過去を知られてしまえば、失望されてしまえば、それも終わりだ。皆マイナンから離れていく。それがどうしても受け入れられなくて、彼は全員殺害した。

死ねば、そこで、終わるからだ。
大好きなままで、終わらせられると信じたからだ。
殺した感触は、今でもこびり付いている。

それなのに、目の前にいるのは、本当に。


デスマス「……返す言葉もない?」

マイナン「本当に、君なの?」

デスマス「あ、また殺す気?」


そう言われてマイナンは、自分が無意識に拳を握り込んでいたことを自覚する。既にバチリと電気を纏わせていたそれを、慌てて開く。


デスマス「意味無いわよ、それ。私はこっちの世界にいて、全部覚えてるわ」


その口振りは、疑いようもなく。
本当に、かつて殺したテールナーのもの。


マイナン「……死んだ後の世界ってこと?」

デスマス「ええ。死んだ後の世界で、皆がいるわ」

デスマス「貴方が大好きなプラスルとも、時々お茶してるわよ」

マイナン「やめてよ、言わないで」
 ▼ 75 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:32:56 ID:.neQRxW2 [7/8] NGネーム登録 NGID登録 [s] wf 報告
目の端がひくついた。頭が痛い、胸が痛い。目の前の光景は、とてもとても受け入れ難い。
先の、人間から聞いた話を思い出す。……本当はあの時点で気づいていて、しかし気づかなかったことにしていた。気づくべきではなかったからだ。

死後の世界があるなんて!!

死んだら終わり、そのはずだった。それで終われるから、終わらせたのに。これでは話が違う、全く違う。
マイナンの体表を紫電が走る。紫電が走り、走り──しかし行き場を見つけられずに霧散する。

彼はふらりとよろけて、真横の壁にもたれ掛かった。


マイナン「……」

デスマス「気分はどう?」

マイナン「酷いね」

マイナン「酷い話だよ」

マイナン「僕が君たちを殺したことに、もう何の意味もない。無意味に、友達を傷つけた」

デスマス「死にたくなった?」


その言葉に弾かれて、デスマスの方を見る。
デスマスの抱えた仮面と、目が合ったような気がした。……それは気のせいだ。その仮面は、冷たく固まって、動くことはない。

マイナンへ、デスマスは宣告する。


デスマス「ダメよ。貴方、死んだらこっち来ちゃうでしょ? じゃあダメ。なるべく長生きしなさい」
 ▼ 76 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/19 23:35:29 ID:.neQRxW2 [8/8] NGネーム登録 NGID登録 wf 報告
ガシャリと、音が近づいてくる。

ガーディアンだ。廊下の両側から、マイナン目掛けて近づいてくる。数は4体、5体、6体。
マイナンは壁に身を預けて動かない。それをデスマスが引っ張り上げて、無理やり立たせた。


デスマス「立ち上がって」

デスマス「ここで殺される貴方じゃないでしょう? 突破して、生きること」

マイナン「…………それは、罰として?」


問えば、デスマスは目を細めて、


デスマス「そうかもね」

デスマス「私、貴方に殺されて、普通に腹も立ったわ。動機も意味不明だったし」

デスマス「許すかどうかで言えば、許してないかも」


そう言われるのは、当然のことだ。マイナンはまた俯く。……これを避けたくて、殺したのに。
ガーディアンの足音は、もうすぐそこだ。その接近を見据えながら、デスマスは続ける。


デスマス「だから、貴方は生きるの。もう貴方は、生き死にを自分で決められる段階にはないわ」

デスマス「貴方は生きて、生きて……良いことをするの。貴方が、するべきだと思ったことを、全部するの。そうしながら一生懸命に生きるの」

デスマス「そうしたら……全部終わった後、反省会には付き合ってあげるから」

デスマス「そのためなら」

デスマス「今だけ、手伝ってあげるわよ」


そう言いながら、デスマスが指を立てれば、その先端で火花が散る。きっとおにびだろう。デスマスは既にマイナンに背を向けて──ガーディアンへ向き直って。その背中を見れば、もう。


マイナン「……じゃあ、まだ生きるしかないか」

マイナン の かみなりパンチ!!


マイナンが振り向きざまに拳を振るえば。すぐ背後まで迫っていたガーディアンが、3体纏めて弾け飛んだ。轟音を立てて、廊下の突き当たりに瓦礫が積み上がる。マイナンは己の掌を見下ろして、まだ戦えることを実感した。

拳を握れば紫電が走る。
あの頃よりも、ずっと眩く。


▼▼▼▼▼▼
 ▼ 77 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:42:34 ID:XSlIfvY6 [1/16] NGネーム登録 NGID登録 報告
◆◆◆◆◆◆


相対する。相対している。
シンダーは変わらず扉の前を塞ぎ、ホタルはそれに向けて拳銃を構え。2人の間には、最早動くことはない機械の身体。
相対して、何秒だろう。シンダーは既に、10分くらい経った気がしていた──きっと気のせいだ。死の間際には感覚が鋭敏になり、時間が引き延ばされる感覚があると聞く。これもそれだろう。


シンダー「…………」

ホタル「…………」


また、1分経つ──本当は、10秒にも満たない。

不意に、振動が起こった。どこかで、何かが潰れる音だ。地面が揺れて、照明が瞬く。

それが、合図となった。


シンダー「──ヒノヤコマ!!」


ぽん、と。背に隠したモンスターボールを、シンダーは頭上まで跳ね上げた。真っすぐ真上へ飛ぶボール、光が弾けて、ヒノヤコマが現れる。


ヒノヤコマ「ヒャコーッ!!」
 ▼ 78 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:43:10 ID:XSlIfvY6 [2/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
現れた姿を確認はしない。居ることは解りきっている。短く指示を出す。


シンダー「ニトロチャージ!!」


頭上に熱源が現れたのを感じる。

シンダーの眼前、ホタルの視線が上方へ向いた。当然、拳銃の銃口も。違いなく、ヒノヤコマを捉えている。

その腕は真っ直ぐに伸び切り、照準は定まった。
炎を纏うヒノヤコマ。引き金に指が添えられて。

それと、全く同時に。

シンダーはその場に膝をついた。前方へ転げ出て、そうしながら──地面に転がっている、デスマスの仮面を拾い上げる。

そしてそれを、シンダーは。



握り。



構え。



投擲する。



スカン、と、快音。



ホタル「な──


投げられた仮面は真っ直ぐに軌道を描き、ホタルの伸ばした腕の先端、拳銃を握る手を見事に捉えた。想定外の方向からの衝撃に、ホタルは拳銃を取り落とす。床に転げる拳銃。
そしてそれを見て、ヒノヤコマはニトロチャージの軌道を変更。床に転げた拳銃を突き飛ばし、棚の下、それも奥まで、押し込んでみせた。

僅か5秒の攻防。


シンダー「……物を投げるのが得意なんだ。俺の、数少ない自慢だよ」
 ▼ 79 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:43:41 ID:XSlIfvY6 [3/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ホタル「ヒノヤコマは、ブラフでしたか」


ゆらり、と。ホタルの体幹がぶれた。


シンダー「ブラフってだけじゃないさ。こいつがいるから戦えた」

シンダー「相棒だよ。ずっとな」

ヒノヤコマ「ヒャコッ!!」


また、地面が揺れて、照明が瞬く。どこかで、何かが壊れた音。
きっとマイナンがやっているのだろう。全ての部屋を破壊すれば、いずれは電源系統や、あるいはあのデスマス工場にだって行き着こう。

ホタルはもう、部屋を出ようとはしていない。


シンダー「この工場を作ったやつは、もうあっち側に行ったんだろ」

シンダー「なら、ここを壊せば……再建は出来ない」

ホタル「はい。……僕の負けです」


それを認めてしまえば、もう立っている理由もないのだろう。ホタルはへたりと、その場に腰を落とした。もうその手には武器はない。
 ▼ 80 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:44:14 ID:XSlIfvY6 [4/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
それから少しの間、互いに黙り込んだ。ホタルに対して何を言っても、それは正しくない気がした。


ホタル「……これも、僕の相棒でした」

ホタル「もう限界ですね」


ホタルは銃身のひしゃげた、対戦車ライフルを拾い上げる。ゆっくりと、捻れたそこに力を加えて──圧し折った。歪んだ銃身の、断面が露出する。
何を、と、シンダーは言いかけて。しかし言葉にならなかった。

ホタルは、深く息を吐いて。
それから、再び対戦車ライフルに弾を込めた。
歪んだ銃身では、まともには撃てまい。否、暴発する可能性もある。ホタルだってプロだ、そんなことは解っている。それでも構わなかった。

カシャリ、金属の擦れる音。
銃身の断面を、己のこめかみに押し当てる。
引き金に指を掛その瞬間!! シンダーが勢いをつけて、ホタルの身体を蹴飛ばした!!


シンダー「だああああああっ!!」

ホタル「ッィ痛いィッ!!」


対戦車ライフル暴発!! 蹴り飛ばされた衝撃で狙いは外れ、弾は天井に突き刺さる。無茶をした銃身は5つに裂けて、最早使いようもない。
蹴り倒されたホタルはすぐには立ち上がることもままならず、半分横たわったままでシンダーを睨む。まだ生きている。


シンダー「待ってくれ」

シンダー「……良い時間だ、飯にしよう」
 ▼ 81 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:44:52 ID:XSlIfvY6 [5/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
それを聞けば、ホタルの瞳孔がまた開く。指先が震えているのが、見て取れた。唇が振れる。


ホタル「どうして、止めるんですか」

シンダー「だって、死んでも何も終わらないんだろ。……死んでも、俺たちの贖罪は終わらない」

シンダー「なら、死んで楽になろうってのも、その考えも、みっともないよな」


数歩歩み寄って、シンダーは手を差し伸ばす。真っ直ぐに伸びた手を見て、ホタルは少し躊躇って。しかし、彼も手を伸ばして、握り返した。
引き上げる。


シンダー「まだ生きていよう、俺たちは」

シンダー「楽になれずに、生きていよう」


そして2人は部屋を出る。ヒノヤコマが、その後を追って飛び立った。
どこから出てきたものなのか、廊下は砂埃や瓦礫が散乱し、空気すら曇って向こうが見えない。……それを見かねて、ヒノヤコマが前に出てきて、纏う炎で道を照らす。

照らされて、歩いて、歩いて、歩いて。
余燼は燻り、しかし消えない。


ホタル「まだ、死ぬのは怖いですか」

シンダー「……それなりに」


◆◆◆◆◆◆
 ▼ 82 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:45:20 ID:XSlIfvY6 [6/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
▼▼▼▼▼▼


マイナン「ざっとこんなもん、かな」


ガーディアンは、もう出てこなくなっていた。マイナンが全部破壊してしまったのか、あるいはマイナンを恐れたのか。どちらにせよ、脅威は去った。
マイナンの仕事は終わっている。彼は既に、この研究所の全ての機械装置を砕き潰していた。


マイナン「……帰るのが早いよ、本当」


呟いて、視線を落とす。
もう既に、傍らにいたデスマスは黙り込んでいる。少し前と同じ、魂の抜けた状態だ。
疲れたから帰るわね、と。健康に気をつけなさいよ、と。そんなことを言われて、おしまいだった。

マイナンはデスマスの身体を摘み上げて、天井へと跳ねる。運よく天窓のあるエリアを見つけられたのは幸運だった。蹴破り、外へ。
 ▼ 83 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:45:44 ID:XSlIfvY6 [7/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
着地する。

そこは山の中腹ほどの場所だった。山肌からはみ出るようにして、一部分だけ建物が露出している。マイナンはちょうどその建物から、飛び出してきたところだった。


マイナン「凄いな、ここまで?」


村の下から、ここまで施設があったのか、と。少しばかり驚く。
マイナンが、数歩離れてまじまじと、改めて建物を確認していると。


ゾロアーク「やあ、お疲れさま」


上方から、聞き覚えのある声がした。
山の斜面を見仰げば、ゾロアークがマイナンの方へ滑り降りてきている。
そしてその向こう、少し上の山道には、動かないデスマスが積み上がった荷車が置いてあった。1匹だけ動いているデスマスがいて、どこか心配そうに2匹を見下ろしていた。


ゾロアーク「よ、とと」

ゾロアーク「仕事はきっちり終わったかい?」

マイナン「まあね。……楽な仕事だったよ」
 ▼ 84 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:46:39 ID:XSlIfvY6 [8/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
マイナン「で。各自解散、じゃなかったのかい?」

ゾロアーク「忘れ物をしてね」


ゾロアークはそう言いながら、マイナンの手元、まだ彼が掴んでいるデスマスに視線を落とした。


ゾロアーク「集めてるんだ」


なるほど、それで。
もう、このデスマスの中にテールナーはいない。魂はない。生物学的にデスマスであるだけの、ただの物体。であれば、別に、引き渡しても構わない。
ただ気になるので、問い掛ける。


マイナン「どうしてデスマスを?」

ゾロアーク「そもそも僕は今回、あるデスカーンの一団から、デスマスの回収を依頼されていてね」

マイナン「へえ……家族を拉致したトレーナーへの復讐って話?」

ゾロアーク「いいや。普段、トレーナーが普通にポケモンを捕まえるくらいじゃあ僕は動かない。でも今回は、集落のデスマスがほぼゴッソリ……それも、キッカリ100匹消えたって案件でね」

ゾロアーク「依頼主の皆さんも純金前払いで太っ腹だったし、今回は特例だ」


マイナンは改めて、山道に視線を向ける。確かに、人間が言っていたデスマス工場らしき設備は、マイナンが訪れた時点で空になっていた。先回りして、ゾロアークが回収していたのだろう。勤勉なことだ。


ゾロアーク「そっちのデスマス、貰ってもいいかい」

マイナン「……いいよ。ほら」


手元のデスマスの肉体を、ひょい、と差し渡す。


ゾロアーク「ありがとう」
 ▼ 85 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:47:32 ID:XSlIfvY6 [9/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ゾロアーク「それで、君はこれからどうする?」

マイナン「さあ……どうしようかな」


問われても、マイナンに答えはない。多分今まで通りに生きるのだろう。血濡れの復讐請負だ。安々と、生き方は変えられない。
ただ、少しばかりは。改めようという気概はあった。手加減の練習でもしてみようか。


マイナン「とりあえず、なるべく長生きすることにしたよ」

マイナン「友達から出禁を食らってね」

ゾロアーク「そりゃあいい。次会ったときには、僕に君を雇わせてよ」

マイナン「条件次第かな」


さて、と。マイナンはわざとらしく前置きをして、振り返る。山道の反対側、どこまでも遠い空を見る。相変わらず霧の天蓋に覆われてはいるが、その向こう側も透けて見えた。

飛んでいくには丁度いい。


マイナン「じゃあね」

ゾロアーク「じゃあ、また」


直後、マイナンはその場から消えていた。
地面を蹴り、また空を蹴り、中空をかっ飛んで、その場から去ったのだ。ゾロアークは宙を駆ける一筋の紫電を見て、意味もなく口笛を1つ吹いた。

あれをまた見る日は、多分来ないだろう。もし来たとしたら、それはそれで恐ろしいので、それで構わない。ただ、そうだとしても。あのマイナンはどこかで、死ぬまで生きているに違いない。

忌み子の生命は、まだ終わらない。


▼▼▼▼▼▼
 ▼ 86 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:48:23 ID:XSlIfvY6 [10/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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タクヤ「これは半分自戒も込めた発言だが……『終わらせる』なんてのは、軽々しくいう言葉じゃないな」


デスマスの操縦席から首を引き抜いて。タクヤは壁に身を預けたままのネンドウに向き直って、そんなことを言った。


タクヤ「死ねば終わりだと思っていたが、こんな続き方をするなんて思っていなかった」

タクヤ「だから、お前にも続きがある」

ネンドウ「…………」


歩み寄って、少し考えて。それからタクヤは腕を伸ばして、ネンドウの襟首を掴んで引っ張り上げた。強引だが、彼に敵意はない。ネンドウを立たせて、裾を払ってやる。
ネンドウはまだ下を向いたまま、溜息を1つ。


ネンドウ「職場に同僚がいたんだけど、死んじゃってね。ちょっと馬鹿な死に方をしたものだから、ずっと彼女のことを考えてた」

ネンドウ「思いの外、研究が上手く行きすぎて、ここまで来たけれど。……勢い任せだったのは、僕も同じか」

タクヤ「じゃあ、とりあえず、そいつを探しに行くのはどうだ。案外近くにいるかもしれないぞ」

ネンドウ「……そうするよ」


それだけ言って、多少気分も晴れたのだろう。ネンドウはぐるりと首を回して、ラボの出口へと歩き始めた。タクヤはそれを見送って、肩を竦める。

悪の組織とは縁深い人生だったが。解決を見届けるのは、これが初めてだった。
 ▼ 87 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:49:28 ID:XSlIfvY6 [11/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
テールナー「長く使っちゃったわね」

マッスグマ「いや、構わないよ」


デスマスの操縦席から離れて、テールナーはマッスグマに声を掛けた。……テールナーは後から気づいたのだが、どうもこの操縦装置、防音機能がないらしい。つまりテールナーがさっきまでマイナンと話していた内容は、このラボ内にも筒抜けだったということだ。
テールナーは務めて冷静な声を出しているが、若干恥ずかしさで顔が赤い。彼女とは長い付き合いのマッスグマはそれに気づいていて、しかし指摘はしなかった。武士の情けだ。


テールナー「どうする? 今からでも顔出しとく?」


テールナーはそう言いながら、操縦席の方を示す。今からあれを使えば、まだマイナンに会えるかもしれない。
マッスグマの頭に選択肢が浮かぶ。己を殺したポケモンで、それでも友人だったマイナンに、会うか、否か。


マッスグマ「……僕はいいや。どうせいつかは来るんでしょ、彼も」


選択肢を認識した上で、マッスグマは動かなかった。


テールナー「いいの? いつかで」

マッスグマ「いいんだよ」

マッスグマ「お互い、寂しく待とう」


イーブイの顔が脳裏に過ぎる。……わざわざ思い浮かべずとも、彼はラボの片隅で暇をしている。そちらの方を軽く見やった。全く晴れ晴れとした顔だ。
間違いなく、彼は死んで救われたクチだ。マッスグマにだって、そういう側面はある。

それでもやっぱり、死ぬってのは寂しいことだよ、と。マッスグマは思った。
直接言いに行きはしない──きっと、イーブイは寂しくない。しかし今、マッスグマは、確かに寂しいと思っていた。

自分を殺したマイナンと、次に会えるのはいつだろう。
まあ、100年は掛かるまい。そのくらいなら、待ってやろう。
 ▼ 88 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:50:05 ID:XSlIfvY6 [12/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
唐突に。
だん、だん、だん、と。

ラボの天井から、低音が響き始めた。地面を彫り抜いて作った地下室だ、まだラボの中身はびくともしていないが、それでも若干不安になって、空を仰ぐ。


コラッタ「この音は?」

アゲハント「様子を見てきたが。上で彷徨ってた人間達が、どうやらこっちに気付いたらしい」

アゲハント「押しかけてくるぞ」


玄関口から戻ってきたアゲハントが、そう報告する。


コラッタ「えぇーっ、あれが押し掛けてきたら潰されちゃいますよ」

ピチュー「大変です、どうしましょう!!」

バチュル「\(^o^)/」

アゲハント「まあ落ち着け。ここまで来たんだ、何とかできる」

コラッタ「でもどうやって?」


顔を見合わせる一同。そこにタクヤが首を突っ込んできて、提案する。


タクヤ「設計図は読んだ。この設備を壊せば、ここでせき止められていた魂の流れも正常化する。それで問題は解決だ」

タクヤ「壊してくるか?」
 ▼ 89 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:51:01 ID:XSlIfvY6 [13/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
ピチュー「なるほど、それなら!!」


タクヤの提案に、ピチューが首肯して。
……それから、その意味に気付いた。


ピチュー「……じゃあ、全部壊しちゃうんですね」

アゲハント「そうなるな」


壊れれば、当然、向こうに顔を出せなくなる。
というより、そもそもこれは、本来の身体の持ち主であるデスマスの代わりに、現世に顔を出す機械なのだから。壊さなければ問題は解決しない。当然だ。

少しばかり、残念な気持ちはある。どうやらテールナーが知り合いに会えていたようなので、尚更だ。ピチューにだって、コラッタにだって、アゲハントにだって、会いたい者がいる。
しかしまあ、欲はかかない。きっと上手くやっているだろう、そう信用しているからだ。無理をする必要はない。


ピチュー「じゃあ、タクヤさん。お願いしていいですか?」

アゲハント「いや、もう少しだけ待ってやれ」

アゲハント「まだ、使ってる奴がいる」


並んだ機械の、一番端で。
ヨーテリーがまだ、首を突っ込んでいた。


□□□□□□
 ▼ 90 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:51:56 ID:XSlIfvY6 [14/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
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ゾロアーク「待たせたね」

デスマス「いいや、そんなに」


ゾロアークが、マイナンから受け取ったデスマスを連れて山道まで戻れば。デスマスで山積みの荷車の上で、1匹のデスマスが出迎えた。
ゾロアークは受け取った1匹を荷車に追加して、再び山を降り始める。


ゾロアーク「手伝ってくれてありがとね。僕だけだと、回収が間に合わなかった」


荷車を引きながら、声を投げ掛けた。聞いたデスマスはふわりと動いて、ゾロアークのすぐ横、荷車の前方に身体を降ろす。


デスマス「随分、活躍してるんだね」

ゾロアーク「まさか。今も昔も、僕は物語の脇役だ」


今、デスマスの中身はヨーテリーだ。ゾロアークにとっては昔なじみだった。……それだけでは、とても表現しきれない。

今となっては遠い昔、いつかのホワイトデーの記憶。
ヨーテリーとニンフィアを入水自殺へ導いたのが、かつてのゾロアークだった。当時の彼に用意できた、最もマシなエンディングが、それだった。
今のゾロアークであれば、もっと良いアガリも探せただろうが──タラレバの話だ。


デスマス「……こっちでも、この接続機を壊すって話になったよ。本来のこの身体の持ち主も、かなり参ってるみたいでね」

デスマス「だから、また君とはお別れだ」
 ▼ 91 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:52:53 ID:XSlIfvY6 [15/16] NGネーム登録 NGID登録 [s] 報告
山道を進む。まだ霧は立ち込めていて、しかしゾロアークの足取りはハッキリとしていた。これから依頼主のところまで納品しなければならないのだ、この程度は序の口だ。
ただその時には、もう、デスマスの中身の魂は、今のままのものではない。


ゾロアーク「最後に聞きたかったんだ」


ぼそりと、言った。
普段の彼らしくはない、しんみりとした声色になってしまって、彼自身それに苦笑する。


ゾロアーク「僕が用意した天国へのペアチケット、使い心地はどうだった?」

デスマス「……それなりかな。ここは天国じゃない」

デスマス「死んだ後の世界で、皆がいて、でも結局生活をしなきゃいけなくて、結局それなりに嫌なこともある」

デスマス「……いや、違うな。皆がいるなら、それだけで天国かも」

ゾロアーク「はは、よかった。……僕はハッピーエンドが好きなんだ、今でもね」
 ▼ 92 イックサレンダー◆ZSQq537Gzc 25/09/20 21:54:59 ID:XSlIfvY6 [16/16] NGネーム登録 NGID登録 報告
また少し、沈黙が流れた。ずっとこうしていたいと、ふと感じた。叶わないことだ。


ゾロアーク「それじゃ、また」


これは、自分から切り出すべきだ、と。直感して、ゾロアークは告げる。
永い別れになる。それに言及することすら気乗りしなくて、何でもないように、取り繕った。


ゾロアーク「いずれ会ったときには、お土産話をいっぱい持っていこう」

デスマス「楽しみだ」

デスマス「……良い旅を」


そして、デスマスは沈黙した。これから長い一眠りをして、いずれあるべき魂が入ってくる。

ゾロアークは黙り込んだデスマスを、他のデスマス同様に荷車の中に放り込んで、こぼさないようにまたゆっくりと引き始めた。
そして彼らは、霧の中へと消えていく。他の誰もがそうしたように。

もう、彼らの物語が語られることはない。
だが生きている限り物語は終わらず、命が尽きてもなお終わらない。それが救いであるのか、あるいは罰なのか。その結論は、いずれめいめいに出すことだろう。


彼らの物語を受け入れた廃墟村は、いつまでも、そこに残っている。
人が去り、いずれ朽ち落ち、土へと還り、忘れられ、果てには記録からも抹消されたとしても。それでも、確かに在ったのだ。

一陣の風が吹いた。
世界は、明日へと進む。


【ファイナルラストSS】バイオロジカルデスマスの廃墟村ぶっ壊し大作戦 完
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